説明

保護被覆堆積方法および複合物品

【課題】物理的堆積方法での被覆が不可能である複雑な形状のSiベース基材に保護被覆を効果的に被覆させる。
【解決手段】
一体型ベーンリングおよびブレード一体型ロータなどの複雑な形状を有するSiベース基材に、溶解塗装、化学蒸着法および物理蒸着法で導電層を堆積させ、その上に電気泳動堆積法(EPD)により保護被覆として少なくとも1層のバリヤ層を堆積させる。化学蒸着法により、絶縁層を基材と導電層との間に塗布してもよい。この絶縁層は、ケイ素ベース基材のケイ素と、導電層およびこの導電層の上に堆積されるボンディングコートなどのあらゆる層との間に起こり得る化学反応を抑制するという利点がある。バリヤ層を堆積する前に、化学蒸着法および電気泳動堆積法でボンディングコートを絶縁層に堆積させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温かつ水を含んだ環境にさらされる物品に用いられる複雑な形状のSiベース基材に保護被覆を堆積させる電気泳動堆積方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素を含有するセラミック材料は、例えば、ガスタービンエンジン、熱交換器、内燃機関など高温用途の構造物に用いられてきた。これらの材料の特定用途として、水を含んだ環境かつ高温下で作動するガスタービンエンジンに使用することが有用である。高温かつ水を含んだ環境にさらされると、これらのケイ素含有材料は、揮発性のSiの種類、具体的には、Si(OH)XおよびSiOを形成し、その結果、質量が減少または損失することが分かっている。例えば、1200℃で約1ATM(気圧)の水蒸気の圧力を伴う希薄な燃料環境にさらされたとき、炭化ケイ素は、1000時間毎に約6mil(約0.152mm)の割合で質量損失および減少を示す。炭化ケイ素が酸化し、炭化ケイ素の表面にシリカが形成され、次にシリカと蒸気が反応して、Si(OH)Xなど揮発性種のケイ素を形成することが、上記のプロセスには含まれる。
【0003】
上記の環境下で用いられるケイ素ベース基材を含む物品の適切な被覆は、当技術分野で公知である。例として、特許文献1〜6を参照されたい。先行の特許文献に記載された従来技術には、一体型ベーンリングおよび一体的にブレードを備えたロータなど複雑な形状の部品に保護被覆を塗布する方法が教示されていない。通常、そのような複雑な形状の部品は化学蒸着法(CVD)で被覆するが、CVDは、単純な酸化被覆に適用できる場合だけに限定され、被覆層の厚さおよび均一性の点に関して制限があり、かつ高価である。
【0004】
そのため、複雑な形状のSiベース基材に保護被覆を堆積させる方法を改善し、提供することが非常に望ましいことである。
【0005】
したがって、本発明の主要な目的は、前述の従来方法と比較した際、効果的で、安価な目視しない(non−line−of−sight)電気泳動堆積(EPD)方法を提供することである。
【0006】
さらに、本発明の目的は、上記のように複雑な形状を有するSiベースの構造物に導電層を塗布する方法を提供することである。
【特許文献1】米国特許第5,305,726号明細書
【特許文献2】米国特許第5,869,146号明細書
【特許文献3】米国特許第6,284,325号明細書
【特許文献4】米国特許第6,296,941号明細書
【特許文献5】米国特許第6,352,790号明細書
【特許文献6】米国特許第6,387,456号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温かつ水を含んだ環境にさらされる物品および構造物に用いられる複雑な形状をしたSiベース基材に保護被覆を堆積させる方法に関する。ここで、複雑な形状とは、被覆を堆積させる際に、物理的堆積技術、すなわち目視する(line−of−sight)方法で被覆するのが困難なような幾何学的形状を有する構成部品を意味している。そのような複雑な形状の部品には、一体型ベーンリングおよびブレード一体型ロータなどが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法には、目視しない方法、具体的には電気泳動堆積(EPD)法が含まれる。EPD法により、複雑な形状を有する物品のケイ素ベース基材に未焼結(green)のバリヤ層を堆積させることが可能となる。次いで、高温で焼成することにより未焼結の堆積層を緻密にすることができる。EPD法により生成された被覆を覆う(seal)ために、EPD法とともに化学蒸着法(CVD)を用いてもよい。
【0009】
本発明により電気泳動堆積法を実行する際には、基材を電気的に導電性にする必要がある。本発明の好ましい電気泳動堆積法には、バリヤ層を堆積させる前に電気的導電層を基材に堆積させることが含まれる。
【0010】
さらなる実施形態では、酸化絶縁層を基材と導電層との間に設ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、高温かつ水を含んだ環境にさらされる構造物に用いられる複雑な形状をしたSiベースの基材に保護被覆を電気泳動堆積させる方法に関する。複雑な形状とは、被覆を堆積させる物理的堆積技術、すなわち目視する方法により被覆するのが困難なような幾何学的形状を有する構成部品を意味する。典型的な構造物には、一体型ベーンリングおよびブレード一体型ロータなどが含まれる。Siベースの基材には、SiC、Si34、酸窒化ケイ素(Silicon−oxy nitrides)、およびそれらの混合物からなる基材の物質が含まれるが、それに限定するものではない。
【0012】
本発明の方法には、前述のような複雑な形状のSiベース基材を提供し、その基材に導電層を堆積させ、電気泳動堆積法(EPD)により保護被覆として少なくとも1層のバリヤ層を堆積させることが含まれる。従来周知の方法で導電層を堆積させてもよい。具体的に、導電層を堆積させる適切な方法としては、溶解塗装、化学蒸着法および物理蒸着法が挙げられる。溶解塗装は、低コストであり、複雑な形状のSiベース基材に相対的に厚い被覆を塗布する方法を有利に提供する。Siベースの基材を堆積しようとする導電層の物質と接触させ、その物質の融点より高い温度で基材を加熱する。その結果、物質は完全に溶解し、ケイ素ベースの基材を被覆する。溶解塗装または化学/物理蒸着法で導電層を堆積する場合には、非酸化性の環境下で導電層を堆積させることが望ましい。導電層の物質には、Cr、Ta、Hf、Nb、Si、Mo、Ti、W、Al、Zr、Y、およびそれらの混合物からなる群から選択される物質が含まれる。適切な物質は、具体的に、ケイ素金属および/またはケイ素合金である。ケイ素またはケイ素合金の主な利点は、ケイ素が、ケイ素ベース基材の表面層の抵抗を約10〜100kΩから10〜500Ωまで減少させることである。抵抗を減少させることにより、電気泳動堆積法(EPD)によるバリヤ層被覆の均一性が向上する。さらに、Si合金により、被覆に耐クリープ性が付与される。
【0013】
本発明の一実施形態によると、基材と電気的導電層との間に電気的絶縁層が塗布される。ケイ素ベース基材のケイ素と、導電層およびこの電気的導電層の上に堆積されるボンディングコートなどのあらゆる層との間に起こり得る化学反応をこの絶縁層が抑制するという利点があるということが分かっている。絶縁層は、SiCと、Si34と、希土類酸化物と、Si,Hf,Zr,Nb,Ta,Ti,Yの酸化物と、およびそれらの混合物と、からなる群から選択される。これらの物質により、許容できる電気的絶縁層が形成され、基材と、ボンディングコートまたはバリヤ層との間の化学反応が抑制される。酸化絶縁層は、前述した電気的導電層に関するあらゆる方法で堆積させることができる。しかし、化学蒸着法により絶縁層を堆積させる方法が好ましい。
【0014】
本発明のさらなる実施形態として、前述のように、バリヤ層を堆積する前にボンディングコートを電気的絶縁層に堆積させてもよい。本発明によると、ボンディングコートには、Cr、Ta、Hf、Nb、Si、Mo、Ti、W、Al、Zr、Y、あるいはそれらの混合物からなる群から選択される物質が含まれる。化学蒸着法、物理蒸着法、静電蒸着法および電気泳動堆積法によりボンディングコートを堆積させることができる。CVDおよびEPDでボンディングコートを堆積させる方法が好ましい。ボンディングコートの塗布後、ボンディングコートを高温で、好ましくは、非酸化性の環境下で焼成し、緻密にする。1000℃〜1500℃の温度下でボンディングコートを焼成することができる。非酸化性の環境には、窒素およびアルゴンが含まれることが好ましい。
【0015】
ボンディングコートを塗布した後、電気泳動堆積法により少なくとも1層のバリヤ層をボンディングコートに塗布することができる。適切なバリヤ層には、一ケイ酸イットリウム(yttrium monosilicate)、二ケイ酸イットリウム(yttrium disilicate)、希土類ケイ酸塩、アルミノケイ酸ストロンチウムバリウム(barium−strontium−aluminosilicates)、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、ムライト、およびそれらの混合物からなる群から選択されるバリヤ層が含まれる。バリヤ層を堆積させた後、必要に応じて、トップコートを塗布してもよい。適切なトップコートについては、具体的に、本明細書と同時に米国出願された同時係属出願(代理人整理番号第03−659号)に記載されている。
【0016】
本発明の電気泳動堆積法により、複雑な形状を有する構造物への被覆が非常に効果的に行われる。それにより、高温環境下で予測可能な耐用年数を備えるように十分な厚さおよび均一性を有する被覆が形成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複雑な形状を有するSiベースの基材に保護被覆を堆積させる方法であって、
複雑な形状をなすSiベースの基材を提供するステップと、
上記基材に電気的導電層を堆積させるステップと、
電気泳動堆積(EPD)により少なくとも1層のバリヤ層を保護被覆として堆積させるステップと、
を含む保護被覆堆積方法。
【請求項2】
化学蒸着法、物理蒸着法および溶解塗装のうち1つの方法で上記導電層を堆積させることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項3】
非酸化性の環境下で上記導電層を堆積させることを特徴とする請求項2に記載の堆積方法。
【請求項4】
上記導電層が、Cr、Ta、Hf、Nb、Si、Mo、Ti、W、Al、Zr、Y、およびそれらの混合物からなる群から選択される物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項5】
上記導電層の物質が、SiおよびSi合金の少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の堆積方法。
【請求項6】
上記基材と上記導電層との間に中間の絶縁層を堆積させるステップをさらに含む請求項1に記載の堆積方法。
【請求項7】
上記絶縁層が、SiCと、Si34と、希土類酸化物と、Y,Si,Hf,Zr,Nb,Ta,Tiの酸化物と、およびそれらの混合物と、からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の堆積方法。
【請求項8】
化学蒸着法で上記絶縁層を堆積させることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記基材の物質が、SiC、Si34、酸窒化ケイ素、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項10】
上記導電層にボンディングコートを堆積させるステップをさらに含む請求項6に記載の堆積方法。
【請求項11】
上記ボンディングコートの物質が、Ta、Hf、Nb、Si、Mo、Ti、W、Al、Zr、Y、Cr、あるいはそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の堆積方法。
【請求項12】
電気泳動堆積および化学蒸着法の1つの方法で上記ボンディングコートを堆積させることを特徴とする請求項11に記載の堆積方法。
【請求項13】
上記バリヤ層が、一ケイ酸イットリウム、二ケイ酸イットリウム、希土類ケイ酸塩、アルミノケイ酸ストロンチウムバリウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、ムライト、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の堆積方法。
【請求項14】
Si含有基材と、
電気的導電層と、
バリヤ層と、
を備える複合物品。
【請求項15】
上記基材と上記電気的導電層との間に電気的絶縁層をさらに含む請求項14に記載の物品。
【請求項16】
上記電気的絶縁層と上記バリヤ層との間にボンディングコートをさらに含む請求項15に記載の物品。
【請求項17】
上記物品が複雑な形状を有することを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項18】
上記物品が、一体型ベーンリングおよびブレード一体型ロータのうちの1つであることを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項19】
上記バリヤ層が、電気泳動堆積(EPD)で堆積されたバリヤ層であることを特徴とする請求項18に記載の物品。
【請求項20】
上記絶縁層が、SiCと、Si34と、希土類酸化物と、Y,Si,Hf,Zr,Nb,Ta,Tiの酸化物と、およびそれらの混合物と、からなる群から選択されることを特徴とする請求項15に記載の物品。
【請求項21】
上記電気的絶縁層と上記バリヤ層との間にボンディングコートをさらに含む請求項20に記載の物品。
【請求項22】
上記ボンディングコートの物質が、Ta、Hf、Nb、Si、Mo、Ti、W、Al、Zr、Y、Cr、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項21に記載の物品。

【公開番号】特開2006−52467(P2006−52467A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−195860(P2005−195860)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】