説明

事務機器用部材

【課題】本発明は、バイオマス原料であるセルロースエステル樹脂を用いて製造される耐熱性、機械的特性に優れた事務機器用部材を提供することを目的とする。
【解決手段】セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、前記ペレット中の前記セルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて熱により溶融成形する工程により製造される事務機器に用いられる事務機器用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリなどに代表される事務機器の部材に関し、さらに詳しくはバイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分としながら、十分な耐熱性、機械的強度を有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気製品や事務機器の部材には、ポリスチレン、ポリスチレン−ABS樹脂共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタールなどの高分子材料が、耐熱性、機械強度、特に事務機器の場合には、事務機器特有の環境変動に対する機械強度の維持性に優れることから用いられてきた。
【0003】
上記の高分子材料は主に石油資源を原料としている。そのため、近年、原油備蓄量が世界的に減少しつつあること、および化石や鉱物燃料を燃焼した結果として生じる二酸化炭素などに起因した環境破壊が深刻な問題としてなっている。
【0004】
そこで、環境負荷を軽減し循環型社会を構築するために、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、我々のライフサイクルの中で太陽エネルギーによって二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、それを利用することにより再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーである。なかでも、セルロースおよびセルロースエステル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。
【0005】
現在商業的に利用されているセルロース誘導体の代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。また、これらセルロース誘導体を他の樹脂と組み合わせる試みなどもなされている。例えば、特開2003−306577号公報(特許文献1)では、連続層を構成するセルロース誘導体と、分散層を構成するポリスチレンなど熱可塑性樹脂とで構成された組成物が開示されている。また、特開平6−207047号公報(特許文献2)では、熱可塑的に加工可能なデンプンとセルロース誘導体とを含有し、良好な機械的特性を示すポリマーブレンドについて開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−306577号公報
【特許文献2】特開平6−207047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、概してバイオマス系材料を用いて射出成形などの成形方法により製造した事務機器用部材は、事務機器の部材に要求される耐熱性・機械的特性などの諸要求性能の観点からは必ずしも満足できるものではなかった。つまり、耐衝撃性などの機械的特性が劣るため、家電製品や事務用機器などの高度な特性が要求される部材として使用すると破損や変形などの問題が生じていた。また、上述の特許文献1や特許文献2に記載されているセルロース誘導体を含む組成物の射出成形品は、アイゾット衝撃強度が約1〜2以下と小さく、筐体などの事務機器としては使用することができなかった。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みて、バイオマス原料であるセルロースエステル樹脂を用いて製造される耐熱性、機械的特性に優れた事務機器用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<11>の構成により解決されることを見出した。
【0010】
<1> セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、前記ペレット中の前記セルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて熱により溶融成形する工程により製造される事務機器に用いられる事務機器用部材。
<2> 前記ペレットが、セルロースエステル樹脂組成物を溶融混錬して得られるストランドを、前記ストランドの表面温度を基準に0.1〜40℃/秒の冷却速度で空気中で冷却して、その後前記ストランドの表面温度が40〜100℃になるまで空気中で冷却した後に、前記ストランドを切断して得られるペレットである<1>に記載の事務機器用部材。
<3> 前記セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂が、下記式(1)〜(3)を満たす<1>または<2>のいずれかに記載の事務機器用部材。
式(1):2.0≦X+Y≦3.0
式(2):0.1≦X≦0.5
式(3):1.9≦Y≦2.7
(Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
<4> 前記熱により溶融成形する工程が、射出成形または圧縮成形である<1>〜<3>に記載の事務機器用部材。
<5> 前記射出成形または圧縮成形を金型温度90〜130℃で行う<4>に記載の事務機器用部材。
<6> 前記事務機器が、複写機、プリンターまたはファクシミリである<1>〜<5>のいずれかに記載の事務機器用部材。
<7> <1>〜<6>のいずれかに記載の事務機器用部材で構成される筐体。
<8> セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、前記ペレット中の前記セルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて、前記ペレットを熱により溶融成形する工程を含むことを特徴とする事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
<9> 前記ペレットが、セルロースエステル樹脂組成物を溶融混錬して得られるストランドを、前記ストランドの表面温度を基準に0.1〜40℃/秒の冷却速度で空気中で冷却して、その後前記ストランドの表面温度が40〜100℃になるまで空気中で冷却した後に、前記ストランドを切断して得られるペレットである<8>に記載の事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
<10> 前記セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂が、下記式(1)〜(3)を満たす<8>または<9>に記載の事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
式(1):2.0≦X+Y≦3.0
式(2):0.1≦X≦0.5
式(3):1.9≦Y≦2.7
(Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
<11> 前記ペレットを熱により溶融成形する工程が、射出成形または圧縮成形であることを特徴とする<7>〜<10>のいずれかに記載の事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
<12> 前記射出成形または圧縮成形における金型温度が90〜130℃である<11>に記載の事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の事務機器用部材は、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、該ペレット中に存在するセルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて、前記ペレットを熱により溶融成形することにより、特に射出成形により製造される。
【0012】
<セルロースエステル樹脂組成物>
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂と、添加剤などの任意の成分からなる組成物である。セルロースエステル樹脂とは、セルロースを構成するグルコース単位に含まれる2,3および6位の3個の水酸基の一部または全部を、アセチル基およびアシル基(特に、炭素原子数が3以上)で置換して得られる樹脂である。セルロースアセテートプロピオネートは、主にアセチル基とプロピオニル基とを置換基として有するセルロースエステル樹脂である。セルロースアセテートブチレートは、主にアセチル基とブチリル基とを置換基として有するセルロースエステル樹脂である。なお、セルロースを構成するグルコース単位に含まれる3個の水酸基が、置換基(例えば、アセチル基)により置換される数の平均値を置換度として表す。3個の水酸基が全て置換された場合は、置換度は3.0となる。
【0013】
本発明でセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂は、下記式(1)〜(3)で表される置換度の条件を満たすことが好ましい。なお、セルロースアセテートプロピオネートの場合、Yはプロピオニル基の置換度を表し、セルロースアセテートブチレートの場合、Yはブチリル基を表す。
式(1):2.0≦X+Y≦3.0
式(2):0.1≦X≦0.5
式(3):1.9≦Y≦2.7
(Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
【0014】
下記式(4)〜(6)を満たすことが、より好ましい。
式(4):2.5≦X+Y≦3.0
式(5):0.2≦X≦0.5
式(6):2.3≦Y≦2.8
【0015】
下記式(7)〜(9)を満たすことが、より好ましい。
式(7):2.7≦X+Y≦3.0
式(8):0.2≦X≦0.4
式(9):2.5≦Y≦2.8
【0016】
置換度が上記範囲内であると、樹脂溶融時の良好な流動性と、耐衝撃性などの機械的強度の両立という観点から好ましい。また、セルロースアセテートプロピオネートの場合、プロピオニル基の置換度が上記範囲を満足すると、射出成形後の分子配向等が起こりやすくなり、特に機械的強度が向上する。セルロースアセテートブチレートの場合、ブチリル基の置換度が上記範囲を満足する場合にも同様である。
【0017】
置換度は、核磁気共鳴装置(NMR)などによって測定することができる。
【0018】
セルロースエステル樹脂のガラス転移温度は、分子量や置換度などによって異なるが、通常130〜170℃で、好ましくは135〜155℃である。ガラス転移温度は、公知のDSC(示差走査熱量計)を用いて測定される。
【0019】
セルロースエステル樹脂組成物中のセルロースアセテートプロピオネートまたは/およびセルロースアセテートブチレートの含有量は、50〜100質量%、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは70〜90質量%である。この範囲内であると、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの特徴を埋もれさせることなく発現し、耐衝撃性などの機械的強度に優れたセルロースエステル樹脂組成物が得られるという点で好ましい。
【0020】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレート以外のセルロースエステル樹脂を加えてもよい。例えば、アシル基(脂肪族アシル基または芳香族アシルで、例えば、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイルなどを挙げることができる。)とアセチル基とで置換されたセルロースエステル樹脂、セルロース無機酸エステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなど)などが挙げられる。
【0021】
本発明で用いられるセルロースエステル樹脂の重量平均分子量は、後述するペレットの特性を満足するように適宜選択されるが、通常、重量平均分子量が150000〜250000、好ましくは180000〜250000のセルロースエステル樹脂が選択される。
【0022】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じた各種の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、結晶核剤、劣化防止剤、フィラー、離型剤、帯電防止剤、難燃剤など)を加えてもよい。セルロースエステル樹脂組成物中の該添加剤の含有量は、添加剤の種類や使用目的に応じて適宜最適な量が選択されるが、通常0.1〜40質量%、好ましくは0.15〜30質量%である。添加方法は特に限定されないが、通常、後述するペレット化時に混入させることが好ましい。また、添加剤を高濃度に含有するペレットを、射出成形時に所望の添加量になるように、セルロースエステル樹脂組成物のペレットと混合して射出成形機に投入してもよい。
【0023】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を加えてもよい。例えば、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルエステル系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。セルロースエステル樹脂組成物中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、使用用途や樹脂の種類などによって適宜選択されるが、通常1〜40質量%、好ましくは1.5〜30質量%である。
【0024】
本発明に使用されるセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステル樹脂は、市販品を使用してもよい。また、公知の合成方法を、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、発明協会公開情報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7〜12頁に記載されている方法などが挙げられる。以下にセルロースエステル樹脂の合成法を詳述する。
【0025】
セルロース原料としては、特に制限はないが、例えば、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンカー由来のものが好適に挙げられる。また、前記セルロース原料としては、α―セルロース含量が92質量%以上99.9質量%以下の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、前処理として、予め解砕しておくことが好ましい。
【0026】
セルロース原料はエステル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。前記活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、エステル化の条件を調節したりすることが好ましい。前記活性化剤は、いかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては、噴霧、滴下、浸漬などの方法から適宜選択することができる。
【0027】
前記活性化剤として用いられるカルボン酸としては、特に制限はないが、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸が好ましい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、ヘキサン酸、2,2―ジメチルプロピオン酸などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのエステル化のために触媒を加えることもできる。前記触媒の添加量は、セルロースに対して0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0029】
前記活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。前記活性化剤の量が5質量%未満であると、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じることがある。前記活性化剤の添加量の上限は、生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。前記活性化剤は、セルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、濾過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0030】
前記活性化の時間は、20分以上72時間以下が好ましく、20分以上24時間以下がより好ましく、20分以上12時間以下が特に好ましい。前記活性化の時間が20分未満であると、充分に活性化ができないことがあり、72時間を超えると、活性化の時間が長すぎて生産性に影響を及ぼすことがある。前記活性化の温度は、0℃以上90℃以下が好ましく、15℃以上80℃以下がより好ましく、20℃以上60℃以下が特に好ましい。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。前記活性化は、常圧で行ってもよいし、加圧または減圧条件下で行ってもよい。
【0031】
前記セルロースエステル樹脂の合成方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をエステル化することが好ましい。前記エステル化の方法としては、エステル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースエステル樹脂を一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて残存する水酸基を更にエステル化する方法などが挙げられる。
【0032】
前記カルボン酸の酸無水物としては、例えば、カルボン酸としての炭素数2〜7のものが挙げられる。このような、カルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物等の無水物が好ましく、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物が特に好ましい。
【0033】
前記エステル化の触媒としては、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、例えば、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。好ましいルイス酸の例としては、例えば、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。前記触媒の添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、3〜12質量%が特に好ましい
【0034】
エステル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。これらのなかでも、カルボン酸が好ましい。前記カルボン酸としては、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸が挙げられる。前記炭素数2〜7のカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
エステル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよいし、これらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、酸無水物と触媒との混合物、又は、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をエステル化剤として調整してからセルロースと反応させることが好ましい。エステル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、エステル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。前記エステル化剤の冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。エステル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、又はブロック状の固体として添加してもよい。前記エステル化剤は、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、エステル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。エステル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のエステル化剤を用いても、複数の組成の異なるエステル化剤を用いてもよい。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0036】
セルロースのエステル化は発熱反応であるが、エステル化の際の最高温度が50℃以下であることが好ましく、45℃以下がより好ましく、40℃以下が特に好ましく、35℃以下が最も好ましい。反応温度が50℃を超えると、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースエステル樹脂を得難くなるなどの不都合が生じることがある。反応温度は温度調節装置を用いて制御してもよいし、エステル化剤の初期温度で制御してもよく、反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。エステル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。エステル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察等の手段により決定することができる。前記エステル化の際の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。前記エステル化の時間は、0.5時間以上24時間以下であり、1時間以上12時間以下がより好ましく、1.5時間以上6時間以下が特に好ましい。0.5時間以下では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
【0037】
前記セルロースエステル樹脂の合成方法においては、エステル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。前記反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、これらを含有する組成物などが好適に挙げられる。また、反応停止剤には、後述の中和剤を含んでいてもよい。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースエステル樹脂の重合度を低下させる原因となったり、セルロースエステル樹脂が望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は、任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5〜80質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、15〜50質量%であることが特に好ましい。前記反応停止剤は、エステル化の反応容器に添加してもよいし、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。前記反応停止剤の添加時間は、3分以上3時間以下がより好ましく、4分以上2時間以下がより好ましく、5分以上1時間以下が特に好ましく、10分以上45分以下が最も好ましい。反応停止剤の添加時間が3分未満であると、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースエステル樹脂の安定性を低下させたりするなどの不都合が生じることがある。また、反応停止剤の添加時間が3時間を超えると、工業的な生産性の低下などの問題を生じることがある。反応停止剤を添加する際には、反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0038】
エステル化の反応を停止させる際に、あるいはエステル化の反応停止後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸及びエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤またはその溶液を添加してもよい。前記中和剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛等の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物、酸化物などが挙げられる。前記中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、これらの混合溶媒が好適に挙げられる。
【0039】
このようにして得られたセルロースエステル樹脂は、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのエステル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースエステル樹脂のエステル置換度を所望の程度まで減少させること、いわゆる熟成が一般的に行われる。加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。所望のセルロースエステル樹脂が得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0040】
セルロースエステル樹脂中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、反応混合物(ドープ)の濾過を行うことが好ましい。濾過は、エステル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。濾過圧や取り扱い性の制御の目的から、濾過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0041】
このようにして得られたセルロースエステル樹脂溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースエステル樹脂溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースエステル樹脂を再沈殿させ、洗浄及び安定化処理により目的のセルロースエステル樹脂を得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースエステル樹脂溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースエステル樹脂の置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースエステル樹脂の形態や分子量分布を制御することも好ましい。
【0042】
生成したセルロースエステル樹脂は、洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒は、セルロースエステル樹脂の溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでもよいが、通常は、水または温水が用いられる。前記洗浄溶媒の温度は、25℃ないし100℃が好ましく、30℃ないし90℃がより好ましく、40℃ないし80℃が特に好ましい。前記洗浄処理は、濾過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄処理で発生した廃液を、再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。前記洗浄の進行を確認する方法としては、特に制限はないが、例えば、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、高周波プラズマ発光分析(ICP)、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法が好適に挙げられる。前記洗浄処理により、セルロースエステル樹脂中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物又は酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースエステル樹脂の安定性を高めるために有効である。温水による洗浄処理後のセルロースエステル樹脂は、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリの水溶液などで処理することも好ましい。前記弱アルカリの水溶液としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物などが挙げられる。残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにエステル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定する。
【0043】
前記セルロースエステル樹脂の含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステル樹脂を乾燥することが好ましい。前記乾燥の方法としては、目的とする含水率が得られるのであれば特に制限はないが、加熱、送風、減圧、攪拌等の手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。前記乾燥温度は、0〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましく、50〜160℃が特に好ましい。本発明のセルロースエステル樹脂は、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
<ペレット化>
セルロースエステル樹脂組成物は、必要に応じて配合される各種添加剤とともに、または樹脂成分のみで、射出成形前に混合しペレット化される。ペレット化を行うにあたり、事前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥方法としては、特に制限はないが、加熱炉内にて110℃で2時間以上、好ましくは110℃で3時間以上加熱する方法などが挙げられる。また、80℃で12時間の加熱後に、110℃で3時間の加熱処理などのように異なる温度で組み合わせてもよい。
【0045】
ペレットの製造にあたり使用される押出機としては、セルロースエステル樹脂組成物を溶融混練して、ストランド状に押出できるものであれば特に制限はないが、二軸押出機が好ましく、溶融混練時に原料樹脂に含まれる揮発成分を除去するためベント部を備えたものがより好ましい。二軸押出機のスクリューの回転方向は同方向でも異方向でもよい。また、ベント部を備えている場合はベント数に特に制限はないが、1〜5段のベント数のものがよく用いられる。押出機へのセルロースエステル樹脂や他種ポリマー、各種添加剤等の供給は最も基部側に供給されるのが通常であるが、樹脂の混練状態を変えるため、あるいは添加剤のベントへの吸引を避けるために、押出機の途中にサイドフィーダーを数段設けて原料成分の一部あるいは特定成分の全部をそこから供給してもよい。また、押出機に供給する前に、セルロースエステル樹脂や各種添加剤をドライブレンドしてもよい。
【0046】
押出機のダイスからセルロースエステル樹脂を溶融状態でストランドとして押出すにあたって、ストランドの断面形状は通常は円形であるが、楕円形や多角形でも構わない。押出機のシリンダー設定温度(混錬機設定温度ともいう)は、セルロースエステル樹脂の種類(分子量、分子量分布など)や添加剤などによって適宜最適な温度が選択されるが、通常、170〜250℃、好ましくは210〜240℃である。シリンダー設定温度が低すぎると、樹脂の流動性が悪化してストランドが得られない。シリンダー設定温度が高すぎると、熱劣化による分子量の低下や樹脂の黄変を招くことになる。押出機の回転数は、セルロースエステル樹脂の種類や添加剤などによって適宜最適な温度が選択されるが、通常80rpm〜120rpmが好ましく、90rpm〜110rpmがより好ましい。回転速度が遅すぎると、滞留時間が長くなり熱劣化や黄変が起こりやすくなる。回転数が速すぎると、剪断により分子の切断が起こりやすくなり、分子量の低下を招く。押出機内での滞留時間は5秒〜3分以内が好ましく、5秒〜2分以内がより好ましい。なお、ペレット化の際には、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましく、その場合は不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)や減圧状態にしておくことで達成できる。
【0047】
押出機で押出されたセルロースエステル樹脂のストランドは、次いで冷却される。この冷却工程は押出機から切断工程までストランドを引き取る間に、空冷する工程である。空冷の場合は、冷風等を吹きかけることによってより一層、冷却速度を上げることが可能である。
【0048】
ストランドの冷却速度は、ストランドの表面温度を基準に0.1〜40℃/秒、好ましくは1〜35℃/秒、特に好ましくは10〜30℃/秒である。0.1℃/秒よりも小さいと、冷却するのに長時間を要してしまい、生産性の観点から好ましくない。40℃/秒よりも大きいと、ストランドの表面温度の制御が困難であり、また特殊な冷却設備を要するため好ましくない。なお、ストランドの冷却速度とは、押出機で押し出される直前の樹脂温度と冷却後のストランドの表面温度との差を、冷却時間(押し出された時点から、ストランドが冷却されるまでの時間)で除した値である。また、ストランドの表面温度の測定方法は特に限定されないが、触針式の熱伝対や赤外線を用いる非接触式の放射温度計等で測定することができる。
【0049】
空冷により冷却する場合、ペレタイザーの引き取り速度や、押出機とペレタイザーまでの距離などを調節することによって冷却速度を制御することができる。
【0050】
ストランドの表面温度が30〜100℃、好ましくは40〜90℃になるまで冷却する。表面温度が高すぎると、切断がうまくいかず操業性に問題が生じることがある。表面温度が低すぎると、ストランドが硬くなりすぎて切断工程でのペレットの欠けや微粉が発生しやすくなる。ストランドの表面温度が該温度に達した後、必要に応じて所定時間(好ましくは1〜30秒間、より好ましくは10〜60秒間)、該温度でストランドを保持することができる。保持することによりストランドの中心部まで固化させることができる。
【0051】
ストランドの直径は、2〜10mm、好ましくは3〜8mmの範囲から選択される。ストランドの径は製品ペレットの太さに相当するもので、2mmより小さいとハンドリングがしにくくなり、成形等の加工時の原料計量に際して誤差を生じやすく好ましくない。10mmを超えるとストランドが冷却されにくく中心部に気泡などを生じやすくなり好ましくない。なお、ストランドの断面が楕円の場合は、その長径を上記直径とする。ストランドの直径を調節する方法としては、例えばストランドカッターによるストランドの引き取り速度を調節する方法、押出機のダイ穴の直径を調節する方法等が挙げられるが、いずれの方法を用いても構わない。
【0052】
ストランドを溶融状態から適切な温度まで冷却した後、ペレタイザーなどで切断してペレット化する。ペレタイザーは通常ストランドカッターと呼称されるものであれば、構造や形状などは限定されるものでない。カッターの形状、刃の枚数、回転数や引き取り速度などについては、押出機の押し出し能力、ダイスのノズル数やペレットの所望形状に応じて適宜に選択される。
【0053】
本発明で使用するペレットは、上記方法により製造しても、市販品として購入してもよいが、上記方法により製造したペレットが好ましい。上記方法により製造したペレットは、混錬後に水を用いた冷却ではなく空冷による冷却を行っているため、樹脂の劣化が進んでいない状態の高強度のストランドを得ている。これをカットしてペレットを得ているため、これを用いて成形を行えば、均一な性質を有する樹脂成形品を得ることができる。さらに、理由の詳細は不明だが、上記冷却速度で得られるペレット中で過度の結晶成長が抑制され、樹脂が射出成形に適した結晶状態にあると推測される。なお、本発明は該推測に限定されない。なお、本発明で得られた成形品は良好な諸性能(アイゾット衝撃強度など)を示す。
【0054】
<ペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量>
本発明において使用されるペレット中に存在するセルロースエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量Mw(weight-average molecular weight)は、150000〜250000であり、好ましくは160000〜250000であり、より好ましくは180000〜250000である。なお、上記測定は射出成形に使用するペレットをテトラヒドロフランに溶解させ、ポリスチレンを標準試料として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行うことができる。重量平均分子量が150000より小さいと、耐熱性・機械的強度の点から好ましくない。250000を超えると、溶融粘度が過度に上昇し、溶融状態での流動性が悪化してしまう点が好ましくない。上記範囲がペレットを用いると、耐熱性を保持したまま、特に耐衝撃性改良の効果が非常に顕著となる。詳細な理由については不明だが、分子量の下限値については、高分子鎖のからみあいの起こりやすさなどが関係していると推測される。なお、ペレット中にセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート以外の他の樹脂が含まれている場合の重量平均分子量は、テトラヒドロフランに溶解した他の樹脂を含めたセルロースエステル樹脂のGPCにより測定される分子量分布のチャートから計算される重量平均分子量を意味する。
【0055】
分子量分布については、特に制限はないが、過度に広すぎる分子量分布は、射出成形品の機械的特性などの観点から好ましくない。分子量分布の指標として重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnを用いた場合、好ましくはMw/Mn=1.5〜4.0、さらに好ましくは1.6〜3.5、特に好ましくは1.7〜3.0である。
【0056】
ペレット中に存在するセルロースエステル樹脂の重量平均分子量の制御方法としては、特に限定されないが、例えば、セルロースエステル原料を予め加熱し、セルロースエステル樹脂の主鎖の一部を切断して所望の重量平均分子量を得てもよい。また、ペレット化時や後述する射出成形時における加熱温度、滞留時間、スクリューの形態などを調整することで、所望の分子量変化を達成してもよい。
【0057】
また、重量平均分子量が異なる2種以上のセルロースエステル樹脂を所定の配合割合で混合して、溶融混錬することによりペレット化する方法もある。具体的には、重量平均分子量200000〜250000のセルロースエステル樹脂(樹脂X)と、重量平均分子量50000〜100000のセルロースエステル樹脂(樹脂Y)を、樹脂X100質量部に対して、樹脂Y1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部で混合し、前述の方法によりペレット化することにより、所望の重量平均分子量をもつペレットを得ることができる。
【0058】
<溶融成形する工程>
本発明の事務機器用部材は、上述のセルロースエステル樹脂組成物のペレットを用いて、熱により溶融成形することにより製造される。溶融成形する工程としては、例えば、射出成形、圧縮成形などが挙げられ、特に射出成形が好ましい。
【0059】
<射出成形>
本発明の事務機器用部材は、セルロースエステル樹脂組成物のペレットを用いて射出成形することにより得られる。射出成形には、一般的には射出成形機が使用される。射出成形の方法としては、例えば、ペレットを射出成形器のホッパーに投入し、成形材料が均一に混合されるように回転数を設定したスクリューで、シリンダーに送られ、次いで、金型へと射出する方法がある。
【0060】
射出成形に使用するペレットは、水分量を低減させるために、前処理として使用前に乾燥することが好ましい。乾燥の方法としては、特に限定されないが、例えば、除湿風乾機などが挙げられる。乾燥温度は、80〜125℃が好ましく、90〜120℃がより好ましい。乾燥温度が高すぎると、ペレットが融着してしまい好ましくない。低すぎると、乾燥に長時間要し好ましくない。乾燥時間は、1〜12時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。また、必要に応じて、各種添加剤を含んだペレットとドライブレンドしてもよい。
【0061】
ホッパーから投入されたペレットは、スクリューの回転でシリンダー内に供給される。シリンダー内は、ペレットを定量輸送する供給部、樹脂を溶融混錬・圧縮する圧縮部、溶融混錬・圧縮された樹脂を計量する計量部で構成される。スクリューの回転数は、樹脂の種類やシリンダー温度などによって適宜最適な値が選択されるが、通常80〜120rpmの範囲で適宜選択される。シリンダー設定温度は、樹脂の種類、分子量、分子量分布などによって適宜最適な値が選択されるが、通常170〜250℃、好ましくは210〜240℃の範囲で適宜選択される。シリンダー設定温度が過度に低いと樹脂の流動性が悪化し、成形体にヒケやひずみを生じる。シリンダー設定温度が過度に高いと、樹脂の熱分解や成形体が黄変するなどの成形不良が発生するおそれがある。
【0062】
シリンダーから金型への射出圧は、金型の設計やセルロースエステル樹脂の流動性などの条件を考慮して適宜選択されるが、通常40〜90MPaの範囲で行われる。保圧は、射出圧によって金型が略充填された後、金型のゲート部分の溶融樹脂が冷却固化するまでの一定時間かけられる圧力である。保圧は一般に金型の締め圧の範囲内で設定されるが、通常60〜120MPa、好ましくは70〜110MPaである。保圧がこの範囲であれば、成形体に歪みやひけの発生が防止される場合が多い。金型温度は、セルロースエステル樹脂の種類や上記射出条件などを考慮して設定されるが、90〜130℃が好ましく、90〜120℃が特に好ましい。金型温度がこの範囲内であれば、成形体に歪みやひけの発生が少ない。また、射出成形機に過度の負担をかけずに、長時間使用が可能であるという装置性能上の観点からも上記範囲が好ましい。金型温度が低すぎると、型内で樹脂の流動性が急激に低下し、樹脂が十分に充填されないことがある。金型温度が高すぎると、離型性が悪化しサンプルを採集できないこともあるし、また採集できても変形してしまうことがある。また、成形品の冷却速度が遅くなるため成形サイクルが長くなるという点からも好ましくない。金型内での保持時間は、金型や樹脂の温度によって適宜最適な条件が設定されるが、生産性の観点から、10〜300秒が好ましく、10〜60秒がより好ましい。
【0063】
圧縮成形の場合は、セルロースエステル樹脂組成物のペレットを溶融させ、上述の射出成形の金型温度、金型保持時間などと同様の条件で、圧縮成形することにより事務機器用部材を製造することができる。
【0064】
本発明の事務機器用部材は、ISO180に準ずるアイゾット衝撃強度が4kJ/m以上であることが好ましく、4.5kJ/m以上であることがより好ましく、5kJ/m以上であることが更に好ましい。アイゾット衝撃強度が、4kJ/m以上になると、事務機器の機械的強度が増すため、あらゆる衝撃に強くなる。また、使用環境下での長時間使用の際に、割れなどが起こりにくくなる。ここで、ISO180に準ずるアイゾット衝撃強度とは、部材からISO180に規定の試験サイズを1/2に縮尺したサイズの試験片を切り出し、試験片として、切り出した1/2に縮尺したサイズの試験片を用いること以外、ISO180に規定のアイゾット衝撃強度の測定方法に従い、測定した値をいう。なお、測定は25℃で実施し、試験片はノッチ付きでノッチ深さ2.0±0.1mmである。
【0065】
本発明の事務機器用部材は、生分解性高分子を主成分とするため、使用後に例えば、堆肥中や水中に廃棄することで、自然環境に負荷を与えることなく水や二酸化炭素などに分解し、また特定の酵素が存在する環境を作れば、分解速度を自由に制御することも、モノマー、オリゴマーの段階で分解を停止させ、ケミリサイクルを行うことも可能である。
【0066】
本発明の事務機器用部材が使用される事務機器としては、プリンター、複写機又はファクシミリが好ましく挙げられ、特に複写機が好ましい。また、事務機器用部材は、筐体、プラテン、給紙トレイ、プロセスカートリッジ外装又はトナーボトルなどへの使用が好ましく挙げられる。特に、衝撃に対する強度が強く、経時にともなう衝撃強度の変化が小さいことが好ましい。また、熱的安定性に優れ、光に対しても機械物性の低下が少なく、リサイクル性にも優れているため事務機器用の筐体、特に複写機の筐体として好ましい。
【0067】
本発明で使用されるセルロースエステル樹脂は、ポリ乳酸などの他のバイオマス材料と比較して、概して、ガラス転移温度(例えば、140−150℃)などが高く耐熱性に優れると共に、機械的強度に関しても良好な性能を示す。そのため、バイオマス材料の性能を補うために石油原料から製造される樹脂を大量に混ぜるような従来の方法に頼らなくても、セルロースエステル樹脂を主成分とし、厳しい環境下で長時間使用に耐えうる事務機器(プリンター、複写機又はファクシミリなど)や家電製品(冷蔵庫、洗濯機など)の部材として使用することができる。
さらに、事務機器や家電製品用の部材の作製には、多量の樹脂素材が必要となるが、資源量のことを考慮すれば、ポリ乳酸の原料(とうもろこしなど)よりもセルロース系材料の原料の方が、豊富に存在すると見込まれることから、事務機器用部材には本発明が有効なものとなる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
<GPC測定条件>
装置 ポンプ:HLC−8220GPC(東ソー(株)製)(検出器:RI使用)
カラム :Shodex GPC KF−806L×3 (昭和電工製)
(前処理:メンブレンフィルター (0.2μm)で濾過)
分析条件
カラム温度:40℃
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :0.2質量%
注入量 : 100μl
標準 :標準ポリスチレン
(データ処理装置:SC−8010(東ソー株式会社製)
【0070】
アイゾット衝撃強度を既述のISO180に準ずる方法で測定した。
【0071】
<合成1>
セルロース(広葉樹パルプ)150質量部、酢酸75質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を作製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。その後、内温を5℃まで冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120質量部を1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に、等重量の水と、等重量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1000質量部、33質量%含水酢酸500質量部、50質量%含水酢酸1000質量部、水1000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートは温水にて十分に洗浄した。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまでさらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。H−NMR測定より、得られたセルロースアセテートプロピオネート(以後、合成品1)のX(アセチル基の置換度)=0.15、Y(プロピオニル基の置換度)=2.55であった(水酸基の置換度は0.3)。また、GPC測定より、重量平均分子量(Mw)は250000(Mw/Mn=2.60)であった。
【0072】
<合成2>
上記<合成1>と同様の手順で、置換度の異なるセルロースアセテートプロピオネートを合成した。H−NMR測定より、得られたセルロースアセテートプロピオネート(以後、合成品2)のX(アセチル基の置換度)=0.15、Y(プロピオニル基の置換度)=2.55であった(水酸基の置換度は0.3)。また、GPC測定より、重量平均分子量(Mw)は265000(Mw/Mn=2.55)であった。
【0073】
<実施例1>
原料であるセルロースアセテートプロピオネートA(イーストマンケミカル製、CAP482−20、アセチル基の置換度は0.1、プロピオニル基の置換度2.5、重量平均分子量は228000、Mw/Mn=2.90)の粉末を110℃で3時間加熱乾燥した。乾燥した粉末を2軸混練押出機を用い、樹脂温度227℃(混練機設定温度は、215℃)、スクリュー回転数100rpm、樹脂圧力:2.0〜3.0Mpa、トルク:90〜95 Nm、フィード量:8kg/hrでダイから押出し、ストランドを空冷(冷却速度15℃/秒)で固化(ストランドの表面温度77℃)した後に裁断して直径5.5mm、長さ6mmのペレットを得た。
得られたペレットをテトラヒドロフランに溶解させ、GPC測定を実施したところ重量平均分子量は186000(Mw/Mn=2.51)であった。
得られたペレットを110℃で3時間加熱乾燥後、射出成形機(クロックナー社製F40)を用いて、金型温度:110℃、金型内保持時間:30秒、シリンダー設定温度215℃、射出圧:64.0MPa、保圧:90.6MPa、の条件で、樹脂を成形した。各測定に必要な試験品は、あらかじめ目的のサイズで成形試験片を作製することとし、アイゾット衝撃強度測定試験片の場合には、たて : 80mm、 横 : 10mm、厚み: 4mmの短冊形試験片を測定に用いた。その結果を表1に示す。
【0074】
<実施例2>
原料としてセルロースアセテートプロピオネートA(イーストマンケミカル製、CAP482−20、アセチル基の置換度は0.1、プロピオニル基の置換度2.5、重量平均分子量は228000、Mw/Mn=2.90)とセルロースアセテートプロピオネートB(イーストマンケミカル製、CAP482−0.5、アセチル基の置換度は0.1、プロピオニル基の置換度2.6、重量平均分子量は74000、Mw/Mn=2.40)とを表2の割合で混合した樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ159000(Mw/Mn=2.75)であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0075】
<実施例3>
原料として合成品1を使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ250000(Mw/Mn=2.60)であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0076】
<実施例4>
実施例1で使用したペレットを用い、金型温度を90℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0077】
<実施例5>
実施例1で使用したペレットを用い、金型温度を130℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0078】
<比較例1>
原料としてセルロースアセテートプロピオネートAとセルロースアセテートプロピオネートBとを表2の割合で混合した樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ135000(Mw/Mn=2.99)であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0079】
<比較例2>
原料としてセルロースアセテートプロピオネートAとセルロースアセテートプロピオネートBとを表2の割合で混合した樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ99000であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0080】
<比較例3>
原料としてセルロースアセテートプロピオネートBを使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ74000(Mw/Mn=2.32)であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0081】
<比較例4>
水槽を用いてストランドを冷却した以外は、実施例1と同様の条件でペレットの作成を実施したが、ストランドがもろくなり、切断用のペレタイザーでストランドを連続的に導入し、裁断するという作業ができなかった(ペレットを得ることが出来なかった)。
【0082】
<比較例5>
原料として合成品1を使用した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
得られたペレット中のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量を、実施例1と同様に測定したところ265000(Mw/Mn=2.55)であった。
得られたペレットを用いて実施例1と同様の条件で射出成形を行ったが、金型内に溶融樹脂が充填せず、目的の射出成形品が得られなかった。
【0083】
<比較例6>
原料としてポリ乳酸(三井化学製、ポリ乳酸樹脂H−100、重量平均分子量Mw=45000)のペレットを用い、ペレットを80℃で3時間加熱乾燥後、シリンダー設定温度を180℃、金型温度を25℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0084】
<比較例7>
金型温度を110℃に変更した以外は、実施例6と同様の条件で射出成形を行い、実施例1と同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

表1中の重量平均分子量:得られたペレットをテトラヒドロフランに溶解させ、GPC測定により得られた値である。
表1中の※1:比較例4ではペレットが得られなかったため、アイゾット衝撃強度の測定は不可。
表1中の※2:比較例5では、金型内に樹脂が充填せず射出成形品が得られなかった。
【0086】
【表2】

表2中の樹脂A、樹脂B、合成品1、合成品のセルロースエステル樹脂組成物中の含有量を、質量%として表した。なお、比較例6および7はポリ乳酸をセルロースエステル樹脂の代わりに使用した。
セルロースアセテートプロピオネートA:イーストマンケミカル製、CAP482−20
セルロースアセテートプロピオネートB:イーストマンケミカル製、CAP482−0.5
合成品1:上記<合成1>で得られたセルロースエステル
合成品2:上記<合成2>で得られたセルロースエステル
ポリ乳酸:三井化学製、ポリ乳酸樹脂H−100
【0087】
表1より実施例1〜5において良好なアイゾット衝撃強度が得られた。一方、比較例1〜7においては、概して低いアイゾット衝撃強度が得られ、事務機器用部材の使用としては不適であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、前記ペレット中の前記セルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて熱により溶融成形する工程により製造される事務機器に用いられる事務機器用部材。
【請求項2】
前記ペレットが、セルロースエステル樹脂組成物を溶融混錬して得られるストランドを、前記ストランドの表面温度を基準に0.1〜40℃/秒の冷却速度で空気中で冷却して、その後前記ストランドの表面温度が40〜100℃になるまで空気中で冷却した後に、前記ストランドを切断して得られるペレットである請求項1に記載の事務機器用部材。
【請求項3】
前記熱により溶融成形する工程が、射出成形または圧縮成形である請求項1または2に記載の事務機器用部材。
【請求項4】
前記射出成形または圧縮成形を金型温度90〜130℃で行う請求項3に記載の事務機器用部材。
【請求項5】
前記事務機器が、複写機、プリンターまたはファクシミリである請求項1〜4のいずれかに記載の事務機器用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の事務機器用部材で構成される筐体。
【請求項7】
セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂組成物のペレットで、前記ペレット中の前記セルロースエステル樹脂の重量平均分子量が150000〜250000であるペレットを用いて、前記ペレットを熱により溶融成形する工程を含むことを特徴とする事務機器に用いられる事務機器用部材の製造方法。
【請求項8】
前記ペレットが、セルロースエステル樹脂組成物を溶融混錬して得られるストランドを、前記ストランドの表面温度を基準に0.1〜40℃/秒の冷却速度で空気中で冷却して、その後前記ストランドの表面温度が40〜100℃になるまで空気中で冷却した後に、前記ストランドを切断して得られるペレットである請求項7に記載の事務機器用部材の製造方法。
【請求項9】
前記セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートの少なくとも一つのセルロースエステル樹脂が、下記式(1)〜(3)を満たす請求項7または8に記載の事務機器用部材の製造方法。
式(1):2.0≦X+Y≦3.0
式(2):0.1≦X≦0.5
式(3):1.9≦Y≦2.7
(Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
【請求項10】
前記ペレットを熱により溶融成形する工程が、射出成形または圧縮成形であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の事務機器用部材の製造方法。
【請求項11】
前記射出成形または圧縮成形における金型温度が90〜130℃である請求項10に記載の事務機器用部材の製造方法。

【公開番号】特開2009−167253(P2009−167253A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4626(P2008−4626)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】