説明

内燃機関の制御弁異常判定装置

【課題】 制御弁が正常に作動しているか否かを精度良く判定することができる制御弁異常判定装置を提供すること
【解決手段】 本発明の制御弁異常判定装置は、過給機61と制御弁64とを備えた機関10に適用される。制御弁異常判定装置は、区分的アフィン解析法に従って、機関10の運転パラメータの動特性を制御弁64の開度に応じた複数のARXモデルとしてモデル化する。制御弁異常判定装置は、モデル化された運転パラメータの動特性を用いて、所定時点におけるその運転パラメータの値を推定する。制御弁異常判定装置は、この推定された運転パラメータの値と、その所定時点における実際の運転パラメータの値と、を比較することにより、制御弁64が正常に作動しているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機とその過給機の制御を行うための制御弁とを備えた内燃機関に適用される制御弁異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られる過給機(排気タービン式過給機)は、内燃機関の排気通路に配設され且つ排ガスのエネルギによって駆動されるタービンと、同機関の吸気通路に配設され且つタービンが駆動されることによって駆動されるコンプレッサと、を備えている。これにより、コンプレッサに流入する空気が同コンプレッサによって圧縮され、燃焼室に向けて排出される。即ち、過給が行われる。
【0003】
従来の内燃機関の一つは、第1過給機と、第1過給機に直列に接続された第2過給機と、第1過給機及び第2過給機に供給される空気又は排ガスの流量を調整するための複数のバイパス通路と、それらのバイパス通路に配設された複数の制御弁と、を備える。この従来の内燃機関が備える制御装置(以下、「従来装置」と称呼する。)は、機関の運転状態に応じて各制御弁の開度を変更する。これにより、機関の運転状態に応じた適切な過給が行われる。
【0004】
従来装置は、上述した適切な過給が行われる状態を維持することを目的として、機関を構成する部材(例えば、第1過給機のコンプレッサに供給される空気量を調整する制御弁である吸気切替弁)が正常に作動しているか否かを判定するようになっている。具体的に述べると、従来装置は、予め実験等によって定められた「吸気切替弁が正常に作動している場合における、機関回転速度と、スロットル開度と、吸気通路内の所定箇所における空気圧力と、の関係(圧力マップ)」を記憶している。更に、従来装置は、機関回転速度及びスロットル開度の実際の値をこの圧力マップに適用することにより、上記所定箇所における「空気圧力の推定値」を取得する。そして、従来装置は、この「空気圧力の推定値」と、同所定箇所における「実際の空気圧力(実測値)」と、が一致しないとき、機関を構成する部材(例えば、吸気切替弁)が異常であると判定するようになっている。(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
以下、「第1過給機のコンプレッサ」を、便宜上、「第1コンプレッサ」とも称呼する。更に、「吸気通路内の所定箇所における空気圧力」を、便宜上、単に「空気圧力」とも称呼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平2−78734号公報
【発明の概要】
【0007】
上述したように、従来装置は、機関回転速度及びスロットル開度と、空気圧力と、の関係を「予め実験等によって定められた単一の圧力マップ」によって表現するとともに、この圧力マップを用いて機関を構成する部材(例えば、吸気切替弁)が正常である場合における空気圧力を推定している。ところが、空気圧力がこの圧力マップによって推定されると、その推定された空気圧力は適切な値とならない場合がある。
【0008】
例えば、上記機関は、第1コンプレッサをバイパスする通路(バイパス通路)に配設された吸気切替弁を備えている。この吸気切替弁の開度が変化すると、第1コンプレッサに供給されることなくバイパス通路を通過する空気量が変化する。より具体的に述べると、吸気切替弁の開度が充分に小さい場合、機関に導入された空気の実質的に全てが第1コンプレッサに流入する。この場合、空気は第1コンプレッサによって圧縮される。これに対し、吸気切替弁の開度が充分に大きい場合、第1コンプレッサの前後がバイパス通路によって短絡された状態となるので、機関に導入された空気は第1コンプレッサに実質的に流入しない。この場合、空気は第1コンプレッサによって圧縮されない。そのため、機関回転速度及びスロットル開度の値が同一であっても、「吸気切替弁の開度が充分に小さい場合」における空気圧力と、「吸気切替弁の開度が充分に大きい場合」における空気圧力と、は異なる可能性がある。このように、空気圧力は、機関回転速度及びスロットル開度の影響だけではなく、吸気切替弁の開度の影響も受けて変化する。
【0009】
従って、吸気切替弁の開度を考慮していない「単一の圧力マップ」を用いて空気圧力を推定すると、適切な空気圧力が推定されない場合がある。
【0010】
更に、例えば、上記機関を構成する部材は、製造上のばらつき(製造の際に生じる同一種の部材間における寸法及び性能等の差)を有する。そのため、機関回転速度及びスロットル開度の値が同一であっても、個別の機関毎に空気圧力は異なる可能性がある。換言すると、個別の機関毎に「機関回転速度と、スロットル開度と、空気圧力と、の関係」における個体差が生じ得る。
【0011】
従って、機関を構成する部材の個体差を考慮していない「予め実験等によって定められた圧力マップ」を用いて空気圧力を推定すると、適切な空気圧力が推定されない場合がある。
【0012】
このように、上記従来装置は、適切な空気圧力を推定することができない可能性がある。その結果、上記従来装置は、吸気切替弁の異常判定を精度良く行うことができない虞があるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題に対応するためになされたものである。即ち、本発明の目的の1つは、上述したような「過給機と制御弁とを備えた内燃機関」に適用され、制御弁が正常に作動しているか否かを精度良く判定することができる制御弁異常判定装置を提供することにある。
【0014】
上記課題を達成するための本発明による制御弁の異常判定装置は、第1過給機と、制御弁と、を備えた内燃機関に適用される。
【0015】
前記第1過給機は、内燃機関の排気通路に配設されたタービンと、その機関の吸気通路に配設されたコンプレッサとを有する。このタービンは、機関の燃焼室から排出される排ガスによって駆動される。更に、このコンプレッサは、上記タービンが駆動されることによって駆動されて同吸気通路内の空気を圧縮する。
【0016】
前記機関は、単一の過給機を有するように(即ち、第1過給機のみを有するように)構成されてもよく、複数の過給機を有するように(即ち、第1過給機と、他の一又は複数の過給機と、を有するように)構成されてもよい。更に、前記機関が複数の過給機を有する場合、それら複数の過給機は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよい。
【0017】
前記制御弁は、前記コンプレッサをバイパスする通路部に設けられる。即ち、この通路部は、その一端が前記コンプレッサよりも上流側において前記吸気通路に接続されるとともにその他端が前記コンプレッサよりも下流側において前記吸気通路に接続されるように構成し得る。更に、この制御弁は、「前記コンプレッサに流入する空気の量」と「前記通路部を通過する空気の量」との割合を変更するようになっている。
【0018】
本発明の制御弁異常判定装置は、上述した内燃機関に適用される。この制御弁異常判定装置は、時系列データ取得手段と、データ分析手段と、運転状態推定手段と、異常判定手段と、を備える。
【0019】
前記時系列データ取得手段は、
「前記第1過給機による過給状態に関わる所定の運転パラメータ」の値を、時間経過に対応させた時系列データとして取得するようになっている。このように、時系列データ取得手段は、上記機関が実際に運転されている際におけるその機関独自の運転パラメータの値を時系列データとして取得するようになっている。
【0020】
前記データ分析手段は、
区分的アフィン解析法に従って、
(A)前記取得した時系列データを要素として含むデータベクトルを「複数のデータベクトル群」に分類し、
(B)前記分類された複数のデータベクトル群を用いて、「前記分類された複数のデータベクトル群を回帰空間において区分けするための境界を表す単数又は複数の関数からなる第1関数」を推定するとともに、
(C)前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに要素として含まれる時系列データを用いて、前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに対して「前記運転パラメータの動特性をARXモデル(AutoRegressive eXogeneous model)として表す第2関数」を推定する、ようになっている。
【0021】
上記(A)において、上記データベクトルを複数のデータベクトル群に分類する方法は特に制限されない。例えば、K平均法(K-means method)及び欲張り法(greedy method)等の周知のデータ分類方法が採用され得る。更に、例えば、「上記データベクトルが混合正規分布に従うとの仮定の下、その混合正規分布の最適な分布パラメータを最尤推定法を用いて算出するとともに、この算出された最適な分布パラメータを用いて所定の時点におけるデータベクトルが複数のデータベクトル群のそれぞれに帰属する確率(帰属確率)を計算し、最も帰属確率の高いデータベクトル群にその所定の時点におけるデータベクトルを分類する方法」が採用され得る(例えば、「Hayato Nakada, Kiyotsugu Takada, & Tohru Katayama (2005). Identification of piecewise affine systems based on statistical clustering technique. Automatica, 41, 905-913.」を参照。以下、この文献を「非特許文献」と称呼する。)。
【0022】
上記(B)において、「第1関数」を推定する方法は特に制限されない。例えば、サポートベクターマシン(SVM)及びソフトマージンサポートベクターマシン(soft margin SVM)等の周知のデータ認識方法等が採用され得る。
【0023】
上記(C)において、ARXモデルとは、自己回帰モデルの一種であり、システムを同定する際に用いられる周知のモデルである。更に、上記(C)において、「第2関数」を推定する方法は特に制限されない。例えば、最小二乗法及び重み付き最小二乗法等の周知の近似関数推定方法等が採用され得る。
【0024】
以下、便宜上、「運転パラメータの動特性を表す関数を推定する」ことを「運転パラメータの動特性をモデル化する」とも称呼する。これによれば、例えば、「運転パラメータの動特性をARXモデルとして表す第2関数を推定する」ことは、「運転パラメータの動特性をARXモデルとしてモデル化する」と称呼される。
【0025】
上記データ分析手段に採用されているような「システム(運転パラメータの動特性)を複数のARXモデル(複数のデータベクトル群のそれぞれに対して推定される複数の第2関数)の組み合わせとして表したモデル」は、一般に、区分的アフィン自己回帰モデル(PWARX model,PieceWise affine AutoRegressive eXogeneous model)と称呼される。更に、システムを区分的アフィン自己回帰モデルとして同定する解析法は、区分的アフィン解析法と称呼される。
【0026】
このように、前記データ分析手段は、複数のデータベクトル群を回帰空間において区分けするための境界を表す第1関数と、複数のデータベクトル群のそれぞれに対して前記運転パラメータの動特性をARXモデルとして表した第2関数と、を推定するようになっている。
【0027】
前記運転状態推定手段は、
「前記データ分析手段によって前記第1関数及び前記第2関数が推定された時点よりも後の「第1時点」にて前記時系列データ取得手段により取得される時系列データを要素として含む回帰ベクトル」を前記第1関数に適用することにより、「同回帰ベクトルが前記複数のデータベクトル群のうちの何れのデータベクトル群に回帰空間において分類されるか」を決定するとともに、
前記第2関数のうちの「同決定された同回帰ベクトルが回帰空間において分類されるデータベクトル群に対応する第2関数」に同回帰ベクトルを適用することにより、「前記第1時点よりも後の「第2時点」における前記運転パラメータの値」を推定する、ようになっている。
【0028】
このように、運転状態推定手段は、上述したデータ分析手段によって推定された第1関数及び第2関数を用いて、「ある時点(第1時点)における時系列データを要素として含む回帰ベクトル」から「その時点よりも後の時点(第2時点)における運転パラメータの値(推定値)」を推定するようになっている。
【0029】
前記異常判定手段は、
前記推定された前記第2時点における前記運転パラメータの値(推定値)と、同第2時点における同運転パラメータの実際の値(実測値)と、を比較することにより、前記制御弁が異常であるか否かを判定するようになっている。
【0030】
より具体的に述べると、異常判定手段は、例えば、「運転パラメータの推定値と、運転パラメータの実測値と、の差の絶対値」が所定の閾値以上であるとき、制御弁が異常であると判定するように構成し得る。更に、異常判定手段は、例えば、「運転パラメータの推定値と、運転パラメータの実測値と、の差の絶対値が所定の閾値以上である状態」が所定の期間以上継続したとき、制御弁が異常であると判定するように構成し得る。
【0031】
このように、本発明の制御弁異常判定装置は、運転パラメータの動特性を複数のARXモデルの組み合わせ(区分的アフィン自己回帰モデル)としてモデル化する。そのため、本発明の制御弁異常判定装置は、運転パラメータの動特性を「単一のモデル」としてモデル化する上記従来装置に比べ、所定の時点(第2時点)における運転パラメータの値をより精度良く推定することができる。更に、本発明の制御弁異常判定装置は、機関が実際に運転されている際にその機関から取得される運転パラメータの値に基づき、運転パラメータの動特性をモデル化する。そのため、本発明の制御弁異常判定装置は、「予め実験等によって取得したマップ」を使用する上記従来装置に比べ、所定の時点(第2時点)における運転パラメータの値をより精度良く推定することができる。これらの結果、本発明の制御弁異常判定装置は、制御弁が正常に作動しているか否かをより精度良く判定することができる。
【0032】
更に、本発明の制御弁異常判定装置は、
「前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれ」が「前記制御弁の開度の可動範囲を分割する複数の開度領域のそれぞれ」に対応するように構成され得る。
【0033】
上述したように、制御弁の開度は運転パラメータの値(上記従来装置においては過給圧)に影響を与える。そこで、「上記複数のデータベクトル群のそれぞれ」が「制御弁の複数の開度領域のそれぞれ」に対応するように構成することにより、運転パラメータの動特性を更に精度良くモデル化することができる。その結果、本発明の制御弁異常判定装置は、制御弁が正常に作動しているか否かを更に精度良く判定することができる。
【0034】
この「制御弁の複数の開度領域」の数、及び、それぞれの開度領域の範囲は、制御弁の開度が運転パラメータに及ぼす影響等を考慮して定められ得る。例えば、実験及び経験等によって「制御弁の開度が所定開度以下である場合における運転パラメータの動特性と、制御弁の開度がその所定開度よりも大きい場合における運転パラメータの動特性と、が異なる」ことが予め確認されているとき、上記「複数の領域」は、「開度がその所定開度以下である領域」及び「開度がその所定開度よりも大きい領域」の2つの領域からなるように定められ得る。
【0035】
これに対し、「複数の開度領域の数」及び「それぞれの開度領域の範囲」を実験及び経験等によって予め定めることができないとき、「複数の領域の数」は、例えば、「赤池情報量基準(CAIC)又は最小記述長(MDL)に基づいて最適な領域数を推定する方法(例えば、非特許文献を参照。)」を用いて推定され得る。更に、「それぞれの開度領域の範囲」は、例えば、運転パラメータの値と制御弁の開度とを関連付けながら運転パラメータの時系列データを取得し、その時系列データを要素として含むデータベクトルを上記データ分析手段によって複数のデータベクトル群に分類した後、分類されたデータベクトル群のそれぞれに含まれる運転パラメータの値に関連付けられている制御弁の開度から推定され得る。
【0036】
更に、上記「複数の開度領域」は、開度範囲がゼロである領域を含んでもよい。即ち、例えば、「複数の領域」は、「開度が全閉開度である領域(即ち、開度範囲はゼロ)」と、「開度が全閉開度以外の開度である領域」と、を含むように定められてもよい。
【0037】
加えて、「複数のデータベクトル群のそれぞれ」が「複数の開度領域」のうちの何れの開度領域に対応するかを決定する方法は、特に制限されない。例えば、予め実験等により、「制御弁の開度が所定の開度領域に属する場合の運転パラメータの値」を参照値として取得し、この参照値と「あるデータベクトル群に属する任意の一のデータベクトルに要素として含まれる運転パラメータの値」とを照合することにより、そのデータベクトル群が何れの開度領域に対応するかが決定され得る。更に、例えば、運転パラメータの値と制御弁の開度とを互いに関連付けながら時系列データを取得し、「あるデータベクトル群に属する任意の一のデータベクトルに要素として含まれる運転パラメータの値に関連付けられている制御弁の開度」を参照することにより、そのデータベクトル群が何れの開度領域に対応するかが決定され得る。
【0038】
更に、本発明の制御弁異常判定装置は、上述した「第2時点における運転パラメータの値に基づいて制御弁の異常判定を行う」ことに加え、「第1時点における制御弁の開度に基づいて制御弁の異常判定を行う」ように構成され得る。
【0039】
より具体的に述べると、本発明の制御弁異常判定装置において、
前記運転状態推定手段は、
「前記回帰ベクトルと前記第1関数とによって決定された同回帰ベクトルが回帰空間において分類される前記データベクトル群」に対応する前記複数の開度領域のうちの一つを、「前記第1時点において前記制御弁の開度が属する開度領域である制御弁推定所属領域」として推定するように構成されるとともに、
前記異常判定手段は、
前記推定された「前記制御弁推定所属領域」と、「前記第1時点における前記制御弁の実際の開度が属する前記複数の開度領域のうちの一つである制御弁実所属領域」と、を比較することにより、前記制御弁が異常であるか否かを判定するように構成され得る。
【0040】
より具体的に述べると、異常判定手段は、例えば、制御弁推定所属領域と制御弁実所属領域とが一致しないとき、制御弁が異常であると判定するように構成され得る。更に、異常判定手段は、制御弁推定所属領域と制御弁実所属領域とが一致しない状態が所定の期間以上継続したとき、制御弁が異常であると判定するように構成され得る。
【0041】
このように、上記構成を備えた制御弁異常判定装置は、第2時点における運転パラメータの値に基づく制御弁の異常判定、及び、第1時点における制御弁の開度に基づく制御弁の異常判定、の双方を行うことができる。これにより、本発明の制御弁異常判定装置は、これらの異常判定のうちの何れか一方のみを行う場合に比べ、制御弁が正常に作動しているか否かを更に精度良く判定することができる。
【0042】
更に、本発明の制御弁異常判定装置において、
前記複数の開度領域は、「前記制御弁の開度が全閉開度である領域」及び「同制御弁の開度が同全閉開度以外の開度である領域」の2つの領域からなるように構成され得る。なお、「全閉開度」とは、「制御弁が設けられている通路部を空気が実質的に通過することができない(即ち、通路部が遮断される)開度」を意味する。
【0043】
上述したように、本発明の制御弁異常判定装置が適用される機関において、制御弁は、コンプレッサをバイパスする通路部に設けられている。そのため、制御弁の開度が「全閉開度」であれば、通路部が遮断されるので、機関に導入される空気の実質的に全てがコンプレッサに流入する。これに対し、制御弁の開度が「全閉開度以外の開度」であれば、機関に導入される空気の少なくとも一部は、コンプレッサに流入することなく通路部を通過する。従って、制御弁の開度が全閉開度である場合における運転パラメータの動特性と、制御弁の開度が全閉開度以外の開度である場合における運転パラメータの動特性と、は異なる可能性がある。
【0044】
そこで、上記2つの領域のそれぞれにおいて運転パラメータの動特性をモデル化することにより、本発明の制御弁異常判定装置は、上記第1時点において制御弁の開度が属する開度領域、及び、上記第2時点における運転パラメータの値、を更に精度良く推定することができる。その結果、本発明の制御弁異常判定装置は、制御弁が正常に作動しているか否かを更に精度良く判定することができる。
【0045】
更に、本発明の制御弁異常判定装置において、
前記運転パラメータは、
前記吸気通路内の所定箇所における空気の圧力、前記吸気通路内の所定箇所における空気の温度、及び、前記コンプレッサの回転速度、のうちの少なくとも1つを含むように構成され得る。
【0046】
上述したように、本発明の制御弁異常判定装置は、単一の過給機を有する機関に対しても、複数の過給機を有する機関に対しても適用され得る。例えば、本発明の制御弁異常判定装置を複数の過給機を有する機関に適用する場合、制御弁異常判定装置の一の態様として、
前記制御弁異常判定装置は、
「前記第1過給機と異なる第2過給機」であって同第2過給機のタービンが前記排気通路の前記第1過給機のタービンよりも下流側に配設されるとともに同第2過給機のコンプレッサが前記吸気通路の前記第1過給機のコンプレッサよりも上流側に配設された第2過給機を備え、
前記通路部は、前記第1過給機のコンプレッサと前記第2過給機のコンプレッサとの間の分岐部にて前記吸気通路から分岐するとともに同第1過給機のコンプレッサの下流の合流部にて同吸気通路に合流するように構成されてなり、
前記吸気通路の前記合流部よりも下流側に配設されるとともに開度が変更される「吸気絞り弁」を備えるように構成され得る。
【0047】
更に、上記態様の制御弁異常判定装置において、
前記時系列データ取得手段によって取得される時系列データに含まれる前記運転パラメータは、「前記機関の過給圧」、「前記吸気絞り弁の開度」、「前記第1過給機のコンプレッサの回転速度」、及び、「前記第2過給機のコンプレッサの回転速度」を含み、
前記運転状態推定手段によって推定される前記第2時点における前記運転パラメータの値は「前記機関の過給圧」である、ように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置が適用される内燃機関の概略図である。
【図2】図1に係る内燃機関が備える制御弁の概略図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置が適用された内燃機関における吸気及び排気の経路の第1の例を示す概略図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置が適用された内燃機関における吸気及び排気の経路の第2の例を示す概略図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置が採用する機関回転速度と燃料噴射量とターボモードとの関係を示す概略図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図9】本発明の第1実施形態に係る制御弁異常判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係る制御弁異常判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明による内燃機関の制御弁異常判定装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
(第1実施形態)
<装置の概要>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る制御弁異常判定装置(以下、「第1装置」とも称呼する。)を内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。機関10は、4気筒ディーゼル機関である。
【0051】
この機関10は、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20に空気を導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを外部に放出するための排気系統40、排ガスを吸気系統30側に還流させるためのEGR装置50、及び、排ガスのエネルギによって駆動されてエンジン本体20に導入される空気を圧縮する過給装置60、を備えている。
【0052】
エンジン本体20は、吸気系統30及び排気系統40が連結されたシリンダヘッド21を有している。このシリンダヘッド21は、各気筒に対応するように各気筒の上部に設けられた複数の燃料噴射装置22を有している。各燃料噴射装置22は、図示しない燃料タンクと接続されており、電気制御装置80からの指示信号に応じて各気筒の燃焼室内に燃料を直接噴射するようになっている。
【0053】
吸気系統30は、シリンダヘッド21に形成された図示しない吸気ポートを介して各気筒に連通されたインテークマニホールド31、インテークマニホールド31の上流側集合部に接続された吸気管32、吸気管32内において吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁(吸気絞り弁)33、電気制御装置80からの指示信号に応じてスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に介装されたインタークーラ34、及び、インタークーラ34の上流に設けられた過給装置60の上流側であって吸気管32の端部に配設されたエアクリーナ35、を有している。インテークマニホールド31及び吸気管32は、吸気通路を構成している。
【0054】
排気系統40は、シリンダヘッド21に形成された図示しない排気ポートを介して各気筒に連通されたエキゾーストマニホールド41、エキゾーストマニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、及び、排気管42に設けられた過給装置60の下流側であって排気管42に介装された周知の排ガス浄化用触媒(DPNR)43、を有している。エキゾーストマニホールド41及び排気管42は、排気通路を構成している。
【0055】
EGR装置50は、排ガスをエキゾーストマニホールド41からインテークマニホールド31へと還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51、排気還流管51に介装されたEGRガス冷却装置(EGRクーラ)52、及び、排気還流管51に介装されたEGR制御弁53、を有している。EGR制御弁53は、電気制御装置80からの指示信号に応じてエキゾーストマニホールド41からインテークマニホールド31へと還流させる排ガス量を変更し得るようになっている。
【0056】
過給装置60は、高圧段過給機61と、高圧段過給機61に直列に接続された低圧段過給機62と、を有している。低圧段過給機62の容量は、高圧段過給機61の容量よりも大きい。即ち、高圧段過給機61が過給を行うために必要な排ガスのエネルギの最小値は、低圧段過給機62が過給を行うために必要な排ガスのエネルギの最小値よりも小さい。これにより、過給装置60は、負荷が小さい運転領域においては主に高圧段過給機61により過給を行い、且つ、負荷が大きい運転領域においては主に低圧段過給機62により過給を行うことができる。
【0057】
より具体的に述べると、高圧段過給機61は、高圧段コンプレッサ61a及び高圧段タービン61bを有している。高圧段コンプレッサ61aは吸気通路(吸気管32)に配設されている。高圧段タービン61bは排気通路(排気管42)に配設されている。高圧段コンプレッサ61aと高圧段タービン61bとは、ローターシャフト(図示省略。)によって同軸回転可能に連結されている。これにより、高圧段タービン61bが排ガスによって回転せしめられると、高圧段コンプレッサ61aが回転するとともに、高圧段コンプレッサ61aに供給される空気が圧縮される(過給が行われる)ようになっている。
【0058】
低圧段過給機62は、低圧段コンプレッサ62a及び低圧段タービン62bを有している。低圧段コンプレッサ62aは、高圧段コンプレッサ61aよりも吸気通路(吸気管32)の上流側に配設されている。低圧段タービン62bは、高圧段タービン61bよりも排気通路(排気管42)の下流側に配設されている。低圧段コンプレッサ62aと低圧段タービン62bとは、ローターシャフト(図示省略。)によって同軸回転可能に連結されている。これにより、低圧段タービン62bが排ガスによって回転せしめられると、低圧段コンプレッサ62aが回転するとともに、低圧段コンプレッサ62aに供給される空気が圧縮される(過給が行われる)ようになっている。
【0059】
更に、過給装置60は、高圧段コンプレッサバイパス通路部(バイパス管)63、吸気切替弁(ACV)64、高圧段タービンバイパス通路部(バイパス管)65、排気切替弁(ECV)66、低圧段タービンバイパス通路部(バイパス管)67、及び、排気バイパス弁(EBV)68を有している。
【0060】
高圧段コンプレッサバイパス通路部63の一端は、高圧段コンプレッサ61aと低圧段コンプレッサ62aとの間において吸気通路(吸気管32)に接続されている。高圧段コンプレッサバイパス通路部63の他端は、高圧段コンプレッサ61aよりも下流側において吸気通路(吸気管32)に接続されている。換言すると、高圧段コンプレッサバイパス通路部63は、高圧段コンプレッサ61aと低圧段コンプレッサ62aとの間の分岐部にて吸気通路(吸気管32)から分岐するとともに、高圧段コンプレッサ61aの下流の合流部にて吸気通路(吸気管32)に合流するように構成されている。このように、高圧段コンプレッサバイパス通路部63は、高圧段コンプレッサ61aをバイパスする経路を構成している。
【0061】
吸気切替弁64は、高圧段コンプレッサバイパス通路部63に配設されたバタフライ弁である。吸気切替弁64は、高圧段コンプレッサバイパス通路部63の内部にて、図2(A)に示す回動位置(全閉開度)から図2(B)に示す回動位置(全開開度)までの範囲内において回動可能となっている。吸気切替弁64は、電気制御装置80からの指示に応じて駆動される吸気切替弁アクチュエータ64aにより、回動させられるようになっている。
【0062】
吸気切替弁64が図2(A)に示す位置(全閉開度)にあるとき、空気Aは高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過することができない。一方、吸気切替弁64が図2(B)に示す位置(全開開度)にあるとき、空気Aは吸気切替弁64の影響を実質的に受けることなく高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過することができる。即ち、吸気切替弁64の回動位置(開度)が変化すると、高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過する空気Aの流量が変化する。
【0063】
そのため、例えば、図3に示すように、吸気切替弁64の開度が全閉開度であるとき、機関10に導入される空気Inの実質的に全てが高圧段コンプレッサ61aに流入する。この空気Inは、高圧段コンプレッサ61aによって圧縮され、燃焼室CCに流入する。これに対し、図4に示すように、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度であるとき、機関10に導入される空気Inの一部は高圧段コンプレッサ61aに流入し、空気Inの他部は高圧段コンプレッサ61aに流入することなく高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過する。高圧段コンプレッサ61aに流入した空気は、高圧段コンプレッサ61aによって圧縮された後、高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過した空気と合流し、燃焼室CCに流入する。
【0064】
このように、吸気切替弁64は、電気制御装置80からの指示に従ってその回動位置(開度)を変更するとともに、その回動位置(開度)に応じて、高圧段コンプレッサ61aに流入する空気の量と、高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過する空気の量と、の割合を変更するようになっている。
【0065】
再び図1を参照すると、高圧段タービンバイパス通路部65の一端は、高圧段タービン61bよりも上流側において排気通路(排気管42)に接続されている。高圧段タービンバイパス通路部65の他端は、高圧段タービン61bと低圧段タービン62bとの間において排気通路(排気管42)に接続されている。即ち、高圧段タービンバイパス通路部65は、高圧段タービン61bをバイパスする経路を構成している。
【0066】
排気切替弁66は、高圧段タービンバイパス通路部65に配設されたバタフライ弁である。排気切替弁66は、吸気切替弁64と同様の構造を備えている。即ち、排気切替弁66は、電気制御装置80からの指示に応じて駆動される排気切替弁アクチュエータ66aによってその開度が変更されるようになっている。排気切替弁66の開度が変更されると、その開度の変更に伴って高圧段タービンバイパス通路部65の流路面積が変化し、それにより、高圧段タービン61bに流入する排ガスの量と、高圧段タービンバイパス通路部65を通過する排ガスの量と、の割合が変化する。更に、高圧段タービンバイパス通路部65を通過した排ガスは、高圧段タービン61bに導入されることなく低圧段タービン62bに向かう。即ち、排気切替弁66は、高圧段過給機61に供給される排ガスの量と、低圧段過給機62に供給される排ガスの量と、の割合を変更するようになっている。
【0067】
低圧段タービンバイパス通路部67の一端は、低圧段タービン62bよりも上流側であって高圧段タービン61bと低圧段タービン62bとの間において排気通路(排気管42)に接続されている。低圧段タービンバイパス通路部67の他端は、低圧段タービン62bよりも下流側において排気通路(排気管42)に接続されている。即ち、低圧段タービンバイパス通路部67は、低圧段タービン62bをバイパスする経路を構成している。
【0068】
排気バイパス弁68は、低圧段タービンバイパス通路部67に配設されたバタフライ弁である。排気バイパス弁68は、吸気切替弁64と同様の構造を備えている。即ち、排気バイパス弁68は、電気制御装置80からの指示に応じて駆動される排気バイパス弁アクチュエータ68aによってその開度が変更されるようになっている。排気バイパス弁68は、その開度の変更に伴って低圧段タービンバイパス通路部67の流路面積を変更し、それにより、低圧段タービン62bに流入する排ガスの量と、低圧段タービンバイパス通路部67を通過する排ガスの量と、の割合を変更するようになっている。
【0069】
更に、この第1装置は、熱線式エアフローメータ71、吸気温度センサ72、スロットル弁開度センサ73、過給圧センサ74、クランクポジションセンサ75、高圧段過給機回転速度センサ76、低圧段過給機回転速度センサ77、吸気切替弁開度センサ78、及び、アクセル開度センサ79を備えている。
【0070】
熱線式エアフローメータ71は、吸気管32内を流れる吸入空気の質量流量(機関10に単位時間あたりに吸入される空気の質量であり、単に「流量」とも称呼する。)に応じた信号を出力するようになっている。
【0071】
吸気温度センサ72は、吸気管32内を流れる吸入空気の温度に応じた信号を出力するようになっている。
【0072】
スロットル弁開度センサ73は、スロットル弁33の開度に応じた信号を出力するようになっている。
【0073】
過給圧センサ74は、吸気管32のスロットル弁33の下流側に配設される。過給圧センサ74は、それが配設されている部位の排気管42内の空気の圧力、即ち、機関10の燃焼室に供給される空気の圧力(第1過給機61及び第2過給機62によってもたらされる過給圧)を表す信号を出力するようになっている。
【0074】
クランクポジションセンサ75は、クランクシャフト(図示省略。)が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランクシャフトが360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。本信号に基づき、クランクシャフトの単位時間あたりの回転数が算出される。
【0075】
高圧段過給機回転速度センサ76は、高圧段過給機61の回転速度(高圧段過給機回転速度)に応じた信号を出力するようになっている。
【0076】
低圧段過給機回転速度センサ77は、低圧段過給機62の回転速度(低圧段過給機回転速度)に応じた信号を出力するようになっている。
【0077】
吸気切替弁開度センサ78は、吸気切替弁64の開度に応じた信号を出力するようになっている。
【0078】
アクセル開度センサ79は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの開度に応じた信号を出力するようになっている。
【0079】
電気制御装置80は、互いにバスで接続されたCPU81、ROM82、RAM83、電源が投入された状態でデータを格納するとともに格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM84、及び、ADコンバータを含むインターフェース85等からなるマイクロコンピュータである。
【0080】
インターフェース85は、上記各センサ等と接続され、CPU81に上記各センサ等からの信号を供給するようになっている。更に、インターフェース85は、CPU81の指示に応じて、燃料噴射装置22、及び、各アクチュエータ(スロットル弁アクチュエータ33a、吸気切替弁アクチュエータ64a、排気切替弁アクチュエータ66a、及び、排気バイパス弁アクチュエータ68a)等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
【0081】
<装置の作動の概要>
次いで、上述したように構成された第1装置の作動の概要について説明する。
第1装置は、機関10の運転状態に応じ、過給装置60(高圧段過給機61及び低圧段過給機62)の作動形態を表す「ターボモード」を決定する。第1装置は、このターボモードに応じて、吸気切替弁64、排気切替弁66及び排気バイパス弁68の開度を調整する。一方、第1装置は、機関10がこのように運転されているとき、高圧段過給機61の過給状態に関わる運転パラメータ(低圧段過給機回転速度、高圧段過給機回転速度、スロットル弁開度、及び、過給圧)の値を、時間経過に対応させた「時系列データ」として取得する。そして、第1装置は、区分的アフィン解析法に従って、取得された時系列データに基づいて「過給圧の動特性」を吸気切替弁64の開度に対応する複数のARXモデルとしてモデル化する。
【0082】
第1装置は、モデル化された過給圧の動特性を用いて、所定の時点における過給圧の値を推定する。更に、第1装置は、過給圧センサ74の出力値に基づき、その所定の時点における実際の過給圧の値を取得する。そして、第1装置は、「推定された過給圧の値」と「実際の過給圧の値」とを比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
【0083】
更に、第1装置は、吸気切替弁64が「異常」であると判定された場合、その旨を機関10の操作者に通知するとともに、機関10を構成する部材への負担が小さい「退避運転」を実行する。これに対し、第1装置は、吸気切替弁64が「正常」であると判定された場合、操作者への通知は行わず、「通常運転」を実行する。以上が第1装置の作動の概要である。
【0084】
<ターボモードの決定方法>
次いで、本発明の具体的な作動についての説明を行う前に、第1装置に採用されているターボモード、及び、その決定方法について説明する。
【0085】
上述したように、高圧段過給機61が作動することができる排ガスのエネルギ量は、低圧段過給機62が作動することができる排ガスのエネルギ量よりも小さい。そこで、第1装置は、排ガスのエネルギが小さいとき(即ち、機関の負荷が小さいとき)、排ガスが高圧段過給機61に優先的に供給されるように排気切替弁66を制御する。一方、第1装置は、排ガスのエネルギが大きいとき(即ち、機関の負荷が大きいとき)、排ガスが低圧段過給機62に優先的に供給されるように排気切替弁66を制御する。更に、第1装置は、低圧段過給機62に過大な排ガスのエネルギが供給されないように、排気バイパス弁68を制御する。加えて、第1装置は、高圧段コンプレッサ61aに適切な量の空気が供給されるように、吸気切替弁64を制御する。
【0086】
即ち、第1装置は、機関10の運転状態に応じて、適切な量の空気及び排ガスが高圧段過給機61及び低圧段過給機62に供給されるように、吸気切替弁64、排気切替弁66及び排気バイパス弁68を制御する。これにより、高圧段過給機61及び低圧段過給機62が機関10の運転状態に応じて適切に駆動される。その結果、適切な過給が行われる。
【0087】
このような制御を実行するために、第1装置は、機関10の運転状態を4つの領域(運転領域)に分け、その4つの運転領域のそれぞれに適した吸気切替弁64、排気切替弁66及び排気バイパス弁68(以下、「各制御弁」とも称呼する。)の作動状態を決定する。この各制御弁の作動状態が、ターボモードに基づいて決定される。
【0088】
このターボモードは、以下のように決定される。
第1装置は、図5(A)に示すように、「機関回転速度NEと、燃料噴射量Qと、ターボモードと、の関係を予め定めたターボモードテーブルMapTurbo(NE,Q)」をROM82に格納している。図5(A)の図中に示される「1」乃至「4」の数字は、それぞれターボモードの番号を示す。更に、図5(A)の図中に示される「HP+LP」は高圧段過給機61と低圧段過給機62との双方が作動することを示し、「LP」は低圧段過給機62が優先的に作動することを示す。
【0089】
図5(B)は、各ターボモードにおける各制御弁の作動状態を示す。図5(B)において、「全閉」は、制御弁の開度がその制御弁が設けられている通路を閉鎖する開度に設定され、空気又は排ガスがその通路を通過することができない制御弁の作動状態を示す。一方、「全開」は、制御弁の開度がその制御弁が設けられている通路を完全に(限界まで)開放する開度に設定され、空気又は排ガスがその通路を制御弁の影響を実質的に受けることなく通過することができる制御弁の作動状態を示す。更に、「開」は、制御弁の開度が「全閉」から「全開」までの間の開度に設定され、その制御弁が設けられている通路を通過する空気又は排ガスの流量が制御弁の開度に応じて変更可能である制御弁の作動状態を示す。
【0090】
なお、図5(B)において、「ECV」は排気切替弁66の略称であり、「ACV」は吸気切替弁64の略称であり、「EBV」は排気バイパス弁68の略称である。
【0091】
第1装置は、上記ターボモードテーブルMapTurbo(NE,Q)に実際の機関回転速度NE及び燃料噴射量Qを適用することにより、ターボモード(各制御弁の作動状態)を決定する。そして、第1装置は、決定されたターボモードに応じて各制御弁の開度を調整する。なお、第1装置は、機関10に対する要求トルクが所定値以下である減速状態にて機関10が運転されている場合、実際の機関回転速度NE及び燃料噴射量Qの大きさに関わらず、ターボモード1に応じて各制御弁の開度を調整する。以上が第1装置に採用されているターボモード及びその決定方法である。
【0092】
<制御弁の異常判定方法>
次いで、第1装置における制御弁の異常判定方法について説明する。第1装置は、下記手順1乃至手順4に従って吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
【0093】
(手順1)高圧段過給機61の過給状態に関わる運転パラメータの値を時間経過に対応させた時系列データとして取得する。
(手順2)手順1にて取得された時系列データを区分的アフィン解析法に従って分析することにより、過給圧の動特性を複数のARXモデルの組み合わせとしてモデル化する。
(手順3)手順2にてモデル化された過給圧の動特性を用いて、所定の時点よりも前の時点における時系列データから、その所定の時点における過給圧の値を推定する。
(手順4)手順3にて推定された所定の時点における過給圧の値(推定値)と、その時点における過給圧の実際の値(実測値)と、を比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
以下、上記手順1乃至手順4のそれぞれについてより詳細に説明する。
【0094】
(手順1)高圧段過給機61の過給状態に関わる運転パラメータの値を時間経過に対応させた時系列データとして取得する。
第1装置は、先ず、吸気切替弁開度センサ78の出力値に基づき、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かの予備判定を行う。より具体的に述べると、第1装置は、機関10が始動されると、吸気切替弁開度センサ78の出力値によって得られる吸気切替弁64の開度(実際の開度)と、吸気切替弁アクチュエータ64aに対する指示信号によって定められる吸気切替弁64の開度(指示開度)と、を比較する。そして、第1装置は、吸気切替弁64の実際の開度と、吸気切替弁64の指示開度と、の差の絶対値が所定値以下であるとき、吸気切替弁64が正常に作動しているとの予備判定を行う。
【0095】
第1装置は、吸気切替弁64が正常に作動しているとの予備判定がなされているとき、高圧段過給機61の過給状態に関わる運転パラメータである「低圧段過給機回転速度、高圧段過給機回転速度、スロットル弁開度、及び、過給圧」を、時間経過に対応させながら所定のサンプリング時間が経過する毎に取得する。取得されたこれらの運転パラメータの値は、時系列データとしてROM82に順次格納される。第1装置は、この時系列データの量(時系列データのデータ数)が下記手順2にて過給圧の動特性のモデル化を行うために必要な所定量となるまで、時系列データを取得し続ける。第1装置は、時系列データの量がこの所定量に到達すると、時系列データを取得することを停止する。
【0096】
これに対し、第1装置は、吸気切替弁64が正常に作動しているとの予備判定がなされていないとき(即ち、吸気切替弁64が異常であるとの予備判定がなされているとき)、上記時系列データの取得を行わない。更に、このとき、第1装置は、後述する手順2乃至手順4を実行することなく「吸気切替弁64が異常である」と判定する。
【0097】
以下、この手順1にて「吸気切替弁64が正常に作動している」との予備判定がなされていると仮定し、説明を続ける。更に、以下、便宜上、時刻kにおける低圧段過給機回転速度の値をλ(k)と、時刻kにおける高圧段過給機回転速度の値をν(k)と、時刻kにおけるスロットル弁開度の値をe(k)と、時刻kにおける過給圧の値をω(k)と、称呼する。
【0098】
(手順2)時系列データを区分的アフィン解析法に従って分析することにより、過給圧の動特性を複数のARXモデルの組み合わせとしてモデル化する。
第1装置は、上記手順1にて「吸気切替弁64が正常に作動している」との予備判定がなされている期間において取得される時系列データの量が上記所定量に到達すると、その時系列データを区分的アフィン解析法に従って分析する。具体的に述べると、先ず、第1装置は、下記(1)式に示すように「時刻kにおける回帰ベクトルx(k)」を決定する。下記(1)式において、ω(k−1)・・・ω(k−nω)のそれぞれは時刻kよりも過去の時刻k−1・・・k−nωにおける過給圧の値を、λ(k−1)・・・λ(k−nλ)のそれぞれは時刻kよりも過去の時刻k−1・・・k−nλにおける低圧段過給機回転速度の値を、ν(k−1)・・・ν(k−nν)のそれぞれは時刻kよりも過去の時刻k−1・・・k−nνにおける高圧段過給機回転速度の値を、e(k−1)・・・e(k−n)のそれぞれは時刻kよりも過去の時刻k−1・・・k−nにおけるスロットル弁開度の値を、表す。nω、nλ、nν及びnのそれぞれは、正の整数である。
【0099】
【数1】

【0100】
上記(1)式に示したように、回帰ベクトルx(k)は、「時刻kよりも過去の時刻」における上記運転パラメータの値からなるベクトルである。この回帰ベクトルは、ROM82に順次格納される。この回帰ベクトルは、それぞれの時刻(時系列データの量が上記所定量に到達した時刻を時刻nとすると、n、n−1、n−2、・・・、k、k−1、k−2、・・・のそれぞれの時刻)に対して決定される。従って、この回帰ベクトルは、時系列データの量(上記所定量)、並びに、nω、nλ、nν及びnの値、に基づいて定まる量だけ存在する。即ち、複数の回帰ベクトルがROM82に格納される。
【0101】
次いで、第1装置は、上記回帰ベクトルx(k)と、時刻kにおける過給圧ω(k)と、に基づき、下記(2)式に示すように「時刻kにおけるデータベクトルz(k)」を決定する。
【0102】
【数2】

【0103】
上記(2)式に示したように、データベクトルz(k)は、時系列データ(時刻kにおける「過給圧ω(k)」、並びに、時刻kよりも過去の時点における「過給圧、低圧段過給機回転速度、高圧段過給機回転速度及びスロットル弁開度」)を要素として含むベクトルである。このデータベクトルは、ROM82に順次格納される。このデータベクトルは、上記回帰ベクトルの量に応じた量だけ存在する。即ち、複数のデータベクトルがROM82に格納される。
【0104】
上述したように、機関10において、吸気切替弁64は高圧段コンプレッサバイパス通路部63に設けられている。そのため、吸気切替弁64の開度が「全閉開度」であれば、機関10に導入される空気の実質的に全てが高圧段コンプレッサ61aに流入する。これに対し、吸気切替弁64の開度が「全閉開度以外の開度」であれば、機関10に導入される空気の少なくとも一部は高圧段コンプレッサ61aに流入することなく高圧段コンプレッサバイパス通路部63を通過する。従って、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における過給圧の動特性と、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における過給圧の動特性と、は異なる可能性がある。そこで、第1装置は、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における過給圧の動特性、及び、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における過給圧の動特性、のそれぞれを、下記手順2−1乃至手順2−3に従ってARXモデルとしてモデル化する。
【0105】
(手順2−1)上記複数のデータベクトルを、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合におけるデータベクトルと、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合におけるデータベクトルと、に分類する。
(手順2−2)手順2−1にて分類された2つのデータベクトル群を回帰空間において区分けするための関数を推定する。
(手順2−3)手順2−1にて分類された2つのデータベクトル群のそれぞれにおいて、過給圧の動特性をARXモデルとして推定する。
以下、上記手順2−1乃至手順2−3のそれぞれについてより詳細に説明する。
【0106】
(手順2−1)上記複数のデータベクトルを、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合におけるデータベクトルと、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合におけるデータベクトルと、に分類する。
より具体的に述べると、第1装置は、先ず、上述した複数のデータベクトルについて、その確率密度p(z;Φ)が下記(3)式に示す混合正規分布に従うと仮定する。下記(3)式において、Φは混合正規分布のパラメータを、αはスカラー量を、μは(nω+nλ+nν+n+1)次元の平均ベクトルを、Σは(nω+nλ+nν+n+1)×(nω+nλ+nν+n+1)次元の分散行列を、iは吸気切替弁64の状態に対応する変数を、表す。下記(3)式乃至(14)式において、変数iが「1」であることは「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合を意味し、変数iが「2」であることは「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合を意味する。
【0107】
【数3】

【0108】
上記(3)式において、混合正規分布のパラメータΦは下記(4)式に示すように定義され、スカラー量αは下記(5)式に示すように定義され、関数p(z;μ,Σ)は下記(6)式に示すように定義される。下記(6)式において、nzは下記(7)式に示すスカラー量を表す。
【0109】
【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【0110】
そして、第1装置は、上記(3)式に示す混合正規分布のパラメータΦとして最も適切なパラメータΦ(以下、「最適パラメータΦ」と称呼する。)を最尤推定法を用いて決定する。具体的に述べると、第1装置は、下記(8)式に示す尤度関数L(Φ)の値が最大となる場合におけるパラメータΦを、最適パラメータΦとして決定する。この尤度関数L(Φ)の値が最大となる場合におけるパラメータΦは、周知の期待値最大化法(EMアルゴリズム)等によって算出することができる(例えば、非特許文献を参照。)。下記(8)式において、Nはデータベクトルの量(データ数)を表す。更に、下記(8)式及び下記(9)式の式中において、便宜上、データベクトルz(k)を単に「z」と記す。
【0111】
【数8】

【0112】
次いで、第1装置は、上述したように取得された最適パラメータΦを用いて、上記複数のデータベクトルを、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合に対応するデータベクトル群C、及び、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合に対応するデータベクトル群C、の2つのデータベクトル群の何れかに分類する。
【0113】
より具体的に述べると、第1装置は、下記(9)式に示す「時刻kにおけるデータベクトルz(k)がデータベクトル群Cに帰属する確率P(k∈C)を表す関数」に対して時刻kにおけるデータベクトルz(k)を適用することにより、そのデータベクトルz(k)がデータベクトル群Cに帰属する第1確率P(k∈C)、及び、データベクトルz(k)がデータベクトル群Cに帰属する第2確率P(k∈C)を取得する。なお、下記(9)式におけるα、μ及びΣには上記最適パラメータΦが適用される。
【0114】
【数9】

【0115】
そして、第1装置は、第1確率P(k∈C)が第2確率P(k∈C)よりも大きいとき、データベクトルz(k)をデータベクトル群Cに分類する。これに対し、第1装置は、第2確率P(k∈C)が第1確率P(k∈C)よりも大きいとき、データベクトルz(k)をデータベクトル群Cに分類する。
【0116】
第1装置は、上記複数のデータベクトルの全てを上記(9)式に示す関数に対して適用する。これにより、上記複数のデータベクトルは、データベクトル群C及びデータベクトル群Cの何れかに分類される。以下、便宜上、データベクトル群Cに属するデータベクトルの集合を「クラスタC」と称呼し、データベクトル群Cに属するデータベクトルの集合を「クラスタC」と称呼する。
【0117】
(手順2−2)分類された2つのデータベクトル群を回帰空間において区分けするための関数を推定する。
次いで、第1装置は、上記クラスタCと上記クラスタCとを回帰空間において区分けするための境界を表す関数(以下、「第1関数」と称呼する。)を推定する。より具体的に述べると、第1装置は、先ず、この第1関数が下記(10)式によって与えられると仮定する。下記(10)式において、a及びbは第1関数の係数であり、x(k)は上記(1)式に示した時刻kにおける回帰ベクトルである。この第1関数によって定まる回帰空間上の平面は、「分離超平面H」とも称呼される。
【0118】
【数10】

【0119】
そして、第1装置は、上記(10)式における係数a及びbを、下記(11)式に示す二次最適化問題を解くことによって決定する。下記(11)式において、σは時刻kにおけるデータベクトルz(k)を上述したように分類する際に生じ得る誤り(誤分類)の程度を表すパラメータである。σは出来る限り小さい適値に設定される(非特許文献を参照。)。
【0120】
【数11】

【0121】
(手順2−3)分類されたデータベクトル群のそれぞれにおいて、過給圧の動特性をARXモデルとして推定する。
更に、第1装置は、クラスタCに属するデータベクトルを用いて「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における過給圧の動特性をARXモデルとしてモデル化し、クラスタCに属するデータベクトルを用いて「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における過給圧の動特性をARXモデルとしてモデル化する。以下、このモデル化された過給圧の動特性を表す関数を「第2関数」とも称呼する。
【0122】
より具体的に述べると、第1装置は、過給圧ω(k)が下記(12)式に示すARXモデルによって表されると仮定する。下記(12)式において、θ及びθのそれぞれは本ARXモデルのパラメータを、x(k)は上記(1)式に示した時刻kにおける回帰ベクトルを、ε(k)は時刻kにおける誤差(ノイズ)を、S及びSのそれぞれは回帰空間中の領域であって上記(10)式に示した分離超平面Hによって回帰空間が区分けされた際の区分けされたそれぞれの領域を、表す。第1装置において、領域Sは上記クラスタCを回帰空間に投影した場合におけるそのクラスタCが属する回帰空間中の領域に相当し、領域Sは上記クラスタCを回帰空間に投影した場合におけるそのクラスタCが属する回帰空間中の領域に相当する。換言すると、領域Sは「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である場合における回帰ベクトルが属する回帰空間中の領域」であり、領域Sは「吸気切替弁64の開度が全閉開度である場合における回帰ベクトルが属する回帰空間中の領域」である。
【0123】
【数12】

【0124】
そして、第1装置は、上記(12)式におけるパラメータθ及びパラメータθを下記(13)式に示した最小二乗法によって推定する。下記(13)式において、x(ki1)・・・x(kiNi)のそれぞれはクラスタCに属するデータベクトルに要素として含まれる回帰ベクトルの値を、ω(ki1)・・・ω(kiNi)のそれぞれはクラスタCに属するデータベクトルに要素として含まれる過給圧の値を、NはクラスタCに含まれるデータベクトルの個数(データ数)を、表す。更に、第1装置において、誤差ε(k)はゼロに設定される。
【0125】
【数13】

【0126】
このように、上述した手順2により、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における過給圧の動特性(上記(12)式の上段)、及び、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における過給圧の動特性(上記(12)式の下段)、のそれぞれがARXモデルとしてモデル化される。更に、この手順2により、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合におけるデータベクトルの集合(クラスタC)と「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合におけるデータベクトルの集合(クラスタC)とを回帰空間において区分けする分離超平面H(上記(10)式に示す第1関数)が推定される。
【0127】
(手順3)モデル化された過給圧の動特性を用いて、所定の時点よりも前の時点における時系列データから、その所定の時点における過給圧の値を推定する。
第1装置は、先ず、上記手順2によって「過給圧の動特性のモデル化」及び「分離超平面Hの推定」を行った後の所定の時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を、上記(10)式に示す第1関数(分離超平面H)に適用する。この第1関数は上記領域Sと上記領域Sとを回帰空間において区分けする関数であるから、「第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用された際の第1関数の値」により、「回帰ベクトルx(t)が上記領域S及び上記領域Sの何れに属するか」を判定することができる。なお、上記(1)式に示したように、回帰ベクトルx(t)は、「時刻tよりも前(過去)の時刻t−1」における時系列データを要素として含むベクトルである。
【0128】
より具体的に述べると、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロであれば、その回帰ベクトルx(t)は分離超平面H上に存在する。一方、このとき、第1関数の値がゼロよりも大きければ、その回帰ベクトルx(t)は分離超平面Hによって区分けされた回帰空間上の領域(即ち、領域S及び領域S)のうちの一の領域内に存在する。これに対し、このとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、その回帰ベクトルx(t)は回帰空間上の上記一の領域とは異なる他の領域内に存在する。更に、本実施形態の機関10においては、予め実験等により、この「一の領域」が上記領域Sに相当し、この「他の領域」が上記領域Sに相当することが確認されている。
【0129】
そこで、第1装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロ以上であれば、その回帰ベクトルx(t)が領域S(吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である場合における回帰ベクトルが属する領域)に属すると判定する。更に、第1装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、その回帰ベクトルx(t)が領域S(吸気切替弁64の開度が全閉開度である場合における回帰ベクトルが属する領域)に属すると判定する。
【0130】
次いで、第1装置は、上述したように判定された「回帰ベクトルx(t)が属する領域」に対応する上記(12)式に示した第2関数に、回帰ベクトルx(t)を適用する。この第2関数はARXモデルとしてモデル化された過給圧の動特性を表す関数であるから、第2関数に回帰ベクトルx(t)を適用することにより、時刻tにおける過給圧を推定することができる。以下、この推定された過給圧を、過給圧ωest(t)と記す。
【0131】
より具体的に述べると、第1装置は、回帰ベクトルx(t)が領域Sに属すると判定すると、その回帰ベクトルx(t)を領域Sに対応する第2関数(上記(12)式の上段)に適用する。これにより、時刻tにおける過給圧ωest(t)が推定される。これに対し、第1装置は、回帰ベクトルx(t)が領域Sに属すると判定すると、その回帰ベクトルx(t)を領域Sに対応する第2関数(上記(12)式の下段)に適用する。これにより、時刻tにおける過給圧ωest(t)が推定される。
【0132】
即ち、第1装置は、下記(14)式に示すように、回帰ベクトルx(t)を第1関数に適用した際の第1関数の値に応じて、過給圧ω(t)を推定するために用いる第2関数を決定する。そして、第1装置は、その決定された第2関数に回帰ベクトルx(t)を適用することにより、その時刻tにおける過給圧ωest(t)を推定する。このように、「時刻tよりも前の時点」における時系列データ(回帰ベクトルx(t)に要素として含まれる時系列データ)から、「その時刻t」における過給圧ωest(t)が推定される。
【0133】
【数14】

【0134】
(手順4)推定された所定の時点における過給圧の値(推定値)と、その時点における過給圧の実際の値(実測値)と、を比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
第1装置は、先ず、過給圧センサ74の出力値に基づき、時刻tにおける実際の過給圧ωact(t)を取得する。次いで、第1装置は、この時刻tにおける実際の過給圧ωact(t)と、上記手順3にて推定された時刻tにおける過給圧ωest(t)と、を比較する。
【0135】
より具体的に述べると、第1装置は、実際の過給圧ωact(t)と、推定された過給圧ωest(t)と、の差の絶対値が所定の閾値以上であるとき、「吸気切替弁64は異常である」と判定する。これに対し、第1装置は、実際の過給圧ωact(t)と、推定された過給圧ωest(t)と、の差の絶対値が所定の閾値よりも小さいとき、「吸気切替弁64は正常である」と判定する。
【0136】
このように、第1装置は、上記手順1乃至手順3に従って過給圧の動特性をARXモデルとしてモデル化し、上記手順4に従ってモデル化された過給圧の動特性を用いて吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。以上が第1装置における制御弁の異常判定方法である。
【0137】
<実際の作動>
以下、第1装置の実際の作動について説明する。
CPU81は、図6乃至図9にフローチャートによって示した各ルーチンを所定のタイミング毎に実行するようになっている。CPU81は、これらのルーチンにおいて、吸気切替弁異常フラグXACVを用いる。
【0138】
吸気切替弁異常フラグXACVは、その値が「0」であるとき、吸気切替弁64が異常であると判定されていないこと(正常であること)を表す。一方、吸気切替弁異常フラグXACVは、その値が「1」であるとき、吸気切替弁64が異常であることを表す。
【0139】
このフラグの値は、バックアップRAM84に格納される。更に、このフラグの値は、機関10を搭載した車両の工場出荷時及びサービス点検実施時等において吸気切替弁64に異常がないことが確認された際に電気制御装置80に対して所定の操作がなされたとき、「0」に設定されるようになっている。
【0140】
以下、CPU81が実行する各ルーチンについて詳細に説明する。CPU81は、所定時間が経過する毎に図6にフローチャートによって示した「動特性モデル化ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、機関10が始動されてから過給圧の動特性のモデル化が完了するまでの期間、機関10の運転パラメータを時系列データとして取得する。更に、CPU81は、このルーチンにより、取得した運転パラメータの時系列データに基づいて過給圧の動特性をARXモデルとしてモデル化する。
【0141】
具体的に述べると、CPU81は、機関10が工場出荷後に始動されると、所定のタイミングにて図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、過給圧の動特性のモデル化が完了しているか否かを判定する。現時点は機関10が工場出荷後に始動された直後であるので、充分な量(上記手順1における所定量)の時系列データが取得されていない。そのため、過給圧の動特性のモデル化は完了していない。従って、CPU81は、ステップ610にて「No」と判定してステップ620に進む。
【0142】
CPU81は、ステップ620にて、現時点(時刻t)における「吸気切替弁開度センサ78の出力値によって得られる吸気切替弁64の開度(実際の開度)Oact(t)」と、現時点(時刻t)における「電気制御装置80から吸気切替弁アクチュエータ64aに送出される指示信号によって定まる吸気切替弁64の開度(指示開度)Odir(t)」と、の差の絶対値が所定の閾値δ1よりも小さいか否かを判定する。即ち、CPU81は、ステップ620にて、吸気切替弁64が電気制御装置80からの指示に応じて正常に作動しているか否かを判定する。この閾値δ1は、吸気切替弁64が正常に作動しているとき、実際の開度Oact(t)と指示開度Odir(t)との差の絶対値がその閾値δ1よりも小さくなる適値に設定されている。なお、このステップ620にて実行される上記判定が上記手順1における「予備判定」に相当する。
【0143】
現時点にて、実際の開度Oact(t)と指示開度Odir(t)との差の絶対値が上記閾値δ1よりも小さければ(即ち、吸気切替弁64が正常に作動していれば)、CPU81は、ステップ620にて「Yes」と判定してステップ630に進む。
【0144】
CPU81は、ステップ630にて、機関10の運転パラメータとして、現時点における「低圧段過給機回転速度」、「高圧段過給機回転速度」、「スロットル弁開度」、及び、「過給圧」を、時間経過に対応させて取得する。取得されたこれらの運転パラメータの値は、時系列データとしてROM82に格納される(上述した手順1を参照。)。その後、CPU81は、ステップ640に進む。以下、便宜上、この運転パラメータの時系列データを、単に「時系列データ」とも称呼する。
【0145】
CPU81は、ステップ640にて、「過給圧の動特性をモデル化するための条件(モデル化条件)」が成立しているか否かを判定する。具体的に述べると、CPU81は、ステップ630にて、以下の条件1及び条件2の双方が成立したとき、モデル化条件が成立したと判定する。換言すると、CPU81は、条件1及び条件2のうちの少なくとも1つが成立しないとき、モデル化条件が成立しないと判定する。
【0146】
(条件1)
吸気切替弁64の開度が全閉開度となる運転(ターボモード1又はターボモード2)がなされている際に取得された時系列データの量が、所定の第1閾値データ量以上である。
(条件2)
吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度となる運転(ターボモード3又はターボモード4)がなされている際に取得された時系列データの量が、所定の第2閾値データ量以上である。
【0147】
上述したように、第1装置は、「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における過給圧の動特性、及び、「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における過給圧の動特性、のそれぞれをARXモデルとしてモデル化する。このモデル化を行うためには、吸気切替弁64の開度が全閉開度となる場合における時系列データの量、及び、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度となる場合における時系列データの量、の双方が、モデル化を行うために必要な量(上記手順1における所定量)に到達するまで時系列データを取得する必要がある。即ち、機関10が、吸気切替弁64の開度が全閉開度となる運転(ターボモード1又はターボモード2)、及び、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度となる運転(ターボモード3又はターボモード4)、の双方を十分に経験する必要がある(図5も参照。)。換言すると、上記条件1及び条件2の双方が成立すれば、過給圧の動特性のモデル化を行うことができる。
【0148】
現時点は、機関10が始動された直後であるので、上記モデル化条件を満足する充分な量の時系列データが取得されていない。そのため、上記モデル化条件は成立しない。従って、CPU81は、ステップ640にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、上記モデル化条件が成立しなければ、過給圧の動特性のモデル化は行われない。
【0149】
更に、CPU81は、所定時間が経過する毎に図7にフローチャートによって示した「第1異常判定ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、吸気切替弁64が異常であるか否かを判定する。
【0150】
具体的に述べると、CPU81は、所定のタイミングにて図7のステップ700から処理を開始してステップ710に進み、過給圧の動特性のモデル化が完了しているか否かを判定する。現時点では、過給圧の動特性のモデル化は完了していないので、CPU81は、ステップ710にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、本ルーチンによる吸気切替弁64の異常判定は行われない。
【0151】
更に、CPU81は、所定時間が経過する毎に図8にフローチャートによって示した「異常通知ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、吸気切替弁64が異常である場合、機関10の操作者にその旨を通知する。
【0152】
具体的に述べると、CPU81は、所定のタイミングにて図8のステップ800から処理を開始してステップ810に進み、吸気切替弁異常フラグXACVの値が「0」であるか否かを判定する。上述したように、現時点において、吸気切替弁64は正常に作動している。即ち、現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるので、CPU81は、ステップ810にて「Yes」と判定し、ステップ895に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、吸気切替弁64が正常であるとき(吸気切替弁異常フラグXACVの値が「0」であるとき)、操作者に対して通知はなされない。
【0153】
更に、CPU81は、任意の気筒のクランク角が圧縮上死点前の所定クランク角度(例えば、圧縮上死点前90度クランク角)θfに一致する毎に、図9にフローチャートによって示した「燃料供給制御ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、燃料噴射量Qの算出及び燃料噴射の指示を行う。このクランク角が圧縮上死点前の所定クランク角θfに一致する圧縮行程中の気筒は、以下「燃料噴射気筒」とも称呼される。
【0154】
具体的に述べると、CPU81は、任意の気筒のクランク角度が上記クランク角度θfになると、図9のステップ900から処理を開始してステップ910に進み、吸気切替弁異常フラグXACVの値が「0」であるか否かを判定する。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるから、CPU81は、ステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進む。
【0155】
CPU81は、ステップ920にて、アクセル開度センサ79の出力値に基づいてアクセルペダル開度Accpを取得し、クランクポジションセンサ75の出力値に基づいて機関回転速度NEを取得する。そして、CPU81は、吸気切替弁64が正常である場合における「アクセルペダル開度Accpと、機関回転速度NEと、燃料噴射量Qと、の関係」を予め定めた通常時燃料噴射量テーブルMapMain(Accp,NE)に、現時点におけるアクセルペダル開度Accpと機関回転速度NEとを適用することにより、燃料噴射量Qを取得する。この燃料噴射量Qは要求トルクに対応する。以下、通常時燃料噴射量テーブルMapMain(Accp,NE)によって定まる燃料噴射量を採用する運転を「通常運転」と称呼する。
【0156】
次いで、CPU81は、ステップ930に進み、燃料噴射量Qの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ22から噴射するように、そのインジェクタ22に指示を与える。即ち、このとき、燃料噴射量Qの燃料が燃料噴射気筒に供給される。その後、CPU81は、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0157】
このように、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、吸気切替弁64が「正常」である場合、上記通常時燃料噴射量テーブルMapMain(Accp,NE)によって定められる燃料噴射量Qの燃料が燃料噴射気筒に供給される「通常運転」が実行される。
【0158】
これに対し、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、吸気切替弁64が「異常」である場合、CPU81は、所定のタイミングにて図6のステップ600から処理を開始すると、ステップ600に続くステップ610を経由してステップ620に進む。吸気切替弁64が「異常」である場合、吸気切替弁64の実際の開度Oact(t)と指示開度Odir(t)との差の絶対値は上記閾値δ1以上となるので、CPU81は、ステップ620にて「No」と判定してステップ650に進む。
【0159】
CPU81は、ステップ650にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「1」を格納する。その後、CPU81は、ステップ695に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、吸気切替弁64が異常であると、時系列データは取得されない。
【0160】
このとき、CPU81は、所定のタイミングにて図8のステップ800から処理を開始すると、現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、ステップ800に続くステップ810にて「No」と判定してステップ820に進む。
【0161】
CPU81は、ステップ820にて、「吸気切替弁64が異常である」旨を機関10の操作者に通知する。この通知は、図示しない警報ランプを点等すること等によって実行される。その後、CPU81は、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0162】
更に、CPU81は、任意の気筒のクランク角度が上記クランク角度θfに一致すると、図9のステップ900から処理を開始してステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ910にて「No」と判定してステップ940に進む。
【0163】
CPU81は、ステップ940にて、アクセル開度センサ79の出力値に基づいてアクセルペダル開度Accpを取得し、クランクポジションセンサ75の出力値に基づいて機関回転速度NEを取得する。そして、CPU81は、「吸気切替弁64が異常である場合」に適用される「アクセルペダル開度Accpと、機関回転速度NEと、燃料噴射量Qと、の関係」を予め定めた異常発生時燃料噴射量テーブルMapEmg(Accp,NE)に、現時点におけるアクセルペダル開度Accpと機関回転速度NEとを適用することにより、異常発生時の燃料噴射量Qを取得する。以下、異常発生時燃料噴射量テーブルMapEmg(Accp,NE)によって定まる燃料噴射量を採用する運転を「退避運転」とも称呼する。
【0164】
異常発生時燃料噴射量テーブルMapEmg(Accp,NE)は、「吸気切替弁64が異常である場合に機関10の運転を継続しても、機関10の他の部材又は機関10全体の破損等を引き起こすことのない程度の燃料噴射量Q」を決定するためのテーブルである。そのため、当然、任意の「アクセルペダル開度Accp及び機関回転速度NE」に対して異常発生時燃料噴射量テーブルMapEmg(Accp,NE)によって決定される燃料噴射量は、その「アクセルペダル開度Accp及び機関回転速度NE」に対して上記通常時燃料噴射量テーブルMapMain(Accp,NE)によって決定される燃料噴射量よりも小さい。
【0165】
次いで、CPU81は、ステップ930に進み、燃料噴射量Qの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ22から噴射させる。その後、CPU81は、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0166】
このように、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、吸気切替弁64が「異常」である場合(即ち、上記手順1における予備判定にて「吸気切替弁64が異常である」と判定された場合)、機関10の操作者に対して「排気切替弁66が異常である」旨の警報が発せられるとともに、上記異常発生時燃料噴射量テーブルMapEmg(Accp,NE)によって定められる燃料噴射量Qの燃料が燃料噴射気筒に供給される「退避運転」が実行される。
【0167】
以下、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、吸気切替弁64が「正常」であると仮定して(即ち、上記手順1における予備判定にて「吸気切替弁64が正常に作動している」と判定されていると仮定して)説明を続ける。
【0168】
上記仮定に示す状態が継続すると、図6のステップ610乃至ステップ640の処理が繰り返し実行されるので、上記時系列データの量は次第に増大する。更に、上記仮定に示す状態が継続している期間において、機関10が、吸気切替弁64の開度が全閉開度となる運転(ターボモード1又はターボモード2)、及び、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度となる運転(ターボモード3又はターボモード4)、の双方を十分に経験すれば、上記モデル化条件が成立する。上記モデル化条件が成立したとき、CPU81は、ステップ640の処理を実行すると、ステップ640にて「Yes」と判定してステップ660に進む。
【0169】
CPU81は、ステップ660にて、上記(1)式乃至上記(9)式を参照しながら説明したように、時系列データを要素として含むデータベクトルを「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合におけるデータベクトル群(クラスタC)と、吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合におけるデータベクトル群(クラスタC)と、に分類する(上述した手順2−1を参照。)。その後、CPU81は、ステップ670に進む。
【0170】
CPU81は、ステップ670にて、上記(10)式及び上記(11)式を参照しながら説明したように、分類された2つのデータベクトル群(クラスタC及びクラスタC)を回帰空間において区分けするための第1関数(分離超平面)を推定する(上述した手順2−2を参照)。その後、CPU81は、ステップ680に進む。
【0171】
CPU81は、ステップ680にて、上記(12)式及び上記(13)式を参照しながら説明したように、分類されたデータベクトル群(クラスタC及びクラスタC)のそれぞれにおいて、過給圧の動特性をARXモデルとして推定する(上述した手順2−3を参照。)。なお、上述したように、このモデル化された過給圧の動特性を表す関数は「第2関数」とも称呼される。この第2関数は、ROM82に格納される。
【0172】
その後、CPU81は、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、過給圧の動特性のモデル化が完了していないとき、上記モデル化条件が成立すれば、過給圧の動特性のモデル化が行われる。
【0173】
更に、過給圧の動特性のモデル化が一旦完了すると、CPU81は、図6のステップ600から処理を開始したとき、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ695に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、過給圧の動特性のモデル化が完了した時点以降、「動特性のモデル化のための時系列データ」は取得されない。
【0174】
過給圧の動特性のモデル化が完了すると、CPU81は、上記(14)式を参照しながら説明したように、所定の時点における過給圧を推定する(上記手順3を参照。)。
【0175】
具体的に述べると、CPU81は、過給圧のモデル化が完了した時点よりも後の所定の時刻tにおいて図7のステップ700から処理を開始すると、ステップ700に続くステップ710にて「Yes」と判定してステップ720に進む。CPU81は、ステップ720にて、その時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を取得するとともに、その回帰ベクトルx(t)を上記第1関数(分離超平面)に適用し、その際のその第1関数の値(ax(t)+b)がゼロ以上であるか否かを判定する。
【0176】
このとき、第1関数の値がゼロ以上であれば、CPU81は、ステップ720にて「Yes」と判定してステップ730に進み、時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合に対応する第2関数(ARXモデル)に適用する(上記(14)式の上段を参照。)。これにより、CPU81は、時刻tにおける過給圧を推定し、推定された過給圧をωest(t)として取得する。なお、上述したように、ステップ730において、誤差ε(t)はゼロに設定される。
【0177】
これに対し、このとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、CPU81は、ステップ720にて「No」と判定してステップ740に進み、時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合に対応する第2関数(ARXモデル)に適用する(上記(14)式の下段を参照。)。これにより、CPU81は、時刻tにおける過給圧を推定し、推定された過給圧をωest(t)として取得する。なお、ステップ740においても、誤差ε(t)はゼロに設定される。
【0178】
このように、回帰ベクトルx(t)を第1関数(分離超平面)に適用した際のその第1関数の値に応じて、回帰ベクトルx(t)が適用される第2関数(ARXモデル)が決定される。更に、決定された第2関数に回帰ベクトルx(t)が適用されることにより、時刻tにおける過給圧が推定される。その後、CPU81は、ステップ750に進む。
【0179】
CPU81は、ステップ750にて、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する(上記手順4を参照。)。具体的に述べると、CPU81は、ステップ750にて、上述したように推定された過給圧ωest(t)と、時刻tにおける過給圧センサ74の出力値によって定まる実際の過給圧ωact(t)と、の差の絶対値が所定の閾値δ2よりも小さいか否かを判定する。この閾値δ2は、吸気切替弁64が正常に作動しているとき、推定された過給圧ωest(t)と実際の過給圧ωact(t)との差の絶対値がその閾値δ2よりも小さくなる適値に設定されている。
【0180】
現時点(時刻t)にて、推定された過給圧ωest(t)と実際の過給圧ωact(t)との差の絶対値が上記閾値δ2よりも小さければ(即ち、吸気切替弁64が正常に作動していれば)、CPU81は、ステップ750にて「Yes」と判定してステップ760に進む。
【0181】
CPU81は、ステップ760にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「0」を格納する。その後、CPU81は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0182】
このとき、CPU81は、図8のステップ800から処理を開始すると、ステップ810に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるから、CPU81は、ステップ810にて「Yes」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0183】
更に、このとき、CPU81は、図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるから、CPU81は、ステップ910にて「Yes」と判定する。その後、CPU81は、ステップ920及びステップ930を経由し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0184】
従って、このとき、操作者に対して「吸気切替弁64が異常である」旨の通知はなされず、「通常運転」が実行される。
【0185】
これに対し、現時点(時刻t)にて、推定された過給圧ωest(t)と実際の過給圧ωact(t)との差の絶対値が上記閾値δ2以上であれば(即ち、吸気切替弁64が異常であれば)、CPU81は、図7のステップ750にて「No」と判定してステップ770に進む。
【0186】
CPU81は、ステップ770にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「1」を格納する。その後、CPU81は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0187】
このとき、CPU81は、図8のステップ800から処理を開始すると、ステップ810に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ810にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ820を経由し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0188】
更に、このとき、CPU81は、図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ910にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ940及びステップ930を経由し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0189】
従って、このとき、操作者に対して「吸気切替弁64が異常である」旨の通知がなされるとともに、「退避運転」が実行される。
【0190】
このように、第1装置は、吸気切替弁64が正常に作動しているときに運転パラメータを時系列データとして取得し、その時系列データに基づき、過給圧の動特性を吸気切替弁64の開度に応じた複数のARXモデルの組み合わせとしてモデル化する。更に、第1装置は、このモデル化された過給圧の動特性を用いて、所定の時点における過給圧を推定する。加えて、第1装置は、この推定された過給圧と、実際の過給圧と、を比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。そして、第1装置は、吸気切替弁64が正常であると判定された場合には通常運転を実行し、吸気切替弁64が異常であると判定された場合には操作者に対してその旨を通知するとともに退避運転を実行する。
【0191】
以上、説明したように、第1装置は、
第1過給機61と、制御弁(吸気切替弁64)と、を備える内燃機関10に適用される。
【0192】
この第1装置は、
前記第1過給機61による過給状態に関わる所定の運転パラメータ(低圧段過給機回転速度、高圧段過給機回転速度、スロットル弁開度、及び、過給圧)の値を時間経過に対応させた時系列データとして取得する時系列データ取得手段(図6のステップ630)を備えている。
【0193】
第1装置は、更に、
区分的アフィン解析法に従って、前記取得した時系列データを要素として含むデータベクトルz(k)を複数のデータベクトル群(クラスタC及びクラスタC)に分類し、前記分類された複数のデータベクトル群を用いて、前記分類された複数のデータベクトル群を回帰空間において区分けするための境界を表す単数又は複数の関数からなる第1関数(分離超平面H。上記(10)式を参照。)を推定するとともに、前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに要素として含まれる時系列データを用いて、前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに対して「前記運転パラメータ(過給圧)の動特性をARXモデルとして表す第2関数(上記(12)式を参照。)」を推定するデータ分析手段(図6のステップ660乃至ステップ680)を備えている。
【0194】
第1装置は、更に、
前記データ分析手段によって前記第1関数(分離超平面H)及び前記第2関数(ARXモデル)が推定された時点よりも後の第1時点(時刻tよりも前の時点)にて前記時系列データ取得手段により取得される時系列データを要素として含む回帰ベクトルx(t)を前記第1関数に適用することにより、同回帰ベクトルx(t)が前記複数のデータベクトル群(クラスタC及びクラスタC)のうちの何れのデータベクトル群に回帰空間において分類されるかを決定するとともに、前記第2関数のうちの同決定された同回帰ベクトルが回帰空間において分類されるデータベクトル群に対応する第2関数に同回帰ベクトルx(t)を適用することにより、「前記第1時点よりも後の第2時点(時刻t)における前記運転パラメータの値(過給圧ωest(t))」を推定する運転状態推定手段(図7のステップ720乃至ステップ740)を備えている。
【0195】
第1装置は、更に、
前記推定された前記第2時点tにおける前記運転パラメータの値ωest(t)と、同第2時点tにおける同運転パラメータの実際の値ωact(t)と、を比較することにより、前記制御弁64が異常であるか否かを判定する異常判定手段(図7のステップ750)を備えている。
【0196】
更に、第1装置において、
前記分類された「複数のデータベクトル群(クラスタC及びクラスタC)」のそれぞれは、前記制御弁64の開度の可動範囲を分割する「複数の開度領域」のそれぞれに対応するように構成されている。
【0197】
より具体的に述べると、前記複数の開度領域は、
「前記制御弁の開度が全閉開度である領域(領域Sに対応。)」及び「同制御弁の開度が同全閉開度以外の開度である領域(領域Sに対応。)」の2つの領域からなるように構成されている。
【0198】
更に具体的に述べると、
第1装置が適用される前記機関10は、
前記第1過給機61と異なる第2過給機62であって、同第2過給機62のタービン62bが前記排気通路42の前記第1過給機61のタービン61bよりも下流側に配設されるとともに、同第2過給機62のコンプレッサ62aが前記吸気通路32の前記第1過給機61のコンプレッサ61aよりも上流側に配設された第2過給機62を備え、
前記第1過給機61のコンプレッサ61aをバイパスする通路部63は、前記第1過給機61のコンプレッサ61aと前記第2過給機62のコンプレッサ62aとの間の分岐部にて前記吸気通路32から分岐するとともに、同第1過給機61のコンプレッサ61aの下流の合流部にて同吸気通路32に合流するように構成されてなり、
前記吸気通路32の前記合流部よりも下流側に配設されるとともに開度が変更される吸気絞り弁(スロットル弁33)を備えている。
【0199】
上記機関10に適用される第1装置は、
前記時系列データ取得手段(図6のステップ630)によって取得される時系列データに含まれる前記運転パラメータは、前記機関の過給圧ω、前記吸気絞り弁の開度e、前記第1過給機61のコンプレッサ61aの回転速度ν、及び、前記第2過給機62のコンプレッサ62aの回転速度λを含み、
前記運転状態推定手段(図7のステップ720乃至ステップ740)によって推定される前記第2時点tにおける前記運転パラメータの値は、前記機関の過給圧ωest(t)であるように構成されている。
【0200】
これにより、第1装置は、機関10の運転パラメータ(過給圧)の動特性を、吸気切替弁64の開度に応じた複数のARXモデルの組み合わせ(区分的アフィン自己回帰モデル)としてモデル化する。そのため、第1装置は、所定の時点(第2時点t)における運転パラメータ(過給圧)の値をより精度良く推定することができる。その結果、第1装置は、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを精度良く判定することができる。
【0201】
更に、第1装置は、機関10が実際に運転されている際に取得される運転パラメータの値に基づき、運転パラメータ(過給圧)の動特性をモデル化する。即ち、第1装置は、個別の機関毎に、運転パラメータの動特性をモデル化する。そのため、第1装置は、予め実験等によって取得した既存の動特性マップを異常判定装置に適用する場合に比べ、機関10を構成する部材の製造上のばらつき(個体差)の影響を小さくすることができる。従って、第1装置は、制御弁が正常に作動しているか否かを更に精度良く判定することができる。
【0202】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る制御弁異常判定装置(以下、「第2装置」とも称呼する。)について説明する。
【0203】
<装置の概要とターボモードの決定方法>
第2装置は、第1装置が適用される内燃機関10と同様の内燃機関(図1を参照。)に適用される。更に、第2装置は、第1装置と同様の方法によってターボモードを決定する。そこで、これらについての詳細な説明は省略する。
【0204】
<装置の作動の概要>
第2装置は、「第1装置における吸気切替弁64の異常判定(推定された過給圧と、実際の過給圧と、の比較)に加えて、所定の時点における吸気切替弁64の開度に基づく異常判定を行う」点において、第1装置と異なる。
【0205】
即ち、第2装置は、区分的アフィン解析法に従い、機関10の運転パラメータの時系列データを用いて「過給圧の動特性」を吸気切替弁64の開度に対応する複数のARXモデルとしてモデル化するとともに、「分離超平面を表す関数」を推定する。次いで、第2装置は、モデル化された過給圧の動特性に所定の第1時点における回帰ベクトルを適用することにより、その第1時点よりも後の第2時点における「過給圧の値」を推定する。更に、第2装置は、過給圧センサ74の出力値に基づき、その第2時点における実際の過給圧の値を取得する。
【0206】
更に、第2装置は、分離超平面を表す関数に上記第1時点における回帰ベクトルを適用することにより、その第1時点における「吸気切替弁64の開閉状態」を推定する。加えて、第2装置は、過給圧センサ74の出力値に基づき、その第1時点における吸気切替弁64の実際の開閉状態を取得する。
【0207】
そして、第2装置は、「推定された過給圧の値」と「実際の過給圧の値」とを比較することにより、吸気切替弁64の異常判定を行う。更に、第2装置は、「推定された吸気切替弁64の開閉状態」と「実際の吸気切替弁64の開閉状態」とを比較することにより、吸気切替弁64の異常判定を行う。
【0208】
第2装置は、この「過給圧の値に基づく異常判定」及び「吸気切替弁64の開閉状態に基づく異常判定」の双方において吸気切替弁64が正常であると判定されたとき、吸気切替弁64が正常であるとの最終判定を行う。一方、第2装置は、「過給圧の値に基づく異常判定」及び「吸気切替弁64の開閉状態に基づく異常判定」のうちの少なくとも一方において吸気切替弁64が異常であると判定されたとき、吸気切替弁64が異常であるとの最終判定を行う。
【0209】
更に、第2装置は、吸気切替弁64が「異常」であると判定された場合、その旨を機関10の操作者に通知するとともに、機関10を構成する部材への負担が小さい「退避運転」を実行する。これに対し、第2装置は、排気切替弁66及び排気バイパス弁68が「正常」であると判定された場合、操作者への通知は行わず、「通常運転」を実行する。以上が第2装置の作動の概要である。
【0210】
<制御弁の異常判定方法>
以下、第2装置における制御弁の異常判定方法について説明する。
第2装置は、先ず、第1装置と同様の方法(上述した手順1乃至手順4を参照。)により、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。この方法についての詳細な説明は省略する。以下、この「第1装置と同様の方法による吸気切替弁64の異常判定」を、便宜上、「第1次異常判定」と称呼する。
【0211】
次いで、第2装置は、下記手順5乃至手順7に従って吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
【0212】
(手順5)分離超平面を表す関数を用いて、所定の時点における吸気切替弁64の開閉状態を推定する。
(手順6)手順5にて推定された所定の時点における吸気切替弁64の開閉状態と、その時点における実際の吸気切替弁64の開閉状態と、を比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
(手順7)手順4における吸気切替弁64の異常判定の結果と、手順6における吸気切替弁64の異常判定の結果と、に基づき、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
上記手順5乃至手順7のそれぞれについてより詳細に説明する。
【0213】
(手順5)分離超平面を表す関数を用いて、所定の時点における吸気切替弁64の開閉状態を推定する。
第2装置は、先ず、上記手順2によって「過給圧の動特性のモデル化」及び「分離超平面Hを表す関数(第1関数)の推定」を行った後の所定の時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を、上記(10)式に示す第1関数(分離超平面H)に適用する。そして、上記手順2と同様、第2装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロ以上であれば、その回帰ベクトルx(t)が領域Sに属すると判定する。これに対し、第2装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、その回帰ベクトルx(t)が領域Sに属すると判定する。なお、上記(1)式に示したように、回帰ベクトルx(t)は、「時刻tよりも前(過去)の時刻t−1」における時系列データを要素として含むベクトルである。
【0214】
上述したように、領域Sは「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合における回帰ベクトルが属する領域であり、領域Sは「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合における回帰ベクトルが属する領域である。そこで、第2装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロ以上であれば、「時刻t−1における吸気切替弁64の開度は全閉開度以外の開度である」と推定する。これに対し、第2装置は、第1関数に回帰ベクトルx(t)が適用されたとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、「時刻t−1における吸気切替弁64の開度は全閉開度である」と推定する。
【0215】
(手順6)推定された所定の時点における吸気切替弁64の開閉状態と、その時点における実際の吸気切替弁64の開閉状態と、を比較することにより、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
第2装置は、先ず、吸気切替弁開度センサ78の出力値に基づき、時刻t−1における吸気切替弁64の実際の開度Oact(t−1)を取得する。次いで、第2装置は、この時刻t−1における実際の開度Oact(t−1)と、上記手順5にて推定された時刻t−1における吸気切替弁64の開閉状態と、を比較する。
【0216】
より具体的に述べると、第2装置は、「時刻t−1における吸気切替弁64の開度は全閉開度である」と推定されているとき、実際の開度Oact(t−1)が全閉開度であれば、「吸気切替弁64は正常である」と判定する。これに対し、このとき、実際の開度Oact(t−1)が全閉開度以外の開度であれば、「吸気切替弁64は異常である」と判定する。
【0217】
一方、第2装置は、「時刻t−1における吸気切替弁64の開度は全閉開度以外の開度である」と推定されているとき、実際の開度Oact(t−1)が全閉開度以外の開度であれば、「吸気切替弁64は正常である」と判定する。これに対し、このとき、実際の開度Oact(t−1)が全閉開度であれば、「吸気切替弁64は異常である」と判定する。
【0218】
以下、上述した「手順5及び手順6に示す方法による吸気切替弁64の異常判定」を、便宜上、「第2次異常判定」と称呼する。
【0219】
(手順7)手順4における吸気切替弁64の異常判定の結果と、手順6における吸気切替弁64の異常判定の結果と、に基づき、吸気切替弁64が正常に作動しているか否かを判定する。
【0220】
第2装置は、上記手順4における吸気切替弁64の異常判定(第1次異常判定)及び上記手順6における吸気切替弁64の異常判定(第2次異常判定)の双方において「吸気切替弁64が正常である」と判定されたとき、「吸気切替弁64が正常である」との最終判定を行う。一方、第2装置は、第1次異常判定及び第2次異常判定のうちの少なくとも一方において「吸気切替弁64が異常である」と判定されたとき、「吸気切替弁64が異常である」との最終判定を行う。以上が第2装置における制御弁の異常判定方法である。
【0221】
<実際の作動>
以下、第2装置の実際の作動について説明する。
第2装置は、上述した図7にフローチャートによって示した処理に代えて図10にフローチャートによって示した処理を実行する点においてのみ、上記第1装置と相違している。そこで、以下、この相違点を中心として説明を続ける。
【0222】
CPU81は、図6、及び、図8乃至図10にフローチャートによって示した各ルーチンを所定のタイミング毎に実行するようになっている。CPU81は、これらのルーチンにおいて、上記第1装置と同様の吸気切替弁異常フラグXACVを用いる。
【0223】
以下、現時点にて過給圧の動特性のモデル化は完了していると仮定して、CPU81が実行する各ルーチンについて詳細に説明する。CPU81は、所定のタイミングにて図6のステップ600から処理を開始すると、ステップ610に進む。上記仮定に従えば、現時点にて過給圧のモデル化は完了しているので、CPU81は、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0224】
更に、CPU81は、所定時間が経過する毎に図10にフローチャートによって示した「第2異常判定ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、吸気切替弁64が異常であるか否かを判定する。図10に示したルーチンは、ステップ1010乃至ステップ1030が追加されている点においてのみ図7に示したルーチンと相違している。そこで、図10において図7に示したステップと同一の処理を行うためのステップには、図7のそのようなステップに付された符号と同一の符号が付されている。これらのステップについての詳細な説明は適宜省略される。
【0225】
具体的に述べると、CPU81は、所定のタイミングにて図10のステップ1000から処理を開始すると、ステップ710に進む。上記仮定に従えば、現時点にて過給圧のモデル化は完了しているので、CPU81は、ステップ710にて「Yes」と判定してステップ720に進む。CPU81は、ステップ720にて、現時点(時刻t)における回帰ベクトルx(t)を取得するとともに、その回帰ベクトルx(t)を上記第1関数(分離超平面)に適用し、その際の第1関数の値(ax(t)+b)がゼロ以上であるか否かを判定する。
【0226】
このとき、第1関数の値がゼロ以上であれば、CPU81は、ステップ720にて「Yes」と判定してステップ730に進み、時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を「吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である」場合に対応する第2関数(ARXモデル)に適用する(上記(14)式の上段を参照。)。これにより、CPU81は、時刻tにおける過給圧を推定し、推定された過給圧をωest(t)として取得する。なお、上述したように、ステップ730において、誤差ε(t)はゼロに設定される。その後、CPU81は、ステップ1010に進む。
【0227】
CPU81は、ステップ1010にて、推定された吸気切替弁64の開度(推定開度)を示す指標値である推定開度指標値OIest(t−1)に「1」を格納する。推定開度指標値OIest(k)は、その値が「1」であるとき、時刻kにおける吸気切替弁64の推定開度が「全閉開度以外の開度」であることを表す。一方、推定開度指標値OIest(k)は、その値が「0」であるとき、時刻kにおける吸気切替弁64の推定開度が「全閉開度」であることを表す。その後、CPU81は、ステップ750に進む。
【0228】
これに対し、このとき、第1関数の値がゼロよりも小さければ、CPU81は、ステップ720にて「No」と判定してステップ740に進み、時刻tにおける回帰ベクトルx(t)を「吸気切替弁64の開度が全閉開度である」場合に対応する第2関数(ARXモデル)に適用する(上記(14)式の下段を参照。)。これにより、CPU81は、時刻tにおける過給圧を推定し、推定された過給圧をωest(t)として取得する。なお、上述したように、ステップ740においても、誤差ε(t)はゼロに設定される。その後、CPU81は、ステップ1020に進む。
【0229】
CPU81は、ステップ1020にて、推定開度指標値OIest(t−1)に「0」を格納する。その後、CPU81は、ステップ750に進む。
【0230】
このように、回帰ベクトルx(t)を第1関数(分離超平面)に適用した際のその第1関数の値に応じて、回帰ベクトルx(k)が適用される第2関数(ARXモデル)が決定される。そして、この決定された第2関数に回帰ベクトルx(k)が適用されることにより、時刻tにおける過給圧が推定される。更に、回帰ベクトルx(t)が第1関数に適用されることにより、時刻t−1における吸気切替弁64の開度が推定される。そして、この推定された吸気切替弁64の開度に応じて、推定開度指標値OIest(t−1)が決定される。その後、CPU81は、ステップ750に進む。
【0231】
次いで、CPU81は、推定された過給圧を用いて吸気切替弁64の異常判定を行う「第1次異常判定」、及び、推定開度指標値を用いて吸気切替弁64の異常判定を行う「第2次異常判定」を行う。以下、場合を分けて説明する。
【0232】
(仮定1)推定された過給圧と実際の過給圧との差の絶対値が所定の閾値以上である場合
CPU81は、ステップ750にて、吸気切替弁64の第1次異常判定(上記手順4を参照。)を行う。具体的に述べると、CPU81は、ステップ750にて、上述したように推定された過給圧ωest(t)と、時刻tにおける過給圧センサ74の出力値によって定まる実際の過給圧ωact(t)と、の差の絶対値が所定の閾値δ2よりも小さいか否かを判定する。
【0233】
上記仮定1に従えば、CPU81は、ステップ750にて「No」と判定してステップ770に進む。CPU81は、ステップ770にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「1」を格納する。その後、CPU81は、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0234】
このとき、CPU81は、図8のステップ800から処理を開始すると、ステップ810に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ810にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ820を経由し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0235】
更に、このとき、CPU81は、図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ910にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ940及びステップ930を経由し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0236】
従って、この場合(即ち、第1次異常判定において吸気切替弁64が異常であると判定された場合)、操作者に対して「吸気切替弁64が異常である」旨の通知がなされるとともに、「退避運転」が実行される。
【0237】
(仮定2)推定された過給圧と実際の過給圧との差の絶対値は所定の閾値よりも小さいものの、推定開度指標値と実際の開度指標値が一致しない場合
上記仮定2に従えば、CPU81は、ステップ750にて「Yes」と判定してステップ1030に進む。
【0238】
CPU81は、ステップ1030にて、吸気切替弁64の第2次異常判定(上記手順6を参照。)を行う。具体的に述べると、CPU81は、ステップ1030にて、時刻t−1における吸気切替弁開度センサ78の出力値に基づいて、吸気切替弁64の実際の開度Oact(t−1)を取得する。更に、CPU81は、この実際の開度Oact(t−1)が「全閉開度以外の開度」であれば、吸気切替弁64の実際の開度を示す指標値である実開度指標値OIact(t−1)に「1」を格納し、実際の開度Oact(t−1)が「全閉開度」であれば実開度指標値OIact(t−1)に「0」を格納する。そして、CPU81は、上述したステップ1010又はステップ1020にて取得された推定開度指標値OIest(t−1)と、この実開度指標値OIact(t−1)と、が一致するか否かを判定する。
【0239】
上記仮定2に従えば、推定開度指標値OIest(t−1)と、実開度指標値OIact(t−1)と、は一致しない。そのため、CPU81は、ステップ1030にて「No」と判定してステップ770に進む。CPU81は、ステップ770にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「1」を格納する。その後、CPU81は、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0240】
このとき、CPU81は、図8のステップ800から処理を開始すると、ステップ810に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ810にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ820を経由し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0241】
更に、このとき、CPU81は、図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「1」であるから、CPU81は、ステップ910にて「No」と判定する。その後、CPU81は、ステップ940及びステップ930を経由し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0242】
従って、この場合(第1次異常判定において吸気切替弁64が正常であると判定されたものの、第2次異常判定において吸気切替弁64が異常であると判定された場合)においても、操作者に対して「吸気切替弁64が異常である」旨の通知がなされるとともに、「退避運転」が実行される。
【0243】
(仮定3)推定された過給圧と実際の過給圧との差の絶対値が所定の閾値よりも小さく、且つ、推定開度指標値と実際の開度指標値が一致する場合
上記仮定3に従えば、CPU81は、ステップ750にて「Yes」と判定してステップ1030に進む。更に、上記仮定3に従えば、CPU81は、ステップ1030にて「Yes」と判定してステップ760に進む。CPU81は、ステップ760にて吸気切替弁異常フラグXACVの値に「0」を格納する。その後、CPU81は、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0244】
このとき、CPU81は、図8のステップ800から処理を開始すると、ステップ810に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるから、CPU81は、ステップ810にて「Yes」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0245】
更に、このとき、CPU81は、図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。現時点における吸気切替弁異常フラグXACVの値は「0」であるから、CPU81は、ステップ910にて「Yes」と判定する。その後、CPU81は、ステップ920及びステップ930を経由し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0246】
従って、この場合(第1次異常判定及び第2次異常判定の双方において吸気切替弁64は正常であると判定された場合)、操作者に対して「吸気切替弁64が異常である」旨の通知はなされず、「通常運転」が実行される。
【0247】
このように、第2装置は、第1次異常判定及び第2次異常判定の双方において吸気切替弁64が正常であると判定された場合、通常運転を実行する。これに対し、第2装置は、第1次異常判定及び第2次異常判定のうちの少なくとも一方において吸気切替弁64が異常であると判定された場合、操作者に対してその旨を通知するとともに退避運転を実行する。
【0248】
以上、説明したように、第2装置において、
前記運転状態推定手段は、
前記回帰ベクトルx(t)と前記第1関数(分離超平面H。上記(10)式を参照。)とによって決定された同回帰ベクトルx(t)が回帰空間において分類される前記データベクトル群(クラスタC及びクラスタC)に対応する前記複数の開度領域(吸気切替弁64の開度が全閉開度以外の開度である領域、及び、吸気切替弁64の開度が全閉開度である領域)のうちの一つを、前記第1時点t−1において前記制御弁64の開度が属する開度領域である制御弁推定所属領域(推定開度指標値OIest(t−1))として推定するように構成され(図10のステップ720乃至ステップ740、及び、ステップ1010及びステップ1020)、
前記異常判定手段は、
前記推定された前記制御弁推定所属領域OIest(t−1)と、前記第1時点t−1における前記制御弁64の実際の開度が属する前記複数の開度領域のうちの一つである制御弁実所属領域(実開度指標値OIact(t−1))と、を比較することにより、前記制御弁64が異常であるか否かを判定するように構成されている(図10のステップ1030)。
【0249】
これにより、第2装置は、第2時点における過給圧の値に基づく制御弁の異常判定、及び、第1時点における制御弁の開度に基づく制御弁の異常判定、の双方を行うことができる。従って、第2装置は、これらの異常判定のうちの何れか一方のみを行う場合に比べ、制御弁が正常に作動しているか否かを更に精度良く判定することができる。
【0250】
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0251】
例えば、上記各実施形態においては、過給機による過給状態に影響を与える運転パラメータとして、低圧段過給機回転速度、高圧段過給機回転速度、スロットル弁開度、及び、過給圧が採用されている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置おいて採用し得る運転パラメータは、これらに限定されない。例えば、本発明の制御弁異常判定装置は、運転パラメータとして、前記吸気通路内の所定箇所における空気の圧力、前記吸気通路内の所定箇所における空気の温度、及び、前記第1過給機のコンプレッサの回転速度、のうちの少なくとも1つを含むように構成され得る。
【0252】
更に、上記各実施形態においては、「過給圧」の動特性がARXモデルとしてモデル化されている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置は、「過給圧以外の運転パラメータ」の動特性をARXモデルとしてモデル化するように構成されてもよい。
【0253】
加えて、上記各実施形態においては、過給圧の動特性のモデル化が一旦完了すると、時系列データの取得が停止されるようになっている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置は、過給圧の動特性のモデル化が完了した後も時系列データを取得し続けるとともに、取得された時系列データに基づいて所定時間が経過する毎に「分離超平面の再推定」及び「過給圧の動特性の再モデル化」を行うように構成されてもよい。即ち、本発明の制御弁異常判定装置は、分離超平面(第1関数)及び過給圧の動特性を表す関数(第2関数)を所定時間が経過する毎に更新するように構成されてもよい。更に、本発明の制御弁異常判定装置は、分離超平面及び過給圧の動特性を表す関数のうちの少なくとも一方を更新するように構成されてもよい。
【0254】
更に、上記各実施形態においては、吸気切替弁64の異常判定のみが行われている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置は、吸気切替弁64だけではなく、排気切替弁66及び排気バイパス弁68の一方又は双方の異常判定を行うように構成されてもよい。具体的に述べると、例えば、本発明の制御弁異常判定装置は、所定の運転パラメータの動特性を排気切替弁66の開度に応じた複数のARXモデルとしてモデル化するとともに、そのモデル化されたその運転パラメータの動特性によって得られるその運転パラメータの推定値と、その運転パラメータの実際の値と、を比較することにより、排気切替弁66の異常判定を行うように構成され得る。更に、例えば、本発明の制御弁異常判定装置は、上記同様に排気バイパス弁68の異常判定を行うように構成され得る。
【0255】
更に、上記各実施形態においては、本発明の制御弁異常判定装置は、直列配置された2つの過給機(第1過給機61及び第2過給機62)と、3つの制御弁(吸気切替弁64、排気切替弁66、及び、排気バイパス弁68)と、を備えた内燃機関に適用されている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置が適用される内燃機関は、上記内燃機関に限定されない。例えば、本発明の制御弁異常判定装置は、1つの過給機と所定数の制御弁を備えた内燃機関にも適用し得る。更に、例えば、本発明の制御弁異常判定装置は、3以上の過給機と所定数の制御弁を備えた内燃機関にも適用し得る。加えて、例えば、本発明の制御弁は、複数の過給機が「並列」配置された内燃機関にも適用し得る。
【0256】
更に、上記第2実施形態においては、第2時点における過給圧の値に基づく異常判定(第1次異常判定)と、第1時点における吸気切替弁64の開閉状態に基づく異常判定(第2次異常判定)と、の双方が実行されている。しかし、本発明の制御弁異常判定装置は、上記第2次異常判定のみを行うように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0257】
20…エンジン本体、22…燃料噴射装置、32…吸気管、33…スロットル弁、42…排気管、61…高圧段過給機、61a…高圧段コンプレッサ、62…低圧段過給機、62a…低圧段コンプレッサ、63…高圧段コンプレッサバイパス通路部、64…吸気切替弁、64a…吸気切替弁アクチュエータ、66…排気切替弁、68…排気バイパス弁、73…スロットル弁開度センサ、74…過給圧センサ、76…高圧段過給機回転速度センサ、77…低圧段過給機回転速度センサ、78…吸気切替弁開度センサ、80…電気制御装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配設されたタービンと同機関の吸気通路に配設されたコンプレッサとを有する第1過給機と、前記コンプレッサをバイパスする通路部に設けられて同コンプレッサに流入する空気の量と同通路部を通過する空気の量との割合を変更する制御弁と、を備える内燃機関の制御弁異常判定装置であって、
前記第1過給機による過給状態に関わる所定の運転パラメータの値を時間経過に対応させた時系列データとして取得する時系列データ取得手段と、
区分的アフィン解析法に従って、前記取得した時系列データを要素として含むデータベクトルを複数のデータベクトル群に分類し、前記分類された複数のデータベクトル群を用いて、前記分類された複数のデータベクトル群を回帰空間において区分けするための境界を表す単数又は複数の関数からなる第1関数を推定するとともに、前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに要素として含まれる時系列データを用いて、前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれに対して前記運転パラメータの動特性をARXモデルとして表す第2関数を推定するデータ分析手段と、
前記データ分析手段によって前記第1関数及び前記第2関数が推定された時点よりも後の第1時点にて前記時系列データ取得手段により取得される時系列データを要素として含む回帰ベクトルを前記第1関数に適用することにより、同回帰ベクトルが前記複数のデータベクトル群のうちの何れのデータベクトル群に回帰空間において分類されるかを決定するとともに、前記第2関数のうちの同決定された同回帰ベクトルが回帰空間において分類されるデータベクトル群に対応する第2関数に同回帰ベクトルを適用することにより、前記第1時点よりも後の第2時点における前記運転パラメータの値を推定する運転状態推定手段と、
前記推定された前記第2時点における前記運転パラメータの値と、同第2時点における同運転パラメータの実際の値と、を比較することにより、前記制御弁が異常であるか否かを判定する異常判定手段と、
を備えた内燃機関の制御弁異常判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御弁異常判定装置であって、
前記分類された複数のデータベクトル群のそれぞれは、前記制御弁の開度の可動範囲を分割する複数の開度領域のそれぞれに対応するように構成された制御弁異常判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制御弁異常判定装置において、
前記運転状態推定手段は、
前記回帰ベクトルと前記第1関数とによって決定された同回帰ベクトルが回帰空間において分類される前記データベクトル群に対応する前記複数の開度領域のうちの一つを、前記第1時点において前記制御弁の開度が属する開度領域である制御弁推定所属領域として推定するように構成され、
前記異常判定手段は、
前記推定された前記制御弁推定所属領域と、前記第1時点における前記制御弁の実際の開度が属する前記複数の開度領域のうちの一つである制御弁実所属領域と、を比較することにより、前記制御弁が異常であるか否かを判定するように構成された制御弁異常判定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の制御弁異常判定装置において、
前記複数の開度領域は、
前記制御弁の開度が全閉開度である領域、及び、同制御弁の開度が同全閉開度以外の開度である領域、の2つの領域からなる制御弁異常判定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の制御弁異常判定装置において、
前記運転パラメータは、
前記吸気通路内の所定箇所における空気の圧力、前記吸気通路内の所定箇所における空気の温度、及び、前記コンプレッサの回転速度、のうちの少なくとも1つを含む制御弁異常判定装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の制御弁異常判定装置であって、
前記機関は、
前記第1過給機と異なる第2過給機であって同第2過給機のタービンが前記排気通路の前記第1過給機のタービンよりも下流側に配設されるとともに同第2過給機のコンプレッサが前記吸気通路の前記第1過給機のコンプレッサよりも上流側に配設された第2過給機を備え、
前記通路部は、前記第1過給機のコンプレッサと前記第2過給機のコンプレッサとの間の分岐部にて前記吸気通路から分岐するとともに同第1過給機のコンプレッサの下流の合流部にて同吸気通路に合流するように構成されてなり、
前記吸気通路の前記合流部よりも下流側に配設されるとともに開度が変更される吸気絞り弁を備え、
前記時系列データ取得手段によって取得される時系列データに含まれる前記運転パラメータは、前記機関の過給圧、前記吸気絞り弁の開度、前記第1過給機のコンプレッサの回転速度、及び、前記第2過給機のコンプレッサの回転速度を含み、
前記運転状態推定手段によって推定される前記第2時点における前記運転パラメータの値は前記機関の過給圧である、制御弁異常判定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−99338(P2011−99338A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252897(P2009−252897)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】