説明

作業車両の変速装置

【課題】オペレータにとって操作性に優れ、最適な変速位置となるようなトラクタなどの作業車両の変速装置を提供することである。
【解決手段】車両を停止させた後、作業を再開するに当たり、改めて走行を開始する場合は、メモリ100aに記憶された前回の発進時に選択した特定の副変速装置Cの変速段(例えば低速)と特定の主変速の変速段(例えば第3速)(この状況は運転者が選択しており、この状況を記憶しておくことで、次回の作業発進時に副変速を手動で低速に選択すると、主変速は3速になる。)で発進することができるように発進時変速位置設定部100bをコントローラローラ100に備えている。そのため、オペレータの力量に適した発進時の変速位置が設定でき、変速の負担軽減ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用、建築用、運搬用等の作業機を連結した作業車両、特にトラクタなどの変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなどの作業車両の変速装置は、主変速装置の他に副変速装置などが組み合わされて多段変速の形態が取られている。したがって、目標の変速段にするためにはこれらの変速装置の操作が必要であり、操作が煩雑となるため、オペレータにとっても負担となっていた。
【0003】
そこで、下記特許文献1には、スイッチ式操作具によって変速位置を切換え可能なギヤ式主変速装置と、別の操作具によって変速位置を切換え可能なギヤ式副変速装置と、前記副変速装置毎の各主変速位置の累積使用時間を記憶する累積記憶手段と、前記副変速装置毎の最も累積使用時間の長い主変速位置を副変速装置の切換え時のジャンプ位置として設定するシフト制御部とを備える車両の自動変速制御装置において、上記シフト制御部は、前記各主変速位置の累積使用時間を、例えばエンジン始動時に、前記ジャンプ位置として設定された主変速位置の累積使用時間を所定の累積使用時間に置き換えると共に、他の主変速位置の累積使用時間をクリアする構成としているので、副変速切換え時の主変速装置のジャンプ位置について、副変速位置毎の最大累積使用時間に基づいて主変速装置が切換えられ、また、メモリクリアにより、それ以降の稼動実績によって主変速装置が切換えられることから、メモリクリア以前の古い稼動実績時間の影響を受けることなく、新たな稼動実績に基づいた変速によって適切な変速走行に入ることができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−114120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1記載の発明では、走行車両の後部に作業機を連結した作業車両を用いての作業によっては、作業が安定するまで安定車速より低速レンジで作業を行い、安定すると車速を上げるような作業がある。このような場合は、稼動実績によるメモリに現在記憶されている変速位置(メモリー変速)では、発進時に車速が早すぎることなどがある。
【0006】
そこで本発明の課題は、オペレータにあった発進時の変速位置が設定でき、変速段を設定する負担を軽減することができるようにした作業車両の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、作業走行と路上走行を含む複数の変速位置に手動操作で変速操作が可能な副変速装置の操作手段(179)と、前記複数の副変速装置の変速位置の各々の変速位置を更に細分化した複数の主変速位置の中の特定の主変速位置を手動で選択する主変速装置の操作手段(192a,192b)と、エンジン回転数を加減するためのアクセル操作手段(175)と、アクセル操作手段(175)の操作量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように副変速操作手段(179)により選択された特定の変速位置の中の適切な主変速位置を選択して自動で変速する自動変速機能部を有する制御装置(100)を設けた作業車両の変速装置であって、前記制御装置(100)は、作業時の発進時の副変速位置と主変速位置を記憶する記憶部(100a)と、作業車両の停止後に改めて発進する時には前記記憶部(100a)で記憶している前回の作業時の発進時の副変速位置と主変速位置との関係で発進するように変速位置を設定する発進時変速位置設定部(100b)を有することを特徴とする作業車両の変速装置。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、作業が安定するまで安定車速より低速レンジで作業を行い、安定すると車速を上げるような作業の場合に、発進時車速が早すぎないように、オペレータの力量に適した発進時の変速位置が設定でき、変速の負担軽減ができる。即ち、前回の作業走行発進時の副変速と主変速との関係を、副変速を選択することで自動的に再現されるので、作業での発進走行が安定するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態のトラクタの左側面図である。
【図2】図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図である。
【図3】図2の動力伝動図の油圧回路図である。
【図4】図1の変速装置の前後進動力入切用の油圧クラッチシリンダの構成図である。
【図5】図1のトラクタの制御ブロック図である。
【図6】図1のトラクタの操縦席付近の上面図である。
【図7】図1のトラクタの操縦席付近の斜視図である。
【図8】図8(a)は図6及び図7のスイッチボックスの平面図であり、図8(b)は側面図である。
【図9】図1のトラクタのコントローラによる制御例のフローである。
【図10】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図11】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について以下図面と共に説明する。なお、本明細書では車両の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右といい、前後をそれぞれ前、後ということにする。ここで、本明細書において左右の走行車軸とは、作業車両の進行方向を向いて左右方向の走行車軸をいう。そして、本発明の実施の形態によれば、作業車両の一例であるトラクタを例として以下に説明する。
【0011】
図1には本発明の実施形態のトラクタの左側面図を示し、図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。更に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示し、図4には図1の変速装置の前後進動力入切用の油圧クラッチシリンダの構成図を示す。また、図5には図1のトラクタの制御ブロック図を示す。このトラクタはロータリ耕耘装置等の作業機を3点リンク機構により昇降可能に装着して対地作業を行うことができる。この車体Tは、前端部にフロントアクスルハウジング(図示せず)に支架させるエンジンブラケットを介してエンジン62を搭載し、このエンジン62の後側にクラッチハウジングや、ミッションケース65等を一体的に連結し、このミッションケース65の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪63を軸装する。
【0012】
図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。
エンジン62は後側に突出のエンジン軸1を有し、このエンジン軸1をクラッチハウジング部の入力軸2に連結する。ミッションケース65内の伝動機構を介して後端部の出力軸3及びPTO軸14を連動すると共に、ミッションケース65の下部に設けた前輪出力軸5を連動する構成としている。この出力軸3はミッションケース65内の後部の略中央部において前後方向に沿うように軸受されて後端にドライブピニオンギヤ53を有し、リヤデフ45のデフリングギヤ46に噛合し、リヤアクスルハウジングに沿って軸装されたリヤデフ軸10と後輪軸11を遊星減速機構を介して連動する。また、前輪出力軸5はミッションケース65の下部からエンジン62の下部を経て、フロントアクスルハウジングの中央部に設けられるフロントデフ47の入力軸26に連結され、このフロントアクスルハウジングに沿って軸装されるフロントデフ軸12及び遊星減速機構等を介して前輪軸13へ連動する構成としている。なお、入力軸2から油圧ポンプ80(図3)への動力取り出し用のギヤ駆動軸15,17が入力軸2に並列配置されている。
【0013】
図2に示すトランスミッションの噛合式変速装置は、エンジン軸1によって駆動される入力軸2から入力ギヤ31に連動されるPTO変速カウンタギヤ44を有するPTOカウンタ軸9上にPTOクラッチパック66を設けている。PTOクラッチパック66や入力ギヤ31などからなるPTOの動力伝達部の構成をPTOクラッチEということにする。
【0014】
また入力軸2には前後進切替用の前後進切替ギア42、42が遊転状態に設けられ、一方の後進側の前後進切替ギア42には入力軸2と並列配置されたバックカウンタ軸8に設けられたバックカウンタギア43が噛合し、他方の前進側の前後進切替ギア42には主変速軸19上に固定した入力ギヤ48と該主変速軸19上に遊転自在に設けた有効径の異なる4つの主変速ギヤ33を設ける。これら4つの主変速ギヤ33は、四段変速に構成され、クラッチパック76によって切替シフトされ、4つの主変速ギヤ33から構成される変速装置を主変速油圧クラッチAということにする。
【0015】
前記主変速軸19上には、前記主変速油圧クラッチAの4つの主変速ギヤ33のうち、最も有効径の小さい主変速ギヤ33(第1速用)と3番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第3速用)との間にクラッチパック76を固定して設け、2番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第2速用)と最も有効径の大きい主変速ギヤ33(第4速用)との間にクラッチパック76を固定して設ける。前記2つのクラッチパック76には、各主変速ギヤ33を主変速軸19と一体回転するように連結する摩擦クラッチが各々設けられている。
【0016】
また、前後進切替ギヤ42の前進側のギヤと噛合可能な入力ギヤ48は、前後進切替ギヤ42の後進側のギヤともバックカウンタ軸8上のバックカウンタギヤ43と噛合っており、該前後進切替ギヤ42のうちの前進側のギヤ42と後進側のギヤ42とを、前後独立した摩擦クラッチから成る2つの前後進切替クラッチパック60の切替によって択一的に入力軸2と一体化して、前進走行と後進走行とに切替えられる構成である。後述する油圧シリンダ85(図3)を含めこれらギヤ42とクラッチパック60などからなる構成を前後進油圧クラッチDということにする。
また、前後進油圧クラッチDの切替を手動で行う前後進切替レバー115(図6)をステアリングハンドル73のポスト部分に設け、クラッチぺダル119(図6)はハンドルポストの足下に設けている。
【0017】
主変速軸19と同軸芯位置に設けられた副変速軸20にはクラッチパック76によって切替シフトされる有効径の異なる2つの高低速切替ギヤ34が設けられており、主変速後の駆動力を更に減速して高速と低速とに切り替えることができる。この高速と低速とに切り替え可能なギア構成をハイ・ロー変速クラッチBということにする。
【0018】
さらに副変速軸20と同軸上には有効径の異なる3つの副変速ギヤ35を有する出力軸3が配置されている。出力軸3は副変速ギヤ35により三段変速する構成としている。この三段変速可能なギヤ35の構成を副変速ギア伝動機構Cということにする。
【0019】
また、副変速ギヤ35に噛合するクリープカウンタギヤ49を備えたクリープカウンタ軸21が出力軸3に並列位置に設けられている。また主変速ギヤ33や高低速切替ギヤ34等と噛合する主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を有する走行カウンタ軸6が主変速軸19や副変速軸20と並列位置に配置されており、主変速軸19から伝動される回転が主変速ギヤ33で変速されて、その回転が主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギア40を順次経由して副変速軸20に設けられた高低速切替ギヤ34に伝達される。高低速切替ギヤ34に伝達された動力はクラッチパック76を介して副変速軸20上に設けた副変速ギヤ35による変速機構を介して出力軸3に伝達される。
この走行動力伝達系では、PTO正逆切替ギヤ37機構を備えたPTO連動軸4を回転する伝動形態である正逆転PTOを設けている。
【0020】
また、前記副変速ギヤ35と噛み合う副変速カウンタギヤ38の副変速カウンタ軸27を回転自在に支持すると共に、出力軸3から前輪取出ギヤ36を介して連動される前輪連動ギヤ51を有する前輪連動軸28を設け、この前輪連動軸28の前方延長軸芯上にはPTO減速ギヤ50を有するPTO減速軸23を設けている。さらに、前輪連動軸28の並行位置にPTO連動軸4を設け、該PTO連動軸4と同軸芯上前端部にPTO連動軸4を正転と逆転に切替えるPTO正逆切替ギヤ37のPTO正逆切替軸22と、PTO変速ギヤ32のPTO変速軸18を配置している。
【0021】
また、PTO正逆切替ギヤ37と噛合するPTO逆回転カウンタギヤ52を有するPTO逆回転カウンタ軸24が前記PTO正逆切替軸22の側部に設けられ、PTOクラッチパック66の入りによって、入力軸2からPTO変速ギヤ32、PTO変速カウンタギヤ44及びPTO正逆切替ギヤ37等を介してPTO正逆切替軸22へ動力が伝動するように構成している。前記正逆切替ギヤ37は前記PTO変速ギヤ32と同形態のクラッチリングを用いる形態としている。このPTO正逆切替軸22の側方にはPTO逆回転カウンタギヤ52を有する逆回転カウンタ軸24を設け、PTO逆回転カウンタギヤ52は、PTO減速ギヤ50からの連動を受けてPTO正逆切替ギヤ37を逆回転することができる。なお、前記PTOカウンタ軸9の後方に減速軸23が配置される。
【0022】
更に、ミッションケース65内の下段部に配置された前輪出力軸5は、ミッションケース65の後部底部に軸装されて、前輪連動軸25やカップリング等を介して前記フロントデフ47の入力軸26へ連結する。この前輪出力軸5の横側には前輪駆動軸7が配置されている。前輪駆動軸7の後端には前輪ギヤ55が設けられている。また、前記出力軸3の後端部の前輪取出ギヤ36に前輪連動軸28上の第1の前輪連動ギヤ51が噛合し、該第1の前輪連動ギヤ51を介して前輪連動軸28に伝達される出力軸3の駆動力は、前輪連動軸28と一体回転する第2の前輪連動ギア54に伝達されて、該前輪連動ギア54から前輪駆動軸7に伝達される。
【0023】
また前輪駆動クラッチパック67を前輪駆動軸7上に設け、この駆動軸7の前端部から前輪出力軸5へギヤ連動する。また、有効径の異なる2つの前輪駆動切替ギヤ41が前輪駆動クラッチパック67の左右に配置されており、該2つの前輪駆動切替ギヤ41は、カウンタ軸59に設けた有効径の異なる2つの切替駆動カウンタギヤ56に各々噛み合わされ、前輪駆動クラッチパック67を択一的に接続することにより、2つの減速比のうちのいずれか一方の減速比で前輪駆動軸7を駆動することができる。
【0024】
前輪駆動クラッチパック67を中立位置にシフトするときは前輪61を駆動させない後輪駆動の二駆形態とし、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて低速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約1倍の等速駆動させる四駆形態とし、また、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて高速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約2倍に増速駆動させる四駆形態とすることによって走行することができる。
【0025】
上記構成からなる噛合式変速装置により、エンジン62の回転動力は主クラッチを構成する前後進油圧クラッチDを経由して4段の変速段からなる主変速油圧クラッチAと2段の変速段からなるハイ・ロー変速クラッチB及び3段の変速段からなる副変速ギア伝動機構(副変速装置)Cで合計24段のうちのいずれかの変速段に変速され、得られた回転動力はリヤデフ45を経て後輪63が駆動される。また、前記副変速ギア伝動機構Cで変速された回転動力は前輪駆動クラッチパック(二駆四駆切替クラッチ)67にも伝達され、該クラッチパック67により前輪61が「等速」もしくは「増速」に切り換えられた後、フロントデフ47を経て前輪61が駆動される。
【0026】
また、PTO変速ギヤ32、走行系の主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び副変速ギヤ35等を、ドライブピニオンギヤ53を有する出力軸3の軸芯上に沿って配置する構成とする。走行系の伝動は、入力軸2から出力軸3の軸芯上に配置される主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び複変速ギヤ35等を介してドライブピニオンギヤ53へ多段変速連動される。また、PTO系の変速は、この出力軸3の軸芯上の前端部に設けられるPTO変速ギヤ32を介して連動される。
【0027】
次に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示す。
図3の油圧回路図では左右の後輪63を独立して制動する左右のブレーキシリンダ83、前輪61へ伝達する動力を「等速」もしくは「増速」に切り換える四駆切換クラッチシリンダ99、ステアリングハンドル73の回転操作により作動するパワーステアリング装置103、PTOクラッチシリンダ104、PTOクラッチ切替換弁105、PTOクラッチ比例圧力制御弁106などが設けられている。なお、一点鎖線部分の回路101はメイン油圧回路(作業機昇降・作業機水平や外部油圧取出しなど)となり、サブ回路(走行・ブレーキ・デフロック・PTO側回路)とあまり関係がないため、回路図の図示を省略している。
【0028】
油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81aを介して主変速油圧クラッチAの第4速用と第2速用の各ギア33をクラッチパック76を介してそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ88と油圧クラッチシリンダ87を切り替える主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁(2−4速昇圧ソレノイド)89に供給され、さらに主変速油圧クラッチAの第1速用と第3速用の各ギア33をそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ91と油圧クラッチシリンダ92を切り替える主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁(1−3速昇圧ソレノイド)93に供給される。
【0029】
減圧弁81aを経由する作動油は、前後進クラッチシリンダ85のオン・オフ制御弁129を介して前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDを切り替える切替弁86(前進ソレノイド86F,後進ソレノイド86R)に供給される。該前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDのいずれに作動油が供給されているかは前進側クラッチ圧力センサ110(図5)と後進側クラッチ圧力センサ111(図5)で検出できる。また、前・後進クラッチDの油圧を昇圧するための前後進昇圧ソレノイド90を設けている。
【0030】
そして、同様に、上記及び下記油圧クラッチシリンダに供給される作動油はそれぞれの油圧クラッチシリンダへの入口側の油路に設けた圧力センサ(例えば油圧クラッチAの第1速用から第4速用までの圧力センサ145a〜145dやPTOクラッチEの圧力センサ146など(図5))で検知できる構成になっている。
【0031】
また、油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81bを介してブレーキバルブ82aを経由して左右のブレーキシリンダ83に分岐供給される。前記ブレーキバルブ82aは後輪63を選択する切替制御弁であり、該ブレーキバルブ82aはブレーキ力を調整する圧力制御弁82bと一体構成となっている。
【0032】
さらに、減圧弁81bを経由する作動油は、前記第1速〜第4速用の各ギア33で変速された速度を「高速」と「低速」の二つのギヤ40のいずれかにクラッチパック76を介して作動させるハイ・ロー油圧クラッチシリンダ95を切り替えるための制御弁96a,96bに供給される。
また、減圧弁81bを経由する作動油は、デフロック制御弁97を経てフロントデフ47用の前輪デフロックシリンダ98a及びリアデフ45用の後輪デフロックシリンダ98bに分岐される。
【0033】
さらに、前輪駆動クラッチパック67のギア41の切替用の油圧シリンダ99には切替制御弁94を経て前記減圧弁81bを経由する作動油が供給される。
同様に、減圧弁81bを経由する作動油は、PTO用バルブ105,106を介してPTOクラッチシリンダ104に供給され、PTOクラッチEの圧力を調整する。
また図3に示す油圧ポンプ80からの油圧は、パワステアリングハンドル73の操作で作動されるオービットロール107に作動油を供給する構成である。
【0034】
図4には、前後進ギア42,42の切替を行う前後進クラッチシリンダ85の断面構成図を示す。
シリンダ85の前後一対のシリンダ85F、85R内には流入する作動油(オイル)によりそれぞれ作動するピストン78F、78Rと該ピストン78F、78Rの作動で互いに接触する複数組の摩擦板からなる前後進切替クラッチパック60、60がそれぞれ設けられている。
【0035】
クラッチペダル119の非操作時(足踏み式ペダル119の踏み込み操作をしていない時)には前進と後進用のいずれかのシリンダ85F、85R内にオイルが流入してピストン78F又は78Rが作動状態であり、前後進切替クラッチパック60、60が接続状態となり、エンジン動力が変速装置24内の前進側の駆動機構又は後進側の駆動機構に伝達される。また各シリンダ85F、85R内にはリターンスプリング(圧縮スプリング)77F、77Rが設けられており、該リターンスプリング77F、77Rはそれぞれ前進、後進クラッチパック60、60の接続状態を解除する側に付勢される。したがってクラッチペダル119を操作すると(足踏み式ペダル119の踏み込み操作をすると)とシリンダ85F又は85R内のオイルが流出して、リターンスプリング77F又は77Rの付勢力でピストン78F又は78Rが戻し方向に移動し、該前進又は後進用のクラッチパック60の接続状態が解除される。
【0036】
また、図6には、図1のトラクタの操縦席付近の上面図を示し、図7には同じく斜視図を示し、図8(a)には図6及び図7に示したスイッチボックス180の平面図を示し、図8(b)には図8(a)の側面図を示す。
トラクタの操縦席16の左側には、トラクタの前進と後進の切り替えを行う前後進切替レバー115や駐車ブレーキ172、前方側のPTOチェンジレバー173a(2速−N(中立)−1速にチェンジ可能)、後方側のPTOチェンジレバー173b等を配置している。後方側のPTOチェンジレバー173bは、型式によって3種類ある(機能が異なるだけで図は同じである)。
【0037】
Z型は正逆切換レバー(前側が正転、後側が逆転)であり、WX型はエコノミーPTO切換レバー(前側が切−後側が入)であり、入りにすると、PTO軸が所定回転ダウンする。また、GWD型はグランドPTO切換レバー(前側が切−後側が入)であり、入りにするとPTO軸の回転が車速に同期(シンクロ)する。
【0038】
一方、トラクタの操縦席16の右側には、アクセルペダル175やアクセルレバー176(前に倒すとエンジン回転数増大、一番手前にするとアイドリングになる)、更に圃場や建設、土木作業場など(以下、圃場という)の作業領域(以下、圃場内という)における作業時のエンジン回転数を設定してメモリ(記憶部)100aに記憶させるためのエンジン回転数記憶スイッチ177aなどがある。エンジン回転数記憶スイッチ177aは、いわゆるシーソースイッチであり、上側又は下側を押して指を離すと自動的に押していない状態に戻る。また、コントローラ(制御装置)100のメモリ100aには2通りのエンジン回転数を記憶できるので、その切換スイッチである。
【0039】
例えば、エンジン回転数記憶スイッチ177aの上側を押すとエンジン回転数がA回転数になり、下側を押すとB回転数となる。上側を押して指を離すとエンジン回転数記憶スイッチ177aは押す前の位置に戻るが、スイッチ177aは入り状態になっており、エンジン回転数はコントローラ100によりA回転数になるように制御されて保持される。同様に、下側を押して指を離すとエンジン回転数記憶スイッチ177aは押す前の位置に戻るが、スイッチ177aは入り状態になっており、エンジン回転数はコントローラ100によりB回転数に制御されて保持される。
【0040】
本実施形態の場合は2通りのエンジン回転数を記憶できる例を示しているが、それよりも多い3通り以上の回転数を記憶できる構成でも良い。この場合は、スイッチを換える必要があり、例えば、上下左右にシーソーするスイッチにすると4通りの回転数が記憶可能となる。
【0041】
また、エンジン回転数記憶スイッチ177aの後方のエンジン回転数設定スイッチ177bもシーソースイッチであり、上側又は下側を押して指を離すと自動的に押していない状態に戻る。そして、エンジン回転数記憶スイッチ177aを押した後(上側又は下側)、押した状態のままエンジン回転数設定スイッチ177bの上側を押すとエンジン回転数が上昇し、又は下側を押すとエンジン回転数が下降する。エンジン回転数記憶スイッチ177aは押した状態でなくてもよい。そして、新たに設定した回転数がメモリ100aに記憶される。
【0042】
更に、アクセルレバー176の後方には、副変速操作手段としての副変速レバー179(低速、中速、高速、路上走行速)を設けており、低速8段、中速8段、高速8段、路上走行速4段(高速8段の上側4段)などの変速が可能である。副変速レバー179はレバーガイド179aに沿って前後方向と左右方向に作動し、前方右側に倒すと高速179c、前方左側に倒すと路上走行速179b、後方右側に倒すと中速179d、後方左側に倒すと低速179eとなる。そして、前後方向位置及び左右方向位置は副変速レバー位置センサ(図示せず)により検出されて、当該センサ信号がコントローラ100(図5)に入力される。また、後述する主変速増減速スイッチ(センサ)192a,192b(図6)などの変速段の操作もコントローラ100に入力される。
【0043】
更に前後進切替レバー115の操作位置を検出する前後進レバーセンサ167(図5)やアクセルペダル175の踏み込み位置を検出するアクセルポジションセンサ175a(図5)等によるセンサ信号がコントローラ100に入力されることで、コントローラ100によりそれぞれの操作内容に応じた制御が行われる。
【0044】
図2には副変速ギア伝動機構Cの拡大図を示している。
副変速レバー179の位置が低速では、ギア137がギア139に噛み合い、伝動の流れは、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア135、クリープカウンタギヤ49a、クリープカウンタギヤ49b、ギア136、ギア139、ギア137、出力軸3となる。
副変速レバー179の位置が中速では、ギア131がギア133に噛み合い、伝動の流れは、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア133、ギア131、出力軸3となる。
【0045】
副変速レバー179の位置が高速では、ギア131がギア130に噛み合い、伝動の流れは副変速軸20、副変速ギヤ35、ギア130、ギア131、出力軸3となる。
路上走行速では副変速のレバー位置は前記高速状態からの変更はなく、高速位置の上側4段(5速〜8速)を使用する。
【0046】
なお、トランスミッション内の副変速ギア伝動機構Cは3段であるが、副変速レバー179の変速位置は、4段(低速179e、中速179d、高速179c、路上走行速179b)である。主変速油圧クラッチAは4段、ハイ・ロー変速クラッチBは2段であるため、低速、中速、高速で副変速の位置に対する変速段数は各8段となる。すなわち、副変速が低速で8段、副変速が中速で8段、副変速が高速で8段となる。路上走行速については、高速8段の上側(高速側)4段となり、コントローラ100により上側4段のみ使用することにしている。したがって、副変速レバー179を路上走行速にしても、トランスミッション内の変速機構は何も動かず、高速位置のままである。
【0047】
また、サブコントロールレバー1連目178aは外部油圧取り出しレバーのことであり、トラクタのロータリ耕耘装置を外して別の作業機を駆動するときなどに高圧のオイルを供給するためのものである。サブコントロールレバー1連目178aの後方にはサブコントロールレバー2連目178bを配置しており、3連目(図示せず)や4連目(図示せず)を設けても良い。
【0048】
ドラフト比調整ダイヤル182は、ドラフトコントロールの感度を調整するダイヤルであり、左側に回すとポジション側、右側に回すとドラフト側となり、ポジション側(左側)にするほど負荷にかかわらず、設定している耕耘深さを維持する制御となる。また、ドラフト比調整ダイヤル182を右側に回すと負荷優先となる。すなわち、所定以上の負荷が作業機に作用すると、耕深よりも負荷を軽くするために作業機(ロータリ耕耘装置など)の図示しない作業機の昇降シリンダを少し上げるように制御する。
【0049】
したがって、圃場の状態やオペレータの好みでドラフト比を調整できる。表1には、ドラフト比の調整と圃場の状態との関係を示す。
(表1)
ドラフト比 1 5
調整ダイヤル (左回し) (右回し)
耕深 浅くする ←→ 深くする
土質 軽い ←→ 重い
【0050】
すなわちポジション側(左)に回すほど、負荷に対するロータリ耕耘装置の昇降変化量が少なくなり、耕す深さを優先する。ドラフト側(右)に回すほど負荷に対するロータリ耕耘装置の昇降変化量が大きくなり、負荷の軽減を図るようにする。
【0051】
そして、ロータリ耕耘装置の上げ調整ダイヤル183は、ロータリ耕耘装置の高さを調整するためのものであって、左側に回すとロータリ耕耘装置の高さが低くなり、右側に回すと高くなる。上げ調整ダイヤル183により、ロータリ耕耘装置の3点リンク機構の高さを調整できる。作業機によっては最も高く上げるとトラクタ本体に当たる場合もあるが、作業機の高さをリフトシリンダの伸縮により調整することで、このような不具合を防止できる。また、それほど上げる必要のない作業機は、この上げ調整ダイヤル183で調整して、効率的な作業を行うことができる。
【0052】
そして、傾き調整ダイヤル184は、ロータリ耕耘装置の傾きを調整するもので、左側に回すと右上がりとなり、右側に回すと右下がりとなる。更に4WD切替スイッチ185は走行ローダと2WDと4WDとフルターンと2WDターンに切換ができる。
【0053】
走行ローダは、路上走行やローダ作業時に使用し、通常は2輪駆動である。しかし、トラクタがぬかるみに入ったり、急な坂道、凹凸道になった場合は、自動的に4輪駆動になる。そして、ブレーキをかけると自動的に4輪駆動になったり、運転中に停止すると4輪駆動になる。すなわち、4輪駆動になることで2輪駆動の場合と比べて走行ブレーキ機能がより発揮され、安定して走行停止ができるようになる。
【0054】
2WD(2輪駆動)の場合は後輪63、63が駆動し、4WD(4輪駆動)の場合は4輪(前輪61、61、後輪63、63)が駆動する。また、フルターンは4WDにおいて旋回時に前輪61、61の速度が増速され、素早い旋回となる。更に2WDターンは固い圃場などでは、旋回時のみ前輪61、61の駆動となり、旋回が素早くスムーズに行える。
【0055】
更に、水平シリンダ(図示せず)の手動上げ下げスイッチ186を手動で操作することにより、ロータリ耕耘装置などの3点リンク機構の水平シリンダを動かすことができる。そして、圃場の状態により、ロータリ耕耘装置の左右傾斜を調整する。また、手動上げ下げスイッチ186は、ロータリ耕耘装置などの作業機の脱着等に使用する。
【0056】
また、PTO入り切りスイッチ187を押しながら右側に回すとPTOが入りになってロータリ耕耘装置が作動し、PTOが入り状態の時に押すと自動でPTOが切りに戻るとロータリ耕耘装置が停止する。更に、PTO手動自動スイッチ188を左側に回すと手動になり、ロータリ耕耘装置の作動を手動で設定して操作する。この場合は、PTO入り切りスイッチ187により、PTO変速が入っているとロータリ耕耘装置が常時作動する。
【0057】
また、PTO手動自動スイッチ188を右側に回すと自動になり、ロータリ耕耘装置の作動が自動で行われる。この場合、ロータリ耕耘装置を上昇させると自動でロータリ耕耘装置の回転が止まり、ロータリ耕耘装置を下降させると自動でロータリ耕耘装置の回転が再開する。
【0058】
そして、PTO手動自動スイッチ188が手動側に設定されている場合は、PTO入り切りスイッチ187が入りの状態で、チェンジが入っていると(PTOチェンジレバー173が中立以外の時の状態をいう)常時PTO軸14が回転する。PTO手動自動スイッチ188が自動側に設定されている場合は、クラッチペダル119を踏んだり、ロータリ耕耘装置を上昇させることにより回転が止まる。この機能は、主に水田作業で利用する。
【0059】
そして、デフロックスイッチ189は、シーソースイッチであり、操縦席16とは反対側を押すとデフロックとなり、もう一度押すとデフロックは解除される。なお、オペレータの腕などが不用意に当たることによる誤操作を防止するため、座席16側は押せない構成である。
【0060】
そして、操縦席16右側のアームレスト部には作業機の昇降位置をコントロールするための作業機ポジションレバー190が配置されており、作業機ポジションレバー190を後側に倒すと作業機は上昇し、前側に倒すと作業機は下降する。この作業機ポジションレバー190の操作角度をポテンショメータ(図示せず)により検出することでその検出値に応じて作業機は昇降する。
【0061】
また、作業機昇降スイッチ191はシーソースイッチであり、後側をワンプッシュするとロータリ耕耘装置は最大位置まで上昇し、前側をワンプッシュすると作業機ポジションレバー190の設定位置まで下降する。最大位置とは、上げ調整ダイヤル183で調整した位置のことである。
【0062】
更に、主変速操作手段としての主変速増減速スイッチ192a,192bは、主変速の変速段のシフトアップ(シフトダウン)用のスイッチであり、副変速レバー179によって操作された変速段(低速、中速、高速、路上走行速)を更に細かく手動で変速するためのものである。主変速増減速スイッチ192a,192bによって上述のように低速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、中速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、高速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、路上走行速は4段(通常、高速の5速〜8速の主変速位置)に変速が可能である。
【0063】
主変速増速スイッチ192aは主変速の変速段(主変速位置)のシフトアップ用のスイッチであり、一回押すごとに変速段がシフトアップし、主変速減速スイッチ192bは、変速段のシフトダウン用のスイッチであり、一回押すごとに変速段がシフトダウンする。エンジン回転数に関係なく、手動操作されると操作された変速段に応じた速度に変速される。
【0064】
また、これらスイッチの後方にはシガーライター194がある。そして、スイッチボックス180にある作業機上昇・下降モニターランプ195はロータリ耕耘装置などの作業機が上昇又は下降する際に点灯する。また、ATシフト作業感度ダイヤル196は、後述するATシフト作業スイッチ200が入りのときに作用する。
ATシフト作業スイッチ200を入りにすると、後述する自動変速(オートドライブ)が作用するが、ATシフト作業感度ダイヤル196は、自動的に車速を増減速する自動変速の感度を変更するダイヤルであり、右側に回すと感度がアップし、左側に回すと感度がダウンする。なお、スイッチボックス180内のスイッチを操作しない場合は蓋211を閉じてスイッチボックス180内に埃などが入ることを防いでいる。
【0065】
下げ速度ダイヤル197は、作業機下降速度を調整するダイヤルであって、右側に回すと速度が大きくなって作業機は速く降りる。したがって、重量が軽い作業機(例えば水田の代掻機など)などに好適である。一方、左側に回すと速度が小さくなって作業機は遅く降りる。この場合は重量が重い作業機(例えばスキ作業機)などに好適である。
【0066】
そして、ブレーキ調整ダイヤル198を左側に回すとブレーキが弱くなり、右側に回すとブレーキが強くかかる。ブレーキ調整ダイヤル198は、後述するオートブレーキ入切スイッチ206が入りのときに作用する。
【0067】
また、ATシフト路上スイッチ199を入りにすると、副変速レバー179を路上走行速に設定した路上走行のときにエンジン回転数に応じて副変速高速8段の上側4段のうちの適切な変速段に自動で変速する変速可能な自動変速(オートドライブ)機能がオンして自動変速制御となる。ATシフト路上スイッチ199が入りのときは主変速増減速スイッチ192a、192bを操作しても無効となり、アクセルペダル175の踏み込みのみで変速する。
【0068】
なお、主変速増減速スイッチ192a、192bを手動操作するときは、ATシフト路上スイッチ199が切りのときである。副変速が路上走行速のときは、副変速高速の上側4段(5速〜8速)を使用するが、ATシフト路上スイッチ199が切りのときに主変速増減速スイッチ192a、192bを操作して、例えば、3速〜8速にして、その後、ATシフト路上スイッチ199を入り状態にすると、アクセルペダル175の操作のみで3速〜8速の間を自動変速する。
【0069】
そして、ATシフト作業スイッチ200を入りにすると、メモリ100aには副変速レバー179のそれぞれの位置(低速、中速、高速)における使用時間が一番長い主変速位置(1速〜8速の8段の変速段)が記憶されているが、ATシフト作業スイッチ200を入りにして、副変速レバー179を変速操作(低速、中速、高速)すると、メモリ100aに記憶されている主変速位置に自動的に変速されるようになる。
【0070】
副変速レバー179の位置が路上走行速である路上走行時に、ATシフト路上スイッチ199を入りにするとエンジンの回転数に応じて自動で変速制御され、発進、停止時のクラッチ119の操作のみで走行中の変速操作は要しない。また、クラッチペダル119を踏んでいなくても、前後進切替レバー115が中立の場合は車体Tが停車した状態であり、前後進切替レバー115を操作してアクセルペダル175を踏み込んでいくと加速しながら自動変速される。そして、自動変速(オートドライブ)制御時には、アクセルペダル175の踏み込み量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように自動的に変速される。
【0071】
すなわち、アクセルペダル175を踏み込んだ状態ではエンジン回転数が高回転数になり、現在の主変速位置(図2の主変速油圧クラッチAとハイロー変速クラッチBの8段変速のうちの現在の変速位置である。ただし、8速より上はないため、8速は除く)では加速しても車速を上げることができない場合は、コントローラ100により現在の変速位置に対してシフトアップする。ブレーキを踏んで減速するときには、アクセルペダル175は踏んでいないので、車速に対応した変速位置に自動変速する。
【0072】
そして、接続感度変速スイッチ201を押すと入り、再び押すと切りになり、接続感度変速スイッチ201を入り切りすることで、主変速油圧クラッチAにより主変速を変速したときの接続フィーリングを変更できる。例えば、接続感度変速スイッチ201を入りにするとランプ201aが点灯して緩やかな変速をし、切りにするとランプ201aが消灯して急接続(クラッチの早めの接続)をする。プラウなどを後部に装着する牽引系の作業で接続感度変速スイッチ201を使用して切りにすると、主変速油圧クラッチAによる主変速の変速操作時に主変速油圧クラッチAの接続時間が短くなる。
【0073】
更に、接続感度PTOスイッチ202はPTOクラッチEのつながり方の変更ができる。接続感度PTOスイッチ202を押すたびに、ロータリ、牧草1、牧草2の順で点灯する。接続感度PTOスイッチ202をロータリにすると、PTOクラッチEのつながり方が速くなる。主にロータリ耕耘装置などの作業機で使用する。PTO軸14が回転し始めると、すぐに圃場の土の抵抗に負けない回転力で回る。
【0074】
また、接続感度PTOスイッチ202を牧草1あるいは牧草2にすると、PTOクラッチEのつながりが緩やかになる。牧草1と牧草2で2種類の変速が可能である。主に牧草作業機やスノーブロワーなどPTOクラッチEの接続をゆっくり行う作業機で使用する。接続感度PTOスイッチ202をロータリにした場合と同様にPTO軸14で使用する。
【0075】
水平感度スイッチ203は、作業機の自動水平制御装置の動作感度を切り換えるためのスイッチであり、水平感度スイッチ203を押すと、動作感度が鈍くなって自動水平制御の動きが遅くなる。そして、再び水平感度スイッチ203を押すと動作感度が元に戻る。そして、バックアップ入切スイッチ204を入りにすると、トラクタの後進時にロータリ耕耘装置が自動で上昇する。
【0076】
また、オートリフト入切スイッチ205を入りにしてステアリングハンドル73を回すと、自動でロータリ耕耘装置が上昇する。更にオートブレーキ入切スイッチ206を入りにしてステアリングハンドル73を回すと、自動で旋回内側の後輪63のみにブレーキがかかる。そして、水平切換スイッチ207により、ロータリ耕耘装置などの作業機の水平制御を行うことができる。水平切換スイッチ207を押すと、自動水平、手動、平行、傾斜の順にランプが点灯する。自動水平では、水平センサ(図示せず)により、自動的に水平を保持する。手動の場合は、傾き調整ダイヤル184で手動調整する。平行では、トラクタ車体Tに対して、ロータリ耕耘装置を常に平行に保つ。そして、傾斜では、地面に対してロータリ耕耘装置をある一定の角度をもたせるように制御する。
【0077】
3点切換スイッチ208は、リフトシリンダ(図示せず)の取り付け穴の選択によって、スイッチボックス180の3点切換スイッチ208の選択を行う。カテゴリ1の作業機(ロワーリンクの前穴に付けるとき)は1を選択し、カテゴリ2の作業機(ロワーリンクの後穴に付けるとき)は2を選択する。そして、オートアクセルスイッチ209は、入りにした状態でロータリ耕耘装置を上昇すると、エンジン回転数が1700rpm程度まで低下する。
【0078】
そして、本実施形態によれば、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時に副変速レバー179によって低速179e、中速179d、高速179c、路上走行速179bのうちの路上走行速179bに操作され、且つ主変速増減速スイッチ192a,192bによって主変速位置の変更操作が行われると、その変更操作された主変速位置が、自動変速制御の最低速度に対応する最低変速段の主変速位置(ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時の初期位置(発進変速段))としてコントローラ100内のメモリ100aに記憶されることで、オペレータにとって最適な最低車速変速位置が設定可能となる。
【0079】
例えば、オペレータが最低変速段の主変速位置を上げることで、より高速段の変速位置から走行を開始できる。なお、最低変速段とは、走行開始時の発進変速段であるとともに、メモリ100aに記憶されている変更可能な変速段の最低変速段を言う。すなわち、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時に自動変速できる最低変速段(自動変速範囲の下限値)を言う。副変速が路上走行時の主変速変速段内においては何度でも更新可能である。
なお、ATシフト路上スイッチ199を入りとして主変速増減速スイッチ192a、192bを使用するときは停車中であり、アクセルペダル175を操作して自動変速走行中は機能しない。
【0080】
更に、コントローラ100は、副変速レバー179によって路上走行速に操作され、更に主変速増減速スイッチ192a,192bによりメモリ100aに記憶されている最低変速段の主変速位置(最低主変速位置と略称する場合がある)よりも減速側の主変速位置に操作された場合に前記記憶されている最低主変速位置を前記減速された主変速位置に更新して記憶させる処理を行う。したがって、オペレータが発進速度が速いと感じた場合など次回から発進時の最低主変速位置を下げたい場合に対応できる。
【0081】
図9には、図1のトラクタのコントローラによる制御例のフローを示す。
コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このとき図2に示すように本実施例の副変速装置Cはシンクロメッシュ式のギヤ機構を備えていないので、走行停止中にしか副変速装置Cの変速が出来ない。そこで走行停止中(エンジンはオン、オフ何れでも良い)に副変速装置Cの変速位置を低速、中速、高速のいずれかの望みの変速段を選択して、作業走行を開始する。このとき副変速位置を変更した直後(ステップ2(S2)の「変更直後」とした理由は副変速位置が変速されると発進の可能性があるので、直ぐに選択されている主変速位置に油圧をかける準備(セット)を行い、S4で油圧をかけることになる。)に主変速装置の速度段を決めて作業車両が走行を開始するが、その副変速位置を変更した直後に副変速装置と主変速装置の各変速位置(例えば副変速は「L(低速)」で主変速が「第3速」)の準備を行い、プログラム上S3、S4で油圧をかけて実際に主変速を変速する。アクセルペダル175が操作されると、前進を開始する(S5)。実際に前進走行すると、このときの副変速位置と主変速位置との位置関係を記憶する(S6)。停車後、次回発進時にはS6の値を使用する。
【0082】
すなわち、図9のフローチャートの制御は次のような考え方により行われるものである。トラクタを停止した後に発進するときに選択した特定の副変速の変速段(例えば低速)と特定の主変速の変速段(例えば第3速)をメモリ変速としてCPU内のメモリに記憶しておき、その後、停止することなく適宜の走行速度で作業を継続して行う過程で主変速の変速段を適宜変更して作業を終了する(副変速装置Cはシンクロメッシュ式のギヤ機構ではないので前記「停止することなく適宜の走行速度で作業を継続して行う」過程では副変速装置Cの変速位置をL,M及びHの間で変更できないため。)。
【0083】
ここで、本実施例の副変速装置Cは図2に示すように、シンクロメッシュ式のギヤ機構ではないので車両を停止させて始めて副変速装置のギヤの組み替えが可能である。そのため、車両を停止させた後、改めて走行を開始する場合は、メモリ100aに記憶された前回の発進時に選択した特定の副変速装置Cの変速段(例えば低速)と特定の主変速の変速段(例えば第3速)で発進することができるように発進時変速位置設定部100bをコントローラローラ100に備えている。
【0084】
こうして作業によって、作業が安定するまで安定車速より低速レンジで作業を行い、安定すると車速を上げるような作業がある。このような場合は、現在あるメモリー変速では、発進時車速が早すぎる。上記図9に示すフローによると、オペレータの力量に適した発進時の変速位置が設定でき、変速の負担軽減ができる。
【0085】
いままでは、副変速位置が変速されるまでの間で一番長く作業をしていた主変速位置(例えば、6速)にしていた。
このような従来の構成に対して、副変速位置を変更した後の新たな発進操作から一番長く作業をしていた主変速位置(例えば、6速)よりも遅い主変速位置(1速〜5速)の中で、時間又は距離換算で一番長く作業をしていた主変速位置が例えば3速であるとすると、この3速に変速されるまでに、他の変速位置に変速されている(いきなり3速から使用した場合は別)、即ち、この3速に変速されるまでに他の変速位置を使用している場合は、他の変速位置の中で、規定時間以上長く走行していた変速位置(例えば、変速位置αとする。)と、この変速位置αを発進時における適切な主変速位置として推定する。この推定した変速位置αを記憶しておいて、次回の発進時にはこの記憶している変速位置αを使用する。
【0086】
従来のメモリ変速は、連続した走行のときには有効であるが、発進時の変速位置としては有効ではない(連続した走行時は比較的速い速度であり、また、トルクも弱いので発進時には不向きな速度である。)。
そのため、発進時には必要なトルクがあるので、前記変速位置αを発進時の主変速位置として使用し、その後は目的の主変速位置まで短時間でシフトアップを行う。このときの発進車速(主変速位置α)は、前述のようにして推定する。
こうして、新たな発進時に適切な主変速位置を推定して変速することでオペレータの変速負担を軽減することができる。
【0087】
前記変速位置をメモリするカウント条件は、PTOが「入」又は3点リンク機構が「下げ」(3点リンクセンサで検知する)、すなわち作業車両が作業中であることが条件である。これは確実に作業を開始し、必要な車速を得ることが必須条件であることによる。
【0088】
このとき、副変速位置が路上走行等の移動に適した変速位置にある時は、PTOが作動していないこと又は3点リンク機構が下げ位置(圃場面に降りている位置)にないことを条件に、発進後、規定時間又は規定距離以上発生していた最低の主変速位置(路上走行に適した走行速度で発進する)に変速する構成とする。これは路上走行時は、作業時と走行条件が異なるためである。
【0089】
また、前記変速位置をメモリするカウント条件は、副変速位置が路上走行(HH)等移動に適した変速位置では、PTOが作動していないこと又は3点リンク機構が下げ位置(圃場面に降りている位置)にないことを条件にせずに、作業者が車両の発進時に設定している主変速位置に変速すると、オペレータの好みの変速位置に確実に設定できる。
これらの制御フローを図10に示す。
【0090】
また、自動モード(例えば前記メモリ変速で記憶された発進時の変速位置により走行開始するモード)と手動モード(メモリを使わないモード)を設け、前記手動モードで操作した変速条件を自動モードでも再現出来るようにしてもよい。これは手動モードで操作した変速条件を全てメモリに記憶させているので、自動モードで再現しようとすると、容易に再現できる。こうして、必要ならオペレータに特有な、そして当該オペレータにとってはなじみやすい走行操作を自動モード化できる。
【0091】
手動モードで操作した変速条件を全て自動モードで再現できる条件は、変速した際の設定エンジン回転数と負荷率(実測エンジン回転数/理論エンジン回転数)が同等の時、すなわち、無理に負荷がかからないときに変速するようにした。
負荷率は理論エンジン回転数に対応した燃料噴射量を噴射して得られる実測エンジン回転数の理論エンジン回転数に対する割合で表される。
これらの制御フローを図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、トラクタなどの作業車両の操作性を良くすることができ、農業用、建築用、運搬用等の様々な作業車両に利用できる。
【符号の説明】
【0093】
1 エンジン軸 2 入力軸
3 出力軸 4 PTO連動軸
5 前輪出力軸 6 走行カウンタ軸
7 前輪駆動軸 8 バックカウンタ軸
9 PTOカウンタ軸 10 リヤデフ軸
11 後輪軸 12 フロントデフ軸
13 前輪軸 14 PTO軸
15,17 ギヤ駆動軸 16 操縦席
18 PTO変速軸 19 主変速軸
19 主変速軸 20 副変速軸
21 クリープカウンタ軸 22 PTO正逆切替軸
23 PTO減速軸 24 PTO逆回転軸
25 前輪連動軸 26 入力軸
27 副変速カウンタ軸 28 前輪連動軸
30 アームレスト 31 入力ギヤ
32 PTO変速ギヤ 33 主変速ギヤ
34 高低速切替ギヤ 35 副変速ギヤ
36 前輪取出ギヤ 37 PTO正逆切替ギヤ
38 副変速カウンタギヤ 39 主変速カウンタギヤ
40 高低速切替ギヤ 41 前輪駆動切換ギヤ
42 前後進切替ギヤ 43 バックカウンタギヤ
44 PTO変速カウンタギヤ
45 リヤデフ 46 デフリングギヤ
47 フロントデフ 48 入力ギヤ
49 クリープカウンタギヤ
50 PTO減速ギヤ 51 前輪連動ギヤ
52 PTO逆回転ギヤ 53 ドライブピニオンギヤ
54 前輪連動ギヤ 55 前輪ギヤ
56 切替駆動カウンタギヤ 59 カウンタ軸
60 前後進切替クラッチパック
61 前輪 62 エンジン
63 後輪 65 ミッションケース
66 PTOクラッチパック 67 前輪駆動クラッチパック
73 ステアリングハンドル 76 クラッチパック
77F、77R リターンスプリング
78F、78R ピストン 80 油圧ポンプ
81a,81b 減圧弁 82a ブレーキバルブ
82b 圧力制御弁 83 ブレーキシリンダ
85 前後進クラッチシリンダ
86 前後進クラッチ比例圧力制御弁(切替弁)
86F、86R ソレノイド
89 主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁
90 前後進昇圧ソレノイド
87,88,91,92 油圧クラッチシリンダ
93 主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁
94 切替制御弁
95 ハイ・ロー油圧クラッチシリンダ
96a,96b 制御弁 97 デフロック制御弁
98a 前輪デフロックシリンダ
98b 後輪デフロックシリンダ
99 四駆切替クラッチシリンダ
100 制御処理装置(コントローラ)
100a メモリ
100b 発進時変速位置設定部
101 メイン油圧回路
103 パワーステアリング装置
104 PTOクラッチシリンダ
105,106 PTOクラッチ比例圧力制御弁
107 オービットロール 110 前進側クラッチ圧力センサ
111 後進側クラッチ圧力センサ
112 エンジン回転数センサ
115 前後進切替レバー 129 オン・オフ制御弁
130,131,133〜137,139,140 ギア
145、146 圧力センサ 167 前後進レバーセンサ
170 車速センサ 172 駐車ブレーキ
173 PTOチェンジレバー
175 アクセルペダル
175a アクセルポジションセンサ
176 アクセルレバー
177a、177b エンジン回転数記憶スイッチ
178a、178b サブコントロールレバー
179 副変速レバー 179a レバーガイド
179b 副変速路上速位置 179c 副変速高速位置
179d 副変速中速位置 179e 副変速低速位置
180 スイッチボックス 182 ドラフト比調整ダイヤル
183 上げ調整ダイヤル 184 傾き調整ダイヤル
185 4WD切替スイッチ 186 手動上げ下げスイッチ
187 PTO入り切りスイッチ
188 PTO手動自動スイッチ
189 デフロックスイッチ 190 作業機ポジションレバー
191 昇降用スイッチ(作業機昇降スイッチ)
192a、192b 主変速増減速スイッチ
194 シガーライター
195 作業機上昇・下降モニターランプ
196 ATシフト作業感度ダイヤル
197 下げ速度ダイヤル 198 ブレーキ調整ダイヤル
199 ATシフト路上スイッチ
199a ATシフト路上スイッチセンサ
200 ATシフト作業スイッチ
201 接続感度変速スイッチ
201a ランプ 202 接続感度PTOスイッチ
203 水平感度スイッチ 204 バックアップ入切スイッチ
205 オートリフト入切スイッチ
206 オートブレーキ入切スイッチ
207 水平切換スイッチ 208 3点切換スイッチ
209 オートアクセルスイッチ
211 蓋 213 メータパネル
A 主変速油圧クラッチ B ハイ・ロー変速クラッチ
C 副変速ギア伝動機構(副変速装置)
D 前後進クラッチ E PTOクラッチ
T トラクタ車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業走行と路上走行を含む複数の変速位置に手動操作で変速操作が可能な副変速装置の操作手段(179)と、
前記複数の副変速装置の変速位置の各々の変速位置を更に細分化した複数の主変速位置の中の特定の主変速位置を手動で選択する主変速装置の操作手段(192a,192b)と、
エンジン回転数を加減するためのアクセル操作手段(175)と、
アクセル操作手段(175)の操作量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように副変速操作手段(179)により選択された特定の変速位置の中の適切な主変速位置を選択して自動で変速する自動変速機能部を有する制御装置(100)を設けた作業車両の変速装置であって、
前記制御装置(100)は、作業時の発進時の副変速位置と主変速位置を記憶する記憶部(100a)と、作業車両の停止後に改めて発進する時には前記記憶部(100a)で記憶している前回の作業時の発進時の副変速位置と主変速位置との関係で発進するように変速位置を設定する発進時変速位置設定部(100b)を有することを特徴とする作業車両の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−276095(P2010−276095A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128518(P2009−128518)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】