説明

内燃機関のくすぶり判定方法

【課題】イオン電流を用いて、点火プラグのくすぶりを判定する場合に、内燃機関にかかる負荷の状態により、正常な燃焼状態であるにかかわらずくすぶりを判定する場合がある。
【解決手段】点火プラグを備え車両に搭載される火花点火式の内燃機関において、点火プラグを介して点火後に燃焼室に生じるイオン電流を検出し、検出したイオン電流に基づいて点火プラグのくすぶりを判定するものであって、内燃機関の運転状態を検出し、検出した運転状態が、所定回転数を上限とし、かつ所定の吸気管圧力を下限として大気圧に近い吸気管圧力となる運転領域に対応して設定される運転判定領域内でのものである場合に検出したイオン電流が所定条件を満たすことで点火プラグのくすぶりを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式の内燃機関において、イオン電流を用いて点火プラグのくすぶりを判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火花点火式の内燃機関においては、点火プラグを用いて点火の後に燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、検出したイオン電流の大きさや発生している時間などから、ノッキングや燃焼限界などの内燃機関の運転状態を検出し、その検出結果に基づいて点火時期を調整したり燃料噴射量を補正するものが知られている。このような点火プラグを使用したイオン電流の検出では、点火プラグに異常がなければ点火毎にイオン電流を検出することができる。
【0003】
通常、点火プラグには、混合気が燃焼されることにより発生する煤に含まれる炭素がその電極や電極近傍の碍子部分に付着するくすぶりと呼ばれる状態になることがある。このように、くすぶりが生じると、イオン電流を検出する際に、くすぶりに起因するリーク電流が重畳する。そして、点火間隔が短くなる高回転運転状態では、イオン電流に重畳したリーク電流が消滅する前にイオン電流の検出を行うと、リーク電流が連続しているようになるために、点火プラグが短絡していると誤って判定することが生じる。このため、くすぶりを検出して、点火プラグの短絡状態と判別する必要がある。
【0004】
このような状況に鑑みて、例えば特許文献1に示されるように、内燃機関の機関回転速度が所定速度領域内である時に点火プラグのくすぶりを判定することを禁止することで、くすぶりか点火プラグの電極が短絡しているのかを区別できない状態、具体的には、ある気筒の点火タイミングが、他のいずれかの気筒においてイオン電流を検出している期間と重なる状態においては、くすぶり判定を実施しないものが知られている。
【特許文献1】特開2004−108298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の内燃機関においては、同一機関回転速度であっても、内燃機関の負荷が大きくなると、燃焼温度が高くなることによって点火プラグの温度も高くなり、付着していた炭素が少なくなることでくすぶりに起因するリーク電流が流れなくなるまでの時間が短くなる。このような状況にあっては、イオン電流を検出する期間内においてリーク電流が減衰して消滅するので、実際に短絡している状態と、リーク電流により短絡と見做す状態とを判別しやすい状態にあるが、特許文献1にあっては、このような運転状態にある場合では、くすぶりを判定しない運転状態にあるため、くすぶり判定を実施できないことがあった。
【0006】
この結果、内燃機関の負荷が大きくなる運転領域においては、くすぶりを判定できないため、その判定精度が低下するものとなった。
【0007】
本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の内燃機関のくすぶり判定方法は、点火プラグを備え車両に搭載される火花点火式の内燃機関において、点火プラグを介して点火後に燃焼室に生じるイオン電流を検出し、検出したイオン電流に基づいて点火プラグのくすぶりを判定するものであって、内燃機関の運転状態を検出し、検出した運転状態が、所定回転数を上限とし、かつ所定の吸気管圧力を下限として大気圧に近い吸気管圧力となる運転領域に対応して設定される運転判定領域内でのものである場合に検出したイオン電流が所定条件を満たすことで点火プラグのくすぶりを判定することを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、運転判定領域を、所定回転数を上限とし、かつ所定の吸気管圧力を下限として大気圧に近い吸気管圧力となる運転領域に対応して設定することにより、くすぶりによるリーク電流がイオン電流を検出する期間において消滅するに十分な時間を確保し得るものとなる。このため、リーク電流と正常な燃焼におけるイオン電流との判別が容易になるため、くすぶりの判定精度が向上する。
【0010】
以上の構成において、車両の走行状態や負荷の状態に応じて内燃機関の運転状況が変化する場合に、誤ってくすぶりを判定しないようにするためには、内燃機関が無負荷運転状態以外の運転状態である場合に、前記運転判定領域を狭くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上説明したように、運転判定領域を、所定回転数を上限とし、かつ所定の吸気管圧力を下限として大気圧に近い吸気管圧力となる運転領域に対応して設定するので、くすぶりによるリーク電流がイオン電流を検出する期間において消滅するに十分な時間を確保することができ、リーク電流と正常な燃焼におけるイオン電流との判別が容易になるため、くすぶりの判定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例を、図面を参照して説明する。図1に概略的に示したエンジン100は自動車用の多気筒のもので、その吸気系1には図示しないアクセルペダルに応動して開閉するスロットルバルブ2が配設され、その下流側にはサージタンク3が設けられている。サージタンク3に連通する一方の端部近傍には、さらに燃料噴射弁5が設けてあり、この燃料噴射弁5を、電子制御装置6により後述する基本噴射量に基づいて開成制御するようにしている。そして、燃焼室10の天井部分に対応する位置には、点火プラグ18が取り付けてある。また排気系20には、排気ガス中の酸素濃度を測定するためのO2センサ21が、図示しないマフラに至るまでの管路に配設された三元触媒22の上流の位置に取り付けられている。なお、図1にあって、シリンダ部分の構成にあっては1気筒の構成を代表的に示すものである。
【0013】
電子制御装置6は、中央演算処理装置7と、記憶装置8と、入力インターフェース9と、出力インターフェース11とを具備してなるマイクロコンピュータシステムを主体に構成されており、その入力インターフェース9には、吸気管圧力としてサージタンク3内の圧力を検出するための吸気圧センサ13から出力される吸気圧信号a、エンジン100の回転状態を検出するためのカムポジションセンサ14から出力される気筒判別信号G1とクランク角度基準位置信号G2とエンジン回転数信号b、車速を検出するための車速センサ15から出力される車速信号c、スロットルバルブ2の開閉状態を検出するためのアイドルスイッチ16からのLL信号d、エンジンの冷却水温を検出するための水温センサ17からの水温信号e、上記したO2センサ21からの電流信号hなどが入力される。一方、出力インターフェース11からは、燃料噴射弁5に対して燃料噴射信号fが、また点火プラグ18に対してイグニッションパルスgが出力されるようになっている。
【0014】
また点火プラグ18には、イオン電流を測定するためのバイアス用電源24及びイオン電流測定用回路25が接続されている。このバイアス用電源24を含むイオン電流測定用回路25それ自体は、当該分野で知られている種々のものが使用できる。バイアス用電源24は、点火後イオン電流を燃焼室10内に流すべく電圧を点火プラグ18に印加する。また、イオン電流測定用回路25は、電気的に電子制御装置6の入力インターフェース9に接続され、電圧の印加により発生したイオン電流をアナログ的に計測し、発生したイオン電流に対応するアナログ信号を電子制御装置6に入力する。
【0015】
電子制御装置6には、吸気圧センサ13から出力される吸気圧信号aとカムポジションセンサ14から出力される回転数信号bとをおもな情報とし、エンジン状態に応じて決まる各種の補正係数で基本噴射時間を補正して有効噴射時間を求め、その有効噴射時間に基づいて燃料噴射弁開成時間すなわちインジェクタ最終通電時間を決定し、その決定された通電時間により燃料噴射弁5を制御して、エンジン負荷に応じた燃料を該燃料噴射弁5から燃焼室10に向けて噴射させるためのプログラムが格納してある。
【0016】
また、電子制御装置6には、点火プラグ18を介して点火後に燃焼室10に生じるイオン電流を検出し、検出したイオン電流に基づいて点火プラグ18のくすぶりを判定するものであって、エンジン100の運転状態を検出し、検出した運転状態が、所定回転数を下回る回転数領域で、かつ所定の吸気管圧力より大気圧に近い負荷領域で設定される運転判定領域内でのものである場合に検出したイオン電流が所定条件を満たすことで点火プラグのくすぶりを判定するくすぶり判定プログラムが格納してある。
【0017】
この実施形態にあっては、イオン電流は、点火から排気行程が終了するまでの、クランク角度で設定してあるイオン電流検出期間TDPにおいて、その発生している時間をクランク角度に換算して検出されるものである。このため、エンジン100を低回転で運転している場合はイオン電流検出期間TDPの時間は長くなり、高回転の運転状態ではイオン電流検出期間TDPの時間は短くなる。
【0018】
イオン電流は、図2に点線で示すように、点火直後にバイアス用電源24から点火プラグ18にバイアス電圧を印加すると、正常燃焼の場合、急激に流れた後、膨張行程における上死点TDC近傍で減少した後再び増加し、燃焼圧が最大となるクランク角度近傍でその電流値が最大となるピーク値になるように燃焼室10内に流れる。このような挙動を示すイオン電流を各気筒において、点火毎にイオン電流の発生している(流れている)時間(以下、発生角度GAと称する)をクランク角度により計測する。
【0019】
具体的には、点火プラグ18を介してイオン電流測定用回路25から出力されるイオン電流と、点火プラグ18のくすぶりにより生じるリーク電流を検出し得るように設定する基準レベルL1とを比較し、その基準レベルL1以上となる電流値のイオン電流が発生している時間つまり発生角度GAを、イオン電流検出期間TDP内において計測することによってイオン電流を検出するものである。具体的には、イオン電流が基準レベルL1以上となった時点からカムポジションセンサ14から出力されるクランク角度基準位置信号G2を計数し、イオン電流が基準レベルL1未満となった時点でクランク角度基準位置信号G2の計数を停止し、イオン電流の発生角度GAを計測するものである。計測した発生角度GAは、一時的に、つまり後述するくすぶり判定の時まで記憶装置8に保存される。なお、イオン電流検出期間TDP内において、図2に示すように、イオン電流が発生と消滅とを繰り返す場合は、基準レベルL1以上となっている角度(同図中、CA1、CA2及びCA3にて示す)をそれぞれ計測し、計測した角度を合計してイオン電流の発生角度GAとするものである。
【0020】
基準レベルL1は、リーク電流を検出するために、平均的なリーク電流の電流値よりも小さい値に設定してある。したがって、ごく微小なリーク電流についても検出し得るとともに、リーク電流が発生していない状態においては、イオン電流を消滅する直前まで正確に検出し得るものとなる。
【0021】
次に、運転判定領域RDは、以下のように、エンジン回転数と吸気管圧力とにより設定してある。図3は、この運転判定領域RDを模式的に図示したものである。すなわち、運転判定領域RDを規定する、所定回転数Ne1は、アイドル回転数を上回り、イオン電流検出期間TDP内においてくすぶりによるリーク電流が消滅するのに十分な時間を確保することが可能な上限のエンジン回転数、例えば3000rpm程度のエンジン回転数に設定する。同様に、所定の吸気管圧力PT1は、燃焼温度が低く、点火プラグ18の温度を上昇させることが少ない下限の吸気管圧力に設定する。具体的には、この所定の吸気管圧力PT1は、エンジン100に負荷がかかっていないアイドル運転状態において、エンジン回転数がアイドル目標回転数になるように制御するのに必要な吸気管圧力に対応するものである。したがって、運転判定領域RDは、所定回転数Ne1より下側の回転数領域で、かつ所定の吸気管圧力PT1から大気圧に近い吸気管圧力となる吸気管圧力領域に設定されるものである。
【0022】
点火プラグ18がくすぶっている場合、イオン電流を検出するために点火プラグ18に電圧を印加すると、くすぶりのためにリーク電流が点火プラグ18に流れる。このリーク電流は、図2に示すように、時間の経過とともに減衰して、消滅する特性を有している。
【0023】
エンジン100がアイドル回転数を上回る低回転数で運転されている運転領域に相当する低回転領域にあっては、イオン電流検出期間TDPのクランク角度は高回転領域の場合と同じではあるが、エンジン回転数が低いためにイオン電流検出期間TDPの時間が長くなる。したがって、発生したリーク電流がイオン電流検出期間TDP内に消滅するのに十分な時間を確保し得るものである。言い換えれば、リーク電流が消滅した後からイオン電流検出期間TDPが終了するまでの間に、点火プラグ18を介して検出する電流つまりイオン電流とリーク電流とがない状態が生じるものである。それゆえ、このような低回転領域は、点火プラグ18がくすぶった状態でエンジン100を試験運転し、エンジン回転数を徐々に変化させてリーク電流がイオン電流検出期間TDP内に消滅するエンジン回転数を求め、得られたエンジン回転数を所定回転数Ne1として、その所定回転数Ne1に至るまでの運転領域に設定するものである。この場合、得られたエンジン回転数は、アイドル回転数を上回っていることが必要である。
【0024】
このような低回転領域以外の高回転領域においては、エンジン回転数が高いためにイオン電流検出期間TDPの時間が短くなり、リーク電流が消滅するに十分な時間を確保しにくい状態であるが、高回転でエンジン100を運転している状態では、燃焼温度が高くなり、それにより点火プラグ18の温度も高くなって、点火プラグ18に付着した炭素が減少し、リーク電流が小さくなるため、イオン電流検出期間TDP内にリーク電流が消滅するものである。その一方で、点火プラグ18の温度が高くなると、点火プラグ18の自己清浄性が機能して、炭素が点火プラグ18から取れ、したがって、実質的にくすぶりが生じている状態が継続せず、つまり運転途中でくすぶりが解消されるため、くすぶりを判定する必要も生じない運転領域となる。この点火プラグ18の自己清浄性は、高負荷運転領域においても発揮されるものである。
【0025】
次に、所定の吸気管圧力PT1より大気圧に近い運転領域とは、イオン電流検出期間TDPのほぼ全体にわたってイオン電流が発生するような吸気管圧力の領域を除いた運転領域を指すものである。つまり、このような運転領域以外の低吸気管圧力領域では、混合気における燃料量が少なくなるため、燃焼が長くなる。このため、イオン電流が流れている時間が長くなり、リーク電流が消滅した後にイオン電流が検出されることで、リーク電流とイオン電流とを判別できない状態が生じることとなる。したがって、このような低吸気管圧力領域を除外するものである。
【0026】
以上のようにして運転判定領域RDを設定してあるくすぶり判定プログラムの概要は、図4に示すようなものである。このくすぶり判定プログラムは、各気筒の点火毎に実行するイオン電流の検出、したがってイオン電流の発生角度GAの計測の後に実行される。
【0027】
まず、ステップS1において、エンジン100の運転状態を検出する。エンジン100の運転状態は、エンジン回転数と吸気管圧力とを検出することにより検出する。次に、ステップS2において、検出したエンジン回転数と吸気管圧力とが、設定された運転判定領域RD内であるか否かを判定する。すなわち、検出したエンジン回転数が所定回転数Ne1以下で、かつ検出した吸気管圧力が所定の吸気管圧力PT1より大気圧に近いものであれば、検出された運転状態が運転判定領域RD内であると判定する。検出された運転状態が運転判定領域RD内でない場合は、今回のくすぶり判定を終了する。
【0028】
検出された運転状態が運転判定領域RD内であると判定した場合は、ステップS3において、イオン電流検出において計測した発生角度GAを読み込む。この場合に、点火プラグ18がくすぶっている場合には、イオン電流にくすぶりによるリーク電流が重畳するので(図2に、「イオン電流+リーク電流」として示す)、読み込んだ発生角度GAは実質的にはリーク電流のものである。この後、ステップS4では、読み込んだ発生角度GAがくすぶり判定のための閾値を上回るか否かを判定する。この閾値は、正常な燃焼状態におけるイオン電流の発生角度の平均値に基づいて、例えば平均値に数パーセント上乗せした値に設定するものである。読み込んだ発生角度GAが閾値を超えていない場合は、ステップS5において、くすぶりが発生していないと判定する。
【0029】
一方、読み込んだ発生角度GAが閾値を超えている場合は、ステップS6において、連続して閾値を上回る回数が所定回数つまりくすぶり判定回数以上か否かを判定する。このステップS6における判定は、読み込んだ発生角度GAがイオン電流のものか、あるいはリーク電流のものかを判定するためのものである。ステップS6において、くすぶり判定回数以上と判定した場合は、ステップS7において、くすぶりが発生していると判定する。これに対して、くすぶり判定回数に満たない場合は、ステップS5に移行して、くすぶりはないと判定する。
【0030】
くすぶり判定回数は、例えば50回(50点火回数)に設定する。一般的に、くすぶりが発生している場合、点火プラグ18の自己清浄性が発揮されるか、もしくは点火プラグ18がくすぶりの発生していないものに交換されない限り解消されない。これに対して、正常燃焼であるにもかかわらず何らかの原因で燃焼時間が長く、その結果イオン電流の発生角度GAが閾値を超えている場合には、くすぶり判定回数を計数している間に正常なイオン電流の発生角度となることで、連続して発生角度が閾値を超えている状態とならないため、くすぶりを判定しないものとなる。
【0031】
言い換えれば、ステップS6及びステップS7における処理は、正常な燃焼にあって、検出したイオン電流の発生角度が閾値を超えるような状態がくすぶり判定回数に至らない複数回発生しても、この場合はくすぶりと言った点火プラグ18の異常な状態ではないと判定することにある。それゆえ、車両の走行環境の影響やエンジン100にかかる負荷の状況などにより、イオン電流の発生角度が大きくなっても、点火プラグ18の異常であるくすぶりと誤って判定することを回避することができるものである。
【0032】
このようにしてくすぶりを判定した場合には、例えば運転者から見える位置あるいは車両のエンジンルームなどにLEDやランプなどの表示灯を点灯することにより、可視的に警告を発するようにするものであってよい。このような表示灯は、くすぶりを判定した時点から点灯しておき、くすぶりが解消された時点で消灯するようにするものであってよい。
【0033】
このように、エンジン100が運転判定領域RD内に対応する運転状態である場合に、点火毎に各気筒においてイオン電流を検出することで検出されるリーク電流が重畳しているイオン電流の発生角度GAが閾値を上回り、かつ運転判定領域RD内での運転状態が連続して発生角度GAが閾値を上回る回数が連続してくすぶり判定回数以上である場合に、くすぶりが発生していると判定するものである。上述のように、エンジン回転数と吸気管圧力とにより設定する運転判定領域RD内においては、イオン電流検出期間TDPの時間が長く、確実にリーク電流が消滅するものであるので、イオン電流とリーク電流との判別が容易になり、くすぶり検出の精度を向上させることができる。
【0034】
しかも、この実施形態においては、読み込んだ発生角度GAが閾値を上回る回数が連続してくすぶり判定回数以上である場合にのみくすぶりが発生していると判定するので、くすぶりが発生しておらずに、正常な燃焼状態であるにもかかわらず、何らかの原因により燃焼が緩慢になって、イオン電流の発生角度が長くなっている場合などを確実に判別することができる。
【0035】
なお、運転判定領域RDとしては、図5に示すように、運転判別領域RDを規定する下限の吸気管圧力を、エンジン回転数の上昇とともに大気圧に近づくように設定するものであってよい。すなわち吸気管圧力が大気圧に近くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど、点火プラグ18の温度が高くなり易いので、点火プラグ18に付着する炭素の量が少なくなり、リーク電流自体が小さくなる。このため、リーク電流が消滅するまでに要する時間は短くなり、イオン電流検出期間TDPの時間はエンジン回転数が高くなることで短くなっても、リーク電流の消滅からイオン電流検出期間TDPの終了時点までにリーク電流が重畳したイオン電流が発生していない期間が存在するため、上述と同様にくすぶりを判定し得るものとなる。
【0036】
しかも、上述のように、吸気管圧力の上昇(大気圧への接近)、及びエンジン回転数の上昇に応じて運転判定領域を狭くすることにより、点火プラグ18の自己清浄性によってくすぶりを解消した場合に、読み込まれた発生角度GAが閾値を超えるような運転状態においてくすぶりを誤って判定することを防止することができる。
【0037】
次に、運転状態を、エンジン回転数及び吸気管圧力に加えて、エンジン100に対する電気負荷を含む負荷を検出することにより検出する例を説明する。
【0038】
この例の場合、基本となる運転判定領域は上記実施形態と同じに設定するものである。そして、エンジン100に負荷がかかっている場合は、運転判定領域RDを定義する吸気管圧力を、かかった負荷に基づいて設定される補正量だけ増加させて、実質的な運転判定領域を狭くして、くすぶり判定を実行するものである。車両が走行している場合の車速、車両が停止中であっても自動変速機における変速位置が走行レンジにあること、オルタネータや電気負荷であるエアコンディショナのブロアあるいはファンが作動していることなどを検出することで、負荷がかかったことを検出するものである。
【0039】
この例にあっては、上記実施形態におけるステップS1において、検出したエンジン回転数と吸気管圧力と負荷とにより運転状態を検出する。そして、負荷を検出した場合には、ステップS1を実行した後に、設定された補正量により所定の吸気管圧力PT1を補正して、補正した運転判定領域を設定する。この補正した運転判定領域を規定する吸気管圧力の下限値PTLを、図3において点線にて示す(図5に示す例の場合も同様である。)。この後、上記実施形態と同じく、検出した運転状態が補正した運転判定領域内であるか否かを判定し、運転判定領域内である場合には計測した発生角度GAを読み込み、その発生角度GAがステップS4及びステップS6において規定する条件を満たす場合にくすぶりが発生していると判定するものである。
【0040】
このように、運転判定領域を狭くすることにより、負荷の状態により吸気管圧力が変動するような運転状態において、例えば走行しているにもかかわらず、エンジン100が外部の駆動力により駆動されることで燃焼が長くなり、これに伴って検出されるイオン電流の発生角度も大きくなる場合に、くすぶりが発生していると誤って判定することを防止することができる。
【0041】
例えば、降坂走行中、あるいは平地走行中にアクセルペダルの操作量を減じた場合などでは、車輪によりエンジン100が駆動される運転状態になることがある。このような場合、アクセルペダルは操作されているが、エンジン100が外部の駆動力により駆動されることでエンジン回転数が高くなり、その結果、吸入空気量に対する燃料量が少なくなり、燃焼が長くなるものである。したがって、燃焼の長さに応じて、イオン電流の発生角度も大きくなり、くすぶりが生じていない、つまりリーク電流が流れていない場合にこのようなイオン電流の発生角度を連続して検出すると、くすぶりと判定することが生じる。
【0042】
したがって、このような運転状態にある場合にあっては、運転判定領域における吸気管圧力の値を、通常の走行時、つまりエンジン100が内部の駆動力でのみ駆動されて回転している場合に比較して大きくして、運転判定領域を狭くする(負荷条件を厳しくする)ことで、走行中の負荷の変動に対する運転状態の判定のためのマージンを設定するものである。この場合、上述のように、負荷の変化によりエンジン回転数が高くなってイオン電流の発生角度が大きくなることを考慮して、吸気管圧力の補正量は、エンジン回転数が高いほど多くなるように設定してある。
【0043】
このようにして、エンジン100にかかる負荷の状態に応じて運転判定領域を変更するので、くすぶりが負荷の変動によりイオン電流の発生角度が長くなる場合を、くすぶりと誤って判定することを確実に防止することができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0045】
イオン電流検出期間TDPは、点火から180°CAに設定するものであってもよい。また、各気筒のイオン電流を直列に一つのイオン電流測定用回路に入力して、各気筒の点火毎に処理するものでは、ある気筒の点火時期からその次に点火行程となる気筒の点火時期までのクランク角度で設定するものであってもよい。
【0046】
また、以上に説明したくすぶりの判定に、減速走行もしくはレーシング後の減速運転における燃料カット中のイオン電流の有無を組み合わせて、点火プラグ18を含む点火及びイオン検出系の短絡を判定するものであってもよい。すなわち、燃料カットを実行するまでの運転においてくすぶりを判定し、燃料カットの運転状態に移行した後に燃焼がないにもかかわらずイオン電流を検出した場合には、くすぶりが発生しているのではなく例えば点火プラグ18が短絡していると判定するものである。
【0047】
加えて上記実施形態においては、イオン信号(くすぶりによりリーク電流が重畳しているイオン電流も含む)の発生角度GAを、イオン電流がイオン電流検出期間TDP内に消滅と再発生とを繰り返す場合、イオン電流が基準レベルL1以上となっているクランク角度を合計して計測して、計測したイオン電流が閾値を超えたか否かを判定したが、このような閾値に替えて、イオン電流が基準レベルL1以上となっている角度(図2におけるCA1、CA2、CA3に相当)を加算して得られる発生角度が所定条件を満たしている場合に、上記実施形態における閾値を超えたと判定するものであってよい。
【0048】
この場合の所定条件としては、発生角度が、通常の燃焼状態における発生角度以上である、あるいは、イオン電流検出期間TDPの多くの期間例えば90%にあたる期間に対応する場合のクランク角度である、などである。このように所定条件を設定することにより、例えばイオン電流の検出系を構成する点火プラグ18やイオン電流測定用回路25などにおいて短絡した場合をも判定できるものとなる。つまり、短絡が生じた場合、イオン電流検出時において何ら変化しない電流信号を検出することがある。このような電流信号に対して、ノイズが重畳すると、その電流信号がノイズにより分断され、短絡時の電流信号と相違してくる。このような短絡時に、発生角度が上記所定条件を満たすことにより上記実施形態における閾値を超えたとする判定を実行すれば、短絡していないと誤って判定することを防止することができる。
【0049】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態におけるエンジン及び電子制御装置の概略構成を示す概略構成説明図。
【図2】同実施形態のイオン電流及びリーク電流と発生角度との関係を示すグラフ。
【図3】同実施形態の運転判定領域を規定するエンジン回転数と吸気管圧力との関係を示すグラフ。
【図4】同実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態における他の運転判定領域を規定するエンジン回転数と吸気管圧力との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0051】
6…電子制御装置
7…中央演算処理装置
8…記憶装置
9…入力インターフェース
10…燃焼室
18…点火プラグ
RD…運転判定領域
Ne1…所定回転数
PT1…所定の吸気管圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグを備え車両に搭載される火花点火式の内燃機関において、点火プラグを介して点火後に燃焼室に生じるイオン電流を検出し、検出したイオン電流に基づいて点火プラグのくすぶりを判定するものであって、
内燃機関の運転状態を検出し、
検出した運転状態が、所定回転数を上限とし、かつ所定の吸気管圧力を下限として大気圧に近い吸気管圧力となる運転領域に対応して設定される運転判定領域内でのものである場合に検出したイオン電流が所定条件を満たすことで点火プラグのくすぶりを判定する内燃機関のくすぶり判定方法。
【請求項2】
内燃機関が無負荷運転状態以外の運転状態である場合に、前記運転判定領域を狭くする請求項1記載の内燃機関のくすぶり判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−57543(P2006−57543A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240642(P2004−240642)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】