説明

内燃機関の制御装置および触媒コンバータの劣化診断方法

【課題】触媒コンバータの劣化診断の誤診断を防ぎつつ、実施頻度を高める。
【解決手段】内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、酸素消費量を算出する酸素消費量算出手段M5と、中心A/Fを、酸素消費量を基に補正する中心A/F補正手段M11と、補正後の中心A/Fを基準として、触媒コンバータへ供給あるいは触媒コンバータから消費する酸素量を相対O2ストレージ量として算出する相対O2ストレージ量算出手段M7と、相対O2ストレージ量に基づいて、補正後の中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、リーンの交互に操作する空燃比制御手段M8と、空燃比センサと酸素濃度センサの出力の相関性を数値化して算出した劣化判定パラメータが基準値を上回っている場合に触媒コンバータの劣化と判断する触媒劣化判定手段M6とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒コンバータの劣化状態を診断する機能を備えた内燃機関の制御装置、および触媒コンバータの劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の触媒劣化を診断するための装置として、触媒コンバータの上流および下流に酸素濃度センサを配設し、触媒コンバータの上流の空燃比をリーン,リッチに交互に変化させ、下流の酸素濃度センサの出力信号の変動量を基に触媒コンバータの劣化を判定するものが、一般的によく知られている。これは、触媒コンバータの持つ排ガスの浄化能力が、触媒コンバータの有する酸素ストレージ量と相関性が高いことを利用した判定(診断)方法である。
【0003】
このような従来装置は、空燃比をリーン,リッチに交互に変化させることにより、触媒コンバータへ酸素を供給、あるいは触媒コンバータ内の酸素を消費させる。このとき、触媒コンバータが劣化している(すなわち、酸素ストレージ量が低下している)と、触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れるという現象と、触媒コンバータ内の酸素が完全に消費されるという現象が交互に発生する。この結果、触媒コンバータの下流の酸素濃度は、大きく変化し、触媒コンバータ下流の酸素濃度センサの出力が、大きく変動することとなる。
【0004】
一方で、正常な触媒コンバータの場合には、触媒コンバータの有する酸素ストレージ量が大きい。このため、空燃比のリーン,リッチに交互に変化する操作においても、触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れる、あるいは触媒コンバータ内の酸素が完全に消費される、という現象は生じない。従って、触媒コンバータ下流の酸素濃度センサの出力の変動は、ほとんど生じない。これらの現象を利用して、触媒コンバータの劣化あるいは正常の判定が行われていた。
【0005】
ここで、対象となる触媒コンバータに対して、正しく劣化判定を行うためには、酸素の供給と消費を適正に行うことが重要となる。すなわち、触媒コンバータの上流の空燃比をリーン,リッチに交互に変化させる操作を行っても、実際の触媒コンバータの上流の空燃比が、所望のリーンの値,あるいは所望のリッチの値に変化していなければ、正しい診断結果を得ることはできない。
【0006】
実際の触媒コンバータの上流の空燃比が所望のリーンの値,あるいは所望のリッチの値に変化しない原因の代表例として、空燃比制御の基準点となる「中心A/F」のズレが挙げられる。ここで、この中心A/Fとは、触媒コンバータ上流の空燃比をこの中心A/Fの値とした場合に、触媒コンバータには酸素の供給、あるいは酸素の消費が生じない状態になることを意味しており、いわゆるストイキA/Fのことである。
【0007】
この中心A/Fが、リッチあるいはリーンのいずれかの方向にズレが生じている場合に、触媒コンバータ上流の空燃比を、この中心A/Fを基準としてリーンあるいはリッチに制御すると、実際には、リーンあるいはリッチのいずれかに偏った空燃比の変化しか得られず、結果として酸素の供給過多あるいは酸素の欠乏状態の継続を招いてしまうおそれがある。
【0008】
例えば、この際、正常な触媒コンバータに対して、空燃比をリーン,リッチに交互に変化させると、いずれ触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れる、あるいは触媒コンバータ内の酸素が完全に消費される、という現象が発生してしまう。特に、酸素が触媒コンバータの下流へ溢れる現象が発生した場合には、たとえ酸素ストレージ量が大きい正常な触媒コンバータであっても、「劣化」と誤って判定してしまうことがある。
【0009】
この現象を、図19を用いて説明する。図19は、中心A/Fのズレと、触媒コンバータ内の酸素量および酸素濃度センサの出力の関係を示すタイミングチャートである。左側は、中心A/FがストイキA/Fと一致する場合、右側は、中心A/FがストイキA/Fからズレを生じている場合を示している。
【0010】
また、左側、右側のそれぞれのタイミングチャートは、上から順に、触媒コンバータ上流側の空燃比、触媒コンバータへの酸素供給量、触媒コンバータ内の酸素量、触媒コンバータ下流側に配設された酸素濃度センサの出力を示している。なお、触媒コンバータへの酸素供給量は、正の値が「供給」を示し、負の値が「消費」を示している。
【0011】
左側のタイミングチャートに示したように、中心A/FがストイキA/Fと一致する場合(A部参照)には、触媒上流側の空燃比をリーン,リッチに交互に変化させた際に、触媒コンバータへ供給する酸素の量と触媒コンバータから消費する酸素の量は一致している(B部参照)。
【0012】
このため、触媒コンバータ内の酸素量は、触媒コンバータが有する最大酸素ストレージ量から超過せず(C部参照)、また、酸素量は、0、すなわち完全欠乏してしまうことも無い(D部参照)。このため、触媒コンバータ下流に配設された酸素濃度センサの出力も、ほとんど変動しない(E部参照)。
【0013】
一方、右側のタイミングチャートに示したように、中心A/FがストイキA/Fからズレを生じている場合(右側のタイミングチャートの例では、中心A/FがストイキA/Fよりリーン側にズレが生じている場合を示しており、A’部参照)には、触媒コンバータ上流側の空燃比をリーン,リッチに交互に変化させた際に、触媒コンバータへ供給する酸素の量が触媒コンバータから消費する酸素の量よりも多くなっている(B’部参照)。
【0014】
このため、触媒コンバータ内の酸素量は、徐々に増加し、触媒コンバータが有する最大酸素ストレージ量を超過してしまう(C’部参照)。この際、触媒コンバータより下流に酸素が溢れることになる。また、空燃比をリッチに変化させた際に、触媒下流側への酸素の溢れは一時的に解消するため、触媒コンバータ下流に配設された酸素濃度センサの出力は、非常に大きく変動する(E’部参照)。これが、正常な触媒コンバータに対して「劣化」と誤って判定してしまう原因となる。
【0015】
中心A/Fのズレは、様々な原因により発生する。一例として、触媒コンバータ上流の空燃比を検出する空燃比センサの取り付けの位置に起因する場合を説明する。内燃機関の排気系の形状や空燃比センサの取り付け位置は、内燃機関のトルク出力性能や車両への搭載性により制約を受ける。このため、複数の気筒を有する内燃機関の場合、全ての気筒から排出された排気ガスが均等に空燃比センサに接触しない場合がある。
【0016】
このようにして、空燃比センサに排気ガスが当たりやすい気筒と、排気ガスが当たりにくい気筒の両方が存在する場合、排気ガスが当たりにくい気筒の空燃比が他の気筒の空燃比からズレを生じることとなる。従って、このような場合には、空燃比センサが示す空燃比は、実際に全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値から乖離することになる。
【0017】
このため、あらかじめ中心A/Fを所定の値に設定し、空燃比センサの検出値が、この値となるようにフィードバック制御を実施しても、実際に全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値は、あらかじめ設定した中心A/Fの値に収束しない。従って、この状態で中心A/Fを基準として、空燃比をリーンあるいはリッチに変化させても、実際の中心A/Fとはズレを生じているので、酸素の供給過多状態あるいは酸素の欠乏状態の継続を招き、正しく触媒コンバータの劣化判定ができなくなる。
【0018】
このような中心A/Fのズレに対して、触媒コンバータの下流に配設された酸素濃度センサの出力が所定の値に収束するように、触媒コンバータの上流側の空燃比センサの目標値を修正する、いわゆるサブ空燃比フィードバック制御が提案されている。なお、サブ空燃比フィードバック制御には、一般的なPI制御(比例項と積分項からなる目標値収束制御)が多く使われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0019】
サブ空燃比フィードバック制御を用いると、例えば、前述のような、空燃比センサに排気ガスが当たりやすい気筒と、排気ガスが当たりにくい気筒の両方が存在する場合に、排気ガスが当たりにくい気筒の空燃比が他の気筒の空燃比からズレを生じても、触媒コンバータの下流に配設された酸素濃度センサの出力が所定の値に収束するように触媒コンバータの上流側の空燃比センサの目標値を修正する。この結果、空燃比センサが示す空燃比が、実際に全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値から乖離したとしても、その平均値を所望の値に制御することが可能となる。
【0020】
ここで、触媒コンバータの下流に配設された酸素濃度センサの目標値を、触媒コンバータの上流の空燃比がストイキA/Fになる値に設定しておくと、各気筒から排出された排気ガスの空燃比についてのズレの有無に関わらず、サブ空燃比フィードバック制御が収束している状況では、各気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値は、ストイキA/Fになる。
【0021】
前述のように、サブ空燃比フィードバック制御を用いると、各気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値をストイキA/Fに制御可能である。このため、この特徴を利用して、触媒コンバータの劣化判定を行うと、診断結果の精度は向上する。これは、正確な触媒コンバータの劣化判定に必要な、酸素の供給と消費の操作を適正に行うための基準点、すなわち中心A/Fが、サブ空燃比フィードバック制御を適用することにより、精度よくストイキA/Fに制御可能であるからである。
【0022】
このように、触媒コンバータの劣化判定に使用する中心A/Fを、サブ空燃比フィードバック制御を用いてストイキA/Fになるように補償する診断方法が、従来技術として開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第3498817号公報
【特許文献2】特開平9−125936号公報
【特許文献3】特許第4578544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献3に記載の従来の触媒劣化診断装置では、触媒コンバータの診断を実施する前に、中心A/FがストイキA/Fになるように、サブ空燃比フィードバック制御を用いて補償している。
【0025】
しかしながら、サブ空燃比フィードバック制御に利用されるPI制御では、特に積分項の補正に長い時間が掛かってしまうという問題点があった。これは、一般的なフィードバック制御における積分項の役割が、比例項等の補正で目標値に収束しきれない場合、すなわち、定常偏差が残る場合に、この定常偏差を解消する機能であることに起因する。
【0026】
さらに、具体的に説明すると、定常偏差を解消する、すなわち、偏差量を限りなく0に近づけるために、積分項の1回の更新操作あたりの増減量は、非常に小さく設定せざるを得ない。なお、更新操作あたりの増減量を大きくしすぎる、あるいは更新操作の実施周期を高めにしすぎると、制御対象に自励振動(いわゆるハンチング)を生じさせてしまうことになり、目標値に対する収束性が悪化して、中心A/Fの補償精度が低下してしまう。
【0027】
中心A/Fの補正が完了するまで、触媒コンバータの劣化診断は実施できないため、サブ空燃比フィードバック制御によって、中心A/Fの補正に長い時間が掛かってしまうと、その分、触媒コンバータの劣化診断の開始が遅くなってしまう。もし、ユーザーが内燃機関を始動してから、サブ空燃比フィードバック制御による中心A/Fの補正が完了する前に、内燃機関の運転を停止してしまうと、そのような運転機会には、触媒コンバータの劣化診断は実施されないことになる。すなわち、中心A/Fの補正にサブ空燃比フィードバック制御を用いると、触媒コンバータの劣化診断の実施頻度が低下してしまうという問題が生じてしまう。
【0028】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、触媒コンバータの劣化診断の誤診断を防ぎつつ、劣化診断の実施頻度を高めることができる内燃機関の制御装置および触媒コンバータの劣化診断方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の排気通路に配設され、内燃機関から排出される排気ガスの浄化を行う触媒コンバータの劣化を診断する機能を備えた内燃機関の制御装置であって、触媒コンバータの上流に配設され、内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、触媒コンバータの下流に配設され、触媒コンバータより下流の排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサとの、それぞれの検出結果に基づいて、触媒コンバータの劣化を診断する触媒劣化診断手段と、触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を酸素消費量として算出する酸素消費量算出手段と、酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出が完了するまで、触媒劣化診断手段による診断の実施を禁止する診断禁止手段とを有し、酸素消費量算出手段は、内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から、酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、酸素消費量を算出し、触媒劣化診断手段は、ストイキA/F相当としてあらかじめ初期設定されている中心A/Fを、酸素消費量算出手段によって算出された酸素消費量を基に補正する中心A/F補正手段と、空燃比センサの出力と運転状態とに基づいて、中心A/F補正手段で補正された中心A/Fを基準として、触媒コンバータへ供給あるいは触媒コンバータから消費する酸素量を相対O2ストレージ量として算出する相対O2ストレージ量算出手段と、相対O2ストレージ量算出手段で算出された相対O2ストレージ量に基づいて、中心A/F補正手段で補正された中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、リーンの交互に操作する空燃比制御手段と、相対O2ストレージ量算出手段および空燃比制御手段によって実施される空燃比制御の結果として得られる、空燃比センサの出力と酸素濃度センサの出力より、これらの出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出し、算出した劣化判定パラメータがあらかじめ設定された劣化判定基準値を上回っている場合に触媒コンバータの劣化と判断する触媒劣化判定手段とを含むものである。
【0030】
また、本発明に係る触媒コンバータの劣化診断方法は、内燃機関の排気通路に配設され、内燃機関から排出される排気ガスの浄化を行う触媒コンバータの劣化を診断する機能を備えた内燃機関の制御装置に用いられる触媒コンバータの劣化診断方法であって、触媒コンバータの上流に配設され、内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、触媒コンバータの下流に配設され、触媒コンバータより下流の排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサとの、それぞれの検出結果に基づいて、触媒コンバータの劣化を診断する触媒劣化診断ステップと、触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を酸素消費量として算出する酸素消費量算出ステップと、酸素消費量算出ステップによる酸素消費量の算出が完了するまで、触媒劣化診断ステップによる診断の実施を禁止する診断禁止ステップとを有し、酸素消費量算出ステップは、内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から、酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、酸素消費量を算出し、触媒劣化診断ステップは、ストイキA/F相当としてあらかじめ初期設定されている中心A/Fを、酸素消費量算出ステップによって算出された酸素消費量を基に補正する中心A/F補正ステップと空燃比センサの出力と運転状態とに基づいて、中心A/F補正ステップで補正された中心A/Fを基準として、触媒コンバータへ供給あるいは触媒コンバータから消費する酸素量を相対O2ストレージ量として算出する相対O2ストレージ量算出ステップと、相対O2ストレージ量算出ステップで算出された相対O2ストレージ量に基づいて、中心A/F補正ステップで補正された中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、リーンの交互に操作する空燃比制御ステップと、相対O2ストレージ量算出ステップおよび空燃比制御ステップによって実施される空燃比制御の結果として得られる、空燃比センサの出力と酸素濃度センサの出力より、これらの出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出し、算出した劣化判定パラメータがあらかじめ設定された劣化判定基準値を上回っている場合に触媒コンバータの劣化と判断する触媒劣化判定ステップとを含むものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る内燃機関の制御装置および触媒コンバータの劣化診断方法によれば、内燃機関への燃料の供給を禁止した後、燃料の供給を再開した時点から、酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を算出し、この酸素消費量に基づいて中心A/Fの補正量を決定することにより、触媒コンバータの劣化診断の誤診断を防ぎつつ、劣化診断の実施頻度を高めることができる内燃機関の制御装置および触媒コンバータの劣化診断方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1に係る内燃機関と内燃機関の制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の基本的な概念構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る触媒劣化診断処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1に係る酸素濃度センサの出力変動量を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るλO2センサの空燃比対出力電圧の特性を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る劣化判定パラメータ算出の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態1に係る空燃比センサ出力を酸素濃度センサ出力相当値に変換するための2次元テーブルを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段の処理を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段の処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態1に係る空燃比センサの出力と全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値との差(ΔA/F)と、酸素消費量算出手段で算出したOcの関係を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段で算出された酸素消費量Ocと、中心A/Fの補正量βの関係を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る診断用A/F制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態1に係る中心A/F補正処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施の形態1に係る中心A/F補正量を算出するための2次元テーブルを示す図である。
【図15】本発明の実施の形態1に係るA/Fリーン化制御およびA/Fリッチ化制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】本発明の実施の形態2に係る内燃機関の制御装置の基本的な概念構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る酸素消費量算出手段の処理を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態2に係る触媒コンバータの推定温度を算出するための3次元マップを示す図である。
【図19】中心A/Fのズレと、触媒コンバータ内の酸素量および酸素濃度センサの出力の関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の内燃機関の制御装置および触媒コンバータの劣化診断方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0034】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る内燃機関と内燃機関の制御装置の構成を示す図である。符号M1〜M4は、それぞれ以下のものを示している。
M1:内燃機関
M2:内燃機関M1の排気ガスを浄化する触媒コンバータ
M3:触媒コンバータM2の上流に配設され、内燃機関M1から排出される排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサ
M4:触媒コンバータM2の下流に配設され、触媒コンバータM2の下流の排気ガスの酸素濃度を示す酸素濃度センサ
【0035】
また、符号1〜5は、それぞれ以下のものを示している。
1:クランクシャフトの角度位置を検出するクランク角センサ
2:内燃機関M1が吸入する空気量の量を計測するエアーフローセンサ
3:内燃機関M1のシリンダ内へ燃料を供給するインジェクタ
4:内燃機関M1のシリンダ内部に火花を点火する点火プラグ
5:クランク角センサ1やエアーフローセンサ2等から内燃機関の運転状態を検出して供給燃料量や点火時期を制御しつつ、触媒コンバータM2の劣化状態を検出する触媒劣化診断部を有する内燃機関の制御装置(ECU)
【0036】
図2は、本発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置5の基本的な概念構成を示すブロック図であり、触媒劣化診断を行う際の基本的な劣化検出処理の流れを示している。図2に示した内燃機関の制御装置5は、酸素消費量算出手段M5、触媒劣化判定手段M6、相対O2ストレージ量算出手段M7、空燃比制御手段M8、運転状態検出手段M9、燃料噴射量調整手段M10、中心A/F補正手段M11、および診断禁止手段M12を備えて構成されている。
【0037】
運転状態検出手段M9は、内燃機関M1に配される各種センサ(例えば、先の図1で示したクランク角センサ1、エアーフローセンサ2)の出力から、運転状態(例えば、内燃機関の回転速度や充填効率)を検出する。
【0038】
相対O2ストレージ量算出手段M7は、空燃比センサM3と運転状態検出手段M9、および中心A/F補正手段M11(詳細は後述)によって補正された中心A/Fを用いて、触媒コンバータM2に対する酸素の供給量、消費量を算出する。
【0039】
空燃比制御手段M8は、相対O2ストレージ量算出手段M7の算出結果があらかじめ設定した目標の酸素供給量,酸素消費量となるように、内燃機関M1の空燃比を制御する。この際、空燃比制御手段M8は、中心A/F補正手段M11によって補正された中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、あるいはリーンに制御する。
【0040】
燃料噴射量調整手段M10は、通常時には、運転状態検出手段M9が検出した運転状態を基に、インジェクタ3を介して内燃機関M1へ噴射する燃料の量を調整するものである。また、燃料噴射量調整手段M10は、触媒劣化診断の実施時には、空燃比制御手段M8からの指令とあわせて燃料の量を調整する。また、燃料噴射量調整手段M10は、内燃機関の充填効率が低い場合には、内燃機関への燃料の供給を停止する。
【0041】
触媒劣化判定手段M6は、相対O2ストレージ量算出手段M7および空燃比制御手段M8によって実施される空燃比制御の結果として得られる、空燃比センサM3の出力と酸素濃度センサM4の出力より、これらの出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出し、あらかじめ実験的に設定された劣化判定基準値と比較する。
【0042】
さらに、具体的に説明すると、相対O2ストレージ量算出手段M7および空燃比制御手段M8は、「劣化」と判定すべき触媒コンバータの最大酸素ストレージ量を超過するように、触媒コンバータM2に対して、酸素を供給あるいは消費すべく、空燃比を制御する。この空燃比の操作により、「劣化」と判定すべき触媒コンバータに対してのみ、触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れるという現象と、触媒コンバータ内の酸素が完全に消費されるという現象が交互に発生する。
【0043】
一方で、正常な触媒コンバータの場合は、触媒コンバータの有する酸素ストレージ量が大きいので、前述の空燃比の操作においても、触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れる、あるいは触媒コンバータ内の酸素が完全に消費されるという現象は生じない。
【0044】
そこで、触媒劣化判定手段M6は、劣化判定パラメータが劣化判定基準値を上回っている場合に、触媒コンバータM2を「劣化」と判定して、故障ランプ等を点灯し、運転者に触媒コンバータM2の故障を知らしめる。
【0045】
酸素消費量算出手段M5は、燃料噴射量調整手段M10の燃料供給停止から供給開始に状態が変化したタイミングから、酸素濃度センサM4の信号が所定の電圧以上となるまでの間に、触媒コンバータM2で消費された酸素の量を、空燃比センサM3と運転状態検出手段M9の情報を基に算出する。
【0046】
中心A/F補正手段M11は、ストイキA/F相当としてあらかじめ初期設定されている中心A/Fを、酸素消費量算出手段M5によって算出された酸素消費量を基に補正する。
【0047】
診断禁止手段M12は、酸素消費量算出手段M5による酸素消費量の算出が完了するまでの間、触媒劣化診断部による診断の実施を禁止する。ここで、触媒劣化診断部とは、図2に示したように、触媒劣化判定手段M6、相対O2ストレージ量算出手段M7、空燃比制御手段M8、および中心A/F補正手段M11の総称を意味している。
【0048】
次に、前述した触媒劣化診断の概念構成の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態1に係る触媒劣化診断処理の流れを示すフローチャートである。まず始めに、ステップS301において、酸素消費量算出手段M5は、酸素消費量の算出を行う。なお、このステップS301の詳細な処理に関しては、図8、図9を用いて後述する。
【0049】
次に、ステップS302において、診断禁止手段M12は、酸素消費量算出手段M5による酸素消費量の算出が完了しているか否かを判断し、YESの場合には、ステップS303へ進み、触媒劣化診断の処理を行い、NOの場合には、触媒劣化診断の処理を中断して終了する。
【0050】
ステップS303に進んだ場合には、診断禁止手段M12は、触媒劣化診断の継続時間を初期化(=0)する。さらに、ステップS304において、診断禁止手段M12は、相対O2ストレージ量(以下、相対O2S量と記す)を初期化(=0)する。
【0051】
次に、ステップS305において、診断禁止手段M12は、診断実施条件が成立しているか否かを判断する。具体的には、例えば、後述する図17のステップS1705とステップS1706に示す、触媒コンバータM2が活性状態であるか否かを判断する。そして、診断禁止手段M12は、YESの場合には、ステップS306へ進み、NOの場合には、触媒劣化診断の処理を中断して終了する。
【0052】
ステップS306に進んだ場合には、空燃比制御手段M8は、相対O2ストレージ量算出手段M7の算出結果があらかじめ設定した目標の酸素供給量,酸素消費量となるように、内燃機関M1の空燃比を制御する。なお、このステップS306の詳細な処理に関しては、図10〜図15を用いて後述する。
【0053】
次に、ステップS307において、触媒劣化判定手段M6は、触媒コンバータM2の上流に配設された空燃比センサM3の出力と、触媒コンバータM2の下流に配設された酸素濃度センサM4の出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出する。なお、このステップS307の詳細な処理に関しては、図4〜図7を用いて後述する。
【0054】
次に、ステップS308において、触媒劣化判定手段M6は、触媒劣化診断の期間が所定の時間を経過したか否かを判断し、YESの場合には、一連の触媒コンバータM2に対する酸素の消費,供給の操作を完了し、ステップS309へ進む。一方、NOの場合は、触媒劣化診断を継続すべくステップS305に戻る。
【0055】
次に、ステップS309において、触媒劣化判定手段M6は、先のステップS307で算出した劣化判定パラメータが、所定値未満か否かを判断し、YESの場合には、ステップS310で正常判定して処理を終了し、NOの場合には、ステップS311で故障判定をして処理を終了する。
【0056】
次に、先の図3におけるステップS307で示した、触媒劣化判定手段M6による劣化判定パラメータの算出方法の詳細について説明する。前述のとおり、劣化判定パラメータは、空燃比センサM3の出力と、酸素濃度センサM4の出力の相関性を数値化したものであり、以下の関係式で示される。
劣化判定パラメータ=(酸素濃度センサM4の出力変動量)÷(空燃比センサM3の出力変動量)
【0057】
図4は、本発明の実施の形態1に係る酸素濃度センサM4の出力変動量を示す図である。酸素濃度センサM4の出力変動量は、図4で示す酸素濃度センサM4の出力RO2と、RO2にディジタル1次フィルタを適用したRO2Fとで囲まれた面積ΣS_RO2(図中の斜線部で示した領域に相当)である。
【0058】
一方、空燃比センサM3の出力変動量は、一旦、空燃比センサM3の出力(すなわち、空燃比)を、酸素濃度センサM4の出力と同じ物理量(すなわち、電圧)に変換してから求める。
【0059】
図5は、本発明の実施の形態1に係るλO2センサの空燃比対出力電圧の特性を示す図であり、一般によく知られる特性である。ここで、空燃比センサM3の出力を、図5の特性に適用することにより、空燃比から酸素濃度センサM4の出力相当値、すなわち、電圧に変換することができる。
【0060】
次に、図4で示した酸素濃度センサM4の出力変動量の算出方法と同様に、酸素濃度センサ出力相当値に変換した空燃比センサM3からの出力RO2’と、RO2’にディジタル1次フィルタを適用したRO2F’とで囲まれた面積ΣS_RO2’を空燃比センサM3の出力変動量とする。
【0061】
空燃比センサM3の出力変動量の算出は、空燃比制御手段M8によって実施される、空燃比のリーン、リッチの交互の変化により、大きな値となり得るが、触媒コンバータM2の劣化度合いに対して不変である。
【0062】
一方、酸素濃度センサM4の出力変動量は、触媒コンバータM2が劣化している場合には大きな値となり、触媒コンバータM2が正常の場合には小さな値となる。従って、劣化判定パラメータは、触媒コンバータM2の劣化度合いに応じて変化し、触媒コンバータM2の劣化度合いが大きいほど、大きな値となることがわかる。
【0063】
次に、劣化判定パラメータの算出の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態1に係る劣化判定パラメータ算出の処理の流れを示すフローチャートである。まず始めに、ステップS601において、触媒劣化判定手段M6は、空燃比センサM3の出力O_lafsを読み込む。
【0064】
次に、ステップS602において、触媒劣化判定手段M6は、空燃比センサM3の出力O_lafsを酸素濃度センサM4と同じ物理量RO2’に変換する。図7は、本発明の実施の形態1に係る空燃比センサ出力を酸素濃度センサ出力相当値に変換するための2次元テーブルを示す図である。触媒劣化判定手段M6は、空燃比センサM3の出力O_lafsを、この図7で示す2次元テーブルTCNV_AF_LMDを適用して、下式により求める。
RO2’(t)=TCNV_AF_LMD(O_lafs(t))
【0065】
なお、図7に示すTCNV_AF_LMD(O_lafs)は、先の図5の関係をそのまま2次元テーブル化したものである。また、ステップS602以降の各ステップに付与される「t」は、時刻を表すパラメータである。
【0066】
次に、ステップS603において、触媒劣化判定手段M6は、RO2’(t)にディジタル1次フィルタを適用することにより、RO2F’(t)を算出する。ここで、K2は、フィルタ定数である。
【0067】
次に、ステップS604において、触媒劣化判定手段M6は、RO2(t)’とRO2F(t)’との偏差を積算することにより、空燃比センサM3の変動量を示す面積ΣS_RO2’(t)を算出する。なお、ΣS_RO2’(t)は、内燃機関M1を始動した際に、リセット(=0)されているものとする。
【0068】
次に、ステップS605において、触媒劣化判定手段M6は、酸素濃度センサM4の出力RO2(t)にディジタル1次フィルタを適用することにより、RO2F(t)を算出する。
【0069】
次に、ステップS606において、触媒劣化判定手段M6は、RO2(t)とRO2F(t)との偏差を積算することにより、酸素濃度センサM4の変動量を示す面積ΣS_RO2(t)を算出する。なお、ΣS_RO2(t)もΣS_RO2’(t)と同様に、内燃機関M1を始動した際にリセット(=0)されているものとする。
【0070】
次に、ステップS607において、触媒劣化判定手段M6は、触媒コンバータM2の劣化判定パラメータSIR(t)を、酸素濃度センサM4の変動量と空燃比センサM3の変動量の比として算出し、処理を終了する。
【0071】
次に、酸素消費量算出手段M5の詳細について説明する。図8は、本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段の処理を示すタイミングチャートである。具体的には、触媒コンバータM2に吸着していた酸素が消費される量を、酸素消費量算出手段M5によって算出する処理をタイミングチャートで示したものであり、上から順に、燃料の供給の状態(すなわち、供給実施あるいは供給停止を示す「燃料カットフラグ」),エアーフローセンサ2で計測された吸入空気量Qa,空燃比センサM3の出力,酸素濃度センサM4の出力,酸素消費量算出手段M5によって算出される酸素消費量をそれぞれ示している。
【0072】
燃料カットフラグは、フラグがHighの場合が、燃料の供給を停止している状態を示し、Lowの場合が、燃料の供給を実施している状態を示す。酸素消費量算出手段M5は、燃料の供給停止から供給実施になったタイミングtsを起点として、酸素濃度センサM4の出力が所定の値以上となるタイミングteまでの間に、下式(1)によって、触媒コンバータM2に吸着していた酸素の量、すなわち。酸素消費量を算出する。
酸素消費量(t)
=酸素消費量(t−1)
+{(実A/F(t)−所定値C)÷所定値C}
×Qa(t)×ΔTc×0.23 (1)
【0073】
ここで、「実A/F」は、空燃比センサM3の出力、「所定値C」は、ストイキA/F相当としてあらかじめ設定した所定の値、「Qa」は、エアーフローセンサ2で計測した内燃機関M1の単位時間当たりの吸入空気量、「ΔTc」は、酸素消費量を算出する時間間隔(例えば、10msec)、「0.23」は、「Qa」中の酸素の質量比率(すなわち、大気中の酸素の質量比率)、各項の「t」は、時刻を表すパラメータである。
【0074】
この操作により、内燃機関M1の燃料の供給を停止している間に、触媒コンバータM2に吸着した酸素の量を算出する。なお、燃料が供給停止から供給実施に変化したタイミングts以降の空燃比の制御は、燃料の供給停止中に触媒コンバータM2に大量に吸着した酸素を早期に消費する目的で、一般に、ストイキA/Fよりも若干リッチ側に制御される。この空燃比制御が継続すると、触媒コンバータM2内部に吸着している酸素が徐々に消費される。
【0075】
触媒コンバータM2内部に吸着している酸素量が少なくなると、触媒コンバータM2の下流に配設された酸素濃度センサM4の出力が上昇する。ここで、酸素濃度センサM4がストイキA/Fに対して若干リッチ側を示す値(例えば、0.6V)を所定の値として、酸素消費量の算出を完了するようにしておけば、触媒コンバータM2に吸着していた酸素の大部分の量を算出できる。
【0076】
次に、酸素消費量算出手段M5の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。図9は、本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段の処理を示すフローチャートである。まず始めに、ステップS901において、酸素消費量算出手段M5は、酸素消費量の算出処理が未完了か否かを判断し、YESの場合には、ステップS902へ進み、NOの場合には、既に算出処理が完了しているため、処理を終了する。
【0077】
そして、ステップS902に進んだ場合には、酸素消費量算出手段M5は、燃料噴射量調整手段M10の燃料供給停止から供給開始に状態が変化したタイミングか否かを判断し、YESの場合には、ステップS903へ進み、酸素消費量を初期化(=0)する。一方、NOの場合には、ステップS904へ進む。
【0078】
次に、ステップS904において、酸素消費量算出手段M5は、本フローチャートが呼び出される間隔ΔTc(例えば、10msec)毎に、上式(1)を用いて酸素消費量を積算する。
【0079】
次に、ステップS905において、酸素消費量算出手段M5は、酸素濃度センサM4の出力が所定の値未満か否かを判断し、YESの場合には、処理を終了する。一方、NOの場合には、ステップS906に進み、触媒コンバータM2の下流の空燃比が若干リッチ側に変化し、触媒コンバータM2に吸着していた酸素の大部分の量が算出されたと判断できるため、酸素消費量の算出処理を「完了」として、処理を終了する。
【0080】
次に、中心A/F補正手段M11の詳細について説明する。図10は、本発明の実施の形態1に係る空燃比センサM3の出力と全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値との差(ΔA/F)と、酸素消費量算出手段M5で算出したOcの関係を示す図である。
【0081】
なお、ΔA/F=(空燃比センサの出力)−(全ての気筒から排出された排気ガスの空燃比の平均値)であり、内燃機関M1の吸入空気量Qaは一定である。また、横軸上の「±0」は、空燃比センサの出力と、全ての気筒から排出された空燃比の平均値が一致することを示しており、この条件において酸素消費量算出手段M5によって算出される酸素消費量Ocは、Oc_stdとなる。
【0082】
図10に示した関係より、ΔA/Fが負の値になると、酸素消費量OcがOc_stdより増大することがわかる。これは、全ての気筒から排出された実際の空燃比の平均値は、空燃比センサM3の出力よりリーンであり、燃料供給を停止している間に触媒コンバータM2に吸着した酸素を消費する速度が遅くなる、すなわち、酸素が消費されるまでに時間が長くかかるためであり、この結果、上式(1)で示した酸素消費量の(ΔTc毎に実施する)算出の回数が増加するためである。
【0083】
また、図11は、本発明の実施の形態1に係る酸素消費量算出手段M5で算出された酸素消費量Ocと、中心A/Fの補正量βの関係を示す図である。前述のとおり、全ての気筒から排出された実際の空燃比の平均値が、空燃比センサM3の出力よりリーンである場合には、酸素消費量算出手段M5で算出した酸素量Ocは、Oc_stdよりも大きくなることがわかっている。
【0084】
このため、酸素量OcがOc_stdより大きい場合には、中心A/Fをリッチ側に補正することにより、全ての気筒から排出された実際の空燃比の平均値を、ストイキA/Fに修正することができる。
【0085】
従って、図11で示す関係のとおり、酸素消費量算出手段M5で算出されたOcがOc_stdより大きい場合には、Ocの大きさに応じてリッチ側へ、Oc_stdより小さい場合には、Ocの大きさに応じてリーン側へ、それぞれ中心A/Fを補正することにより、全ての気筒から排出された実際の空燃比の平均値を、ストイキA/Fに修正することができる。
【0086】
次に、中心A/F補正手段M11の処理の流れを、図3のステップS306で示した「診断用A/F制御」の処理に含めて、フローチャートを用いて説明する。図12は、本発明の実施の形態1に係る診断用A/F制御の処理の流れを示すフローチャートである。まず始めに、ステップS1201において、中心A/F補正手段M11は、診断用A/F制御の中心A/Fの補正を行う。
【0087】
次に、ステップS1202において、中心A/F補正手段M11は、先のステップS1201で補正された中心A/F値を基準として、空燃比をリーン側へ制御する。次に、ステップS1203において、中心A/F補正手段M11は、先のステップS1201で補正された中心A/F値を基準として、空燃比をリッチ側へ制御して、処理を終了する。
【0088】
ここで、ステップS1201の処理を具体的に説明するために、図13のフローチャートを用いて説明する。図13は、本発明の実施の形態1に係る中心A/F補正処理の流れを示すフローチャートである。まず始めに、ステップS1301において、中心A/F補正手段M11は、診断用A/F制御の中心A/Fの補正量βを、酸素消費量算出手段M5で算出したOcに基づいて算出する。
【0089】
図14は、本発明の実施の形態1に係る中心A/F補正量を算出するための2次元テーブルを示す図である。中心A/F補正手段M11は、図14(a)で示す2次元テーブルTCAFを適用して、診断用A/F制御の中心A/Fの補正量βを、下式により求める。
β=TCAF(Oc)
【0090】
なお、この図14(a)に示すTCAF(Oc)は、先の図11の関係をそのまま2次元テーブル化したものである。
【0091】
次に、ステップS1202およびS1203の処理を具体的に説明するために、図15(a)および図15(b)のフローチャートを用いて説明する。図15は、本発明の実施の形態1に係るA/Fリーン化制御およびA/Fリッチ化制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0092】
図15(a)の処理は、触媒コンバータM2に酸素を供給することを目的としている。まず始めに、ステップS1501aにおいて、中心A/F補正手段M11は、補正後中心A/Fを、ステップS1301で求めた補正量βを用いて、下式により補正する。
補正後中心A/F=中心A/F初期値+β
【0093】
なお、中心A/F初期値は、ストイキA/F相当の値として、あらかじめ実験的に設定されている固定値である。
【0094】
次に、ステップS1502aにおいて、空燃比制御手段M8は、補正された中心A/Fを基準として、所定量αだけリーン側に目標空燃比を設定する。この操作により、内燃機関の制御装置5は、空燃比センサM3の出力が目標空燃比に一致するように、燃料噴射量調整手段M10を介して、インジェクタ3の燃料噴射量を調整する。この結果、内燃機関M1の空燃比は、ストイキA/Fよりリーンとなる。
【0095】
次に、ステップS1503aにおいて、相対O2ストレージ量算出手段M7は、相対O2S量を算出する。ここで、相対O2S量は、触媒劣化診断が開始された時点からのO2S量の増減を示すものであり、先のステップS1502aで、内燃機関M1の空燃比がリーン側に操作されていることから、次第に増加していく。なお、相対O2S量を求める式は、下式(2)のとおりである。
相対O2S量(t)
=相対O2S量(t−1)
+{(実A/F(t)−補正後中心A/F)÷補正後中心A/F}
×Qa(t)×ΔT×0.23 (2)
【0096】
ここで、「実A/F」は、空燃比センサM3の出力、「補正後中心A/F」は、ステップS1501aで得られた値、「Qa」は、エアーフローセンサ2で計測した内燃機関M1の単位時間当たりの吸入空気量、「ΔT」は、相対O2S量を算出する時間間隔(例えば、10msec)、「0.23」は、「Qa」中の酸素の質量比率(すなわち、大気中の酸素の質量比率)、各項の「t」は、時刻を表すパラメータである。
【0097】
次に、ステップS1504aにおいて、空燃比制御手段M8は、ステップS1503aで求めた相対O2S量が、目標O2S量(+側)以上となったか否か判断する。ここで、目標O2S量(+側)は、劣化と判断すべき触媒コンバータの最大酸素ストレージ量の1/2より大きく、かつ、正常と判断すべき触媒コンバータの最大酸素ストレージ量の1/2より小さくなるようにあらかじめ設定されている。
【0098】
そして、ステップS1504aの判断がYESの場合には、空燃比制御手段M8は、A/Fリーン化制御を完了して処理を終了する。一方、NOの場合には、空燃比制御手段M8は、A/Fリーン化制御を継続すべく、ステップS1502aに戻る。
【0099】
これに対して、図15(b)の処理は、触媒コンバータM2の酸素を消費することを目的としている。始めのステップS1501bは、ステップS1501aと同じ内容のため、説明を割愛する。次に、1002bにおいて、空燃比制御手段M8は、補正された中心A/Fを基準として、所定量αだけリッチ側に目標空燃比を設定する。この結果、内燃機関M1の空燃比は、ストイキA/Fよりリッチとなる。
【0100】
次のステップS1503bは、ステップS1503aと同じ内容のため、説明を割愛する。次に、ステップS1504bにおいて、空燃比制御手段M8は、ステップS1503bで求めた相対O2S量が、目標O2S量(−側)以下となったか否か判断する。
【0101】
そして、ステップS1504bの判断がYESの場合には、空燃比制御手段M8は、A/Fリッチ化制御を完了して処理を終了する。一方、NOの場合には、空燃比制御手段M8は、A/Fリッチ化制御を継続すべく、ステップS1502bに戻る。
【0102】
ところで、診断用A/F制御の中心A/Fの補正量βを求める際に使用する2次元テーブルは、先の図14(a)で示したTCAF(Oc)の代わりに、図14(b)で示す2次元テーブルTCAF2(Oc)を用いてもよい。このTCAF2(Oc)は、TCAF(Oc)に対して、Oc≦Oc_stdの領域、すなわち、TCAF(Oc)≧0の領域の設定を0としたものである。
【0103】
一般に、劣化した触媒コンバータの酸素ストレージ量は、非常に小さいため、中心A/Fに多少のズレが生じた状態で空燃比をリーン,リッチに交互に変化させても、(リーンあるいはリッチのいずれかに偏った空燃比の変化しか得られなくても)、触媒コンバータ内の酸素が触媒コンバータの下流へ溢れるという現象と、触媒コンバータ内の酸素が完全に消費されるという現象が交互に発生する。
【0104】
すなわち、劣化した触媒コンバータに対して、劣化判定することは可能である。むしろ、中心A/Fを大きくリーン側へ補正する方が、触媒下流の酸素濃度を適正にリーン,リッチに変化させることが難しくなり、この結果、酸素濃度センサM4の出力を大きく変動させることが難しくなる。
【0105】
例えば、酸素ストレージ量が極めて小さい触媒コンバータ(すなわち、大きく劣化した触媒コンバータ)に対しては、酸素消費量算出手段M5で算出された酸素消費量Ocが非常に小さい値となる。このため、β=TCAF(Oc)で得られる補正量βは、非常に大きな値となる。従って、このような補正量βを適用した状態で空燃比をリーン,リッチに交互に変化させた場合には、触媒下流の酸素濃度は、リーン側に大きく偏ることとなり、適正にリーン,リッチに変化させることができないおそれが有る。
【0106】
すなわち、触媒コンバータが大きく劣化した場合にも、正しく「劣化」判定するためには、TCAF(Oc)を用いるよりも、TCAF2(Oc)を用いる方がよい。
【0107】
一方、正常な触媒コンバータが装着されており、全ての気筒から排出された実際の空燃比の平均値が、空燃比センサM3の出力よりリッチである場合も、酸素消費量Ocは、Oc_stdより小さくなる。この場合には、空燃比をリーン,リッチに交互に変化させると、触媒コンバータ内の酸素量は徐々に減少し、触媒コンバータ内の酸素が完全欠乏に至る。
【0108】
空燃比をリーンに変化させた際に、触媒コンバータ内の酸素の完全欠乏は、一時的に解消するので、触媒コンバータ下流では酸素濃度の変化が生じるが、一般に、触媒コンバータ下流のリッチ側での酸素濃度の変化は、非常に遅く、触媒コンバータ下流に配設された酸素濃度センサの出力の変動量は、リーン側で酸素が溢れる際の変動量と比較して、極めて小さいことがわかっている。
【0109】
すなわち、酸素消費量OcがOc_stdより小さくなる場合においては、正常な触媒コンバータに対して「劣化」の誤判定は、発生しない。これらの理由により、酸素消費量OcがOc_stdより小さい領域では、積極的に中心A/Fをリーン側に補正する必要がなく、TCAT2(Oc)を適用する方が望ましい。
【0110】
次に、診断禁止手段M12について説明する。診断禁止手段M12は、酸素消費量算出手段M5による酸素消費量Ocの算出が完了するまでの間、触媒劣化診断部による診断の実施を禁止する。この処理は、先の図3のフローチャートにおけるステップS302の内容に相当する。
【0111】
以上のように、実施の形態1によれば、酸素消費量算出手段は、内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を算出する。そして、中心A/F補正手段M11は、酸素消費量算出手段が算出した酸素消費量の算出結果に基づいて、中心A/Fの補正量を決定する。
【0112】
このような構成を備えることで、PI制御を用いたサブ空燃比フィードバック制御に含まれる(補正に長い時間を要する)積分項を使用せずに、中心A/Fの補正が実現できる。この結果、触媒コンバータの劣化診断の実施頻度を高めることが可能となる。
【0113】
さらに、中心A/F補正手段は、酸素消費量算出手段が算出した酸素消費量の算出結果に基づいて、中心A/Fの補正量を決定しつつ、リーン側への補正を制限することができる。この結果、正常な触媒コンバータに対する「劣化」の誤判定を防ぎつつ、大きく劣化した触媒コンバータに対する「劣化」判定を行うことが可能となる。
【0114】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2における内燃機関および内燃機関の制御装置の構成は、先の実施の形態1における図1と同じである。個々の構成要素に関しては、内燃機関の制御装置5を除いて、先の実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を割愛する。
【0115】
ここで、内燃機関の制御装置5に関して、先の実施の形態1との構成の差異を明確化するために、図16を用いて説明する。図16は、本発明の実施の形態2に係る内燃機関の制御装置の基本的な概念構成を示すブロック図である。図16に示した本実施の形態2における構成は、先の実施の形態1における図2の構成と比較すると、酸素消費量算出禁止手段M13をさらに備えている点が異なっている。そこで、この酸素消費量算出禁止手段M13の処理を中心に、以下に説明する。
【0116】
酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2の酸素が飽和していない状態では、酸素消費量の算出の開始を禁止する機能と、触媒コンバータM2が活性していない状態では、酸素消費量の算出を中止する機能を有している。
【0117】
内燃機関M1への燃料の供給を停止した直後、すぐに燃料の供給を再開すると、触媒コンバータM2に吸着する酸素の量が少なくなるおそれがある。この場合、酸素消費量算出手段M5で算出される酸素消費量は、触媒コンバータM2の持つ最大酸素ストレージ量まで酸素が吸着した状態で算出した酸素消費量と比較して、小さくなる。従って、中心A/F補正手段M11で算出する補正量にバラツキが生じる原因となり、ひいては、中心A/Fの補正の精度が低下してしまう。
【0118】
そこで、酸素消費量算出禁止手段M13は、内燃機関M1への燃料の供給を停止し、触媒コンバータM2に十分酸素が吸着した後でのみ、酸素消費量算出手段M5での、酸素消費量の算出を許可する。具体的には、酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2に十分酸素が吸着したことを、内燃機関M1への燃料の供給を停止してから十分な時間が経過したことや、触媒コンバータM2の下流に配設された酸素濃度センサM4の出力が低電圧(例えば0.2V以下)になったことで判断する。
【0119】
また、触媒コンバータM2が活性していない状態では、触媒の持つ最大酸素ストレージ量が小さくなるので、この状態で酸素消費量算出手段M5で算出される酸素消費量は、触媒コンバータM2が活性している状態で、最大酸素ストレージ量まで酸素が吸着した場合に算出した酸素消費量と比較して、小さくなる。従って、前述の燃料の供給を停止した直後、すぐに燃料の供給を再開した状況で酸素消費量を算出する場合と同様に、中心A/F補正手段M11で算出する補正量にバラツキが生じる原因となる。
【0120】
そこで、酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2が活性している状態でのみ、酸素消費量算出手段M5での、酸素消費量の算出を許可する。触媒コンバータM2の活性状態の判定は、一般に触媒コンバータの温度推定等の方法が広く知られている。そこで、本実施の形態2における酸素消費量算出禁止手段M13は、運転状態検出手段M9によって検出した内燃機関の回転速度と充填効率を用いて触媒コンバータM2の温度を推定し、この推定温度が所定の値以上となる場合に、触媒コンバータM2の活性状態を判定する。
【0121】
次に、酸素消費量算出禁止手段M13の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。図17は、本発明の実施の形態2に係る酸素消費量算出手段の処理を示すフローチャートである。本実施の形態2における図17のフローチャートは、先の実施の形態1における図9のフローチャートに対して、酸素消費量算出禁止手段M13の処理内容であるステップS1701〜ステップS1707を追加したものである。これら以外の個別の処理内容は、先の図9で示した内容と同じであるため、説明を割愛する。
【0122】
ステップS901の後段に設けられたステップS1701において、酸素消費量算出禁止手段M13は、酸素消費量の算出実行中を示すフラグSTがセット(=1)であるか否かを判断し、YESの場合には、ステップS902に進み、NOの場合には、ステップS1702に進む。なお、このフラグSTは、内燃機関M1を始動した際にリセット(=0)されているものとする。
【0123】
次に、ステップS1702において、酸素消費量算出禁止手段M13は、内燃機関M1への燃料の供給を停止してから所定の時間以上が経過したか否かを判断し、YESの場合には、ステップS1703に進み、NOの場合には、酸素消費量の算出に適さないと判断して、処理を終了する。
【0124】
次に、ステップS1703において、酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2の下流に配設された酸素濃度センサM4の出力が所定値以下(例えば0.2V以下)になったか否かを判断し、YESの場合には、ステップS902に進み、NOの場合には、ステップS1702のNOの場合と同様に、酸素消費量の算出に適さないと判断して、処理を終了する。
【0125】
また、ステップS902の後段に設けられたステップS1704において、酸素消費量算出禁止手段M13は、酸素消費量の算出実行中を示すフラグSTをセット(=1)する。これは、ステップS1701、ステップS1702、ステップS902が全て成立したことにより、酸素消費量算出手段M5による酸素消費量の算出に適した条件であると判断できるためである。
【0126】
また、ステップS903の後段に設けられたステップS1705において、酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2の推定温度Temp_Cを求める。図18は、本発明の実施の形態2に係る触媒コンバータの推定温度を算出するための3次元マップを示す図である。酸素消費量算出禁止手段M13は、この図18に示した3次元マップNE_EC_TEMP(Ne,Ec)に、運転状態検出手段M9で検出した内燃機関の回転速度Neと充填効率Ecを適用して、触媒コンバータM2の推定温度Temp_Cを求める。
【0127】
なお、3次元マップNE_EC_TEMP(Ne,Ec)は、あらかじめ内燃機関M1の回転速度と充填効率を変化させて計測した、触媒コンバータM2の温度が設定されている。
【0128】
次に、ステップS1706において、酸素消費量算出禁止手段M13は、触媒コンバータM2の推定温度Temp_Cが、所定値(例えば、550℃)以上か否かを判断し、YESの場合には、触媒コンバータM2が活性状態であると判断し、ステップS904に進む。一方、NOの場合には、ステップS1707に進み、酸素消費量算出禁止手段M13は、酸素消費量の算出実行を中止するために、フラグSTをリセット(=0)する。
【0129】
以上のように、実施の形態2によれば、酸素消費量算出禁止手段によって、適正に酸素消費量を算出できないと判断された場合には、酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出を禁止するような構成を備えている。これにより、中心A/Fの補正量のバラツキの発生を抑制し、先の実施の形態1と比較して、中心A/Fの補正の精度をさらに高めることが可能となる。
【0130】
具体的には、酸素消費量算出禁止手段は、触媒コンバータ内の酸素が飽和していない状態では、酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出の開始を禁止するようにしている。これにより、内燃機関への燃料の供給を停止した直後、すぐに燃料の供給を再開した場合に生じる、触媒コンバータに吸着する酸素の量の減少に起因した中心A/Fの補正量のバラツキの発生を抑制し、先の実施の形態1と比較して、中心A/Fの補正の精度をさらに高めることが可能となる。
【0131】
さらに、酸素消費量算出禁止手段は、触媒コンバータが活性していない状態では、酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出を禁止するようにしている。これにより、触媒コンバータが活性していない状態に生じる触媒コンバータに吸着する酸素の量の減少に起因した中心A/Fの補正量のバラツキの発生を抑制し、先の実施の形態1と比較して、中心A/Fの補正の精度をさらに高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0132】
1 クランク角センサ、2 エアーフローセンサ、3 インジェクタ、4 点火プラグ、5 内燃機関の制御装置(ECU)、M1 内燃機関、M2 触媒コンバータ、M3 空燃比センサ、M4 酸素濃度センサ、M5 酸素消費量算出手段、M6 触媒劣化判定手段、M7 相対O2ストレージ量算出手段、M8 空燃比制御手段、M9 運転状態検出手段、M10 燃料噴射量調整手段、M11 中心A/F補正手段、M12 診断禁止手段、M13 酸素消費量算出禁止手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配設され、前記内燃機関から排出される排気ガスの浄化を行う触媒コンバータの劣化を診断する機能を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記触媒コンバータの上流に配設され、前記内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、前記触媒コンバータの下流に配設され、前記触媒コンバータより下流の排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサとの、それぞれの検出結果に基づいて、前記触媒コンバータの劣化を診断する触媒劣化診断手段と、
前記触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を酸素消費量として算出する酸素消費量算出手段と、
前記酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出が完了するまで、前記触媒劣化診断手段による診断の実施を禁止する診断禁止手段と
を有し、
前記酸素消費量算出手段は、内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から、前記酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、前記酸素消費量を算出し、
前記触媒劣化診断手段は、
ストイキA/F相当としてあらかじめ初期設定されている中心A/Fを、前記酸素消費量算出手段によって算出された前記酸素消費量を基に補正する中心A/F補正手段と、
前記空燃比センサの出力と運転状態とに基づいて、前記中心A/F補正手段で補正された前記中心A/Fを基準として、前記触媒コンバータへ供給あるいは前記触媒コンバータから消費する酸素量を相対O2ストレージ量として算出する相対O2ストレージ量算出手段と、
前記相対O2ストレージ量算出手段で算出された前記相対O2ストレージ量に基づいて、前記中心A/F補正手段で補正された前記中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、リーンの交互に操作する空燃比制御手段と、
前記相対O2ストレージ量算出手段および前記空燃比制御手段によって実施される空燃比制御の結果として得られる、前記空燃比センサの出力と前記酸素濃度センサの出力より、これらの出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出し、算出した前記劣化判定パラメータがあらかじめ設定された劣化判定基準値を上回っている場合に前記触媒コンバータの劣化と判断する触媒劣化判定手段と
を含むことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記中心A/F補正手段は、前記酸素消費量算出手段によって算出された前記酸素消費量に基づいて中心A/Fの補正量を決定しつつ、リーン側への補正は制限する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、
内燃機関の運転状態を基に、前記酸素消費量算出手段が適正に酸素消費量を算出できないと判断される場合には、前記酸素消費量算出手段による酸素消費量の算出を禁止する酸素消費量算出禁止手段
をさらに有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
前記酸素消費量算出禁止手段は、前記触媒コンバータ内の酸素が飽和していない状態では、酸素消費量の算出の開始を禁止する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
前記酸素消費量算出禁止手段は、前記触媒コンバータが活性していない状態では、酸素消費量の算出を禁止する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
内燃機関の排気通路に配設され、前記内燃機関から排出される排気ガスの浄化を行う触媒コンバータの劣化を診断する機能を備えた内燃機関の制御装置に用いられる触媒コンバータの劣化診断方法であって、
前記触媒コンバータの上流に配設され、前記内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、前記触媒コンバータの下流に配設され、前記触媒コンバータより下流の排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサとの、それぞれの検出結果に基づいて、前記触媒コンバータの劣化を診断する触媒劣化診断ステップと、
前記触媒コンバータに吸着していた酸素が消費された量を酸素消費量として算出する酸素消費量算出ステップと、
前記酸素消費量算出ステップによる酸素消費量の算出が完了するまで、前記触媒劣化診断ステップによる診断の実施を禁止する診断禁止ステップと
を有し、
前記酸素消費量算出ステップは、内燃機関への燃料の供給を停止した後、燃料の供給を再開した時点から、前記酸素濃度センサの出力が所定値以上になるまでの期間に、前記酸素消費量を算出し、
前記触媒劣化診断ステップは、
ストイキA/F相当としてあらかじめ初期設定されている中心A/Fを、前記酸素消費量算出ステップによって算出された前記酸素消費量を基に補正する中心A/F補正ステップと
前記空燃比センサの出力と運転状態とに基づいて、前記中心A/F補正ステップで補正された前記中心A/Fを基準として、前記触媒コンバータへ供給あるいは前記触媒コンバータから消費する酸素量を相対O2ストレージ量として算出する相対O2ストレージ量算出ステップと、
前記相対O2ストレージ量算出ステップで算出された前記相対O2ストレージ量に基づいて、前記中心A/F補正ステップで補正された前記中心A/Fを基準として、空燃比をリッチ、リーンの交互に操作する空燃比制御ステップと、
前記相対O2ストレージ量算出ステップおよび前記空燃比制御ステップによって実施される空燃比制御の結果として得られる、前記空燃比センサの出力と前記酸素濃度センサの出力より、これらの出力の相関性を数値化した劣化判定パラメータを算出し、算出した前記劣化判定パラメータがあらかじめ設定された劣化判定基準値を上回っている場合に前記触媒コンバータの劣化と判断する触媒劣化判定ステップと
を含むことを特徴とする触媒コンバータの劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−100750(P2013−100750A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244099(P2011−244099)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】