説明

光スイッチモジュール

【課題】光偏向素子の光導波路基板への実装構造であって、光導波路基板と光偏向素子との間における絶縁性及び光学的な透明性を確保した構造を備えた、光スイッチモジュールを提供する。
【解決手段】配線160−1、160−2、160−3、160−4が形成された光導波路基板120に、下面に外部接続端子150−1、150−2が形成された光偏向素子103aが実装された光スイッチモジュール100は、前記光導波路基板120と前記光偏向素子103aとの間に複数種類の絶縁性樹脂157,200が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スイッチモジュールに関し、より具体的には、高速、大容量の信号伝送を必要とする情報通信系の装置内において、光を偏向する光偏向素子を備え、複数の入力ポートと複数の出力ポートとの間で光信号の伝播先を切換える光スイッチモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の伝送帯域は増加の一途をたどり、波長多重化(WDM:Wavelength Division Multiplex)技術の進展と相俟って高速かつ大容量化が進んでいる。基幹通信ネットワークにおける光ファイバー網のハードウェアインフラを構築するためには、光信号の伝達先(光配線の経路)を切換える光信号切り換え装置が必要である。
【0003】
従来は、光信号を一旦電気信号に変換して信号の伝達先を半導体スイッチで切換え、その後再び光信号に変換する態様が主流であった。しかし、信号の高速化に伴い、データ転送速度が10[Gb/s]を超えると、従来のように半導体スイッチでは対応することが困難である。
【0004】
そこで、光学的なスイッチング素子を用いて、光と電気との間の変換を必要とせずに光信号のまま、光信号の伝達先(光配線の経路)を切換える光スイッチモジュールが種々提案されている。
【0005】
図1は光スイッチモジュールの構成を示す模式図である(例えば、特許文献1参照)。ここで、図1(a)は、図1(b)を矢印Xで示す方向に見たときの図である。また、図2は、図1(b)において点線で示す箇所を拡大して示した詳細図である。
【0006】
図1を参照するに、従来の光スイッチモジュール10にあっては、入射側光導波路部(入力チャンネル光導波路部)1、コリメート部2、入射側光偏向素子部3、共通光導波路(スラブ光導波路)4、出射側光偏向素子部5、集光部6及び出射側光導波路部(出力チャンネル光導波路部)7等により構成されている。
【0007】
これら入射側光導波路部1、コリメート部2、入射側光偏向素子部3、共通光導波路4、出射側光偏向素子部5、集光部6及び出射側光導波路部7は、石英からなる光導波路基板20上に一体的に形成されている。
【0008】
入射側光導波路部1は、複数本(図1に示す例では4本)の光導波路(コア)1aと、光導波路1aを被覆して屈折率の差により光を光導波路1a内に閉じ込めるクラッド層1bと、により構成されている。
【0009】
出射側光導波路部7も、これと同様に、複数本(図1に示す例では4本)の光導波路(コア)7aと、光導波路7aを被覆して屈折率の差により光を光導波路7a内に閉じ込めるクラッド層7bとにより構成されている。
【0010】
また、入射側光導波路部1の光導波路1aには、入力側光ファイバー部30に設けられた入力側光ファイバー31が夫々接続され、出射側光導波路部7の光導波路7aには、入力側光ファイバー部40に設けられた出力側光ファイバー41が夫々接続されている。
【0011】
コリメート部2は、光導波路1aの数と同数の、即ち、本例では4個のコリメートレンズ2aにより構成されている。各コリメートレンズ2aは、それぞれ光導波路1aの端部から若干離れた位置に配置されている。光導波路1aから出射された光は放射状に広がるものの、コリメートレンズ2aによってコリメート光(平行光)となる。
【0012】
入射側光偏向素子部3には4個の光偏向素子3aが設けられている。各光偏向素子3aはそれぞれコリメートレンズ2aからその光軸方向に若干離れた位置に配置されている。光偏向素子3aは、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を利用して光信号の伝播方向を変更する。
【0013】
図2に拡大して示すように、入射側光偏向子部3を構成する各光偏向素子3aは、鉛ジルコネートタイタネート(PZT)、鉛ランタンジルコネートタイタネート(PLZT)等の電気光学結晶から成り、三角形状(くさび形状)に形成された2個のプリズム電極ペア50−1及び50−2等により構成されている。より具体的には、下部電極としての基板51に、下部クラッド層52が設けられ、更に、光導波路であるコア部53、下部クラッド層と同じ材料から成る上部クラッド層がこの順に設けられ、この上に上部電極としてプリズム電極ペア50−1及び50−2が形成されている。
【0014】
光偏向素子3aは、光導波路基板20にエッチングにより形成された溝55内に設けられている。当該溝55の底部には、複数(図1(a)及び図2に示す例では4本)の給電配線60−1乃至60−4が設けられている。かかる溝55内に、プリズム電極ペア50−1及び50−2を下向きにして、光偏向素子3aを設けられ、給電配線60−1とプリズム電極ペア50−1とが、また、給電配線60−4とプリズム電極ペア50−2とが、バンプ62を介して接続されている。更に、溝55内の間隙には、透明なアンダーフィル樹脂57が充填され、光偏向素子3aと光導波路基板20とを一体化して両者の接続を補強している。
【0015】
なお、水平方向において、光偏向素子3aの光導波路であるコア部53と、光導波路基板20上に設けられている光導波路23とは、同一面上に設けられている。
【0016】
共通光導波路4は、スラブ(slab)型導波路で構成されている。共通光導波路4は、入射側光偏向素子部3を通過した光を出射側光偏向素子部5に伝達する。共通光導波路4には複数の光信号が同時に通るが、これらの光信号は共通光導波路4内を決められた方向に直進するので、他の光信号と干渉することなく伝達される。
【0017】
出射側光偏向素子部5には4個の光偏向素子5aが設けられている。各光偏向素子5aは、共通光導波路4を通って光偏向素子5aに到達した光を、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を利用して光導波路7aに平行な方向に偏向する。なお、光偏向素子5aは光偏向素子3aと略同一の構造を有する。
【0018】
集光部6は、出射側光導波路部7の光導波路7aの数と同数の、即ち4個の集光レンズ6aにより構成されている。集光レンズ6aは、光偏向素子5aを通過した光を集光して光導波路7aに導く。
【0019】
このような構造を備えた光スイッチモジュール10にあっては、入口側では、入射側光導波路部1の光導波路1aからの光信号が、コリメート部2のコリメートレンズ2aでコリメート光(平行光)として、入射側光偏向部3の光偏向素子3aに導入される。光偏向素子3aには三角形状のプリズム電極ペア50−1及び50−2が形成されており、ここに石英光導波路基板20の給電配線60−1及び60−4及びバンプ62を介して電圧を印加することにより、略直角三角形状に屈折率が変わり、前記コリメート光が偏向され、光スイッチモジュール10の出口側に到達する。
【0020】
一方、当該出口側では、出射側光偏向部5の光偏向素子5aには三角形状のプリズム電極ペア50−1及び50−2が形成されており、ここに石英光導波路基板20の給電配線60−1及び60−4及びバンプ62を介して電圧を印加することにより、光の角度が戻され、集光部6の集光レンズ6aにより出射側光導波路部7の光導波路7aへ結合される。
【0021】
このように、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を用いた光スイッチモジュール10にあっては、プリズム電極ペア50−1及び50−2により光を任意の方向に偏向させることができるため、光と電気との間の変換を必要とせず、光信号のまま光信号の伝達先(光配線の経路)を高速に切り換えることができる。
【0022】
このほか、外部から光信号の入力を受ける光入力導波路と、光信号を外部に出力する複数の光出力導波路と、光入力導波路を通過した光信号をコリメートするコリメートレンズと、コリメートされた光信号の伝播方向を切り換える光偏向素子と、光偏向素子を通過した光信号が伝播する共通光導波路と、光偏向素子から共通光導波路を介して入射した光信号を各光出力導波路に個別に結像させる複数の集光レンズが一体に形成された集光部とが設けられた構造の光スイッチが提案されている(特許文献2参照)
また、レーザー光走査光学系に用いられ、電気光学効果を用いた光スイッチにより光路切り換えがなされる態様が提案されている(特許文献3参照)。
【0023】
更に、表面全体が絶縁膜で被覆され、静電効果を利用した光スイッチが提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2002−318398号公報
【特許文献2】特開2004−21072号公報
【特許文献3】特開2003−84323号公報
【特許文献4】特開昭58−199304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、図1及び図2に示す光スイッチモジュール10にあっては、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果による屈折率変化は小さい。従って、光を大きく屈折させるためには、プリズム電極ペア50−1及び50−2に高電圧を印加する必要がある。
【0025】
例えば、図1(a)の入射側光偏向素子部3において一番上に位置する光偏向素子3aから、出射側光偏向素子部5において一番下に位置する光偏向素子5aに光信号を偏向する場合等、大きな角度で偏向しなければならない場合には光の大きな屈折率変化が必要となり、そのために、100V単位の電圧等、高電圧をプリズム電極ペア50−1及び50−2に印加しなければならない。
【0026】
ここで、光導波路基板20に形成され、内部に光偏向素子3aが設けられた溝55を、エッチング等により深く形成することは困難ため、当該溝55の底部に設けられた給電配線60−1乃至60−4と、光偏向素子3aのプリズム電極ペア50−1及び50−2との間隙が十分でない場合が発生する可能性がある。
【0027】
このような場合にも、光信号を大きく偏向させるために上述の高電圧をプリズム電極ペア50−1及び50−2に印加すると、図2に白抜きの矢印で示す部分の絶縁性は不十分となり、いきおい絶縁破壊を招くおそれがある。
【0028】
この問題への対応として、例えば、絶縁耐性の高い樹脂をアンダーフィル樹脂57として溝55内の間隙に充填する方法が考えられる。
【0029】
しかしながら、図2に示すように、アンダーフィル樹脂57は、光導波路基板20内に設けられている光導波路1aの端面と光偏向素子3aの光導波路であるコア部53の端面との間にも充填され、光導波路1aとコア部53との間に光を通すためには、アンダーフィル樹脂57に光学的な透明性が要求される。
【0030】
アンダーフィル樹脂57として、透明性に優れ、且つ、絶縁耐性の高い樹脂を選択することは困難であり、絶縁耐性の高い樹脂をアンダーフィル樹脂57として溝55内の間隙に充填する方法は採用し難い。
【0031】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、光偏向素子の光導波路基板への実装構造であって、光導波路基板と光偏向素子との間における絶縁性及び光学的な透明性を確保した構造を備えた、光スイッチモジュールを提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の一観点によれば、配線が形成された光導波路基板に、下面に外部接続端子が形成された光偏向素子が実装された光スイッチモジュールであって、前記光導波路基板と前記光偏向素子との間に複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュールを提供することができる。
【0033】
当該光スイッチモジュールにおいて、前記光導波路基板の前記配線が形成された面及び前記光偏向素子の前記外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていてもよい。
【0034】
前記第1の絶縁性樹脂は、専用溶剤には溶解し、汎用溶剤には溶解しない樹脂であってもよい。また、前記第2の絶縁性樹脂は、前記光偏向素子の使用波長域で光学的に透明な樹脂であってもよい。
【0035】
本発明の他の観点によれば、複数の光信号をそれぞれ個別にコリメートするコリメート部と、前記コリメート部を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の入射側光偏向素子と、前記複数の入射側光偏向素子をそれぞれ通過した各光信号が伝播する共通光導波路と、前記共通光導波路を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の出射側光偏向素子と、前記出射側光偏向素子を通過した各光信号をそれぞれ個別に集光する集光部と、を光導波路基板上に備えた光スイッチモジュールであって、前記光導波路基板と前記入射側光偏向素子又は前記出射側光偏向素子の少なくとも一方の光偏向素子との間に、複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュールを提供することができる。
【0036】
当該光スイッチモジュールにおいて、前記光導波路基板において配線が形成された面及び前記光偏向素子において外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、光偏向素子の光導波路基板への実装構造であって、光導波路基板と光偏向素子との間における絶縁性及び光学的な透明性を確保した構造を備えた、光スイッチモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0039】
図3は本発明の実施の形態に係る光スイッチモジュールの構成を示す模式図である。
【0040】
図3を参照するに、本発明の実施の形態に係る光スイッチモジュール100にあっては、入射側光導波路部(入力チャンネル光導波路部)101、コリメート部102、入射側光偏向素子部103、共通光導波路(スラブ光導波路)104、出射側光偏向素子部105、集光部106及び出射側光導波路部(出力チャンネル光導波路部)107等により構成されている。
【0041】
これら入射側光導波路部101、コリメート部102、入射側光偏向素子部103、共通光導波路104、出射側光偏向素子部105、集光部106及び出射側光導波路部107は、石英からなる光導波路基板120(図4及び図5参照)上に一体的に形成されている。
【0042】
入射側光導波路部101は、複数本(図3に示す例では4本)の光導波路(コア)101aと、光導波路101aを被覆して屈折率の差により光を光導波路101a内に閉じ込めるクラッド層101bと、により構成されている。
【0043】
出射側光導波路部107も、これと同様に、複数本(図3に示す例では4本)の光導波路(コア)107aと、光導波路107aを被覆して屈折率の差により光を光導波路107a内に閉じ込めるクラッド層107bとにより構成されている。
【0044】
なお、本実施の形態では、入射側光導波路部101の光導波路101aの数と、出射側光導波路部107の光導波路107aの数が同じであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、入射側光導波路の数と出射側光導波路の数とが異なっていてもよい。
【0045】
また、入射側光導波路部101の光導波路101aには、入力側光ファイバー部130に設けられた入力側光ファイバー131が夫々接続され、出射側光導波路部107の光導波路107aには、入力側光ファイバー部140に設けられた出力側光ファイバー141が夫々接続されている。
【0046】
コリメート部102は、光導波路101aの数と同数の、即ち、本例では4個のコリメートレンズ102aにより構成されている。各コリメートレンズ102aは、それぞれ光導波路101aの端部から若干離れた位置に配置されている。光導波路101aから出射された光は放射状に広がるものの、コリメートレンズ102aによってコリメート光(平行光)となる。
【0047】
入射側光偏向素子部103には4個の光偏向素子103aが設けられている。各光偏向素子103aはそれぞれコリメートレンズ102aからその光軸方向に若干離れた位置に配置されている。光偏向素子103aは、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を利用して光信号の伝播方向を変更する。
【0048】
ここで、図4及び図5を参照して、入射側光偏向素子部103の光偏向素子103aの構造、及び光偏向素子103aの光導波路基板120(図4及び図5参照)への実装構造について説明する。
【0049】
図4は、図3の線A−Aにおける断面図であり、図5は、図3の線B−Bにおける断面図である。
【0050】
図4及び図5を参照するに、入射側光偏向子部103を構成する各光偏向素子103aにあっては、ニオブ(Nb)をドープして導電性が付与されたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板151が下部電極として用いられている。
【0051】
基板151上には、下部クラッド層152が設けられている。下部クラッド層152は、PLZT(PbxLa1−x(ZryTi1−yO3))を、ゾルゲール法、パルスレーザー蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)法、有機金属化学気相蒸着(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法等により基板151上に堆積することにより形成される。
【0052】
下部クラッド層152上には、光導波路であるコア部153が設けられている。コア部153は、PZT(Pb(ZryTi1−yO3))又は下部クラッド層152と組成の異なるPLZTから成る。
【0053】
コア部153上には、下部クラッド層152を構成するPLZTと同じ組成のPLZTを同じ方法等により堆積して上部クラッド層154が形成されている。
【0054】
上部クラッド層154上には、外部接続端子である上部電極として2個のプリズム電極ペア150−1及び150−2が形成されている。プリズム電極ペア150−1及び150−2は、三角形状(くさび形状、プリズム形状)の金属をスパッタ法及びフォトリソグラフィ法により設け、所定のサイズに研磨することにより形成される。
【0055】
ところで、光偏向素子103a(及び後述する光偏向素子105a)以外の光導波路部品は、一般的な光導波路のプロセスで作製される。
【0056】
即ち、下部クラッドを兼ねた石英基板120上に、MOCVD法により、コア層123、上部クラッド層125(図4参照)が、この順に積層形成される。なお、基板120を構成する材料として石英の代わりにシリコンを用いてもよい。コア層123は反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)により、入射側光導波路部101の線状の光導波路101a(入射側光導波路部107の線状の光導波路107a)と、共通光導波路104を構成し図3において点線で示すスラブ(slab)型導波路とを所定の位置に形成する。
【0057】
更に、上部クラッド層125の上面から下部クラッドを兼ねた石英基板120の内部に至るまで、RIEによる深いエッチングにより、コリメートレンズ102a、後述する集光レンズ106a、光偏向素子103a、光偏向素子105a等を実装するための溝(例えば、図4に示す溝155)を一括形成する。図4に示す溝155の内部には、光偏向素子103aが設けられている。
【0058】
図4に示す溝155の底部には、フォトリソグラフィ法とメッキにより複数(図4に示す例では4本)の給電配線160−1乃至160−4が形成されている。
【0059】
かかる溝155内に、プリズム電極ペア150−1及び150−2を下向きにして光偏向素子103aが設けられ、給電配線160−1とプリズム電極ペア150−1とが、また、給電配線160−4とプリズム電極ペア150−2とが、バンプ162を介して接続されている。
【0060】
本実施の形態では、プリズム電極ペア150−1及び150−2の上面(給電配線160−1及び160−4に対向している面)及び上部クラッド層154上におけるプリズム電極ペア150−1及び150−2の周囲と、溝155の底面及びプリズム電極ペア150−1及び150−2が接続されていない給電配線160−2及び160−3の上面及び周囲とに、絶縁樹脂薄膜200が設けられている。なお、絶縁樹脂薄膜200が、特許請求の範囲における「第1の絶縁性樹脂」に対応する。
【0061】
なお、溝部155の底部において、プリズム電極ペア150−1及び150−2が接続されている給電配線160−1及び160−4は、電気的接点を確保するために開口している必要があるため、給電配線160−1及び160−4の上面には、絶縁樹脂薄膜200は設けられていない。従って、絶縁樹脂薄膜200が感光性を有していればフォトリソグラフィ法により、また、絶縁樹脂薄膜200が感光性を有していなければリフトオフ法により、上述の必要な箇所にのみ絶縁樹脂薄膜200は設けられる。
【0062】
絶縁樹脂薄膜200として、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等を用いることができ、光偏向素子103aの使用波長域で光学的に透明でなくてもよい。
【0063】
特に、絶縁性樹脂200として、溶剤に可溶なフッ素樹脂(例えば、旭硝子株式会社の「サイトップ」等)を用いると、光偏向素子103aが適切に実装されなかった場合であっても、溶剤に漬けることにより当該フッ素樹脂が溶けて、光偏向素子103aと光導波路部品を元の状態に戻すことができる。また、フッ素樹脂は、専用の溶剤にのみ可溶で、他の汎用溶剤には溶けないため、リフトオフ法でパターニングすることが可能である。ここで、汎用溶剤とは、絶縁性樹脂200を塗布した後、光スイッチモジュールが完成するまでに用いられる現像液、リンス液、洗浄液、レジスト等に含まれる溶剤を意味する。このように、絶縁性樹脂200としてフッ素樹脂を用いることにより、部品を再生することできるため、製造コストを低く抑えることができる。
【0064】
また、絶縁樹脂薄膜200の厚さは、例えば、約1乃至5μmに設定することができる。
【0065】
例えば、http://www.arlonstd.com/Library/Guides/Effect%20of%20Elastic%20Elongation%20on%20Dielectric%20Strength.pdf、又はhttp://www.crosslinktech.com/Articles/Comparing%20Dielectric%20strength.pdfに示されている「Tautscher's Formula」によれば、単位厚さ当たりの絶縁強度は、膜厚が小さければ小さいほど、大きくなることが知られている。従って、上述のように、例えば、厚さが約1乃至5μmという薄い絶縁樹脂薄膜200により、光偏向素子103aと光導波路基板120との間であって、電気的接点を確保する必要が無い部分における絶縁性(耐電圧性)を十分確保することができる。
【0066】
このように、本実施の形態では、上述した絶縁樹脂薄膜200により、光偏向素子103aと光導波路基板120との間であって、電気的接点を確保する必要が無い部分における絶縁性(耐電圧性)を確保することができる。
【0067】
実装工程においては、このような絶縁樹脂薄膜200を、プリズム電極ペア150−1及び150−2の上面(給電配線160−1及び160−4に対向している面)及び上部クラッド層154上におけるプリズム電極ペア150−1及び150−2の周囲と、溝155の底面及びプリズム電極ペア150−1及び150−2が接続されていない給電配線160−2及び160−3の上面及び周囲とに予め設けた状態で、プリズム電極ペア150−1及び150−2を下向きにして、光偏向素子103aを溝155内に実装する。かかる実装工程は、図示を省略する精密微動ステージを用いて、光偏向素子103aが上から所定の高さに位置するように、溝155内に設けられる。
【0068】
ところで、溝155内の間隙には、透明な絶縁性樹脂であるアンダーフィル樹脂157が充填され、光偏向素子103aと光導波路基板120とを一体化して両者の接続を補強している。なお、アンダーフィル樹脂157が、特許請求の範囲における「第2の絶縁性樹脂」に対応する。
【0069】
より具体的には、溝155内の間隙には、上部クラッド層125の上面と略同一面部分に至るまで、アンダーフィル樹脂157が充填され固化されて、光偏向素子103aと光導波路基板120とが固定されている。
【0070】
アンダーフィル樹脂157として、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等、光偏向素子103aの使用波長域で光学的に透明な樹脂を用いることができる。
【0071】
水平方向において、光偏向素子103aの光導波路であるコア部153と、光導波路基板120上に設けられている光導波路であるコア層123とは、同一面上に設けられている。アンダーフィル樹脂157は、光導波路基板120上に設けられている光導波路であるコア層123の端面と光偏向素子103aの光導波路であるコア部153の端面との間にも充填されているが、光偏向素子103aの使用波長域で光学的に透明であるため、光導波路103aとコア部153との間でも光を通すことができる。
【0072】
かかるアンダーフィル樹脂157は、光偏向素子103aを溝155内に実装するときに溝部155の間隙に充填され、上述したように、アンダーフィル樹脂157により、光偏向素子103aと光導波路基板120との、機械的な強度と光学的特性(透明性)との双方を確保することができる。
【0073】
このように、光偏向素子103aの光導波路基板120の溝155への実装において、絶縁樹脂薄膜200とアンダーフィル樹脂157の2種類の絶縁性樹脂が用いられている。
【0074】
プリズム電極ペア150−1及び150−2の上面(給電配線160−1及び160−4に対向している面)及び上部クラッド層154上におけるプリズム電極ペア150−1及び150−2の周囲と、溝155の底面及びプリズム電極ペア150−1及び150−2が接続されていない給電配線160−2及び160−3の上面及び周囲とに絶縁樹脂薄膜200が設けられているため、光偏向素子103aと光導波路基板120との間であって、電気的接点を確保する必要が無い部分における絶縁性(耐電圧性)を確保することができる。
【0075】
更に、溝部155の間隙にアンダーフィル樹脂157が充填されているため、光偏向素子103a及び光導波路基板120の、機械的な強度及び光学的特性(透明性)を確保することができる。
【0076】
図3を再度参照するに、共通光導波路104は、点線で示すスラブ(slab)型導波路で構成されている。共通光導波路104は、入射側光偏向素子部103を通過した光を出射側光偏向素子部105に伝達する。共通光導波路104には複数の光信号が同時に通るが、これらの光信号は共通光導波路104内を決められた方向に直進するので、他の光信号と干渉することなく伝達される。
【0077】
出射側光偏向素子部105には4個の光偏向素子105aが設けられている。各光偏向素子105aは、共通光導波路104を通って光偏向素子105aに到達した光を、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を利用して光導波路107aに平行な方向に偏向する。なお、光偏向素子105aは上述した光偏向素子103aと略同一の構造を有し、また、光偏向素子105aの光導波路基板120(図4及び図5参照)への実装構造も光偏向素子103aの光導波路基板120への実装構造と同一の構造を有する。
【0078】
集光部106は、出射側光導波路部107の光導波路107aの数と同数の、即ち4個の集光レンズ106aにより構成されている。集光レンズ106aは、光偏向素子105aを通過した光を集光して光導波路107aに導く。
【0079】
このような構造を備えた光スイッチモジュール100にあっては、入口側では、入射側光導波路部101の光導波路101aからの光信号は、コリメート部102のコリメートレンズ102aでコリメート光(平行光)として、入射側光偏向部103の光偏向素子103aに導入される。光偏向素子103aには三角形状のプリズム電極ペア150−1及び150−2が形成されており、ここに石英光導波路基板120の給電配線160−1及び160−4及びバンプ162を介して電圧を印加することにより、略直角三角形状に屈折率が変わり、前記コリメート光が偏向され、光スイッチモジュール100の出口側に到達する。
【0080】
一方、当該出口側では、出射側光偏向部105の光偏向素子105aには三角形状のプリズム電極ペア150−1及び150−2が形成されており、ここに石英光導波路基板120の給電配線160−1及び160−4及びバンプ162を介して電圧を印加することにより、光の角度が戻され、集光部106の集光レンズ106aにより出射側光導波路部107の光導波路107aへ結合される。
【0081】
このように、電界で屈折率が変化する電気光学(EO)効果を用いた光スイッチモジュール100にあっては、プリズム電極ペア150−1及び150−2により光を任意の方向に偏向させることができるため、光と電気との間の変換を必要とせず、光信号のまま光信号の伝達先(光配線の経路)を高速に切り換えることができる。
【0082】
特に、本実施の形態では、上述したように、光偏向素子103aの光導波路基板120の溝155への実装において、絶縁樹脂薄膜200とアンダーフィル樹脂157の2種類の絶縁性樹脂が用いられている。
【0083】
絶縁樹脂薄膜200により、光偏向素子103aと光導波路基板120との間であって、電気的接点を確保する必要が無い部分における絶縁性(耐電圧性)を確保することができる一方、アンダーフィル樹脂157により、光偏向素子103a及び光導波路基板120の、機械的な強度及び光学的特性(透明性)を確保することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0085】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1) 配線が形成された光導波路基板に、下面に外部接続端子が形成された光偏向素子が実装された光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間に複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記2) 付記1記載の光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板の前記配線が形成された面及び前記光偏向素子の前記外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記3) 付記2記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及びフッ素樹脂から構成される群から選択される樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記4) 付記2記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂は、専用溶剤には溶解し、汎用溶剤には溶解しない樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記5) 付記2記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂は、感光性を有する樹脂であり、フォトリソグラフィ法により形成されることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記6) 付記2記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂は、感光性を有さない樹脂であり、リフトオフ法により形成されることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記7) 付記2乃至付記6いずれか一項記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂の形成厚さは、約1乃至5μmであることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記8) 付記2乃至付記7いずれか一項記載の光スイッチモジュールであって、
前記第2の絶縁性樹脂は、前記光偏向素子の使用波長域で光学的に透明な樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記9) 付記2又は付記8記載の光スイッチモジュールであって、
前記第2の絶縁性樹脂は、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記10) 付記2、8又は9いずれか一項記載の光スイッチモジュールであって、
前記第2の絶縁性樹脂は、前記光導波路基板の光導波路の端面と前記光偏向素子の光導波路の端面との間に充填されていることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記11) 複数の光信号をそれぞれ個別にコリメートするコリメート部と、
前記コリメート部を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の入射側光偏向素子と、
前記複数の入射側光偏向素子をそれぞれ通過した各光信号が伝播する共通光導波路と、
前記共通光導波路を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の出射側光偏向素子と、
前記出射側光偏向素子を通過した各光信号をそれぞれ個別に集光する集光部と、を光導波路基板上に備えた光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板と前記入射側光偏向素子又は前記出射側光偏向素子の少なくとも一方の光偏向素子との間に、複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
(付記12) 付記11記載の光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板において配線が形成された面及び前記光偏向素子において外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来の光スイッチモジュールの構成を示す模式図である。
【図2】図1(b)において点線で示す箇所を拡大して示した詳細図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る光スイッチモジュールの構成を示す模式図である。
【図4】図3の線A−Aにおける断面図である。
【図5】図3の線B−Bにおける断面図である。
【符号の説明】
【0087】
100 光スイッチモジュール
102 コリメート部
102a コリメートレンズ
103 入射側光偏向素子部
103a 入射側光偏向素子
104 共通光導波路
105 出射側光偏向素子部
105a 出射側光偏向素子
106 集光部
106a 集光レンズ
120 光導波路基板
150−1、150−2 プリズム電極ペア
155 溝
157 アンダーフィル樹脂
160−1、160−2、160−3、160−4 給電配線
162 バンプ162
200 絶縁性樹脂薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線が形成された光導波路基板に、下面に外部接続端子が形成された光偏向素子が実装された光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間に複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項2】
請求項1記載の光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板の前記配線が形成された面及び前記光偏向素子の前記外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項3】
請求項2記載の光スイッチモジュールであって、
前記第1の絶縁性樹脂は、専用溶剤には溶解し、汎用溶剤には溶解しない樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の光スイッチモジュールであって、
前記第2の絶縁性樹脂は、前記光偏向素子の使用波長域で光学的に透明な樹脂であることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項5】
複数の光信号をそれぞれ個別にコリメートするコリメート部と、
前記コリメート部を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の入射側光偏向素子と、
前記複数の入射側光偏向素子をそれぞれ通過した各光信号が伝播する共通光導波路と、
前記共通光導波路を通過した各光信号の伝播方向を電気光学効果を利用してそれぞれ個別に切換える複数の出射側光偏向素子と、
前記出射側光偏向素子を通過した各光信号をそれぞれ個別に集光する集光部と、を光導波路基板上に備えた光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板と前記入射側光偏向素子又は前記出射側光偏向素子の少なくとも一方の光偏向素子との間に、複数種類の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項6】
請求項5記載の光スイッチモジュールであって、
前記光導波路基板において配線が形成された面及び前記光偏向素子において外部接続端子が形成された面のうち、前記光導波路基板と前記光偏向素子とが電気的に接続している箇所を除く箇所に、第1の絶縁性樹脂が設けられ、
前記光導波路基板と前記光偏向素子との間隙に第2の絶縁性樹脂が設けられていることを特徴とする光スイッチモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−107648(P2008−107648A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291575(P2006−291575)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】