説明

光機能性薄膜素子、光機能性薄膜素子の製造方法、及び物品

【課題】界面における光損失を低減し、光入射効率を向上させる。
【解決手段】光機能性薄膜素子1は、基材2と、基材2の表面上に形成された電極3と、電極3の表面上に形成された光機能性薄膜4と、光機能性薄膜4の表面上に形成された電極5とを備え、空気と基材2の界面,基材2と電極3の界面,及び電極3と光機能性薄膜4の界面には後述する屈折率整合処理により界面における屈折率差を小さくする屈折率整合処理層6a,6b,6cが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電装置,エレクトロクロミック素子等の調光装置,太陽電池等の光起電力装置に適用して好適な、第1の電極と第2の電極により挟持された光機能性薄膜を備える光機能性薄膜素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光電素子や太陽電池等、第1の電極と第2の電極により挟持された光機能性薄膜を基材上に備える光機能性薄膜素子が知られている。この光機能性素子では、第1及び第2の電極の一方から外部光を取り込み、第1及び第2の電極の一方と光機能性薄膜との界面又は光機能性薄膜内に形成された2種類以上の光機能性薄膜間の接合界面における荷電キャリヤ(電子,正孔)の動きを利用することにより、電子的又は光学的な機能を発現させている。
【0003】
ところで、上記のような構成を有する光機能性薄膜素子では、第1の電極と光機能性薄膜の界面で効率良く電荷分離がなされたとしても、外界(空気)と基材の界面,基材と第1の電極の界面,第1の電極と光機能性薄膜の界面,及び光機能性薄膜と第2の電極の界面において光の全反射効果による光損失が発生するために、光機能性薄膜の内部に外部光を効率良く取り込むことができない。
【0004】
この全反射効果による光損失に大きく影響する因子は各界面における屈折率差Δnである。具体的には、空気の屈折率nは1.0,基材がガラスにより形成されている場合は基材の屈折率nは1.45,第1の電極が透明電極(Indium Tin Oxide:ITO)により形成されている場合は第1の電極の屈折率nは2.0,光機能性薄膜が銅フタロシアニン(CuPc)により形成されている場合は光機能性薄膜の屈折率nは1.6,第2の電極が金(Au)により形成されている場合は第2の電極の屈折率nは1.8であるので、いずれの界面においても0.2〜0.6程度の屈折率差Δnが存在する。なお、ここで言う屈折率は、一般的にD線(波長589 nm)での値を示すものである(以下、単に屈折率と表記している場合は、これに準ずる)。
【0005】
そしてこのような屈折率差Δnが存在する状況下では、基材側から光機能性薄膜へ入射する光の導波と伝播は、基材表面面での表面反射,基材と第1の電極の界面での導波と漏出,第1の電極と光機能性薄膜の界面での導波と漏出,光機能性薄膜と第2の電極の界面での導波と漏出になる。なお、いずれの場合においても素子端部からの光漏出に加え、導波中に光吸収されることもあり得る。
【0006】
このような背景から、光機能性薄膜の内部へ外部光を効率よく導入するために、第1の電極と光機能性薄膜との間に低屈折率のシリカエアロゲル層(屈折率n=1.1)を設ける方法(非特許文献1参照)や、第1の電極と光機能性薄膜との間に周期的なテーパ形状を備える微細構造を形成することにより全反射による光の導波とそれに基づく端部からの光漏出を軽減する方法が提案されている(非特許文献2,3参照)。
【非特許文献1】「有機ELディスプレイにおける高輝度・高効率・長寿命化技術」,第113頁,技術情報協会
【非特許文献2】「透明導電膜の新展開II」,第220頁,シーエムシー出版
【非特許文献3】「薄膜太陽電池のデバイス設計」,第41頁,シャープ技報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の電極と光機能性薄膜との間に低屈折率のシリカエアロゲル層を設ける場合、その製造プロセスとして例えばゾルゲル法が利用されるために、ガラス等の限られた基材上への層形成のみに限定されてしまう。また、シリカエアロゲル層が均一に形成されていない場合には、着色や光透過性の低下を引き起こしてしまう。さらに、シリカエアロゲル層を挿入した場合には、電位障壁が形成されることによって電子と正孔の移動の妨げとなる。
【0008】
一方、第1の電極と光機能性薄膜との間に周期的なテーパ形状を備える微細構造を形成する場合には、複雑、且つ、高精度な工程が必要になる上に、微細構造表面が汚れたり、傷ついたりしてしまうと光入射効果が激減してしまうといった実用上の問題がある。また、基材がフレキシブルな樹脂材料により形成されている場合には、温度や湿度変化により微細構造の寸法自体が変化してしまう。
【0009】
このように、現在までに提案されている外部光を効率よく光機能性薄膜の内部へ導入するための方法は、光入射効率を向上させる一つの手段ではあるものの、実用性を加味しているものではない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、実用性高く、界面における光損失を低減し、光入射効率を向上させた光機能性薄膜素子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、実用性高く、界面における光損失を低減し、光入射効率を向上させた光機能性薄膜素子を備える物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光機能性薄膜素子の特徴は、第1の電極と第2の電極により挟持された光機能性薄膜を備える光機能性薄膜素子であって、第1の電極と光機能性薄膜の界面、光機能性薄膜と第2の電極の界面、及び第1の電極と外界の界面のうちの少なくとも一つの界面において、界面における屈折率差を小さくする屈折率整合処理が施されていることにある。また、本発明に係る光機能性薄膜素子の製造方法の特徴は、第1の電極、第2の電極、及び光機能性薄膜のうちの少なくとも一つの表面を酸又はアルカリ溶液へ浸漬し、浸漬面を純水により洗浄し、浸漬面を乾燥させることにより、屈折率整合処理を施すことにある。また、本発明に係る物品の特徴は、上記本発明に係る光機能性薄膜素子を備えることにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光機能性薄膜素子、光機能性薄膜素子の製造方法、及び物品によれば、第1の電極と光機能性薄膜の界面、光機能性薄膜と第2の電極の界面、及び第1の電極と外界の界面のうちの少なくとも一つの界面において、界面における屈折率差を小さくする屈折率整合処理が施されているので、実用性高く、界面における光損失を低減し、光入射効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態となる光機能性薄膜素子の構成について説明する。なお、本発明の実施形態となる光機能性薄膜素子は、光電装置,エレクトロクロミック素子等の調光装置,太陽電池等の光起電力装置等に適用することができる。
【0014】
〔光機能性薄膜素子の構成〕
本発明の実施形態となる光機能性薄膜素子1は、図1に示すように、基材2と、基材2の表面上に形成された電極3と、電極3の表面上に形成された光機能性薄膜4と、光機能性薄膜4の表面上に形成された電極5とを備え、空気と基材2の界面,基材2と電極3の界面,及び電極3と光機能性薄膜4の界面には後述する屈折率整合処理により界面における屈折率差を小さくする屈折率整合処理層6a,6b,6cが形成されている。このような構成を有する光機能性薄膜素子1は、基材2及び電極3を介して光源7から光機能性薄膜4に光が入射されるのに応じて負荷8に光誘起電流を供給する。
【0015】
電極3は、光透過性と低表面抵抗を兼ね備え、且つ、光機能性薄膜4との界面において空乏層を形成しやすい仕事関数の小さな材料により形成されている。このような材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)やSnO(酸化錫)、ZnO(酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)等の無機系酸化物薄膜、Al,In等の金属薄膜、無機-有機コンポジット系や各種導電性高分子からなる有機透明導電膜等を例示することができる。
【0016】
光機能性薄膜4を形成する材料は、安全性や加工性,各種光機能特性(狙いとする光吸収波長,吸収率,光導電性等)を考慮して選択する必要があるが、実用性の面からπ共役系材料であることが望ましい。π共役系材料とは、ベンゼンのように単結合と二重結合が繰返し長く繋がっている分子のことを意味し、π電子が比較的小さなエネルギーで取り出しやすく、動きやすいという性質を有する(例えば吉野勝美著,「有機ELのはなし」,第23頁,日刊工業新聞社参照)。
【0017】
π共役系材料としては、キノリノール誘導体,フルオレン誘導体,フタロシアニン誘導体,トリフェニルジアミン誘導体,ポリパラフェニレン誘導体,ジスチリスアリーレン誘導体,オキサジアゾール誘導体,ピラゾリン誘導体,ポリチオフェン誘導体,ポリ(N−アルキルカルバゾール)誘導体,ポリフェニルアセチレン誘導体,ポリフェニレンエチニレン誘導体,ポリフェニレンブタジイニレン誘導体,ポリフィリン誘導体,クマリン誘導体,及びフラーレン誘導体からなる誘導体群から選択された1つの誘導体又は選択された1つの誘導体を含む混合物を例示することができる。
【0018】
電極5は、電極3と光機能性薄膜4を透過してきた光をブロックしてミラー効果を生み、且つ、光機能性薄膜4との間でオーミック接触が可能なAuやAg等により形成されている。なお、電極3と電極5の両方から光を取出入れることができるよう、電極5を透明又は半透明の電極により形成してもよい。このような構成によれば、素子に対する光の入射面が限定されず、実用上極めて有効である。
【0019】
電極3,光機能性薄膜4,及び電極5は水又は溶剤に可溶性を有する材料であることが好ましい。一般に、π共役系材料は熱溶融が困難であり、通常の例えば湿式薄膜形成技術(スピンコート,キャスティング,ディップ,LB膜法,印刷法等)の適用が困難であるが、水又は溶剤に可溶性を有する材料を順次積層形成していくことにより、狙いとする光機能性薄膜素子を得ることができる。
【0020】
すなわち、電極3,光機能性薄膜4,及び電極5を水又は溶剤に可溶性を有する材料とすることにより、各種湿式の薄膜形成技術を適用することができる。なお、上記溶剤としては、特に限定されることはなく、ニトロベンゼン,プロピレンカーボネート,無水酢酸等の非プロトン性溶媒や、メタノール,エタノール等のプロトン溶媒、エチル,トルエン,キシレン等の希釈溶剤を例示することができる。
【0021】
電極3及び電極5を形成する材料としては、電極機能として導電性と光透過性を確保できる観点から、少なくとも一方が、ドーピング処理された、ポリピロール(doped Polypyrrole),ポリアニリン(doped Polyaniline),ポリチオフェン(doped Polythiophene),ポリアセチレン(doped Polyacethilene),ポリイソチアナフテン(doped Polyisothianaphtene)、又はこれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つであることが望ましい。
【0022】
ドーピング材は、使用するπ共役系材料の種類やキャリヤ移動を担う主体がドナー性(電子を奪う性質)又はアクセプタ性(電子を与える性質)のいずれかであるかにもよるが、π共役系材料として導電性高分子ポリチオフェンをアクセプタ性とするにはB10Cl102−,BuNBF4−,ClO4−等を、またドナー性とするにはLi、K等を用いることができる。これらのドーピング材を適切な条件下で適宜用いることにより、導電率σ=10[S/cm],可視光線領域における全光線透過率T=78[%]程度の光透過性を有する電極を形成できる。なお、全光線透過率Tとは、試料に透過した光線の全量を表すもので、積分球を具備して測定するものである(JIS K7105)。
【0023】
電極3及び電極5を形成する材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT),ポリプロピレンオキシド(PO),又はこれらの誘導体の中から選択された少なくとも1つの材料を用いても良い。これらの材料は特に水分散性に優れており、導電性と全光線透過率を確保した上、薄膜形成することも比較的容易となる。例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸(PSS)を適切な割合(例えば1/6)で分散した複合体は層厚100[nm]程度の状態で導電率σ=10[S/cm],全光線透過率T=82[%]程度確保することが可能であり、光透過性を有する電極としてはより好ましい。
【0024】
光機能性薄膜4の層厚は光機能性が発現しさえすれば特に限定されないが、層厚が薄すぎると、ピンホールが発生する確率が大となり、電極3と電極5との間で短絡し実用に供しえなくなってしまう。それ故、実用的には、例えば、図2に示す短絡光電流と光機能性薄膜4の層厚との関係図に記載のように、層厚10[nm]以上であることが好ましい。一方、層厚がある閾値よりも大となると、光照射によって生成したキャリヤは、その輸送距離が長くなることに基づき、その輸送プロセス中で失活してしまう確率が大となってしまう。従って、短絡光電流も急激に小さくなってしまうことになる。短絡光強度の最大値を与える層厚を基準とすると、概ね、短絡光強度が1/10となる層厚が層厚としての上限になると予想されている。このため、層厚としては10〜10[nm]程度の大きさが必要となる。
【0025】
〔屈折率整合処理〕
上記屈折率整合処理層6a,6b,6cの形成方法には大別して2つの方法がある。
【0026】
第1の方法は、界面を形成する2つの材料を適切な割合で混合して屈折率を調整する方法である。具体的には、電極2及び光機能性薄膜3がそれぞれITO(波長589[nm]の光に対する屈折率n=2.0)及び銅フタロシアニン(CuPc)(波長589[nm]の光に対する屈折率n=1.6)により形成されている場合には、ITOとCuPCを積層し、この状態でCuPcのガラス転移温度(79[℃])近傍の温度で真空加熱又は高エネルギーのUV光や電子線を照射することにより、界面において両材料を拡散させる。界面における屈折率は両材料の拡散状況によって各々単独の屈折率から変化し、両材料の屈折率nの範囲で制御された屈折率整合処理がなされる。
【0027】
なお、第1の方法は、熱や光・電子線等による相互拡散を利用するものであるので、界面に見かけ上形成される拡散層は概ね0.1[nm]から数[nm]程度と極めて薄く、新たな電位障壁の形成やそれに基づく電子・正孔の移動に大きな影響は及ぼさない。但し、この方法によれば、電極2又は光機能性薄膜3自身に熱的又は光・電子エネルギーが暴露され、これらの膜質(結晶性、配向性、表面モルフォロジー)に影響を与えるために、電極2と光機能性薄膜3の物性値と屈折率整合処理条件には細心の留意が必要である。
【0028】
第2の方法は、電極3と光機能性薄膜4の界面における電極3表面、又は基材2と電極3の界面における基材2表面を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、浸漬面を純水により洗浄し、含有水分の除去を目的とした乾燥処理により屈折率を調整する方法である。なお、この場合、利用可能な酸又はアルカリ溶液は、特に限定されることはなく、硫酸(HSO)、塩酸(HCl),過塩素酸(HClO),硝酸(HNO)、酢酸(CH3COOH)等の酸溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)やアンモニア(NH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ溶液を利用することができる。また、酸やアルカリ溶液による屈折率変化の程度は、処理面となる材料の種類や厚み、その表面粗さ等と、屈折率整合処理条件(処理溶液の種類、濃度、温度、浸漬時間等)とが密接に関与しているために一義的に決定することができないが、概ね、室温下では高濃度な溶液程、未処理時の屈折率に比べ、短時間で屈折率を小さくできることを本発明者らは鋭意検討の末知見した。
【0029】
図3は、無機系透明導電体のITO膜及び有機系透明導電体のPEDOT:PSS(=1/6)膜それぞれに対し硫酸溶液の浸漬処理による屈折率の変化を測定した結果を示す。なお、硫酸溶液の浸漬条件は、濃度:1N、温度:室温、浸漬時間:600[秒]であり、浸漬後、純水によるリンス、さらに温度150[℃]で20分間、乾燥処理を施した。また、いずれの透明導電体膜も石英ガラス基材上にコートされたもので、ITOはスパッタ法により、また、PEDOT:PSS(=1/6)膜はスピンコート法により形成した。また、ITO膜とPEDOT:PSS(=1/6)膜の厚さはいずれも200[nm]厚とした。また、屈折率測定は、光学式薄膜測定システム(Scientific Computing International社製、Film Tek3000)を用い、石英ガラス単体と透明導電膜/石英ガラスに対し各々の透過スペクトルと反射スペクトルの同時測定から屈折率nを算出した。
【0030】
図3から明らかなように、一般的に使用される波長589[nm](D線)における屈折率nは、未処理ITO薄膜では2.0であるのに対し、硫酸溶液処理することにより同波長で1.7と0.3小さくなる。さらに、未処理PEDOT:PSS薄膜についてもその屈折率nは1.43から1.33へと0.1小さくなる。他の透明導電膜や光機能性薄膜についても、発明者らは同様な測定を行ったが、いずれの場合も未処理状態に比べ、酸又はアルカリ処理を施すことにより、屈折率nが小さくなることを見出した。
【0031】
現時点では、酸又はアルカリ処理を施すことにより、透明導電膜や光機能性薄膜の屈折率nが小さくなるメカニズムは定かでないが、これまでの検討結果から、概ね以下のように考えられる。酸又はアルカリ溶液の浸漬処理を電極3や電極5、及び光機能性薄膜4面に対して施すと、例えば酸ではプロトン(H)がそれらの構成物質の一部と置換することが考えられる。また、HSOではSO42−イオンが、HClではClイオンが、電極3や電極5、光機能性薄膜4の構成物質の欠陥に入り込むことも考えられる。このように、相手側物質の分子や原子との置換作用や欠陥部への導入作用により、未処理状態の屈折率に比べ屈折率が小さくなるのではと考えられる。なお、この傾向は酸処理に留まらず、アルカリ処理の場合においても同様な結果を与えることを本発明者らは見出した。
【0032】
ところで、上記図3では波長589[nm]での屈折率nについて説明してきたが、本発明者らは、酸又はアルカリ処理を施した面の屈折率nの波長依存性(いわゆる屈折率分散)についても詳細に検討した。再度、図2を使って説明する。図2はITO薄膜,石英ガラス,及びPEDOT:PSS薄膜の3試料についての屈折率nの波長依存性を示す。試料により屈折率nの変化幅は異なるが、いずれの試料も波長λが大きくなるに従い、屈折率nが小さくなっていくことがわかる。前述したように、一般には波長589[nm]のいわゆるD線と呼ばれる波長において屈折率nを表記するが、本願では屈折率nの波長依存性について鋭意検討してきた結果、2つの特異性を見出すに至った。
【0033】
すなわち、第1は、材料により屈折率nの波長依存性が微妙に異なることである。具体的には、材料の種類により、波長λが大きくなっても屈折率nの低下幅に差異があること換言すれば、分散曲線の傾きが異なることである。例えば、可視光線領域で、石英ガラスの屈折率の波長依存性は小さいが、PEDOT:PSS薄膜の同依存性は大きい。第2は、材料の種類が変わると、酸又はアルカリ処理の効果が大きく異なることである。例えば、ITO薄膜では未処理時の屈折率nが2.0、酸処理後の屈折率nが1.7と両者の差Δnは0.3と大きな変化幅であるのに対し、PEDOT:PSS薄膜の未処理時の屈折率nは1.42、酸処理後の屈折率nは1.31と、その差Δnは0.11程度とわずかな変化しか認められない。
【0034】
このような知見から、屈折率整合処理が施された電極3及び光機能性薄膜4の少なくとも一方が、近紫外線領域から近赤外線領域において屈折率の波長依存性を有し、屈折率の波長依存性曲線における電極3と光機能性薄膜4の波長300[nm]における屈折率をそれぞれn(300)、n(300)、波長1100[nm]における屈折率をそれぞれn(1100)、n(1100)とした時、波長300[nm]及び波長1100[nm]における屈折率の差が以下の数式3に示す条件を満足することにより、必要な波長域(波長λ=380〜1100[nm])での屈折率差Δnを小さくすることが望ましい。
【数3】

【0035】
一方、石英ガラスの屈折率の波長依存性曲線は概ね一定であるのに対し、PEDOT:PSS薄膜(未処理)の同曲線は、波長300[nm]では屈折率n=1.65を、また波長1100[nm]では屈折率n=1.14という値を与え、かなり大きな波長依存性を示す。この場合、未処理時の両者の屈折率の波長依存性曲線が交差する(屈折率Δn=0)波長λを図3より読み取ると、波長690[nm]となっていることがわかる。換言すると、波長λ=690[nm]近傍では屈折率差Δn≒0となることから、界面での光損失はこの波長λにおいては、ほどんど発生しない状態になっていると考えられる。
【0036】
ここで、波長を300[nm]と1100[nm]に限定している理由について説明する。本願発明の光機能性薄膜素子を含め、一般に光検出素子で必要とされる波長感度は、近紫外域(波長λ=300[nm])から近赤外域(波長λ=1100[nm])である。その理由は、例えば、外部光として一般的な太陽光スペクトルをみてみると(図4参照)、地球に降り注ぐ太陽光の全エネルギー強度中、波長λ=300〜1100[nm]の範囲のエネルギー強度が95[%]以上を占めることになり、その波長下限がλ=300[nm]、またその上限が波長λ=1100[nm]となっている。
【0037】
また、人間の眼が感知する波長域である可視光線領域の下限波長λ及び上限波長λはそれぞれ380[nm]及び780[nm]であり、先の紫外域から近赤外域に入っていることがわかる。即ち、自然界において、光の波長の下限上限波長λとしては波長λ=300[nm]及び波長λ=1100[nm]れば十分カバーできるということになる。このように、この下限波長λ=300[nm]から上限波長λ=300[nm]の範囲において、例えば、電極1と光機能性薄膜3の屈折率の波長依存性曲線が任意に交差できるようにすることが界面での光損失低減の点から望ましい。
【0038】
なお、光機能性薄膜素子1が基材2を備えない場合には、電極3及び外界の少なくとも一方が近紫外線領域から近赤外線領域において屈折率の波長依存性を有し、屈折率の波長依存性曲線における基材2と外界の波長300[nm]における屈折率をそれぞれn(300)、nair(300)、波長1100[nm]における屈折率をそれぞれn(1100)、nair(1100)とした時、波長300[nm]及び波長1100[nm]における屈折率の差が以下の数式4に示す条件を満足することが望ましい。これにより、電極3と光機能性薄膜4の界面だけでなく、外界と電極3の界面においても光損失を低減し、光入射効率を向上させることができる。
【数4】

【0039】
次に、酸又はアルカリ溶液による屈折率整合処理の具体的な作用効果について説明する。図5は、PEDOT:PSS薄膜に対し硫酸溶液を使い、その濃度として0.01N,0.1,1Nの3水準を、また処理温度:室温、処理時間:600[秒]の条件で浸漬処理した際の屈折率の波長依存性曲線を示す。図5から明らかなように、未処理の電極3の波長依存性曲線は、石英ガラスの波長依存性曲線に対し波長λ=660[nm]付近で交差するが、硫酸溶液濃度を0.01Nから1Nへと変化させた際の交差点はそれぞれ、波長λ=590[nm]付近,波長λ=530[nm],及び波長λ=470[nm]付近へと短波長側へシフトすることになり、これら3波長λにおいて両者の屈折率差Δnを極力小さくできるということがわかる。
【0040】
このことは、例えば、硫酸溶液を使った際の処理濃度を変化させることにより、電極3と光機能性薄膜4の間の任意の波長λにおける屈折率差Δnを近紫外線領域(波長300[nm])から近赤外線領域(波長1100[nm])の範囲内で制御できることを意味する。即ち、外部光のスペクトルに応じて、最大スペクトル感度(強度)を示す波長λの位置で屈折率差Δnを小さくすることができ、光機能性薄膜素子1の界面における光損失を軽減できることになる。なお、ここでは屈折率整合処理条件の一つとして、処理濃度を可変させた例を示したが、他の処理条件(処理溶液の種類、温度、時間等)を変化させて狙いとする波長λにおける屈折率nを小さくすることも可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に係る光機能性薄膜素子を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0042】
〔実施例1〕
実施例1では、始めに、石英ガラス,ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOD)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)の水分散複合溶液(PEDOT/PSS=1/1.6),トルエンで希釈されたポリフェニレンビニレン(PPV)溶液を用意する。次に、処理温度:室温,処理時間:600[秒]の条件で0.1N硫酸溶液に石英ガラスの一方の面を浸漬した後、浸漬面に対し超純水でリンス処理を施し、温度80[℃]で乾燥させた。次に、スピンコート法で浸漬面と反対の面上に水分散複合溶液を膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥処理した。次に、スピンコート法で薄膜表面上にポリフェニレンビニレン溶液を膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥硬化させた。そして最後に、薄膜表面上にAuを真空蒸着にて膜厚100[nm]形成することにより、実施例1の光機能性薄膜素子を得た。
【0043】
〔実施例2〕
実施例2では、石英ガラスの両面を0.1N硫酸溶液に浸漬し、石英ガラスの一方の面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより、実施例2の光機能性薄膜素子を得た。
【0044】
〔実施例3〕
実施例3では、水分散複合溶液を塗布することにより形成した薄膜表面を処理温度:室温,処理時間:600[秒]の条件で0.1N硫酸溶液に浸漬した後、浸漬面に対し超純水でリンス処理を施し、温度80[℃]で乾燥させた以外は実施例2と同じ処理を行うことにより、実施例3の光機能性薄膜素子を得た。
【0045】
〔実施例4〕
実施例4では、ポリフェニレンビニレン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は実施例2と同じ処理を行うことにより、実施例4の光機能性薄膜素子を得た。
【0046】
〔実施例5〕
実施例5では、水分散複合溶液を塗布することにより形成した薄膜表面を処理温度:室温,処理時間:600[秒]の条件で0.1N硫酸溶液に浸漬した後、浸漬面に対し超純水でリンス処理を施し、温度80[℃]で乾燥させた以外は実施例4と同じ処理を行うことにより、実施例5の光機能性薄膜素子を得た。
【0047】
〔実施例6〕
実施例6では、石英ガラスの一方の面上にトルエンで希釈されたポリマー銅フタロシアニン(P−CuPc)溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した以外は実施例2と同じ処理を行うことにより、実施例6の光機能性薄膜素子を得た。
【0048】
〔実施例7〕
実施例7では、水分散複合溶液を塗布することにより形成した薄膜表面を処理温度:室温,処理時間:600[秒]の条件で0.1N硫酸溶液に浸漬した後、浸漬面に対し超純水でリンス処理を施し、温度80[℃]で乾燥させた以外は実施例6と同じ処理を行うことにより、実施例7の光機能性薄膜素子を得た。
【0049】
〔実施例8〕
実施例8では、ポリマー銅フタロシアニン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は実施例7と同じ処理を行うことにより、実施例8の光機能性薄膜素子を得た。
【0050】
〔実施例9〕
実施例9では、始めに、一方の表面にITOスパッタ膜がコートされた石英ガラス,トルエンで希釈されたポリフェニレンビニレン溶液を用意する。次に、処理温度:室温,処理時間:600[秒]の条件で0.1N硫酸溶液に石英ガラスの両面を浸漬した後、浸漬面に対し超純水でリンス処理を施し、温度80[℃]で乾燥させた。次に、ITOスパッタ膜側の浸漬面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥処理した。次に、薄膜表面上にポリフェニレンビニレン溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥硬化させた。そして最後に、薄膜表面上にAuを真空蒸着にて膜厚100[nm]形成することにより、実施例9の光機能性薄膜素子を得た。
【0051】
〔実施例10〕
実施例10では、ITOスパッタ膜側の浸漬面上にトルエンで希釈されたポリマー銅フタロシアニン(P−CuPc)溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した以外は実施例9と同じ処理を行うことにより、実施例10の光機能性薄膜素子を得た。
【0052】
〔比較例1〕
比較例1では、始めに、石英ガラス,ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOD)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)の水分散複合溶液(PEDOT/PSS=1/1.6),トルエンで希釈されたポリフェニレンビニレン(PPV)溶液を用意する。次に、石英ガラスの一方の面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥処理した。次に、薄膜表面上にポリフェニレンビニレン溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥硬化させた。そして最後に、薄膜表面上にAuを真空蒸着にて膜厚100[nm]形成することにより、比較例1の光機能性薄膜素子を得た。
【0053】
〔比較例2〕
比較例2では、ポリフェニレンビニレン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は比較例1と同じ処理を行うことにより、比較例2の光機能性薄膜素子を得た。
【0054】
〔比較例3〕
比較例3では、石英ガラスの一方の面上にトルエンで希釈されたポリマー銅フタロシアニン(P−CuPc)溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した以外は比較例1と同じ処理を行うことにより、比較例3の光機能性薄膜素子を得た。
【0055】
〔比較例4〕
比較例4では、ポリマー銅フタロシアニン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は比較例3と同じ処理を行うことにより、比較例4の光機能性薄膜素子を得た。
【0056】
〔比較例5〕
比較例5では、始めに、一方の表面にITOスパッタ膜がコートされた石英ガラス,トルエンで希釈されたポリフェニレンビニレン溶液を用意する。次に、ITOスパッタ膜面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥処理した。次に、薄膜表面上にポリフェニレンビニレン溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥硬化させた。そして最後に、薄膜表面上にAuを真空蒸着にて膜厚100[nm]形成することにより、比較例5の光機能性薄膜素子を得た。
【0057】
〔比較例6〕
比較例6では、ポリフェニレンビニレン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は比較例5と同じ処理を行うことにより、比較例6の光機能性薄膜素子を得た。
【0058】
〔比較例7〕
比較例7では、ITOスパッタ膜表面上にトルエンで希釈されたポリマー銅フタロシアニン溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した以外は比較例5と同じ処理を行うことにより、比較例7の光機能性薄膜素子を得た。
【0059】
〔比較例8〕
比較例8では、ポリフェニレンビニレン溶液を塗布することにより形成した薄膜表面上に水分散複合溶液をスピンコート法で膜厚100[nm]となるよう塗布した後、形成された薄膜を温度160[℃]で乾燥させた以外は比較例7と同じ処理を行うことにより、比較例8の光機能性薄膜素子を得た。
【0060】
〔開放端電圧と短絡光電流の評価〕
上記実施例1〜10及び比較例1〜8の光機能性薄膜素子をクライオスタット内に配置し、真空度10−3[Torr]の条件の下で光導入窓(石英ガラス)から太陽擬似光であるキセノン白色光を照射し、各光機能性薄膜素子の開放端電圧Voc[V]と短絡光電流Isc[A/cm]を測定した。なお、キセノン白色光の強度は10[mW/cm]とした。測定結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜10の光機能性薄膜素子の開放端電圧Vocは比較例1〜8の光機能性薄膜素子の開放端電圧Vocと比較して大きな値を示した。また、実施例1〜10の光機能性薄膜素子の短絡光電流Iscは比較例1〜8の光機能性薄膜素子の短絡光電流Iscよりも高い値を示した。以上のことから、実施例1〜10の光機能性薄膜素子によれば、界面における光損失を低減し、光入射効率を向上させることができることが知見された。
【0062】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、図6に示すように基材2を設けずに、光が電極3を介して光機能性薄膜4に入射するようにしてもよい。また図7に示すように、光機能性薄膜4側の電極3表面にテーパ上の微細構造を形成してもよい。また図8に示すように、光機能性薄膜4を単一組成ではなく、n型のπ共役系材料薄膜4aとp型のπ共役系材料薄膜4bのいわゆるp−n接合を有するようにしてもよい。このように、この実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態となる光機能性薄膜素子の構成を示す断面図である。
【図2】光機能性薄膜の層厚と短絡光電流の関係を示す図である。
【図3】ITO膜及びPEDOT:PSS膜それぞれに対し硫酸溶液の浸漬処理による屈折率の変化を測定した結果を示す。
【図4】太陽光スペクトルの波長とスペクトル密度の関係を示す図である。
【図5】硫酸溶液の濃度の変化に伴う屈折率の波長依存性曲線の変化を示す図である。
【図6】図1に示す光機能性薄膜素子の第1の応用例の構成を示す断面図である。
【図7】図1に示す光機能性薄膜素子の第2の応用例の構成を示す断面図である。
【図8】図1に示す光機能性薄膜素子の第3の応用例の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1:光機能性薄膜素子
2:基材
3,5:電極
4:光機能性薄膜
6a,6b,6c:屈折率整合処理層
7:光源
8:負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極により挟持された光機能性薄膜を備える光機能性薄膜素子であって、第1の電極と光機能性薄膜の界面、光機能性薄膜と第2の電極の界面、及び第1の電極と外界の界面のうちの少なくとも一つの界面において、界面における屈折率差を小さくする屈折率整合処理が施されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光機能性薄膜素子であって、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記光機能性薄膜のうちの少なくとも一つの表面に対し前記屈折率整合処理が施されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光機能性薄膜素子であって、前記第1及び第2の電極のうちの少なくとも一方が光透過性を有することを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記光機能性薄膜は、前記第1及び第2の電極の一方から入射した光のうち、波長が300[nm]以上1100[nm]以下の範囲内にある光を少なくとも吸収し、光誘起電流を発生する薄膜層であることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記光機能性薄膜の膜厚が10[nm]以上10[nm]以下の範囲内にあることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記屈折率整合処理が施された第1の電極及び光機能性薄膜の少なくとも一方が、近紫外線領域から近赤外線領域において屈折率の波長依存性を有し、当該屈折率の波長依存性曲線における第1の電極と光機能性薄膜の波長300[nm]における屈折率をそれぞれn(300)、n(300)、波長1100[nm]における屈折率をそれぞれn(1100)、n(1100)とした時、波長300[nm]及び波長1100[nm]における屈折率の差が以下の数式1に示す条件を満足することを特徴とする光機能性薄膜素子。
【数1】

【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記屈折率整合処理が施された第1の電極及び外界の少なくとも一方が近紫外線領域から近赤外線領域において屈折率の波長依存性を有し、当該屈折率の波長依存性曲線における第1の電極と外界の波長300[nm]における屈折率をそれぞれn(300)、nair(300)、波長1100[nm]における屈折率をそれぞれn(1100)、nair(1100)とした時、波長300[nm]及び波長1100[nm]における屈折率の差が以下の数式2に示す条件を満足することを特徴とする光機能性薄膜素子。
【数2】

【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記光機能性薄膜はπ共役系材料により形成されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光機能性薄膜素子であって、前記π共役系材料はキノリノール誘導体、フルオレン誘導体、フタロシアニン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ジスチリスアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリN-アルキルカルバゾール誘導体、ポリフェニルアセチレン誘導体、ポリフェニレンエチニレン誘導体、ポリフェニレンブタジイニレン誘導体、ポリフィリン誘導体、クマリン誘導体、及びフラーレン誘導体から成る誘導体群の中から選択された一つの誘導体又は選択された一つの誘導体を含む混合物であることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項10】
請求項8に記載の光機能性薄膜素子であって、前記第1及び第2の電極の少なくとも一方がドーピング処理された、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリイソチアナフテン、及びこれらの誘導体の群から選択された少なくとも1つにより形成されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項11】
請求項8に記載の光機能性薄膜素子であって、前記第1及び第2の電極の少なくとも一方がポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンオキシド、及びこれらの誘導体の中から選択された少なくとも1つにより形成されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項12】
請求項1乃至請求項7のうち、いずれか1項に記載の光機能性薄膜素子であって、前記第1の電極、前記光機能性薄膜、及び前記第2の電極は水又は溶剤に可溶な材料により形成されていることを特徴とする光機能性薄膜素子。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のうちのいずれか1項に記載の光機能性薄膜素子の製造方法であって、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記光機能性薄膜のうちの少なくとも一つの表面を酸又はアルカリ溶液へ浸漬し、浸漬面を純水により洗浄し、浸漬面を乾燥させることにより、前記屈折率整合処理を施すことを特徴とする光機能性薄膜素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項12のうちのいずれか1項に記載の光機能性薄膜素子を備える物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−78491(P2008−78491A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257678(P2006−257678)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】