説明

光デバイスウエーハの加工方法およびレーザー加工装置

【課題】光デバイスの品質を低下させることなく個々の光デバイスに分割することができる加工方法およびレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】光デバイスウエーハ10の基板100にアブレーション加工を施すレーザー光線LBをストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝140を形成するレーザー加工溝形成工程と、光デバイスウエーハに外力を付与し、光デバイスウエーハを破断起点となるレーザー加工溝に沿って破断し、個々の光デバイスに分割するウエーハ分割工程とを含み、レーザー加工溝形成工程を実施する際には、基板にレーザー光線を照射すること(52)によって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成(7)し、プラズマ化されたエッチングガスが基板にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチング除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に光デバイスが形成された光デバイスウエーハを、ストリートに沿って個々の光デバイスに分割する光デバイスウエーハの加工方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光デバイス製造工程においては、略円板形状であるサファイア基板や炭化珪素基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体からなる光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスを形成して光デバイスウエーハを構成する。そして、光デバイスウエーハをストリートに沿って切断することにより光デバイスが形成された領域を分割して個々の光デバイスを製造している。
【0003】
上述した光デバイスウエーハのストリートに沿った切断は、通常、ダイサーと呼ばれている切削装置によって行われている。この切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削するための切削手段と、チャックテーブルと切削手段とを相対的に移動せしめる切削送り手段とを具備している。切削手段は、回転スピンドルと該スピンドルに装着された切削ブレードおよび回転スピンドルを回転駆動する駆動機構を含んでいる。切削ブレードは円盤状の基台と該基台の側面外周部に装着された環状の切れ刃からなっており、切れ刃は例えば粒径3μm程度のダイヤモンド砥粒を電鋳によって基台に固定し厚さ20μm程度に形成されている。
【0004】
しかるに、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板、炭化珪素基板等はモース硬度が高いため、上記切削ブレードによる切断は必ずしも容易ではない。従って、切削ブレードの切り込み量を大きくすることができず、切削工程を複数回実施して光デバイスウエーハを切断するため、生産性が悪いという問題がある。
【0005】
上述した問題を解消するために、光デバイスウエーハをストリートに沿って分割する方法として、ウエーハに対してアブレーション加工を施すパルスレーザー光線をストリートに沿って照射することにより破断の起点となるレーザー加工溝を形成し、この破断の起点となるレーザー加工溝が形成されたストリートに沿って外力を付与することにより割断する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板や炭化珪素基板等の基板の表面に形成されたストリートに沿って基板に対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してレーザー加工溝を形成すると、発光ダイオード等の光デバイスの側壁面にレーザー加工時に生成される変質物質が付着して光デバイスの輝度が低下し、光デバイスの品質が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、光デバイスの品質を低下させることなく個々の光デバイスに分割することができる光デバイスウエーハの加工方法およびレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、基板の表面に光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に光デバイスが形成された光デバイスウエーハを、ストリートに沿って個々の光デバイスに分割する光デバイスウエーハの加工方法であって、
光デバイスウエーハの基板に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を基板の表面または裏面側からストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成工程と、
光デバイスウエーハに外力を付与し、光デバイスウエーハを破断起点となるレーザー加工溝に沿って破断し、個々の光デバイスに分割するウエーハ分割工程と、を含み、
該レーザー加工溝形成工程を実施する際には、レーザー光線が照射される領域を含み基板にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成し、レーザー光線の照射によってプラズマ化されたエッチングガスが基板にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチング除去する、
ことを特徴とする光デバイスウエーハの加工方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを加工送り方向に相対的に加工送りする加工送り手段と、該加工送り方向に対して直交する割り出し送り方向に割り出し送りする割り出し送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
レーザー光線照射手段は、被加工物に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を発振するレーザー光線発振器と、該レーザー光線発振器によって発振されたレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えており、
該集光器から照射されるレーザー光線の加工領域に被加工物にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成するエッチングガス雰囲気生成手段を備えている、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による光デバイスウエーハの加工方法においては、光デバイスウエーハの基板に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を基板の表面または裏面側からストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成工程を実施する際には、レーザー光線が照射される領域を含みレーザー光線の照射によって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成し、レーザー光線の照射によってプラズマ化されたエッチングガスがレーザー光線の照射によって生成される変質物質をエッチング除去するので、基板に形成されるレーザー加工溝の壁面には変質物質が付着されないとともに、レーザー加工溝の壁面がエッチングによって粗面に形成される。このため、上記分割工程によって分割された光デバイスは、基板の側壁面に光を吸収して輝度の低下を招く変質物質が存在しないことに加え、粗面に加工されているので、光が効果的に放出され輝度が向上する。
【0012】
また、本発明によるレーザー加工装置は、集光器から照射されるレーザー光線の加工領域に被加工物にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成するエッチングガス雰囲気生成手段を備えているので、このエッチングガス雰囲気生成手段を作動して加工領域にエッチングガス雰囲気を生成することにより、レーザー光線の照射によってプラズマ化されたエッチングガスがレーザー光線の照射によって生成される変質物質をエッチング除去するため、壁面に変質物質が付着されないとともに、壁面が粗面に加工されたレーザー加工溝を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1のレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段の一実施形態を示す概略構成図。
【図3】本発明による光デバイスウエーハの加工方法に従って加工される光デバイスウエーハを示す斜視図および要部拡大断面図。
【図4】図3に示す光デバイスウエーハを環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程の説明図。
【図5】図1のレーザー加工装置を用いて実施する本発明による光デバイスウエーハの加工方法におけるレーザー加工溝形成工程の説明図。
【図6】本発明による光デバイスウエーハの加工方法におけるウエーハ分割工程を実施するためのウエーハ分割装置の斜視図。
【図7】本発明による光デバイスウエーハの加工方法におけるウエーハ分割工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による光デバイスウエーハの加工方法およびレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記矢印Xで示す加工送り方向と直交する矢印Yで示す割り出し方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0016】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上に矢印Xで示す方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上に矢印Xで示す方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持された支持テーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成され被加工物保持面361を備えており、該被加工物保持面361が図示しない吸引手段に連通されている。従って、チャックテーブル36上に被加工物としての後述する光デバイスウエーハを載置し、図示しない吸引手段を作動することによりチャックテーブル36上に後述する光デバイスウエーハを吸引保持する。また、チャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられるようになっている。
【0017】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面に矢印Yで示す割り出し方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第1の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられる。
【0018】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0019】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一側面に矢印Zで示す焦点位置調整方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿って矢印Yで示す割り出し方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ネジロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0020】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段52を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動可能に支持される。
【0021】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿って矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロッドを正転または逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段52を一対の案内レール423、423に沿って矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態における集光点位置調整手段53は、パルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段52を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段52を下方に移動するようになっている。
【0022】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射手段52は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング521を含んでいる。
このレーザー光線照射手段52について、図2を参照して説明する。
図2に示すレーザー光線照射手段52は、ケーシング521内に配設されたパルスレーザー光線発振手段522と、このパルスレーザー光線発振手段522が発振するパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射せしめる集光器523とを含んでいる。パルスレーザー光線発振手段522は、パルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備え、被加工物に対してアブレーション加工を施すパルスレーザー光線LBを発振する。
【0023】
図2を参照して説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー光線照射手段52を構成する集光器523は、パルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線を図2において下方即ちチャックテーブル36に向けて方向変換する方向変換ミラー523aと、該方向変換ミラー523aによって方向変換されたパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光レンズ523bとからなっている。
【0024】
図1に戻って説明を続けると、上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の前端部には、上記レーザー光線照射手段522によってレーザー加工すべき加工領域を検出するための撮像手段6が配設されている。この撮像手段6は、被加工物を照明する照明手段と、該照明手段によって照明された領域を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた像を撮像する撮像素子(CCD)等を備え、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0025】
図1を参照して説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、上記集光器523から照射されるレーザー光線の加工領域に被加工物にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成するエッチングガス雰囲気生成手段7を備えている。このエッチングガス雰囲気生成手段7は、上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の前端部に配設されたエッチングガス噴出ノズル71と、該エッチングガス噴出ノズル71から噴出するエッチングガスを収容したエッチングガスタンク72と、該エッチングガスタンク72に収容されたエッチングガスをエッチングガス噴出ノズル71に送給するポンプ73を具備している。エッチングガス噴出ノズル71は、上記集光器523から照射されるレーザー光線の加工領域に向けてエッチングガスを噴出する。上記エッチングガスタンク72内に収容されるエッチングガスとしては、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板や炭化珪素基板にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングすることができる3塩化ホウ素(BCl3)、塩素(Cl2)、ジクロロメタン(CH2 Cl2)、3塩化ホウ素(BCl3)と塩素(Cl2)の混合ガスや更にアニオン酸(Ar)やキセノン酸(Xe)を混合した混合ガス、CF4やSF等のフッ素系ハロゲンガスを用いることができる。なお、これらのエッチングガスは、サファイア基板や炭化珪素基板の表面に積層する光デバイス層としての発光層(エピ層)を形成する窒化ガリウム(GaN)にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質もエッチングすることができる。
【0026】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
図3の(a)および(b)には、本発明による光デバイスウエーハの加工方法に従って加工される光デバイスウエーハの斜視図および要部を拡大して示す断面図が示されている。図3の(a)および(b)に示す光デバイスウエーハ10は、例えば厚みが100μmのサファイア基板や炭化珪素基板等からなる基板100の表面100aに窒化物半導体からなる光デバイス層としての発光層(エピ層)110が5μmの厚みで積層されている。そして、発光層(エピ層)110が格子状に形成された複数のストリート120によって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイス130が形成されている。以下、上述したレーザー加工装置を用いて光デバイスウエーハ10の基板に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を基板の表面または裏面側からストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成工程について説明する。
【0027】
先ず、光デバイスウエーハ10を構成する基板100の裏面100bを環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち、図4の(a)および(b)に示すように、環状のフレームFの内側開口部を覆うように外周部が装着されたダイシングテープTの表面に上記光デバイスウエーハ10を構成する基板100の裏面100bを貼着する。
【0028】
上述したウエーハ支持工程を実施したならば、図1に示すレーザー加工装置1のチャックテーブル36上に光デバイスウエーハ10のダイシングテープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープTを介して光デバイスウエーハ10をチャックテーブル36上に吸引保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10は、基板100の表面100aに積層して形成された光デバイス層としての発光層(エピ層)110の表面110aが上側となる。
【0029】
上述したように光デバイスウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段6の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段6の直下に位置付けられると、撮像手段6および図示しない制御手段によって光デバイスウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段6および図示しない制御手段は、光デバイスウエーハ10の所定方向に形成されているストリート120と、ストリート120に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器523との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、光デバイスウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート120に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0030】
以上のようにしてチャックテーブル36上に保持された光デバイスウエーハ10に形成されているストリート120を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図5の(a)で示すようにチャックテーブル36をレーザー光線照射手段52の集光器523が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定のストリート120の一端(図5の(a)において左端)を集光器523の直下に位置付ける。そして、集光器523から照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを光デバイスウエーハ10を構成する光デバイス層としての発光層(エピ層)110の表面110a(上面)付近に位置付ける。
【0031】
次に、レーザー光線照射手段52を作動して集光器523から基板100に対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線LBを照射するとともに、上記エッチングガス雰囲気生成手段7を作動してエッチングガス噴出ノズル71から上述したエッチングガス70を噴出しつつチャックテーブル36を図5の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして、図5の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器523の照射位置がストリート120の他端(図5の(b)において右端)の位置に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル36の移動を停止する(レーザー加工溝形成工程)。このレーザー加工溝形成工程においては、エッチングガス雰囲気生成手段7を作動してエッチングガス噴出ノズル71から上述したエッチングガス70を噴出し、集光器523から照射されるレーザー光線の加工領域にレーザー光線の照射によって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成する。従って、光デバイスウエーハ10に照射されるパルスレーザー光線によってプラズマ化されたエッチングガスが光デバイスウエーハ10にパルスレーザー光線が照射されることによって生成される変質物質をエッチング除去する。この結果、光デバイスウエーハ10には、図5の(b)および図5の(c)に示すようにストリート120に沿って発光層(エピ層)110の表面110aから基板100に達するレーザー加工溝140が形成される。このレーザー加工溝140は、上述したように光デバイスウエーハ10にパルスレーザー光線が照射されることによって生成される変質物質がエッチング除去されているので、変質物質が壁面に付着されないとともに、壁面がエッチングによって粗面に形成される。なお、本発明者の実験によると、エッチングガスとしてCF4を用いることにより効果的にエッチングが遂行されることが確認された。
【0032】
上記レーザー加工溝形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
光源 :半導体励起固体レーザー(Nd:YAG)
波長 :355nmのパルスレーザー
平均出力 :3.5W
パルス幅 :180ns
繰り返し周波数 :100kHz
集光スポット径 :φ10μm
加工送り速度 :60mm/秒
レーザー加工溝の深さ :15μm
【0033】
以上のようにして、光デバイスウエーハ10の所定方向に延在する全てのストリート120に沿って上記レーザー加工溝形成工程を実施したならば、チャックテーブル36を90度回動せしめて、上記所定方向に対して直交する方向に形成された各ストリート120に沿って上記レーザー加工溝形成工程を実施する。
【0034】
上述したレーザー加工溝形成工程を実施したならば、光デバイスウエーハ10に外力を付与し、破断起点となるレーザー加工溝140が形成されたストリート120に沿って破断し、個々の光デバイスに分割するウエーハ分割工程を実施する。このウエーハ分割工程は、図6に示すウエーハ分割装置8を用いて実施する。図6に示すウエーハ分割装置8は、基台81と、該基台81上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された移動テーブル82を具備している。基台81は矩形状に形成され、その両側部上面には矢印Yで示す方向に2本の案内レール811、812が互いに平行に配設されている。この2本の案内レール811、812上に移動テーブル82が移動可能に配設されている。移動テーブル82は、移動手段83によって矢印Yで示す方向に移動せしめられる。移動テーブル82上には、上記環状のフレームFを保持するフレーム保持手段84が配設されている。フレーム保持手段84は、円筒状の本体841と、該本体841の上端に設けられた環状のフレーム保持部材842と、該フレーム保持部材842の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ843とからなっている。このように構成されたフレーム保持手段84は、フレーム保持部材842上に載置された環状のフレームFをクランプ843によって固定する。また、図6に示すウエーハ分割装置8は、上記フレーム保持手段84を回動せしめる回動手段85を具備している。この回動手段85は、上記移動テーブル82に配設されたパルスモータ851と、該パルスモータ851の回転軸に装着されたプーリ852と、該プーリ852と円筒状の本体841に捲回された無端ベルト853とからなっている。このように構成された回動手段85は、パルスモータ851を駆動することにより、プーリ852および無端ベルト853を介してフレーム保持手段84を回動せしめる。
【0035】
図6に示すウエーハ分割装置8は、上記環状のフレーム保持部材842に保持された環状のフレームFにダイシングテープTを介して支持されている光デバイスウエーハ10にストリート120と直交する方向に引張力を作用せしめる張力付与手段86を具備している。張力付与手段86は、環状のフレーム保持部材84内に配置されている。この張力付与手段86は、矢印Y方向と直交する方向に長い長方形の保持面を上面に備えた第1の吸引保持部材861と第2の吸引保持部材862を備えている。第1の吸引保持部材861には保持面に開口する複数の吸引孔861aが形成されており、第2の吸引保持部材862には保持面に開口する複数の吸引孔862aが形成されている。複数の吸引孔861aおよび862aは、図示しない吸引手段に連通されている。また、第1の吸引保持部材861と第2の吸引保持部材862は、図示しない移動手段によって矢印Y方向にそれぞれ移動せしめられるようになっている。
【0036】
図6に示すウエーハ分割装置8は、上記環状のフレーム保持部材842に保持された環状のフレームFにダイシングテープTを介して支持されている光デバイスウエーハ10のストリート120を検出するための検出手段87を具備している。検出手段87は、基台81に配設されたL字状の支持柱871に取り付けられている。この検出手段87は、光学系および撮像素子(CCD)等で構成されており、上記張力付与手段86の上方位置に配置されている。このように構成された検出手段87は、上記環状のフレーム保持部材842に保持された環状のフレームFにダイシングテープTを介して支持されている光デバイスウエーハ10のストリート120を撮像し、これを電気信号に変換して図示しない制御手段に送る。
【0037】
上述したウエーハ分割装置8を用いて実施するウエーハ破断について、図7を参照して説明する。
上述したレーザー加工溝形成工程が実施された光デバイスウエーハ10をダイシングテープTを介して支持する環状のフレームFを、図7の(a)に示すようにフレーム保持部材842上に載置し、クランプ843によってフレーム保持部材842に固定する。次に、移動手段83を作動して移動テーブル82を矢印Yで示す方向(図6参照)に移動し、図7の(a)に示すように光デバイスウエーハ10に所定方向に形成された1本のストリート120(図示の実施形態においては最左端のストリート)が張力付与手段86を構成する第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面との間に位置付ける。このとき、検出手段87によってストリート120を撮像し、第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面との位置合わせを行う。このようにして、1本のストリート120が第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面との間に位置付けられたならば、図示しない吸引手段を作動し吸引孔861aおよび862aに負圧を作用せしめることにより、第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面上にダイシングテープTを介して光デバイスウエーハ10を吸引保持する(保持工程)。
【0038】
上述した保持工程を実施したならば、張力付与手段86を構成する図示しない移動手段を作動し、第1の吸引保持部材861と第2の吸引保持部材862を図7の(b)に示すように互いに離反する方向に移動せしめる。この結果、第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面との間に位置付けられたストリート120には、ストリート120と直交する方向に引張力が作用し、光デバイスウエーハ10は表面に形成された破断起点となるレーザー加工溝140が破断の起点となってストリート120に沿って破断される(破断工程)。この破断工程を実施することにより、ダイシングテープTは僅かに伸びる。この破断工程においては、光デバイスウエーハ10はストリート120に沿ってレーザー加工溝140が形成され強度が低下せしめられているので、第1の吸引保持部材861と第2の吸引保持部材862を互いに離反する方向に0.5mm程度移動することにより、光デバイスウエーハ10に形成されたレーザー加工溝140が破断の起点となってストリート120に沿って破断することができる。
【0039】
上述したように所定方向に形成された1本のストリート120に沿って破断する破断工程を実施したならば、上述した第1の吸引保持部材861および第2の吸引保持部材862による光デバイスウエーハ10の吸引保持を解除する。次に、移動手段83を作動して移動テーブル82を矢印Yで示す方向(図6参照)にストリート120の間隔に相当する分だけ移動し、上記破断工程を実施したストリート120の隣のストリート120が張力付与手段86を構成する第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面との間に位置付ける。そして、上記保持工程および破断工程を実施する。
【0040】
以上のようにして、所定方向に形成された全てのストリート120に対して上記保持工程および破断工程を実施したならば、回動手段85を作動してフレーム保持手段84を90度回動せしめる。この結果、フレーム保持手段84のフレーム保持部材842に保持された光デバイスウエーハ10も90度回動することになり、所定方向に形成され上記破断工程が実施されたストリート120と直交する方向に形成されたストリート120が第1の吸引保持部材861の保持面と第2の吸引保持部材862の保持面と平行な状態に位置付けられる。次に、上記破断工程が実施されたストリート120と直交する方向に形成された全てのストリート120に対して上述し保持工程および破断工程を実施することにより、光デバイスウエーハ10はストリート120に沿って個々のデバイス130に分割される(ウエーハ分割工程)。
【0041】
上述した実施形態においては、光デバイスウエーハ10を構成する基板100の表面に積層された光デバイス層としての発光層(エピ層)110の表面に基板100に達する破断起点となるレーザー加工溝140を形成するレーザー加工溝形成工程を実施する際には、上記エッチングガス雰囲気生成手段7を作動してエッチングガス噴出ノズル71から上述したエッチングガス70を噴出し、集光器523から照射されるレーザー光線の加工領域に光デバイスウエーハ10にレーザー光線の照射によって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成する。従って、光デバイスウエーハ10に照射されるパルスレーザー光線によってプラズマ化されたエッチングガスが光デバイスウエーハ10にパルスレーザー光線が照射されることによって生成される変質物質をエッチング除去するため、光デバイスウエーハ10に形成されるレーザー加工溝140の壁面には変質物質が付着されないとともに、レーザー加工溝140の壁面がエッチングによって粗面に形成される。このため、光デバイスウエーハ10が上述したように分割された光デバイス130は、基板100の側壁面に光を吸収して輝度の低下を招く変質物質が存在しないことに加え、粗面に加工されているので、光が効果的に放出され輝度が向上する。
【0042】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。例えば、上述した実施形態においては、レーザー加工溝形成工程は光デバイスウエーハ10を構成する基板100の表面に積層された光デバイス層としての発光層(エピ層)110の表面側からストリート120に沿ってレーザー光線を照射し、光デバイスウエーハ10の表面に基板100に達する破断起点となるレーザー加工溝140を形成した例を示したが、レーザー加工溝形成工程は光デバイスウエーハ10を構成する基板100の裏面側からストリート120に沿ってレーザー光線を照射し、基板100の裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1:レーザー加工装置
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
52:レーザー光線照射手段
522:パルスレーザー光線発振手段
523:集光器
53:集光点位置調整手段
6:撮像手段
7:エッチングガス雰囲気生成手段
71:エッチングガス噴出ノズル
72:エッチングガスタンク
8:ウエーハ分割装置
81:基台
82:移動テーブル
83:移動手段
84:フレーム保持手段
85:回動手段
86:張力付与手段
87:検出手段
10:光デバイスウエーハ
100:基板
110:光デバイス層としての発光層(エピ層)
F:環状のフレーム
T:ダイシングテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に光デバイスが形成された光デバイスウエーハを、ストリートに沿って個々の光デバイスに分割する光デバイスウエーハの加工方法であって、
光デバイスウエーハの基板に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を基板の表面または裏面側からストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成工程と、
光デバイスウエーハに外力を付与し、光デバイスウエーハを破断起点となるレーザー加工溝に沿って破断し、個々の光デバイスに分割するウエーハ分割工程と、を含み、
該レーザー加工溝形成工程を実施する際には、レーザー光線が照射される領域を含み基板にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成し、レーザー光線の照射によってプラズマ化されたエッチングガスが基台にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチング除去する、
ことを特徴とする光デバイスウエーハの加工方法。
【請求項2】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを加工送り方向に相対的に加工送りする加工送り手段と、該加工送り方向に対して直交する割り出し送り方向に割り出し送りする割り出し送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
レーザー光線照射手段は、被加工物に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を発振するレーザー光線発振器と、該レーザー光線発振器によって発振されたレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えており、
該集光器から照射されるレーザー光線の加工領域に被加工物にレーザー光線を照射することによって生成される変質物質をエッチングするためのエッチングガス雰囲気を生成するエッチングガス雰囲気生成手段を備えている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−224931(P2011−224931A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99143(P2010−99143)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】