説明

中空シャフト

【課題】 強度面および転造加工性またはプレス加工性が向上し、これによって、軽量化、加工負荷低減、コスト低減等が可能な中空シャフトを提供する。
【解決手段】 スプライン3を有する中空シャフトである。成形後の内径が成形前の内径よりも小さいスプライン下径15を塑性加工にて成形する。スプライン下径15の肉厚を成形前後で略同一とする。塑性加工がスウェージング加工であったり、アプセット加工であったりする。塑性加工を冷間で実施しても、熱間で実施してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空シャフトに関し、詳しくは、自動車の等速ジョイント等に使用される中空シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の中空シャフトは、回転運動を伝達する機能を有し、伝達部材との連結手段にスプラインが使用される。すなわち、シャフトの端部にスプラインが形成される。このような中空シャフトのスプラインは、プレス加工や転造加工等にて形成される(特許文献1参照)。
【0003】
転造加工またはプレス加工によってスプラインを形成する場合、転造加工またはプレス加工する前に、スプラインを形成する部位において、その径(外径)をスプライン下径に切削加工する必要があった。すなわち、図6(a)(b)に示すように、スプラインを形成する前のシャフト(以後、中空素材と呼ぶ)50の端部51外周面を切削加工にて、スプライン下径52を形成する。
【0004】
そして、このスプライン下径52において、転造加工またはプレス加工にてスプラインを形成する。ここで、スプラインとは、周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向凸部と、軸方向凸部間に配設される複数の軸方向凹部とからなる。転造加工は、一対のダイスを使用し、このダイス間に中空素材50を介在させ、ダイスを回転させてスプラインを成形する加工である。プレス加工は、中空素材50をダイスに軸方向に押し込んでスプラインを成形する加工である。
【特許文献1】特開2001−121241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
小径部からなるスプライン下径を切削加工で成形すると、小径部を成形する前に比べて、スプライン下径52の肉厚T2が小さく(薄く)なる。すなわち、切削加工後の外径dは切削加工前の外径Dよりも小さく、切削加工後の内径D2と切削加工前の内径D1とは同一であり、スプライン下径52の肉厚T2が切削加工前の肉厚T1よりも小さくなっている。
【0006】
スプライン下径52の肉厚Tが薄くなれば、スプライン下径52は強度的に劣り、スプラインを形成する際の転造加工性またはプレス性が悪くなる。すなわち、肉厚が薄いと転造加工またはプレス加工時に肉が内径側に逃げて精度が落ちたり、転造割れが発生するからである。
【0007】
中空素材50には、図7(a)に示すように、ファイバーフロー(繊維状金属組織)54があり、切削加工では、図7(b)のように、A部において、ファイバーフロー54が切断されることになる。このように、ファイバーフロー54が切断されれば、強度低下に一層繋がることになる。なお、A部とは、スプライン下径52と、非スプライン下径(大径部)53との境界部分をいう。
【0008】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、強度面および転造加工性またはプレス加工性が向上し、これによって、軽量化、加工負荷低減、コスト低減等が可能な中空シャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、端部外径にスプラインが形成されたスプライン形成部を有する中空シャフトにおいて、前記スプライン加工の前加工が、塑性加工により成形され、その成形後の内径が成形前の内径よりも小さい小径部とし、かつその肉厚を成形前後で略同一としたものである。
【0010】
スプライン下径の肉厚を成形前後で略同一としたので、従来のように切削加工にてスプライン下径を成形した場合に比べて、その肉厚を大きくでき、スプライン下径の強度が向上する。強度が向上するので、転造加工またはプレス加工時に肉が内径側に逃げることを防止できる。スプライン下径を塑性加工にて成形するので、切削加工と異なってファイバーフロー(繊維状金属組織)が切断されない。しかも塑性加工であるので、その塑性変形によって被加工面が加工硬化する。
【0011】
強度面や転造加工性またはプレス加工性に優れるので、このため、中空素材(素管)の肉厚や外径を小さくして軽量化を図ることができる。
【0012】
また、前記塑性加工がスウェージング加工であったり、アプセット加工であったりする。
【0013】
前記塑性加工を冷間で実施しても、熱間で実施してもよい。
【0014】
前記のように成形された中空シャフトとして、固定側ジョイントと摺動側ジョイントと連結する中空シャフトに適用するが、中空ステムや中空ロングステムに適用しても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スプライン下径の強度が向上する。また、強度が向上するので、転造加工またはプレス加工時に肉が内径側に逃げることを防止でき、転造加工性またはプレス加工性が向上する。このため、高精度スプラインを形成することができ、安定したスプライン係合(嵌合)が可能となる。
【0016】
また、切削加工と異なってファイバーフロー(繊維状金属組織)が切断されず、むしろ密になる。このため、強度が一層向上する。しかも塑性加工であるので、その塑性変形によって被加工面が加工硬化し、一層の強度の強化を図ることができる。
【0017】
強度面や転造加工性またはプレス加工に優れるので、中空素材(素管)の肉厚や外径を小さくして軽量化や加工負荷軽減を図ることができる。さらに、設計自由度が向上し、コスト低減も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る中空シャフトの実施形態を以下に詳述する。図1に示す中空シャフト1は、例えば、自動車のドライブシャフトに使用される。このため、両端部に等速自在継手(図示省略)が連結される。中空シャフト1は、軸方向中間部が大径部2に形成されると共に、両端部の外周側にはスプライン3、4が形成されている。なお、一端側のスプライン3と大径部2との間には、小径部5と中径部6等が形成されている。また、他端側のスプライン4と大径部2との間には、小径部7等が形成されている。
【0019】
前記各スプライン3、4は、周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向凸部と、軸方向凸部間に配設される複数の軸方向凹部とからなる。一端側のスプライン3に例えば固定式等速自在継手(図示省略)が装着され、他端側のスプライン4に例えば摺動式等速自在継手(図示省略)が装着される。一端側においては、スプライン3の軸方向範囲内、この中空シャフト1が固定式等速自在継手に装着された際に、抜け止めとなる止め輪の嵌合用の周方向溝8が形成されている。他端側においては、そのスプライン4の軸方向範囲外(反大径部側)に周方向溝9が形成されている。
【0020】
次にスプライン3、4の成形方法を説明する。まず、両端部にスプライン3、4が形成されていない中空素材10を図2に示すように形成する。すなわち、端部にその外周面にスプライン3、4を形成するための端部中径部11、12を設けた中空素材10を形成する。なお、この中空素材10は、この端部中径部11、12以外は図1に示す完成品と同一形状とする。
【0021】
この場合、図3(a)に示すように、端部中径部11は、その内周面には段差が形成されていない筒状とされる。この図3(a)に示す状態から、図3(b)に示すように、スプライン下径15を塑性加工にて成形する。
【0022】
塑性加工法としてスウェージング加工やアプセット加工等を用いることができる。スウェージング加工とは、パイプ(中空体)の端部を絞って外径を減少させる加工法であり、アプセット加工とは、パイプの端を加熱したのち、ダイスとマンドレルの間で据え込み加工する方法である。
【0023】
このスプライン下径15は、その塑性加工後(成形後)の外径dが成形前の外径Dよりも小さく、成形後の内径D3が成形前の内径D1よりも小さくなっている。このため、スプライン下径15の肉厚T3は成形前の肉厚T1と略同一に維持されている。すなわち、肉厚T3は、成形前後で内径同一時のスプライン形成部の肉厚T2(図6(b)参照)よりも大きくなっている。
【0024】
そして、このようにスプライン下径15を形成した後は、転造加工またはプレス加工にてスプライン加工を行って、中空シャフト1を完成する。なお、前記では、一端側のスプライン3についてのみ説明したが、他端側のスプライン4についても同様であるので、その説明を省略する。転造加工は、一対のダイスを使用し、このダイス間に中空素材10を介在させ、ダイスを回転させてスプラインを成形する加工である。プレス加工は、中空素材10をダイスに軸方向に押し込んでスプラインを成形する加工である。
【0025】
この中空シャフトでは、スプライン下径15の肉厚T3を成形前後で略同一としたものである。このため、従来のように、切削加工にてスプライ下径を成形した場合よりも肉厚T3を大きくすることができ、スプライン下径15の強度が向上する。強度が向上するので、転造加工またはプレス加工時に肉が内径側に逃げることを防止でき、転造加工性またはプレス加工性が向上する。このため、高精度スプラインを形成することができ、安定したスプライン係合(嵌合)が可能となる。
【0026】
ところで、中空素材10には、図4(a)に示すように、ファイバーフロー(繊維状金属組織)14があり、このような塑性加工では、切削加工と相違してA部においても切断されず、むしろ密になる。このため、強度が一層向上する。しかも塑性加工であるので、その塑性変形によって被加工面が加工硬化し、一層の強度の強化を図ることができる。
【0027】
強度面や転造加工性またはプレス加工性に優れるので、中空素材(素管)10の肉厚や外径を小さくして軽量化や加工負荷軽減を図ることができる。さらに、設計自由度が向上し、コスト低減も期待できる。
【0028】
次に、図5は等速自在継手の外側継手部材16を示している。一般に、等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された前記外側継手部材16と、その外側継手部材16のトラック溝と対向するトラック溝が外周面に形成された内側継手部材と、外側継手部材16のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に組み込まれたボールと、外側継手部材16と内側継手部材間に介在してボールを支持する保持器とからなる。なお、外側継手部材16としてトリポード型ジョイント等の他のジョイントであってもよい。
【0029】
そして、外側継手部材16は、内側継手部材、ボールおよび保持器を収容した椀状のマウス部17と、そのマウス部17から軸方向に一体的に延びるステム(中空ステム)18を有する。この中空ステム(中空ロングステム)18の反マウス部側の端部に、スプライン19が形成されている。
【0030】
この図5に示すステム18のスプライン19も、前記図2と図3等に示す成形方法によって形成される。まず、図3に示した中空素材10と同様、端部に、スプライン19が形成されていない端部中径部を有する中空素材(図示省略)を形成する。この際、この中径部は、その内周面には段差が形成されていない筒状とされる。その後、図3(b)と同様、スプライン下径15を塑性加工にて成形する。
【0031】
このスプライン下径15も、図3に示すように、その塑性加工後(成形後)の外径dが成形前の外径Dよりも小さく、成形後の内径D3が成形前の内径D1よりも小さくなっている。このため、中空ステム18のための中空素材であっても、スプライン下径15の肉厚T3は成形前の肉厚T1と略同一に維持されている。すなわち、肉厚T3は、成形前後において内径同一時のスプライン下径の肉厚T2(従来の方法によって成形したスプライン下径の肉厚)よりも大きくなっている。
【0032】
そして、このようにスプライン下径15を形成した後は、転造加工またはプレス加工にてスプライン加工を行って、この中空ステム18が完成することになる。
【0033】
このため、この中空ステム18も、前記中空シャフト1と同一の作用効果を奏することができる。したがって、この中空ステム18を等速自在継手に使用することによって、等速自在継手は安定した機能を長期にわたって発揮することができる。
【0034】
なお、塑性加工として、冷間で行っても、熱間で行ってもよい。また、転造加工によって形成されるスプラインとして、その軸方向凸部および軸方向凹部の数等は任意に設定することができ、軸方向凸部および軸方向凹部の形状としても、装着される相手側に応じて種々変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る中空シャフトの実施形態を示す半裁断面図である。
【図2】スプライン下径加工の中空素材の半裁断面図である。
【図3】スプライン下径の成形方法を示し、(a)は成形前の簡略断面図であり、(b)は成形後の簡略断面図である。
【図4】ファイバーフローを示し、(a)は成形前の簡略断面図であり、(b)は成形後の簡略断面図である。
【図5】中空ステムの一部断面で示す全体図である。
【図6】従来のスプライン下径の成形方法を示し、(a)は成形前の簡略断面図であり、(b)は成形後の簡略断面図である。
【図7】従来におけるファイバーフローを示し、(a)は成形前の簡略断面図であり、(b)は成形後の簡略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
3、4、19 スプライン
15 スプライン下径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部外径にスプラインが形成されたスプライン形成部を有する中空シャフトにおいて、前記スプライン加工の前加工が、塑性加工により成形され、その成形後の内径が成形前の内径よりも小さい小径部とし、かつその肉厚を成形前後で略同一としたことを特徴とする中空シャフト。
【請求項2】
前記塑性加工がスウェージング加工であることを特徴とする請求項1に記載の中空シャフト。
【請求項3】
前記塑性加工がアプセット加工であることを特徴とする請求項1に記載の中空シャフト。
【請求項4】
前記塑性加工を冷間で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の中空シャフト。
【請求項5】
前記塑性加工が熱間で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の中空シャフト。
【請求項6】
等速自在継手の中空ステムに適用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の中空シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−75824(P2007−75824A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262664(P2005−262664)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】