説明

光ファイバセンサケーブル

【課題】正確な水圧値を測定できる低コストな分布型光ファイバセンサケーブルの提供。
【解決手段】可撓性材料からなる管状の中コアと、該中コアの外周に螺旋巻きされた水圧測定用光ファイバと、前記中コアの肉厚内に埋設配置された長手方向歪計測用光ファイバと、前記中コアの管内に配設された開口部付き金属パイプと、該開口部付き金属パイプの管内に抗張力繊維とともにルースに配設された温度補償用光ファイバと、前記中コアの外周及び水圧測定用光ファイバとを覆う外被とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧の変化を高分解能BOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)によるブリルアン散乱光の周波数シフト量から歪変化として検知し、水圧分布の異常を検出する光ファイバセンサーケーブルに関する。本発明の光ファイバセンサケーブルは、水圧、長手方向の歪、温度の分布を一度に計測可能とする構造を有することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
従来、水圧や油圧などを検知するためのセンサとして、電気式、あるいは光ファイバの一部を加工して特定の位置を検知する多点型センサが用いられていた。しかし、この種の従来型センサは、センサ部分と計測器との接続ケーブルから構成され、広範囲を測定するにはセンサ部分を数多く準備する必要があり、コストが高くなる。また、予め設置した場所以外の水圧等を測定することは不可能であり、設置にあたり綿密な計画が必要である。また、電気式のみならず、光ファイバ多点型センサにおいても、センサ部は強度、機能の面から金属部品が用いられているため、電気的なノイズの影響を受ける。さらに、電気式センサは耐用年数が短く、5年を超える長期のモニタリングには適さない。
【0003】
一方、センサ部に光ファイバを用いて連続的に水圧、油圧など圧力を検知可能な分布型光ファイバセンサは、前述した従来型センサの問題を解消できることから、その実用化に向けて開発が進められている。従来、この分布型の光ファイバセンサとしては、例えば、特許文献1〜6に開示された技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、中空パイプ肉厚内部の、内層に2本のファイバを螺旋巻きして固定し、さらに外層に別の2本の光ファイバを螺旋巻きして固定することで、圧力・温度・歪を検知する光ファイバセンサが開示されている。
【0005】
特許文献2には、圧力検知用光ファイバをマンドレル外周面に螺旋巻きしてセンシングコイルとし、一方、温度補償用の参照光ファイバを溝内にルースに収容することで、測定値を温度補正して正確な圧力を得る光ファイバセンサが開示されている。
【0006】
特許文献3には、温度補償用光ファイバを内層中空パイプ内にルースに収容し、歪(伸び)検知用光ファイバを内層パイプと外層パイプの間に樹脂で固着することで、温度補正した正確な歪(伸び)を測定し得る光ファイバセンサが開示されている。
【0007】
特許文献4には、ブリルアン散乱光の周波数シフトから歪(伸び)を検知するシステムで、温度補正することが開示されている。
【0008】
特許文献5には、中空パイプ内に通信用光ファイバをルースに収納し、中空パイプ外周上に圧力検出用光ファイバを螺旋巻きした構造が開示されている。
【0009】
特許文献6には、パイプの外周上あるいは肉厚内部に、パイプ長手方向に歪(伸び)検知用光ファイバを固着埋設し、一方、温度補償用光ファイバをチューブにルースに収容してパイプ長手方向に固着埋設した光ファイバセンサが開示されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0071158号明細書
【特許文献2】米国特許第5475216号明細書
【特許文献3】米国特許第5094527号明細書
【特許文献4】特開平11−173943号公報
【特許文献5】特開平6−43056号公報
【特許文献6】特開2002−156215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題があった。
特許文献1に開示された光ファイバセンサは、すべての光ファイバが螺旋巻きされた構造であるため、径方向、軸方向、捻りの応力と温度の2つ以上の因子が同時に働いて変数が2つ以上になった場合、螺旋巻きされた光ファイバから得られる情報は1つ(対抗巻きの場合は2つ)であるため、どの因子が働いた圧力値であるかが不明であり、正確な圧力値を検知することができない。
【0011】
特許文献2に開示された光ファイバセンサは、密巻きしたセンシング部分を長手方向に間欠的に設置したものであって、構造的にはポイント型センサを数珠繋ぎにした多点型圧力センサであり、従って、長手方向に沿った連続的なセンシングはできない。
【0012】
特許文献3に開示された光ファイバセンサは、光ファイバに応力が働かないように挿入して温度補償ファイバとしているが、筐体に接着せずに挿入するだけでは、温度補償ファイバの機能を果たすことはできず、必ずファイバ余長が必要であり、余長を確保するための手段(撚り合わせ、間欠固定など)が必要となる。
【0013】
特許文献4に開示された光ファイバセンサは、歪の印加された光ファイバ(歪計測用ファイバ)と、印加されない光ファイバ(温度補償用ファイバ)の対比により温度補正を行う構成であるが、歪の印加されたファイバ(歪計測用ファイバ)と、印加されないファイバ(温度補償用ファイバ)の対比により温度補償を行うことから、根本的に温度補償の手法が異なる。
【0014】
特許文献5に開示された光ファイバセンサは、特許文献1のセンサと同様に、光ファイバを螺旋巻きにしただけでは、径方向、軸方向、捻りの応力と温度の2つ以上の因子が同時に働いて変数が2つ以上になった場合、どの因子が働いた圧力値であるかが不明であり、正確な圧力値を検知することができない。
【0015】
特許文献6に開示された光ファイバセンサは、温度補償用光ファイバをチューブにルースに収容してだけでは温度補償用として十分に機能させることが難しく、温度補償を行うには、ファイバ余長が必要であり、余長を確保するための手段(撚り合わせ、間欠固定など)が必要となる。
【0016】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、正確な水圧値を測定できる低コストな分布型の光ファイバセンサケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、本発明は、可撓管からなる中コアと、該中コアの外周に螺旋巻きされた水圧測定用光ファイバと、前記中コアの肉厚内に埋設配置された長手方向歪計測用光ファイバと、前記中コアの管内に配設された開口部付き金属パイプと、該開口部付き金属パイプの管内に抗張力繊維とともにルースに配設された温度補償用光ファイバと、前記中コアの外周及び水圧測定用光ファイバとを覆う外被とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブルを提供する。
【0018】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、前記開口部付き金属パイプは、断面C字状の金属パイプ又は一対の半割金属パイプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光ファイバセンサケーブルは、中コアの管内に、開口部付き金属パイプを介して温度補償用光ファイバをルースに収納し、中コア肉厚内に軸方向歪補償用光ファイバを埋設し、且つ中コアの外周に圧力計測用光ファイバを螺旋巻きにした構成なので、圧力計測用光ファイバによって測定された圧力(歪)を、軸方向歪補償用光ファイバにより測定されたセンサ軸方向の歪と温度補償用光ファイバにより測定された温度変化に起因した歪とによって補正することで、センサに加わる正確な圧力値を、センサ長手方向にわたって連続的に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の光ファイバセンサケーブルの実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第1実施形態を示す図であり、図1は光ファイバセンサケーブル1の斜視図、図2は断面図である。これらの図中、符号1は光ファイバ圧力センサケーブル、2は中コア、3は外被、4は水圧測定用光ファイバ、5は長手方向歪補償用光ファイバ、6は温度補償用光ファイバ、7は開口部付き金属パイプ、8は開口部、9は抗張力繊維である。
【0021】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル1は、可撓管からなる中コア2と、中コア2の外周に螺旋巻きされた水圧測定用光ファイバ4と、中コア2の肉厚内に埋設配置された長手方向歪計測用光ファイバ5と、中コア2の管内に配設された開口部付き金属パイプ7と、この開口部付き金属パイプ7の管内に抗張力繊維9とともにルースに配設された温度補償用光ファイバ6と、中コア2の外周及び水圧測定用光ファイバ4とを覆う外被3とから構成されている。
【0022】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル1(以下、ケーブルと略記する場合がある。)は、円管状をなす中コア2の外周に、水圧測定用光ファイバ4を螺旋巻きにし、中コア2と一体化している。
【0023】
中コア2の管内には、開口部付き金属パイプ7が収納され、この開口部付き金属パイプ7内には、抗張力繊維9の周りを撚り合わせ、または縦添え状態で温度補償用光ファイバ6がルースに収容されている。
【0024】
光ファイバは環境温度の影響を受けるため、温度補償用光ファイバ6は、中コア2の管内に固定しないで配置する。このケーブル1が軸方向に張力を受けても影響を受けないように、抗張力繊維9の周りに温度補償用光ファイバ6を撚ることによって余長を確保し、かつ振動、自重などにより光ファイバが移動しない構造となっている。
【0025】
中コア2の肉厚内には、ケーブル1を垂直方向に配置して自重の影響などにより軸方向に張力を受けた場合の補償を行うため、長手方向歪計測用光ファイバ5を配置する。
【0026】
外被3は、中コア2と同じようにプラスチック樹脂を用いている。この外被3は、光ファイバセンサケーブル1の外側から印加された水圧を水圧測定用光ファイバ4に直接伝えることができ、且つ外被3内への水の浸透を防ぐことができる程度の厚さに形成されている。
【0027】
中コア2の管内に配置した開口部付き金属パイプ7は、抗張力体の役割を果たし、温度変化による外被3の伸縮に起因する歪が長手方向歪計測用光ファイバ5に加わることを抑制する。また、開口部8が付いていることで、接続作業時において、開口部8よりファイバを引き出すだけで容易に口出し可能である。口出しのために金属製のパイプをわざわざ加工する必要はない。
【0028】
更に、この開口部付き金属パイプ7は、プロテクターの役割も果たし、ケーブル軸方向に加わる水圧が温度補償用ファイバ6へ印加されることを防ぐことが可能となる。
【0029】
温度補償用光ファイバ6には、圧力、張力等による歪が印加されず、温度変化に起因するブリルアンシフト量のみを歪量として検出し、その変化量によって温度情報を分布的に得ることが可能となる。
【0030】
中コア2内に配置した開口部付き金属パイプ7には、介在を横巻きあるいは縦添えすることで抑え巻きを行っている。このため、開口部8よりファイバが飛び出すことや、中コア2が変形し、その材料がパイプ内部へ侵入するのを防ぐことができ、例えば、ファイバが曲がることによるロス増を防ぐことが可能である。
【0031】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル1は、圧力が加わると軸方向および長手方向に圧縮応力を受ける。水圧測定用光ファイバ4は、中コア2と一体化しているため、一緒に圧縮応力(圧縮歪)を受ける。その圧縮応力を高分解能BOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)によるブリルアン散乱光の周波数シフト量から歪変化として検知する。水圧測定用光ファイバ4で検知した歪は、温度、軸方向の歪も含む。その影響を排除するため、長手方向歪計測用光ファイバ5及び温度補償用光ファイバ6から得られた歪を差し引いて、水圧による正確な歪量を得る。
【0032】
次に、本実施形態の光ファイバセンサケーブル1による歪検知の原理を説明する。
図4は、光ファイバセンサケーブル1の歪検知の原理を説明する断面図である。ここで、中コア内半径をa、中コア外半径をr、センサ最外径をbとする。
【0033】
(1)平面ひずみ状態
三次元軸対象問題の平衡方程式を積分することにより、応力・歪分布が得られる。
【0034】
応力は、下式(1)〜(3)で求められる。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

【0037】
【数3】

【0038】
歪は、下式(4)〜(6)で求められる。
【0039】
【数4】

【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
光ファイバで計測される歪は、下式(7)〜(8)で求められる。
【0043】
【数7】

【0044】
【数8】

【0045】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル1は、ケーブル全体が水圧(圧力)センサの役割を持っているため、ケーブルが布設された場所全ての水圧(圧力)を分布的に検出することが可能である。
【0046】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル1は、図1及び図2に示す構成としたことにより、ケーブル自重による歪と水圧による歪と温度変化に起因した歪とを切り分けて測定することが可能となり、水圧測定用光ファイバ4で検知した歪から、長手方向歪計測用光ファイバ5及び温度補償用光ファイバ6から得られた歪を差し引くことで、水圧による歪量を正確に検知することができる。
【0047】
なお、本実施形態の光ファイバセンサケーブル1において、温度補償用光ファイバ6は、金属テープのフォーミングによるチューブ内に縦添えすることでケーブルの伸びや水圧による影響を受けないようにルース構造とし、抗張力繊維9、例えばアラミド繊維を配することで心線移動による位置情報のズレを防ぐことができる。
また、前記チューブ化に使用した金属テープは、水分の存在による錆の発生を防ぐため、ステンレス製テープを用いることが好ましい。さたに、ステンレスに限らず、防錆加工を施してある金属であれば構わない。
また、各歪計測用ファイバ本数は、1本に限らず、少なくとも1本以上あればよい。
また、計測用の光ファイバが目的とする水圧に起因する歪変化量を十分に検知可能とさせるため、外被3の材料の弾性率は中コア2の材料の弾性率よりも低い方が望ましい。具体的な材料としては、例えば、中コア2にポリウレタン、外被3に熱可塑性エラストマー(ハイトレル(登録商標)など)を例示できるが、条件を満たせば、同種材料同士の組み合わせでも構わない。
【0048】
図5及び図6は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第2実施形態を示す図であり、図5は光ファイバセンサケーブル10の斜視図、図6は断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、開口部付き金属パイプ7に代えて半割金属パイプ11を用いたこと以外は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル1と同じであり、同一の構成要素には同一符号を附してある。
【0049】
前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル1では、図3(a)に示すように、断面C字状の開口部付き金属パイプ7を中コア2の管内に配置したが、本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、図3(b)に示すように、断面円弧状の2個一対の分割片12a,12bからなる半割金属パイプ11を用いている。
【0050】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、図3(b)に示す半割金属パイプ11内に、温度補償用光ファイバ6を抗張力繊維9の周りに撚り合わせ、または縦添えして、パイプの中から介在を横巻きあるいは縦添えさせた上からプラスチック樹脂を被せて中コア2を構成している。さらに、この中コア2の外周に、水圧測定用光ファイバ4を螺旋状に巻いて中コア2と一体化させ、この上からプラスチック樹脂の外被3を被せてケーブル化している。
【0051】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、ケーブル自重による歪と水圧による歪と温度変化に起因した歪とを切り分けて測定することが可能となり、水圧測定用光ファイバ4で検知した歪から、長手方向歪計測用光ファイバ5及び温度補償用光ファイバ6から得られた歪を差し引くことで、水圧による歪量を正確に検知することができるなど、第1実施形態の光ファイバセンサケーブル1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、本発明の光ファイバセンサケーブルは、水圧の測定以外にも、圧力の分布を測定する必要がある場所について応用が可能である。たとえばあるエリアに均一に圧力がかかっているか、気体や液体の分布を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の光ファイバセンサケーブルの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態の光ファイバセンサケーブルの断面図である。
【図3】開口部付き金属パイプを例示する図であり、(a)は第1実施形態に用いた開口部付き金属パイプの斜視図、(b)は第2実施形態に用いた半割金属パイプの斜視図である。
【図4】本発明に係る光ファイバセンサケーブルの歪検知の原理を説明する断面図である。
【図5】本発明の光ファイバセンサケーブルの第2実施形態を示す斜視図である。
【図6】第2実施形態の光ファイバセンサケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1,10…光ファイバ圧力センサケーブル、2…中コア、3…外被、4…水圧測定用光ファイバ、5…長手方向歪補償用光ファイバ、6…温度補償用光ファイバ、7…開口部付き金属パイプ、8…開口部、9…抗張力繊維、11…半割金属パイプ、12a,12b…分割片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓管からなる中コアと、該中コアの外周に螺旋巻きされた水圧測定用光ファイバと、前記中コアの肉厚内に埋設配置された長手方向歪計測用光ファイバと、前記中コアの管内に配設された開口部付き金属パイプと、該開口部付き金属パイプの管内に抗張力繊維とともにルースに配設された温度補償用光ファイバと、前記中コアの外周及び水圧測定用光ファイバとを覆う外被とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブル。
【請求項2】
前記開口部付き金属パイプが、断面C字状の金属パイプ又は一対の半割金属パイプであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−175560(P2008−175560A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6897(P2007−6897)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(303021609)ニューブレクス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】