説明

傾斜構造体、傾斜構造体の製造方法、及び分光センサー

【課題】微小な傾斜構造体を製造する。
【解決手段】基板の上方に犠牲膜を形成する工程(a)と、犠牲膜の上方に第1の膜を形成する工程(b)と、第2の膜であって、基板に接続された第1の部分と、第1の膜に接続された第2の部分と、上記第1の部分及び上記第2の部分の間に位置する第3の部分と、を含む第2の膜を形成する工程(c)と、犠牲膜を除去する工程(d)と、工程(d)の後に第2の膜の上記第3の部分を曲げて、第1の膜を基板に対して傾斜させる工程(e)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な傾斜構造体、傾斜構造体の製造方法、及びこの傾斜構造体を用いた分光センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や農業、環境等の分野では、対象物の診断や検査をするために分光センサーが用いられている。例えば、医療の分野では、ヘモグロビンの光吸収を利用して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターが用いられる。また、農業の分野では、糖分の光吸収を利用して果実の糖度を測定する糖度計が用いられる。
【0003】
下記の特許文献1には、干渉フィルターと光電変換素子との間を光学的に接続する光ファイバーによって入射角度を制限することにより、光電変換素子への透過波長帯域を制限する分光イメージングセンサーが開示されている。しかし、従来の分光センサーにおいては、小型化が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、小型の分光センサーを作製するには、微小な傾斜構造体を形成することが求められる。しかし、従来の技術においては、微小な構造体を製造するのは困難であった。
【0006】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様は、微小な傾斜構造体、微小な傾斜構造体の製造方法、及びこの傾斜構造体を用いた分光センサーを提供することに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの態様において、傾斜構造体の製造方法は、基板の上方に犠牲膜を形成する工程(a)と、犠牲膜の上方に第1の膜を形成する工程(b)と、第2の膜であって、基板に接続された第1の部分と、第1の膜に接続された第2の部分と、上記第1の部分及び上記第2の部分の間に位置する第3の部分と、を含む第2の膜を形成する工程(c)と、犠牲膜を除去する工程(d)と、工程(d)の後に第2の膜の上記第3の部分を曲げて、第1の膜を基板に対して傾斜させる工程(e)と、を含む。
この態様によれば、半導体プロセスと親和性の高い工程によって、微小な傾斜構造体を容易に製造することができる。
【0008】
上述の態様において、工程(b)と工程(c)との間に、犠牲膜及び第1の膜をパターニングすることによって、第2の膜の上記第3の部分が形成される犠牲膜の側面を露出させる工程(f)をさらに含むことが望ましい。
これによれば、犠牲膜及び第1の膜を形成した後にこれらをパターニングすることによって、基板上の任意の箇所に傾斜構造体を形成することができる。
【0009】
上述の態様において、工程(e)は、第1の膜と基板との間に液体を供給し、その後、上記液体を除去することを含むことが望ましい。
これによれば、第1の膜及び第2の膜に無理な力を加えることなく、第2の膜を曲げ、第1の膜を傾斜させることができる。
【0010】
上述の態様において、工程(e)の後に、第1の膜と基板との間に、第3の膜となる材料を充填する工程(g)をさらに含んでもよい。
これによれば、第3の膜を形成することによって、傾斜構造体の光学的特性を調整することができる。
【0011】
上述の態様において、工程(g)の後に、第1の膜及び第2の膜を除去する工程(h)をさらに含んでもよい。
これによれば、第1の膜及び第2の膜を除去するので、第1の膜及び第2の膜の材料選択の自由度を向上することができる。
【0012】
本発明の他の態様において、傾斜構造体は、基板の上方に位置する第1の膜であって、基板の第1の面に対して傾斜している第1の膜と、基板の上方に位置する第2の膜であって、基板の第1の面に接続された第1の部分と、第1の膜に接続された第2の部分と、上記第1の部分及び上記第2の部分を接続する第3の部分と、を含む第2の膜と、を含む。
この態様によれば、微小な傾斜構造体を用いた有用な光学素子を製造することができる。
この態様において、第3の部分は、曲面を有することが望ましい。
【0013】
上述の態様において、第2の膜の第2の部分は、第1の膜の上方に位置することが望ましい。
これによれば、第2の膜が第1の膜の下方に形成される場合に比べてパターニングの工程数を減らすことができる。
【0014】
上述の態様において、第1の膜と基板との間に、第3の膜をさらに含んでもよい。
これによれば、第3の膜を形成することによって、傾斜構造体の光学的特性を調整することができる。
【0015】
本発明の他の態様において、分光センサーは、通過する光の入射方向を制限する角度制限フィルターと、透過する光又は反射する光の波長を、入射方向に応じて制限する多層膜と、上述の傾斜構造体であって、角度制限フィルターを通過する光の入射方向と多層膜の積層方向との傾斜角度を規定する傾斜構造体と、角度制限フィルターを通過し、且つ多層膜において透過又は反射した光を検出する受光素子と、を含む。
この態様によれば、上述の傾斜構造体を用いることにより、小型の分光センサーを製造することができる。
なお、上方とは、基板の表面を基準として裏面に向かう方向とは反対の方向を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図2】第1の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図3】第1の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図4】第2の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図5】第2の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図6】第2の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図7】第3の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図8】第3の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図9】第3の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図。
【図10】各実施形態に係る傾斜構造体の第1の構成例を示す図。
【図11】各実施形態に係る傾斜構造体の第2の構成例を示す図。
【図12】各実施形態に係る傾斜構造体の第3の構成例を示す図。
【図13】各実施形態に係る傾斜構造体の第4の構成例を示す図。
【図14】各実施形態に係る傾斜構造体の第5の構成例を示す図。
【図15】各実施形態に係る傾斜構造体の第6の構成例を示す図。
【図16】実施形態に係る分光センサーの第1の例を示す断面図。
【図17】実施形態に係る分光センサーの第2の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0018】
<1.第1の実施形態>
図1〜図3は、本発明の第1の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図である。この実施形態に係る製造方法は、半導体プロセス技術を応用することにより、低コスト且つ微細化が容易な方法である。
【0019】
<1−1.第1の膜を成膜>
まず、図1(A)に示すように、基板10上に、犠牲膜20を成膜する。基板10は、例えば単結晶のシリコン基板でもよいし、シリコン基板上に後述の角度制限フィルターを形成したものでもよい。犠牲膜20としては、例えば酸化シリコン(SiO)膜などが用いられる。
【0020】
次に、図1(B)に示すように、犠牲膜20上に、傾斜構造体を構成する膜となる第1の膜11を成膜する。第1の膜11としては、例えば窒化チタン(TiN)膜などが用いられる。
【0021】
次に、図1(C)に示すように、第1の膜11上にレジスト膜21を成膜し、露光及び現像することにより、レジスト膜21を所定形状(例えば矩形形状)にパターニングする。
次に、図1(D)に示すように、レジスト膜21をエッチングマスクとして、第1の膜11及び犠牲膜20をエッチングする。これにより、第1の膜11及び犠牲膜20が上記所定形状と同一の形状(例えば矩形形状)にパターニングされる。その後、レジスト膜21を除去する。
【0022】
なお、ここでは第1の膜11を成膜してから第1の膜11及び犠牲膜20を同時にパターニングする場合について説明したが、これに限らず、犠牲膜20をパターニングしてから犠牲膜20上に第1の膜11を形成してもよい。
【0023】
<1−2.第2の膜を成膜>
次に、図2(E)に示すように、第1の膜11上と、図1(D)に示す工程によって露出した基板10上と、図1(D)に示す工程によって露出した犠牲膜20の側面及び第1の膜11の側面とを覆うように、傾斜構造体を構成する膜となる第2の膜12を成膜する。第2の膜12は、例えばスパッタリング法や真空蒸着法を含むPVD(physical vapor deposition)法または、CVD(chemical vapor deposition)法によって成膜する。第2の膜12としては、例えばアルミニウム(Al)膜などが用いられる。
【0024】
次に、図2(F)に示すように、第2の膜12上にレジスト膜22を成膜し、露光及び現像することにより、レジスト膜22を所定形状にパターニングする。このとき、レジスト膜22は、犠牲膜20の1つの側面201及び第1の膜11の1つの側面111と、当該側面に繋がる第1の膜11の上面の一部領域112及び基板10の上面の一部領域101と、を覆うような形状にパターニングされる。
【0025】
次に、図2(G)に示すように、レジスト膜22をエッチングマスクとして、第2の膜12及び第1の膜11をエッチングする。これにより、第2の膜12は、基板10に接続された第1の部分12aと、第1の膜11に接続された第2の部分12bと、犠牲膜20の1つの側面に沿った第3の部分12cとを残して除去される。その後、レジスト膜22を除去する。
【0026】
次に、図2(H)に示すように、犠牲膜20を例えばウェットエッチングによって除去する。犠牲膜20が例えば酸化シリコン膜である場合には、犠牲膜20を除去するエッチング液としては例えばフッ酸(HF)を用いる。
【0027】
犠牲膜20を除去することにより、基板10と第1の膜11との間に空間102が形成される。第2の膜12の第1の部分12aは、基板10に接続されており、第2の膜12の第2の部分12bは、第1の膜11の上面全体に接続されている。第2の膜12の第3の部分12cは、第1の部分12aと第2の部分12bとの間に位置して、第1の膜11を支えている。
【0028】
なお、ここでは第2の膜12の第2の部分12bが第1の膜11の上方に位置する場合について説明したが、これに限らず、第2の膜12の第2の部分12bが第1の膜11の下方に位置していてもよい。例えば、パターニングされた犠牲膜20の上面及び側面に、第2の膜12を成膜してパターニングした後、犠牲膜20上に位置する第2の膜12上に、第1の膜11を形成してもよい。
【0029】
また、ここでは第2の膜12の第2の部分12bが第1の膜11の上面全体に接続されている場合について説明したが、これに限らず、第2の膜12の第2の部分12bが、少なくとも、第1の膜11の第1の端部11aに接続されていればよい。
【0030】
<1−3.傾斜の形成>
次に、図3(I)に示すように、基板10と第1の膜11との間の空間に液体を供給する。例えば、基板10、第1の膜11及び第2の膜12を、図示しない容器に溜められた表面張力の大きい液体(水など)に浸し、その後、その容器から取り出す。
【0031】
次に、図3(J)に示すように、基板10と第1の膜11との間の空間に供給された液体を蒸発させる。このとき、基板10と第1の膜11との間の空間に供給された液体は、その表面張力により、第1の膜11の第2の端部11bを基板10に向けて引き寄せる。基板10と第1の膜11との間の空間に供給された液体が蒸発することにより、空間内の液体が減少する。これにより、第2の膜12が曲げられ、第1の膜11が傾斜する。第2の膜12は折り曲げられてもよい。第1の膜11の第2の端部11bが基板10に接触するまで第1の膜11が傾斜することが好ましい。より好ましくは、第2の端部11bと基板10がスティッキングで付着する。スティッキングとは、液体が蒸発するときに表面張力によるメニスカス力が働いて、液体を囲む基板と構造体、または構造体同士が付着する現象である。
以上の工程により、第1の膜11及び第2の膜12を含む第1の傾斜構造体が形成される。
【0032】
さらに、図3(K)に示すように、必要に応じて、第3の膜13となる液体材料を第1の膜11と基板10との間に充填する。その後、加熱等の手段によってその液体材料を固化させる。このような第3の膜13となる液体材料としては、例えばSOG(spin on glass)が用いられる。
【0033】
次に、図3(L)に示すように、固化した液体材料のうち、第2の膜12上の部分を異方性エッチングによって除去する。
以上の工程により、第1の膜11、第2の膜12及び第3の膜13を含む第2の傾斜構造体が形成される。
【0034】
さらに、図3(M)に示すように、必要に応じて、第1の膜11及び第2の膜12をエッチングすることによって除去する。第1の膜11が例えば窒化チタン膜であり、第2の膜12が例えばアルミニウム膜である場合には、第1の膜11及び第2の膜12を除去するエッチング液としては例えばアンモニア過水(NHOH+H)を用いる。第1の膜11及び第2の膜12を除去することにより、第3の膜13のみを含む第3の傾斜構造体が形成される。
【0035】
なお、ここでは第1の膜11と第2の膜12とが別の膜である場合について説明したが、これに限らず、第1の膜11と第2の膜12とが一体の膜であってもよい。第2の膜12の少なくとも一部の剛性が、第1の膜11の剛性より小さい場合には、図3(I)及び図3(J)の工程において、第2の膜12を曲げることにより、傾斜構造体を形成することができる。第2の膜12を折り曲げることにより、傾斜構造体を形成してもよい。
【0036】
また、以上の工程において、基板10はシリコン、犠牲膜20は酸化シリコン、第1の膜11は窒化チタン、第2の膜12はアルミニウム、犠牲膜20を除去するエッチング液はフッ酸、第3の膜13はSOG、第1の膜11及び第2の膜12を除去するエッチング液はアンモニア過水としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、以下の組合せが可能である。
【0037】
例えば、基板10はシリコン、犠牲膜20は窒化チタン及びアルミニウム、第1の膜11及び第2の膜12は窒化シリコン(Si)、犠牲膜20を除去するエッチング液はアンモニア過水、第3の膜13はSOG、第1の膜11及び第2の膜12を除去するエッチング液はリン酸(HPO)とすることもできる。
【0038】
また、例えば、基板10はシリコン、犠牲膜20は酸化シリコン、第1の膜11及び第2の膜12はレジスト材料、犠牲膜20を除去するエッチング液はフッ酸、第3の膜13はSOG、第1の膜11及び第2の膜12を除去するエッチング液は発煙硝酸とすることもできる。
【0039】
また、例えば、基板10は窒化シリコン、犠牲膜20は酸化シリコン、第1の膜11は窒化チタン、第2の膜12はアルミニウム、犠牲膜20を除去するエッチング液はフッ酸、第3の膜13はSOG、第1の膜11及び第2の膜12を除去するエッチング液はアンモニア過水とすることができる。
【0040】
<1−4.実施形態の効果>
以上の製造工程によれば、半導体プロセスとの親和性が高い成膜、露光、現像、エッチング等の技術を用いて傾斜構造体を製造できる。従って、1つのチップ上に傾斜構造体と半導体回路とを混載することも容易となる。
【0041】
また、傾斜構造体の傾斜角度は、第1の膜11の第1の端部11aから第2の端部11bまでの長さと、第1の膜の基板10からの高さ(犠牲膜20の厚さ)とによって微調整することができる。
【0042】
また、傾斜構造体を製造するために、高価で摩耗しやすい金型を作成する必要がなく、傾斜構造体の形状を変更するために金型を作り直す必要もない。また、以上の製造工程によれば、金型で作成可能な材料(樹脂等)だけでなく、種々の材料を用いて、微細な傾斜構造体を製造することができる。
【0043】
<2.第2の実施形態>
図4〜図6は、本発明の第2の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図である。この実施形態に係る製造方法は、傾斜角度の異なる複数の傾斜構造体を、1つの基板10上に同時に形成できる方法である。
【0044】
図4〜図6に示す工程は、多くの点において図1〜図3に示す工程と共通であるが、図4(C)及び図4(D)に示すように、第1の膜11上に、面積の異なる複数のレジスト膜21を形成し、長さが異なる複数の第1の膜11を形成する点で、図1〜図3に示す工程と異なる。
【0045】
その後、図1〜図3に示す工程と同様に傾斜構造体を形成すると、第1の膜11の第1の端部11aから第2の端部11bまでの長さに応じて、異なる傾斜角度を有する複数の傾斜構造体を形成することができる。
【0046】
<3.第3の実施形態>
図7〜図9は、本発明の第3の実施形態に係る傾斜構造体の製造方法を示す断面図である。この実施形態に係る製造方法は、傾斜方向の異なる複数の傾斜構造体を、1つの基板10上に同時に形成できる方法である。
【0047】
図7〜図9に示す工程は、多くの点において図1〜図3に示す工程と共通であるが、図8(F)及び図8(G)に示すように、複数の犠牲膜20の互いに異なる方向を向いた側面を覆うようにレジスト膜22を形成し、第2の膜12の第2の部分12bが互いに異なる方向を向くように複数の第2の膜12を形成する点で、図1〜図3に示す工程と異なる。
【0048】
その後、図1〜図3に示す工程と同様に傾斜構造体を形成すると、第2の膜12の第2の部分12bの向きに応じて、傾斜方向の異なる複数の傾斜構造体を形成することができる。
【0049】
<4.傾斜構造体の構成例>
<4−1.第1の構成例>
図10は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第1の構成例を示す図である。図10(A)は平面図であり、図10(B)は背面図であり、図10(C)は側面図であり、図10(D)は正面図である。図10に示すように、第1の構成例に係る傾斜構造体1aは、基板10上に位置する第1の膜11及び第2の膜12を含んでいる。
【0050】
第1の膜11は、基板10に対して傾斜しており、基板10との距離が長い第1の端部11aと、基板10との距離が短い第2の端部11bとを含んでいる。第1の構成例においては、第1の膜11の第2の端部11bは、基板10に接している。
【0051】
第2の膜12は、基板10に接続された第1の部分12aと、第1の膜11の上面に接続された第2の部分12bと、第1の部分12a及び第2の部分12bの間に位置し曲面を有する第3の部分12cと、を含んでいる。曲面は屈曲面でもよい。
【0052】
<4−2.第2の構成例>
図11は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第2の構成例を示す図である。図11(A)は平面図であり、図11(B)は背面図であり、図11(C)は側面図であり、図11(D)は正面図である。図11に示すように、第2の構成例に係る傾斜構造体1bは、第2の膜12が、第1の膜11の第2の端部11bよりも突き出た第4の部分12dを含んでいる点で第1の構成例と異なる。
【0053】
第2の膜12の第4の部分12dは、基板10に接しており、好ましくはスティッキングで付着している。第2の構成例によれば、第4の部分12dと基板10との接触面積が大きいため、傾斜構造体を安定させることができる。
【0054】
<4−3.第3の構成例>
図12は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第3の構成例を示す図である。図12(A)は平面図であり、図12(B)は背面図であり、図12(C)は側面図であり、図12(D)は正面図である。図12に示すように、第3の構成例に係る傾斜構造体1cは、第1の膜11の第1の端部11a及び第2の膜12の第2の部分12bに、貫通孔11cが形成されている点で第1の構成例と異なる。
【0055】
第3の構成例によれば、第3の膜13となる液体材料を第1の膜11と基板10との間に充填するときに、貫通孔11cから空気を逃がすことができるので、空気溜まりの少ない傾斜構造体を形成することができる。
【0056】
<4−4.第4の構成例>
図13は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第4の構成例を示す図である。図13(A)は平面図であり、図13(B)は背面図であり、図13(C)は側面図であり、図13(D)は正面図である。図13に示すように、第4の構成例に係る傾斜構造体1dは、第2の膜12の第3の部分12cに貫通孔12eが形成されている点で第1の構成例と異なる。
【0057】
第4の構成例によれば、第3の膜13となる液体材料を第1の膜11と基板10との間に充填するときに、貫通孔12eから液体材料を注入し、或いは貫通孔12eから空気を逃がすことができるので、液体材料の注入工程を円滑化することができる。
【0058】
<4−5.第5の構成例>
図14は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第5の構成例を示す図である。図14(A)は平面図であり、図14(B)は背面図であり、図14(C)は側面図であり、図14(D)は正面図である。図14に示すように、第5の構成例に係る傾斜構造体1eは、基板10の第1の膜11に対向する面に溝10aが形成されている点で第1の構成例と異なる。
【0059】
第5の構成例によれば、第3の膜13となる液体材料を第1の膜11と基板10との間に充填するときに、溝10aから液体材料を注入することができるので、液体材料の注入工程を円滑化することができる。
【0060】
<4−6.第6の構成例>
図15は、上述の各実施形態に係る傾斜構造体の第6の構成例を示す図である。図15(A)は平面図であり、図15(B)は背面図であり、図15(C)は側面図であり、図15(D)は正面図である。図15に示すように、第6の構成例に係る傾斜構造体1fは、第1の膜11の第2の端部11b及び第2の膜12の第2の部分12bに、凹部11dが形成されている点で第1の構成例と異なる。
【0061】
第6の構成例によれば、第3の膜13となる液体材料を第1の膜11と基板10との間に充填するときに、凹部11dから液体材料を注入し、或いは凹部11dから空気を逃がすことができるので、液体材料の注入工程を円滑化することができる。
【0062】
<5.透過型分光センサー>
図16は、本発明の実施形態に係る傾斜構造体を用いた分光センサーの第1の例を示す断面図である。図16に示す分光センサーは、受光素子を有する光学素子部50と、角度制限フィルター部60と、分光フィルター部70とを具備している。
【0063】
光学素子部50は、シリコンなどの半導体で形成された基板51と、基板51に形成されたフォトダイオード52a、52b及び52cを具備している。さらに基板51には、フォトダイオード52a、52b及び52cに所定の逆バイアス電圧を印加したり、フォトダイオード52a、52b及び52cにおいて発生した光起電力に基づく電流を検知し、当該電流の大きさに応じたアナログ信号を増幅してデジタル信号に変換したりする電子回路(図示せず)が形成されている。
【0064】
<5−1.角度制限フィルター部>
角度制限フィルター部60は、基板51の上方に形成されている。角度制限フィルター部60においては、遮光体61によって光路壁が形成され、この光路壁に囲まれた酸化シリコン等の透光体62によって光路が形成されている。遮光体61は、フォトダイオード52a、52b及び52cによって受光しようとする波長の光を実質的に透過しない材料によって構成される。遮光体61は、基板51上に、例えば格子状の所定パターンで複数層にわたって連続的に形成されることにより、基板51の面に垂直な方向に光路を形成する。
【0065】
角度制限フィルター部60によって、光路内を通過する光の入射角度が制限される。すなわち、光路内に入射した光が、光路の向きに対して所定の制限角度以上に傾いている場合には、光が遮光体61に当たり、一部が遮光体61に吸収され、残りが反射される。光路を通過するまでの間に反射が繰り返されることによって反射光は弱くなる。従って、角度制限フィルター部60を通過できる光は、実質的に、光路に対する傾きが所定の制限角度未満で入射した光に制限される。
【0066】
<5−2.分光フィルター部>
分光フィルター部70は、角度制限フィルター部60上に形成された傾斜構造体1と、傾斜構造体1上に形成された多層膜72とを有している。多層膜72は、酸化シリコン等の低屈折率の薄膜と、酸化チタン等の高屈折率の薄膜とを、基板51に対して僅かに傾斜させて多数積層したものである。
低屈折率の薄膜及び高屈折率の薄膜は、それぞれ例えばサブミクロンオーダーの所定膜厚とし、これを例えば計60層程度にわたって積層することにより、多層膜72全体で例えば6μm程度の厚さとする。
【0067】
多層膜72の基板51に対する傾斜角度は、フォトダイオード52a、52b及び52cによって受光しようとする光の設定波長に応じて、例えば0[deg]以上、30[deg]以下に設定する。多層膜72を基板51に対して傾斜させるために、角度制限フィルター部60上に透光性を有する傾斜構造体1を形成し、その上に多層膜72を形成する。傾斜構造体1としては、上述の製造方法によって製造した傾斜構造体を用いることができる。
【0068】
以上の構成において、分光フィルター部70に入射した入射光は、低屈折率の薄膜と高屈折率の薄膜との境界面において、一部は反射光となり、一部は透過光となる。そして、反射光の一部は、他の低屈折率の薄膜と高屈折率の薄膜との境界面において再度反射して、上述の透過光と合波する。このとき、反射光の光路長と一致する波長の光は、反射光と透過光の位相が一致して互いに強め合い、反射光の光路長と一致しない波長の光は、反射光と透過光の位相が一致せずに互いに弱め合う(干渉する)。
【0069】
ここで、反射光の光路長は、多層膜72の積層方向に対する入射光の向きの傾斜角度によって決まる。従って、上述の干渉作用が、例えば計60層に及ぶ多層膜72において繰り返されると、入射光の入射角度に応じて、特定の波長の光のみが分光フィルター部70を透過し、所定の出射角度(例えば、分光フィルター部70への入射角度と同じ角度)で分光フィルター部70から出射する。
【0070】
角度制限フィルター部60は、所定の制限角度範囲内で角度制限フィルター部60に入射した光のみを通過させる。従って、分光フィルター部70と角度制限フィルター部60とを通過する光の波長は、多層膜72の積層方向と、角度制限フィルター部60が通過させる入射光の入射方向とによって決まる所定範囲の波長に制限される。
【0071】
フォトダイオード52a、52b及び52cによって受光しようとする光の設定波長に応じて、異なる傾斜角度を有する傾斜構造体1を予め形成しておくことにより、多層膜72は、フォトダイオード52a、52b及び52cによって受光しようとする光の設定波長によらず、同一の膜厚で、共通の工程により成膜することができる。
【0072】
<5−3.光学素子部>
光学素子部50に含まれるフォトダイオード52a、52b及び52cは、分光フィルター部70及び角度制限フィルター部60を通過した光を受光して、光起電力を発生させる。フォトダイオード52a、52b及び52cは、半導体によって構成された基板51に、イオン注入等を行うことによって形成された不純物領域を含んでいる。
【0073】
分光フィルター部70及び角度制限フィルター部60を通過してきた光がフォトダイオード52a、52b及び52cにおいて受光され、光起電力が発生することにより、電流が発生する。この電流を、電子回路(図示せず)によって検知することにより、光を検知することができる。
【0074】
<5−4.分光センサーの製造方法>
ここで、第1の例における分光センサーの製造方法について簡単に説明する。分光センサーは、まず基板51にフォトダイオード52a、52b及び52cを形成し、次に、フォトダイオード52a、52b及び52c上に角度制限フィルター部60を形成し、次に、角度制限フィルター部60の上に分光フィルター部70を形成することによって製造される。
【0075】
本実施形態によれば、分光センサーを半導体プロセスによって一貫して製造することができ、所望の傾斜角度を有する傾斜構造体を用いた分光センサーを容易に形成することができる。また、傾斜角度の異なる複数の傾斜構造体を用いることで、複数の波長の光を検知することが可能となる。
【0076】
<6.反射型分光センサー>
図17は、本発明の実施形態に係る傾斜構造体を用いた分光センサーの第2の例を示す断面図である。図17に示す分光センサーは、受光素子を有する光学素子部50と、角度制限フィルター部60と、分光フィルター部80とを具備している。
【0077】
角度制限フィルター部60は、分光フィルター部80の上方に形成されている。角度制限フィルター部60は、分光フィルター部80と離間して形成されてもよいし、接触して形成されてもよい。
【0078】
分光フィルター部80は、反射率の高い傾斜構造体1gと、傾斜構造体1g上に形成された多層膜72とを有している。傾斜構造体1gとしては、上述の製造方法によって製造した傾斜構造体を用いることができる。
【0079】
以上の構成により、分光フィルター部80は、角度制限フィルター部60からの光の入射方向に応じて、反射する光の波長を制限する。
すなわち、角度制限フィルター部60から分光フィルター部80に入射した入射光は、その入射角度に応じて、特定の波長の光のみが分光フィルター部80によって反射され、所定の出射角度(例えば、分光フィルター部80への入射角度と同じ角度)で分光フィルター部80から出射する。
【0080】
フォトダイオード52a及び52bによって受光しようとする光の設定波長に応じて、異なる傾斜角度を有する傾斜構造体1gを予め形成しておくことにより、多層膜72は、フォトダイオード52a及び52bによって受光しようとする光の設定波長によらず、同一の膜厚で、共通の工程により成膜することができる。
【0081】
光学素子部50に含まれるフォトダイオード52a及び52bは、角度制限フィルター部60を通過し分光フィルター部80によって反射された光を受光して、光起電力を発生させる。
【0082】
なお、ここでは、傾斜構造体を用いた素子として、分光センサーについて述べたが、傾斜構造体を他の素子として用いても良い。例えば、光ファイバーの中継デバイスにおいて所定波長の光信号を中継するため、プリズムやミラー等の光学素子として用いても良い。
【符号の説明】
【0083】
1、1a〜1g…傾斜構造体、10…基板、10a…溝、11…第1の膜、11a…第1の端部、11b…第2の端部、11c…貫通孔、11d…凹部、12…第2の膜、12a…第1の部分、12b…第2の部分、12c…第3の部分、12d…第4の部分、12e…貫通孔、13…第3の膜、20…犠牲膜、21、22…レジスト膜、50…光学素子部、51…基板、52a、52b、52c…フォトダイオード、60…角度制限フィルター部、61…遮光体、62…透光体、70…分光フィルター部、72…多層膜、80…分光フィルター部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に犠牲膜を形成する工程(a)と、
前記犠牲膜の上方に第1の膜を形成する工程(b)と、
第2の膜であって、前記基板に接続された第1の部分と、前記第1の膜に接続された第2の部分と、前記第1の部分及び前記第2の部分の間に位置する第3の部分と、を含む前記第2の膜を形成する工程(c)と、
前記犠牲膜を除去する工程(d)と、
前記工程(d)の後に前記第2の膜の前記第3の部分を曲げて、前記第1の膜を前記基板に対して傾斜させる工程(e)と、
を含む傾斜構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、前記犠牲膜及び前記第1の膜をパターニングすることによって、前記第2の膜の前記第3の部分が形成される前記犠牲膜の側面を露出させる工程(f)をさらに含む
傾斜構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記工程(e)は、前記第1の膜と前記基板との間に液体を供給し、その後、前記液体を除去することを含む
傾斜構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、
前記工程(e)の後に、前記第1の膜と前記基板との間に、第3の膜となる材料を充填する工程(g)をさらに含む
傾斜構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記工程(g)の後に、前記第1の膜及び前記第2の膜を除去する工程(h)をさらに含む
傾斜構造体の製造方法。
【請求項6】
基板の上方に位置する第1の膜であって、前記基板の第1の面に対して傾斜している前記第1の膜と、
基板の上方に位置する第2の膜であって、前記基板の前記第1の面に接続された第1の部分と、前記第1の膜に接続された第2の部分と、前記第1の部分及び前記第2の部分を接続する第3の部分と、を含む前記第2の膜と、
を含む傾斜構造体。
【請求項7】
請求項6において、
前記第3の部分は、曲面を有する傾斜構造体。
【請求項8】
請求項6又は請求項7において、
前記第2の膜の前記第2の部分は、前記第1の膜の上方に位置する傾斜構造体。
【請求項9】
請求項6乃至請求項8の何れか一項において、
前記第1の膜と前記基板との間に、第3の膜をさらに含む傾斜構造体。
【請求項10】
通過する光の入射方向を制限する角度制限フィルターと、
透過する光又は反射する光の波長を、入射方向に応じて制限する多層膜と、
請求項6に記載の傾斜構造体であって、前記角度制限フィルターを通過する光の入射方向と前記多層膜の積層方向との傾斜角度を規定する前記傾斜構造体と、
前記角度制限フィルターを通過し、且つ前記多層膜において透過又は反射した光を検出する受光素子と、
を含む分光センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−29603(P2013−29603A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164537(P2011−164537)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】