説明

交通流計測装置

【課題】交通流の監視業務に用いられるカメラ設置条件での映像を用いて、効率よく交通流を計測する交通流計測装置を得る。
【解決手段】所定の周期で道路状態を撮像する画像撮像部10により撮像された画像内の車線毎に車両検出領域を形成し、車頭車尾検出部12は、この車両検出領域の最新画像と画像撮像部10により1周期前に撮像された画像を順次ずらしながら対向させ、両画像の各画素の輝度の差分を累積するシフトマッチング手法により、車両の車頭および車尾を検出し、交通流計測部20によって、車頭車尾検出部12による車頭及び車尾の検出結果を用いて、車線ごとの車両通過台数を計測するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路監視業務において、車両の通過台数・通過速度・車両種別・道路占有状況の計測を行なう交通流計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、交通流計測における手段の1つとして道路車線上の車両の通過とその車速および車種の計測を、コイルセンサなどの物理センサを用いて行なっているものがあった。
また、特許文献1には、テレビカメラなどで道路を撮影し、その撮影された画像を処理することで、車両の検出と車種判別を行うようにしたものが記載されている。
また、特許文献2には、道路車線上に類似度判定領域と呼ばれる車両通過判定領域を設け、車両が通過していない背景テンプレートとの相関を取ることで、車両の通過を検出するものが記載されている。
また、特許文献3には、2台のカメラを用いて撮影された画像の視差情報から車両の形状を判定し、車種判別を行なうものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−97335号公報(第4〜7頁、図1)
【特許文献2】特開平9−282455号公報(第4〜8頁、図1)
【特許文献3】特開平9−33232号公報(第6〜13頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の交通流計測における手段の1つとして、道路車線上の車両の通過とその車速および車種の計測を、コイルセンサなどの物理センサを用いて行なっているものでは、路面にコイルセンサを埋没する必要があり、設備投資コストが高くなるという問題があった。
また、特許文献1に記載のものでは、車種判別を行うに当たって、車幅から車種を算出することを前提としているため、大型車と普通車のわずかな車幅の違いにより車種判定を行なうことは、カメラの向きの影響を受けやすく間違いが発生しやすいという問題があった。
また、特許文献2に記載のものでは、背景テンプレートとの相関値が下がると車両進入中と判断し、相関値が再び上がると車両が侵出したと判断し、その相関値の変化によって予め定義してあるテーブルに沿って車両速度と車種を推定している。しかし、その推定条件として先行車両の速度やそれまで計測した平均速度の情報を用いているため、車両毎に速度差のある閑散とした交通流状況下では、その推定自体が正常に働かないという問題があった。
また、特許文献3に記載のものでは、視差情報を得るためにカメラを2台必要とし、また画像撮像機能も2つ必要とするため、機器設置コストがかかるという問題があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、交通流の監視業務に用いられるカメラ設置条件でのカメラ映像を用いて、効率よく交通流を計測する交通流計測装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる交通流計測装置においては、道路状態を撮像した画像を処理し、交通量を計測する交通流計測装置であって、所定の周期で道路状態を撮像する画像撮像手段、この画像撮像手段により撮像された画像内の車線毎に車両検出領域を形成し、この車両検出領域の最新画像と所定の周期前に撮像された画像を対向させながら、両画像の各画素の輝度の差分を累積することにより、車両の車頭または車尾を検出する車頭車尾検出手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、以上説明したように、道路状態を撮像した画像を処理し、交通量を計測する交通流計測装置であって、所定の周期で道路状態を撮像する画像撮像手段、この画像撮像手段により撮像された画像内の車線毎に車両検出領域を形成し、この車両検出領域の最新画像と所定の周期前に撮像された画像を対向させながら、両画像の各画素の輝度の差分を累積することにより、車両の車頭または車尾を検出する車頭車尾検出手段を備えたので、撮像画像から車両検出領域に侵入および侵出する車両の車頭または車尾を効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による交通流計測装置のカメラから撮像する撮像画像の一例を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1による交通流計測装置のシフトマッチングのマッチング手順を表す概念図である。
【図4】この発明の実施の形態1による交通流計測装置のシフトマッチングのマッチング手順を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態2による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態2による交通流計測装置のカメラから撮像する撮像画像の一例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2による交通流計測装置の車両検出領域の正四角形矩形への変換を示す概念図である。
【図8】この発明の実施の形態3による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態4による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
【図10】この発明の実施の形態4による交通流計測装置のカメラと通行車両との計測時刻と位置関係を表す図である。
【図11】この発明の実施の形態4による交通流計測装置のカメラと通行車両との計測時刻と位置関係を表した図である。
【図12】この発明の実施の形態5による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1について図を用いて説明する。
図1は、この発明の実施の形態1による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
図1において、画像撮像部10(画像撮像手段)は、監視用ITVカメラなどの撮像素子により所定の周期で画像を撮像し、その画像をデジタルデータとして記憶する。車線設定部11は、撮像画像上で車両が通行する車線と、この車線内に車頭または車尾を検出するための車両検出領域を予め設定しておくものであり、これらの設定は監視カメラの設置を行った際に決定される。図2は画像撮像部10で入力された監視画像とその車線設定の一例を示しており、この場合は監視カメラを道路面に対して真下に向けている。
車頭車尾検出部12(車頭車尾検出手段)は、車線設定部11により各車線上に設定された車両検出領域において、シフトマッチングと呼ばれる手法を用いて、車両検出領域内での車両の車頭および車尾を検出する。交通流計測部20は、車頭車尾検出部12にて検出された車頭と車尾の情報をもとにして、車線毎の車両通過台数を計測する処理部である。
【0010】
なお、交通流計測装置は、コンピュータによって構成され、監視センターに設置されてもよいが、設置場所はこれに限らない。また、交通流計測装置を構成する各部を同じ場所に設置しても良く、また、各部を別の場所に分けて設置しても良い。
また、この発明で用いられる監視カメラは、複数あっても構わない。それぞれの映像について、適用することができる。
【0011】
また、交通流計測部20は、実施の形態1及び後述する実施の形態2〜実施の形態5で述べるような方法により検出される車頭及び車尾に基づき、通過車両1台を計測する。また、後述する車長、車高計測により、大型車両か普通車両かの車種判定を行う。さらにまた、車速計測により、車両の通過速度を計測する。
そして、これら3つの統計を車線ごとに取り、交通流計測とする。
【0012】
図2は、この発明の実施の形態1による交通流計測装置のカメラから撮像する撮像画像の一例を示す図であり、画像撮像部から入力された道路画像の一例を示している。
図2において、第1車線30には、車両検出領域40が設定されている。第2車線31は、第1車線30と反対方向または同じ方向に進行する車線であり、ここにも車両検出領域41が設定される。
【0013】
図3は、この発明の実施の形態1による交通流計測装置のシフトマッチングのマッチング手順を表す概念図である。
図3において、車両検出領域40をシフトマッチングの基準となる基準テンプレート画像Qとし、1時刻前の撮像画像において、車両検出領域(1−pの領域)及び車両進行方向と逆方向の探索領域(n−pの領域)を含むマッチング画像Pを準備する。そして、1画素ずつ順次、車両進行方向と逆方向に基準テンプレート画像Qをシフトさせながら、基準テンプレート画像Qと対向するマッチング画像Pとの間でマッチングを行う。図3(a)は、マッチング手順の始めの状態を表す図、図3(b)は、マッチング手順の終りの状態を表す図である。
DL(0,y)には、列方向(図中横方向)だけの各画素の差分累積値を求める演算式が示されている。yを順次、カウントアップすることにより、1画素分ずつずらしながら、基準テンプレート画像Qとマッチング画像Pとの対向する各画素の列方向の差分累積値を演算する。
【0014】
図4は、この発明の実施の形態1による交通流計測装置のシフトマッチングのマッチング手順を示すフローチャートである。
【0015】
次に、動作について説明する。
まず、シフトマッチング方式について説明する。
シフトマッチング方式とは、最新画像の車両検出領域である基準テンプレート画像Qと、1時刻前の撮像画像の車両検出領域及び探索領域を含むマッチング画像Pとを用いて、全体最適シフト量を決定するテンプレート探索の段階(第1の探索)と、基準テンプレート画像Qを上下2分割し、シフト量0すなわち移動量0の領域と全体最適シフト量に準じたシフト量が発生する最適な分割境界線を探索することで、基準テンプレートQ内で移動が発生している境界位置を特定する段階(第2の探索)を有する。
つまり、第1の探索で、1時刻の間に車両がどれだけ進んだか(シフト量)がわかり、このシフト量に基づき、第2の探索で得られる分割境界線が車頭または車尾である。
【0016】
図3の概念図で、車両検出領域40をマッチングの基準となる基準テンプレート画像Qとし、1時刻前の撮像画像において、車両検出領域及び車両進行方向と逆方向の探索領域を含むマッチング画像Pを準備する。
マッチング手法としては、現在入力画像の車両検出領域40として設けたマッチングの基準となる横m画素、縦p画素の基準テンプレート画像Q(x,y)と、現在入力画像から1時刻過去の画像の車両検出領域及び探索領域を含むマッチング対象となる横m画素、縦n画素のマッチング画像P(x,y)の2つの画像に対して処理を行なう。ただし、マッチング画像Pは探索領域を含み、基準テンプレート画像Qより縦方向の画素数が大きいため、n>pとする。
【0017】
各Y座標毎に、基準テンプレート画像Qとマッチング画像Pとの輝度差の絶対値の差分累積値を求めるマッチングスコア値関数DLを式(1)として定義する。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、sは基準テンプレートQ画像とマッチング画像PとのY座標シフト量を示す値とし、s=0の場合は、同じ座標同士すなわちシフト量0での絶対値差分累積を求める。
【0020】
また、関数DLにおいて、同一シフト量の場合での累積値合計関数DDを式(2)として定義する。
【0021】
【数2】

【0022】
これらからシフト量s時のマッチングスコア合計値はDD(s)にて求まり、シフト量s時のy=0ラインの絶対値差分累積値はDL(0,0)により決定される。シフト量sの値は、現在入力画像から1時刻過去画像への探索であるため、sは正の値となる。
【0023】
また、各シフト時のスコア合計平均を式(3)の関数AVとして定義する。
【0024】
【数3】

【0025】
また、関数DDに対する部分累積合計関数DSを式(4)として定義する。
【0026】
【数4】

【0027】
ここで関数DDとDSの関係は式(5)となる。
【0028】
【数5】

【0029】
シフトマッチングを用いての車頭および車尾の検出は、基準テンプレート画像Qを上下に2分割し、車頭侵入時は、基準テンプレート画像Qの下部から侵入してくるため、基準テンプレート画像Qの上部はシフト量0となり、基準テンプレート画像Qの下部は車頭移動量に応じたシフト量が発生する。
逆に、車尾侵出時は、基準テンプレート画像Qの上部は車尾移動量に応じたシフト量が発生し、基準テンプレート画像Qの下部はシフト量0となる。
以上のように、基準テンプレート画像Qを上下に分割できるY座標を計算することで、車頭もしくは車尾の座標を特定することが可能となる。
ここで、車体が写っていない場合、路面にペイント等のマッチングスコアに影響を与える模様が存在すると、シフト量0が最もマッチング度が高くなり、模様のない均一路面の場合は、シフト量の平均値とシフト量0もしくは最適シフト量時のスコアの差が低くなるため、その場合はシフト量0すなわち移動量0と判断する。
【0030】
以下に、図4を用いて、車頭および車尾の検出手順を記述する。
ステップS1で、マッチングスコア合計値DD(s)が最小となるsを求め、その値を全体最適シフト量Sminとする。
次いで、ステップS2で、Sminが、0もしくはDD(Smin)の値とスコア合計平均AVの値に差がない場合は、シフト量0すなわち車両検出領域40には車両非侵入状態と判断する。
【0031】
次いで、ステップS3の車頭候補探索において、分割線hを図上方から下方に(車両の進行方向と逆方向に)1画素ずつずらしながら、そのつど基準テンプレート画像Qとマッチング画像Pの各画素の差分の累積値を演算し、D(h)=DS(0,1,h)+DS(Smin,h+1、p)が最小となるhminを求める。ここで、DS(0,1,h)は分割線の上の合計、DS(Smin,h+1、p)は分割線の下の合計である。求められた、合計値の一番小さい分割線hminが、車頭候補となる。
次に、ステップS4の車尾候補探索において、D(t)=DS(Smin,1,t)+DS(0,t+1、p)が最小となるtminを求める。この分割線tも分割線hと同様に、1画素ずつ上方から下方にずらしながら、この式を演算する。Sminが移動の発生する場所、0が移動の発生しない場所である。この求められた、合計値の一番小さい分割線tminが、車尾候補となる。
【0032】
ステップS5で、D(hmin)とD(tmin)の結果から、D(hmin)とD(tmin)の差が少ない場合は、車頭および車尾未検出、すなわち車両検出領域40内で車両通過中と判断する。
ステップS6は、ステップS3とステップS4の結果を評価するものであり、D(hmin)<D(tmin)の場合は、hminの座標にて車頭を検出する。D(hmin)>D(tmin)の場合は、tminの座標にて車尾を検出する。
ステップS7で、ステップS6から現在入力画像中の基準テンプレート画像Q内に車頭、車尾の有無およびその位置座標を決定し、現入力画像中でのY座標位置、すなわち車両Y座標位置として算出する。
【0033】
以上のステップS1〜S7を実施することにより、車両検出領域40内に侵入してきた車頭と、侵出する車尾を検出し、また車頭も車尾も存在しない車両非存在状態と車両通過中状態を判別することができ、これにより各車両の通過を効率的に検出することが可能となる。
【0034】
また、車両非存在状態と車両通過中状態においては、背景画像とよばれる車両が通行していない画像との相関値を比較することでも判断することが可能である。
【0035】
実施の形態1によれば、シフトマッチング手法を用いることで、車両検出領域に侵入および侵出する車両の車頭と車尾を効率的に検出でき、これを用いて車両の通過台数を計測する交通流計測装置を提供することが可能となる。
【0036】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について図を用いて説明する。
図5は、この発明の実施の形態2による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
図5において、10〜12、20は図1におけるものと同一のものである。図5では、車線に設けられる車両検出領域40を変換する車両検出領域変換部13(車両検出領域変換手段)を設けている。
【0037】
図6は、この発明の実施の形態2による交通流計測装置のカメラから撮像する撮像画像の一例を示す図であり、カメラの設置を道路長手方向に向けた場合(斜め方向から撮像することになる)の撮像画像の一例を示している。
図6では、監視カメラの設置条件が道路車線の長手方向を斜めに見下ろす角度(所定の俯角)になっている。車線30a、31aはその斜めに見下す角度で撮像された車線であり、車両検出領域40a、41aがそれぞれ設けられている。
【0038】
図7は、この発明の実施の形態2による交通流計測装置の車両検出領域の正四角形矩形への変換を示す概念図である。
図7において、40a、41aは図6におけるものと同一のものである。車両検出領域40a、41aは、車両検出領域変換部13により変換されて、正四角形の矩形である車両検出領域40b、41bとなる。
なお、図6及び図7の車両変換領域40a、41a、40b、41bは、本来の車両変換領域(1−pの領域)に加えて探索領域(n−pの領域)も含むものとする。
【0039】
実施の形態2では、監視カメラが、道路長手方向に向くように設置され、斜め方向の画像が得られる場合についてのものである。
次に、図6をもとに車両検出領域変換部13の変換処理について説明する。
実施の形態1でのシフトマッチング手法は、正方形もしくは長方形の矩形同士での車両進行方向における移動量とその位置を検出するものであった。しかしながら、図6のように斜め方向の画像では、車両の移動方向が上下方向とは一致せず傾いている。そのため、この監視カメラの設置条件でシフトマッチング手法を適用すると、マッチングが取りにくくなる。
【0040】
このため、車両検出領域変換部13は、車線設定部11で設定した車線情報から道路の縮小率を計算し、正四角形ではない非矩形の車両検出領域40aを正四角形の矩形領域に変換する。
次に、車両検出領域の変換方法について、図7を用いて説明する。
車線設定部11により設定された車線情報に沿うように正四角形ではない非矩形の車両検出領域40aが設定される。その領域に対して領域下端の幅mを基準とし、上端の幅もmとなるよう拡大する。
こうすることで、幅m高さnの平行四辺形の矩形ができるが、この横方向のずれを統一して正四角形の矩形である車両検出領域40bへと変換する。 この変換後の車両検出領域40bを用いて、シフトマッチングを行うことで、車頭及び車尾を実施の形態1と同様に検出することができる。
【0041】
実施の形態2によれば、監視カメラの設置条件が道路車線の長手方向を斜めに見下ろす俯瞰画像の角度であっても、実施の形態1のシフトマッチング手法が適用可能となり、一般的な監視カメラ設置条件下での効率的な交通流計測装置を提供することが可能となる。
【0042】
実施の形態3.
以下、この発明の実施の形態3について図を用いて説明する。
図8は、この発明の実施の形態3による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
図8において、10〜13、20は図5におけるものと同一のものである。図8では、昼夜を判定する昼夜判定部14と、夜間に大型車両の車頭を検出する夜間大型車両車頭検出部15(夜間車頭検出手段)が新たに設けられている。
【0043】
実施の形態3では、照明環境の乏しい夜間での大型車両の車頭の検出についてのものである。
夜間の監視カメラの撮像画像は、照明環境の整っている路線では車両の陰影を画像処理にて十分検出可能であるが、照明環境の乏しい路線では、ヘッドライトにより路面に反射するわずかな光と車両後端のテールランプのみという映像条件が多い。
その場合では、車尾はテールランプを用いて、実施の形態1で記載するシフトマッチング手法で検出可能である。
また、車高の低い普通車については、車頭についても十分検出可能であるが、車高の高い大型車量の車頭については、路面と車頭との境界がシフトマッチングでは特定しにくいという問題がある。
【0044】
そこで、実施の形態3は、昼夜判定部14で夜と判定された場合に、大型車両の車頭を検出する夜間大型車両車頭検出部15を設けたものである。
この夜間大型車両車頭検出部15を用いて、路面と車頭の境界座標を検出する手法としては、まず図3で示す基準テンプレート画像Qにおいて、その輝度値をY軸方向へ投影する。その投影結果をDDT(s)とすると式(6)となる。
【0045】
【数6】

【0046】
大型車の車頭の見え方としては、路面への淡いヘッドライト照り返しから、車頭位置を境に車両の天井は照らされるものがないため、黒くなる傾向がある。そのため、この投影結果DDTに関して増減フィルタリングを行なう。
増減フィルタリングの手法としては、図3の基準テンプレート画像Qについて、図の上方から下方へ1画素ずつずらした分割線からなる車頭位置候補を基準にして、上方向にDDT(s)の結果を累積加算し、車頭位置候補を基準にして下方向にDDT(s)の結果を累積減算する。その2つの結果の合計値が最大値となるような分割線の基準位置座標を計測することで、車頭位置と路面位置との境界座標を検出することが可能となる。
ここで、増減フィルタリングの累積範囲は、該当道路の照明環境下にて変化させ、どのようなヘッドライトと車頭の明暗差を大型車両の車頭として取り扱うかを設定する。
照明灯のない路線においては、経験的に上下8画素合計16画素の範囲で、増減フィルタリングを行なうと、大型車両の車頭位置が効率よく検出されることを確認している。
【0047】
実施の形態3によれば、夜間の照明環境の乏しい路線でも車両の車頭、車尾を検出することにより、より幅広い時間帯や環境下でも適用可能な交通流計測装置を提供することが可能となる。
【0048】
実施の形態4.
以下、この発明の実施の形態4について図を用いて説明する。
図9は、この発明の実施の形態4による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
図9において、10〜15は図8におけるものと同一のものである。図9では、車頭車尾検出部12または夜間大型車両車頭検出部15の出力を受けて、車両の車高、車長を計測する車高車長計測部16(車高車長計測手段)を設けている。
【0049】
図10は、この発明の実施の形態4による交通流計測装置のカメラと通行車両との計測時刻と位置関係を表す図である。
図10において、監視カメラ50の撮影方向と、車両60の位置の関係が示されている。
図10(a)は、時刻T1における監視カメラ50と車両60の関係を示す図、図10(b)は、時刻T2における監視カメラ50と車両60の関係を示す図、図10(c)は、時刻T3における監視カメラ50と車両60の関係を示す図である。
【0050】
図11は、この発明の実施の形態4による交通流計測装置のカメラと通行車両との計測時刻と位置関係を表した図である。
図11において、監視カメラ50の撮影方向と、車両60の位置の関係が示されている。
図11(a)は、時刻T1における監視カメラ50と車両60の関係を示す図、図11(b)は、時刻T2における監視カメラ50と車両60の関係を示す図、図11(c)は、時刻T3における監視カメラ50と車両60の関係を示す図、図11(d)は、時刻T4における監視カメラ50と車両60の関係を示す図である。
【0051】
実施の形態4では、図9に示すように、車高車長計測部16が新たに設けられている。
次に、図10を参照して車高車長計測部16の動作について説明する。
実施の形態4は、実施の形態1〜実施の形態3で述べた方法で、車両の車頭および車尾を検出することにより、その位置座標情報と計測時刻情報とカメラ設置情報から、通過車両の車高と車長および車速を計測するものである。
【0052】
図10では、時刻T1に車両検出領域で車頭ZH1が検出されるが、実際に撮像画像上ではZ1の位置に投影される。また時刻T2では、車頭Z2と車尾ZT2が撮像画像上にて検出される。次に、時刻T3では車尾ZT3が撮像画像上にて検出される。
このように計測された位置座標Z1、Z2、ZT2、ZT3と時刻情報T1、T2、T3とカメラ設置条件であるカメラ高さHの情報から、路面に投影された車頭の速度Vz、本来の車頭位置の速度Vh、車尾の速度Vtを式で表すと式(7)のようになる。
【0053】
【数7】

【0054】
また、時刻T2において車頭が路面に投影された際の監視カメラ50からの角度をθとすると、車高hとカメラ高さHおよびtanθの関係から式(8)の等式が成立する。
【0055】
【数8】

【0056】
同様に、時刻T1での検出領域の車頭ZH1と、投影位置Z1の関係は式(9)となる。
【0057】
【数9】

【0058】
ここで、本来の車頭の速度Vhと車尾の速度Vtは一致するため、Vt=Vhの関係が成立し、移動距離と経過時間の関係から、式(10)となる。
【0059】
【数10】

【0060】
上記式を変形し、式(11)となり、既知の数値情報から車高情報が取得できる。
【0061】
【数11】

【0062】
また、車長L=ZH2−ZT2の関係式が成立するため、式(12)の等式が成立する。
【0063】
【数12】

【0064】
以上のことから、車頭の撮像画像への投影座標位置と車尾の座標位置が各々2回計測されることで、車高、車長および車速を計測することが可能となる。
【0065】
また、上述の車高車長計測部16の処理では、時刻T2で車頭と車尾を同時に検出しているが、大型車両の場合、車両検出領域内で車頭と車尾を同時に検出することは困難となる。その場合には、次に記載する車高推定手法を利用することにより問題が解決される。
【0066】
図11は、車頭と車尾が異なる時刻で2回ずつ計測された場合の車高車長計測処理を説明する概念図である。計測される時刻と計測値の意味については、図10に準ずる。
車尾の車速Vtと本来の車頭位置の車速Vhは式(13)となる。
【0067】
【数13】

【0068】
また、カメラ高さとtanの関係から式(14)となる。
【0069】
【数14】

【0070】
ここで、Vt−Vhの差が最小となる車高hを求める。これが車高の推定値である。この車両の高さhは、車高情報により探索範囲は限られたものとなり、有限時間にて推定を行なうことができる。
よって、上記により求められた車高から車長が、先に記載された計算式にて計測することが可能となる。
【0071】
実施の形態4によれば、車両検出領域に車頭と車尾が少なくとも2回検出されることで、車高と車長さらに車速を効率的に検出することが可能となる。
【0072】
実施の形態5.
以下、この発明の実施の形態5について図を用いて説明する。
図12は、この発明の実施の形態5による交通流計測装置の構成を示すブロック図である。
図12において、10〜16、20は図9におけるものと同一のものである。図12では、画像撮像部10の出力側に、インターレース方式で撮像された画像を偶数ラインフレームと奇数ラインフレームとに分離するインターレース画像分離部17を設けている。
【0073】
実施の形態4では、実施の形態1に記載された車頭車尾の位置情報から車高車長を計測するものであった。その条件として車両検出領域に少なくとも2回以上車頭と車尾が検出されなければならないため、車速の高い車両については2回検出することが困難であった。
このため、実施の形態5では、撮像されたインターレース画像の特徴を利用し、車両の車頭車尾が検出領域に少なくとも1回以上存在すれば、車高車長を計測することが可能となる手法を提案するものである。
【0074】
通常、画像処理で行なわれる処理周期は、100ミリ秒周期が一般的である。この100ミリ秒周期では、時速160km/hの車両は、100ミリ秒の間に4.4メートルの距離を進む。そのため、車頭および車尾を少なくとも2回以上計測するためには、最低8.8mが必要である。さらに、撮像周期とタイミングの関係から、その1.6倍の余裕が必要となり、約15mの車両検出領域を必要としてしまう。
【0075】
そこで、NTSC(National Television Standards Committee)信号のインターレース映像の仕様を利用する。インターレース映像とは、NTSC信号の秒間30枚の画像を秒60枚間隔で偶数ラインフレームと奇数ラインフレームとに分けて、交互にキャプチャーすることで実現するものである。
そのため、インターレース画像では、動きの早い物体に関しては偶数フレームと奇数フレームとを合成すると画像の間で櫛型の画像となる。
この櫛型画像は、言い換えれば、60分の1秒で車両が進んだ量とも置き換えられる。つまり、偶数ラインフレームと奇数ラインフレームの画像は、60分の1秒のシフト量を有することになる。このため、車速の早い車両に関しては、インターレース画像を用いることで、車頭と車尾を安定して検出することが可能となる。
【0076】
動きの遅い車両に関しては、従来通りの撮像画像を用い、動きの早い車両に関してはインターレース画像を用いることで、柔軟で精度の高い車両検出手法を実現できる。
その実現方法としては、インターレース画像と通常撮像画像と両方で車頭及び車尾を検出し、速度情報とマッチング結果の信頼性が高い情報を用いることで実現する。
【0077】
実施の形態5によれば、インターレース画像の特徴を利用することで、車速の早い車両でも車頭及び車尾を計測でき、すなわち、車速の遅い車両から早い車両まで安定して計測することが可能となり、より柔軟な交通流計測装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0078】
10 画像撮像部
11 車線設定部
12 車頭車尾検出部
13 車両検出領域変換部
14 昼夜判定部
15 夜間大型車両車頭検出部
16 車高車長計測部
17 インターレース画像分離部
20 交通流計測部
30 第1車線
31 第2車線
40 車両検出領域
41 車両検出領域
50 監視カメラ
60 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路状態を撮像した画像を処理し、交通量を計測する交通流計測装置であって、
所定の周期で道路状態を撮像する画像撮像手段、
この画像撮像手段により撮像された画像内の車線毎に車両検出領域を形成し、この車両検出領域の最新画像と所定の周期前に撮像された画像を対向させながら、両画像の各画素の輝度の差分を累積することにより、車両の車頭または車尾を検出する車頭車尾検出手段を備えたことを特徴とする交通流計測装置。
【請求項2】
上記画像撮像手段は、上方から上記道路状態を撮像し、
上記車頭車尾検出手段は、上記車両検出領域の上記最新画像をテンプレート画像とし、所定の周期前に撮像された上記車両検出領域及びこの車両検出領域に続く探索領域を有する画像をマッチング画像として、上記テンプレート画像を車両の進行方向から順次ずらしながら、上記テンプレート画像及びこれに対向するマッチング画像の各画素の輝度の差分を累積することにより、両者のシフト量を計算する第1の探索と、
上記テンプレート画像を進行方向と交差する方向に分割する分割線を車両の進行方向から順次ずらしながら、分割線の上部が背景領域となり、下部が移動体領域となるような上記分割線の位置座標を得て、この得られた位置座標を上記車頭または車尾の位置座標とする第2の探索とを有することを特徴とする請求項1記載の交通流計測装置。
【請求項3】
上記画像撮像手段によって、所定の俯角で撮像された場合に、上記所定の俯角で撮像された画像の内の車両検出領域を上方からの撮像状態に変換する車両検出領域変換手段を備えたことを特徴とする請求項2記載の交通流計測装置。
【請求項4】
照明設備の少ない夜間の道路上で上記車頭を検出する夜間車頭検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の交通流計測装置。
【請求項5】
上記車頭車尾検出手段により検出された上記車頭及び車尾に基づき、通過車両の車高及び車長を計測する車高車長計測手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の交通流計測装置。
【請求項6】
上記画像撮像手段によって撮像される画像が、インターレース映像である場合に、上記車頭車尾検出手段は、上記インターレース映像の奇数ラインフレームと偶数ラインフレームとを用いて、最新画像及び所定の周期前に撮像された画像として、上記車頭または車尾を検出することを特徴とした請求項1〜請求項5のいずれかに記載の交通流計測装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−198030(P2011−198030A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64077(P2010−64077)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】