説明

三層積層型エラストマースタンプ及びそれを用いた有機薄膜形成方法並びに有機デバイス

【課題】 μCP法やコンタクトキャスト法等のエラストマースタンプを使用した印刷プロセスにおいて、インクに使用される溶剤の多様化と加熱機構を付加することによる生産性の高い薄膜形成プロセス及びその仕様に耐えうるエラストマースタンプを提供する。
【解決手段】 耐溶剤性に優れたフッ素系エラストマーからなる中間層と、該中間層とは異なるエラストマーからなる上層及び下層とから構成された3層構造を有し、前記上層及び下層の少なくとも一方は、インクと接触する層であって、剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーからなることを特徴とする3層積層型のエラストマースタンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三層積層型エラストマースタンプ及びそれを用いた有機薄膜形成方法並びに有機デバイスに関し、特に、マイクロコンタクトプリント法(μCP法)やコンタクトキャスト法などの印刷プロセスで使用するエラストマースタンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンは耐久性や耐熱性に優れ、化学的に安定で酸化されにくく、固体表面は撥水性であるといった有用な性質をもち、医療素材や化粧品、その他ゴム製品等、様々な分野で使用されている。特に近年では、大面積エレクトロニクス装置を印刷法で形成するためのμCP法やコンタクトキャスト法になくてはならないスタンプ版のための素材として大きく注目されている。
μCP法は、アメリカのハーバード大学のG.M.Whitesidesらによって開発された微細パターニング技術である。フォトリソグラフィーによりパターンが形成されたシリコンモールド又は石英モールドに、シリコーンゴムを流し込んで版を作製し、この版を用いて数十nmサイズの微細パターンを塗布する(非特許文献1)。
このμCP法やインクジェット印刷法等の印刷プロセスを用いた有機デバイスの作製は、真空プロセスが必要な通常のドライプロセスと比較して、低コスト・低環境負荷など様々な利点により今後の研究開発が大きく期待されている。例えばこれまでに、μCP法を用いてフレキシブルな基板上に高精細な有機TFTアレイを印刷して製造したとの報告例がある(非特許文献2)。
【0003】
またコンタクトキャスト法は、シリコーンの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)等の剥離性を有する弾性材からなるフィルム又は板を用いて、固体基板との間に薄膜形成用の有機半導体溶液を挟み込み、そのまま乾固させることにより固体基板上に有機半導体薄膜を形成させる方法である。コンタクトキャスト法では、固体基板が溶液を弾く性質を持つか否かに関わりなく製膜が可能であるため、従来のスピンコート法と比べ、電荷トラップの少ない有機トランジスタの作製に有利な高撥水性の固体基板を用いることが可能であり、これに伴い使用できる溶媒の選択肢が増える。実際これにより作製した有機トランジスタが、スピンコート法や各種印刷法と比べデバイス特性が大幅に向上することが報告されている(特許文献1、非特許文献3、非特許文献4)。
【0004】
また、μCP法に用いるスタンプとしては、前述のPDMS等のシリコーン系エラストマー以外にも、フッ素系エラストマーを用いたものがある(特許文献2)。
フッ素系エラストマーは、PDMSに比べて耐溶剤性に優れており、シール材、O―リング、ダイヤフラム、ホース、キャップ又はバルブ材などのシリコーンゴム成形品おいて、その上面、或いは上面及び下面に、含フッ素ゴム組成物を積層することにより、フッ素ゴム組成物の硬化物の耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性に優れた部分とシリコーンゴムの特性を併せ持つゴム物品とすることが提案されている。(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2010−045128
【特許文献2】特開2008−95140号公報
【特許文献3】特開2005−246950号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”MICROFABRICATION BY MICROCONTACT PRINTING OF SELF-ASSEMBLED MONOLAYERS” Whitesides,G.M et al., Adv.Mater.1994,6,600-604
【非特許文献2】”Polymer Network LCD Driven by Printed OTFTs on a Plastic Substrate ” K.Matsuoka et al.,2009 SID INTERNATIONAL SYMPOSIUM DIGEST OF TECHNICAL PAPERS, VOL XL, BOOKS I − III (2009), 199-201
【非特許文献3】井川光弘他:第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 講演番号19a-ZM-11
【非特許文献4】”Investigation of self-assembled monolayer treatment on SiO2 gate insulator of poly(3-hexylthiophene) thin-film transistors” Y. Horii et al., Thin solid Films, 518(2009) 642-646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のとおり、μCP法やコンタクトキャスト法で用いられるシリコーン系エラストマーは、ポリジメチルシロキサン(以下、「PDMS」という。)である。
図1(a)は、スタンプ材としてシリコーン系エラストマーを用いた転写のメカニズムを示す図であり、図中、1は、シリコーン系エラストマー(PDMS)からなる版(以下、「PDMS版」ということもある。)、2は、インクなどの有機溶液(有機薄膜)、3は、被転写体である固体基体、をそれぞれ示している。図1(a)に示すとおり、PDMS版と有機薄膜の界面4はセミドライ状態にあり、一方、有機薄膜と固体基板の界面5は乾燥状態にあることで、有機薄膜は、固体基板上に転写される。
【0008】
PDMSは、耐久性が良く、良好な剥離性表面を有してはいるものの、印刷時に使用する溶剤によっては他のエラストマーと同様に膨潤作用が生じることが知られている。膨潤とは、ポリマー分子間に溶媒分子が入り込み、分子間を広げてしまう結果、版が膨脹してしまう現象である。これが原因で、細かなパターンの形状不良、転写不良、凸部以外も固体基板に接触してしまう「底当たり」現象が発生し、歩留まりの低下やデバイスの性能劣化の原因となる。しかし、適度な膨潤は薄膜の良好な転写性能とも密接に関連していることから、単に膨潤をおさえたフッ素系エラストマーへの代替では別の問題を引き起こすことになる。
【0009】
以下、さらに詳しく説明する。
一般にエラストマーの膨潤はエラストマー材料との親和性が良い溶媒ほど膨潤を引き起こすことが知られ、PDMSでは、特にハロゲン系の溶媒や芳香族系の溶媒によって膨潤が生じる。また高濃度の有機半導体インクの形成に必要なインク乾燥時の版への加熱や高温のインクの使用は、エラストマー分子間への溶媒分子の入り込みを促すため、エラストマーの膨潤を結果的に促進させる。そのため、膨潤溶媒を含むインクを使用し、かつ速乾性を向上させる目的(プロセスの簡易化)で加熱機構を付加すると、著しい膨潤が起こり、例えば厚さ1mm以下のPDMS版の場合、滴下するインクの量や種類によっては、吸収する溶剤がスタンプ(PDMS版)を貼り付けている支持基板側(ガラスやフィルムなど)(図示せず)にまで速やかに達してしまう。特に、支持基板とPDMS版が高密着の状態でなく、すなわち作製したPDMS版をガラスやフィルムに後付けして使用する場合には、版の変形に耐えられず、支持基板から版が剥がれてしまう現象も見られる。これをPDMS版の厚みを増やすことにより改善しようとすると、薄いものと比べて表面粗さや膨潤の度合いは大きくなる傾向があるために表面の凸凹が大きくなり、さらに、極端に厚いと弾性が弱くなることから、被転写体である固体基板とインクとの間に非接触箇所が発生し易くなり、結果的に製膜欠陥(未転写)へとつながる。支持基板と高密着状態である場合においても、PDMS単体の版であるが故、スタンプ(PDMS版)の表面から内側へ膨潤が平衡状態になるまで進行し、インク(有機半導体溶液)の使用量や種類によっては、膨潤の度合いが大きくなる。PDMS版としての利用においては、多少の膨潤であるならば、版と有機薄膜界面がセミドライ状態(図中の4参照)に保たれるマージンの確保につながり、薄膜の均一性やデバイス特性への影響は無視できる。しかしながら、著しい膨潤が生じる場合には、版の凹凸のために膜厚・膜質が不均一となってしまう。またパターニングに必要な凹凸パターンにおいても、凸部以外が固体基板に接触する底当たり現象が頻発することが考えられる。膨潤現象自体はある程度進行した後に平衡状態に落ち着くと考えられるが、PDMS単体を版の材質として用いる限り、速乾プロセスに用いることは困難であり、また版の繰り返し使用ができないこともあり得る。それらは、生産性が大きく低下する原因となり、何らかの対策が望ましい。
【0010】
一方、溶媒に対する膨潤が極めて低いフッ素系エラストマーを版として用いる場合は、版が溶媒を吸収しないため、上記のような速乾プロセス中においても変形することなく、良好なインクの塗布が可能である。しかしながら、逆に溶媒の吸収が極めて少ないことは、版とインクとの界面をセミドライ状態に保つことができるマージンがせまいことを意味し、版側に材料が残る確率が増大するという欠点がある。
図1(b)は、その様子を示す図であり、図中、6は、フッ素系エラストマーからなる版を示す。
【0011】
さらに、別の問題もある。
図2は、スタンプ(版材)に、シリコーン系エラストマー(PDMS)及びフッ素系エラストマーを用いた場合の溶媒の乾燥方向を示す図である。例えばコンタクトキャスト法で有機薄膜を形成する場合、図2(a)に示すように、PDMSを用いた場合は版が溶媒を吸うためZ方向の乾燥もあることから均一な薄膜形成が可能となるが、図2(b)に示すように、フッ素系エラストマーを用いた場合は、版が溶媒を吸わないため、乾燥はXY方向でしか生じず、不均一な膜厚しか得られない。
【0012】
また、版の膨潤はポリマー分子間に入り込んだ溶媒分子が抜けさえすれば元の形状に回復するが、μCP法やコンタクトキャスト法でいったん使用したPDMS版は多かれ少なかれ膨潤しているため、繰り返しの使用においては、また膨潤の度合いによっては、膨潤の回復を図らねばならず、スループットの低下につながる。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、μCP法やコンタクトキャスト法等で用いられるスタンプ(版材)において、使用する溶媒の選択性を広げ、また、加熱機構を付加した速乾プロセスに耐えうるエラストマースタンプを提供することを目的とするものである。また、本発明は、繰り返し使用を可能とし、スループットが低下しないスタンプを提供することを、もう1つの目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、これらの目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、耐溶剤性に優れ、溶媒の吸収が極めて低い材料である、フッ素系エラストマーを母材として、その上層と下層のうち、少なくともインクを塗布する側である上層にPDMSなどのシリコーン系エラストマーを用いることにより、弾性、剥離性、溶媒の吸収性の全てを満足し、且つ、生産性の高い速乾プロセスに利用することができるエラストマースタンプ(版材)を提供することができることを見いだした。
【0015】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]耐溶剤性に優れたフッ素系エラストマーからなる中間層と、該中間層とは異なるエラストマーからなる上層及び下層とから構成された3層構造を有し、前記上層及び下層の少なくとも一方は、インクと接触する層であって、剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーからなることを特徴とする3層積層型エラストマースタンプ。
[2]前記3層構造が、支持基板上の片面又は両面に形成されていることを特徴とする[1]に記載の3層積層型エラストマースタンプ。
[3]前記支持基板と接触する側の前記上層又は下層が省略され、該支持基板と前記中間層とが密着していることを特徴とする[2]に記載の3層積層型エラストマースタンプ。
[4]前記インクと接触する層の表面に、ラビング処理が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の3層積層型エラストマースタンプ
[5]前記インクと接触する一方の層、或いは該層及び前記中間層が、パターン状に形成されていることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のエラストマースタンプ。
[6]前記剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーが、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の3層積層型エラストマースタンプ
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の3層積層型エラストマースタンプと、固体基板との間に薄膜形成用溶液を挟み、該溶液中の溶媒を乾固させることにより、前記固体基板の表面に有機薄膜を形成させることを特徴とする有機薄膜の形成方法。
[8]前記3層積層型エラストマースタンプをあらかじめ加熱し高温のまま用いるか、又はインクを高温で使用することにより、前記有機溶液が固体基板上に広がりながら同時に乾固していくことを特徴とする[7]に記載の有機薄膜の形成方法。
[9][1]〜[6]のいずれかに記載の3層積層型エラストマースタンプを用いて、有機薄膜を形成する方法において、前記エラストマースタンプの上層と下層を交互に使用することにより、スタンプへの加熱処理がインクの速乾と版の膨潤の回復の両方で機能するようにしたことを特徴とする有機薄膜の形成方法。
[10]前記3層構造が支持基板上の両面に形成された3層積層型エラストマースタンプを用いることを特徴とする[9]に記載の有機薄膜の形成方法。
[11][7]〜[10]のいずれかに記載の方法で形成された有機半導体薄膜。
[12][11]に記載の有機半導体薄膜を備えることを特徴とする有機デバイス。
[13][11]に記載の有機半導体薄膜を備えることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、μCP法やコンタクトキャスト法で使用できる溶媒の選択性が広がり、加熱機構を付加した速乾プロセスに耐え得るスタンプであるため、例えば版をあらかじめ加熱して使用、または加熱しながらのインキングや製膜、もしくは高温のインクの使用といった方法で、インキングや製膜をよりスピーディーかつ簡易的に行うことが出来る。また、パターンが形成された版の場合には、製膜パターンの形状再現性の向上や底当たりの低減へとつながる。さらに、インクを基板全面に広げた後に乾燥させる従来のコンタクトキャスト法に加えて、インクを広げると同時に基板上の別位置では乾燥も起こさせる「速乾式」のコンタクトキャスト法が可能になる。この速乾式コンタクトキャスト法は、従来法と同様、基板の親水性・疎水性に関わらず有機半導体層を形成することが可能であるため、電荷トラップの少ない有機トランジスタを作製することが可能になる。さらにシリコーンの膨潤は吸収した溶剤が抜ければ元の形状に戻ることから、上層と下層にともにPDMSを使用した3層構造では、版を裏返すことにより上層と下層を交互に使用することで、効率の良い薄膜形成プロセスが可能である。また、本発明は、プロセスの簡易化が求められている印刷プロセスにとって有用となるため、有機トランジスタのみならず、有機薄膜を有する有機デバイス全般に応用可能で、それらの高スループット、高性能化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】転写のメカニズムを示す図。
【図2】溶媒の乾燥方向を示す図。
【図3】本発明である3層積層版の作製手順を示す図。
【図4】凹凸パターンのある版に応用した場合の図。
【図5】本発明である速乾式コンタクトキャスト法の概略図。
【図6】版の繰り返し作業を示す図
【図7】有機トランジスタの断面図。
【図8】本実施例で作製した有機トランジスタの断面図。
【図9】ZYGOによる版の表面観察図。
【図10】本実施例で作製した有機トランジスタの伝達特性を示す図。
【図11】本実施例で作製した有機トランジスタの出力特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエラストマースタンプ(版材)は、耐溶剤性に優れたフッ素系エラストマーからなる中間層を母材とし、該中間層とは異なるエラストマーからなる上層及び下層とで構成された3層構造を有し、前記上層及び下層の少なくとも一方は、インクと接触する層であって、剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーからなることを特徴とする3層積層型のエラストマースタンプである。
【0019】
本発明において、母材である中間層に用いる材料は、フッ素系エラストマーのように各種溶剤で膨潤せずかつ接着する性質があり、他種材料に積層可能なものであればこれに限らない。
また、本発明において、該中間層の上層と下層のうち、少なくともインクを塗布する側である上層に使用する材料は、PDMSと似たような性質、すなわち、弾性があり、剥離表面を有しているものであれば、他のシリコーン系エラストマーでも構わないが、少なくとも、インクを塗布する側である上層を形成するシリコーン系エラストマーは、各種溶剤で膨潤する性質を有するもの、すなわち転写性の良さと良好な薄膜形成が可能なマージンの広さをもつ材料とする。すなわち、PDMSなどのシリコーン系エラストマーは膨潤のため有機材料(インク)とスタンプの界面(図1の4)がセミドライ状態となるマージンが広く、固体基板上へ容易に薄膜が形成できる。
【0020】
本発明において、このような3層積層構造をとることにより、版の膜厚に関係なく(薄くても)、また使用する溶媒や加熱機構の付加によっても、下層に吸収溶媒が達することがないため、前記課題を克服することができる。
すなわち、シリコーン系エラストマーは、使用する溶媒によっては膨潤が生じることが知られる。μCP法やコンタクトキャスト法で薄膜を形成する場合、スタンプのシリコーン系エラストマー層と固体基板(図1の3)はインク層の厚み分だけ離れているため、多少の膨潤による版の変形は有機半導体薄膜のパターニングや膜質にそれほど大きく影響しないが、使用するインク種や使用量によっては膨潤の度合いが著しく大きくなり無視できないものとなる。本発明においては、中間層として膨潤しないフッ素系エラストマーを用いているため、版の極端な変形を抑制することが可能になる。当然上層に使用するPDMS等のシリコーン系エラストマーの厚みが大きいと、著しい膨潤となるため、使用するインク種や滴下量、薄膜形成プロセスなどを考慮して、適度な厚さにする必要がある。
一方、フッ素系エラストマーは耐溶剤性には優れているものの版と溶液の界面をセミドライな状態に保つマージンがせまいため、図1(b)の未転写が起こりやすく、またバーコーターによるインキング、使用後のワイピング等の摩擦に弱い。また、シリコーン系エラストマーと比べ、ゴム強度は弱く、ロール作業性も劣る。本発明においては、このようなフッ素系エラストマーを、中間層に薄く1層組み込む方式で、3層構造としている。
【0021】
以下、本発明の3層積層型エラストマースタンプの作製方法及びそれを用いた有機トランジスタの製造法について、図を用いて説明する。
【0022】
(3層積層型エラストマースタンプの作製方法)
図3は、上層及び下層にシリコーン系エラストマーを用いた、3層積層型エラストマースタンプの作製手順を示す図であり、図中、1は、シリコーン系エラストマー、6は、フッ素系エラストマー、7は、支持基板を示す。
離型処理した支持基板7に、脱泡処理を施した流動性のシリコーン系エラストマー1を滴下し、同じく離型処理した支持基板を用いて挟み込み、シリコーン系エラストマー1を基板全面に広げる。水平に荷重をかけることで、均一な膜厚のシリコーン系エラストマースタンプが作製可能である。シリコーン系エラストマーの粘度と滴下量、挟み込んだ時にかける荷重で膜厚は制御可能であるが、もしくは挟み込まずに滴下したシリコーン系エラストマーをスピンコート法やバーコート法等の各種溶液プロセスで広げても良い。(iii)のように挟み込み、材料を広げたまま、もしくは各種溶液プロセスで広げた後、ホットプレートやオーブン等でベークを行い、材料を固化させる(iv)。
固化した後、挟み込んでいたガラスを剥がし、一層目のシリコーン系エラストマー層ができあがる。同じように離型処理した固体基板を使用し、2層目に使用する流動性のフッ素系エラストマー6を一層目の上に流し込み、同じくガラスで挟み込むなどして、材料を広げる。広げた後、ホットプレートやオーブン等でベークを行い、流動性のフッ素系エラストマーを固化させる。同様に、流動性のシリコーン系エラストマー1をフッ素系エラストマー層上に作製し3層積層型エラストマースタンプができあがる。
工程(xiv)の下の図は、離型処理した支持基板から剥離された、本発明の3層積層型エラストマースタンプを示す。
【0023】
なお、上記の方法では、ともに離型処理した支持基板で流動性のエラストマーを挟み込んで作製しているが、どちらか一方に離型未処理の支持基板を使用することで、支持基板に高密着した(離型未処理の固体基板を支持基板とした)3層構造が出来上がる。
工程(xiv)の上の図は、該支持基板に高密着した、本発明の3層積層型エラストマースタンプを示す。
また、本発明の3層積層型エラストマースタンプにおいて、一方に離型未処理の支持基板を使用する場合、該支持基板7と接触する側の層を省略して、支持基板と中間層とが高密着したものとすることができる。すなわち、図3に示す工程(vii)において、フッ素系エラストマー6側に、離型未処理の支持基板7を用い、固化した後、工程(ix)において、シリコーン系エラストマー1側の、離型処理した支持基板7を剥がすことにより、支持基板7とフッ素系エラストマーとが直接密着したエラストマースタンプが得られる。
【0024】
また、本発明においては、インクの速乾性を高める方法として、図3(xv)のように、3層積層型エラストマースタンプの上層のシリコーン系エラストマー表面にラビング処理を施すことにより、その表面積を増大させることで、スタンプ上に塗布する有機溶液(インク)との接触面積を増やし、より有機溶液(インク)に含まれる溶剤がシリコーン系スタンプに吸収されやすい機能を付与することができる。
実施例において後述するとおり、ラビングクロス等でラビングすることにより、ラビング処理面8は図9(a)に示す様にナノオーダーの溝が観察された。
【0025】
さらに、本発明においては、図4に示すとおり、凹凸パターンのついた版も製造可能であり、その際はパターンのあるシリコンモールドやガラスモールドを離型処理して使用する。なお、図中、1は、シリコーン系エラストマー、6は、フッ素系エラストマー、をそれぞれ示している。
図4(a)のように、凸部を2層にした3層積層版、もしくは、図4(b)のように、凸部と平部の界面にフッ素系エラストマーを用いた3層積層版なども作製が可能である。特に、図4(b)は、平部が膨潤しないフッ素系エラストマーであるため、底当たり現象を改善し、凸部のインクのみの印刷による歩留まり向上が見込まれ、速乾プロセスに対応できる。
【0026】
(速乾式コンタクトキャスト法)
図5は、速乾式コンタクトキャスト法の概要を示すものであって、図中、2は、インクなどの有機溶液、3は、被転写体である固体基板、8は、3層積層型エラストマースタンプ、9は、ホットプレートを示す。
図に示すとおり、前記の3層積層型エラストマースタンプ8をホットプレート9などであらかじめ加熱して用いることで、もしくは高温に加熱したインクの使用により、材料を瞬時に乾燥させることが可能である。製膜条件の最適化によっては、(ii)→(iii)への広がりながらの製膜が可能で、溶液を基板に広げてから乾燥させる従来のコンタクトキャスト法(上記特許文献1,非特許文献3参照)とは若干異なったプロセスとなっている。
【0027】
また、シリコーン系エラストマーの膨潤は、吸収した溶剤が抜けさえすれば元の形状に戻ることから、本発明の、上層と下層にシリコーン系エラストマーを使用した3層積層型エラストマースタンプの場合、上層と下層を交互に使用することで、効率の良い薄膜形成プロセスが可能である。
図6(a)は、図5の速乾式コンタクトキャスト法に応用した場合の概要を示すものであって、図中、2は、インクなどの有機溶液、3は、被転写体である固体基板、10は、膨潤面、11は、加熱機構を、それぞれ示している。
図6(a)に示すように、特に、図5の速乾式コンタクトキャスト法に応用した場合、インクの乾燥時の加熱処理11が、速乾製膜と膨潤回復の両方で機能し、膨潤面10が反転後の使用時の加熱で膨潤が回復するため、高スループットの他、一度使用したPDMS面を次使用時には反転して用い、版の繰り返し使用を可能にするものである。
【0028】
図6(b)は、支持基板の両面に3層構造を設けたスランプの例であり、7は、支持基板を示している。
図6(b)(i)に示すように、支持基板の両面に、3層積層型のスタンプを作製して、上記同様反転して繰り返し使用することも可能である。また、図6(b)の(ii)は、前述の、支持基板7とフッ素系エラストマーとが直接密着したエラストマースタンプを用いた場合を示している。
μCp法においても、コンタクトキャスト法と同様に版側に材料は残らないため、撥水性基板上にも薄膜が形成できるほか、滴下したインクが全て膜となり、スピンコート製膜のような材料ロスが皆無である。
【0029】
(有機トランジスタの作製)
図7に、一般的な電界効果型トランジスタ素子構造の断面図を示す。
図7(a)の構造は、ボトムゲート・トップコンタクト型の素子構造で、ゲート絶縁膜15上に有機半導体層2があり、その上にソース電極12およびドレイン電極13を有するものである。ゲート絶縁膜15の表面は場合によっては、疎水処理16が施されている。
図7(b)の構造は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の素子構造で、ゲート絶縁膜15上にソース電極12およびドレイン電極13があり、その上に有機半導体層2を有するものである。ゲート絶縁膜15の表面は場合によっては疎水処理16が施されている。
図7(c)の構造は、トップゲート型の素子構造で、基板17上にソース電極12およびドレイン電極13があり、その上に有機半導体層2、ゲート絶縁膜15、ゲート電極14を有するものである。
【0030】
有機半導体層2は、可溶性の有機半導体材料として、ペンタセン・ルブレン・ポルフィリン類・フタロシアニン類、ポリチオフェン、オリゴチオフェン及びそれらの誘導体、フラーレン、C60MC12やPCBMといったフラーレン誘導体、フルオロアルキル基を有するフラーレン誘導体、ペリレン及びその誘導体等から成る。それらを3層版を用いた速乾式コンタクトキャスト法、もしくはμCP法により製膜する。基板への有機溶液の滴下方法は単純なピペットによる滴下からインクジェットやディスペンサのような特殊なノズルから滴下する方法等、手段を問わない。よって小面積に少量のインクの滴下が可能であるため、半導体層のパターニングにも対応できる。またパターニングに関しては(非特許文献5)等にも対応できる。
【0031】
使用する溶媒は有機材料が可溶性であれば種類は問わない。膨潤をより引き起こすハロゲン系の溶媒や芳香族系溶媒、もしくはそれらを加熱して使用しても、版をあらかじめ加熱して使用してもよい。またテトラリンやジクロロベンゼン等の高沸点溶媒にも対応できる。上記可溶性有機半導体材料及び溶媒は代表的な例を述べているものであって、有機半導体材料及び溶媒は、これらに限定されるものではない。
【0032】
ソース電極12およびドレイン電極13は、真空蒸着法、スパッタ法、印刷法などにより形成する。電極材料としては、金、銀、白金、クロム、アルミニウム、インジウム、アルカリ金属(Li, Na, K, Rb, Cs)、アルカリ土類金属(Mg, Ca, Sr, Ba)、Agインク、化学ドーピングにより高い導電性を示すポリチオフェン系、ポリアニリン系などの高分子といった導電性ポリマーなどを用いることができる。電極材料も同様に、これらに制限されるものではない。
【0033】
基板17は、シリコン基板、ガラス基板や、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)ポリカーボネートに代表されるプラスチック基板を用いることができる。基板材も同様に、これらに制限されるものではない。
ゲート電極14は、p型ドープシリコン、n型ドープシリコン、インジウム・錫酸化物(ITO)や、化学ドーピングにより高い導電性を示すポリチオフェン系、ポリアニリン系などの高分子といった導電性ポリマーや、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、タンタルなどの金属を用いることができる。ゲート電極材も同様に、これらに制限されるものではない。
【0034】
ゲート絶縁膜15は、絶縁性の高いものが望まれる。例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化タンタルなどの無機物や、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ジビニルテトラメチルジシロキサン−ビスベンゾシクロブテン(BCB)、シアノエチルプルラン、パリレン、ポリイミド、フッ素化高分子などの有機物を用いることができる。ゲート絶縁材も同様に、これらに制限されるものではない。
【0035】
疎水表面16を形成する疎水材料はヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オクチルトリクロロシランやデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシランといった長鎖アルキルシラン、フッ素化オクチルトリクロロシランといったフルオロアルキルシラン、ベータ-フェネチルトリクロロシランなどのシランカップリング剤や、ポリスチレン、ポリエチレン、パリレン、ポリイミド、フッ素化高分子、ジビニル-テトラメチルシロキサン-ビスベンゾシクロブテン(BCB)などの水酸基を持たない高分子などを用いることができる。 また。高分子絶縁膜を、水酸基を持たないゲート絶縁膜として用いることが出来る。この場合、高分子絶縁膜はゲート絶縁膜15と疎水表面16を兼ねている。(”有機分子デバイスの製膜技術II 印刷法 ”八瀬.,応用物理.2008, 第77巻, 第2号,173-177参照)
【0036】
以上のとおり、本発明の3層積層型エラストマースタンプを用いることにより、μCP法やコンタクトキャスト法で使用できる溶媒の選択性が広がり(膨潤溶媒の使用)、加熱機構を付加した速乾プロセスに耐え得るスタンプであるため、例えば版をあらかじめ加熱して使用、加熱しながらのインキングや製膜、もしくは高温のインクの使用といった方法で、インキングや製膜をよりスピーディーかつ簡易的に行うことが出来る。
また、パターンが形成された版の場合にも、製膜パターンの形状向上や底当たりの低減へとつながる。
さらに、膨潤溶媒に耐えるのみならず、それに加熱機構が加わっても、良好な薄膜形成が可能なことから、コンタクトキャスト法のように溶媒を広げてから乾燥させるのではなく、熱のかけ方やインクに使用する溶媒の選択によっては、広がりながらのインクの乾燥が可能となる(速乾式コンタクトキャスト法)。また、この速乾式コンタクトキャスト法は従来のコンタクトキャスト法と同様、基板の親水性・疎水性を問わず溶液プロセスで有機半導体層を形成することが可能であるため、疎水性基板上で応用した場合、電荷トラップのない(少ない)有機トランジスタを作製できる(上記非特許文献4参照)。
また、先に述べたように、シリコーンの膨潤は吸収した溶剤が抜けさえすれば元の形状に戻ることから、加熱処理などで溶剤を素早く抜けば、元の形状への回復も早く、上層と下層を交互に使用することで、効率の良い薄膜形成プロセスが可能である。この場合、速乾性膜のための加熱処理が薄膜形成の簡易化のみならず、版の膨潤の回復にも機能する。
本発明が奏するこれらの作用効果は、プロセスの簡易化が求められている印刷プロセスにとって有用となるため、有機トランジスタのみならず、有機薄膜を有する有機デバイス全般に応用可能で、それらの高スループット、高性能化が期待できる。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内での変形、他の実施態様又は実施例は、全て本発明に含まれるものである。
【0038】
《実施例1》
(シリコーン系エラストマーの脱泡処理)
テフロン(登録商標)製の容器(100ml)にPDMS(ポリジメチルシロキサン)(信越化学工業株式会社製Shin-Etsu silicone KE106)を10g計り採り、同じ容器に硬化剤 CAT-RG(信越化学工業株式会社)を1g混合させた。混合の際には同じくテフロン(登録商標)製の攪拌棒を使用した。均一に混合した後、容器を真空デシケーターに入れ、真空引きを行うことで(到達真空度133pa)、脱泡処理を行った。材料に含まれている泡が消えるまで、真空引きとパージを繰り返し、材料に含まれる気泡を完全に取り除いた。
本実施例では、真空引きにより脱泡作業を行ったが、遠心分離による脱泡作業も可能で、材料から気泡を取り除くことができれば方法は問わない。しかし、硬化剤を混ぜ込んでいるため、時間の経過とともに材料が高粘度となることから、短時間での作業が望ましい。混入させる硬化剤の割合、実験環境の室温等の違い、使用する容器の容量等で材料が完全に硬化するまでの時間は変わってくるが、硬化剤の量をシリコーンの10%(質量)、実験環境を21℃、テフロン(登録商標)製容器の容量100mlとすると、完全に硬化するのに1〜2日程度であった。
【0039】
下記の式は、本実施例において用いたシリコーン系エラストマーとして用いた、PDMS(ポリジメチルシロキサン)の構造を示すものである。
【化1】

【0040】
シリコーン系エラストマーとしては、前記のShin-Etsu silicone KE106などのPDMS以外に種類があるが、製膜後に版側に材料が残らないものであり(剥離性質がある)、シロキサン結合(Si−O結合)を有するオルガノポリシロキサン類であって室温においてゴム状弾性を有するものであればよく、例えばポリジメチルシリコーンエラストマー、メチルビニルシリコーンエラストマー、メチルフェニルシリコーンエラストマー、フルオロシリコーンエラストマー等を挙げることができる。
【0041】
(フッ素系エラストマーの脱泡処理)
テフロン(登録商標)製の容器(100ml)に、フッ素エラストマー原料(信越化学工業株式会社製、SHIN-ETSU SIFEL SIFEL8370A/B)のA液とB液を5gずつ(等量)計りとり、テフロン(登録商標)製の攪拌棒で均一に混合した。上記シリコーン系エラストマーの脱泡処理と同様に脱泡処理を行い、材料から完全に気泡を取り除いた。
【0042】
下記の式は、本実施例で得られたフッ素エラストマーの構造を示す。
【化2】

【0043】
フッ素系エラストマーとしては、上記のSHIN-ETSU SIFEL SIFEL8370A/Bに限らず、耐溶剤性に優れ、膨潤しないものであれば、フッ素原子を含む単位モノマーの重合体または共重合体であって、ガラス転移点が室温以下であり、室温でゴム状弾性を有するものであれよく、例えばテトラフルオロエチレン−プロピレンゴム、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンゴム、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンゴム、フルオロシリコーン系エラストマー等を挙げることができる。
【0044】
《実施例2》
(ガラス基板の離型処理)
10cm×10cmサイズの厚さ1mmの石英ガラスを2枚用意し、このサイズのガラス板が十分浸漬できるサイズのシャーレにこのガラス板を入れ、シャーレに洗浄溶剤を入れ超音波洗浄を行った。使用した溶剤はアセトン、アルカリ洗剤(株式会社 フルウチ化学、セミコクリーン)、超純水、イソプロパノールである。各溶剤で超音波洗浄を20分ずつ行った。
上記ウェット洗浄後、ガラス基板をエキシマ光照射装置(株式会社 オーク製作所)でエキシマ光(172nm)を窒素中で2分照射し、基板を十分に親水化した(接触角 水 5°以下)。同じような処理が可能であれば(接触角 水 5°以下)、各種溶剤によるwet洗浄方法も使用する溶剤の種類もこれに限らず、dry洗浄に関しても、エキシマ光照射装置に限らない。
基板の十分な親水化の後、120℃に加熱したオーブン中に密閉可能な金属ケースに親水処理した上記ガラス板とシランカップリング剤(FAS(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltriethoxysilane))を入れ、2時間、気相中でのSAM処理を施した(表面技術 55:99, 614, 社団法人表面技術協会” 桐野.,2004.参照)。
【0045】
下記の式は、本実施例で用いたシランカップリング剤FASの構造を示す。
【化3】

【0046】
2時間の処理の後、イソプロパノールと超純水で超音波洗浄を行い(各種10分)、再びオーブン(クリーンオーブン)に入れ、処理したガラスを乾燥させた。処理後のガラス板は高撥水性となり、接触角 水は115°〜120°を示した。
同じような処理が可能であれば(接触角 水110°〜120°)、FASに限らず他のシランカップリング剤の使用でもよく、また気相処理でなくディッピング等の液層処理でも構わない。凹凸パターンが形成されたシリコンモールドや石英モールドに関しても、同様な処理で離型処理が可能である。
【0047】
《実施例3》
(3層積層型エラストマースタンプの作製)
作製手順は、前述の図3の通りである。
実施例2において作製した離型処理ガラスに、実施例1で得られた、脱泡処理を施したPDMSを2g滴下し、同じく作製した離型ガラスを用いて挟み込み、PDMSを基板全面に広げた。水平に荷重をかけることで、均一な膜厚のPDMSが作製可能であるが、本検討では荷重は挟み込むガラスの重さのみとして、水平な台上でシリコーンを基板上に展開させた。PDMSの粘度と滴下量、挟み込んだ時にかける荷重でPDMSの膜厚は制御可能であるが、もしくは挟み込まずに滴下したPDMSをSpincoaterやBarcorter等の各種wetプロセスで広げても良い。
挟み込んで広げた後、ホットプレートで150℃/30minベークを行い、PDMSを固めた。固めた後、挟み込んでいたガラスを剥がし、一層目のPDMS層を形成した。同じように離型処理ガラスを使用し、2層目に使用する脱泡処理を施したSHIN-ETSU SIFEL を一層目の上に1g流し込み、同じくガラスで挟み込み、材料を広げた。広げた後、真空オーブンで120℃/3.5hベークを行い、SHIN-ETSU SIFEL を固めた。同様に3層目のPDMSをSHIN-ETSU SIFEL上に作製し3層積層型エラストマースタンプを作製した。
次いで、得られた3層積層エラストマースタンプの上層のPDMS面を、ラビングクロス((株)妙中パイル織物)により、ラビング処理し、干渉顕微鏡(ZYGO)にて観察したところ、ナノオーダーの溝が観察された。なお、図9は、観察写真であり、図中、(a)は、ラビング処理したものであり、(b)は、ラビング処理していないものである。
【0048】
《実施例4》
20mm×25mmサイズの厚さ300nmのシリコン熱酸化膜の付いたnドープシリコン基板にフォトリソグラフィーにより、異なるチャネル長パターン(5um〜100um)のSD電極(Au/Cr : 30nm/5nm)を形成した。その後、アルカリ洗剤(株式会社 フルウチ化学、セミコクリーン)、超純水、アセトン、エタノールでそれぞれ20分間超音波洗浄し、UV-O3クリーナにて20分間オゾン洗浄を行い、基板の十分な親水化(接触角・水, 5°以下)を行った。その後、HMDSに16時間浸潤し、疎水処理を行った。HMDSでの疎水処理後、クロロホルム溶媒で5分間超音波洗浄し、窒素ガンで乾燥させた。疎水処理後の接触角(水 )は90°であった。
下記の式に示すp型有機半導体材料であるPB16TTT(Merck.社製)をクロロホルムに溶かし、0.2wt% の濃度に調整した。ホットプレートにより80℃で30分加温し、材料を十分に溶かした後、溶液をフィルター(0.45um,PTFE)でろ過した。
【0049】
【化4】

【0050】
図5に示す作製手順のように、調製した有機半導体溶液をあらかじめホットプレートで60℃に加温した三層積層版上にマイクロピペッターで50ul滴下し、HMDSで疎水化した基板を上から接触させ毛管現象で材料を広げながら同時に溶液を乾固させた。広がりながら乾固しているが、念のため溶液が基板全面に広がった後、1〜2分時間を置いた。3層積層版は基板より大きいものを使用した(5cmx5cm)。かけた荷重は接触させた基板の重さのみである。製膜後、基板と版をゆっくり剥がし、基板上に有機薄膜を形成した。素子構造は図・7(b)のボトムゲート・ボトムコンタクト型の構造である。
【0051】
《実施例5》
図8に、実施例4で作製した有機トランジスタ素子の断面図を示す。
図中23はnドープシリコンであり、基板とゲート電極を兼ねている。22は酸化シリコンである。18、19のソース・ドレイン電極はAu/Crで、チャネル長は5um,10um,20um,50um,100umの5パターンがあり、チャネル幅は5mmである。
作製した有機トランジスタを窒素雰囲気下のグローブボックス内でアニール処理し(100℃/5min→125℃/10min)、探針によって電極とコンタクトし、半導体パラメータアナライザ(ケースレー4200SCS)にて、トランジスタ特性を測定した。
【0052】
図10に作製した有機トランジスタ素子の最も電界効果移動度の高かったチャネル長20umでの伝達特性を示す。図中、□は、ドレイン電流とゲート電圧(Id-Vg)を示し、○は、ドレイン電流の平方根とゲート電圧(√Id-Vg)を示す。算出された電界効果移動度は0.37cm/Vs、On/Off比は1.78x105、Vthは-5.4Vを示し、この材料のボトムコンタクト・ボトムゲート型素子の電気特性としては、良好な諸特性を示した(”Surface-energy-dependent field-effect mobilities up to 1cm/Vs for polymer thin-film transistor” T. Umeda et al., J.Appl.Phys, 105, 024516 (2009).参照)。
図11に出力特性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の3層積層版によって、膨潤を極度に引き起こすハロゲン系溶媒の使用や加熱による膨潤の促進にも耐えうる版の構造であるため、μCP法や速乾式コンタクトキャスト法などの製膜方法によって、従来よりも簡易的かつスピーディーに良好な膜質の有機薄膜が作製可能となった。また加熱機構を速乾製膜と版の膨潤の回復の両方で機能させることも可能なことから、高スループット、繰り返し作業性能の向上となった。これらは有機トランジスタのみならず、薄膜太陽電池、光電変換素子、メモリー素子、発光素子、ダイオードなどの作製方法へ応用可能である。本提案書の実施例にはないが、凹凸パターンのある版に応用した場合、底当たりの改善や良好なパターンの作製ができるようになり、歩留まりの向上となる。本発明は、高スループット化・歩留まりの向上など印刷プロセスが抱える課題を一蹴する可能性を秘めている。
また、特に本製造法によって製造された有機トランジスタは、液晶ディスプレイ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイをアクティブマトリックス駆動するための薄膜トランジスタや、無線タグ、相補型MOS(CMOS)回路の一部として利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 シリコーン系エラストマー(PDMS)
2 有機溶液(有機層)
3 固体基板
4 セミドライ状態
5 乾燥状態
6 フッ素系エラストマー
7 支持基板
8 3層積層型エラストマースタンプ
8´ラビング処理面
9 ホットプレート
10 膨潤面
11 加熱機構
12 ソース電極
13 ドレイン電
14 ゲート電極
15 ゲート絶縁膜
16 疎水処理表面
17 基板
18 ソース電極(Au/Cr)
19 ドレイン電極(Au/Cr)
20 PB16TTT層
21 疎水処理表面(HMDS)
22 酸化シリコン
23 nドープシリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐溶剤性に優れたフッ素系エラストマーからなる中間層と、該中間層とは異なるエラストマーからなる上層及び下層とから構成された3層構造を有し、前記上層及び下層の少なくとも一方は、インクと接触する層であって、剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーからなることを特徴とする3層積層型エラストマースタンプ。
【請求項2】
前記3層構造が、支持基板上の片面又は両面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の3層積層型エラストマースタンプ。
【請求項3】
前記支持基板と接触する側の前記上層又は下層が省略され、該支持基板と前記中間層とが密着していることを特徴とする請求項2に記載の3層積層型エラストマースタンプ。
【請求項4】
前記インクと接触する層の表面に、ラビング処理が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の3層積層型エラストマースタンプ
【請求項5】
前記インクと接触する一方の層、或いは該層及び前記中間層が、パターン状に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエラストマースタンプ。
【請求項6】
前記剥離性表面を有するシリコーン系エラストマーが、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の3層積層型エラストマースタンプ
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の3層積層型エラストマースタンプと、固体基板との間に薄膜形成用溶液を挟み、該溶液中の溶媒を乾固させることにより、前記固体基板の表面に有機薄膜を形成させることを特徴とする有機薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記3層積層型エラストマースタンプをあらかじめ加熱し高温のまま用いるか、又はインクを高温で使用することにより、前記有機溶液が固体基板上に広がりながら同時に乾固していくことを特徴とする請求項7に記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の3層積層型エラストマースタンプを用いて、有機薄膜を形成する方法において、前記エラストマースタンプの上層と下層を交互に使用することにより、スタンプへの加熱処理がインクの速乾と版の膨潤の回復の両方で機能するようにしたことを特徴とする有機薄膜の形成方法。
【請求項10】
前記3層構造が支持基板上の両面に形成された3層積層型エラストマースタンプを用いることを特徴とする請求項9に記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法で形成された有機半導体薄膜。
【請求項12】
請求項11に記載の有機半導体薄膜を備えることを特徴とする有機デバイス。
【請求項13】
請求項11に記載の有機半導体薄膜を備えることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−209370(P2012−209370A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72828(P2011−72828)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「新しい高性能ポリマー半導体材料と印刷プロセスによるAM−TFTを基盤とするフレキシブルディスプレイの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】