説明

位置検出装置

【課題】 2次以上の回折光および迷光の発生を抑え、位置検出信号のS/N比を改善し検出精度の向上を図る。
【解決手段】 屈折率nの保護層12で格子面11aが覆われた回折格子11のピッチをd、照射される可干渉光の真空中の波長をλとした時、d<2λ/n とし、上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、1次回折光を位置検出に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工作機械や半導体製造装置等の可動部分の相対移動位置を検出する光学式変位測定装置として、移動するスケール上に記録されている回折格子の位置の変位を光の干渉を利用して検出するようにしたものに格子干渉計を用いた変位測定装置が知られている。
【0003】
本件発明者等は、干渉させる2つの回折光を高い精度で重ね合わせて、移動する可動部分の移動位置を、高分解能かつ高精度に検出することができるようにした光学式変位測定装置を先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1の開示技術では、可干渉光が第1の結像手段により回折格子の格子面に結像しているとともに、第1の回折光が第2の結像手段により平行光とされ反射光学系の反射器に常に垂直に照射されている構造とすることにより、第1の回折光の光軸がずれた場合であっても、反射された第1の回折光は常に入射したときと全く同じ経路を逆行し回折格子の格子面上の結像位置は変化せず、この第1の回折光が回折することにより生じる第2の回折光の光軸がずれず、また、光路長の変化も生じないようにして、回折格子が、格子ベクトルに平行な方向以外に移動等した場合、例えば、回折格子が傾いたり、回折格子にうねり等があった場合であっても、検出する干渉信号が低下しないようにしている。
【0005】
また、回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う格子干渉計用の光学スケールでは、回折格子が空気中に露出していると、指紋やゴミが付着したり、傷が付いてしまうので、回折格子が形成された面を覆うように透明な保護層を形成することにより、回折格子表面を汚れや傷から保護することが行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−81308号公報
【特許文献2】特開平5−232318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の開示技術においては、入射角≠回折角とすることにより、0次光の光路への混入を防ぐことを可能としている。しかしながら、条件によっては高次の回折光が発生し、回折格子の保護層の境界面等での反射により迷光となり、光路への混入による検出精度の低下を招く場合がある。
【0008】
上記高次の回折光が保護層の境界面で反射されることに迷光となるのを防止するために上記保護層の表面に反射防止膜を設けることが考えられるが、高次の回折光の全ての反射を防止する構造とすることは難しい。
【0009】
そこで、本発明は、上述の如き従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、2次以上の回折光および迷光の発生を抑え、位置検出信号のS/N比を改善し検出精度の向上を図った格子干渉計用の光学スケールを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、図1に示すように、波長λの可干渉光Laが屈折率nの媒質2を介して入射角θをもって回折格子1に入射し場合、上記回折格子1の形成された面の法線と光線とのなす角度で示す入射角θと回折角θのプラス方向を図1のようにとり、上記回折格子1のピッチをd、回折次数をmとして、入射角θと回折角θが次の式(1)
sinθ=(mλ/dn)−sinθ ・・・ 式(1)
を満たす各次数の回折光が生じる。
【0012】
しかしながら、上記式(1)において、入射角θが次の条件式
(2λ/dn)−sinθ>1、かつ、(−2λ/dn)−sinθ<−1
を満たせば、±2次以上の高次の回折光は生じない。
【0013】
そこで、本発明では、回折格子への可干渉光Laの入射角θを次の式(2)
d<2λ/n かつ |sinθ|<(2λ/dn)−1 ・・・ 式(2) を満たように設定することにより、±2次以上の高次の回折光を生じなくする。
【0014】
すなわち、本発明は、回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う位置検出装置であって、回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層を有し、真空中の波長をλ、上記回折格子のピッチをdとした時、d<2λ/nとし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、1次回折光を位置検出に使用することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う位置検出装置であって、回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層を有し、真空中の波長をλ、上記回折格子のピッチをdとした時、d<3λ/2nとし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
1−(λ/dn) <sinθ<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、上記回折格子による1次回折光が反射光学系を介して戻されて再入射され、上記回折格子で再回折させた1次回折光を位置検出に使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、回折格子のピッチをd、保護層の屈折率nをとした時、d<2λ/nとし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、1次回折光を位置検出に使用することにより、位置検出に必要のない高次の回折光の発生を防ぐことができ、回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層の境界面での反射による不要な回折光からの迷光の発生を防ぎ、位置検出光への迷光の混入を予防することができる。
【0017】
さらに、
d<3λ/2n
なる式を満たし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
1−(λ/dn) <sinθ<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定することにより、上記回折格子による1次回折光が反射光学系を介して戻されて再入射され、上記回折格子で再回折させた1次回折光を位置検出に使用することにより、再入射された1次回折光についても、位置検出に必要のない高次の回折光の発生を防ぐことができ、上記屈折率nの保護層の境界面での反射による不要な回折光からの迷光の発生を防ぎ、位置検出光への迷光の混入を予防することができる。
【0018】
したがって、本発明によれば、2次以上の回折光および迷光の発生を抑え、位置検出信号のS/N比を改善し検出精度の向上を図った位置検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】回折格子による生じる回折光の様子を模式的に示す図である。
【図2】本発明を適用した光学式変位測定装置の構成を示す外観斜視図である。
【図3】上記光学式変位測定装置に適用した光学スケールの構造を模式的に示す断面図である。
【図4】上記光学式変位測定装置の傾斜面A上に配置された構成要素を、この傾斜面Aに対して垂直な方向から見た側面図である。
【図5】上記光学式変位測定装置の回折格子に入射される可干渉光及びこの回折格子により回折される回折光を格子ベクトル方向から見た側面図である。
【図6】上記光学式変位測定装置の傾斜面B上に配置された構成要素を、この傾斜面Bに対して垂直な方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明は、例えば図2に示すような構成の光学式変位測定装置100に適用される。
【0022】
この光学式変位測定装置100は、反射型の回折格子11が形成された光学スケール10を備え、工作機械等の可動部分の位置検出を行う装置である。
【0023】
上記光学スケール10は、図3に示すように、回折格子11の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う格子干渉計用の光学スケールであって、回折格子11が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層12を有し、真空中の波長をλ、上記回折格子11のピッチをdとし、d<2λ/nとし、上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定されるか、または、
d<3λ/2n
なる式を満たすように、上記回折格子11のピッチdが設定されており、上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
1−(λ/dn)<sinθ<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、上記回折格子11による1次回折光が反射光学系を介して戻されて再入射され、上記回折格子11で再回折させた1次回折光が位置検出に使用される。
【0024】
この光学スケール10は、反射型スケールであって、ガラス、セラミック等のベース基材13上に物理的な凹凸を持つ回折格子11が形成され、その表面に形成された反射膜14を有し、その上に保護層12が形成されている。
【0025】
ここで、この光学式変位測定装置100では、図2に示すように、回折格子11の格子面11a上の格子ベクトル方向に平行な1つの仮想的な直線を含み法線ベクトルに平行な仮想的な基準面に対し、上記仮想的な直線を含み上記基準面とのなす角がγとなっている仮想的な面を傾斜面Aとし、また、上記仮想的な直線を含み基準面とのなす角がδとなっている仮想的な面を傾斜面Bとし、上記傾斜面Aと傾斜面Bは、回折格子11の格子面11aに対し、同一面側にあるものとする。
【0026】
そして、この光学式変位測定装置100において、上記傾斜面A上に配置された構成要素をこの傾斜面Aに対して垂直な方向から見た側面図を図4に示す。また、回折格子11に入射される可干渉光及びこの回折格子11により回折される回折光を格子ベクトル方向から見た図5に示す。さらに、上記傾斜面B上に配置された構成要素をこの傾斜面Bに対して垂直な方向から見た側面図を図6に示す。
【0027】
この光学式変位測定装置100は、図2及び図4に示すように、可干渉光Laを出射する可干渉光源20と、干渉した2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光して干渉信号を生成する受光素子30と、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを2つの可干渉光La1,La2に分割して回折格子11に照射するとともに、回折格子11からの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせて受光素子30に照射する照射受光光学系41とを備えている。
【0028】
照射受光光学系41は、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを回折格子11の格子面11a上に結像させる第1の結像素子21と、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを偏光方向の直交する2つの可干渉光La1,La2に分離するとともに、偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせる偏光ビームスプリッタ43と、偏光ビームスプリッタ43により分離された一方の可干渉光La1を反射するとともに回折格子11からの2回回折光Lc1を反射する反射器23と、偏光ビームスプリッタ43により分離された他方の可干渉光La2を反射するとともに2回回折光Lc2を反射する反射器24と、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされた偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光素子30の受光面30aに結像させる第2の結像素子25と、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされた偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2の同一の偏光方向の成分を取り出す偏光板46とを有している。
【0029】
この照射受光光学系41は、通過する可干渉光La(La1,La2)の光路及び通過する2回回折光Lc1,Lc2の光路が、傾斜面A上に形成されるように、各部材が配置されている。そのため、可干渉光La1,La2及び2回回折光Lc1,Lc2は、図5に示すように、格子ベクトル方向から見た入射角及び回折角がγとなっている。
【0030】
可干渉光源20から出射される可干渉光Laは、照射受光光学系41の偏光ビームスプリッタ43に対して、偏光方向を45度傾けて入射される。
【0031】
偏光ビームスプリッタ43は、入射された可干渉光Laを、偏光方向が直交する2つの可干渉光La1,La2に分割する。照射受光光学系41の偏光ビームスプリッタ43を透過した可干渉光La1はP偏光の光となり、反射した可干渉光La2はS偏光の光となる。
【0032】
また、偏光ビームスプリッタ43には、回折格子11により2回回折された、2回回折光Lc1,Lc2が入射される。ここで、2回回折光Lc1は、元々はP偏光の光であるが、後述する反射光学系42により偏光方向が90度回転させられS偏光の光となっている。同様に、2回回折光Lc2は、元々はS偏光の光であるが、後述する反射光学系42により偏光方向が90度回転させられP偏光の光となっている。従って、この偏光ビームスプリッタ43は、S偏光の光である2回回折光Lc1を反射し、P偏光の光である2回回折光Lc2を透過して、これら2つの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせる。
【0033】
反射器23は、偏光ビームスプリッタ43を透過した可干渉光La1を反射して、回折格子11の格子面11aの所定の位置に照射する。また、反射器23は、回折格子11からの2回回折光Lc1を反射して、偏光ビームスプリッタ43に照射する。
【0034】
反射器24は、偏光ビームスプリッタ43により反射された可干渉光La2を反射して、回折格子11の格子面11aの所定の位置に照射する。また、回折格子11からの2回回折光Lc2を反射して、偏光ビームスプリッタ43に照射する。
【0035】
反射器23及び反射器24は、傾斜面A上における入射角がθとなるように、可干渉光La1及び可干渉光La2を、格子面11a上の所定の位置に照射している。なお、反射器23及び反射器24は、その反射面が、互いが向き合うように配置されている。そのため、可干渉光La1と可干渉光La2とは、格子ベクトル方向の入射方向が、互いに逆方向となっている。また、反射器23及び反射器24は、格子ベクトル方向に所定量離した位置に、可干渉光La1と可干渉光La2とを入射している。可干渉光La1の入射点と可干渉光La2の入射点との間の距離は、lとなっている。lは0以上の任意の距離である。
【0036】
偏光板46は、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされたS偏光の光である2回回折光Lc1とP偏光の光である2回回折光Lc2とが透過する。この偏光板46は、2回回折光Lc1及び2回回折光Lc2に対して、それぞれの光の偏光方向が45度の成分を透過して、互いに同一の偏光方向の光とする。
【0037】
受光素子30は、この偏光板46を透過した2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光する。
【0038】
この光学式変位測定装置100では、このような可干渉光La1が回折格子11に照射されることによりこの可干渉光La1が回折し、1回回折光Lb1が生じる。また、このような可干渉光La2が回折格子11に照射されることによりこの可干渉光La2が回折し、1回回折光Lb2が生じる。1回回折光Lb1と1回回折光Lb2の回折角は、格子ベクトル方向からみた場合、図5に示すように、δとなっている。すなわち、傾斜面Bに沿って1回回折光Lb1,Lb2が生じる。また、1回回折光Lb1と1回回折光Lb2の傾斜面B上における回折角は、θとなっている。なお、1回回折光Lb1と1回回折光Lb2とは、格子ベクトル方向における出射方向が互いに逆方向となっている。
【0039】
また、この光学式変位測定装置100は、図2及び図6に示すように、反射光学系42を備えている。
【0040】
反射光学系42は、可干渉光La1により生じる1回回折光Lb1を反射して再度回折格子11に照射する反射器26と、可干渉光La2により生じる1回回折光Lb2を反射して再度回折格子11に照射する反射器27と、可干渉光La1により生じる1回回折光Lb1を平行光として上記反射器26に照射する第3の結像素子28と、可干渉光La2により生じる1回回折光Lb2を平行光として上記反射器27に照射する第4の結像素子29と、1回回折光Lb1の光路上に設けられた1/4波長板44と、1回回折光Lb2の光路上に設けられた1/4波長板45とを有している。
【0041】
反射光学系42は、上述したように2つの1回回折光Lb1,Lb2の格子ベクトル方向から見た回折角がδとなっているため、通過する1回回折光Lb1,Lb2の光路が傾斜面B上に形成されるように、各部材が配置されている。また、反射光学系42の反射器26と反射器27とは、傾斜面B上における回折角θで回折された1回回折光Lb1,Lb2を垂直に反射可能な位置に配置されている。
【0042】
また、1/4波長板44は、回折格子11から入射するP偏光の光の1回回折光Lb1の偏光方向に対して、45度光学軸を傾けて配置されている。1回回折光Lb1は、この1/4波長板44を2回通過して、回折格子11に結像される。そのため、P偏光の光であった1回回折光Lb1がS偏光の光とされ、回折格子11に照射される。
【0043】
また、1/4波長板45は、回折格子11から入射するS偏光の光の1回回折光Lb2の偏光方向に対して、45度光学軸を傾けて配置されている。1回回折光Lb2は、この1/4波長板45を2回通過して、回折格子11に結像される。そのため、S偏光の光であった1回回折光Lb2がP偏光の光とされ、回折格子11に照射される。
【0044】
このような反射光学系42から、1回回折光Lb1,Lb2が回折格子11に入射される。この1回回折光Lb1,Lb2の格子ベクトルから見た入射角は、この1回回折光Lb1,Lb2の回折角と同じく、δとなる。また、傾斜面B上における入射角は、同様に回折角と同じく、θとなる。
【0045】
また、この1回回折光Lb1,Lb2が回折することにより、2回回折光Lc1,Lc2が生じる。この2回回折光Lc1,Lc2の格子ベクトル方向から見た回折角は、可干渉光La1,La2の入射角と同じく、γとなる。また、傾斜面A上の回折角は、同様に可干渉光La1,La2の入射角と同じく、θとなる。
【0046】
従って、2回回折光Lc1,Lc2は、可干渉光La1,La2と同光路を逆行して、偏光ビームスプリッタ43に入射する。
【0047】
また、この光学式変位測定装置100は、受光素子30からの干渉信号に基づき回折格子11の移動位置を検出する図示しない位置検出部を備えている。
【0048】
この光学式変位測定装置100では、仮想的な基準面に対して、所定の傾斜角をもった傾斜面A上に照射受光光学系41を配置し、傾斜面B上に反射光学系42を配置することにより、可干渉光と回折光とが形成する光路を分離することができ、装置の設計の自由度が増す。また、格子面11aからの0次回折光や反射光を、照射受光光学系41や反射光学系42に混入させることなく、回折光Lb1,Lb2を干渉させることができ、高精度に位置測定をすることができる。
【0049】
すなわち、この光学式変位測定装置100において、可干渉光源20から出射された可干渉光Laは第1の結像素子21を通り、偏光ビームスプリッタ43で2つの可干渉光La1,La2、すなわち、透過側P偏光、反射側S偏光に分割される。なお、可干渉光として半導体レーザを使用した場合は偏光方向をこの偏光ビームスプリッタ43に対して45°傾けて入射すればよい。 分割された2つの可干渉光La1,La2は反射器23,24で反射され反射型の回折格子11の格子面11a近傍のほぼ同一点に結像される。結像されるビーム径は、その範囲に回折光を得るのに十分な本数の格子を含む必要があり、また、ゴミやキズの影響を避けるため数十μm以上あることが望ましく、結像光学系の開口数等を調整することにより適当なビーム径とされている。
【0050】
回折格子11への入射角はθである。回折格子11で角度θで回折されたそれぞれのビームは回折格子11の格子面11a近傍に焦点のある第3の結像素子28を通り、それぞれのビームの偏光方向に対して45°光学軸の傾いた1/4波長板44を通過し光軸に対して垂直に置かれた反射器26で反射され、再び1/4波長板44を通り、P偏光はS偏光に、S偏光はP偏光に変換され、第3の結像素子28を通り、回折格子11の格子面11a近傍に結像される。回折格子11で回折された光は反射器24から偏光ビームスプリッタ43へともと来た光路を戻る。
【0051】
偏光ビームスプリッタ43ではP偏光は透過し、S偏光は反射されるため二つの可干渉光La1,La2は重ね合わされ第2の結像素子25へと向かう。第2の結像素子25を通過した光は偏光方向に対して透過軸を45度傾けた偏光板46を通過し、受光素子30の受光面30a近傍に結像される。
【0052】
ここで、重ね合わせる2つの2回回折光Lc1,Lc2の強度をA ,A 、回折格子11の格子ベクトル方向への移動量をx、初期位相をδとすると、受光素子30により得られる干渉信号の強度Iは、
I=A +A +2A cos(4Kx+δ) ・・・ 式(3)
K=2π/d(dは格子ピッチ)
なる式(3)にて示され、位置検出部では、受光素子30からの干渉信号に基づき回折格子11の移動位置を検出することができる。
【0053】
このような構成の光学式変位測定装置100では、可動部分の移動に応じて回折格子11が格子ベクトル方向に移動することにより、2つの2回回折光Lc1,Lc2に位相差が生じる。この光学式変位測定装置100では、この2つの2回回折光Lc1,Lc2を干渉させて干渉信号を検出し、この干渉信号から2つの2回回折光Lc1,Lc2の位相差を求めて、回折格子11の移動位置を検出することができる。
【0054】
このように可干渉光La1,La2を格子面11a近傍に結像し、格子面11a近傍に焦点のある結像素子を通して反射器26,27で反射することにより、回折格子11が傾いた場合でも、一回目の回折光が常に反射器26,27に垂直に入射するため反射光は常に入射した時と全く同じ光路を逆行することになり、二回目の回折光の光路がずれないため干渉信号の変動が起きない。
【0055】
また、図5に示すように、可干渉光源20、受光素子30のある傾斜面Aは格子面11aに対して角度γで傾いており、反射器26,27のある傾斜面Bは角度δで傾いている。左右の光路は対称であり、左右の光路の光路長が等しくなるように反射器26,27の位置は調整される。
【0056】
このようにすることにより波長変動に起因する測定誤差の発生を防ぐことができる。この調整を行うために可干渉光源20は可干渉距離の短い物を用いることができる。例えば可干渉距離が数百μmのマルチモードの半導体レーザを用いれば、干渉縞の変調率(Visibility)が最大となるところに反射器26,27の位置を調整すれば光路長差を数十μm以下に抑えることができる。
【0057】
この光学式変位測定装置100では、1次回折光を使用するため、角度θ、θ、γ、δは、以下のような関係式で表わされる。θ、θはそれぞれ面A上、面B上での値である。
【0058】
sinθ=(λ/dn)−sinθ
sinγ/sinδ=cosθ/cosθ
そして、この光学式変位測定装置100における光学スケール10は、上述の如く、回折格子11の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う格子干渉計用の光学スケールであって、回折格子11が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層12を有し、真空中の波長をλ、上記回折格子11のピッチをdとした時、d<2λ/nとし、上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定されているので、1回目の回折で±2次以上の高次の回折光を生じさせないようにすることができる。
【0059】
なお、この光学式変位測定装置100では、回折格子11から生じた1次回折光を再度同じ角度で入射させ、再度回折させて生じる1次回折光を利用するため、 上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定しただけでは、上記再度の回折の際、1次以外の回折光を生じる可能性がある。
【0060】
2度目の回折の際の回折次数をm、回折角度をθ’とすると
sinθ’=(m−1)λ/dn+sinθ
となるので、m=−1の−1次光は
sinθ’=−2λ/dn+sinθ
となり、sinθ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
を満たしている場合は、常に
−2λ/dn+sinθ<−1
となり解はなく、−1次光が発生しない。
【0061】
同様にm=−2の−2次光は、
|sinθ|<(2λ/dn)−1
を満たしている場合は、常に
−3λ/dn+sinθ<−1
となり解はなく、−2次光が発生しない。
【0062】
さらに、m=+2の+2次光は、
sinθ’=λ/dn+sinθ
となり、sinθ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
を満たしている場合であっても解がある場合があるが、この光学式変位測定装置100では、上記回折格子11のピッチdと上記保護層12の屈折率nが
d<3λ/2n かつ 1−(λ/dn)<sinθ<(2λ/dn)−1
を満たすように、上記回折格子11のピッチdを設定したことにより、+2次光の発生も抑えることができる。この場合、1回目の回折でのみ2次以上の回折光を生じない条件に比べてdおよびθの範囲が狭くなるが、2回目の回折での高次光の影響が大きい場合はこちらの条件を用いることが好ましい。どちらの条件を用いるかは、設計時の配置上の制約と高次光の影響をどの程度まで許容できるかによる。また、特開2000−18917公報に開示されている例のように1回目の回折光のみを使用する場合は1回目の回折でのみ2次以上の回折光を生じない条件で十分である。
【0063】
すなわち、この光学式変位測定装置100では、屈折率nの保護層12で格子面11aが覆われた回折格子11のピッチをd、照射される可干渉光の真空中の波長をλとした時、d<2λ/nとし、上記回折格子11への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、1次回折光を位置検出に使用することで、位置検出に必要のない高次の回折光の発生を防ぐことができ、上記回折格子11が形成された格子面11aを覆うように形成された屈折率nの保護層12の境界面での反射による不要な回折光からの迷光の発生を防ぎ、位置検出光への迷光の混入を予防することができる。
【0064】
さらに、この光学式変位測定装置100では、上記回折格子11のピッチdと上記保護層12の屈折率nは、
d<3λ/2n
なる式を満たし、入射角θ
1−(λ/dn) <sinθ<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、上記回折格子11による1次回折光が反射光学系42を介して戻されて再入射され、上記回折格子11で再回折させた1次回折光を位置検出に使用することで、再入射された1次回折光についても、位置検出に必要のない高次の回折光の発生を防ぐことができ、上記屈折率nの保護層12の境界面での反射による不要な回折光からの迷光の発生を防ぎ、位置検出光への迷光の混入を予防することができる。
【0065】
なお、上記光学式変位測定装置100は、反射型の回折格子11が形成された光学スケール10を備えるものであるが、反射膜のない透過型スケールを挟んで照射受光光学系41と反射光学系42を対称に配置した構造としてもよい。
【0066】
すなわち、以上説明した本発明の実施の形態では、格子面11aの表面に形成された反射膜14を有し、その上に保護層12が形成されている反射型の光学スケール10を備える光学式変位測定装置100に本発明を適用したが、本発明は、反射型スケール備えるものに限定されるものでなく、反射膜のない透過型スケールを備える光学式変位測定装置に適用することもできる。
【0067】
また、上記光学式変位測定装置100に備えられた光学スケール10は、格子ベクトル方向に長尺な直線スケールであるが、本発明は、直線スケールを備える光学式変位測定装置100のみに限定されるものでなく、ロータリー型の光学スケールを備える光学式変位測定装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 光学スケール、11 回折格子、11a 格子面、12 保護層、13 ベース基材、14 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う位置検出装置であって、
回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層を有し、
真空中の波長をλ、上記回折格子のピッチをdとした時、d<2λ/nとし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
|sinθ|<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、1次回折光を位置検出に使用する位置検出装置。
【請求項2】
回折格子の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う位置検出装置であって、
回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nの保護層を有し、
真空中の波長をλ、上記回折格子のピッチをdとした時、d<3λ/2nとし、上記回折格子への可干渉光の入射角θ
1−(λ/dn) <sinθ<(2λ/dn)−1
なる式を満たす角度に設定し、
上記回折格子による1次回折光が反射光学系を介して戻されて再入射され、上記回折格子で再回折させた1次回折光を位置検出に使用する位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2701(P2012−2701A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138663(P2010−138663)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【Fターム(参考)】