説明

光ファイバ分布型センサ装置

【課題】空間分解能を維持したまま測定距離や測定範囲、ダイナミックレンジを拡大することが可能な光ファイバ分布型センサ装置の提供。
【解決手段】光ファイバをセンシング媒体とする光ファイバ分布型センサであって、前記センシング媒体の光ファイバは、誘導ラマン散乱により発生するストークス光の波長の透過損失が、入射光やその他の散乱光の波長の透過損失に対して大きくなっていることを特徴とする光ファイバ分布型センサ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ分布用センサの測定距離及び測定範囲、空間分解能、ダイナミックレンジの拡大に関する。本発明の光ファイバ分布型センサ装置は、歪分布測定や温度分布測定などに用いられる。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する従来技術としては、例えば、非特許文献1及び特許文献1が挙げられる。
非特許文献1には、ラマン散乱光のパワーが温度に依存することを利用した光ファイバによる分布型温度センサが開示されている。
特許文献1には、誘導ラマン散乱による変化を測定に利用することで分布測定の性能を改善する方法が開示されている。
【非特許文献1】Huai Hoo Kee, G. P. Lees and T. P. Newson,“1.65um Raman-based distributed temperature sensor”Electronics Letters, 1999, Vol. 35, No. 21, pp.1869-1871
【特許文献1】特表2006−517677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光ファイバに光を入射すると、光ファイバの各点において、レーリー散乱、ブリリュアン散乱、ラマン散乱などが生じる。これらの散乱により生じる散乱光は、光ファイバの特性(損失特性)や光ファイバに加わる物理量(温度や歪など)、光ファイバ周辺で生じる物理量により、パワーや周波数などの特性が変化する。OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)などの位置分解する手法を用いて、各点の散乱光の変化を観測することで光ファイバに沿って分布的に測定・センシングすることができる。しかし、光ファイバには損失がある(通常のシングルモードファイバでは波長1.55μmで約0.2dB/km)ため、この損失と入射光パワー、システムのダイナミックレンジの関係で測定できる範囲が制限されることになる。特に、ラマン散乱のアンチストークス光を用いた光ファイバ分布型温度センサでは、アンチストークス光のパワーが低いので、測定範囲が非常に制限される問題がある。
【0004】
測定範囲を拡大するためには、入射光パワーを上げる方法が考えられるが、1W以上の高いパワーの入射光を光ファイバに入射すると、光ファイバの非線型現象、特に誘導ラマン散乱が光ファイバ内で起こり、入射光の大部分が長波長側にシフトしたストークス光に変換され、逆に入射光が弱まることになる。
【0005】
本発明者が行った先行技術文献の調査では、この光ファイバ分布型センサにおける誘導ラマン散乱による入射光パワーの減少という問題について、通常のシングルモードファイバの特性を満たしながら、光ファイバ自体を工夫して解決するという手法は見つからなかった。
【0006】
それ以外の問題解決方法として、入射光がファイバ中で誘導ラマン散乱により長波長のストークス光に変換されると、そこから先ではストークス光を入射光としてさらにセンシングすることで、測定範囲を拡大する手法がある。しかし、この方法では長手方向で入射光の波長が変換されることになるので、観測する散乱光も波長が変化することになり、受光側では多くの光フィルタが必要となる。また誘導ラマン散乱による入射光からストークス光の変換も長手方向に緩やかに変化するため、その区間では測定不能になる。それを回避するために、入射光パワーを変化させて測定不能区間をずらす方法があるが、この場合には入射光パワーを調節する必要がある。
【0007】
このように、非特許文献1に開示されているように、測定範囲を拡大するために入射光パワーを上げても、誘導ラマン散乱により制限され、その目的を達成することが困難であった。
また、特許文献1に開示されているように、誘導ラマン散乱により生じるストークス光を利用する場合には、入射光の調節が必要になり、受光部が複雑な構成となるため、装置コストが増大してしまう問題がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、空間分解能を維持したまま測定距離や測定範囲、ダイナミックレンジを拡大することが可能な光ファイバ分布型センサ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバをセンシング媒体とする光ファイバ分布型センサであって、前記センシング媒体の光ファイバは、誘導ラマン散乱により発生するストークス光の波長の透過損失が、入射光やその他の散乱光の波長の透過損失に対して大きくなっていることを特徴とする光ファイバ分布型センサ装置を提供する。
【0010】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置において、前記センシング媒体の光ファイバの片端から光を入れてセンシングすることが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置において、前記センシング媒体の光ファイバの両端から光を入れてセンシングする構成としてもよい。
【0012】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置において、前記センシング媒体の光ファイバとしてフォトニックバンドギャップファイバを用いていることが好ましい。
【0013】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置において、前記センシング媒体に入射する光がパルス光であることが好ましい。
【0014】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置は、分布的に温度又は歪みを測定するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ファイバ分布型センサ装置は、センシング媒体となる光ファイバとして、誘導ラマン散乱を抑圧するフォトニックバンドギャップファイバを用いることで、より高いパワーの光をファイバに入射することができるようになる。その結果光ファイバが分布型センサにおいて、空間分解能を維持したまま測定距離や測定範囲、ダイナミックレンジを拡大する効果がある。
また、本発明ではフォトニックバンドギャップファイバがストークス光の発生自体を抑圧するため、信号となる散乱光の信号対雑音比が向上するという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、適切に設計されたフォトニックバンドギャップファイバを光ファイバ分布型センサ装置のセンシング用ファイバに用いることにした。フォトニックバンドギャップファイバの構造の一例を図1に、損失波長特性の一例を図2に示す。この。フォトニックバンドギャップファイバは、コア11を囲むクラッド13のコア11に近い領域に、コア11を囲む周期構造を形成する多数の高屈折率部12を設けた構造になっている。
【0017】
このフォトニックバンドギャップファイバでは、ラマン散乱のストークス光の波長に選択的に損失を与えることができるため、センシングに影響することなく誘導ラマン散乱を抑圧できる。
【実施例1】
【0018】
図3は、本発明の実施例1として、片端より光を入射してセンシングするタイプの光ファイバ分布型センサ装置の構成図である。図3中、符号31はパルス光源、32は光分波器、33はセンサ用光ファイバ、34は光フィルタ、35はフォトディテクタ、36は信号処理部である。
【0019】
パルス光源31から出たパルス光は、光分波器32を通してセンサ用光ファイバ33に入射される。入射光は、センサ用光ファイバ33内の各点で散乱される。後方散乱された光は、再び光分波器32を通り、光フィルタ34により必要となる散乱(レーリー散乱又はブリリュアン散乱又はラマン散乱)の散乱光を抜き出し、フォトディテクタ35で受光する。信号処理部36では、フォトディテクタ35から電気信号を、センサ用光ファイバ33に沿った物理量の分布に変換する。
【0020】
センサ用光ファイバ33として、図1に示すフォトニックバンドギャップファイバを用いた実施例と、通常のシングルモードファイバを用いた従来構造(比較例)との比較を行った。パルス光源31からは波長が1550nmで、パルス幅50nsecのパルス光が出力されている。センシング用ファイバ33として通常のシングルモードファイバを用いた比較例では、ピークパワーを1W、誘導ラマン散乱を抑制するフォトニックバンドギャップファイバを用いた場合にはピークパワーを2Wとして用いた。用いたフォトニックバンドギャップファイバは、波長1550nmではシングルモードファイバとほぼ同じ透過損失0.2dB/kmであるが、ストークス光の波長では6dB/kmの透過損失になっている。今回は光ファイバ分布型温度センサを想定して、光フィルタ34は透過波長がラマン散乱のアンチストークス光の波長である1450nm付近となっている。
【0021】
実験の結果を図4に記す。図4から、通常のシングルモードファイバを用いた比較例では、測定範囲が約10kmであるのに対して、フォトニックバンドギャップファイバを用いた実施例では、その2倍の約20kmに測定範囲を拡大できることが確認できた。より測定範囲を拡大するためには、ストークス光の波長での透過損失を大きくする必要がある。
【0022】
また、図4中の符号41(比較例)及び42(実施例)で示す領域のノイズの大きさの比較から、フォトニックバンドギャップファイバがストークス光の発生も抑圧するために、比較例に比べ手実施例ではアンチストークス光の信号対雑音比が向上される効果があることもわかった。
【実施例2】
【0023】
図5は、本発明の実施例2として、両端より光を入射してセンシングするタイプの光ファイバ分布型センサ装置の構成図である。図3中、符号51はパルス光源、52は光アイソレータ、53は光分波器、54はセンサ用光ファイバ、55は光源、56は光アイソレータ、57はフォトディテクタ、58は信号処理部である。
【0024】
パルス光源51から出たパルス光は、光アイソレータ52を通り、光分波器53からセンシング用光ファイバ54に入射される。一方で光源55から出た光(プローブ光)は、光アイソレータ56を通って逆端からセンシング用光ファイバ54に入射される。このとき、ポンプ光とプローブ光が対向伝播することで誘導散乱が起こり、プローブ光は、センシング用光ファイバ54中で増幅される。増幅されたプローブ光は、光分波器53を通り、フォトディテクタ57で受光され電気信号に変換される。電気信号は、信号処理部58で信号処理され、光ファイバに沿った物理量の分布となる。この実施例でも前記実施例1と同様に、54のセンシング用光ファイバに誘導ラマン光を入射することができるようになり、測定範囲を拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の光ファイバ分布型センサ装置においてセンシング媒体の光ファイバとして好適なフォトニックバンドギャップファイバの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示すフォトニックバンドギャップファイバの損失の波長依存性を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1として、片端より光を入射してセンシングするタイプの光ファイバ分布型センサ装置の構成図である。
【図4】図3の装置で行った実施例と比較例との比較実験の結果を示すアンチストークス光の発生量の分布図である。
【図5】本発明の実施例2として、両端より光を入射してセンシングするタイプの光ファイバ分布型センサ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0026】
11…コア、12…高屈折率部、13…クラッド、31…パルス光源、32…光分波器、33…センサ用光ファイバ、34…光フィルタ、35…フォトディテクタ、36…信号処理部、51…パルス光源、52…光アイソレータ、53…光分波器、54…センサ用光ファイバ、55…光源、56…光アイソレータ、57…フォトディテクタ、58…信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバをセンシング媒体とする光ファイバ分布型センサであって、前記センシング媒体の光ファイバは、誘導ラマン散乱により発生するストークス光の波長の透過損失が、入射光やその他の散乱光の波長の透過損失に対して大きくなっていることを特徴とする光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項2】
前記センシング媒体の光ファイバの片端から光を入れてセンシングすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項3】
前記センシング媒体の光ファイバの両端から光を入れてセンシングすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項4】
前記センシング媒体の光ファイバとしてフォトニックバンドギャップファイバを用いていることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項5】
前記センシング媒体の光ファイバとしてフォトニックバンドギャップファイバを用いていることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項6】
前記センシング媒体に入射する光がパルス光であることを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項7】
前記センシング媒体に入射する光がパルス光であることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項8】
分布的に温度を測定することを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項9】
分布的に温度を測定することを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項10】
分布的に歪みを測定することを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ分布型センサ装置。
【請求項11】
分布的に歪みを測定することを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ分布型センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−198423(P2009−198423A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42570(P2008−42570)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】