説明

二つ割り軸受

【課題】長期に亘って安定して使用可能なシール性能に優れた二つ割り軸受を提供する。
【解決手段】ガイドロール2に固定された内輪4と、ハウジング12a,12bに固定された外輪6と、内外輪間に転動自在に設けられた複数の転動体8と、ガイドロールとハウジングとの間に設けられた密封装置とを備えた二つ割り軸受であって、密封装置は、基端側がハウジングに固定され且つ軸心に沿って同心円状に延出した中空円筒状のラビリンスリング16と、ラビリンスリングの延出端側が非接触状態で挿入され且つガイドロールに形成された環状凹部18とを備えており、ラビリンスリングの延出端側の先端面22c、又は、当該先端面に対向した環状凹部の奥端面18cには、軸受内へ侵入する異物を外部へ押し出す押出機構(環状傾斜面K)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスケールや水、塵埃などの異物の浸入を防止する密封装置を備えた二つ割り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば連続鋳造設備のガイドロールには、その中間においてロール径が小さく絞られた小径ネック軸が設けられており、当該小径ネック軸には、軸心に沿って二分割された二つ割り軸受が一般的に用いられている(例えば、特許文献1)。例えば図4(a),(b)に示すように、二つ割り軸受は、軸心(ガイドロール2の回転軸ともいう)Rに沿って二分割された内輪4及び外輪6と、内外輪4,6間に転動自在に設けられた複数の転動体(ころ)8とを備えており、かかる軸受を小径ネック軸2aに組み込むことで、ガイドロール2を回転自在に支持している。
【0003】
二分割された内輪4は、その締結面4s同士を合わせた状態で小径ネック軸2aに外嵌固定されている。具体的に説明すると、各内輪4には、その締結面4aにボルト穴(図示しない)が形成されていると共に、内径側には、嵌合固定面4bが形成されている。この場合、締結面4a同士を合わせた状態で双方のボルト穴に締結ボルト10を捩じ込むことにより、二分割された内輪4が一体的に締結され、その際、嵌合固定面4bが小径ネック軸2aに圧接して外嵌されることで、当該内輪4を小径ネック軸2aに固定することができる。
【0004】
この状態において、内輪4には、その外径側に周方向に沿って連続した内輪軌道面4sが形成されていると共に、当該内輪軌道面4sの両側には、転動体(ころ)8を位置決めしつつ案内する鍔部4tが周方向に連続して形成されている。一方、外輪6は、ハウジング(例えば、プランマ上側本体12a、プランマ下側本体12b)に内嵌固定されており、その状態において、外輪6には、内輪軌道面4sに対向した位置に周方向に沿って連続した外輪軌道面6sが形成されている。
【0005】
このような二つ割り軸受によれば、内輪軌道面4sと外輪軌道面6sとの間に沿って複数の転動体(ころ)8が転動自在となり、これにより、ガイドロール2は、ハウジング12a,12bに対して回転自在に支持されることになる。なお、二つ割り軸受には、ハウジング12a,12bと内輪4との間(転動体(ころ)8の両側)に環状の密封部材14が介在されており、当該密封部材14は、基端がハウジング12a,12bに固定され、先端がリング状バネで内輪4に圧接されている。これにより、内輪軌道面4sと外輪軌道面6sとの間の空間が外部からシールされている。
【0006】
また、二つ割り軸受には、密封部材14の両外側に更に密封装置が設けられている。密封装置は、ガイドロール2の回転軸(軸心)Rに沿って同心円状に延出した中空円筒状のラビリンスリング16を備えており、ラビリンスリング16は、その基端側がハウジング12a,12bに固定され、その先端側(延出端側)がガイドロール2に形成された環状凹部18内に非接触状態で挿入されている。これにより、非接触のラビリンスシールが構成されている。
【0007】
具体的に説明すると、図5に示すように、ラビリンスリング16は、その基端側には外向フランジ部20が突設されていると共に、その先端側には中空円筒部22が設けられている。なお、ラビリンスリング16は、二つ割りに構成されているが、インロー構造24を適用したことで、位置ずれすること無く正確に一体化されている。
【0008】
中空円筒部22は、外向フランジ部20から回転軸R(図4(a))に沿って同心円状に延出しており、環状内周面22aと環状外周面22bとを有し、その先端(延出端)には平坦状の先端面22cが形成されている。一方、環状凹部18は、図4(b)に示すように、ラビリンスリング16に対向したガイドロール2の端面2sから回転軸R(図4(a))に沿って同心円状に延出しており、環状内周面18aと環状外周面18bとを有し、その奥端(延出端)には平坦状の奥端面18cが形成されている。
【0009】
このような密封装置において、ラビリンスリング16は、基端側の外向フランジ部20がハウジング12a,12bに固定(例えば、嵌合、接着、ねじ止め)され、先端側の中空円筒部22がガイドロール2の環状凹部18内に非接触状態で挿入されている。この場合、環状凹部18はガイドロール2と共に回転するが、ラビリンスリング16は、ハウジング12a,12bに固定されているため、回転することは無い。なお、ラビリンスリング16の環状内周面22aには、内輪4に固定されたピストンリング状のフッ素樹脂製シールリング26が接触しており、軸受内のシール性が確保されている。
【0010】
ところで、例えば連続鋳造設備の稼動中に、ガイドロール2が例えばスラブやブルームなどの鋼塊の熱で膨縮する場合があるため、上述した密封装置において、ラビリンスリング16と環状凹部18との間には、すきまが確保されている。ここで、図4(b)に示すように、ラビリンスリング16の中空円筒部22と環状凹部18との間において、中空円筒部22の環状内周面22aと環状凹部18の環状内周面18aとの間のすきまをα1、中空円筒部22の環状外周面22bと環状凹部18の環状外周面18bとの間のすきまをα2、中空円筒部22の先端面22cと環状凹部18の奥端面18cとの間のすきまをα3とすると、各すきまの大きさはα1≒α2<α3なる関係に設定されている。この場合、ガイドロール2の膨縮量は、特に軸心(回転軸)R方向で大きくなるため、すきまα3は比較的広く確保されている。
【0011】
しかしながら、このように両端面18c,22c間のすきまα3を広くすると、例えばスケールや水、塵埃などの異物が浸入し、当該すきまに溜まってガイドロール2の回転性能を低下させたり、或いは、すきまに浸入した異物がシールリング26を越えた場合には、密封部材14の磨耗や摩損を引き起こし、シール性能を低下させたりする虞がある。更に、軸受内に異物が浸入すると、転動体(ころ)8や内輪軌道面4s或いは外輪軌道面6sに圧痕や錆びを発生させることで、長期に亘って軸受を安定して使用し続けることが困難になってしまう場合もある。なお、スケールとは、金属表面に生成した酸化被膜(黒錆)などの総称である。
【特許文献1】特開昭62−278314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、長期に亘って安定して使用可能なシール性能に優れた二つ割り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明は、ガイドロールに固定された内輪と、ハウジングに固定された外輪と、内外輪間に転動自在に設けられた複数の転動体と、ガイドロールとハウジングとの間に設けられた密封装置とを備えた二つ割り軸受であって、密封装置は、基端側がハウジングに固定され且つ軸心に沿って同心円状に延出した中空円筒状のラビリンスリングと、ラビリンスリングの延出端側が非接触状態で挿入され且つガイドロールに形成された環状凹部とを備えており、ラビリンスリングの延出端側の先端面、又は、当該先端面に対向した環状凹部の奥端面には、軸受内へ侵入する異物を外部へ押し出す押出機構が設けられている。
【0014】
本発明において、押出機構は、ラビリンスリングの先端面に設けられており、当該先端面には、少なくともその一部に、先細り勾配を成す環状傾斜面が形成されている。また、押出機構は、環状凹部の奥端面に設けられており、当該奥端面には、少なくともその一部に、末広がり勾配を成す環状傾斜面が形成されている。この場合、環状傾斜面の勾配は、30°〜60°の角度範囲に設定されている。なお、ラビリンスリングは、内径をd、外径をD、先端面のうち環状傾斜面までの直径をd1とすると、d1≧d、d1<Dなる関係を満足して構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期に亘って安定して使用可能なシール性能に優れた二つ割り軸受を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る二つ割り軸受について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施の形態は、従来の二つ割り軸受(図4、図5)の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、従来と同一の構成には、図面上に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0017】
図1(a),(b)に示すように、本実施の形態の二つ割り軸受において、ラビリンスリング16には、その延出端側(先端側)の先端面22cに、軸受内へ侵入する異物(例えば、スケール、水、塵埃など)を外部へ押し出す押出機構が設けられている。具体的に説明すると、押出機構は、ラビリンスリング16を構成する中空円筒部22の先端面22cに設けられており、当該先端面22cには、少なくともその一部に、先細り勾配を成す環状傾斜面Kが形成されている。
【0018】
この場合、図2(a),(b)に示すように、環状傾斜面Kの勾配θは、30°〜60°の角度範囲に設定されている。また、ラビリンスリング16は、内径をd、外径をD、先端面22cのうち環状傾斜面Kまでの直径をd1とすると、d1≧d、d1<Dなる関係を満足して構成されている。なお、同図(b)では、環状傾斜面Kにハッチングを施しているが、これは環状傾斜面Kを目視確認し易くするためであり、断面を示すものでは無い。
【0019】
このような構成によれば、ラビリンスリング16の先端面22cに環状傾斜面Kを形成したことにより、例えば連続鋳造設備の稼動中に、ガイドロール2が例えばスラブやブルームなどの鋼塊の熱で膨縮して、中空円筒部22の先端面22cと環状凹部18の奥端面18cとの間のすきまα3(図4(b)参照)が増減した場合、当該すきまα3に浸入した異物には、環状傾斜面Kにより外部(軸受外径側)へ押し出す力が作用する。
【0020】
このとき、当該すきまに浸入した異物は、そのまま軸受外に排出され、すきま内に溜まることは無い。これにより、ガイドロール2の回転性能を常時一定に維持することができる。このような排出効果によれば、従来のようにすきまに浸入した異物がシールリング26を越えて入り込むといったことを防止することができるため、密封部材14の磨耗や摩損を引き起こすことは無く、シール性能を一定に維持することができる。この場合、転動体(ころ)8や内輪軌道面4s或いは外輪軌道面6sに圧痕や錆びの発生も無くなるため、長期に亘って軸受を安定して使用し続けることが可能となる。
【0021】
なお、上述した実施の形態では、ラビリンスリング16の先端面22cに環状傾斜面Kを形成したが、これに代えて例えば図3に示すように、環状凹部18の奥端面18cに押出機構を設けても良い。この変形例の押出機構において、奥端面18cには、少なくともその一部に、末広がり勾配を成す環状傾斜面Kが形成されている。この場合、環状傾斜面Kの勾配θは、30°〜60°の角度範囲に設定されている。
【0022】
このような構成によれば、環状凹部18の奥端面18cに環状傾斜面Kを形成したことにより、例えば連続鋳造設備の稼動中に、ガイドロール2が例えばスラブやブルームなどの鋼塊の熱で膨縮して、中空円筒部22の先端面22cと環状凹部18の奥端面18cとの間のすきまα3(図4(b)参照)が増減した場合、当該すきまα3に浸入した異物に対して、環状傾斜面Kにより外部(軸受外径側)へ押し出す力を作用させることができる。これにより、当該すきまに浸入した異物は、そのまま軸受外に排出され、すきま内に溜まることは無い。なお、他の効果は、上述した実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0023】
また、上述した実施の形態及び変形例では図面上、環状傾斜面Kは、ラビリンスリング16の先端面22c、及び、環状凹部18の奥端面18cの一部に形成されているが、各端面18c,22cの全体に亘って環状傾斜面Kを形成しても良い。また、上述した実施の形態及び変形例において、ラビリンスリング16の中空円筒部22の延出長さ、環状凹部18の奥行き長さについては特に言及しながったが、これらは例えば二つ割り軸受の大きさや形状、ガイドロール2の形状などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に数値限定はしない。また、ラビリンスリング16の材質は、例えば連続鋳造設備の使用環境や使用目的に応じて、耐熱性或いは耐水性に優れた材料が選択されるため、ここでは特に限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る二つ割り軸受の全体構成を示す部分断面図、(b)は、密封装置の構成を一部拡大して示す部分断面図。
【図2】(a)は、図1(a),(b)に示されたラビリンスリングの縦断面図、(b)は、ラビリンスリングの斜視図。
【図3】本発明の変形例に係る密封装置の構成を一部拡大して示す部分断面図。
【図4】(a)は、従来の二つ割り軸受の全体構成を示す部分断面図、(b)は、密封装置の構成を一部拡大して示す部分断面図。
【図5】図4(a),(b)に示されたラビリンスリングの斜視図。
【符号の説明】
【0025】
2 ガイドロール
4 内輪
6 外輪
8 転動体
12a,12b ハウジング
16 ラビリンスリング
18 環状凹部
18c 環状凹部の奥断面
22c ラビリンスリングの先端面
K 環状傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドロールに固定された内輪と、ハウジングに固定された外輪と、内外輪間に転動自在に設けられた複数の転動体と、ガイドロールとハウジングとの間に設けられた密封装置とを備えた二つ割り軸受であって、
密封装置は、基端側がハウジングに固定され且つ軸心に沿って同心円状に延出した中空円筒状のラビリンスリングと、ラビリンスリングの延出端側が非接触状態で挿入され且つガイドロールに形成された環状凹部とを備えており、
ラビリンスリングの延出端側の先端面、又は、当該先端面に対向した環状凹部の奥端面には、軸受内へ侵入する異物を外部へ押し出す押出機構が設けられていることを特徴とする二つ割り軸受。
【請求項2】
押出機構は、ラビリンスリングの先端面に設けられており、当該先端面には、少なくともその一部に、先細り勾配を成す環状傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の二つ割り軸受。
【請求項3】
押出機構は、環状凹部の奥端面に設けられており、当該奥端面には、少なくともその一部に、末広がり勾配を成す環状傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の二つ割り軸受。
【請求項4】
環状傾斜面の勾配は、30°〜60°の角度範囲に設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の二つ割り軸受。
【請求項5】
ラビリンスリングは、内径をd、外径をD、先端面のうち環状傾斜面までの直径をd1とすると、d1≧d、d1<Dなる関係を満足して構成されていることを特徴とする請求項2に記載の二つ割り軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−205536(P2007−205536A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28134(P2006−28134)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】