説明

低温焼成基板材料及びそれを用いた多層配線基板

【課題】 α−石英成分の含有量を調整して、一定の比誘電率の差を確保しつつ、線熱膨張係数を制御できる低温焼成基板材料を提供する。また、この低温焼成基板材料により、低誘電率層と高誘電率層を有する多層配線基板において、大型化する集合基板の反りを低減でき、誘電率層の配置設計上の自由度を確保できる多層配線基板を提供する。
【解決手段】 低温焼成基板材料は、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスを60〜78vol%、アルミナを12〜38vol%、及び、α−石英を2〜10vol%を含有することを特徴とし、多層配線基板とするときはα−石英の含有量を調整し、層間の線熱膨張係数の差を0.25×10−6/℃以内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成分とセラミックス成分とからなるガラス−セラミックス基板、すなわち低温焼成基板材料と、これを用いた多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子応用機器の急速な発展とともに、電子機器の小型化、高密度実装化の要求が高まっており、これにともない電子機器の配線基板などに用いる基板材料の開発が行われている。また、電子機器を積載する基板についてもインダクタやキャパシターなどの素子を内蔵する多層配線基板の開発が行われている。さらに導体材料や抵抗材料と同時焼成を行うために、1000℃以下の低温で焼成が可能なガラス−セラミックス材料やこれを用いた基板(低温焼成基板、LTCC基板)に関する技術の開示がある(例えば特許文献1又は特許文献2を参照。)。この材料及び基板は、高周波重畳モジュール、アンテナスイッチモジュール、フィルタモジュール等のLTCCモジュールとして利用される。
【0003】
この多層配線基板の従来の製造方法は、基板材料を調合、成形、孔あけ、メタライズ印刷した後、各製品の大きさに切断し、切断した基板を焼成する工程をとり、焼成後の基板にIC等の電子機器を積載し製品として完成させるものである。
【0004】
近時においては、生産効率向上のため集合基板として製造する方法が要求されるようになってきている。この方法は、基板材料の調合からIC等の積載まで基板の集合体として製造し、製品化の最終段階で各製品の大きさに切断する方法である。このとき集合基板から得られる製品の精度を保つために、集合基板の平面性がますます要求されるようになっている。
【0005】
同時に、LTCCモジュールの高集積化、小型化を進めるためには、同誘電率のガラス−セラミックス混合層を積層させた多層配線基板のみならず、誘電率の異なるガラス−セラミックス混合層を積層させて多層配線基板を形成することが望まれる。
【特許文献1】特開平1−132194号公報
【特許文献2】特開平5−211006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多層配線基板を集合基板として焼成すると、低誘電率層と高誘電率層との材質の違いによる線熱膨張係数の差に起因して集合基板全体に反りが生じる。この反りは、その後基板に積載するIC等の実装信頼性の低下を招くことになる。またこの傾向は、集合基板の大型化にともないより顕著になる。
【0007】
この反りの問題への解決策の一つとして、多層配線基板の積層方向の中心から低誘電率層と高誘電率層を対称に配置し、線熱膨張係数の違いをキャンセルし、焼成品の反りを防止する手段が講じられている。しかしこの手段は、誘電率層の配置が限られ設計上の自由度が少ないという欠点がある。
【0008】
また、多層配線基板の低誘電率層及び高誘電率層に使用する材料成分を制限なく変更し、各線熱膨張係数を合わせ、反りを低減するという手段も考えられる。しかし、多層配線基板では、各誘電率層の相互の比誘電率の差を大きく確保し、高容量のキャパシター層を含ませ、モジュールの薄型・小型化をはかることが要求される。そのため、異なる材料からなる層を有する多層配線基板では、比誘電率を考慮しつつ線熱膨張係数を合致させることが重要になる。つまりは、一方の誘電率層の比誘電率に対し、所定の比誘電率を確保しつつ、一方の誘電率層の線熱膨張係数を合致させることのできる低温焼成基板材料の提供が必要となる。
【0009】
従って、本発明では、一定の比誘電率の差を確保しつつ、線熱膨張係数を制御できる低温焼成基板材料を提供することが課題となる。また、この低温焼成基板材料により、低誘電率層と高誘電率層を有する多層配線基板において、大型化する集合基板の反りを低減でき、誘電率層の配置設計上の自由度を確保できる多層配線基板を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の低温焼成基板材料は、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスを60〜78vol%、アルミナを12〜38vol%、及び、α−石英を2〜10vol%含有することを特徴とする。α−石英の含有量を調整することで、低温焼成基板材料としての特性の一つである線熱膨張係数の制御が可能な材料を提供することができる。
【0011】
また、本発明の低温焼成基板材料は、50〜300℃における線熱膨張係数6.40×10−6〜6.90×10−6/℃とすることが好ましい。また、室温1.9GHzにおける比誘電率が6.8〜7.6とすることが好ましい。
【0012】
本発明に係る多層配線基板は、ガラス−セラミックス混合層が積載されている多層配線基板において、前記ガラス−セラミックス混合層のうち少なくとも1層が本発明に係る低温焼成基板材料からなることを特徴とする。本発明に係る低温焼成基板材料を用いることで、他のガラス−セラミックス混合層と組み合わせるに際して、線熱膨張係数を合致させ、反りを低減できる。
【0013】
本発明に係る多層配線基板では、本発明に係る低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層以外の他のガラス−セラミックス混合層と本発明に係る低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層との50〜300℃における線熱膨張係数の差が0.25×10−6/℃以下であることが好ましい。線熱膨張係数の差を上記の範囲とすることで、反りを低減できる。
【0014】
また本発明に係る多層配線基板では、本発明に係る低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層以外の他のガラス−セラミックス混合層は、室温1.9GHzにおける比誘電率が10以上であることが好ましい。誘電率の異なるガラス−セラミックス混合層を積層させて多層配線基板を形成し、LTCCモジュールの高集積化、小型化を進めることができる。
【0015】
本発明に係る低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層以外の他のガラス−セラミックス混合層の具体的な例として、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスが60〜78vol%、アルミナが8〜30vol%、及び、チタニアが8〜30vol%含有されていることが好ましい。このガラス−セラミックス混合層によれば、50〜300℃における線熱膨張係数は6.4×10−6/℃〜6.9×10−6/℃程度、比誘電率は10〜13程度であり、LTCCモジュールとしての使用ができるものであるからである。
【0016】
また本発明に係る多層配線基板では、ガラスセラミックス混合層間の線熱膨張係数の差を小さくすることで反りの発生を抑制するが、その反りは50mm角の大きさ当たりで200μm以下である場合が含まれる。また、その反りが100mm角の大きさ当たりで200μm以下である場合も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、α−石英の含有量の調整により一定の比誘電率を確保しつつ線熱膨張係数の制御が可能な低温焼成基板材料を提供できる。また、材質の異なるガラス−セラミックス混合層を積層させた多層配線基板において、積層構造を対称構造としなくても焼成品の反りが小さい多層配線基板を提供できる。これにより、多層配線基板に高容量のキャパシター層を入れることで、モジュールの薄型・小型化をはかりつつ、設計の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に実施の形態を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0019】
本発明の低温焼成基板材料は、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスを60〜78vol%、アルミナ(Al)を12〜38vol%、及び、α−石英(SiO)を2〜10vol%含有することが重要である。
【0020】
本発明における前記のガラス成分は、SiO46〜60重量%、好ましくは47〜55重量%、B0.5〜5重量%、好ましくは1〜4重量%、Al6〜17.5重量%、好ましくは7〜16.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%、好ましくは30〜40重量%の組成を有することが必要である。このSiOが46重量%未満ではガラス化が困難になるし、60重量%を超えるとガラス軟化点が高くなりすぎて低温焼結ができなくなる。また、Bは5重量%よりも多くすると、焼結後における耐湿性の低下を招くし、また0.5重量%よりも少なすぎるとガラス化温度が若干高くなるとともに焼結温度が高くなりすぎるので好ましくない。さらにAlが6重量%未満では、ガラス成分の強度が低下するし、17.5重量%を超えるとガラス化が困難になる。このガラス成分中のアルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、BaO及びSrOがあるが、その合計量の少なくとも60重量%、好ましくは80重量%以上がSrOであることが必要である。この量が60重量%未満では、ガラス軟化点が高くなり、低温焼成化が困難となる。そして他のCaO、MgO、BaOの若干を複合添加することにより、溶解ガラスの粘性を低下させ、焼結温度幅を拡大することができ、製造が容易になるので、これらを混合使用することが好ましい。添加効果の点では、前記アルカリ土類金属酸化物中のCaOとMgOとBaOは合計で1重量%以上にするのが好ましく、さらにCaOとMgOはそれぞれ0.2重量%以上、特に0.5重量%以上にするのが好ましい。前記アルカリ土類金属酸化物中のCaOは、10重量%未満、MgOは6重量%以下にするのが好ましい。これらの酸化物の量がそれよりも多くなると高強度の磁器が得られず、また、ガラスの結晶化度の制御が困難になる。
【0021】
本実施形態にかかる低温焼成基板材料において、ガラス成分は、60〜78vol%とする必要がある。ガラス成分が60vol%未満ではち密な焼結体が得られなくなり、78vol%を超える、すなわちセラミックス成分が22vol%未満となると基板材料の抗折強度が著しく低下するためである。また、78vol%を超えない範囲でα−石英を一定量としガラス成分を増減すると、微少ではあるが線熱膨張係数の制御が可能となる。
【0022】
α−石英の成分は、2〜10vol%とする必要がある。α−石英成分が10vol%を超えると一定の比誘電率を確保しつつ線熱膨張係数を増加することが難しくなり、2vol%未満となると線熱膨張係数の増加がはかれないためである。アルミナ成分は、12〜38vol%とする必要がある。
【0023】
本実施形態にかかる低温焼成基板材料は、各成分の組成比率の増減を調整することで一定の比誘電率を確保しつつ、線熱膨張係数を所定の範囲に設定するという制御を行うことを目的とするものである。具体的には、50〜300℃における線熱膨張係数を6.40×10−6〜6.90×10−6/℃、室温1.9GHzにおける比誘電率を6.8〜7.6にすることが好ましい。この線熱膨張係数、比誘電率を有する誘電率層用材料はLTCCモジュールの低誘電率層として適しているからである。
【0024】
本実施形態の低温焼成基板材料は、本発明の目的に反しない限り、他の成分を含有させても良い。
【0025】
本実施形態にかかる低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層のみを積層して多層配線基板としても良いが、図1に示すように本実施形態では、ガラス−セラミックス混合層のうち少なくとも1層が本実施形態にかかる低温焼成基板材料からなることとし、異組成のガラス−セラミックス混合層を積層して多層配線基板とすることができる。図1に多層配線基板の断面概略図を示した。(1)の(a)〜(e)及び(2)の(a)〜(e)で示した積層構造は、異組成のガラス−セラミックス混合層を非対称構造に積層した場合の具体例であり、(3)の(a)〜(e)で示した積層構造は、異組成のガラス−セラミックスを対称構造に積層した場合の具体例である。図1では2組成のガラス−セラミックス混合層を積層して多層配線基板を得た場合を示し、例えば斜線部分で示したガラス−セラミックス混合層が本実施形態にかかる低温焼成基板からなり、斜線のない白部分で示したガラス−セラミックス混合層が他の低温焼成基板材料からなる。なお、3種類以上の異なる組成のガラス−セラミックス混合層からなる多層配線基板としても良い。
【0026】
本実施形態にかかる低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層と別組成のガラス−セラミックス混合層とを組み合わせて多層基板とする場合、ガラス−セラミックス混合層間の50〜300℃における線熱膨張係数の差を0.25×10−6/℃以下とすることで、集合基板の反りを抑制することができる。反りは図2のwで示される。積層された各ガラス−セラミックス混合層間の線熱膨張係数の差を0.25×10−6/℃以下とすることで、多層配線基板の反りwは、50mm角の大きさ当たりで200μm以下、或いは100mm角の大きさ当たりで200μm以下とすることができる。このとき、基板の一辺の長さ(長辺と短辺があるときは長辺)をtとして、w/tで求められる反り率を、0.4%以下、好ましくは0.2%以下とできる。
【0027】
線熱膨張係数の差が0.25×10−6/℃を超える場合には、反りを小さくするために、例えば図1(3)の(a)〜(e)で示す積層構造のように、積層方向の中心で対称となるようにガラス−セラミックス混合層を配置せざるを得ない。しかし、本実施形態にかかる多層配線基板では、線熱膨張係数の差をα−石英の含有量により0.25×10−6/℃以内に制御できるので、図1(1)の(a)〜(e)及び(2)の(a)〜(e)で示す積層構造のように非対称構造に積層しても、反りを小さく保つことができる。
【0028】
本実施形態にかかる低温焼成基板材料以外からなる他のガラス−セラミックス混合層として、例えば特許文献2記載の低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層を選択することができる。特許文献2記載の低温焼成基板材料は、50〜300℃における線熱膨張係数は6.4×10−6/℃〜6.9×10−6/℃程度、室温1.9GHzにおける比誘電率は10〜13程度である。よって本発明にかかる低温焼成基板材料と組み合わせて多層基板とするために好適である。特許文献2記載の低温焼成基板材料は、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスが60〜78vol%、アルミナが8〜30vol%、及び、チタニアが8〜30vol%含有されている。チタニアは比誘電率を高めるために添加し、8vol%未満では比誘電率が低くなり、高誘電率層としての使用に不適である。30vol%を超えると低温焼成基板材料の線熱膨張係数が大きくなりすぎる。アルミナは比誘電率の調整として添加されるが、30vol%を超えると低温焼成基板材料の線熱膨張係数が大きくなりすぎる。
【0029】
前記他のガラス−セラミックス混合層のガラスを60〜78vol%とするのは、60vol%未満では焼結性が悪化し、78vol%を超えると抗折強度が低下するためである。また、このガラスを用いる際、アルミナ及びチタニア全体に対するチタニアの含有量は45〜55vol%が好ましい。アルカリ土類金属酸化物としては、SrO、CaO及びMgOの1種以上、特に前記3種を併用することが好ましく、3種を併用する場合、SrOの含有量は15〜30重量%、CaOの含有量は1〜8重量%、MgOの含有量は1〜7重量%が好ましい。
【0030】
他のガラス−セラミックス混合層を特許文献2記載の低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層とした場合、50〜300℃における層間での線熱膨張係数の差を0.25×10−6/℃以内より好ましくは0.1×10−6/℃以内とし、且つ層間での比誘電率の差を2以上確保するためには、本実施形態にかかる低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層において、α−石英の含有量を好ましくは2〜8vol%、より好ましくは4〜6vol%とする。また、アルミナの含有量は好ましくは12〜38vol%、より好ましくは20〜36vol%、ガラスの含有量は60〜74vol%が好ましい。
【0031】
本発明にかかる低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層以外の他のセラミックス混合層は、少なくとも1層以上について、例えば特許文献2記載の配線基板にかかる低温焼成基板材料により形成する。好ましくは全ての他のガラス−セラミックス混合層を特許文献2記載の配線基板にかかる低温焼成基板材料により形成する。
【0032】
本実施形態の多層配線基板を製造するには、例えば前記のセラミックス成分及びガラス成分の原料をそれぞれ平均粒径10μm以下、好ましくは1〜4μmの粉末として混合し、これに水若しくは溶剤及び必要に応じ適当なバインダーを加えてペーストを調整する。次にこのペーストをドクターブレード、押出機などを用いて厚さ0.1〜1.0mm程度のシート状に成形し、セラミックスグリーンシートを得る。このセラミックスグリーンシートを複数枚積層し、40〜120℃の加温状態でプレスし、積層体を得る。この積層体を800〜1000℃で同時に焼結する。これにより多層基板が得られる。また、各成分の粉末状混合物をそのまま乾式プレスしてシート状に成形し、これを複数枚積層した後プレスして積層体を得て、これを焼結してもよい。この際、導体、抵抗体、オーバーコート、サーミスターなどを施し、同時焼成することで、多層配線基板としても良い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。表1で示す組成となるように、ガラス、アルミナ、α−石英の各粉末をボールミルで16時間混合し、得られた混合粉末(平均粒径1.5μm)をトルエン、エタノール等の有機溶剤及びバインダーを加えてペースト化して塗料を得る。ここでガラスの組成は、酸化物換算で、50重量%SiO+2重量%B+11重量%Al+1重量%MgO+3重量%CaO+33重量%SrOとした。この塗料を用いてドクターブレード法でセラミックスグリーンシートを成形した。セラミックスグリーンシートの厚さは、焼成後80μmとなるように調整した。このセラミックスグリーンシートを6層積層した後、プレスし、850〜950℃で2時間焼成を行った。これにより、厚さ480μmの単独組成の多層基板を得た。得られた多層基板の室温1.9GHzにおける比誘電率εr、Q(1/tanδ)、50〜300℃における線熱膨張係数α及び抗折強度を表1に示す。比誘電率及びtanδは、HEWLETT PACKARD社製装置名ネットワークアナライザ型番HP8510Cを用いて、摂動法により測定した。線熱膨張係数は、MAC社製装置名DILATOMETER型番5000を用いて測定した。抗折強度は、INSTRON社製装置名万能材料試験機型番5543を用いて三点曲げ法により求めた。
【表1】

【0034】
(α−石英の組成比率変更による線熱膨張係数の制御)
まず、組成1〜組成4によって示されるように、アルミナをα−石英で置換した場合、すなわち、組成式0.70ガラス+(0.30−x)アルミナ+xα−石英において、xを変化させた場合は、線熱膨張係数は図3に示すように変化し、比誘電率は図4に示すように変化する。さらに、組成7〜組成10によって示されるようにアルミナをα−石英で置換した場合、すなわち、組成式0.60ガラス+(0.40−x)アルミナ+xα−石英において、xを変化させた場合は、線熱膨張係数は図5に示すように変化し、比誘電率は図6に示すように変化する。また、組成15及び組成16は、組成式0.78ガラス+(0.22−x)アルミナ+xα−石英において、xを変化させた場合であり、線熱膨張係数は図7に示すように変化し、比誘電率は図8に示すように変化する。α−石英は、50〜300℃の線熱膨張係数が15.0×10−6/℃、比誘電率が7.0であり、一方、アルミナは50〜300℃の線熱膨張係数が7.2×10−6/℃、比誘電率が9.8である。したがって、アルミナをα−石英で置換する置換量を増やすと、図3、図5、図7に示すように線熱膨張係数は上昇し、図4、図6、図8に示すように比誘電率は低下する。ただし、アルミナとα−石英の比誘電率の変化は線熱膨張係数の変化に比べると緩やかな傾向にある。したがって、アルミナをα−石英で置換することにより、低温焼成基板材料の比誘電率を大きく変えることなく、線熱膨張係数を上昇させるように制御できることが明らかとなった。
【0035】
(ガラス成分の組成比率変更による線熱膨張係数の制御)
次に、組成12〜組成14によって示されるように、α−石英を一定量含有しつつ、アルミナをガラスで置換した場合、すなわち、組成式xガラス+(0.94−x)アルミナ+0.06α−石英において、xを増加させた場合は、線熱膨張係数は図9に示すように変化し、比誘電率は図10に示すように変化する。本実施例のガラスは、50〜300℃の線熱膨張係数が5.7×10−6/℃、比誘電率が6.4であり、一方、アルミナは50〜300℃の線熱膨張係数が7.2×10−6/℃、比誘電率が9.8である。したがって、アルミナをガラスで置換する置換量を増やすと線熱膨張係数、比誘電率ともに緩やかに低下する。したがって、α−石英を一定量含有しつつ、アルミナをガラスで置換することで微少に線熱膨張係数を減少させるように制御できることが明らかとなった。
【0036】
前記により、α−石英の組成比率変更、若しくはガラス成分の組成比率変更による線熱膨張係数の制御ができることが明らかとなったが、当該材料を低温焼成基板として使用する場合、焼成されていなければならず、また焼成されたとしても所定以上の抗折強度が必要である。
【0037】
組成11に示すようにガラス成分を58vol%とした場合、ガラス成分が少なく、ち密な焼結体が得られない。組成14に示すようにガラス成分を82vol%とする場合、ガラス成分が多く抗折強度が低い。
【0038】
(異組成多層基板の反りの予備検討)
組成の異なる2種類のセラミックスグリーンシートをそれぞれ10mm角で成形し、6層の積層構造となるように積層体を形成した後、同時焼成を行い、6層からなる厚さ480μmの異組成の層からなる多層基板を作製した。ここで一方のガラス−セラミックス混合層の組成は70vol%ガラス−30vol%アルミナ(S組成と表記する)とし、他方のガラス−セラミックス混合層の組成は、70volガラス−15vol%アルミナ−15vol%チタニア(T組成と表記する)とした。ここでいずれのガラスの組成も、酸化物換算で、50重量%SiO+2重量%B+11重量%Al+1重量%MgO+3重量%CaO+33重量%SrOとした。多層基板の積層構造は、図11の(a)〜(g)に示す積層構造とした。そのときの反りの大きさ(平均値)を図11に合わせて示した。図11を参照すると、最も非対称構造となっている(d)で示した積層構造において反りが最も大きく、同一組成のみからなる多層基板である(a)と(g)で示した積層構造において反りが最も小さいことがわかる。
【0039】
図11で示した結果から、図1(1)の(a)〜(e)の積層構造を有する多層基板のうち、(c)の積層構造が最も非対称構造で、反りが大きくなることを確認したため、以降、図1(1)(c)の積層構造を評価対象とした。図1(1)(c)の積層構造として、反りを小さくできれば、その他の積層構造では反りがより小さくなるからである。
【0040】
(異組成多層基板の反りの検討)
組成の異なる2種類のセラミックスグリーンシートをそれぞれ成形し、図1(1)(c)の6層の積層構造となるように積層体を形成した後、同時焼成を行うことで、6層からなる厚さ480μmの異組成のガラス−セラミックス混合層からなる多層基板を作製した。多層基板の大きさは、10mm角、50mm角、100mm角の3水準を作製した。ここで一方のガラス−セラミックス混合層の組成は表1に示した各組成とした。他方のガラス−セラミックス混合層の組成は、70volガラス−15vol%アルミナ−15vol%チタニア(T組成と表記する)とした。ここでいずれのガラスの組成も、酸化物換算で、50重量%SiO+2重量%B+11重量%Al+1重量%MgO+3重量%CaO+33重量%SrOとした。他方のガラス−セラミックス混合層の50〜300℃における線熱膨張係数は6.65×10−6/℃、比誘電率は11.3であった。
【0041】
ガラス−セラミックス混合層の50〜300℃における線熱膨張係数αと、多層基板10mm角、50mm角及び100mm角のそれぞれの基板の反り量及び多層基板の反り評価を表2にまとめた。多層基板の反り評価は50mm角の基板の反りが200μm以下のサンプルを○とし、200μm超の場合を×とした。さらにガラス−セラミックス混合層の層間の比誘電率差が所定値以上であるか否かを多層基板の評価に加えた。そして、50mm角の基板の反りが200μm以下、且つ、一方のガラス−セラミックス混合層の比誘電率が7.6以下、且つ、表1の抗折強度が200MPa以上を満たす場合に、多層基板としての総合評価○を与え、満たさない場合を×とし、結果を表2に示した。
【表2】

【0042】
表2の結果から他方のガラス−セラミックス混合層と一方のガラス−セラミックス混合層との線熱膨張係数の差が小さいほど基板の反りが小さいことがわかる。他方のガラス−セラミックス混合層の50〜300℃における線熱膨張係数が、6.65×10−6/℃であることに対して、一方のガラス−セラミックス混合層の50〜300℃における線熱膨張係数が、6.40×10−6〜6.90×10−6/℃にあるときは、基板の反りが小さい。すなわち、線熱膨張係数の差が0.25×10−6/℃以内とすれば、50mm角の基板の反りを200μm以下と小さくすることができる。より好ましくは、線熱膨張係数の差を0.1×10−6/℃以内とすることで、50mm角の基板の反りが100μm以下となる。さらに好ましくは、線熱膨張係数の差を0.05×10−6/℃以内とすることで、100mm角の基板の反りが200μm以下となる。一方のガラス−セラミックス混合層の組成として組成2、4、10又は16としたときは、線熱膨張係数の差が大きく、反りが大きい。また、組成11としたときは、ち密な焼結体が得られない。また、組成14としたときは反り量は小さいが、抗折強度が小さい。以上のように、表2に実施例として示されるように、誘電率の異なるガラス−セラミックス混合層を設け、且つ、反りの小さい多層基板を作製できた。これにより、精度を保ちながら多層配線基板に高容量のキャパシター層を入れてモジュールの薄型・小型化をはかりつつ、設計の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】多層配線基板の断面概略図を示し、(1)の(a)〜(e)及び(2)の(a)〜(e)で示した積層構造は、異組成のガラス−セラミックス混合層を非対称構造に積層した場合の具体例であり、(3)の(a)〜(e)で示した積層構造は、異組成のガラス−セラミックス混合層を対称構造に積層した場合の具体例である。
【図2】基板の反り量を求めるときの測定箇所を示す概略図である。
【図3】組成式0.70ガラス+(0.30−x)Al+xα−石英において、xによる線熱膨張係数の変化を示す図である。
【図4】組成式0.70ガラス+(0.30−x)Al+xα−石英において、xによる比誘電率の変化を示す図である。
【図5】組成式0.60ガラス+(0.40−x)Al+xα−石英において、xによる線熱膨張係数の変化を示す図である。
【図6】組成式0.60ガラス+(0.40−x)Al+xα−石英において、xによる比誘電率の変化を示す図である。
【図7】組成式0.78ガラス+(0.22−x)アルミナ+xα−石英において、xによる線熱膨張係数の変化を示す図である。
【図8】組成式0.78ガラス+(0.22−x)アルミナ+xα−石英において、xによる比誘電率の変化を示す図である。
【図9】組成式xガラス+(0.94−x)アルミナ+0.06α−石英において、xによる線熱膨張係数の変化を示す図である。
【図10】組成式xガラス+(0.94−x)アルミナ+0.06α−石英において、xによる比誘電率の変化を示す図である。
【図11】多層基板の積層構造と、基板の反りとの一関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスを60〜78vol%、アルミナを12〜38vol%、及び、α−石英を2〜10vol%含有することを特徴とする低温焼成基板材料。
【請求項2】
50〜300℃における線熱膨張係数が6.40×10−6〜6.90×10−6/℃であることを特徴とする請求項1記載の低温焼成基板材料。
【請求項3】
室温1.9GHzにおける比誘電率が6.8〜7.6であることを特徴とする請求項1又は2記載の低温焼成基板材料。
【請求項4】
ガラス−セラミックス混合層が積層されている多層配線基板において、前記ガラス−セラミックス混合層のうち少なくとも1層が請求項1、2又は3記載の低温焼成基板材料からなることを特徴とする多層配線基板。
【請求項5】
前記低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層以外の他のガラス−セラミックス混合層と、前記低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層との50〜300℃における線熱膨張係数の差が0.25×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項4記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記他のガラス−セラミックス混合層は、室温1.9GHzにおける比誘電率が10以上であることを特徴とする請求項4又は5記載の多層配線基板。
【請求項7】
前記他のガラス−セラミックス混合層は、SiO46〜60重量%、B0.5〜5重量%、Al6〜17.5重量%及びアルカリ土類金属酸化物25〜45重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の少なくとも60重量%がSrOであるガラスが60〜78vol%、アルミナが8〜30vol%、及び、チタニアが8〜30vol%含有されている低温焼成基板材料からなるガラス−セラミックス混合層であることを特徴とする請求項4、5又は6記載の多層配線基板。
【請求項8】
前記多層配線基板の反りは、50mm角の大きさ当たりで200μm以下であることを特徴とする請求項4、5、6又は7記載の多層配線基板。
【請求項9】
前記多層配線基板の反りは、100mm角の大きさ当たりで200μm以下であることを特徴とする請求項4、5、6、7又は8記載の多層配線基板。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−8466(P2006−8466A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190178(P2004−190178)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】