説明

乳化又は懸濁方法

【解決手段】 水溶性高分子界面活性剤を含む水溶液中に、水不溶性液体を混合して撹拌装置で撹拌して乳化物又は懸濁物を調製した後に、該乳化物又は懸濁物を一対のプレート間に挟み、これらプレートの少なくとも一方を回転させるか又は所定角度で正逆回動させることを特徴とする上記水不溶性液体の乳化又は懸濁方法。
【効果】 本発明によれば、水不溶性液体の乳化物又は懸濁物の粒径の均一化が可能となり、簡単な方法で乳化又は懸濁粒子の粒径を安定的に均一粒子径に調整することができるので、食品、化粧品等の分野における乳化組成物及び高分子化合物を製造する際の乳化又は懸濁重合等に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マヨネーズやサラダドレッシング等の乳化食品、乳液等の乳化化粧料、シャンプーやリンス等の乳化洗浄料を製造する際又は塩化ビニルやスチレンやアクリル酸、アクリル酸エステル等のモノマーを水中で懸濁又は乳化重合する際に、その水不溶性液体の均一な乳化又は懸濁粒子を得ることが可能な乳化又は懸濁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にオイルや重合性モノマーを水中に分散させる方法として、低分子界面活性剤を含有する水溶液中にオイル液やモノマー液を混合し撹拌して、界面活性剤の乳化分散力によってオイルやモノマーを水中に分散安定化させて、乳化(エマルション)と呼ばれる状態にすることが行われている。
【0003】
しかし、この方法によれば、ミセル形成と呼ばれる低分子界面活性剤の乳化作用により、水中に分散したオイルやモノマーの粒径は1μm以下の直径を有する微粒子の乳化粒子となって分散する。調製されたエマルションの用途において、乳化粒子が微粒子であって差し支えない場合や粒径の大小は問題とならない場合には、上記の低分子界面活性剤によるエマルションの調製が問題なく行われている。
【0004】
しかしながら、例えば、ドッレシングオイルや食用クリームのように、乳化粒子の粒径が制御されることによって、のどごしや食感等が異なる食品用の乳化物を調製しようとしたり、重合トナーのように10〜数10μmオーダーの粒径を有する流動性のよい粒子を得ようとする場合には、調製されるエマルションや懸濁物中のオイルやモノマーの液滴の粒径を調整する必要が出てくる。
【0005】
従来、液滴の粒径を調整しようとする場合には、エマルションの調製時に添加する水溶性高分子安定剤の量を変えたり、混合撹拌翼の大きさや撹拌速度、更には撹拌時間をコントロールすることが一般的であった。これらの方法で得られた粒子の大きさには分布があり、所望の均一な粒径のものを得ることが困難であった。
【0006】
そこで、特開平10−218901号公報(特許文献1)では、重合度の異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースやメチルセルロースを利用することで所望の形状の粒子径が得られることが記載されているが、この方法で得られた乳化物又は懸濁物は、平均粒径は制御できているものの、その粒度に分布があり、均一な粒径の乳化物又は懸濁物を得ることができなかった。
【0007】
一方、均一な粒径の乳化物又は懸濁物を得る方法として、一定の孔径から連続層に溶解しない液を送り出し、その孔径の乳化物又は懸濁物を作る方法が提案されているが、この方法においても、形成された粒子同士が合一化して均一な粒径としての乳化物又は懸濁物が得られない問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−218901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、粒径の揃った均一な粒径の乳化物又は懸濁物を調製可能な乳化又は懸濁方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、水溶性高分子界面活性剤を含む水溶液中に、水不溶性液体を混合して撹拌装置で撹拌して乳化物又は懸濁物を調製した後に、該乳化物又は懸濁物を一対のプレート間に挟み、これらプレートの少なくとも一方を回転又は正逆回動させることにより、均一な粒径の乳化物又は懸濁物が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、水溶性高分子界面活性剤を含む水溶液中に、水不溶性液体を混合して撹拌装置で撹拌して乳化物又は懸濁物を調製した後に、該乳化物又は懸濁物を一対のプレート間に挟み、これらプレートの少なくとも一方を回転させるか又は所定角度で正逆回動させることを特徴とする上記水不溶性液体の乳化又は懸濁方法を提供する。この場合、前記水溶性高分子界面活性剤が、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリN−イソプロピルアクリルアミドから選ばれるものが好ましく、水不溶性液体は、油分又は水不溶性モノマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水不溶性液体の乳化物又は懸濁物の粒径の均一化が可能となり、簡単な方法で乳化又は懸濁粒子の粒径を安定的に均一粒子径に調整することができるので、食品、化粧品等の分野における乳化組成物及び高分子化合物を製造する際の乳化又は懸濁重合等に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、外相となる水溶性高分子界面活性剤を含む水溶液中に、内相となる水不溶性液体、即ち、油分や水不溶性モノマー液体等を乳化又は懸濁して、O/W型エマルションを調製するものである。外相に添加する水溶性高分子界面活性剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロースやメチルセルロース等のアルキルセルロースが好ましい。これらは、単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びアルキルセルロースは、分子内に親水性のヒドロキシアルキル基又は水酸基と疎水性のアルキル基を有しており、界面活性能を有しているが、その界面活性能は低分子の界面活性剤程ではない。これらのヒドロキシアルキルアルキルセルロースやアルキルセルロースを用いた場合、油分や水不溶性モノマーを乳化又は懸濁した時に乳化又は懸濁粒子は容易には1μm以下の粒径にはならないが、乳化又は懸濁粒子の液滴表面には界面活性力で強固に吸着して高分子特有の保護コロイド層を形成するため、一度形成された液粒径は合一が起こりにくく、安定な粒径が維持できる。
【0014】
一方、ヒドロキシエチルセルロースの如く親水基が多いセルロースは、界面活性能が不足し、油分や水不溶性モノマー表面への強固な吸着が少ないため、乳化又は懸濁液滴が合一し易く、安定した液滴を得る点からは、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びアルキルセルロースが好適である。
【0015】
この場合、これらヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びアルキルセルロースの重量平均分子量は、高分子論文集42巻,No.11、p.803〜808(1983)に記載されている分子量測定方法に準じて測定した場合、2×104〜100×104、特に7×104〜80×104が好ましい。分子量が2×104より低いと保護コロイド層が薄くなり、所望の保護コロイド効果がなくなり、分子量が100×104より高いと粘度が高くなって後の処理が行い難くなる場合がある。
【0016】
これら水溶性高分子界面活性剤は、その分子量を適宜変化させて、乳化又は懸濁したい水不溶性液体と混合撹拌することで、所望の平均粒径程度の大きさに調整が可能となる。
【0017】
別の水溶性高分子界面活性剤であるポリN−イソプロピルアクリルアミドは分子量の調整により乳化物や懸濁物の平均粒径を調整することは困難であるが、混合撹拌速度や時間を変えることで、平均粒径をある程度調整することができる。ポリN−イソプロピルアクリルアミドは、興人(株)より提供されるモノマーからの重合によって得られる。ポリN−イソプロピルアクリルアミドは分子内に疎水基と親水基を有するため、懸濁安定性に優れている。なお、このポリN−イソプロピルアクリルアミドの重量平均分子量は、上記と同様の測定方法に準じて測定した場合、2×104〜50×104、特に7×104〜40×104が好ましい。分子量が2×104より低いと保護コロイド層が薄くなり、所望の保護コロイド効果がなくなり、分子量が50×104より高いと粘度が高くなって後の処理が行い難くなる場合がある。
【0018】
その他、本発明に使用できる水溶性高分子界面活性剤としては、部分ケン化型のポリビニルアルコールや完全ケン化のポリビニルアルコールにマレイン酸等が共重合した水溶性高分子、ポリビニルピロリドン及びそのマレイン酸、四級アンモニウム塩等との共重合物、特開平11−171960号公報、特開平11−343328号公報、特開2000−297132号公報、特開2000−297133号公報、特開2000−319127号公報、特開2000−348256号公報に記載の水溶性ポリウレタン誘導体ポリマー等が挙げられる。
【0019】
水溶性高分子界面活性剤を水溶液中に添加する場合の濃度は、油分や水不溶性モノマー等の水不溶性液体を混合して分散し易い粘度になるのがよく、安定な液滴を得るのに必要な量として乳化液又は懸濁液全量に対し0.01〜5質量%であって、乳化液又は懸濁液全体の粘度が0.1〜10Pa・s程度の溶液となるようにするのが好ましい。
【0020】
本発明の内相となる水不溶性液体としては、シリコーンオイル、サラダオイル等の飽和又は不飽和脂肪酸等の油分又はヘキサン、ブタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等の水不溶性モノマーが挙げられるが、水中で混合撹拌した時に分散する程度の粘度として、数100mPa・s以下の粘度を有するものであることが好ましい。
【0021】
水不溶性液体は、水溶性高分子界面活性剤が溶解した水相の水溶液の中に、水不溶性液体が最密充填した場合における容積の74容積%以下になるように混合して乳化又は懸濁されることが好ましい。上記値を超えると粒子同士が会合して乳化又は懸濁が安定しなくなる場合がある。
【0022】
本発明の乳化又は懸濁方法は、まず常法に従い、速撹拌装置を用いて所定回転数で所定時間撹拌して乳化物又は懸濁物を調製する。この場合、この乳化物又は懸濁物の平均粒子径は、1〜700μm、特に10〜100μmであることが好ましい。なお、本発明において、エマルションの平均粒子径の測定法は、実施例で示した方法による。
【0023】
乳化又は懸濁に使用する撹拌装置、撹拌翼径又は形状、撹拌速度、時間については、本発明の効果を損なわない範囲のものなら特に限定されないが、数100rpm以上の高速で、設定した撹拌速度を保ち、撹拌によって水不溶性液体が液滴になって水相中に分散して乳化又は懸濁状態になることが好ましい。
【0024】
次いで、得られた乳化物又は懸濁物を一対のプレート間に挟み、これらプレートの少なくとも一方を回転させるか又は所定角度で正逆回動させる。ここで、プレート形状は、一対のプレートが互いに対向して配設され、その間に上記乳化物又は懸濁物が供給されて剪断が加えられるものであればよいが、双方が円盤状又は一方が鈍角円錐状で他方が円盤状のプレートを用いることができる。
【0025】
使用する円盤プレートの大きさは特に限定されないが、通常のレオメーター等に取り付けられている10〜20mm径程度のものが操作性がよく、好ましい。また、円錐状の円盤についても、円錐の角度(頂角)は特に限定されないが、通常のレオメーターで採用されているような2〜10度が好ましい。
【0026】
上記一対のプレートは、一方を回転又は正逆回動し、他方を固定した態様で使用することができる。なお、正逆回動は、角度2〜10度、周波数10〜500Hzで一方向に回動し、次いでこれと反対方向に回動する(いわゆる首振り運動する)ことが好ましい。
【0027】
本発明では既に乳化又は懸濁した粒子に対して一定のシェアーエネルギーをかけることにより、中でも特に粒径が細かいものについては会合が生じ、粒径が粗いのものについては分離を施し、一定の粒径にするものである。従って、必要な回転数や首振りの周波数は限定されないが、挟み込んだ乳化又は懸濁粒子がプレートの間から処理中に飛び出さないために、回転数10〜100,000rpm、周波数10〜500Hzが好ましい。
【0028】
また、プレート間の隙間は特に限定されないが、挟み込んだ乳化又は懸濁液が処理中に弾き出ないために、10〜100μm、特に30〜70μmが好ましい。
【0029】
このように処理して得られた乳化物又は懸濁物の平均粒子径は1〜600μm、特に10〜100μmであることが好ましく、粒子径均一化係数は1〜20%、特に1〜10%であることが好ましい。なお、粒子径均一化係数は、測定により得られた約200個の粒子の粒子径の標準偏差値を平均粒径で除して100をかけた値であり、この粒子径均一化係数が小さい程、各粒子の粒径が均一になっていることを表す。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
表1に示す水溶性高分子界面活性剤を表1の水溶液濃度にて調製し、その140gと信越化学工業(株)製シリコーンオイルKF−96(1mPa・s)70gとを200mlのビーカーに入れ、IKA社のウルトラデイスパーザーにより、S−25−N−25F型撹拌羽根にて8,000rpmで20分間撹拌して、シリコーンオイルの懸濁粒子を調製した。調製した懸濁粒子をスポイトで取り出し、ベックマンコールター社のコールターカウンターマルチサイザーII型用電解液iSOTONIIに一滴垂らした後、アパーチャー径400μmにて重量平均粒径を測定した。測定した粒子の平均粒子径及び粒子径均一化係数を表1に示す。
【0032】
厚み1mmで直径20mmのステンレススチール製円盤状プレート2枚を、これらプレート間の隙間が50μmになるように配置し、これらプレート間の隙間に上で得られた懸濁物を入れ、上側のプレート中心に取り付けた回転軸をフィジカ社のレオメーターに取り付け、回転数を100rpmとして20分間回転させた後、懸濁液を取り出し、ベックマン社のコールターカウンターマルチサイザーII型用電解液iSOTONIIに一滴たらした後、アパーチャー径400μmにて重量平均粒径を測定した。測定した粒子の平均粒子径及び粒子径均一化係数を表1に示す。この結果から、均一懸濁粒径が得られることがわかる。
【0033】
【表1】

*1 ヒドロキシプロピルメチルセルロースA:ヒドロキシプロピル置換度9.2質量%
、メトキシル置換度29.2質量%
*2 メチルセルロース:メトキシル置換度30.2質量%
【0034】
[実施例2]
表2に示す水溶性高分子界面活性剤を表2の水溶液濃度にて用い、実施例1と同様にしてシリコーンオイルの懸濁粒子を調製した。
【0035】
厚み1mmで直径15mm、円錐部の角度が5度であるステンレススチール製のコーン型プレートを上部とし、厚み1mmで直径15mmのステンレススチール製円盤状プレートを下部として、その2枚のプレート間に得られた懸濁粒子を入れ、コーンの先端と下部円盤状プレートの隙間が10μmとなるようにし、上部コーンプレートのコーン部分でない面の中心につけた回転軸をフィジカ社のレオメーターに取り付け、フレ幅角度30度として30Hzにて、上部コーンプレートを15分間周期運動させた後、懸濁液を取り出し、ベックマン社のコールターカウンターマルチサイザーII型用電解液iSOTONIIに一滴垂らした後、アパーチャー径400μmにて重量平均粒径を測定した。測定した粒子の平均粒子径及び粒子径均一化係数を表2に示す。この結果から、均一懸濁粒径が得られることがわかる。
【0036】
【表2】

*3 ヒドロキシプロピルメチルセルロースB:ヒドロキシプロピル置換度9.1質量%
、メトキシル置換度29.7質量%
*4 ヒドロキシプロピルメチルセルロースC:ヒドロキシプロピル置換度9.0質量%
、メトキシル置換度29.8質量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子界面活性剤を含む水溶液中に、水不溶性液体を混合して撹拌装置で撹拌して乳化物又は懸濁物を調製した後に、該乳化物又は懸濁物を一対のプレート間に挟み、これらプレートの少なくとも一方を回転させるか又は所定角度で正逆回動させることを特徴とする上記水不溶性液体の乳化又は懸濁方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子界面活性剤が、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリN−イソプロピルアクリルアミドから選ばれることを特徴とする請求項1記載の乳化又は懸濁方法。
【請求項3】
前記水不溶性液体が、油分又は水不溶性モノマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の乳化又は懸濁方法。

【公開番号】特開2006−110405(P2006−110405A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297443(P2004−297443)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】