説明

二層構造の耐スクラッチおよび耐摩耗被膜を含む光学物品、およびこれを生産する方法

本発明は互いに接着した下位層および上位層で構成される耐摩耗および耐スクラッチ被膜を塗工された基材から構成される光学物品に関係し、上位層および下位層は上位層および下位層組成物を硬化したもので、前記上位層組成物は化学式RSi(X)4−n−mで示される少なくとも1つの有機シラン、またはその加水分解物および、化学式M(Z)で示される少なくとも1つの化合物またはその加水分解物を含み、次の比率が2.3未満である:
【数1】


前記下位層組成物が化学式R’n’Y’m’Si(X’)4−n’−m’で示される少なくとも1つの有機シラン、またはその加水分解物および、随意的に、化学式M’(Z’)で示される少なくとも1つの化合物またはその加水分解物を含み、次の比率が2.3を超える:
【数2】


上の化学式において、MおよびM’は金属または準金属で原子価がxおよびyで少なくとも4に等しく、RおよびR’基は1価の有機基で炭素原子を介してケイ素に結合し、かつ少なくとも1つのエポキシ官能基を含み、X、X’、ZおよびZ’基は加水分解性の基で、YおよびY’は1価の有機基で炭素原子を介してケイ素に結合し、n、m、n’およびm’はnおよびn’=1または2でn+mおよびn’+m’=1または2であるような整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ガラスのめがねレンズのような光学物品で、二層構造被膜、とりわけ熱硬化性ポリシロキサン組成物をベースとしたもので塗工され、無機ガラスに近い耐摩耗および耐スクラッチの両特性を同時に提供する光学物品に関し、同時にこのような光学物品を作る方法に関する。
今日、透明な有機素材または有機ガラスからできためがねレンズは、無機ガラスより軽量であり、広く使用されている。しかしながら、有機ガラスの欠点は、伝統的な無機ガラスに比べてスクラッチおよび摩耗による影響を受けやすいということである。
【背景技術】
【0002】
すべてのめがねレンズに種々の被膜を塗工することにより、そのレンズの機械的および/または光学的特性を向上させることは通常のことである。かくして、伝統的に、光学レンズの上に、耐衝撃被膜、耐摩耗被膜および/または耐スクラッチおよび反射防止被膜のような被膜が連続的に重ねられている。
有機ガラスの表面を保護するために用いられる耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜はポリ(メタ)アクリル系タイプまたはシラン加水分解物の硬質単層被膜が典型的である。
【0003】
耐摩耗被膜を作る既知の方法はアルミニウム誘導体のような硬化触媒の存在下でアルコキシシラン類を重合することから成る。そのような技術を取り上げている文献の例としては米国特許US4211823を挙げることができ、これはケイ素原子に直接結合したエポキシ部分および少なくとも2つのアルコキシ部分を持つシランの加水分解物、シリカの微粒子、いくらかのアルミニウムキレートから構成され、重量で1%を超える水を含む溶媒媒体内のある組成物について記述し、この組成物はプラスチック素材の基材に被膜するために用いられる。
【0004】
米国特許US5916669は二層構造の被膜について記述しそのポリ(ウレタン−アクリレート)タイプの上位層は硬い層で、アクリレートの種類でより柔軟な下位層より損傷を受けやすい。上位層はスクラッチに対して保護する層で、一方下位層は上位層の耐スクラッチ特性を損なわずに上位層の耐摩耗性を増加するようにしている。特許ではこれら2層を組み合わせることにより優れた耐摩耗性および耐スクラッチ性を同時に得ることができると言及している。
さらにUS5254395およびUS5114783の特許でも二層構造の耐摩耗および耐スクラッチ被膜について記載し、これは硬質の高度に架橋したアクリル系共重合物をベースとした上位層が、架橋した脂肪族ウレタンおよびアクリレート共重合物および少量の多機能アクリル系モノマーから成る混合物から形成された柔軟な下位層に接着して構成されている。
【0005】
米国特許US6808812には耐摩耗または耐スクラッチ被膜用の組成物について記載され、シュウ酸と、好ましくはテトラ−イソプロポキシチタニウムのようなチタネート、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)のようなエポキシアルコキシシランおよび随意的にジメチルジエトキシシラン(DMDES)のような第2のアルコキシシランの有機金属誘導体との反応生成物から構成されている。
この特許に記載されている実施態様によると、この組成物はすでに(メタ)アクリル系またはポリシロキサンの性質の、例えばエポキシアルコキシシランおよびコロイダルシリカ加水分解物の耐摩耗被膜で塗工されている基材の上にも重ねることができる。このような二層構造被膜は耐摩耗および耐スクラッチ特性の優秀な組み合わせをもたらす。
フランス特許FR2721720ではポリシロキサンタイプ(メチル−GLYMOまたはGLYMO)の耐衝撃プライマーから成る上位層およびコロイダルシリカが分散されているメチル−GLYMO(γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン)マトリックスを含むこれもポリシロキサンタイプの耐摩耗下位層から構成される二層構造被膜を開示している。
これらの被膜の耐スクラッチ特性を改善したいという要求がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は透明な光学物品、とりわけめがねレンズで、無機または有機ガラスの機材およびこれに著しく改良された耐スクラッチおよび耐摩耗特性を与える被膜から構成されたものを提供することで、ここに両特性のいずれか一方を得ることが他方に弊害をもたらすものであってはならず、このことは前記被膜が反射防止被膜と組み合わされた場合でも同様である。
【0007】
さらに本発明の目的はこれを重ねられる基材にも弊害をもたらさない、上記のような耐スクラッチおよび耐摩耗被膜を提供することである。耐スクラッチおよび耐摩耗被膜には光学分野に適用するために要求される透明性とともに、基材、とりわけ有機素材でできたそれに対する良好な接着性がなくてはならない。さらにこれを構成する層には互いに対して良好な接着性がなくてはならない。
本発明のさらなる目的はこのような光学物品を作る方法で、これが通常の光学物品の生産工程に組み込むことができるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上に決意した本発明による目的は耐スクラッチおよび耐摩耗被膜を塗工した少なくとも1つの主表面を持つ基材で構成される光学物品向けであり、前記被膜が基材側から、互いに接着した下位層および上位層から成り、上位層は上位層組成物が硬化した層で下位層は下位層組成物が硬化した層であり、前記上位層組成物は以下のものを含む:
− 少なくとも1種類の有機シラン化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
Si(X)4−n−m (I)
ここにR基群は同一または異なる1価の有機基で、炭素原子を介してケイ素に結合し、さらに少なくとも1つのエポキシ官能基を持ち、X基群は同一または異なる加水分解性の基、Yは炭素原子を介してケイ素に結合する1価の有機基、nおよびmはn=1または2でかつn+m=1または2となる整数であり、
− 少なくとも1つの化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
M(Z) (II)
ここにMは金属または准金属を表し、Z基群は同一または異なる加水分解性の基で、xは4以上で金属または准金属Mの原子価であり、次の比率:
【数1】

が2.3以下で、前記下位層組成物は以下のものを含む:
− 次の化学式で示す少なくとも1つの有機シラン化合物、またはその加水分解物:
R’n’Y’m’Si(X’)4−n’−m’ (III)
ここにR’基群は同一または異なる1価の有機基で、炭素原子を介してケイ素に結合し少なくとも1つのエポキシ官能基を持ち、X’基群は同一または異なる加水分解性の基、Y’は炭素原子を介してケイ素に結合する1価の有機基、n’およびm’はn’=1または2でn’+m’=1または2となる整数であり、
− 随意的に、少なくとも1つの化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
M’(Z’) (IV)
ここにM’は金属または准金属を表し、Z’基群は同一または異なる加水分解性の基で、yは4以上で金属または准金属M’の原子価であり、次の比率:
【数2】

が2.3を超える。
【0009】
本出願において、光学物品がその面に1種類以上の被膜を含んでいる場合に、「物品の上に層または被膜を重ねる」とは層または被膜を物品の外側の被膜の露出した面の上、すなわち基材から最も離れた被膜の上に重ねる、という意味である。
基材「上」の被膜または基材「の上に」重ねられている被膜とは(i)基材の上に位置し、(ii)必ずしも基材と接触している必要はなく、つまり1つ以上の中間被膜が基材と関心事の被膜との間に配置されていてもよく、さらに(iii)これが必ずしも基材を完全に覆う必要はない、と定義されている被膜である。
【0010】
本発明による光学物品は基材、好ましくは有機または無機ガラスである透明な基材から構成され、前面および背面の主面を持ち、この主面の少なくとも一方に、好ましくは両主面に、二層構造の耐スクラッチおよび耐摩耗被膜を載せている。爾後の明細書全体を通して、本発明による耐摩耗および耐スクラッチ被膜は通常は簡単に「耐摩耗被膜」または「二層構造被膜」と称す。
一般論として、本発明による光学物品の耐摩耗被膜はどのような基材にも重ねることができるが、例えば熱可塑性または熱硬化性素材のような有機ガラス基材が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
基材に適する熱可塑性素材としては、(メタ)アクリル酸(共)重合物、とりわけメチルポリ(メタクリレート)(PMMA)、チオ(メタ)アクリル酸(共)重合物、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリカーボネート類(PC)、ポリウレタン類(PU)、ポリ(チオウレタン)類、ポリオールアリルカーボネート(共)重合物、エチレンおよびビニルアセテートの熱可塑性共重合物、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリエピスルフィド類、ポリエポキシド類、ポリカーボネート類およびポリエステル類の共重合物、エチレンおよびノルボルネンまたはエチレンおよびシクロペンタジエンの共重合物のようなシクロオレフィン類の共重合物、およびこれらの組み合わせが含まれる。
ここに用いた「(共)重合物」とは共重合物または重合物のいずれかを意味する。「(メタ)アクリレート」とはアクリレートまたはメタクリレートのいずれかを意味する。
【0012】
本発明によると、好適な基材には アルキル(メタ)アクリレート、とりわけメチル(メタ)アクリレート類およびエチル(メタ)アクリレート類のようなC〜Cアルキル(メタ)アクリレート類、ポリエトキシレート化ビスフェノールジ(メタ)アクリレート類のような芳香族ポリエトキシレート化(メタ)アクリレート類、脂肪族または芳香族の直鎖状または枝分かれしたポリオール類のアリルカーボネート類のようなアリル誘導体、(ポリチオウレタン類を生産するための)チオ(メタ)アクリレート類、エピスルフィド類およびポリチオールおよびポリイソシアネートをベースとした前駆体混合物、を含むことができる。
【0013】
ここに用いた「ポリカーボネート」(PC)とは、ホモポリカーボネート類および共重合カーボネート類およびブロック共重合カーボネート類を等しく意味する。ポリカーボネート類は例えば、GENERAL ELECTRIC社からLEXANTM の商品名で、帝人からPANLITETM の商品名で、BAYERからBAYBLENDTM の商品名で、MOBAY CHEMICHAL社からMAKROLONTM の商品名で、およびDOW CHEMICAL社からCALIBRETM の商品名で市販されている。
【0014】
好適なポリオールアリルカーボネート類の(共)重合物の例には エチレングリコールビス(アリルカーボネート)、ジエチレングリコールビス2−メチルカーボネート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、エチレングリコールビス(2−クロロアリルカーボネート)、トリエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、1,3−プロパンジオールビス(アリルカーボネート)、プロピレングリコールビス(2−エチルアリルカーボネート)、1,3−ブテンジオールビス(アリルカーボネート)、1,4−ブテンジオールビス(2−ブロモアリルカーボネート)、ジプロピレングリコールビス(アリルカーボネート)、トリメチレングリコールビス(2−エチルアリルカーボネート)、ペンタメチレングリコールビス(アリルカーボネート)、イソプロピレンビスフェノールAビス(アリルカーボネート)の(共)重合物が含まれる。
【0015】
とりわけ推奨される基材はジエチレングリコールビスアリルカーボネートを(共)重合して得られる基材で、例えばPPG工業からCR−39TM という商品名(ESSILORのORMATMレンズ)で市販されている。
さらにとりわけ推奨される基材にはチオ(メタ)アクリル系モノマー類を重合して得られる基材が含まれ、このようなものはフランス特許出願FR2734827に記載されている。
もちろん、基材は先に述べたモノマー類の混合物を重合して得ることができるし、さらにはこれらの重合物および(共)重合物を含むこともできる。
【0016】
本発明の実施態様によると、基材には前面および背面があり、耐摩耗被膜は前記の面の少なくとも一方に施されている。これが基材の前面および背面に施されていることが好ましい。
ここに用いた基材の「背面」(通常は凹面)とは物品を使用中に着用者の目に最も近い面を意味する。一方、基材の「前面」(通常は凸面)とは物品を使用中に着用者の目から最も離れた面を意味する。
【0017】
すでに例えば耐衝撃プライマー層を随意的に塗工した基材の上に耐摩耗被膜を重ねる前に、随意的に塗工した前記基材の表面に処理を施して耐摩耗下位層の接着性を強化するのが一般的で、通常は真空下で、例えばイオンビーム(「イオンプレ清浄化」または「IPC」のようなエネルギー粒子種の照射、コロナ放電処理、真空下のイオン破砕またはプラズマ処理がおこなわれる。これらの清浄化処理のおかげで、基材面の清浄度が最適化される。イオン照射が好適で、イオン化ガスとして好ましくはアルゴン、酸素またはこれらの混合物を、一般に50から200Vの範囲の加速電圧で用いる。
【0018】
ここに用いた「エネルギー粒子種」とはエネルギー範囲が1から150eV、好ましくは10から150eV、より好ましくは40から150eVの粒子種を意味する。エネルギー粒子種はイオン類、ラジカル類のような化学粒子種でも、光子または電子のような粒子種であってもよい。
さらに酸または塩基による化学的な、もしくは溶媒または溶媒の混合物を用いる表面プレ処理が行われることもある。
本発明によると、二層構造の耐スクラッチおよび耐摩耗被膜は剥きだしの基材の上に直接重ねられる場合もある。ある適用例においては、本発明による耐摩耗被膜を重ねる前に基材の主面は1種類以上の機能性被膜を塗工されていることが好適である。これらの機能性被膜は、これらに限定されないが、耐衝撃プライマー層,偏光被膜、光互変性被膜、静電防止被膜、追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜または着色被膜の場合がある。
本発明による耐摩耗二層構造被膜は剥きだしの基材の上に、好ましくは単層の追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の上に、または最終製品において次の層となる耐衝撃性および/または接着性を改善するプライマー層を塗工した基材の上に、重ねられることが好ましい。
【0019】
このような被膜はめがねレンズのような透明なポリマー素材でできた物品に伝統的に用いられてきたどのような耐衝撃プライマー層であってもよい。
好適なプライマー組成物としては、熱可塑性ポリウレタンをベースとしたもので日本国特許出願公開JP63−141001およびJP63−87223に記載されているようなもの、ポリ(メタ)アクリル系プライマー組成物で米国特許US5015523に記載されているようなもの、熱硬化性ポリウレタンをベースとしたものでヨーロッパ特許EP0404111に記載されているようなもの、およびポリ(メタ)アクリル系ラテックスまたはポリウレタンタイプラテックスをベースとしたものでUS5316791およびEP0680492の特許に記載されているようなものの組成物が挙げられる。
【0020】
好適なプライマー組成物はポリウレタンをベースとした組成物およびラテックス、とりわけポリウレタンタイプのラテックスをベースとした組成物である。
ポリ(メタ)アクリル系ラテックスは共重合ラテックスで主として、例えばエチル、ブチル、メトキシエチルまたはエトキシエチル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリレートから成り、通常は少量の少なくとも他の1つのコモノマー例えばスチレンなどを伴う。
好適なポリ(メタ)アクリル系ラテックスはアクリレートおよびスチレンの共重合ラテックスである。このようなアクリレートおよびスチレンの共重合ラテックスはZENECA RESINSからNEOCRYLTM の商品名で市販されている。
【0021】
さらにポリウレタンラテックスも知られていて市販もされている。例としては、ポリエステルユニットを含むポリウレタンラテックスを挙げることができる。またこのようなラテックスもZENECA RESINSからNEOREZTM という商品名で、およびBAXENDEN CHEMICALSからWITCOBONDTM という商品名で市販されている。
本発明で使用される好適な市販プライマー組成物には WitcobondTM232、WitcobondTM 234、WitcobondTM 240、WitcobondTM 242、NeorezTM R−962、NeorezTM R−972、NeorezTM R−986および NeorezTM R−9603組成物が含まれる。
さらにこれらの混合物、とりわけポリウレタンラテックスおよびポリ(メタ)アクリル系ラテックスの混合物もプライマー組成物として用いることができる。
【0022】
プライマー組成物はフィラーを含むことが好ましく、これらは一般にナノ粒子で、このことにより硬化した被膜の硬度および/または屈折率を増し、さらにプライマー上に重ねたばかりの層の拡散をできる限り予防する。このようなナノ粒子は有機または無機の性質のものであってもよい。さらに有機および無機のナノ粒子の混合物も使用することができる。
無機のナノ粒子、とりわけ金属酸化物またはメタロイド、窒化物またはフッ化物タイプ、またはこれらの混合物が用いられることが好ましい。
本発明に適切に用いられるナノ粒子の例としては以下の化合物のナノ粒子が含まれる:SiO、Al、ZrO、TiO2、Sb、Ta、ZnO、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、WO、Y、およびこれらの混合物。
【0023】
フィラーはコロイド状の形、すなわち細かい粒子の形で用いられることが好ましく、その直径(または最長寸法)が1μm未満、好ましくは150nm未満、より好ましくは100nm未満、さらにより好ましくは10から80nm未満で構成され、水、アルコール、ケトン、エステルまたはこれらの混合物のような分散媒に分散されているが、アルコールが好ましい。
フィラーは屈折率の高いコロイド(またはその先駆体)、すなわち屈折率が1.55を超える素材のコロイドから成ることが好ましい。フィラーはとりわけTiO、ZrO、Sb、SnO、WO、Al、Y、Taのコロイドおよびこれらの混合物の場合がある。プライマー組成物は5%から65%、好ましくは5%から50%の重量のフィラーを含むことが好ましい。
【0024】
さらにフィラーは混成粒子、好ましくは混成粒子コロイドの場合もあり、例えば次の酸化物をベースにしている:SiO/TiO、SiO/ZrO、SiO/TiO/ZrO、TiO/SiO/ZrO/SnO。このような混成粒子コロイドはCatalysts and Chemical社から市販されている。
とりわけ推奨される混成粒子はEP730168、JP11310755、JP200204301およびJP2002363442の特許または出願公開公報に記載されている。
このようなプライマー組成物は物品の面にディップコーティングによりまたはスピンコーティングにより重ねることができ、次いで最低でも70℃から上は100℃、好ましくは約90℃の温度で、2分から2時間の時間範囲で、一般には約15分乾燥されてプライマー層を形成し、硬化したものは0.2から2.5μm、好ましくは0.5から1.5μmである。
【0025】
随意的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜でその上に本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜が重ねられる被膜は一般に「追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜」と呼ばれる。この追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜は単層被膜であることが好ましい。
これはめがねレンズの分野で伝統的に耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜として使用されているどのような層でも形成することができる。これはハードコートであることが好ましく、通常1種類以上の無機フィラーを含むポリ(メタ)アクリレートまたはケイ素をベースとし硬化すると被膜の硬度および/または屈折率を増加させる傾向がある。本発明により推奨される追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチハードコートには例えば少なくとも1つのシラン、好ましくは1つのアルコキシシランおよび/または1つのその加水分解物を含む組成物から得られた被膜が含まれ、これは例えば塩酸溶液および随意的に縮合および/または硬化触媒と共に加水分解して得られる。
【0026】
追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜で本発明の中で好適なものは、エポキシシラン加水分解物をベースとした被膜、とりわけフランス特許出願FR2702486および米国特許US4211823およびUS5015523に記載されているもの、または国際出願WO2007/051841に記載されているようなポリ(メタ)アクリレートをベースとした被膜である。
追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜組成物は基材の主面の上にディップコーティングまたはスピンコーティングすることにより重ねることができる。これは次いで適切な方法(熱的な方法、または紫外線放射の使用)により硬化される。
【0027】
最終的な光学物品において、この追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の厚みは一般に2から10μm内で変動するが、2から5μmが好ましい。
本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜は2つの隣接した層から成り、異なる特性を持ちかつ互いに強く接着している。これら2つの層を準備するための組成物、つまり耐摩耗上位層の組成物および耐摩耗下位層の組成物は、前記被膜が硬度勾配を持つように上位層が下位層より硬くなるように調合される。
【0028】
ここに用いた「耐摩耗被膜上位層」は簡略して「上位層」と呼ばれ、基材から最も離れた耐摩耗被膜層を意味する。
ここに用いた「耐摩耗被膜下位層」は簡略して「下位層」と呼ばれ、基材に最も近い耐摩耗被膜層を意味する。
本発明による両耐摩耗被膜組成物は熱硬化性組成物で、これは光学物品の基材の主面に塗布されてから、硬化すると二層構造の耐スクラッチおよび耐摩耗被膜となり、ポリシロキサンタイプのものが好ましい。
【0029】
上位層組成物は化学式IIの架橋剤を含むことが必要であるが、一方下位層組成物には化学式IVの架橋剤は随意的であるだけである。その量は意図的に制限され、これにより上位層に比べてより柔軟性のある下位層を得ると共に、一方で上位層はより高い架橋率のためにより高い硬度を有す。
本出願において、化学式IからIVの化合物に関して記述された特性および選択はそれらの加水分解物にも同様に適用される。
【0030】
化学式IおよびIIIのエポキシシラン化合物について先ず同時に記載する。もちろん、上位層に存在する化合物Iおよび下位層に存在する化合物IIIは互いに独立的である。このことは、例えば、整数nおよびmの値は整数n’およびm’のそれとは互いに独立的であることを意味する。
化学式IまたはIIIの化合物はケイ素原子に直接結合し加水分解後にはそれぞれOH基に導く2つまたは3つの加水分解性の基XまたはX’、炭素原子を伴うケイ素に結合しかつ少なくとも1つのエポキシ官能基を含む1つか2つの1価の有機RまたはR’基、および0または1つの有機で1価のYまたはY’基(mおよびm’=0または1)を含む。化学式IまたはIIIの化合物に最初からSi−OH官能基が存在する場合もあり、その場合にはそれらは加水分解物であると見なされることは特筆しておく必要がある。
【0031】
上で定義した整数nおよびmは化合物Iの3つの区分を定義する。すなわち化学式RYSi(X)の化合物、化学式RSi(X)の化合物および化学式RSi(X)の化合物である。これらの中で、ケイ素原子に結合している3つの加水分解性の基を含む化学式RSi(X)のエポキシシランが好適である。同様の結論が整数n’およびm’で定義される化学式IIIの化合物にも適用できる。
【0032】
加水分解性の基XまたはX’は互いに独立的にかつ限定されることなく、−O−Rアルコキシ基、−O−C(O)Rアシロキシ基、ハロゲン類のClおよびBrのようなもの、アミノ基で随意的に1つまたは2つのアルキルまたはシラン基のような官能基、例えば −NHSiMe基で置換されたもの、に相当し、ここにRは好ましくは直鎖状または枝分かれしたアルキル基で好ましくはC〜Cアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、Rは好ましくはC〜Cアルキル基でメチルまたはエチル基が好ましい。
XまたはX’基はアルコキシ基、とりわけメトキシ、エトキシ、プロポキシまたはブトキシ基が好ましく、メトキシまたはエトキシ基がより好ましく、かくして化学式IまたはIIIがエポキシアルコキシシランと定義されるようになっている。
【0033】
炭素原子でケイ素に結合している1価のRまたはR’基は、少なくとも1つのエポキシ官能基を、好ましくはただ1つのエポキシ官能基を含む有機基である。
ここに用いた「エポキシ官能基」とは炭素鎖または炭素環系内の隣接したまたは隣接しない2つの炭素原子に酸素原子が直接結合している原子の集団を意味する。エポキシ官能基の中では、オキシラン官能基、すなわち3員で飽和している環状エーテル基が好適である。
【0034】
好適なRまたはR’基は次の化学式VおよびVIに対応している:
【化1】

ここにRはアルキル基で、好ましくはメチル基または水素原子、最も好ましくは水素原子で、aおよびcは1から6の範囲の整数、およびbは0、1または2である。
化学式Vの好適な基はγ−グリシドキシプロピル基(R=H、a=3、b=0)で、化学式VIの好適な(3,4−エポキシシクロヘキシル)アルキル基はβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基(c=1)である。さらに γ−グリシドキシエトキシプロピル基も用いることができる(R=H、a=3、b=1)。
【0035】
化学式IまたはIIIの好適なエポキシシラン類は好ましくは1つの R またはR’基および3つのアルコキシ基を含み、後者が直接ケイ素原子に結合しているエポキシアルコキシシラン類である。とりわけ好適なエポキシトリアルコキシシラン類は以下の化学式VIIおよびVIIIに対応している。
【化2】

ここにRはアルキル部分で1から6個の炭素原子を持ち、好ましくはメチルまたはエチル部分で、a、bおよびcは上で定義したとおりである。
【0036】
このようなエポキシシラン類にはγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが含まれる。他の適切な有用なエポキシトリアルコキシシラン類の例は米国特許US4294950に与えられている。それらの中で、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)が最も好適である。
【0037】
エポキシシラン類IまたはIIIは随意的にSi−C連鎖によりケイ素原子に直接結合した1価の有機YまたはY’基を含む場合がある。これらの基は飽和または不飽和の炭化水素基で、好ましくはC〜C10、より好ましくはC〜C基の、例えばアルキル基でメチルまたはエチル基のようなC〜Cアルキル基が好ましく、ビニル基のようなアルケニル基、C〜C10アリール基、例えば随意的に特に1つ以上のC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、(メタ)アクリロキシアルキル基であってもよく、またはそれらが上に述べた炭化水素基のフッ化またはペルフルオロ化類似基、例えばフルオロアルキルまたはペルフルオロアルキル基、もしくは(ポリ)フルオロまたはペルフルオロアルコキシ[(ポリ)アルキレンオキシ]アルキル基に相当してもよい。
【0038】
Y(またはY’)基は上位(または下位)層組成物に存在する加水分解したシラン類、とりわけこのシラン類のSiOHおよび/またはエポキシ部分と反応する可能性のある官能基を含まないことが好ましい。最も好ましくは、Y(またはY’)がアルキル基、好ましくはC〜Cアルキル基、およびより好ましくはメチル基に相当することである。
YまたはY’基を含む好適なエポキシシラン類IまたはIIIはγ−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル(メチル)ジエトキシシランおよびγ−グリシドキシエトキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのようなエポキシジアルコキシシランである。使用する場合、エポキシジアルコキシシランは上に述べたようなエポキシトリアルコキシシランと組み合わされることが好ましく、さらにこれらは前記エポキシトリアルコキシシランに比べて少量で用いられることが好ましい。
【0039】
化学式IIおよびIVの化合物についてこれから同時に記載する。当然ながら、上位層に存在する化合物IIの性質および下位層に存在する化合物IVのそれは独立している。このことは、例えば、Z基の性質はZ’基のそれとは独立しているという意味である。
ZまたはZ’基は加水分解性の基で、互いに独立的に、先にXおよびX’の記述のために言及した加水分解性の基から選択することができる。M−OHまたはM’−OH官能基は化学式IIまたはIVの化合物に当初から存在する場合もあり、その場合には、それらは加水分解物であるとみなされることは特筆しておく必要がある。
【0040】
MおよびM’は互いに独立的に、金属または準金属を表わし、それぞれの原子価xまたはyは4以上で通常は4から6まで変動する。これらは4価または5価であることが好ましい。化合物IIまたはIVは4価の種(x=4、y=4)であることが好ましい。MまたはM’は例えばSnのような金属、Zr、Hf、Nb、Cr、Ta、WまたはTiのような遷移金属もしくはケイ素またはゲルマニウムのような準金属から選択された原子に相当する。さらに5価の形のアンチモンも適切である。MおよびM’はケイ素、ジルコニウム、アルミニウムまたはチタンに該当することが好ましく、ケイ素が最も好ましい。
【0041】
かくして、好適な化合物IIは化学式がSi(Z)の化合物で、ここにZ基群は同一または異なる加水分解性の基で、好適な化合物IVは化学式がSi(Z’)の化合物で、ここにZ’基群は同一または異なる加水分解性の基である。
これらの化合物の中で、好適な化合物IIまたはIVはテトラアルキルオルトシリケート(またはテトラアルコキシシラン)である。TEOSと書かれるテトラエトキシシラン(またはテトラエチルオルトシリケート)Si(OC5)4は、TMOSと書かれるテトラメトキシシランSi(OCH3)4、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(sec−ブトキシ)シランまたはテトラ(t−ブトキシ)シランと同様に都合よく使われ、TEOS が好ましい。
【0042】
TEOS のようなケイ素マトリックス前駆体を用いることはコロイド状シリカを用いるより優れていることを発明者は驚きをもって発見し、このことは以降で実施例の記述ではっきり表わされる。従来の技術で広く用いられているエポキシアルコキシシランおよびコロイド状シリカの混合物を含む組成をベースとした被膜は、耐磨耗および/または耐スクラッチに関する性能、とりわけ耐磨耗において本発明による耐磨耗被膜のそれよりも低い被膜になっている。
【0043】
本発明による上位層または下位層組成物内で、化合物IからIVは部分的または全体的のいずれかで加水分解している可能性がある。都合のよいことにそれらは全体的に加水分解している。加水分解には少なくとも化学両論的な量の水、すなわち少なくとも加水分解性の基のモル数に対応したモル量の水を用いることが好ましい。
加水分解物はそれ自体知られた方法で準備される。とりわけFR2702486およびUS4211823の特許に説明されている方法を用いることができる。
化合物IからIVの加水分解物は組成物に水または有機溶媒または水および有機溶媒の混合物、および好ましくは X、X’、ZまたはZ’基を加水分解するための触媒、例えば無機酸、一般には塩酸、硫酸、硝酸または燐酸の水溶液もしくは酢酸のような有機酸を加えて準備することができるが、HClまたはHPOが好ましい。
【0044】
加水分解手順で用いられる適切な有機溶媒または有機溶媒の混合物は極性溶媒、とりわけメタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n−ブタノール、プロピレングリコールメチルエーテルおよびこれらの混合物のようなアルカノールが好ましい。他の溶媒も、例えばアセトンのようなケトン類、テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンのようなエーテル類、アセトニトリル、トルエンまたはキシレンまたは塩化アルキル類のような芳香族溶媒も用いることができる。最も好適な有機溶媒はメタノールである。
本発明による耐磨耗被膜の組成物は加水分解の後、前記組成物の重量に対し重量で少なくとも1%の水を含むことが好ましい。この水は初期のシランの部分的加水分解によるものでも、この加水分解中に形成されたシラノールの縮合反応によるものでも、または過剰量の水を用いたことによるものでもよい。
【0045】
前駆体化合物IからIVの加水分解手順の後、通常これは1時間から24時間、好ましくは2時間から6時間続くが、少なくとも1種類の縮合触媒および/または少なくとも1種類の硬化触媒を随意的に下位および/または上位耐磨耗層の組成物に加えることがあり、これにより温度ならびに縮合および硬化時間を低減する。多くの有用な縮合および/または硬化触媒の例が次の文献「Chemistry and Technology of the Epoxy Resins」B.Ellis(編集)Chapman Hall,New York,1993および「Epoxy Resins Chemistry and Technology」第2版、C.A.May(編集),Marcel Dekker,New York,1988に与えられている。
【0046】
加水分解した化合物IからIVのために有効な縮合触媒として、多官能性の飽和または不飽和の酸または酸無水物を挙げることができる。ここに用いた「多官能性の酸または酸無水物」とは幾つかの酸または酸無水物官能基を含む酸または酸無数物を意味する。カルボン酸の性質を持つ好ましい化合物があり、例えば、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、シュウ酸、クロレンド酸(1,4,5,6,7,7−ヘキサクロロビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸)の酸類、および マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ−4−メチルフタル酸、テトラクロロフタル酸、シトラコン酸、1,2−トリメリット酸(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、ジクロロマレイン酸無水物類、ピロメリット酸二無水物、およびこれらの混合物がある。バナジン酸無水物のような非カルボン酸の酸または無水物も用いられる。好適な縮合触媒はマレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸およびトリメリット酸無水物である。
【0047】
硬化触媒はエポキシ官能基に特に作用するがさらに縮合触媒の作用にも有利に働く。使用できる化合物にはイミダゾール誘導体およびそのイミダゾリウム塩、ジシアンダイアミドの名でも知られている N−シアノグアニジン(HNC(=NH)NHCN、シアナミドダイマー)、化学式 M(CHCOCHCOCH)のアセチルアセトン金属塩、ここに M は金属イオンで好ましくはZn2+、Co3+、Fe3+またはCr3+ で、nは一般には1から3の範囲の整数で金属Mの酸化レベルに対応していることが好ましく、ライネッケ塩の名でも知られるアンモニウムテトラチオシアナートジアミンクロメート(III)NH[Cr(SCN)(NH)]、アルミニウムをベースとした化合物、亜鉛、チタン、ジルコニウム、スズまたはマグネシウムのような金属ベースのカルボン酸塩類の例えばオクト酸亜鉛または第1スズオクトエート、ヘキサフルオロアンチモン塩およびジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボーレートのようなヨードニウム塩、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート類およびヘキサフルオロアンチモネート類のようなスルホニウム塩、およびこれらの混合物が含まれる。
【0048】
硬化触媒として使用可能なイミダゾール誘導体の例としては、これらに限定されないが、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールまたは2−プロピル−4−メチルイミダゾールのような 2−アルキルイミダゾール類、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2,4−ジメチルイミダゾールまたは 1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾールのような 1−シアノアルキルイミダゾール類、および 2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールまたは 2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールのような 5−ヒドロキシアルキルイミダゾール類が挙げられる。この様な化合物の他の例は米国特許US4294950に与えられている。
【0049】
硬化触媒として使用可能なアルミニウムベースの化合物の例としては、これらに限定されないが、アルミニウムキレートおよびアシル酸アルミニウム(III)およびアルコレート類が挙げられ、好適な一般化学式Al(OC(O)R)(OR’)3−nおよびAl(OSiR”)(OR’)3−nで示され、ここにRおよびR’は1から10個の炭素原子を含む直鎖状または枝分かれした鎖状のアルキル基で、R”は直鎖状または枝分かれした鎖状の、1から10個の炭素原子を含むアルキル基、フェニル部分、Rは上で定義したものでnは1から3の整数である化学式OC(O)Rのアシレート部分、である。R’はイソプロピルまたはエチル基で、RおよびR”はメチル基であることが好ましい。
【0050】
アルミニウムキレートはアルミニウムアルコレートまたはアシレートを窒素も硫黄も含まず酸素を同格原子として含むキレート剤、例えばアセチルアセトン、エチルアセトアセテートまたはマロン酸ジエチルと反応させて形成することができる。それらは Al(acac)と書かれるアセチルアセトン酸アルミニウム、エチルモノ(アセトアセテート)アルミニウムビスアセチルアセトネート、エチルビス(アセトアセテート)アルミニウムモノアセチルアセトネート、ジ−n−ブトキシアルミニウムエチルモノ(アセトアセテート)およびジ−i−プロポキシアルミニウムエチルモノ(アセトアセテート)から選ぶことができる。このような化合物の他の例は特許EP0614957に与えられている。硬化触媒がアルミニウムキレートの場合、被膜組成物は沸点が大気圧で70から140℃の範囲の有機溶媒、例えばエタノール、イソプロパノール、エチルアセテート、メチルエチルケトンまたはテトラヒドロピランを含むことが好ましい。
【0051】
本発明による耐摩耗被膜組成物の触媒系としては、イタコン酸およびN−シアノグアニジンまたはアルミニウムアセチルアセトネートのようなアルミニウムキレートの組み合わせが用いられることが好ましい。化合物I/IIまたはIII/IVの混合物から構成される耐摩耗被膜組成物、例えば上位層組成物、または下位層組成物はイタコン酸およびN−シアノグアニジンの組み合わせを触媒系として含むことが好ましい。
いかなる仮説にもこだわるわけではないが、発明者はある量を超えたIIまたはIVタイプの架橋剤は、アルミニウムキレート程に活性のある触媒系を用いると過剰に高い架橋率になると考えている。
【0052】
かくして、組成物重量に対し重量で10%を超える化合物IVを含む下位層組成物はアルミニウムキレートを全く含まないことが好まれる。
通常量の硬化および縮合触媒を用いることにより、本発明による組成物を約100℃の温度で約数時間の時間幅で縮合および硬化を得ることができる。硬化触媒は通常上位(または下位)層組成物の合計重量に対し重量で0から5%、好ましくは0.1から3%の範囲で用いられる。縮合触媒は通常上位(または下位)層組成物の合計重量に対し重量で0から10%、好ましくは0から8%の範囲で用いられる。
【0053】
本発明による両方の耐摩耗被膜組成物は伝統的に耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜組成物に用いられている添加物を含む場合があり、堆積光学的特性を改善する界面活性剤、好ましくはフッ素またはシリコンタイプの界面活性剤、安定剤、例えば組成物の保管期間を延ばすための添加物で例えばアセチルアセトンまたはエチルアセトアセテートのようなβ−ジケトンまたはβ−ケトエステルタイプのキレート剤、フィラー、顔料、染料、UV吸収剤、酸化防止剤、追加的架橋剤および組成物が光り硬化性化合物を含む場合には随意的に光開始剤などがある。
本発明による上位または下位層組成物は少量のフィラー、一般には1種類以上の無機フィラーを硬化後の硬度および/または屈折率を増すことを意図して含む場合がある。
【0054】
無機フィラーは金属または準金属酸化物またはフッ化物の、Si、Sb、Ti、Ta、Zr、Al、Ce、Sn、In、Wおよびこれらの混合物で好ましくはシリカ、2酸化チタン、Sb、ZrO、Alおよび/または混合酸化物のTiO/ZrO、TiO/ZrO/SiOおよびTiO/Fe(これら酸化物の混合粒子)などから選択することができる。無機フィラーはコロイド状の形態、すなわち直径(または最長辺)が好ましくは1μm未満、より好ましくは150nm未満、さらにより好ましくは100nm未満の微粒子の形で水、アルコール、ケトン、エステルまたはこれらの混合物のような分散媒に分散して用いられることが好ましい。このようなフィラーではコロイド状シリカが好適な例で、例えば Nissan Sun Colloid Mast のシリカはメタノール中に分散した SiO を固形分として重量で30%含む。
【0055】
好適な実施態様によると、本発明による上位層組成物および/または下位層組成物は組成物の全重量に対し重量で10%未満しかフィラー(固形物)を含まず、全くフィラーを含まないことがより好ましい。とりわけ本発明による上位層組成物および/または下位層組成物は組成物の全重量に対し重量で10%未満しかコロイド状シリカを含まず、全くコロイド状シリカを含まないことがより好ましい。
【0056】
上位層組成物および/または下位層組成物に存在するフィラーの合計重量、つまりフィラーの理論乾物重量は組成物理論乾物重量に対して30%未満に相当することが好ましく、20%未満がより好ましく、10%未満がさらにより好ましい。このような選択傾向はコロイド状シリカの理論乾物重量にもまた当てはまる。
ここに用いた「組成物成分の理論乾物重量」とは前記組成物中でこの成分の固形分が占める理論重量、すなわち組成物の理論乾物重量に対するその重量の分担を意味する。
組成物の理論乾物重量はすべての成分の理論乾物重量の総和として定義される。
【0057】
本文脈のなかで、「成分I、II、IIIまたはIVの理論乾物重量」とは次のことを意味する:
− 化合物IおよびIIIについては、RSi(O)(4−n−m)/2またはR’n’Y’m’Si(O)(4−n’−m’)/2を単位として計算した前記化合物の重量で、R、Y、n、m、R’、Y’、n’およびm’は前に定義したとおりのものである;
− 化合物IIおよびIVについては、M(O)x/2またはM’(O)y/2を単位として計算した前記化合物の重量で、M、M’、xおよびyは前に定義したとおりのものである;
成分I、II、IIIまたはIVの理論乾物重量は実際に使用された成分I、II、IIIまたはIVの重量より低い。触媒または無機フィラーの理論乾物重量は一般に実際に使用された化合物の重量に等しい。
【0058】
幾つかの実施態様において本発明による上位および下位耐摩耗層組成物は同じ範疇の化合物を含むが、その成分の内容に関しては異なる。
かくして、Rsの比率は2.3以下で、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.25以下がさらにより好ましく、1.1以下が最も好ましいが、ここにRsは以下に定義するとおりである:
【数3】

【0059】
Rs比率に関するこの定義は成分IIを全く含まない上位層が本発明の定義に該当しないことを意味する。Rsは0.85以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、0.95以上がさらにより好ましい。
化合物Iの理論乾物重量は上位層組成物の乾物重量の30から60%に相当することが好ましく、40から55%がより好ましい。化合物IIの理論乾物重量は上位層組成物の乾物重量の30から60%に相当することが好ましく、40から55%がより好ましい。化合物IおよびIIの理論乾物重量の総和は下位層組成物の乾物重量の少なくとも75%に相当することが好ましく、少なくとも80%がより好ましく、少なくとも85%がさらにより好ましい。
【0060】
上位層組成物の乾物重量は組成物の合計重量に対して重量で5から40%に相当することが好ましく、15から25%がより好ましい。
上位層組成物は組成物の重量に対して化合物Iを重量で好ましくは5から30%含み、10から25%が好ましく、10から20%がより好ましい。上位層組成物は組成物の重量に対し化合物IIを重量で好ましくは15から50%含み、20から40%が好ましく、25から40%がより好ましい。
【0061】
化合物IおよびIIの重量の総和は上位層組成物重量の好ましくは25から65%に相当し、30から60%が好ましく、35から55%がより好ましい。この組成物では化合物IIに対する化合物Iの重量比率は0.25から0.60の範囲が好ましく、0.30から0.60がより好ましく、0.35から0.45がさらにより好ましい。
比率Riは2.3より高く、3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、4.5以上がさらにより好ましく、10以上が最も好ましく、ここに Ri は以下に定義するとおりである。
【数4】

比率Riのこの定義は成分IVを全く含まない下位層組成物が本発明の定義に該当することを意味し、事実Riは無限になる傾向がある。
【0062】
化合物IIIの理論乾物重量は下位層組成物の乾物重量の40%超に相当することが好ましく、50%超がより好ましく、60%超がさらにより好ましく、65%超が最も好ましい。化合物IVの理論乾物重量は下位層組成物の乾物重量の30%未満に相当することが好ましく、25%未満がより好ましく、20%未満がさらにより好ましく、10%未満が最も好ましい。化合物IIIおよびIVの理論乾物重量の総和は下位層組成物の乾物重量の少なくとも70%に相当することが好ましく、少なくとも75%がより好ましく、少なくとも80%がさらにより好ましい。
下位層組成物の理論乾物重量は組成物の合計重量に対して10から50%に相当することが好ましく、25から40%に相当することがより好ましい。
【0063】
下位層組成物は組成物重量に対して化合物IIIを重量で好ましくは15から70%含み、20から60%が好ましく、25から55%がより好ましい。下位層組成物は組成物重量に対して化合物IVを重量で好ましくは0から35%含み、0から25%が好ましく、0から15%がより好ましく、0から10%がさらにより好ましい。特定の実施態様によると、下位層組成物は化学式IVのどの様な化合物もまたは化学式IVのどの様な化合物の加水分解物も全く含まない。
【0064】
化合物IIIおよびIVの重量の総和は下位層組成物の重量の好ましくは25から75%に相当し、30から70%が好ましく、35から65%がより好ましい。この組成物内の化合物IVに対する化合物IIIの重量比率は1.25以上であることが好ましく、1.50以上がより好ましく、1.75以上がさらにより好ましい。特定の実施態様によると、この比率は4以上である。
【0065】
最終的な光学物品において、本発明による耐摩耗および耐スクラッチ被膜の厚みは一般に1から15μm内で変動するが、1から10μmが好ましく、2から8μmがより好ましく、3から6μmがさらにより好ましい。耐摩耗被膜の下位層の厚みは1から6μm内で変動することが好ましく、2から5μmがより好ましく、3から5μmがさらにより好ましく、一方耐摩耗被膜の上位層の厚みは独立的に0.5から4μm内で変動することが好ましく、0.7から2μmがより好ましく、0.7から1.5μmがさらにより好ましい。上位層に対する下位層の厚み比率は1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらにより好ましい。
【0066】
補助的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層を本発明による二層構造被膜の上位層の上に随意的に重ねることができる。これは通常「補助的耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層」と呼ばれる。この補助的被膜および前記上位層は互いに隣接していること、すなわち互いに直接接触しかつ接着していることが好ましい。
【0067】
補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層は補助耐摩耗および/または耐スクラッチ組成物の硬化層で、次のものから構成される:
− 次の化学式で示される少なくとも1種類の有機シラン化合物、またはその加水分解物:
R”n”Y”m”Si(X”)4−n”−m” (IX)
ここに R”基群は同一または異なる1価の有機基で炭素原子を介してケイ素に結合しさらに少なくとも1つのエポキシ官能基を持ち、ここにX”基群は同一または異なる加水分解性の基で、Y”は1価の有機基で炭素原子を介してケイ素に結合し、n”およびm”はn”=1または2でかつn”+m”=1または2となる整数であり、
− 次の化学式で示す少なくとも1つの化合物、またはその加水分解物:
M”(Z”) (X)
ここに M”は金属または准金属を表し、Z”基群は同一または異なる加水分解性の基で、zは4以上で4から6が好ましく、金属または准金属 M”の原子価であり、次の比率:
【数5】

が2.3以下で、かつ先に定義した比率Rsより必ず低く、化合物Xの理論乾物重量は補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層組成物の乾物重量の少なくとも45%に相当し、さらに補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層の厚みは本発明による二層構造被膜の上位層のそれより低い。
【0068】
補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層の構造的な特徴、およびこの準備に関わるそれらは、本発明による二層構造被膜の上位層のために先に述べたものから選択することができ、このため繰り返さないが、しかしながら比率Rss、この層の厚みおよび組成物の乾物重量に対する化学式Xのエポキシシランの理論乾物重量の中身に関する特徴は別であり、これらは異なる。
【0069】
かくして、例えば化学式IXのエポキシシランは先に述べた化学式Iの化合物の記述に関連する化合物から選択することができ、化学式Xの化合物は先に述べた化学式IIの化合物の記述に関連する化合物から選択することができる。
化合物Xの理論乾物重量は補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層組成物の乾物重量の少なくとも50%に相当することが好ましく、かつ65%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、55から60%内の変動範囲が最も好ましい。
最終的な光学物品において、耐摩耗および/または耐スクラッチ追加層の厚みは、本発明による二層構造の上位層よりは低いものの、0.5から2μm内で変動することが好ましく、0.5から1.5μmがより好ましい。
【0070】
比率RssはRsより必ず低く、このことにより耐摩耗下位層から補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層までII/IV/Xタイプの化合物の比率を増すことで硬度勾配を得ることを可能にする。Rssは2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.25以下がさらにより好ましく、1.1以下が最も好ましい。Rss は0.85以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、0.95以上がさらにより好ましい。
【0071】
本発明による光学物品は4層未満の耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層から構成されることが好ましく、3層未満の耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層がより好ましく、2層の耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層、つまり本発明による二層構造被膜のそれ以外のさらなる耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層を全く含まないことがさらにより好ましい。
【0072】
随意的に反射防止被膜を耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の上に、すなわち上位層の上に、または補助耐摩耗および/または耐スクラッチの上に重ねることもできる。反射防止被膜は光学物品の表面に重ねられ、これにより最終光学物品の反射防止特性を改善する被膜と定義される。これは可視スペクトルの比較的幅広い部分で物品−空気界面の光反射を低減する。
【0073】
反射防止被膜は周知のもので伝統的にSiO、SiO、Al、MgF、LiF、Si、TiO、ZrO、Nb、Y、HfO、Sc、Ta、Pr、およびこれらの混合物のような誘電材料の単層または多層の積層から構成される。
これも周知のことだが、反射防止被膜は交互に高屈折率(HI)層および低屈折率(LI)層から構成される多層被膜であることが好ましい。都合のよいことに、反射防止被膜のLI層は SiOおよび Al の混合物を含む。
【0074】
本出願においては、反射防止積層の層の屈折率が1.55より高い場合に高屈折率層と称し、1.6以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらにより好ましい。反射防止積層の層の屈折率が1.55以下の場合に低屈折率層と称し、1.50以下が好ましく、1.45以下がより好ましい。
別途記載がない限り、本発明で引用している屈折率は25℃の550nmの波長で示している。
【0075】
反射防止被膜の物理的厚みの合計は1マイクロメートル未満であることが好ましく、500nm以下がより好ましく、250nm以下がさらにより好ましい。一般に反射防止被膜の物理的厚みの合計は100nmより大きく、150nmより大きいことが好ましい。
サブレイヤー、通常はSiOのサブレイヤーを反射防止被膜および下側の層、通常は耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の間に挟み込むことが可能で、これにより反射防止被膜の耐摩耗および/または耐スクラッチ性を改善し、かつ下側の層との接着力を増大する。
【0076】
反射防止被膜は一般に次のすべての方法で:i)随意的にイオンビームの補助による蒸発により;ii)イオンビームのスパッタリングにより;iii)陰極線のスパッタリングにより;iv)プラズマ補助付きの化学蒸気蒸着による真空蒸着により塗布することができる。
真空蒸着方法に加え、湿式処理法、とりわけ高低の屈折率を持つケイ素加水分解物およびコロイド状素材を含む液体組成物をスピンコートすることにより多層反射防止被膜を塗布することも可能である。この様な被膜で層がケイ素をベースとする有機/無機のハイブリッドのマトリックスから構成され、そこにコロイド状材料が分散されてそれぞれの層の屈折率を調節するような被膜については、例えばフランス特許FR2858420に記載されている。
【0077】
しかしながら、無機の誘電層のみから構成される積層で構成される反射防止被膜が好まれる。少なくとも3層の誘電物層の積層を含み、高屈折率層および低屈折率層が交互になっていることが好ましい。
本発明による光学物品はさらに反射防止被膜の上に疎水性被膜および/または非親油性被膜(汚れ防止トップコート)のような、その表面特性を修正する被膜の形成を含む場合もある。これらの被膜は反射防止被膜の外側層の上に塗布されることが好ましい。その厚みは通常10nm以下で、1から10nmの範囲が好ましく、1から5nmがより好ましい。
【0078】
これらは通常はフルオロシランまたはフルオロシラザンタイプの被膜である。これらはフルオロシランまたはフルオロシラザンの前駆体を重ねることにより得られるが、分子あたり少なくとも2つの加水分解性の基を含むことが好ましい。フルオロシラン前駆体はフルオロポリエーテル部分を含むことが好ましく、ペルフルオロポリエーテル部分がより好ましい。これらのフルオロシラン類は周知のもので他にもあるが米国特許US5081192、US5763061、US6183872、US5739639、US5922787、US6337235、US6277485およびヨーロッパ特許出願EP0933377に記載されている。
【0079】
好適な疎水性および/または非親油性被膜組成物は信越化学から KP801MTM の商品名で市販されている。別の好適な疎水性および/または非親油性被膜組成物はダイキン工業からOPTOOL DSXTMの商品名で市販されている。これはペルフルオロプロピレン基を含むフッ化樹脂である。
通常、本発明による光学物品は耐衝撃プライマー層、本発明による二層構造耐スクラッチおよび耐摩耗被膜、反射防止多層および疎水性および/または非親油性被膜を順次塗工した基材から構成されている。本発明による物品は光学レンズが好ましく、眼鏡用のめがねレンズ、もしくは光学またはめがねレンズ素材がより好ましい。レンズは偏光レンズでも光互変性レンズであってもよい。
【0080】
本発明はさらに上記で定義したような耐摩耗および耐スクラッチ光学物品を作る方法にも関係し、少なくとも以下の手順から構成される:
a)少なくとも1つの主面を持つ光学物品を準備する;
b)先に定義したような下位層組成物の層を基材の主面上に重ねる;
c)前記の下位層を熱的な処理を用いて少なくとも不完全に硬化する;
d)先の手順でできた層の上に先に定義したような上位層組成物の層を重ねる;
e)熱的な処理を用いて前記上位層組成物を硬化する;
f)下位層が上位層に接着して構成される耐摩耗および耐スクラッチ被膜で主面を塗工された基材から構成される光学物品を回収する。
【0081】
下位層組成物は光学物品の基材の上にすべての周知の適切な方法、例えばディプコーティング、スピンコーティング、スプレー、濡らしまたはロールまたはブラシコーティングにより重ねることができるが、ディプコーティングまたはスピンコーティングによることが好ましい。
方法の最初の代替案では、手順c)の間に、上位層組成物を重ねる前に下位層組成物を熱的な処理により完全に硬化する。硬化は80から150℃の範囲の温度で行われるのが好ましく、90から120℃がより好ましく、通常は30分から4時間行われる。
【0082】
手順c)によりできた光学物品の表面、すなわち下位層はその表面に上位層組成物を重ねる(手順d))前に表面調整処理を受けることが好ましい。
上位層の接着性を増すことを意図したこの物理的または化学的活性化処理は、通常は真空下で実施される。先に定義したようにエネルギー粒子種、例えばイオンビーム(「イオンプレクリーニング」または「IPC」)または電子ビームによる爆射、コロナ放電処理、イオン破砕、紫外線処理、通常は酸素またはアルゴンプラズマによる真空下のプラズマ処理、酸または塩基処理および/または溶媒(水または有機溶媒)の使用を含むことがある。これらのいくつかを併せることもできる。
【0083】
表面調整中間手順は塩基性溶液を用いる処理が好ましく、これは一般に随意的に界面活性剤を含む5%の重量のソーダ浴内の数分間(1から3分)におよぶ40〜50℃に近いエッチング処理を含む。
上位層組成物は耐摩耗性被膜下位層の上に下位層に対するのと同じ方法で重ねることができ、これと類似の条件で熱的な処理により硬化することができる。
【0084】
方法の2番目の代替案では、下位層組成物を手順c)の間に、上位層組成物を重ねる前に、熱的な処理により不完全にだけ硬化する。このプレ重合、またはプレ硬化手順と定義してもよい手順は一般に70から120℃、好ましくは80から120℃、より好ましくは85から110℃、さらにより好ましくは90から100℃の範囲の温度で比較的短時間、一般には1から30分間、より好ましくは3から20分間、さらにより好ましくは5から10分間実施される。
驚いたことに、本発明者は硬化時間が長すぎることは最終被膜の耐摩耗特性の劣化につながることを観察している。
【0085】
本発明による方法の2番目の代替案は驚いたことに先に述べた下位層および上位層の間の中間面の調整を割愛することを可能にし、このことは工業規模への適用に関してはとりわけ有利である。下位層の表面を調整する中間手順を省くにもかかわらず、最終製品において耐摩耗被膜の2つの層の間の非常に優れた接着性が得られた。
【0086】
かくして、方法の2番目の代替案によると手順c)の結果による物品の表面は手順d)の前に表面調整処理を実施せずに上位層組成物は直接に手順c)の結果による耐摩耗被膜下位層の上に、上で述べたものと同じ方法で重ねられる。
上位層組成物は次いで熱的な処理により好ましくは80から150℃の範囲の温度、90から120℃が好ましく、通常30分から4時間かけて硬化し、これはさらに下位層組成物の硬化も完全にする。
【0087】
補助耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層を本発明による二層構造被膜の上位層に重ねることが要求されるなら、その場合本発明による手順e)およびf)はつぎのようになる:
e)熱的な処理により前記上位層組成物を少なくとも不完全に硬化する:
e1)先の手順でできた層の上に先に定義した補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層組成物の層を重ねる;
e2)前記補助層を熱的な処理により硬化する;
f)下位層が上位層に接着して構成される耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を塗工され、さらに前記上位層に接着する補助耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を塗工された主面を持つ基材から構成される光学物品を回収する。
【0088】
前記上位層は補助耐摩耗および/または耐スクラッチ組成物をその表面に重ねる前に表面調整処理を受ける場合もある。このような物理的または化学的活性化処理は補助層の接着性を増すためのもので、これらに限定されないが、先に記載した下位層活性化処理から選択することができる。
最初の代替案では、補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層組成物を重ねる前に、上位層組成物は熱的な処理を用いて完全に硬化されている。この硬化は80から150℃の範囲の温度で実施されることが好ましく、好ましくは90から120℃で通常30分から4時間である。
【0089】
2番目の代替案では、補助層の組成物を重ねる前に、熱的な処理を用いて前記上位層組成物を不完全にだけ硬化する場合がある。この手順はプレ重合またはプレ硬化手順と定義することができるが、通常は80から120℃、好ましくは85から110℃、より好ましくは90から100℃の範囲の温度で、比較的短時間、通常は1から30分間、より好ましくは3から20分間、さらにより好ましくは5から10分間実施される。この2番目の代替案では、本発明による二層構造被膜の上位層表面は補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層組成物を重ねる手順の前に、どの様な表面調整処理も受けないことが好ましく、そして補助層の組成物は二層構造被膜の上位層の上に直接重ねることができる。
【0090】
下位層表面を整える中間手順を省略したにもかかわらず、最終製品では耐摩耗被膜上位層および前記補助層の間では非常に優れた接着が得られた。
補助層組成物は次いで80から150℃の範囲の温度、好ましくは90から120℃で通常は30分から4時間の熱的な処理を用いて硬化され、かくしてさらに上位層組成物、および随意的に下位層組成物の硬化も完成させる。
耐摩耗および/または耐スクラッチ補助層組成物はすべての周知の適切な方法、例えばディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、濡らしまたはロールまたはブラシコーティングにより重ねることができるが、ディップコーティングまたはスピンコーティングによることが好ましい。
【0091】
さらに、本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜が形成されている基材を含む光学物品は暫定サポートで、その上に前記被膜を保管し、めがねレンズ用の基材のような通常は最終基材である他の基材に転写されるのを待っている場合もある。この場合、二層構造被膜の下位層および上位層は最終サポート上の予定積層順とは逆順に暫定サポート上に重ねられていなければならない。
【0092】
かくして本発明はさらに上で規定したような耐摩耗および/または耐スクラッチ光学物品を作る方法にも関係し、少なくとも以下の手順から構成される:
a)少なくとも1つの主面を持つ暫定サポートを準備する;
b)サポートの主面上に先に定義したような上位層組成物を重ねる;
c)熱的な処理を用いて前記上位層を少なくとも不完全に硬化する;
d)先の手順でできた層の上に先に定義したような下位層組成物を重ねる;
e)熱的な処理を用いて前記下位層を硬化する;
f)暫定サポート主面上にある層を光学物品主表面の上に転写する;
g)下位層が上位層に接着して構成された耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を塗工した主面を持つ基材から構成された光学物品を回収する。
【0093】
前記暫定サポートは剛性でも柔軟性であってもよいが柔軟性が好ましい。これは取り外し可能なサポート、すなわちこれは本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜が一般には最終サポートとなるサポートへ転写されるやいなや取り外されることを意図したものである。
転写を容易にするために予め剥離剤層で覆った暫定サポートを用いることもできる。このような層は転写手順の終わりに随意的に取り除くこともできる。
柔軟な暫定サポートは一般に数ミリメートルの厚みの薄い部品で、好ましくは0.2から5mm、より好ましくは0.5から2mmの厚みで、プラスチック素材、好ましくは熱可塑性素材である。
さらに、もっと薄いフィルムも暫定サポートとして用いることができる。
【0094】
暫定サポートを作るために用いることができる好適な熱可塑性(共)重合物には、ポリスルホン類、メチルポリ(メタ)アクリレートのような脂肪族ポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、SBMブロック共重合物(スチレン、ブタジエンおよびメチルメタクリレート)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、アリーレンポリオキシド類、ポリイミド類、ポリエステル類、ビスフェノールAポリカーボネートのようなポリカーボネート類、ポリ塩化ビニル、ナイロン類のようなポリアミド類、これらの共重合物およびその混合物が含まれる。ポリカーボネートが好適な熱可塑性素材である。
【0095】
暫定サポートの主面は1種類以上の機能性被膜(前出)を含む場合もありこれらは本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜、とりわけ先に定義した補助耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜と同時に最終サポートに転写される。もちろん、転写される被膜は暫定サポート上には最終サポート上の予定の積層順とは逆の順で重ねられている。
さらには、転写を行う前に、さらなる機能性被膜を二層構造被膜の下位層の上に形成する場合もある。
【0096】
本発明はさらに本発明による耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜(または前記耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を含む被膜の積層)を暫定サポートから最終基材へ転写する方法にも関係する。
暫定サポートに塗布された被膜の転写は当業者には周知のすべての適切な方法で実施することができる。
さらに暫定サポート上に形成されている耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を転写するのではなく最終基材に結合させることも可能で、かくしてサポートが最終基材に統合される。
【0097】
伝統的な重ね方法の代替案を転写手順を含めた工程に適用することができる。かくして、例えば、上位層組成物は下位層組成物を重ねる前に熱的な処理により完全に硬化することも、上位層はその表面に下位層組成物を重ねる手順の前に表面調整処理をおこなうことも、上位層組成物は下位層組成物を重ねる前に不完全にだけみ硬化することもできる。
【0098】
さらに、本発明による二層構造の耐摩耗および耐スクラッチ被膜の両層は、補助耐摩耗および/または耐スクラッチ層のようなすべての他の層と同様に、基材に個別に転写することもできる。
以下の実施例は本発明をより具体的に説明するが、いかなる面においても制約されるものではない。別途規定しない限り、表示したすべてのパーセントは重量パーセントである。
【0099】
<実施例>
<1.一般的手順>
実施例1〜8および11〜15に用いた光学物品はESSILORによるORMATMレンズ基材で直径65mm、強度−2.00ジオプトルおよび厚みが1.2mmあり、その凸面は連続的に次のものが塗工されている:
− WitcobondTMを随意的に充填したものをベースとしたポリウレタンタイプの耐衝撃プライマーの随意的な1μm厚みの層(実施例15、19、21、22);
− エポキシシラン加水分解物をベースとした随意的な2.5μm厚みの追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ単層被膜(実施例18のみ)。このような被膜の調合および準備方法は以降により詳細に記載されている;
− 本発明による二層構造の耐摩耗および耐スクラッチ被膜で、ここに硬度勾配は耐摩耗下位層から耐摩耗上位層にかけてテトラトキシシランの割合を増やすことにより得た;
− 随意的に補助耐摩耗および耐スクラッチ被膜(実施例20);および
− 真空下の蒸発により形成したそれぞれが27、21、80および81nm厚みであるZrO/SiO/ZrO/SiOの4層の積層から構成された随意的な反射防止被膜(実施例1、2、4および5のみ)。
実施例9、10、16および17は本発明には対応していない下位および/または上位層組成物を用いた比較実施例である。
【0100】
<a)耐摩耗下位層組成物の準備>
<下位層組成物A>
180gの0.1N塩酸を280gのGlymoおよび150gのテトラトキシシラン(TEOS)を含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで45gのイタコン酸、14gの N−シアノグアニジン、330gのメタノールおよび1.5gの触媒 FC430 をこれに加えることにより、このような調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約30%であった。
【0101】
<下位層組成物A1>
102.8gの0.1N塩酸を385.8gのGlymoが入ったビーカーに落とし込んだ。加水分解中に温度を40〜42℃まで上げた。加水分解した溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで61.6gのイタコン酸、15.4gの N−シアノグアニジン、432.9gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤FC430 をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約35%であった。
【0102】
<下位層組成物A2>
101.8gの0.1N塩酸を445.2gのGlymoが入ったビーカーに落とし込んだ。加水分解中に温度を43℃まで上げた。加水分解した溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで18.9gのアルミニウムアセチルアセトネート、333gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤 FC430 をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約35%であった。
【0103】
<下位層組成物A3>
151.5gの0.1N塩酸を365gのGlymoおよび196.6gのテトラトキシシラン(TEOS)が入ったビーカーに落とし込んだ。加水分解中に温度を42℃まで上げた。加水分解した溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで18.9gのアルミニウムアセチルアセトネート、166.6gのメタノールおよび1.35gの界面活性剤FC430をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約35%であった。
【0104】
<下位層組成物A4(比較組成物)>
64gの0.1N塩酸を183gのGlymoの中にかき混ぜながら落とし込んだ。加水分解中、温度を46℃まで上げた。30分後、加水分解温度は28℃まで低下し、次いで91gのDMDES(ジメチルジエトキシシラン)を落とした。この追加は幾分発熱的であった(29℃)
加水分解した溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで583.3gのコロイド状シリカ分散物、これは日産の Suncolloid MAST でメタノール中に30%の乾物がある、10.5gのアルミニウムアセチルアセトネート、31.5gのメチルエチルケトン、35.2gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤 FC430 をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約35%であった。
【0105】
<下位層組成物A5>
2.15gのリン酸(純度:99%)を271.3gのGlymoおよび166.4gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで9.6gの N−シアノグアニジン、239.3gの脱イオン水、110.4gの1−メトキシプロパンー2−オール、これはDow ChemicalからDOWANOL PMTM の商品名で市販されている、および0.8gの界面活性剤 EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えることにより、この調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約31.2%であった。
所見:比較実施例16において、組成物A5は上位層組成物として用いられた。
【0106】
<下位層組成物A6>
77.6gの0.1N塩酸を339.2gのGlymoを含むビーカー内に落とし込んだ。加水分解中に温度を40〜42℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで10.8gのイタコン酸、3.4gの N−シアノグアニジン、367.9gのメタノールおよび1.2gの界面活性剤 EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約31.35%であった。
【0107】
<下位層組成物A7>
102.4gの0.1N塩酸を224gのGlymoおよび120gのTEOSを含むビーカー内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで36gのイタコン酸、11.2gの N−シアノグアニジン、264gのメタノールおよび0.8gの界面活性剤EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約30%であった。
【0108】
<下位層組成物A8>
この組成物は下の表に示してある成分を混合して得た。出来た層はチタンベースのコロイドのため高い屈折率を持っている。
【表1】

【0109】
<b)耐摩耗上位層組成物の準備>
<上位層組成物B>
130.5gの0.1N塩酸を126.1gのGlymoおよび294.4gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を49℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで20.8gのイタコン酸、5gの N−シアノグアニジン、423.1gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤 FC430 をこれに加えることにより、このような調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約20%であった。
【0110】
<上位層組成物B1(比較組成物)>
152.3gの0.1N塩酸を141.3gのGlymoおよび346.7gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を47℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで12gのアルミニウムアセチルアセトネート、346gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤 FC430 をこれに加えることにより、このような調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約20%であった。
【0111】
<上位層組成物B2(比較組成物)>
29.1gの0.1N塩酸を127.2gのGlymoを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで366.7gのコロイド状シリカ分散物で、メタノール中に30%の乾物がある日産の Suncolloid MAST、6.3gのアルミニウムアセチルアセトネート、18.9gのメチルエチルケトン、450.4gのメタノールおよび1.5gの界面活性剤 FC430 をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約20%であった。
【0112】
<上位層組成物B3>
2.43gのリン酸(純度:99%)を169.6gのGlymoおよび277.4gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで9.6gの N−シアノグアニジン、269.5gの脱イオン水、72.3gの1−メトキシプロパンー2−オルで、Dow ChemicalからDOWANOL PMTMの商品名で市販されているもの、および0.8gの界面活性剤 EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えることにより、この調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約26%であった。
所見:比較実施例17において、組成物B3は下位層組成物として用いられた。
【0113】
<上位層組成物B4(比較組成物)>
2.45gのリン酸(純度:99%)を90.4gのGlymoおよび332.9gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで9.6gの N−シアノグアニジン、271.7gの脱イオン水、95.3gの1−メトキシプロパンー2−オルでDow ChemicalからDOWANOL PMTMの商品名で市販されているもの、および0.8gの界面活性剤EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えることにより、この調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約20.8%であった。
【0114】
<上位層組成物B5>
1.92gのリン酸(純度:99%)を102.4gのGlymoおよび249.6gのTEOSを含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで5.6gの N−シアノグアニジン、219.2gの脱イオン水、220.5gの1−メトキシプロパンー2−オールでDow ChemicalからDOWANOL PMTMの商品名で市販されているもの、および0.8gの界面活性剤EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えることにより、この調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約18%であった。
【0115】
<c)耐摩耗二層構造被膜の堆積手順>
<手順1>
ORMATMのめがねレンズ用の基材(随意的にプライマー層を塗布、実施例15)をディップコートにより下位層組成物を塗工した。液切りの度合いは堆積厚みが3.5μmになるように調整した。次いで下位層組成物をオーブン内で100℃で3時間重合した。
このような重合の後耐摩耗下位層を活性化する表面調整中間処理を施し、耐摩耗下位層を塗工したレンズに耐摩耗上位層の固定を促進できるようにした。
それからレンズに上位層組成物をディップコートにより塗布し、液切りの度合いを調節することにより1μmの厚みの重ねが得られるようにした。この様な上位層組成物を次にオーブン内で100℃で3時間重合した。
【0116】
<手順2>
ORMATMのめがねレンズ用の基材にディップコートにより下位層組成物を塗工した。これらのレンズの液切りの度合いは堆積厚みが3.5μmになるように調整した。次いで下位層組成物をオーブン内で90℃で10分間プレ重合した。
次いでレンズを室温で15分間冷却し、それからディップコートにより上位層組成物を直接塗工し1μmの厚みの堆積を得るように液切りの度合いを調節した。
この様な上位層組成物を次にオーブン内で100℃で3時間重合しこれによりまた下位層組成物の重合も完成した。
【0117】
<手順3>
下位層組成物のプレ重合手順が90℃で15分間実施されたことを除いて、手順2と同様である。
【0118】
<手順4>
下位層組成物のプレ重合手順が100℃で5分間実施されたことを除いて、手順2と同様である。
【0119】
<手順5>
下位層組成物のプレ重合手順が100℃で10分間実施されたことを除いて、手順2と同様である。
【0120】
<手順6>
下位層組成物のプレ重合手順を100℃で30分間実施し、および重合手順を100℃で30分間実施したことを除いて、手順2と同様である。
さらに、下位層組成物の堆積の厚みが3μm、および上位層組成物の堆積の厚みが1.5μmとなるように液切りの度合いを調節した。
【0121】
<手順7>
下位層組成物を重ねる前に、ORMATM のめがねレンズ用の基材にディップコートにより単層の追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜を塗工し(堆積の厚みが2.5μmとなるようにレンズの液切りの度合いを調節した)、これをオーブン内で100℃で30分間プレ重合したことを除いて、手順6と同様である。
さらに、下位層組成物の堆積の厚みが2μm、および上位層組成物の堆積の厚みが1.5μmとなるように液切りの度合いを調節した。
【0122】
前記の追加的な単層の耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜は以下で得られた組成物から形成した:
77.6gの0.1N塩酸を339.2gの Glymo を含むビーカー内に落とし込んだ。加水分解中に温度を40〜42℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで10.8gのイタコン酸、3.4gのN−シアノグアニジン、367.9gのメタノールおよび1.2gの界面活性剤EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約31.35%であった。
【0123】
<手順8>
下位層組成物を重ねる前に、ORMATMのめがねレンズ用の基材にディップコートにより8μmの厚みの耐衝撃プライマー層を塗工し、90℃で30分間プレ重合したことを除いて、手順2と同様である。
プライマー層は225.7gのポリウレタンラテックス WitcobandTM234、774.4gの脱ミネラル水、370.8gのコロイド状フィラーでCCICから市販されているHX305W1(SnOのコロイド)、および3gの界面活性剤Silwet L−77TMを順次混合して準備した組成物から形成した。このプライマー組成物の理論乾物(TDM)は20%であった。
さらに、下位層組成物の堆積の厚みが3μmとなるように液切りの度合いを調節し、さらに下位層のプレ重合手順は90℃で30分間実施された。
【0124】
<手順9>
ORMATMのめがねレンズ用の基材にディップコートにより下位層組成物を塗布した。堆積の厚みが2.5μmとなるようにこれらのレンズの液切りの度合いを調節した。次いで下位層組成物をオーブン内で100℃で30分間プレ重合した。
次いでレンズを室温で15分間冷却し、ディップコートにより上位層組成物を直接塗工し堆積の厚みが1.5μmとなるように液切りの度合いを調節した。上位層組成物を次いでオーブン内で90℃で30分間プレ重合した。
【0125】
レンズを室温で15分間冷却し、ディップコートにより耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の追加層を直接塗工し(堆積の厚みが1μmとなるようにレンズの液切りの度合いを調節した)、この様な重ねに続いて全体の最終重合手順が90℃で30分間実施された。
【0126】
単層の耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の追加的な層は次のようにして得られた組成物から形成された:
2.45gのリン酸(純度:99%)を90.4gのGlymoおよび332.9gの TEOS を含む溶液内に落とし込んだ。加水分解中に温度を45℃まで上げた。加水分解溶液を室温で24時間かき混ぜ、次いで9.6gの N−シアノグアニジン、271.7gの脱イオン水、95.3gの1−メトキシプロパンー2−オルでDow ChemicalからDOWANOL PMTMの商品名で市販されているもの、および0.8gの界面活性剤EFKATM3034(Ciba Specialty Chemicals)をこれに加えることにより、この調合物の拡散性を向上させた。この組成物の理論乾物(TDM)は重量で約20.8%であった。
【0127】
<手順10>
プライマー層が171.8gのポリウレタンラテックス WitcobandTM234、201.8gの脱ミネラル水、196.98gのコロイド状フィラー LUDOX H540(重量で40%のシリカ含有)、531.2gの脱ミネラル水、および1.844gの界面活性剤Silwet L−77TMを順次混合して準備した組成物から形成したことを除いて、手順8と同じである。このプライマー組成物の理論乾物は15%であった。
【0128】
<d)耐摩耗下位層の表面前処理手順>
<ソーダを用いた表面調整>
耐摩耗下位層を塗工したレンズを50℃の重量で5%のソーダ浴に浸漬し(温度が40℃であったテスト1および15は除く)、1分間、超音波をかけた。これらを脱ミネラル水中ですすぎ、乾燥した。
【0129】
<プラズマを用いた表面調整>
耐摩耗下位層を塗工したレンズに酸素プラズマ処理を施した(出力1200Wで4.5分間、ガス流量O:200mL/分、圧力0.2バール)。
【0130】
<コロナを用いた表面調整>
耐摩耗下位層を塗工したレンズにコロナ放電処理を施した(ガラスと電極間の距離1cmから2cm、処理時間10秒間、エミッター出力100W)。
【0131】
<性能評価>
実施例で得た塗工済みめがねの特性を評価するために、耐摩耗性はBAYER ISTM試験で得られた値で、スチールウール試験を用いた耐スクラッチ性で、および「クロスハッチ試験」による耐摩耗被膜の接着性により測定した。
BAYER ISTM 試験で高い値を得ることは高レベルの耐摩耗性を示すものであり、一方でスチールウール試験の低い値は高レベルの耐スクラッチ性を示すものである。
採用した3つの試験について以下に記載する。
【0132】
<a)耐摩耗性の性能評価:BAYER ISTM 試験(Bayer アルミナ>
耐摩耗性は、本発明による耐摩耗被膜または比較耐摩耗被膜を塗工した基材、本発明による耐摩耗被膜および反射防止被膜を塗工した基材(実施例1、2、4、5)、プライマー被膜および本発明による耐摩耗被膜を塗工した基材(実施例15、19、21、22)、追加的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜および本発明による耐摩耗二層構造被膜を塗工した基材(実施例18)、または本発明による耐摩耗二層構造被膜および補助耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層を塗工した基材(実施例20)、に対するBAYER ISTM値を判定して評価した。
このBAYER値はASTM F735−81規格をベースとして、以下の修正を加えて決定した:200ではなく300サイクルを採用し、さらに摩耗粉は砂ではなくアルミナ(Al)ZF152412 で Ceramic Grains(前のNorton Materials、New Bond Street、PO Box 15137 Worcester、Mass.01615−00137)から供給された。
【0133】
この試験はサンプルガラスおよび標準ガラスを同時に規定の粒子寸法の摩耗粉(およそ500g)が入った容器内で100サイクル/分の決められた往復運動で3分間かき混ぜることから成る。サンプルガラスの散乱計測H「事前/事後」は標準ガラス、とりわけその BAYER値ISTMを1に固定したCR−39TMベースの剥き出しのガラスのそれと比較して行った。BAYER値のISTMはR=H標準/Hサンプルガラスとして計算した。
散乱測定はPacific Scientific製のHazeguard systemモデルXL−211を用いて実施した。
BAYER ISTM値はRが3以上かつ4.5未満で良好、Rが4.5以上で優秀と評価された。
【0134】
<b)硬度の性能評価−耐ひっかき性(手動試験)>
耐スクラッチ性はスチールウール試験を用いて測定し、これはこの作業中スチールウールに一定の圧力(前進時に5kg、後退時に2.5kg)を加えながらスチールウールで繊維方向に、本発明により塗工されたガラス面4〜5cmに沿って5回前方へ、4回後方へ手でこすることから成る。約3cmx3cmの極細スチールウール STARWAX(000級)を折り重ねて使用した。
【0135】
次いでガラスを乾いた布で拭き、アルコールですすぎ、目視で観察した。以下の段階(3点法:1、3または5)にしたがい次の評価を与えた:
1:ガラスに視認できるスクラッチが認められないかまたはやっと見える程度のスクラッチがある(1から10スクラッチ)
3:比較的スクラッチされたガラス(11から50スクラッチ)
5:強くスクラッチされたガラス(50を超えるスクラッチ)
【0136】
<c)耐摩耗被膜の接着性の性能評価(クロスハッチ試験)>
接着性試験は ASTM D3359−93規格に基づきおこない、0から5の範囲で0が最もよい結果である定性的順位をつけた。
これは基材の上に重ねた本発明による耐摩耗二層構造被膜に精密ナイフで刻み線をクロスハッチパターンに従って刻み込み、この様にクロスハッチした被膜に粘着テープを貼り、次いでこれにより引き剥がそうということから成る。結果は刻みができた角が完全に滑らかなままでかつ限界を定めた中の四角が全く剥離しなければレベル0で良好と見なされた。
この接着性試験は本発明による耐摩耗二層構造被膜を沸騰温水浴に30分間浸漬した後にさらに実施する場合もある。
【0137】
<3.結果>
準備した種々の光学物品の耐摩耗および耐スクラッチの両方に対する性能を表1に示す。比較試験の結果は太字で示してある。
【表2】

【0138】
本発明による耐摩耗被膜は単層被膜を使っていた場合に得られたであろうものよりずっと高い性能を提供している。耐摩耗被膜の上に反射防止被膜を重ねた後でも、単層被膜を使っていた場合に得られたであろうものよりずっと高い性能であった。
実施例1から3はソーダを用いた中間表面調整がプラズマまたはコロナ放電処理に比べて好適であることを示している。
GLYMOおよびTEOS混合物を含みおよびイタコン酸/N−シアノグアニジン触媒系を用いた組成物AおよびBはAl(acas)触媒を用いたA3およびB1に比べより効率的であった。
【0139】
TEOSではなくコロイド状シリカを用いた比較実施例9および10は耐摩耗および耐スクラッチに関する結果はずっと劣るものである。同様に、本発明によるRsおよび/またはRi比率を示さなかった比較実施例16および17も劣った耐摩耗性を示している。
【0140】
実施した接着性試験(クロスハッチ試験)はガラスが100℃の水に30分間浸漬された後でも被膜間の非常に強い接着性(評点0)を明らかにし、この結果は発明の最初の代替案の方法が実施されたにせよ(中間面調整をした実施例1から8および15)または発明の2番目の代替案(中間面調整なしの実施例11から14)の方法が実施されたにせよ、得ることができた。後者の場合では、耐摩耗被膜の2層の間の接着は下位層をプレ重合したことにより得られている。
プライマー被膜を導入することにより光学物品の耐摩耗および耐スクラッチ特性が変わることはなかった(実施例1、15、19、21および22の結果)。
【0141】
基材と本発明による二層構造被膜の間に追加的な耐摩耗被膜を導入すること(実施例18)は非常に高い耐摩耗性を持つ物品に導き、本発明による二層構造被膜の上位層に接触する補助耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層を導入すること(実施例20)でも同様であった。
実施例19、21および22ではコロイド充填プライマー(実施例21ではSiOおよび実施例19および22ではSnO)および二層構造被膜の下位層それ自身がコロイドで充填されている(実施例22)ことから成る積層の発明を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学物品で、耐摩耗および耐スクラッチ被膜を塗工した少なくとも1つの主表面を持つ基材から構成され、前記被膜が基材側から、互いに接着した下位層および上位層から成り、上位層は上位層組成物が硬化した層で下位層は下位層組成物が硬化した層であり、
ここに前記上位層組成物は以下のものを含む:
少なくとも1種類の有機シラン化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
Si(X)4−n−m (I)
ここにR基群は同一または異なる1価の有機基で、炭素原子を介してケイ素に結合し、さらに少なくとも1つのエポキシ官能基を持ち、X基群は同一または異なる加水分解性の基、Yは炭素原子を介してケイ素に結合する1価の有機基、nおよびmはn=1または2でn+m=1または2となる整数である。および、
少なくとも1つの化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
M(Z) (II)
ここに M は金属または准金属を表し、Z基群は同一または異なる加水分解性の基で、xは4以上、好ましくは4から6で金属または准金属Mの原子価であり、次の比率:
【数1】

が2.3以下で、
ここに前記下位層組成物は以下のものを含む:
少なくとも1つの有機シラン化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
R’n’Y’m’Si(X’)4−n’−m’ (III)
ここにR’基群は同一または異なる1価の有機基で、炭素原子を介してケイ素に結合し少なくとも1つのエポキシ官能基を持ち、X’基群は同一または異なる加水分解性の基、Y’は炭素原子を介してケイ素に結合する1価の有機基、n’および m’は n’=1または2 で n’+m’=1または2 となる整数であり、
随意的に、少なくとも1つの化合物、またはその加水分解物で次の化学式のもの:
M’(Z’) (IV)
ここにM’は金属または准金属を表し、Z’基 群は同一または異なる加水分解性の基で、yは4以上、好ましくは4から6で金属または准金属 M’の原子価であり、次の比率:
【数2】

が2.3を超える。
【請求項2】
化合物(II)が化学式Si(Z)で、ここにZ基群は同一または異なる加水分解性の基であり、および/または化合物(IV)は化学式Si(Z’)で、ここにZ’基群は同一または異なる加水分解性の基である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
Rsが2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.25以下、さらにより好ましくは1.1以下であり、かつ0.85以上、より好ましくは0.9以上、さらにより好ましくは0.95以上である、請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
Riが3.0以上、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.5以上、さらにより好ましくは10以上である、請求項1、2または3に記載の物品。
【請求項5】
化合物Iの理論乾物重量が上位層組成物の乾物重量の30から60%、より好ましくは40から55%に相当する、請求項1から4のいずれかに記載の物品。
【請求項6】
化合物IIIの理論乾物重量が下位層組成物の乾物重量の40%超、より好ましくは50%超、さらにより好ましくは60%超、および最も好ましくは65%超に相当する、請求項1から5のいずれかに記載の物品。
【請求項7】
化合物IVの理論乾物重量が下位層組成物の乾物重量の30%未満、より好ましくは25%未満、さらにより好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満に相当する、請求項1から6のいずれかに記載の物品。
【請求項8】
耐摩耗および耐スクラッチ被膜の厚みは1から15μm内で変動し、1から10μmが好ましく、2から8μmがより好ましく、3から6μmがさらにより好ましい、請求項1から7のいずれかに記載の物品。
【請求項9】
上位層に対する下位層の厚みの比率が1.5以上、より好ましくは2.0以上、さらにより好ましくは3.0以上である、請求項1から8のいずれかに記載の物品。
【請求項10】
加水分解性の基X、X’、Z、Z’が互いに独立的に−O−Rアルコキシル基、−O−C(O)Rアシロキシ基、ハロゲン類でClおよびBrの様なもの、およびアミノ基で随意的に1または2ヶのアルキルまたはシラン基で置換されたものから選択され、ここにRは直鎖状または枝分かれしたアルキル基で好ましくはC〜Cアルキル基またはアルコキシアルキル基で、Rはアルキル基で好ましくはC〜Cアルキル基でメチルまたはエチル基が好ましい、請求項1から9のいずれかに記載の物品。
【請求項11】
Y、Y’基が互いに独立的に、C〜Cアルキル基、アルセニル(alcenyl)、C〜C10アリール基、メタクリロキシアルキル、アクリロキシアルキル、フルオロアルキル、ペルフルオロアルキル、(ポリ)フルオロアルコキシ[(ポリ)アルキレノキシ]アルキルおよびペルフルオロアルコキシ[(ポリ)アルキレノキシ]アルキル基から選択される、請求項1から10のいずれかに記載の物品。
【請求項12】
RまたはR’基が互いに独立的に、化学式VおよびVIから選択される、請求項1から11のいずれかに記載の物品。
【化1】

ここにRはアルキル基、好ましくはメチル基または水素原子、aおよびcは1から6の範囲の整数で、bは0、1または2である。
【請求項13】
RまたはR’基がそれぞれ互いに独立的に、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルおよびγ−グリシドキシエトキシプロピル基から選択され、γ−グリシドキシプロピル基を表すことが好ましい、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
化学式Iおよび/またはIIIがそれぞれ互いに独立的に、化学式VIIおよびVIIIから選択される、請求項1から13のいずれかに記載の物品。
【化2】

ここにRは1から6個の炭素原子を持つアルキル部分でメチルかエチル部分が好ましく、aおよびcは1から6の範囲の整数でbは0、1または2である。
【請求項15】
化学式IIおよび/またはIVがそれぞれ互いに独立的に、テトラアルコキシシラン類、好ましくはテトラトキシシラン(tetrathoxysilane)、テトラメトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(sec−ブトキシ)シランおよびテトラ(t−ブトキシ)シランから選択される、請求項1から14のいずれかに記載の物品。
【請求項16】
下位および/または上位層組成物が少なくとも1種類の縮合触媒および/または少なくとも1種類の架橋触媒を含む、請求項1から15のいずれかに記載の物品。
【請求項17】
縮合触媒が多官能性の飽和または不飽和酸の酸または無水物、好ましくはマレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸および無水トリメリット酸から選択される、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
硬化触媒がイミダゾール誘導体およびそのイミダゾリウム塩、N−シアノグアニジン、化学式M(CHCOCHCOCHのアセチルアセトン金属塩でここにMが好ましくはZn2+、Co3+、Fe3+またはCr3+の金属イオンでnが1から3までの整数であるもの、アンモニウムテトラチオシアナトジアミンクロメート(III)、アルミニウムをベースとした化合物、カルボン酸塩で亜鉛、チタン、ジルコニウム、スズまたはマグネシウムのような金属をベースとしたもので好ましくは亜鉛オクトアートまたは第一スズオクトアート、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩、から選択されている、請求項16または17に記載の物品。
【請求項19】
アルミニウムをベースとした化合物がアルミニウムキレート類、アルミニウム(III)アシレートおよびアルコレート類、好ましくはアルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムエチルモノ(アセトアセテート)ビスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートエチルビス(アセトアセテート)、ジ−n−ブトキシアルミニウムエチルモノ(アセトアセタート)およびジ−i−プロポキシアルミニウムエチルモノ(アセトアセテート)、から選択される、請求項18に記載の物品。
【請求項20】
下位および/または上位層組成物がアルミニウムアセチルアセトナートもしくはイタコン酸およびN−シアノグアニジンの混合物から構成された触媒系を含む、請求項1から15のいずれかに記載の物品。
【請求項21】
下位および/または上位層組成物が組成物全体の重量に対して重量で10%未満しかフィラーを含まない、より好ましくは全くフィラーを含まない、請求項1から20のいずれかに記載の物品。
【請求項22】
物品が基材側から、耐衝撃プライマー層に前記の耐摩耗および耐スクラッチ被膜を塗工して構成され、前記プライマー層がコロイド状フィラーを含むことが好ましい、請求項1から21のいずれかに記載の物品。
【請求項23】
物品が前記上位層に接する耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜の補助層を備え、前記耐摩耗および/または耐スクラッチ補助層が耐摩耗および/または耐スクラッチ補助層組成物を硬化した層であり、前記補助層組成物が次のものから構成される、請求項1から22のいずれかに記載の物品:
下の化学式の少なくとも1種類の有機シラン化合物、またはその加水分解物:
R”n”Y”m”Si(X”)4−n”−m” (IX)
ここに R”基群は同一または異なり、炭素原子を介してケイ素に結合し、かつ少なくとも1つのエポキシ官能基を持つ1価の有機の基、X”基は同一または異なり、加水分解性の基、n”および m”はn”=1または2でなおかつn”+m”=1または2であり、および
下の化学式の少なくとも1種類の化合物、またはその加水分解物:
M”(Z”) (X)
ここにM”は金属または準金属を表し、Z”基群は同一または異なり、互いに独立した加水分解性の基でzは4以上、好ましくは4から6の金属または準金属 M”の原子価であり、次の比率:
【数3】

が2.3以下でありかつ比率Rsより確実に低く、補助化合物Xの理論乾物重量が補助的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層組成物の乾物重量の少なくとも45%に相当し、さらに補助的な耐摩耗および/または耐スクラッチ被膜層の厚みが前記上位層より低い。
【請求項24】
Rss が2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらにより好ましくは1.25以下、そして最も好ましくは1.1以下である、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
Rss が0.8以上、より好ましくは0.9以上、さらにより好ましくは0.95以上である、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
反射防止被膜が耐摩耗および耐スクラッチ被膜の上に重ねられている、請求項1から25のいずれかに記載の物品。
【請求項27】
物品がさらに光学レンズ、好ましくはめがねレンズと規定される、請求項1から26のいずれかに記載の物品。
【請求項28】
基材から構成される耐摩耗および耐スクラッチ光学物品を作る方法で、以下のものを含む方法:
a)少なくとも1つの主面を持つ基材から構成される光学物品を準備する;
b)基材の主面の上に請求項1から21のいずれかで定義したような下位層組成物の層を重ねる;
c)前記下位層を熱的な処理を用いて少なくとも不完全に硬化する;
d)前の手順でできた層の上に請求項1から21のいずれかで定義したような上位層組成物の層を重ねる;
e)前記上位層を熱的な処理を用いて硬化する;
f)下位層が上位層に接着して構成された耐摩耗および耐スクラッチ被膜を主面に塗工した基材から構成される光学物品を回収する。
【請求項29】
下位層組成物が手順c)の間に80から150℃の範囲の温度で30分から4時間、熱的な処理を用いて完全に硬化される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
手順c)でできた物品の表面に、手順d)の前に上位層の接着を増加させるための表面調整処理を受けさせる、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
表面調整処理が高エネルギー粒子種で好ましくはイオンビームまたは電子ビームの照射、コロナ放電処理、イオン破砕、紫外線処理、真空下のプラズマ処理、酸または塩基処理および/または溶剤処理、またはこれらの処理のすべての組み合わせから選択され、塩基溶液処理が好ましい、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
下位層組成物が手順c)の間に70から120℃、好ましくは80から120℃の範囲の温度で、1から30分間、より好ましくは3から20分間、さらにより好ましくは5から10分間の熱的な処理を用いて不完全に硬化され、かつ手順c)でできた物品の表面が、手順d)の前にどのような表面調整処理も受けない、請求項28に記載の方法。

【公表番号】特表2009−527786(P2009−527786A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555854(P2008−555854)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052383
【国際公開番号】WO2008/062142
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】