説明

光波距離計

【課題】フィルタ位置設定時間が長引くことなく、測距時間も短縮できる光波距離計の提供。
【解決手段】測距光路23間に受光光量調節用の可変濃度フィルタ25が配置された位相差方式の光波距離計において、測定ごとに測距値、可変濃度フィルタ25のフィルタ位置、測距信号の信号棄却率を記憶手段51に記憶しておき、測定時には演算処理部50で、測距信号のサンプリングから算出したサンプル測距値と記憶手段51内の測距値とを比較して、差異が1m以下であるときは、その中で最も閉じられたフィルタ位置に可変濃度フィルタ25を設定し、さらに該フィルタ位置での信号棄却率が0%ならそのフィルタ位置のまま、棄却率が0%でないときはそのフィルタ位置よりも若干濃度を濃くして測距を開始するフィルタ位置調節手段を設けた。
フィルタ位置調節は数回で済み、最適なフィルタ位置に決まるので信号棄却率が下がり測距回数を減らせるため、結果的に測距時間が短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差方式の光波距離計に関するものであって、特に、測距光路間に受光光量を調節する可変式受光濃度フィルタが配置された光波距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差方式の光波距離計には、例えば下記特許文献1,2に開示されたものが知られている。この種の光波距離計は図5に示すように、発振器1で出力された信号が符号2〜4を経て強度変調されて発光素子11から光として送出される。係る光は、測定地点に配置したプリズム等の目標反射物22に反射させて得られる測距光と、参照光路26へ射出して得た参照光となって、択一的に受光素子30で受光されてそれぞれ測距信号と参照信号となり、該受光信号が符号32〜40を経てアナログ信号からデジタルデータへ変換されて、演算処理部であるCPU50で測距光と参照光のデジタル信号の位相差が算出されて、目標反射物22までの直線距離(測距値)が測定されるものである。
【0003】
目標反射物22と受光素子30の間には、連続的な濃度勾配を有し、演算処理部50で制御される可変式受光濃度フィルタ25が配置されていて、可変濃度フィルタ25は、測距信号の一部を短時間でサンプリングした測距信号振幅がその測定に適した所定範囲よりも大きればフィルタを閉じる(フィルタ濃度を濃くする)方向に、逆に前記振幅が小さければフィルタを開ける(フィルタ濃度を薄める)方向にフィルタ位置を段階的に調節する。係るフィルタ位置調節が1回以上行われ、可変濃度フィルタ25が初期フィルタ位置からその測距に適したフィルタ位置に設定されると、目標反射物22までの直線距離の測定(測距)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭51−8340号公報(図2)
【特許文献2】特願2009−137788号(段落番号0019、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば光波距離計から目標反射物22までの距離が遠いと、大気の揺らぎの影響を大きく受けて測距光路が曲げられ、測距光の測距信号が減衰し、可変濃度フィルタ25は大気の揺らぎが小さいときよりも開いた位置に決定される傾向がある。このため、フィルタ位置の調節が困難となって時間が掛かり、所望の測距仕様時間を越えてしまう場合があった。
【0006】
これに対して、可変濃度フィルタ25の初期のフィルタ位置を初めから開いた位置にセットすると、大気の揺らぎが大きい時には最適なフィルタ位置に早く設定される可能性は高くなるが、逆に大気の揺らぎが小さい時や目標反射物22までの距離が近い時には測距信号レベルが測距可能範囲を超えてしまい、係る信号は測距に用いることができない(棄却される)ため、測距信号の信号棄却率が高くなる。
【0007】
また、測距信号レベルが測距可能範囲を超過しないようにするためには、可変濃度フィルタ25を初めから閉じた位置にセットすることも考えられるが、過度にフィルタが閉じられてしまうため、測距信号の信号雑音比が上がり、やはり測距精度が悪くなるという問題が生じた。
【0008】
本願発明は、かかる問題点に鑑みて為されたものであり、その第1の目的は、可変濃度フィルタをすばやく最適なフィルタ位置にすることで、フィルタ位置設定が遅延することのない光波距離計を提供することにある。第2の目的は、測距ごとに最適なフィルタ位置とすることで、測距値算出に有効な測距信号のサンプル数を増やして測距の測定回数を減らし、その結果、測距精度が下がることなく測距時間も短縮された光波距離計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の光波距離計は、複数の変調周波数で変調された光を送出する光送出手段と、該光送出手段の光を測定地点に配置した目標反射物または参照光路のうち選択された一方に送出する光路切換手段と、前記目標反射物で反射された測距光の測距光路間に配置され、連続的な濃度勾配を有する受光光量調整用の可変式受光濃度フィルタと、前記測距光または前記参照光路を通過した参照光を受光して測距信号または参照信号を出力する受光手段と、前記測距信号と参照信号の位相差によって目標反射物までの直線距離である測距値を算出する演算処理部と、を備えた光波距離計において、測距ごとに、少なくとも算出された測距値、前記可変濃度フィルタのフィルタ位置、及び受光光量が測距可能範囲を超えた前記測距信号のサンプル数と測距に使うサンプル数との比を表す信号棄却率、の測定データを記憶する記憶手段を設け、前記演算処理部に、前記測距信号の少なくとも1周期分を含むサンプリングデータから短時間測距信号振幅およびサンプル測距値を算出する短時間測定手段と、前記記憶手段に記憶されている過去の測距値を参照し、前記短時間測定手段で得られたサンプル測距値との差異が1m以下の測距値データが無いときは通常の測距を開始し、差異が1m以下の測距値データがあるときは、該測距値データの中から可変濃度フィルタが最も閉じられたフィルタ位置を参照し、該フィルタ位置に前記可変濃度フィルタを設定するとともに、該フィルタ位置での信号棄却率を前記記憶手段から参照し、該信号棄却率が0%であるときはそのフィルタ位置で測距を開始するが、該信号棄却率が0%でないときはそのフィルタ位置よりもフィルタ濃度を0超〜1%濃くして測距を開始するフィルタ位置調節手段と、前記フィルタ位置調節手段による前記可変濃度フィルタの位置調整後に、測距を行い、その信号棄却率を算出する測距及び棄却率算出手段と、前記測距及び棄却率算出手段後に、算出された測距値、前記フィルタ位置調節手段で得られた可変濃度フィルタのフィルタ位置、及び前記測距及び棄却率算出手段で算出された測距信号の信号棄却率、の測定データを前記記憶手段に格納させる測定データ記憶指示手段を設けた。
【0010】
(作用)一般的に、可変濃度フィルタのフィルタ位置は、大気の揺らぎの影響を受けるほど大気の揺らぎが小さい時よりも開いた位置(フィルタ濃度が薄い位置)に決まる傾向にあり、位置の調節も困難となる。
【0011】
しかし、過去の測定における測距値及び可変濃度フィルタのフィルタ位置の測定データを記憶手段に記憶しておき、短時間測定手段で得られたサンプル測距値と近い値(差異が1m以下)の測距値を過去の測定データから参照し、その中で最も閉じられたフィルタ位置を採用すれば、その直線距離の測定(測距)において最も大気の揺らぎの影響を受けていない最良のフィルタ位置で測定を行うことができるとともに、大気の揺らぎに影響されることなく最適なフィルタ位置をすばやく決めることができる。
【0012】
さらに、過去の測定における測距信号の信号棄却率の測定データも記憶しておけば、その信号棄却率が0%でない限り測距信号レベルが測距可能範囲を超える場合があるということなので、信号棄却率が0%で無い場合には、前記最良フィルタ位置からさらに可変濃度フィルタを若干量(0超〜1%)閉めることで、フィルタを閉めすぎることなく、測距可能範囲を超える信号をさらに減らせるので、より適したフィルタ位置で測定を行うことが可能となる。そして、係る調節を含めても、数回の調節でフィルタ位置が決定されるため、フィルタ位置調節に要する時間が長引くことはない。
【0013】
また、これにより、比較する過去の測定データが増えるほど(測距を行えば行うほど)、その測距に最適なフィルタ位置が学習されていくこととなる。
【0014】
さらに、フィルタ位置が最適となる分、測距手段において測距値算出に有効な測距信号のサンプルが数多く得られる(測距信号の信号棄却率が下がる)ので、略全てのサンプルデータを測距値算出に用いることができる。このため、従来の測距精度を保ちながらも測距回数を減らすことができるので、結果的に、測距に要する時間も短縮することができる。
【0015】
請求項2は、請求項1の光波距離計において、前記演算処理部に、今回の測距値と前記記憶手段に記憶されている測距値の差異が1m以下のもの同士の可変濃度フィルタのフィルタ位置を比較して、その中で前記可変濃度フィルタが最も閉じられたフィルタ位置を有する測定データ以外を削除する記憶データ削除手段を設けた。
【0016】
(作用)記憶手段に記憶されている過去の測定データのうち、測距値の値が近いもの(差異が1m以下)のなかで、可変濃度フィルタが最も閉じられたフィルタ位置データを有する測定データがその測距で最も大気の揺らぎの影響を受けなかった最良の測定データである。よって、係る最良の測定データ一組(測距値、可変濃度フィルタのフィルタ位置、信号棄却率)のみを残しそれ以外を削除することで、記憶手段の容量を効率良く空けられる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の光波距離計によれば、フィルタ位置設定時間が遅延することなく測距時間も短縮することができるので、全体の測距仕様時間が従来よりも大幅に短縮され、作業効率が格段に向上する。
【0018】
略同じ直線距離を測定するユーザにとっては、より早く最適なフィルタ位置が学習されるので、使い勝手が向上する。
【0019】
請求項2の光波距離計によれば、記憶手段の許容容量オーバーに伴う不具合が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明に係る光波距離計のブロック図。
【図2】従来の光波距離計で遠距離測距した場合のADコンバータでサンプリングされた測距信号波形の一例を示す図。
【図3】光波距離計と測定対象物の直線距離と可変濃度フィルタのフィルタ位置との関係を示す図であって、大気の揺らぎの影響を説明する図。
【図4】本願発明に係る測距の手順を示すフローチャート図。
【図5】従来の光波距離計のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、図1に基づいて光波距離計の最適な実施形態を説明する。図1は、本願発明に係る光波距離計のブロック図である。実施例の光波距離計は、以下に示す光送出手段100、光路切換手段102、受光手段(受光素子30)、ローカル信号送出手段101、演算処理部(CPU50)、及び記憶手段(記憶装置51)等を構成要素に含む。
【0022】
発振器1、分周器2、周波数重畳回路3,駆動回路4、負荷抵抗8、及び発光素子11は、図1に示すように順に接続されて、光送出手段100を構成する。
【0023】
発振器1は、所定の周波数を有する基準信号F1を発生させる。分周器2は、信号F1を分周して異なる周波数を有する信号F2,F3を発生させる。信号F1,F2,F3は、周波数重畳回路3によって重畳化される。電圧供給を受ける駆動回路4は、重畳化された信号(F1,F2,F3)に基づく交流信号によって発光素子11を駆動する。発光素子11は、一定の抵抗値を有する負荷抵抗8を介して直流電源でも駆動され、重畳化された信号(F1,F2,F3)の振幅で強度変調した光を送出させる。
【0024】
一方、PLL(Phase Locked Loop)5、ローカル信号発振器6、周波数生成回路7は、ローカル信号送出手段101を構成する。PLL5は、発振器1に接続され、ローカル信号発振器6は、双方向の信号線によってPLL5と接続される。周波数生成回路7は、発振器1とローカル信号発振器6にそれぞれ接続される。またローカル信号発振器6は、後述する周波数変換機32に接続され、周波数生成回路7は、後述する周波数変換器(35,38)に接続されている。
【0025】
ローカル信号発振器6は、PLL5を介して発振器1から基準信号F1を受けることにより、信号F1よりも微小値Δf1だけ周波数のずれた周波数信号F1+Δf1を周波数変換機32に出力する。周波数生成回路7は、発振器1から信号F1を受け、更にローカル信号発振器6から周波数信号F1+Δf1を受ける。そして、周波数生成回路7は、まず基準信号F1を信号F2,F3に分周すると共に、周波数信号F1+Δf1に基づいて、信号F2,F3よりも更に微小値Δf2、Δf3だけ周波数のずれた周波数信号F2+Δf2とF3+Δf3をそれぞれ出力する。周波数信号(F2+Δf2,F3+Δf3)は、それぞれ周波数変換器(35,38)に入力される。
【0026】
発光素子11から送出された光は、ビームスプリッタ20及び切換シャッター28からなる光路切換手段102によって択一的に出射される。即ち、ビームスプリッタ20で測距光路21方向と参照光路26方向に2つに分けられ、切換シャッター28を切り換えることにより、該シャッター28に遮光されていない方の光路に送出される。
【0027】
切換シャッター28によって参照光路26側が遮光されることにより、測距光路21へ送出した光は、測定地点に配置したプリズム等の目標反射物22によって測距光路23に反射される。該反射された光(以降は、測距光という)は、受光光学24(集光レンズ等)で集光され、可変濃度フィルタ25で光量調節を受けたあと受光素子30(光受光手段)によって受光される。
【0028】
可変濃度フィルタ25は、薄い円板状の透明体の受光光量調節手段であって、円周方向に光量減衰率が0%から99%まで連続的にフィルタ濃度が濃くなるように形成されている。これにより、円周方向の一端から円周方向の他端まで漸次光量の絞り効果が大きくなっていて、フィルタ濃度を濃くする方向に回転(フィルタを閉じる)またはフィルタ濃度を薄める方向に回転(フィルタを開ける)されて位置調節されることで、段階的に濃度調節される。なお、可変濃度フィルタ25の濃度変化は、直線的に変化しても、又二次曲線的に変化しても、或いは指数的に変化しても、角度変化と濃度変化の対応関係があれば良い。係るフィルタ位置調節は、後述するCPU50で制御されるアクチュエータ52(図示せず)等の駆動により円板が回転されることで行われる。
【0029】
一方、切換シャッター28を切り換えて測距光路21側が遮光されることにより、参照光路26へ送出した光(以降は、参照光という)は、開閉式の所定の光量減衰率の濃度フィルタ27によって一定の光量調節を受けたあと受光素子30によって受光される。
【0030】
受光素子30には増幅器31が接続され、信号(F1,F2,F3)毎に周波数変換機(32,35,38)、低域フィルタ(33,36,39)、ADコンバータ(34,37,40)が接続されている。ADコンバータ(34,37,40)はそれぞれCPU50に接続され、CPU50には記憶装置51が接続されている。また、CPU50は図示しないアクチュエータ52を介して可変濃度フィルタ25にも接続されている。
【0031】
受光素子30で受光された測距光と参照光は、それぞれ電気信号(測距信号,参照信号)として出力される。
【0032】
測距信号,参照信号はそれぞれ増幅器31で増幅されたあと、F1,F2,F3を示す信号毎に周波数変換機(32,35,38)にそれぞれ入力される。
【0033】
周波数変換器(32,35,38)は、測距信号または参照信号として入力された信号(F1,F2,F3)を、ローカル信号送出手段101側の周波数信号(F1+Δf1,F2+Δf2,F3+Δf3)と乗算して、より周波数帯が低く扱い易い中間周波信号(Δf1,Δf2,Δf3)を発生する。中間周波信号(Δf1,Δf2,Δf3)は、帯域フィルタ(33,36,39)によって高周波成分がノイズとして除去されて、ADコンバータ(34,37,40)に送られる。ここで、測距信号または参照信号は、電気信号からデジタル信号に変換されてCPU50に入力される。
【0034】
演算処理部であるCPU50では、入力された測距信号と参照信号のデジタル信号からそれぞれの信号振幅と位相情報が解析され、測距光と参照光の位相差により、光波距離計内部で発生する誤差が補正されて、光波距離計から目標反射物22までの直線距離(測距値)が算出される。
【0035】
また、CPU50では、係る測距値算出の過程において、後述する短時間測定手段、フィルタ位置調節手段、測距及び棄却率算出手段、及び測定データ記憶指示手段を行う。また、記憶装置51に対して後述する記憶データ削除手段を適宜行う。
【0036】
CPU50に接続された記憶手段である記憶装置51には、CPU50における測距値算出に必要な種々のプログラムが格納されているとともに、算出された測距値、フィルタ位置調節手段で得られた可変濃度フィルタ25のフィルタ位置、及び測距可能範囲を超えた測距信号のサンプル数を表す信号棄却率、の各測定データが格納される。
【0037】
以下、図2,図3に基づいて光波距離計の性質を説明し、図4のフローチャート図に基づいて実施例に係る光波距離計の測距の手順及び本願発明の特徴的部分である可変濃度フィルタ25の調節手段について詳細に説明する。
【0038】
一般的に、光波距離計には、仕様に応じて適正光量が定められている。具体的には、受光素子30を経て得られた測距信号レベルがCPU50で解析できる適正範囲(測距可能範囲)に収まるように、測距信号の最大振幅値と最小振幅値の閾値が予め設定され、記憶装置51に記憶されている。
【0039】
図2は、従来の光波距離計で遠距離測距した場合のADコンバータ(34,37,40)でサンプリングされた測距信号波形の一例を示す図であって、横軸は時間を、縦軸は測距信号の信号振幅を示す。受光素子30から得られた測距信号が規定の最大振幅値を超える信号は、CPU50にて測距算出に用いることができないデータとなって棄却される。測距時間内に得られた測距信号の全サンプル数のうち最大振幅値を超える信号の数の割合を信号棄却率という。
【0040】
信号棄却率が小さくなるように、CPU50は、短時間で得られた測距信号の数周期分のサンプリングデータから、短時間測距信号振幅を算出し、記憶装置51の設定値と比較して差を測定し、測距信号が閾値内に入るようにアクチュエータ52に制御信号を発することで、短時間測距信号振幅が最大振幅値よりも大きればフィルタを閉じる(フィルタ濃度を濃くする)方向に、逆に小さければフィルタを開ける(フィルタ濃度を薄める)方向にフィルタ位置を段階的に調節する。係る調節が1回以上行われて、可変濃度フィルタ25がその直線距離の測定に適したフィルタ位置に設定されると、測距が開始される。
【0041】
しかし、一般的に目標反射物22までの直線距離と可変濃度フィルタ25のフィルタ位置の関係は図3のようになる。図3は、光波距離計と測定対象物22との直線距離と可変濃度フィルタ25のフィルタ位置との関係を示す図であって、大気の揺らぎの影響を説明する図である。横軸は光波距離計から目標反射物22までの直線距離を、縦軸は可変濃度フィルタ25のフィルタ位置、即ちフィルタの濃度を表している。図3より、
(i)光波距離計から目標反射物22までの距離が近い場合(近距離測距の場合)は、可変濃度フィルタ25は閉じる方向に制御される。
(ii)測距時の大気の揺らぎが大きいと、測距光路が曲げられ、測距光の測距信号が減衰し、可変濃度フィルタ25は大気の揺らぎが小さいときよりも開いた位置に決定される。
(iii)光波距離計から目標反射物22までの距離が遠い(遠距離測距)ほど、大気の揺らぎの影響を大きく受ける。
【0042】
ことが分かる。このため、特に遠距離測距の場合には、大気の揺らぎの影響を大きく受けて、可変濃度フィルタ25のフィルタ位置の調節が困難となる。
【0043】
これに対して、可変濃度フィルタ25の初期フィルタ位置を初めから開いた位置にセットすれば、大気の揺らぎが大きい時には最適なフィルタ位置に早く設定される可能性は高くなるが、逆に大気の揺らぎが小さい時や目標反射物22までの距離が近い時には測距信号レベルが測距可能範囲を超えてしまい、信号棄却率が高くなる。また、測距信号レベルが測距可能範囲を超過しないように可変濃度フィルタ25の初期フィルタ位置を初めから閉じた位置にセットすると、過度にフィルタが閉じられてしまうため、測距信号の信号雑音比が上がりやはり測距精度が悪くなるという問題が生じる。
【0044】
ここで、測距時の大気の揺らぎが大きい状況であっても、過去にその距離で大気揺らぎが小さかった時の可変濃度フィルタ25のフィルタ位置データがあれば、そのフィルタ位置が、その距離にとって適したフィルタ位置である。そして、その測距値において、今までで最も大気の揺らぎの影響を受けなかったフィルタ位置とは、最も閉じられたフィルタ位置であることが分かる。
【0045】
即ち、過去の測距値、フィルタ位置の測定データを一組として記憶しておけば、同じような(近い値の)測距値同士を比較して、その中で最も閉じられた最良のフィルタ位置を採用することができる。
【0046】
さらに、過去の測定における測距信号の信号棄却率の測定データも併せて記憶しておけば、その信号棄却率が0%でない限り、測距信号レベルが測距可能範囲を超える場合があるということである。そこで、過去の最良フィルタ位置からさらに可変濃度フィルタ25を若干量閉めることで、過度にフィルタを閉めることなく、測距可能範囲を超える測距信号を減らすことができるので、より適したフィルタ位置で測定することが可能となる。
【0047】
以下、図4のフローチャート図に基づいて、実施例に係る光波距離計の測距の手順を詳細に説明する。
【0048】
測距を開始すると、前記符号100、101、102を経て受光素子30で受光された測距信号または参照信号は、符号31〜40を経てCPUに入力され、CPU50で短時間測定手段が開始される。
【0049】
短時間測定手段では、短時間で得られた測距信号の数周期分のサンプリングデータから従来通り短時間測距信号振幅を算出するが、これに加えて、サンプリングデータから測距値も算出する(以下、これをサンプル測距値という)。
【0050】
次に、従来通り、短時間測距信号振幅値と記憶装置51に記憶されている最大振幅値、最小振幅値とが比較されて、その差が測定され、測距信号が閾値内に入るように制御信号が出され、アクチュエータ52により可変濃度フィルタ25が短時間測定から最適とされる位置(初期フィルタ位置)に設定される。
【0051】
次に、フィルタ位置調節手段が開始される。
【0052】
フィルタ位置調節手段では、始めに、短時間測定手段で得られたサンプル測距値と記憶装置51に記憶されている過去の測距値とを照らし合わせ、サンプル測距値との差異が1m以内の近い値の測距値データが記憶装置51に記憶されているかを探索する。ここで、近い値か否かの判断を差異1m以内とするのは、十分信頼できる精度が得られることと記憶装置51の記憶容量のバランスの観点からである。なお、記憶装置51の記憶容量を10倍にして差異を0.1m以内とすれば、より精度が上がるため好ましい。
【0053】
記憶装置51内に差異が1m以内の測距値データが無いときは、今回のサンプル測距値の距離は初めて測定する直線距離であるので、初期フィルタ位置のまま、測距及び棄却率算出手段に移る。
【0054】
一方、記憶装置51内に差異が1m以内の測距値データがあるときは、今回のサンプル測距値の距離は2回目以上の測定となるので記憶装置51内に過去の測定データが存在する。そこで、まず、差異が1m以内の測距値データの中から可変濃度フィルタ25が最も閉じているフィルタ位置を判定し、これを二次フィルタ位置として可変濃度フィルタ25を再設定する。次に、二次フィルタ位置に採用された測定における信号棄却率を記憶装置51から参照する。
【0055】
二次フィルタ位置に採用された測定の信号棄却率が0%であるときは、その距離に対して二次フィルタ位置を採用すれば、測距信号レベルが測距可能範囲を超えることは無いということを意味するので、二次フィルタ位置がその測距における最適なフィルタ位置である。よって、二次フィルタ位置のまま測距及び棄却率算出手段に移る。
【0056】
逆に、信号棄却率が0%でないときは二次フィルタ位置を採用してもまだ測距可能範囲を超える信号があることを意味する。よって、より適したフィルタ位置となるように、フィルタ濃度をさらに若干量、具体的には1%(より好ましくは0.1%)閉め、フィルタ濃度を一段濃くした位置(三次フィルタ位置)に再調節して測距及び棄却率算出手段に移る。
【0057】
これにより、二次フィルタ位置よりも一段光量が減衰され、得られる測距信号の信号振幅が小さくなるため、信号棄却率をより0%に近づけることができる。また、その距離に対して可変濃度フィルタ25が過度に濃くなることもない。
【0058】
フィルタ位置調節手段によって場合に応じて可変濃度フィルタを調整すると、測距及び棄却率算出手段にて、測距を行い、得られた測距信号と参照信号の位相差から目標対象物22までの測距値を算出し、得られた測距信号から係る測距における信号棄却率を算出する。ここで、係る測距で得られた測距信号は、従来の光波距離計で得られる測距信号よりも信号棄却率が非常に低いので、従来のサンプル数よりも測定回数が少なくて済む。
【0059】
最後に、測定データ記憶指示手段にて、算出された測距値、フィルタ位置調節手段で得られた可変濃度フィルタ25のフィルタ位置、及び算出された測距信号の信号棄却率を記憶手段51に格納して、測距が終了する。
【0060】
以上により、短時間測定手段で得られたサンプル測距値を利用して、これと近い値がある場合には、過去の測距値の中から最も閉じられたフィルタ位置を参照することで、大気の揺らぎに影響されることなく、最大でも3回の調節ですばやく最適なフィルタ位置を決めることができるので、フィルタ位置調節のための時間が長引くことはない。
【0061】
また、測距信号の信号棄却率を利用して、信号棄却率が0%でなければフィルタ位置をさらに再設定するため、測定を行えば行うほど信号棄却率が0%に近づいて、最適なフィルタ位置が学習されていく。
【0062】
さらに、フィルタ位置が最適となる分、測距可能範囲内(閾値内)の測距信号が増えるので、測距で得られた略全てのサンプルデータを測距値算出に用いることができる。このため、従来の測距精度を保ちながらも測距回数(測距信号のサンプル数)を減らすことができるので、本願発明の光波距離計では、測距に要する時間も短縮することができる。
【0063】
また、いずれの直線距離の測定においても、比較する過去の測定データが増えるほど(測距を行えば行うほど)、大気の揺らぎの影響が小さくなるように可変濃度フィルタが徐々に閉じられていくので、大気の揺らぎの影響を受けなくなっていく(図3破線矢印)。
【0064】
よって、フィルタ位置設定時間が遅延することはなく、さらに測距時間も短縮することができるので、全体の測距仕様時間が従来よりも大幅に短縮され、ユーザーにとっては作業効率が格段に向上する。
【0065】
また、略同じ直線距離を測距するユーザにとっては、より早く最適なフィルタ位置が学習されるので、測距仕様時間が極めて短くなり、使い勝手が向上する。
【0066】
また、記憶手段51の記憶容量には限度があるため、測距ごとに測定データが蓄積されていくと、容量不足による動作遅延やフリーズ等の不具合が生じる恐れがある。そこで、CPU50は、記憶データ削除手段で、適宜不要な測定データを削除する。
【0067】
過去の測定データのうち、今回の測距値と値が近いもののなかで、最も閉じられた可変濃度フィルタ25のデータを有する測定データが、その測距値で最も大気の揺らぎの影響を受けなかった最良の測定データであるので、これ以外の測定データは不要である。
【0068】
そこで、記憶データ削除手段では、今回の測距値と容量記憶装置51に記憶されている過去の測距値の差異が1m以下のもの同士の可変濃度フィルタ25のフィルタ位置を比較して、その中で可変濃度フィルタ25が最も閉じられたフィルタ位置を有する一組の測定データ(測距値、可変濃度フィルタ25のフィルタ位置、信号棄却率)以外の測定データを、例えば測距終了のタイミングで削除する。
【0069】
これにより、記憶装置51手段の容量が効率良く空くので、許容容量オーバーに伴う不具合は生じない。
【符号の説明】
【0070】
11 発光素子
22 目標反射物
21、23 測距光路
25 可変濃度フィルタ
26 参照光路
30 受光素子(受光手段)
50 CPU(演算処理部)
51 記憶装置(記憶手段)
100 光送出手段
102 光路切換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変調周波数で変調された光を送出する光送出手段と、該光送出手段の光を測定地点に配置した目標反射物または参照光路のうち選択された一方に送出する光路切換手段と、
前記目標反射物で反射された測距光の測距光路間に配置され、連続的な濃度勾配を有する受光光量調整用の可変式受光濃度フィルタと、
前記測距光または前記参照光路を通過した参照光を受光して測距信号または参照信号を出力する受光手段と、
前記測距信号と参照信号の位相差によって目標反射物までの直線距離である測距値を算出する演算処理部と、を備えた光波距離計において
測距ごとに、少なくとも算出された測距値、前記可変濃度フィルタのフィルタ位置、及び受光光量が測距可能範囲を超えた前記測距信号のサンプル数と測距に用いるサンプル数との比を表す信号棄却率、の測定データを記憶する記憶手段を設け、
前記演算処理部に、
前記測距信号の少なくとも1周期分を含むサンプリングデータから短時間測距信号振幅およびサンプル測距値を算出する短時間測定手段と、
前記記憶手段に記憶されている過去の測距値を参照し、前記短時間測定手段で得られたサンプル測距値との差異が1m以下の測距値データが無いときは通常の測距を開始し、差異が1m以下の測距値データがあるときは、該測距値データの中から可変濃度フィルタが最も閉じられたフィルタ位置を参照し、該フィルタ位置に前記可変濃度フィルタを設定するとともに、該フィルタ位置での信号棄却率を前記記憶手段から参照し、該信号棄却率が0%であるときはそのフィルタ位置で測距を開始するが、該信号棄却率が0%でないときはそのフィルタ位置よりもフィルタ濃度を0超〜1%濃くして測距を開始するフィルタ位置調節手段と、
前記フィルタ位置調節手段による前記可変濃度フィルタの位置調整後に、測距を行い、その信号棄却率を算出する測距及び棄却率算出手段と、
前記測距及び棄却率算出手段後に、算出された測距値、前記フィルタ位置調節手段で得られた可変濃度フィルタのフィルタ位置、及び前記測距及び棄却率算出手段で算出された測距信号の信号棄却率、の測定データを前記記憶手段に格納させる測定データ記憶指示手段が設けられたことを特徴とする光波距離計。
【請求項2】
前記演算処理部に、今回の測距値と前記記憶手段に記憶されている測距値の差異が1m以下のもの同士の可変濃度フィルタのフィルタ位置を比較して、その中で前記可変濃度フィルタが最も閉じられたフィルタ位置を有する測定データ以外を削除する記憶データ削除手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光波距離計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−103192(P2012−103192A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253651(P2010−253651)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000148623)株式会社 ソキア・トプコン (114)
【Fターム(参考)】