説明

内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置

【課題】エアー制御機構を適正なタイミングで動作させる技術やエアー制御機構を用いて適切なエアー量を導入する技術が求められている。
【解決手段】内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置における電子制御装置は、アイドル時のエアー制御の学習値を記憶するメモリと、内燃機関の停止指令に応じて、ピストンの停止位置を制御するためのエアー導入を行うため、エアー制御機構を作動させる信号をアクチュエータに送る手段と、を備え、現在のエアー制御の学習値とエアー制御の学習値の基準値との差に基づいてエアー制御機構を作動させるタイミングを決定するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内燃機関の停止時におけるピストンの停止位置を制御するためのエアー制御機構を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関においては、燃焼室で燃焼が停止しても、ピストンは、ピストンの惰性が摩擦で消費されるまで数十回程度往復運動し、エンジンを振動させる。また、エンジンを停止するときには吸気通路上のスロットルバルブを完全に閉じた位置に配置することが行われた。かかる状況では、圧縮行程の気筒内の空気量が減少するため、ピストンの惰性による往復運動の慣性エネルギに抗する力が弱くなり、ピストンは上死点近傍で停止しやすくなる。
【0003】
特許文献1には、ピストンが上死点付近で停止した状態では、クランクアームとクランクロッドとが直列になり、ピストンを動かすのに必要なトルクが大きいので、エンジンの始動性が悪いことが記載されている。このため、特許文献1は、エンジン停止時に惰性によるエンジン回転数が予め設定された値を下回ると、スロットルバルブを少し開いて吸気通路内の負圧を弱めることを提案している。
【0004】
特許文献2には、エンジン停止時のエンジンの振動を低減するため、スロットルバルブの開度をより細かく制御することが記載されている。
【0005】
また、通常のエンジンでは吸気弁を上死点前数度で開き始め、下死点後数十度で閉じる設定となっており、排気弁は下死点前数十度で開き始め、上死点後数度で閉じる設定となっている。このため、上死点付近の10数度の区間は、吸気弁および排気弁の両方が開いているバルブオーバーラップ区間となる。近年、内燃機関の出力および燃費を向上させるため、吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングまたはリフト量を変化させる可変動弁機構(Variable Valve Timing and Lift Control System)が使われるようになっている。この機構を用いた内燃機関でも、上死点付近でバルブオーバーラップが発生する。
【0006】
特許文献3には、エンジン回転数とエンジンのフリクショントルクとの関係を定めた標準フリクション特性をメモリに格納しておき、燃焼開始前のクランキング状態でクランク角加速度とエンジンの慣性モーメントに基づいて動的な損失トルクを算出し、この損失トルクに基づいて実フリクショントルクを求め、これとの比較により標準フリクション特性を補正することが記載されている。
【0007】
一方において、特許文献4には、通常の運転状態におけるフィードバック制御が停止されオープンループのアイドル制御に移った状態でスロットルバルブの開度を制御(エアー補正)するために、スロットルバルブの経年変化を反映したアイドルフィードバック学習値を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2000―213375
【特許文献2】特開2005−320909
【特許文献3】特開2004−150424
【特許文献4】特許第4056413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イグニションをオフにしたとき、気筒のピストンが上死点付近で停止すると、その気筒またはこれと360度の位相差で動作している気筒がバルブオーバーラップ状態で停止する。この状態では、排気系のガスが吸気管に逆流する。この状態でエンジンを始動すると、吸入空気に排ガスが混入していて酸素の量が不足するので燃焼が弱くなりエンジンの始動性が悪くなる。
【0009】
ピストンが上死点付近で停止するのを避けるため、エアー制御機構(スロットルバルブ、バルブリフト機構)を制御して空気を導入する際、たとえば慣らし走行前のエンジンや経年劣化したエンジンなどのようにエンジンのフリクションが大きいときは、フリクションによって増加する仕事により、ピストンの停止位置が意図した場所からずれる。
【0010】
したがって、ECUからの指令に対し、経年変化でエアー制御機構の作動性に変化があっても、エアー制御機構を適正なタイミングで動作させる技術やエアー制御機構を用いて適切なエアー量を導入する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の一実施形態によると、内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置は、内燃機関の吸入空気量を制御するエアー制御機構と、エアー制御機構を駆動するためのアクチュエータと、エアー制御機構の作動を検出する作動センサと、内燃機関の回転数を検出する回転数センサと、内燃機関を制御する電子制御装置と、を備えている。この電子制御装置は、アイドル時のエアー制御の学習値を記憶するメモリと、内燃機関の停止指令に応じて、ピストンの停止位置を制御するためのエアー導入を行うため、エアー制御機構を作動させる信号を前記アクチュエータに送る手段と、を備え、現在のエアー制御の学習値とエアー制御の学習値の基準値との差に基づいてエアー制御機構を作動させるタイミングを決定するように構成されている。
【0012】
この発明によると、アイドル時の現在のエアー制御の学習値とエアー制御の学習値の基準値との差に基づいて、エアー制御機構を作動させるタイミングを決定するので、経年劣化などによるエンジンのフリクションの変化を考慮した内燃機関のピストンの停止位置の制御をすることができる。
【0013】
この発明の一実施形態によると、内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置は、内燃機関の吸入空気量を制御するエアー制御機構と、エアー制御機構を駆動するためのアクチュエータと、エアー制御機構の作動を検出する作動センサと、内燃機関の回転数を検出する回転数センサと、内燃機関を制御する電子制御装置と、を備えている。この電子制御装置は、アイドル時のエアー制御の学習値を記憶するメモリと、内燃機関の停止指令に応じて、ピストンの停止位置を制御するためのエアー導入を行うため、エアー制御機構を作動させる信号を前記アクチュエータに送る手段と、を備え、現在のエアー制御の学習値とエアー制御の学習値の基準値との差に基づいてエアー制御機構のエアー導入量を決定するように構成されている。
【0014】
この発明によると、アイドル時の現在のエアー制御の学習値とエアー制御の学習値の基準値との差に基づいて、エアー制御機構を作動させるタイミングを決定するので、経年劣化などによるエンジンのフリクションの変化を考慮した内燃機関のピストンの停止位置の制御をすることができる。
【0015】
この発明の一実施形態によると、エアー制御機構は、スロットルバルブまたは気筒の吸気弁のリフト量を制御する手段である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照して、この発明の実施の形態を説明する。図1は、内燃機関(以下、エンジンという)の停止時にエアー制御機構を制御する装置の全体的な構成を示すブロック図である。エアー制御機構とは、例えば、スロットルバルブやバルブリフト機構であって、本実施形態ではスロットルバルブを制御する。なお、スロットルバルブの代わりにバルブリフト機構を制御してもよい。
【0017】
エンジン10は、たとえば4気筒の自動車エンジンである。吸気管12には主たる絞り弁であるスロットルバルブ14が配置されている。スロットルバルブ14は、電子制御装置(Electronic Control Unit, ECU)60からの制御信号に応じてアクチュエータ18によって駆動される。ECU60は、図に示さないアクセルペダルの踏み込み量センサからの検出出力に応じて、スロットルバルブ14を開閉制御するための制御信号をアクチュエータ18に送る。この方式は、ドライブバイワイヤ方式と呼ばれており、他の方式には、ワイヤ16をアクセルペダルに接続してアクセルペダルにより直接的にスロットルバルブを制御する方式がある。スロットルバルブ14の近くにスロットルバルブ開度センサ20が設けられており、スロットル開度θTHに応じた信号を出力する。
【0018】
スロットルバルブ14の下流のインテークマニホールドの直後の吸気ポート付近に、気筒ごとにインジェクタ(燃料噴射装置)24が設けられている。インジェクタ24は、燃料タンクに燃料供給管および燃料ポンプを介して接続され、ガソリン燃料の供給を受け、吸気ポート内に噴射する。
【0019】
吸気管12のスロットルバルブ14の下流には絶対圧センサ32および吸気温センサ34が備えられ、それぞれ吸気管内絶対圧PBAおよび吸気温TAを示す電気信号を出力する。
【0020】
エンジン10のカムシャフトまたはクランクシャフトの付近に気筒判別センサ(CYL)40が設けられており、たとえば第1気筒の所定クランク角度位置で気筒判別信号CYLを出力する。また、TDCセンサ42およびクランク角センサ(CRK)44が備えられており、前者は、各気筒のピストン上死点(TDC)位置に関連した所定のクランク角度位置でTDC信号を出力し、後者は、TDC信号よりも周期の短いクランク角度(たとえば30度)でCRK信号を出力する。
【0021】
エンジン10は、エキゾーストマニホールドを介して排気管46に接続され、燃焼によって生じた排出ガスを触媒装置50で浄化し、外部に排出する。触媒装置50の上流には広域空燃比(LAF)センサ52が設けられ、リーンからリッチにわたる広範囲において排出ガス中の酸素濃度に比例する信号を出力する。
【0022】
自動車の車輪を駆動するドライブシャフトの付近に車速センサ54が配置され、ドライブシャフトの所定回転ごとに信号を出力する。また、車両には大気圧センサ56が設けられ、大気圧に応じた信号を出力する。
【0023】
これらのセンサの出力は、電子制御装置(ECU)60に送られる。ECU60は、マイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサCPU60a、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブルを格納するROM60b、およびCPU60aによる演算結果などを一時記憶するRAM60cを有する。ECU60は、不揮発性のメモリを備えており、次回の運転サイクルでのエンジン制御に必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き替え可能なROMであるEEPROM、または車両の電源がオフにされても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。
【0024】
各種センサの出力は、ECU60の入力インターフェイス60dに入力される。入力インターフェイス60dは、入力信号を整形して電圧レベルを修正する回路、およびアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換器を備えている。
【0025】
CPU60aは、クランク角センサ44からのCRK信号をカウンタでカウントしてエンジン回転数NEを検出し、また、車速センサ54からの信号をカウントして車両の走行速度VPを検出する。CPU60aは、ROM60bに格納されたプログラムに従って演算を実行し、出力インターフェイス60eを介してインジェクタ24、点火装置(図示せず)、スロットルバルブ・アクチュエータ18などに駆動信号を送る。
【0026】
次に図2を参照して、本発明の一実施形態のエンジン10の停止時におけるスロットルバルブ14を開閉するタイミングの制御プロセスを説明する。本実施形態では、経年劣化などによるエンジンのフリクションの変化を考慮して、エンジン10のピストンの停止位置を制御することができる。該プロセスは、エンジン始動後に所定時間間隔(例えば100ms)でECU60により実行される。
【0027】
サブルーチンS71では、スロットルバルブ14の制御に用いるエアー制御の学習値を算出する。図3を参照すると、エアー制御の学習値は、点線で示す第1学習値(IXREF)や実線で示す第2学習値(IXREFDBW)である。第1学習値(IXREF)は、特許文献4に第1学習値(IXREFN)として示される値で、アイドル中のスロットルバルブ14の開度をPIDフィードバック制御するときの、積分項をなました値である。第2学習値(IXREFDBW)は、第1学習値をなました値である。図3は、経年変化により、第1学習値および第2学習値が変化する様子をモデル的に示している。この発明の一実施例では、エアー制御の学習値として、第1学習値(IXREF)を用いる。代替的に第2学習値を用いることもできる。
【0028】
図4を参照して、ステップS71のエアー制御の学習値IXREFを算出するプロセスを説明する。まず、車両の状態が学習許可領域にあるかどうか、すなわち車両の状態が学習値の算出に適しているかどうかをサブルーチンS101で判定する。
【0029】
図5を参照して、サブルーチンS101の詳細を説明する。まずステップS121において、車両がアイドル回転数をフィードバック制御するモードにあるかどうかを、車両の運転モードを示すステータスコードに基づいて判定する。否定のときは、学習許可フラグを0(不許可)にセットして(S137)、プロセスを終了する。肯定のときは、ステップS123に進み、エンジン始動から所定の時間が経過したことを示すフラグが1にセットされているかどうかを判定する。このフラグが1にセットされていないときは、学習許可フラグを0にセットして(S137)、プロセスを終了する。エンジン始動直後は、エンジンの状態が安定していないので、学習を禁止するのである。
【0030】
エンジン始動から所定の時間が経過していると、ステップS125に進み、吸気管内の絶対圧PBAが所定値より大きいかどうかが判定される。PBAは、エンジンの負荷を反映しており、PBAが所定値より大きいことは、エンジン負荷が大きいことを意味し、学習値の算出に適さないので、ステップS137を経てプロセスを終了する。PBAが所定値以下であれば、ステップS127に進み、ゲージ圧PBGA、すなわち大気圧PAと吸気管内圧PBAとの差、が所定値より大きいかどうかが判定される。ゲージ圧PBGAが所定値より大きいことは、高負荷を意味し、学習値の算出に適さないので、学習許可フラグを0にセットして(S137)、プロセスを終了する。
【0031】
ゲージ圧PBGAが所定値以下であれば、ステップS129に進み、エンジン回転するNEの変動が所定値より大きいかどうかが判定される。NEの変動が所定値より大きいときは、学習値の算出に適さないので、学習許可フラグを0にセットして(S137)、プロセスを終了する。NE変動が所定値以下であれば、ステップS131に進み、エンジンの目標回転数NOBJの今回値と前回値との差が所定値より大きいかどうかが判定される。NOBJの偏差が大きいことは、エンジン回転が安定していないことを意味し、学習値の算出に適さないので、学習許可フラグを0にセットして(S137)、プロセスを終了する。
【0032】
NOBJ偏差が所定値以下であれば、ステップS133に進み、エンジン水温TWが所定値より低いかどうかが判定される。エンジン水温が所定値以下のときは、エンジンが不安定で学習値の算出に適さないので、学習許可フラグを0にセットして(S137)、プロセスを終了する。エンジン水温が所定値以上であれば、学習許可フラグを1にセットし(S135)、プロセスを終了する。
【0033】
図4に戻り、ステップS103に進む。ステップS103では、なんらかのデバイスの故障を示すフラグが1にセットされているかどうか判定される。このフラグが1にセットされていなければ、ステップS105に進む。ステップS105では、学習許可フラグが1にセットされているかどうか判定される。学習許可フラグは、前述の通り、サブルーチンS101においてセットされる。学習許可フラグが1にセットされているならば、ステップS107でカウンタの値を1だけ減らして(デクリメントして)、ステップS109に進む。ステップS109でカウンタの値が0に達しているかどうか判定され、0になっていなければ、プロセスを終了する。
【0034】
ステップS109でカウンタが0になっているならば、このカウンタを初期値にセットし(S111)、エアー制御の学習値の算出ステップS113に進む。ここで、エアー制御の学習値IXREFは、次に式で算出される。
IXREF = IAIN × なまし係数 + IXREF(n-1) ×(1−なまし係数) (1)
【0035】
IAINは、PIDフィードバック制御の積分項である。IXREF(n-1)は、学習値IXREFの前回値である。なまし係数は、たとえば、0.7である。この実施例では、なまし係数を用いて学習値を求めたが、他の実施例では、積分項IAINの移動平均を学習値とする。こうして算出された学習値は、RAM60cに記憶される。
【0036】
上述したステップS103でデバイス故障フラグが1にセットされているときは、予め決められた所定のデフォルト値をエアー制御の学習値IXREFとし(S117)、学習値算出間隔を定めるカウンタに初期値をセットして(S119)、プロセスを終了する。
【0037】
図2に戻り、ステップS72に進む。ステップS72では、ステップS71でエアー制御の学習値が算出されたかどうかを判定する。エアー制御の学習値が算出されていない場合は、プロセスを終了する。一方、エアー制御の学習値が算出されている場合は、ステップS73に進む。
【0038】
ステップS73では、現在のエアー制御の学習値と初期状態のエアー制御の学習値との差を算出する。初期状態のエアー制御の学習値とは、車両の走行開始時点におけるエアー制御学習値である。学習値の差は、例えば図3を参照すると、現在の走行時点S2におけるエアー制御の学習値IXREF(S2)と初期状態の走行開始時点S1におけるエアー制御の学習値IXREF(S1)との差である。図3に示すようなエアー制御の学習値は、前述の通りRAM60cに記憶されている。
【0039】
ステップS74では、スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopを算出する。スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopは、エンジン回転数(rpm)を示し、エンジン回転数が制御開始回転数NEstopに達するとスロットルバルブ14の開制御を開始する。スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopは、車両の走行開始時点(初期状態)のスロットルバルブ制御開始回転数NEstoprefにスロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNEを加えて求められる。
NEstop = NEstopref + ΔNE (2)
【0040】
ここで、初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数NEstoprefは、慣らし運転終了時のスロットルバルブ制御開始回転数NEstopiniに初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNEiniを加えて求められる。
NEstopref = NEstopini + ΔNEini (3)
【0041】
慣らし運転(例えば、車両を1000Km〜2000Km程度走行させる試用的な運転)終了時のスロットルバルブ制御開始回転数NEstopiniは、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定される。初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNEiniは、慣らし運転終了時のエアー制御の学習値と初期状態のエアー制御の学習値の差に基づいて、図6に示すようなエアー制御の学習値の差とスロットルバルブ制御開始回転数の補正量との関係を示したマップを参照して求められる。慣らし運転終了時のエアー制御の学習値は、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定されており、初期状態のエアー制御の学習値は、前述の通り、例えば図3を参照して求められる。こうして、初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数NEstoprefが求められる。
【0042】
また、スロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNEは、現在のエアー制御の学習値と初期状態のエアー制御の学習値の差FRIC_AIRに基づいて、図6に示すようなエアー制御の学習値の差FRIC_AIRとスロットルバルブ制御開始回転数の補正量との関係を示したマップを参照して求められる。より詳しくは、ステップS73で求めた、現在の走行時点S2におけるエアー制御の学習値IXREF(S2) と初期状態の走行開始時点S1におけるエアー制御の学習値IXREF(S1)との差(IXREF(S1)−IXREF (S2))から、図6を参照して、スロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNE(S2)を求める。本実施形態では、現在の走行時点S2では、エアー制御の学習値の差FRIC_AIRが負の値になっており、経年劣化などによりエンジンのフリクションが増大している。こうして、初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数NEstoprefとスロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNEから、スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopが求められる。
【0043】
ステップS75では、エンジン停止指令が送られているかを判定する。エンジン停止指令とは、イグニションがオフされた場合やアイドル時にエンジンを自動停止する場合などのエンジンの停止時に、ECU60に送られる信号である。エンジン停止指令が送られていない場合は、プロセスを終了する。一方、エンジン停止指令が送られている場合には、ステップS76に進む。
【0044】
ステップS76では、スロットルバルブの開制御が終了しているかを判定する。スロットルバルブの開制御が終了している場合は、スロットルバルブ14を閉制御する(ステップS79)。一方、スロットルバルブの開制御が終了していない場合には、ステップS77に進む。
【0045】
ステップS77では、現在のエンジン回転数が、ステップS74で求めたスロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopに達したかどうかを判定する。前述の通り、エンジン回転数はクランク角センサ(CRK)44を用いて測定する。現在のエンジン回転数が、スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopに達していない場合は、スロットルバルブ14を閉制御する(ステップS79)。一方、現在のエンジン回転数がスロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopに達している場合には、エンジン10のピストンの停止位置を制御するために、スロットルバルブ14を開制御する(ステップS78)。
【0046】
本実施形態では、スロットルバルブのフリクションが経年劣化によって増大している。このような場合には、スロットルバルブ14を制御する(開く)タイミングを遅らせる。こうして、経年劣化などのエンジンのフリクションの変化を考慮して、エンジン停止時のピストンの停止位置を制御することができる。
【0047】
以上に、この発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含むものである。
【0048】
他の実施形態では、図2のステップS74において、スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopを、式(2)に示すように初期状態のスロットルバルブ制御開始回転数NEstoprefを基準にして求めるのに代えて、図7に示すように慣らし運転終了時のスロットルバルブ制御開始回転数NEstopiniを基準にして求めてもよい。
NEstop = NEstopini + ΔNErun (4)
【0049】
慣らし運転終了時のスロットルバルブ制御開始回転数NEstopiniは、前述の通り、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定される。このNEstopini設定時に、その時の当該テストエンジンにおけるエアー制御の学習値を基準値として設定する。スロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNErunは、現在のエアー制御の学習値と上記基準値である慣らし運転後のエアー制御の学習値の差FRIC_AIRrunに基づいて、図7に示すようなエアー制御の学習値の差FRIC_ AIRrunとスロットルバルブ制御開始回転数の補正量との関係を示したマップを参照して求められる。より詳しくは、図2のステップS73で、初期状態のエアー制御の学習値を基準値として学習値の差を求めるのに代えて、NEstopiniを設定したテストエンジンにおける慣らし運転終了時のエアー制御の学習値を予め基準値として不揮発性メモリに記憶させておき、当該記憶しておいた基準値と現在の学習値の差を求める。例えば、現在の走行時点S2におけるエアー制御の学習値IXREF(S2) と慣らし運転後の走行開始時点Siniにおけるエアー制御の学習値IXREF(Sini)との差(IXREF(Sini)−IXREF(S2))を求め、該差に基づいて図7を参照して、スロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNErun (S2)を求める。こうして、慣らし運転終了時のスロットルバルブ制御開始回転数NEstopiniとスロットルバルブ制御開始回転数の補正量ΔNErunから、スロットルバルブ14の制御開始回転数NEstopが求められる。
【0050】
また、他の実施形態では、エンジン10の停止時において、スロットルバルブ14を開閉するタイミングを制御する代わりに、スロットルバルブ14の開度を制御してもよい。図8を参照すると、ステップS151でスロットルバルブ14のスロットル開度THstopを算出する。スロットル開度THstopは、車両の走行開始時点(初期状態)のスロットル開度THstoprefにスロットル開度の補正量ΔTHを加えて求められる。
THstop = THstopref + ΔTH (5)
【0051】
ここで、初期状態のスロットル開度THstoprefは、慣らし運転終了時のスロットル開度THstopiniに初期状態のスロットル開度の補正量ΔTHiniを加えて求められる。
THstopref = THstopini + ΔTHini (6)
【0052】
慣らし運転終了時のスロットル開度THstopiniは、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定される。初期状態のスロットル開度の補正量ΔTHiniは、慣らし運転終了時のエアー制御の学習値と初期状態のエアー制御の学習値の差に基づいて、図9に示すようなエアー制御の学習値の差とスロットル開度の補正量との関係を示したマップを参照して求められる。慣らし運転終了時のエアー制御の学習値は、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定されており、初期状態のエアー制御の学習値は、前述の通り、例えば、図3を参照して求められる。こうして、初期状態のスロットル開度THstoprefが求められる。
【0053】
また、スロットル開度の補正量ΔTHは、現在のエアー制御の学習値と初期状態のエアー制御の学習値の差FRIC_AIRに基づいて、図9に示すようなエアー制御の学習値の差FRIC_AIRとスロットル開度ΔTHの補正量の関係を示したマップを参照して求められる。より詳しくは、ステップS73で求めた、現在の走行時点S2におけるエアー制御の学習値IXREF(S2) と初期状態の走行開始時点S1におけるエアー制御の学習値IXREF(S1)との差(IXREF (S1)−IXREF(S2))から、図9を参照して、スロットルバルブ制御開始時の補正量ΔTH (S2)を求める。本実施形態では、現在の走行時点S2では、エアー制御の学習値の差FRIC_AIRが負の値になっており、経年劣化などによりエンジンのフリクションが増大している。こうして、初期状態のスロットル開度THstoprefとスロットル開度の補正量ΔTHから、スロットルバルブ14のスロットル開度THstopが求められる。
【0054】
ステップS152では、スロットルバルブ制御開始回転数に達したかどうかを判定する。スロットルバルブ制御開始回転数は、前述の通り、エンジン回転数(rpm)を示し、エンジン回転数はクランク角センサ(CRK)44を用いて測定する。例えば、スロットルバルブ制御開始回転数は、慣らし運転後のエンジンを使ったテストに基づいて設定される。現在のエンジン回転数が、スロットルバルブ14の制御開始回転数に達していない場合は、スロットルバルブ14を閉制御する(ステップS79)。一方、現在のエンジン回転数がスロットルバルブ14の制御開始回転数に達している場合には、エンジン10のピストンの停止位置を制御するために、スロットルバルブ14をステップS151で求めたスロットル開度THstopに設定し、開制御する(ステップS153)。
【0055】
本実施形態では、スロットルバルブのフリクションが経年劣化によって増大している。このような場合には、スロットルバルブ14のスロットル開度を小さくする。こうして、経年劣化などのエンジンのフリクションの変化を考慮して、エンジン停止時のピストンの停止位置を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る、エンジンの停止時にエアー制御機構を制御する装置の全体的な構成を示すブロック図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る、エンジンの停止時におけるスロットルバルブを開閉するタイミングを制御するフローチャート。
【図3】本発明の第1実施形態に係る、エアー制御の学習値を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る、エアー制御の学習値を算出するフローチャート。
【図5】本発明の第1実施形態に係る、車両の状態が学習許可領域にあるかどうか、すなわち車両の状態が学習値の算出に適しているかを判定するフローチャート。
【図6】本発明の第1実施形態に係る、エアー制御の学習値の差とスロットルバルブ制御開始回転数との補正量の関係を示したマップ。
【図7】本発明の第1実施形態に係る、エアー制御の学習値の差とスロットルバルブ制御開始回転数との補正量の関係を示したマップ。
【図8】本発明の第1実施形態に係る、エンジンの停止時におけるスロットルバルブの開度を制御するフローチャート。
【図9】本発明の第1実施形態に係る、エアー制御の学習値の差とスロットル開度との補正量の関係を示したマップ。
【符号の説明】
【0057】
10 エンジン
14 スロットルバルブ
18 アクチュエータ
20 スロットルバルブ開度センサ
44 クランク角センサ
60 電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸入空気量を制御するエアー制御機構と、
前記エアー制御機構を駆動するためのアクチュエータと、
前記エアー制御機構の作動を検出する作動センサと、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数センサと、
前記内燃機関を制御する電子制御装置と、を備え、
前記電子制御装置は、
アイドル時のエアー制御の学習値を記憶するメモリと、
内燃機関の停止指令に応じて、ピストンの停止位置を制御するためのエアー導入を行うため、前記エアー制御機構を作動させる信号を前記アクチュエータに送る手段と、を備え、
現在の前記エアー制御の学習値と前記エアー制御の学習値の基準値との差に基づいて前記エアー制御機構を作動させるタイミングを決定するよう、構成されている、内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置。
【請求項2】
内燃機関の吸入空気量を制御するエアー制御機構と、
前記エアー制御機構を駆動するためのアクチュエータと、
前記エアー制御機構の作動を検出する作動センサと、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数センサと、
前記内燃機関を制御する電子制御装置と、を備え、
前記電子制御装置は、
アイドル時のエアー制御の学習値を記憶するメモリと、
内燃機関の停止指令に応じて、ピストンの停止位置を制御するためのエアー導入を行うため、前記エアー制御機構を作動させる信号を前記アクチュエータに送る手段と、を備え、
現在の前記エアー制御の学習値と前記エアー制御の学習値の基準値との差に基づいて前記エアー制御機構のエアー導入量を決定するよう、構成されている、内燃機関の停止時にエアー制御機構を制御する装置。
【請求項3】
前記エアー制御機構は、スロットルバルブまたは気筒の吸気弁のリフト量を制御する手段である、請求項1または2に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−133361(P2010−133361A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311090(P2008−311090)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】