説明

内燃機関の動弁システム

【課題】本発明は、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、駆動源の起動時にカムが要求通りに動作可能であるかを事前に検知可能な技術の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、停止状態の駆動源に対して正規の起動要求が発生する前に、カムを少なくとも1回転させるべく駆動源を強制起動させるとともに、カムが正常に回転したか否かの故障判定を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムを備えた動弁システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動弁システムとして、内燃機関と独立した駆動源によりカムを回転又は揺動させる動弁システムが知られている。このような動弁システムを利用した技術として、内燃機関のクランキング時に吸気バルブを継続して開弁させるとともに排気バルブを継続して閉弁させる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−182869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、駆動源が停止状態のカムを回転させ始める時(以下、「起動時」と称する)は、比較的大きな駆動力が必要となる。このため、駆動源の起動時はカムが要求通りに回転しない可能性がある。
【0004】
よって、前述の従来技術において排気バルブが継続して閉弁された後に、該排気バルブを開閉動作させるために駆動源が起動されると、該駆動源が要求通りにカムを回転させることができず、排気バルブが正常に開閉しない可能性がある。
【0005】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、駆動源の起動時にカムが要求通りに動作可能であるかを事前に検知可能な技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するために、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、停止状態の駆動源に対して正規の起動要求が発生する前に、前記駆動源を強制的に起動させて前記カムの動作確認を行うようにした。
【0007】
詳細には、本発明は、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、停止状態の駆動源に対する起動要求が発生する前に該駆動源を強制起動させる制御手段と、前記制御手段により駆動源が強制起動された時に前記カムが正常に回転又は揺動しているか否かを判定する故障判定手段と、を備えるようにした。
【0008】
本発明における「起動要求」は、内燃機関の運転に不可欠な開閉動作をバルブに行わせるために駆動源を起動させる要求である。このような起動要求は、内燃機関の運転中にバルブを停止又は休止させた状態から復帰させる場合や、内燃機関の始動時にバルブの開閉動作を開始させる場合等に発生する。以下では、上記したような起動要求を「正規の起動要求」と記す場合もある。
【0009】
上記したような正規の起動要求が発生する時点では燃料噴射や燃料の燃焼が既に行われている可能性がある。このため、起動要求発生後に故障が発生すると、動弁システム以外の部品に影響が及んだり、或いはエミッションが悪化したりする等の問題が発生する。
【0010】
これに対し、本発明は、起動要求の発生前に駆動源を強制起動させて故障判定が行われる。故障判定においてカムが正常に回転又は揺動していないと判定された場合は、燃料噴射の中止や点火プラグの作動中止などの対処を行うことも可能である。よって、上記したような問題の発生を未然に防ぐことができる。
【0011】
ここで、「カムが正常に回転又は揺動しない」状態としては、カムが全く動かない状態のみならず、カムの回転速度又は揺動速度が規定の速度から懸け離れている状態も考えられる。
【0012】
本発明において、制御手段は、駆動源を強制起動させた時に、カムが少なくとも1回転するように駆動源を制御してもよい。この場合、故障判定手段は、カムが正常に1回転したか否かを判定することになる。これは、バルブが正常に開閉するか否かを判定することを意味する。また、カムが少なくとも1回転することにより、カムの摺動面に潤滑油を行き渡らせることもできる。このため、駆動源が長期間停止された場合に有効である。
【0013】
本発明において、制御手段は、駆動源を強制起動させた時に、バルブがリフトしない範囲でカムが揺動するように駆動源を制御するようにしてもよい。この場合、バルブがリフトしないため、内燃機関の運転状態に影響を及ぼすことなく故障判定を行うことができる。このような方法による故障判定は、内燃機関の減速フューエルカット運転時や内燃機関の一部の気筒が休止される減筒運転時等にも行うことができる。
【0014】
本発明において、制御手段は、駆動源を強制起動させた時に、カムが少なくとも1回転するように駆動源を制御する第1制御と、バルブがリフトしない範囲でカムが揺動するように駆動源を制御する第2制御とを行うようにしてもよい。
【0015】
この場合、故障判定手段は、第1制御実行時にカムが正常に回転することができるか否かを判定することができるとともに、第2制御実行時にカムが正常に揺動することができるか否かを判定することができる。その結果、故障判定の精度が高められる。
【0016】
ところで、故障判定手段によりカムが正常に回転又は揺動していると判定された後に駆動源が停止されると、その後の起動要求発生時にカムが正常に回転又は揺動しない可能性がある。
【0017】
そこで、制御手段は、起動要求発生時まで駆動源を作動させ続けるようにしてもよい。例えば、制御手段は、起動要求の発生前であってバルブがリフトしても内燃機関の運転に影響を与えない時に、第1制御を実行する。第1制御実行時に故障判定手段がカムの正常な回転を判定すると、制御手段は起動要求が発生するまで第2制御を実行するようにしてもよい。
【0018】
第2制御の実行時はバルブがリフトしないため、燃料噴射が行われた後や燃料の燃焼が行われた後であっても内燃機関の運転状態に影響を与えることなく第2制御を実行し続けることが可能である。よって、制御手段は、起動要求発生時まで第2制御を実行し続けることができる。起動要求発生時まで駆動源がカムを揺動させ続けると、起動要求発生時に駆動源にかかる負荷が小さくなる。その結果、駆動源は、起動要求発生時にカムを正常に動作させやすくなる。また、故障判定手段は、第2制御実行時に故障判定を継続的に行うことにより、故障判定精度を可及的に高めることもできる。
【0019】
制御手段は、駆動源の停止期間が一定期間以上である場合は前記第1制御と前記第2制御を実行し、駆動源の停止期間が一定期間未満である場合は前記第2制御のみ行うように
してもよい。
【0020】
駆動源の停止期間が長くなると、カムやバルブの摺動部の油膜が薄くなったり、潤滑油の粘性が高くなったりする。そのような場合は、カムやバルブが動作する時のフリクションが大きくなる。
【0021】
逆に、駆動源の停止期間が短い場合は、カムやバルブの摺動部の油膜が十分な厚さを維持しているとともに、潤滑油の粘性が低くなる。そのような場合は、カムやバルブが動作する時のフリクションが小さくなる。
【0022】
これらの知見によれば、停止期間が短くなるほど、バルブが正常にリフト(開閉)し易いと言える。従って、駆動源の停止期間が短い場合は、カムが正常に揺動可能であれば、該カムが正常に回転することも可能であるとみなすことができる。その結果、駆動源の停止期間が短い場合は、第1制御を省略することができる。第1制御が省略されると、駆動源の強制起動に起因した消費エネルギの増加を最小限に抑えることができる。
【0023】
ここで、駆動源の停止期間が一定期間以上であるか否かを判別する方法としては、(1)駆動源の停止時間を計測し、その計測時間が一定期間以上であるか否かを判別する方法、(2)内燃機関の冷却水(或いは潤滑油)の温度が基準水温より低い場合に停止期間が一定期間以上であるとみなす方法等を例示することができる。
【0024】
本発明において、制御手段が駆動源を強制起動させるタイミングとしては、起動要求が発生する前であって、燃料噴射弁の作動前を例示することができる。
【0025】
このようなタイミングで駆動源が強制起動されると、内燃機関の運転状態に影響を及ぼすことなく前記第1制御を行うことができる。このため、故障判定精度を高めることが可能となる。また、燃料噴射弁の作動前に故障が検出されれば、燃料噴射弁から噴射された燃料が吸気ポートや気筒内に未燃のまま残留したり、或いは内燃機関から未燃のまま排出されたりすることが防止される。
【0026】
本発明において、制御手段が駆動源を強制起動させるタイミングとしては、起動要求が発生する前であって、点火プラグの作動前を例示することができる。
【0027】
カムやバルブが正常に動作しない状態で燃料の点火が行われると、火炎や既燃ガスが吸気系に逆流する可能性がある。これに対し、点火プラグの作動前に故障判定が行われると、上記した問題の発生を回避することができる。
【0028】
本発明において、制御手段が駆動源を強制起動させるタイミングとしては、起動要求発生時から故障判定に要する時間を差し引いた時期を例示することができる。これは、起動要求の発生時期を予測することができる場合に有効である。
【0029】
起動要求発生時期から故障判定に要する時間を差し引いた時期に駆動源が強制起動されると、駆動源が強制起動される期間は故障判定に必要な時間のみとなる。その結果、駆動源の強制起動期間が不必要に長くならないため、駆動源の強制起動に起因した消費エネルギの増加を最小限に抑えることができる。
【0030】
また、故障判定の終了時に起動要求が発生することになるため、駆動源は強制起動されてから起動要求発生時まで継続的に作動することになる。その結果、駆動源は、起動要求発生時にカムを正常に動作させ易い。
【0031】
尚、本発明は、上記した課題を解決するために、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、駆動源の停止中又は作動中を問わずに故障判定が行われるようにしてもよい。この場合は、故障判定終了から次回の起動要求が発生するまで駆動源の作動が強制的に継続されることが好ましい。
【0032】
詳細には、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、前記カムが正常に動作したか否かを判定する故障判定手段と、前記故障判定手段による故障判定終了時から次回の起動要求が発生するまで、前記駆動源の作動を強制的に継続させる制御手段と、を備えるようにしてもよい。
【0033】
かかる発明によれば、駆動源の故障判定が行われた後にたとえ該駆動源の停止要求が発生しても、次回の起動要求が発生するまでは駆動源の作動が強制的に継続されることになる。
【0034】
ここでいう停止要求は、減速フューエルカット運転や減筒運転等に伴うバルブの停止又は休止を目的とした停止要求であり、内燃機関の運転停止(イグニッションスイッチのオフ)に付随した停止要求は含まない。
【0035】
前述したように故障判定が行われた後に駆動源が停止されると、次回の起動要求発生時にカムが正常に動作しない可能性がある。このため、故障判定結果と実際のカムの動作とが相違する可能性がある。特に、故障判定によりカムが正常に動作したと判定された後に駆動源が停止されてしまうと、次回の起動要求発生時にカムが正常に動作することができない状態に陥ることが懸念される。
【0036】
これに対し、故障判定終了から次回の起動要求発生まで駆動源が作動し続けると、次回起動時に駆動源がカムを正常に動作させ易くなる。また、故障判定によりカムが正常に動作しないと判定された場合であっても、次回の起動要求発生時まで駆動源を作動させ続けることにより、潤滑油の温度上昇や粘性低下を図ることができる。そのため、カムが正常に動作可能な状態に復帰することも期待できる。
【0037】
尚、故障判定終了時から次回の起動要求発生時までの間隔が過剰に長くなると、駆動源の強制作動によって消費エネルギが膨大になる可能性がある。そこで、故障判定終了時から一定時間以内に次回に起動要求が発生しない場合は、故障判定終了時から一定時間が経過した時点で駆動源の強制作動が終了されてもよい。この場合、消費エネルギの過剰な増加を防止することができる。
【0038】
次回の起動要求が発生した時にバルブが全閉状態にある場合は、制御手段は起動要求に従ってバルブを開弁させる前に該バルブがリフトしない範囲でカムを揺動させるべく駆動源を制御し、その際に故障判定手段はカムが正常に動作したか否かを判定するようにしてもよい。
【0039】
かかる構成によれば、故障判定終了後の起動要求発生時に再度故障判定が行われるため、故障判定精度を高めることが可能となる。また、最初の故障判定時にカムが正常に動作しないと判定された場合において、その後の駆動源の継続作動によりカムが正常に動作可能な状態に復帰したか否かを判定することもできる。
【0040】
起動要求発生時の故障判定によりカムが正常に動作しないと判定された場合は、故障判定手段は、起動要求に基づくバルブの開弁を許可しないようにすることもできる。その際、燃料噴射弁や点火プラグの作動も禁止することにより、前述したような種々の問題を回
避することも可能となる。
【0041】
以上述べたような発明において、カムが正常に回転或いは揺動しているか否かを判別する方法としては、(1)駆動源の回転位置を検出する手段の検出信号に基づいてカムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別する方法、(2)カムの回転位置を検出する手段の検出信号に基づいてカムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別する方法等を例示することができる。
【0042】
本発明において、カムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別する方法としては、駆動源に要求される駆動トルク(要求トルク)を検出する手段の検出信号に基づいてカムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別する方法も例示することができる。駆動源の要求トルクは、カムがバルブをリフトさせる時に大きくなる。このため、バルブのリフト量及びカムの回転方向に見合った要求トルクの増減が発生すれば、カムが正常に回転又は揺動していると判定することができる。
【0043】
但し、バルブがリフトしない範囲でカムが揺動される場合は駆動源の要求トルクは増減しないため、そのような場合は駆動源の回転位置を検出する手段又はカムの回転位置を検出する手段の検出信号に基づいてカムが正常に揺動しているか否かを判別することが好ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、駆動源の起動時にカムが要求通りに動作可能であるか事前に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0046】
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について図1〜図5に基づいて説明する。図1は、本発明にかかる内燃機関の動弁システムの概略構成を示す図である。
【0047】
図1に示す内燃機関1は、4ストローク・サイクルの火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)である。
【0048】
内燃機関1は、4つの気筒2を備えている。気筒2内には、ピストン3が摺動自在に内装されている。ピストン3は、コネクティングロッド4を介してクランクシャフト5と連結されている。
【0049】
気筒2の内部は、吸気ポート6及び排気ポート7と連通している。気筒2内における吸気ポート6の開口端は、吸気バルブ8により開閉される。気筒2内における排気ポート7の開口端は、排気バルブ9により開閉される。吸気バルブ8と排気バルブ9は、吸気側駆動機構10と排気側駆動機構11とにより各々開閉駆動される。
【0050】
前記吸気ポート6は、吸気通路60と連通している。前記吸気通路60には、燃料噴射弁12が取り付けられている。吸気通路60内を流れる吸気は、吸気ポート6へ導かれる。吸気ポート6へ導かれた吸気は、吸気バルブ8の開弁時に気筒2内へ吸入される。その際、燃料噴射弁12から吸気ポート6へ噴射された燃料も吸気とともに気筒2内へ吸入される。
【0051】
気筒2内に導かれた燃料及び吸気(混合気)は、点火プラグ13が発生する火花を火種として燃焼される。気筒2内で燃焼されたガス(既燃ガス)は、排気バルブ9の開弁時に排気ポート7へ排出される。排気ポート7は排気通路70と連通しており、前記した既燃ガスが排気ポート7から排気通路70を介して大気中へ排出される。
【0052】
このように構成された内燃機関1には、ECU14が併設されている。ECU14は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等から構成される電子制御ユニットである。ECU14には、クランクポジションセンサ15、水温センサ16、イグニッションスイッチ17等の各種センサと電気的に接続されている。
【0053】
ECU14は、前記した各種センサの測定値に基づいて燃料噴射弁12、点火プラグ13、吸気側駆動機構10、及び排気側駆動機構11を電気的に制御する。
【0054】
ここで、図2、図3に基づいて吸気側駆動機構10及び排気側駆動機構11の構成を説明する。図2は吸気側駆動機構10の構成を示す図である。図2中の#1〜♯4は、内燃機関1の1番気筒から4番気筒を各々表している。尚、1番気筒(#1)から4番気筒(#4)の燃焼順序は、1番気筒(#1)→3番気筒(#3)→4番気筒(#4)→2番気筒(#2)である。
【0055】
1番気筒(#1)〜4番気筒(#4)の各々には、2つの吸気バルブ8が設けられている。吸気バルブ8のステム基端には、バルブリフタ80が取り付けられている。吸気バルブ8には図示しないバルブスプリングの付勢力が作用しており、その付勢力によってバルブリフタ80が第1吸気カム81又は第2吸気カム82に押し付けられている。
【0056】
第1吸気カム81は、1番気筒(#1)及び4番気筒(#4)の吸気バルブ8を開閉駆動させるカムであり、第1吸気カムシャフト83に固定されている。第2吸気カム82は、2番気筒(#2)及び3番気筒(#3)の吸気バルブ8を開閉駆動するカムであり、第2吸気カムシャフト84に固定されている。
【0057】
第1吸気カムシャフト83と第2吸気カムシャフト84は、同軸に配置されるとともに、互いに独立して周方向へ回転或いは揺動可能に内燃機関1に支持されている。
【0058】
第1吸気カムシャフト83の一端には、第1ドリブンギヤ85が固定されている。第1ドリブンギヤ85は、第1モータ18の出力軸に固定された第1出力ギヤ19と噛合している。以下では、第1ドリブンギヤ85及び第1出力ギヤ19を第1減速機構と総称する。
【0059】
この場合、第1モータ18の回転トルクは、第1減速機構を介して第1吸気カムシャフト83へ伝達される。よって、第1モータ18は、第1減速機構を介して第1吸気カムシャフト83を周方向へ回転或いは揺動させることができる。
【0060】
第2吸気カムシャフト84の外周面の一部には、第2ドリブンギヤ86が同軸に固定されている。第2ドリブンギヤ86は、中間ギヤ87と噛合している。中間ギヤ87は、第2モータ21の出力軸に固定された第2出力ギヤ22と噛合している。以下では、第2ドリブンギヤ86、中間ギヤ87、及び第2出力ギヤ22を第2減速機構と総称する。第2減速機構による減速比は、前述した第1減速機構と同等である。
【0061】
この場合、第2モータ21の回転トルクは、第2減速機構を介して第2吸気カムシャフト84へ伝達される。よって、第2モータ21は、第2減速機構を介して第2吸気カムシャフト84を周方向へ回転或いは揺動させることができる。
【0062】
尚、第1モータ18は、出力軸の回転角度(位相)を検出する第1レゾルバ20を備えており、第1レゾルバ20の検出信号がECU14へ入力されるようになっている。第2モータ21は、出力軸の回転角度を検出する第2レゾルバ23を備えており、第2レゾルバ23の検出信号がECU14へ入力されるようになっている。
【0063】
次に、図3は排気側駆動機構11の構成を示す図である。図3において、1番気筒(#1)〜4番気筒(#4)の各々には、2つの排気バルブ9が設けられている。排気バルブ9のステム基端には、バルブリフタ90が取り付けられている。排気バルブ9には、図示しないバルブスプリングの付勢力が作用しており、その付勢力によってバルブリフタ90が排気カム91に押し付けられている。
【0064】
全気筒の排気カム91は、1本の排気カムシャフト92に固定されている。排気カムシャフト92の一端には、第3ドリブンギヤ93が固定されている。第3ドリブンギヤ93は、第3モータ24の出力軸に取り付けられた第3出力ギヤ25と噛合している。以下では、第3ドリブンギヤ93及び第3出力ギヤ25を第3減速機構と総称する。
【0065】
この場合、第3モータ24の回転トルクは、第3出力ギヤ25及び第3ドリブンギヤ93を介して排気カムシャフト92に伝達される。よって、第3モータ24は、第3減速機構を介して排気カムシャフト92を周方向へ回転或いは揺動させることができる。
【0066】
また、第3モータ24は、出力軸の回転角度(位相)を検出する第3レゾルバ26を備えており、第3レゾルバ26の検出信号がECU14へ入力されるようになっている。
【0067】
上記した第1モータ18、第2モータ21、及び第3モータ24は、本発明にかかる駆動源に相当する。また、第1レゾルバ20、第2レゾルバ23、及び第3レゾルバ26は、本発明にかかる第1検出手段に相当する。
【0068】
このように構成された動弁系では、ECU14がクランクシャフト5の回転に同期したタイミングで第1モータ18と第2モータ21と第3モータ24を回転動作又は揺動動作させることにより、1番気筒(#1)〜4番気筒(#4)の吸気バルブ8及び排気バルブ9がクランクシャフト5の回転に同期したタイミングで開閉可能となる。
【0069】
ところで、各モータが停止状態から回転し始める時は比較的大きな起動電力が必要となる。更に、各カムシャフトが停止状態から回転し始める時は比較的大きなフリクションが発生する。よって、各モータが停止状態の各カムシャフトを回転させ始める時(起動時)は、比較的大きな電力が必要となる。このため、各モータの起動時は各カムシャフトが要求通りに回転又は揺動しない虞がある。
【0070】
各モータに対して起動要求が発生する場合としては、内燃機関1の始動時、減筒運転からの復帰時、減速フューエルカット運転からの復帰時、或いはプレヒート運転の終了時などを例示することができる。
【0071】
内燃機関1の減筒運転時は、一部の気筒2の運転(以下、「休止気筒」と称する)が休止される。その際、休止気筒2の吸気バルブ8および/または排気バルブ9を休止(全閉)させることにより、ポンピングロスの低減や排気空燃比の変動抑制を図ることができる。よって、減筒運転からの復帰時は、休止気筒2の吸気バルブ8および/または排気バルブ9に対応したモータの起動要求が発生する。
【0072】
内燃機関1の減速フューエルカット運転時は、吸気バルブ8および/または排気バルブ
9を休止(全閉)させることにより、排気浄化装置(三元触媒やNOx触媒等)の温度低下を抑制することができる。よって、内燃機関1が減速フューエルカット運転状態から復帰する時は、各モータの起動要求が発生する。
【0073】
プレヒート運転は、内燃機関1のクランキング時に排気バルブ9を休止(全閉)させるとともに吸気バルブ8のリフト量を制限することにより、気筒2内の雰囲気温度を高める運転である。このため、プレヒート運転終了時は、第3モータ24の起動要求が発生する。
【0074】
上記したような起動要求は、燃料噴射弁12や点火プラグ13の作動後に発生する場合がある。このような場合にモータがカムシャフトを要求通りに回転又は揺動させることができなければ、吸気ポート6や気筒2の内部に未燃燃料が残留し、或いは気筒2内の既燃ガスが吸気系(吸気ポート6や吸気通路60)へ逆流して騒音や熱害を発生させる等の問題が発生する。
【0075】
そこで、ECU14は、各モータに対する正規の起動要求が発生する前に、各モータを強制起動させて故障判定を行うようにした。以下、本実施例における故障判定処理の実行方法について述べる。
【0076】
故障判定処理では、ECU14は、先ず、正規の起動要求が発生する前に各モータを強制起動させる。その際、ECU14は、各カムシャフトが少なくとも1回転するように各モータを制御する。
【0077】
尚、各モータを強制起動させるタイミングは、燃料噴射弁12の作動開始前が好ましい。これは、燃料噴射弁12の作動開始後に各カムシャフトが1回転すると、吸気バルブ8や排気バルブ9の開閉動作により燃料が未燃のまま排気系(排気ポート7や排気通路70)へ流出したり、吸気系へ逆流したりする可能性があるからである。
【0078】
ECU14は、各モータのレゾルバの検出信号に基づいて各カムシャフトが正常に回転しているか否かを判別する。カムシャフトが正常に回転していない状態としては、カムシャフトが回転していない状態に加え、各カムシャフトの回転速度が目標値から懸け離れている状態も含むものとする。これは、各カムシャフトの回転速度が目標値から懸け離れると、吸気バルブ8および/または排気バルブ9がクランクシャフトの回転に同期したタイミングで開閉不可能となるからである。
【0079】
ECU14は、正常に回転していないカムシャフトを検出した場合は、以後の運転を中止してもよく、或いは正常に回転可能なカムシャフトのみを利用して運転を継続してもよい。
【0080】
例えば、第1吸気カムシャフト83が正常に回転していないと判定された場合は、ECU14は、1番気筒(#1)及び4番気筒(#4)の運転を禁止(1番気筒(#1)及び4番気筒(#4)の燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止)するとともに、2番気筒(#2)及び3番気筒(#3)の運転を継続することにより、内燃機関1を搭載した車両が退避走行できるようにしてもよい。
【0081】
第2吸気カムシャフト84が正常に回転していないと判定された場合は、ECU14は、2番気筒(#2)及び3番気筒(#3)の運転を禁止(2番気筒(#2)及び3番気筒(#3)の燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止)するとともに、1番気筒(#1)及び4番気筒(#4)の運転を継続することにより、内燃機関1を搭載した車両が退避走行できるようにしてもよい。
【0082】
排気カムシャフト92が正常に回転していないと判定された場合は、ECU14は、全気筒2の運転を禁止(全気筒の燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止)するようにしてもよい。
【0083】
ECU14は、正常に回転していないカムシャフトを検出した場合は、車室内に配置された出力装置(例えば、ランプ、スピーカ、ディスプレイ)を利用して、故障の発生を運転者へ通知することが望ましい。
【0084】
このように各モータに対して正規の起動要求が発生する前に故障判定が行われると、正常に回転しないカムシャフトが検出された場合に、吸気ポート6や気筒2の内部に未燃燃料が残留したり、或いは気筒2内の既燃ガスが吸気ポート6や吸気通路60へ逆流して騒音や熱害を発生させたりする問題を回避することができる。
【0085】
ここで、内燃機関1の始動時(クランキング時)に排気カムシャフト92の故障判定処理を行う例を図4に示す。図4中において、L1,L2,L3,L4は、1番気筒(#1)、2番気筒(#2)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)の各々の排気バルブ9のリフト量を示す。
【0086】
図4に示す例では、ECU14は、起動要求の発生前であって、初回の燃料噴射(図4中の1番気筒(#1)に対する燃料噴射)前に、排気カムシャフト92を1回転させるべく第3モータ24を強制起動させる。
【0087】
その際、ECU14は、各気筒2のピストン3が下死点近傍に位置する期間(例えば、膨張行程後半から排気行程前半までの期間)に各気筒2の排気バルブ9が開弁するように第3モータ24を制御する。これは、排気バルブ9とピストン3との干渉を回避するためである。
【0088】
ECU14は、第3モータ24が強制起動されると、第3レゾルバ26の検出信号に基づいて排気カムシャフト92が回転しているか否か、及びその際の回転速度と目標値との差が許容範囲内にあるか否かを判別する。
【0089】
ECU14は、排気カムシャフト92が正常に1回転したと判定した場合は、燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を許可する。一方、ECU14は、排気カムシャフト92が正常に1回転しなかったと判定した場合は、燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止する。
【0090】
ECU14は、第1モータ18及び第2モータ21についても同様の方法により故障判定を行う。その際、ECU14は、各気筒2のピストン3が下死点近傍に位置する期間(例えば、吸気行程後半から圧縮行程前半までの期間)に吸気バルブ8が開弁するタイミングで第1吸気カムシャフト83及び第2吸気カムシャフト84が1回転するように第1モータ18及び第2モータ21を強制起動させればよい。
【0091】
各カムシャフトを1回転させることにより故障判定処理が行われると、全気筒2の吸気バルブ8及び排気バルブ9が正常に開閉するか否か(言い換えれば、最大リフト量まで開弁可能であるか否か)を判別することができる。更に、各カムシャフトが1回転すると、該カムシャフトの摺動面全体に潤滑油を行き渡らせることができるため、正規の起動要求発生時に各モータにかかる負荷を低減することができるとともに、各カムシャフトが正常に回転し易くなる。
【0092】
以下、本実施例における故障判定処理の実行手順について図5に沿って説明する。図5は、故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。故障判定処理ルーチンは、予めECU14のROMに記憶されているルーチンである。この故障判定処理ルーチンは、イグニッションスイッチ17がオンにされている時に、ECU14によって周期的に実行される。
【0093】
故障判定処理ルーチンでは、ECU14は、先ずS101において第1吸気カムシャフト83と第2吸気カムシャフト84と排気カムシャフト92とのうち停止状態のカムシャフトがあるか否かを判別する。
【0094】
S101において否定判定された場合は、ECU14は本ルーチンの実行を終了する。一方、S101において肯定判定された場合は、ECU14はS102へ進む。
【0095】
S102では、ECU14は、停止状態のカムシャフトを1回転させるべくモータを強制起動させる。その際、ECU14は、前述したように該カムシャフトに設けられたカムによって開閉されるバルブがピストン3と干渉しないタイミングで開弁するようにモータを制御する。
【0096】
S103では、ECU14は、前記S102において強制起動されたモータのレゾルバの検出信号に基づいて前記カムシャフトが正常に回転しているか否かを判別する。
【0097】
ここで、第1レゾルバ20の検出信号と第1吸気カム81の位相との関係を図6に示す。図6において、第1吸気カムシャフト83に対する第1モータ18の出力軸の回転速度比は2(第1吸気カムシャフト83が1回転する間に第1モータ18の出力軸が2回転する)である。この場合、ECU14は、第1モータ18を2回転させるように制御することにより、第1吸気カムシャフト83を1回転させることができる。
【0098】
図7は第1吸気カムシャフト83が回転しない場合の第1レゾルバ20の検出信号を示し、図8は第1吸気カムシャフト83の回転速度が目標値から懸け離れている場合の第1レゾルバ20の検出信号を示す。尚、図8中の実線は故障時の検出信号を示し、図8中の一点鎖線は正常時の検出信号を示す。
【0099】
第1吸気カムシャフト83が全く回転しない場合は、第1レゾルバ20の検出信号は一定値を示す。第1吸気カムシャフト83の回転速度が目標値に対して遅くなると、第1吸気カムシャフト83が1回転するために要するクランク角度△t(CA)が目標値△t(CA)より長くなる。
【0100】
よって、ECU14は、第1レゾルバ20の検出信号が図7、図8に示したような態様を示した時には、第1吸気カムシャフト83が正常に回転していないと判定(故障判定)する。一方、ECU14は、第1レゾルバ20の検出信号が図7中の一点鎖線で示したような態様を示した時は、第1吸気カムシャフト83が正常に回転していると判定する。
【0101】
ここで図5の故障判定処理ルーチンに戻り、前記S103において前記カムシャフトが正常に回転していると判定された場合は、ECU14は、モータの強制作動を停止して本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S103において前記カムシャフトが正常に回転していないと判定された場合は、ECU14はS104へ進む。
【0102】
S104では、ECU14は、前記カムシャフトにより開閉されるバルブが設けられた気筒2の燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止する。
【0103】
S105では、ECU14は、車室内に設けられた出力装置を利用して故障発生を運転者に通知する。
【0104】
以上述べたようにECU14が故障判定処理ルーチンを実行することにより本発明にかかる制御手段及び故障判定手段が実現される。従って、本実施例によれば、各カムシャフトが正常に動作可能であるか否かを燃料噴射弁12や点火プラグ13の作動前に判定することができる。その結果、吸気ポート6や気筒2の内部に未燃燃料が残留し、或いは気筒2内の既燃ガスが吸気ポート6や吸気通路60へ逆流して騒音や熱害を発生させる等の問題を回避することができる。
【0105】
<実施例2>
次に、本発明の第2の実施例について図9〜図13に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0106】
前述した第1の実施例では、各モータに対して正規の起動要求が発生する前に各モータを強制起動させて故障判定を行う例について述べた。
【0107】
各モータの故障判定が終了した後に各モータが停止されると、正規の起動要求発生時に各モータにかかる負荷が大きくなるため、各カムシャフトが正常に回転しない場合が考えられる。そこで、本実施例の故障判定処理では、各モータを強制起動させてから正規の起動要求が発生するまで、各モータを作動させ続けるようにした。
【0108】
ところで、燃料噴射弁12や点火プラグ13は、正規の起動要求が発生する前に作動する場合がある。このため、吸気バルブ8や排気バルブ9が不用意に開弁すると、前述したような種々の問題が発生する可能性がある。
【0109】
これに対し、ECU14は、燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動前に各カムシャフトが少なくとも1回転するように各モータを制御(第1制御)し、その後は各バルブがリフトしない範囲で各カムシャフトが揺動するように各モータを制御(第2制御)するようにした。
【0110】
更に、ECU14は、前記第1制御実行時と前記第2制御実行時の双方において故障判定を行うようにした。故障判定は、正規の起動要求が発生するまで継続されてもよく、或いは燃料噴射弁12の作動時或いは点火プラグ13の作動時に終了されてもよい。
【0111】
このような方法により故障判定が行われると、各モータが強制起動されてから正規の起動要求が発生するまで各モータ及び各カムシャフトが間断なく動作するため、起動要求発生時に各カムシャフトが正常に動作し易くなる。その結果、故障判定結果の信頼性、及び動弁系の信頼性を高めることができる。更に、各カムシャフトが正常に回転可能か否かに加え、各カムシャフトが正常に揺動可能か否かも判別することができるので、故障判定精度を高めることもできる。
【0112】
尚、各カムシャフトの回転時又は揺動時に故障が検出された場合は、前述した第1の実施例と同様に、以後の運転を中止してもよく、若しくは正常に回転及び揺動可能なカムシャフトにより運転を継続してもよい。
【0113】
図9は、内燃機関1の始動時(クランキング時)に排気カムシャフト92の故障判定処理を行う例を示す図である。図9において、ECU14は、第3モータ24を強制起動させた時に、先ず排気カムシャフト92を1回転させるように第3モータ24を制御すると
ともに、第3レゾルバ26の検出信号に基づいて排気カムシャフト92が正常に1回転したか否かを判別する(図9中の回転期間を参照)。
【0114】
前記した回転期間において排気カムシャフト92が正常に1回転したと判定された場合は、ECU14は、正規の起動要求が発生するまで排気カムシャフト92を揺動させるべく第3モータ24を制御するとともに、第3レゾルバ26の検出信号に基づいて排気カムシャフト92が正常に揺動しているか否かを判別する(図9中の揺動期間を参照)。
【0115】
その際、ECU14は、1番気筒(#1)〜4番気筒(#4)の何れの排気バルブ9も開弁しない範囲で排気カムシャフト92を揺動させる。例えば、ECU14は、図10に示すように、排気カム91のベース円部がバルブリフタ90と接触する範囲内(図10中のA)で排気カムシャフト92が揺動するように第3モータ24を制御する。
【0116】
第1吸気カムシャフト83及び第2吸気カムシャフト84については、図11及び図12に示すように、第1吸気カム81のベース円部がバルブリフタ80と接触する範囲(図11及び図12中のB)で第1吸気カムシャフト83及び第2吸気カムシャフト84を揺動させる。
【0117】
次に、本実施例における故障判定処理の実行手順について図13に沿って説明する。図13は、故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。図13において、前述した第1の実施例の故障判定処理ルーチン(図5を参照)と同等のステップには同一の符号が付されている。
【0118】
故障判定処理ルーチンにおいて、ECU14は、S103においてカムシャフトが正常に回転したと判定した場合に、S201へ進む。S201では、ECU14は、前記カムシャフトを回転状態から揺動状態へ移行させるべくモータを制御する。
【0119】
ところで、内燃機関1の始動時やプレヒート運転時は、ECU14が起動要求発生タイミングを正確に把握することができる。しかしながら、減速運転状態からの復帰に伴う起動要求発生タイミングや減筒運転状態からの復帰に伴う起動要求発生タイミングは、運転者の操作によって変動する可能性がある。
【0120】
そこで、カムシャフトが1回転する前に燃料噴射弁12又は点火プラグ13が作動された場合は、ECU14は、その時点でカムシャフトを回転状態から揺動状態へ移行させるべくモータを制御してもよい。すなわち、ECU14は、燃料噴射弁12又は点火プラグ13が作動されるまではカムシャフトを回転させるべくモータを制御し、燃料噴射弁12又は点火プラグ13が作動された後はカムシャフトを揺動させるべくモータを制御することにより、故障判定処理を行うようにしてもよい。
【0121】
このように回転制御と揺動制御が切り換えられると、未燃燃料が吸気系や排気系へ逆流したり、既燃ガス(或いは燃焼途中のガス)が吸気系や排気系へ噴出したりすることが確実に防止される。
【0122】
S202では、ECU14は、前記モータのレゾルバの検出信号に基づいて前記カムシャフトが正常に揺動しているか否かを判別する。具体的には、ECU14は、前記カムシャフトが正常に正転及び逆転しているか否か、及び正転・逆転速度と目標値との差が許容範囲内であるか否かを前記レゾルバの検出信号に基づいて判別する。
【0123】
前記S202において前記カムシャフトが正常に揺動していないと判定された場合は、ECU14は、S105へ進む。一方、前記S202において前記カムシャフトが正常に
揺動していると判定された場合は、ECU14は、S203へ進む。
【0124】
S203では、ECU14は、正規の起動要求が発生したか否かを判別する。前記S203において否定判定された場合は、ECU14は、前記S201へ戻る。一方、前記S203において肯定判定された場合は、ECU14は、故障判定処理の実行を終了するとともに、正規の起動要求に従って前記カムシャフトを回転又は揺動させるべく前記モータを制御する。
【0125】
以上述べたようにECU14が図13の故障判定処理ルーチンを実行することにより、カムシャフトが正常に回転することができるか否かを判定することができるとともに、カムシャフトが正常に揺動することができるか否かを判定することもできる。その結果、故障判定精度が高くなる。
【0126】
更に、カムシャフトが正常に回転すると判定された後は、正規の起動要求が発生するまでカムシャフトの揺動が継続されるため、正規の起動要求発生時にモータが正常にカムシャフトを回転又は揺動させることが可能となる。その際、吸気バルブ8および/または排気バルブ9が開弁(リフト)しない範囲でカムシャフトが揺動されるため、燃料噴射弁12や点火プラグ13が作動した後であっても内燃機関1の運転状態に影響を与えることなくカムシャフトを揺動させ続けることができる。
【0127】
尚、モータが強制起動されるタイミングは、故障判定処理の実行に要する時間を起動要求発生時期から減算した時期に設定されてもよい。この場合、カムシャフトの揺動期間が可及的に短くなるため、故障判定処理の実行に起因した消費電力の増加を最小限に抑えることもできる。
【0128】
<実施例3>
次に、本発明の第3の実施例について図14に基づいて説明する。ここでは前述した第2の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0129】
前述した第2の実施例では、各モータが強制起動された時に回転制御と揺動制御の双方が必ず実行される例について述べた。
【0130】
モータ(及びカムシャフト)の停止期間が長くなると、カムやバルブの摺動部の油膜が薄くなったり、潤滑油の粘性が高くなったりする。そのような場合は、カムやバルブが動作し始める時のフリクションが大きくなる。
【0131】
逆に、モータの停止期間が短い場合は、カムやバルブの摺動部の油膜が十分な厚さを維持しているとともに、潤滑油の粘性が低くなる。そのような場合は、カムやバルブが動作し始める時のフリクションが小さくなる。
【0132】
従って、モータの停止期間が短くなるほど、カムシャフトが正常に回転し易いと言える。このため、モータの停止期間が短い場合は、カムシャフトが正常に揺動可能であれば、該カムシャフトが正常に回転することも可能であるとみなすことができる。
【0133】
そこで、本実施例の故障判定処理では、ECU14は、モータの停止期間が長い場合に回転制御と揺動制御との双方を行い、モータの停止期間が短い場合には揺動制御のみを行うようにした。
【0134】
このような方法により故障判定処理が行われると、故障判定精度の低下を抑制しつつ、故障判定処理の実行に起因した消費電力の増加を最小限に抑えることができる。
【0135】
以下、本実施例における故障判定処理の実行手順について図14に沿って説明する。図14は、本実施例における故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。図14において、前述した第2の実施例の故障判定処理ルーチン(図13を参照)と同等のステップには同一の符号が付されている。
【0136】
故障判定処理ルーチンにおいて、ECU14は、S101において肯定判定された場合に、S301へ進む。S301では、カムシャフトの停止期間が一定期間以上であるか否かを判別する。この判別方法としては、(1)モータの停止時間を計測するカウンタを設け、該カウンタの計測時間が一定期間以上であるか否かを判別する方法(この場合の一定期間は、カムやバルブの摺動部の油膜が許容範囲より薄くなるまでにかかる所要時間や、潤滑油の粘性が許容範囲より高くなるまでにかかる所要時間に相当する)、(2)水温センサ16の計測値(冷却水温度)が基準水温より低い場合に停止期間が一定期間以上であるとみなす方法、或いは(3)内燃機関1の潤滑油の温度を計測するセンサを設け、該センサの計測値(油温)が基準油温より低い場合に停止期間が一定期間以上であるとみなす方法等を例示することができる。
【0137】
前記S301において肯定判定された場合は、ECU14は、S102へ進む。この場合、ECU14は、カムシャフトを少なくとも1回転させるべくモータを制御(回転制御)して故障判定を行うとともに、カムシャフトを揺動させるべくモータを制御(揺動制御)して故障判定を行う。
【0138】
一方、前記S301において否定判定された場合は、ECU14は、S201へ進む。この場合、ECU14は、揺動制御のみを実行して故障判定を行う。但し、前回の故障判定実行時にカムシャフトが正常に回転又は揺動しないと判定された場合は、カムシャフトの停止期間が一定期間以下であっても回転制御と揺動制御の双方が実行されるようにしてもよい。
【0139】
以上述べたようにECU14が故障判定処理ルーチンを実行することにより、本発明にかかる制御手段、故障判定手段、及び判別手段が実現される。その結果、故障判定精度の低下を抑制しつつ、故障判定処理の実行に起因した消費電力の増加を最小限に抑えることができる。
【0140】
<実施例4>
次に、本発明の第4の実施例について述べる。ここでは、前述した第1〜第3の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0141】
前述した第1〜第3の実施例では、正規の起動要求が発生する前であって各モータが停止状態にある時に故障判定が行われる例について述べた。本実施例では、各モータが停止状態にあるか否かに関わらず故障判定が行われる例について述べる。
【0142】
ECU14は、イグニッションスイッチ17がオンである時に周期的に故障判定処理を行う。ECU14は、故障判定処理を実行する時に各モータが停止状態にあれば、前述した第1〜第3の実施例で述べた何れかの方法により故障判定処理を実行する。また、ECU14は、故障判定処理を実行する時に各モータが作動状態にあると、各カムシャフトが内燃機関1の運転条件に適合した状態で回転又は揺動したか否かを判定する。
【0143】
ECU14は、故障判定処理を実行し終えた後はたとえ各モータの停止要求が発生しても次回の起動要求発生時まで各モータを継続的に作動させる。ここでいう停止要求は、減速フューエルカット運転や減筒運転等に伴うバルブの停止又は休止を目的とした停止要求
であり、内燃機関1の運転停止(イグニッションスイッチ17のオフ)に付随した停止要求は含まない。よって、故障判定処理の実行終了後において次回の起動要求が発生する前にイグニッションスイッチ17がオンからオフへ切り換えられると、ECU14は、各モータの強制作動を終了することになる。
【0144】
故障判定処理の実行終了時から次回の起動要求発生時まで各モータが強制的に継続作動させられると、故障判定結果の信頼性を高めることができる。例えば、故障判定処理の実行終了後に各モータの作動が停止されると、次回の起動要求発生時に各カムシャフトが正常に動作しない可能性がある。このため、故障判定処理によりカムシャフトが正常に動作したと判定されても次回起動時にカムシャフトが正常に動作しない事態が発生し得る。これに対し、故障判定処理の実行終了時から次回の起動要求発生時まで各モータが強制的に継続作動されると、上記した事態の発生を回避することが可能になる。
【0145】
尚、各モータが作動状態にある時に故障判定処理が行われ、正常に動作しないカムシャフトが検出された場合は、ECU14は、前記カムシャフトにより開閉されるバルブが設けられた気筒2の燃料噴射弁12及び点火プラグ13の作動を禁止しつつ、前記カムシャフトを駆動するモータの作動を継続させてもよい。
【0146】
これは、モータの継続作動により油膜の形成、潤滑油の温度上昇、或いは潤滑油の粘性低下を図られると、前記カムシャフトが正常に動作可能な状態に復帰する可能性があるからである。
【0147】
前記カムシャフトが正常に動作可能な状態に復帰したか否かを判別するためには、故障判定終了時から次回起動要求発生時までの期間において故障判定処理が周期的に行われてもよく、或いは次回起動要求発生時に故障判定処理が再度行われてもよい。
【0148】
次回起動要求発生時に故障判定処理が再度行われるための好ましい態様としては、次回起動要求発生時に前記カムシャフトにより開閉されるバルブが閉弁状態にある態様を例示することができる。
【0149】
次回起動要求発生時に前記カムシャフトにより開閉されるバルブが閉弁状態にあると、ECU14は、起動要求に従ってモータを作動させる前に前記バルブがリフトしない範囲でカムシャフトが揺動するようにモータを作動させることができるとともに、前記カムシャフトが正常に揺動しているか否かを判別することもできる。
【0150】
従って、内燃機関1の運転状態に影響を与えることなく、前記カムシャフトが正常に動作可能であるかを判定することが可能になる。その結果、故障判定結果の信頼性及び動弁系の信頼性を高めることが可能となる。
【0151】
ところで、故障判定処理の実行終了時(詳細には、故障判定処理実行終了後の停止要求発生時)から次回の起動要求発生時までの間隔が過剰に長くなると、各モータの強制作動によって消費電力が膨大になる可能性がある。そこで、故障判定終了時から一定時間以内に次回の起動要求が発生しない場合は、ECU14は、故障判定終了時から一定時間が経過した時点で各モータの強制作動を終了してもよい。この場合、消費電力の過剰な増加を防止することができる。
【0152】
尚、前述した第1〜第4の実施例では、レゾルバの検出信号に基づいてカムシャフトが正常に回転又は揺動しているか否かを判別する方法を例示したが、各カムシャフトにカムポジションセンサが設けられている場合にはカムポジションセンサの測定値に基づいてカムシャフトが正常に回転又は揺動しているか否かを判別するようにしてもよい。また、各
モータの要求駆動トルクの増減に基づいてカムシャフトが正常に回転しているか否かを判別するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】内燃機関の動弁システムの概略構成を示す図である。
【図2】吸気側駆動機構の構成を示す図である。
【図3】排気側駆動機構の構成を示す図である。
【図4】第1の実施例において排気カムシャフトの故障判定方法を示すタイミングチャートである。
【図5】第1の実施例における故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第1レゾルバの検出信号と第1吸気カムの位相との関係を示す図である。
【図7】第1吸気カムシャフトが回転しない場合の第1レゾルバの検出信号を示す図である。
【図8】第1吸気カムシャフトの回転速度が目標値から懸け離れている場合の第1レゾルバの検出信号を示す図である。
【図9】第2の実施例において排気カムシャフトの故障判定方法を示すタイミングチャートである。
【図10】排気カムシャフトの揺動範囲を示す図である。
【図11】第1吸気カムシャフトの揺動範囲を示す図である。
【図12】第2吸気カムシャフトの揺動範囲を示す図である。
【図13】第2の実施例における故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】第3の実施例における故障判定処理ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0154】
1・・・・・内燃機関
2・・・・・気筒
6・・・・・吸気ポート
7・・・・・排気ポート
8・・・・・吸気バルブ
9・・・・・排気バルブ
10・・・・吸気側駆動機構
11・・・・排気側駆動機構
12・・・・燃料噴射弁
13・・・・点火プラグ
14・・・・ECU
15・・・・クランクポジションセンサ
18・・・・第1モータ
19・・・・第1出力ギヤ
20・・・・第1レゾルバ
21・・・・第2モータ
22・・・・第2出力ギヤ
23・・・・第2レゾルバ
24・・・・第3モータ
25・・・・第3出力ギヤ
26・・・・第3レゾルバ
60・・・・吸気通路
70・・・・排気通路
80・・・・バルブリフタ
81・・・・第1吸気カム
82・・・・第2吸気カム
83・・・・第1吸気カムシャフト
84・・・・第2吸気カムシャフト
85・・・・第1ドリブンギヤ
86・・・・第2ドリブンギヤ
87・・・・中間ギヤ
90・・・・バルブリフタ
91・・・・排気カム
92・・・・排気カムシャフト
93・・・・第3ドリブンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、
停止状態の駆動源に対して起動要求が発生する前に、該駆動源を強制起動させる制御手段と、
前記制御手段により駆動源が強制起動された時に、前記カムが正常に動作したか否かを判定する故障判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項2】
請求項1において、前記制御手段は、前記駆動源を強制起動させた時に、前記カムが少なくとも1回転するように前記駆動源を制御することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項3】
請求項1において、前記制御手段は、前記駆動源を強制起動させた時に、前記バルブがリフトしない範囲で前記カムが揺動するように前記駆動源を制御することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項4】
請求項1において、前記制御手段は、前記駆動源を強制起動させた時に、前記カムが少なくとも1回転するように前記駆動源を制御する第1制御と、前記バルブがリフトしない範囲で前記カムが揺動するように前記駆動源を制御する第2制御とを行うことを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一において、前記制御手段は、前記駆動源を強制起動してから前記起動要求が発生するまで前記駆動源の作動を継続し、
前記故障判定手段は、前記制御手段により前記駆動源の作動が継続されている間は、前記カムが正常に動作しているか否かの判定を継続することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項6】
請求項4において、前記駆動源の停止期間が一定期間以上であるか否かを判別する判別手段を更に備え、
前記制御手段は、前記判別手段により前記駆動源の停止期間が一定期間以上であると判別された場合は前記第1制御と前記第2制御を実行し、前記判別手段により前記駆動源の停止期間が一定期間未満であると判別された場合は前記第2制御のみ行うことを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項7】
請求項6において、前記判別手段は、内燃機関の冷却水の温度が基準水温より低い場合に、前記駆動源の停止期間が一定期間以上であるとみなすことを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一において、前記制御手段は、前記起動要求が発生する前であって、燃料噴射弁の作動前に前記駆動源を強制起動することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一において、前記制御手段は、前記起動要求が発生する前であって、点火プラグの作動前に前記駆動源を強制起動させることを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか一において、前記制御手段は、前記起動要求発生時から故障判定に要する時間を差し引いた時期に前記駆動源を強制起動することを特徴とする内燃機関の
動弁システム。
【請求項11】
内燃機関と独立した駆動源により回転又は揺動されるカムがバルブを開閉させる内燃機関の動弁システムにおいて、
前記カムが正常に動作したか否かを判定する故障判定手段と、
前記故障判定手段による故障判定終了時から次回の起動要求が発生するまで、前記駆動源の作動を強制的に継続させる制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項12】
請求項11において、前記制御手段は、前記故障判定手段による故障判定終了時から一定時間以内に次回の起動要求が発生しない場合は、前記一定時間が経過した時点で前記駆動源の作動を停止させることを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項13】
請求項11又は12において、次回の起動要求発生時に前記バルブが全閉状態にある場合は、前記制御手段は、前記起動要求に従って前記バルブを開弁させる前に、前記バルブがリフトしない範囲で前記カムを揺動させるべく前記駆動源を制御し、
前記故障判定手段は、前記制御手段が前記カムを揺動させるべく前記駆動源を制御している時に前記カムが正常に動作したか否かを判定し、前記カムが正常に動作したと判定した場合は前記起動要求に基づく前記バルブの開弁を許可することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一において、前記駆動源の回転位置を検出する第1検出手段を更に備え、
前記故障判定手段は、前記第1検出手段の検出信号に基づいて前記カムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別することを特徴とする内燃機関の動弁システム。
【請求項15】
請求項1〜13の何れか一において、前記駆動源に要求される駆動トルクを検出する第2検出手段を更に備え、
前記故障判定手段は、前記第2検出手段の検出信号に基づいて前記カムが正常に回転又は揺動しているか否かを判別することを特徴とする内燃機関の動弁システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−97450(P2009−97450A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270594(P2007−270594)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】