説明

低温炭化水素SCR

流動燃焼排気ガス中の窒素酸化物(NO)をNに還元する方法であって、50℃未満の触媒床温度で遷移金属/ゼオライト触媒により一酸化窒素を二酸化窒素に酸化し、そしてNOを、150℃未満の触媒床温度で、炭化水素(HC)還元剤を用いて前記触媒で還元することを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、燃焼排気ガス中のNOを炭化水素還元剤で選択的にNへの還元を触媒するシステム及び方法に関し、特に比較的低温でこのような反応を選択的に触媒するシステム及び方法に関する。
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】
【0002】
炭化水素(HC)によるNOの選択接触還元(SCR)(以下「HC−SCR」と称する)では、HCを、酸素ではなくNOと反応させて、反応(1)により窒素、CO及び水を形成する:
{HC} + NO → N + CO + HO (1)
反応(1)では、亜酸化窒素(NO)も多少生成する。
【0003】
競合の望ましくない酸素との非選択的反応が、反応(2)で生じる。
【0004】
{HC} + O → CO + HO (2)
HC−SCR触媒は、「リーンNO触媒」(LNC)又は「DeNO触媒」とも称される。
【0005】
排気ガスの酸素含量が比較的低い場合、転化率を向上させることができるけれども、リーンバーン内燃機関により生成した燃焼排気ガスの多くの酸素含量が比較的高く、ディーゼル排気ガスでは典型的には5〜10%である。
【0006】
本発明において「CHC」は、メタンや炭素原子数が1である他の炭化水素種を意味しているのではなく、例えば、イソブタン(C)又はプロパン(C)還元剤を使用するかどうかとは無関係に条件を比較できるように、炭化水素還元剤の濃度を同一であるとみなすための当該技術分野における研究者により採用されている表現である。例えば、イソブタンはCであり、したがって、そのC濃度はイソブタン自体の4倍である。一方、プロパンはCであり、したがって、そのC濃度はプロパン自体の3倍である。
【0007】
一般的に引用されるHC−SCR触媒は、約350℃〜500℃の比較的高温で活性がある銅交換ゼオライト、例えば、Cu/ZSM−5(Iwamoto、M.等、1991「Removal of Nitrogen Monoxide through a Novel Catalytic Process(新規な触媒プロセスによる一酸化窒素の除去)」、Journal of Physical Chemistry、95、第3727〜3730頁参照)である。しかしながら、実験室における実験条件には、燃焼排気ガスのいたるところに存在する成分であるHOやSOが含まれておらず、以後、これらがNO還元を阻害することが判明した。
【0008】
Fe/ZSM−5触媒も、実験室において検討されたが、活性があると報告されているほとんどの触媒についての調製経路は複雑である。Chen及びSachtler (Catalysis Today、42、(1998)73−83)は、H−ZSM−5上に担持したFeClを化学蒸着(昇華)することにより、Fe/Alがほぼ1のFe/ZSM−5触媒を得て、FeSO前駆体を用いた水性スラリー中でのイオン交換により調製したFe/ZSM−5と、その活性を比較した。考えられる温度範囲250℃〜500℃では、昇華により調製されたFe/ZSM−5触媒は、還元剤がイソブタンであるとき、約350℃でのNO転化率が75%であることが分かった。一方、従来最も良く調製された触媒の最大転化率は350℃で55%であった。より高活性の触媒の活性は、高温で10%HOの存在下では損なわれないことが分かった(Catalysis Letters、50(1998)125−130)。
【0009】
また、Chen及びSachtlerは、pHを5.5<pH<7.0に維持しながら、Fe2+からFe3+への酸化及びFeOOH及びFe(OH)の沈殿を最小限に抑制すると言われている、FeC・2HOから「過交換」Fe/ZSM−5触媒を調製するための、Feng及びHall(後者の2人により調製、J. Catal.、166(1997)368に記載されている)の手順を繰り返すことは困難であることも報告している。Feng及びHallは、過交換Fe/ZSM−5とともにイソブタンを還元剤として用いると、450℃〜550℃の温度で100%の転化率が得られることを報告した。しかしながら、より最近、Feng及びHallは、初期の「過交換」触媒もそれらの結果についても、再現できなかったと報告している(Catal.Lett.52(1998)125)(Tmax425℃で、イソブタンでのNO転化率が約60%)。最初に観察された活性は、触媒を調製するのに使用されたゼオライト試料のある未知の性質によるものであると説明している。
【0010】
Fe−ZSM−5HC−SCR触媒についてのより最近の研究では、固体イオン交換及び化学蒸着により調製された触媒を検討し、焼成前に十分に洗浄する工程が、触媒活性にとって重要な役割を果たしていると結論している(Heinrich等、Journal of Catalysis、212、157−172(2002)参照)。触媒活性の分析を、イソブタンを還元剤として使用して、523ケルビン〜823ケルビン(250℃〜550℃)で実施した。
【0011】
Fe/Yゼオライト(FeY)についても、とりわけCO/NOをモデルとして使用して、可能性のある酸化還元触媒として検討して、300℃でCu/Yゼオライトの活性と比較した(J.O. Petunchi等、Journal of Catalysis、80、403−418 (1983))。
【0012】
一部の遷移金属/ゼオライトも、NH還元剤を用いたNOのNへの還元を触媒することが知られている。例えば、米国特許第4,961,917号(鉄/ベータゼオライト)参照。
【0013】
反応(1)の選択性のため(実際のところ、ディーゼルエンジンの排気システムにおけるHC−SCR触媒の最大選択率は、約20%に限定されている。すなわち、HCの20%がNOと反応し、80%が酸素と反応する)、HC−SCR触媒では、炭化水素濃度の増加とともに、NO転化率が増加する(実験室での評価では、通常CHC:NOモル比=3〜12で使用され、この比が高いほどNO転化率が高い)。限られた量の天然ディーゼル炭化水素類を供給(NO放出レベルと比較して実際に極めて低くく、天然ディーゼル排気ガス中のNOに対するCHCは典型的には1未満である)することは、触媒の選択率が低い場合にはより高いNO転化率を得る際の障害となることがある。さらなるHC物質を排気ガスに積極的に混入すると、この問題を解決できることが分かった。一般的に、このような混入は、2つの方法でおこなうことができる:
(i)触媒の上流の排気システムに炭化水素類、好ましくはディーゼル燃料を注入すること;又は
(ii)一般的なレール燃料注入を用いた遅いシリンダー内注入、又は従来の燃料注入システムにおける単なる遅い注入タイミング。
【0014】
排気ガスへのHC混入を用いた排気システムは、「能動」システムと呼ばれてきた。このような活性システムから識別するために、HC−SCRを天然排気ガスに未燃焼炭化水素類を専ら用いて達成される排気システムを、しばしば「受動的」HC−SCRシステムと称される。活性HCの混入には、注入燃料の量によっては、燃料の節約の面で一定の不利益となる。さらなる酸化触媒を用いることも、HC−SCR触媒を通過(又は「スリップ」)することできる炭化水素類を酸化するために能動的構成において必要なことがある。
【0015】
内燃機関からのリーン排気ガスにおけるNOを還元する公知の方法には、HC−SCR触媒、例えば、アルミナ支持体上に担持された白金、Cu/ゼオライト及びアルミナ上に担持された銀;NHSCR(例えば、米国特許第4,961,917号);又はNO貯蔵触媒(NOトラップ)(例えば、EP560991参照)などがある。しかしながら、これらの技術の各々の問題は、これらのどれも150℃未満の温度でNOを還元するのに活性のあることが知られていないことである。
【0016】
軽量ディーゼル車用FTP等の排出基準では、標準試験サイクルの機関中に放出することが許容できる排気ガス成分CO、HC、NO及び粒状物質(PM)レベルについての上限が設定されている。このような排出試験サイクルには、エンジンのスイッチを入れた直後に放出された排出物が含まれ(「コールドスタート」とも称されることがある)、NOを除去する公知の触媒法は触媒温度が十分に上昇するまで活性とはならないので、コールドスタートと、NO還元を促進する触媒活性の発現との間の期間は、全サイクルにわたって全体のNO排出に大きく影響することがある。
【0017】
WO2004/094045は、リーンバーン内燃機関、例えば、ディーゼルエンジンの排気ガスにおける二酸化窒素を一酸化窒素に分解する方法であって、250℃を超える温度で排気ガスのC炭化水素:窒素酸化物(CHCNO)比を0.1〜2に調整し、この排気ガス混合物を、ゼオライト、タングステンドープチタニア、シリカ−チタニア、ジルコニア−チタニア、γ−アルミナ、非晶質シリカ−アルミナ及びそれらのいずれか二種以上の混合物からなる群から選択された粒状酸性耐火性酸化物と接触させ、排出ガスを大気に放出することを含む方法を開示している。粒状酸化物は、銅又は鉄などの金属又はその化合物を担持していてもよい。
【0018】
WO 2005/088091は、触媒により自動車の排気ガス流中のNOを還元する方法であって、NO吸収物質が触媒に設けられていることを特徴とする方法を開示している。一実施態様によれば、NO吸収物質は、必要に応じて銅及び/又は鉄などの酸化性金属イオンを含有するゼオライトである。金属イオンを含有するゼオライトも、NOを吸収することの他にNOをNOに酸化することができる。そのための方法は、20℃以下の温度でNOを吸収し、そして上昇させた温度(規定せず)でNOを脱着することを含む。NOを酸化する領域を、NOxを還元する領域と併用することができる。このような還元領域は、鉱物、例えば、ベントナイト、セピオライト、ヘクトライト及びモンモリロナイト(好ましくは塩基性カチオン、例えば、Ba、Na、Sr、Ca及びMgを含有)含み、炭化水素類と結合し、それらをより反応性のある種、例えば、アルデヒド類に転化する。NO還元剤、例えば、HC、CO/H又はアンモニアが開示されている。しかしながら、理解のできる限りでは、還元剤を触媒と接触させる温度については開示されていない。さらに、どのようにして主張されている利点の一部、例えば、従来技術のエンジンに対して最少52%のNOの減少が得られるのかを当業者が確認できる例がなにもない。
【0019】
特開平4−284825は、炭素原子数が2〜7である炭化水素類を排気ガスに導入し、得られた排気ガス混合物を金属含有ゼオライト(金属は、例えば、銅、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、クロム及びバナジウム)と接触させることにより、300℃を超える温度で排気ガス中のNOをNに還元する方法を開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、今般非常に驚いたことに、比較的低温の排気ガス条件、例えば、150℃未満、例えば、140℃未満、130℃未満、120℃未満、110℃未満、100℃未満、90℃未満、80℃未満、70℃未満又は60℃未満で窒素酸化物を還元する手段を見い出した。この知見は、特に、NOが法律が制定された運転サイクルにわたって、全体の総NO排出に影響する、リーンバーン内燃機関を最初に始動(「コールドスタート」として知られている)した直後の時期にNOを処理することに適用できる。
【0021】
本発明の一態様によれば、流動燃焼排気ガス中の窒素酸化物(NO)をNに還元する方法であって、50℃未満の触媒床温度で遷移金属/ゼオライト触媒により一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO)に酸化し、そしてNOを、150℃未満の触媒床温度で、炭化水素(HC)還元剤を用いて前記触媒で還元することを含む、方法が提供される。
【0022】
一実施態様によれば、HC還元剤を、流動燃焼ガスと接触させる前に、触媒上に吸着させる。
【0023】
別の実施態様によれば、HC還元剤が、CHC>50ppm、例えば、CHC>100ppm、CHC>200ppm、又はさらにはCHC>500ppmで、排気ガスに存在している。この限定の一つの理由は、正常動作条件(正常動作条件は、例えば、過酷な加速により生じる過渡的HC「スパイク」を除く)中に現在のディーゼルエンジンにより受動的に生じる排気ガスを有意に区別するためであるが、しかしながら、HCCIエンジン等の将来の利用される可能性のあるエンジンを含む。しかしながら、排気ガスに存在するCHC還元剤>50ppmは、積極的に排気ガスに導入することもできる。本発明による方法及びシステムは、HC還元剤を遷移金属/ゼオライト触媒と接触させる受動的態様及び積極的態様の両方を含む。
【0024】
一実施態様によれば、本発明の方法は、NOをNOに酸化する工程の前に触媒上にNOを吸着させることを含む。
【0025】
本発明者等の研究(以下の実施例で述べる)によれば、触媒表面へのNOの吸着を、NO酸化の前におこなってもよい。特に、本発明者等は、このような吸着が、硝酸バリウム等の新しい化学化合物がNOから形成する、NOトラップ(EP0560991参照)のNO吸収剤成分に化学吸収するのとは異なり、ゼオライト構造にNOを物理的にトラップすることを含む。本発明者等の実験は、ゼオライト構造におけるNO濃度が、遷移金属の不存在下で、50℃未満の触媒温度でのNO二量化(酸化)を促進することを示唆している。
【0026】
さらに、本発明者等の実験は、NOの還元の前に、一部のNO又はNOを放出されることがあることを示唆している。いずれの理論にも縛られることは望まないが、観察されたNOの放出は、次のうちのの一つ以上によるものであると思われる:NO還元に先行するNO脱着;HCによりNOが触媒表面から排除される;及びHC−SCRが生じるのと同時にNOが放出される。
【0027】
さらに、本発明者等の実験は、150℃未満の触媒床温度でNO還元が、活性遷移金属部位で生じ、したがって、NOがゼオライト構造を介して活性遷移金属部位に移動するか、又はゼオライト構造から脱着し、活性遷移金属部位で再吸着されることがあることを示唆している。
【0028】
したがって、本発明者等の実験から明らかなように、本発明の方法は、2工程プロセスを含む方法であって、第一工程が50℃未満の触媒床温度でのNO吸着を含み、第二工程がNO吸着工程よりは高温であるが150℃未満の温度で活性遷移金属部位でのNO還元を含んでいる、方法である。
【0029】
NOは、エンジンにおける燃焼プロセスから生じた排気ガス自体に存在してもよいので、一部のNOは排気ガスから直接触媒に吸着されることができる。したがって、触媒表面に吸着されたNOは、NOの酸化から得られたNOと、NO自体として排気ガスから吸着されたNOとの組み合わせでよい。さらに、本発明による方法においてNに還元された一部のNOが排気ガスからのものでもよい。すなわち、触媒表面から脱着されなくてもよい。
【0030】
炭化水素の不存在下で比較的低温でゼオライト触媒に吸着されたNOは、NOがHOの不存在下でゼオライト上で酸化されるとき、より高温でNOとして放出される(いわゆる「ウィスコンシンプロセス」)ことが知られている。ゼオライト/吸着NOを炭化水素と接触させることにより、NOの放出が抑制されることは知られている。非常に驚くべきことに、ゼオライトが鉄等の遷移金属(例えば、交換又は含浸された)を含有する場合、NOの抑制がNO還元、すなわち、HC−SCRと関連していることを見出した。
【0031】
(開示によれば、NO>10%でのフーリェ変換赤外質量バランス分析を用いて実施例5で述べる条件を用いたSCAT反応器においてNOのNへの還元を触媒する場合、触媒はHC−SCRについて活性がある(未計量))。
【0032】
Fe/ゼオライト等の一定の遷移金属/ゼオライト触媒がNH−SCR触媒として知られているので、本発明者等の知見は、比較的低温での系でHC−SCRを実施すること、及びより高温でのNH−SCRによるNO還元の実施の可能性を大きく切り開くものである。このような遷移金属として、コバルト、マンガン、セリウム、クロム、銅及び鉄などをあげることができる。しかしながら、日本においては、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム及びバナジウムを使用することが自粛されていることが知られている。したがって、一実施態様によれば、これらの金属は、本発明で使用される有効な遷移金属のリストからはずされる。
【0033】
本発明による方法におけるCHC:吸着NOモル比は、所望のNO転化を促進するように選択する。一実施態様によれば、CHC:吸着NOモル比は、30:1〜1:1である。しかしながら、より高い比では、燃料が過剰となる問題が生じることがあることが理解できるであろう。しかしながら、本発明では、特にNOを触媒上に吸着する工程の前に、HC還元剤を触媒上に吸着させる実施態様については、このようなより高い比でも可能であると思われる。さらなる実施態様によれば、CHCNO比は、例えば、20:1から、例えば、12:1、10:2又は8:3であることができる。
【0034】
本発明者等は、本発明で使用される遷移金属/ゼオライト触媒による、排気ガスからのNOの酸化及び/又はNOの吸着は、50℃未満の温度、例えば、40℃未満の温度又はさらには30℃未満の温度で、遷移金属/ゼオライト触媒により一般的に生じることを見出した。したがって、エンジンを始動したとき、例えば、エンジンを始動したとき、車の周囲温度が25℃の場合、周囲温度が0℃である場合よりも、吸着したNOの総モル量が少ないことがある。これは、周囲温度が0℃である場合、HC−SCRに十分な触媒温度となる前の正味NO酸化及び/又はNO吸着の機会がより大きいからである。したがって、流動排気ガスにおけるNOが最初に遷移金属/ゼオライトと接触する周囲温度で、CHCNO比がより大きな値にシフトすることがある。
【0035】
NOを遷移金属/ゼオライト触媒を用いてHCにより還元する工程は、150℃未満の触媒床温度で生じる。遷移金属/ゼオライトによるNO酸化及び/又は正味のNO吸着の温度範囲と、NO還元の開始温度とが一部重なることがあると思われる。しかしながら、HC−SCR活性は、NO酸化が生じる温度及び/又はNOがHCの不存在下で脱着する温度範囲、すなわち、約15℃を超える温度、例えば、約20℃を超える温度、約25℃を超える温度、約30℃を超える温度、約35℃を超える温度、約40℃を超える温度、約45℃を超える温度又は約50℃を超える温度とより密接に関連していると考えられる。
【0036】
燃焼排気ガスは、いずれのソースからのものでもよいが、一実施態様によれば、燃焼排気ガスはリーンバーン内燃機関における炭化水素燃料の燃焼からのものである。
【0037】
一実施態様によれば、炭化水素還元剤は、触媒と接触する排気ガス中、例えば、コールドスタート後の排気システムを流れる排気ガス中に既に存在している。別の実施態様によれば、炭化水素還元剤を、触媒にNOを吸着させる工程の前に、触媒に吸着させる。
【0038】
一実施態様によれば、本発明に使用する遷移金属は、コバルト、マンガン、セリウム、銅、鉄、クロム及びそれらのうちの2種以上の混合物からなる群から選択されたものである。
【0039】
別の実施態様によれば、本発明に使用する遷移金属は、白金又は他の白金属金属を除く全ての遷移金属を含む。
【0040】
遷移金属/ゼオライト触媒のゼオライト成分は、目的に好適ないずれかのもの、例えば、
ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、シリカライト、A、ベータゼオライト、Xゼオライト、Yゼオライト、リンデ型L又はホージャサイトであることができる。いずれの理論にも縛られることは望まないが、ゼオライト物質のシリカ:アルミナ比(SAR)が高いほど、NO転化率が高いと思われる。これは、ゼオライトのSARが大きいほど、NOを貯蔵するための酸部位がより多いからである。NO貯蔵能が大きいほど、温度の増加とともに、予想転化率が高くなる。好ましいゼオライトは、ベータゼオライトである。ゼオライトへの遷移金属の担持量は、例えば、全体として、触媒の総量基準で1〜10重量%でよい。
【0041】
触媒は、当該技術分野において公知のいずれかの方法、例えば、昇華、固体イオン交換、湿式含浸、又は水性スラリーでのイオン交換により調製できる。「過交換」触媒を使用してもよい。すなわち、上記した論文に報告されている200℃を超える温度でのHC−SCR活性の報告の多くとは異なり、どのような製造方法を採用しようとも、本発明による方法は能動的であると思われる。
【0042】
本明細書における「遷移金属/ゼオライト」とは、交換物質、及び遷移金属又はその化合物、例えば、焼成後の酸化物種の粒子が、ゼオライトに、それとの交換の必要なく存在する、例えば、湿式含浸により得られた物質を意味する。また、一部の遷移金属交換物質が、遷移金属自体又は遷移金属の化合物も含有していてもよい。
【0043】
遷移金属/ゼオライト触媒は、典型的には流動モノリス(金属又はセラミック)上に塗布されるか、又は押出基板として調製される(すなわち、遷移金属/ゼオライトは、基板自体を形成する材料の一部を構成する)。別法として、遷移金属交換ゼオライト触媒を、壁流動フィルター、焼結金属フィルター又は金属部分フィルター上に塗布(EP1276549に記載のようにして)するか、流動基板上に塗布して、EP1057519に記載されているもののような、平行チャンネルではなく蛇行流路を形成する。本明細書で使用される用語「基板」とは、流動モノリスとフィルターの両方を含む。
【0044】
いずれかの好適な炭化水素還元剤を使用することができるが、具体的実施態様によれば、炭化水素還元剤は、とりわけ燃焼排気ガス源がリーンバーン内燃機関の場合には、ディーゼル燃料である。
【0045】
また、遷移金属/ゼオライトはアンモニア等の好適な窒素系還元剤を用いてNOをNに還元することが知られている(例えば、米国特許第4、961、917号参照)ので、本発明の一実施態様によれば、還元剤源を炭化水素から窒素系還元剤に切り替えることにより、NO還元の範囲を触媒床温度≧150℃に拡大する工程が提供される。窒素系還元剤は、尿素又はカルバミン酸アンモニウム等の前躯体から得ることもできる。勿論、触媒床温度が、運転サイクル中、又は長時間のアイドリング中及び車が遅々として進まないときに生じることがある過渡的運転において、150℃未満に低下したときには、還元剤源を炭化水素に戻すことができる。さらに、本実施態様は、排気ガス中のNOの少なくとも一部分を、生じた排気ガスを遷移金属/ゼオライト触媒と接触させる前に、NOに酸化する工程を含む。このことは、本発明者等が理解する限り、単一の還元剤を使用することを開示している、すなわち、検出された触媒床温度に応答して2種の異なる還元剤を切り替えることを開示していない、WO2005/088091に開示されている方法とは対照的である。
【0046】
別の実施態様によれば、NO酸化触媒は、NO:NO比が2:1〜1:2又はそれ以下である混合物を含む排気ガスを生成するのに十分な活性を有するものである。後者の実施態様には、NO:NO混合物が、実質的に全てがNOであるか、又は実質的に全てがNOであるよりも、窒素系還元剤を用いてNOをNに還元するのにより高活性であるという利点がある(例えば、Nippon Kagaku Kaishi、1978、第6号、pp.874−881参照)。
【0047】
本発明の第二の態様によれば、システムに流れている燃焼排気ガス中のNOを処理するための排気システムであって、50℃未満の触媒床温度でNOをNOに酸化するための遷移金属/ゼオライト触媒と、使用中には150℃未満の触媒床温度で、前記触媒を十分なHC還元剤と接触させて、NOをNに還元するための手段と、を備えている排気システムが提供される。
【0048】
一実施態様によれば、使用中には前記触媒を前記HC還元剤と接触させる手段が、流動排気ガスの不存在下で前記触媒を前記HC還元剤と接触させる手段を備えている。しかしながら、この実施態様では、遷移金属/ゼオライトが全ての排気ガスを受容するように配置され、バイパス配置は意図していない。
【0049】
別の実施態様によれば、使用中には遷移金属/ゼオライト触媒を前記HC還元剤と接触させるための前記手段が、CHC>50ppmを前記排気システムに流れる排気ガスに注入するためのインジェクターを、例えば、エンジン排気マニホールドの下流に備えている。この実施態様によれば、炭化水素還元剤は、遷移金属/ゼオライト触媒を排気ガスに接触させるのに利用できるものでなければならず、したがって、炭化水素還元剤を排気ガス中に注入するインジェクターを遷移金属/ゼオライト触媒の下流に位置させてはならない。すなわち、インジェクターは、触媒の上流に配置及び/又は炭化水素を触媒に直接スプレーするように配置することができる。
【0050】
いずれの実施態様においても、触媒を十分なHC還元剤と接触させる手段は、使用中のCHCNOモル比が30:1〜1:1となるように構成できる。
【0051】
別の実施態様によれば、排気システムは、使用中には、触媒床温度≧150℃で、前記遷移金属/ゼオライト触媒を窒素系還元剤と接触させることにより、前記排気ガス中のNOをNに還元するための手段を備えている。本実施態様の特定の配置によれば、排気ガス中のNOの少なくとも一部分をNOに酸化するのに十分な活性を有する触媒を、遷移金属/ゼオライト触媒の上流に配置する。後者の配置によれば、排気システムが、システムの導管を流れる排気ガスに炭化水素還元剤を注入するインジェクターを備えている場合、特定の実施態様によれば、このインジェクターは、酸化触媒と遷移金属/ゼオライト触媒との間に配置される。
【0052】
HCを流動排気ガスに注入する場合、HCインジェクターと遷移金属/ゼオライト触媒との間に、好適なミキサーを備えて、HC流れ分布を向上させ、触媒との接触を増加させることが望ましいことがある。
【0053】
別の実施態様によれば、NO酸化触媒は、条件が遷移金属/ゼオライト触媒のNO還元に好ましいときには、NO:NO比が2:1〜1:2又はそれ以下である混合物を生成するのに十分な活性を有している。
【0054】
遷移金属/ゼオライト触媒の上流にNO酸化触媒を備えた配置のさらなる実施態様によれば、本発明者等によるEP0341832に開示されている配置において、酸化触媒と遷移金属/ゼオライト触媒との間に、フィルターを配置することができる。このフィルターは、壁流動フィルター又はEP1276549に開示されているような部分フィルターであることができる。この場合、還元剤インジェクターを、NO酸化触媒とフィルターとの間に位置させる(混合を向上させるため)か、又はフィルターと遷移金属/ゼオライト触媒との間に位置させることができる。
【0055】
別法として、HCを、NO酸化触媒の上流の排気システムに注入してもよい。EP1054722は、この組み合わせ、並びにNO酸化触媒、フィルター、還元剤インジェクター及びSCR触媒とを順次備えている排気システムを記載している。このような配置では、さらなるHCを、NO酸化触媒の上流の排気ガスに注入することにより、フィルターを積極的に再生して、NO酸化触媒上に注入したHCを燃やすことにより、フィルターの温度を上昇させ、そこに捕獲された粒状物質を燃やすことができる。本発明の一実施態様によれば、NOを還元するためのHCを供給するHCインジェクターは、HCを発熱性触媒/NO酸化触媒の上流の排気ガスに注入して積極的にフィルターを再生するHCインジェクターである。
【0056】
別法として、NO酸化触媒を、インジェクターをフィルターと遷移金属/ゼオライト触媒との間に配置したフィルター上に塗布されることができる。
【0057】
過剰の炭化水素還元剤、及び遷移金属/ゼオライト触媒を通過する窒素系還元剤(存在する場合)が大気中に放出されるのを防止するために、排気システムは、このような成分を酸化するための酸化触媒(「スリップ触媒」又は「クリーンアップ触媒」としても知られている)を備えていてもよい。このようなスリップ触媒を、遷移金属/ゼオライト触媒を担持する基板の下流端又は遷移金属/ゼオライト触媒の下流に位置する別個の基板上に塗布することができる。
【0058】
本発明の第三の態様によれば、リーンバーン内燃機関と、本発明による排気システムとを備えている装置が提供される。特定の実施態様によれば、エンジンにより、車等の移動用途用動力が得られる。しかしながら、本発明は、固定排出源燃焼ガスを処理するのにも使用できる。
【0059】
特定の実施態様によれば、エンジンはディーゼルエンジンであるが、リーンバーンガソリンエンジンや、液体石油ガス、天然ガス、ガス−液体燃料、石炭−化学燃料及びバイオ燃料により駆動されるエンジンでもよい。本発明に使用される炭化水素還元剤は、エンジンを駆動する燃料と同一でも、異なっていてもよい。
【0060】
一実施態様によれば、触媒をHC還元剤と接触させるための手段は、エンジン、例えば、インジェクターを一つ以上のエンジンシリンダーと関連させて備えている。使用中、炭化水素還元剤を排気ガスに、例えば、一般的なレール燃料注入を利用したエンジンへの遅いシリンダー内注入、又は従来の燃料注入システムにおける単なる遅い注入タイミングにより導入できる。
【0061】
本発明による装置の一実施態様によれば、触媒とHC還元剤とを接触させるための手段は、使用中には、触媒をHCに積極的に接触させて、HCを、エンジンの始動の前に触媒に吸着させる。本実施態様による有用な配置では、排気システムが、遷移金属/ゼオライト触媒に炭化水素還元剤を直接スプレーするインジェクターを備えている。
【0062】
本発明者等は、遷移金属/ゼオライト触媒上に水が存在すると、触媒の活性及び全体のNO転化率が減少することがあることを見出した。水が蒸気の形態であるとき、蒸気は燃焼排気ガス、例えば、内燃機関からの燃焼排気ガスの至るところに存在する成分である。しかしながら、実際には、蒸気は、触媒に到達する前に、排気ガス導管の内壁上又は遷移金属/ゼオライト触媒の上流に位置する触媒基板上で凝縮しやすい。しかしながら、さらなる実施態様によれば、水が触媒に接触するのを確実に防止するために、触媒の上流にウォータートラップを配置することができる。このようなウォータートラップは、例えば、ゼオライト5A、ゼオライト3A、ゼオライト4A又はゼオライト13Xを備えることができる。
【0063】
炭化水素還元剤を、エンジンの停止とエンジンの始動との間に、触媒に予め吸着する実施態様において特に有用な別の実施態様によれば、ウォータートラップを、テールパイプの大気への出口と触媒との間に位置させて、周囲の湿分が触媒に接近するのを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による排気システムの概略図である。
【図2】温度を上昇させた場合の、未金属化ゼオライト粉末試料とFe/ベータゼオライト触媒粉末試料へのNOの可逆的吸着を示すチャートである。
【図3】Fe/ベータゼオライト触媒へのNOの準大気吸着/脱着に対するプロパンの効果を示すチャートである。
【図4】Fe/ベータゼオライト触媒を出るプロパン還元剤を含む合成排気ガス混合物のフーリェ変換赤外(FTIR)分光分析に附した結果を示すチャートである。
【図5】Fe/ベータゼオライトについてのNO転化活性を示したチャートであって、炭化水素還元剤の前吸着を比較し、そして本発明の方法への水の影響を示している。
【図6】Cu/ベータゼオライト触媒からのNO脱着に対するプロパンの効果を示すチャートである。
【図7】Cu/ベータゼオライトの出口でのプロパン還元剤を含む合成排気ガスをFTIR分光分析に附した結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、本発明の実施態様を、添付図面を参照してより詳細説明する。
【0066】
図1において、本発明による排気システム10は、例えば、リーンバーン内燃機関(図示せず)の流動排気ガスを搬送するための導管12を備えている。缶14内には、活性成分、例えば、モノリス基板を介してセラミック流上にウォッシュコーティングした高表面積アルミナ担持体に白金を担持した酸化触媒16が配置されている。モノリス基板を介した下流セラミック流に、Fe/ベータゼオライト触媒18をコーティングし、下流端にアルミナ担持体に白金を担持したスリップ触媒20をコーティングして、それぞれ炭化水素とアンモニアを酸化して、水と炭酸ガス及び窒素酸化物にするようにしている。インジェクター22を、酸化触媒16とFe/ベータゼオライト触媒18との間の缶に配置し、例えば、ディーゼル燃料の容器24からの炭化水素還元剤26と、容器30に入れられているアンモニア前駆体、尿素、28を、それぞれ別個のライン23A及びライン23Bから供給される。ライン23Aとライン23Bにおける還元剤の流れは、それぞれバルブ32A及びバルブ32Bにより制御される。
【0067】
実際には、熱電対34により検出され、Fe/ベータゼオライト触媒18床の温度を表す信号を、予めプログラムされたECUにフィードバックして、このような温度にしたがって、バルブ32A及びバルブ32B並びにポンプ36及び38を制御する。特に、床温度が150℃未満のときには、バルブ32Bを閉じた状態に維持し、インジェクター22を介した炭化水素の注入量を、バルブ32Aの姿勢を変えること、及びポンプ36の流量を制御することにより、ECUにより制御する。触媒床温度≧150℃で、排気システムを流れる排気ガスへの炭化水素還元剤の供給を、ポンプ36の停止とバルブ32Aを閉めることとを組み合わせることにより、ECUの制御下で停止する。触媒床温度≧150℃で、尿素28の供給を、バルブ32Bを可変状態で開くことと、ポンプ38の制御により、ECUの制御下で開始する。触媒32の上流で尿素をアンモニアに分解するために、インジェクター22と触媒18との間に位置する尿素を加水分解するための排気ガス流により加熱した好適な触媒を挿入することが望ましいことがある。別法として、又は追加として、インジェクター22の上流の好適な加熱した触媒により尿素を加水分解することができる。この後者の配置では、インジェクターの閉塞を減少させたり、防止したりすることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、実施例は説明の目的のみで示されるものである。
【0069】
[実施例1]Fe/ベータゼオライト触媒の製造方法
市販のベータゼオライトを、NHNO溶液中でNHイオン交換した後、濾過した。得られた物質を、Fe(SO水溶液に、攪拌しながら添加した。得られたスラリーを濾過後、洗浄し、乾燥した。上記手順を反復して所望の金属担持量とすることができる。
【0070】
[実施例2]Cu/ベータゼオライトの製造方法
実施例1のFe/ベータゼオライト材と同様の金属担持量のCu/ベータゼオライトを、以下のようにして調製した。実施例1の材料におけるベータゼオライトよりも、シリカ:アルミナ比が低い市販のベータゼオライトを、NHNO溶液中でNHイオン交換した後、濾過した。得られた物質を、CuSO水溶液に、攪拌しながら添加した。得られたスラリーを濾過後、洗浄し、乾燥した。上記手順を反復して所望の金属担持量とすることができる。
【0071】
[実施例3]モノリスコアの調製
実施例1及び実施例2で調製した各触媒のウォッシュコートを、従来の方法で調製した。すなわち、触媒粉末を微粉砕し、触媒粉末を水に添加し、得られたスラリーを攪拌し、スラリーのpHをNHで4まで上昇させ、攪拌を続けながら市販のレオロジー調整剤を添加し、pHをNHで7まで上昇させ、ウォッシュコートを2〜3日間熟成してから、コーティングした。
【0072】
ウォッシュコートを、独自のコーティング法により、コージェライトモノリスに適用した。得られたコーティッドモノリスを、105℃で乾燥し、500℃で4時間焼成した。モノリスコアを、好適なツールで、調製したモノリスから切断した。
【0073】
[実施例4]Fe/ベータゼオライト及び未金属化ベータゼオライト粉末SCAT反応器分析
実施例1の方法で得られたFe/ベータゼオライト粉末触媒(破砕及び篩分け(255〜350μm))1gを、SCAT(合成触媒活性試験)反応器中で、NO2500ppmと、O12%と、CO400ppmと、CO4.5%と、残部がNであるガス混合物に、−8℃でガス量1L/分で暴露した(SV=14000h−1)。ガス混合物を、入口(すなわち、触媒をバイパスしながら)で4分間分析した後、出口(すなわち、ガスを触媒を通過させながら)で、NO吸着段階において、5分間分析した。次に、温度を−8℃から120℃まで、同じガス混合物において10℃/分で傾斜上昇させた。
【0074】
結果を、図2に示す。図2から、排気ガス温度−8℃では、排気ガスの入口NO組成が、NO100%(NO2500ppm、左側軸)組成ことが明らかである。しかしながら、触媒出口では、放出されたNOは約500ppmでしかなかった。このことは、NOがゼオライトに吸着されていることを示唆している。入口ガス温度が上昇しはじめると、NOのスパイクが両方の試料において観察される。これは、同時のNOスパイクがないので、NO(自動車のディーゼルエンジンでは、排気ガス中のNO濃度はコールドスタートでは極めて低いことが予想される)によるものとすることができる。NOは、HOの不存在下で、貯蔵された高濃度のNOが触媒により酸化されることによる生成物として生成すると思われる。この現象は、工業プロセス、例えば、ウイスコンシンプロセスから知られている。NOピークが未金属化ゼオライトとFe/ベータゼオライトとの両方で観察されることから、鉄/ゼオライトにおける金属は、NOの発生には関与していないことが明らかである。
【0075】
[実施例5]モノリスコアSCAT反応器及びFTIR分析
実施例1で調製されたFe/ベータゼオライトでウォッシュコートした実施例3の方法で得たモノリスコア(直径15mm×長さ30mm)を、SCAT反応器中で、実施例4に記載したのと同じ条件下で同じガス混合物に曝露した。次に、モノリスを、オフラインで−8℃に冷却し、プロセスを反復した。しかしながら、今回は原料に存在するC(C)としてHC5000ppmでおこなった。図3から、図2に示す粉末試料について得られた結果が、モノリスについても同様であることが明らかである。また、HC、NO(NO及びNO)の存在下では、Fe/ベータゼオライトについての放出が抑制されることが分かる。吸着したNOがどのようになったかをみるために、原料中にプロパンを含むSCAT反応器試験の過程にわたって、排気ガスの組成を、フーリェ変換赤外分光法(FTIR)を用いて分析した。結果を、図4に示す。総窒素酸化物が、成分NO、NO、NOx2(存在する窒素の2原子)で表される。時間=0秒から時間=約500秒までの総NOについて、約2500ppm未満の領域は、鉄/ゼオライト触媒へのNOの正味吸着量を表す。一方、温度を上昇したときにt=500秒後、2500ppmを超える領域は、NO種の正味脱着量を表す。
【0076】
これらの領域により表される物質収支の差、すなわち、総吸着NO:総脱着NOは、HC−SCRが生じていることを示していると解釈できる。また、少量のNOがウォームアップ期間中に検出され、このことからも、NO還元、すなわち、HC−SCRが生じていることが明らかである。したがって、NOがNに転化されたことが明らかである。
【0077】
吸着段階中の総NO貯蔵%として図4から算出された物質収支を、表1に示す。
【0078】
表 1
吸着段階中NO貯蔵% Fe/ベータ
NOとして放出されたNO% 6.0
Oとして放出されたNO% 55.9
未計量NO%(Nであると思われる) 38.1
【0079】
[実施例6]炭化水素還元剤の前吸着の効果
を、Fe/ベータゼオライトウォッシュコートモノリスコア(直径15mm×長さ30mm)に吸着させてから、これを、C(ClOOOppm)(12%O)、CO400ppm、CO4.5%、残部Nに、110℃で4分間暴露することにより、SCAT反応器試験をおこなった。同一の第二コアを調製し、同じ合成ガスに、110℃で4分間暴露した。但し、この場合、混合ガスにさらに水を4.5%含有させた。未処理鉄/ベータゼオライトコアを、対照として使用した。
【0080】
次に、これらの試料を、ガス混合物を用いて、プロパンを存在させずに、実施例4に概略述べた条件で、SCAT反応器中で試験した。結果を、図5に示す。
【0081】
図5から、炭化水素が原料中に存在しない場合、図3に見られるようにNOが触媒上に吸着されることが明らかである(出口ガスにおけるNO含量がNO2500ppmからNO約500ppmに減少している)。しかしながら、NOの放出に起因するNOのスパイクが、15分の時点で見られる。炭化水素を前吸着したときには、初期のNO吸着では、NOのスパイクは抑制されて、生じず、そして図4に示すFTIR試験で見られるように、HC−SCRが生じていることは明らかである。しかしながら、HOが触媒に前吸着した場合には、NOの放出量が穏やかに増加することも明らかであり、したがって、触媒上にHOが存在すると、HC−SCRプロセスを妨害することがあると結論できる。
【0082】
[実施例7]Cu/ベータゼオライト
実施例2で調製したCu/ベータゼオライト触媒を用いて、実施例5と同様の手順を反復した。結果を、図6に示す。Fe/ベータゼオライト試料と同様に、温度を増加すると、NO吸着とNO放出の現象が生じることが明らかである。また、原料中にプロパンが存在するとき、多少のHC−SCR NO転化が生じるが、Fe/ベータゼオライト試料のようにNO転化の程度はそれほど顕著ではないことも明らかである。これは、炭化水素が存在するとき、18分間を超えると、NO2500ppm超の小さく長いピークが見られるから言える。
【0083】
原料にプロパンを含むCu/ベータゼオライト試験についての出口ガスをFTIR分析した結果を、図7に示す。吸着段階中の総NO貯蔵%として図7から算出された物質収支を、表2に示す。
【0084】
表 2
スタートアップ中NO貯蔵% Cu/ベータ
NOとして放出されたNO% 54.2
Oとして放出されたNO% 28.4
未計量NO%(Nであると思われる) 17.4
【0085】
表1の結果と比較することにより、Cu/ベータゼオライトは、HC−SCRについて活性があるが、Fe/ベータゼオライト材料よりもNO転化率が小さい(Fe/ベータゼオライトではNO転化率が少なくとも38%であるのに対して、NO転化率が17.4%)ことが明らかである。これは、Cu/ベータゼオライト触媒に使用したゼオライトのSARがより低いことによると思われる。しかしながら、Cu/ベータゼオライトが極微量のNOを生成していることから、少なくとも多少なりともHC−SCRが生じていることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動燃焼排気ガス中の窒素酸化物(NO)をNに還元する方法であって、
50℃未満の触媒床温度で、遷移金属/ゼオライト触媒により一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO)に酸化し、及び
150℃未満の触媒床温度で、炭化水素(HC)還元剤を用いて前記触媒でNOを還元することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記流動燃焼ガスと接触させる前に、前記触媒上に前記HC還元剤を吸着させてなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HC還元剤が、CHC>50ppmで排気ガスに存在してなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記排気ガス中に存在するHC還元剤が、前記排気ガスに積極的に導入されたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CHC:NOモル比が、30:1〜1:1である、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記NOをNOに酸化する工程より前に、前記触媒上にNOを吸着させることを含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属が、コバルト、マンガン、セリウム、銅、鉄、クロム及びそれらのうちの2種以上の混合物からなる群から選択されたものである、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属が、鉄である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ゼオライトが、ZSM−5、A、ベータ、X、Y、リンデ型L及びホージャサイトからなる群から選択されたものである、請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゼオライトが、べータゼオライトである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記燃焼排気ガスが、リーンバーン内燃機関における炭化水素燃料の燃焼から生じたものである、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化水素還元剤が、ディーゼル燃料である、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
触媒床温度≧150℃で、前記遷移金属/ゼオライト触媒を窒素系還元剤と接触させることにより、前記燃焼排気ガス中のNOをNに還元することを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記窒素系還元剤が、アンモニアである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
得られた排気ガスを前記遷移金属/ゼオライト触媒と接触させるよりも前に、前記排気ガス中のNOをNOに酸化して、NOとNOを含むガス混合物を得る工程を含んでなる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
システムに流入する燃焼排気ガス中のNOを処理するための排気システムであって、
50℃未満の触媒床温度で、NOをNOに酸化するための遷移金属/ゼオライト触媒と、
使用中に、150℃未満の触媒床温度で、前記触媒を十分なHC還元剤と接触させて、NOをNに還元するための手段とを備えている、排気システム。
【請求項17】
使用中に、前記触媒を前記HC還元剤と接触させる手段が、流動排気ガスの不存在下で前記触媒を前記HC還元剤と接触させる手段を備えてなる、請求項16に記載の排気システム。
【請求項18】
前記遷移金属/ゼオライト触媒を前記HC還元剤と接触させる前記手段が、CHC>50ppmを前記排気システムに流入する排気ガスに注入するためのインジェクターを備えてなる、請求項16に記載の排気システム。
【請求項19】
前記HC接触手段が、使用中には、CHC:NOモル比が、30:1〜1:1となるように構成されてなる、請求項16〜18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記遷移金属が、コバルト、マンガン、セリウム、銅、鉄、クロム及びそれらのうちの2種以上の混合物からなる群から選択されたものである、請求項16〜19の何れか一項に記載の排気システム。
【請求項21】
前記遷移金属が、鉄である、請求項20に記載の排気システム。
【請求項22】
前記ゼオライトが、ZSM−5、A、ベータ、X、Y、リンデ型L及びホージャサイトからなる群から選択されたものである、請求項16〜21の何れか一項に記載の排気システム。
【請求項23】
使用中には、触媒床温度≧150℃で、前記遷移金属/ゼオライト触媒を窒素系還元剤と接触させることにより、前記排気ガス中のNOをNに還元するための手段を備えていな、請求項16〜22の何れか一項に記載の排気システム。
【請求項24】
NO還元に好ましい条件であるときに、前記排気ガス中のNOをNOに酸化してNO及びNOを含むガス混合物を得るのに十分な活性を有する触媒(酸化触媒)を、前記遷移金属/ゼオライト触媒の上流に配置し備えてなる、請求項23に記載の排気システム。
【請求項25】
HCを酸化する触媒と、必要に応じて前記遷移金属/ゼオライト触媒を迅速に通過する窒素系還元剤とを備えてなる、請求項16〜24の何れか一項に記載の排気システム。
【請求項26】
リーンバーン内燃機関と、請求項16〜25の何れか一項に記載の排気システムとを備えてなる、装置。
【請求項27】
前記機関がディーゼルエンジンである、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
前記機関が、使用中に、前記触媒をHC還元剤と接触させる前記手段を備えてなる、請求項26又は27に記載の装置。
【請求項29】
前記触媒をHC還元剤と接触させる前記手段が、使用中には、前記機関を始動させる前に、前記触媒をHCと積極的に接触させて、HCを前記触媒上に吸着させるものである、請求項26〜28の何れか一項に記載の装置。
【請求項30】
ウォータートラップを、前記遷移金属/ゼオライト触媒の上流及び/又は前記遷移金属/ゼオライト触媒の下流に配置し備えてなる、請求項26〜29の何れか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−502418(P2010−502418A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526180(P2009−526180)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050013
【国際公開番号】WO2008/026002
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】