説明

一酸化炭素濃度を低減する方法および燃料電池システム

【課題】一酸化炭素および水素を含有する原料ガスから一酸化炭素を選択的に酸化するための触媒を用いて一酸化炭素濃度を低減する方法、および該方法を用いた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体にRuを担持した触媒を用いて、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことにより、工業的に満足できる触媒交換頻度で一酸化炭素濃度を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減する方法および該方法を用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料の燃焼反応による自由エネルギー変化を直接電気エネルギーとして取り出せるため、高い効率が得られるという特徴がある。さらに有害物質を排出しないことも相俟って、様々な用途への展開が図られている。特に固体高分子形燃料電池は、出力密度が高く、コンパクトで、しかも低温で作動するのが特徴である。
【0003】
一般的に燃料電池用の燃料ガスとしては水素を主成分とするガスが用いられるが、その原料には天然ガス、LPG、ナフサ、灯油等の炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール、およびジメチルエーテル等のエーテル等が用いられる。
しかし、これらの原料中には水素以外の元素も存在するため、燃料電池への燃料ガス中に炭素由来の不純物が混入することは避けられない。中でも一酸化炭素は燃料電池の電極触媒として使われている白金系貴金属を被毒するため、燃料ガス中に一酸化炭素が存在すると充分な発電特性が得られなくなる。特に低温作動させる燃料電池ほど一酸化炭素吸着は強く、被毒を受けやすい。このため固体高分子形燃料電池を用いたシステムでは燃料ガス中の一酸化炭素の濃度が低減されていることが必要不可欠である。
【0004】
一酸化炭素濃度を低減させる方法としては、原料を改質して得られた改質ガス中の一酸化炭素を水蒸気と反応させ、水素と二酸化炭素に転化する方法、いわゆる水性ガスシフト反応を用いることが考えられるが、通常、この方法では0.5〜1vol%程度までしか一酸化炭素濃度を低減することができない。しかし、燃料電池電極に用いられる触媒の一酸化炭素耐性は用いられる金属種にも依るが、燃料電池が効率よく作動するためには燃料ガス中の一酸化炭素濃度は100volppm以下であることが望ましく、水性ガスシフト反応のみでは不充分である。そこで、水性ガスシフト反応により0.5〜1vol%程度にまで下げた一酸化炭素濃度をさらに低減することが求められる。
【0005】
一酸化炭素濃度をさらに低減する方法としては、一酸化炭素を吸着分離する方法や膜分離する方法が考えられる。しかし、これらの方法では得られる水素純度は高いものの、装置コストが高く、装置サイズも大きくなるという問題があり、現実的でない。これに対し化学的な方法はより現実的な方法である。化学的方法としては、一酸化炭素をメタン化する方法、酸化して二酸化炭素に転化する方法などが考えられる。また、前段でメタン化し、後段で酸化する二段階処理方法も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−86892号公報
【0006】
しかし、一酸化炭素をメタン化する方法では燃料電池の燃料となる水素をロスすることから、効率的には適当ではない。前記二段階処理方法においても、前段での水素のロスは避けられない。従って、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とする方法を採用するのが適当である。この方法においてポイントとなるのは、大過剰に存在する水素中に微量ないし少量混在する一酸化炭素を如何にして選択的に酸化処理できるかである。
【0007】
燃料電池システムにおいて、水素を得るために原料を改質する際、脱硫において原料中の硫黄分を除去する工程が必要である。この脱硫工程において、脱硫効率向上を目的とした水素共存脱硫を行うため、生成した水素の一部をリサイクルさせる選択肢がある。この際、リサイクルライン中の水の凝縮による閉塞を避けるため、シフト反応後のオフガス中の水分を熱交換器により低減する方法が知られている(例えば特許文献2)。
【特許文献2】特開2003−012302号公報
【0008】
しかしながら、熱交換器により水分の低減を行うとガス温度の低下を伴う。Ruが比較的多く担持された触媒の場合、使用できるウインドウの狭さと引き換えにガス温度が低くても作動するが、使用できるウインドウを広くした触媒では、十分な温度が確保できなくなる。
【0009】
水分を除去する方法として、ゼオライト膜を用い、エタノールなどの有機溶媒から水分を透過させ除去する方法も知られている(特許文献3参照)。従来から使用されている蒸留法と比べ、エネルギーの大幅な節約が可能で、また運転操作が簡単なシステムとなることが特徴である。
【特許文献3】特開2005−074382号公報
【0010】
ゼオライト膜は、ゼオライト結晶を多孔質のセラミック管の外表面にコーティングしたもので、ゼオライトの種類に応じて、例えばA型、Y型、T型、ZSM−5型等のタイプが知られている(例えば、特許文献4〜7)。ゼオライトの細孔の径よりも小さな分子だけを通過させることによる分離であるため、通常では水素や一酸化炭素などの小さな分子は透過してしまう。
【特許文献4】特開平7−089714号公報
【特許文献5】特開平7−185275号公報
【特許文献6】特開2001−240411号公報
【特許文献7】特開2002−18247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
触媒を用いた水素および一酸化炭素を含有するガス中の一酸化炭素を選択酸化する方法においてポイントとなるのは、工業的に満足できる触媒交換頻度で、大過剰に存在する水素中に微量ないし少量混在する一酸化炭素を如何にして選択的に酸化処理を継続できるかである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らはかかる課題について鋭意研究した結果、一酸化炭素を選択酸化する方法において、導入ガス中の水分濃度を、ゼオライト膜を用いた分離膜により低減させることが重要な役割を有していることを見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体にRuを担持した触媒を用いて、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことを特徴とする原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減する方法に関する。
【0014】
また本発明は、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に、Pt、Pd、Au、Ag、RhおよびIrから選ばれる少なくとも1種の金属とRuを担持した触媒を用いて、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことを特徴とする原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減する方法に関する。
【0015】
また本発明は、分離膜がゼオライト膜であることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0016】
また本発明は、分離膜がモルデナイト膜、ZSM−5型ゼオライト膜、A型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜、T型ゼオライト膜およびZSM−35型ゼオライト膜より選ばれる分離膜であることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0017】
また本発明は、原料ガス中の水分濃度を15vol%以下に低減させることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0018】
また本発明は、原料ガスが炭化水素、アルコールまたはエーテルを改質反応および水性ガスシフト反応することにより得られたものであることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0019】
また本発明は、原料ガスが炭化水素、アルコールまたはエーテルを脱硫反応、改質反応および水性ガスシフト反応することにより得られたものであることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0020】
また本発明は、分離膜の透過側の環境が、減圧にすること、スイープガスとしてAirを流すこと、スイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスを流すこと、スイープガスとして改質以前の原料ガスを流すこと、スイープガスとしてAirを流す部分と改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること、およびスイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスと改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること、のうちから選ばれるいずれかの環境であることを特徴とする前記記載の方法に関する。
【0021】
また本発明は、前記記載の方法により原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減し、高濃度水素含有ガスを製造する装置に関する。
【0022】
また本発明は、前記記載の装置から得られた高濃度水素含有ガスを陰極側燃料として供給することを特徴とする燃料電池システムに関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法により、一酸化炭素および水素を含有する原料ガスと触媒を接触させて一酸化炭素を選択的に酸化する方法において、原料ガス中の一酸化炭素濃度を長期に渡って低減することが可能となる。得られる生成ガスは特に固体高分子形燃料電池を用いた燃料電池システムの燃料ガスとして好適に採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、触媒の存在下に、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化する方法に関する。
本発明において用いる触媒は、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体にRuを担持した触媒、またはアルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に、Pt、Pd、Au、Ag、RhおよびIrから選ばれる少なくとも1種の金属とRuを担持した触媒である。
【0025】
担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物が用いられる。その中でもアルミナ(α−アルミナ、θ−アルミナ、γ−アルミナなど)がより好ましい。アルミナとしては、γ−アルミナが特に好ましい。担体の形状、大きさ、成型方法は特に限定するものではない。また成型時には適度なバインダーを添加して成形性を高めてもよい。
【0026】
担持する金属はRu、または、Pt、Pd、Ru、Au、Ag、RhおよびIrからなる群より選択される少なくとも一種の金属とRuである。中でもRu、またはPtとRuが好ましい。
担持される金属の担持量については特に限定されるものではないが、Ruに関しては触媒全量基準で、0.05〜2質量%が好ましく、0.2〜1質量%が特に好ましい。その他の金属に関しては触媒全量基準で、0.005〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%が特に好ましい。
【0027】
担持方法についても特に制限はなく、担持する金属の金属塩を溶媒に溶解した金属溶液を用いる含浸法や平衡吸着法が好ましく採用される。金属溶液に用いる溶媒は金属塩を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、水またはエタノールが好ましい。担持回数についても特に制限はなく、担持工程において、全てを同時に担持もしくは、数回に分けて担持することが好ましい。
【0028】
また金属塩は溶媒に溶解するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、Ptでは、PtCl、KPtCl、KPtCl、HPtCl、(NHPtCl、Pt(NHCl・HOおよびPt(Cが好ましい。Pdでは、NaPdCl・nHO、(NHPdCl、Pd(NHCl・HOおよびPd(CCOが好ましい。Ruでは、RuCl・nHO、Ru(NO、K(RuCl(HO))、(NHRuCl、(Ru(NH)Br、Ru(NHCl、NaRuO、KRuO、Ru(CO)、[Ru(NHCl]Cl、Ru(CO)12およびRu(Cが好ましい。Auでは、AuBr、AuCl、KAuBrおよびAu(OH)が好ましい。Agでは、AgNO、AgBF、AgPF、Ag(CFSO)、Ag(CHCOO)が好ましい。Rhでは、NaRhCl、RhCl・nHO、[Rh(NHCl]Cl、Rh(NOおよびRh(Cが好ましい。Irでは、NaIrCl・nHO、NaIrBr、[Ir(NHCl]Cl、IrCl・nHOおよびIr(Cが好ましい。また、同種の金属であっても複数の金属塩を混合しても良い。
【0029】
担体に金属を担持した後、溶媒を除去する必要があるが、その方法として、空気中での自然乾燥、加熱乾燥、減圧下での脱気乾燥のいずれの方法を採用することができる。なお、乾燥した後、高温処理することも好ましく行われるが、この場合、水素雰囲気で、300〜800℃の温度で1〜5時間実施するのが好ましい。調製された触媒中には、担体や担持金属塩などに由来する塩化物イオンが残留している場合があるが、塩化物イオン濃度は100質量ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは80質量ppm以下であり、特に好ましくは50質量ppm以下である。塩化物イオン濃度が100質量ppmより大きいと、担持金属の凝集等を促進し一酸化炭素選択酸化活性が低下する。上記の方法で調製された触媒を実用に供する場合、通常、前処理として、水素還元を行う。その条件として100〜800℃、好ましくは180〜250℃で1〜5時間、好ましくは1〜3時間を採用する。
【0030】
本発明において用いる一酸化炭素および水素を含有する原料ガスとしては、通常、燃料電池用の燃料ガスの出発原料(原燃料)として用いられる炭化水素あるいは含酸素化合物を、各種方法により改質反応を行って得られる水素を主成分とするガスが用いられる。炭化水素としては、天然ガス、LPG、ナフサ、灯油、ガソリンまたはこれらに相当する各種溜分や、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素が挙げられる。含酸素化合物としては、メタノール、エタノール等の各種アルコール、ジメチルエーテル等の各種エーテルが挙げられる。
【0031】
前記原燃料を改質する方法としては、特に限定されるものではなく、水蒸気改質方法、部分酸化改質方法、オートサーマルリフォーミング等の各種方法が挙げられる。本発明においてはこれらのいずれの方法も採用することができる。
【0032】
なお、硫黄を含んでいる原燃料をそのまま改質工程に供給してしまうと、改質触媒が被毒を受け、改質触媒の活性が発現せず、また寿命も短くなるため、改質反応に先立って、原燃料を脱硫処理しておくことが好ましい。
脱硫反応の条件は、原燃料の状態および硫黄含有量によって異なるため一概には言えないが、通常、反応温度は常温〜450℃が好ましく、特に常温〜300℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。SVは原料が液体の場合で0.01〜15h−1の範囲が好ましく、0.05〜5h−1の範囲がさらに好ましく、0.1〜3h−1の範囲が特に好ましい。気体原料を用いる場合は、100〜10,000h−1の範囲が好ましく、200〜5,000h−1の範囲がさらに好ましく、300〜2,000h−1の範囲が特に好ましい。
【0033】
また改質反応条件も必ずしも限定されるものではないが、通常、反応温度は200〜1,000℃が好ましく、特に500〜850℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。GHSVは、100〜100,000h−1が好ましく、300〜50,000h−1がより好ましく、500〜30,000h−1が特に好ましい。
改質反応により得られるガス(改質ガス)は、主成分として水素を含むものの、他の成分としては、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気等が含有される。
【0034】
本発明においては、原料ガスとして前記改質ガスを直接用いることも可能であるが、かかる改質ガスを予め前処理して一酸化炭素濃度をある程度低減させたものを用いてもよい。
かかる前処理としては、改質ガス中の一酸化炭素濃度を低減させるため、改質ガス中の一酸化炭素を水蒸気と反応させ、水素と二酸化炭素に転化する方法、いわゆる水性ガスシフト反応が挙げられる。水性ガスシフト反応以外の前処理としては、一酸化炭素を吸着分離する方法、あるいは膜分離する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明においては、改質ガス中の一酸化炭素を低減し、かつ水素を増やすためにも、改質ガスをさらに水性ガスシフト反応したものを原料ガスとするのが好ましく、これにより一酸化炭素濃度の低減をより効果的にすることができる。
水性ガスシフト反応は改質ガスの組成等によって、必ずしも反応条件は限定されるものではないが、通常、反応温度は120〜500℃が好ましく、特に150〜450℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。SVは100〜50,000h−1が好ましく、特に300〜10,000h−1が好ましい。
【0036】
本発明は上記の水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことを特徴とするものである。
本発明において用いる分離膜としてはゼオライト膜が好ましい。ゼオライト膜は、ゼオライト結晶を多孔質のセラミック支持体もしくは焼結金属などの金属支持体表面に形成させたものである。多孔質支持体の素材は、例えば、アルミナ、金属、有機高分子物質、ガラスなどの無機高分子物質、ムライト結晶などのセラミックス等の中から、目的とするゼオライト膜のタイプに応じて適宜選定することができるが、これらに限定されるものではない。例えば、外径約10mm、長さ約20cm〜100cmのパイプ、或いは外径30mm〜100mmで長さ20cm〜100cm及びそれ以上の円柱に内径2mm〜12mm程度の孔が軸方向に多数個あるいは蓮根状に形成されたもの、もしくは30mm角の平板などが好ましい。膜面積に関しては、所定の水分低減量を達成するために必要な面積として適宜決定される。
ゼオライト膜のタイプとしては特に制限はなく、例えば、モルデナイト膜、ZSM−5型ゼオライト膜、A型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜、T型ゼオライト膜、ZSM−35型ゼオライト膜などのゼオライト膜が挙げられる。
【0037】
本発明においては、一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の水分濃度を、前記したゼオライト膜などの分離膜により低減させ、前記した触媒の存在下で一酸化炭素を選択的に酸化させる。例えば、LPGなどの炭化水素を原料としスチーム/カーボンのモル比が3.0で改質反応を行い、シフト反応を経たガス中の水分濃度は約20vol%程度である。これをゼオライト膜により好ましくは15vol%以下に低減させ、より好ましくは12vol%以下に低減させる。
【0038】
本発明においては、分離膜の透過側の環境としては、以下の(1)〜(6)のうちから選ばれる条件を好ましく採用することができるが、これらの環境に限定されるものではない。
(1)減圧にすること
(2)スイープガスとしてAirを流すこと
(3)スイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスを流すこと
(4)スイープガスとして改質以前の原料ガスを流すこと
(5)スイープガスとしてAirを流す部分と改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること
(6)スイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスと改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること
【0039】
本発明において選択酸化反応に用いられる原料ガスは一酸化炭素および水素を含有するものであるが、一酸化炭素濃度は、通常0.1〜2vol%、好ましくは0.5〜1vol%である。一方、水素濃度は通常40〜85vol%である。また、一酸化炭素および水素以外の成分として、例えば窒素、二酸化炭素等が含まれていても良い。
【0040】
本発明においては、原料ガスから一酸化炭素を酸化反応により除去するためには酸素含有ガスを原料ガスに加える。酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、空気や酸素が挙げられる。導入する酸素含有ガスは、例えば一酸化炭素の濃度が0.5vol%の場合、全酸素量と原料ガス中の一酸化炭素の濃度比(モル比)が0.5〜4.0の範囲とすることが好ましく、特に0.5〜2.5が好ましい。前記濃度比が0.5より小さい場合は、化学量論的に酸素が足りないため一酸化炭素との酸化反応が十分に進行しない。また、前記濃度比が3.0より大きい場合は、水素の酸化により、水素濃度の低下、水素の酸化熱により反応温度の上昇、メタンの生成などの副反応が起こりやすくなるため好ましくない。
【0041】
一酸化炭素の酸化反応の際の反応圧力は、燃料電池システムの経済性、安全性等も考慮し、常圧〜1MPaの範囲が好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。反応温度としては、一酸化炭素濃度を低下させる温度であれば、特に限定はないが、低温では反応速度が遅くなり、高温では選択性が低下するため、通常は80〜350℃が好ましく、特に100〜280℃が好ましい。GHSVは過剰に高すぎると一酸化炭素の酸化反応が進行しにくくなり、一方低すぎると装置が大きくなりすぎるため、1,000〜50,000h−1の範囲が好ましく、特に3,000〜30,000h−1の範囲が好ましい。
【0042】
本発明の方法により、原料ガス中の一酸化炭素濃度を100volppm以下、好ましくは50volppm以下、最も好ましくは10volppm以下にまで低減することができると同時に、原料ガスの一酸化炭素濃度低減効果を長期にわたって維持することができる。そのため、本発明の方法により得られる一酸化炭素濃度が低減された燃料ガスは、燃料電池の電極に用いられている貴金属系触媒の被毒、劣化が抑制され、発電効率を高く保ちながら、長寿命を維持することが可能となる。
【0043】
また本発明は、前記した方法を用いて原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減して高濃度水素含有ガスを製造する装置を提供するものである。
【0044】
さらに本発明は、前記記載の装置から得られた高濃度水素含有ガスを陰極側燃料として供給することを特徴とする燃料電池システムを提供するものである。
本発明の燃料電池システムを以下に説明する。 図2は、本発明の燃料電池システムの一例を示す概略図である。燃料タンク3内の原燃料は燃料ポンプ4を経て脱硫器5に流入する。この時、必要であれば選択酸化反応器11からの水素含有ガスを添加できる。脱硫器5内には例えば銅−亜鉛系あるいはニッケル−亜鉛系の収着剤などを充填することができる。脱硫器5で脱硫された原燃料は水タンク1から水ポンプ2を経た水と混合した後、気化器6に導入され、改質器7に送り込まれる。
【0045】
改質器7は加温用バーナー18で加温される。加温用バーナー18の燃料には主に燃料電池17のアノードオフガスを用いるが必要に応じて燃料ポンプ4から吐出される燃料を補充することもできる。改質器7に充填する触媒としてはニッケル系、ルテニウム系、ロジウム系などの触媒を用いることができる。
この様にして製造された水素と一酸化炭素を含有する原料ガスは高温シフト反応器9および低温シフト反応器10により改質反応が行われる。高温シフト反応器9には鉄−クロム系触媒、低温シフト反応器10には銅−亜鉛系触媒等の触媒が充填されている。
【0046】
高温シフト反応器9および低温シフト反応器10により改質されたガスは、分離膜を用いた水分低減装置19により水分濃度を低減させたのち、選択酸化反応器11に導かれる。選択酸化反応器11には、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に、Ruを担持した触媒、もしくはアルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に、Pt、Pd、Au、Ag、RhおよびIrから選ばれる少なくとも1種の金属とRuを担持した触媒が充填されている。改質ガスは空気ブロアー8から供給される空気と混合され、前記触媒の存在下に一酸化炭素の選択酸化が行われ、一酸化炭素濃度は燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。
【0047】
固体高分子形燃料電池17はアノード12、カソード13、固体高分子電解質14からなり、アノード側には上記の方法で得られた一酸化炭素濃度が低減された高純度の水素を含有する燃料ガスが、カソード側には空気ブロアー8から送られる空気が、それぞれ必要であれば適当な加湿処理を行なったあと(加湿装置は図示していない)導入される。この時、アノードでは水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、カソードでは酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行する。これらの反応を促進するため、それぞれ、アノードには白金黒、活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが、カソードには白金黒、活性炭担持のPt触媒などが用いられる。通常アノード、カソードの両触媒とも、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン、低分子の高分子電解質膜素材、活性炭などと共に多孔質触媒層に成形される。
【0048】
次いでNafion(デュポン社製)、Gore(ゴア社製)、Flemion(旭硝子社製)、Aciplex(旭化成社製)等の商品名で知られる高分子電解質膜の両側に前述の多孔質触媒層を積層しMEA(Membrane Electrode Assembly)が形成される。さらにMEAを金属材料、グラファイト、カーボンコンポジットなどからなるガス供給機能、集電機能、特にカソードにおいては重要な排水機能等を持つセパレータで挟み込むことで燃料電池が組み立てられる。電気負荷15はアノード、カソードと電気的に連結される。アノードオフガスは加温用バーナー18において消費される。カソードオフガスは排気口16から排出される。
【実施例】
【0049】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[触媒]
外率0.01質量%のPtと0.25質量%のRuがγ―アルミナに担持された触媒を触媒とする。ここで、外率とは、担体に対する割合を表す。
【0051】
[ゼオライト膜]
(モルデナイト膜)
多孔質アルミナ管支持体上に種結晶塗布し、2次成長法によりモルデナイトを製膜した。まずモルデナイト種結晶(Si/Al=5.1)水溶液(濃度1.76g/l)に支持体を垂直に立てて浸漬し、その後約3cm/sで引き上げ、70℃で30分以上乾燥させた。この操作を2回繰り返し、支持体上に種結晶をコートした。その後50℃で4時間熟成させた原料ゲル(10NaO:0.15Al:36SiO:960HO)中にて、180℃、4時間、水熱合成法により結晶化を行い製膜した。150℃における水(10kPa)/水素(90kPa)2成分系における水と水素の分離係数が131のものを使用した。
【0052】
(ZSM−5膜)
多孔質アルミナ管支持体上に種結晶塗布し、2次成長法によりZSM−5を製膜した。
まずNa−ZSM−5種結晶(Si/Al=12)のスラリー(濃度2.4g/l)に支持体を垂直に立てて浸漬し、その後約3cm/sで引き上げ、70℃で30分以上乾燥させた。この操作を2回繰り返し、支持体上に種結晶を担持した。その後50℃で4時間熟成させた原料(10NaO:0.15Al:36SiO:1200HO)を用いて、180℃、12時間、水熱合成法により結晶化を行い製膜した。150℃における水(10kPa)/水素(90kPa)2成分系における水と水素の分離係数が75のものを使用した。
【0053】
(Y型膜)
多孔質アルミナ管支持体上に種結晶塗布し、2次成長法によりY型ゼオライトを製膜した。まず種結晶(Si/Al=2.8)水溶液に支持体を垂直に立てて浸漬し、その後約0.1cm/sで引き上げ、70℃で30分以上乾燥させた。この操作を2回繰り返し、支持体上に種結晶をコートした。その後20℃で4時間熟成させた原料ゲル(22NaO:Al:25SiO:990HO)中にて、100℃、4時間、水熱合成法により結晶化を行い製膜した。150℃における水(10kPa)/水素(90kPa)2成分系における水と水素の分離係数が10のものを使用した。
【0054】
[実験条件]
触媒24ccをそれぞれ反応管に充填し、水素気流中、200℃で1時間還元した後、以下の一酸化炭素除去反応評価を行った。
試験ガスとしては、灯油を水蒸気改質し、水性ガスシフト反応して得られた原料ガス(組成:水素61.5vol%、一酸化炭素0.5vol%、二酸化炭素18.1vol%、水19.7vol%、メタン0.2vol%)を用い、図1のとおりゼオライト膜を通過させる。その際、透過側にはスイープガスとして空気を流通させ、ゼオライト膜の出口水分濃度が12%になるようにスイープガスの流量を制御した。
ゼオライト膜の非透過側のガスに、O/CO比=1.0となるように空気を加えたガスを触媒の充填された反応管に導入し、一酸化炭素除去反応評価を行った。反応評価条件は常圧、GHSV=5,000h−1である。
空気をまだ導入していない試験ガスを流通させた状態で、触媒層温度を80℃にする。続いて空気を導入し、1時間後に空気の導入を中止する。この操作を1回とし、これを繰り返す。反応生成ガスの一酸化炭素濃度が10volppmを越えるまでの回数(サイクル数)を求める。
【0055】
(比較例1)
ゼオライト膜を通過させずに直接試験ガスと空気を導入させた。結果を表1に示す。
(実施例1)
【0056】
ゼオライト膜としてZSM−5膜を用い評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
ゼオライト膜としてモルデナイト膜を用い評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
ゼオライト膜としてY型膜を用い評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例4〜6)
実施例1の一酸化炭素濃度低減方法を用いて得られた生成ガスを図2の固体高分子形燃料電池アノード極に導入して発電を行ったところ正常に作動した。
実施例2の一酸化炭素濃度低減方法を用いて得られた生成ガスを図2の固体高分子形燃料電池アノード極に導入して発電を行ったところ正常に作動した。
実施例3の一酸化炭素濃度低減方法を用いて得られた生成ガスを図2の固体高分子形燃料電池アノード極に導入して発電を行ったところ正常に作動した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例で使用した、原料ガス中の水分をゼオライト膜で低減する装置の概略図である。
【図2】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0062】
1 水タンク
2 水ポンプ
3 燃料タンク
4 燃料ポンプ
5 脱硫器
6 気化器
7 改質器
8 空気ブロアー
9 高温シフト反応器
10 低温シフト反応器
11 選択酸化反応器
12 アノード
13 カソード
14 固体高分子電解質
15 電気負荷
16 排気口
17 固体高分子型燃料電池
18 加温用バーナー
19 分離膜を用いた水分低減装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体にRuを担持した触媒を用いて、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことを特徴とする原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減する方法。
【請求項2】
アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に、Pt、Pd、Au、Ag、RhおよびIrから選ばれる少なくとも1種の金属とRuを担持した触媒を用いて、水素および一酸化炭素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択酸化するにあたり、原料ガス中の水分濃度を分離膜により低減させた後、選択酸化反応を行うことを特徴とする原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減する方法。
【請求項3】
分離膜がゼオライト膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
分離膜がモルデナイト膜、ZSM−5型ゼオライト膜、A型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜、T型ゼオライト膜およびZSM−35型ゼオライト膜より選ばれる分離膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
原料ガス中の水分濃度を15vol%以下に低減させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
原料ガスが炭化水素、アルコールまたはエーテルを改質反応および水性ガスシフト反応することにより得られたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
原料ガスが炭化水素、アルコールまたはエーテルを脱硫反応、改質反応および水性ガスシフト反応することにより得られたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
分離膜の透過側の環境が、減圧にすること、スイープガスとしてAirを流すこと、スイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスを流すこと、スイープガスとして改質以前の原料ガスを流すこと、スイープガスとしてAirを流す部分と改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること、およびスイープガスとして一酸化炭素の選択酸化反応後の生成ガスと改質以前の原料ガスを流す部分とから構成されること、のうちから選ばれるいずれかの環境であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減し、高濃度水素含有ガスを製造する装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置から得られた高濃度水素含有ガスを陰極側燃料として供給することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−247702(P2008−247702A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93821(P2007−93821)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】