位置決め装置および位置決めステージの制御方法
【課題】 簡単な構成で位置決め精度を向上させる。
【解決手段】 圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージ10と、位置決めステージ10の位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサ11と、静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプ12と、ホスト14から入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部13dと、位置指令値および修正値に基づいて位置決めステージの変位量を決定し、圧電アクチュエータを駆動させることにより位置決めステージを移動させる位置決めコントローラ13と、を備える。
【解決手段】 圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージ10と、位置決めステージ10の位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサ11と、静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプ12と、ホスト14から入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部13dと、位置指令値および修正値に基づいて位置決めステージの変位量を決定し、圧電アクチュエータを駆動させることにより位置決めステージを移動させる位置決めコントローラ13と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータを駆動させることにより位置決めステージを移動させる位置決め装置および位置決めステージの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメータ単位の精密な移動精度を要する磁気ヘッド検査装置や半導体分野および光学分野の検査装置の微少位置決め用に圧電アクチュエータを備えた位置決めステージと静電容量型位置検出センサとから構成される位置決め装置が頻繁に使用されるようになってきた。
【0003】
ところが、従来の位置決め装置では、構成部品である静電容量型位置検出センサを収納したセンサプローブを製作するに際しての加工ばらつきがあるため、各センサプローブに対して個別の精度調整を施したセンサアンプが必要となり、センサプローブが破損した場合、高精度に調整したセンサアンプも一緒に交換しなければならなかった。
【0004】
そこで、本出願人は、万が一にセンサプローブを交換しても容易に精度調整が可能な位置決め装置を提案した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−311176号公報
【特許文献2】特開平11−271479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような位置決め装置が頻繁に使用されるようになってくると、位置決めステージに位置検出センサである静電容量型位置検出センサを組み込む工程の歩留まりを向上させる必要が出てくる。すなわち、位置決め装置の需要が増大してくると、位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後の検査合格率が低い場合には、再組み立てを行なう必要が生じ、製造能力が需要に追従できなくなるという問題が生じうる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で位置決め精度を向上させることができる位置決め装置および位置決めステージの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明に係る位置決め装置は、圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージと、前記位置決めステージの位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサと、前記静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプと、ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部と、前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定し、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを移動させる位置決めコントローラと、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後に位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【0009】
(2)また、本発明に係る位置決め装置において、前記補正部は、前記差分値に対して前記補正値を加算するか否かを選択するスイッチ部と、前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の極性を決定する補正方向決定部と、前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の大きさを決定する補正量決定部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように、差分値に対して補正値を加算するか否かを選択することができるので、補正するかしないかを容易に選定することが可能となる。また、補正をする場合には、補正値の補正方向と、補正値の大きさを決定することができるので、位置決めステージの精度特性に応じた補正量を任意に決めることが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明に係る位置決め装置において、前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴としている。
【0012】
このように、補正値が、差分値を位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められるので、補正部を簡単に構成することができる。例えば、補正部をアナログ回路化して、ダイオード折れ線回路等により構成することが可能となる。これにより、従来のシステムに大きな変更を加えることなく、位置決め精度を向上させることが可能となる。また、補正部の機能により位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後に位置決め精度特性の再設定が可能となり、従来よりも製造能力を高めることが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明に係る位置決めステージの制御方法は、圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージの制御方法であって、前記位置決めステージの現在位置を検出するステップと、ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するステップと、前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定するステップと、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを前記決定した変位量だけ移動させるステップと、を含むことを特徴としている。
【0014】
このように、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明に係る位置決めステージの制御方法において、前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴としている。
【0016】
このように、補正値が、差分値を位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められるので、補正部を簡単に構成することができる。例えば、補正部をアナログ回路化して、ダイオード折れ線回路等により構成することが可能となる。これにより、従来のシステムに大きな変更を加えることなく、位置決め精度を向上させることが可能となる。また、補正部の機能により従来よりも検査合格率を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、圧電アクチュエータを備えた位置決めステージの模式構成図である。この位置決めステージは、圧電アクチュエータ1が変位することにより、紙面に向かって上下方向に移動可能に構成されている。位置決めステージの基体2の中央に設けられた移動体3は、移動体3の4隅に設けられた支持部により支持され、かつ微動可能な状態となるように溝加工されている。静電容量型位置検出センサプローブ4(位置検出センサ)は、センサホルダ5を介して基体2に設けられた取り付け穴に高精度に組み込まれている。
【0019】
基体2に組み込まれた移動体3は、圧電アクチュエータ1に電圧を印加すると、圧電アクチュエータ1の微少変位が移動体3に伝わり、それに応じて移動体3が移動する。ここで、基体2には静電容量型位置検出センサプローブ4が収納されているため、静電容量型位置検出センサプローブ4の静電容量の検出結果をセンサアンプにより位置変化量に変換してフィードバックしながら移動体3を動かすことができ、移動体3の移動量を精密に制御することができるものである。
【0020】
ところが、静電容量型位置検出センサプローブを製作するに際しては、機械加工による加工ばらつきがあるため、各センサプローブに対して個別の精度調整を施したセンサアンプを位置決め装置に組み込むことにより、精度校正時のセットで精度を確保していた。このため、使用中にセンサプローブが破損した場合は、他のセンサプローブと交換しても正確な位置決め精度が得られず、そのまま使用することができないという問題点が指摘されてきた。すなわち、位置検出センサにおいて、各センサプローブが個別に調整されているため、位置決めステージに組み込んだ後でその特性がずれると、後でその特性を補正することが困難であった。また、位置検出センサの一部分が故障した場合に、精度を確保するために、精度を調整しているパーツをすべて交換しなければならなかった。
【0021】
また、位置決め装置の需要が増加するに従い、位置決めステージを組み立てる工程において、組み立て後の検査合格率が低く、再組み立てを行なう必要が生じ、製造能力が需要に追従できなくなるという問題が生じうる。
【0022】
本発明者らは、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程での低歩留りとなる原因を調査するため製造工程の現状把握を行った。実際の製造工程では、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み後の検査で規格内に入らなかった場合、再組み込み作業を行なっている。しかしながら、組み込み時の管理可能な精度と想定される必要精度とは桁違いであり、現実的にはかなり困難である。本発明者らは、このような再組み込み工程を必要としていることが、位置決めステージの製造工程における製造能力を圧迫している原因となっていることを見出した。
【0023】
例えば、半導体分野などに用いられる位置決め装置で、位置決めステージの制御ストロークが20μm、ホストからの位置指令値と実際の移動位置の差が30nmpp以内になるような位置決め精度を要求されるものがある。この位置決め精度について、図2を参照して説明する。図2において、横軸はホストから入力される位置指令値であり、縦軸の左側(菱形のプロット)は、位置決めステージの実移動位置である。また、縦軸の右側(四角のプロット)は、位置決めステージの実移動位置からホストからの位置指令値を減じてナノメートル単位で表わしたものである。なお、位置決めステージの実移動位置は、測定精度に優れたレーザ干渉を使用して計測した。ここで、位置決めステージの実移動位置からホストからの位置指令値を減じた四角のプロットの系列を「位置決め精度」と定義している。従って、要求される仕様である位置決め精度30nmppとは、図2において、位置決め精度0nmを挟む2つの破線内に四角のプロットの系列が収まっている状態を言う。図2は、位置決め精度試験合格判定の例を示しているが、図3は、位置決め精度試験不合格判定の例を示している。
【0024】
そして、本発明者らは、位置検出センサで検出される位置決めステージの位置決め精度特性の信号に対して、その特性を相殺するような電気的な信号、例えば、大きさが同等で符号が逆の信号を位置検出センサ信号に加えることによって、位置決め精度の補正が可能となることに着目し、本実施の形態に係る位置決め装置を実現させるに至った。これにより、位置決めステージの位置決め精度特性を電気的に補正し、位置決め精度を向上させることにより、製造工程での製造能力の効率向上を図ることが可能となる。
【0025】
図4は、本実施の形態に係る位置決め装置の概略構成を示すブロック図である。この位置決め装置では、圧電アクチュエータを備える位置決めステージ10の位置を、静電容量型位置検出センサであるセンサプローブ11において検出する。センサプローブ11は、静電容量の変化として、位置決めステージ10の位置を検出し、センサプローブ11による検出結果は、センサアンプ12によって規格化された電圧信号に変換され、位置決めコントローラ13に入力される。位置決めコントローラ13にはCPUが搭載されており、ハードウエア的に外部ホスト14からの指令を受ける通信部13aと、PID制御のための入出力と演算するPID演算部13bとが設けられており、CPUに書き込まれたソフトウエアで動作する。
【0026】
また、位置決めコントローラ13には、センサアンプ12から入力される位置検出信号に、センサプローブ11との互換性を保つために位置検出信号のゲインおよびオフセットを調整するゲイン・オフセット調整部13c、および上記位置検出信号に対して補正値を加算して修正値を出力する補正部13dが設けられている。なお、ゲイン・オフセット調整部13c、および補正部13dは、センサアンプ12内に設けることも可能である。
【0027】
本実施の形態に係る位置決め装置は、ホスト14により与えられた位置指令値に対して、位置決めステージ10の現在位置を静電容量型位置検出センサ(センサプローブ)11で検出し、位置指令値と現在位置に基づいて、PID演算で変位量を決定し、ピエゾアンプ15を通して圧電アクチュエータを駆動させ、位置決めステージ10を移動させる。
【0028】
次に、ゲイン・オフセット調整部13cについて説明する。ゲイン・オフセット調整部13cは、センサプローブ11との互換性を保つために、位置決めコントローラ13内のセンサ入力初段部に容易に交換できるようにソケット等により設置される。そして、静電容量型位置検出センサ(センサプローブ11)に関して基準となるマスタセンサアンプと位置検出センサプローブを組み込んだマスタ位置決めステージを準備し、要求精度が得られる調整をマスタアンプに施しておく。ここで、センサアンプ12には、マスタアンプと同様の特性を示すように調整可能個所を予め設けておくと良い。以降製品として出荷する位置決めセンサのセンサアンプには、マスタ位置決めステージを用いてマスタアンプの製作をすることとなる。
【0029】
マスタアンプとマスタ位置決めステージの組み合わせからなるマスタセットでは、基準位置を0から50000nmに変化させたとき、図5に示すようなマスタ静電容量型センサによる出力値(測定値)が得られ、基準位置との精度誤差は、図5にマスタセンサの精度誤差として示したとおりである。ここで、基準位置の決定には、高精度なレーザ干渉計による測定値を採用した。次に、位置決めステージ10のセンサプローブ11のみを変更した場合、図6に示すようなセンサ誤差の特性が得られるので、これを出荷前検査において位置検出信号のゲイン・オフセット調整部13cで精度保証可能な調整を施し、この調整部におけるマスタからの調整値をデータ化して管理すれば、図7に示すような補正後のセンサ特性が得られるようになる。これにより、センサプローブ11を変更したとしてもマスタセットと互換性のある高度な精度保証が可能となる。
【0030】
ここで、センサプローブが破損した場合には、代替のセンサプローブとそのマスタアンプからの補正を施した位置検出信号のゲイン・オフセット調整部をセットで交換することにより、高価なセンサアンプを交換することなく所望の精度保証が可能となる。
【0031】
また、センサアンプ内に位置検出信号のゲイン・オフセット調整部を設けた場合において、センサアンプが故障した場合は、代替のセンサアンプを準備し故障したセンサアンプから位置検出信号のゲイン・オフセット調整部を取り外して代替のセンサアンプに取り付けることで故障前と同等の精度保証が可能となる。
【0032】
これにより、位置決め装置の構成部品である静電容量型位置検出センサを収納したセンサプローブを交換したとしても、容易に故障前と同等の精度保証が可能となる。
【0033】
次に、補正部13dについて説明する。従来から、静電容量型位置検出センサでは、センサプローブとセンサアンプをセットにして校正し、センサプローブとセンサアンプを校正した組合せから変更すると精度が保証されない。ところが実際の現場において、センサアンプが故障した場合に、精密に組み込まれているセンサプローブを交換することは不可能である。そこで、例えば、液晶露光装置に用いる位置決め装置では、位置決めステージに組み込まれたセンサプローブとセンサアンプのどちらが故障しても任意に交換可能な、センサ互換性が確保されたシステムとなっている。従って、静電容量型位置検出センサでは、マスタセンサプローブとマスタセンサアンプ基板を使って相互に校正を行なうことにより、いかなる組合せにおいても精度保証可能としている。
【0034】
しかしながら、センサプローブの特性には、加工ばらつきにより5%程度のばらつきが発生することから、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程後に位置検出センサ信号を調整して精度校正を行なう必要がある。この精度校正の際に、位置決めステージごとの特性ばらつきを許容させるために位置検出センサ信号を調整する回路(補正部)を子基板化させ、親基板から独立させた構造としている。これにより、万が一、センサアンプが故障した場合はセンサアンプのみの交換が可能となる。また位置決めステージが故障した際には、新たに精度校正した位置決めステージと子基板とをセットで交換すれば精度が保証されることになる。なお、子基板に関しては、精度校正の際の調整量をデータ化してあり、子基板のコピー品を製作可能としてある。
【0035】
ここで、補正信号はストローク中心に折れ点を持ったV字形状又は逆V字形状の信号とする。なお、ここでは一点で折れる折れ線を想定したが、これに限定されるわけではない。複数の点で折れる折れ線を用いることも可能である。また、追加した補正回路の補正信号は入/切可能とし、切設定にすることで従来の子基板と同等の動作が可能となるようにする。補正する位置決め精度特性の極性を基板上のスイッチを切り替えて補正が可能な回路とする。そして、補正量は可変抵抗による調整つまみで設定する。
【0036】
上述した補正機能を実現するために、補正部を構成する回路は、位置検出センサからの信号を分岐して、位置決め精度をホストから入力される位置指令値の関数としてグラフに表わしたときに、その関数と概ね線対称となるグラフを描く信号を作り、再度位置検出センサ信号に加算して、修正値を出力するようにした。ここで、上記関数と概ね線対称となるグラフを描く信号として、補正信号は、位置検出センサ信号を分岐して生成した。
【0037】
また、実際に設定する補正信号は微少であるので元の位置検出センサ信号レベルに対して数百分の一程度に圧縮して加える必要がある。以上に基づき、補正部としての機能を有する回路の一例を図8に示す。
【0038】
図9は、位置決め精度特性が上に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフであり、図10は、位置決め精度特性が下に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。ここで、製造工程で既に得られている実際の位置決め精度不合格判定品のデータに基づいて、シミュレーションで得られた図9に示すV字補正を適用して補正が実現できているかどうかを検証した。その結果を、図11に示す。図11において、四角のプロットの系列が補正前の位置決め精度不合格品のデータを示す。また、三角のプロットの系列が今回の補正回路における補正量のシミュレート値を示す。そして、この二つの信号を合成した丸印のプロットの系列が補正後の位置決め精度の推定データとなる。
【0039】
図11に示すように、位置決め精度の検査合格の範囲を越えた位置決めステージを、補正部としての補正回路付き子基板を使って位置決め精度を補正することにより、検査合格の規格範囲へ追い込むことが出来ることが証明された。これにより、従来の製造工程では、位置決め精度を規格範囲内にするためにセンサ組み込みを繰り返していたものが、本実施の形態に係る補正部としての補正回路付き子基板により、電気的に補正することで規格範囲にすることが可能となる。
【実施例1】
【0040】
補正機能付き子基板の実機搭載確認評価を、実際の製造工程で行った。この製造工程では、出荷の合否判定試験として、位置検出センサを組み込んだ位置決めステージの制御ストローク全域での位置決め精度を確認するためのレーザ干渉計による位置決め精度試験を行った。
【0041】
位置決め精度の測定は、コンピュータからのコマンド指令で、位置決めステージの制御ストローク20μmを0.5μmピッチで駆動させ、その際の移動量をレーザ干渉計で計測する。コンピュータからの位置指令値と、実際の移動量をレーザ干渉計で測定した値との差が位置決め精度となる。ここで、位置決め精度の検査合格のための規格値は、30nmppである。位置決め精度の補正前のグラフを図12(a)に示し、位置決め精度補正後のグラフを図12(b)に示す。本サンプルでは、検査合格の規格ぎりぎりの27nmppの位置決め精度であっが、本実施の形態に係る補正部による補正を行なうことにより19nmppの位置決め精度へ向上した。また、別のタイプの位置決めステージにも本補正を適用したところ、図13に示すような結果が得られた。全体的にはこのような確認により20nmpp以内への補正が可能となり、本実施の形態に係る位置決め精度補正方法の効果が確認された。
【0042】
なお、以上の説明では、ダイオード折れ線回路による一点折れの補正信号を使用した例を示したが、本発明は、これに限定されるわけではない。すなわち、一点折れのみならず、複数の点で折れる補正信号を使用することも可能である。図14は、補正部の変形例を示す図である。補正信号生成部171から173は、折れ点および極性を設定する。例えば、一点折れの場合は、図15の左側に示すように、ストロークに対する補正の源信号が定められている場合、図14に示すゲイン設定部174によってゲインが調整・設定されると、図15の右側に示すような補正信号が得られる。これにより、一点折れの補正信号を生成することができる。そして、図14において、オフセット設定部175によってオフセッが設定され、補正後のセンサ信号(修正値)が出力される。同様に、二点折れの補正信号は、図16の左側に示す補正の源信号に対してゲイン調整を行なうことにより、図16の右側に示すような補正信号が得られる。三点折れの補正信号は、図17の左側に示すような補正の源信号に対してゲイン調整を行なうことにより、図17の右側に示すような補正信号が得られる。これらにより、位置決め精度特性が、単に上または下に凸である場合のみならず、複数のピークが立つような関数として表わされる場合であっても、その特性を相殺するような補正信号を出力することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る位置決め装置によれば、補正部としての子基板により、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程において、位置検出センサの再組み込みをすることなく、電気的補正により位置決め精度を調整することが可能となった。電気的補正は位置換算で±30nmの補正が可能となるように回路定数を選定し、位置決め精度調整に関する製造工程能力を20nmppとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】圧電アクチュエータを備えた位置決めステージの模式構成図である。
【図2】位置決め精度試験合格判定の例を示すグラフである。
【図3】位置決め精度試験不合格判定の例を示すグラフである。
【図4】本実施の形態に係る位置決め装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】マスタアンプとマスタ位置決めステージの特性を示すグラフである。
【図6】センサの組合せ変更時の特性を示すグラフである。
【図7】補正後のセンサ特性を示すグラフである。
【図8】補正部としての機能を有する回路を示す図である。
【図9】位置決め精度特性が上に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】位置決め精度特性が下に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図11】位置決め精度の補正結果を示す図である。
【図12】(a)は、位置決め精度補正前の位置決め精度特性を示す図であり、(b)は、位置決め精度補正後の位置決め精度特性を示す図である。
【図13】11チャンネルタイプの位置決めステージに本実施の形態に係る補正を適用した結果を示す図である。
【図14】補正部の変形例を示す図である。
【図15】一点折れの補正信号の例を示す図である。
【図16】二点折れの補正信号の例を示す図である。
【図17】三点折れの補正信号の例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧電アクチュエータ
2 基体
3 位置決めステージ
4 静電容量型位置検出センサプローブ
10 位置決めステージ
11 センサプローブ
12 センサアンプ
13 位置決めコントローラ
13a 通信部
13b PID演算部
13c ゲイン・オフセット調整部
13d 補正部
14 ホスト
15 ピエゾアンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータを駆動させることにより位置決めステージを移動させる位置決め装置および位置決めステージの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメータ単位の精密な移動精度を要する磁気ヘッド検査装置や半導体分野および光学分野の検査装置の微少位置決め用に圧電アクチュエータを備えた位置決めステージと静電容量型位置検出センサとから構成される位置決め装置が頻繁に使用されるようになってきた。
【0003】
ところが、従来の位置決め装置では、構成部品である静電容量型位置検出センサを収納したセンサプローブを製作するに際しての加工ばらつきがあるため、各センサプローブに対して個別の精度調整を施したセンサアンプが必要となり、センサプローブが破損した場合、高精度に調整したセンサアンプも一緒に交換しなければならなかった。
【0004】
そこで、本出願人は、万が一にセンサプローブを交換しても容易に精度調整が可能な位置決め装置を提案した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−311176号公報
【特許文献2】特開平11−271479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような位置決め装置が頻繁に使用されるようになってくると、位置決めステージに位置検出センサである静電容量型位置検出センサを組み込む工程の歩留まりを向上させる必要が出てくる。すなわち、位置決め装置の需要が増大してくると、位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後の検査合格率が低い場合には、再組み立てを行なう必要が生じ、製造能力が需要に追従できなくなるという問題が生じうる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で位置決め精度を向上させることができる位置決め装置および位置決めステージの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明に係る位置決め装置は、圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージと、前記位置決めステージの位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサと、前記静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプと、ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部と、前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定し、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを移動させる位置決めコントローラと、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後に位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【0009】
(2)また、本発明に係る位置決め装置において、前記補正部は、前記差分値に対して前記補正値を加算するか否かを選択するスイッチ部と、前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の極性を決定する補正方向決定部と、前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の大きさを決定する補正量決定部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように、差分値に対して補正値を加算するか否かを選択することができるので、補正するかしないかを容易に選定することが可能となる。また、補正をする場合には、補正値の補正方向と、補正値の大きさを決定することができるので、位置決めステージの精度特性に応じた補正量を任意に決めることが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明に係る位置決め装置において、前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴としている。
【0012】
このように、補正値が、差分値を位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められるので、補正部を簡単に構成することができる。例えば、補正部をアナログ回路化して、ダイオード折れ線回路等により構成することが可能となる。これにより、従来のシステムに大きな変更を加えることなく、位置決め精度を向上させることが可能となる。また、補正部の機能により位置決めステージを組み立てる工程において組み立て後に位置決め精度特性の再設定が可能となり、従来よりも製造能力を高めることが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明に係る位置決めステージの制御方法は、圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージの制御方法であって、前記位置決めステージの現在位置を検出するステップと、ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するステップと、前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定するステップと、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを前記決定した変位量だけ移動させるステップと、を含むことを特徴としている。
【0014】
このように、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明に係る位置決めステージの制御方法において、前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴としている。
【0016】
このように、補正値が、差分値を位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められるので、補正部を簡単に構成することができる。例えば、補正部をアナログ回路化して、ダイオード折れ線回路等により構成することが可能となる。これにより、従来のシステムに大きな変更を加えることなく、位置決め精度を向上させることが可能となる。また、補正部の機能により従来よりも検査合格率を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ホストから入力された位置指令値と位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するので、位置決め精度特性を相殺することができる。そして、ホストから入力された位置指令値と修正値とに基づいて位置決めステージの変位量を決定するので、位置決め精度を向上させることが可能となる。その結果、位置決めステージを組み立てる工程において位置決め精度特性の再設定が可能となり、再組み立てを行なう必要を減じ、製造能力を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、圧電アクチュエータを備えた位置決めステージの模式構成図である。この位置決めステージは、圧電アクチュエータ1が変位することにより、紙面に向かって上下方向に移動可能に構成されている。位置決めステージの基体2の中央に設けられた移動体3は、移動体3の4隅に設けられた支持部により支持され、かつ微動可能な状態となるように溝加工されている。静電容量型位置検出センサプローブ4(位置検出センサ)は、センサホルダ5を介して基体2に設けられた取り付け穴に高精度に組み込まれている。
【0019】
基体2に組み込まれた移動体3は、圧電アクチュエータ1に電圧を印加すると、圧電アクチュエータ1の微少変位が移動体3に伝わり、それに応じて移動体3が移動する。ここで、基体2には静電容量型位置検出センサプローブ4が収納されているため、静電容量型位置検出センサプローブ4の静電容量の検出結果をセンサアンプにより位置変化量に変換してフィードバックしながら移動体3を動かすことができ、移動体3の移動量を精密に制御することができるものである。
【0020】
ところが、静電容量型位置検出センサプローブを製作するに際しては、機械加工による加工ばらつきがあるため、各センサプローブに対して個別の精度調整を施したセンサアンプを位置決め装置に組み込むことにより、精度校正時のセットで精度を確保していた。このため、使用中にセンサプローブが破損した場合は、他のセンサプローブと交換しても正確な位置決め精度が得られず、そのまま使用することができないという問題点が指摘されてきた。すなわち、位置検出センサにおいて、各センサプローブが個別に調整されているため、位置決めステージに組み込んだ後でその特性がずれると、後でその特性を補正することが困難であった。また、位置検出センサの一部分が故障した場合に、精度を確保するために、精度を調整しているパーツをすべて交換しなければならなかった。
【0021】
また、位置決め装置の需要が増加するに従い、位置決めステージを組み立てる工程において、組み立て後の検査合格率が低く、再組み立てを行なう必要が生じ、製造能力が需要に追従できなくなるという問題が生じうる。
【0022】
本発明者らは、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程での低歩留りとなる原因を調査するため製造工程の現状把握を行った。実際の製造工程では、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み後の検査で規格内に入らなかった場合、再組み込み作業を行なっている。しかしながら、組み込み時の管理可能な精度と想定される必要精度とは桁違いであり、現実的にはかなり困難である。本発明者らは、このような再組み込み工程を必要としていることが、位置決めステージの製造工程における製造能力を圧迫している原因となっていることを見出した。
【0023】
例えば、半導体分野などに用いられる位置決め装置で、位置決めステージの制御ストロークが20μm、ホストからの位置指令値と実際の移動位置の差が30nmpp以内になるような位置決め精度を要求されるものがある。この位置決め精度について、図2を参照して説明する。図2において、横軸はホストから入力される位置指令値であり、縦軸の左側(菱形のプロット)は、位置決めステージの実移動位置である。また、縦軸の右側(四角のプロット)は、位置決めステージの実移動位置からホストからの位置指令値を減じてナノメートル単位で表わしたものである。なお、位置決めステージの実移動位置は、測定精度に優れたレーザ干渉を使用して計測した。ここで、位置決めステージの実移動位置からホストからの位置指令値を減じた四角のプロットの系列を「位置決め精度」と定義している。従って、要求される仕様である位置決め精度30nmppとは、図2において、位置決め精度0nmを挟む2つの破線内に四角のプロットの系列が収まっている状態を言う。図2は、位置決め精度試験合格判定の例を示しているが、図3は、位置決め精度試験不合格判定の例を示している。
【0024】
そして、本発明者らは、位置検出センサで検出される位置決めステージの位置決め精度特性の信号に対して、その特性を相殺するような電気的な信号、例えば、大きさが同等で符号が逆の信号を位置検出センサ信号に加えることによって、位置決め精度の補正が可能となることに着目し、本実施の形態に係る位置決め装置を実現させるに至った。これにより、位置決めステージの位置決め精度特性を電気的に補正し、位置決め精度を向上させることにより、製造工程での製造能力の効率向上を図ることが可能となる。
【0025】
図4は、本実施の形態に係る位置決め装置の概略構成を示すブロック図である。この位置決め装置では、圧電アクチュエータを備える位置決めステージ10の位置を、静電容量型位置検出センサであるセンサプローブ11において検出する。センサプローブ11は、静電容量の変化として、位置決めステージ10の位置を検出し、センサプローブ11による検出結果は、センサアンプ12によって規格化された電圧信号に変換され、位置決めコントローラ13に入力される。位置決めコントローラ13にはCPUが搭載されており、ハードウエア的に外部ホスト14からの指令を受ける通信部13aと、PID制御のための入出力と演算するPID演算部13bとが設けられており、CPUに書き込まれたソフトウエアで動作する。
【0026】
また、位置決めコントローラ13には、センサアンプ12から入力される位置検出信号に、センサプローブ11との互換性を保つために位置検出信号のゲインおよびオフセットを調整するゲイン・オフセット調整部13c、および上記位置検出信号に対して補正値を加算して修正値を出力する補正部13dが設けられている。なお、ゲイン・オフセット調整部13c、および補正部13dは、センサアンプ12内に設けることも可能である。
【0027】
本実施の形態に係る位置決め装置は、ホスト14により与えられた位置指令値に対して、位置決めステージ10の現在位置を静電容量型位置検出センサ(センサプローブ)11で検出し、位置指令値と現在位置に基づいて、PID演算で変位量を決定し、ピエゾアンプ15を通して圧電アクチュエータを駆動させ、位置決めステージ10を移動させる。
【0028】
次に、ゲイン・オフセット調整部13cについて説明する。ゲイン・オフセット調整部13cは、センサプローブ11との互換性を保つために、位置決めコントローラ13内のセンサ入力初段部に容易に交換できるようにソケット等により設置される。そして、静電容量型位置検出センサ(センサプローブ11)に関して基準となるマスタセンサアンプと位置検出センサプローブを組み込んだマスタ位置決めステージを準備し、要求精度が得られる調整をマスタアンプに施しておく。ここで、センサアンプ12には、マスタアンプと同様の特性を示すように調整可能個所を予め設けておくと良い。以降製品として出荷する位置決めセンサのセンサアンプには、マスタ位置決めステージを用いてマスタアンプの製作をすることとなる。
【0029】
マスタアンプとマスタ位置決めステージの組み合わせからなるマスタセットでは、基準位置を0から50000nmに変化させたとき、図5に示すようなマスタ静電容量型センサによる出力値(測定値)が得られ、基準位置との精度誤差は、図5にマスタセンサの精度誤差として示したとおりである。ここで、基準位置の決定には、高精度なレーザ干渉計による測定値を採用した。次に、位置決めステージ10のセンサプローブ11のみを変更した場合、図6に示すようなセンサ誤差の特性が得られるので、これを出荷前検査において位置検出信号のゲイン・オフセット調整部13cで精度保証可能な調整を施し、この調整部におけるマスタからの調整値をデータ化して管理すれば、図7に示すような補正後のセンサ特性が得られるようになる。これにより、センサプローブ11を変更したとしてもマスタセットと互換性のある高度な精度保証が可能となる。
【0030】
ここで、センサプローブが破損した場合には、代替のセンサプローブとそのマスタアンプからの補正を施した位置検出信号のゲイン・オフセット調整部をセットで交換することにより、高価なセンサアンプを交換することなく所望の精度保証が可能となる。
【0031】
また、センサアンプ内に位置検出信号のゲイン・オフセット調整部を設けた場合において、センサアンプが故障した場合は、代替のセンサアンプを準備し故障したセンサアンプから位置検出信号のゲイン・オフセット調整部を取り外して代替のセンサアンプに取り付けることで故障前と同等の精度保証が可能となる。
【0032】
これにより、位置決め装置の構成部品である静電容量型位置検出センサを収納したセンサプローブを交換したとしても、容易に故障前と同等の精度保証が可能となる。
【0033】
次に、補正部13dについて説明する。従来から、静電容量型位置検出センサでは、センサプローブとセンサアンプをセットにして校正し、センサプローブとセンサアンプを校正した組合せから変更すると精度が保証されない。ところが実際の現場において、センサアンプが故障した場合に、精密に組み込まれているセンサプローブを交換することは不可能である。そこで、例えば、液晶露光装置に用いる位置決め装置では、位置決めステージに組み込まれたセンサプローブとセンサアンプのどちらが故障しても任意に交換可能な、センサ互換性が確保されたシステムとなっている。従って、静電容量型位置検出センサでは、マスタセンサプローブとマスタセンサアンプ基板を使って相互に校正を行なうことにより、いかなる組合せにおいても精度保証可能としている。
【0034】
しかしながら、センサプローブの特性には、加工ばらつきにより5%程度のばらつきが発生することから、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程後に位置検出センサ信号を調整して精度校正を行なう必要がある。この精度校正の際に、位置決めステージごとの特性ばらつきを許容させるために位置検出センサ信号を調整する回路(補正部)を子基板化させ、親基板から独立させた構造としている。これにより、万が一、センサアンプが故障した場合はセンサアンプのみの交換が可能となる。また位置決めステージが故障した際には、新たに精度校正した位置決めステージと子基板とをセットで交換すれば精度が保証されることになる。なお、子基板に関しては、精度校正の際の調整量をデータ化してあり、子基板のコピー品を製作可能としてある。
【0035】
ここで、補正信号はストローク中心に折れ点を持ったV字形状又は逆V字形状の信号とする。なお、ここでは一点で折れる折れ線を想定したが、これに限定されるわけではない。複数の点で折れる折れ線を用いることも可能である。また、追加した補正回路の補正信号は入/切可能とし、切設定にすることで従来の子基板と同等の動作が可能となるようにする。補正する位置決め精度特性の極性を基板上のスイッチを切り替えて補正が可能な回路とする。そして、補正量は可変抵抗による調整つまみで設定する。
【0036】
上述した補正機能を実現するために、補正部を構成する回路は、位置検出センサからの信号を分岐して、位置決め精度をホストから入力される位置指令値の関数としてグラフに表わしたときに、その関数と概ね線対称となるグラフを描く信号を作り、再度位置検出センサ信号に加算して、修正値を出力するようにした。ここで、上記関数と概ね線対称となるグラフを描く信号として、補正信号は、位置検出センサ信号を分岐して生成した。
【0037】
また、実際に設定する補正信号は微少であるので元の位置検出センサ信号レベルに対して数百分の一程度に圧縮して加える必要がある。以上に基づき、補正部としての機能を有する回路の一例を図8に示す。
【0038】
図9は、位置決め精度特性が上に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフであり、図10は、位置決め精度特性が下に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。ここで、製造工程で既に得られている実際の位置決め精度不合格判定品のデータに基づいて、シミュレーションで得られた図9に示すV字補正を適用して補正が実現できているかどうかを検証した。その結果を、図11に示す。図11において、四角のプロットの系列が補正前の位置決め精度不合格品のデータを示す。また、三角のプロットの系列が今回の補正回路における補正量のシミュレート値を示す。そして、この二つの信号を合成した丸印のプロットの系列が補正後の位置決め精度の推定データとなる。
【0039】
図11に示すように、位置決め精度の検査合格の範囲を越えた位置決めステージを、補正部としての補正回路付き子基板を使って位置決め精度を補正することにより、検査合格の規格範囲へ追い込むことが出来ることが証明された。これにより、従来の製造工程では、位置決め精度を規格範囲内にするためにセンサ組み込みを繰り返していたものが、本実施の形態に係る補正部としての補正回路付き子基板により、電気的に補正することで規格範囲にすることが可能となる。
【実施例1】
【0040】
補正機能付き子基板の実機搭載確認評価を、実際の製造工程で行った。この製造工程では、出荷の合否判定試験として、位置検出センサを組み込んだ位置決めステージの制御ストローク全域での位置決め精度を確認するためのレーザ干渉計による位置決め精度試験を行った。
【0041】
位置決め精度の測定は、コンピュータからのコマンド指令で、位置決めステージの制御ストローク20μmを0.5μmピッチで駆動させ、その際の移動量をレーザ干渉計で計測する。コンピュータからの位置指令値と、実際の移動量をレーザ干渉計で測定した値との差が位置決め精度となる。ここで、位置決め精度の検査合格のための規格値は、30nmppである。位置決め精度の補正前のグラフを図12(a)に示し、位置決め精度補正後のグラフを図12(b)に示す。本サンプルでは、検査合格の規格ぎりぎりの27nmppの位置決め精度であっが、本実施の形態に係る補正部による補正を行なうことにより19nmppの位置決め精度へ向上した。また、別のタイプの位置決めステージにも本補正を適用したところ、図13に示すような結果が得られた。全体的にはこのような確認により20nmpp以内への補正が可能となり、本実施の形態に係る位置決め精度補正方法の効果が確認された。
【0042】
なお、以上の説明では、ダイオード折れ線回路による一点折れの補正信号を使用した例を示したが、本発明は、これに限定されるわけではない。すなわち、一点折れのみならず、複数の点で折れる補正信号を使用することも可能である。図14は、補正部の変形例を示す図である。補正信号生成部171から173は、折れ点および極性を設定する。例えば、一点折れの場合は、図15の左側に示すように、ストロークに対する補正の源信号が定められている場合、図14に示すゲイン設定部174によってゲインが調整・設定されると、図15の右側に示すような補正信号が得られる。これにより、一点折れの補正信号を生成することができる。そして、図14において、オフセット設定部175によってオフセッが設定され、補正後のセンサ信号(修正値)が出力される。同様に、二点折れの補正信号は、図16の左側に示す補正の源信号に対してゲイン調整を行なうことにより、図16の右側に示すような補正信号が得られる。三点折れの補正信号は、図17の左側に示すような補正の源信号に対してゲイン調整を行なうことにより、図17の右側に示すような補正信号が得られる。これらにより、位置決め精度特性が、単に上または下に凸である場合のみならず、複数のピークが立つような関数として表わされる場合であっても、その特性を相殺するような補正信号を出力することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る位置決め装置によれば、補正部としての子基板により、位置決めステージへの位置検出センサ組み込み工程において、位置検出センサの再組み込みをすることなく、電気的補正により位置決め精度を調整することが可能となった。電気的補正は位置換算で±30nmの補正が可能となるように回路定数を選定し、位置決め精度調整に関する製造工程能力を20nmppとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】圧電アクチュエータを備えた位置決めステージの模式構成図である。
【図2】位置決め精度試験合格判定の例を示すグラフである。
【図3】位置決め精度試験不合格判定の例を示すグラフである。
【図4】本実施の形態に係る位置決め装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】マスタアンプとマスタ位置決めステージの特性を示すグラフである。
【図6】センサの組合せ変更時の特性を示すグラフである。
【図7】補正後のセンサ特性を示すグラフである。
【図8】補正部としての機能を有する回路を示す図である。
【図9】位置決め精度特性が上に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】位置決め精度特性が下に凸の形状である場合の位置決め精度補正時のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図11】位置決め精度の補正結果を示す図である。
【図12】(a)は、位置決め精度補正前の位置決め精度特性を示す図であり、(b)は、位置決め精度補正後の位置決め精度特性を示す図である。
【図13】11チャンネルタイプの位置決めステージに本実施の形態に係る補正を適用した結果を示す図である。
【図14】補正部の変形例を示す図である。
【図15】一点折れの補正信号の例を示す図である。
【図16】二点折れの補正信号の例を示す図である。
【図17】三点折れの補正信号の例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧電アクチュエータ
2 基体
3 位置決めステージ
4 静電容量型位置検出センサプローブ
10 位置決めステージ
11 センサプローブ
12 センサアンプ
13 位置決めコントローラ
13a 通信部
13b PID演算部
13c ゲイン・オフセット調整部
13d 補正部
14 ホスト
15 ピエゾアンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージと、
前記位置決めステージの位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサと、
前記静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプと、
ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部と、
前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定し、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを移動させる位置決めコントローラと、を備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記差分値に対して前記補正値を加算するか否かを選択するスイッチ部と、
前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の極性を決定する補正方向決定部と、
前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の大きさを決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴とする請求項1または請求項2記載の位置決め装置。
【請求項4】
圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージの制御方法であって、
前記位置決めステージの現在位置を検出するステップと、
ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するステップと、
前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定するステップと、
前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを前記決定した変位量だけ移動させるステップと、を含むことを特徴とする位置決めステージの制御方法。
【請求項5】
前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴とする請求項4記載の位置決めステージの制御方法。
【請求項1】
圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージと、
前記位置決めステージの位置変化を静電容量の変化として検出する静電容量型位置検出センサと、
前記静電容量型位置検出センサから出力された検出値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に変換するセンサアンプと、
ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力する補正部と、
前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定し、前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを移動させる位置決めコントローラと、を備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記差分値に対して前記補正値を加算するか否かを選択するスイッチ部と、
前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の極性を決定する補正方向決定部と、
前記差分値に対して前記補正値を加算する場合に、前記補正値の大きさを決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴とする請求項1または請求項2記載の位置決め装置。
【請求項4】
圧電アクチュエータの変位に応じて移動する位置決めステージの制御方法であって、
前記位置決めステージの現在位置を検出するステップと、
ホストから入力された位置指令値と前記位置決めステージの実際の移動位置との差分値に対し、大きさが概略同等で符号が逆である補正値を、前記位置決めステージの現在位置を示す数値に加算して修正値を出力するステップと、
前記位置指令値および前記修正値に基づいて前記位置決めステージの変位量を決定するステップと、
前記圧電アクチュエータを駆動させることにより前記位置決めステージを前記決定した変位量だけ移動させるステップと、を含むことを特徴とする位置決めステージの制御方法。
【請求項5】
前記補正値は、前記差分値を前記位置指令値の関数として表わしたときに、その関数のグラフに対して概略線対称となる関数のグラフ上の点として定められることを特徴とする請求項4記載の位置決めステージの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−275791(P2006−275791A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95756(P2005−95756)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
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