作業車両
【課題】簡易な構成により、作業機接続に伴って制動力が付加されて路上等における移動走行の際の安定走行を確保することができる作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両は、作業機(F)を接続するヒッチ(H)と、走行伝動系に介設して摩擦ローラ(5)によって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部(4)と、その変速比を制御することによりアクセルペダル(N)の踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダル(N)を戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部(G)とを備えて構成され、上記ヒッチ(H)には、作業機(F)の接続を検出する接続センサ(R)を設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部(G)に設けたものである。
【解決手段】作業車両は、作業機(F)を接続するヒッチ(H)と、走行伝動系に介設して摩擦ローラ(5)によって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部(4)と、その変速比を制御することによりアクセルペダル(N)の踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダル(N)を戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部(G)とを備えて構成され、上記ヒッチ(H)には、作業機(F)の接続を検出する接続センサ(R)を設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部(G)に設けたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速調節用のトロイダル変速機構を内設し、接続した作業機の牽引作業走行およびペダル操作による路上走行が可能な作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すトロイダル無段変速作業車両は、車速調節用のトロイダル変速機構を内設し、ヒッチに接続した作業機の牽引作業走行と、ペダル操作による路上走行とを可能に構成したものである。路上走行においては、制御部が変速比を制御することによりアクセルペダルの踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダルNを戻した時に所定の逆トルクで制動制御することにより、一般の変速伝動部によるエンジンブレーキ相当の操作性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−32171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒッチに接続した作業機によって大きな質量増加となることから、ブレーキ操作によっても大きな慣性力によって制動距離が増大することから、特に路上走行において走行秩序の混乱を招くことがあり、その一方で、作業機の接続に適合しうる制動機構やブレーキ制御の新たな付加はコスト負担の増加と煩わしい切替え操作を強いられるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、簡易な構成により、作業機接続に伴って制動力が付加されて路上等における移動走行の際の安定走行を確保することができるトロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、作業走行のための作業機を接続するヒッチと、原動機から走行駆動輪に至る走行伝動系に介設して摩擦ローラによって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部と、その変速比を制御することによりアクセルペダルの踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダルを戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部とを備えた作業車両において、上記ヒッチに作業機の接続を検出する接続センサを設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部に設けたことを特徴とする。
【0007】
上記トロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両は、アクセルペダルの操作によって制御部がトロイダル無段変速伝動部の変速比を制御することにより、踏込み操作によって目標車速まで増速し、踏込みを解除することによって所定の制動トルクで減速し、また、作業機接続時においては、係数切替制御により、ヒッチに設けた接続センサの検出信号によって制動トルクが所定の倍率で増加される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記制御部による係数切替制御は、前後進のいずれについても適用することを特徴とする。上記制御部により、作業機接続時は、前後進のいずれについても同様に大きな制動力が作用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の作業車両は、以下の効果を奏する。
請求項1の発明の作業車両は、アクセルペダルの操作によって路上走行する際に、ペダル操作を解除することによって所定の制動トルクで減速し、この制動トルクは、接続センサと係数制御とにより作業機接続時に所定の倍率で増加して安定走行のための大きな制動力が自動的に適用されることから、簡易な構成により、オペレータによる切替え操作を要することなく、作業機接続に応じて路上等における移動走行の際の安定走行が確保される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1の効果に加え、作業機接続時は、前後進のいずれについても同様に大きな制動力が作用することから、安定した走行が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の作業車両の側面図
【図2】本発明を実施したミッションケースの側断面図
【図3】ミッションケース内の動力伝動系統図
【図4】本発明主要部の油圧駆動系統図
【図5】トロイダル変速部の一部拡大側面図
【図6】トロイダル変速部の一部拡大断面図
【図7】トロイダル変速部の一部拡大側断面図
【図8】トロイダル変速部の一部拡大側面図
【図9】車速とバリエータ比との関係図
【図10】車速制御システムの入出力構成図
【図11】制動トルク切替制御のフローチャート
【図12】エンジン回転数対応制御のフローチャート
【図13】比例ゲインの上限値制御のフローチャート
【図14】出力ディレー制御のフローチャート
【図15】制御動作の切替制御のフローチャート
【図16】ヒッチの背面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
図1は作業車両の一例として農業機械であるトラクタの側面図を示している。
トロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両は、4輪駆動走行が可能な走行装置A,Bを備えた機体の後部にヒッチHを介してロータリ等の圃場作業機Fを昇降可能に連結して使用され、これらの圃場作業を行うための各種機器を操作するための操作具を配置した操縦部Dを備えるほか、機器を駆動するための原動機C、その動力を変速伝動する前後進無段変速伝動装置1、各種の操作具によって各機器の動作を制御する制御装置(不図示)を備えて構成される。
【0013】
前後進無段変速伝動装置のミッションケース1は、図2に示すように、前からフロントケース1a、ミドルケース1b、リアケース1cの三つの中空ケースを連結して一体に構成している。
【0014】
フロントケース1aは、前隔壁2と後隔壁3とを有し、その内部に溜めるオイルはトロイダル変速機構用の専用オイルでミドルケース1bとリアケース1cに溜めるオイルとは異ならせている。このフロントケース1a内に、上からバリエータ軸10、走行駆動入力軸11、PTO入力軸12、前輪駆動軸13を軸支している。バリエータ軸10の前方で軸心線上には、エンジンEの出力軸と直結するメイン入力軸14を軸架している。このように、トロイダル変速機構4に用いるオイルを一般的に使うミッションケース1内に溜めるオイルと分離して溜めることで、オイル循環でトロイダル変速機構4を効果的に冷却できる。
【0015】
メイン入力軸14に前隔壁2の内側で固着したギア15は、下位の走行駆動入力軸11に固着した大小ギア16、43の大径ギア16に噛み合って増速伝動し、この大小ギア16、43の小径ギア部43が同時に回転する。この小径ギヤ43は、さらに下位のPTO入力軸12に固着したギア18に噛み合って減速伝動している。PTO入力軸12はミドルケース1b内の中継軸42に設けたPTO軸変速機構44に繋がるが、このPTO軸変速機構44の伝動前側でミドルケース1b内において、ワンウエイクラッチ29を設けており、エンジン停止時のゆり戻しによる逆回転を防止している。前記メイン入力軸14に固着しているギア15に対して、バリエータ軸10を回転可能に支持している。
【0016】
最下位の前輪駆動軸13は、後述するミドルケース1b側からの伝動により前側のフロントデフ軸17へ動力を伝動している。フロントデフ軸17は、フロントデフギア装置19を介して左右の前輪20を駆動する。(図3参照)
【0017】
前記バリエータ軸10に装着したトロイダル変速機構4について説明する。バリエータ軸10と一体回転する2つの出力ディスク4a,4aと、両出力ディスク4a,4aの中央側に位置して下方の走行駆動入力軸11に固着したギア21に中継ギア22を介して噛み合うギア23と共に回転する入力ディスク4b,4bを設けている。そして、前記出力ディスク4a,4aと入力ディスク4b,4bとの間に摩擦ローラ支持アーム69の先端部に枢支した摩擦ローラ5を片側三個ずつ軸支する構成(バリエータ機構)としている。
【0018】
摩擦ローラ支持アーム69はフルクラムプレート68に構成している作動シリンダ6内を往復移動するピストン96のピストンロッド7に連結している。また、摩擦ローラ5はローラ支持部材51で支持され、このローラ支持部材51と摩擦ローラ支持アーム69との間は球面ベアリングBで支持されている。(図6参照)
【0019】
また、フルクラムプレート68に対する作動シリンダ6のシリンダ孔55の配置を図8に示している。
この片側三個ずつの摩擦ローラ5を油圧操作での位置を変更することにより摩擦ローラ5の傾倒角が変更され、前記入力ディスク4b,4bから出力ディスク4a,4aへ伝わる動力伝達比が変更されてバリエータ軸10の回転を変速する構成となっている。この変速伝動効率は約80〜90%と良く、特に低速での伝動効率が高いのが特徴である。
なお、トロイダル変速機構4の具体的構造は、後述する。
【0020】
バリエータ軸10の回転は、後隔壁3のミドルケース1b側でバリエータ軸10に連結した入力クラッチ軸25にスプライン嵌合したギア26とワンウエイクラッチ60を駆動すると共に、遊星機構61のサンギア61aを駆動する。一方、前記走行駆動入力軸11は、後続の延長軸62、この延長軸62上のギア63、このギア63と噛みあう前記入力クラッチ軸25に遊嵌させたギア28を介して、遊星機構61のプラネタリギア61bを支持するキャリア61cを、サンギア61aの周りに公転駆動する。
【0021】
また、前記入力クラッチ軸25の終端側には、油圧クラッチ形態の高速側クラッチ64を設け、これに隣接して同様に油圧クラッチ形態の低速側クラッチ65を配置する。なお、高速側クラッチ64は、そのクラッチ入りによって入力クラッチ軸25と出力クラッチ軸66を接続する。また、低速側クラッチ65は、遊星機構61のリングギア61dと出力クラッチ軸66とを接続する構成としている。これら高速側クラッチ64と低速側クラッチ65とによって符号30の高低切替クラッチを構成する。
【0022】
高低切替クラッチ30の高速側クラッチ64が入りとなり、低速側クラッチ65が切りの状態では、変速されたバリエータ軸10の回転、即ち入力クラッチ軸25の回転が高速側クラッチ64と伝動ドラム67を経由して出力クラッチ軸66に伝達され、その回転はバリエータ軸10が低速の正転から高速の正転まで変速回転(「ハイレジーム」という)する。
【0023】
また高低切替クラッチ30の低速側クラッチ65が入りとなり、高速側クラッチ64が切りの状態では、変速されたバリエータ軸10の回転がサンギア61aに伝達され、一方延長軸62の回転は、ギア63、ギア28、プラネタリギア61bを介して遊星機構61のキャリア61cを駆動するため、サンギア61aとキャリア61cの回転との合成回転でリングギア61dを回転駆動し、このリングギア61dと一体回転するケーシング61eの回転が、低速側クラッチ65と伝動ドラム67を経由して出力クラッチ軸66に伝達する。この場合の出力クラッチ軸66の回転は、低速の逆転からゼロ回転を通過して低速の正転まで変速回転(「ローレジーム」という)する。
【0024】
また、走行駆動入力軸11の延長軸62には、入力クラッチ軸25にスプライン嵌合しているギア26と噛み合うワンウエイクラッチ27の外ギア27aを設けている。
【0025】
また、入力クラッチ軸25のワンウエイクラッチ60の外ギア28と噛み合うギア63を、延長軸62にスプライン嵌合して動力を伝動している。このような遊星機構61のプラネタリギア61bとサンギア61aの駆動構成でリングギア61dが変速駆動される。
【0026】
なお、ワンウェイクラッチ60に外ギア28を形成し、直接伝動することで伝動構成を単純化しローレジームからハイレジームへの変速伝動を段差無く円滑に行える。
【0027】
以上の構成で、低速側クラッチ65を繋げば、出力クラッチ軸66は低速の逆転からゼロ回転を通過して低速の正転まで変速され、さらに正転で増速するには高速側クラッチ64を繋いで摩擦ローラ5の傾きを変えていくことになる。この低速側クラッチ65と高速クラッチ64の断続タイミング、いわゆるローレジームからハイレジームへの引継ぎが低速側クラッチ65と高速側クラッチ64とから構成される高低切替クラッチ30の断続で制御されて、低速逆転からゼロ回転を通過して高速正転へ滑らかに変速されることになる。
【0028】
この高低切替クラッチ30の出力クラッチ軸66の後端にスプライン嵌合したギア31は、リアデファレンシャルギア装置34のデフ軸32にスプライン嵌合しているギア33と噛み合っているので、出力クラッチ軸66の回転はデフ軸32を駆動する。デフ軸32の回転はリアデファレンシャルギア装置34を介して左右の後輪35へ伝動される。
【0029】
デフ軸32の回転は、ギア37からPTO出力軸41に遊嵌した二連ギア36a、36bを介して前輪駆動延長軸39にスプライン嵌合しているギア38に伝動され、このギヤ38が回転することで前輪駆動延長軸39を駆動する。
【0030】
前輪駆動延長軸39には、トラクタの旋回時に前輪を同速回転、或いは増速回転して駆動させる前輪増速クラッチ40を装着している。さらにこの前輪駆動延長軸39に中継軸48を介して、前輪駆動軸13に伝動すべく連結している。前輪増速クラッチ40については、油圧クラッチを切り換えて軸40aを経由して中継軸48を駆動する場合が増速である。
【0031】
次に、トロイダル変速機構4の詳細な説明を図4以降で説明する。
トロイダル変速機構4の概要は、前記の如く、バリエータ軸10に装着した入力ディスク4b、4bと出力ディスク4a、4aの間に摩擦ローラ5を設け、この摩擦ローラ5の傾斜角度を変更して入力ディスク4bの回転を加減速して出力ディスク4aに伝動する構成である。
【0032】
図5に示すように、摩擦ローラ5は、ミッションケース1の一部を構成するフロントケース1aの右側面に取り付けたフルクラムプレート68に設ける摩擦ローラ支持アーム69の先端に枢支している。そして、前側の入出力ディスク4a,4bと後側の入出力ディスク4a,4bとの間にそれぞれ三個づつ円周方向に等しく分配して設けている。
【0033】
図6に示すように、摩擦ローラ支持アーム69の一端側は球面ベアリングBを介してローラ支持部材51を支持しており、このローラ支持部材51で摩擦ローラ5を支持軸52で回転可能に支持している構成である。摩擦ローラ支持アーム69の多端側にはピストンロッド7が連結している。ピストンロッド7はフルクラムプレート68内のピストン96とともに往復移動する。
【0034】
フルクラムプレート68は、摩擦ローラ支持アーム69を枢支するボス部68aをフロントケース1a内に向けて突設すると共に、フルクラムプレート68の内部に摩擦ローラ支持アーム69を回動する作動シリンダ6を設け、この作動シリンダ6のピストン96に連結しているピストンロッド7を摩擦ローラ支持アーム69に枢着している。(図6、図7を参照)7aがピストンロッド7と摩擦ローラ支持アーム69の枢着軸である。
【0035】
シリンダ孔55の部屋55a(図4、図6参照)に油を送油すると、ピストン96とピストンロッド7は矢印96a方向に移動する。すると、摩擦ローラ支持アーム69と共に摩擦ローラ5が枢支軸72を支点として69a方向に回転する。シリンダ孔55の部屋55b(図4、図6参照)に油を送油すると逆の動きをする。
【0036】
図7のシリンダ孔55に対するピストン96の位置は、ギヤードニュートラル(GN)を示している。即ち、トロイダル変速機構4が回転を伝達しない位置であり、前進側と後進側の境界位置を示している。ピストン96が矢印P方向に移動すると、機体は後進する。また、ピストン96が矢印Q方向に移動すると、機体は低速前進する。このとき低速クラッチ65は入り状態のローレジームである。
【0037】
ピストン96がフルクラムプレート68の端部68aまできた状態がローレジームの最高回転数であるので、さらに機体を高速状態にしたい場合には、高速クラッチ64を入り状態としてハイレジームにする。そして、ピストン96をS方向に移動していくと、高速の正転状態で加速していく構成である。
【0038】
トロイダル変速機構4の複数の摩擦ローラ5は同時に同じ方向へ傾くという変速動作をするので、フルクラムプレート68の表裏のいずれか一方側にピストンロッド7を伸び出しする前記油圧供給部屋55aを構成し、他方側にピストンロッド7を退避する前記油圧供給部屋55bを構成することで、オイル供給回路の構成を単純化できる。
【0039】
以上の構成で、前記エンジンEの回転をトロイダル変速機構4へ伝達し、このトロイダル変速機構4で変速する回転を高低切替クラッチ30に伝動する。そしてこの高低切替クラッチ30の低速クラッチを接続してトロイダル変速機構4の摩擦ローラ5の傾きを変更すると、出力回転を低速域内で逆転から正転に亘って無段階で変速する。この変速は作業車両を対地作業に適した低速度で前後進する走行条件に適している。また高低切替クラッチ30を高速にしてトロイダル変速機構4の摩擦ローラ5の傾きを変更すると、出力回転を高速域内で正転から逆転に亘って無段階で変速する。この変速は作業車両が路上を移動する走行条件に適している。
【0040】
対地作業機を駆動するPTO出力軸41は、次のように伝動している。
前後隔壁2,3の内部で、前記トロイダル変速機構4の下部に軸架した走行駆動入力軸11に固着したギア43をPTO入力軸12に固着したギア18と噛み合わせて、このPTO入力軸12の回転を後隔壁3の後部に設けるPTO軸変速機構44とPTOクラッチ45を介してPTO出力軸41に伝動している。PTO出力軸41の回転は、リアケース1c内に設けるPTO軸第二変速機構46で適宜の回転数に変速してPTO出力軸47に伝動する。また、PTO入力軸12に固着したギア115と油圧ポンプ74の入力軸に固着したギア116を噛み合わせて油圧ポンプ74を駆動している。
【0041】
トロイダル変速機構4の油圧制御系は、図4のシステム系統図に示すように、各摩擦ローラ5・・・を進退駆動する複動型の作動シリンダ6・・・を備え、かつ、それぞれの摩擦ローラ支持アーム69・・・に形成した油路54を介して専用オイルを摩擦ローラ5・・・へ供給し、入力ディスク4bと出力ディスク4aとの間の摩擦伝動を確保しつつ潤滑と冷却を行うとともに、各作動シリンダ6・・・による摩擦ローラ5・・・の進退駆動とバリエータ軸10の軸端入力によるエンドロード圧とを制御する。これらのオイルはフロントケース1a内に溜めたトロイダル変速専用オイルで循環して使用する。これにより、トロイダル変速機構4に用いるオイルを一般的に使うミッションケース1内に溜めるオイルと分離して溜めることが出来て、オイル循環でトロイダル変速機構4を効果的に冷却できるようになる。
【0042】
詳細には、複数の摩擦ローラ5の複数の作動シリンダ6は、すべてを並列に油圧接続してフルクラムプレート68のピストンロッド7の伸び出し側および退避側の作用油圧をそれぞれ制御する2つの油圧供給制御部を有する。このように、複数の作動シリンダ6のピストンロッド7を同時に伸び出し及び退避させるように駆動する油圧供給路を構成するにあたり、フルクラムプレート68の表裏のいずれか一方側に伸び出し側の供給路を構成し、他方側に退避側の供給路を構成する。これにより、複数の摩擦ローラ5を同時に同じ方向へ傾けるような変速動作の場合について、圧力オイル供給回路の構成を単純化できるようになる。
【0043】
サクションフィルタ76を通ってポンプ74で吸引されたオイルは再度目の細かいフィルタ85を通って鉄粉などの異物を除かれて、メインリリーフ弁9aで圧を調整され、前記の油圧制御部へ送られる流れと、摩擦ローラ5の潤滑と電磁バルブ97への流れに分岐する。
【0044】
電磁バルブ97への流れは、リリーフ弁99とアキュムレータ98で圧を一定に保持されて摩擦ローラ5の潤滑と冷却に使われる。
油圧制御部へ送られる流れは、チェック弁86を通って、アキュムレータ84で圧を安定して作動シリンダ6の伸長側および短縮側の制御部と入出力ディスク4a,4bの圧力制御用に分岐される。
【0045】
作動シリンダ6の伸長側油圧回路は、変速比によって電流値で制御される電磁減圧弁90と送油方向を切替えるパイロット弁89とアキュムレータ92と圧油の脈動を吸収して流量を絞る第1モードダンパ101で構成され、作動シリンダ6の短縮側油圧回路は、同じく、電磁減圧弁88とパイロット弁87とアキュムレータ91と第1モードダンパ100で構成されている。各作動シリンダ6の供給直前に第3モードダンパ107を設けてさらに油圧の安定を図っている。
【0046】
作動シリンダ6の短縮側の圧力S1は電磁バルブ88とチェック弁87で調整され、作動シリンダ6の伸長側の圧力S2は電磁バルブ90とチェック弁98で調整される。こちら側にも第3モードダンパ108を設けてさらに油圧の安定を図っている。
【0047】
また、入出力ディスク4a,4bの圧力制御用回路にはリリーフ弁104と二つのシャトル弁79,80により直接の圧力と前記短縮側圧力S1と伸長側の圧力S2の高い方の流れを変速部のエンドロード圧としてディスク圧供給部105へ供給するように構成することにより、摩擦ローラ5・・・の傾斜動作による速度変更と対応してエンドロード圧を制御して各摩擦ローラ5・・・の転動接触圧を調整する。
【0048】
さらに、各作動シリンダ6には伸長側と短縮側のエアー抜き路109,110を設けて、このエアー抜き路109,110をフロントケース1aの前記フルクラムプレート68の取付側と反対側の底部に設けるエアーパージ弁102とアンチキャビテーションチェック弁103に繋いでいる。54bは潤滑回路であり、図6に示す油路54に油を送って潤滑する構成としている。
【0049】
図9は、車速とバリエータ比との関係を示している。横軸が車速(kph)であり、縦軸がバリエータ比である。Lは前述したローレジームであり、低速側クラッチ65が入り状態の速度範囲を示している。Hは前述したハイレジームであり、高速側クラッチ64が入り状態の速度範囲を示している。
【0050】
高低切替クラッチ30は、トロイダル変速部4による高速の変速動力と低速の差動動力とを受け、これら動力を受ける2系統のクラッチ64,65を制御することにより、操作具と対応する目標車速に合わせて停止速を含む前後進低速域については差動動力を出力し、また、前進中高速域については変速動力を出力することにより、作業車両の停止速を含む前後進無段変速走行を可能とする。この切替え制御のための高速側と低速側の回転数、走行車速は、高低切替クラッチ30の入出力軸25,66のギヤ26,31に臨むセンサ25s,66sの信号およびエンジン回転数により算出する。
【0051】
GNはギヤードニュートラルであり、速度がゼロの位置である。Sはシンク位置であり、低速側クラッチ65と高速側クラッチ64の切り換え点である。このシンクS位置でのクラッチを切り換える直前において、油圧回路内に背圧をかけることでクラッチの切替ショックを防止できるようになる。この背圧のレベルは、低速側クラッチ65又は高速側クラッチ64の大きさに比例して決定するようにする。
【0052】
機体を停車するときにはギヤードニュートラルGNに制御するが、トラクタが一定時間走行しない場合は低速側クラッチ65への油圧を送らないようにすることで、機体停止中の無駄なエネルギ消費を抑制できる。車速センサからの信号により機体が停止しない場合には、再度ギヤードニュートラルGN制御で機体を停止させるようにする。
【0053】
(車速制御)
次に、前後進無段変速伝動装置による車速制御について説明する。
図10は、車速制御システムの入出力構成図である。制御装置Gは、走行調節用の各種の操作具のセンサ信号に応じてトロイダル変速機構4のシリンダ6および高低切替クラッチ30の各クラッチ64,65を油圧制御することによって目標車速に合うように前後進無段変速伝動装置1を制御する。
【0054】
作業モード切替スイッチPにより、「作業モード」、「路上モード」等を選択することができ、「作業モード」では、一定車速による作業走行のために、車速設定ダイヤルSの設定による一定車速制御をを行い、「路上モード」では、作業圃場との間の移動の際の路上走行ために、アクセルペダルNの操作に応じた車速調節制御を行う。
【0055】
この路上モードによる車速調節制御については、路上走行における操作性を確保するために、制御装置Gが、リニアレバーと称する前後進選択レバーK、アクセルペダルN、ブレーキペダルMの信号に対応する目標車速に合うように前後進無段変速伝動装置を制御することにより、ペダル操作によって無段階の変速比による伝動制御を行い、また、アクセルペダルNから足を離した時は、エンジンブレーキ相当の制動トルクが駆動輪に作用するように変速制御し、その制動トルクの大きさは、後部ヒッチHの接続を検出する接続センサとしてリヤカバーセンサRや、図16のヒッチの背面斜視図に示すように、レバー操作により作業機を接続するロックプレートSの回動検出スイッチRを設け、その接続信号により、作業機Fの牽引の有無によって切替え可能に構成する。また、接続センサRは、により構成する。
【0056】
詳細には、図11のフローチャートに示すように、アクセルペダルNによる走行モードであることを判定する処理ステップ1(以下において「S1」の如く略記する。)において、作業モード切替スイッチPの信号が「走行モード」判定であり、エンジンブレーキの判定(S2)において、アクセルペダルNの踏込量の検出により足を離した場合に該当し、作業機Fの接続判定(S3)において、後部ヒッチHの接続を検出するリヤカバーセンサRの信号が接続に該当する場合に限り、接続が無い場合に適用する所定の出力要求トルクを係数処理(例えば、1.5培)によって増加(S4)し、すなわち、変速比をより低速側に制御して駆動輪により大きな制動トルクを作用する。
【0057】
このように、アクセル操作による走行中において、オペレータがアクセルペダルNから足を離した時のエンジンブレーキ相当の制動トルクの大きさを作業機Fの接続の有無によって切替えを行うことにより、作業車両がロータリ等の作業機Fを接続している時の全体の質量の増大によっても、特段のブレーキ機構やブレーキの油圧制御等を要することなく、接続部に設けた簡易なスイッチとトロイダル変速制御の係数処理によってエンジンブレーキ効果を自動的に確保することができ、制動距離の増大による不測の事態を招くことなく、安定した路上走行が可能となる。また、前後進選択レバーKの切替えによる前後進のいずれについても係数切替処理を適用することにより、機体の後退操作を含め、同様の制動トルクにより安定走行が可能となる。
【0058】
また、上記における制動トルクは、エンジンが高回転数の時に強く作用して乗り心地を悪化させ、低回転数の時に弱く作用して制動距離が長くなることから、エンジンが高回転の程、制動トルクを小さくし、低回転の程、大きく制御出力するように制御部を構成することにより、エンジン回転数の変化によることなく、ブレーキの強さを、ほぼ均等にしてオペレータにとって快適なフィーリングで減速することことができる。
【0059】
具体的には、エンジン回転数対応制御のフローチャートを図12に示すように、制御出力する要求トルクをより大小に切替え可能に構成し、アクセルペダルモードで所定車速(例えば、3km/h)以上の走行の際にペダル操作量が所定割合(例えば、10%)以下の場合(S11〜S13)において、エンジンが高回転である場合はエンジンブレーキの要求トルクを小さくし、低回転の場合は大きくする(S14〜S16)ように制御部を構成する。
【0060】
この場合において、制御出力する要求トルクの最小リミット値を大小に切替え可能に構成し、要求トルクの前記切替えの代わりに、要求トルクの最小リミット値をエンジン回転数により切替えすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0061】
次に、設定車速を維持して走行する一定車速作業走行または設定トルクを維持して走行する一定レシオ作業走行による後退走行においては、リニアレバーの操作によって前進走行に切替えた際に、変速目標車速に対する大きな加速幅により出力が過大となってオーバーシュートを招き、オペレータに大きなショックを与えるという作業走行上の問題があった。
【0062】
このような問題の解決のために、設定車速と現在車速の偏差が正の時は、比例ゲインが従来よりも小さくなるように大小の上限値を切替え可能に設け、比例ゲインをその範囲内に抑えるように制御部を構成することにより、バリエータがシンク側からオーバードライブ側に駆動する際に、出力が大きくなり過ぎないようにしてバリエータのオーバーシュートを防止し、スムーズな変速が可能となる。
【0063】
具体的には、比例ゲインの上限値として通常とより小さい大小の上限値(例えば、5000と3000)を切替え可能に構成した上で、比例ゲインの上限値制御のフローチャートを図13に示すように、一定車速、一定レシオのモードで、Lクラッチ接続の場合(S21,S22)において、設定車速と現在車速の偏差が正である場合は比例ゲイン上限値を低い方の3000、他の場合は大きい方の5000に切替える(S23〜S25)ように制御部を構成する。
【0064】
また、一定車速または一定レシオのモードの作業走行中におけるレートリミッタの作動による設定車速変更の際は、上記における設定車速と現在車速の偏差の代わりに、設定車速変更中に限り比例ゲイン上限値を低く切替えることにより、設定車速変更によるオーバーシュートを抑えてスムーズな変速が可能となる。
【0065】
また、上記レートリミッタの作動による設定車速変更については、制御動作の切替制御のフローチャートを図15に示すように、設定車速変更中に限り、通常のPI制御をP制御に切替え(S41〜S43)するように制御部を構成することにより、設定車速変更によるオーバーシュートを抑えてスムーズな変速が可能となる。
【0066】
また、出力ディレー制御のフローチャートを図14に示すように、一定車速または一定レシオのモードの作業走行における逆進操作について、設定車速と現在車速の偏差の符号が正負で反転する場合に限り、所定の出力ディレー(例えば、100ms)を設ける(S31,S32)ことにより、オーバーシュートが発生しても、直ぐに反転出力をしないことでオーバーシュートを抑制し、スムーズな変速が可能となる。
【0067】
次に、アクセル操作による走行モードにおける走行制御について説明すると、アクセルペダルの踏込量をポテンショによって検出することにより、同じ踏込み位置が連続する場合に、エンジン回転を徐々に落とし、トロイダル変速機構4による前後進無段変速伝動装置1の減速比を下げ一定車速を保つように制御することにより、負荷が増えた時はエンジン回転を上げて対応しつつ、トルク低下時にエンジン回転を下げて燃費改善が可能となる。
【0068】
また、上記構成のアクセルについて、その踏込み操作の加速度によって走行加速のスピードを変えるように車速制御することにより、走行加速がオペレータの意に沿った操作感覚となり、操作性の改善を図ることができる。同様に、アクセルの戻し加速度によって減速のスピードを変えるように車速制御することにより、制動力がオペレータの意に沿った操作感覚となり、操作性の改善を図ることができる。
【0069】
(走行制御)
次に、走行モードにおいては、アクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏込み操作した場合に、マイナスのホイルトルクを出力するようにトロイダル変速機構4を制御することにより、ホイル負荷に対抗するトロイダル変速機構4の動作を抑えて操作感覚に適合させることができる。また、前進走行において、アクセルペダルの踏込みが無くなくなるとマイナストルクを出力し、かつ、リバースレバーがバックに操作されたときに、マイナストルクを増大することにより、慣性による走行を減速して操作感覚に適合させることができる。後退走行は、上記の反対に制御する。
【0070】
次に、左右のブレーキペダルについて踏込み位置を検出するスイッチをそれぞれ設け、走行モードにおいて、踏み具合に応じて減速比率を変えるように制動制御を構成する。すなわち、左右のブレーキペダルについて検出位置をずらして配置し、最初の検出から次の検出までの経過時間によってバリエータの減速度合いを変更する。
【0071】
このような2つのスイッチによる簡易な構成により、踏み具合の強さを検出する高コストの圧力センサを要することなく、オペレータの減速意図を反映した制動制御を構成することができる。この制動制御の適用は、左右両方のブレーキペダルが踏まれたときに限り、片輪ブレーキの時は適用しない。
【符号の説明】
【0072】
1 前後進無段変速伝動装置
4 トロイダル変速機構
A 前輪(走行装置)
B 後輪(走行装置)
F 作業機
G 制御装置
H ヒッチ
K 前後進選択レバー
M ブレーキペダル
N アクセルペダル
P 作業モード切替スイッチ
R リヤカバーセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速調節用のトロイダル変速機構を内設し、接続した作業機の牽引作業走行およびペダル操作による路上走行が可能な作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すトロイダル無段変速作業車両は、車速調節用のトロイダル変速機構を内設し、ヒッチに接続した作業機の牽引作業走行と、ペダル操作による路上走行とを可能に構成したものである。路上走行においては、制御部が変速比を制御することによりアクセルペダルの踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダルNを戻した時に所定の逆トルクで制動制御することにより、一般の変速伝動部によるエンジンブレーキ相当の操作性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−32171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒッチに接続した作業機によって大きな質量増加となることから、ブレーキ操作によっても大きな慣性力によって制動距離が増大することから、特に路上走行において走行秩序の混乱を招くことがあり、その一方で、作業機の接続に適合しうる制動機構やブレーキ制御の新たな付加はコスト負担の増加と煩わしい切替え操作を強いられるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、簡易な構成により、作業機接続に伴って制動力が付加されて路上等における移動走行の際の安定走行を確保することができるトロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、作業走行のための作業機を接続するヒッチと、原動機から走行駆動輪に至る走行伝動系に介設して摩擦ローラによって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部と、その変速比を制御することによりアクセルペダルの踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダルを戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部とを備えた作業車両において、上記ヒッチに作業機の接続を検出する接続センサを設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部に設けたことを特徴とする。
【0007】
上記トロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両は、アクセルペダルの操作によって制御部がトロイダル無段変速伝動部の変速比を制御することにより、踏込み操作によって目標車速まで増速し、踏込みを解除することによって所定の制動トルクで減速し、また、作業機接続時においては、係数切替制御により、ヒッチに設けた接続センサの検出信号によって制動トルクが所定の倍率で増加される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記制御部による係数切替制御は、前後進のいずれについても適用することを特徴とする。上記制御部により、作業機接続時は、前後進のいずれについても同様に大きな制動力が作用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の作業車両は、以下の効果を奏する。
請求項1の発明の作業車両は、アクセルペダルの操作によって路上走行する際に、ペダル操作を解除することによって所定の制動トルクで減速し、この制動トルクは、接続センサと係数制御とにより作業機接続時に所定の倍率で増加して安定走行のための大きな制動力が自動的に適用されることから、簡易な構成により、オペレータによる切替え操作を要することなく、作業機接続に応じて路上等における移動走行の際の安定走行が確保される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1の効果に加え、作業機接続時は、前後進のいずれについても同様に大きな制動力が作用することから、安定した走行が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の作業車両の側面図
【図2】本発明を実施したミッションケースの側断面図
【図3】ミッションケース内の動力伝動系統図
【図4】本発明主要部の油圧駆動系統図
【図5】トロイダル変速部の一部拡大側面図
【図6】トロイダル変速部の一部拡大断面図
【図7】トロイダル変速部の一部拡大側断面図
【図8】トロイダル変速部の一部拡大側面図
【図9】車速とバリエータ比との関係図
【図10】車速制御システムの入出力構成図
【図11】制動トルク切替制御のフローチャート
【図12】エンジン回転数対応制御のフローチャート
【図13】比例ゲインの上限値制御のフローチャート
【図14】出力ディレー制御のフローチャート
【図15】制御動作の切替制御のフローチャート
【図16】ヒッチの背面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
図1は作業車両の一例として農業機械であるトラクタの側面図を示している。
トロイダル無段変速伝動部を備えた作業車両は、4輪駆動走行が可能な走行装置A,Bを備えた機体の後部にヒッチHを介してロータリ等の圃場作業機Fを昇降可能に連結して使用され、これらの圃場作業を行うための各種機器を操作するための操作具を配置した操縦部Dを備えるほか、機器を駆動するための原動機C、その動力を変速伝動する前後進無段変速伝動装置1、各種の操作具によって各機器の動作を制御する制御装置(不図示)を備えて構成される。
【0013】
前後進無段変速伝動装置のミッションケース1は、図2に示すように、前からフロントケース1a、ミドルケース1b、リアケース1cの三つの中空ケースを連結して一体に構成している。
【0014】
フロントケース1aは、前隔壁2と後隔壁3とを有し、その内部に溜めるオイルはトロイダル変速機構用の専用オイルでミドルケース1bとリアケース1cに溜めるオイルとは異ならせている。このフロントケース1a内に、上からバリエータ軸10、走行駆動入力軸11、PTO入力軸12、前輪駆動軸13を軸支している。バリエータ軸10の前方で軸心線上には、エンジンEの出力軸と直結するメイン入力軸14を軸架している。このように、トロイダル変速機構4に用いるオイルを一般的に使うミッションケース1内に溜めるオイルと分離して溜めることで、オイル循環でトロイダル変速機構4を効果的に冷却できる。
【0015】
メイン入力軸14に前隔壁2の内側で固着したギア15は、下位の走行駆動入力軸11に固着した大小ギア16、43の大径ギア16に噛み合って増速伝動し、この大小ギア16、43の小径ギア部43が同時に回転する。この小径ギヤ43は、さらに下位のPTO入力軸12に固着したギア18に噛み合って減速伝動している。PTO入力軸12はミドルケース1b内の中継軸42に設けたPTO軸変速機構44に繋がるが、このPTO軸変速機構44の伝動前側でミドルケース1b内において、ワンウエイクラッチ29を設けており、エンジン停止時のゆり戻しによる逆回転を防止している。前記メイン入力軸14に固着しているギア15に対して、バリエータ軸10を回転可能に支持している。
【0016】
最下位の前輪駆動軸13は、後述するミドルケース1b側からの伝動により前側のフロントデフ軸17へ動力を伝動している。フロントデフ軸17は、フロントデフギア装置19を介して左右の前輪20を駆動する。(図3参照)
【0017】
前記バリエータ軸10に装着したトロイダル変速機構4について説明する。バリエータ軸10と一体回転する2つの出力ディスク4a,4aと、両出力ディスク4a,4aの中央側に位置して下方の走行駆動入力軸11に固着したギア21に中継ギア22を介して噛み合うギア23と共に回転する入力ディスク4b,4bを設けている。そして、前記出力ディスク4a,4aと入力ディスク4b,4bとの間に摩擦ローラ支持アーム69の先端部に枢支した摩擦ローラ5を片側三個ずつ軸支する構成(バリエータ機構)としている。
【0018】
摩擦ローラ支持アーム69はフルクラムプレート68に構成している作動シリンダ6内を往復移動するピストン96のピストンロッド7に連結している。また、摩擦ローラ5はローラ支持部材51で支持され、このローラ支持部材51と摩擦ローラ支持アーム69との間は球面ベアリングBで支持されている。(図6参照)
【0019】
また、フルクラムプレート68に対する作動シリンダ6のシリンダ孔55の配置を図8に示している。
この片側三個ずつの摩擦ローラ5を油圧操作での位置を変更することにより摩擦ローラ5の傾倒角が変更され、前記入力ディスク4b,4bから出力ディスク4a,4aへ伝わる動力伝達比が変更されてバリエータ軸10の回転を変速する構成となっている。この変速伝動効率は約80〜90%と良く、特に低速での伝動効率が高いのが特徴である。
なお、トロイダル変速機構4の具体的構造は、後述する。
【0020】
バリエータ軸10の回転は、後隔壁3のミドルケース1b側でバリエータ軸10に連結した入力クラッチ軸25にスプライン嵌合したギア26とワンウエイクラッチ60を駆動すると共に、遊星機構61のサンギア61aを駆動する。一方、前記走行駆動入力軸11は、後続の延長軸62、この延長軸62上のギア63、このギア63と噛みあう前記入力クラッチ軸25に遊嵌させたギア28を介して、遊星機構61のプラネタリギア61bを支持するキャリア61cを、サンギア61aの周りに公転駆動する。
【0021】
また、前記入力クラッチ軸25の終端側には、油圧クラッチ形態の高速側クラッチ64を設け、これに隣接して同様に油圧クラッチ形態の低速側クラッチ65を配置する。なお、高速側クラッチ64は、そのクラッチ入りによって入力クラッチ軸25と出力クラッチ軸66を接続する。また、低速側クラッチ65は、遊星機構61のリングギア61dと出力クラッチ軸66とを接続する構成としている。これら高速側クラッチ64と低速側クラッチ65とによって符号30の高低切替クラッチを構成する。
【0022】
高低切替クラッチ30の高速側クラッチ64が入りとなり、低速側クラッチ65が切りの状態では、変速されたバリエータ軸10の回転、即ち入力クラッチ軸25の回転が高速側クラッチ64と伝動ドラム67を経由して出力クラッチ軸66に伝達され、その回転はバリエータ軸10が低速の正転から高速の正転まで変速回転(「ハイレジーム」という)する。
【0023】
また高低切替クラッチ30の低速側クラッチ65が入りとなり、高速側クラッチ64が切りの状態では、変速されたバリエータ軸10の回転がサンギア61aに伝達され、一方延長軸62の回転は、ギア63、ギア28、プラネタリギア61bを介して遊星機構61のキャリア61cを駆動するため、サンギア61aとキャリア61cの回転との合成回転でリングギア61dを回転駆動し、このリングギア61dと一体回転するケーシング61eの回転が、低速側クラッチ65と伝動ドラム67を経由して出力クラッチ軸66に伝達する。この場合の出力クラッチ軸66の回転は、低速の逆転からゼロ回転を通過して低速の正転まで変速回転(「ローレジーム」という)する。
【0024】
また、走行駆動入力軸11の延長軸62には、入力クラッチ軸25にスプライン嵌合しているギア26と噛み合うワンウエイクラッチ27の外ギア27aを設けている。
【0025】
また、入力クラッチ軸25のワンウエイクラッチ60の外ギア28と噛み合うギア63を、延長軸62にスプライン嵌合して動力を伝動している。このような遊星機構61のプラネタリギア61bとサンギア61aの駆動構成でリングギア61dが変速駆動される。
【0026】
なお、ワンウェイクラッチ60に外ギア28を形成し、直接伝動することで伝動構成を単純化しローレジームからハイレジームへの変速伝動を段差無く円滑に行える。
【0027】
以上の構成で、低速側クラッチ65を繋げば、出力クラッチ軸66は低速の逆転からゼロ回転を通過して低速の正転まで変速され、さらに正転で増速するには高速側クラッチ64を繋いで摩擦ローラ5の傾きを変えていくことになる。この低速側クラッチ65と高速クラッチ64の断続タイミング、いわゆるローレジームからハイレジームへの引継ぎが低速側クラッチ65と高速側クラッチ64とから構成される高低切替クラッチ30の断続で制御されて、低速逆転からゼロ回転を通過して高速正転へ滑らかに変速されることになる。
【0028】
この高低切替クラッチ30の出力クラッチ軸66の後端にスプライン嵌合したギア31は、リアデファレンシャルギア装置34のデフ軸32にスプライン嵌合しているギア33と噛み合っているので、出力クラッチ軸66の回転はデフ軸32を駆動する。デフ軸32の回転はリアデファレンシャルギア装置34を介して左右の後輪35へ伝動される。
【0029】
デフ軸32の回転は、ギア37からPTO出力軸41に遊嵌した二連ギア36a、36bを介して前輪駆動延長軸39にスプライン嵌合しているギア38に伝動され、このギヤ38が回転することで前輪駆動延長軸39を駆動する。
【0030】
前輪駆動延長軸39には、トラクタの旋回時に前輪を同速回転、或いは増速回転して駆動させる前輪増速クラッチ40を装着している。さらにこの前輪駆動延長軸39に中継軸48を介して、前輪駆動軸13に伝動すべく連結している。前輪増速クラッチ40については、油圧クラッチを切り換えて軸40aを経由して中継軸48を駆動する場合が増速である。
【0031】
次に、トロイダル変速機構4の詳細な説明を図4以降で説明する。
トロイダル変速機構4の概要は、前記の如く、バリエータ軸10に装着した入力ディスク4b、4bと出力ディスク4a、4aの間に摩擦ローラ5を設け、この摩擦ローラ5の傾斜角度を変更して入力ディスク4bの回転を加減速して出力ディスク4aに伝動する構成である。
【0032】
図5に示すように、摩擦ローラ5は、ミッションケース1の一部を構成するフロントケース1aの右側面に取り付けたフルクラムプレート68に設ける摩擦ローラ支持アーム69の先端に枢支している。そして、前側の入出力ディスク4a,4bと後側の入出力ディスク4a,4bとの間にそれぞれ三個づつ円周方向に等しく分配して設けている。
【0033】
図6に示すように、摩擦ローラ支持アーム69の一端側は球面ベアリングBを介してローラ支持部材51を支持しており、このローラ支持部材51で摩擦ローラ5を支持軸52で回転可能に支持している構成である。摩擦ローラ支持アーム69の多端側にはピストンロッド7が連結している。ピストンロッド7はフルクラムプレート68内のピストン96とともに往復移動する。
【0034】
フルクラムプレート68は、摩擦ローラ支持アーム69を枢支するボス部68aをフロントケース1a内に向けて突設すると共に、フルクラムプレート68の内部に摩擦ローラ支持アーム69を回動する作動シリンダ6を設け、この作動シリンダ6のピストン96に連結しているピストンロッド7を摩擦ローラ支持アーム69に枢着している。(図6、図7を参照)7aがピストンロッド7と摩擦ローラ支持アーム69の枢着軸である。
【0035】
シリンダ孔55の部屋55a(図4、図6参照)に油を送油すると、ピストン96とピストンロッド7は矢印96a方向に移動する。すると、摩擦ローラ支持アーム69と共に摩擦ローラ5が枢支軸72を支点として69a方向に回転する。シリンダ孔55の部屋55b(図4、図6参照)に油を送油すると逆の動きをする。
【0036】
図7のシリンダ孔55に対するピストン96の位置は、ギヤードニュートラル(GN)を示している。即ち、トロイダル変速機構4が回転を伝達しない位置であり、前進側と後進側の境界位置を示している。ピストン96が矢印P方向に移動すると、機体は後進する。また、ピストン96が矢印Q方向に移動すると、機体は低速前進する。このとき低速クラッチ65は入り状態のローレジームである。
【0037】
ピストン96がフルクラムプレート68の端部68aまできた状態がローレジームの最高回転数であるので、さらに機体を高速状態にしたい場合には、高速クラッチ64を入り状態としてハイレジームにする。そして、ピストン96をS方向に移動していくと、高速の正転状態で加速していく構成である。
【0038】
トロイダル変速機構4の複数の摩擦ローラ5は同時に同じ方向へ傾くという変速動作をするので、フルクラムプレート68の表裏のいずれか一方側にピストンロッド7を伸び出しする前記油圧供給部屋55aを構成し、他方側にピストンロッド7を退避する前記油圧供給部屋55bを構成することで、オイル供給回路の構成を単純化できる。
【0039】
以上の構成で、前記エンジンEの回転をトロイダル変速機構4へ伝達し、このトロイダル変速機構4で変速する回転を高低切替クラッチ30に伝動する。そしてこの高低切替クラッチ30の低速クラッチを接続してトロイダル変速機構4の摩擦ローラ5の傾きを変更すると、出力回転を低速域内で逆転から正転に亘って無段階で変速する。この変速は作業車両を対地作業に適した低速度で前後進する走行条件に適している。また高低切替クラッチ30を高速にしてトロイダル変速機構4の摩擦ローラ5の傾きを変更すると、出力回転を高速域内で正転から逆転に亘って無段階で変速する。この変速は作業車両が路上を移動する走行条件に適している。
【0040】
対地作業機を駆動するPTO出力軸41は、次のように伝動している。
前後隔壁2,3の内部で、前記トロイダル変速機構4の下部に軸架した走行駆動入力軸11に固着したギア43をPTO入力軸12に固着したギア18と噛み合わせて、このPTO入力軸12の回転を後隔壁3の後部に設けるPTO軸変速機構44とPTOクラッチ45を介してPTO出力軸41に伝動している。PTO出力軸41の回転は、リアケース1c内に設けるPTO軸第二変速機構46で適宜の回転数に変速してPTO出力軸47に伝動する。また、PTO入力軸12に固着したギア115と油圧ポンプ74の入力軸に固着したギア116を噛み合わせて油圧ポンプ74を駆動している。
【0041】
トロイダル変速機構4の油圧制御系は、図4のシステム系統図に示すように、各摩擦ローラ5・・・を進退駆動する複動型の作動シリンダ6・・・を備え、かつ、それぞれの摩擦ローラ支持アーム69・・・に形成した油路54を介して専用オイルを摩擦ローラ5・・・へ供給し、入力ディスク4bと出力ディスク4aとの間の摩擦伝動を確保しつつ潤滑と冷却を行うとともに、各作動シリンダ6・・・による摩擦ローラ5・・・の進退駆動とバリエータ軸10の軸端入力によるエンドロード圧とを制御する。これらのオイルはフロントケース1a内に溜めたトロイダル変速専用オイルで循環して使用する。これにより、トロイダル変速機構4に用いるオイルを一般的に使うミッションケース1内に溜めるオイルと分離して溜めることが出来て、オイル循環でトロイダル変速機構4を効果的に冷却できるようになる。
【0042】
詳細には、複数の摩擦ローラ5の複数の作動シリンダ6は、すべてを並列に油圧接続してフルクラムプレート68のピストンロッド7の伸び出し側および退避側の作用油圧をそれぞれ制御する2つの油圧供給制御部を有する。このように、複数の作動シリンダ6のピストンロッド7を同時に伸び出し及び退避させるように駆動する油圧供給路を構成するにあたり、フルクラムプレート68の表裏のいずれか一方側に伸び出し側の供給路を構成し、他方側に退避側の供給路を構成する。これにより、複数の摩擦ローラ5を同時に同じ方向へ傾けるような変速動作の場合について、圧力オイル供給回路の構成を単純化できるようになる。
【0043】
サクションフィルタ76を通ってポンプ74で吸引されたオイルは再度目の細かいフィルタ85を通って鉄粉などの異物を除かれて、メインリリーフ弁9aで圧を調整され、前記の油圧制御部へ送られる流れと、摩擦ローラ5の潤滑と電磁バルブ97への流れに分岐する。
【0044】
電磁バルブ97への流れは、リリーフ弁99とアキュムレータ98で圧を一定に保持されて摩擦ローラ5の潤滑と冷却に使われる。
油圧制御部へ送られる流れは、チェック弁86を通って、アキュムレータ84で圧を安定して作動シリンダ6の伸長側および短縮側の制御部と入出力ディスク4a,4bの圧力制御用に分岐される。
【0045】
作動シリンダ6の伸長側油圧回路は、変速比によって電流値で制御される電磁減圧弁90と送油方向を切替えるパイロット弁89とアキュムレータ92と圧油の脈動を吸収して流量を絞る第1モードダンパ101で構成され、作動シリンダ6の短縮側油圧回路は、同じく、電磁減圧弁88とパイロット弁87とアキュムレータ91と第1モードダンパ100で構成されている。各作動シリンダ6の供給直前に第3モードダンパ107を設けてさらに油圧の安定を図っている。
【0046】
作動シリンダ6の短縮側の圧力S1は電磁バルブ88とチェック弁87で調整され、作動シリンダ6の伸長側の圧力S2は電磁バルブ90とチェック弁98で調整される。こちら側にも第3モードダンパ108を設けてさらに油圧の安定を図っている。
【0047】
また、入出力ディスク4a,4bの圧力制御用回路にはリリーフ弁104と二つのシャトル弁79,80により直接の圧力と前記短縮側圧力S1と伸長側の圧力S2の高い方の流れを変速部のエンドロード圧としてディスク圧供給部105へ供給するように構成することにより、摩擦ローラ5・・・の傾斜動作による速度変更と対応してエンドロード圧を制御して各摩擦ローラ5・・・の転動接触圧を調整する。
【0048】
さらに、各作動シリンダ6には伸長側と短縮側のエアー抜き路109,110を設けて、このエアー抜き路109,110をフロントケース1aの前記フルクラムプレート68の取付側と反対側の底部に設けるエアーパージ弁102とアンチキャビテーションチェック弁103に繋いでいる。54bは潤滑回路であり、図6に示す油路54に油を送って潤滑する構成としている。
【0049】
図9は、車速とバリエータ比との関係を示している。横軸が車速(kph)であり、縦軸がバリエータ比である。Lは前述したローレジームであり、低速側クラッチ65が入り状態の速度範囲を示している。Hは前述したハイレジームであり、高速側クラッチ64が入り状態の速度範囲を示している。
【0050】
高低切替クラッチ30は、トロイダル変速部4による高速の変速動力と低速の差動動力とを受け、これら動力を受ける2系統のクラッチ64,65を制御することにより、操作具と対応する目標車速に合わせて停止速を含む前後進低速域については差動動力を出力し、また、前進中高速域については変速動力を出力することにより、作業車両の停止速を含む前後進無段変速走行を可能とする。この切替え制御のための高速側と低速側の回転数、走行車速は、高低切替クラッチ30の入出力軸25,66のギヤ26,31に臨むセンサ25s,66sの信号およびエンジン回転数により算出する。
【0051】
GNはギヤードニュートラルであり、速度がゼロの位置である。Sはシンク位置であり、低速側クラッチ65と高速側クラッチ64の切り換え点である。このシンクS位置でのクラッチを切り換える直前において、油圧回路内に背圧をかけることでクラッチの切替ショックを防止できるようになる。この背圧のレベルは、低速側クラッチ65又は高速側クラッチ64の大きさに比例して決定するようにする。
【0052】
機体を停車するときにはギヤードニュートラルGNに制御するが、トラクタが一定時間走行しない場合は低速側クラッチ65への油圧を送らないようにすることで、機体停止中の無駄なエネルギ消費を抑制できる。車速センサからの信号により機体が停止しない場合には、再度ギヤードニュートラルGN制御で機体を停止させるようにする。
【0053】
(車速制御)
次に、前後進無段変速伝動装置による車速制御について説明する。
図10は、車速制御システムの入出力構成図である。制御装置Gは、走行調節用の各種の操作具のセンサ信号に応じてトロイダル変速機構4のシリンダ6および高低切替クラッチ30の各クラッチ64,65を油圧制御することによって目標車速に合うように前後進無段変速伝動装置1を制御する。
【0054】
作業モード切替スイッチPにより、「作業モード」、「路上モード」等を選択することができ、「作業モード」では、一定車速による作業走行のために、車速設定ダイヤルSの設定による一定車速制御をを行い、「路上モード」では、作業圃場との間の移動の際の路上走行ために、アクセルペダルNの操作に応じた車速調節制御を行う。
【0055】
この路上モードによる車速調節制御については、路上走行における操作性を確保するために、制御装置Gが、リニアレバーと称する前後進選択レバーK、アクセルペダルN、ブレーキペダルMの信号に対応する目標車速に合うように前後進無段変速伝動装置を制御することにより、ペダル操作によって無段階の変速比による伝動制御を行い、また、アクセルペダルNから足を離した時は、エンジンブレーキ相当の制動トルクが駆動輪に作用するように変速制御し、その制動トルクの大きさは、後部ヒッチHの接続を検出する接続センサとしてリヤカバーセンサRや、図16のヒッチの背面斜視図に示すように、レバー操作により作業機を接続するロックプレートSの回動検出スイッチRを設け、その接続信号により、作業機Fの牽引の有無によって切替え可能に構成する。また、接続センサRは、により構成する。
【0056】
詳細には、図11のフローチャートに示すように、アクセルペダルNによる走行モードであることを判定する処理ステップ1(以下において「S1」の如く略記する。)において、作業モード切替スイッチPの信号が「走行モード」判定であり、エンジンブレーキの判定(S2)において、アクセルペダルNの踏込量の検出により足を離した場合に該当し、作業機Fの接続判定(S3)において、後部ヒッチHの接続を検出するリヤカバーセンサRの信号が接続に該当する場合に限り、接続が無い場合に適用する所定の出力要求トルクを係数処理(例えば、1.5培)によって増加(S4)し、すなわち、変速比をより低速側に制御して駆動輪により大きな制動トルクを作用する。
【0057】
このように、アクセル操作による走行中において、オペレータがアクセルペダルNから足を離した時のエンジンブレーキ相当の制動トルクの大きさを作業機Fの接続の有無によって切替えを行うことにより、作業車両がロータリ等の作業機Fを接続している時の全体の質量の増大によっても、特段のブレーキ機構やブレーキの油圧制御等を要することなく、接続部に設けた簡易なスイッチとトロイダル変速制御の係数処理によってエンジンブレーキ効果を自動的に確保することができ、制動距離の増大による不測の事態を招くことなく、安定した路上走行が可能となる。また、前後進選択レバーKの切替えによる前後進のいずれについても係数切替処理を適用することにより、機体の後退操作を含め、同様の制動トルクにより安定走行が可能となる。
【0058】
また、上記における制動トルクは、エンジンが高回転数の時に強く作用して乗り心地を悪化させ、低回転数の時に弱く作用して制動距離が長くなることから、エンジンが高回転の程、制動トルクを小さくし、低回転の程、大きく制御出力するように制御部を構成することにより、エンジン回転数の変化によることなく、ブレーキの強さを、ほぼ均等にしてオペレータにとって快適なフィーリングで減速することことができる。
【0059】
具体的には、エンジン回転数対応制御のフローチャートを図12に示すように、制御出力する要求トルクをより大小に切替え可能に構成し、アクセルペダルモードで所定車速(例えば、3km/h)以上の走行の際にペダル操作量が所定割合(例えば、10%)以下の場合(S11〜S13)において、エンジンが高回転である場合はエンジンブレーキの要求トルクを小さくし、低回転の場合は大きくする(S14〜S16)ように制御部を構成する。
【0060】
この場合において、制御出力する要求トルクの最小リミット値を大小に切替え可能に構成し、要求トルクの前記切替えの代わりに、要求トルクの最小リミット値をエンジン回転数により切替えすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0061】
次に、設定車速を維持して走行する一定車速作業走行または設定トルクを維持して走行する一定レシオ作業走行による後退走行においては、リニアレバーの操作によって前進走行に切替えた際に、変速目標車速に対する大きな加速幅により出力が過大となってオーバーシュートを招き、オペレータに大きなショックを与えるという作業走行上の問題があった。
【0062】
このような問題の解決のために、設定車速と現在車速の偏差が正の時は、比例ゲインが従来よりも小さくなるように大小の上限値を切替え可能に設け、比例ゲインをその範囲内に抑えるように制御部を構成することにより、バリエータがシンク側からオーバードライブ側に駆動する際に、出力が大きくなり過ぎないようにしてバリエータのオーバーシュートを防止し、スムーズな変速が可能となる。
【0063】
具体的には、比例ゲインの上限値として通常とより小さい大小の上限値(例えば、5000と3000)を切替え可能に構成した上で、比例ゲインの上限値制御のフローチャートを図13に示すように、一定車速、一定レシオのモードで、Lクラッチ接続の場合(S21,S22)において、設定車速と現在車速の偏差が正である場合は比例ゲイン上限値を低い方の3000、他の場合は大きい方の5000に切替える(S23〜S25)ように制御部を構成する。
【0064】
また、一定車速または一定レシオのモードの作業走行中におけるレートリミッタの作動による設定車速変更の際は、上記における設定車速と現在車速の偏差の代わりに、設定車速変更中に限り比例ゲイン上限値を低く切替えることにより、設定車速変更によるオーバーシュートを抑えてスムーズな変速が可能となる。
【0065】
また、上記レートリミッタの作動による設定車速変更については、制御動作の切替制御のフローチャートを図15に示すように、設定車速変更中に限り、通常のPI制御をP制御に切替え(S41〜S43)するように制御部を構成することにより、設定車速変更によるオーバーシュートを抑えてスムーズな変速が可能となる。
【0066】
また、出力ディレー制御のフローチャートを図14に示すように、一定車速または一定レシオのモードの作業走行における逆進操作について、設定車速と現在車速の偏差の符号が正負で反転する場合に限り、所定の出力ディレー(例えば、100ms)を設ける(S31,S32)ことにより、オーバーシュートが発生しても、直ぐに反転出力をしないことでオーバーシュートを抑制し、スムーズな変速が可能となる。
【0067】
次に、アクセル操作による走行モードにおける走行制御について説明すると、アクセルペダルの踏込量をポテンショによって検出することにより、同じ踏込み位置が連続する場合に、エンジン回転を徐々に落とし、トロイダル変速機構4による前後進無段変速伝動装置1の減速比を下げ一定車速を保つように制御することにより、負荷が増えた時はエンジン回転を上げて対応しつつ、トルク低下時にエンジン回転を下げて燃費改善が可能となる。
【0068】
また、上記構成のアクセルについて、その踏込み操作の加速度によって走行加速のスピードを変えるように車速制御することにより、走行加速がオペレータの意に沿った操作感覚となり、操作性の改善を図ることができる。同様に、アクセルの戻し加速度によって減速のスピードを変えるように車速制御することにより、制動力がオペレータの意に沿った操作感覚となり、操作性の改善を図ることができる。
【0069】
(走行制御)
次に、走行モードにおいては、アクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏込み操作した場合に、マイナスのホイルトルクを出力するようにトロイダル変速機構4を制御することにより、ホイル負荷に対抗するトロイダル変速機構4の動作を抑えて操作感覚に適合させることができる。また、前進走行において、アクセルペダルの踏込みが無くなくなるとマイナストルクを出力し、かつ、リバースレバーがバックに操作されたときに、マイナストルクを増大することにより、慣性による走行を減速して操作感覚に適合させることができる。後退走行は、上記の反対に制御する。
【0070】
次に、左右のブレーキペダルについて踏込み位置を検出するスイッチをそれぞれ設け、走行モードにおいて、踏み具合に応じて減速比率を変えるように制動制御を構成する。すなわち、左右のブレーキペダルについて検出位置をずらして配置し、最初の検出から次の検出までの経過時間によってバリエータの減速度合いを変更する。
【0071】
このような2つのスイッチによる簡易な構成により、踏み具合の強さを検出する高コストの圧力センサを要することなく、オペレータの減速意図を反映した制動制御を構成することができる。この制動制御の適用は、左右両方のブレーキペダルが踏まれたときに限り、片輪ブレーキの時は適用しない。
【符号の説明】
【0072】
1 前後進無段変速伝動装置
4 トロイダル変速機構
A 前輪(走行装置)
B 後輪(走行装置)
F 作業機
G 制御装置
H ヒッチ
K 前後進選択レバー
M ブレーキペダル
N アクセルペダル
P 作業モード切替スイッチ
R リヤカバーセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業走行のための作業機(F)を接続するヒッチ(H)と、原動機から走行駆動輪(A,B)に至る走行伝動系に介設して摩擦ローラ(5)によって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部(4)と、その変速比を制御することによりアクセルペダル(N)の踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダル(N)を戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部(G)とを備えた作業車両において、
上記ヒッチ(H)に作業機(F)の接続を検出する接続センサ(R)を設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部(G)に設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御部(G)による係数切替制御は、前後進のいずれについても適用することを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項1】
作業走行のための作業機(F)を接続するヒッチ(H)と、原動機から走行駆動輪(A,B)に至る走行伝動系に介設して摩擦ローラ(5)によって無段階の変速比で動力を伝達するトロイダル無段変速伝動部(4)と、その変速比を制御することによりアクセルペダル(N)の踏込みに応じた目標車速まで駆動制御するとともに、アクセルペダル(N)を戻した時に所定の逆トルクによる制動制御をする制御部(G)とを備えた作業車両において、
上記ヒッチ(H)に作業機(F)の接続を検出する接続センサ(R)を設け、その検出信号を受けて上記逆トルクを所定の倍率で増加する係数切替制御を上記制御部(G)に設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御部(G)による係数切替制御は、前後進のいずれについても適用することを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−149462(P2011−149462A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9741(P2010−9741)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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