説明

内燃機関の制御装置

【課題】アイドルストップを行っても自動停止後の再始動時におけるPMの排出量を低減できる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】インジェクタ12により内燃機関1の各気筒の燃焼室内に直接燃料が噴射される内燃機関に適用される制御装置において、自動停止(アイドルストップ)条件成立後から内燃機関が停止するまでの間にパージ制御を実行し、自動始動(再始動)時には、パージ制御によって供給されたパージガスの燃料量を基本噴射量から減量することで、インジェクタ12からの最終噴射量を算出する。これにより、再始動時におけるPMの排出量を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドル時に内燃機関の自動停止及び自動始動を行うアイドルストップ機能を備えた内燃機関に適用される内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、燃費節減を目的として、自動停止始動装置(アイドルストップ装置)を採用したものがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−299445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら自動停止後の再始動時には、始動性を確保するためストイキ燃焼を実現する場合よりも多い燃料がインジェクタから噴射される。そのため、内燃機関の停止期間中は内燃機関から排出されるPM(粒子状物質)をなくすことができるものの、再始動時に排出されるPMが一時的に増加するという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アイドルストップを行っても自動停止後の再始動時におけるPMの排出量を低減できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために請求項1に記載の発明は、インジェクタにより内燃機関の各気筒の燃焼室内に直接燃料が噴射される内燃機関に適用される制御装置において、所定の自動停止条件を満足するときは内燃機関を自動停止させると共に、所定の自動始動条件を満足するときは内燃機関を自動始動させる自動停止始動制御手段と、燃料タンクに接続されたキャニスタからパージガスを空気と共にパージ配管を介して内燃機関の各気筒に放出するパージ制御を実行すると共に、パージ制御を自動停止条件成立後から内燃機関が停止するまでの間に実行するパージ制御手段と、燃焼室内に供給されたパージガスに含まれる燃料量を求めるパージガス残留燃料量演算手段と、内燃機関の自動始動時に、再始動に必要な基本噴射量からパージガス残留燃料量を減量することで最終噴射量を算出する噴射量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、パージ制御手段は、自動停止条件成立後から内燃機関の停止までの間に各気筒にパージガスを供給する。パージガス残留燃料演算手段は、パージ制御手段により燃焼室内に供給されたパージガスに含まれる燃料量を求める。そして、噴射量算出手段が、自動始動時に基本噴射量からパージガスに含まれる燃料量を減量して最終噴射量を決定する。
【0008】
ここで、パージガスは燃料が蒸発した(気化した)状態であるため、インジェクタによって微粒化された燃料よりもPMが生成されにくい。よって、上記構成によれば、自動始動時に、PMが生成されにくいパージガスを始動時の燃料として用いると共に、インジェクタから噴射される燃料量を減量することができるため、排出ガスに含まれるPMの排出量を低減することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、パージガス制御手段は、自動停止条件成立時の外気温及び自動停止条件成立時の冷却水温によって、内燃機関の燃焼室に供給する筒内目標パージガス量を算出することを特徴とする。
【0010】
パージガスに含まれる燃料は、周囲の温度によって状態が変化する。例えば周囲の温度が低い場合は、パージガスに含まれる燃料の一部は液化して液体となり、周囲の温度が高い場合には、パージガスに含まれる燃料の一部は気化して気体となる。そのため、外気温と冷却水温というパラメータを用いることでパージガスの状態を推定することができ、燃焼室内に供給する筒内目標パージガス量を適切に設定することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、パージガス制御手段は、自動停止条件成立時の外気温及び自動停止条件成立時の冷却水温が低下するにつれて筒内目標パージガス量を増加させることを特徴とする。
【0012】
前述したように周囲の温度が低い場合、つまり外気温や冷却水温が低下するとパージガスに含まれる燃料の一部が徐々に液化していく。このような低温下でパージ制御を行った場合、パージガスの燃料の一部は液化しているため吸気管内壁に付着したり、パージガスが低温の吸気管に接触することによってパージガスに含まれる燃料の液化が促進されてしまったりする。そのため、燃焼室に到達するパージガス量が減少し、筒内目標パージガス量に対して適切なパージガスの供給を行うことができない。これに対し請求項3の発明では、外気温及び冷却水温が低下するにつれて筒内目標パージガス量を増加させている。つまり、燃焼室に到達するパージガス量の減少量を考慮して筒内目標パージガス量を決定している。このため、外気温及び冷却水温が低下した状態であっても適切なパージガスの供給を行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、パージガス残留燃料量演算手段は、内燃機関の圧縮行程で停止した気筒(以下、「圧縮行程停止気筒」という)のパージガス残留燃料量を、筒内目標パージガス量と、自動停止時の冷却水温と、自動始動条件成立時の冷却水温とにより推定することを特徴とする。
【0014】
内燃機関の停止までに燃焼室内に供給されたパージガスは、燃焼室内の温度によっても影響を受ける。具体的には、燃焼室内の温度は自動停止から再始動までの間に徐々に低下していく。この温度の低下によってパージガスに含まれる燃料も徐々に液化し、燃焼に寄与するパージガスが減少してしまう。その結果、燃焼に寄与する正確なパージガス残留燃料量を算出することができない。
【0015】
これに対し、請求項4の発明では、自動停止時の冷却水温と自動始動条件成立時の冷却水温とを用いて、燃焼室内の温度変化によって減少するパージガスを推定する。そして、この減少量を筒内目標パージガス量から減量することで、圧縮行程停止気筒のパージガス残留燃料量を推定する。この結果、燃焼に寄与する正確なパージガス残留燃料量を推定することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、パージガス残留燃料量演算手段は、内燃機関の吸気行程で停止した気筒(以下、「吸気行程停止気筒」という)のパージガス残留燃料量を、筒内目標パージガス量と、自動停止時の冷却水温と、自動始動条件成立時の冷却水温と、停止時間とにより推定することを特徴とする。
【0017】
吸気行程停止気筒におけるパージガス残留燃料量の推定には、前述した自動停止時の冷却水温と自動始動条件成立時の冷却水温に加え、停止時間を用いる。自動停止時及び自動始動条件成立時の冷却水温をパラメータとして用いているのは、前述した燃焼室内でのパージガスの液化に対応したものである。停止時間をパラメータとして用いる理由は以下のとおりである。吸気行程停止気筒では、吸気弁が開いた状態で停止している。つまり、燃焼室が閉塞されていないため、内燃機関の停止までに供給されたパージガスは吸気弁を通じて吸気管側へ移動していってしまう。これに対応し、停止時間をパラメータとして用いて吸気弁を介したパージガスの移動量を推定する。これにより、温度低下に伴う液化、及び停止時間による移動量を、筒内目標パージガス量から減量することで吸気行程停止気筒のパージガス残留燃料量を推定できる。その結果、吸気行程停止気筒のパージガス残留燃料量を推定することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、パージガス制御手段は、自動停止条件を満足する場合であっても、冷却水温が所定値以上の場合には、パージ制御を実行しないことを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、冷却水温が所定値以上、つまり燃焼室内の温度が高い状態でのパージ制御の実行を防止している。これにより、燃焼室内の温度が高い状態でパージガスが供給され自然着火する現象(プレイグニッション)を防止することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、インジェクタにより内燃機関の各気筒の燃焼室内に直接燃料が噴射される内燃機関と、燃料タンクに接続され燃料タンク内に発生するパージガスを蓄えるキャニスタと、内燃機関に接続された吸気管にパージガスを空気と共に供給するためのパージ配管と、キャニスタと吸気管との間に配設されパージガスの供給量を調節するパージ制御弁と、吸気管から内燃機関の各気筒の燃焼室内に空気及びパージガスを取り込むための吸気弁と、内燃機関及びパージ制御弁を制御する制御装置とを備え、制御装置は、所定の自動停止条件を満足するときは内燃機関を自動停止させると共に、所定の自動始動条件を満足するときは内燃機関を自動始動させるように制御する自動停止始動制御手段と、燃料タンクに接続されたキャニスタからパージガスを空気と共にパージ配管を介して内燃機関の吸気管に放出するパージ制御を実行すると共に、パージ制御を自動停止条件成立後から内燃機関が停止するまでの間に実行するパージ制御手段と、燃焼室内に供給されたパージガスに含まれる燃料量を求めるパージガス残留燃料量演算手段と、内燃機関の自動始動時に、再始動に基本噴射量からパージガス残留燃料量を減量することで最終噴射量を算出する噴射量算出手段とを備え、パージ配管は、各気筒にそれぞれパージガスを導入するパージガス導入口を備えていることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、パージガスを導入するパージガス導入口が各気筒にそれぞれ形成されている。そのためパージ制御を行った場合、吸気弁に近い位置からパージガスを放出することができ、自動停止条件成立後から内燃機関が停止するまでの間に燃焼室内へのパージガス導入を確実に行うことができる。また、吸気管内へのパージガスの残留を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】エンジン制御システム全体の概略構成図
【図2】ECUで行われる自動停止時の制御手順を示すフローチャート
【図3】ECUで行われる自動始動時の制御手順を示すフローチャート
【図4】図2及び図3の処理に対応する各種制御の遷移状態を示すタイムチャートである。
【図5】本発明によるPM低減効果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面に基づいて説明する。図1はエンジン制御システム全体の概略構成を示す図である。図1に示すように筒内噴射式の内燃機関であるエンジン1の吸気管2の最上流部にはエアクリーナ3が設けられている。このエアクリーナ3の下流側にはDCモータ4によって開度調節されるスロットル弁5が設けられている。DCモータ4がエンジン制御装置6(以下、「ECU」という)からの出力信号に基づいて駆動されることで、スロットル弁5の開度(スロットル開度)が制御され、そのスロットル開度に応じて各気筒ヘの吸入空気量が調節される。スロットル弁5の近傍には、スロットル開度を検出するスロットルセンサ7が設けられている。
【0024】
このスロットル弁5の下流側には、サージタンク8が設けられ、このサージタンク8に、エンジン1の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド9が接続されている。各気筒の吸気マニホールド9内には吸気ポート10が形成され、この吸気ポート10がエンジン1の各気筒に形成された吸気弁11に連結されている。
【0025】
エンジン1の各気筒の上部には、燃料を各気筒の燃焼室内に直接噴射するインジェクタ12が取り付けられている。燃焼室へ燃料を直接噴射するには、燃料の圧力が燃焼室内の圧力よりも高圧である必要がある。そのため、燃料タンク13内に配置された燃料ポンプ14によって吸上げられた燃料は、燃料配管15に設けられた高圧ポンプ15aによって加圧され、デリバリパイプ16に圧送される。そして加圧された高圧(例えば、2〜10MPaの範囲内の所定圧)の燃料はデリバリパイプ16によって各気筒のインジェクタ12に分配される。高圧の燃料はインジェクタ12から燃焼室内に噴射され、吸気ポート10から供給される吸入空気と混合して混合気が形成される。
【0026】
燃焼室内の混合気は、エンジン1のシリンダヘッドに取り付けられた点火プラグ(図示せず)によって点火される。点火プラグは各気筒にそれぞれ取り付けられており、各点火プラグの火花放電によって気筒内の混合気に点火される。
【0027】
エンジンの排気弁17から排出される排出ガスは、排気マニホールド18を介して一本の排気管19に合流する。この排気管19には、理論空燃比付近で排出ガスを浄化する三元触媒20が接続されている。また、三元触媒20の前後には酸素センサ21,22が設けられており、排出ガスの酸素濃度を検出しECU6に出力している。ECU6では、この酸素濃度に基づき最適な空燃比で燃焼が行われるように、インジェクタ12の燃料噴射量を調整している。
【0028】
また、燃料タンク13には蒸発燃料(エバポともいう)を吸着するキャニスタ23が接続されている。蒸発燃料とは、燃料タンク13内の温度変化や走行時の振動により燃料が攪拌されることによって、燃料タンク13内の燃料が気化したものである。キャニスタ23内に吸着された蒸発燃料は、パージガスとして空気と共にエンジン1の吸気側に放出される。具体的には、キャニスタ23と吸気マニホールド9とを繋ぐパージ配管24によって、エンジン1の吸気側に導かれる。また、エンジン1の吸気側とキャニスタ23との間にはパージ制御弁25が配設されており、このパージ制御弁25がECU6からの出力信号により開閉され、パージガスの供給量が調節される。
【0029】
パージ配管24は、パージ制御弁25よりも吸気管側において、各気筒の吸気ポート10にそれぞれパージガスを導入するパージガス導入口26を備えている。具体的には、パージ配管24は、気筒毎に分岐した吸気マニホールド9にそれぞれ分岐接続されており、吸気ポート10側に向かってパージガスが放出されるようにパージガス導入口26が設けられている。
【0030】
ここで、前述したスロットルセンサ7、酸素センサ21,22以外の各種センサについて説明する。気筒判別センサ27は、特定の気筒が上死点に達したときに出力パルスを発生し、ECU6において気筒判別が行われる。クランク角センサ28はエンジン1の図示しないクランクシャフトが一定クランク角(例えば30℃A)回転する毎に出力パルスが発生する。この出力パルスによって、クランク角やエンジン回転数が検出される。また、水温センサ29と外気温センサ30は、それぞれエンジン1の冷却水温と外気温を検出し、ECU6に出力する。冷却水温はエンジン1の温度を表すパラメータとして用いている。
【0031】
前述した各種センサの出力信号はECU6に入力される。ECU6は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された制御プログラムや制御マップに従い、各種センサ出力に基づき、前述したDCモータ4、インジェクタ12、点火プラグ、パージ制御弁25を制御する。
【0032】
ここで、ECU6が備える自動停止始動手段について説明する。自動停止始動手段とは、エンジン1がアイドル運転中に所定の自動停止条件を満足した場合には、インジェクタ12からの燃料噴射及び点火プラグの点火を停止して、エンジン1を自動停止させ、この自動停止中に所定の自動始動条件(以下、「再始動条件」という)を満足した場合には、自動始動(以下、「再始動」という)させるものである。
【0033】
また、ECU6は、酸素センサ21,22からの出力に基づきパージ制御弁25に駆動信号を出し、キャニスタ23からパージガスを空気と共にパージ配管24を介してエンジン1の吸気側に放出するパージ制御を実行するパージ制御手段を備えている。
【0034】
以下に、ECU6が行う制御を図2〜図4に基づいて説明する。
【0035】
最初に自動停止時にECU6にて行われる制御について図2を用いて説明する。まず、ステップ100にて、自動停止条件が成立するか判定される。ここで自動停止条件としては、ブレーキペダルの踏込によりブレーキスイッチが「ON」、車速が「0(零)[km/h]」、三元触媒20が活性状態であること等である。
【0036】
ステップ100にて自動停止条件が成立すると、燃料噴射停止及び点火プラグの停止が行われステップ101に移行する。ステップ101では、パージガス導入条件が成立するか判定される。パージガス導入条件としては、パージ制御弁25が故障していないこと、パージガス濃度(以下、「PGden」という)学習後であること、冷却水温が所定値(たとえば90℃)以下であること等である。
【0037】
PGdenは、酸素センサ21,22により検出される空燃比が所定の領域になるようにパージ率を変化させ、パージ率を変化させる前と後とのパージ率の変化量及び空燃比の変化量により検出される。ここでパージ率とは、インジェクタ12から噴射される燃料量とパージガスに含まれる燃料量とを足し合わせた燃料量のうち、パージガスに含まれる燃料量の割合である。また、パージガス濃度学習後とは走行時にPGdenが検出され、その値がECU6に記憶されている状態である。
【0038】
冷却水温が所定値以上の場合には、燃焼室内の温度が高くなっているためパージ制御は実行しない。その理由は、燃焼室内の温度が高い状態でパージ制御を行った場合には、燃焼室内において供給されたパージガスが自然着火するプレイグニッションが発生する恐れがあるからである。
【0039】
ステップ101にてパージガス導入条件が成立しない場合には、上述した理由からパージガスを供給せずステップ105に移行し、エンジン1を停止させる、すなわちエンジン回転数が0(零)となるまで待ってこのルーチンを終了する。
【0040】
一方、パージガス導入条件が成立した場合にはステップ102に移行し、燃焼室内に供給する筒内目標パージガス量(以下、「PGtrgm」という)を演算する。PGtrgmは、外気温センサ30により検出される外気温及び水温センサ29により検出される冷却水温に基づき、ECU6のROMに記憶されたマップにより求められる。
【0041】
このとき、外気温及び冷却水温が低い場合には、キャニスタ23から供給されたパージガスの一部が液化しているため吸気マニホールド9内の壁面に付着したり、パージガスが低温の吸気管に接触することによってパージガスに含まれる燃料の液化が促進されてしまったりする。そのため、各気筒の燃焼室内に到達するパージガスが減少する。これに対し、外気温及び冷却水温が低くなるほど筒内目標パージガス量が多くなるように設定されたマップが記憶されている。
【0042】
次にステップ103に移行し、ステップ102で演算されたPGtrgmに基づき、パージ制御弁25の開度及び開弁時間を制御するパージDUTYを演算する。
【0043】
そして、ステップ104にて演算されたパージDUTYに基づきパージ制御弁25に通電が行われ、燃焼室内へパージガスが供給される。パージガスが供給されるとステップ105に移行し、エンジン1が停止したことを検出すると、自動停止時おけるパージ制御を終了する。ここでエンジン停止とは、エンジンの回転数が0(零)になることを指す。
【0044】
次にECU6で行われる自動始動時における制御手順について図3に基づき説明する。
【0045】
まずステップ200において、再始動条件が成立するか判定される。再始動条件が成立した場合には、ステップ201に移行し、再始動に必要な基本噴射量を算出する。ここで基本噴射量とは、燃焼室内にパージガスが供給されていない、つまりパージガスをゼロとしたときに必要とされる燃料量である。この基本噴射量は、エンジン1の圧縮行程で停止した圧縮行程停止気筒に対する基本噴射量(以下、「Q1cmp」という)と、吸気行程で停止した吸気行程停止気筒に対する基本噴射量(以下、「Q1int」という)とを別々に算出する。この基本噴射量は、再始動条件成立時の冷却水温に基づき、ECU6のROMに記憶された制御マップにより算出される。
【0046】
基本噴射量の算出後、ステップ202において、エンジン停止前にパージガスが導入されたか否かを判定する。エンジン停止前にパージガスが導入されている場合には、ステップ203に移行し、圧縮行程停止気筒に供給されているパージガスに含まれる燃料量、パージガス残留燃料量(以下、「Qcmp」という)を推定する。エンジン1が停止すると燃焼が行われないため、燃焼室内の温度は徐々に低下していく。温度の低下により燃焼室内に供給されたパージガスは液化し、燃焼に寄与するパージガスが減少する。これにより、自動停止前に供給されたPGtrgmは、燃焼室内の温度が低下するにつれて減少していく。燃焼室内の温度変化による影響を、自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温により推定した水温補正項を用いて、Qcmpを算出する。水温補正項は自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温の比で求められる。また、水温補正項は比でなくともECU6に自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温とによるマップを記憶することによっても求めることができる。
【0047】
次に、ステップ204に移行し、吸気行程停止気筒に供給されているパージガスに含まれる燃料量、パージガス残留燃料量(以下、「Qint」という)を算出する。Qintは、前述した燃焼室内の温度変化に加えて、エンジン停止時間による影響を考慮しなければならない。その理由は、吸気行程停止気筒では圧縮行程気筒と異なり、吸気弁が開かれた状態で停止しているため、燃焼室に供給されたパージガスは吸気弁を通り吸気管側へ移動してしまうからである。このため、停止時間と自動停止時の水温から推定される停止時間補正項によりパージガスの移動量を推定し、Qintを算出する。
【0048】
一方、エンジン停止前にパージガスが供給されていない場合には、ステップ205へ移行し、Qcmp=0、Qint=0とする。
【0049】
そして、ステップ203及びステップ204、又はステップ205においてそれぞれのパージ残留燃料量が算出された後、ステップ206に移行し、圧縮行程停止気筒の最終噴射量(以下、「Qcmpfin」という)が算出される。Qcmpfinは、ステップ201で算出されたQ1cmpからステップ203で算出されたQcmpを減量(本実施例では減算)することで求められる。次に、ステップ207に移行し、吸気行程停止気筒の最終噴射量(以下、「Qintfin」という)が算出される。Qintfinは、ステップ201で算出されたQ1intからステップ204で算出されたQintを減量(本実施形態では減算)することで求められる。そして、ステップ208において、インジェクタ12からQcmpfin及びQintfinが各気筒に噴射され、点火プラグによる点火を経てエンジン1が始動される。以上で本ルーチンが終了する。
【0050】
次に上述した自動停止時と自動始動始動時における制御手順に対応する各種制御の遷移状態を図4に基づき説明する。
【0051】
図4において、(a)は燃料カットを、(b)はパージDUTYを、(c)はエンジン回転数を示す。
【0052】
初期状態(t0)では、(a)燃料カット「OFF」、(b)パージDUTY「OFF」、(c)エンジン回転数は低回転の状態である。そして、図2のステップ100の自動停止条件が成立すると(t1)、燃料カットが「ON」となりインジェクタ12からの燃料噴射が停止され、エンジン回転数が徐々に低下を始める。ステップ101においてパージガス導入条件が成立した場合には、前述したステップ102〜ステップ104の処理が実行され、パージDUTYが「ON」となる。そして、パージガスの供給が開始され、エンジン回転数が0(零)になるまでの間(t1〜t2)に、PGtrgmが各気筒に供給される。エンジン回転数が0(零)になる(t2)と、エンジン1が停止すると共に、パージDUTYが「OFF」となり、パージ制御が停止する。
【0053】
そして、図3のステップ200のエンジン再始動条件が成立する(t3)までエンジンは停止している。ここでは、この自動停止後(エンジン回転数が0)から再始動条件が成立するt2〜t3間を停止時間という。そして、再始動条件が成立すると、前述したステップ201〜ステップ207の制御が実行され、最終噴射量が算出される。そして、燃料カットが「OFF」となり、燃料の供給が行われエンジン1が始動する。
【0054】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0055】
パージガスは燃料が気化した状態であるため、インジェクタ12によって微粒化された燃料よりも燃焼しやすい。つまり、インジェクタ12から噴射される燃料量が多いと、不完全燃焼となるため排出ガスに含まれるPMが増加する。
【0056】
また、PMはガソリンに含まれる炭化水素の燃焼により発生することが知られている。炭化水素は、その結合構造により芳香族炭化水素として分類される。この芳香族炭化水素のうち、多環芳香族炭化水素(例えばナフタレンやアントラセン等)とよばれる構造を持つものがPMの発生原因となることが発明者らの実験により確認された。
【0057】
そして、多環芳香族炭化水素はガソリンが液体であるときに多く含まれる。一方、同じガソリンであっても燃料タンク13内で蒸発したパージガスに含まれる多環芳香族炭化水素は、液体である場合と比較して極少量である。つまり、多環芳香族炭化水素は、インジェクタ12から噴射されるガソリン(液体)に多く含まれ、パージガスには極少量しか含まれていない。
【0058】
従って、上記構成によれば、パージ制御によって供給されたパージガスによって、インジェクタから噴射される燃料を減量することができる。つまり、パージガスよりも燃えにくく、かつ多環芳香族炭化水素を多く含みPMの発生原因となるインジェクタ12からの噴射燃料量を少なくすることができるため、PMの排出量を低減できる。図5に示すように、パージ率が増加する、つまりパージガスによる燃料量が増加し、インジェクタ12から噴射される燃料量が減少するほど、排出されるPMが減少していることが分かる。
【0059】
本実施形態では、このような考えに基づき、再始動時の燃料にパージガスを積極的に用いることで、PMの発生原因となる液体の燃料(インジェクタ12の噴射燃料量)の使用量を低減している。その結果、排出ガスに含まれるPMの排出量を低減することができる。
【0060】
また、ステップ102におけるPGtrgmの設定に外気温と冷却水温というパラメータを用いている。パージガスに含まれる燃料は、周囲の温度によって状態が変化する。前述したように外気温や冷却水温が低い場合、パージガスに含まれる燃料の一部が液化してしまうため、パージ配管24を介したパージガスの供給量が変化したり、燃焼に寄与するパージガス量が低下したりする。そのため、外気温と冷却水温というパラメータを用いることにより温度の変化によるパージガスへの影響を推定することができ、適切な筒内目標パージガス量を設定することができる。
【0061】
さらに、外気温及び冷却水温が低下するにつれて筒内目標パージガス量を増加させている。つまり、周囲の温度の低下(外気温及び冷却水温が低下)によって減少するパージガス量を考慮した筒内目標パージガス量を設定している。このため、外気温及び冷却水温が低下した状態であっても適切なパージガスの供給を行うことができる。
【0062】
また、ステップ203においてQcmpは、PGtrgmと自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温とにより推定される。具体的には、自動停止時の冷却水温と自動始動条件成立時の冷却水温とにより算出される水温補正項を用いてPGtrgmを補正することでQcmpを推定している。
【0063】
前述したように燃焼室内の温度は、自動停止から再始動までの間に徐々に低下していく。この温度の低下によってパージガスに含まれる燃料の一部は徐々に液化し、燃焼に寄与するパージガスが減少してしまう。この燃焼室内の温度変化によるパージガスの減少量を水温補正項によって推定し、筒内目標パージガス量から減量する。その結果、燃焼に寄与する正確なパージガス残留燃料量を推定することができる。
【0064】
また、QintはPGtrgmと自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温と停止時間とにより推定される。具体的には、自動停止時の冷却水温と再始動条件成立時の冷却水温とにより算出される水温補正項と、停止時間補正項とを用いてPGtrgmを補正することでQintを推定している。
【0065】
自動停止時及び自動始動条件成立時の冷却水温は前述したように燃焼室内でのパージガスの液化に対応したものである。停止時間というパラメータを用いているのは、吸気行程停止気筒では、吸気弁11が開いた状態で停止している。つまり、燃焼室は閉塞されていないため、内燃機関の停止までに供給されたパージガスは吸気弁11を通じて、吸気管側へ移動していってしまう。これに対応し、停止時間をパラメータとして用いているため、吸気行程停止気筒のパージガス残留燃料量を適切に推定することができる。
【0066】
また、パージガス制御手段は、自動停止条件を満足する場合であっても、冷却水温が所定値以上の場合にはパージ制御を実行しない。冷却水温が所定値以上、つまり燃焼室内の温度が高い状態でのパージ制御の実行を防止している。これにより、燃焼室内の温度が高い状態でパージガスが供給され自然発火する現象(プレイグニッション)を防止することができる。
【0067】
また、パージ配管24は、パージ制御弁25よりも吸気側において、各気筒にそれぞれパージガスを導入するパージガス導入口26を備えている。
【0068】
既知の構成として、吸入する空気の集合部であるサージタンクにパージ配管を接続し、一箇所だけにパージ導入口を設けたものがある。このような構成の場合、パージガス導入口から吸気弁までの距離が遠いため、供給されたパージガスがサージタンクや吸気管に残留したり、自動停止条件成立後からエンジン停止までの短時間に目標量のパージガスを供給することができなかったりする。
【0069】
これに対し、上記構成によれば吸気弁11に近い位置からパージガスを供給することができるため、吸気管2やサージタンク8内へのパージガスの残留を抑制し、短時間でパージガスの供給を行うことができる。
【0070】
以上のごとく、本実施形態によれば、アイドルストップを行っても自動停止後の再始動時におけるPMの排出量を低減できる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【0071】
[他の実施形態]
・第1実施形態では、エンジン1の温度や燃焼室内の温度を示すパラメータとして冷却水の温度を用いてPGtrgm、Q1cmp、Q1int、Qcmp、Qintの推定を行っているが、エンジンオイル等の油温、燃焼温度、又は排気温等を用いても、上述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0072】
・第1実施形態では、エンジン停止を回転数が0(零)となるときとして、自動停止条件成立時からエンジン停止までの間にパージ制御を実行していたが、エンジン回転数が0となる前後、つまり低回転や0回転から所定時間後までにパージ制御を実行してもよい。
【0073】
・第1実施形態では、パージ制御弁25の開度を「ON」と「OFF」、つまり全開と全閉でおこなっているが、パージ制御弁25の開度を調整(0〜100%)する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン(内燃機関)
6 ECU
11 吸気弁
12 インジェクタ
13 燃料タンク
23 キャニスタ
24 パージ配管
25 パージ制御弁
29 水温センサ
30 外気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタにより内燃機関の各気筒の燃焼室内に直接燃料が噴射される内燃機関に適用される制御装置において、
所定の自動停止条件を満足するときは前記内燃機関を自動停止させると共に、所定の自動始動条件を満足するときは前記内燃機関を自動始動させる自動停止始動制御手段と、
燃料タンクに接続されたキャニスタからパージガスを空気と共にパージ配管を介して前記内燃機関の各気筒に放出するパージ制御を実行すると共に、前記パージ制御を前記自動停止条件成立後から前記内燃機関が停止するまでの間に実行するパージ制御手段と、
前記燃焼室内に供給されたパージガスに含まれる燃料量を求めるパージガス残留燃料量演算手段と、
前記内燃機関の前記自動始動時に、再始動に必要な基本噴射量から前記パージガス残留燃料量を減量することで最終噴射量を算出する噴射量算出手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記パージガス制御手段は、前記自動停止条件成立時の外気温及び前記自動停止条件成立時の冷却水温によって、前記内燃機関の燃焼室に供給する筒内目標パージガス量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記パージガス制御手段は、前記自動停止条件成立時の外気温及び冷却水温が低くなるにつれて前記筒内目標パージガス量を増加させることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記パージガス残留燃料量演算手段は、前記内燃機関の圧縮行程で停止した気筒(以下、「圧縮行程停止気筒」という)の前記パージガス残留燃料量を、前記筒内目標パージガス量と、前記自動停止時の冷却水温と、前記自動始動条件成立時の冷却水温とにより推定することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記パージガス残留燃料量演算手段は、前記内燃機関の吸気行程で停止した気筒(以下、「吸気行程停止気筒」という)の前記パージガス残留燃料量を、前記筒内目標パージガス量と、前記自動停止時の冷却水温と、前記自動始動条件成立時の冷却水温と、停止時間とにより推定することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記パージガス制御手段は、前記自動停止条件を満足する場合であっても、冷却水温が所定値以上の場合には、前記パージ制御を実行しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
インジェクタにより内燃機関の各気筒の燃焼室内に直接燃料が噴射される内燃機関と、
燃料タンクに接続され前記燃料タンク内に発生するパージガスを蓄えるキャニスタと、
前記内燃機関に接続された吸気管にパージガスを空気と共に供給するためのパージ配管と、
前記キャニスタと前記吸気管との間に配設され前記パージガスの供給量を調節するパージ制御弁と、
前記吸気管から前記内燃機関の各気筒の燃焼室内に空気及び前記パージガスを取り込むための吸気弁と、
前記内燃機関及び前記パージ制御弁を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、所定の自動停止条件を満足するときは前記内燃機関を自動停止させると共に、所定の自動始動条件を満足するときは前記内燃機関を自動始動させるように制御する自動停止始動制御手段と、
前記燃料タンクに接続された前記キャニスタから前記パージガスを空気と共に前記パージ配管を介して前記内燃機関の前記吸気管に放出するパージ制御を実行すると共に、前記パージ制御を前記自動停止条件成立後から前記内燃機関が停止するまでの間に実行するパージ制御手段と、
前記燃焼室内に供給された前記パージガスに含まれる燃料量を求めるパージガス残留燃料量演算手段と、
前記内燃機関の前記自動始動時に、再始動に基本噴射量から前記パージガス残留燃料量を減量することで最終噴射量を算出する噴射量算出手段とを備え、
前記パージ配管は、各気筒にそれぞれ前記パージガスを導入するパージガス導入口を備えていることを特徴とする内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174381(P2011−174381A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37332(P2010−37332)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】