説明

伝送信号送出装置

【課題】送信機デュアルシステムにおける単独運転の場合にも非線形補償が成立し得る伝送信号送出装置を提供する。
【解決手段】1系の電力増幅盤14の出力信号または2系の電力増幅盤15の出力信号による単独(シングル)運用については電力増幅盤14の出力信号または電力増幅盤15の出力信号を励振器11または励振器18にフィードバックさせることで送出中の1系または2系のデジタル放送信号の非線形補償を行い、一方1系の電力増幅盤14の出力信号と2系の電力増幅盤15の出力信号との合成による合成(デュアル)運用については出力合成切替部16の合成器にて合成される電力増幅盤14,15の合成増幅出力信号を励振器11または励振器18にフィードバックさせることで送出中の1系または2系のデジタル放送信号の非線形補償を行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばデジタル無線通信・放送システムに用いられ、電力増幅盤2式を合成して規定出力を得ると共に、各電力増幅盤で生じる非線形歪みを補償する機能を有するデュアル型の伝送信号送出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、放送送出設備には、電力増幅盤2式を合成して規定出力を得る送信機デュアルシステムがある。このシステムは、電力増幅盤2式を有することで電力増幅盤1式のみで構成される送信機シングルシステムよりも冗長系があり、万一の故障時や保守のために出力合成切替部で片方の電力増幅盤のみをアンテナに接続することが可能である。
【0003】
ところで、上記アンテナから送出される伝送信号は、各電力増幅盤により非線形歪みの影響を受ける。そこで、この送信機デュアルシステムにあっては、非線形歪みを検出して補正する励振器を備えることで、この非線形歪みを抑圧する歪み補償方式が考えられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−284149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記方式では、電力増幅盤の合成出力のみを励振器へフィードバックする形になっており、片側の電力増幅盤のみで運用する場合には送信機出力が低下してしまうことにより励振器へのフィードバック信号のレベルも低下してしまい、補償動作が成立しなくなってしまう。
【0005】
アナログ放送の場合には、この状態でも出力レベルの安定が保てなくなるという問題はあるものの、受信者には大きな影響を与えることは無かった。しかし、デジタル放送の場合には出力レベルを安定させる機能だけでなく、電力増幅器の非直線補償機能により受信者が受信可能となるための性能を確保している。従って、補償動作が成立しない状態での放送は行えないことになる。
【0006】
そこで、この発明の目的は、送信機デュアルシステムにおける単独運転の場合にも非線形補償が成立し得る伝送信号送出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係わる伝送信号送出装置は、複数系統の伝送信号のうち少なくとも1系統の伝送信号を第1及び第2の分配系統に分配する分配部と、第1の分配系統に設けられ、分配部の出力信号を所定レベルに電力増幅する第1の電力増幅部、及び第2の分配系統に設けられ、分配部の出力信号を所定レベルに電力増幅する第2の電力増幅部と、第1の電力増幅部の出力信号、第2の電力増幅部の出力信号、第1及び第2の電力増幅部の合成出力信号を選択的に切替出力するシングル・デュアル切替部と、このシングル・デュアル切替部による第1の電力増幅部の出力信号または第2の電力増幅部の出力信号の選択時に、第1の電力増幅部の出力信号または第2の電力増幅部の出力信号から歪成分を検出して第1の電力増幅部または第2の電力増幅部の非線形歪み補償量を生成し、シングル・デュアル切替部による合成出力信号の選択時に、シングル・デュアル切替部の出力信号から歪成分を検出して非線形歪み補償量を生成し、当該非線形歪み補償量で送出中の系統の伝送信号を補償する補償部とを備えるようにしたものである。
【0008】
この構成によれば、第1の電力増幅部の出力信号または第2の電力増幅部の出力信号によるシングル運用については第1の電力増幅部の出力信号または第2の電力増幅部の出力信号を使用して送出中の系統の伝送信号の非線形補償を行い、一方第1の電力増幅部の出力信号と第2の電力増幅部の出力信号との合成によるデュアル運用については第1の電力増幅部及び第2の電力増幅部の合成出力信号を使用して送出中の系統の伝送信号の非線形補償を行うというように、運用ごとに最適な非線形補償を行うことができる。
【0009】
従って、送信機デュアルシステムにおける単独運転の場合にも非線形補償が成立し、デジタル放送システムにおいても性能確保が可能となり、故障時の対応や保守点検作業が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したようにこの発明によれば、送信機デュアルシステムにおける単独運転の場合にも非線形補償が成立し得る伝送信号送出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明に係わる送信機デュアルシステムの一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すシステムにおいて、1系入力、2系入力には、デジタル放送信号が供給される。1系入力のデジタル放送信号は、励振器11(励振器1)及び切替器12を介して分配器13に供給され、分配器13にて2つの信号に分配されて電力増幅盤14,15に供給される。そして、電力増幅盤14,15にて所定信号レベルまで電力増幅され、出力合成切替部16を介してアンテナ17により送信信号として送出される。同様に、2系入力のデジタル放送信号は、励振器18(励振器2)及び切替器12を介して分配器13に供給され、分配器13にて2つの信号に分配されて電力増幅盤14,15に供給される。そして、電力増幅盤14,15にて所定信号レベルまで電力増幅され、出力合成切替部16を介してアンテナ17により送信信号として送出される。
【0013】
一方、上記電力増幅盤14の出力信号は、分配器19により2つの信号に分配され、一方は切替器20,21を介して励振器11に供給され、他方は切替器22,23を介して励振器18に供給される。同様に、上記電力増幅盤15の出力信号は、分配器14により2つの信号に分配され、一方は切替器20,21を介して励振器11に供給され、他方は切替器22,23を介して励振器18に供給される。
【0014】
また、上記出力合成切替部16の出力信号は、切替器25を介して励振器11,18にそれぞれ供給される。
【0015】
励振器11は、上記電力増幅盤14,15による単独運転のときには、上記電力増幅盤14または電力増幅盤15の出力信号から非線形歪み成分を検出し、非線形歪み補償量を入力信号に加算することで非線形歪み成分を補償する。これにより、電力増幅盤14,15の持つ非線形特性と逆の特性を持たせて第1系のデジタル放送信号を電力増幅盤14,15に入力することができ、その増幅出力の非線形特性による歪み成分を補償することができる。
【0016】
同様に、励振器18は、上記電力増幅盤14,15による単独(シングル)運転のときには、上記電力増幅盤14または電力増幅盤15の出力信号から非線形歪み成分を検出し、この非線形歪み成分の逆特性を非線形歪み補償量として求め、非線形歪み補償量を入力信号に加算することで非線形歪み成分を補償する。
【0017】
さらに、励振器11,18は、上記電力増幅盤14,15による合成(デュアル)運転のときには、上記出力合成切替部16の出力信号から非線形歪み成分を検出し、この非線形歪み成分の逆特性を非線形歪み補償量として求め、非線形歪み補償量を入力信号に加算することで非線形歪み成分を補償する。
【0018】
次に、上記構成における運用について説明する。
以前は、図2に示すシステムが考えられていた。なお、図2において、上記図1と同一部分には同一符号を付す。
【0019】
図2に示すシステムでは、電力増幅盤14,15の合成出力のみを励振器11,18へフィードバックする形になっており、片側の電力増幅盤14,15のみで運用する場合には送信機出力が低下してしまうことにより励振器へのフィードバック信号のレベルも低下してしまい、補償動作が成立しなくなってしまう。
【0020】
アナログ放送の場合には、この状態でも出力レベルの安定が保てなくなるという問題はあるものの、受信者には大きな影響を与えることは無かった。しかし、デジタル放送の場合には出力レベルを安定させる機能だけでなく、電力増幅盤14,15の非線形補償機能により受信者が受信可能となるための性能を確保している。従って、補償動作が成立しない状態での性能確保は行えないことになる。
【0021】
この問題を解決するために,図3のように励振器11、18内の発振器26,27を外に出して異なる励振器出力を合成するシステムが実用されている例もあるが、非常に高価なものになってしまうために安価なシステム構築が望まれている。
【0022】
そこで、本実施形態では、送信機デュアルシステムにおいて通常の電力増幅盤2式を合成運転する場合と、1式の電力増幅盤14,15で単独運転する場合で、励振器11、18へのフィードバック信号を切り替えることで、それぞれの運転モードの場合に適正なフィードバック信号を得るようにしている。
【0023】
(合成運転)
図4は、合成運転で1系の励振器11を選択使用した場合の動作を示している。
【0024】
合成運転の場合、出力合成切替部16の合成器で合成された出力信号は、切替器25を通して、切替器21で選択されている励振器11へフィードバックする。これにより補償動作を成立させる。
【0025】
図5は、合成運転で2系の励振器18を選択使用した場合の動作を示している。
【0026】
出力合成切替部16の合成器で合成された出力信号は、切替器25を通して、切替器23で選択されている励振器18へフィードバックする。これにより補償動作を成立させる。
【0027】
(1系となる電力増幅盤14の単独運転)
図6は、1系の電力増幅盤14の単独運転で1系の励振器11を選択使用した場合の動作を示している。
【0028】
電力増幅盤14の単独運転の場合には、電力増幅盤14の出力信号は方向性結合器を介して分配器19により2分配されて、切替器20,21が切替制御されることとで、切替器12で選択されている励振器11へフィードバックされる。
【0029】
図7は、1系の電力増幅盤14の単独運転で2系の励振器18を選択使用した場合の動作を示している。
【0030】
電力増幅盤14の出力信号は方向性結合器を介して分配器19により2分配されて、切替器22,23が切替制御されることとで、切替器12で選択されている励振器18へフィードバックされる。
【0031】
(2系となる電力増幅盤15の単独運転)
図8は、2系の電力増幅盤15の単独運転で1系の励振器11を選択使用した場合の動作を示している。
【0032】
電力増幅盤15の単独運転の場合には、電力増幅盤15の出力信号は方向性結合器を介して分配器24により2分配されて、切替器20,21が切替制御されることとで、切替器12で選択されている励振器11へフィードバックされる。
【0033】
図9は、2系の電力増幅盤15の単独運転で2系の励振器18を選択使用した場合の動作を示している。
【0034】
電力増幅盤15の出力信号は方向性結合器を介して分配器24により2分配されて、切替器22,23が切替制御されることとで、切替器12で選択されている励振器18へフィードバックされる。
【0035】
以上のように、フィードバック信号の切替制御により合成運転のときと単独運転のときでフィードバック信号の取り口を切替えることで単独運転の場合にも補償動作を成立させることができる。
【0036】
すなわち、上記実施形態では、1系の電力増幅盤14の出力信号または2系の電力増幅盤15の出力信号による単独(シングル)運用については電力増幅盤14の出力信号または電力増幅盤15の出力信号を励振器11または励振器18にフィードバックさせることで送出中の1系または2系のデジタル放送信号の非線形補償を行い、一方1系の電力増幅盤14の出力信号と2系の電力増幅盤15の出力信号との合成による合成(デュアル)運用については出力合成切替部16の合成器にて合成される電力増幅盤14,15の合成増幅出力信号を励振器11または励振器18にフィードバックさせることで送出中の1系または2系のデジタル放送信号の非線形補償を行うようにしている。
【0037】
従って、運用ごとに最適な非線形補償を行うことができ、これにより送信機デュアルシステムにおける単独運転の場合にも非線形補償が成立し、デジタル放送システムにおける性能確保が可能となり、さらに故障時の対応や保守点検作業が可能となる。
【0038】
また、上記実施形態によれば、励振器11,18と電力増幅盤14,15とで別々に冗長機能を発揮させることができる。つまり、1系の励振器11に故障が生じた場合、切替器12により2系の励振器18の出力信号を分配器13に供給するようにし、1系となる電力増幅盤14に故障が生じた場合、切替器20,21,22,23により2系となる電力増幅盤15の出力信号を励振器11または励振器18に供給するようにすることで、励振器11,18の異常と電力増幅盤14,15の異常とに別々に対応することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、入力2系統の場合について説明したが、さらに多数の系統を有する場合でも同様に実施可能である。
【0040】
その他、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係わる送信機デュアルシステムの一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】以前に考えられていた送信機デュアルシステムの構成を示すブロック図。
【図3】以前に考えられていた送信機デュアルシステムの他の例を示すブロック図。
【図4】同実施形態において、合成運転で1系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【図5】同実施形態において、合成運転で2系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【図6】同実施形態において、1系となる電力増幅盤の単独運転で1系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【図7】同実施形態において、1系となる電力増幅盤の単独運転で2系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【図8】同実施形態において、2系となる電力増幅盤の単独運転で1系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【図9】同実施形態において、2系となる電力増幅盤の単独運転で2系の励振器を選択使用した場合の動作を示すブロック図。
【符号の説明】
【0042】
11,18…励振器、12,20,21,22,23…切替器、13,19,24…分配器、14,15…電力増幅盤、16…出力合成切替部、17…アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の伝送信号のうち少なくとも1系統の伝送信号を第1及び第2の分配系統に分配する分配部と、
前記第1の分配系統に設けられ、前記分配部の出力信号を所定レベルに電力増幅する第1の電力増幅部、及び前記第2の分配系統に設けられ、前記分配部の出力信号を所定レベルに電力増幅する第2の電力増幅部と、
前記第1の電力増幅部の出力信号、前記第2の電力増幅部の出力信号、前記第1及び第2の電力増幅部の合成出力信号を選択的に切替出力するシングル・デュアル切替部と、
このシングル・デュアル切替部による前記第1の電力増幅部の出力信号または前記第2の電力増幅部の出力信号の選択時に、前記第1の電力増幅部の出力信号または前記第2の電力増幅部の出力信号から歪成分を検出して前記第1の電力増幅部または前記第2の電力増幅部の非線形歪み補償量を生成し、前記シングル・デュアル切替部による合成出力信号の選択時に、前記シングル・デュアル切替部の出力信号から歪成分を検出して前記非線形歪み補償量を生成し、当該非線形歪み補償量で前記送出中の系統の伝送信号を補償する補償部とを具備したことを特徴とする伝送信号送出装置。
【請求項2】
前記送出中の系統に対する冗長系を有するとき、
前記送出中の系統の伝送信号と待機系の伝送信号とを選択的に切り替えて前記分配部に供給する系統切替部と、
この系統切替部により待機系の伝送信号が選択されているとき、前記シングル・デュアル切替部による前記第1の電力増幅部の出力信号または前記第2の電力増幅部の出力信号の選択時に、前記第1の電力増幅部の出力信号または前記第2の電力増幅部の出力信号から歪成分を検出して前記非線形歪み補償量を生成し、前記シングル・デュアル切替部による合成出力信号の選択時に、前記シングル・デュアル切替部の出力信号から歪成分を検出して前記非線形歪み補償量を生成し、当該非線形歪み補償量で前記待機系の伝送信号を補償する待機系補償部とをさらに備えたことを特徴とする伝送信号送出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−205649(P2008−205649A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37154(P2007−37154)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】