説明

三次元形状計測装置及び三次元形状計測方法

【課題】照明光を機械的に走査せずに測定対象物の表面形状を精度良く求める。
【解決手段】点灯制御部31は、光源LEを順次に1個ずつ点灯させる。撮像制御部32は、各光源LEが点灯される毎に、測定対象物の画像データを撮像部20に取得させる。画像データ特定部33は、画像データを構成する各画素について、輝度値が最大となる画像データを、撮像部20により取得された全画像データ中から特定する。傾き算出部34は、画像データ特定部33により特定された各画像データにつき、各画像データを取得する際に点灯された光源LEの位置を特定し、特定した各光源LEの位置を基に、各画素に対応する測定対象物の各測定位置の傾きを算出する。表面形状算出部35は、傾き算出部34により算出された各測定位置APの傾きを基に、各測定位置APの高さを算出し、測定対象物OBの表面形状を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の表面形状を測定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光など直進性の高い光を光沢ある試料に照射すると、この光は試料により正反射される。そして、光の入射位置を特定できるPSD(Position Sensitive Detector)を利用すると、PSDへの正反射光の入射位置から、試料における光の入射角度が分かり、試料の傾きがわかる。したがって、レーザ光を試料に向けて走査し、反射光をPSDで検出することで、試料の角度分布を求めることができる。
【0003】
図9は、レーザ光源とPSDとを用いて、測定対象物OBの表面形状を求める原理を示す模式図である。図9(A)は測定対象物OBの表面SFが基準面RSに対して傾いていない場合を示し、図9(B)は測定対象物OBの表面SFが基準面RSに対して、θだけ傾いている場合を示している。
【0004】
図9(A)に示すように、測定対象物OBが傾いていない場合、照明光L1は測定位置APで正反射し、反射光L2となってPSDに入射する。ここで、反射光L2がPSDに入射する入射点をIPとする。
【0005】
一方、図9(B)に示すように、測定対象物OBがθ傾くと、それに伴って、反射光L2´が反射光L2に対して2θずれる。これにより、反射光L2´の入射点IP´は入射点IPに対して2Lθずれる。
【0006】
よって、PSDの測定結果から2Lθを求め、2Lで割れば、測定対象物OBの基準面RSに対する傾きθが分かる。つまり、入射点IPに対する入射点IP´のずれが分かれば測定対象物の傾きθが分かる。
【0007】
このような原理を用いた従来技術として、特許文献1が知られている。特許文献1には、レーザ光源より射出された光を、ポリゴンスキャナを用いて検査対象物の平面にライン状に走査し、平面からの反射光をPSDにより受光し、平面の角度を算出し、平面異常を検査する装置が開示されている。この装置によれば、光学的な強度だけでは分別が難しいとされている、汚れと、高さ変化をもつ疵とを分別することが可能となる。
【0008】
また、特許文献1とは原理は異なるが、検査対象物の表面形状を求める技術として、特許文献2が知られている。特許文献2には、検査対象物の表面にレーザ光を収束して照射し、反射点からの反射光をハーフミラーで2分岐し、分岐した反射光を2個のPSDで個別に受光し、各PSDからの検知信号から光線追跡を行い、反射点の位置及び角度を算出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−32669号公報
【特許文献2】特開2010−85395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2のいずれの手法も、ポリゴンミラーを用いてレーザ光が機械的に走査されている。このような機械的な走査は振動要素の原因となり、測定精度の悪化を招来し、かつ、装置の寿命を短くする。
【0011】
本発明の目的は、照明光を機械的に走査せずに測定対象物の表面形状を精度良く求めることができる三次元形状計測装置及び三次元形状計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明による三次元形状計測装置は、測定対象物の表面形状を測定する三次元形状計測装置であって、複数の光源を含み、前記測定対象物に対して複数方向から照明光を照射する照明部と、前記複数の光源を順次に点灯させる点灯制御部と、前記測定対象物を撮像し、前記測定対象物の画像データを取得する撮像部と、各光源が点灯される毎に、前記測定対象物の画像データを前記撮像部に取得させる撮像制御部と、前記撮像部を構成する各画素について、輝度値が最大となる画像データを、前記撮像部により取得された全画像データ中から特定する画像データ特定部と、前記画像データ特定部により特定された各画像データにつき、各画像データを取得する際に点灯された光源位置を特定し、特定した各光源位置の位置を基に、各画素に対応する前記測定対象物の各測定位置の傾きを算出する傾き算出部と、前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きを基に、各測定位置の高さを算出し、前記測定対象物の表面形状を算出する表面形状算出部とを備える。
【0013】
この構成によれば、複数の光源を順次に点灯することで、測定対象物に対して複数方向から照明光が照射される。そして、光源が点灯される毎に、測定対象物の画像データが取得される。そして、撮像部の各画素につき輝度値が最大の画像データが特定される。
【0014】
ここで、各光源は固定されているため、各画像データと、各画像データを取得する際に点灯された光源位置とを紐付けることができる。また、ある画素において、輝度値を最大とする光源からの照明光は、その画素に対応する測定対象物の測定位置での正反射光の入射光を表す。そして、この正反射光は撮像部に入射されるため、輝度値を最大とする光源位置が分かれば、この光源位置と撮像部の位置との関係から、測定位置における法線が分かり、この法線から測定位置における傾きが分かる。これにより、測定対象物の表面の傾きの分布が得られ、測定対象物の表面形状を得ることができる。
【0015】
したがって、本構成によれば、照明光の機械的な走査が不要となり、機械的な振動が発生せず、測定対象物の表面形状を精度良く測定することができる。また、機械的な振動が発生しないため、装置の寿命を長くすることができる。
【0016】
(2)前記照明部は、前記測定対象物を覆う半球状のフードを備え、前記複数の光源は、前記フードの内面に配置されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、半球状のフードの内面に光源が配置されているため、環境光等の不要な光により測定対象物が照射されることを防止することができる。また、フードの内側に光源を配置することで、複数の光源の配置が簡易となる。更に、フードが半球状であるため、各光源から測定対象物までの距離がほぼ等距離となり、輝度値を最大とする光源を正確に特定することができる。
【0018】
(3)前記測定対象物は、筋状の凹凸形状を持つ平板状の物体であり、前記表面形状算出部は、前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きから前記筋の長手方向に向く平行傾き成分を求め、各測定位置の前記平行傾き成分から各測定位置の高さを算出することが好ましい。
【0019】
測定対象物として筋状の凹凸形状を持つ平板状の物体を採用した場合、筋の長手方向とほぼ平行な方向に照射された照明光は測定対象物により正反射される可能性が高いが、筋の長手方向と直交する方向に照射された照明光は測定対象物により乱反射される可能性が高い。
【0020】
よって、各測定位置の傾きを筋の長手方向とほぼ平行な平行傾き成分と、筋の長手方向に直交する直交傾き成分とに分けた場合、平行傾き成分は直交傾き成分に比べて測定位置の傾きを正確に表すことができる。したがって、平行傾き成分のみを用いることで測定対象物の表面形状を精度良く算出することができる。
【0021】
(4)前記複数の光源は、前記筋の長手方向を向く照明光が、前記筋の長手方向と直交する方向に向く照明光よりも高密度となるように配置されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、筋の長手方向に向く照明光が密になるため、筋状の凹凸形状の物体を測定するにあたり重要となる平行傾き成分を精度良く求めることができ、各測定位置の高さを正確に求めることができる。また、直交方向に向く経線に配置される光源を疎にすることで、光源の個数を少なくすることができる。
【0023】
(5)前記表面形状算出部は、前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きから前記筋の長手方向を向く平行傾き成分と、前記筋の長手方向と直交する直交方向を向く直交傾き成分とを求め、各測定位置の前記平行傾き成分及び前記直交傾き成分から各測定位置の高さを算出することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、任意の形状を持つ物体を測定対象物として採用した場合において、測定対象物の表面形状を精度良く算出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、照明光を機械的な走査が不要となり、機械的な振動が発生せず、測定対象物の表面形状を精度良く測定することができる。また、機械的な振動が発生しないため、装置の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1による三次元形状計測装置のブロック図である。
【図2】Z軸方向から見た照明部の構成図である。
【図3】図2に示す光源の配置図である。
【図4】本発明の実施の形態による三次元形状計測装置の原理の説明図であり、(A)は本実施の形態による三次元形状計測装置の側面模式図であり、(B)は撮像部により撮像された画像データの模式図であり、(C)は(A)の点線で囲んだ部分の拡大図である。
【図5】表示部により表示された測定対象物の表面形状の一例を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態による三次元形状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2における三次元形状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3による光源の配置図である。
【図9】レーザ光源とPSDとを用いて、測定対象物の表面形状を求める原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1による三次元形状計測装置について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態1による三次元形状計測装置のブロック図である。図1に示すように三次元形状計測装置は、測定対象物の表面形状を測定するものであり、照明部10、撮像部20、制御部30、表示部40、及び画像メモリ50を備えている。
【0028】
本実施の形態では、測定対象物として筋状の凹凸形状を周期的に持つ平板状の物体を採用する。具体的には、測定対象物は、アルミや鉄等の金属を圧延することで得られた平板状の物体である。よって、筋状の凹凸形状は圧延する際に生じる圧延縞である。ここで、測定対象物は例えば一対の圧延ローラの間に金属を搬送させることによって得られる。したがって、筋は金属の搬送方向とほぼ平行な方向を長手方向とする凹凸形状を持つ。
【0029】
照明部10は、複数の光源を含み、測定対象物に対して複数方向から照明光を照射する。図2は、Z軸方向から見た照明部10の構成図である。Z軸は、測定対象物OBが載置される基準面と直交する。また、X軸及びY軸は共に直交する。また、X,Y,Z軸の原点をフード11の頂点OCの基準面への投影点であるフード11の中心OFとする(図4(A)参照)。本実施の形態では、測定対象物は、筋の長手方向がY方向を向くように、頂点OCの真下に載置される。
【0030】
照明部10は、所定長の直径を持つ半球状のフード11を備える。フード11の内面には、フード11の中心OFを中心として複数の光源LEが放射状に配置されている。
【0031】
光源LEは、例えば発光ダイオードにより構成され、配線コードを介して制御部30と電気的に接続され、点灯制御部31の制御の下、点灯及び消灯される。本実施の形態では、光源LEの個数をN個(例えば192個)とする。
【0032】
フード11は、頂点OCが測定対象物の中心の真上に位置し、かつ、測定対象物を覆うように配置される。もちろん、フード11の直径は測定対象物の全長よりも長い。このようにフード11の内面に光源LEを配置することで、各光源LEと測定対象物との距離をほぼ等距離とすることができる。また、フード11を設けることで、光源LEの配置が容易となる。また、フード11は半球状であるため、測定対象物が載置される基準面とで測定対象物を完全に遮光状態にすることができ、測定対象物に環境光等の光が照射されることを防止することができる。
【0033】
図3は、図2に示す光源LEの配置図である。フード11において、頂点OCから半径r0のほぼ円形の領域内には光源LEは配置されていない。これは、この円形の領域内に撮像部20が取り付けられるからである。なお、測定対象物の真上から照明光を照射してもこの照明光は測定対象物により正反射される可能性は低いため、この円形の領域内に光源LEを配置しなくても問題はない。これにより、フード11の全域に光源LEを配置する場合に比べて光源LEの個数を少なくすることができる。
【0034】
フード11の内面には頂点OCを中心として複数の経線Ltが設定されており、光源LEはこの経線Lt上に配置されている。図3の例では経線Ltは頂点OCを中心として15度間隔で設定されている。よって、光源LEは方位角φが15度間隔で配置されている。
【0035】
頂点OCの基準面への投影点(フード11の開口面の中心)をフード11の中心OFとすると、各経線Ltにおいて、光源LEは中心OFを中心として所定の角度間隔(図3の例では7.5度)で配置されている。なお、図3において、頂点OCから外側に向かうにつれて光源LEが密になっているのは、半球状のフード11を内側から見ているからである。
【0036】
本実施の形態では、光源LEの光源位置は方位角φと仰角θとで規定される。方位角φは、Z軸方向から見て、光源LEが配置された経線LtとX軸とのなす角度である。仰角θは、光源LE及び中心OFを繋ぐ直線と、Z軸とがなす角度である(図4(A)参照)。
【0037】
図1に戻り、撮像部20は、例えば、複数の画素が所定行×所定列でマトリックス状に配列されたエリアセンサを備え、測定対象物をZ方向から撮像し、測定対象物の画像データを取得する。具体的には、図4(A)に示すように、エリアセンサ21は、受光面がZ方向と直交するように筐体22の内部に配置されている。その他、撮像部20は、測定対象物の光像をエリアセンサ21に結像する光学系(図略)等を含んでいる。ここで、撮像部20は、画像データを取得する際に点灯された光源LEを特定する光源番号と画像データとを対応付けて画像メモリ50に記憶させる。
【0038】
図1に戻り、制御部30は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータ、或いは専用のハードウェア回路から構成され、三次元形状計測装置の全体制御を司る。本実施の形態では、制御部30は、点灯制御部31、撮像制御部32、画像データ特定部33、傾き算出部34、表面形状算出部35、及び表示制御部36を備えている。
【0039】
点灯制御部31は、光源LEを順次に1個ずつ点灯させる。ここで、光源LEの点灯順序は予め定められており、点灯制御部31は、この点灯順序に従って光源LEを順次に点灯する。
【0040】
撮像制御部32は、各光源LEが点灯される毎に、測定対象物の画像データを撮像部20に取得させ、取得させた画像データを画像メモリ50に記憶させる。本実施の形態では、192個の光源LEがあるため、撮像部20により192枚の画像データが取得される。
【0041】
画像データ特定部33は、エリアセンサ21を構成する各画素につき、輝度値が最大となる1枚の画像データを、撮像部20により取得された全画像データ中から特定する。
【0042】
傾き算出部34は、画像データ特定部33により特定された各画像データにつき、各画像データを取得する際に点灯された光源LEの位置を特定し、特定した各光源LEの位置を基に、各画素に対応する測定対象物の各測定位置の傾きを算出する。
【0043】
図4は、本発明の実施の形態による三次元形状計測装置の原理の説明図であり、(A)は本実施の形態による三次元形状計測装置の側面模式図であり、(B)は撮像部20により撮像された画像データの模式図であり、(C)は(A)の点線で囲んだ部分の拡大図である。
【0044】
図4(B)に示すように、画像データは例えば左上の頂点が原点とされ、水平方向にm軸が設定され、垂直方向にn軸が設定されている。図4(B)に示す画像データは、ある画素G(m,n)の輝度値を最大とする画像データである。図4(B)に示す画像データにはiの光源番号が対応付けられており、この画像データを取得する際に点灯された光源LE(i)が図4(A)で示されている。
【0045】
画素G(m,n)の輝度値が最大になるとき、光源LE(i)の正反射光が撮像部20に入射する。よって、図4(C)に示すように、光源LE(i)から照射された照明光L1(i)は測定対象物OBの表面の測定位置APで正反射され、Z軸と平行な反射光L2(i)となって撮像部20に入射する。反射光L2(i)のエリアセンサ21の受光面での到達位置は画素G(m,n)であるため、画素(m,n)は測定位置APに対応している。
【0046】
光源LE(i)の方位角をφ(i)、仰角をθ(i)とする。U軸は、中心OFを通り、X軸とφ(i)の角度をなす直線である。したがって、図4(A)に示す測定対象物OBの形状はU軸で切った断面を示している。
【0047】
図4(C)に示すように、照明光L1(i)は、測定位置APで正反射されて反射光L2(i)となるため、θ(i)の2等分線LM(i)は、測定位置APにおけるU軸方向の接線SLと直交する。よって、接線SLの基準面RSに対する傾きψ(i)は、ψ(i)=θ(i)/2で表される。したがって、画素G(m,n)に対応する測定位置APの傾きψ(i)はψ(i)=θ(i)/2と算出される。そして、この処理をエリアセンサ21を構成する全画素について行うと、各画素に対応する測定位置APの傾きを得ることができる。
【0048】
図1に戻り、表面形状算出部35は、傾き算出部34により算出された各測定位置APの傾きを基に、各測定位置APの高さを算出し、測定対象物OBの表面形状を算出する。
【0049】
本実施の形態では、表面形状算出部35は、式(1)を用いて各測定位置APの傾きから傾き成分ψ_X(i)(直交傾き成分の一例)と傾き成分ψ_Y(i)(平行傾き成分の一例)とを求める。
【0050】
ψ_X(i)=−tan(θ(i)/2)・cosφ
ψ_Y(i)=−tan(θ(i)/2)・sinφ (1)
図4(A)に示すように、傾き算出部34が求める傾きψ(i)は、U軸における傾きである。また、U軸とX軸とのなす角度はφ(i)であり、X軸とY軸とは直交している。よって、傾き成分ψ_X(i)と傾き成分ψ_X(i)とは式(1)で表される。
【0051】
ここで、ψ_X(i),ψ_Y(i)は、測定位置AP毎に求められ、各測定位置APは各画素G(m,n)に対応しているため、エリアセンサの座標(m,n)を用いて、ψ_X(m,n),ψ_Y(m,n)と表すこともできる。以下、必要に応じて(m,n)を用いてψ_X(i),ψ_Y(i)を表す。
【0052】
次に、表面形状算出部35は、各測定位置APについて、式(1)を用いて傾き成分ψ_X(m,n)と、傾き成分ψ_Y(m,n)とを求める。そして、表面形状算出部35は、例えば、(m,n)=(0,0)の画素G(0,0)の高さH(0,0)を予め定められた高さ(例えば0)に設定する。そして、式(1)で求めた傾き成分ψ_X(0,0)と、予め定められたX成分の画素分解能ΔXと、高さH(0,0)とを用いて、式(2)に示すように、(m,n)=(1,0)における高さH(1,0)を求める。
【0053】
H(1,0)=H(0,0)+ψ_X(0,0)・ΔX (2)
次に、表面形状算出部35は、式(2)で求めたH(1,0)から式(2)´を用いて、H(1,0)に対してm軸に隣接する画素G(2,0)の高さH(2,0)を求める。
【0054】
H(2,0)=H(1,0)+ψ_X(1,0)・ΔX (2)´
以後、表面形状算出部35は、H(3,0),H(4,0),H(5,0)・・・というようにして、n=0の行における高さH(m,0)を順次に求めていく。
【0055】
そして、表面形状算出部35は、n=0の行における高さH(m,0)を全て算出すると、式(1)で求めた傾き成分ψ_Y(0,0)と、予め定められたY成分の画素分解能ΔYと、高さH(0,0)とを用いて、式(3)に示すように、(m,n)=(0,1)における高さH(0,1)を求める。
【0056】
H(0,1)=H(0,0)+ψ_Y(0,0)・ΔY (3)
そして、表面形状算出部35は、n=0の行と同様にして、H(1,1),H(2,1),H(3,1)・・・というようにして、n=1の行における高さH(m,1)を順次に求めていく。
【0057】
このようにして、表面形状算出部35は、1行ずつ(m,n)に対応する高さH(m,n)を順次に求めていき、測定対象物OBの表面の全ての測定位置APの高さH(m,n)を算出する。
【0058】
表示制御部36は、表面形状算出部35により算出された各測定位置APの高さH(m,n)を用いて、測定対象物OBの表面形状を3次元的に示す3次元モデルを仮想3次元空間内に生成する。そして、表示制御部36は、仮想3次元空間の仮想カメラ及び仮想光源の位置情報を用いて3次元モデルをレンダリングし、得られた2次元の画像データをフレームバッファに書き込み表示部40に表示させる。なお、表示制御部36は、仮想カメラ及び仮想光源の位置情報をユーザに設定させ、様々な視線から見たときの測定対象物OBの表面形状を表示部40に表示するようにしてもよい。
【0059】
表示部40は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置により構成され、表示制御部36により生成された2次元の画像データを表示する。画像メモリ50は、例えばハードディスク等の不揮発性の記憶装置により構成され、撮像部20により撮像された画像データを記憶する。
【0060】
図5は、表示部40により表示された測定対象物OBの表面形状の一例を示した図である。図5に示すように、測定対象物OBは筋状の凹凸形状が周期的に繰り返された形状を持つことが分かる。この凹凸形状は、測定対象物OBを圧延する際に生成されたものである。また、図面の中央部の円形で囲んだ領域KZに筋の乱れが生じている。この筋の乱れは圧延疵であり、本実施の形態のよる三次元形状計測装置はこの圧延疵を検出することを目的としている。これにより、ユーザは一目で圧延疵を確認することができ、測定対象物OBの異常部分を検出することができる。
【0061】
図6は、本発明の実施の形態による三次元形状計測装置の動作を示すフローチャートである。このフローチャートが実行される前に、まず、ユーザにより基準面に測定対象物OBが載置され、その中心の真上にフード11の頂点OCが位置するように照明部10が基準面に載置される。そして、ユーザにより図略の操作部を介して測定開始の指示が入力され、下記の処理が実行される。
【0062】
ステップS1において、光源番号iが初期値である1に設定される。本実施の形態では、光源LEは所定の点灯順序に従って点灯されるため、各光源LEには点灯順序に応じた光源番号が予め付与されている。
【0063】
点灯順序としては、種々の順序を採用することができるが、点灯制御の簡便化の観点からは、隣接する光源LEを順次に点灯していくことが好ましい。例えば、図3において、まず、方位角φ=0である光源LEを、仰角θ=−90度から+90度の範囲で順番に点灯させ、次に、方位角φ=15度の光源LEを、仰角θ=−90度から+90度の範囲で順番に点灯させるというような点灯順序を採用すればよい。
【0064】
次に、点灯制御部31は、光源LE(i)を点灯させる(ステップS2)。これにより、測定対象物OBは光源LE(i)からの照明光が照射される。次に、撮像制御部32は、照明光が照射された測定対象物OBを撮像部20に撮像させ、1枚の画像データD(i)を取得する(ステップS3)。
【0065】
次に、撮像制御部32は、画像データD(i)を光源LE(i)の方位角φ(i)と仰角θ(i)と対応付けて画像メモリ50に記憶させる(ステップS4)。ここで、撮像制御部32は、光源番号iと方位角φ(i)及び仰角θ(i)との関係を予め記憶しておき、この関係を用いて画像データD(i)に対応付ける方位角φ(i)及び仰角θ(i)を定めればよい。
【0066】
次に、点灯制御部31は、光源番号iがN(=192)より大きいか否かを判定し、i>Nの場合(ステップS5でYES)、処理をステップS7に進める。一方、点灯制御部31は、i≦Nの場合(ステップS5でNO)、光源番号iを1インクリメントさせ(ステップS6)、処理をステップS2に戻す。つまり、点灯制御部31は、N個の全ての光源LEが点灯されるまで、ステップS2〜S6の処理を繰り返し、1個の光源LEが点灯される毎に撮像部20に1枚の画像データD(i)を撮像させる。そして、N個の全ての光源LEが点灯され、N枚の画像データD(i)が得られると、処理をステップS7に進める。
【0067】
次に、画像データ特定部33は、エリアセンサ21を構成する全画素G(m,n)のそれぞれにつき、輝度値を最大とする1枚の画像データD(i)をN枚の画像データD(i)の中から特定する(ステップS7)。次に、傾き算出部34は、ステップS7で特定された画像データD(i)に対応付けられた方位角φ(i)及び仰角θ(i)を特定する(ステップS8)。これにより、各画素G(m,n)に対応する各測定位置APにおいて正反射される照明光の方位角φ(i)及び仰角θ(i)が特定される。
【0068】
次に、傾き算出部34は、ステップS8で各測定位置APに対して特定された仰角θ(i)を2で割り、図4(C)に示すように、各測定位置APの傾きψ(i)を算出する(ステップS9)。これにより、各画素G(m,n)に対応する測定位置APの傾きψ(m,n)が得られ、測定対象物OBの表面の傾きの分布が得られる。
【0069】
次に、表面形状算出部35は、ステップS9で求めた傾きψ(m,n)から、上記の式(1)を用いて、傾き成分ψ_X(m,n)と傾き成分ψ_Y(m,n)を求める(ステップS10)。
【0070】
次に、表面形状算出部35は、上記の式(2)、(3)等を用いて、各測定位置APの高さH(m,n)を順次に求める(ステップS11)。
【0071】
このように、本実施の形態によれば、フード11の内面に放射状に配置された光源LEを順次に点灯させることで、照明光の方向が切り替えられている。そのため、照明光の機械的な走査が不要となり、機械的な振動が発生せず、測定対象物の表面形状を精度良く測定することができる。また、機械的な振動が発生しないため、装置の寿命を長くすることができる。
【0072】
(実施の形態2)
実施の形態2による三次元形状計測装置は、傾き成分ψ_Y(m,n)のみ用いて、高さH(m,n)を算出することを特徴とする。なお、本実施の形態において、実施の形態1と同一のものは説明を省略する。
【0073】
図7は、本発明の実施の形態2における三次元形状計測装置の動作を示すフローチャートである。ステップS21〜S29の処理は、図6のステップS1〜S9と同一であるため、説明を省略する。
【0074】
ステップS30において、表面形状算出部35は、実施の形態1と同様にして、測定対象物OBの筋の長手方向を向かう、Y方向の傾き成分ψ_Y(m,n)のみ算出し、ψ_X(m,n)を算出しない。つまり、表面形状算出部35は、ψ_Y(i)=−tan(θ(i)/2)・sinφを用いてψ_Y(m,n)を算出する。
【0075】
次に、表面形状算出部35は、ステップS30で求めたψ_Y(m,n)を用いて各測定位置APの高さH(m,n)を算出する(ステップS31)。
【0076】
ここで、表面形状算出部35は、例えば、一番上の行であるn=0の行の各位置の高さH(m,0)を予め定められた高さ(例えば0)に設定する。そして、ステップS30で求めたm=0の列の各位置の傾き成分ψ_Y(0,n)と、予め定められたY成分の画素分解能ΔYと、高さH(0,0)とを用いて、下記の式に示すように、m=0の列の各位置の高さH(0,n)をn=1から下方に向けて順番に求める。
【0077】
H(0,1)=H(0,0)+ψ_Y(0,0)・ΔY
H(0,2)=H(0,1)+ψ_Y(0,1)・ΔY
・・・
そして、表面形状算出部35は、m=0の列の各位置の高さH(0,n)を算出すると、下式に示すように、m=1の列の各位置の高さH(1,n)をn=1から下方に向けて順番に算出する。
【0078】
H(1,1)=H(1,0)+ψ_Y(1,0)・ΔY
H(1,2)=H(1,0)+ψ_Y(1,0)・ΔY
・・・
以降、任意のmの列について下記の式を用いて、n=1から順番に各位置の高さH(m,1),H(m,2),・・・を求めていく。
【0079】
H(m,1)=H(m,0)+ψ_Y(m,0)・ΔY
H(m,2)=H(m,1)+ψ_Y(m,1)・ΔY
・・・
以上により測定対象物OBの表面の全測定位置APの高さH(m,n)が得られ、測定対象物OBの表面形状が算出される。
【0080】
測定対象物OBとして筋状の凹凸形状を持つ平板状の物体を採用した場合、筋の長手方向とほぼ平行な方向に照射された照明光は測定対象物OBにより正反射される可能性が高いが、筋の長手方向と直交する方向に照射された照明光は測定対象物OBにより乱反射される可能性が高い。
【0081】
よって、各測定位置APの傾きを筋の長手方向とほぼ平行なY軸方向の傾き成分ψ_Y(m,n)と、長手方向に直交するX軸方向の傾き成分ψ_X(m,n)とに分けた場合、傾き成分ψ_Y(m,n)は傾き成分ψ_X(m,n)に比べて各測定位置APの傾きを正確に表すことができる。したがって、傾き成分ψ_Y(m,n)のみを用いることで測定対象物OBの表面形状を精度良く算出することができる。
【0082】
また、本実施の形態では、傾き成分ψ_X(m,n)を算出することが不要となるため、計算コストの削減を図ることができる。つまり、本実施の形態では、計算コストを削減するという効果と、測定精度を向上するという効果との相反する効果を両立させることができる。
【0083】
(実施の形態3)
実施の形態3による三次元形状計測装置は、測定対象物OBの長手方向であるY軸方向に向く照明光が、X軸方向に向く照明光よりも高密度となるように光源LEを配置したことを特徴とする。図8は、本発明の実施の形態3による光源LEの配置図である。図8は、フード11を内側から見たときの光源LEの配置を示している。
【0084】
図8の例では、Y軸上の経線Lt(0)と、経線Lt(0)と頂点OCに対する角度が例えば15度である経線Lt(1),Lt(−1)と、経線Lt(0)と頂点OCに対する角度が例えば30度である経線Lt(2),Lt(−2)とのそれぞれにおいて、同数の光源LEが配置されている。また、X軸上の経線Lt(X)において、経線Lt(1)と同数の光源LEが配置されている。
【0085】
ここで、筋の長手方向を向く照明光とは、光軸が頂点OCを中心としてY軸から±45度の範囲内にある照明光が該当する。また、直交方向を向く照明光とは、光軸が頂点OCを中心としてX軸を中心に±45度の範囲内にある照明光が該当する。
【0086】
こうすることで、筋の長手方向に向く照明光が密となるため、筋状の凹凸形状を持つ測定対象物OBを測定するにあたり重要となる傾き成分ψ_Y(m,n)を精度良く求めることができ、各測定位置APの高さH(m,n)を正確に求めることができる。一方、X軸方向に向く経線Ltに配置された光源LEの個数を少なくすることができるため、装置の簡便化及び低コスト化を図ることができる。
【0087】
なお、本実施の形態においては、各経線Ltに配置される光源LEの個数を同じにしたが、これに限定されず、例えば、Y軸に向かうにつれて光源LEの密度を増大させてもよい。例えば、図8において、経線Lt(0)が最も高密度、経線Lt(1),Lt(−1)が次に高密度、経線Lt(2),Lt(−2)のその次に高密度となるように、光源LEを配置すればよい。また、経線Lt(X)上に配置された光源の個数を0にしてもよい。但し、この場合、領域D2に属する光源LEの個数が0となってしまい、X軸方向に向かう照明光の成分が0になってしまい、測定精度が落ちることが懸念される。そのため、図8の例では、1本の経線Lt(X)のみに光源LEを配置している。
【0088】
なお、実施の形態3では、光軸がY軸方向に向かう照明光が密となるため、傾き成分ψ_Y(m,n)は精度良く算出できるが、光軸がX軸方向に向かう照明光が疎となるため、傾き成分ψ_X(m,n)の精度が悪化する虞がある。したがって、実施の形態3の光源LEの配置を採用する場合、実施の形態2に示す傾き成分ψ_Y(m,n)のみ用いて各測定位置APの高さH(m,n)を求めることが好ましい。つまり、実施の形態3と実施の形態2とを組み合わせることで、実施の形態2において、光源LEの個数を削減するという効果を得ることができる。
【0089】
なお、実施の形態1〜3において、測定対象物OBとして、筋状の凹凸形状を周期的に持つ物体を採用したが、本発明はこれに限定されず、任意の形状を持つ物体を採用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 照明部
11 フード
20 撮像部
21 エリアセンサ
22 筐体
30 制御部
31 点灯制御部
32 撮像制御部
33 画像データ特定部
34 傾き算出部
35 表面形状算出部
36 表示制御部
40 表示部
50 画像メモリ
AP 測定位置
D1 領域
D2 領域
G 画素
L1 照明光
L2 反射光
LE 光源
Lt 経線
OB 測定対象物
OC 頂点
θ 仰角
ψ 傾き
ψ_X 傾きのX成分
ψ_Y 傾きのY成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面形状を測定する三次元形状計測装置であって、
複数の光源を含み、前記測定対象物に対して複数方向から照明光を照射する照明部と、
前記複数の光源を順次に点灯させる点灯制御部と、
前記測定対象物を撮像し、前記測定対象物の画像データを取得する撮像部と、
各光源が点灯される毎に、前記測定対象物の画像データを前記撮像部に取得させる撮像制御部と、
前記撮像部を構成する各画素について、輝度値が最大となる画像データを、前記撮像部により取得された全画像データ中から特定する画像データ特定部と、
前記画像データ特定部により特定された各画像データにつき、各画像データを取得する際に点灯された光源位置を特定し、特定した各光源位置を基に、各画素に対応する前記測定対象物の各測定位置の傾きを算出する傾き算出部と、
前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きを基に、各測定位置の高さを算出し、前記測定対象物の表面形状を算出する表面形状算出部とを備える三次元形状計測装置。
【請求項2】
前記照明部は、前記測定対象物を覆う半球状のフードを備え、
前記複数の光源は、前記フードの内面に配置されている請求項1記載の三次元形状計測装置。
【請求項3】
前記測定対象物は、筋状の凹凸形状を持つ平板状の物体であり、
前記表面形状算出部は、前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きから前記筋の長手方向に向く平行傾き成分を求め、各測定位置の前記平行傾き成分から各測定位置の高さを算出する請求項1又は2記載の三次元形状計測装置。
【請求項4】
前記複数の光源は、前記筋の長手方向を向く照明光が、前記筋の長手方向と直交する方向に向く照明光よりも高密度となるように配置されている請求項3記載の三次元形状計測装置。
【請求項5】
前記表面形状算出部は、前記傾き算出部により算出された各測定位置の傾きから前記筋の長手方向を向く平行傾き成分と、前記筋の長手方向と直交する直交方向を向く直交傾き成分とを求め、各測定位置の前記平行傾き成分及び前記直交傾き成分から各測定位置の高さを算出する請求項1又は2記載の三次元形状計測装置。
【請求項6】
測定対象物の表面形状を測定する三次元形状計測方法であって、
複数の光源を含む照明部が、前記測定対象物に対して複数方向から照明光を照射する照明ステップと、
撮像部が、各光源が点灯される毎に、前記測定対象物の画像データを前記撮像部に取得する撮像ステップと、
前記画像データを構成する各画素について、輝度値が最大となる画像データを、前記撮像ステップにより取得された全画像データ中から特定する画像データ特定ステップと、
前記画像データ特定ステップにより特定された各画像データにつき、各画像データを取得する際に点灯された光源位置を特定し、特定した各光源位置と撮像部の位置とを基に、各画素に対応する前記測定対象物の各測定位置の傾きを算出する傾き算出ステップと、
前記傾き算出ステップにより算出された各測定位置の傾きを基に、各測定位置の高さを算出し、前記測定対象物の表面形状を算出する表面形状算出ステップとを備える三次元形状計測方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−154684(P2012−154684A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12051(P2011−12051)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】