説明

位相差フィルム、光学フィルム、液晶パネル、液晶表示装置、及び画像表示装置

【課題】 逆分散を実現するために複数のモノマーやポリマーの選択が不要であり、且つ、延伸処理におけるガラス転移温度等の問題がない、新たな逆分散位相差フィルムの原料となる変性ポリマーを提供する。
【解決手段】 主鎖としてポリオール骨格を有するポリマーと、芳香族カルボン酸ハロゲン化物等の修飾用化合物とを反応させる。前記反応によって、ポリオール骨格側鎖の酸素原子に、芳香族カルボニル基等の化学基が結合した変性ポリマーが調製できる。例えば、前記ポリマーとしてはポリビニルアルコール、前記修飾用化合物としては安息香酸クロリドがそれぞれ使用でき、前記化学基としては、ベンゾイル基があげられる。また、この変性ポリマーを成膜して延伸処理を施せば、逆分散の波長分散特性を示す位相差フィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規変性ポリマー、特に位相差フィルムの原料となる新規変性ポリマー、およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、前記変性ポリマーを含むフィルム、光学フィルムおよびその製造方法、ならびに前記光学フィルムを備えた液晶パネルおよび画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の画像表示装置には、通常、表示画面の視野角特性を向上するため、位相差フィルムが広く使用されている。
【0003】
前記位相差フィルムとして、λ/2板やλ/4板などが知られているが、これらの多くは、短波長側に吸収を示し、短波長側に近づくに従って位相差が大きくなる特性を有している。このような特性は、一般に、正の波長分散特性(以下、「正分散」という)と呼ばれている。しかし、正分散を示す位相差フィルムには、以下のような問題がある。
【0004】
位相差フィルムの位相差は、通常、λ/2板であれば波長の1/2、λ/4板であれば波長の1/4となるように設定される。そして、理想的には、波長を横軸、位相差を縦軸とした場合に、位相差フィルムのプロットが、右上がりの直線を示すことが望まれている。このようなプロットを示せば、波長の増加に伴って位相差も増加するため、いずれの波長においても、波長の1/4や1/2の値に近い位相差が得られるからである。しかしながら、正分散の位相差フィルムは、前述のように短波長側に近づくに従って位相差が大きくなるため、実際には、プロットが左上がりの曲線を示し、理想の直線とは異なった挙動を示す。つまり、ある波長においては所望の位相差を満たすものの、広い波長帯域において所望の位相差を得ることが出来ない。このため、正分散の位相差フィルムでは、広い波長帯域において直線偏光化を行うことが困難となる。
【0005】
そこで、近年、正分散とは異なる波長分散特性を示す位相差フィルムが着目されている。波長が長波長側に近づくに従って位相差が大きくなる性質、いわゆる逆分散の波長分散特性(以下、「逆分散」という)を示す位相差フィルムである。このような位相差フィルムは、波長が長波長側に近づくに従って位相差も大きくなるため、前述のような位相差のプロットは、右上がりの曲線を示し、理想の挙動に近似する。つまり、例えば、λ/4板であれば、広波長帯域において波長の1/4の値に近い位相差が得られるため、広波長帯域におけるλ/4板としての偏光変換が可能となる。また、さらに大きな逆分散を示す位相差フィルムであれば、波長の1/2の値を理想の位相差とするλ/2板として、広波長帯域での使用が可能となる。なお、「逆分散の大きさ」は、例えば、前述のようなプロットにおいて、相対的に傾きが大きいもの程「大きい」、相対的に傾きが小さいもの程「小さい」ということができる。したがって、λ/2板の場合、波長の1/2が理想の位相差となるため、λ/4板に比べて、前記プロットの傾きが大きいこと(各波長における位相差が大きいこと)、つまり大きな逆分散であることが求められる。
【0006】
以上のような逆分散の特性は、通常、位相差フィルムの原料であるポリマーの種類に依存する。しかしながら、逆分散を実現できるポリマーについての報告は、極めて少ない状況である。
【0007】
具体的には、例えば、2種類のモノマーを重合させたポリマーからフィルムを成膜し、このフィルムを延伸して位相差を発現させることにより、逆分散の位相差フィルムを形成する方法が報告されている(特許文献1)。この方法における2種類のモノマーは、一方が正の複屈折性を示し(モノマー1)、他方が負の複屈折性を示し(モノマー2)、両者の波長分散特性が、モノマー1<モノマー2となる組み合わせである。また、位相差の極性と波長分散特性とが異なる2種類のポリマーをブレンドし、逆分散の位相差フィルムを形成する方法が報告されている(特許文献2)。さらに、液晶分子とポリマーとの混合物から逆分散の位相差フィルムを製造する方法も報告されている(特許文献3)。
【0008】
しかし、特許文献1に開示されているフルオレン骨格を有するポリカーボネートは、その構造に起因して非常に高いガラス転移点を有している。このため、位相差を発現させる延伸処理において、延伸温度を極めて高温に設定しなければならないという問題がある。また、厚み方向の屈折率を高くするため、このようなポリカーボネート製未延伸フィルムに収縮処理を施す場合には、次のような問題も生じる。前記収縮処理とは、未延伸フィルムを、加熱により収縮するフィルムと貼り合わせ、この積層体を加熱延伸する方法である(特許文献4)。この場合、前記収縮フィルムの収縮温度に対して、前記ポリカーボネート製未延伸フィルムの延伸温度が高すぎるため、厚み方向の屈折率が高い位相差フィルムを工業的に製造することは困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、2種類のポリマーを相溶させる際に、得られるブレンドポリマーの透明性を維持することが困難であり、ポリマーの組み合わせの選択肢が限定されるという問題がある。さらに、特許文献3に記載の方法においても、ポリマーと液晶分子とが相溶する組み合わせを選択することは困難である。例えば、組み合わせによっては、ポリマーに分散された液晶分子が、フィルムの加熱延伸処理において液状化し、得られる位相差フィルムのヘイズが高くなり、透明性が低下するおそれもある。
【特許文献1】特開2002−2216221号公報
【特許文献2】特開2002−14234号公報
【特許文献3】特開2002−48919号公報
【特許文献4】特許第2818983号(特開平5−157911号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前述のように、逆分散を実現するために複数のモノマーやポリマーを選択することが不要であり、且つ、ポリマーの種類に依存する延伸温度等の問題を回避できる、新たな逆分散位相差フィルムの原料となるポリマーとその製造方法、ならびにその用途の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明の新規変性ポリマーは、主鎖としてポリオール骨格を有し、前記ポリオール骨格の側鎖が化学基で修飾された部分を有する変性ポリマーであって、前記化学基が、芳香族カルボニル基、アリール置換低級アルキルカルボニル基および不飽和脂肪族カルボニル基からなる群から選択された少なくとも一つの基であり、前記ポリオール骨格側鎖の酸素原子に結合していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の新規変性ポリマーの製造方法は、主鎖としてポリオール骨格を有するポリマーと、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸ハロゲン化物、芳香族カルボン酸無水物、アリール置換低級アルキルカルボン酸、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物、不飽和脂肪族カルボン酸無水物、不飽和脂肪族ケトンおよび不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選択された少なくとも一つの化合物(以下、「修飾用化合物」という)とを反応させる工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは鋭意研究の結果、位相差フィルムを製造した際に逆分散を実現するポリマーとして、ポリオール骨格側鎖の酸素原子に芳香族カルボニル基等の化学基が結合した、新たな変性ポリマーを設計した。この本発明の変性ポリマーは、ポリオール骨格を有するポリマーに、芳香族カルボン酸等の修飾用化合物を反応させることによって得られた。本発明の変性ポリマーは、主鎖となるポリオール骨格によって、波長分散は小さいものの大きな位相差が発現され、且つ、前記ポリオール骨格側鎖の酸素原子に前記化学基が結合することによって、さらに逆分散が付与されている。このため、本発明の変性ポリマーを使用すれば、逆分散を示し、且つ、大きな位相差をも実現できる位相差フィルムが得られる。このように、ポリオール骨格と、その側鎖への前記化学基の結合によって、逆分散と大きな位相差の両方を実現できることは、本発明者らが初めて見出した知見である。
【0014】
また、本発明の変性ポリマーの製造方法によれば、複数のモノマーやポリマーの組み合わせ、それらの配合割合等の選択が必要であった従来法と比較して、ポリオール骨格を有するポリマーと修飾用化合物とを反応させるのみで、ポリマーに逆分散を付与できる。さらに、前記ポリオール骨格への前記化学基の修飾率を変化させることによって、例えば、透明性を維持した状態で、波長分散の大きさを変化させたり、大きな位相差を発現させることも可能である。このため、位相差フィルムの形成において、その厚みや延伸処理の条件等を変化させるだけで、従来の方法よりもさらに容易に位相差を調整できる。また、本発明の変性ポリマーは、フルオレン骨格を有するポリカーボネートとは異なり、主鎖がポリオール骨格をとり、ガラス転移温度が抑制されるため、位相差フィルムの形成における前述のような延伸温度の問題も回避できる。このように、逆分散を示し、且つ、大きな位相差の発現も可能である本発明の変性ポリマーは、本発明の製造方法によって容易に得られるため、逆分散の位相差フィルムの製造自体も簡便となる。そして、前述のように、逆分散を示す位相差フィルムの原料ポリマーは極めて少なく、その波長分散特性の制御が困難であったことからも、本発明の変性ポリマーは、位相差フィルムの新たな製造原料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前述のように本発明の新規変性ポリマーは、主鎖としてポリオール骨格を有し、前記ポリオール骨格の側鎖の酸素原子に、前記芳香族カルボニル基等の化学基が結合していることを特徴とする。なお、後述するように、ポリオール骨格の側鎖の酸素原子が、全て前記化学基で修飾される必要はなく、部分的に前記化学基で修飾されたポリマーであればよい。従って、本発明の新規変性ポリマーはポリオール骨格の側鎖が下記化学基で修飾された部分を有するポリマーである。
【0016】
前記ポリオール骨格としては、ポリビニルアルコール(PVA)骨格、ポリエチレンビニルアルコール(EVOH)骨格等があげられ、好ましくはPVA骨格である。また、前記ポリオール骨格の側鎖の酸素原子には、部分的に、前記化学基の他に、低級アルキルカルボニル基が結合していてもよい。前記低級アルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基(CH−CO−)があげられる。
【0017】
前記化学基である芳香族カルボニル基は、例えば、下記式(1)または(2)で表される。下記式(1)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、下記式(2)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【0018】
【化1】

【0019】
前記式(1)で表される前記芳香族カルボニル基としては、例えば、R〜Rが水素原子である、ベンゾイル基(C−CO−)が好ましい。
【0020】
前記アリール置換低級アルキルカルボニル基は、例えば、Ar−(CH−CO−で表され、前記式において、Arは芳香環であり、nは1〜2の整数であり、好ましくはnが1である(アリール置換メチルカルボニル基:Ar−CH−CO−)。
【0021】
また、前記アリール置換低級アルキルカルボニル基は、具体例として、下記式(3)または(4)で表すことができる。下記式(3)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、下記式(4)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。前記両式において、nは1〜2の整数であり、好ましくはnが1である(アリール置換メチルカルボニル基)。
【0022】
【化2】

【0023】
前記化学基としては、芳香族カルボニル基およびアリール置換低級アルキルカルボニル基の少なくとも一方を含むことが好ましく、前記アリール置換低級アルキルカルボニル基は、前記各式においてnが1であるアリール置換メチルカルボニル基(Ar−CH−CO−)であることが好ましい。このように、化学基が芳香族カルボニル基またはアリール置換メチルカルボニル基の場合、前記主鎖と化学基の芳香環との間の炭素数は、1または2となる。前記炭素数が1または2であれば、例えば、その変性ポリマーを用いてフィルムを形成することによって、極めて剛直なフィルムが得られる。また、ポリマーの側鎖の自由度がより一層制限されるため、さらに逆分散を実現し易くなる。これは以下の理由によると推測される。フィルムを延伸した場合、通常、ポリマーの主鎖は延伸方向に配向し、それに従って側鎖も同じ方向に配向する。しかしながら、前述のような芳香環を有し、且つ、前記炭素数を1または2に設定すれば、側鎖の自由度をより一層制限できる。このため、側鎖が主鎖と同様に延伸方向に配向することを十分に抑制し、前記側鎖を主鎖に対して垂直方向に配向させ易くなる。この結果、結合させた化学基によって付与される逆分散の特性が、十分に発揮されると考えられる。
【0024】
前記不飽和脂肪酸カルボニル基としては、例えば、少なくとも二重結合および三重結合のいずれか一方を有していることが好ましく、具体的には、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される基があげられる。下記式(5)〜(7)において、R13、R14およびR15は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【0025】
【化3】

【0026】
前記不飽和脂肪酸カルボニル基の中でも前記式(5)で表される化学基が好ましく、特に、R13が水素原子であるプロピオロイル基(CH≡C−CO−)が好ましい。
【0027】
前記ポリオール骨格における前記化学基による修飾率は、例えば、ポリオール骨格の主鎖における全炭素数の1〜20%の範囲が好ましく、より好ましくは4〜20%の範囲、特に好ましくは4〜15%の範囲である。
【0028】
本発明の変性ポリマーは、前述のようなフルオレン骨格を有するポリカーボネートとは異なり、ポリオレフィン骨格を有するため、そのガラス転移温度は、通常、80〜180℃の範囲である。
【0029】
次に、本発明の変性ポリマーの製造方法について説明する。本発明の変性ポリマーの製造方法は、前述のように、主鎖としてポリオール骨格を有するポリマー(以下、「原料ポリマー」ともいう)と、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸ハロゲン化物、芳香族カルボン酸無水物、アリール置換低級アルキルカルボン酸、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物、不飽和脂肪族カルボン酸無水物、不飽和脂肪族ケトンおよび不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選択された少なくとも一つの修飾用化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする。この製造方法によれば、例えば、原料ポリマーの水酸基と、前記修飾用化合物の官能基(カルボキシル基、ハロゲン化カルボニル基、カルボニル基等)との間で反応(例えば、脱水反応、脱ハロゲン化水素反応)が生じる。この反応によって、前記原料ポリマーの側鎖の酸素原子に前記化学基が結合(例えば、エステル結合)し、本発明の変性ポリマーが得られる。なお、本発明の変性ポリマーの製造方法は、この方法には限定されない。
【0030】
前記芳香族カルボン酸は、例えば、RCOOHで表され、芳香族カルボン酸ハロゲン化物は、例えば、RCOZで表され、芳香族カルボン酸無水物は、例えば、(RCO)Oで表され、前記各式において、Rは、下記式(8)または(9)で表され、Zはハロゲン原子である。
【0031】
【化4】

【0032】
前記式(8)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)であり、前記式(9)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【0033】
前記修飾用化合物の中でも芳香族カルボン酸ハロゲン化物RCOZが好ましく、特に、Rが前記式(8)で表され、R〜Rが水素原子、ZがClである安息香酸クロリド(CCOCl)が好ましい。
【0034】
前記アリール置換低級アルキルカルボン酸は、例えば、Ar−(CH−COOHで表され、前記アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物は、例えば、Ar−(CH−COZで表され、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物は、例えば、(Ar−(CH−CO)Oで表される。前記各式において、Arは芳香環であり、Zはハロゲン原子であり、nは1〜2の整数であり、好ましくはnが1である(アリール置換メチルカルボン酸、アリール置換メチルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換メチルカルボン酸無水物)。
【0035】
また、具体例として、アリール置換低級アルキルカルボン酸は、R’COOHで表され、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物は、R’COZで表され、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物は(R’CO)Oで表され、前記各式において、R’は下記式(10)または(11)で表され、Zはハロゲン原子である。
【0036】
【化5】

【0037】
前記式(10)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)であり、前記式(11)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。前記両式において、nは1〜2の整数であり、好ましくはnが1である。
【0038】
前記修飾用化合物としては、前述の芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸ハロゲン化物および芳香族カルボン酸無水物、アリール置換低級アルキルカルボン酸、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物を含むことが好ましく、アリール置換低級アルキルカルボン酸、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物およびアリール置換低級アルキルカルボン酸無水物は、それぞれ前記各式におけるnが1であるアリール置換メチルカルボン酸、アリール置換メチルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換メチルカルボン酸無水物が好ましい。これらの修飾用化合物を用いれば、製造される変性ポリマーにおいて、主鎖と化学基の芳香環との間の炭素数が1または2となるため、前述のような効果が得られる。
【0039】
前記不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物および不飽和脂肪族カルボン酸無水物は、少なくとも二重結合および三重結合のいずれか一方を有することが好ましい。前記不飽和脂肪族カルボン酸は、例えば、R”COOHで表され、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物は、例えば、R”COZで表され、不飽和脂肪族カルボン酸無水物は、例えば、(R”CO)Oで表される。前記各式において、R”は、下記式(12)〜(14)のいずれかで表され、Zがハロゲン原子であることが好ましい。
【0040】
【化6】

【0041】
前記式(12)〜(14)において、R13、R14およびR15は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【0042】
前記不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物および不飽和脂肪族カルボン酸無水物の中でも、R”COOHで表される不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、特に、R”が前記式(12)で表され、R13が水素である、プロピオール酸(HC≡C−COOH)が好ましい。
【0043】
前記ポリオール骨格を有するポリマー(原料ポリマー)としては、例えば、PVA、ポリエチレンビニルアルコール(EVOH)などがあげられ、好ましくはPVAである。通常、PVAの製造は、ポリ酢酸ビニルをケン化することによって、EVOHの製造は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)をケン化することによってそれぞれ行われるが、それらのケン化度は特に制限されず、例えば、40〜100%の範囲であり、好ましくは60〜100%の範囲、より好ましくは80〜100%の範囲である。なお、PVAやEVOHのケン化度によって前記化学基による修飾率を制御できるが、これについては後述する。
【0044】
原料ポリマーのケン化度は、特に制限されないことから、原料ポリマーは、前記ポリオール骨格の側鎖の酸素原子に、部分的に、低級アルキルカルボニル基、例えば、アセチル基(CH−CO−)が結合しているポリマーであってもよい。
【0045】
前記修飾用化合物ならびに原料ポリマーは、それぞれ、1種類ずつであってもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
本発明において、原料ポリマーのポリオール骨格に対する前記修飾用化合物の導入率(化学基による修飾率)を、主鎖の全炭素数の1〜20%の範囲に調整することが好ましく、より好ましくは4〜20%の範囲、特に好ましくは4〜15%の範囲である。なお、調整方法については後述する。
【0047】
本発明の変性ポリマーの製造方法の一例を以下に示すが、これには限定されない。
【0048】
まず、原料ポリマーを溶媒に溶解し、ポリマー溶液を調製する。前記溶媒の種類は、前記原料ポリマーの種類に応じて適宜決定できるが、例えば、ピリジン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン等の塩素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン等の芳香族溶媒、シクロヘプタン等の環状アルカン、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、およびテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等があげられる。これらは単独で用いても2種類以上併用しても良い。
【0049】
また、原料ポリマーの溶解は、乾燥条件下で行うことが好ましく、例えば、原料ポリマー自体を予め乾燥させておいてもよい。
【0050】
そして、前記ポリマー溶液に前記修飾用化合物をさらに添加して、前記原料ポリマーと前記修飾用化合物とを反応させる。なお、修飾用化合物の添加量によって、原料ポリマーへの前記修飾用化合物の導入率(化学基による修飾率)を制御できるがこれについては後述する。
【0051】
前記反応は、加熱条件下で行うことが好ましい。前記反応温度は、特に制限されないが、通常、25〜60℃の範囲であり、反応時間は、通常、2〜8時間の範囲である。前記反応温度が、前述の原料ポリマーの溶解処理温度よりも低い場合には、例えば、一度、前記ポリマー溶液の温度を反応温度に下げてから修飾用化合物を添加することが好ましい。また、前記反応は、前記原料ポリマーと修飾用化合物とを含む反応液を攪拌しながら行うことが好ましい。
【0052】
また、前記反応は、触媒存在下で行ってもよく、p−トルエンスルホン酸・1水和物等の酸触媒のような従来公知の触媒が使用できる。
【0053】
そして、この反応液から反応生成物である変性ポリマーを回収する。変性ポリマーの回収は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0054】
まず、前記反応液にアセトン等の溶媒を添加し、ろ液を回収する。そして、前記ろ液に水を添加して変性ポリマーを沈殿させ、沈殿物をろ別することによって、変性ポリマーを回収できる。回収する沈殿は、通常、白色である。また、回収した変性ポリマーは、さらに水中での攪拌によって洗浄することが好ましい。そして、洗浄後、回収した変性ポリマーを減圧乾燥して、乾燥変性ポリマーを得ることができる。
【0055】
原料ポリマーに対する前記修飾化合物の導入率(化学基による修飾率)は、例えば、以下のように制御できる。
【0056】
第1の制御方法としては、原料ポリマーをケン化度によって選択する方法があげられる。すなわち、原料ポリマーと修飾用化合物の添加割合や、温度等の反応条件が同じ場合、例えば、相対的にケン化度の高い原料ポリマーを使用することによって、導入率(修飾率)を高く設定し、相対的にケン化度の低い原料ポリマーを使用することによって、導入率(修飾率)を低く設定できる。
【0057】
第2の制御方法として、原料ポリマーと修飾用化合物との添加割合を調整する方法があげられる。すなわち、原料ポリマーに対する修飾用化合物の添加割合を、相対的に多くすることによって、導入率(修飾率)を高く設定し、修飾用化合物の添加割合を相対的に少なくすることによって、導入率(修飾率)を低く設定できる。
【0058】
第3の制御方法として、例えば、原料ポリマーと修飾用化合物とを反応させて、前記ポリマーに化学基を結合させた後、加水分解等の処理を施すことによって、結合した化学基を除去する方法があげられる。
【0059】
以上のような方法により、本発明の変性ポリマーを製造できる。なお、本発明の変性ポリマーにおける化学基よる修飾率は、例えば、H−NMRによって検出できる。
【0060】
つぎに、本発明のフィルムについて説明する。本発明のフィルムは、本発明の変性ポリマーを含むフィルムであって、例えば、逆分散を示す位相差フィルムの原料フィルムとして有用である。
【0061】
このフィルムの製造方法は特に制限されず、従来公知の成膜方法があげられる。例えば、ポリマー溶液やポリマー溶融液を基材上に展開(塗工)し、その塗工膜を固化することによって製造できる。本発明の変性ポリマーは、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。つまり、修飾率が異なる変性ポリマーや、化学基が異なる変性ポリマー、原料ポリマーが異なる変性ポリマー等を混合して使用することもできる。
【0062】
前記ポリマー溶液は、例えば、変性ポリマーを溶媒に溶解して調製できる。前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール、バラクロロフェノール等のフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等があげられる。これらの溶媒は、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
前記ポリマーの添加割合は、特に制限されないが、溶媒100重量部に対して、例えば、5〜50重量部の範囲が好ましく、より好ましくは10〜40重量部である。また、前記ポリマー溶液には、必要に応じて、さらに安定剤、可塑剤、金属類等の種々の添加剤を添加してもよく、後述する位相差フィルムの波長分散特性に影響を与えない範囲で、異なる他の樹脂を添加してもよい。
【0064】
前記ポリマー溶液の展開方法も特に制限されず、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法、ダイコード方法、カーテンコート法等、従来公知の方法が採用できる。また、塗工膜の固化は、例えば、自然乾燥や乾燥によって行うことができる。その条件も特に制限されないが、温度は、通常、40℃〜300℃であり、好ましくは50℃〜250℃、さらに好ましくは60℃〜200℃である。なお、塗工膜の乾燥は、一定温度で行っても良いし、段階的に温度を上昇または下降させながら行っても良い。乾燥時間も特に制限されず、通常、10秒〜30分、好ましくは30秒〜25分、さらに好ましくは1分〜20分以下である。
【0065】
なお、本発明のフィルムの製造方法としては、この他に、例えば、前記変性ポリマーを溶融温度以上で加熱溶融させて製膜する方法や、ノズルからの押し出し成形等もあげられる。
【0066】
本発明のフィルムは、位相差フィルムの形成材料として有用であることから、後述する位相差フィルムの製造に適した大きさに設定することが好ましい。位相差フィルムの材料としては、一般に、厚みが5〜500μmであることが好ましく、より好ましくは20〜300μm、特に好ましくは50〜200μmである。
【0067】
つぎに、本発明の光学フィルムは、本発明の変性ポリマーを含有する位相差フィルム(以下、「本発明の位相差フィルム」という)を含むことを特徴とする。前記位相差フィルムは、本発明の変性ポリマーを含有するため、従来のポリマーを使用する際の複雑な制御を行うことなく逆分散を示し、さらに、大きな位相差を容易に発現することもできる。
【0068】
本発明の光学フィルムは、前述のように本発明の位相差フィルムを含む限り、その構成は何ら制限されない。従って、本発明の位相差フィルム単独の構成であってもよいし、前記位相差フィルムと後述する偏光子等の光学部材とを組み合わせた構成であってもよい。
【0069】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、特に制限されず、本発明の変性ポリマーを使用する以外は、従来公知の方法が採用できるが、前述した本発明のフィルムを使用することが好適である。具体的には、本発明のフィルムに、例えば、延伸処理や収縮処理を施すことによって位相差が発現し、位相差フィルムが得られる。
【0070】
前記延伸処理は、所望の位相差に応じて、延伸の種類(例えば、一軸延伸、二軸延伸等)や延伸倍率等の条件を適宜決定できる。また、本発明のフィルムに、予め、延伸温度付近で収縮する収縮性フィルムを貼り合わせておき、共に一軸延伸を行ってもよい(特開平5−157911号公報)。この方法によれば、例えば、厚み方向の屈折率が面内の屈折率よりも大きく、後述するNzが1未満となる位相差フィルムを容易に製造できる。
【0071】
前記フィルムの延伸は、例えば、本発明の変性ポリマーのガラス転移温度よりも高い温度で行うことが好ましい。一般に、ガラス転移温度より5〜50℃高い温度での延伸が好ましく、より好ましくはガラス転移温度より10〜40℃高い温度である。
【0072】
本発明の位相差フィルムは、波長450nmにおける面内位相差Δnd(450nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが下記式の関係を満たすものである。これは、波長が長波長側に近づくに従って、各波長(Xnm)における面内位相差Δnd(Xnm)が増加する傾向を示す逆分散であることを示している。なお、前記波長(Xnm)は、一般に、400〜700nmの範囲である。
Δnd(450nm)/Δnd(550nm)<1
【0073】
Δndは(nx−ny)・dで表され、nxおよびnyは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸方向およびY軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、dは前記位相差フィルムの厚みを示す。
【0074】
Δnd(450nm)/Δnd(550nm)は、より好ましくは0.6≦Δnd(450nm)/Δnd(550nm)<1であり、特に好ましくは0.7≦Δnd(450nm)/Δnd(550nm)≦0.9の範囲である。
【0075】
また、本発明の位相差フィルムは、波長650nmにおける面内位相差Δnd(650nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが、1<Δnd(650nm)/Δnd(550nm)の関係を満たすことが好ましく、より好ましくは1<Δnd(650nm)/Δnd(550nm)≦2であり、特に好ましくは1.1≦Δnd(650nm)/Δnd(550nm)≦1.3である。
【0076】
位相差フィルムの逆分散の大きさは、例えば、本発明の変性ポリマーにおける化学基の修飾率の制御によって変化させることができる。また、この他に、異なる修飾率の変性ポリマーを数種類準備し、所定の比率で混合することによっても、波長分散特性を変化させた所望の逆分散が得られる。このように変性ポリマーを混合する場合、混合物全体としての修飾率が、例えば、主鎖の全炭素数に対して1〜20%であることが好ましい。
【0077】
本発明の位相差フィルムは、面内位相差が発現し、且つ、逆分散を示せばよいが、例えば、光学的一軸性「nx>ny=nz」、光学的二軸性「nx>ny>nz」、「nx>nz>ny」の光学特性を示すことが好ましい。このような一軸性や二軸性の光学特性は、例えば、前述のように延伸処理の種類や条件等を調整する従来公知の方法により設定できる。また、所定の波長における面内位相差や厚み方向位相差も、同様に、前記延伸処理の種類や条件、使用するフィルムの厚み等を適宜設定する、従来公知の方法により設定できる。
【0078】
本発明における位相差フィルムは、面内位相差Δnd(550nm)が10〜1000nmであることが好ましく、λ/4板として使用する場合には、100〜170nmの範囲が好ましく、λ/2板として使用する場合には、200〜340nmの範囲が好ましい。
【0079】
また、本発明の位相差フィルムは、厚み方向複屈折率(nx−nz)と面内複屈折率(nx−ny)との関係を示す下記式で表されるNz係数が、例えば、0<Nz<1であることが好ましい。また、本発明の位相差フィルム1枚を液晶セルに使用する場合には、0.3<Nz<0.7であることが好ましく、2枚を使用する場合には、一方の位相差フィルムを0.3<Nz<0.7、他方の位相差フィルムを0.1<Nz<0.4として組み合わせることが好ましい。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0080】
一軸延伸により作製した通常の位相差フィルム(一軸性位相差フィルム)は、そのY軸方向屈折率(ny)とZ軸方向屈折率(nz)とが等しくなるため、Nz係数は1になる。そして、この位相差フィルムを遅相軸に対して傾斜させた場合、その位相差は傾斜角度に伴って大きくなることが一般的である。しかしながら、位相差フィルムのNz係数が、前述のように0<Nz<1の範囲であれば、傾斜角変化に対する位相差の変化は、前述した通常の一軸性位相差フィルムより小さくなる。特に、Nzが0.5の場合、例えば、傾斜角が60°程度であれば、位相差はほとんど変化しない。また、進相軸に対する傾斜の場合も、Nz係数が0.5に近づく程、位相差変化はより一層小さくなる。つまり、傾斜角変化により観察される位相差の変化割合は、そのNz係数に対して連続的に変化するが、特に前述のような範囲「0<Nz<1」であれば、傾斜角変化による位相差変化を十分に抑制できる。
【0081】
また、通常の一軸性位相差フィルム(Nz=1)をその遅相軸が傾斜軸に対して45°となるように配置した場合、軸角度は、傾斜角に伴って、遅相軸が傾斜軸に対して平行に近づくように変化する。これに対して、0<Nz<1の位相差フィルムであれば、通常の一軸性位相差フィルムに比べて、軸角度の変化量も小さくなる。具体的には、Nz=0.5の位相差フィルムであれば、45°のままほとんど変化しない。
【0082】
本発明における位相差フィルムの厚みは、特に制限されないが、例えば、5〜500nm、好ましくは10〜200nm、特に好ましくは20〜100nmである。
【0083】
本発明における位相差フィルムは、例えば、λ/4板、λ/2板であることが好ましい。前述のように、λ/4板として使用する場合には、目的とする波長に対して1/4波長となるように、λ/2板として使用する場合には、目的とする波長に対して1/2波長となるように位相差が設計される。この設計は、前述のように延伸方法や条件等を調整する従来公知の方法によって行える。そして、本発明の位相差フィルムは、前述のように逆分散を示し、且つ、大きな位相差も実現できることから、広範囲の波長帯域においてλ/4板、λ/2板等としての機能を実現できる。
【0084】
つぎに、本発明の光学フィルムについて、前記位相差フィルムに加えて、さらに偏光子を含む偏光板を一例にあげて説明する。
【0085】
前記位相差フィルムと偏光子とは、例えば、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とが、垂直になるように配置されてもよいし、平行となるように配置されてよい。特に、平行となるように配置すれば、可視光の広範囲波長帯域において視覚特性に優れる広視野角広帯域偏光板となる。
【0086】
前記偏光子としては、特に制限されず、従来公知のものが使用でき、通常、ポリマーフィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて、さらに架橋、延伸、乾燥することによって調製される。中でも、光透過率や偏光度に優れる偏光子が好ましい。前記ポリマーフィルムとしては、特に制限されないが、例えば、PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム等があげられる。また、この他に、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルム等も使用できる。これらの中でもPVA系フィルムが好ましい。前記偏光子の厚みは、通常、1〜80μmの範囲であるが、これには限定されない。
【0087】
前記位相差フィルムと偏光子との積層体は、さらにその片面または両面に保護フィルムが配置されていることが好ましい。前記保護フィルムは、特に制限されず、従来公知の透明保護フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。前記保護フィルムの材質としては、例えば、トリアセチルセルロール(TAC)等のセルロース系樹脂;ポリエステル系、ポリノルボルネン系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂があげられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等もあげられる。これらは1種類でもよいし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。これらの中でも、偏光特性や耐久性の点から、TACフィルム、特に、表面をアルカリ等でケン化処理したTACフィルムが好ましい。
【0088】
また、特開2001−343529号公報(WO 01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。ポリマーとしては、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が使用でき、具体的には、イソブテンおよびN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物があげられる。なお、前記ポリマーフィルムは、例えば、前記樹脂組成物の押出成形物であってもよい。
【0089】
前記保護フィルムの厚みは、特に制限されないが、通常、500μm以下であり、好ましくは5〜300μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは5〜60μmの範囲である
前記保護フィルムの複屈折特性は、特に制限されないが、例えば、液晶表示装置に使用する場合、そのモードに応じた複屈折特性に設定できる。例えば、インプレインスイッチング(IPS)モードの場合には、できるだけ小さい位相差が好ましい。また、垂直配向(VA)モードの場合には、正面における位相差ができるだけ小さいことが好ましく、斜め方向における位相差が、視覚に対して遅相軸が水平に発現する負の光学一軸性を示すことが好ましい。
【0090】
本発明の位相差フィルムと偏光子とは、例えば、前述のような保護フィルムを介して積層してもよいが、両者を直接積層することもできる。これは、本発明の位相差フィルムがポリオール骨格を有しているため、従来のポリカーボネート系、ポリオレフィン系、ポリノルボルネン系等の位相差フィルムと比較して、保護フィルム等を介さなくとも、偏光子(特にPVA製偏光子)と接着させ易いためである。また、位相差フィルムと偏光子とを、保護フィルム等を介さずに直接積層した場合、前記位相差フィルムの他方の表面に、例えば、TACフィルム等の負の一軸性(nx=ny>nz)を示す保護フィルムを配置することが好ましい。なお、「直接」とは、保護フィルム等の部材を介さずに位相差フィルムと偏光子とを積層することを意味し、例えば、接着剤や粘着剤等をも除く意味ではない。
【0091】
位相差フィルムと偏光子との間など、各部材間の接着方法は特に制限されず、通常、従来公知の接着剤や粘着剤が使用できる。前記粘着剤としては、例えば、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、合成ゴム等、応力緩和性に優れる透明な粘着剤があげられ、中でも、光学的透明性、粘着特性、耐候性等の点からアクリル系粘着剤が好ましい。
【0092】
本発明の光学フィルムは、前述のように本発明の位相差フィルムを含んでいればよく、含まれる部材の積層数は特に制限されない。また、二層以上の位相差フィルムを含む場合、同じ位相差フィルムでも、異なる位相差フィルムでもよい。
【0093】
本発明の位相差フィルムと偏光子とを組み合わせて、広視野角、広帯域の偏光板を製造する場合、本発明の位相差フィルムの光学特性は、以下のように設定することが好ましい。位相差フィルムの位相差は、λ/2板の場合、一般に中心波長の1/2に調整され、前記中心波長は、通常、400nm〜700nmの範囲に設定される。例えば、本発明の光学フィルムが、本発明の位相差フィルムを1層含む場合には、前記位相差フィルムのNzを、0.1〜0.9に設定することが好ましく、より好ましくは0.25〜0.75の範囲、さらに好ましくは0.4〜0.6の範囲である。このように設定すれば、本発明の偏光板を正面から見た際に、極めて広い視野角でクロスニコルを実現できる。
【0094】
この本発明の偏光板は、円偏光板であることが好ましい。円偏光板は、例えば、本発明の位相差フィルム(λ/4板)と偏光子とを、それぞれの光軸角度が45°となるように配置すればよい。
【0095】
使用する位相差フィルムが完全に1/4波長の位相差を与える場合、円偏光板は、透過した光を円偏光に変化させることができる。一方、位相差フィルムが1/4波長以外の位相差を与える場合には、円偏光板は、透過した光を円偏光ではなく楕円偏光に変化させる。このため、円偏光板の特性としては、できるだけ広い範囲の波長帯域において、円偏光もしくはそれに近い楕円偏光を与えることが望まれている。
【0096】
さらに、画像表示装置等において、円偏光板を透過した偏光は、偏光を解消しない反射板において反射される。この際、円偏光に近いものほど偏光の変換が達成され、完全な円偏光であれば、全く逆極性の円偏光に変換される。そして、反射された逆極性の円偏光は、円偏光板を再度透過することはできず、完全に円偏光板に吸収されることとなる。ところが、円偏光性が低下すると、低下に伴って反射光の変換効率が小さくなるため、反射光は円偏光板を透過するようになってしまう。このため、より広い波長帯域で円偏光を達成できるものほど無彩色が実現される。
【0097】
特に、円偏光板を反射防止の目的で使用する場合、可視光全域で、円偏光またはそれに近い楕円偏光を与えるものが良好な円偏光板である。しかし、正分散のλ/4板であると、円偏光を達成できるのはごく一部の中心波長帯域のみであり、中心波長から離れるに従って、円偏光性は低下し、円偏光の楕円率は小さくなる。このため、反射光が円偏光板を透過する光量は、位相差が1/4波長となる中心波長では0となるものの、中心波長から離れるに従って大きくなってしまう。その結果、透過光量自体が増加すると共に、より一層着色して見えることになる。このような現象は、フラットな波長分散、すなわち、波長によって位相差があまり変化しない波長分散であっても同様に見られる。この場合、正分散と比較して着色は低減されるが、中心波長から離れた波長帯域では、やはり透過光量が大きくなってしまう。これに対して、本発明の円偏光板は、前述のような逆分散を示す本発明の位相差フィルムを使用しているため、より広い波長帯域で透過光の円偏光を達成できる。このため、反射光の透過光量を抑制し、さらに、中心波長から離れた波長においても、反射光の円偏光板透過率を減少させ、無彩色を実現できる。
【0098】
本発明の光学フィルムは、例えば、液晶パネルや液晶表示装置、その他の画像表示装置に使用でき、その使用方法や配置は、従来の液晶パネル、液晶表示装置と同様である。本発明の液晶パネルは、例えば、液晶セルの少なくとも一方の表面、特に、表示画面側に、本発明の光学フィルムが配置されていることが好ましく、本発明の液晶表示装置は、このような液晶パネルを備えていればよい。
【0099】
本発明の液晶表示装置の表示方式は、特に制限されないが、極めて広い視野角で高いコントラストを実現できることから、例えば、IPSモードやVAモードが好ましい。これは、本発明の光学フィルムによって、広い視野角範囲、広い波長帯域において、クロスニコルを実現できるためである。また、VAモードの液晶セルは、正の一軸性(nx=ny<nz)を示すため、特に、本発明の位相差フィルムと偏光子と負の一軸性(nx=ny>nz)を示す保護フィルムとを含む光学フィルムを使用することが好ましい。このような保護フィルムをさらに含むことによって、広い視野角範囲、広い波長帯域におけるクロスニコルの実現に加え、さらに液晶セルを補償できる。なお、保護フィルムの位相差が小さい場合には、別途負の一軸性(nx=ny>nz)を示すフィルムを液晶セルに配置してもよい。
【0100】
本発明の光学フィルムは、前述のような液晶表示装置には限定されず、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)およびFED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)等の自発光型表示装置にも使用できる。これらの各種画像表示装置に本発明の光学フィルムを使用する際には、前述のような本発明の位相差フィルムと偏光子とを含む円偏光板が好ましく、前記円偏光板を表示画面側に配置することが好ましい。これによって、例えば、電極により反射された外光を除去し、明るい環境下であっても視認性を向上できる。なお、従来の光学フィルムに代えて、本発明の光学フィルムを使用する以外は特に制限されず、従来公知の構成、配置が適用できる。
【0101】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0102】
ケン化度88%のPVA11gをピリジン100mLに懸濁し、乾燥条件下、100℃で一晩撹拌した。この反応液にピリジン100mLを添加し、50℃に冷却した後、さらに安息香酸クロリド8.2gを少しずつ加えて50℃で6時間撹拌した。この反応液にアセトン800mLを加えて濾過し、得られた濾液を蒸留水7Lと混合して再沈殿を行った。この沈殿したポリマー(白色沈殿)を濾別して50℃の蒸留水に投入し、撹拌によって洗浄した。再度、濾別により回収した沈殿ポリマーを減圧下で乾燥し、7.4gのベンゾイル変性PVAを得た。このベンゾイル変性PVAをH−NMR分析したところ、PVA主鎖の全炭素に対するベンゾイル基の修飾率は13.5%であった。
【0103】
得られたベンゾイル変性PVA 2gおよびグリセリン0.2gをジメチルスルホキシド(DMSO)20gに溶解して変性PVA溶液を調製した。この変性PVA溶液をガラス板上にアプリケーターで塗布し、乾燥によって、前記ガラス板上にベンゾイル変性PVAフィルムを形成した。このフィルムをガラス板から剥離し、100℃で2倍に延伸して位相差フィルムを作製した。
【実施例2】
【0104】
安息香酸クロリドを13.4gとした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。なお、得られたベンゾイル変性PVAは7.8gであり、PVA主鎖の全炭素に対するベンゾイル基の修飾率は19.5%であった。
【実施例3】
【0105】
安息香酸クロリドを2.5gとした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。なお、得られたベンゾイル変性PVAは7.5gであり、PVA主鎖の全炭素に対するベンゾイル基の修飾率は1.5%であった。
【実施例4】
【0106】
ケン化度88%のPVA11gをピリジン100mLに懸濁し、乾燥条件下、100℃で一晩撹拌した。この反応液にピリジン100mLを添加し、50℃に冷却した後、さらにプロピオール酸4.7gを少しずつ加えて50℃で6時間撹拌した。この反応液にアセトン800mL加えて濾過し、得られた濾液を蒸留水7Lと混合して再沈殿を行った。この沈殿したポリマー(白色沈殿)を濾別して50℃の蒸留水に投入し、攪拌によって洗浄した。再度、濾別により回収した沈殿ポリマーを減圧下で乾燥し、6.7gのプロピオロイル変性PVAを得た。このプロピオロイル変性PVAをH−NMR分析したところ、PVA主鎖の全炭素に対するプロピオロイル基の修飾率は15%であった。
【0107】
得られたプロピオロイル変性PVA 2g、グリセリン0.2gをDMSO 20gに溶解してプロピオロイル変性PVA溶液を調製した。そして、この溶液をガラス板上にアプリケーターで塗布し、乾燥によって、前記ガラス板上にプロピオロイル変性PVAフィルムを形成した。このフィルムをガラス板から剥離し、100℃で2倍に延伸して位相差フィルムを作製した。
【実施例5】
【0108】
プロピオール酸を6gとした以外は、実施例4と同様にして位相差フィルムを作製した。なお、得られたプロピオロイル変性PVAは7.2gであり、PVA主鎖の全炭素に対するプロピオロイル基の修飾率は18%であった。
【実施例6】
【0109】
プロピオール酸を2gとした以外は、実施例4と同様にして位相差フィルムを作製した。なお、得られたプロピオロイル変性PVAは6.4gであり、PVA主鎖の全炭素に対するプロピオロイル基の修飾率は2.5%であった。
【実施例7】
【0110】
実施例1と同様にしてベンゾイル変性PVAフィルム(未延伸)を作製し、このフィルムの両面に、2軸延伸したポリオレフィンフィルムを粘着剤で貼り付けた。そして、この積層体を100℃で2倍に延伸した後、前記ポリオレフィンフィルムを剥離し、延伸処理が施されたベンゾイル変性PVAフィルムを得た。これを位相差フィルムとした。
【実施例8】
【0111】
前記実施例7の位相差フィルムを、PVA系接着剤を用いて、PVAヨウ素系偏光子の一方の表面に貼り合わせた。なお、前記位相差フィルムと前記偏光子は、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とが平行となるように配置した。さらに、前記偏光子の他方の表面に、TACフィルム(保護フィルム、以下同様)を貼り合せて、偏光板を作製した。
【0112】
(比較例1)
ポリカーボネート2gを塩化メチレン20gに溶解し、この溶液をガラス板上にアプリケーターで塗布し、乾燥によって、前記ガラス板上にポリカーボネートフィルムを形成した。このフィルムを160℃で1.5倍延伸し、位相差フィルムを作製した。
【0113】
(比較例2)
安息香酸クロリドを添加しなかった以外は、前記実施例1と同様にして未変性PVAフィルムを調製し、これを延伸して位相差フィルムを作製した。
【0114】
以上のようにして得られた実施例1〜7の位相差フィルムおよび比較例1〜2の位相差フィルムについて、それぞれの特性を評価した。なお、得られた各位相差フィルムの屈折率の関係は、それぞれ以下のとおりであった。
実施例1 nx>ny≒nz
実施例2 nx>ny≒nz
実施例3 nx>ny≒nz
実施例4 nx>ny≒nz
実施例5 nx>ny≒nz
実施例6 nx>ny≒nz
実施例7 nx>nz>ny
比較例1 nx>ny≒nz
比較例2 nx>ny≒nz
【0115】
(波長分散特性)
複屈折測定装置(商品名KOBRA−21ADH:王子計測機器社製)を用いて、各位相差フィルムにおける面内位相差の波長分散を測定した。これらの結果を下記表1ならびに図1〜図3のグラフに示す。各図において、横軸は波長、縦軸は面内位相差の波長分散(Δnd(Xnm)/Δnd(550nm))であり、図1は実施例1〜4、図2は実施例5〜7、図3は比較例1〜2の結果をそれぞれ示した。なお、各グラフに、理想的な逆分散を合わせて示した(理想分散)。
【0116】
【表1】

【0117】
図1および図2に示すように、実施例1〜7の位相差フィルムは、それぞれ短波長側の面内位相差が長波長側の面内位相差より小さい逆分散を示した。これに対して、図3に示すように、比較例1の位相差フィルムは正分散を示し、比較例2の位相差フィルムは、フラットな波長分散に近く逆分散には到っていなかった。
【0118】
(円偏光性)
各位相差フィルムを偏光板(商品名SEG1425DU:日東電工社製)に貼りあわせ、円偏光板を作製した。なお、前記両者は、位相差フィルムの吸収軸と偏光板の遅相軸とが45°になるように配置した。そして、この円偏光板を、PET上にアルミニウムを蒸着した反射板の表面(アルミニウム蒸着膜表面)に配置し、反射色を装置(商品名MCPD3000:大塚電子社製)を用いて評価した。これらの結果(a*値,b*値)を下記表2に示す。なお、a*値の絶対値が大きい程、赤色を帯び、b*値の絶対値が大きい程、黄色を帯びると判断できる。
【0119】
【表2】

【0120】
前記表2に示すように、実施例1、4の位相差フィルムを用いた場合、比較例1、2と比べて、a*,b*の絶対値がともに小さいことから、より無彩色であり着色が少ないといえる。このため、実施例の位相差フィルムによれば、比較例と比べて、より広い波長帯域での円偏光性が達成できる。
【0121】
(位相差変化)
つぎに、実施例7の位相差フィルムについて、位相差変化を確認した。
【0122】
実施例7の位相差フィルムについて、正面位相差と、遅相軸に対して位相差フィルムを40°傾斜させた状態での位相差とを測定し、位相差変化を確認した。その結果、実施例7の位相差フィルムは、ほとんど位相差変化が無く、外挿での計算の結果(測定した複屈折率から計算した結果)、Nz係数は約0.55であった。
【0123】
(透過光の観察)
実施例8の偏光板と、PVAヨウ素系偏光子の一方の表面に保護フィルム(TACフィルム)を積層した直線偏光板とを、それぞれの吸収軸が直交するように配置し、透過光を観察した。前記直線偏光板は、その保護フィルムが実施例8の偏光板の反対側に位置するように配置した。そして、前記実施例8の偏光板と直線偏光板とを、平面上の0°方向に対して、それぞれの吸収軸が45°と−45°になるよう配置し、法線から平面上の0°方向に45°傾斜させた状態で透過光を観察した。その結果、光ぬけはほとんど発生しておらず、法線方向(傾斜角0°)から観察した結果とほぼ同等であった。この際、直線偏光板を回転させると、透過光量は増加した。このことから、実施例8の偏光板では、傾斜させても吸収軸の角度がほとんど変化していないことがわかる。これに対して、比較例1および比較例2の位相差フィルムを用いて、実施例8と同様にしてそれぞれ偏光板を作製し、同様の観察を行った。その結果、比較例1および2の位相差フィルムを用いた偏光板では、傾斜角が大きくなるに従って光が漏れ出し、組み合わせた直線偏光板を回転させると徐々に透過光は減少した。このことから、比較例1および2の位相差フィルムを用いた偏光板では、吸収軸の角度変化が生じたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明によれば、従来のように、複数のモノマーやポリマーの組み合わせを選択することなく、容易に逆分散を示す変性ポリマーを得ることができる。また、この本発明の変性ポリマーを用いれば、従来のような延伸処理におけるガラス転移温度等の問題を回避して、逆分散の位相差フィルムを作製できる。このため、本発明の変性ポリマーは、逆分散を示す位相差フィルムの新たな原料として、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施例1〜4の位相差フィルムの波長分散を示すグラフである。
【図2】実施例5〜7の位相差フィルムの波長分散を示すグラフである。
【図3】比較例1〜2の位相差フィルムの波長分散を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖としてポリオール骨格を有し、前記ポリオール骨格の側鎖が化学基で修飾された部分を有する変性ポリマーであって、
前記化学基が、芳香族カルボニル基、アリール置換低級アルキルカルボニル基および不飽和脂肪族カルボニル基からなる群から選択された少なくとも一つの基であり、且つ、前記ポリオール骨格側鎖の酸素原子に結合していることを特徴とする変性ポリマー。
【請求項2】
芳香族カルボニル基が、下記式(1)または(2)で表される請求項1記載の変性ポリマー。
【化1】

前記式(1)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、前記式(2)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【請求項3】
アリール置換低級アルキルカルボニル基が、Ar−(CH−CO−で表され、前記式において、Arは芳香環であり、nは1〜2の整数である請求項1記載の変性ポリマー。
【請求項4】
アリール置換低級アルキルカルボニル基が、下記式(3)または(4)で表される、請求項3記載の変性ポリマー。
【化2】

前記式(3)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、前記式(4)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)であり、前記両式において、nは1〜2の整数である。
【請求項5】
前記不飽和脂肪族カルボニル基が、少なくとも二重結合および三重結合のいずれか一方を有している請求項1記載の変性ポリマー。
【請求項6】
前記不飽和脂肪族カルボニル基が、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される、請求項5記載の変性ポリマー。
【化3】

前記式(5)〜(7)において、R13、R14およびR15は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【請求項7】
前記ポリオール骨格における前記化学基による修飾率が、主鎖全炭素数の1〜20%の範囲である請求項1〜6のいずれか一項に記載の変性ポリマー。
【請求項8】
前記ポリオール骨格が、ポリビニルアルコール骨格またはポリエチレンビニルアルコール骨格である請求項1〜7のいずれか一項に記載の変性ポリマー。
【請求項9】
変性ポリマーのガラス転移温度が、80〜180℃である請求項1〜8のいずれか一項に記載の変性ポリマー。
【請求項10】
請求項1記載の変性ポリマーの製造方法であって、
主鎖としてポリオール骨格を有するポリマーと、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸ハロゲン化物、芳香族カルボン酸無水物、アリール置換低級アルキルカルボン酸、アリール置換低級アルキルカルボン酸ハロゲン化物、アリール置換低級アルキルカルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸ハロゲン化物、不飽和脂肪族カルボン酸無水物、不飽和脂肪族ケトンおよび不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選択された少なくとも一つの化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする変性ポリマーの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の変性ポリマーを含有するフィルムで構成されている位相差フィルム。
【請求項12】
波長450nmにおける面内位相差Δnd(450nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが下記関係式を満たすフィルムである請求項11記載の位相差フィルム。
Δnd(450nm)/Δnd(550nm)<1
【請求項13】
波長650nmにおける面内位相差Δnd(650nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが下記関係式を満たすフィルムである請求項11または12記載の位相差フィルム。
Δnd(650nm)/Δnd(550nm)>1
【請求項14】
下記式で表されるNz係数について、0<Nz<1を満たすフィルムである請求項11〜13のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
前記式において、nxおよびnyは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸方向およびY軸方向の屈折率を示し、nzは、前記位相差フィルムにおける厚み方向(Z軸方向)の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向である。
【請求項15】
液晶セルの少なくとも一方の面に、請求項11〜14の何れかに記載の位相差フィルムが配置されていることを特徴とする液晶パネル。
【請求項16】
前記位相差フィルムが、前記液晶セルの表示画面側に配置されている請求項15記載の液晶パネル。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の液晶パネルを備える液晶表示装置。
【請求項18】
請求項11〜14の何れかに記載の位相差フィルムを備える画像表示装置。
【請求項19】
画像表示装置が、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)およびFED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)からなる群から選択された少なくとも一つである請求項18記載の画像表示装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖としてポリオール骨格を有し、前記ポリオール骨格の側鎖が化学基で修飾された部分を有する変性ポリマーであって、前記化学基が、芳香族カルボニル基、アリール置換低級アルキルカルボニル基および不飽和脂肪族カルボニル基からなる群から選択された少なくとも一つの基であり、且つ、前記ポリオール骨格側鎖の酸素原子に結合している変性ポリマーを含有するフィルムで構成されていることを特徴とする位相差フィルム
【請求項2】
芳香族カルボニル基が、下記式(1)または(2)で表される請求項1記載の位相差フィルム
【化1】

前記式(1)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、前記式(2)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【請求項3】
アリール置換低級アルキルカルボニル基が、Ar−(CH−CO−で表され、前記式において、Arは芳香環であり、nは1〜2の整数である請求項1記載の位相差フィルム
【請求項4】
アリール置換低級アルキルカルボニル基が、下記式(3)または(4)で表される、請求項3記載の位相差フィルム
【化2】

前記式(3)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、またはニトロ基(−NO)であり、前記式(4)において、R、R、R、R、R10、R11およびR12は、それぞれ同一であっても異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)であり、前記両式において、nは1〜2の整数である。
【請求項5】
前記不飽和脂肪族カルボニル基が、少なくとも二重結合および三重結合のいずれか一方を有している請求項1記載の位相差フィルム
【請求項6】
前記不飽和脂肪族カルボニル基が、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される、請求項5記載の位相差フィルム
【化3】

前記式(5)〜(7)において、R13、R14およびR15は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基またはニトロ基(−NO)である。
【請求項7】
前記ポリオール骨格における前記化学基による修飾率が、主鎖全炭素数の1〜20%の範囲である請求項1〜6のいずれか一項に記載の位相差フィルム
【請求項8】
前記ポリオール骨格が、ポリビニルアルコール骨格またはポリエチレンビニルアルコール骨格である請求項1〜7のいずれか一項に記載の位相差フィルム
【請求項9】
変性ポリマーのガラス転移温度が、80〜180℃である請求項1〜8のいずれか一項に記載の位相差フィルム
【請求項10】
波長450nmにおける面内位相差Δnd(450nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが下記関係式を満たすフィルムである請求項1〜9のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
Δnd(450nm)/Δnd(550nm)<1
【請求項11】
波長650nmにおける面内位相差Δnd(650nm)と波長550nmにおける面内位相差Δnd(550nm)とが下記関係式を満たすフィルムである請求項1〜10のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
Δnd(650nm)/Δnd(550nm)>1
【請求項12】
下記式で表されるNz係数について、0<Nz<1を満たすフィルムである請求項1〜11のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
前記式において、nxおよびnyは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸方向およびY軸方向の屈折率を示し、nzは、前記位相差フィルムにおける厚み方向(Z軸方向)の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向である。
【請求項13】
液晶セルの少なくとも一方の面に、請求項1〜12のいずれか一項に記載の位相差フィルムが配置されていることを特徴とする液晶パネル。
【請求項14】
前記位相差フィルムが、前記液晶セルの表示画面側に配置されている請求項13記載の液晶パネル。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の液晶パネルを備える液晶表示装置。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の位相差フィルムを備える画像表示装置。
【請求項17】
画像表示装置が、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)およびFED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)からなる群から選択された少なくとも一つである請求項16記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225626(P2006−225626A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152084(P2005−152084)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】