説明

光硬化性組成物、その湿式有機太陽電池用シーリング材としての使用、及び湿式有機太陽電池

【課題】光硬化時のガス放出量が極めて少なく、封止性、密着性、耐薬品性などに優れ、湿式有機太陽電池の電解液を封止するのに適した光硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】単官能(メタ)アクリレート、飽和熱可塑性エラストマー及び光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、該単官能(メタ)アクリレートが炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートで、該飽和熱可塑性エラストマーがスチレン−イソブチレンジブロック共重合体を40質量%以上の割合で含有するもので、該飽和熱可塑性エラストマーの含有割合が単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して30〜80質量部の範囲内で、かつ、特定の粘弾性特性を有する光硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物に関し、さらに詳しくは、特に湿式有機太陽電池における電解液のシーリング材として優れた特性を示す光硬化性組成物に関する。また、本発明は、該光硬化性組成物の湿式有機太陽電池用シーリング材としての使用に関する。さらに、本発明は、該光硬化性組成物から形成された光硬化物層をシーリング層とする湿式有機太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式有機太陽電池は、従来の太陽電池のようにシリコン半導体膜を使用せず、有機色素などの有機化合物を光電変換層として用いて太陽光から電気を取り出す新しい太陽電池である。湿式有機太陽電池を代表する色素増感型太陽電池は、低コストで製造することができることに加えて、プラスチックフィルム基板を用いることにより薄型化や屈曲性の付与が可能なこと、様々な色素分子を使用することによりカラフルな太陽電池を作製することができること、自動車や衣類、カーテンなどに簡単に装着できることなど、多彩な特徴を有している。
【0003】
近年、色素増感型太陽電池などの湿式有機太陽電池の実用化に向けて、エネルギー変換効率の向上に関する研究開発が進められているが、その実用化を進める上で、電解液を封入するのに適したシーリング材の開発が欠かせない重要課題のひとつとなっている。湿式有機太陽電池は、一般に、2枚の導電性基板間に電解液が封入された構造を有している。電解液の封入には、シーリング材が用いられるため、シーリング材の封止性や電解液に対する耐性の向上が、湿式有機太陽電池の信頼性と耐久性を高める上で不可欠である。
【0004】
より具体的に説明すると、湿式有機太陽電池として代表的な色素増感型太陽電池は、例えば、図1に示す構造を有している。図1は、色素増感型太陽電池の一例の基本構造を示す断面図である。ガラスまたはプラスチックフィルムからなる透明基板1の片面に、透明導電膜2が形成されており、該透明導電膜2の上に、二酸化チタン粒子などの金属酸化物半導体粒子を焼き付けた金属酸化物半導体層4が形成されている。金属酸化物半導体層4は、通常、多孔質構造を有しており、その表面及び多孔質構造の内部に多数の色素3が吸着されている。
【0005】
上記の「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する第一導電性基板(作用電極基板)に対向して、基板8上に導電膜(導電層)7を形成した「導電膜/基板」の層構成を有する第二導電性基板(対極基板)が配置されている。両導電性基板は、各導電膜側で対向して、これらの導電性基板の周辺部に枠状に設けられたシーリング層6を介して配置されている。
【0006】
導電膜(導電層)7自体が第二導電性基板としての役割を果たす場合には、基板8を省略することができる。色素増感型太陽電池が1枚の透明基板に直列構造セルを形成させたモノリシック型である場合には、第二導電性基板に代えて、導電膜を有しない第二基板を用いることができる。モノリシック型で用いる第二基板は、透明であっても、不透明であってもよい。
【0007】
シーリング層は、一般に、シーリング材により形成されているが、固体のスペーサーが用いられたり、固体のスペーサーと接着剤とが併用されたりすることがある。シーリング層6により形成された両導電性基板間の隙間に、様々な方法により電解液5を封入する。電解液5としては、一般に、有機溶媒に電解質を溶解した溶液が用いられている。このような電解液としては、例えば、ヨウ素とヨウ化リチウムとを含有するアセトニトリル/エチレンカーボネート混合溶液が代表的なものである。
【0008】
色素増感型太陽電池に光を当てると、先ず、色素3が光を吸収して、電子を放出する。電子は、金属酸化物半導体層4に素早く移動し、そこから透明導電膜2を伝わり、さらに回路9及び11を経て、対極の導電膜7に伝わる。対極の導電膜7に伝わった電子は、電解液中の三ヨウ化物イオン(I)を還元して、ヨウ化物イオン(I)に変換する。ヨウ化物イオンは、色素3上で再び酸化されて三ヨウ化物イオンとなる。このようにして、色素増感型太陽電池内では、酸化−還元反応のサイクルが繰り返される。
【0009】
このサイクルを繰り返すことにより、回路9及び11に電流が流れる。回路9及び11を負荷(例えば、モーター、照明機器)10に接続すれば、色素増感型太陽電池から電気エネルギーを取り出すことができる。充放電過程で電荷輸送に関与する電解質としては、ヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせ以外にも、様々なレドックス系を用いることができるが、その場合にも、同様の酸化−還元反応のサイクルが繰り返される。
【0010】
シーリング層6の封止性が悪いと、電解液が漏れやすくなる。初期の封止性が良好であっても、シーリング層6の電解液に対する耐性が不十分であると、経時により電解液によって膨潤したり、電解質との反応によって劣化したりする。その結果、電解液が漏れたり、電解質濃度が低下したりするため、色素増感型太陽電池の信頼性と耐久性が著しく低下する。
【0011】
シーリング層6が単官能(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物などの反応性シーリング材を用いて形成されている場合、光硬化などの反応時にガス放出をしやすいという問題のあることが判明した。反応性シーリング材からのガス放出量が多いと、シーリング層の信頼性を損なう上、放出したガス成分によって色素増感型太陽電池の性能に悪影響を及ぼす。
【0012】
色素増感型太陽電池の基本原理や構造については、例えば、特許第2664194号公報(特許文献1)及び特公平8−15097号公報(特許文献2)に詳細な開示がある。電解液の封止方法について、特許文献1には、合成樹脂やガラスなどの電気絶縁材料からなる枠を用いて封止する方法が記載されている。特許文献2には、シーラントとして、シリコン接着剤、ポリエチレン及びエポキシ樹脂を用いることが記載されている。
【0013】
特開2000−30767号公報(特許文献3)には、色素増感型太陽電池の電解液注入用開口部をシリコン樹脂やエポキシ樹脂で封止する方法が記載されている。特開2000−150005号公報(特許文献4)には、色素増感型半導体電極が形成されたチタン基板と、白金が蒸着されたITO薄膜の付いたガラス基板とを、スペーサー(ポリエステルフィルム)を介して張り合わせ、その隙間にヨウ素電解液をいれ、周囲にエポキシ樹脂を塗布し硬化させて接合した構造を有する色素増感型太陽電池が記載されている。特開2000−294814号公報(特許文献5)には、色素増感型太陽電池の電極間の4辺の端部にスペーサー(ポリテトラフルオロエチレンシート)を挟み、注入口2箇所を残し周囲をエポキシ接着剤でシールした構造を有する色素増感型太陽電池が記載されている。
【0014】
しかし、固体のスペーサーは、2枚の導電性基板間に圧縮された状態で配置されているため、経時により弾力性が損なわれて、シールとしての信頼性が低下しやすい。シリコン樹脂やエポキシ樹脂などのシーラントは、色素増感型太陽電池の電解液により侵されやすく、長期間にわたって電解液と接触することにより、膨潤したり、劣化したりして、電解液が漏れることがある。
【0015】
特開2000−186114号公報(特許文献6)には、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体またはそのアイオノマーを太陽電池素子封止材料として使用する方法が提案されている。同様に、特開2001−144313号公報(特許文献7)には、エチレン−極性モノマー共重合体にカップリング剤を配合した樹脂組成物を太陽電池素子封止材料として使用する方法が提案されている。
【0016】
特許文献6及び7に開示されている封止方法は、樹脂材料を押出成形またはプレス成形によりシートに成形し、該シートを所定形状に打抜き加工し、次いで、打抜き加工品を樹脂材料の溶融温度に加熱して基板に圧着させるというものである。特許文献6及び7には、太陽電池モジュールとして、シリコン、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレンなどの半導体を用いたものが開示されているだけであって、電解液を用いる湿式太陽電池である色素増感型太陽電池については記載されていない。
【0017】
特許文献6及び7に開示されているアイオノマーの如き樹脂材料は、シーリング材として使用するために、予め所定形状に打抜き加工する必要がある。該樹脂材料は、固体でかつ溶剤に難溶性であることから、スクリーン印刷などのパターン印刷技術により導電性基板上に塗工してシーリングパターンを形成することができない。そのため、該樹脂材料を使用する方法は、製造工程が多く、打抜き加工による歩留まりの低下もある。
【0018】
しかも、該樹脂材料の打抜き加工品を基板に接着させるには、該打ち抜き加工品を樹脂材料の溶融温度にまで加熱する必要がある。色素増感型太陽電池における導電性基板の封止は、各導電性基板の導電膜側で行われるが、作用電極基板の導電膜上には、色素を吸着した金属酸化物半導体膜が存在している。色素増感型太陽電池に使用する色素は、必ずしも高度の耐熱性を有するものだけではないので、封止加工の際の加熱により色素が劣化もしくは破壊されないようにする必要がある。そのため、樹脂材料の打ち抜き加工品を用いて封止する方法は、実際の適用が困難である。
【0019】
色素増感型太陽電池では、電解質としてヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせが用いられることが多い。ヨウ素は、電解液中ではヨウ素イオンの形で存在しているが、金属イオンで架橋したアイオノマーは、ヨウ素イオンと反応する。そのため、アイオノマーを封止材料として用いると、経時により電解液中のヨウ素イオン濃度が低下するおそれがある。
【0020】
特開2004−311036号公報(特許文献8)には、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有するイソプレン重合体を主成分とする色素増感型太陽電池用封止組成物が開示されている。特許文献8には、該封止組成物に、希釈剤としてイソボルニルアクリレートを添加することや、光重合開始剤を添加することが記載されている。そのため、該封止組成物は、導電性基板上に所望の形状に塗布し、光硬化させることができる。しかし、該封止組成物は、光硬化後にも、イソプレンに由来する炭素−炭素二重結合が主鎖中に存在するため、この二重結合と電解液中のヨウ素が反応して、ヨウ素濃度の低下による色素増感型太陽電池の性能低下や封止層の接着性低下が生じるおそれがある。さらに、希釈剤として使用するイソボルニルアクリレートは、光硬化時にガスとなって揮散しやすいことが判明した。
【0021】
特開2005−154528号公報(特許文献9)には、炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレート100重量部、イソボルニル(メタ)アクリレート5〜10重量部、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体5〜30重量部、及びラジカル開始剤1〜10重量部からなる硬化性組成物が開示されている。特許文献9には、該硬化性組成物を色素増感型太陽電池などの封止剤に適用することが記載されている。しかし、該硬化性組成物は、粘度が高く、かつ、チキソトロピー化剤の添加が困難であるため、スクリーン印刷などのパターン印刷技術を適用して、導電性基板上に所望の形状のシーリングパターンを形成することが困難である。その上、特許文献9の実施例で使用されているイソボルニルアクリレートは、光硬化時にガスとなって揮散しやすい。
【0022】
特開2005−302564号公報(特許文献10)には、分子内に炭素数10〜20の直鎖脂肪族炭化水素を有する(メタ)アクリレート100重量部、脂環式(メタ)アクリレート5〜15重量部、無水マレイン酸変性水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体10重量部以上、及び光重合開始剤を含有する光硬化性の色素増感型太陽電池用シール剤が開示されている。特許文献10の実施例では、脂環式(メタ)アクリレートとして、イソボルニルアクリレートやシクロヘキシルアクリレートが用いられているが、両者共に光硬化時にガスとなって揮散しやすいことが判明した。
【0023】
特開2007−106822号公報(特許文献11)には、イソボルニルアクリレートとアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートとを含むモノマー成分、飽和熱可塑性エラストマー、及び光重合開始剤を含有する光硬化性組成物が開示されている。特許文献11には、該光硬化性組成物を色素増感型太陽電池のシーリング材として使用することが記載されている。しかし、特許文献11の光硬化性組成物が含有しているイソボルニルアクリレートは、光硬化時にガスとなって揮散しやすいことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特公平8−15097号公報
【特許文献3】特開2000−30767号公報
【特許文献4】特開2000−150005号公報
【特許文献5】特開2000−294814号公報
【特許文献6】特開2000−186114号公報
【特許文献7】特開2001−144313号公報
【特許文献8】特開2004−311036号公報
【特許文献9】特開2005−154528号公報
【特許文献10】特開2005−302564号公報
【特許文献11】特開2007−106822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の課題は、封止性、被着物に対する密着性、耐薬品性などに優れた光硬化性組成物を提供することにある。より具体的に、本発明の課題は、色素増感型太陽電池に代表される湿式有機太陽電池の電解液を封止するのに適した光硬化性組成物を提供することにある。特に、本発明の課題は、基板に対する接着性に優れていることに加えて、光硬化時のガス放出量が極めて少なく、湿式有機太陽電池の性能に悪影響を及ぼすことのない光硬化性組成物を提供することにある。色素増感型太陽電池などの湿式有機太陽電池のタイプに応じて、基板には、導電膜を形成した導電性基板、導電膜単独からなる基板、及び導電膜のない基板が含まれる。
【0026】
本発明の他の課題は、このような優れた特性を有する光硬化性組成物の湿式有機太陽電池用シーリング材としての使用を提供することにある。本発明の更なる他の課題は、該光硬化性組成物から形成された光硬化物層をシーリング層として備えた湿式有機太陽電池を提供することにある。
【0027】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレート、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を特定割合で含有する飽和熱可塑性エラストマー、及び光重合開始剤を含有し、かつ、特定の粘弾性特性を示す光硬化性組成物が、湿式有機太陽電池の電解液を封止するのに適したシーリング材となり得ることを見出した。本発明の光硬化性組成物は、その光硬化物が基板に対する接着性に優れていることに加えて、光硬化時のガス放出量が極めて少なく、湿式有機太陽電池の性能に悪影響を及ぼすことがない。
【0028】
光重合性モノマーとして炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物は、光硬化時のガス放出量が少ないものの、その光硬化物は、電解液に含まれるヨウ素などの電解質や溶剤に対する耐性が十分ではない。この光硬化性組成物にイソボルニルアクリレートを含有させると、電解質や溶剤に対する耐性に優れた硬化物を形成し得る光硬化性組成物を得ることができるものの、光硬化時にガス放出量が多くなり、湿式有機太陽電池の性能に悪影響を及ぼす。イソボルニルアクリレートの含有割合を増大させると、硬化物が硬くて脆くなり、基板に対する接着性が低下する。
【0029】
他方、光硬化性組成物は、スクリーン印刷によって基板上に塗工できるものであることが、作業性や生産性の観点から強く望まれている。光重合性モノマー成分のみでは、粘度が低すぎて、スクリーン印刷適性に優れた光硬化性組成物を得ることができない。光重合性モノマーと光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物に、飽和熱可塑性エラストマーを含有させることにより、粘度を調節して、スクリーン印刷適性を持たせることができる。しかし、単に飽和熱可塑性エラストマーを含有させるだけでは、スクリーン印刷適性、基板に対する接着性、電解質や溶剤に対する耐性、光硬化時のガス放出量の抑制などの諸特性が高度にバランスした光硬化性組成物を得ることは困難である。
【0030】
そこで、本発明者らは、さらに研究を行ったところ、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートと、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を40質量%以上の割合で含む飽和熱可塑性エラストマーとを特定割合で組み合わせて用いることにより、スクリーン印刷適性に優れ、ヨウ素などの電解質や溶剤に対する耐性に優れた光硬化物層を形成することができ、該光硬化物層の基板に対する接着力が十分であり、その上、光硬化時のガス放出量が極めて少ない光硬化性組成物の得られることを見出した。
【0031】
本発明の光硬化性組成物は、スクリーン印刷に適した粘弾性を有しており、基板へのシーリング材としての適用が容易である。本発明の光硬化性組成物は、電子線などの電離放射線を照射することにより、加熱することなく硬化させることができるため、色素増感型太陽電池の色素などの有機化合物を劣化させることがない。本発明の光硬化性組成物は、シーリング材としての適用時にガス放出量が少ないため、電池性能に悪影響を及ぼすことがない。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明によれば、単官能(メタ)アクリレート、飽和熱可塑性エラストマー、及び光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、
(a)該単官能(メタ)アクリレートが、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートであり、
(b)該飽和熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を、該飽和熱可塑性エラストマーの全質量を基準として、40質量%以上の割合で含有するものであり、
(c)該飽和熱可塑性エラストマーの含有割合が、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、30〜80質量部の範囲内であり、
(d)該光重合開始剤の含有割合が、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内であり、
(e)測定治具として直径25mmのコーンプレートを備えた粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数2rpmの条件下で測定した該光硬化性組成物の粘度(V)が、30〜300Pa・sの範囲内であり、並びに、
(f)該粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数20rpmの条件下で測定した該光硬化性組成物の粘度(V20)に対する前記粘度(V)の比(V/V20)が、1.3〜20の範囲内にある
ことを特徴とする光硬化性組成物が提供される。
【0033】
また、本発明によれば、該光硬化性組成物の湿式有機太陽電池用シーリング材としての使用が提供される。
【0034】
さらに、本発明によれば、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機化合物からなる光電変換層が配置された構造を有する湿式有機太陽電池において、該シーリング層が、該光硬化性組成物から形成された光硬化物層であることを特徴とする湿式有機太陽電池が提供される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、封止性、被着物に対する密着性、耐薬品性などに優れた光硬化性組成物が提供される。本発明によれば、湿式有機太陽電池の電解液を封止するのに適した光硬化性組成物が提供される。本発明の光硬化性組成物は、スクリーン印刷適性、基板に対する接着性、電解液に対する耐性、光硬化時のガス放出量の抑制などの諸特性が高度にバランスしたものである。
【0036】
本発明の光硬化性組成物は、スクリーン印刷によって基板上に塗工できる上、導電性基板を含む各種基板に対する接着性に優れている。本発明の光硬化性組成物は、光硬化時におけるガス放出量が極めて少なく、信頼性に優れるシーリング層を形成することができ、かつ、放出したガス成分によって湿式有機太陽電池の性能に悪影響を及ぼすことがない。
【0037】
本発明の光硬化性組成物を湿式有機太陽電池のシーリング材として用いることにより、光硬化時のガス放出による電池性能の低下を抑制しながら、封止性と電解液に対する耐性に優れたシーリング層を有する湿式有機太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】色素増感型太陽電池の基本構造の一例を示す断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では、光重合性モノマーとして、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートを使用する。本発明の光硬化性組成物は、イソボルニルアクリレートやシクロヘキシルアクリレートなどの比較的低沸点でガス放出しやすい光重合性モノマーを含有しない。
【0040】
炭素数が15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートとは、炭素数が15〜26である脂環族または脂肪族のアクリレートまたはメタクリレート若しくは両者の混合物を意味する。すなわち、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/またはメタクリレートを意味する。単官能とは、光重合性の炭素−炭素二重結合の数が1つであること、換言すれば、(メタ)アクリロイル基が1つであることを意味する。脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートとは、エステル残基〔−C(=O)ORのR〕が脂環族基または脂肪族基である(メタ)アクリレートを意味する。脂環族基または脂肪族基は、カルボキシル基などの極性基を持っていない炭化水素基である。
【0041】
単官能(メタ)アクリレートの炭素数が少なすぎると、その沸点が低くなるため、光硬化性組成物の製造工程や光硬化性組成物の塗工を含む湿式有機太陽電池の製造工程などを低温条件下で行う必要があり、これらの製造条件が制約を受ける。炭素数が少なすぎる単官能(メタ)アクリレートを用いると、光硬化性組成物の光硬化時にガス放出量が多くなることがある。他方、炭素数が多すぎる単官能(メタ)アクリレートを用いると、光硬化性組成物の基板への接着性が低下する。
【0042】
単官能(メタ)アクリレートの炭素数は、15〜26の範囲内であり、好ましくは16〜25、より好ましくは17〜22である。単官能(メタ)アクリレートの炭素数が上記範囲内にあることによって、他の成分との組み合わせと相俟って、光重合性組成物の基板に対する接着力とシーリング材としての信頼性を十分なものとすることができる。
【0043】
炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートには、例えば、n−ラウリルアクリレート(炭素数15)、イソミリスチルアクリレート(炭素数17)、n−ステアリルアクリレート(炭素数21)、イソステアリルアクリレート(炭素数21)、ベヘニルアクリレート(炭素数25)などのアクリレート類;n−ラウリルメタクリレート(炭素数16)、イソミリスチルメタクリレート(炭素数18)、n−ステアリルメタクリレート(炭素数22)、イソステアリルメタクリレート(炭素数22)、ベヘニルメタクリレート(炭素数26)などのメタクリレート類;が含まれる。
【0044】
脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートの中でも、脂肪族(メタ)アクリレートが好ましい。単官能(メタ)アクリレートの中でも、上記のアクリレート類が好ましい。アクリレート類の中でも、イソステアリルアクリレート及びイソミリスチルアクリレートが好ましく、基板に対する接着性の観点からイソステアリルアクリレートが特に好ましい。
【0045】
本発明の光硬化性組成物には、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートに加えて、所望により、少量の多官能(メタ)アクリレートを含有させてもよい。多官能(メタ)アクリレートを含有させることにより、光硬化性組成物から形成されたシーリング層の耐溶剤性が更に向上する。多官能(メタ)アクリレートとは、二官能以上の多官能アクリレート及び/またはメタクリレートを意味する。二官能以上の多官能(メタ)アクリレートとは、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを意味する。
【0046】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどのジアクリレート類;1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−プタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのトリアクリレート類;トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート類;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリメチロールプロパンポリアクリレートなどの四官能以上のアクリレート類;が挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレートの中でも、ジアクリレート類やジメタクリレート類などの二官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0047】
多官能(メタ)アクリレートは、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、10質量部までの割合で添加する。多官能(メタ)アクリレートを使用する場合には、その添加割合は、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜7質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部である。多官能(メタ)アクリレートの添加割合が過小であると、耐溶剤性の改善効果が少なく、過大であると、接着強度が低下したり、光硬化物の柔軟性が低下したりする。本発明の光重合性組成物は、通常、多官能(メタ)アクリレートを含有させなくても、良好な諸特性を発揮することができる。
【0048】
本発明の光硬化性組成物には、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートに加えて、所望により、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートを小割合で含有させてもよい。カルボキシル基含有(メタ)アクリレートを含有させることにより、光硬化性組成物から形成されたシーリング層の基板に対する接着性がさらに向上する。カルボキシル基含有(メタ)アクリレートとは、分子中にカルボキシル基を持つアクリレート及び/またはメタクリレートを意味する。
【0049】
カルボキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレートなどのアクリレート類;2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのメタクリレート類;が挙げられる。これらのカルボキシル基を含有する(メタ)アクリレートの中でも、アクリレート類が好ましい。
【0050】
カルボキシル基含有(メタ)アクリレートは、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、10質量部までの割合で添加する。カルボキシル基含有(メタ)アクリレートを使用する場合、その添加割合は、前記単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜8質量部、特に好ましくは1〜7質量部である。カルボキシル基含有(メタ)アクリレートの添加割合が過小であると、基板に対する接着性の改善効果が少なく、過大であると、電解液に対する耐性が低下する傾向にある。本発明の光重合性組成物は、通常、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートを含有させなくても、良好な諸特性を発揮することができる。
【0051】
本発明で使用する飽和熱可塑性エラストマーとは、主鎖及び側鎖に炭素−炭素二重結合などのラジカル反応性の不飽和結合を実質的に含有しない未架橋の熱可塑性エラストマーを意味する。飽和熱可塑性エラストマーは、芳香族環を有するものであってもよい。本発明の光硬化性組成物に飽和熱可塑性エラストマーを含有させることにより、スクリーン印刷に適した粘度に調整することができる。
【0052】
光重合性モノマー成分のみでは、粘度が低すぎるため、スクリーン印刷適性を有する光硬化性組成物を得ることができない。本発明者らが検討した結果、飽和熱可塑性エラストマーを添加することにより、スクリーン印刷適性を付与し、さらに、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を40質量%以上の割合で含有する飽和熱可塑性エラストマーを用いることにより、基板に対する優れた接着性を示すシーリング材となる光硬化性組成物の得られることを見出した。
【0053】
本発明で使用する飽和熱可塑性エラストマーは、室温(23±2℃)で固体のポリマーである。飽和熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、及びエチレン−アクリル酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の飽和熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0054】
これらの中でも、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン−エチルアクリレート共重合体、及びエチレン−ブチルアクリレート共重合体が好ましい。水添スチレン系熱可塑性エラストマーには、例えば、水添スチレンブタジエンラバー、水添スチレン−ブタジエン−オレフィン結晶ブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が含まれる。
【0055】
本発明で使用する飽和熱可塑性エラストマーは、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を含有する。スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は、飽和熱可塑性エラストマーの全質量基準で、40質量%以上、好ましくは43質量%以上、特に好ましくは45質量%以上の割合で使用する。飽和熱可塑性エラストマー中のスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の割合が過小であると、基板に対する接着性が不足し、その他の諸特性を高度にバランスさせることも困難となりやすい。
【0056】
飽和熱可塑性エラストマーの全量(100質量%)をスチレン−イソブチレンジブロック共重合体とすることができるが、光硬化性組成物の粘弾性を調整してスクリーン印刷適性を向上させたり、電解質や溶剤に対する耐性を向上させたりして、諸特性を高度にバランスさせるには、飽和熱可塑性エラストマー中のスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の含有割合を、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは43〜80質量%、特に好ましくは45〜70質量%の範囲内とすることが望ましい。
【0057】
飽和熱可塑性エラストマーは、炭素数15〜26の単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、30〜80質量部、好ましくは35〜75質量部、より好ましくは40〜70質量部の割合で使用する。飽和熱可塑性エラストマーの割合が過小であると、硬化物の可撓性が不足し、過大であると、光硬化性組成物の粘度が高くなりすぎて、スクリーン印刷などによるパターン印刷技術を適用することが困難になる。
【0058】
本発明では、単官能(メタ)アクリレートを光重合により硬化させるために、光重合開始剤を使用する。本発明で使用する光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、m−クロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、4−ジアルキルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ミヒラーケトンなどのミヒラーケトン類;ベンジル、ベンジルメチルエーテルなどのベンジル類; ベンゾイン、2−メチルベンゾインなどのベンゾイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタールなどのベンジルジメチルケタール類;チオキサントンなどのチオキサントン類;プロピオフェノン、アントラキノン、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾイルベンゾエート、α−アシロキシムエステル;などのカルボニル化合物を挙げることができる。
【0059】
光重合開始剤としては、上記カルボニル化合物以外に、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、ジフェニルジスルフィドなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物;が挙げられる。さらに、光重合開始剤として、フェニルグリオキシレート類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド類;有機色素系化合物、鉄−フタロシアニン系化合物などが挙げられる。
【0060】
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。光重合開始剤として、これらの中でも、ベンゾイン類、アセトフェノン類、及びアシルホスフィンオキシド類が好ましく、アシルホスフィンオキシド類が特に好ましい。
【0061】
色素増感型太陽電池などの湿式有機太陽電池の作用電極基板上に形成された透明導電膜(「透明電極」ともいう)は、紫外線をカットする場合があるので、光硬化性組成物を色素増感型太陽電池用シーリング材として用いるには、好ましくは400nm付近または400nm以上の波長領域で光の吸収がある光重合開始剤を使用することが望ましい。このような光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキシド類が好ましい。
【0062】
光重合開始剤は、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、0. 1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部、より好ましくは0.5〜4重量部の割合で使用する。光重合開始剤の割合が過小であると、硬化に時間を要し、過大であると、硬化物の接着力が低下する。
【0063】
本発明の光硬化性組成物は、測定治具として直径25mmのコーンプレートを備えた粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数2rpmの条件下で測定した粘度(V)が30〜300Pa・sの範囲内にある。この粘度(V)は、好ましくは40〜280Pa・s、より好ましくは45〜250Pa・s、特に好ましくは50〜220Pa・sの範囲内である。
【0064】
粘弾性測定装置として、AntonPaar社製のPhysicaMCR301(登録商標)を用いた。測定治具としては、半径方向に一様な剪断力を与えることができるコーンプレートを用いた。光硬化性組成物の粘度が低すぎると、スクリーン印刷適性が不十分となり、スクリーン印刷によって、基材上に所望の厚みを有するシーリングパターンを形成することが困難になる。光硬化性組成物の粘度が高すぎると、スクリーン印刷すること自体が困難または不可能になる。
【0065】
本発明の光重合性組成物は、測定治具として直径25mmのコーンプレートを備えた粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数20rpmの条件下で測定した粘度(V20)に対する前記粘度(V)の比(V/V20)が1.3〜20の範囲内にある。比(V/V20)は、好ましくは1.4〜18、より好ましくは1.5〜15の範囲内である。この比(V/V20)の値が高すぎると、光硬化性組成物の流動性が低下して、スクリーン印刷適性が低下しやすい。
【0066】
本発明の光硬化性組成物は、プラスチックフィルム上に厚み100μmで直径50mmの円形の塗膜を形成し、高圧水銀灯によりエネルギー束密度270mW/cmの紫外線を5秒間照射して該塗膜を光硬化させたとき、紫外線照射前の該塗膜の質量に対する光硬化後の該塗膜の質量の減少率が1.50%以下を示す物であることが好ましい。質量減少率は、より好ましくは1.40%以下、特に好ましくは1.35%以下である。質量減少率の下限値は、通常、0.50%、多くの場合0.7%である。この質量減少率は、光硬化時のガス放出量の指標となる。すなわち、この減少率が大きくなるほど、光硬化時のガス放出量が多くなることを示す。
【0067】
本発明の光硬化性組成物は、2枚の「透明基板/透明導電膜」を各透明導電膜側で対向させて、該光硬化性組成物から形成した厚み100μmの光硬化物層を介して貼り合わせた試料について、温度23℃、相対湿度50%、及び速度50mm/分の条件で測定したT−ピール接着力が0.65N/10mm以上を示すものであることが好ましい。T−ピール接着力は、好ましくは0.70N/10mm以上、より好ましくは0.80N/10mm以上、特に好ましくは0.90N/10mm以上である。T−ピール接着力の上限値は、通常、7.00N/10mm、多くの場合6.5N/10mmである。このT−ピール接着力が低すぎると、光硬化性組成物の光硬化物の基板に対する接着性が低下する。
【0068】
本発明の光硬化性組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて各種添加剤(その他の添加剤)を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、低温柔軟性を付与するために、フタル酸エステルなどの可塑剤;線膨張係数を小さくするために、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カーボンブラックなどの各種充填剤;界面活性剤、吸油性樹脂、有機顔料、無機顔料、安定剤、シランカップリング剤、スペーサー粒子などを適宜適量で使用することができる。
【0069】
本発明の光硬化性組成物の粘度を調整するために、チキソトロピー性を付与することができる充填剤を含有させることができる。チキソトロピー性を付与することができる充填剤は、チキソトロピー化剤として作用し、それによって、光硬化性組成物の粘度を調製することができる。チキソトロピー性を付与することができる充填剤としては、ステアリン酸アマイドなどの有機ゲル化剤;ヒュームドシリカ、アエロジルシリカ、沈降性炭酸カルシウム、ベントナイトなどの無機系チキソトロピー化剤;などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の光硬化性組成物は、このようなチキソトロピー化剤を添加しなくても、所望の粘弾性を具備させることができる。
【0070】
光硬化性組成物を光の届きにくい部位に塗布したり、厚手の塗布を行ったりする場合には、硬化反応を十分に進行させるために、光硬化性組成物に有機過酸化物などの熱重合開始剤を添加することができる。熱重合開始剤を添加した場合には、電離放射線の照射時または照射後若しくは照射の前後に、加熱工程を配置することが好ましい。
【0071】
本発明の光硬化性組成物は、多くの場合、前記した各種添加剤成分(その他の添加剤)を含有させなくても、所望の優れた諸特性を発揮することができる。その他の添加剤を用いる場合には、それぞれの使用目的に応じて、適宜適量を使用する。
【0072】
本発明の光硬化性組成物は、各成分を、サンドミル、ディスパー、コロイドミルなどの混合装置で撹拌分散させることにより調製することができる。本発明の光硬化性組成物は、適度の粘度を有するため、塗工法により所望の箇所に塗布することができる。本発明の光硬化性組成物をパターン状に塗布するには、スクリーン印刷法を適用することができる。本発明の光硬化性組成物は、プラスチックフィルムや導電膜に対する接着性に優れるため、プラスチックフィルム基板を用いた色素増感型太陽電池などの湿式有機太陽電池のシーリング材として好適である。
【0073】
本発明の光硬化性組成物は、被着体に塗付した後、得られた塗膜に電離放射線を照射することにより硬化させることができる。電離放射線としては、紫外線、電子線(ベータ線)、ガンマ線、アルファ線が好ましく、紫外線及び電子線がより好ましい。電離放射線を照射するには、それぞれの線源を発生する装置を用いればよい。例えば、電子線を照射するには、通常20〜2000kVの電子線加速器から取り出される加速電子線を照射する。電子線は、加速電圧によって浸透する深さが変わる。電子線は、加速電圧が高いほど、塗膜中に深く浸透する。電子線の照射線量は、通常1〜300kGy、好ましくは5〜200kGy程度であるが、硬化塗膜が得られる限りにおいて、この範囲に限定されない。
【0074】
紫外線(UV)を照射するには、殺菌灯、紫外用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極ランプなどのUV照射装置を用いて、波長200〜400nmを含む光を照射する。UV照射装置のランプ出力は、発光長1cm当りの出力ワット数(W/cm)で表示する。単位長当りのワット数が大きくなれば、発生する紫外線強度が大きくなる。ランプ出力は、通常30〜300W/cmの範囲から選択される。発光長は、通常40〜2500mmの範囲から選ばれる。紫外線の照射エネルギーは、通常0.1〜10J/cm、好ましくは0.5〜5J/cmであるが、硬化塗膜が得られる限りにおいて、この範囲に限定されない。
【0075】
硬化塗膜を形成するに際し、酸素による重合禁止効果を除去する必要がある場合には、電離放射線の照射処理を、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。
【0076】
本発明の光硬化性組成物は、湿式有機太陽電池用シーリング材として好ましい諸特性を有している。湿式有機太陽電池は、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に、有機化合物からなる光電変換層が配置された構造を有している。湿式有機太陽電池として代表的な色素増感型太陽電池は、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機色素からなる光電変換層が配置された構造を有している。より具体的に、色素増感型太陽電池は、例えば、図1に示す基本的構造を有している。
【0077】
透明基板としては、ガラス板やプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの熱可塑性ポリエステルフィルムが代表的なものであるが、透明で耐熱性のある他のフィルムを使用することもできる。透明導電膜(透明電極)としては、95%酸化インジウムと5%酸化スズからなる化合物を基板に薄く焼き付けたITO膜が代表的なものである。この他、透明導電膜としては、酸化スズにフッ素をドーピングした膜(FTO)が知られている。対極基板も、これと同様の導電性基板を用いることができるが、これに限定されない。例えば、対極基板として、ガラスなどの透明基板を用いても、該基板上に白金を蒸着して導電膜を形成すると、導電性基板全体の透明性が低下することがある。
【0078】
金属酸化物半導体としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、亜鉛、インジウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンなどの酸化物が挙げられるが、これらの中でも二酸化チタンが代表的なものである。二酸化チタンは、例えば、直径が10〜30nmという超微粒子が好ましく、それによって、色素を吸着させるのに適した広大な比表面積を有する二酸化チタン膜を形成することができる。
【0079】
色素としては、ルテニウム錯体〔RuL(NCS)、L=4,4′−ジカルボキシ−2,2′−ビピリジン〕、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、C60誘導体、スチリルベンゾチアゾリウムプロピルスルフォネート(BTS)、植物の色素などが挙げられる。
【0080】
電解液は、一般に、電解質を有機溶剤に溶解した溶液である。このような電解液としては、例えば、ヨウ素とヨウ化リチウムとを含有するアセトニトリル/エチレンカーボネート溶液が代表的なものである。電解質としては、ヨウ素/ヨウ素化合物、臭素/臭素化合物などの酸化還元対(レドックス系)が用いられているが、これらの中でも、ヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせが汎用されている。
【0081】
電解質を溶解または分散させる有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ポリエチレングリコール(例えば、PEG#220)、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、これらの2種以上の混合物などが用いられている。電解液には、電解質に加えて、増粘剤(例えば、PEG#600)、粘性を低下させてイオンの拡散を円滑にする常温溶融塩(1−プロピルー2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド)、逆電流を防ぎ開放起電力を高める4−tert−ブチルピリジンなどの各種添加剤を含有させてもよい。
【0082】
本発明の光硬化性組成物を用いて色素増感型太陽電池を作製するには、下記工程1乃至4:
(1)「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を持つ第一導電性基板と、「導電膜/基板」の層構成を持つ第二導電性基板のいずれか一方の導電性基板(A)の導電膜側の周辺部に、本発明の光硬化性組成物をスクリーン印刷により塗布して、枠状の光硬化性組成物層を形成する工程1;
(2)導電性基板(A)の上に、他方の導電性基板(B)を、各導電膜側で対向させて、該光硬化性組成物層を介して配置する工程2;
(3)電離放射線を照射して、該光硬化性組成物を硬化させる工程3;及び
(4)該光硬化性組成物の硬化物からなるシーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入する工程4;
を採用することができる。
【0083】
第二基板として、前記「導電膜/基板」の層構成を持つ第二導電性基板に代えて、「導電膜」からなる導電性基板または導電膜を有しない基板を用いることができる。第一導電性基板の構造や第二基板の種類などは、色素増感型太陽電池のタイプに応じて選択することができる。
【0084】
光硬化性組成物の塗布厚みは、電解液の所望の厚みに応じて適宜調整することができるが、通常、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、多くの場合15〜50μmの範囲内である。導電性基板上に光硬化性組成物を塗布する際のパターンとしては、環状、長方形、矩形など、色素増感型太陽電池の形状に合わせたものとする。
【0085】
両導電性基板間の隙間に電解液を注入する場合、硬化または未硬化のシーリング層の一部に開口部を設けるか、あるいは基板の一部に開口部を設けて、シーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を注入する方法を採用することができる。開口部(電解液注入孔)は、同じ光硬化性組成物または他の常温硬化性接着剤などを用いて封止する。これによって、電解液を両導電性基板間に封入することができる。ガラス基板の場合には、その端部(シーリング層の内側)に電解液の液溜めを設けて、その中に電解液を入れておき、シーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に、毛管現象を利用して電解液を注入させてもよい。
【0086】
本発明によれば、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機化合物からなる光電変換層が配置された構造を有する湿式有機太陽電池において、該シーリング層が、前記光硬化性組成物から形成された光硬化物層である湿式有機太陽電池が提供される。
【0087】
該湿式有機太陽電池は、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機色素からなる光電変換層が配置された構造を有する色素増感型太陽電池を含む。該色素増感型太陽電池は、具体的には、「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する第一導電性基板と該第一導電性基板に対向する第二基板とが、これら両基板の周辺部に枠状に設けたシーリング層を介して配置され、該シーリング層によって形成された両基板間の隙間に電解液が封入された構造を有するものである。
【0088】
第二基板は、通常、「導電膜/基板」または「導電膜」の層構成を有する第二導電性基板である。色素増感型太陽電池がモノリシック型である場合には、第二基板として導電膜のない基板を用いることができる。
【0089】
本発明の光硬化性組成物からなるシーリング層(光硬化物層)は、電解液に対する耐性が十分であり、経時により電解液によって膨潤したり、電解質との反応によって劣化したりすることがない。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。諸特性の測定方法は、次の通りである。
【0091】
(1)粘度
光硬化性組成物の粘度は、測定治具として直径25mmのコーンプレートを備えた粘弾性測定装置(AntonPaar社製PhysicaMCR301;登録商標)を用いて、温度23℃、回転数2rpm及び20rpmの条件下で測定した。回転数2rpmで測定した粘度をVとし、回転数20rpmで測定した粘度をV20としたとき、これらの測定値から、比(V/V20)を求めた。
【0092】
(2)UV照射前後の質量減少率
厚み25μmのPETフィルム上に、厚み100μmで直径50mmの円形に光硬化性組成物を塗工し、高圧水銀灯(270mW/cm)で紫外線を5秒間照射し、紫外線硬化させる前後の塗膜の質量を測定し、紫外線照射前後の質量減少率を求めた。すなわち、紫外線照射前の塗膜の質量(m)に対する光硬化後の塗膜の質量(m)の減少率は、下記式
〔(m−m)/m〕×100
により求めた。
【0093】
(3)T−ピール接着力
2枚の「透明基板/透明導電膜」を各透明導電膜側で対向させて、光硬化性組成物から形成した厚み100μmの光硬化物層を介して貼り合わせた試料について、温度23℃、相対湿度50%、及び速度50mm/分の条件でT−ピール接着力を測定した。
【0094】
より具体的に、一方のITO−PENフィルム〔トービ製OTEC113B−N125N(基材厚125μm)〕のITO面に、光硬化性組成物を厚み100μmで塗工し、他方のITO−PENフィルム(同上)を、ITO面同士が対向するように貼り合わせ、高圧水銀灯(270mW/cm)で紫外線を5秒間照射して光硬化性組成物の塗工膜を光硬化させた。これを試料とし、インストロン型引張試験機(オリエンテック製RTM−100)を用いて、温度23℃、相対湿度50%、及び速度50mm/分の条件でT−ピール接着力を測定した。
【0095】
(4)電解液に対する耐性
厚み25μmのPETフィルム上に、厚み100μmで直径50mmの円形に光硬化性組成物を塗工し、高圧水銀灯(270mW/cm)で紫外線を5秒間照射し、紫外線硬化させて、試料を作製した。プロピレンカーボネートに、ヨウ素0.5M、ヨウ化リチウム0.1M,及び4−tert−ブチルピリジン0.5Mを溶解させて、電解液を調製した。前記試料を該電解液中に、40℃で24時間浸漬させた。その後、試料を取り出して、光硬化物層の形状、着色状態、密着性を観察した。
【0096】
[実施例1]
イソステアリルアクリレート100質量部に対して、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体25質量部、水添スチレンブタジエンラバー15質量部、水添スチレン−ブタジエン−オレフィン結晶ブロック共重合体10質量部、及び光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、該光硬化性組成物は、UV硬化前後の質量減少率が小さく、T−ピール接着力も良好であった。この光硬化性組成物から形成された光硬化物層は、電解液に対する耐性に優れており、電解液中に浸漬後も着色等の変化が殆どなかった。
【0097】
[実施例2]
多官能(メタ)アクリレートとしてジメチロールトリシクロドデカンジアクリレート1質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、該光硬化性組成物は、UV硬化前後の質量減少率が小さく、T−ピール接着力も良好であった。この光硬化性組成物から形成された光硬化物層は、電解液に対する耐性に優れており、電解液中に浸漬後も着色等の変化が殆どなかった。
【0098】
[実施例3]
多官能(メタ)アクリレートとしてジメチロールトリシクロドデカンジアクリレート1質量部、及びカルボキシル基含有(メタ)アクリレートとしてω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート5質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、該光硬化性組成物は、UV硬化前後の質量減少率が小さく、T−ピール接着力も良好であった。この光硬化性組成物から形成された光硬化物層は、電解液に対する耐性に優れており、電解液中に浸漬後も着色等の変化が殆どなかった。
【0099】
[実施例4]
イソステアリルアクリレートをイソミリスチルアクリレートに代えたこと以外は、実施例3と同様にして光硬化性組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、該光硬化性組成物は、UV硬化前後の質量減少率が小さく、T−ピール接着力も良好であった。この光硬化性組成物から形成された光硬化物層は、電解液に対する耐性に優れており、電解液中に浸漬後も着色等の変化が殆どなかった。
【0100】
[比較例1]
アイオノマーである亜鉛イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体〔三井・デュポンケミカル製、商品名「ハイミラン1652」(登録商標)〕を加熱押出し塗工して、厚み100μmのアイオノマーシートを作製した。
【0101】
厚み25μmのPETフィルム上に、厚み100μmで直径50mmの円形状に裁断した該アイオノマーシートを載せ、接着条件である120℃で3分間保持する前と後に該アイオノマーシートの質量を測定し、接着前後の質量減少率を求めた。
【0102】
ITO−PENフィルム〔トービ製OTEC113B−N125N(基材厚125μm)〕に該アイオノマーシート(厚み100μm)を載せ、その上にITO−PENフィルム(同上)を貼り合わせ、120℃で3分間保持して加熱接着させた。これを試料とし、インストロン型引張試験機(オリエンテック製RTM−100)を用いて、温度23℃、相対湿度50%、及び速度50mm/分の条件でT−ピール接着力を測定した。結果を表2に示す。
【0103】
アイオノマーを用いた場合には、シートを作製し、それを所定の形状に裁断する必要があり、その上、高温条件下で加熱接着させる必要がある。
【0104】
[比較例2]
イソミリスチルアクリレート100質量部に、イソボルニルアクリレート8質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、及びマレイン酸変性水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体30質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、粘度が低く、かつ、比(V/V20)も1.1と低いため、スクリーン印刷適性が不十分なものである。しかも、この光硬化性組成物は、UV硬化前後の質量減少率が大きいものである。
【0105】
[比較例3]
イソノニルアクリレート70質量部、イソボルニルアクリレート30質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕0.5質量部、水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体5質量部、及びアエロジルシリカ15質量部を高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、粘度が低く、スクリーン印刷適性が不十分である。さらに、この光硬化性組成物は、炭素数が14以下のアクリレート類を用いているため、UV硬化前後の質量減少率が極めて大きく、T−ピール接着力も不十分なものである。
【0106】
[比較例4]
イソステアリルアクリレート100質量部に、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体5質量部、及び水添スチレンブタジエンラバー5質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、飽和熱可塑性エラストマーの含有割合が小さいため、粘度が極めて低くなりすぎて、スクリーン印刷適性に劣るものである。
【0107】
[比較例5]
イソステアリルアクリレート100質量部に、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、スチレン−イソブチレントリブロック共重合体25質量部、水添スチレンブタジエンラバー15質量部、及び水添スチレン−ブタジエン−オレフィン結晶ブロック共重合体10質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表2に示す。この光硬化性組成物は、実施例1の光硬化性組成物において、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体の代わりに、スチレン−イソブチレントリブロック共重合体を用いたものである。この光硬化性組成物は、スチレン−イソブチレントリブロック共重合体と他の成分との相溶性が悪く、各成分を均一に分散または溶解したものではなかった。そのため、評価試験を行わなかった。
【0108】
[比較例6]
イソステアリルアクリレート100質量部に、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体50質量部、水添スチレンブタジエンラバー30質量部、及び水添スチレン−ブタジエン−オレフィン結晶ブロック共重合体20質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表2に示す。この光硬化性組成物は、飽和熱可塑性エラストマーの含有割合が大きすぎるため、粘度が極めて高いものであった。そのため、評価試験を行わなかった。
【0109】
[比較例7]
ラウリルアクリレート40質量部、イソボルニルアクリレート60質量部、ジメチロールトリシクロドデカンジアクリレート1質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、ポリアクリレート15質量部、及びアエロジルシリカ15質量部を高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表3に示す。表3の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、粘度が低く、スクリーン印刷適性が不十分である。さらに、この光硬化性組成物は、炭素数が14以下のアクリレート類を用いているため、UV硬化前後の質量減少率が極めて大きく、T−ピール接着力も不十分なものである。
【0110】
[比較例8]
イソボルニルアクリレート40質量部、2−エチルヘキシルアクリレート60質量部、ジメチロールトリシクロドデカンジアクリレート2質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、水添スチレンブタジエンラバー20質量部、及びアエロジルシリカ20質量部を高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表3に示す。表3の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、炭素数が14以下のアクリレート類を用いているため、UV硬化前後の質量減少率が極めて大きく、T−ピール接着力も極めて不十分なものである。
【0111】
[比較例9]
ステアリルアクリレート100質量部に対して、イソボルニルアクリレート8質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア(登録商標)819〕1質量部、及びスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体30質量部を加えて、高速攪拌機で攪拌し、光硬化性組成物を調製した。結果を表3に示す。表3の結果から明らかなように、この光硬化性組成物は、粘度(V)が高く、かつ、粘度比(V/V20)が大きく、スクリーン印刷適性が悪いものであった。しかも、この光硬化性組成物は、接着力が低すぎて、接着力評価サンプルの作製ができなかった。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
(脚注)
(*1)新中村工業(株)製「NKエステル S−1800A」(登録商標)
(*2)共栄化学(株)製「ライトアクリレート 1M−A」(登録商標)
(*3)共栄化学(株)製「ライトアクリレート 1B−XA」(登録商標)
(*4)共栄化学(株)製「ライトアクリレート DCP−A」(登録商標)
(*5)東亞合成(株)製「アロニックス M5300」(登録商標)
(*6)チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガキュア 819」(登録商標)
(*7)(株)カネカ製「SIBSTAR−042D」(登録商標)
(*8)(株)カネカ製「SIBSTAR−102T」(登録商標)
(*9)JSR製「DYNARON 1321P」(登録商標)
(*10)JSR製「DYNARON 4600P」(登録商標)
(*11)クレイトンポリマージャパン(株)製「クレイトンG1657」(登録商標)
(*12)クレイトンポリマージャパン(株)製「クレイトンFG1901X」(登録商標)
(*13)三井・デュポン社製「ハイミラン1652」(登録商標)
(*14)日本アエロジル社製「アエロジルR976S」(登録商標)
(*15)各成分が不相溶であったため、評価試験を実施せず。
(*16)粘度が極めて高いため、評価試験を実施せず。
(*17)共栄化学(株)製「ライトアクリレートS−A」(登録商標)
(*18)共栄化学(株)製「ライトアクリレートL−A」(登録商標)
(*19)日本触媒製2−エチルヘキシルアクリレート
(*20)(株)カネカ製「SIBSTAR−073T」(登録商標)
(*21)JSR製「DYNARON 1320」(登録商標)
(*22)ノーテープ工業社製4580
(*23)接着力が低すぎて、接着力評価サンプルの作製ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の光硬化性組成物は、封止性、被着物に対する密着性、耐薬品性などが要求されるシーリング材をはじめとする各種用途に利用することができる。本発明の光硬化性組成物は、湿式有機太陽電池用シーリング材として特に好適に利用することができる。本発明の光硬化性組成物により電解液を封入した湿式有機太陽電池は、信頼性及び耐久性に優れており、新しい太陽電池の電解液を封入するためのシーリング層の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 透明基板
2 透明導電膜
3 色素
4 金属酸化物半導体層
5 電解液
6 シーリング層
7 導電膜
8 基板
9 回路
10 負荷
11 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単官能(メタ)アクリレート、飽和熱可塑性エラストマー、及び光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、
(a)該単官能(メタ)アクリレートが、炭素数15〜26の脂環族または脂肪族単官能(メタ)アクリレートであり、
(b)該飽和熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体を、該飽和熱可塑性エラストマーの全質量を基準として、40質量%以上の割合で含有するものであり、
(c)該飽和熱可塑性エラストマーの含有割合が、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、30〜80質量部の範囲内であり、
(d)該光重合開始剤の含有割合が、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内であり、
(e)測定治具として直径25mmのコーンプレートを備えた粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数2rpmの条件下で測定した該光硬化性組成物の粘度(V)が、30〜300Pa・sの範囲内であり、並びに、
(f)該粘弾性測定装置を用いて、温度23℃及び該コーンプレートの回転数20rpmの条件下で測定した該光硬化性組成物の粘度(V20)に対する前記粘度(V)の比(V/V20)が、1.3〜20の範囲内にある
ことを特徴とする光硬化性組成物。
【請求項2】
多官能(メタ)アクリレートを、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、10質量部までの割合でさらに含有する請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
カルボキシル基含有(メタ)アクリレートを、該単官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、10質量部までの割合でさらに含有する請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
プラスチックフィルム上に形成した光硬化性組成物からなる厚み100μmで直径50mmの円形の塗膜に、高圧水銀灯によりエネルギー束密度270mW/cmの紫外線を5秒間照射して、該塗膜を光硬化させたとき、紫外線照射前の該塗膜の質量に対する光硬化後の該塗膜の質量の減少率が、1.50%以下を示す請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
2枚の「透明基板/透明導電膜」を各透明導電膜側で対向させて、光硬化性組成物から形成した厚み100μmの光硬化物層を介して貼り合わせた試料について、温度23℃、相対湿度50%、及び速度50mm/分の条件で測定したT−ピール接着力が、0.65N/10mm以上を示す請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の湿式有機太陽電池用シーリング材としての使用。
【請求項7】
シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機化合物からなる光電変換層が配置された構造を有する湿式有機太陽電池において、該シーリング層が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物から形成された光硬化物層であることを特徴とする湿式有機太陽電池。
【請求項8】
該湿式有機太陽電池が、シーリング層を介して2枚の基板間に封入された電解液中に有機色素からなる光電変換層が配置された構造を有する色素増感型太陽電池である請求項7記載の湿式有機太陽電池。
【請求項9】
該色素増感型太陽電池が、「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する第一導電性基板と該第一導電性基板に対向する第二基板とが、これら両基板の周辺部に枠状に設けたシーリング層を介して配置され、該シーリング層によって形成された両基板間の隙間に電解液が封入された構造を有する色素増感型太陽電池である請求項8記載の湿式有機太陽電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−180324(P2010−180324A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25050(P2009−25050)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】