説明

光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物

【課題】340℃以下の焼成温度であっても、1.49μmにおける光吸収および1.35μmから可視光までの光吸収を低減させることのできる化合物を見出し、この化合物を含む光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】焼成工程でフッ素化ポリイミド膜を得るために用いられ、フッ素化ポリアミド酸と、沸点が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物(A)とを含む光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるポリイミド膜(フィルムも含む;以下同じ)を作製することができるフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、特に1.49μmでの光損失および1.35μm以下での光損失が小さいフッ素化ポリイミド膜を作製することができる光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素化ポリイミド、例えば、炭素−水素結合(C−H結合)の代わりに炭素−フッ素結合(C−F結合)のみを含む繰り返し単位から構成される全フッ素化ポリイミドが光学材料として有用であることが知られている(特許文献1など)。この全フッ素化ポリイミドは、光電子集積回路を作製するのに充分な耐熱性を有し、近赤外域光、特に光通信波長域における光損失が少ないため、注目されている。
【0003】
光電子集積回路は、光導波路装置を有することが必要であるが、フッ素化ポリイミドを用いて光導波路装置を製造するには、フッ素化ポリイミドの前駆体であるフッ素化ポリアミド酸ワニスを基板上に塗布し焼成する方法が採られている。
【0004】
ところで、次世代FTTH(Fiber to the Home)には、ITU−T勧告G.983.1として標準化されているB−PON(Broadband Passive Optical Network)方式が有力視され、既存のA−PON(Asynchronous Transfer Mode Passive Optical Network)からの移行が進行している。A−PON式の場合、上り波長として1.31μm、下り波長として1.55μmが使用されており、フッ素化ポリイミド膜は、この二つの波長における光損失が少ないため、光学材料として有用であった。
【0005】
他方、B−PON方式では下りの通信波長として1.49μmが用いられることになっており、本発明者らの検討によれば、部分フッ素化ポリイミド膜はもとより、全フッ素化ポリイミド膜においても、1.49μmでの光吸収が認められた。本発明者らが検討を続けたところ、これは300℃前後の焼成時に生じてくる光吸収ピークであるが、ポリアミド酸の焼成工程の最高温度を340℃を超える温度に高めると、このピークが小さくなることがわかった。しかし、焼成温度を高くすると、ポリイミド膜の着色が強くなって1.35μm以下の波長での光損失が増大するという問題と、基板との線熱膨張係数の違いから焼成後のポリイミド膜に生じる残留応力が増大し、その後の導波路製造工程が難しくなるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−269591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した状況下、本発明が解決すべき課題は、340℃以下の焼成温度であっても、1.49μmでの光損失および1.35μm以下での光損失が小さいフッ素化ポリイミド膜を作製することができる光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、340℃以下の焼成温度であっても、1.49μmにおける光吸収および1.35μmから可視光までの光吸収を低減させることができる化合物を見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、焼成工程でフッ素化ポリイミド膜を得るために用いられ、フッ素化ポリアミド酸と、沸点が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物(A)とを含むことを特徴とする光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を提供する。
【0009】
本発明の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物において、前記化合物(A)は、好ましくは、芳香環を2個以上有する化合物であり、より好ましくは、下記式(1):
【0010】
【化1】

[式中、Zは、互いに独立して、下記式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Zは2価の有機基または直接結合を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、rおよびnは、互いに独立して、0〜5のいずれかの整数を表し、r+nは0〜5である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す)
で示される基を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、pは1〜6の整数を表し、qおよびmは、互いに独立して、0〜5のいずれかの整数を表し、p+q+mは1〜6である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す]
示される化合物である。また、前記フッ素化ポリアミド酸は、好ましくは、全フッ素化ポリアミド酸である。
【0013】
また、本発明は、全フッ素化ポリアミド酸と前記化合物(A)とを含む光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物から得られ、Y値が15以下であることを特徴とする光学材料用フッ素化ポリイミド膜、ならびに、波長1.49μmでの光損失が0.42dB/cm以下であり、かつ波長0.85μmでの光損失が1.6dB/cm以下である光学材料用フッ素化ポリイミド膜を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、これらの光学材料用フッ素化ポリイミド膜のいずれかを備える光導波路装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリアミド酸がイミド化する際に発生する水を、膜外に積極的に排出することができる前記化合物(A)を添加しているので、340℃以下の焼成温度でも、ポリイミド膜における短波長(1.35μmから可視光)の光吸収を抑えたまま、1.49μmでの光損失を低減することができた。また、全フッ素化ポリアミド酸を原料に用いた場合であってもY値が15以下のポリイミド膜を得ることができた。
【0016】
さらに、本発明によれば、焼成温度340℃では、1.49μmで0.23dB/cm以下、かつ0.85μmで2.4dB/cm以下の光導波路を、焼成温度300℃では、1.49μmで0.42dB/cm以下、かつ0.85μmで1.6dB/cm以下の光導波路を、焼成温度250℃では、1.49μmで1.4dB/cm以下、かつ0.85μmで0.5dB/cm以下の光導波路を、それぞれ提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物は、フッ素化ポリアミド酸と、沸点が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物(A)とを含むことを特徴とする。化合物(A)を添加したことで低温焼成が可能となり、短波長での光吸収の低減効果を保持したまま1.49μmでの光吸収を低減させることができた。
【0018】
ポリアミド酸がポリイミドへ転化する(イミド化)際、水が発生するが、これがフッ素化ポリイミドの有する芳香環を攻撃し、C−OHとなり、この−O−Hの伸縮振動が1.49μmでの光吸収として現れると考えられる。他方、1.35μmから可視光までの光吸収は、上記イミド化の際に発生する水が膜中に残留し、焼成時の高温下でポリイミドが酸化して着色するためである考えられる。本発明では、沸点340℃以下の化合物(A)(水排出促進剤)を添加したため、低温焼成でも水が速やかに膜外へ排出される結果、芳香環への攻撃の機会を失わせて1.49μmの光吸収を抑制し、しかもポリイミドの酸化を抑制して、短波長側の着色も防止することができたものと考えられる。
【0019】
本発明で使用するフッ素化ポリアミド酸は、特に限定されるものではないが、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性、光学特性に優れる点で、下記式(3)で示されるフッ素化アミド酸を構成単位とするフッ素化ポリアミド酸が好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
[式中、Xは4価の有機基を表し、Yは2価の有機基を表し、Xおよび/またはYは少なくとも1個のフッ素原子を有する基である]
【0022】
上記式(3)において、Xで表される4価の有機基としては、例えば、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコールなどに由来する4価のハロゲン含有脂肪族有機基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼンなどに由来する4価のハロゲン含有芳香族有機基;などが挙げられる。これらの4価の有機基は、C−H結合を有していてもよいが、好ましくは、C−H結合の水素原子がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれか)に置換されており、ハロゲン原子の種類は、同一でも異なっていてもよい。これらの4価の有機基のうち、4価のハロゲン含有芳香族有機基が好ましく、4価の全フッ素化芳香族有機基がより好ましく、下記式:
【0023】
【化4】

で示される4価の有機基が特に好ましい。
【0024】
上記3種類の式において、RおよびRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。RおよびRは、同一であってもまたは異なるものであってもよいが、全部が水素原子である場合はないものとする。好ましくは、いずれか1個がフッ素原子であり、より好ましくは、全部がフッ素原子である。
また、上記3種類の式において、Zは、下記式:
【0025】
【化5】

【0026】
で示される2価の基である。上記「Z」を示す式において、Y’およびY”は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、好ましくは、いずれか1個がフッ素原子であり、より好ましくは、全部がフッ素原子である。上記「Z」を示す式において、Y’およびY”の両方が存在する場合には、Y’およびY”は、同一であってもまたは異なるものであってもよく、それぞれ、各ベンゼン環中で同一であってもまたは異なるものであってもよいが、全部が水素原子である場合はないものとする。これらの2価の基のうち、下記式:
【0027】
【化6】

で示される2価の基が好ましい。
【0028】
上記式(3)において、Yは2価の有機基であり、Xがフッ素原子を有しない場合には、Yがフッ素原子を有することが好ましい。好ましいYの例としては、例えば、i)炭素−ハロゲン結合のみからなる直鎖または分岐、環を含んでいてもよい2価のハロゲン含有脂肪族基;ハロゲン含有芳香族基;2個以上の該脂肪族基や芳香族基が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などの炭素原子以外の異種原子で結合した2価のハロゲン含有有機基;などが挙げられる。ハロゲン原子は、全部が同一である必要はなく、「Y」中に異なるハロゲン原子を含んでいてもよい。上記i)の2価のハロゲン含有脂肪族基としては、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコールなどに由来する2価のハロゲン含有脂肪族有機基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼンなどに由来する2価のハロゲン含有芳香族有機基;などが挙げられる。この「Y」においても、C−H結合の水素原子が1個以上ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれか)に置換されていることが好ましい。
【0029】
上記式(3)において、Yで表される2価の有機基としては、下記i)またはii)に示す2価の有機基が好ましく、耐熱性、耐薬品性、撥水性および低誘電性を考慮すると、下記ii)に示す2価の有機基が最も好ましい。
【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
本発明においては、これまで説明したように、上記式(3)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸がフッ素原子を含むものであり、部分フッ素化ポリアミド酸と、全フッ素化ポリアミド酸が好ましいものとして挙げられる。上記式(3)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸は、この繰り返し単位の存在によって、これから形成される本発明のフッ素化ポリイミドにおいて、所望の屈折率(すなわち、既存のフッ素化ポリイミドに対する屈折率差Δn)を達成することができる。本発明では、ポリアミド酸として、近赤外域光、特に光通信波長域(1.0〜1.7μm)における光透過損失を考慮して、炭素−水素結合(C−H結合)は存在しないもの、すなわち、上記式(3)を構成する炭素原子に結合する水素原子の全部がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれか)に置換されており、少なくともフッ素原子を含むポリアミド酸を用いることが望ましい。すなわち、これによって、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるフッ素化ポリイミド膜の原料となり得る。
【0033】
なお、上記式(3)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸の製造方法については、以下に詳述する。この記載から、このポリアミド酸の末端は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸誘導体の添加量(モル比)によって異なるものの、アミン末端または酸誘導体末端のいずれかであると考えられる。なお、このポリアミド酸は、同一の繰り返し単位からなるものであってもまたは異なる繰り返し単位からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰り返し単位はブロック状であってもまたはランダム状であってもよい。
【0034】
このポリアミド酸は、従来公知の技術またはその組合せによって製造することができ、その方法は、特に限定されるものではない。一般的には、有機溶媒中で、下記式(4)で示されるジアミン化合物(以下、単に「ジアミン化合物」ということがある。)を、下記式(5)で示されるテトラカルボン酸、その酸無水物もしくは酸塩化物、またはそのエステル化物(以下、単に「テトラカルボン酸類」ということがある。)などと反応させる方法が好適に使用される。なお、下記式(4)における「Y」および下記式(5)における「X」は、上記式(3)における定義と同様である。
【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
ジアミン化合物は、テトラカルボン酸などと反応して上記式(3)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸が製造できるような構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。ジアミン化合物としては、好ましいポリアミド酸の構造から、例えば、i)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン;ii)5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、4,5,6−トリクロロ−1,3−ジアミノ−2―フルオロベンゼン、5−ブロモ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラブロモ−1,3−ジアミノベンゼン;などが挙げられる。これらのジアミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのジアミン化合物のうち、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼンが特に好適である。
【0038】
他方、テトラカルボン酸類は、特に限定されるものではなく、特開平11−147955号公報に記載の方法など、従来公知の技術またはその組合せによって製造することができる。テトラカルボン酸類としては、例えば、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)スルフィド、ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェニル)スルフィド、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、3,6−ジフルオロピロメリット酸、3,6−ジクロロピロメリット酸、3−クロロ−6−フルオロピロメリット酸などのハロゲン化テトラカルボン酸;対応する酸二無水物;対応する酸塩化物;メチルエステル、エチルエステルなどの対応するエステル化物;などが挙げられる。これらのテトラカルボン酸類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのテトラカルボン酸類のうち、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、ならびにこれらの対応する酸二無水物および酸塩化物が好適であり、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、およびこれらの酸二無水物が特に好適である。
【0039】
有機溶媒中で、ジアミン化合物をテトラカルボン酸類と反応させる方法により、所望のポリアミド酸が製造することができる。なお、生成するポリアミド酸が、フッ素原子を含むように、これらの原料を選択することが好ましい。
【0040】
ジアミン化合物の添加量は、テトラカルボン酸類と効率よく反応できる量であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ジアミン化合物の添加量は、化学量論的には、テトラカルボン酸類と等モルであるが、テトラカルボン酸類などの全モル数を1モルとした場合に、好ましくは0.8〜1.2モル、より好ましくは0.9〜1.1モルである。この際、ジアミン化合物の添加量が0.8モル未満であると、テトラカルボン酸類が多量に残存してしまい、精製工程が複雑になることがあり、また、重合度が大きくならないことがある。逆に、ジアミン化合物の添加量が1.2モルを超えると、ジアミン化合物が多量に残存してしまい、精製工程が複雑になることがあり、また、重合度が大きくならないことがある。
【0041】
反応は、有機溶媒中で行うことができる。有機溶媒は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応が効率よく進行でき、かつこれらの原料に対して不活性であれば、特に限定されるものではない。使用可能な有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの極性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、有機溶媒の量は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応が効率よく進行できる量であれば、特に限定されるものではないが、有機溶媒中のジアミン化合物の濃度が1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%となるような量であることが好ましい。
【0042】
ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応条件は、これらの反応が充分進行できる条件であれば、特に限定されるものではない。例えば、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃である。また、反応時間は、通常、1〜72時間、好ましくは2〜48時間である。また、反応は、加圧下、常圧下または減圧下のいずれの圧力下で行ってもよいが、好ましくは常圧下で行われる。また、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応は、反応効率および重合度などを考慮すると、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。この際の反応雰囲気における相対湿度は、好ましくは10%RH以下、より好ましくは1%RH以下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが使用できる。
【0043】
本発明では、フッ素化ポリアミド酸をポリイミドに焼成する際に、沸点が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物(A)を共存させるところにポイントがある。この化合物(A)は、上記した水排出促進作用によって、1.49μmや1.35μm以下の光損失を低減させることのできる化合物であり、この化合物(A)を添加することにより、目的とする3波長、すなわち、1.33μm、1.49μm、1.55μmにおける光損失の小さい光デバイスを提供することができるようになった。
【0044】
化合物(A)としては、沸点(常圧下)が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物であれば、特に限定されるものではない。沸点(常圧下)が340℃以下(より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下)の化合物であれば、イミド化のための焼成工程での加温で水と共に揮発して、水排出促進作用を発現するからである。化合物(A)は、焼成工程で全て揮散することが好ましいが、ポリイミド膜の物性に影響を与えない程度の量であれば、膜中に残存していてもよい。また、化合物(A)を非重縮合性化合物に限定したのは、焼成工程で重縮合するような化合物は焼成工程で揮散せずにポリイミド膜中に不純物として残存すると考えられ、このような重縮合性化合物を排除するためである。化合物(A)がイミド化により発生する水と共に揮散するためには、化合物(A)の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上である。なお、化合物(A)の沸点は、カタログ値などを採用すればよい。
【0045】
化合物(A)としては、芳香環を有する化合物のうち、特に、芳香環を2個以上有する化合物が好ましい。このような化合物として、下記式(1):
【0046】
【化11】

[式中、Zは、互いに独立して、下記式(2):
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、Zは2価の有機基または直接結合を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、rおよびnは0〜5のいずれかの整数を表し、r+nは0〜5である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す)
で示される基を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、pは1〜6の整数を表し、qおよびmは、互いに独立して、0〜5のいずれかの整数を表し、p+q+mは1〜6である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す]
で示される化合物が挙げられる。
【0049】
上記式(1)および(2)において、RまたはRで表される置換基としては、−CNまたは−CFが好ましい。また、pは1が好ましく、qおよびrは、0または1が好ましい。
【0050】
上記式(1)において、Rは、アルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表すが、重水素化アルキル基とは、アルキル基を構成する炭素原子に結合した水素原子の全部または一部が重水素で置換されたものであり、ハロゲン化アルキル基とは、アルキル基を構成する炭素原子に結合した水素原子の全部または一部がハロゲン原子(すなわち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子のうち少なくとも1種以上の原子)で置換されたものである。これらの基の構造は、特に限定されるものではなく、直鎖、分岐鎖、環状アルキル基のいずれの構造であってもよい。アルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基において、これらのアルキル基を構成する炭素数は、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8である。また、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基などが好適である。
【0051】
上記式(1)において、Rで表されるq個の置換基のうち2個が−CNである場合、上記式(1)で示される化合物はフタロニトリル化合物ということもでき、このようなフタロニトリル化合物も、本発明の化合物(A)として使用可能である。フタロニトリル化合物においても、好ましい置換基などはベンゾニトリル化合物と同じである。
【0052】
上記式(2)において、Zが2価の有機基である場合、炭素原子、硫黄原子、窒素原子および/または酸素原子を含むことが好ましい。Zは、より好ましくは、カルボニル基、メチレン基、スルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、複素環などを含む基であり、さらに好ましいZは、下記式(6−1)〜式(6−16)で示される基である。
【0053】
【化13】

【0054】
これらの基のうち、式(6−6)、式(6−12)で示される基が好ましい。上記式において、Zで表される基は、芳香環を有していてもよい2価の有機基であり、化合物(A)の沸点が340℃以下になるような構造であればよい。
【0055】
芳香環を2個以上有する化合物の中では、特に、ジフェニルスルフィドおよびそのフッ素置換物(ベンゼン環の水素原子の全部または一部がフッ素原子に置換されている物)、ジフェニルスルホンおよびそのフッ素置換物が好ましい。また、ビフェニル類およびそのフッ素置換物も化合物(A)として使用することができる。
【0056】
さらに、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(商品名「イルガノックス(登録商標)1010」;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)や3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}―2,4,8,10−テトラキスオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名「アデカスタブAO80」;(株)ADEKA製)などのヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン系酸化防止剤も、化合物(A)として使用することができる。
【0057】
化合物(A)は、フッ素化ポリアミド酸と化合物(A)の合計を100質量%としたときに、1〜50質量%とすることが好ましい。1質量%より少ないと、水排出促進作用が充分発揮されず、1.49μmや1.35μm以下の光損失が低減しないことがある。しかし、50質量%を超えて配合すると、添加量が多すぎて、焼成工程で揮散仕切れず、膜中に残存して高温で分解し、平滑性のある均一な膜が得られないことがある。
【0058】
本発明のフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物は、フッ素化ポリアミド酸と化合物(A)を、公知の混合機、例えば、自転公転式混合機などを用いて適度に混合することにより製造することができる。樹脂組成物には、溶剤を加えてもよい。使用可能な溶剤としては、上述したポリアミド酸製造の際に例示した有機溶剤がそのまま利用可能である。また、上述したポリアミド酸の製造工程によりジアミン化合物とテトラカルボン酸などとの反応の際に化合物(A)を添加する方法を採用してもよい。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、溶剤を用いる場合は、溶液中のフッ素化ポリアミド酸と化合物(A)の合計量を、10〜50質量%とすることが好ましい。また、樹脂組成物の粘度は、25℃で、10ポイズ〜1,000ポイズであることが好ましく、より好ましくは25ポイズ〜150ポイズである。
【0059】
本発明のフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を焼成すると、対応するフッ素化ポリイミドが得られる。焼成は、フッ素化ポリアミド酸を加熱閉環反応によってフッ素化ポリイミドに転化するために行う。通常、この焼成工程は、光導波路装置などの光デバイス作製の一工程として行われるため、基板上にフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を塗布した後、焼成すればよい。焼成中に、化合物(A)は揮散してしまうため、得られるフッ素化ポリイミド膜中には残存しない。
【0060】
基板上にフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を塗布する方法としては、キャスト法、スピンコート法、ロールコート法、スプレイコート法、バーコート法、フレキソ印刷法、およびディップコート法などの従来公知の方法が採用可能であるが、基板上にのみ均一な厚さの薄膜を短時間で形成できる点でスピンコート法が好ましい。なお、基板としては、無機材料、有機材料を問わず、従来公知の材料を使用することができるが、ポリイミド焼成温度において熱変形を抑えるという観点から、シリコン基板;石英、パイレックス(登録商標)などのガラス基板;Al、Cuなどの金属基板;金属酸化物基板;ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂基板;有機・無機ハイブリッド基板などを使用することが好ましい。
【0061】
基板上にフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物の塗膜を形成したら、焼成炉で焼成する。焼成炉としては、特に限定されるものではないが、イナートオーブン、クリーンオーブン、真空焼成炉などを使用することが好ましい。また、雰囲気ガスは、気流を作ることができれば、特に限定されるものではないが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましく、入手のしやすさの点では、窒素がより好ましい。
【0062】
本発明者らによって、焼成工程における雰囲気ガスの導入量を多くする(換気回数を0.07回/min以上にする)と1.49μmの光損失を低減させ得ることが確認されていたが(特願2005−110779号)、本発明では、化合物(A)の作用によって、イミド化の際の膜からの水排出効果が高まるため、雰囲気ガスの導入量を15リットル/min未満(換気回数を0.07回/min未満にする)に低減しても、光損失の小さいポリイミド膜を製造することができた。窒素ガス量は10L/min以下(より好ましくは5L/min以下)でも構わない。このように窒素流量をかなり下げることができたため、特別な窒素導入手段を備えていない汎用の焼成炉でも使用可能となり、製造装置の選択の幅が広がった。ここで換気回数とは、焼成炉内の容積をV(L)、雰囲気ガス流量をN(L/min)としたときのN/V(回/min)である。よって、焼成炉の内容積に応じて雰囲気ガスの流量を定めることで、換気回数が定まる。
【0063】
焼成温度(最高到達温度)は340℃以下でよい。より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。化合物(A)の添加により、従来のように、340℃を超える高温にしなくても、1.49μmでの光吸収ピークを小さくできるからである。また、焼成温度が高くなればなるほど、ポリイミドの酸化が起こって、1.35μm以下の光損失が大きくなる。しかし、焼成温度が低すぎると、加熱によるイミド化の進行が遅くなり、得られるポリイミド膜の物性に悪影響が出ることがあるので、200℃以上(より好ましくは250℃以上)が好ましい。また、化合物(A)の沸点以上とすることが好ましい。室温から焼成最高温度までの温度上昇速度は、特に限定されるものではなく、所望のポリイミド膜が製造できる条件であればよく、連続的に温度上昇させても、段階的に温度上昇を行ってもよい。膜形成直後の温度から室温までの温度下降速度も特に限定されるものではなく、所望のポリイミド膜が製造できる条件であればよく、段階的に行っても連続的に行ってもよい。なお、焼成は1時間以上行うことが望ましい。
【0064】
基板上には多層膜を形成してもよい。焼成工程を経て、フッ素化ポリイミド膜の第1層を形成した後、さらに、第2層用のフッ素化ポリイミド前駆体を塗布し、焼成して、フッ素化ポリアミド膜の第2層を形成し、この工程を繰り返す。ここで、第1層とは、基板上に最初に形成したフッ素化ポリイミド膜を意味し、第2層は第1層の上に形成したフッ素化ポリイミド膜を意味する。第2層の組成は、所望するポリイミド多層膜の用途によって適宜選択でき、第1層と同一組成であっても、異なった組成であっても特に限定されるものではない。第2層形成の際も、上記した温度、時間、雰囲気条件下で、フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物の塗布・焼成を行えばよい。なお、上記した温度、時間、雰囲気条件下であれば、第1層と第2層以降の層の形成条件が異なっていても構わない。
【0065】
本発明のフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物から得られるポリイミド膜は、着色度合いが低い。これは、上記したように、焼成工程において、化合物(A)の作用で水が速やかに膜外へ排出されるため、低温焼成でも1.49μmの光損失を低減することができ、かつ、低温焼成を行うことによって、ポリイミドの酸化を抑制することもできるので、短波長側の着色も防止することができるからである。特に、着色しやすい全フッ素化ポリイミド膜でも、本発明の採用により、Y値を15以下にすることが可能となった。化合物(A)を添加しない全フッ素化ポリイミド膜を320℃での焼成工程(1時間)を経て得た場合のY値は19.1であるが、化合物(A)として、ビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドを25質量%用いて320℃で焼成した場合(1時間)、Y値は5.3と極めて小さくなることが確認されている。本発明では、Y値は8μmのフィルム(膜)について、色差計(商品名「SZ−Σ90」;日本電色工業(株)製)で求めた値を採用した。
【0066】
本発明のフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を焼成して得たフッ素化ポリイミド膜は、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるため、プリント基板、LSI用層間絶縁膜、半導体部品用封止材料、光学部品、光電子集積回路(OEIC)、光電子混載実装配線板における光導波路装置など、様々な光学材料に有用である。
【0067】
本発明の光導波路装置は、コアとクラッドのいずれかまたは両方に、本発明のフッ素化ポリアミド酸樹脂組成物から得られたフッ素化ポリイミド膜を備える公知の構成のものである。光導波路装置の構成や製造方法は、特に限定されるものではない。一例を挙げると、シリコン、石英、樹脂などの任意の基板上に下部クラッド用樹脂組成物を塗布して焼成し、下部クラッドを作製する。得られた下部クラッドにコア用樹脂組成物を塗布して焼成し、得られたコア膜上にフォトレジストを塗布した後、光回路パターンが付されたフォトマスクを使用して紫外線を照射し、光回路パターンを形成する。次いで、ドライエッチング(例えば、RIE(反応性イオンエッチング))などにより、フォトレジストが載っていなかった部分のコア膜を選択的に除去した後、レジスト膜を剥離する。その後、上部クラッド用樹脂組成物を塗布して焼成すると、埋め込み型光導波路を得ることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0069】
実験1
容量50mLの三ツ口フラスコに、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン1.80g(10ミリモル)、下記式:
【0070】
【化14】

【0071】
で示される4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)5.82g(10ミリモル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド12.4gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中で、室温で2日間撹拌することによって、全フッ素化ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸38質量%溶液)を得た。
【0072】
この全フッ素化ポリアミド酸溶液に、化合物(A)としてビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィド(沸点120℃)が25質量%(よって、全フッ素化ポリアミド酸(ドライ)は75質量%)となるように添加して、自公転式混合装置(商品名「あわとり練太郎(登録商標)」;(株)シンキー製)で撹拌混合し、脱泡して、全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.1を作製した。
【0073】
次いで、この樹脂組成物No.1を、スピンコーター(ミカサ(株)製)により、シリコン基板上に焼成後の膜厚が15μmになるようにスピンコートし、イナートオーブンで窒素雰囲気下(40リットル/min)、300℃で1時間焼成した。得られたフッ素化ポリイミド膜の波長0.85μmでの損失値は、2.0dB/cmであった。なお、光損失(長さ5cm)は、白色光源(商品名「AQ4305」;横河電機(株)製)を用いて、光スペクトラムアナライザー(商品名「AQ6317」;横河電機(株)製)で測定した(以下同様)。
【0074】
実験2
容量50mLの三ツ口フラスコに、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン1.97g(10ミリモル)、合成例1で使用した4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)5.82g(10ミリモル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド15.8gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中で、室温で2日間撹拌することによって、部分フッ素化ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸33.0質量%溶液)を得た。この部分フッ素化ポリアミド酸溶液に、化合物(A)としてビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドが25質量%(よって、部分フッ素化ポリアミド酸(ドライ)は75質量%)となるように添加して、上記と同様にして撹拌混合し、脱泡して、コア用の部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.2を作製した。
【0075】
実験1で作製した全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.1を用いて、実験1と同様にして、シリコン基板上に焼成後の膜厚が15μmの下部クラッドを形成した。次いで、部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.2を、下部クラッドの上に、焼成後の膜厚が8μmとなるようにスピンコートし、実験1と同様にして焼成し、コア膜を得た。コア膜上にレジスト層を設け、フォトマスクを介して紫外線照射を行い、現像してパターン形成した。次いで、RIE(反応性イオンエッチング装置;アネルバ(株)製)により、酸素プラズマを照射して、コア層をエッチング加工した。レジスト膜を剥離した後、上部クラッドを下部クラッドと同様の方法で製膜、焼成することにより、8μm角のコアを持つ光導波路装置を得た。得られた光導波路装置をダイシングソーにより、チップ状に切り出して光損失(長さ5cm)を評価したところ、波長1.49μmでの損失値は0.42dB/cm、波長0.85μmでの損失値は1.6dB/cmと、いずれも非常に小さい値であった。
【0076】
実験3(比較用)
ビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドを添加せずに、実験1と同様にフッ素化ポリイミド膜を製造した。得られたフッ素化ポリイミド膜の0.85μmでの損失値は、3.4dB/cmであった。
【0077】
実験4(比較用)
ビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドを添加せずに、実験2と同様に光導波路装置を製造した。この光導波路装置の光損失(長さ5cm)を評価したところ、波長1.49μmでの損失値は1.0dB/cmと、実験2の約2倍の値であった。
【0078】
実験5
焼成温度を340℃と250℃に代えた以外は、実験2と同様にして光導波路装置(5cm)を製造し、光損失を測定した。また、比較のため、化合物(A)を添加していない系(添加なし)の光損失も測定した。図1に焼成温度340℃でのスペクトルを、図2に焼成温度300℃でのスペクトルを、図3に焼成温度250℃でのスペクトルを、それぞれ示した。
【0079】
化合物(A)であるビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドを添加した系では、焼成温度340℃で、1.49μm;0.23dB/cm、0.85μm;2.4dB/cm、焼成温度250℃で、1.49μm;1.4dB/cm、0.85μm;0.4dB/cmという結果となった。いずれも添加なしの系より光損失が小さくなっていることがわかる。
【0080】
実験6
化合物(A)として、ビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドに代えて、ビス(ペンタフルオロフェニル)スルホン(沸点160℃;図4)、ペンタフルオロビフェニル(沸点206℃;図5)、ジフェニルスルフィド(沸点296℃;図6)のそれぞれを用いた以外は、実験2と同様にして光導波路装置(5cm)を製造し、光損失を測定した。また、比較のため、化合物(A)を添加していない系の光損失スペクトルも図示した。いずれも化合物(A)を添加した系の方が1.49μmおよび1.35μm以下の光損失が小さくなっていることが確認された。
【0081】
実験7
化合物(A)として、ビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドに代えて、4−フェノキシヘプタフルオロトルエン(沸点316℃)を部分フッ素化ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸33.0質量%溶液)に50質量%(よって、部分フッ素化ポリアミド酸(ドライ)は50質量%)となるように添加して、コア用の部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物を作製し、焼成温度を320℃と250℃に代えた以外は、実験2と同様にして光導波路装置(5cm)を製造し、光損失を測定した。また、比較のため、化合物(A)を添加していない系(添加なし)の光損失も測定した。図7に焼成温度320℃でのスペクトルを、図8に焼成温度250℃でのスペクトルを、それぞれ示した。
【0082】
化合物(A)である4−フェノキシヘプタフルオロトルエンを添加した系では、焼成温度250℃で、1.49μm;1.0dB/cm、焼成温度320℃で、1.49μm;0.21dB/cmという結果となった。いずれも添加なしの系より光損失が小さくなっていることがわかる。
【0083】
実験8
実験1で得られた全フッ素化ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸38質量%溶液)10gに、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.4gをN,N−ジメチルアセトアミド5gに溶解した溶液を添加し、自公転式混合装置(商品名「あわとり練太郎(登録商標)」;(株)シンキー製)を用いて攪拌した。この溶液にトリフルオロプロピルトリメトキシシラン1.52gおよび水0.18gを添加し、自公転式混合装置(商品名「あわとり練太郎(登録商標)」;(株)シンキー製)を用いて攪拌混合し、脱泡して、クラッド用の全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.3を作製した。
【0084】
容量50mLの三ツ口フラスコに、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン1.97g(10ミリモル)、実験1で使用した4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)5.82g(10ミリモル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド10.75gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中で、室温で6日間撹拌することによって、部分フッ素化ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸42.0質量%溶液)を得た。この部分フッ素化ポリアミド酸溶液に、化合物(A)としてのビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィド(沸点120℃)が25質量%(よって、部分フッ素化ポリアミド酸(ドライ)は75質量%)となるように添加して、上記と同様にして撹拌混合し、脱泡して、コア用の部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.4を作製した。
【0085】
クラッド用の全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.3を、シリコン基板上に焼成後の膜厚が15μmとなるようにスピンコートし、イナートオーブンで窒素雰囲気下(40リットル/min)、300℃で10時間焼成し、下部クラッドを形成した。この下部クラッドの上に、コア用の部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.4を、焼成後の膜厚が50μmになるようにスピンコートし、上記と同様に焼成し、コア膜を得た。
【0086】
次いで、ダイシングソー(商品名「DAD321」;(株)ディスコ製)を用いて、大量の水を流しながら、コア膜に溝と溝との間隔が50μmになるように深さ50μmの溝を2つ切った後、クラッド用の全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.3を、焼成後の膜厚が15μmになるようにスピンコートし、イナートオーブンで窒素雰囲気下(40リットル/min)、300℃で10時間焼成し、上部クラッドを形成した。さらに、ダイシングソー(商品名「DAD321」;(株)ディスコ製)を用いて、大量の水を流しながら、導波路端面を切断し、50μm角のコア膜を有する長さ50mmの大口径埋め込み型直線導波路を得た。なお、得られた大口径埋め込み型直線導波路の光損失(長さ5cm)を評価したところ、波長1.49μmでの損失値は0.3dB/cmと、非常に小さい値であった。
【0087】
本実験では、ダイシングソーを用いて、大量の水を流しながら、加工する際に、フッ素化ポリイミドフィルムが剥離することがなく、また、導波路端面は鏡面であった。
【0088】
実験9
実験8で得られたコア用の部分フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.4を、シリコン基板上に焼成後の膜厚が8μmとなるようにスピンコートし、イナートオーブンで窒素雰囲気下(40リットル/min)、300℃で10時間焼成し、コア膜を得た。
【0089】
次いで、ダイシングソー(商品名「DAD321」;(株)ディスコ製)を用いて、大量の水を流しながら、コア膜に溝と溝との間隔が50μmになるように深さ50μmの溝を2つ切った後、実験7で得られたクラッド用の全フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物No.3を、焼成後の膜厚が15μmになるようにスピンコートし、イナートオーブンで窒素雰囲気下(40リットル/min)、300℃で10時間焼成し、上部クラッドを形成した。さらに、ダイシングソー(商品名「DAD321」;(株)ディスコ製)を用いて、大量の水を流しながら、導波路端面を切断し、50μm角のコア膜を有する長さ50mmの大口径埋め込み型直線導波路を得た。なお、得られた大口径埋め込み型直線導波路の光損失(長さ5cm)を評価したところ、波長1.49μmでの損失値は0.3dB/cmと、非常に小さい値であった。
【0090】
本実験では、ダイシングソーを用いて、大量の水を流しながら、加工する際に、フッ素化ポリイミドフィルムが剥離することがなく、また、導波路端面は鏡面であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の樹脂組成物から得られるポリイミド膜は、B−PON方式で用いられる通信波長、すなわち、1.31μm、1.49μm、1.55μmのいずれにおいても、光損失を小さくすることができた。また、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるため、プリント基板、LSI用層間絶縁膜、半導体部品用封止材料、光学部品、光電子集積回路(OEIC)、光電子混載実装配線板における光導波路など、様々な光学材料に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】化合物(A)としてビス(ペンタフルオロフェニル)スルフィドを用い、340℃で焼成したときの光損失スペクトルである(実験5)。
【図2】図1の系で300℃で焼成したときの光損失スペクトルである(実験5)。
【図3】図1の系で250℃で焼成したときの光損失スペクトルである(実験5)。
【図4】化合物(A)をビス(ペンタフルオロフェニル)スルホンに代えたときの光損失スペクトルである(実験6)。
【図5】化合物(A)をペンタフルオロビフェニルに代えたときの光損失スペクトルである(実験6)。
【図6】化合物(A)をジフェニルスルフィドに代えたときの光損失スペクトルである(実験6)。
【図7】化合物(A)として4−フェノキシヘプタフルオロトルエンを用い、320℃で焼成したときの光損失スペクトルである(実験7)。
【図8】図7の系で250℃で焼成したときの光損失スペクトルである(実験7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成工程でフッ素化ポリイミド膜を得るために用いられ、フッ素化ポリアミド酸と、沸点が340℃以下の芳香環を有する非重縮合性化合物(A)とを含むことを特徴とする光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)が、芳香環を2個以上有する化合物である請求項1記載の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記化合物(A)が、下記式(1):
【化1】

[式中、Zは、互いに独立して、下記式(2):
【化2】

(式中、Zは2価の有機基または直接結合を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、rおよびnは、互いに独立して、0〜5のいずれかの整数を表し、r+nは0〜5である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す)
で示される基を表し、Rは、互いに独立して、−CN、−CF、−NO、−COORまたは−ORを表し、Xはハロゲン原子を表し、pは1〜6の整数を表し、qおよびmは、互いに独立して、0〜5のいずれかの整数を表し、p+q+mは1〜6である;なお、Rはアルキル基、重水素化アルキル基またはハロゲン化アルキル基を表す]
で示される化合物である請求項2記載の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素化ポリアミド酸が全フッ素化ポリアミド酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料用フッ素化ポリアミド酸樹脂組成物から得られ、Y値が15以下であることを特徴とする光学材料用フッ素化ポリイミド膜。
【請求項6】
波長1.49μmでの光損失が0.42dB/cm以下であり、かつ波長0.85μmでの光損失が1.6dB/cm以下であることを特徴とする光学材料用フッ素化ポリイミド膜。
【請求項7】
請求項5または6記載の光学材料用フッ素化ポリイミド膜を備えることを特徴とする光導波路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−84794(P2007−84794A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216136(P2006−216136)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】