説明

偏向マイクロミラー

【課題】高速かつ大振幅動作が可能で、高輝度化に対応でき低コストの偏向マイクロミラー、及び該偏向マイクロミラーの製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム反射層を有する可動板1と、前記可動板1を回転振動可能に軸支する一対のトーションバー2と、を備え、前記トーションバー2は、一端が前記可動板1に固定されてなり、前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏向マイクロミラーに関し、特にMEMS装置の偏向マイクロミラーに関するものである。
また本発明は、プロジェクタなどの画像表示装置、プリンタなどの画像形成装置に応用することができる光偏向器である。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタなどの各種画像表示装置やプリンタなどの各種画像形成装置において、レーザー光の偏向器として、デジタルマイクロミラー等のマイクロミラー装置が広く活用されている。例えば、弾性支持体を中心に反射板を回転振動させる圧電ユニモルフ振動体を備えた、高速かつ大振幅動作が可能な光偏向器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで近年、マイクロプロジェクター等の性能の一つとして高輝度化が求められている。今後さらなる高輝度化を実現するには、ワットクラスの高パワーのレーザー光の光を用いる必要があるため、微小な反射面であることも相まって、ミラー表面でのパワー密度が格段にあがる傾向にある。
【0004】
マイクロミラー基板は、アルミニウムである反射層を有している。アルミニウム反射層は、加熱されて熱応力が加わると、表面にヒロックと呼ばれる凹凸模様、あるいは空洞が生じ、投影イメージに欠陥や歪みを生じる。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献2によると、AlCu合金を用いることで耐レーザー特性を向上させ、ボイドの発生を抑えている。しかしながら、特許文献2による手段は、合金化による材料コストの上昇や、反射率低下の問題を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、高速かつ大振幅動作が可能で、高輝度化に対応でき低コストの偏向マイクロミラー、及び該偏向マイクロミラーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかして、上記課題を解決するために本発明に係る偏向マイクロミラー、及び該偏向マイクロミラーの製造方法は、具体的には下記(1)〜(5)に記載の技術的特徴を有する。
(1):アルミニウム反射層を有する可動板と、前記可動板を回転振動可能に軸支する一対のトーションバーと、を備え、前記トーションバーは、一端が前記可動板に固定されてなり、前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする偏向マイクロミラーである。
(2):前記可動板を回転振動させる圧電ユニモルフ振動体を備え、前記トーションバーは、他端が前記圧電ユニモルフ振動体に固定されてなり、前記圧電ユニモルフ振動体は、振動板と、該振動板を駆動させる圧電素子と、を有することを特徴とする上記(1)に記載の偏向マイクロミラーである。
(3):アルミニウム反射層を有する可動板と、前記可動板を回転振動可能に軸支する一対のトーションバーと、を備え、前記トーションバーは、一端が前記可動板に固定されてなる偏向マイクロミラーの製造方法であって、前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする偏向マイクロミラーの製造方法である。
(4):前記アルミニウム反射層は、水素分圧が1×10−7Torr以上5×10−6Torr以下の水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする上記(3)に記載の偏向マイクロミラーの製造方法である。
(5):前記アルミニウム反射層は、30℃以上60℃以下で成膜されてなることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の偏向マイクロミラーの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速かつ大振幅動作が可能で、高輝度化に対応でき低コストの偏向マイクロミラー、及び該偏向マイクロミラーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明にかかる偏向マイクロミラーの一実施の形態における構成を示す全体図である。
【図2】本発明にかかる偏向マイクロミラーの一実施の形態における駆動梁6の構成を示す上面概略図及び側面概略図である。
【図3】図2に示す駆動梁6の要部の構成を示す拡大図である。
【図4】駆動しているモードにおける梁の撓み形状を表す概略説明図である。
【図5】トーションバースプリング2を駆動する一対の駆動梁6を両端固定梁のユニモルフ構造としてモデル化しシミュレーションを行い中央部をフリーにしたときの最大撓みを示すグラフである。
【図6】トーションバースプリング2を駆動する一対の駆動梁6を両端固定梁のユニモルフ構造としてモデル化しシミュレーションを行い中央部の変位を拘束したときの反力を示すグラフである。
【図7】アルミニウム反射層を有するミラー部1の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る偏向マイクロミラーは、アルミニウム反射層を有する可動板1と、前記可動板1を回転振動可能に軸支する一対のトーションバー2と、を備え、前記トーションバー2は、一端が前記可動板1に固定されてなり、前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする。
次に、本発明に係る偏向マイクロミラーについてさらに詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0011】
<偏向マイクロミラーの構成>
本発明にかかる偏向マイクロミラーの一実施の形態として、1方向に光を偏向する偏向マイクロミラーについて図1を用いて説明する。
図1は、本発明にかかる偏向マイクロミラーの一実施の形態における構成を示す全体図である。光を反射させる反射面(アルミニウム反射層)を有するミラー部(可動板)1を備え、このミラー部1の両側はミラー部1の重心からΔSだけオフセットされた点を通る線を軸とする一対のトーションバースプリング(トーションバー)2が接続されている。
トーションバースプリング2のミラー部1との接続部と反対側の端部は支持梁3に接続されてなる。また、支持梁3は長手方向がトーションバースプリング2と略直交する方向に配置されてなり、両端が固定ベース4に接続されている。
【0012】
支持梁(振動板)3は、長手方向の両側それぞれにおいて、片面(図1における上面側)に圧電材料(圧電素子)5を有し、この支持梁3と2の圧電材料5とで一対の駆動梁(圧電ユニモルフ振動体)6を構成する。
即ち、一対のトーションバースプリング2に対応して設けられてなる一対の支持梁3は、長手方向がトーションバースプリング2の軸と略直交する向きで配置されてなり、一対のトーションバースプリング2のそれぞれに接続されている。また、支持梁3及び該支持梁3の長手方向の両側それぞれに配置された圧電材料5は、当該支持梁3の長手方向の中心位置から両端までのそれぞれが、駆動梁6として機能するものである。換言すると支持梁3の長手方向中心位置から一端までと、1の圧電材料5と、をもって、1の駆動梁6を構成するものである。
【0013】
本実施の形態ではMEMS(micro electro mechanical systems)プロセスによって加工することで、ミラー部1、トーションバースプリング2、支持梁3(駆動梁6)を一体で形成している。ミラー部1はシリコン基板の表面にアルミニウムの薄膜を形成することによって反射面を形成している。なお、アルミニウムからなる薄膜の反射面についての詳細は後述する。駆動梁6は平板状のユニモルフ構造となっており、支持梁3の片面(図1における上面側)に圧電材料5が積層されている。
【0014】
ユニモルフ構造の支持梁3の部分の厚さは薄いほうが変形し易いが、ミラー部1は薄いと反射面が変形し光学的な波面が劣化してしまう。そこで、支持基板と活性層とからなるSOI基板を用いて、支持梁3は活性層部分のみを残して薄く形成し、ミラー部1はSOI基板の活性層と支持基板との両方の厚さになるように構成されている。本実施の形態では活性層の厚さは0.05mm、支持基板の厚さは0.3mmとしている。トーションバースプリング2の部分の厚さは、SOI基板の活性層の厚さになるように構成してあるが、必要な共振周波数やレイアウト上の設計次第で、支持基板部分のみの厚さ、もしくは両方の厚さにしても良い。
【0015】
ここで駆動梁6の詳細な構成を説明する。図2は本発明にかかる偏向マイクロミラーの一実施の形態における駆動梁6の構成を示す上面概略図及び側面概略図である。また、図3は図2に示す駆動梁6の要部の構成を示す拡大図である。
図3に示すように、駆動梁6は、支持梁3の上において接着層10、下部電極8、圧電材料5、上部電極7の順でスパッタにより成膜して積層されてなり、必要な部分だけが残るようにエッチング加工されている。接着層10の材料はチタン(Ti)、上部電極7、下部電極8は白金(Pt)、圧電材料5はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を使用している。さらにこれらの上層にSiOからなる絶縁層9が積層されてなり、この絶縁層9に形成されたランド部11(11a,11b)から配線を引き出し、上部電極7と下部電極8との間に電圧を印加すると、圧電材料5が圧電特性により、支持梁3表面の面内方向に伸縮することで駆動梁6全体が反り変形するようになっている。図2のようにトーションバースプリング2の両側の駆動梁6を同一方向に印加し、同相駆動することで、トーションバースプリング2と駆動梁6の接続部分は上下に駆動される。
【0016】
本実施の形態の偏向マイクロミラーにはトーションバースプリング2の軸と平行な回転軸を中心としてミラー部1が回転する振動モードが存在し、その共振周波数はトーションバースプリング2の剛性とミラー部1の慣性モーメントで定まる。(厳密にはミラー部1の回転モードの共振周波数には駆動梁6の剛性等も影響している。)
この回転モードの共振周波数に近い周波数の正弦波、もしくはパルス波で駆動梁6を駆動することで、トーションバースプリング2と駆動梁6との接続部分は上下に振動する。ミラー部1の重心とトーションバースプリング2の軸とがオフセットされているため、接続部分の上下振動によりミラー部1の回転モードが励起され小さな駆動電力で大きなミラー部1の回転振幅を得ることができる。
【0017】
ここで本実施の形態では、圧電材料5は図2に示すように、支持梁3の長手方向における中心位置から、駆動梁6の固定ベース4との接続部までの間で、該接続部側の端部から2分の1までの領域にのみ積層されている構成をとる。かかる構成によって全体に圧電材料5を配置するよりも少ない電力で大きな駆動力を発生することが可能である。これは、駆動しているモードにおいて、梁の撓み形状を見た時、図4に示すような形状となっており、中央部まで圧電材料5を配置すると逆方向に反ってしまうため、動きを阻害してしまうためであると考えられる。
【0018】
上記トーションバースプリング2を駆動する一対の駆動梁6の部分を、両端固定梁のユニモルフ構造としてモデル化し、シミュレーションを行った結果を図5に示す。図5は梁の中心を自由にして変位させた場合で、駆動梁6の長さLに対する圧電材料5の固定ベース4からの長さLpの割合を変化させた結果である。圧電材料5の割合(Lp/L)が0.5で最大となっていることが分かる。図5は両端固定梁の中心を自由にして変位させた場合であるが、実際にはミラー部1やトーションバースプリング2が中央に接続されているので、駆動時には慣性力が加わるため、中央部の変位を拘束したときの反力を求めたものが図6である。やはり、圧電材料5の割合(Lp/L)が0.5で最大となっていることが分かる。
【0019】
本実施の形態では下部電極8および上部電極7と共に、スパッタにより圧電材料5を成膜した構成を示したが、圧電材料5はバルク材料を所定のサイズに切断したものを接着剤により貼り付けても良いし、またエアロゾルデポジション法(AD法)で形成しても良い。
また、本実施の形態の駆動梁6は、支持梁3の片面に圧電材料5が配置されたユニモルフ構造で説明しているが、支持梁3の両面に圧電材料5を配置したバイモルフ構造としてもよい。
【0020】
本実施の形態では、駆動梁6はトーションバースプリング2の端部において支持梁3の長手方向両側に1本ずつ、合計4本配置されてなる構成を説明したが、駆動梁6を平行に並べて駆動力をさらに大きくすることも可能である。
【0021】
<ミラー部1のアルミニウム反射層の製造方法>
本発明にかかる偏向マイクロミラーの特徴に直接関わる部分であるアルミニウム(Al)反射層について説明する。
アルミニウム反射層は、基板表面にAl反射膜を水素ガス雰囲気下においてEB(electron beam)加熱により真空蒸着して形成する。製膜方法として真空蒸着を用いることにより、膜の結晶性が高まり高反射率が得られる。図7は、アルミニウム反射層を有するミラー部1の概略図である。ここで、アルミニウム反射層は、厚さ0.1μmであり、基板は厚さ100μmである。
【0022】
水素分圧は1×10−7〜5×10−6Torrとなるように制御することが好ましい。1×10−7Torrを下回る分圧とするためには排気装置が複雑化かつ大型化する傾向があり、またヒロック抑制効果が得られにくくなる。他方、5×10−6Torrより分圧が大きいと、反射率の低下を招く。
また、基板温度は、30〜60℃とすることが好ましい。基板温度が60℃より高いと水素のヒロック抑制効果が得られにくくなる。
【0023】
以上の本実施の形態の偏向マイクロミラーによれば、高速かつ大振幅動作が可能で、高輝度化に対応でき低コストを実現できる。
【符号の説明】
【0024】
1 ミラー部
2 トーションバースプリング
3 支持梁
4 固定ベース
5 圧電材料
6 駆動梁
7 上部電極
8 下部電極
9 絶縁層
10 接着層
11 ランド部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2008−257226号公報
【特許文献2】特開2005−24976号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム反射層を有する可動板と、
前記可動板を回転振動可能に軸支する一対のトーションバーと、を備え、
前記トーションバーは、一端が前記可動板に固定されてなり、
前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする偏向マイクロミラー。
【請求項2】
前記可動板を回転振動させる圧電ユニモルフ振動体を備え、
前記トーションバーは、他端が前記圧電ユニモルフ振動体に固定されてなり、
前記圧電ユニモルフ振動体は、振動板と、該振動板を駆動させる圧電素子と、を有することを特徴とする請求項1に記載の偏向マイクロミラー。
【請求項3】
アルミニウム反射層を有する可動板と、前記可動板を回転振動可能に軸支する一対のトーションバーと、を備え、前記トーションバーは、一端が前記可動板に固定されてなる偏向マイクロミラーの製造方法であって、
前記アルミニウム反射層は、水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする偏向マイクロミラーの製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム反射層は、水素分圧が1×10−7Torr以上5×10−6Torr以下の水素雰囲気下で成膜されてなることを特徴とする請求項3に記載の偏向マイクロミラーの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム反射層は、30℃以上60℃以下で成膜されてなることを特徴とする請求項3または4に記載の偏向マイクロミラーの製造方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−191589(P2011−191589A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58723(P2010−58723)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】