説明

内燃機関の潤滑油供給装置

【課題】バランサ軸の一端に潤滑油ポンプを備えながら、バランサ軸に油路を設けなくて済むような内燃機関の潤滑油供給装置を提供することを課題とする。
【解決手段】潤滑油を潤滑油ポンプ25へ導く吸入油路48と、潤滑油ポンプ25で加圧された潤滑油をシャフト内油路53へ導く吐出油路49が、クランクケース11の肉厚内に設けられている。
【効果】バランサ軸14の一端に潤滑油ポンプ25を備えながら、バランサ軸14に油路を設けなくて済むような内燃機関10の潤滑油供給装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用エンジンに好適な潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、潤滑油ポンプで加圧した潤滑油を回転部材の摺動部位へ供給し、回転運動の円滑化を図っている。
潤滑油ポンプをオイル溜まり中に配置した内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1の図1に示されるように、クランクケース(2)(括弧付き数字は、特許文献1に記載されている符号を示す。以下、同様)の底にオイル溜め(30)があり、このオイル溜め(30)に漬かるようにして潤滑油ポンプ(32)が設けられている。
【0004】
クランク軸(1)に駆動ギヤ(34)が一体形成され、この駆動ギヤ(34)で従動ギヤ(35)が駆動され、この従動ギヤ(35)で潤滑油ポンプ(32)が駆動される。
エンジンを小型化すると共に部品点数の削減を図ることが求められる場合には、駆動ギヤ(34)及び従動ギヤ(35)を省くことが望まれる。
そこで、駆動ギヤ(34)及び従動ギヤ(35)を省いた汎用エンジンが提案されている(例えば、特許文献2(図1)参照。)。
【0005】
特許文献2の技術を図面に基づいて以下に説明する。
図6は従来の技術の基本構成を説明する図であり、クランクケース101の側壁102に、軸受103を介してバランサ軸104の一端が支持されている。このバランサ軸104の一端にポンプ軸105が機械的に連結され、このポンプ軸105に潤滑油ポンプ106のインナーロータ107が結合され、このインナーロータ107にアウターロータ108が嵌められている。
【0006】
バランサ軸104には、一端から軸中心線に沿って長い油路109が設けられている。 潤滑油は、吸入口111を通じて潤滑油ポンプ106に吸い込まれ、潤滑油ポンプ106から吐出される。吐出された潤滑油は、吐出口112から油路109を通って、エンジンの潤滑対象部へ送られる。
【0007】
バランサ軸104の一端に潤滑油ポンプ106が連結されたので、特許文献1に示される駆動ギヤ(34)及び従動ギヤ(35)が不要となる。
しかし、バランサ軸104に長い油路109を設ける必要がある。バランサ軸104は、クランク軸のアンバランス要素を、打ち消すことができるようなアンバランスな形状の部材であり、且つデリケートな部材である。このようなバランサ軸104に長い油路109を設けることは、加工費の高騰に加えて、バランサ軸104の形状設計が難しくなり、設計費の高騰に繋がる。
【0008】
そこで、バランサ軸の一端に潤滑油ポンプを備えながら、バランサ軸に油路を設けなくて済むような内燃機関の潤滑油供給装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−51649公報
【特許文献2】実開平5−14505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、バランサ軸の一端に潤滑油ポンプを備えながら、バランサ軸に油路を設けなくて済むような内燃機関の潤滑油供給装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、クランクケースにクランクシャフト及びバランサ軸が収納され、前記クランクシャフトに潤滑油をクランク軸受へ導くシャフト内油路が設けられており、このシャフト内油路へ潤滑油を供給することで前記クランク軸受へ潤滑油を供給する内燃機関の潤滑油供給装置であって、
前記クランクケースに溜まっている潤滑油を吸い込み、加圧する潤滑油ポンプが、前記バランサ軸の一端に連結された形態で配置され、
前記クランクケースに溜まっている潤滑油を前記潤滑油ポンプへ導く吸入油路が、前記クランクケースの肉厚内に設けられると共に、前記潤滑油ポンプで加圧された潤滑油を前記シャフト内油路へ導く吐出油路が、前記クランクケースの肉厚内に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、クランクケースに溜まっている潤滑油を潤滑油ポンプへ導く吸入油路及び潤滑油ポンプで加圧された潤滑油をシャフト内油路へ導く吐出油路が、クランクケースの肉厚内に設けられている。
結果、バランサ軸の一端に潤滑油ポンプを備えながら、バランサ軸に油路を設けなくて済むような内燃機関の潤滑油供給装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関の要部断面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】潤滑油ポンプの作用説明図である。
【図5】クランクケースの要部断面図である。
【図6】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、内燃機関10のクランクケース11に、クランクシャフト12とバランサ軸13とが互いに平行となるようにして設けられている。
【0016】
クランクシャフト12は、クランクケース11を閉じるケースリッド14に設けられている、玉軸受15と、クランクケース11に設けられている平軸受16とで、両端支持されている。玉軸受は、ころがり軸受であればよく、ころ軸受であってもよい。
また、バランサ軸13はクランクシャフト12のアンバランス要素を相殺することができるように想像線で示すようなアンバランスな形状とされた回転部品であり、ケースリッド14に設けられている玉軸受17と、クランクケース11に設けられている玉軸受18とで、両端支持されている。ケースリッド14はボルト19を緩めることで、クランクケース11から外すことができる。
【0017】
クランクシャフト12には、玉軸受15の近傍に、大径の第1駆動ギヤ21と小径の第2駆動ギヤ22とが一体形成されている。
また、バランサ軸13に第1従動ギヤ23が一体形成されており、この第1従動ギヤ23が第1駆動ギヤ21により駆動される。
【0018】
そして、バランサ軸13の一端(ケースリッド14から遠い方の端)に潤滑油ポンプ25が機械的に連結されている。すなわち、ポンプ軸26がバランサ軸13の軸線上に配置されている。潤滑油ポンプ25の構造及び作用は後述するが、平軸受16に設けた環状溝27及びコンロッド28の大端部が連結されるクランク軸受29に潤滑油ポンプ25で潤滑油を強制的に供給させる。
【0019】
クランクシャフト12とクランクケース11はオイルシール31でシールされ、クランクシャフト12とケースリッド14はオイルシール32でシールされているため、潤滑油が外へ漏れる心配はない。
クランクシャフト12の一端にフライホイール33が取付けられ、バランサ軸13と共にフライホイール33によりクランクシャフト12の円滑回転を図ることができる。
【0020】
次に、内燃機関の全体的な構造を説明する。
図2に示すように、内燃機関10は、クランクケース11と、このクランクケース11から斜め上に延びるシリンダ部34と、このシリンダ部34に嵌められたシリンダライナー35と、このシリンダライナー35に移動自在に収納されるピストン36と、このピストン36から延びるコンロッド28と、シリンダ部34の開口を塞ぐシリンダヘッド37と、クランクケース11に収納されているクランクシャフト12と、このクランクシャフト12より下位で且つシリンダ部34へ寄った位置でクランクケース11に収納されているカムシャフト38と、クランクシャフト12より下位で且つ反シリンダ部34側へ寄った位置でクランクケース11に収納されているバランサ軸13と、バランサ軸13の奥に配置されている潤滑油ポンプ25と、次に述べるギヤ群及び動弁機構40とからなる。
【0021】
クランクシャフト12に第1駆動ギヤ21及びこの第1駆動ギヤ21より小径の第2駆動ギヤ22が設けられており、大径の第1駆動ギヤ21に第1従動ギヤ23が噛み合い、この第1従動ギヤ23によりバランサ軸13及び潤滑油ポンプ25が駆動される。
また、小径の第2駆動ギヤ22に大径の第2従動ギヤ41が噛み合い、この第2従動ギヤ41によりカムシャフト38が駆動される。このカムシャフト38が動弁機構40の駆動源となる。
【0022】
すなわち、動弁機構40は、カムシャフト38と、このカムシャフト38のカム42で押し上げられるプッシュロッド43と、シリンダヘッド37に揺動自在に支持されプッシュロッド43で揺動されバルブ44を開くロッカアーム45と、バルブ44を弁閉するバルブスプリング46とからなる。動弁機構40により、ピストン36のポジション(クランクシャフト12の回転角度)に対応してバルブ44を開閉させることができる。
【0023】
次に、図2と視点を180°変えた図3に基づいて、潤滑油ポンプ25を要部とする潤滑油供給装置を説明する。
図3に示すように、潤滑油供給装置47は、潤滑油ポンプ25と、この潤滑油ポンプ25の吸入油路48及び吐出油路49とからなる。詳細には、吸入油路48は潤滑油ポンプ25の油吸入部51に繋がっている。吐出油路49は潤滑油ポンプ25の油吐出部52から延びて平軸受(図1、符号16)の環状溝27に繋がっている。そして、環状溝27はシャフト内油路53でクランク軸受(図1、符号29)に繋がっている。
【0024】
次に、潤滑油ポンプ25の構造と作用を説明する。
図4(a)に示すように、潤滑油ポンプ25は、ポンプ軸26と、このポンプ軸26で図反時計方向に回され複数(この例では4個)の歯55を有するインナーロータ56と、このインナーロータ56より多い複数(この例では5個)の内歯57を有しインナーロータ56で回されるアウターロータ58と、このアウターロータ58を回転自在に収納するポンプハウジング部59とからなるトロコイドポンプが好適である。ポンプハウジング部59はクランクケースの一部である。
【0025】
インナーロータ56とアウターロータ58とで歯数が異なるため、(a)に斜線で示すようなポンプ空間61ができる。このポンプ空間61は(b)では、増大する。この容積増大により、吸引作用が起こり、油吸入部51を介して潤滑油がポンプ空間61に導かれる。(c)でポンプ空間61が油吸入部51から油吐出部52へ移り、(d)でポンプ空間61から潤滑油が油吐出部52へ吐出される。
すなわち、ポンプ空間61が容積変化し、容積が増大する過程では潤滑油が吸引され、容積が減少する過程では潤滑油が吐出される。
【0026】
このような潤滑油ポンプ25を要部とする潤滑油供給装置47の好適なレイアウトを図5で説明する。
潤滑油ポンプ25は、図5に示すように、クランクケース11の肉厚内に収納されている。加えて、クランクケース11に溜まっている潤滑油を潤滑油ポンプ25へ導く吸入油路48が、クランクケース11の肉厚内に設けられると共に、潤滑油ポンプ25で加圧された潤滑油をシャフト内油路(図3、符号53)へ導く吐出油路49が、クランクケース11の肉厚内に設けられている。
【0027】
なお、吸入油路48及び吐出油路49は、クランクケース11の肉厚内において、斜めや直交して設けることは差し支えない。例えば、吸入油路48は、クランクケース11の底面からキリで開けられ、油吸入部51まで延びる直線通路62と、この直線通路62の途中からクランクケース11の油溜まりへ通じる通孔63と、直線通路62の不要部分を塞ぐスチールボール(又はプラグ)64とで構成することができる。この構成にすれば、吸入油路48や吐出油路49を、クランクケース11の肉厚内に容易に形成することができる。
【0028】
図から明らかなように、バランサ軸13の一端に潤滑油ポンプ25を備えながら、バランサ軸13に油路を設けなくて済む。バランサ軸に油路を設ける従来の技術に比較して、本発明では、バランサ軸13の加工が軽微となり、バランサ軸13の設計が容易になる。
【0029】
なお、インナーロータ56とアウターロータ58とにより圧縮された潤滑油は、インナーロータ56及びアウターロータ58と玉軸受18との間に設けたシール板65でシールされるため、玉軸受18側へ許容量を超えて漏れる心配はない。
【0030】
尚、潤滑油ポンプ25は、トロコイドポンプが好適であるが、ギヤポンプやベーンポンプであってもよく、形式は任意である。
また、潤滑油供給装置は、内燃機関に広く採用可能であるが、軽量、小型化が厳しく求められる小型の汎用エンジンに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の潤滑油供給装置は、小型の汎用エンジンに好適である。
【符号の説明】
【0032】
10…内燃機関、11…クランクケース、12…クランクシャフト、13…バランサ軸、29…クランク軸受、47…潤滑油供給装置、48…吸入油路、49…吐出油路、53…シャフト内油路、62…直線通路、63…通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースにクランクシャフト及びバランサ軸が収納され、前記クランクシャフトに潤滑油をクランク軸受へ導くシャフト内油路が設けられており、このシャフト内油路へ潤滑油を供給することで前記クランク軸受へ潤滑油を供給する内燃機関の潤滑油供給装置であって、
前記クランクケースに溜まっている潤滑油を吸い込み、加圧する潤滑油ポンプが、前記バランサ軸の一端に連結された形態で配置され、
前記クランクケースに溜まっている潤滑油を前記潤滑油ポンプへ導く吸入油路が、前記クランクケースの肉厚内に設けられると共に、前記潤滑油ポンプで加圧された潤滑油を前記シャフト内油路へ導く吐出油路が、前記クランクケースの肉厚内に設けられていることを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−144701(P2011−144701A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3990(P2010−3990)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】