説明

信号変換装置、波形測定装置および半導体試験装置

【課題】シングルエンド信号および差動信号を入力してシングルエンド信号を出力するときに、広帯域でノイズや歪みが少ない高品質なシングルエンド信号を出力することを目的とする。
【解決手段】信号変換装置3にパルストランス12を用い、シングルエンド信号を入力したときには、パルストランス12の1次入力側と2次入力側とのうちシングルエンド信号を入力した入力側および1次出力側と2次出力側とのうち何れか一方の出力側をパルストランス12に接続し、差動信号を入力したときには、1次入力側および2次入力側との両方の入力側および1次出力側と2次出力側とのうち何れか一方の出力側をパルストランス12に接続する制御を行っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルエンド信号を入力したときはシングルエンド信号として出力し、差動信号を入力したときにはシングルエンド信号に変換して出力する信号変換装置、波形測定装置および半導体試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタルコンバータ(ADC)は種々の装置に用いられる。例えば、波形を測定するための波形測定装置や通信システム(人工衛星や無線基地局等に使用される通信システム)等に用いられる。
【0003】
図5はADCを備えた波形測定装置101の一例を示しており、この波形測定装置101は信号入力部102(第1信号入力部102Aおよび第2信号入力部102Bを有して構成される)と信号変換装置103と可変ゲインアンプ104とローパスフィルタ105とADC106とを備えている。
【0004】
波形測定装置101にはシングルエンド信号と差動信号との2種類の信号を入力することが可能になっている。シングルエンド信号は1本の信号線を使用して信号伝送を行うものであり、差動信号は2本の信号線を使用して信号伝送を行うものである。シングルエンド信号よりも差動信号の方が高速に信号伝送を行うことが可能になっているが、低速な信号伝送を行う場合もあり、シングルエンド信号と差動信号との両方の信号を入力可能にしている。
【0005】
このために、第1信号入力部102Aおよび第2信号入力部102Bの2つを設けている。シングルエンド信号を入力する場合は、第1信号入力部102Aと第2信号入力部102Bとのうち何れか一方を使用し、差動信号を入力する場合は、第1信号入力部102Aおよび第2信号入力部102Bの両方を使用する。
【0006】
信号変換装置103はシングルエンド信号を入力した場合にはシングルエンド信号を出力し、差動信号を入力した場合にはシングルエンド信号に変換をして出力する。また、信号変換装置103は入力したシングルエンド信号、差動信号に対して所定の増幅率(ゲイン)で増幅したシングルエンド信号を出力する。
【0007】
可変ゲインアンプ104は入力したシングルエンド信号または差動信号の振幅(レンジ)とADCが取り扱う振幅(レンジ)とが異なる場合に、レンジの調整を図る。ローパスフィルタ105(図中においてLPF)は不要な周波数帯域の信号を除去する。そして、ADC106はシングルエンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0008】
信号変換装置103は常にシングルエンド信号を出力する。シングルエンド信号は1本の信号線を使用するため、信号処理を行う機構を大幅に単純化し、且つ実装面積を小さくできる。従って、可変ゲインアンプ104およびローパスフィルタ105にシングルエンド信号を入力させることで、機構の単純化および実装面積の小規模化を図っている。
【0009】
また、信号変換装置103は所定の増幅率で入力した信号を増幅している。このために、信号変換装置103は差動増幅回路で構成している。このための差動増幅回路としては、主に特許文献1に開示されるようなインスツルメンテーションアンプ(Instrumentation Amp)が用いられる。インスツルメンテーションアンプは複数のオペアンプを組み合わせたものである。
【0010】
図6は信号変換装置103(インスツルメンテーションアンプ)の一例を示しており、オペアンプ111〜113と抵抗121〜130とリレー131、132とを備えて概略構成している。オペアンプ111は第1信号入力部102Aからの信号を入力し、オペアンプ112は第2信号入力部102Bからの信号を入力している。オペアンプ111および112は高インピーダンスで信号入力を受けるために設けている。
【0011】
オペアンプ113はオペアンプ111と112とのうち何れか一方から信号を入力した場合(シングルエンド信号を入力した場合)にはそのまま信号を出力し、両方から信号を入力した場合(差動信号を入力した場合)にはシングルエンド信号として信号を出力する。
【0012】
従って、信号変換装置103から出力される信号はシングルエンド信号と差動信号との何れであっても、シングルエンド信号になる。信号変換装置103は差動増幅回路であり、所定の増幅率でシングルエンド信号を出力する。増幅率は抵抗121〜129の抵抗値で設定される。抵抗130はインピーダンス整合のために設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−159480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
波形測定装置101が取り扱う信号は高速化の一途を辿っており、且つ信号の性能には高い品質が求められている。つまり、広帯域において低ノイズ、低歪みであることが要求されている。このため、ADC106が高速且つ低ノイズ、低歪みで処理可能であったとしても、その前段に配置される各部を要因として、ノイズや歪みを発生させる。特に、信号変換装置103が信号の品質を低下させる要因となる。
【0015】
前述したインスツルメンテーションアンプは複数のオペアンプを組み合わせて構成している。このときに使用されるオペアンプは能動部品であり、ノイズを発生させ、歪みを発生させる。能動部品は低い周波数帯域ではそれほど信号の品質(ノイズや歪み)が低下しないが、高い周波数帯域で信号の品質が急激に低下する。
【0016】
図7はオペアンプを用いた場合のSNR(Signal Noise Ratio:信号対雑音)およびSINAD(Signal to Noise And Distortion sensitivity:ノイズと歪みとの総和)を示している。横軸は信号の周波数を示しており、縦軸はSNRおよびSINADの値(デシベル)を示している。なお、縦軸の値が低いほどノイズ性能および歪み特性に優れ、高いほど低下する。
【0017】
この図に示すように、20MHz程度までの低い周波数帯域ではSNRおよびSINADは比較的良好であるが、20MHzを超過すると急激に信号の品質が低下する。つまり、高い周波数帯域であるほどノイズや歪みが発生する。このため、広帯域で高品質の信号処理を行うという上記要請を充足できなくなる。
【0018】
そこで、本発明は、シングルエンド信号および差動信号を入力してシングルエンド信号を出力するときに、広帯域でノイズや歪みが少ない高品質なシングルエンド信号を出力することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の課題を解決するため、本発明の第1の信号変換装置は、シングルエンド信号を入力したときにはシングルエンド信号を出力し、差動信号を入力したときにはシングルエンド信号に変換して出力する信号変換装置であって、前記シングルエンド信号および前記差動信号を入力するための第1信号入力部および第2の信号入力部と、1次入力側を前記第1信号入力部に接続し、2次入力側を前記第2信号入力部に接続し、1次出力側および2次出力側を信号出力部に接続したパルストランスと、シングルエンド信号を入力したときには、前記1次入力側と前記2次入力側とのうち前記シングルエンド信号を入力した入力側および前記1次出力側と前記2次出力側とのうち何れか一方の出力側を前記パルストランスに接続し、差動信号を入力したときには、前記1次入力側および前記2次入力側との両方の入力側および前記1次出力側と前記2次出力側とのうち何れか一方の出力側を前記パルストランスに接続する制御を行う接続制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
この信号変換装置によれば、受動素子であるパルストランスを用い、入力した信号に応じて接続制御を変えることで、所望の増幅率で増幅したシングルエンド信号を出力するようにしている。受動素子を用いているため、広帯域において高品質な信号処理を行うことが可能になる。
【0021】
本発明の第2の信号変換装置は、第1の信号変換装置であって、前記接続制御部は、シングルエンド信号を入力したときに、前記パルストランスの特性に応じて、前記1次入力側と前記2次入力側とのうちシングルエンド信号を入力した入力側と同じ出力側を接続するか逆の出力側を接続するかの制御を行うことを特徴とする。
【0022】
この信号変換装置によれば、パルストランスの特性に応じて同相出力と逆相出力とを切り替えている。これにより、歪みのより少ないシングルエンド信号を出力することが可能になる。
【0023】
本発明の第3の信号変換装置は、第2の信号変換装置であって、前記接続制御部は、前記1次入力側と前記2次入力側と前記1次出力側と前記2次出力側とのそれぞれに設けたリレーと、前記シングルエンド信号と前記パルストランスとのうち何れの信号を入力したか、および前記パルストランスの特性に応じて、前記リレーの制御を行うリレー制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
この信号変換装置によれば、パルストランスの1次入力側、2次入力側、1次出力側、2次出力側にリレーを設けて、各リレーの制御を行うことで、前述の第1の信号変換装置および第2の信号変換装置の動作を実現できる。
【0025】
本発明の第4の波形測定装置は、第1乃至第3の何れかの信号変換装置を備えたことを特徴とする。また、本発明の第5の半導体試験装置は、第4の波形測定装置を備えたことを特徴とする。
【0026】
前述した信号変換装置は波形測定装置に適用でき、この波形測定装置はさらに半導体試験装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、パルストランスを用い、且つ1次入力側、2次入力側、1次出力側、2次出力側の接続制御を行うことで、差動信号とシングルエンド信号との何れを入力しても所望の増幅率で増幅したシングルエンド信号を出力できるようになる。受動素子であるパルストランスを用いることで、広帯域でノイズ性能や歪み特性に優れた高品質な信号処理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】波形測定装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】信号変換装置の接続制御を説明した図である。
【図3】ノイズ性能および歪み特性の改善効果を説明した図である。
【図4】周波数帯域の改善効果を説明した図である。
【図5】従来の波形測定装置の概略構成を示したブロック図である。
【図6】インスツルメンテーションアンプの構成図である。
【図7】従来のSNRおよびSINADを説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、波形を測定する波形測定装置に信号変換装置を適用している場合について説明するが、信号変換装置はこれ以外の装置に適用してもよい。例えば、任意の通信システム等に使用するものであってもよい。また、波形測定装置は被試験デバイス(DUT:Device Under Test)の試験を行う半導体試験装置に適用することを想定しているが、これ以外の装置に適用するものであってもよい。
【0030】
図1は波形測定装置1の概略構成を示している。波形測定装置1は信号入力部2と信号変換装置3と可変ゲインアンプ4とローパスフィルタ5とADC6とを備えて概略構成している。この波形測定装置1には図示しない波形を測定する測定対象(外部装置)から波形が入力される。
【0031】
信号入力部2は外部装置から波形をアナログ信号として入力している。信号入力部2はシングルエンド信号(1本の信号線で伝達される信号:低速伝送の信号)と差動信号(2本の信号を用いて伝達される信号:高速伝送の信号)との両者を入力可能にしている。このため、第1信号入力部2Aと第2信号入力部2Bとの2つを設けている。シングルエンド信号の場合には、2つのうち何れか一方に信号が入力され、差動信号の場合には、両方に信号が入力される。
【0032】
信号変換装置3は2つの機能を有している。1つ目は、シングルエンド信号を入力した場合にはそのままシングルエンド信号を出力するが、差動信号を入力した場合にはシングルエンド信号に変換して出力する。つまり、必要に応じて(差動信号を入力した場合)信号を変換する機能を果たしている。2つ目は、出力するシングルエンド信号を所望の増幅率(ゲイン)で増幅して出力している。
【0033】
このために、信号変換装置3はキャパシタ11A、11Bとパルストランス12とリレー14A〜18A、14B〜18Bと抵抗19A、19Bと信号出力部20とを備えて構成している。なお、図1においては、全てのリレー14A〜18A、14B〜18Bがオフになっているが、所定の制御によりオン・オフに切り替えられる。キャパシタ11A、11Bは直流成分が流れないようにするために設けている(所謂、ACカップリング)。
【0034】
パルストランス12は変圧器であり、1次側と2次側とを設けている。パルストランス12の1次側に接続される経路を1次側経路LAとし、2次側に接続される経路を2次側経路LBとする。図1において、「A」が付されている各部はパルストランス12の1次側を構成しており、「B」が付されている各部は2次側を構成している。
【0035】
また、パルストランス12を挟んで1次側経路LAの入力側(1次入力側)には第1信号入力部2Aが接続され、2次側経路LBの入力側(2次入力側)には第2信号入力部2Bが接続される。一方、パルストランス12を挟んで1次側経路LAの出力側(1次出力側)および2次側経路LBの出力側(2次出力側)は合流されて、合流経路LCとなって信号出力部20に接続されている。
【0036】
1次入力側、2次入力側にはリレー14A、14Bが設けられており、当該経路をオンまたはオフに切り替えている。これにより、第1信号入力部2A、第2信号入力部2Bからの信号を入力させるか否かを制御している。リレー14A、14Bの後段側の経路は分岐して、グランドに接続されている。これら分岐された経路にそれぞれリレー15A、15Bを設けて、グランドとの接続をオンまたはオフに切り替えている。
【0037】
1次出力側、2次出力側は最終的に合流されており、合流箇所の手前にそれぞれリレー16A、16Bを設けている。リレー16A、16Bのオンまたはオフを切り替えることにより1次出力側、2次出力側からの信号出力を制御している。前述したように、必ずシングルエンド信号を出力させるために、リレー16Aと16Bとの何れか一方がオンになり、他方がオフになる。
【0038】
1次出力側、2次出力側はそれぞれ分岐している箇所が2箇所ある。パルストランス12に近い方の分岐箇所で分岐した経路はそれぞれグランドに接続され、リレー17A、17Bによりグランドとの接続をオンまたはオフに切り替えている。これにより、パルストランス12から出力した信号をグランドに放出している。
【0039】
また、パルストランス12から遠い方の分岐箇所で分岐した経路はそれぞれリレー18A、18Bおよび抵抗19A、19Bを介してグランドに接続されている。抵抗19A、19Bはインピーダンス整合のために用いており、リレー16A、16Bのうちオンにされている側(1次側、2次側)と同じ側のリレー18A、18Bがオンにされる。
【0040】
可変ゲインアンプ4は入力したシングルエンド信号または差動信号の振幅(レンジ)とADCが取り扱う振幅(レンジ)とが異なる場合に、レンジの調整を図る。ローパスフィルタ5(図中においてLPF)は不要な周波数帯域の信号を除去する。ADC6はアナログデジタルコンバータであり、シングルエンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して出力を行う。ADC6には図示しない波形解析手段等が接続されており、出力されたデジタル信号に基づいて波形の解析を行う。
【0041】
リレー制御部30は各リレー14A〜19A、14B〜19Bのオン・オフ制御を行っている。なお、リレー制御部30は波形測定装置1の内部に設けてもよいし、外部に設けてもよい。制御装置40はリレー制御部30に接続されており、各リレーのオン・オフ制御の内容を制御・設定する装置である。制御装置40としては例えばコンピュータを用いることができる。リレー14A〜19A、14B〜19Bとリレー制御部30と制御装置40とによりパルストランス12の1次入力側、2次入力側、1次出力側、2次出力側の接続制御を行っており、つまり接続制御部の機能を果たす。勿論、接続制御部としては、これら以外の手法を用いてもよい。
【0042】
以上が概略構成である。次に動作について説明する。信号変換装置3は前述したように、1)シングルエンド信号を入力した場合にはシングルエンド信号のまま出力させ、差動信号を入力した場合にはシングルエンド信号に変換して出力させる機能、および2)出力するシングルエンド信号を所望の増幅率で増幅させる機能、の2つを有している。
【0043】
このために、パルストランス12を用い、且つ各リレーのオン・オフ制御を行う。各リレーのオン・オフ制御は入力する信号がシングルエンド信号であるか差動信号であるかによって異なる。また、シングルエンド信号を入力した場合、パルストランス12の1次側(2次側)から入力した信号を同じ1次側(2次側)で出力するか(同相出力:ストレート型)、または逆側の2次側(1次側)で出力するか(逆相出力:クロス型)によってリレーのオン・オフ制御を異ならせている。
【0044】
パルストランス12はその特性によって同相出力と逆相出力とで信号の歪み特性が異なる。その特性によっては、同相出力の方が良好である場合もあり、逆相出力の方が良好である場合もある。いずれにしても、使用するパルストランス12の特性は予め認識されており、従って同相出力と逆相出力とのうち何れを使用するかも予め認識されている。
【0045】
そして、信号入力部2に入力される信号がシングルエンド信号であるか差動信号であるかについても予め認識されている。これは、波形測定装置1を用いて波形測定を行うときの設定・制御等によって認識される。従って、シングルエンド信号であるか差動信号であるかの情報、および同相出力と逆相出力とのうち何れを用いるかについての情報は、予め制御装置40に設定されている。制御装置40は当該情報に基づいて、リレー制御部30を制御する。
【0046】
図2(a)〜(c)はリレー制御の態様を示している。同図(a)はシングルエンド信号を入力しており、且つ同相出力が良好な場合のリレー制御を示しており、同図(b)はシングルエンド信号を入力しており、且つ逆相出力が良好な場合のリレー制御を示しており、同図(c)は差動信号を入力した場合のリレー制御を示している。なお、図中において、太線で示した経路上のリレーはオンになっており、その他はオフになっている。
【0047】
図2(a)および(b)において、シングルエンド信号を第1信号入力部2A(プラス側)に入力させているが、第2信号入力部2B(マイナス側)にシングルエンド信号を入力させるものであってもよい。また、図2(c)において、1次出力側から信号を出力させるようにしているが、2次出力側から信号を出力させるようにしてもよい。
【0048】
まず、図2(a)について説明する。この場合は、パルストランス12の1次入力側を第1信号入力部2Aに接続し、2次入力側はグランドに接続する。また、1次出力側を信号出力部20に接続し、2次出力側をグランドに接続する。従って、リレー14A、16A、18A、15B、17Bをオンにして、その他をオフにする制御をリレー制御部30は行う。
【0049】
第1信号入力部2Aにシングルエンド信号が入力される。このシングルエンド信号の電圧をVAとする。電圧VAのシングルエンド信号はパルストランス12に入力される。パルストランス12は変圧器であり、電圧VAは所望の電圧に変換されて出力される。つまり、所望の増幅率(ゲイン)G1で増幅されて電圧が出力される。当該増幅率G1はパルストランス12の1次側の巻線数と2次側の巻線数との巻線比により決定される。従って、所望の増幅率G1を得るような巻線比でパルストランス12を構成する。
【0050】
このとき、パルストランス12の2次入力側はグランドに接続されており、0(ゼロ)ボルトの電圧を入力している。よって、パルストランス12の1次出力側から出力される電圧V1は「V1=G1×(VA−0)=G1×VA」になる。そして、1次出力側から出力される電圧V1は信号出力部20に入力され、この信号出力部20は可変ゲインアンプ4に電圧V1を出力する。
【0051】
一方、パルストランス12の2次出力側からも電圧が出力されるが、2次出力側はリレー16Bがオフになっており、リレー17Bがオンになっていることから、全てグランドに放出される。以上により、シングルエンド信号を入力したときには、そのままシングルエンド信号として出力し、且つ所望の増幅率G1により増幅した信号を出力できる。
【0052】
次に、図2(b)について説明する。この場合も、パルストランス12の1次入力側を第1信号入力部2Aに接続し、2次入力側をグランドに接続する。一方、1次出力側をグランドに接続し、2次出力側を信号出力部20に接続する。従って、リレー14A、17A、15B、16B、18Bをオンにして、その他をオフにする制御をリレー制御部30は行う。
【0053】
パルストランス12の1次入力側から電圧VAのシングルエンド信号が入力され、2次入力側から入力する電圧は0ボルトである点は前述したものと同じである。一方、パルストランス12の1次出力側から出力される電圧をグランドに放出し、2次出力側から出力される電圧を信号出力部20に出力させている。
【0054】
このため、パルストランス12の2次出力側から出力される電圧V2は前述した増幅率とは異なる。このときの増幅率をG2とすると、電圧V2は「V2=G2×VA」となり、所望の増幅率G2で増幅されたシングルエンド信号を出力する。なお、増幅率G2は増幅率G1の逆数(G2×G1=1)になる。
【0055】
次に、図2(c)について説明する。この場合は、パルストランス12の1次入力側を第1信号入力部2Aに接続し、2次入力側を第2信号入力部2Bに接続する。また、1次出力側を信号出力部20に接続し、2次出力側をグランドに接続する。このために、リレー14A、16A、18A、14B、17Bをオンにして、その他をオフにする制御をリレー制御部30は行う。
【0056】
信号入力部2には差動信号が入力される。このため、第1信号入力部2Aから電圧VAの信号が入力され、第2信号入力部2Bから電圧VBの信号が入力される。そして、それぞれパルストランス12に入力される。パルストランス12には所望の増幅率G3で増幅するように巻線比を構成しており、これにより所望の増幅率で信号が増幅される。
【0057】
ここでは、1次出力側を用いて電圧を出力しており、この1次出力側の信号が所望の増幅率となるように増幅率G3を決定している。そして、1次出力側から出力される電圧をV3とすると、「V3=G3×(VA−VB)」となる。この電圧V3が信号出力部20から可変ゲインアンプ4に出力される。
【0058】
一方、2次出力側から出力される電圧はリレー16Bをオフにし、17Bをオンにしていることから、グランドに放出される。これにより、差動信号が入力されたときにはシングルエンド信号に変換して出力し、且つ所望の増幅率で増幅して信号出力を行うことができる。
【0059】
以上により、信号変換装置3は前述した2つの機能を果たすことができる。信号変換装置3にはパルストランス12を用いており、且つリレー制御(接続制御)を行うことで、所望の機能を果たすようにしている。パルストランス12は受動部品であり、ノイズや歪みに良好な性能を有する部品である。特に、高い周波数帯域において、オペアンプのような能動部品を用いた場合よりも、ノイズや歪みを少なくすることができる。つまり、広帯域において、高品質な信号処理を行うことができる。
【0060】
パルストランス12を用いることにより、ノイズや歪みを改善することができるが、さらにパルストランス12の特性に応じて、同相出力と逆相出力とのうち歪み特性が良好な方を選択していることから、より高品質な信号処理が可能になる。
【0061】
図3(a)および(b)は入力信号を100MHzとしたときに、160MSa(160MHz sample per second)でサンプリングを行い、測定後にFFT(高速フーリエ変換)を施したプロットを示している。同図(a)は背景技術で説明したインスツルメンテーションアンプを信号変換装置として用いた場合であり、同図(b)は本発明の信号変換装置として用いた場合である。
【0062】
この波形は波形測定装置1としてのサンプリング結果であり、信号変換装置3だけではなく、可変ゲインアンプ4やローパスフィルタ5を含めたトータルの波形測定のサンプリングである。ただし、信号変換装置3以外は背景技術と本発明とで同じ部品を用いているため、差異を生じるのは信号変換装置3になる。
【0063】
同図(a)および(b)では、基本波のプロットをP1、2次高調波成分のプロットをP2、3次高調波成分のプロットをP3としている。基本波においては、背景技術と本発明とで大きな差異はないが、2次高調波、3次高調波といった高い周波数では信号の歪みが大きく改善している(それぞれ10dB程度)。THD(Total Harmonic Distortion:歪み性能)としては、同図(a)は−57dBであったのに対して、本発明は−68dBまで改善している。
【0064】
同様に、SNRについては、同図(a)では57dBであったものが、同図(b)では60dBまで改善している(波形がフラットになっている部分が3dB程度低くなっている)。従って、SNRについては3dB、THDについては11dBの改善効果が得られ、高い品質の信号処理が可能になる。同図(a)で使用したオペアンプは最高速であり、ノイズ性能および歪み性能も最高のものであるため、オペアンプの限界よりも高い改善効果が得られている。
【0065】
図4(a)および(b)は波形測定装置1に入力させる信号の周波数を低域から高域にまで変化させた場合の周波数特性を示している。同図(a)は背景技術で説明したインスツルメンテーションアンプを信号変換装置に用いた場合を示しており、同図(b)は本発明を用いた場合を示している。なお、横軸のスケールは同図(a)と同図(b)とで異なっている。
【0066】
信号のピークから3dB減衰するまでの周波数の範囲を帯域幅周波数としたときに、同図(a)の帯域幅周波数は300MHzになり、同図(b)の帯域幅周波数は500MHzになる。つまり、帯域幅周波数は本発明の方が広がっていることになり、広帯域において高い品質の信号処理が可能になる。
【0067】
帯域幅周波数が300MHzから500MHzに広がっていることになり、つまり帯域幅周波数が1.6倍以上広がっている。帯域幅周波数が1.6倍広いということは、SNRに換算すると、約2dB(=20×log10(1.6^0・5))の性能劣化を本来的に招来する。つまり、帯域幅周波数が1.6倍広がることで、2dB分のSNRが向上していることになる。
【0068】
前述したように、SNRは57dBから60dBに改善しており、さらに帯域幅周波数の関係からSNRは62(=60+2)dBになり、つまり5dBの改善効果が得られている。以上により、広帯域の周波数で高品質(低ノイズ・低歪み)の信号処理が可能になっている。
【0069】
従って、本発明の信号変換装置は、パルストランスを用い、且つ接続制御を行うことで、シングルエンド信号および差動信号から所望の増幅率で増幅したシングルエンド信号を出力できるようになる。受動素子であるパルストランスを用いていることで、広帯域の周波数で高品質(低ノイズ、低歪み)の信号処理が可能になる。
【0070】
また、背景技術で説明したインスツルメンテーションアンプを用いた場合には、複数の抵抗を組み合わせて増幅率をコントロールしているため、所望の増幅率を得るために複数の抵抗を設ける必要がある。これに対し、本発明ではパルストランスの巻線比(巻線数)をコントロールするだけで所望の増幅率が得られることから、極めて簡単な構成で所望の増幅率を得ることができる。
【0071】
以上において、可変ゲインアンプ4はADC6が取り扱う振幅のレンジ調整を図っているが、このレンジ調整機能を信号変換装置3に持たせることもできる。この場合には、巻線比の異なる複数のパルストランス12を並列に接続して、必要な増幅率に応じて使用するパルストランスを選択的に切り替えて使用する。これにより、レンジ調整を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1 波形測定装置
2A 第1信号入力部
2B 第2信号入力部
3 信号変換装置
4 可変ゲインアンプ
5 ローパスフィルタ
12 パルストランス
14A〜19A リレー
14B〜19B リレー
20 信号出力部
30 リレー制御部
40 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルエンド信号を入力したときにはシングルエンド信号を出力し、差動信号を入力したときにはシングルエンド信号に変換して出力する信号変換装置であって、
前記シングルエンド信号および前記差動信号を入力するための第1信号入力部および第2の信号入力部と、
1次入力側を前記第1信号入力部に接続し、2次入力側を前記第2信号入力部に接続し、1次出力側および2次出力側を信号出力部に接続したパルストランスと、
シングルエンド信号を入力したときには、前記1次入力側と前記2次入力側とのうち前記シングルエンド信号を入力した入力側および前記1次出力側と前記2次出力側とのうち何れか一方の出力側を前記パルストランスに接続し、差動信号を入力したときには、前記1次入力側および前記2次入力側との両方の入力側および前記1次出力側と前記2次出力側とのうち何れか一方の出力側を前記パルストランスに接続する制御を行う接続制御部と、
を備えたことを特徴とする信号変換装置。
【請求項2】
前記接続制御部は、シングルエンド信号を入力したときに、前記パルストランスの特性に応じて、前記1次入力側と前記2次入力側とのうちシングルエンド信号を入力した入力側と同じ出力側を接続するか逆の出力側を接続するかの制御を行うこと
を特徴とする請求項1記載の信号変換装置。
【請求項3】
前記接続制御部は、
前記1次入力側と前記2次入力側と前記1次出力側と前記2次出力側とのそれぞれに設けたリレーと、
前記シングルエンド信号と前記パルストランスとのうち何れの信号を入力したか、および前記パルストランスの特性に応じて、前記リレーの制御を行うリレー制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の信号変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の信号変換装置を備えたこと
を特徴とする波形測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の波形測定装置を備えたこと
を特徴とする半導体試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−10067(P2012−10067A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143661(P2010−143661)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】