説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、コロナ放電の発生機構を利用して空燃比検出用のセンサ系統を簡略化することを目的とする。
【解決手段】エンジン10は、コロナ放電型の排気浄化装置28を備える。排気浄化装置28は、中心電極62と接地電極64との間にコロナ放電を発生させることにより、排気ガス中のPMを浄化する。ECU50は、コロナ放電時に電極62,64間に流れる放電電流とA/Fとの関係をデータ化したマップデータを備える。そして、ECU50は、エンジンの運転中に前記放電電流に基いてA/Fを算出し、始動直後から空燃比フィードバック制御を実行する。これにより、空燃比センサ等を使用しなくてもよいので、センサ系統を簡略化することができる。また、空燃比センサが活性化するまでの待機時間が不要なので、始動直後から空燃比制御を速やかに開始することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、混合気への点火や排気ガスの浄化にコロナ放電を用いる構成とした内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2007−278279号公報)に開示されているように、コロナ放電型の点火プラグを備えた内燃機関の制御装置が知られている。この従来技術では、点火プラグによりコロナ放電を発生させ、筒内の混合気に点火する構成としている。また、他の従来技術として、特許文献2(特開2009−243419号公報)に開示されているように、コロナ放電型の排気浄化装置を備えたものも知られている。この従来技術の排気浄化装置は、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)をコロナ放電により浄化する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−278279号公報
【特許文献2】特開2009−243419号公報
【特許文献3】特開平11−336603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術では、内燃機関の燃焼状態や排気エミッションを制御するために、排気通路に空燃比センサや酸素濃度センサを設置し、これらのセンサ出力に基いて空燃比のフィードバック制御を行うことが主流となっている。しかし、近年では、内燃機関の制御システムが複雑化し、センサ等の部品点数が増加傾向にあるため、空燃比制御を行うためのセンサ系統についても、可能な限り簡略化したいという要求がある。また、従来技術では、エンジンが始動してから空燃比センサや酸素濃度センサが活性化するまでの間に、空燃比制御を実行するのが難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、コロナ放電の発生機構を利用して空燃比検出用のセンサ系統を簡略化することができ、また、始動直後から空燃比制御を行うことが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の排気通路内で対向する少なくとも2つの電極を有し、前記各電極間にコロナ放電を発生させることにより排気ガス中の粒子状物質を浄化する排気浄化装置と、
コロナ放電の発生時に前記各電極間に流れる放電電流を取得する放電電流取得手段と、
少なくとも前記放電電流に基いて排気空燃比を算出する空燃比算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、内燃機関の筒内で対向する少なくとも2つの電極を有し、前記各電極間にコロナ放電を発生させることにより混合気に点火する点火プラグと、
コロナ放電の発生時に前記各電極間に流れる放電電流を取得する放電電流取得手段と、
少なくとも前記放電電流に基いて排気空燃比を算出する空燃比算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、前記空燃比算出手段により算出した排気空燃比に基いて燃料噴射量を補正し、実際の排気空燃比を目標空燃比に制御する空燃比制御手段を備え、
前記空燃比制御手段は、内燃機関の始動直後から排気空燃比の制御を行う構成としている。
【0009】
第4の発明は、前記空燃比算出手段により算出される排気空燃比を、内燃機関の機関温度、燃料噴射量及び燃料噴射時期のうち少なくとも1つのパラメータに基いて補正する補正手段を備える。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、空燃比算出手段は、排気浄化装置でコロナ放電が発生したときに流れる放電電流に基いて、排気空燃比(A/F)を算出することができる。これにより、空燃比センサ等を使用しなくても、A/Fを取得することができるので、空燃比検出用のセンサ系統を簡略化することができ、部品点数の削減やコストダウンを図ることができる。また、内燃機関の始動時には、従来のように空燃比センサの活性化を待つ必要がないので、始動直後から空燃比制御を速やかに開始することができる。
【0011】
第2の発明によれば、空燃比算出手段は、点火プラグでコロナ放電が発生したときに流れる放電電流に基いて、A/Fを算出することができる。これにより、空燃比センサ等が必要ないので、第1の発明と同様の作用効果を得ることができる。また、燃焼室内で混合気が燃焼する瞬間のA/Fを検出することができるので、特に冷間始動時などに燃料噴射量を最小限に抑えつつ、始動性を確保することができる。これにより、燃費や排気エミッションを向上させることができる。
【0012】
第3の発明によれば、空燃比制御手段は、従来のように空燃比センサの活性化を待つ必要がないので、始動直後から空燃比制御を速やかに開始することができる。これにより、始動直後のファーストアイドル運転時にも、A/Fを目標空燃比に制御することができ、始動時の排気エミッションを向上させることができる。
【0013】
第4の発明によれば、A/Fの算出時には、機関温度、燃料噴射量及び燃料噴射時期のうち少なくとも1つのパラメータに基いて、A/Fを補正することができる。これにより、A/Fの算出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】コロナ放電型の排気浄化装置を示す断面図である。
【図3】PM浄化率とA/Fとの関係を印加電圧毎に示す特性線図である。
【図4】図3中に示す1本の等印加電圧線について、理論空燃比(ストイキ)の近傍部位を拡大して示す特性線図である。
【図5】放電電流とA/Fとの関係を示す特性線図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2において、触媒急速暖機中のA/Fとトルク変動との関係を示す特性線図である。
【図8】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態3において、圧縮行程噴射率に基いてコロナ放電用の印加電圧を決定するための特性線図である。
【図10】本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態4において、触媒急速暖機中のA/Fと、THC排出量及び排気温度との関係を示す特性線図である。
【図12】本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態5のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図14】コロナ放電型点火プラグの先端部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図6を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、内燃機関として直噴型のエンジン10を備えている。エンジン10の各気筒には、ピストン12が設けられており、ピストン12により燃焼室14が画成されている。ピストン12は、エンジンの出力軸であるクランク軸16に連結されている。また、エンジン10は、各気筒に吸入空気を吸込む吸気通路18と、各気筒から排気ガスが排出される排気通路20とを備えている。吸気通路18は各気筒の吸気ポートに接続されており、排気通路20は各気筒の排気ポートに接続されている。
【0016】
また、吸気通路18には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ22と、電子制御式のスロットルバルブ24とが設けられている。スロットルバルブ24は、アクセル開度等に基いてスロットルモータ26により駆動され、吸入空気量を調整する。一方、排気通路20には、排気ガス中の粒子状物質(PM)を浄化するコロナ放電型の排気浄化装置28と、三元触媒等からなる排気浄化触媒(図示せず)とが設けられている。なお、排気浄化装置28の構造については、図2を参照して後述する。また、各気筒には、筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁30と、筒内の混合気に点火する点火プラグ32と、吸気ポートを筒内に対して開,閉する吸気バルブ34と、排気ポートを筒内に対して開,閉する排気バルブ36とが設けられている。
【0017】
さらに、本実施の形態のシステムは、前述したエアフローセンサ22に加えてクランク角センサ38、水温センサ40等を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ38は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、ECU50は、この出力に基いて機関回転数及びクランク角を検出する。また、水温センサ40は、エンジンの機関温度として、エンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
【0018】
センサ系統には、前記センサ22,38,40に加えて、エンジン10及びこれを搭載した車両の制御に必要な各種のセンサ(例えば、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、スロットルモータ26、排気浄化装置28、筒内噴射弁30、点火プラグ32等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0019】
そして、ECU50は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動し、運転制御を実行する。具体的に述べると、クランク角センサ38の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ22の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期等を決定し、吸入空気量、負荷等に基いて燃料噴射量を算出する。そして、燃料噴射時期が到来したときに筒内噴射弁30を駆動し、その後に点火プラグ32を駆動する。これにより、筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。
【0020】
また、ECU50は、排気空燃比(A/F)の検出値に基いて燃料噴射量を補正し、実際のA/Fを目標空燃比に制御する空燃比制御(空燃比フィードバック制御)を実行する。空燃比制御は、一般的に公知なフィードバック制御であるが、本実施の形態では、後述のように、排気浄化装置28によりコロナ放電を発生させたときの放電電流等に基いて、空燃比制御用のA/Fを検出することを特徴としている。このため、ECU50は、排気浄化装置28の電極62,64間に印加する電圧を制御する印加電圧制御回路50Aと、電極62,64間に流れる放電電流を検出する放電電流検出回路50Bとを備えている。放電電流検出回路50Bは、本実施の形態の放電電流取得手段を構成している。
【0021】
次に、図2を参照して、排気浄化装置28の構成について説明する。図2は、コロナ放電型の排気浄化装置を示す断面図である。排気浄化装置28は、コロナ放電を利用して排気ガス中のPM(ナノメートル級の微粒子)を浄化するもので、例えば特開2009−243419号公報に記載された排気浄化装置とほぼ同様の構成及び機能を有している。即ち、排気浄化装置28は、図2に示すように、排気通路20の一部を構成する円筒状のハウジング60と、ハウジング60内の中心位置に配置された中心電極62と、ハウジング60の内周側に設けられた円筒状の接地電極64とを備えている。中心電極62は、ハウジング60の周壁を貫通して径方向に延びた細筒状の絶縁碍子66と、絶縁碍子66の内周側に挿嵌された棒状の電極支持部68とにより支持されている。
【0022】
ここで、中心電極62は略円板状に形成されており、その周縁部には径方向に突出する複数の突起が設けられている。また、電極支持部68は、ハウジング60の周壁部から中心位置まで径方向に突出すると共に、先端側が略L字状に屈曲しており、中心電極62は、電極支持部68の先端部に固着されている。そして、中心電極62は、ECU50の出力側に接続されている。一方、接地電極64は、絶縁碍子66を介して中心電極62と絶縁された状態で、車両に接地(ボディアース)されている。なお、接地電極64は、ハウジング60の周壁部により構成してもよい。上記構成により、中心電極62と接地電極64とは、ハウジング60の径方向において互いに対向しており、これらの電極62,64間には、所定寸法のギャップが全周にわたって均等に形成されている。
【0023】
次に、排気浄化装置28の動作について説明する。エンジンの運転中には、ハウジング60(接地電極64)内を排気ガスが流通する。このとき、ECU50により中心電極62に電圧を印加すると、電極62,64間に印加された電圧に応じて、中心電極62の周囲にコロナ放電が発生する。コロナ放電により放射される電子は、高いエネルギを有しているので、排気ガス中の酸素を容易にイオン化し、化学的な活性度が高い酸素イオンを発生させる。排気ガス中のPM(炭素)は、この酸素イオンと反応することにより酸化されてCOとなるので、コロナ放電によりPMを浄化することができる。なお、エンジンの運転中には、始動時の触媒急速暖機中を含めて、ECU50により排気浄化装置28が常時駆動された状態となる。
【0024】
[実施の形態1の特徴]
(排気空燃比の検出)
コロナ放電の発生時には、PMの酸化反応に関与するイオンや電子等によって放電経路が形成され、放電電流が流れる。このため、電極62,64間に印加する電圧が一定であっても、排気ガス中のPMの量(以下、単にPMの量と称す)が多いほど、電極62,64間に流れる放電電流が増大する。一方、PMの量は、A/Fがリッチになるほど多くなることが知られている。従って、簡単に言えば、A/Fがリッチになると、その分だけPMの量が増加し、これに伴って放電電流が増大することになる。
【0025】
本願発明者は、上述した特性を定量的に検討することにより、コロナ放電時の放電電流とA/Fとの間に相関があることを見出した。以下、図3乃至図5を参照しつつ、この点について説明する。図3は、PM浄化率とA/Fとの関係を印加電圧毎に示す特性線図である。なお、図3中では、印加電圧をそれぞれ異なる一定の値とした状態で得られる特性線を、複数本の等印加電圧線として図示している。また、図4は、図3中に示す1本の等印加電圧線について、理論空燃比(ストイキ)の近傍部位を拡大して示す特性線図である。これらの図において、PM浄化率とは、例えば浄化を行わない場合のPMの量を基準として、浄化されたPMの量の割合を表すものである。印加電圧を一定とすれば、PM浄化率と放電電流との間には一定の相関があり、PM浄化率は、放電電流が増大するほど高くなる特性を有している。
【0026】
図3及び図4に示すように、PM浄化率(即ち、放電電流)は、電極62,64間に印加する電圧が一定であっても、A/Fがリッチであるほど増大し、A/Fがリーンであるほど減少する。この特性は、前述したように、PMの量がリッチ側で増大し、リーン側で減少することによるものである。特に、A/Fがストイキよりもリーン側である場合には、A/Fの変化に対するPM浄化率の感度(特性線の勾配)が大きくなる。また、放電電流は、アーク放電が生じない電圧範囲内であれば、電極62,64間の印加電圧が高くなるほど増大する。
【0027】
さらに、PMの量は、エンジンの運転状態によっても影響を受ける。具体的に述べると、エンジンの機関温度が低い場合には、燃焼性が低下するので、その分だけ燃焼時に発生するPMの量が増大する。また、燃料噴射量が多い場合にも、噴射燃料が揮発し難くなって燃焼性が低下するので、PMの量が増大する。さらに、燃料噴射時期が遅い場合にも、噴射燃料の気化に費やせる時間が短くなる分だけ燃焼性が低下するので、PMの量が増大する。即ち、A/Fを含む他の条件を一定とした状態では、機関温度が低いほど、燃料噴射量が多いほど、また、燃料噴射時期が遅いほど、放電電流が増大する特性がある。
【0028】
以上のことから、放電電流とA/Fとの相関は、例えば次の手順により求めることができる。まず、図3(図4)に示すように、適宜設定した基準の運転状態において、放電電流とA/Fとの相関を求める。ここで、基準の運転状態とは、少なくともエンジン水温、燃料噴射量、燃料噴射時期を予め設定した一定の値に合わせた上で、電極62,64間に予め設定した基準の電圧を印加した状態である。次に、機関温度(例えばエンジン水温)、燃料噴射量及び燃料噴射時期からなる個々のパラメータについて、当該パラメータと放電電流との相関を求める。このとき、他のパラメータは、前述した基準の運転状態に合わせておく。上述した個々の相関を示すデータは、実験等により容易に取得することができ、その実験データに基いて図5に示す特性線図を得ることができる。
【0029】
図5は、放電電流とA/Fとの関係を示す特性線図である。この図に示すように、放電電流により算出されるA/Fは、エンジン水温、燃料噴射量及び燃料噴射時期に基いて補正される。また、図5に示す特性線は、ECU50にマップデータとして予め記憶されている。より具体的に述べると、図5のマップデータは、例えば前記基準の運転状態での放電電流とA/Fとの関係(図5中に示す1本の特性線)をデータ化した基準マップデータと、この基準マップデータの参照に用いる放電電流をエンジン水温、燃料噴射量及び燃料噴射時期に基いて補正する複数の補正用マップデータとにより構成されている。そして、これら複数のマップデータがECU50に記憶されているものである。
【0030】
従って、ECU50は、排気浄化装置28の電極62,64間に前記基準の電圧を印加した状態で、放電電流、エンジン水温、燃料噴射量及び燃料噴射時期に基いて図5のマップデータを参照することにより、A/Fを正確に算出することができる。なお、図5では、A/Fの変化に対する放電電流の感度が高い(特性線の勾配が急な)リーン空燃比領域についての特性線を例示した。これに対し、リッチ空燃比領域でも、図5と特性線の勾配は異なるものの、ほぼ同様の特性線図を得ることができる。従って、本実施の形態では、全ての空燃比領域において、放電電流等に基いてA/Fを検出することができる。
【0031】
また、上記説明では、電極62,64間に基準の電圧を印加した状態で、放電電流を検出する場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、任意の印加電圧において、図5に示すマップデータに基いてA/Fを検出する構成としてもよい。この場合には、例えば図3に示す印加電圧とPM浄化率(放電電流)との関係に基いて、それぞれ異なる印加電圧毎に図5に示すマップデータを作成しておけばよい。
【0032】
また、上記説明では、エンジン水温、燃料噴射量、燃料噴射時期等のパラメータに基いてA/Fを補正するものとした。しかし、本発明は、必ずしも上記補正を必要とするものではなく、補正なしでも、A/Fを必要最低限の精度で算出することができる。従って、本発明では、放電電流のみに基いてA/Fを算出する構成としてもよい。また、本発明では、必ずしも上記全てのパラメータを補正に用いる必要はなく、機関温度、燃料噴射量及び燃料噴射時期のうち任意の1つまたは2つのパラメータに基いてA/Fを補正する構成としてもよい。さらに、上記説明では、機関温度の一例として、エンジン水温を例示したが、本発明では、例えば油温センサにより検出した潤滑油の温度を機関温度として用いてもよい。
【0033】
(空燃比制御)
次に、ECU50により実行される空燃比制御について説明する。本実施の形態では、エンジンの始動直後(暖機が完了する前)から、排気浄化装置28により検出したA/Fに基いて空燃比制御を実行する構成としている。ここで、従来技術では、冷間始動時等において、空燃比センサが活性化するまで空燃比制御を開始することができない。これに対し、本実施の形態では、空燃比センサ等を使用しないので、センサの活性化時間等を考慮せずに、始動直後から空燃比制御を速やかに開始することができる。
【0034】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図6を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図6は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行される。また、排気浄化装置28は、図6に示すルーチンと並列に実行される別のルーチン(図示せず)により駆動され、エンジンの運転中には常に作動した状態に保持されるものとする。
【0035】
図6に示すルーチンでは、まず、ファーストアイドル運転中であるか否かを判定し(ステップ100)、この判定成立時には、センサ系統の出力に基いて検出または算出された運転情報を取得する(ステップ102)。この運転情報には、少なくともエンジン水温、燃料噴射量、燃料噴射時期等が含まれている。次の処理では、排気浄化装置28の電極62,64間に前記基準の電圧を印加した状態で、放電電流検出回路50Bにより電極62,64間に流れる放電電流を取得(検出)する(ステップ104)。なお、本実施の形態では、放電電流を検出する構成としたが、本発明はこれに限らず、エンジンや排気浄化装置28の運転情報に基いて放電電流を推定する構成としてもよい。なお、この推定方法については後述する。
【0036】
次の処理では、前述したように、ステップ104で検出した放電電流と、ステップ102で取得したエンジン水温、燃料噴射量及び燃料噴射時期とに基いて、図5のマップデータを参照し、A/Fを算出する(ステップ106)。そして、A/Fの算出値に基いて空燃比制御を実行する(ステップ108)。一方、ステップ100の判定が不成立の場合には、ファーストアイドル運転中ではないので、そのまま制御を終了する。なお、図6は、ファーストアイドル運転時に実行される空燃比制御のみに着目して記載したもので、ファーストアイドル以外の運転時にどのような制御を行うかを限定するものではない。
【0037】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、コロナ放電型の排気浄化装置28に流れる放電電流等に基いてA/Fを算出することができる。また、A/Fの算出時には、機関温度、燃料噴射量及び燃料噴射時期のうち少なくとも1つのパラメータに基いて、A/Fを補正することができ、その算出精度を高めることができる。これにより、空燃比センサ等を使用しなくても、A/Fを取得することができるので、空燃比検出用のセンサ系統を簡略化することができ、部品点数の削減やコストダウンを図ることができる。
【0038】
また、エンジンの始動時には、従来のように空燃比センサの活性化を待つ必要がないので、始動直後から空燃比制御を速やかに開始することができる。これにより、始動直後のファーストアイドル運転時(触媒急速暖機時)にも、A/Fを目標空燃比に制御することができ、始動時の排気エミッションを向上させることができる。しかも、図4に示すように、A/Fの変化に対するPM浄化率(放電電流)の感度は、ストイキよりもリーン側の空燃比領域で増大するが、この空燃比領域は、始動時の触媒急速暖機で用いられる適合中心(実施の形態2で説明)を含んでいる。このため、触媒急速暖機を行うときに、本実施の形態の空燃比制御を実行すれば、上述した適合中心において空燃比を正確に制御しつつ、触媒の暖機を行うことができる。これにより、排気ガス中の炭化水素(THC)の排出レベルと排気温度の上昇効率とを最適化した状態でエンジンを運転することができ、触媒の暖機性能を向上させることができる。
【0039】
なお、上記実施の形態1では、図6中のステップ106が請求項1における空燃比算出手段の具体例を示している。また、ステップ108は、請求項3における空燃比制御手段の具体例を示している。さらに、図5に示すマップデータは、請求項4における補正手段の具体例を示している。
【0040】
また、実施の形態1では、図6において、始動時のファーストアイドル運転中にのみ、コロナ放電時の放電電流に基いて空燃比制御を行うものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば暖機完了後を含む任意の運転時に放電電流に基いてA/Fを検出し、この検出結果に基いて空燃比制御を行う構成としてもよい。
【0041】
また、実施の形態1では、放電電流検出回路50Bにより放電電流を検出する構成としたが、本発明はこれに限らず、以下に述べる方法(1),(2)の何れかにより放電電流を推定する構成としてもよい。
(1)ファーストアイドル運転時には、印加電圧とエンジン水温とに基いて放電電流を推定することができる。この場合、放電電流は、印加電圧が高いほど、また、エンジン水温が低いほど増大するので、これらの関係を予めマップデータ化しておけばよい。
(2)放電電流は、排気ガス中のPMの量と相関がある。そして、PMの量は、燃料噴射時期、圧縮行程噴射率、排気温度、印加電圧等のパラメータと相関がある。従って、これらの相関を実験等により求めて予めマップデータ化しておくことにより、上記各パラメータに基いて放電電流を推定することができる。
【0042】
実施の形態2.
次に、図7及び図8を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態は、実施の形態1とほぼ同様の構成及び制御(図1及び図6)を採用した上で、始動時の燃料噴射制御を改良したことを特徴としている。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0043】
[実施の形態2の特徴]
従来、直噴型のエンジンにおいては、冷間始動時の触媒急速暖機等を行う場合に、吸気行程と圧縮行程の両方で燃料を噴射しつつ、A/Fを適合中心に合わせる制御を実行する。ここで、適合中心とは、例えばA/Fが15.5程度のリーン状態として設定されるもので、排気ガス中のTHCを抑制しつつ、排気温度を速やかに上昇させ、触媒の暖機効率を高めることが可能な空燃比である。触媒急速暖機を行う時点では、空燃比センサが活性化していないので、空燃比制御を開始することができない。この状態において、従来の制御では、全体の燃料噴射量(吸気行程噴射量+圧縮行程噴射量)に対する圧縮行程噴射量の割合が一定となるように、燃料噴射量を制御する。しかし、この制御方法では、A/Fが適合中心からずれ易い上に、A/Fが適合中心からずれた場合にトルク変動が急激に増大し、運転性が悪化するという問題がある。
【0044】
このため、本実施の形態では、触媒急速暖機を行う場合に、排気浄化装置28により検出したA/Fに基いて、実際のA/Fを適合中心に合わせる空燃比制御を実行する。そして、この空燃比制御では、A/Fが適合中心となるように全体の燃料噴射量を補正しつつ、圧縮行程噴射量を適合中心での圧縮行程噴射量(以下、適合中心噴射量と称す)とほぼ等しい量に保持する構成としている。即ち、この空燃比制御は、圧縮行程噴射量を適合中心噴射量と一致させることを優先し、その上で、吸気行程噴射量を増減させてA/Fを制御するものである。なお、本実施の形態において、圧縮行程噴射量とは、筒内噴射弁30による圧縮行程での燃料噴射量を意味し、吸気行程噴射量とは、筒内噴射弁30による吸気行程での燃料噴射量を意味している。
【0045】
次に、図7を参照して、本実施の形態による空燃比制御の効果について説明する。図7は、本発明の実施の形態2において、触媒急速暖機中のA/Fとトルク変動との関係を示す特性線図である。図7中の実線は、本実施の形態の空燃比制御により得られるデータを示し、点線は、従来の制御によるデータを示している。適合中心噴射量は、適合中心においてトルク変動を抑制するように最適化されているため、トルク変動は、図7に示すように、適合中心で最も抑制された状態となる。そして、従来の制御では、A/Fが適合中心から少しずれただけでも、トルク変動が急激に増大する。この理由について述べると、適合中心では、主として圧縮行程噴射により点火プラグの周囲に適切な混合気が形成され、成層燃焼が安定的に実現される。しかし、A/Fがずれたときに、圧縮行程噴射量を増減させると、プラグ周囲の混合気濃度が変化し、トルク変動が誘発される。
【0046】
これに対し、本実施の形態では、A/Fが適合中心からリッチ側及びリーン側の何れにずれたとしても、圧縮行程噴射量が適合中心噴射量に保持されているので、点火プラグの周囲に適切な混合気を安定的に形成することができる。従って、本実施の形態によれば、前述した実施の形態1の作用効果に加えて、A/Fずれに対するトルク変動を小さく抑えることができ、始動時の運転性を向上させることができる。
【0047】
なお、本発明では、圧縮行程噴射量を適合中心噴射量と一致させた上で、吸気行程噴射量によりA/Fを制御する構成とした。しかし、本発明において、A/Fを制御するのは、圧縮行程以外の噴射量であればよく、吸気行程噴射量に限定されるものではない。即ち、本発明では、例えば吸気ポートに燃料を噴射する吸気ポート噴射弁を備えたエンジンにおいて、吸気ポート噴射弁による燃料噴射量(吸気ポート噴射量)に基いてA/Fを制御する構成としてもよい。また、筒内噴射弁30による吸気行程での燃料噴射量(吸気行程筒内噴射量)に基いてA/Fを制御する構成としてもよい。
【0048】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
次に、図8を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図8は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、触媒急速暖機中に繰返し実行されるものとする。図8に示すルーチンでは、まず、排気浄化装置28の放電電流に基いてA/Fを算出するA/F算出処理を実行する(ステップ200)。この算出処理は、実施の形態1(図6)のステップ102〜106と同様の処理を行うものである。そして、A/Fの算出値に基いて、現在のA/Fを目標空燃比に合わせるのに必要な全噴射補正量を算出する(ステップ202)。ここで、全噴射補正量とは、全体の燃料噴射量(吸気行程噴射量+圧縮行程噴射量)を補正する量である。続いて、この全噴射補正量により現在(前回)の全体の燃料噴射量を補正した補正後噴射量を算出する(ステップ204)。
【0049】
次の処理では、エンジン水温に基いて適合中心での圧縮行程噴射量を算出する(ステップ206)。ECU50には、エンジン水温に基いて適合中心での最適な圧縮行程噴射量を決定するためのマップデータが予め記憶されている。次に、補正後噴射量から圧縮行程噴射量を減算することにより、吸気行程噴射量を算出し(ステップ208)、これらの圧縮行程噴射量と吸気行程噴射量とが実現されるように、筒内噴射弁30による燃料噴射を実行する(ステップ210)。
【0050】
実施の形態3.
次に、図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態2において、圧縮行程噴射率に基いてコロナ放電用の印加電圧を制御することを特徴としている。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0051】
[実施の形態3の特徴]
前述した実施の形態2では、圧縮行程噴射量を適合中心噴射量と一致させた状態で、吸気行程噴射量を増減させてA/Fを制御する構成とした。この構成によれば、吸気行程噴射量を増減させると、圧縮行程噴射率が変化することになる。ここで、圧縮行程噴射率とは、全体の燃料噴射量(吸気行程噴射量+圧縮行程噴射量)に対する圧縮行程噴射量の割合である。圧縮行程噴射率が高い場合には、PMの量が増大し、排気浄化装置28の電極62,64間に放電電流が流れ易い状態となる。この状態では、PMの量が少ない場合と同様の電圧を印加すると、コロナ放電ではなくアーク放電が発生し、PM浄化率が急減する虞れがある。このため、圧縮行程噴射率が高い場合には、排気浄化装置28の印加電圧を低く設定するのが好ましい。一方、圧縮行程噴射率が低い場合には、PMの量が減少し、電極62,64間に放電電流が流れ難い状態となる。この状態では、アーク放電が発生し難いので、印加電圧を高くしてPM浄化率を向上させるのが望ましい。
【0052】
上述した特性を踏まえて、本実施の形態では、圧縮行程噴射率が所定の噴射率基準値よりも増加した場合には、電極62,64間に印加する印加電圧を所定の電圧基準値に対して減少させる。また、圧縮行程噴射率が前記噴射率基準値よりも減少した場合には、印加電圧を前記電圧基準値に対して増大させる構成としている。ここで、噴射率基準値は、例えば適合中心において最適化した圧縮行程噴射率の値に設定する。また、電圧基準値は、適合中心において圧縮行程噴射率を前記噴射率基準値と等しく設定した場合に、アーク放電が生じない範囲でPM浄化率が最大となる印加電圧の値に設定する。
【0053】
図9は、本発明の実施の形態3において、圧縮行程噴射率に基いてコロナ放電用の印加電圧を決定するための特性線図である。この特性線図は、ECU50にマップデータ等として予め記憶されている。従って、ECU50は、圧縮行程噴射率に基いて図9のマップデータを参照し、電極62,64間に印加する電圧を適切に設定することができる。即ち、圧縮行程噴射率が増加した場合には、印加電圧を低下させてアーク放電を防止することができる。そして、この状態でも、圧縮行程噴射率と共にPMの量が増加しているので、放電電流を十分に流すことができ、PM浄化率を良好に保持することができる。一方、圧縮行程噴射率が減少した場合には、アーク放電は生じ難くなるものの、その分だけ放電電流が流れ難くなるので、印加電圧を高くして放電電流を十分に流すことができる。これにより、PM浄化率を良好に保持することができる。従って、何れの場合にも、アーク放電の発生を回避しつつ、PM浄化率を向上させることができる。
【0054】
[実施の形態3を実現するための具体的な処理]
次に、図10を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図10は、本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、触媒急速暖機中に繰返し実行されるものとする。図10に示すルーチンでは、まず、ステップ300〜308において、前記実施の形態2(図8)中のステップ200〜208と同様の処理を実行し、圧縮行程噴射量と吸気行程噴射量とを算出する。次に、全体の燃料噴射量と圧縮行程噴射量とに基いて、圧縮行程噴射率を算出する(ステップ310)。そして、圧縮行程噴射率に基いて図9のマップデータを参照し、印加電圧の目標値を算出する(ステップ312)。さらに、印加電圧制御回路50Aを駆動し、印加電圧を前記目標値に制御する(ステップ314)。
【0055】
実施の形態4.
次に、図11及び図12を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態2において、触媒急速暖機中の機関温度が低い場合に、A/Fをストイキ近傍に制御し、かつ、燃料噴射時期を進角させることを特徴としている。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0056】
[実施の形態4の特徴]
本実施の形態では、始動時の触媒急速暖機中において、機関温度が所定の温度基準値よりも低い場合に、空燃比制御によるA/Fの目標値を適合中心からストイキ付近に変更し、A/Fをストイキ近傍に制御する。そして、A/Fを適合中心に合わせている場合と比較して、燃料噴射時期を進角させる構成としている。これは、次の理由によるものである。まず、エンジン水温等の機関温度が低い場合には、PMの量が著しく増加する。これに対し、A/Fを適合中心からストイキ近傍に変化させると、PMの基本的な発生量は増加するが、電極62,64間の印加電圧を一定とした状態では、PM浄化率がストイキ近傍で急激に増大するので、最終的なPMの排出量は減少することになる。従って、触媒急速暖機中の低温時には、A/Fをストイキ近傍に制御することにより、PMの量を低減させることができる。なお、上述した温度基準値は、例えばA/Fをストイキ近傍に制御することでPMの低減効果が得られる温度の上限値として設定される。
【0057】
一方、A/Fをストイキ近傍に制御した場合には、燃料噴射時期を進角させることができる。具体的に述べると、燃料噴射時期を進角させた場合には、燃料噴射から点火までの間に燃料を十分に気化させることができるので、THCの排出量を低減することができる。ここで、噴射時期を大きく進角させた場合には、点火プラグの周囲で燃料の成層化が乱れることにより燃焼安定性が悪化するが、前述のようにA/Fをストイキ近傍に制御することにより、燃焼安定性は向上する。従って、A/Fをストイキ近傍に制御した状態で、燃料噴射時期を進角させれば、燃焼安定性を確保しつつ、THCの排出量を低減することができる。
【0058】
また、A/Fをストイキ近傍に制御した場合には、THCの排出量や排気温度も影響を受ける可能性がある。図11は、本発明の実施の形態4において、触媒急速暖機中のA/Fと、THC排出量及び排気温度との関係を示す特性線図である。しかし、図11から判るように、A/Fを適合中心からストイキ近傍に変化させても、THCの排出量や排気温度は、それほど大きな影響を受けない。従って、本実施の形態によれば、触媒急速暖機中の機関温度が低い場合でも、触媒の暖機効率や燃焼安定性を十分に確保しつつ、排気エミッションを向上させることができる。
【0059】
[実施の形態4を実現するための具体的な処理]
次に、図12を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図12は、本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、前記実施の形態2(図8)のステップ202において、全噴射補正量を算出するときに実行されるものである。図12に示すルーチンでは、まず、エンジン水温が前述の温度基準値以上であるか否かを判定する(ステップ400)。この判定が成立した場合には、前記実施の形態2と同様に、目標空燃比を適合中心に設定した状態で全噴射補正量を算出する(ステップ402)。一方、ステップ400の判定が不成立の場合には、目標空燃比をストイキに設定した状態で全噴射補正量を算出し(ステップ404)、燃料噴射時期を進角させる(ステップ406)。これらの設定は、前記図8中のステップ210で燃料噴射に反映される。
【0060】
実施の形態5.
次に、図13及び図14を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態は、コロナ放電型の点火プラグを備えた内燃機関において、点火プラグの放電電流によりA/Fを検出することを特徴としている。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0061】
[実施の形態5の特徴]
図13は、本発明の実施の形態5のシステム構成を説明するための全体構成図である。この図に示すように、本実施の形態は、実施の形態1とほぼ同様に構成されたエンジン70を備えているものの、エンジン70には、コロナ放電型点火プラグ72が搭載されている。この点火プラグ72は、例えば特開2007−278279号公報に開示されているような公知の構成を有している。図14は、コロナ放電型点火プラグの先端部を示す断面図である。この図に示すように、コロナ放電型点火プラグ72は、棒状の金属材料により形成された中心電極74と、この中心電極74を中心軸線とする円筒状に形成された接地電極76と、これらの電極74,76の間を絶縁する絶縁碍子78とを備えている。中心電極74には、放射状をなして径方向に突出する複数の導電性突起74Aが形成されている。また、接地電極76は、エンジン70が搭載される車両に接地されている。
【0062】
そして、エンジンの運転中には、ECU50により中心電極74に通電すると、電極74,76間にコロナ放電が発生し、この放電により燃焼室14内の混合気が点火される構成となっている。また、ECU50は、コロナ放電時に電極74,76間に流れる放電電流を放電電流検出回路50Bにより検出する。そして、この放電電流やエンジンの運転情報に基いて前記実施の形態1と同様の処理を実行し、燃焼室14内のA/Fを検出する。これにより、ECU50は、前記実施の形態2乃至4とほぼ同様に、始動時の触媒急速暖機中にも、空燃比制御を実行するように構成されている。
【0063】
このように構成される本実施の形態でも、コロナ放電型点火プラグ72の電極74,76間を流れる放電電流に基いてA/Fを検出することができ、実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、燃焼室14内で混合気が燃焼する瞬間のA/Fを検出することができるので、特に冷間始動時などに燃料噴射量を最小限に抑えつつ、始動性を確保することができる。これにより、燃費や排気エミッションを向上させることができる。
【符号の説明】
【0064】
10,70 エンジン(内燃機関)
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 排気通路
22 エアフローセンサ
24 スロットルバルブ
26 スロットルモータ
28 排気浄化装置
30 筒内噴射弁
32 点火プラグ
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
38 クランク角センサ
40 水温センサ
50 ECU
50A 印加電圧制御回路
50B 放電電流検出回路(放電電流取得手段)
60 ハウジング
62,74 中心電極
64,76 接地電極
66,78 絶縁碍子
68 電極支持部
72 コロナ放電型点火プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路内で対向する少なくとも2つの電極を有し、前記各電極間にコロナ放電を発生させることにより排気ガス中の粒子状物質を浄化する排気浄化装置と、
コロナ放電の発生時に前記各電極間に流れる放電電流を取得する放電電流取得手段と、
少なくとも前記放電電流に基いて排気空燃比を算出する空燃比算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の筒内で対向する少なくとも2つの電極を有し、前記各電極間にコロナ放電を発生させることにより混合気に点火する点火プラグと、
コロナ放電の発生時に前記各電極間に流れる放電電流を取得する放電電流取得手段と、
少なくとも前記放電電流に基いて排気空燃比を算出する空燃比算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記空燃比算出手段により算出した排気空燃比に基いて燃料噴射量を補正し、実際の排気空燃比を目標空燃比に制御する空燃比制御手段を備え、
前記空燃比制御手段は、内燃機関の始動直後から排気空燃比の制御を行う構成としてなる請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記空燃比算出手段により算出される排気空燃比を、内燃機関の機関温度、燃料噴射量及び燃料噴射時期のうち少なくとも1つのパラメータに基いて補正する補正手段を備えてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−231627(P2011−231627A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100001(P2010−100001)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】