説明

低バーストポリ−(ラクチド/グリコシド)およびポリマーを生成するための方法

生理活性材料の放出制御製剤での使用に適合させたPLG(p)コポリマー材料と呼ばれるPLGコポリマー材料であって、製剤は、それを必要とする患者の組織に導入すると「初期バースト」作用の低下を示すPLGコポリマー材料を提供する。PLGコポリマー材料の調製方法も、使用方法と同様に提供する。本発明はまた、放出制御製剤での使用に適応させたPLGpまたはPLG(p)コポリマーと呼ばれる生体適合性で生分解性のPLG低バーストコポリマー材料であって、低バーストコポリマー材料は、約10キロダルトン〜約50キロダルトンの重量平均分子量および約1.4〜2.0の多分散指数を特徴とし、さらに約4kDa〜約10kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数を特徴とするコポリマー分画をそれから分離させたことを特徴とするPLG低バーストコポリマー材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年2月15日に出願された米国仮特許出願第60/901,435号の優先権を主張し、この米国仮特許出願は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明の技術分野は、初期バースト作用を低減させる、生理活性物質のインビボ放出制御のためのラクチド/グリコリドコポリマーの改善である。
【背景技術】
【0003】
(背景)
生分解性および生崩壊性のインプラントなど放出制御送達システムでの使用に適合させた組成物が知られている。例えば、米国特許第7,019,106号、第6,565,874号、第6,528,080号、米国再発行特許第37,950号、米国特許第6,461,631号、第6,395,293号、第6,355,657号、第6,261,583号、第6,143,314号、第5,990,194号、第5,945,115号、第5,792,469号、第5,780,044号、第5,759,563号、第5,744,153号、第5,739,176号、第5,736,152号、第5,733,950号、第5,702,716号、第5,681,873号、第5,599,552号、第5,487,897号、第5,340,849号、第5,324,519号、第5,278,202号、および第5,278,201号を参照のこと。このような放出制御システムは、所望の作用部位またはその付近で、多くの場合直接に薬物の放出制御および徐放を数日、数週間、またはさらには数か月の期間にわたって行うので、一般に有利である。放出制御システムには、酵素および水など様々な内因性物質によって体内で分解することが知られているポリマーマトリックス、具体的にはグリコリド(1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、グリコール酸環状二量体ラクトン)およびラクチド(3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、乳酸環状二量体ラクトン)から調製されたポリラクチド、ポリグリコリド、およびそれらのコポリマー(「PLGコポリマー」)を含めたポリエステルが含まれる。これらのコポリマー材料は、体内の水または酵素によって容易に非毒性材料にインビボ分解するため、かつポリマーの塊内に含まれている可能性がある生物学的に活性な物質(「生物活性剤」)の放出を一時的に制御する際に有利な諸特性を有するため、特にこの用途に有利である。
【0004】
放出制御システムからのペプチド類、タンパク質類、および低分子薬物類など多くの生物活性剤の放出は、移植後最初の24時間中、ある種の条件下において最適速度より高速で起こり得る。これは、当技術分野で「バースト作用」または「初期バースト作用」として知られ、過剰摂取が起きる恐れがあるので、潜在的に望ましくない。
【0005】
特許文献1には、生物活性剤を組み入れるマイクロカプセルを形成するために使用されるコポリマー内に水溶性未反応モノマーおよび水溶性低分子量オリゴマーが存在することが開示されている。その発明者らによれば、これらの不純物が存在すると、初期バースト作用が高まる傾向があるが、このバーストが起こる機構は明確でない。この特許は、固体の形態のポリマーを水で洗浄し、またはポリマーを水溶性有機溶媒に溶解し、その溶液を水に添加することによって、これらの不純物の一部を除去する方法を提供する。この特許には、水と精製ポリマーの比は重要ではないが、水を大過剰に使用すべきであることが記載されている。この方法で、乳酸、グリコール酸、および非常に低い分子量のオリゴマー類などの水溶性材料のみ除去される。
【0006】
特許文献2には、マイクロカプセルの調製に使用されるポリマーの加工であって、触媒を使用せずに生成したポリマーを水溶性有機溶媒に溶解し、水中で沈殿させて、1,000(1kD)未満の分子量の成分が約3%未満であると記載されているポリマーを得る加工が開示されている。特許文献2の特許で、その発明者らは、上記の特許文献1の特許で特許請求された方法によって、初期放出の量を低下させるが、後半の段階における放出速度も低下させるポリマーが生成されるが、特許文献2の特許によって、初期バーストの抑制が可能になりながらも、後半のある時点における放出速度の上昇が行われると記載している。
【0007】
特許文献3には、部分結晶質または非晶質のポリマーを精製する方法であって、ポリマーと水などの沈殿剤を接触させる際に高せん断力を加え、その結果ポリマーの微粒子が得られる方法が記載されている。この特許には、このような処理によって、ポリマーから残留モノマーおよび触媒が除去されることが記載されている。
【0008】
特許文献4には、重量平均分子量15,000〜50,000の乳酸ポリマーを生成する方法であって、その中の重量平均分子量約5,000以下であるポリマー材料の含有量は約5重量%以下である方法が述べられている。この方法は、高分子量乳酸ポリマーの加水分解および加水分解生成物の沈殿を特徴とし、バースト作用を低減させると記載されている。望ましい徐放特性は、コポリマー1グラム当たりの酸含有量が比較的高いことにも起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,728,721号明細書
【特許文献2】米国特許第5,585,460号明細書
【特許文献3】米国特許第4,810,775号明細書
【特許文献4】米国特許第7,019,106号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、放出制御組成物のバースト作用を低減させるこれらの試みにもかかわらず、初期バースト作用を低減させ、または最小限に抑制する組成物が依然として必要とされている。この必要性は、マイクロカプセルとは対照的に、特にマイクロカプセルで見られるよりも物理的に大きいポリマー塊を体組織に移植して、より長い時間にわたって持続可能な放出制御をもたらす流動性組成物および放出制御組成物の注射可能な塊の分野において強い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
米国特許第6,565,874号、第6,528,080号、第6,461,631号、第6,395,293号、およびそれらの中にでてくる参考文献に開示される本発明のコポリマーを、例えばAtrigel(登録商標)システムのような液体送達システムと呼ばれ、別名流動性送達システムと呼ばれる制御送達システムで使用すると、生物活性剤の放出速度の実質的な改善、初期バーストの低減と望ましい放出速度の長期的持続がもたらされる。
【0012】
予想外なことに、これらのコポリマー材料を流動性送達システム、特に生物活性剤を30日〜6か月などの比較的長期間にわたって放出するように適応させたシステムで使用すると、生物活性剤の放出速度の望ましい長期的持続を喪失することなく、生組織内に放出制御製剤を移植した後に放出制御製剤から生物活性剤が放出される際の初期バースト作用が効果的に低減されることが発見された。
【0013】
本発明は、放出制御製剤での使用に適応させたPLGpまたはPLG(p)コポリマーと呼ばれる生体適合性で生分解性のPLG低バーストコポリマー材料であって、低バーストコポリマー材料は、約10キロダルトン〜約50キロダルトンの重量平均分子量および約1.4〜2.0の多分散指数を特徴とし、さらに約4kDa〜約10kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数を特徴とするコポリマー分画(以降、「除去コポリマー分画」)をそれから分離させたことを特徴とするPLG低バーストコポリマー材料を提供する。本発明のPLG低バーストコポリマー材料は、出発PLGコポリマー材料から、より高い分子量のPLGコポリマー材料を加水分解するステップなしで、より高い分子量のPLGコポリマー材料の加水分解生成物ではない出発コポリマー材料を溶媒に溶解し、次いで非溶媒で本発明の低バーストコポリマー材料を沈殿させることによって調製される。加水分解を受けていない出発材料に適用されるこの方法によって、低初期バーストを含めて望ましい放出制御特性を本発明のコポリマーに与えるのに効果的な所定量の除去コポリマー分画が取り出される。
【0014】
出発PLGコポリマー材料は、環状二量体エステル類であるラクチドおよびグリコリドの開環重合ならびに乳酸およびグリコール酸の縮合を含めて任意の適当な手段で調製することができる。好ましくは、ラクチドおよびグリコリドの開環重合を使用して、出発コポリマーを調製し、それから本発明の低バーストPLGコポリマーを調製する。例えばオクタン酸第一スズなどのスズ塩を触媒として使用する触媒反応とすることができる開環重合反応は、重合が進行するにつれて同時に2つの乳酸エステル単位または2つのグリコール酸エステル単位を組み込む。
【0015】
ポリマー材料またはポリマー材料の分画の重量平均分子量は、材料または分画を構成する個々のポリマー分子すべての個々の分子量に起因する平均的特性を示すことがよく知られている。ポリマー材料または分画が有することができるいずれの所与の重量平均分子量の場合も、材料または分画を構成する分子の個々の分子量の可能な分布が多く存在する。したがって、本発明において、約4kDa〜10kDaの重量平均分子量を有する除去コポリマー分画は、数百(オリゴマー類)から10kDaをかなり上回るまでに及ぶ個々の分子量を有するコポリマー分子を含むことができる。ポリマー試料の重量平均分子量のいずれの所与の値でももたらすことができる個々の分子量の多くの様々な組合せがある。本発明の除去コポリマー分画を構成するコポリマー分子の個々の分子量の分布の幅は、約1.4〜約2.5に及ぶ可能性がある多分散指数で少なくとも一部分表される。除去コポリマー分画中の個々の分子量の分布が、どのようなものであろうと、除去コポリマー分画の質量は、除去コポリマー分画およびそれによって得られたPLG低バーストコポリマー材料の質量の合計の約2〜20%、より好ましくは質量の合計の約3〜15%、さらにより好ましくは質量の合計の約5〜10%になる。典型的には、除去コポリマー分画の重量平均分子量が約4kDa〜10kDaの定められた範囲内で大きいほど、本発明のPLG低バーストコポリマー材料の重量平均分子量は約10kDa〜約50kDaの範囲内で大きくなる。
【0016】
本発明は、1組の個々のPLGコポリマー分子鎖から構成されたPLG低バーストコポリマー材料を提供する。これらの分子鎖の主要部分は、各コポリマー分子鎖の少なくとも一端に隣接したラクチド/ラクタート残基を主に含み、かつ各コポリマー分子鎖の内部ドメイン中にグリコリド/グリコラート残基を主に含む。本発明のコポリマー中のこのラクチド/ラクタート単位対グリコリド/グリコラート単位の分布が、その予想外の低バーストおよび望ましい徐放特性を担う可能性があると考えられる。
【0017】
本発明は、さらにPLG低バーストコポリマー材料の調製方法であって、出発コポリマー材料を溶媒に溶解し、非溶媒の混合により低バーストコポリマー材料を沈殿させるステップによって、本方法で使用されるより高い分子量のPLGコポリマーを加水分解するいずれのステップもなしに、除去コポリマー材料を出発PLGコポリマー材料から分離する方法を提供する。本発明の方法は、本発明の低バーストコポリマー材料を提供するために、より高い分子量のコポリマー材料を加水分解するステップを回避する必要がある。本発明の低バーストコポリマー材料は、驚くほど低い初期バースト特性および驚くほど高い徐放効果を示す。この予想外に好ましい低バースト特性は、加水分解のステップを用いて調製されたポリマーに比べて、本発明のポリマー中のポリマー鎖の少なくとも一端に隣接した親油性のより高いラクタート/ラクチド単位の様々な分布に起因すると考えられる。加水分解のステップを含む方法で調製されたコポリマーは、グリコラート/グリコリドに富む内部ドメインにおけるエステル結合の加水分解のため、分子鎖の両端に隣接した親油性のより低いグリコラートまたはグリコリド単位を有するポリマー鎖がより顕著に優勢となり得る。
【0018】
コア開始剤を使用することなく作製された出発PLGコポリマー、すなわち各鎖の一端にカルボキシル基および他端にヒドロキシル基を有するPLGコポリマーから調製された低バーストPLGコポリマー材料では、本発明のポリマーにおける酸含有量/グラムは、より高い分子量のポリマーを加水分解するステップを含む方法で調製されたPLGコポリマーにおける酸含有量/グラムより低いが、本発明のポリマーの低バースト特性は、驚くべきことに加水分解のステップを用いて調製されたポリマーの低バースト特性と少なくとも同じくらい良好であるか、またはそれより良好である。
【0019】
本発明の低バーストコポリマーの酸含有量が比較的低いことは、本発明のコポリマー材料は、経時的に酸触媒自己加水分解を受けることが少ないので有利であり得る。出発PLGコポリマー材料がPLGH、または酸を末端とするコポリマーを含む場合、本発明の方法では、オリゴマー類の除去によって単位質量当たりの酸含有量を低減する。ポリマーの自己加水分解速度がより低いということは、例えば患者の組織に移植したとき、この本発明のコポリマーの自己加水分解が減少することによって、放出制御製剤中に含まれている生物活性剤の放出プロファイルは、滑らかで、単調で、持続的であることが可能になることを意味し、このコポリマーは低初期バーストでもある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のコポリマーからのオクトレオチド対対照コポリマーからのオクトレオチドの放出百分率の研究結果を時間の関数として示す図である。
【図2】放出制御製剤からのオクトレオチド放出度をポリマータイプの関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の定義
本出願では、「バースト作用」または「初期バースト作用」という用語は、生物活性剤が放出制御製剤から拡散する最適速度より高い速度が、液体送達システムの凝固中および/または一体式インプラントまたは微粒子インプラントなど予備成形した固体インプラントの移植後の初期中に生じるバースト作用を意味するために使用される。本発明によるコポリマーは、この初期バーストを制御するのに適していると考えられる。
【0022】
「液体送達システム」または「流動性送達システム」は、Atrigel(登録商標)システムなどポリマー、生物活性剤、および有機溶媒の組合せである。流動性材料を組織に注射するとすぐに、溶媒は組織中に分散し、体液は注射したボーラス中に拡散し、それによってポリマーが固体または半固体の塊に凝固する。しばしば、溶媒が塊から分散すると、それと共に生物活性剤が周囲組織に運び込まれ、それによってバースト作用が生じる。液体または流動性送達システムのために本発明のポリマーと共に使用することができる溶媒としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、またはメトキシポリエチレングリコール350が挙げられる。
【0023】
一体式または微粒子タイプの固体インプラントも、インプラントの表面上およびその付近に生物活性剤が存在するため、かつインプラント内に体液との初期相互作用の結果として形成するマイクロチャネルおよびメソ孔内に容易に浸出する生物活性剤が存在するため、バースト作用を示す。
【0024】
本明細書では、「低バーストコポリマー材料」などの「低バースト」という用語は、望ましい長期放出プロファイルを維持しながら、このバースト作用が、類似した技術のコポリマー組成物から観察されたものに比べて最小限に抑制または低減される現象を指す。
【0025】
本明細書では、「ポリマー」または「コポリマー」という用語は、主に単量体ラクタートおよびグリコラートヒドロキシ酸、またはラクチドおよびグリコリド二量体ヒドロキシ酸から生成された、本明細書では「PLGコポリマー」とも呼ばれる実質的に直鎖状のポリエステル類を指し、これには、本明細書で指定された意味から逸脱することなく、実質的に直鎖状のポリエステル分子鎖を架橋する基を含めて、ポリエステル主鎖に共有結合しているかまたはポリエステル主鎖内のコア/開始剤基(例えば、ジオール類、ヒドロキシ酸類など)、キャッピング基(例えば、末端カルボキシル基のエステル類など)、および他のペンダント基または鎖延長基など追加の部分を含む場合があるという条件で、当技術分野でポリ(ラクタート−グリコラート)、ポリ(ラクタート(コ)グリコラート)、ポリ(ラクチド−グリコリド)、ポリ(ラクチド(コ)グリコリド)、PLG、PLGHなどと呼ばれる組成物が含まれる。PLGコポリマーには、この用語が本明細書で使用するように、末端ヒドロキシル基、末端カルボキシル基(すなわち、酸を末端とし、PLGHと呼ばれることもある)、および末端エステル基(すなわち、キャッピングされている)を有する分子鎖が含まれる。
【0026】
本明細書では、「ポリマー材料」または「コポリマー材料」という用語はそれぞれ、所与の試料における複数の個々のポリマーまたはコポリマー分子(分子鎖)の物理的集合体または組み合わされた塊を指し、その分子(分子鎖)はそれぞれ、通常の化学的な意味でそれ自身の定められた分子量を有する。本明細書では「ポリマー材料」または「コポリマー材料」は、通常1組の様々な異なる個々の分子量を有する個々のポリマーまたはコポリマー分子から構成される。したがって、このようなポリマー材料またはコポリマー材料の分子量を述べるとき、それは平均分子量である。さらにキャラクタリゼーションすることなく、このような平均分子量は、本明細書では重量平均分子量である。完全な記述である重量平均分子量を同義で使用することができる。記載されている平均分子量が数平均分子量である場合、本明細書では明示されている。成分となっている個々の分子(分子鎖)の個々の分子量を述べるとき、本明細書では「個々の分子量」という用語を使用する。重量平均分子量は、当技術分野でよく知られているように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、ポリスチレン標準物質を参照として決定される。
【0027】
本明細書では、「多分散指数」という用語は、ポリマー材料の試料の重量平均分子量をポリマー材料の試料の数平均分子量で割った商と定義される。「重量平均分子量」および「数平均分子量」という用語の定義は、当業者によく知られている。多分散指数の定義は、ポリマーにおける分子量の分布を特徴付けることがよく知られている。多分散指数の値が高いほど、ポリマー材料を構成するポリマー分子鎖の個々の分子量の広がりが広くなる。多分散指数の値が低いほど、問題になっているポリマー材料を構成する個々のポリマー分子の個々の分子量が均一になりかつ密接にグループ化される。万一ポリマー材料中のあらゆるポリマー分子が同一である場合には、重量平均分子量および数平均分子量は同一であるはずであり、したがって多分散指数(「PDI」)は1となるはずである。
【0028】
本明細書では、「ラクタート」および「グリコラート」という用語はそれぞれ、文脈に応じて、本発明のコポリマーの調製で試薬として使用されるヒドロキシ酸類、乳酸、およびグリコール酸、またはそれらの塩類(乳酸塩類およびグリコール酸塩類)を指し、あるいはエステル結合を介して本発明のポリエステル分子鎖に組み込まれた残基としてのそれらの部分を指す。乳酸(ラクタート)およびグリコール酸(グリコラート)の重合によってコポリマーが生成するとき、各分子鎖は、コポリマー分子鎖に組み込まれた個々のラクタートおよびグリコラート単量体単位からなる。本明細書では、「ラクチド」および「グリコリド」という用語はそれぞれ、文脈に応じて、本発明のコポリマーの調製で使用する試薬を述べるとき、ラクタートおよびグリコラートの環状二量体エステル類を指し、または形成されたポリマー分子鎖に組み込まれた開環ダイマーとしてのセグメントを指す。したがって、ラクチドおよびグリコリドの重合に関する記載は、環状二量体エステル類の重合反応を指し、一方コポリマー分子鎖内のラクチドまたはグリコリド残基に関する記載は、開環し、コポリマー鎖に組み込まれた原子のその集まりを指す。ラクチドおよびグリコリドの重合によってコポリマーが生成するとき、それぞれ組み込まれたラクチドまたはグリコリド残基は、一対のラクタートまたはグリコラート単量体単位からなると考えられる。コポリマー分子鎖中のラクチドおよびグリコリド残基を述べるとき、用語はそれぞれ、ラクチドおよびグリコリドの重合に起因すると思われるものなど分子鎖中の2つのラクタート(L−L)または2つのグリコラート(G−G)の残基という二重(二量体)の単位を意味すると理解される。コポリマー分子鎖中のラクタート(L)またはグリコラート(G)の残基を述べるとき、用語はそれぞれ、分子鎖中の単一ラクタート(L)またはグリコラート(G)の残基を意味し、所与のラクタートまたはグリコラートがそれぞれ、別のラクタートまたはグリコラートの残基に隣接している場合には、コポリマー分子鎖を調製するために使用した方法にかかわらず、ラクチド(L−L)またはグリコリド(G−G)の残基内に存在する可能性がある。大部分の重合体系のように、この残基配列は全か無ではない。代わりに、この配列は優勢である。したがって、ラクチドおよびグリコリドコポリマーでは、いくつかのLおよびG(単一)の残基も存在して、L−LおよびG−Gの残基の優勢が存在する。このキャラクタリゼーションの根底にある化学的理由は、重合過程である。重合時に、成長するポリマー鎖は折れ、再び形成される。この開裂によって、ダイマー残基が分裂し、単一の残基が再び組み合わさることができる。ラクタートおよびグリコラートコポリマーでは、LおよびGの(単一)残基の優勢が存在する。この種類のポリマーは、エントロピー因子のため、ダイマー残基の繰返しを含めて比較的多い配列を有する。
【0029】
本明細書で「乳酸」、「ラクタート」、または「ラクチド」という用語を使用するとき、用語内には、化合物のすべてのキラル形が包含されることが理解される。したがって、「乳酸」は、D−乳酸、L−乳酸、DL−乳酸、またはそれらの任意の組合せを包含する。「ラクチド」は、DD−ラクチド、DL−ラクチド、LD−ラクチド、LL−ラクチド、またはそれらの任意の組合せを包含する。
【0030】
本発明のコポリマー材料内にあるコポリマー分子など重合過程によって形成される実質的に直鎖状の分子鎖は、2つの末端を有し、各末端は、近くの「末端ドメイン」および末端ドメイン間の「内部ドメイン」を有する。用語は厳密ではなく、むしろコポリマー分子鎖の大まかな領域を記述し、鎖の2つの末端のそれぞれにおいて終結する各末端ドメインは、鎖の全長の約10〜20%であり、末端ドメイン間に存在する内部ドメインは、鎖の残りの約60〜80%である。
【0031】
「溶媒」は、コポリマー材料を溶解するように働いて、コポリマー材料の均質溶液をもたらす液体、通常有機液体である。「非溶媒」という用語は、沈殿溶媒を指し、通常有機液体であり、コポリマーに対しては溶媒でない。「非溶媒」という用語を本明細書で使用するのは、この文脈においてである。溶媒および非溶媒など2つの液体は、相分離せずにすべての割合で相互に組み合わさるとき「混和性」である。溶媒は、すべてというわけではないが一部の相対的割合で相分離せずに組み合わさることができるとき相互に「可溶」であるが、「混和性」ではない可能性がある。
【0032】
本発明の低バーストコポリマー材料の調製は、より高い分子量のPLGコポリマー材料を加水分解するステップなし」で実施される。これは、本発明の低バーストコポリマー材料の調製の出発材料を調製するためのモノマーであるラクタートおよびグリコラート、またはラクチドおよびグリコリドの初期共重合の後に、ポリマー中の隣接する単量体単位間のエステル結合を加水分解するはずの酸またはアルカリによる処理などの条件を加えないことを意味する。したがって、「より高い分子量のPLGコポリマー材料」はこの用語が本明細書で使用されているように、除去コポリマー分画をPLG低バーストコポリマー材料から分離するステップの前に出発PLGコポリマー材料中に存在するものなどPLG本発明の低バーストコポリマー材料に除去コポリマー分画を加えた組合せが有している重量平均分子量より高い重量平均分子量のPLGコポリマー材料を指す。この種類の加水分解は、放出制御製剤での使用に適合させたある種の技術分野のポリマーの場合と同様に、その構成要素モノマー(ラクタートおよびグリコラート)に戻るPLGコポリマーの完全加水分解を指すのではなく、むしろ切断される分子鎖が長いほど得られる分子鎖が短くなる部分加水分解のステップを指す。したがって、本発明の方法においては、どのようなタイプの重合反応であろうと、出発PLGコポリマー材料をもたらす重合反応を行った後、PLG低バーストコポリマー材料から除去コポリマー分画を分離する前に、加水分解ステップを割り込ませない。したがって、本発明の生成物を加水分解ステップにかけなかった。後述するように、この加水分解がないことは、本発明のPLG低バーストコポリマー材料を構成する分子鎖の末端ドメインおよび内部ドメインにおけるラクチド/ラクタート単位対グリコリド/グリコラート単位の分布に対して影響を及ぼす。上述されたように、PLGコポリマー鎖は、重合反応の開始部位に近いG残基に増加し、かつ重合反応の後半に組み込まれた領域のL残基に増加する。これは、例えば重合が両方向に進行するジオールコアを使用して合成されたPLGコポリマー材料において、コアに近いポリマー分子の内部ドメインはG−リッチであり、両末端はL−リッチであることを示唆する。一方、乳酸開始剤から重合し、重合が乳酸のヒドロキシル末端においてのみ起こるPLGHタイプのPLGコポリマー材料は、開始乳酸に隣接した分子鎖の末端がG−リッチであり、重合反応の後半に形成される鎖の遠位末端がL−リッチである。
【0033】
「酸含有量/単位質量」という用語は、本明細書で使用するとき、当技術分野でよく知られている標準手順を使用して滴定できるカルボン酸の含有量を1グラムなどの単位質量で割った商を指す。エステル結合で結合しているヒドロキシ酸の鎖であるPLGコポリマーは、典型的には分子鎖の一端に単一の滴定できるカルボン酸基を有する。したがって、短い分子鎖で構成されているコポリマーの試料は、平均してより長い(より高い分子量)分子鎖で作製されたコポリマーの試料に比べて、高い酸含有量/単位質量を有する。より短くより低い分子量鎖で構成されている試料は、比較的より多くの個々のポリマー鎖を有し、したがって比較的より多くのカルボン酸基/グラムを有する。
【0034】
本発明のコポリマー材料は、「PLGp」または「PLG(p)」コポリマーとも呼ばれ、下付き「p」は、「精製した」ことを指す。
(発明の詳細な説明)
【0035】
本発明の低バーストコポリマー材料は、Atrigel(登録商標)タイプのものなど放出制御製剤における初期バースト作用を低下するのに特に有用である。本発明のコポリマー材料(「低バーストコポリマー材料」)は、PLG出発コポリマー(「出発コポリマー材料」)の試料に由来することを特徴とする。低バーストコポリマー材料は、高分子量PLGコポリマーの加水分解のステップを使用せずに調製される。本発明の低バーストコポリマー材料は、約10キロダルトン(kDa)〜約50kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.0の多分散指数によって特徴付けられる。低バーストコポリマー材料は、任意の適当な重合方法であるが、その調製において加水分解のステップを含まない方法で調製する出発PLGコポリマー材料から得られ、約4kDa〜約10kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数によって特徴付けられるコポリマー分画(「除去コポリマー分画」)を除去した。
【0036】
除去コポリマー分画を分離させた本発明のコポリマー材料は、PLG出発コポリマー材料の精製によって調製する。PLG出発コポリマー材料は、高分子量ポリマーの加水分解によって生ずる反応生成物ではないが、それ以外の点ではラクタートとグリコラートの混合物の縮合重合、またはラクチドとグリコリドの混合物の開環重合など当技術分野でよく知られている標準方法のいずれかに従って作製することができる。好ましくは、ラクチドおよびグリコリドの開環重合を使用して、出発コポリマーを調製し、それから本発明の低バーストPLGコポリマーを調製する。例えばオクタン酸第一スズなどのスズ塩を触媒として使用する触媒反応とすることができる開環重合反応は、重合が進行するにつれて同時に2つの乳酸エステル単位または2つのグリコール酸エステル単位を組み込む。
【0037】
本発明の方法では、出発コポリマー材料を溶媒に溶解し、次いで非溶媒を添加して、低バーストポリマーを沈殿させ、次いで本発明の低バーストコポリマー材料を回収し、除去コポリマー分画を上澄みに残すことによって、出発コポリマー材料から除去コポリマー分画を分離する。
【0038】
約4kD〜約10kDの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数によって特徴付けられる除去コポリマー分画を分離して、低バーストコポリマー材料を得ることは、本発明による方法で実現することができる。分離は、出発コポリマー材料を溶媒に溶解し、この溶液と非溶媒との混合物で低バーストコポリマー材料を沈殿させることによって実施する。溶媒および非溶媒は混和性とすることができる。具体的には、ポリマーをジクロロメタンに溶解し、メタノールで沈殿させることができる。
【0039】
本発明による一実施形態において、低バーストコポリマー材料は、約15kDa〜約50kDaの重量平均分子量および約1.4〜1.8の多分散指数を有することができる。除去コポリマー材料を分離させた出発コポリマー材料に比べて、低バーストコポリマー材料の重量平均分子量および数平均分子量が幾分高いだけでなく、はるかに著しいことには、コポリマー分子の個々の分子量の広がりの幅が小さい、すなわち分子量分布が狭い。この狭さは、本発明による低バーストコポリマーの比較的低い多分散指数に反映されている。
【0040】
本発明の低バーストコポリマー材料を、Atrigel(登録商標)システムなどの放出制御システムの一部分として製剤化したとき、驚くべきことに種々のペプチドまたはタンパク質生物活性剤の放出における初期バースト作用の低下が観察されたことがわかった。この低下は、放出制御システムから放出された生物活性剤の量を時間の関数として測定することによって実証された。とりわけAtrigel(登録商標)システムで使用するように適応させた本発明の低バーストコポリマー材料を、本発明の方法で精製しなかったポリマーを含有する同じ製剤と比較した。本発明の低バーストコポリマー材料を含有する製剤は、最初の24時間以降の時点で、より低い薬物放出を示した。したがって、Atrigel(登録商標)システム中で低バーストコポリマーを使用すると、インビボ薬物放出カイネティクス、特に投与した後最初の24時間中の薬物放出を改善する単純で有効な方法であることが実証される。
【0041】
出発コポリマー材料は、当技術分野で知られている任意の手段:例えばオクタン酸第一スズなどの触媒を用い、コア/乳酸もしくはジオールなどの開始剤を用いるかまたは用いない、環状二量体エステル類、ラクチド、およびグリコリドの混合物の重合;脱水条件下で、例えば酸触媒を用いた、乳酸およびグリコール酸の混合物の重合;または他の何らかの適当な方法などで調製することができる。出発コポリマー材料は、分離ステップの前に加水分解ステップにかけない。この非加水分解因子は、本発明のコポリマー材料の予想外の低バースト特性を提供する際に顕著であると思われる。
【0042】
本発明の出発コポリマー材料を調製するのに適した手段である触媒の存在下でのラクチドおよびグリコリドの重合では、グリコリド分子は、開環重合反応で、グリコリドの立体障害がラクチドに比べて小さいため(グリコール酸の水素原子の代わりにメチル基を有する乳酸)、ラクチド分子より速い速度で反応することが当技術分野でよく知られている。これによって、主にグリコリド組込みに由来する成長するコポリマー鎖の早期重合領域が生じる。反応混合物中のグリコリド濃度は、重合過程でこのモノマーが選択的に枯渇するため低下するので、コポリマー鎖の後半の重合領域は主にラクチド組込みに由来する。したがって、重合は両方向に起こるので、分子鎖の内部領域または内部ドメインは、主にグリコリド残基からなり、鎖の末端は、主にラクチド残基からなる。本明細書では「主に」は、一方の成分ラクチドまたはグリコリドが他方の成分より頻繁に見られることを意味する。すなわち、コポリマー鎖の主にグリコリドを組み込んでいるまたはグリコリドを含有しているドメインまたは領域は、出発反応混合物中のモノマーのモル濃度に対して定義されたモル基準でドメイン中にラクチド残基より多くのグリコリド残基を有する。あるいは言い換えれば、グリコリドは、重合反応混合物中のその初期割合に対してポリマーのその領域またはドメイン大きな比率を占める。主にグリコリドまたはグリコラートを含有するドメインでは、グリコリド/グリコラート残基は、そのドメインで出発反応混合物中で占めるより高いモル百分率で見られ、ラクチド/ラクタート残基は、そのドメインで出発反応混合物中で占めるより低いモル百分率で見られる。
【0043】
ポリマー鎖に沿ったラクチド/ラクタート部分対グリコリド/グリコラート部分の分布の差異は、後重合転位のために許容された反応時間に応じてわずかから大幅まで異なる。この後重合時間を、増大するコポリマー材料の重量平均分子量と突き合わせてバランスをとる。したがって、本発明の重量平均分子量パラメータ内で、分布の差異は、中程度〜大幅、好ましくはモル基準で5%〜35%の範囲、より好ましくは10〜25%である。
【0044】
したがって、ラクタート/グリコラートまたはラクチド/グリコリドから、重合後の加水分解ステップなしで調製する方法の結果として、本発明の低バーストコポリマー材料を構成する分子鎖は、主にラクチド/ラクタート残基を分子鎖の末端ドメインに、およびグリコリド/グリコラート残基を分子鎖の内部ドメインに有すると思われる。ラクチド/ラクタート残基中に疎水性のメチル基が存在している結果として、ラクチド/ラクタート残基は、グリコリド/グリコラート残基より疎水性度が高いことが当技術分野でよく知られている。この事実に基づいて、鎖の末端はおそらく、周囲の環境の他の分子がよりアクセスしやすいので、本発明の低バーストコポリマー材料は、より疎水性のドメインをその周囲にもたらすことができると考えられる。この鎖末端ドメインの疎水性の増強は、本発明のコポリマーの予想外の低バースト特性の原因となり得る。特定の理論に拘泥するものではないが、この疎水性度は、含まれている生物活性剤とのその疎水的相互作用、および患者に移植されたときコポリマーマトリックスと周囲溶液の体液との間で得られた生物活性剤の分配係数の変化のため、従来技術のポリマーに比べて、本発明のポリマーの予想外ではあるが望ましい低バースト特性を引き起こす原因の少なくとも一部であり得ると考えられる。
【0045】
高分子量前駆体コポリマーの加水分解によって調製することができるようなものなど従来技術のコポリマーは、従来技術のコポリマー材料を構成する分子鎖が主にラクチド/ラクタートを含有するドメインを分子鎖の両末端にもたないという点で、本発明のポリマーと異なると考えられる。この相違は、高分子量前駆体の加水分解の結果である。高分子量前駆体ポリマーを加水分解すると、得られた開裂によって、一端(新たに形成された末端)が、ラクチド/ラクタート残基ではなく主にグリコリド/グリコラート残基を含む。この効果は、純粋に統計を基準としてかなりの程度で内部ドメイン内に生じ、さらに立体障害のためエステル加水分解反応の速度が低下するという周知の事実によって増強される。したがって、障害のより少ないエステル結合(ラクタート結合ではなくグリコラート結合など)は、所与の条件下で、障害のより多いエステル結合より速い速度で加水分解するものと予想される。その結果、隣接したグリコラート残基(G−G)間のエステル結合の加水分解は、ラクタートとグリコラート残基(L−GまたはG−L)の間のエステル結合の加水分解より容易に速い速度で起こると思われ、これは同様にラクタート残基(L−L)間のエステル結合の加水分解より容易に速い速度で起こると思われる。結果として、3種類(G−G、G−L/L−G、およびL−L)すべてのエステル結合からなるコポリマー鎖において、G−Gエステル結合は、他の種類のエステル結合のいずれよりも、エステル結合の開裂の頻度が多くなるはずであり、L−Lエステル結合が生じるのは最低の相対速度で最も少ない。したがって、コポリマーの内部ドメインなどのG−Gリッチのドメインは、他のいかなるドメインより多く加水分解の部位になる。したがって、加水分解を受けたコポリマー分子鎖は、反応生成物コポリマーとして、生成物鎖の少なくとも一端、または本発明のコポリマーと同様にして主にラクチド/ラクタート残基から形成されたものではなく、主にグリコリド/グリコラート残基から形成された生成物鎖のおそらく両端を有する傾向がある分子鎖を生じる。
【0046】
その結果、高分子量コポリマー鎖を加水分解するステップを含む方法で調製したコポリマー材料は、主にラクチド/ラクタート残基で形成された末端より主にグリコリド/グリコラート残基で形成された末端を多く有するコポリマー分子鎖で構成されている。これは、これらのコポリマー分子鎖の末端領域が周囲の環境に与える疎水性の低い環境を生じるものと予想され、本明細書で開示および特許請求される本発明のコポリマーのより望ましい低初期バースト特性に比べて、加水分解方法で調製された従来技術のコポリマーの望ましくない高初期バースト特性の原因となり得る。
【0047】
上記の組込み速度および加水分解速度因子の結果として、本発明の除去コポリマー材料は、溶媒/非溶媒沈殿技法を使用して、従来技術の過程で除去することができるコポリマー分画とも異なる。高分子量コポリマーの加水分解、続いて溶媒への溶解および加水分解コポリマー分画の非溶媒による沈殿を含む方法で調製された放出制御製剤で使用するための従来技術のコポリマーは、沈殿分画中で異なるラクチド/ラクタート(L)分布およびグリコリド/グリコラート(G)分布を有するだけでなく、従来技術の非沈殿材料も、本発明の非沈殿分画に比べて、分子鎖に沿ってLおよびGの異なる分布を有する。加水分解を伴う方法によって生ずる非沈殿、典型的にはより低い分子量のコポリマーは、同様に鎖末端またはその付近でG残基の割合が、加水分解ステップを受けていなかったコポリマーより高いものと予想される。
【0048】
さらに、本発明のポリマーの予想外に良好な低バースト特性のため、Atrigel(登録商標)システムなどの放出制御製剤で使用されるコポリマーの酸含有量をさらに低減させることができ、望ましくないバースト作用の類似の低下を実現する。酸含有量/単位質量が高いほど、望ましくないバースト作用を減少できることが当技術分野でよく知られており、本出願で使用する従来技術コポリマーは、この結果を実現するために合わせて作製した。しかし、別の観点から、比較的高い酸含有量/単位質量は、現場での酸触媒濃度がより高いため、PLGコポリマーエステル結合の自己触媒加水分解の速度が高くなるはずであるという点で望ましくない。コポリマーエステル結合の自己加水分解は、ポリマーのより急速な分解をもたらすことが知られており、これは、Atrigel(登録商標)などの放出制御型調製品にコポリマーと共に製剤化された生理活性材料の望ましい滑らかで単調な放出の実現に干渉する傾向があるはずである。
【0049】
したがって、本発明の製法による生成物は、高分子量コポリマーを加水分解するステップで生成された生成物より優れて、明確に構造的に識別することができる。
【0050】
本発明の出発コポリマーは、高分子量コポリマーを加水分解するステップを含まないが、ラクチドおよびグリコリド前駆体の混合物の開環重合、乳酸およびグリコール酸の脱水型重合などを含む任意の利用可能な方法で調製することができる。本発明の方法による出発コポリマーの精製は、出発コポリマー材料を溶媒、例えばジクロロメタンまたは他の何らかの適当な有機液体に溶解することによって実施される。沈殿は、その溶液と非溶媒を接触させる、例えば、コポリマー溶液を所定用量の非溶媒に添加するか、または所定用量の非溶媒をコポリマー溶液に添加することによって実施する。典型的非溶媒の一例はメタノールである。好ましくは、溶媒および非溶媒液体は混和性であり、または相互に少なくとも実質的に可溶である。コポリマー溶液と非溶媒の混合は、広範囲の種々の温度、濃度、および混合モードの下で行うことができる。
【0051】
本発明のコポリマーをいくつかの様々な種類の放出制御製剤に有利に使用することができ、それぞれ、種々の異なる生物活性剤を実現し、様々な異常状態の治療に使用することができる。本発明のポリマーの低バースト特性は、作用剤の過量および潜在毒性が医学的懸案事項である生物活性剤、ならびに比較的に一定した投与量を長期間にわたって維持することが医学上必要とされた生物活性剤を用いた使用に特によく適している。
【0052】
本発明のコポリマーを組み込んでいる放出制御製剤と有利に使用することができる生物活性剤の例としては、LHRHレベルを調節するのに有用なロイプロリドおよび関連ペプチド類似体;受胎調節、乳癌などの癌の治療などに使用することができるようなステロイド類;ラタノプロストおよびトラボプロストなど緑内障の治療で使用することができるプロスタグランジン類;慢性疼痛の治療用のオキシコドンなどの鎮痛剤;ブリンゾラミドおよびドルゾラミドなど緑内障および高血圧の治療に有用な炭酸脱水酵素阻害剤;ブリモニジンまたはベタキソロールなど抗高血圧薬として有用なアドレナリン拮抗薬;または徐放もしくは放出制御が医学上必要とされた他の何らかの生物活性剤が挙げられる。
【0053】
本発明のコポリマーは、様々な種類の放出制御製剤中で使用することができる。Atrigel(登録商標)システムなどと同様に、本発明のコポリマー;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、またはメトキシポリエチレングリコール350などの水溶性有機溶媒;およびロイプロリドなどの生物活性剤を含む流動性送達システムは、患者において生物活性剤の長期徐放をもたらしながら、初期バースト作用を回避または最小限に抑制するために使用できることが有利である。同様に、本発明のコポリマーから予備成形された、生物活性剤を組み込んでいる一体式インプラントと微粒子固体インプラントは、生物活性剤の低初期バーストおよび長期徐放という同様の利益をもたらす。徐放システムおよび組成物の他の実施形態は、当業者に自明であろう。
【0054】
本発明のPLG低バーストコポリマー材料を含むAtrigel(登録商標)システムなどの流動性送達システムは、種々の異常状態の治療で使用することができる。本発明は、このような流動性送達システムを使用する異常状態の治療方法を提供する。例えば、本発明の流動性送達システムは、前立腺癌を患っている患者に医学上必要とされた治療である男性におけるテストステロン生合成の抑制で使用されるロイプロリド、ペプチド薬を用いて、前立腺癌の治療で使用することができる。流動性組成物の皮下移植によって、体液がボーラス中に拡散するので、周囲組織および体液に拡散された有機溶媒として半固体デポーが形成される。次いで、この半固体または固体のデポーは、ロイプロリドを制御または持続的に長期(数か月程度とすることができる)に放出する働きをする。本発明のコポリマー材料の使用は、同様のシステムで従来技術のコポリマーを使用したことに起因し得る望ましくない初期バースト作用を低減する際に有効である。
【0055】
同様にして、生物活性剤を患者に数週間または数か月にわたって与えることが医学上必要とされたとき、他の生物活性剤を、他の種類の異常状態の治療で使用することができる。例えば、オクトレオチドを組み込んでいる流動性送達システムは、先端巨大症の治療、カルチノイド症候群を伴う下痢および潮紅エピソードの治療、および血管作用性小腸ペプチド分泌腫瘍のある患者における下痢の治療のためのデポーを形成するために使用することができる。
【0056】
緑内障の異常状態の治療では、本発明のPLGコポリマーを組み込み、かつ緑内障の治療に適した生物活性剤、例えばプロスタグランジン類似体、具体的にはラタノプロストもしくはトラボプロストまたはそれらの遊離酸の形など、炭酸脱水酵素阻害剤、具体的にはドルゾラミドまたはブリンゾラミド、α−アドレナリン拮抗薬、具体的にはブリモニジン、またはβ−アドレナリン拮抗薬、具体的にはベタキソロールを含むAtrigel(登録商標)型の流動性送達システムは、初期バースト作用を回避しながら、生物活性剤を長期にわたって送達するために使用できることが有利である。流動性送達システムは、眼内で、眼球への直接注入によって、または付近の組織に移植することによって眼の近位に、デポーを形成するために使用することができる。
【0057】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつ生物活性剤としてテルビナフィンを含む流動性送達システムは、爪の下にデポーを形成することによって足指爪または手指爪の爪真菌症の治療で使用することができる。
【0058】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつステロイドを含む流動性送達システムは、受胎調節治療を提供するために使用することができ、長期放出制御が、望ましくない受胎能を調節し、かつ排卵を抑制するのに望ましい一方、この用途で従来技術のコポリマーを使用したとき初期バーストのために起きる恐れがあるステロイドの過量による潜在的副作用を回避する。
【0059】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつ抗生物質、例えばダプソンを含む流動性送達システムは、慢性感染症の治療で使用することができる。
【0060】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつ抗精神病薬、例えばリスペリドンを含む流動性送達システムは、精神病の治療で使用することができる。
【0061】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつ免疫抑制剤であるラパマイシンを含む流動性送達システムは、癌の治療、または組織もしくは臓器移植と同様にして組織拒絶反応を制御する際に使用することができる。
【0062】
本発明のPLG低バーストコポリマーを組み込み、かつ抗ウイルス剤、例えばAZTを含む流動性送達システムは、ウイルス感染症の治療で使用することができる。
【0063】
他の病態、およびそれらの治療に適切な医薬品は、当業者に自明であろう。
【実施例】
【0064】
特許請求の範囲に記載される本発明の実施態様の理解を助けるために、いくつかの実施例を以下に記載する。しかし、これらの実施例は、本発明を限定するものと考えられるべきではない。
【0065】
インビボ放出カイネティクスを改善するための生分解性ポリマーの精製の概論
Atrigel(登録商標)システムからのペプチド類およびタンパク質類など多くの生物活性剤の放出は、移植後最初の24時間中、ある種の条件下において最適速度より高速で起こり得る。本発明のポリマーをAtrigel(登録商標)システムと組み合わせると、低バースト放出速度の実質的な改善をもたらす独特な組合せが生じる。
【0066】
Atrigel(登録商標)システムで使用するポリマーは、溶媒への溶解および非溶媒による沈殿により精製し、次いで乾燥する。溶媒と非溶媒は混和性とすることができる。具体的には、ポリマーをジクロロメタンに溶解し、メタノールで沈殿させることができる。以下に記載するように、精製した材料を含有する製剤を、本発明の方法で精製しなかったポリマーを含有する同じ製剤と比較した。精製した材料を含有する製剤は、最初の24時間以降の時点で、より低い薬物放出を示した。したがって、Atrigel(登録商標)システム中で本発明のコポリマーを使用すると、インビボ薬物放出カイネティクス、特に投与した後最初の24時間中の薬物放出を改善することが示されている。
【0067】
(実施例1)
酸を末端とする85/15ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(85/15 PLGH)の精製
精製コポリマーを用いてまた用いずに、試験物品を調製し、24時間放出試験で出発コポリマー(溶解および沈殿のステップを実施する前のコポリマー)と比較した。この実施例における出発コポリマーは、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)の酸を末端とする形であった。これは、コポリマー材料を構成する分子鎖の一端がカルボン酸基を有することを意味する。
【0068】
48グラムの85/15 PLGH(インヘレント粘度0.25dL/g)を100mLのジクロロメタンに溶解した。ポリマー溶液を、500mLのメタノールが入った2Lのビーカーに激しく撹拌しながら注ぎ込んだ。沈殿したポリマーは軟質の塊を形成した。ジクロロメタン−メタノール溶液をデカンテーションし、200mLのメタノールを5〜15分間添加して、さらにジクロロメタンを抽出した。メタノールを容器からデカンテーションし、100mLのメタノールでさらに5〜15分間置換して、さらにジクロロメタンを抽出した。
【0069】
ポリマー塊を容器から取り出し、テフロン(登録商標)ライニングしたガラス皿に置き、40℃で48時間真空乾燥した。乾燥したポリマーを真空オーブンから取り出し、粉末に粉砕し、40℃でさらに24時間乾燥した。
【0070】
Atrigel(登録商標)製剤の調製
精製コポリマーと非精製コポリマーのN−メチルピロリドン(NMP)溶液(45%(w/w))を調製した。既知量の各コポリマーを個々の20mLのシンチレーションバイアルに計量することによって、保存溶液を調製した。適量のNMPを各ポリマーに添加し、混合物をジャーミルに入れる。バイアルを少なくとも終夜混合し、目視で透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液にガンマ線を照射した。溶液の精製ポリマーおよび非精製ポリマーのキャラクタリゼーションデータを表1に示す。
【0071】
【表1】

4gのオクトレオチド酢酸塩および0.7550gのクエン酸(1:1(モル:モル))を30mLのHPLCグレードの水に溶解することによって、オクトレオチド酢酸塩−クエン酸混合物を調製した。溶液を、固体のすべてが溶液になるまで撹拌した。溶液を別々のバイアル5本に分け、−86℃で1時間冷凍した。次いで、バイアルを2日間凍結乾燥した。
【0072】
1.35gの薬物を4.65gのHPLCグレードの水に溶解することによって、薬物の保存溶液を調製し、22.5%(w/w)の保存溶液を得た。500mgのオクトレオチド保存溶液をピペットで1.25mLのBD注射器に計り入れることによって、薬物含有注射器(「B」または雄型注射器)を調製し、続いて24時間凍結乾燥した。637.5mgのポリマー溶液を1mLの雌型注射器に計り入れることによって、ポリマー溶液含有注射器(「A」または雌型注射器)を調製した。
【0073】
ラットにおいて投与する前に、2本の注射器を合わせ、注射器の内容物をチャンバ間に所定の回数押し込むことによって、内容物を混合した。2本の注射器の内容物を混合すると、19ゲージの薄壁針を雌型注射器に取り付け、約100mgのAtrigel(登録商標)製剤をラットに皮下注射した。
【0074】
所定の時間に、5匹のラット/群を二酸化炭素で安楽死させ、Atrigel(登録商標)インプラントを回収した。インプラントを、HPLCでインプラントに残留している薬物の量について分析し、薬物放出(%)を算出した。
【0075】
精製ポリマー試験物品からの薬物放出を、精製をしていない同じポリマーの試験物品と比較した。データ、平均、および標準偏差を表2および図1に示す。
【0076】
【表2】

(実施例2)
実施例2では、生物活性剤としてオクトレオチドを含む試験デポーを、2つの異なる方法で精製したポリマーから調製し、ラットにおいて、28日放出制御試験で非精製の形の同じポリマーから調製した試験物品と比較した。
【0077】
(実施例2a)
ポリマーのNMP/水/エタノール中での精製(対照方法)
ポリマーをN−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、ポリマー溶液を水/エタノール溶液で沈殿させることを含む精製技法を開発した。NMP、水、およびエタノールは、ジクロロメタン(塩化メチレン)およびメタノールに比べて、医薬調製品で使用すると有利な特性を有することができる。
【0078】
送達システムで使用するためのポリマーをNMPに溶解した。2Lのナルゲン瓶中の400gのNMPに、100グラム(100g)の85/15PLGHを添加した。瓶を振盪して、ポリマーを分散し、ロールミルに終夜置いて、ポリマーを溶解した。
【0079】
9.5Lの容器に、中心からずらせてセットしたオーバーヘッドスターラを装備し、4Lの水を充填した。オーバーヘッドスターラを約1250rpm(設定3)にして、容器に、漏斗を用いてゆっくりと、ポリマー溶液を5分間かけて添加した。得られたポリマー懸濁液を1250rpmで30分間撹拌した。次いで、撹拌を約500rpmに減速する一方、3Lの水および1Lのエタノールを容器に添加した。ポリマー懸濁液は凝集し、撹拌速度を約800rpm(設定2.5)に上げ、凝集物を手動で分解することによって再び分散させた。
【0080】
30分後、撹拌を止め、懸濁液を20分間沈降分離させた。少量の固体が表面に上昇したが、材料の大部分は容器の底に沈降した。4リットル(4L)の溶媒を容器からデカンテーションし、撹拌を約800rpmで再開する一方、3Lの水および1Lのエタノールを添加した。撹拌を30分間継続し、次いで懸濁液を30分間沈降分離させた。次いで、4リットル(4L)の溶媒を容器からデカンテーションした。
【0081】
撹拌を800rpmの設定で再開し、3Lの水および1Lのエタノールを再び添加し、撹拌を2時間継続した。混合物を15分間沈降させた。4リットル(4L)の水を容器に添加し、さらに1〜2時間撹拌した。懸濁液を濾過し、濾過ケーキをテフロン(登録商標)ライニングしたパイレックス(登録商標)皿に広げ、真空オーブン中、室温で約70時間乾燥した。重量を記録し、真空オーブンに戻し、30〜40℃でさらに19時間真空乾燥した。乾燥した粉末をガラスジャーに移した。
【0082】
(実施例2b)
ポリマーのジクロロメタン/メタノール中での精製(試験方法)
1Lのナルゲン瓶中の393gのジクロロメタン(DCM)に、100グラム(100g)の85/15 PLGHを添加した。瓶を振盪して、ポリマーを分散し、ロールミルに終夜置いて、ポリマーを溶解した。
【0083】
9.5Lの容器に4Lのメタノールを充填した。撹拌せずに、メタノールに、漏斗を用いてゆっくりと、細い糸状のポリマー溶液を添加した。ポリマーは、容器の底で軟質の塊を形成した。この材料を撹拌棒で操作して、新しい表面積を曝露させて、DCMがメタノール中に拡散するのを助けた。
【0084】
15分後、溶液をデカンテーションし、2Lの新しいメタノールを添加した。材料を、新しい表面積が生じるように再び操作して、DCMをポリマーからメタノールに拡散させることができた。軟質の塊を定期的に捏和して、溶媒を絞り出し、DCMをメタノールに押し込んだ。
【0085】
約5時間後、過剰の溶媒を軟質ポリマー塊から絞り出し、その塊をテフロン(登録商標)ライニングしたパイレックス(登録商標)皿に置き、真空オーブンに入れ、溶媒を室温で真空により除去した。約24時間後、脆い材料を粉末に粉砕し、真空オーブンに戻して、さらに乾燥した。48時間後、ポリマーを計量し、30〜40℃の真空オーブンに入れる。19時間後、ポリマーを再び計量したが、重量は大幅には変化していなかった。ポリマーをナルゲン瓶に入れた。最終の収量は、61gであった。
【0086】
(実施例2c)
バルクAtrigel(登録商標)製剤の調製
20mLのガラスバイアルに両成分を計り入れることによって、NMP中50パーセント(50%)のポリマー溶液を調製した。バイアルをロールミルに置いて、ポリマーをNMPに溶解した。次のコポリマー試料を調製した。
ポリマー2A:5gの(NMP/水/エタノール中で精製した85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
ポリマー2B:5gの(DCM/メタノール中で精製した85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
ポリマー2C:5gの(非精製85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
【0087】
バルク溶液に照射し、注射器に充填した。照射後に、バルク製剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで特徴付けて、溶液中のポリマーの分子量を測定した。分子量データを表3に示す。
【0088】
【表3】

(実施例2d)
薬物充填注射器の調製
OTCA(オクトレオチド酢酸塩(2.33g)およびクエン酸(0.43g))を21.24gの水に溶解した。適量の溶液を5本のCC注射器に計り入れ、−80℃で冷凍し、凍結乾燥した。
【0089】
(実施例2e)
試験デポーの調製
ラットにおいて投与する前に、Atrigel(登録商標)製剤を含有する注射器を凍結乾燥した薬物を含有する注射器と合わせ、注射器の内容物をチャンバ間に所定の回数押し込むことによって、内容物を混合した。2本の注射器の内容物を混合すると、19ゲージの薄壁針を雌型注射器に取り付け、約100mgの試験物品をラットに皮下注射した。
【0090】
112.5mgの薬物を637.5mgのATRIGEL(登録商標)ビヒクル中で混合することによって、750mgの構成した生成物を調製した。次いで、均質な混合物を1.5mlの注射器に計り入れ、19ゲージの薄壁針を取り付けた。各ラットに、約100mgの構成した生成物を皮下注射で投与する。
【0091】
所定の時間に、5匹のラット/群を二酸化炭素で安楽死させ、Atrigel(登録商標)インプラントを回収した。インプラントを、HPLCでインプラントに残留している薬物の量について分析し、放出した薬物の累積百分率(%)を算出した。1日、14日、および28日時点のデータを表4および図2に示す。
【0092】
【表4】

精製ポリマーの両方の形で調製した試験物品は、非精製ポリマーを使用した試験物品より初期バーストが低く、1日におけるNMPコポリマー調製物とDCMコポリマー調製物からのオクトレオチドの放出(%)は実験誤差内で同じであったが、非精製ポリマーより有意に低かった。しかし、14日および28日において、DCM方法で精製したポリマーを含有する試験デポーは、NMP精製ポリマーまたは非精製ポリマーから生成したデポーより有意に低いオクトレオチドの放出を示した。
【0093】
表1および3の分子量データは、ガンマ照射製剤中のポリマーの重量平均分子量が、精製によって有意には変化しないことを示す。しかし、精製は、対照と比較したとき、分子量分布または多分散指数を狭めた。
【0094】
この現象をさらに理解するために、上述したものと同様の方法を用いて、外部ベンダーから購入した85/15 PLGHポリマー(非精製ポリマー2Dと呼ぶ)をDCMおよびメタノール中で精製した。このロットの精製ポリマーをポリマー2Eと名付けた。ポリマーをGPCおよびNMRによって特徴付けた。さらに、DCM/メタノール溶媒中に残留する不純物を回収し、GPCおよびNMRによって特徴付けた。データを表5に示す。
【0095】
【表5】

NMRデータによって、精製は残留モノマーを除去したことが示された。ラクチドの重量パーセントは、1.7重量%から0.5重量%に低下し、残留グリコリドモノマーは0.1重量%から0重量%に低下した。GPCデータからもやはり、重量平均分子量は有意に変化しなかったが、ポリマー分散指数(PDI)は1.73から1.66に低下し、ポリマーの低分子分画が除去されたことを示唆することが明らかである。溶媒混合物に残留したこの低分子量分画は、平均分子量がわずか4kDaであった。
【0096】
(実施例2f)
回収したインプラント中の残留オクトレオチドの分析方法
I.インプラント調製
A.前臨床部門から、20mlの標識シンチレーションバイアルでインプラントを受け取る
B.インプラントを−86℃で少なくとも1時間冷凍する。
C.次いで、インプラントを4時間以上または乾燥するまで凍結乾燥する。
D.次いで、乾燥したインプラントをハサミで細かく切る。
【0097】
II.インプラント抽出
A.700mlのDMSOおよび300mlのMeOHをメスシリンダーで計量することによって、70:30のDMSO:MeOH+1%のPEIからなる抽出溶媒溶液を調製する。溶媒を100mlの瓶に添加する。瓶を振盪して、溶媒を混合する。10gのPEIを250mlのビーカーに計り入れる。少量の混合溶液をPEIのビーカーに添加し、かき混ぜ、次いで溶液を溶媒瓶に戻すことによって、PEIを溶液に移す。このプロセスを、PEIがビーカーに残留しなくなるまで継続する。
B.マイクロピペッタを使用して、5.0mlの抽出溶媒を、細かく切ったインプラントに添加する。
C.インプラント溶液を37℃、200RPMの水平振盪機セットに置く。試料を終夜振盪する。
【0098】
III.抽出溶液の濾過および希釈
A.3mlの注射器および0.2umのナイロンシリンジフィルタを使用して、2mlのインプラント抽出物を10mlの試験管に濾過する。1mlのマイクロピペッタを使用して、1mlの濾液を第2の試験管に分注する。
【0099】
B.500mlのアセトニトリル(ACN)をメスシリンダーで計量し、溶媒を1000mlの瓶に添加することによって、50:50のアセトニトリル:水からなる希釈溶媒を調製する。500mlの水を瓶に添加し、瓶を振盪して、溶媒を混合する。
【0100】
C.分注したインプラント抽出物に、4.0mlの希釈溶媒を添加する。溶液を、相分離が観察されなくなるまでボルテックス混合する。
【0101】
D.第2の3mlの注射器およびナイロンシリンジフィルタを使用して、希釈した抽出物を濾過する。抽出物を2mlのHPLCバイアルに濾過し、HPLC分析のため蓋をする。
【0102】
IV.HPLC分析
A.検量線の作成
インプラントが回収される試験用の試験物品で使用されるオクトレオチド薬物粉末(OTCAまたはODP)を使用して、検量線を作成する。10.00mgのオクトレオチド薬物粉末を10mlのメスフラスコに計量する。オクトレオチド移動相(IVB、移動相調製のセクションを参照のこと)を用いて、フラスコを容積までメスアップする。すべての粉末が溶液になるまで、フラスコをボルテックス混合する。調製した保存溶液をさらに、1000mlおよび100mlのマイクロピペッタを使用して移動相で希釈して、検量線を作成する。希釈物を2mlのHPLCバイアルに作製する。下記に、希釈体積を概説する。
【0103】
B.移動相調製
14.047gのNaHPO*7HOを計量ボートに計り入れることによって、2Lの65:35のPO4:ACN緩衝液(オクトレオチド移動相)を調製する。粉末を2Lのメスシリンダーに添加する。0.7839gのNaHPOを計量ボートに計り入れ、シリンダーに添加する。HPLCグレードのHOを、シリンダーに1300mlの印まで添加する。撹拌棒を加え、溶液を、すべての固体が溶解するまで撹拌する。オルトリン酸を使用して、緩衝液のpHをpH7.4に調整する。アセトニトリルを、フラスコに2000mlの印まで添加する。移動相をよく撹拌し、ソニケーター浴を使用して10分間脱気する。
【0104】
C.HPLCパラメータ:
使用する分析カラムは、Merck LiChroSphere 125×4mm RP select B 5 umである。各測定の後に、2つの清浄ステップを行う。第1のステップは、70:30のHO:ACNを30分間流し、第2のステップは、30:70のHO:ACNを30分間流す。
【0105】
【表6】

本発明を、当業者がそれを作製および使用するのに十分詳細に記載および例示するが、特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、様々な代替、修正、および改善が当業者に自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出制御製剤のための生体適合性で生分解性の非加水分解PLG低バーストコポリマー材料であって、約10キロダルトン〜約50キロダルトンの重量平均分子量および約1.4〜2.0の多分散指数を有し、約4kDa〜約10kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数を特徴とする除去コポリマー分画を該低バーストコポリマー材料から分離させた低バーストコポリマー材料。
【請求項2】
出発PLGコポリマー材料から、より高い分子量のPLGコポリマー材料を加水分解するステップなしに、該出発PLGコポリマーを溶媒に溶解し、前記低バーストコポリマー材料を非溶媒で沈殿させ、PLG低バーストコポリマー材料を回収することによって調製された、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項3】
前記PLG低バーストコポリマー材料が、約15kDa〜約50kDaの重量平均分子量および約1.4〜1.8の多分散指数を有する、請求項1または2に記載のPLG低バーストコポリマー材料。
【請求項4】
未反応ラクチドおよびグリコリドの含有量がそれぞれ、約1.0重量%未満および0.1重量%である、請求項1に記載のPLG低バーストコポリマー材料。
【請求項5】
前記除去コポリマー分画が、前記除去コポリマー分画および前記PLG低バーストコポリマー材料の重量の合計の約2重量%〜約20重量%である、請求項1に記載のPLG低バーストコポリマー材料。
【請求項6】
前記除去コポリマー分画が、前記除去コポリマー分画および前記PLG低バーストコポリマー材料の重量の合計の約3重量%〜約15重量%である、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項7】
前記除去コポリマー分画が、前記除去コポリマー分画および前記PLG低バーストコポリマー材料の重量の合計の約5重量%〜約10重量%である、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項8】
前記出発PLGコポリマー材料が、ラクチドおよびグリコリドの開環重合反応で調製される、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項9】
ラクチドおよびグリコリドの前記開環重合反応がスズ塩で触媒される、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項10】
前記溶媒と前記非溶媒が混和性である、請求項2に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項11】
前記溶媒がジクロロメタンまたはクロロホルムであり、前記非溶媒がメタノールまたはエタノールである、請求項10に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項12】
コポリマー分子鎖を含み、該分子鎖の主要部分が、各分子鎖の少なくとも1つの末端ドメインにラクタートまたはラクチド残基を主に含み、かつ各分子鎖の内部ドメインにグリコラートまたはグリコリド残基を主に含む、請求項1に記載の低バーストコポリマー材料。
【請求項13】
請求項1または12に記載のPLG低バーストコポリマー材料と、有機溶媒と、生物活性剤とを含む流動性送達システムを含む放出制御製剤。
【請求項14】
前記生物活性剤が、ロイプロリド、オクトレオチド、ブリモニジン、ラタノプロスト、ラタノプロスト酸、トラボプロスト、トラボプロスト酸、ブリンゾラミド、ドルゾラミド、ベタキソロール、テルビナフィン、リスペリドン、またはラパマイシンである、請求項13に記載の放出制御製剤。
【請求項15】
前記生物活性剤が、ステロイド、プロスタグランジン、鎮痛剤、抗ウイルス剤、または抗生物質である、請求項13に記載の放出制御製剤。
【請求項16】
前記有機溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、またはメトキシポリエチレングリコール350である、請求項11に記載の放出制御製剤。
【請求項17】
請求項1または請求項12に記載のPLG低バーストコポリマー材料の調製方法であって、該方法は、約4kDa〜約10kDaの重量平均分子量および約1.4〜2.5の多分散指数を特徴とする除去コポリマー分画を出発PLGコポリマー材料から分離するステップを含み、該方法は、該出発PLGコポリマー材料を溶媒に溶解して、溶液を生成し、次いで該溶液を非溶媒と接触させることによってPLG低バーストコポリマー材料を沈殿させ、沈殿したPLG低バーストコポリマー材料を回収するステップを含み、該方法は、より高い分子量のPLGコポリマーを加水分解するステップを含まない、方法。
【請求項18】
前記溶媒および前記非溶媒が混和性である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒がジクロロメタンまたはクロロホルムである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記非溶媒がメタノールまたはエタノールである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記除去コポリマー分画が、前記出発コポリマー材料の約2重量%〜約20重量%である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記除去コポリマー分画が、前記出発コポリマー材料の約3重量%〜約15重量%である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記除去コポリマー分画が、前記出発コポリマー材料の約5重量%〜約10重量%である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
患者における病態の治療方法であって、該患者に治療有効量の、医学上必要とされた生物活性剤を含む請求項13に記載の流動性送達システムを投与することを含む方法。
【請求項25】
前記病態が前立腺癌であり、前記生物活性剤がロイプロリドを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記病態が先端巨大症であり、前記生物活性剤がオクトレオチドを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記病態が眼病態であり、前記製剤が眼内または該眼の近位に配置される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記眼病態が緑内障であり、前記生物活性剤が、プロスタグランジン、炭酸脱水酵素阻害剤、α−アドレナリン拮抗薬、またはβ−アドレナリン拮抗薬を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記プロスタグランジンが、ラタノプロスト、ラタノプロスト酸、トラボプロスト、またはトラボプロスト酸を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記炭酸脱水酵素阻害剤がドルゾラミドまたはブリンゾラミドを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記α−アドレナリン拮抗薬がブリモニジンを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記β−アドレナリン拮抗薬がベタキソロールを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記病態が望ましくない受胎能であり、前記生物活性剤が受胎調節ステロイドを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記病態が疼痛であり、前記生物活性剤が鎮痛剤を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記鎮痛剤がアヘン鎮痛剤を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記病態が足指爪または手指爪の爪真菌症であり、前記生物活性剤がテルビナフィンを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項36】
前記病態が細菌感染症または真菌感染症であり、前記生物活性剤が抗生物質を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項37】
前記病態が精神病であり、前記生物活性剤が抗精神病薬を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項38】
前記抗精神病薬がリスペリドンを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記病態が悪性腫瘍または免疫応答であり、前記生物活性剤がラパマイシンを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項40】
前記病態がウイルス感染症であり、前記生物活性剤が抗ウイルス剤を含む、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−519218(P2010−519218A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550095(P2009−550095)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/001887
【国際公開番号】WO2008/100532
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(505340973)キューエルティー ユーエスエー,インコーポレイテッド. (8)
【Fターム(参考)】