説明

中空成形体およびその製造方法

【課題】FRPからなる第1の部材と、第2の部材とを強固に一体化することにより、軽量で力学特性に優れ、複雑形状の成形性と生産性を両立させることができる中空成形体を提供する。
【解決手段】第1の部材11と第2の部材12を一体化した中空成形体であって、少なくとも第1の部材は連続した強化繊維群14で強化された熱硬化性樹脂16を主成分とし、第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層13を有しており、熱可塑性樹脂層が強化繊維群の一部の強化繊維を包含してなることを特徴とする中空成形体、または、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とする第1の部材と、熱可塑性樹脂を主成分とする第2の部材とを一体化した中空成形体であって、第1の部材が面形状であり、成形体の少なくとも一つの面を形成し、第2の部材が第1の部材に対向する面を形成してなることを特徴とする中空成形体、およびそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を一体化することで中空形状を形成した中空成形体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、連続した強化繊維群で強化された繊維強化樹脂(FRP)を強固に一体化することで、軽量性、力学特性に優れ、かつ複雑形状の成形性と、生産性を両立させた中空成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維群で強化された繊維強化樹脂(FRP)は、航空機、自動車、二輪車、自転車などの輸送機器用途、テニス、ゴルフ、釣り竿などのスポーツ用途、耐震補強材などの建設構造物など、軽量性と力学特性が要求される構造体の材料として、頻繁に使用されている。
【0003】
とりわけFRPの中空成形体は、航空機構造体、車輌構造体、自動車部材、自転車クランク、気体や液体などを貯蔵あるいは搬送するためのタンクやパイプ、ゴルフシャフト、釣り竿、風車ブレードなど適用用途は非常に広い。
【0004】
ここで、中空成形体の中でも、例えばゴルフシャフトや圧力容器のように単純な形状で、開口部が比較的小さい中空成形体は、回転するライナーに、樹脂を含浸した強化繊維束を巻き付けた後に硬化させる、いわゆる強化繊維ワインディング法にて好適に製造できる。この製法は、比較的安価で生産性は高いものの、対象が回転体形状に限定されており、複雑な形状の用途に適用することは困難である。
【0005】
また、中空成形体の中でも、例えば自動車モノコックボディや、航空機構造材のようにある程度複雑な形状で大型の中空成形品は、繊維基材を金型に賦形して未硬化の樹脂を注入し、基材に含浸させた後に硬化させる、いわゆるレジントランスファーモールディング(RTM)成形法などで製造できる。特許文献1には、中子を使用して非円形断面形状の中空体を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法は大型成形品を少量製造するには適しているが、成形品を大量製造するには生産性が課題となる。
【0006】
そこで、非中空のFRP成形品や、開口部が比較的大きな中空のFRP成形品を複数接合して複雑形状の中空成形品を製造することも可能であるが、一般に公知の接着剤を使用すると、接着工程に要する工数とリードタイムがコストの増大と生産性低下に繋がり、何より接着強度が十分に発現できず、高強度・高剛性というFRPの特徴を損なうことが問題である。また、ボルト、ネジなどの機械接合法では、別途機械加工工程が必要であるだけでなく、デザイン上の制約があり適用が限定されること、何より軽量性というFRPの特徴を損なうことが問題である。
【特許文献1】国際公開第2000/18566号パンフレット(第39頁、第22行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、かかる従来技術に鑑み、FRPからなる第1の部材と、第2の部材とを強固に一体化することにより、軽量かつ力学特性に優れた中空成形体を提供することにある。さらには、接合強度に優れ、複雑形状の成形性と生産性とを両立できる接合方法を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る中空成形体は、少なくとも第1の部材と第2の部材の2つの部材を一体化することで中空形状を形成した中空成形体であって、前記部材のうち少なくとも第1の部材は連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とし、第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層を有しており、前記熱可塑性樹脂層が前記強化繊維群の一部の強化繊維を包含してなることを特徴とするものからなる(以下、第1発明と言うこともある)。
【0009】
また、本発明に係る中空成形体は、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とする第1の部材と、熱可塑性樹脂を主成分とする第2の部材とを一体化することで中空形状を形成した中空成形体であって、該第1の部材が面形状であり、成形体の少なくとも一つの面を形成し、該第2の部材が該第1の部材に対向する面を形成してなることを特徴とするものからなる(以下、第2発明と言うこともある)。
【0010】
さらに、本発明に係る中空成形体の製造方法は、上記のような中空成形体を製造するに際し、第1の部材と第2の部材とを、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、インサート射出成形、アウトサート射出成形から選択される少なくとも1つの方法にて一体化する方法からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る中空成形体は、FRPの成形体からなる第1の部材を、第2の部材と強固に一体化でき、それによって優れた軽量性、力学特性を備えることができる。また、複雑な形状にあっても、安価な方法で、生産性よく製造することができる。したがってこれら中空成形体は、タンク、パイプ、風車ブレード、自動車部材、自転車クランクなどの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の中空成形体およびその製造方法について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明の中空成形体とは、中空形状をなす構造体である。中空形状とは、殻形状、鼓形状、筒形状のような、実質的に内部空間を有する形状を意味する。その内部空間の形状には特に制限はなく、例えば内部にリブや、ボスなどがあってもよく、さらに間仕切りなどでいくつかの空間に分けられていてもよく、内部空間と外部空間を繋ぐ開口部を設けていてもよい。開口部は、人や人の手が出入りしたり、荷物を出し入れしたり、穀物や液体、気体などを内部に収納するための出入口などに利用することができる。
【0013】
内部空間の大きさについても特に制限はないが、内容物の収納や移動、また内部空間を意図的に有効機能させたり、成形品の比重を低減するために厚肉化する観点から、中空成形体における中空部の最大厚みは10mm以上が好ましく、20mm以上がさらに好ましい。ここで、中空部の厚みとは、第1の部材と第2の部材によって形成される内部空間のうち、成形品の形状を代表する最大面と、該面に対向するように配置されてなる面で挟まれてた高さを意味する。これは、成形品の厚みから、それぞれの部材の厚みを差し引くことで確認してもよい。また複数の空間高さを有する場合は、空間高さの最大となる長さを、最大厚みと定義する。
【0014】
本発明の中空成形体の外形にも特に制限はないが、回転体形状よりも、非回転体形状である方が、より多様な用途に適用できる点で好ましい。なお、ここでの非回転体形状とは左右対称、上下対称のものも含まれる。
【0015】
本発明の中空成形体は、少なくとも2つの部材を一体化することで、上記中空形状を形成させるものである。中空形状の形成方式については特に制限はなく、例えば、上下もしくは左右に2つのコの字部材を合わせてもよいし、平面部材および曲面部材を複数個繋ぎあわせてもよいし、中空形状内部に梁を形成させてもよいし、また箱状部材に天蓋を形成させてもよい。
【0016】
さらには、内部空間に、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、フェノールフォーム、ユリアフォーム、ポリ塩化ビニルフォーム、シリコンフォーム、エポキシフォーム、ポリイミドフォーム、ポリエステルフォーム、メラミンフォーム、繊維状物質からなる発泡構造体などの軽量発泡材を配置してもよい。
【0017】
ここで本発明に係る中空成形体の一実施態様を、図1を用いて説明する。中空成形体は、第1の部材1と第2の部材2から構成されている。
【0018】
本第1発明の中空成形体は、該部材のうち少なくとも第1の部材は連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とし、第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層を有しており、該熱可塑性樹脂層が該強化繊維群の一部の強化繊維を包含してなる中空成形体である。図2に、第1の部材3と第2の部材4との接合部分の例を、断面を拡大した図として示す。図2は、走査型電子顕微鏡写真を用いて撮影して得られた写真に基づき作成された図である。図2において、第1の部材3は、多数の連続した強化繊維5a、5bと、熱硬化性樹脂6が主成分である。そして第2の部材4との接合部分において熱可塑性樹脂層7を有しており、この熱可塑性樹脂層7が一群の(一部の)強化繊維5bを包含している。ここで、熱可塑性樹脂層7は、熱硬化性樹脂6とその界面で凸凹形状を有して一体化していることが好ましい。
【0019】
本第2発明の中空成形体は、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とする第1の部材と、熱可塑性樹脂を主成分とする第2の部材とを一体化することで中空形状を形成した中空成形体である。第2の部材が熱可塑性樹脂で構成されることで、加熱溶着が可能であるだけでなく、ボス、ヒンジや嵌合部など接合するための構造が容易に成形、加工できる。この第1の部材を面形状とし、成形体の少なくとも一つの面を形成させ、第2の部材が第1の部材に対向する面を形成させることで、中空成形体を一体化する上で生産性よく製造することができる。
【0020】
本第2発明の中空成形体は、前記第1の部材と、前記第2の部材とが、その接合面で接着されていることが、その実用上好ましい。接着の方法は、一般的な熱可塑性もしくは熱硬化性の接着剤を使用してもよいが、より好ましい接合形態としては、前記第1の部材が、前記第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層を有しており、該熱可塑性樹脂層が前記連続した強化繊維群の一部の強化繊維を包含することにより接着されていることである。これらのさらに好ましい接合部分の態様は、前記図2に記載されているものと同様である。
【0021】
本発明の中空成形体において、図2に示されるような第1の部材3の構造は、多数本の連続した強化繊維5a、5bからなる強化繊維群8に、硬化前の熱硬化性樹脂が含浸せしめられてなるプリプレグもしくはプリプレグ積層物に、熱可塑性樹脂を加工してなる基材を配置し、熱硬化性樹脂の硬化反応時に、もしくは、硬化反応前の予熱時に、基材の熱可塑性樹脂を強化繊維群8に含浸せしめることにより形成することができる。さらに、熱硬化性樹脂6は熱硬化性樹脂層を形成し、熱可塑性樹脂は熱可塑性樹脂層7を形成する。熱可塑性樹脂の強化繊維群8への含浸、すなわち、強化繊維群8を形成している多数本の強化繊維5bの間への熱可塑性樹脂の浸透により、熱硬化性樹脂6の層と熱可塑性樹脂層7との間の界面の凹凸形状が形成される。
【0022】
上記プリプレグとして、必要に応じ、複数の強化繊維群8からなり、これらの強化繊維群が、プリプレグの幅方向に配列され、あるいは、プリプレグの厚さ方向に積層されているプリプレグが用いられる。図2においては、プリプレグにおいて最外層に位置し、第2の部材4との接合面に最も近い強化繊維群8が示されている。
【0023】
ここで、強化繊維群は、少なくとも一方向に、10mm以上の長さにわたり連続した多数本の強化繊維から構成されている。強化繊維群は、第1の部材の長さ方向の全長にわたり、あるいは、第1の部材の幅方向の全幅にわたり、連続している必要はなく、途中で分断されていてもよい。
【0024】
強化繊維群は、多数本の強化繊維からなる強化繊維束、この繊維束から構成されたクロス、多数本の強化繊維が一方向に配列された強化繊維束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性クロスなどである。なかでもプリプレグや部材の生産性の観点から、クロス、一方向性繊維束が好ましい。強化繊維群は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていてもよく、あるいは、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていてもよい。一つの強化繊維群を構成する強化繊維数は、通常、300〜48,000であるが、プリプレグの製造や、クロスの製造を考慮すると、好ましくは、300〜24,000であり、より好ましくは、1,000〜12,000である。
【0025】
また、第1の部材の好ましい態様としては、繊維束が何層にも積層された積層体である。強化繊維群の配向方向を変えて積層することにより、部材全体の力学特性をコントロールすることができる。また、必要に応じ、積層された強化繊維群の積層間に、他の基材が積層されてなるサンドイッチ形態も用いられる。
【0026】
本発明の中空成形体における第1の部材の構造は、たとえば以下の方法で検証できる。 まず第1の試験方法は、部材接合部の表層部分断面の走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察に基づく。断面の観察は、必要に応じ、撮影した断面写真に基づいて行なわれてもよい。観察する試験片は、部材から切り出した表層部分を用いて作成された薄肉切片である。この作成に当たり、強化繊維群の強化繊維の一部が脱落する場合があるが、観察に影響がない範囲であれば、問題はない。試験片は、観察のコントラストを調整するために、必要に応じ、染色されてもよい。
【0027】
強化繊維群を構成する強化繊維は、通常、円形断面として観察される。強化繊維が脱落している場合は、通常、円形の脱落跡として観察される。強化繊維群を構成する強化繊維が位置する部分以外の部分において、熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層とは、コントラストの異なる2つの領域として観察される。
【0028】
この第1の方法による観察結果の例が、図3に示される。図3は、第1の部材11と第2の部材12が一体化してなる中空成形体の接合面の断面を拡大して示したものである。熱可塑性樹脂層13の樹脂が、強化繊維群14を構成する多数本の強化繊維15a、15b間の間隙の中まで進入している状態が示され、更に、熱硬化性樹脂16の層と熱可塑性樹脂層13との界面17が凸凹形状を有している状態が示される。
【0029】
第2の試験方法は、部材接合部の表層部分の熱可塑性樹脂を溶媒で抽出除去した状態の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察に基づく。断面の観察は、必要に応じ、断面写真に基づいて行われてもよい。部材を長さ10mm、幅10mm程度にカットして試験片とする。この試験片において、熱可塑性樹脂層を、それを構成している樹脂の良溶媒で十分に洗浄し、熱可塑性樹脂を除去して、観察用の試験片が作成される。作成された試験片の断面をSEM(あるいは、TEM)を用いて観察する。
【0030】
この第2の方法による観察結果の例が、図4に示される。図4は、第1の部材18と第2の部材19が一体化してなる中空成形体から、第2の部材と熱可塑性樹脂層を除去した状態での接合面の断面を拡大して示したものである。図4において、熱硬化性樹脂20は、強化繊維群21を構成する強化繊維22aを有して存在するが、熱硬化性樹脂20と凹凸形状の界面23を有して存在していた熱可塑性樹脂層は、試験片の作成時に溶媒により除去されているため、存在しない。界面23の凹凸形状が観察されるとともに、熱可塑性樹脂層が存在していた位置に、強化繊維群21を構成する強化繊維22bが観察され、これらの強化繊維の間に、空隙24が観察される。これにより、熱可塑性樹脂層に、強化繊維群21を構成する強化繊維22bが包含されていたことが証明される。
【0031】
なお、第1の方法および第2の方法において、一体化した中空成形体から部材接合部を観察するに際し、熱可塑性樹脂層の樹脂が可塑化する温度まで加熱して接合部を剥離させるか、第2の部材を機械的に除去するなどの方法で処理してもよい。
【0032】
第3の試験方法は、一体化された成形品において、一方から他方を強制的に剥離したときに得られる状態の観察に基づく。この試験方法は、一体化成形品を、第1の部材と第2の部材との間で破壊するように、室温にて強制的に剥離させることにより行なわれる。剥離した第2の部材には、第1の部材表層の一部が残査として付着する場合がある。この残査が、顕微鏡で観察される。
【0033】
第3の試験方法を実施して得られた試験片の状態の一例が、図5に示される。図5において、第2の部材25に、第1の部材の表面が接合されていた接合部分26が示され、この接合部分26の一部に第1の部材表層部の一部が残査27として観察される。この残査27には、第1の部材の表層に位置していた強化繊維群から脱落した複数の強化繊維が存在していることが観察される。
【0034】
本発明の中空成形体の構造的特徴は、上記の少なくとも1つの試験方法で検証することができる。
【0035】
本発明の中空成形体における第1の部材は、第2の部材との接着強度を高める目的で、図2に示される熱可塑性樹脂層7において、連続した強化繊維5bが存在している領域の最大厚みTpf−maxが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましい。この最大厚みTpf−maxは、熱可塑性樹脂層7の厚さ方向において、熱可塑性樹脂層7の樹脂に接している一番外側(接合側)の強化繊維5b−outと、熱可塑性樹脂層7の樹脂の表面からの入り込み厚さが最も大きい部位において、熱可塑性樹脂層7の樹脂に接している一番内側の強化繊維5b−in−maxとの間の距離(Tpf−max)と定義される。最大厚みTpf−maxは、第1の試験方法や第2の試験方法により得られるSEMあるいはTEM写真において、測定することができる。最大厚みTpf−maxは、最大で、1,000μmあれば、本発明の効果が十分に達成される。
【0036】
最小厚みTpf−minは、熱可塑性樹脂層7の厚さ方向において、熱可塑性樹脂層7の樹脂に接している一番外側(表面側)の強化繊維5a−outと、熱可塑性樹脂層7の樹脂の表面からの入り込み厚さが最も小さい部位において、熱可塑性樹脂層7の樹脂に接している一番内側の強化繊維5b−in−minとの間の距離(Tpf−min)と定義される。
【0037】
第1の部材において、熱硬化性樹脂6と熱可塑性樹脂層7との界面9は、図2に示されるように、一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維5a、5bからなる強化繊維群13の中に存在することが好ましい。第1の部材において、強化繊維群13が、厚み方向に複数積層存在する積層板の場合、界面9は、最外層の強化繊維群の中にのみ存在することがより好ましい。
【0038】
本発明の中空成形体は、第2の部材と接合し一体化成形品とする際に、優れた接着効果を得るためには、第1の部材の表面に設けられている前記熱可塑性樹脂層において第2の部材と接合されることが必要である。第1の部材の表面に設けられる熱可塑性樹脂層の面積Sは、接合が予定される第2の部材との接合力が確保可能な面積に応じて、適宜決められる。
【0039】
すなわち、本発明の中空成形体は、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂組成物からなる被膜を介して、第1の部材と第2の部材が接着されていることが好ましい。第1の部材に形成される被膜の平均厚みは、0.01〜1,000μmであることが好ましく、0.1〜200μmであることがより好ましく、1〜50μmであることが更に好ましい。被膜の平均厚みTpは、図2に示される熱可塑性樹脂層7の樹脂に接している一番外側(接合側)の強化繊維5b−outと、第1の部材3と第2の部材4との接合界面10との距離で定義される。被膜の厚みが一定でない場合は、任意の数点において測定し、得られた測定値の平均値を被膜の厚みとする。平均厚みが、上記の好ましい範囲にあると、第1の部材と第2の部材がより確実に接合される。
【0040】
本発明の中空成形体において、使用される強化繊維群および/または強化繊維の繊維素材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維がある。これらは、単独または2種以上併用して用いられる。これらの繊維素材は、表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。これらの繊維素材の中には、導電性を有する繊維素材も含まれている。繊維素材としては、比重が小さく、高強度、高弾性率である炭素繊維が、好ましく使用される。
【0041】
本発明の中空成形体において、第1の部材に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。耐衝撃性向上のために、熱硬化性樹脂には、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていてもよい。特に、エポキシ樹脂は、第1の部材における力学特性の観点から好ましい。
【0042】
本発明の中空成形体において、第1の部材に使用される熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、溶解度パラメーターδ(SP値)が9〜16であることが好ましく、より好ましくは10〜15、とりわけ好ましくは11〜14である。上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂の凝集力が大きく、本発明の目的の1つである接着強度を高める上で有効である。
【0043】
かかる溶解度パラメーターδを達成しうる熱可塑性樹脂としては例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、芳香環、イミド環などの炭化水素骨格よりも極性の高い結合、官能基あるいは構造を持つものを挙げることができる。
【0044】
また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量としては、2,000〜200,000が好ましく、5,000〜150,000がより好ましく、10,000〜100,000が更に好ましい。上記範囲内とすることにより、分子間力や分子鎖の絡み合いが多くなり、熱可塑性樹脂自体の強度が大きくなるため、容易に熱可塑性樹脂自体が破壊しにくくなり、同時に熱可塑性樹脂が十分に強化繊維群へ含浸でき、繊維群を包含することで強固な接着力を発現することができる。
【0045】
さらに、本発明の中空成形体において、第1の部材に使用される熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、水酸基から選択される少なくとも1種の官能基を含有することにより、熱可塑性樹脂の反応性を高め、本発明の目的の1つである接着強度を高める上で有効である。中でも、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基がより好ましく選択される。ここで、熱可塑性樹脂の官能基量は、1×10-5モル/g以上が好ましく、1×10-4モル/g以上がより好ましく、1×10-3モル/g以上がさらに好ましい。官能基量は、特に限定されることなく、一般的な化学分析法で測定できる。例えば、IR(赤外線吸収スペクトル測定)により成分の同定を行い、NMR(核磁気共鳴スペクトル測定)により分子構造を同定し、GPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィ)により分子量を特定する。得られた結果から、高分子鎖単位重量あたりの、官能基のモル数が計算できる。
【0046】
以上より、本発明の中空成形体において、第1の部材に用いられる熱可塑性樹脂組成物として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、変性ポリエチレン(PE)、変性ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等の変性ポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を用いることができる。中でも、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂が、生産性と経済性の観点から好ましく用いられる。
【0047】
熱可塑性樹脂には、耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていてもよいし、機能性を高める観点から、充填材や添加剤が添加されていてもよい。例えば、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤である。とりわけ、無機物を添加する場合には、その分散サイズが小さい方が、強化繊維群への含浸の観点からより好ましい。特にナノオーダーの分散サイズを有するものは、少量添加で効果を発現できる点からさらに好ましい。
【0048】
本第1発明の中空成形体において、第2の部材としては、第1の部材との接合部において、熱接着性を有する素材からなるものであれば特に制限はない。
【0049】
例えば、第2の部材が、第1の部材と実質的に同一の構成を有する部材で、接合部に熱可塑性樹脂層が配置されたものは力学特性に優れた中空成形体を製造する観点から好ましい。
【0050】
また、第2の部材が、熱可塑性樹脂組成物から構成された部材であれば、より複雑な形状を成形できる観点から好ましい。使用される熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、これは本第2発明の中空成形体において、第2の部材に使用される熱可塑性樹脂としても同様に例示できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂には、耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていてもよい。とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からPPS樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からポリアミド樹脂が、経済性の観点からポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
【0051】
本発明に用いられる第2の部材については、中空成形体の強度、剛性、寸法安定性の観点から、熱可塑性樹脂に強化繊維が含有されていることが好ましい。かかる強化繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維がある。強化繊維の繊維長は特に制限はないが、数平均繊維長で0.1〜60mmの範囲内が好ましく、0.3〜30mmの範囲内がより好ましく、1〜20mmの範囲内がとりわけ好ましい。また、強化繊維の含有量にも特に制限はなく、1〜90重量%の範囲内が好ましく、10〜70重量%の範囲内がより好ましく、20〜60重量%の範囲内がとりわけ好ましい。
【0052】
これら繊維長や繊維含有量は、一般公知の方法で測定できる。例えば、第2の部材から長さ10mm、幅10mmの大きさで試験片を切り出す。作成された試験片を、熱可塑性樹脂が可溶な溶剤に24時間浸漬し、樹脂成分を溶解させる。樹脂成分が溶解された試験片から強化繊維分を抽出する。得られた、強化繊維を顕微鏡にて観察し、強化繊維の無作為抽出したN本について、繊維長を測定する。N数は400本以上であれば特に制限はない。個々の繊維長をLiとすると、数平均繊維長は次の式に基づき、算出する。
数平均繊維長=(ΣLi)/(N)
【0053】
また、抽出された強化繊維の重量と、試験片の重量からその含有量が測定できる。なお、熱可塑性樹脂が溶媒に難溶性または不溶性の場合には、熱可塑性樹脂を加熱除去して強化繊維を抽出する方法を用いてもよい。
【0054】
さらに、熱可塑性樹脂には機能性を高める観点から、充填材や添加剤が添加されていてもよい。例えば、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤である。
【0055】
前記熱可塑性樹脂を主成分とする成形材料には特に制限はなく、射出成形用のペレット、スタンパブルシート、高圧成形用の熱可塑性シートが例示できる。中でも、強化繊維の繊維長を1mm以上に維持する観点から、長繊維ペレットや熱可塑性シート材料がより好ましく用いられる。
【0056】
さらに、第2の部材が、金属材料からなる部材であれば、堅牢性を高める観点から好ましい。金属材料としては、アルミニウム、鉄、マグネシウム、チタンおよびこれらとの合金等に、熱接着性の表面処理を施した金属材料であってもよい。
【0057】
本発明の中空成形体において、一体化成形後や使用環境によって、成形品の寸法変化やソリの発生を抑える観点から、前記第2の部材の面方向の最大線膨張係数CIImaxが4×10-5以下であることが好ましく、より好ましくは1×10-5以下である。同様に、成形品のネジレを抑える観点から、前記第2の部材の、面方向の最大線膨張係数CIImaxと、最小線膨張係数CIIminとの比、CIImax/CIIminが1.8以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下である。
【0058】
線膨張係数はISO 11359−2に基づいて測定することができる。成形品から無作為に選定した部位について、部材の長手方向を基準にして、0度、45度、90度、135度のように、異なる角度において切り出した、4本の試験片を用意する。試験片の切り出し位置は、リブ部、ヒンジ部、凹凸部などの形状が意図的に付されている部分は極力避け、上記部位を含む場合は、これらを切削除去して試験に供する。これらの試験片において、その最大値を最大線膨張係数CIimax、最小値を最小線膨張係数CIiminと定義する。なお、測定温度範囲は特に制限はないが、成形品が使用される環境の観点から、30〜200℃が好ましい範囲として例示できる。
【0059】
さらに、中空成形品の剛性および寸法安定性の観点で、前記第2の部材のISO 179に基づく曲げ弾性率が10GPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは12GPa以上である。曲げ弾性率の測定には、成形品の平面部から、部材の長手方向を基準にして、0度、45度、90度、135度のように、異なる角度において切り出した、4本の試験片を用意する。試験片の切り出しは、リブ部、ヒンジ部、凹凸部など意図的に形状が付されている部位を避けて行われるのが好ましい。試験片にこれらの意図的な形状部位が含まれている場合、試験片の厚みの測定は、この部位を除いて行われる。これらの試験片において得られる曲げ弾性率の内の最小値を、曲げ弾性率として定義する。
【0060】
本発明の中空成形体の一体化方法としては、特に制限されない。例えば、その製造方法は、第1の部材を構成している熱可塑性樹脂層あるいは被膜の融点または軟化点以上の温度で、第2の部材を接合させ、貼り付け、次いで冷却することからなる。
【0061】
その接合における手順は、特に限定されない。例えば、(i)第1の部材を予め成形しておき、第2の部材の成形と同時に、両者を接合し、一体化させる手法、(ii)第2の部材を予め成形しておき、第1の部材の成形と同時に、両者を接合し、一体化させる手法、あるいは、(iii)第1の部材と第2の部材とをそれぞれ別々に予め成形しておき、両者を接合し、一体化させる手法を適用できる。
【0062】
一体化の手法として、第1の部材と第2の部材とを、機械的に嵌合させ、一体化する手法、両者をボルト、ネジなどの機械的結合手段を用いて一体化する手法、両者を接着剤などの化学的結合手段を用いて一体化する手法もある。これらの一体化する手法は、必要に応じて、併用されてもよい。
【0063】
前記一体化手法(i)の具体例としては、第1の部材をプレス成形し、必要に応じ所定のサイズに加工あるいは後処理し、次いで射出成形金型にインサートし、その後、第2の部材を形成する材料を金型に射出成形する手法がある。
【0064】
前記一体化手法(ii)の具体例としては、第2の部材をプレス成形もしくは射出成形し、必要に応じ所定のサイズに加工あるいは後処理し、次いでプレス金型にインサートし、その後、プレス金型を所定のプロセス温度として、第1の部材を形成する未硬化の熱硬化性樹脂と多数本の連続した強化繊維群からなるプリプレグの表面に熱可塑性樹脂層が形成された基材をレイアップし、次いで熱可塑性樹脂の融点以上の温度で成形する手法がある。
【0065】
前記一体化手法(iii)の具体例としては、第1の部材をプレス成形し、必要に応じ所定のサイズに加工あるいは後処理して用意し、別途、第2の部材を予め成形しておき、それぞれを熱溶着、振動溶着、超音波溶着などで前記一体化手法(ii)と同様にして一体化させる方法がある。また、いずれかの部材がレーザー透過性を有すると、レーザー溶着にて一体化することもできる。
【0066】
上記のような一体化手法の中でも、中空成形体の量産性の観点から、前記一体化手法(i)におけるインサート射出成形やアウトサート射出成形が好ましく使用される。とりわけ、中空形状を形成するためにブロー成形を適用することが好ましい。形状安定性や接着部分の精密性の観点から、前記一体化手法(iii)が好ましく使用され、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着が好ましく使用できる。
【0067】
また、本発明の中空成形体の製造する上で、一体化を効率的に行うと同時に、形状の自由度を高める観点から、前記第1の部材が、曲率半径が1000m以内の曲面を形成していてもよい。より好ましくは500m以内であり、これらの曲面は断続的、間欠的に、成形品の一つの面内に複数個形成されていてもよい。さらに、これらの面内に、曲率半径が5mm以上の絞りが形成されていてもよい。
【0068】
その一方で、第2の部材には、その厚み方向に三次元形状を形成されていてもよく、例えば、機能面から凹凸を有する構造や、意匠面から凹凸を有する構造や、機械接合を補助するためのボス、リブ、ヒンジ、嵌合構造などが形成されていてもよい。
【0069】
本発明の中空成形体の用途としては、軽量で力学特性が要求される分野における製品がある。例えば、タンク、インテークマニホールドなどのパイプ、ポンプ、インパネ、内装材、スポイラー、ピラー、ドアパネル、ボンネット、エンジンカバー、各種ビームや衝撃吸収材などの自動車部材、風車ブレードなどの構造体、カウル、自転車クランクなどの二輪車、自転車の部材、ランディングギアポッド、モノコック、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、パラボラアンテナ、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、プラズマディスプレーなどの電気または電子機器の部品、部材および筐体、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、掃除機、トイレタリー用品、レーザーディスク、コンパクトディスク、照明、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどに代表される家庭または事務製品部品、部材および筐体、パチンコ、スロットマシン、ゲーム機などの遊技または娯楽製品部品、部材および筐体、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの光学機器、精密機械関連部品、部材および筐体、X線カセッテなどの医療用途、テニスラケット、ゴルフクラブヘッド、ボード、ヨットなどのスポーツ関連部品、建材用の部品やパネルなどが挙げられる。
【0070】
上記の中でも、タンク、パイプ、風車ブレード、自転車クランク、ゴルフクラブヘッド、ノートパソコン筐体、X線カセッテ、自動車部材、建材パネルにおいて、軽量と高剛性の要求が強く、好適に使用される。
【実施例】
【0071】
実施例に基づき、本発明が更に具体的に説明される。実施例中に示される配合割合(%)は、別途特定している場合を除き、全て重量%に基づく値である。本発明の実施例に使用した成分を以下に示す。
【0072】
参考例1
3元共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製、3元共重合ポリアミド樹脂CM4000、ポリアミド6/66/610、融点150℃、溶解度パラメーターδ(SP値)13.3)のペレットを、幅10mm、目付80g/m2の不織布状テープに加工した。
【0073】
参考例2
ポリアミド6(東レ(株)製、ポリアミド6樹脂CM1001)を粒子径10〜1000μmのパウダーに加工し、チョップド炭素繊維(東レ(株)製トレカTW12、繊維長6mm)とをドライで混合した。混合物を80℃で3時間真空乾燥後、250℃でプレス成形を行い、炭素繊維含量30重量%のシート状成形体を得た。該成形体の最大線膨張係数は1.2×10-5であり、最小線膨張係数は0.9×10-5であった。また、曲げ弾性率は16GPaであった。
【0074】
実施例1
図6を用いて説明することで、本実施例をより明確に説明できる。
エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)が、一方向に配列された炭素繊維群に含浸したプリプレグ(東レ(株)製トレカプリプレグP6053−12)から、所定の形状のプリプレグシートを10枚切り出した。図6のように、これら10枚のシートを、成形品長手方向を基準に[0°/90°]5sとなるように順次雌金型29に沿うように積層し(プリプレグ積層体30)、さらに参考例1で調製した不織布状テープ28を、幅10mmの接合部分に配置した(配置された不織布状テープ31)。
【0075】
次に、雄金型(図示せず)をセットして、プレス成形を行った。プレス成形機にて、160℃で5分間予熱し、5MPaの圧力をかけながら、150℃で30分間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させた。硬化終了後、室温で冷却し、脱型して、厚み1.2mmの積層体からなる第1の部材32を成形した。成形された第1の部材32の、上記不織布状テープ31を配置した部位は、第2の部材との接合部分33に形成される。
【0076】
得られた積層体からなる第1の部材32を射出成形金型にインサートし、長繊維ペレット(東レ(株)製TLP1146S、炭素繊維含量20wt%、ポリアミド樹脂マトリックス)を用いて、インサートされている積層体に対し、天蓋部分36a、開口部分36b、把持部分36cを成形し、図6に示される、開口部分を有する中空成形体34を製造した。中空成形体34の部位35が上記第1の部材である。射出成形は、日本製鋼所(株)製J350EIII射出成形機を用いて行い、シリンダー温度は280℃とした。
【0077】
得られた一体化成形品34は、少なくとも前記不織布状テープを配置した接合部分33で接しており、強固に一体化した。この一体化成形品から、接合部分を切り出し、蟻酸に12時間溶解させて熱可塑性樹脂部分を除去し、断面観察用試験片とした。試験片を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、炭素繊維群がむき出されている状態が観察された。さらには、積層体32の接合面方向に空隙を有する炭素繊維群と、その反対方向に空隙を有しない炭素繊維群の二層構造が観察され、図4に示されているように、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂層との界面は、凸凹形状を有していることが認められた。炭素繊維群の空隙部分が、熱可塑性樹脂層の強化繊維が包含されている領域であり、この最大厚みTpfと最小厚みTpf−minとを測定したところ、最小厚みTpf−minは30μm、最大厚みTpf−maxは60μmであった。
【0078】
また、前記積層体32の接合部分の断面をSEM観察すると、表面には、熱可塑性樹脂が溶融して被膜状に付着しており、その膜厚は10μmであった。
【0079】
実施例2
図7を用いて説明することで、本実施例をより明確に説明できる。
実施例1と同様の方法で、風車ブレードの表裏を構成する2つの積層体37、38(第2の部材37、第1の部材38)を製造する。図7に示すように、少なくとも接合部分で、180℃にて10分間熱圧着を行い、中空成形体を製造した。得られた一体化成形品は、少なくとも前記不織布状テープを配置した接合部分39で接しており、強固に一体化した。
【0080】
同様に、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂層との界面は、凸凹形状を有していることが認められた。Tpf−minは30μm、最大厚みTpf−maxは60μmであった。
【0081】
また、前記積層体38の接合部分断面をSEM観察すると、表面には、熱可塑性樹脂が溶融して被膜状に付着しており、その膜厚は10μmであった。
【0082】
実施例3
第2の部材37を、参考例2で調整した熱可塑性シート状成形体を再度プレス成形で製造する。成形体を250℃で10分間、熱風乾燥機で予熱した後、120℃の金型にて5MPaの圧力で成形した。得られた部材を、実施例2と同様の方法で一体化した。
【0083】
実施例4
図8を用いて説明することで、本実施例をより明確に説明できる。
実施例1と同様の方法で、プリプレグを雌金型に積層し、不織布状テープを幅10mmの接合部分42に配置した。次いで、真空バッグ成形し、160℃で5分間予熱し、150℃で30分間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、2つの第1の積層体(第1の部材)40a、40bを製造した。同様に、2つの第2の積層体(第2の部材)41a、41bをプレス成形にて製造した。
【0084】
次に、図8に示すように、第1の積層体と第2の積層体を配置し、熱圧着して中空成形体を製造した。得られた一体化成形品は、少なくとも前記不織布状テープを配置した接合部分42で接しており、強固に一体化した。同様に、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂層との界面は、凸凹形状を有していることが認められた。Tpf−minは30μm、最大厚みTpf−maxは60μmであった。
【0085】
また、前記積層体40aの断面をSEM観察すると、表面には、熱可塑性樹脂が溶融して被膜状に付着しており、その膜厚は10μmであった。
【0086】
実施例5
図9を用いて説明することで、本実施例をより明確に説明できる。
実施例1と同様の方法で、自転車用クランクの表裏を構成する2つの積層体43、44(第1の部材43、第2の部材44)を製造する。図9に示すように、少なくとも接合部分に、180℃で10分間熱圧着を行い、中空成形体を製造した。得られた一体化成形品は、少なくとも前記不織布状テープを配置した接合部分45で接しており、強固に一体化した。同様に、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂層との界面は、凸凹形状を有していることが認められた。Tpf−minは30μm、最大厚みTpf−maxは60μmであった。
【0087】
また、前記積層体44の断面をSEM観察すると、表面には、熱可塑性樹脂が溶融して被膜状に付着しており、その膜厚は10μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施態様に係る中空成形体の断面図である。
【図2】本発明の中空成形体における、接合部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の中空成形体を、第1の試験方法によって観察した結果を示す断面図である。
【図4】本発明の中空成形体を、第2の試験方法によって観察した結果を示す断面図である。
【図5】本発明の中空成形体を、第3の試験方法によって観察した結果を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施例1の工程および中空成形体組立を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例2の工程および中空成形体組立を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例4の中空成形体組立を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施例5の中空成形体組立を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0089】
1 第1の部材
2 第2の部材
3 第1の部材
4 第2の部材
5a、5b 強化繊維
6 熱硬化性樹脂
7 熱可塑性樹脂層
8 強化繊維群
9 熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂層との界面
10 第1の部材と第2の部材との界面
11 第1の部材
12 第2の部材
13 熱可塑性樹脂層
14 強化繊維群
15a、15b 強化繊維
16 熱硬化性樹脂
17 熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂層との界面
18 第1の部材
19 第2の部材
20 熱硬化性樹脂
21 強化繊維群
22a、22b 強化繊維
23 熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂層との界面
24 熱可塑性樹脂層が存在していた空隙
25 第2の部材
26 第1の部材との接合部分
27 残査
28 不織布状テープ
29 雌金型
30 プリプレグ積層体
31 不織布状テープ
32 第1の部材
33 第1の部材と第2の部材との接合部分
34 中空成形体
35 第1の部材
36a 第2の部材天蓋部
36b 第2の部材開口部
36c 第2の部材把持部
37 第2の部材
38 第1の部材
39 第1の部材と第2の部材との接合部分
40a、40b 第1の部材
41a、41b 第2の部材
42 第1の部材と第2の部材との接合部分
43 第1の部材
44 第2の部材
45 第1の部材と第2の部材との接合部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の部材と第2の部材の2つの部材を一体化することで中空形状を形成した中空成形体であって、前記部材のうち少なくとも第1の部材は連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とし、第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層を有しており、前記熱可塑性樹脂層が前記強化繊維群の一部の強化繊維を包含してなることを特徴とする中空成形体。
【請求項2】
前記第2の部材が、前記第1の部材と実質的に同一構成の部材、または金属材料からなる部材である、請求項1に記載の中空成形体。
【請求項3】
連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂を主成分とする第1の部材と、熱可塑性樹脂を主成分とする第2の部材とを一体化することで中空形状を形成した中空成形体であって、該第1の部材が面形状であり、成形体の少なくとも一つの面を形成し、該第2の部材が該第1の部材に対向する面を形成してなることを特徴とする中空成形体。
【請求項4】
前記第2の部材が、数平均繊維長0.1〜60mmの強化繊維を含有してなる、請求項3に記載の中空成形体。
【請求項5】
前記第1の部材と、前記第2の部材とが、その接合面で接着されてなる、請求項3または4に記載の中空成形体。
【請求項6】
前記第1の部材が、前記第2の部材との接合部分において熱可塑性樹脂層を有しており、該熱可塑性樹脂層が前記連続した強化繊維群の一部の強化繊維を包含してなる、請求項3〜5のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層が、連続した強化繊維群で強化された熱硬化性樹脂の層と、その界面において、凸凹形状を有して一体化されている、請求項1または6に記載の中空成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂層において、前記強化繊維が包含されている領域の最大厚みが10μm以上である、請求項1、6、7のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項9】
前記最大厚みが1,000μm以下である、請求項8に記載の中空成形体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂層の樹脂が、第2の部材との接合部分に被膜状に介在してなる、請求項1、6〜9のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項11】
前記被膜の平均厚みが0.01〜1000μmの範囲にある、請求項10に記載の中空成形体。
【請求項12】
前記第1の部材が積層体である、請求項1〜11のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項13】
前記第1の部材に用いられる強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜12のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を主成分とする樹脂である、請求項1〜13のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項15】
前記第1の部材に用いられる熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜14のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項16】
前記第2の部材の、面方向の最大線膨張係数最大線膨張係数CIImaxが4×10-5以下である、請求項1〜15のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項17】
前記第2の部材の、面方向の最大線膨張係数CIImaxと、最小線膨張係数CIIminとの比、CIImax/CIIminが1.8以下である、請求項1〜16のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項18】
前記第2の部材の、曲げ弾性率が10GPa以上である、請求項1〜17のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項19】
前記中空成形体が、殻形状、鼓形状、筒形状のいずれかの形態を有している、請求項1〜18のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項20】
前記中空成形体における、中空部の最大厚みが10mm以上である、請求項1〜19のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項21】
前記第1の部材が、曲率半径が1000m以内の略曲面を形成してなる、請求項1〜20のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項22】
前記第1の部材が、その面内に曲率半径が5mm以上の絞りを形成してなる、請求項1〜21のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項23】
前記第2の部材が、その厚み方向に三次元形状を形成してなる、請求項1〜22のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項24】
前記中空成形体が、タンク、パイプ、風車ブレード、または、自動車、二輪車、自転車、航空機、建材用の部品、部材またはパネルである、請求項1〜23のいずれかに記載の中空成形体。
【請求項25】
前記第1の部材と第2の部材とを、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、インサート射出成形、アウトサート射出成形から選択される少なくとも1つの方法にて一体化する、請求項1〜24のいずれかに記載の中空成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−44262(P2006−44262A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199964(P2005−199964)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】