説明

内燃機関の燃料供給装置

【課題】燃料供給経路を切り替えることにより燃料噴射圧を切り替える内燃機関の燃料供給装置において、高圧リターン通路に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結して高圧リターン通路が閉塞されることを抑制することのできる内燃機関の燃料供給装置を提供する。
【解決手段】燃料供給装置は、デリバリパイプ30から余剰燃料を燃料タンク10に戻す高圧リターン通路40と、メイン通路20から余剰燃料を燃料タンク10に戻す低圧リターン通路50と、低圧リターン通路50を開放・閉塞する切替弁52とを備えている。電子制御装置60は、機関停止後に切替弁52を閉弁して低圧リターン通路50を閉鎖した状態に保持するとともに、フィードポンプ11を駆動して高圧リターン通路40に燃料を流動させる強制リターン処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料供給経路を切り替えることにより、燃料噴射圧を切り替えることのできる内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃料供給装置にあっては、内燃機関の高出力化や、ガソリンよりも理論空燃比の小さなアルコール含有燃料の使用等に対応するため、より多くの燃料を燃焼室内に供給することが必要とされている。インジェクタから噴射される燃料の量は、インジェクタの開弁期間と、インジェクタが接続されたデリバリパイプ内の燃量の圧力、すなわち燃料噴射圧とに基づいて変化するが、燃料噴射量の制御は基本的にはインジェクタの開弁期間の変更に基づいて行われる。しかし、吸気行程中に燃料を噴射し、空気と燃料の混合気を形成する吸気行程噴射にあっては、インジェクタの最大開弁期間が吸気行程の長さによって制限されるため、開弁期間の延長には自ずと限界があり、開弁期間の延長のみでは上記のような要求に対応すべく燃料噴射量を大幅に増大させることは困難である。
【0003】
ここで、燃料噴射圧をより高い値に設定すれば、単位時間あたりの燃料噴射量を増大させることができるためインジェクタの最大開弁期間が制限される吸気行程噴射にあっても燃料噴射量を大幅に増大させることが可能となる。
【0004】
しかしながら、燃料噴射圧を高く設定した場合には、インジェクタの開弁期間の変更量に対する燃料噴射量の変化量も増大することとなる。インジェクタの開弁期間の最小変更量、すなわちインジェクタの制御分解能には限界があるため、一律に燃料噴射圧を高く設定した場合には燃料噴射量を変更する際の最小量が大きくなってしまい、燃料噴射量の緻密な制御を行うことができなくなってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の内燃機関の燃料供給装置にあっては、燃料噴射圧が所定圧力以上になったときに余剰燃料を燃料タンクに戻すリターン通路として、高圧レギュレータを備えた高圧リターン通路と、低圧レギュレータを備えた低圧リターン通路とを備え、機関運転状態に応じてこれらリターン通路を切り替えることにより燃料噴射圧を切り替えるようにしている。
【0006】
こうした燃料供給装置は、具体的には図5に示されるように燃料ポンプ1によって圧送される燃料をインジェクタが接続されたデリバリパイプ2に供給するメイン通路3に加え、高圧レギュレータ4を介しデリバリパイプ2に接続されて余剰燃料を燃料タンク5に戻す高圧リターン通路6と、低圧レギュレータ7を備えメイン通路3から分岐して余剰燃料を燃料タンク5に燃料を戻す低圧リターン通路8とを設けるとともに、低圧リターン通路8を開放・閉鎖する切替弁9を設けるといった構成によって実現することができる。
【0007】
こうした構成によれば、切替弁9を開弁した場合には、デリバリパイプ2内の燃料噴射圧が低圧レギュレータ7によって調節されるようになり比較的低い値に保持されるようになる。一方で、切替弁9を閉弁した場合には、デリバリパイプ2内の燃料噴射圧が高圧レギュレータ4によって調節されるようになり比較的高い値に保持されるようになる。これにより、高負荷運転時や機関冷間始動時のように大量の燃料を噴射する必要のある運転領域にあっては燃料噴射圧を高くして一度の吸気行程において大量の燃料を噴射する一方、通常の運転状態にあっては燃料噴射圧を低くして緻密な燃料噴射量制御を実行することができるようになる。
【特許文献1】特開平5‐59976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、こうした燃料供給装置にあっては、通常の運転状態では切替弁9が開弁されているため、余剰燃料は低圧レギュレータ7を備えた低圧リターン通路8を通じて戻され、高圧レギュレータ4よりも下流側の高圧リターン通路6には燃料が流動しないこととなる。そのため、低負荷運転が継続した場合のように、燃料噴射圧が低圧側に設定される状態が長期間に亘って継続した場合には、高圧リターン通路6に残留した燃料が蒸発してしまい、燃料タンク5から高圧リターン通路6に空気が侵入するようになる。その結果、その空気に含まれる水分が機関停止中に冷やされ、高圧リターン通路6に水滴が発生することがある。
【0009】
また、こうした高圧リターン通路を含む燃料配管は、そのレイアウトの関係上、湾曲した形状を有して燃料タンクに接続せざるを得ない場合がある。そのため、上記のように高圧リターン通路6内に発生した水滴は湾曲した高圧リターン通路6の低くなった部位(以下、滞留部と称する)に次第に溜まるようになる。このように高圧リターン通路内、特に上記のような滞留部に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結した場合には、高圧リターン通路6が閉塞されてしまい、次回機関運転時に切替弁9を閉弁した際に高圧リターン通路6を通じた燃料噴射圧の調整が行えず燃料噴射圧が過度に上昇してしまうこととなる。その結果、ひいては燃料噴射量が不必要に増大する等の不都合が生じるおそれがある。
【0010】
この発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は燃料供給経路を切り替えることにより燃料噴射圧を切り替える内燃機関の燃料供給装置において、高圧リターン通路に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結して高圧リターン通路が閉塞されることを抑制することのできる内燃機関の燃料供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、燃料ポンプによって圧送される燃料をインジェクタが接続されたデリバリパイプに供給するメイン通路と、上流側の部位と下流側の部位よりも鉛直方向下方に位置する部位を含むとともに、前記デリバリパイプ内の燃料噴射圧が第1の所定圧力以上になると開弁する第1プレッシャレギュレータを介し前記デリバリパイプに接続されて同デリバリパイプから余剰燃料を燃料タンクに戻す高圧リターン通路と、前記メイン通路に接続されるとともに、前記燃料噴射圧が前記第1の所定圧力よりも低い第2の所定圧力以上になると開弁する第2プレッシャレギュレータが設けられて余剰燃料を前記メイン通路から前記燃料タンクに戻す低圧リターン通路と、前記低圧リターン通路を開放・閉鎖する切替弁とを備え、機関運転状態に基づいて同切替弁の開閉状態を切り替えることにより前記デリバリパイプ内の燃料噴射圧を切り替える内燃機関の燃料供給装置において、機関停止後に前記切替弁を閉弁して前記低圧リターン通路を閉鎖した状態に保持するとともに、前記燃料ポンプを駆動して前記高圧リターン通路に燃料を流動させる強制リターン処理を実行することをその要旨とする。
【0012】
高圧リターン通路においてその上流側の部位と下流側の部位よりも鉛直方向下方に位置する部位には、高圧リターン通路内で発生した水滴がその内壁を伝い落ちて集まるため凝縮水が溜まりやすい。以下、このようにその上流側の部位と下流側の部位よりも鉛直方向下方に位置しており、凝縮水が溜まりやすい部位を滞留部と称する。
【0013】
上記構成によれば、機関停止後に強制リターン処理を実行し、高圧リターン通路に燃料を流動させるようにしているため、高圧リターン通路を流動する燃料によって高圧リターン通路内、特に滞留部に溜まっている凝縮水、及び水分を含んだ空気を燃料タンクに排出することができる。また、この強制リターン処理が終了し、燃料ポンプの駆動が停止した後も高圧リターン通路内、特に上記滞留部にはこの強制リターン処理によって流動した燃料の一部が残留するようになる。そのため、残留した燃料の容積の分だけ高圧リターン通路内に侵入する空気の量を低減することができ、機関停止中に高圧リターン通路内に発生する凝縮水の量を低減することができる。そしてこれらにより、高圧リターン通路に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結して高圧リターン通路が閉塞されることを抑制することができるようになる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置において、前記強制リターン処理に伴い前記高圧リターン通路を流動する燃料の量を積算しその積算量が同高圧リターン通路の容積以上になったことに基づいて前記強制リターン処理を終了することをその要旨とする。
【0015】
強制リターン処理に伴い高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路の容積以上になれば、高圧リターン通路は燃料によって満たされるようになるため、強制リターン処理実行前に高圧リターン通路内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気はそのほとんどが高圧リターン通路から燃料タンクに排出されるようになる。上記請求項2に記載の構成によれば、強制リターン処理に伴い高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路の容積以上となったことに基づいて強制リターン処理が終了されるようになる。そのため、強制リターン処理実行前に高圧リターン通路内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気をより確実に排出することができるようになる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置において、前記燃料ポンプは定格電圧が印加されることにより単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出するものであり、前記強制リターン処理に伴い前記高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が前記高圧リターン通路の容積以上となった旨の判定は、同強制リターン処理に伴い前記切替弁が閉弁されてから前記燃料ポンプの駆動が所定期間以上継続されたことに基づいてなされることをその要旨とする。
【0017】
一般に内燃機関の燃料ポンプは定格電圧が印加されることにより単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出する。こうした燃料ポンプにあっては、燃料ポンプの駆動時間に比例してその積算吐出量が増大する。そのため、強制リターン処理に伴い高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路の容積以上となった旨の判定は、上記請求項3に記載の発明によるように、強制リターン処理に伴い切替弁が閉弁されてから燃料ポンプの駆動が所定期間以上継続されたことに基づいて行うことができる。
【0018】
また、高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路の容積と等しくなり、高圧リターン通路が燃料で満たされた場合であっても、凝縮水の一部が高圧リターン通路の内壁に付着して残留する場合がある。ここで、上記所定期間をより長く設定するほど強制リターン処理に伴って高圧リターン通路を流動する燃料の量が多くなるため、このように高圧リターン通路に付着した凝縮水を洗い流す効果が大きくなる。しかしながら、この所定期間を長く設定するほど機関停止中に燃料ポンプを駆動する時間が長くなるため燃料ポンプを駆動するために消費される電力が増大することとなる。そのため、上記所定期間は燃料ポンプの駆動にかかる電力消費量と凝縮水を洗い流す効果との兼ね合いを考慮して設定することが望ましい。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、機関運転中の前記切替弁の開閉履歴に基づいて前記高圧リターン通路に燃料が残留しているか否かを判定する判定手段を更に備え、機関停止時に同判定手段によって高圧リターン通路に燃料が残留していない旨の判定がなされたことを条件に前記強制リターン処理を実行することをその要旨とする。
【0020】
機関運転中に切替弁が閉弁され、燃料噴射圧が高圧側に切り替えられた場合には、第1プレッシャレギュレータによって燃料噴射圧が調節されるようになり、余剰燃料が高圧リターン通路を通じて燃料タンクに戻される。そのため、機関運転中に切替弁が閉弁された場合には、高圧リターン通路内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気が排出され、機関停止後にあっても高圧リターン通路の一部には燃料が残留していることがある。上記請求項4に記載の構成によれば、機関運転中の切替弁の開閉履歴に基づいて高圧リターン通路に燃料が残留しているか否かを判定する判定手段を備え、機関停止時にこの判定手段によって高圧リターン通路に燃料が残留していない旨の判定がなされたことを条件に強制リターン処理を実行するようにしている。これにより、機関運転中の切替弁の開閉履歴に基づいて機関停止時に高圧リターン通路に燃料が残留しているか否かを判定し、この判定結果に基づいて機関停止中に高圧リターン通路に溜まった水が凍結するおそれがある場合にのみ、強制リターン処理を実行することができるようになる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の燃料供給装置において、前記判定手段は、機関運転中に前記切替弁が閉弁され前記高圧リターン通路を通じて余剰燃料が前記燃料タンクに戻されたことに基づいて第1の状態を示す値に設定される一方、前記切替弁が開弁され前記高圧リターン通路を通じて余剰燃料が戻されていない状態が所定期間継続したことに基づいて第2の状態を示す値に設定される情報値を記憶するメモリを備え、同メモリに記憶された前記情報値が機関停止時に前記第2の状態を示す値に設定されていることに基づいて前記高圧リターン通路に燃料が残留していない旨を判定することをその要旨とする。
【0022】
機関運転中に切替弁が閉弁され、余剰燃料が高圧リターン通路を通じて燃料タンクに戻された場合であっても、その後、機関運転中に切替弁が開弁され燃料が高圧リターン通路を流動しない状態が長期間継続した場合には、高圧リターン通路に溜まった燃料が内燃機関の燃焼熱の影響によって蒸発してしまい、高圧リターン通路内に空気が侵入するようになる。そこで、判定手段として具体的には請求項5に記載の構成によるように、機関運転中に切替弁が閉弁され高圧リターン通路を通じて余剰燃料が戻されたことに基づいて第1の状態を示す値に設定される一方、切替弁が開弁されてから所定期間経過したことに基づいて第2の状態を示す値に設定される情報値を記憶するメモリを設けるといった構成を採用することができる。こうした構成によれば、同メモリに記憶された情報値の値を参照することにより、同情報値が第2の状態を示す値に設定されていることに基づいて高圧リターン通路に燃料が残留していない旨をより正確に判定することができる。
【0023】
尚、機関運転中に高圧リターン通路を通じて余剰燃料が戻されたか否かの推定は、強制リターン処理に伴って高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路の容積以上となったか否かの判定と同様に、機関運転中に切替弁が閉弁されてからの燃料ポンプの駆動期間の長さに基づいて行うことができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の内燃機関の燃料供給装置において、機関運転状態に基づいて推定される前記内燃機関の燃焼熱が所定値以上になったときに、前記切替弁の閉閉履歴に基づく前記情報値の設定を無効化して同情報値を第2の状態を示す値に設定することをその要旨とする。
【0025】
また、内燃機関の燃焼熱が大きくなるほど、この燃焼熱によって温められる高圧リターン通路内の燃料の温度は高くなる。そのため、内燃機関の燃焼熱が非常に大きい場合には、比較的短い時間で高圧リターン通路に溜まった燃料が蒸発してしまう。そこで、上記請求項6に記載の発明では、機関運転状態に基づいて推定される内燃機関の燃焼熱が所定値以上になったときに切替弁の開閉履歴に基づく情報値の設定を無効化して情報値を第2の状態を示す値に再設定するようにしている。こうした構成によれば、内燃機関の燃焼熱が所定値以上であることに基づいて高圧リターン通路の燃料が蒸発し高圧リターン通路内に燃料が残留していない可能性が高い旨を判定し、情報値を再設定して強制リターン処理の実行を促すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明にかかる内燃機関の燃料供給装置をフレックス燃料車に搭載されるV型8気筒内燃機関の燃料供給装置に具体化した一実施形態について図1〜4を参照して説明する。尚、フレックス燃料車は、ガソリンはもとより、ガソリンとエタノールとを任意の混合比で混合したアルコール含有燃料を使用した場合であっても走行可能な車両である。
【0027】
図1(a)は本実施形態の燃料供給装置の概略構成を示している。図1(a)の左側に示されるように燃料タンク10内に設けられたフィードポンプ11は、電動式の燃料ポンプであり、機関運転中に定格電圧が印加されて単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出し続ける。フィードポンプ11は、メイン通路20によって図1(a)の右側に示される内燃機関のデリバリパイプ30に接続されており、フィードポンプから吐出された燃料はメイン通路20を通じてデリバリパイプ30に供給される。尚、図1(a)に示されるようにメイン通路20におけるフィードポンプ11の下流側の部位にはフィルタ12が設けられており、燃料に含まれる細かな異物がこのフィルタ12によって取り除かれる。
【0028】
デリバリパイプ30は、内燃機関における車両前方に向かって右側の気筒列に対して燃料を供給する右パイプ30aと、左側の気筒列に対して燃料を供給する左パイプ30bとを接続パイプ30cで接続することにより、略U字状に形成されている。デリバリパイプ30には内燃機関の各気筒に燃料を噴射するインジェクタ31が、右パイプ30aに4つ、左パイプ30bに4つ、合計で8つ設けられている。
【0029】
また、メイン通路20が接続される左パイプ30bに対して、デリバリパイプ30の右パイプ30aには、第1プレッシャレギュレータ41を介して高圧リターン通路40が接続されている。
【0030】
第1プレッシャレギュレータ41は、デリバリパイプ30内の燃料の圧力、すなわち燃料噴射圧が第1の所定圧力P1以上になると開弁する。これにより、燃料噴射圧が第1の所定圧力P1以上になると第1プレッシャレギュレータが開弁し、デリバリパイプ30内の余剰燃料が高圧リターン通路40に流入するようになる。高圧リターン通路40は、図1(a)に示されるように燃料タンク10まで延びている。そのため、余剰燃料は高圧リターン通路40を通じてデリバリパイプ30から燃料タンク10に戻される。
【0031】
また、図1(a)に示されるようにメイン通路20には、燃料タンク10まで延びる低圧リターン通路50が接続されている。この低圧リターン通路50には、低圧リターン通路50内の燃料の圧力が第1の所定圧力P1よりも低い第2の所定圧力P2以上になると開弁する第2プレッシャレギュレータ51が設けられている。これにより、燃料噴射圧が第2の所定圧力P2以上になり、低圧リターン通路50内の燃料の圧力が第2の所定圧力P2以上になると、この第2プレッシャレギュレータが開弁し、デリバリパイプ30及びメイン通路20内の余剰燃料が低圧リターン通路50を通じて燃料タンク10に戻されるようになる。更に低圧リターン通路50には、切替弁52が設けられている。この切替弁52は、電圧が印加されることにより閉弁する常開ソレノイドバルブであり、この切替弁52を閉弁することにより、低圧リターン通路50が閉塞される。
【0032】
この切替弁52は、内燃機関の運転状態を統括的に制御する電子制御装置60によって制御される。電子制御装置60には、運転者によって操作されるメインスイッチ61が接続されている。このメインスイッチ61が「ON」操作されることにより機関運転が開始され、「OFF」操作されることにより機関運転が停止される。また、電子制御装置60には、アクセルペダルの踏み込み量TAを検出するアクセルポジションセンサ62、機関回転速度NEを検出するクランク角センサ63、吸入空気量GAを検出するエアフロメータ64、機関冷却水温THWを検出する水温センサ65等の各種センサが接続されている。電子制御装置60は、これら各種センサ、及びスイッチから出力される信号を取り込むとともに、これらの信号に基づいて各種演算を行い、内燃機関を統括的に制御する。また、電子制御装置60には、各種演算結果を記憶するためのメモリ66が設けられている。
【0033】
ところで、エタノールとガソリンとを混合したアルコール含有燃料はガソリンよりも理論空燃比が小さいため、こうしたアルコール含有燃料を使用する場合にあっては、ガソリンを使用する場合よりも多くの燃料を燃料室内に噴射する必要がある。インジェクタ31から噴射される燃料の量は、インジェクタ31の開弁期間と、インジェクタ31が接続されたデリバリパイプ30内の燃料噴射圧とに基づいて変化する。本実施形態の燃料供給装置にあっては、機関運転状態に基づいて電子制御装置60が切替弁52を開放・閉塞し、燃料噴射圧を切り替えるようにしている。
【0034】
こうした構成によれば、切替弁52を開弁した場合には、低圧リターン通路50が開放され、デリバリパイプ30内の燃料噴射圧が第2プレッシャレギュレータ51によって調節されるようになり比較的低い値に保持されるようになる。一方で、切替弁52を閉弁した場合には、低圧リターン通路50が閉塞され、デリバリパイプ30内の燃料噴射圧が第1プレッシャレギュレータ41によって調節されるようになり比較的高い値に保持されるようになる。これにより、高負荷運転時や機関冷間始動時のように大量の燃料を噴射する必要のある運転領域にあっては燃料噴射圧を高くして一度の吸気行程において大量の燃料を噴射する一方、通常の運転状態にあっては燃料噴射圧を低くして緻密な燃料噴射量制御を実行することができるようになる。
【0035】
ところで、こうした燃料供給装置にあっては、それほど多くの燃料を噴射しない通常の運転状態にあっては、切替弁52が開弁された状態となる。そのため、余剰燃料は第2プレッシャレギュレータ51を備えた低圧リターン通路50を通じて燃料タンク10に戻され、第1プレッシャレギュレータ41よりも下流側の高圧リターン通路40には燃料が流動しないこととなる。その結果、低負荷運転が継続した場合のように、燃料噴射圧が低圧側に設定される状態が長期間に亘って継続した場合には、高圧リターン通路40に残留した燃料が蒸発してしまい、燃料タンク10から高圧リターン通路40に空気が侵入するようになる。その結果、その空気に含まれる水分が機関停止中に冷やされ、高圧リターン通路40に水滴が発生することがある。
【0036】
また、本実施形態の燃料供給装置にあっては、高圧リターン通路40を含む燃料配管は車両前方のエンジンルーム内に搭載される内燃機関と車両後方に設けられる燃料タンク10とを接続するためにキャビンの床下を経由して配設しているため、高圧リターン通路40の一部を低くせざるを得ない。そのため、上記のように高圧リターン通路40に発生した水滴は高圧リターン通路40の低くなった部位に次第に溜まるようになる。以下、このように高圧リターン通路40において、その上流側の部位と下流側の部位よりも鉛直方向下方に位置し、凝縮水が溜まりやすい部位を滞留部と称する。
【0037】
図1(b)はこの滞留部における湾曲部分を拡大して示す断面図である。図1(b)に示されるように、滞留部、特に鉛直方向に延びる部分と水平方向にのびる部分とが交わる湾曲部分にあっては、鉛直方向上方側から伝い落ちる水滴が溜まりやすいため、凝縮水によって高圧リターン通路40内が閉塞されやすい。
【0038】
このように滞留部に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結した場合には、高圧リターン通路40が閉塞されてしまい、次回の機関運転時に切替弁52を閉弁した際に高圧リターン通路40を通じた燃料噴射圧の調整が行えず燃料噴射圧が過度に上昇してしまうこととなる。その結果、ひいては燃料噴射量が不必要に増大する等の不都合が生じるおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態の燃料供給装置にあっては、高圧リターン通路40内に溜まった凝縮水を洗い流すとともに、水分を含んだ空気の侵入を抑制して凝縮水の発生を抑制する強制リターン処理を実行するようにしている。
【0040】
以下、図2を参照してこの強制リターン処理にかかる一連の制御の流れについて詳しく説明する。尚、図2は強制リターン処理にかかる一連の制御の流れを示すフローチャートである。
【0041】
この一連の制御は機関運転中に電子制御装置60によって実行される。図2に示されるようにこの一連の制御が開始されるとまず、ステップS100において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されたか否か、すなわち運転者によって機関運転を停止する要求がなされたか否かを判定する。
【0042】
ステップS100において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作された旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、機関運転を停止するととともに、ステップS200へと進む。尚、このときフィードポンプ11はその駆動が継続される。
【0043】
一方、ステップS100において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されていない(ステップS100:NO)、すなわちメインスイッチ61が「ON」状態のままであり、機関停止要求がなされていない旨判定された場合には機関運転が継続され、このステップS100の処理が繰り返される。
【0044】
ステップS200では、リターンフラグFGが「0」に設定されているか否かを判定する。リターンフラグFGは切替弁52の開閉履歴、及び内燃機関の燃焼熱の大きさに基づいて「1」又は「0」に設定される情報値であり、電子制御装置60のメモリ66に記憶されている。
【0045】
このリターンフラグFGは初期状態、すなわちメインスイッチ61が「ON」に操作されて電子制御装置60への給電が開始され、機関運転が開始された直後の状態において「0」に設定されている。そして、基本的に機関運転中に切替弁52が閉弁された状態でフィードポンプ11の駆動が所定期間T1に亘って継続されたことに基づいて「1」に設定される一方、その後、切替弁52が開弁された状態、すなわち高圧リターン通路40を通じて燃料が燃料タンク10に戻されていない状態が所定期間T2以上継続することにより「0」に設定される。尚、所定期間T1は、切替弁52が閉弁された状態がこの所定期間T1に亘って継続することにより、デリバリパイプ30内の燃料噴射圧が第1の所定圧力P1以上になり、高圧リターン通路を通じて余剰燃料が燃料タンクに戻されていることを判定することのできる程度の長さに設定されている。また、所定期間T2は、機関運転中に切替弁52が開放され、高圧リターン通路40を通じて余剰燃料が戻されない状態がこの所定期間T2に亘って継続することにより、高圧リターン通路40内に残留していた燃料が内燃機関の燃焼熱の影響により既に蒸発してしまっていることを判定することのできる程度の長さに設定されている。
【0046】
これにより、具体的には図3に示されるように、時刻t1において切替弁52が閉弁され、時刻t2において切替弁52が閉弁されてから所定期間T1が経過した旨の判定がなされると、メモリ66に記憶されているリターンフラグFGが「0」から「1」に更新される。
【0047】
そして、時刻t3において切替弁52が開弁され、時刻t4において切替弁52が開弁されてから所定期間T2が経過した旨の判定がなされると、リターンフラグFGが「1」から「0」に更新される。
【0048】
また、リターンフラグFGは上述のような切替弁52の開閉履歴に関わらず、機関冷却水温THWや、燃料噴射量と相関を有する吸入空気量GA等の機関運転状態を示す値に基づいて推定される内燃機関の燃焼熱の大きさが所定値X以上になったときには、「0」に再設定される。尚、所定値Xは、内燃機関の燃焼熱がこの所定値Xまで上昇すると、高圧リターン通路40内に残留している燃料がごく短期間の間に蒸発するようになることを判定することのできる程度の大きさに設定されている。
【0049】
これにより、具体的には図3に示されるように、時刻t5において切替弁52が閉弁され、時刻t6において所定期間T1が経過した旨の判定がなされてリターンフラグFGが「1」に設定されたあと、時刻t7において内燃機関の燃焼熱の大きさが所定値X以上になった旨の判定がなされると、切替弁52の開閉状態に関わらずリターンフラグFGは「0」に設定される。
【0050】
ステップS200では、このように切替弁52の開閉履歴と内燃機関の燃焼熱の大きさとに基づいて設定されるリターンフラグFGを参照して高圧リターン通路40内に燃料が残留しているか否かを推定する。
【0051】
ステップS200において、リターンフラグFGが「0」である旨判定された場合(ステップS200:YES)、すなわち高圧リターン通路40内の燃料が既に蒸発し、残留していないことが推定される場合には、ステップS300へと進み、切替弁52を閉弁する。そして、ステップS400へと進み、機関停止後もフィードポンプ11の駆動を継続して強制リターン処理を実行する。
【0052】
こうして強制リターン処理を実行するとステップS500へと進み、ステップS500ではメインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されてからのフィードポンプ11の駆動継続期間が所定期間T3以上であるか否かを判定する。フィードポンプ11は定格電圧が印加されることにより単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出するため、その積算吐出量はフィードポンプ11の駆動時間に比例して増大する。上記所定期間T3は、切替弁52を閉弁した状態においてフィードポンプ11の駆動を継続したときに、第1プレッシャレギュレータ41を通じてデリバリパイプ30から流出し高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積V以上となる期間として設定されている。これにより、ステップS500において、駆動継続期間が所定期間T3以上である旨判定された場合には、高圧リターン通路40内が燃料によって満たされた状態となる。
【0053】
尚、高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積Vと等しくなり、高圧リターン通路40が燃料で満たされた場合であっても、凝縮水の一部が高圧リターン通路40の内壁に付着して残留する場合がある。ここで、上記所定期間T3をより長く設定するほど強制リターン処理に伴って高圧リターン通路40を流動する燃料の量が多くなるため、このように高圧リターン通路40に付着した凝縮水を洗い流す効果が大きくなる。しかしながら、この所定期間T3を長く設定するほど機関停止中にフィードポンプ11の駆動を継続させる時間が長くなるためフィードポンプ11を駆動するために消費される電力が増大することとなる。そのため、上記所定期間T3はフィードポンプ11の駆動にかかる電力消費量と凝縮水を洗い流す効果との兼ね合いを考慮して設定することが望ましい。
【0054】
ステップS500において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されてからのフィードポンプ11の駆動継続期間が所定期間T3未満である旨判定された場合(ステップS500:NO)、すなわち強制リターン処理に伴い未だに高圧リターン通路40が燃料で満たされていない旨判定された場合には、ステップS400へと戻りフィードポンプ11の駆動を継続する。
【0055】
こうしてフィードポンプ11の駆動を継続し、ステップS500において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されてからのフィードポンプ11の駆動機関が所定期間T3以上である旨判定された場合(ステップS500:YES)には、ステップS600へと進み、フィードポンプ11の駆動を停止して強制リターン処理を終了し、強制リターン処理にかかる一連の制御を終了する。
【0056】
一方、ステップS200において、リターンフラグFGが「1」である旨判定された場合(ステップS200:NO)、すなわち機関運転中に切替弁52が閉弁され、高圧リターン通路40内に燃料が残留していることが推定される場合には、ステップS300〜500をスキップして強制リターン処理を実行せずに、フィードポンプ11の駆動を停止してこの強制リターン処理にかかる一連の制御を終了する。
【0057】
次に、強制リターン処理の作用について図4を参照して説明する。尚、図4は本実施形態の強制リターン処理にかかる切替弁52及びフィードポンプ11動作態様を示すタイミングチャートである。
【0058】
図4に示されるように、時刻t10において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されると、まずリターンフラグFGが参照される。そして、リターンフラグFGが「0」に設定されていることに基づいて切替弁52が閉弁されるとともに、フィードポンプ11の駆動が継続され、強制リターン処理が実行される。
【0059】
こうして強制リターン処理に伴い切替弁52を閉弁した状態でフィードポンプ11の駆動を継続させることにより、デリバリパイプ30内の燃料の圧力が上昇するようになる。そして、時刻t11においてデリバリパイプ30内の燃料の圧力が第1の所定圧力P1以上になると第1プレッシャレギュレータ41が開弁し、高圧リターン通路40内を燃料が流動するようになる。そして、更にフィードポンプ11の駆動が継続されることにより、高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積Vよりも大きくなり、時刻t12において高圧リターン通路40内は燃料で満たされるようになる。
【0060】
そして、時刻t13において、メインスイッチ61が「ON」から「OFF」に操作されてからのフィードポンプ11の駆動継続期間が所定期間T3以上となった旨の判定がなされると、フィードポンプ11の駆動が停止され、強制リターン処理が終了される。
【0061】
尚、強制リターン処理の終了に伴い、電子制御装置60への給電も停止される。これにより、切替弁52への通電も遮断され、同切替弁52は開弁されるようになる。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0062】
(1)機関停止後に強制リターン処理を実行し、高圧リターン通路40に燃料を流動させるようにしているため、高圧リターン通路40を流動する燃料によって高圧リターン通路40内、特に滞留部に溜まっている凝縮水、及び水分を含んだ空気を燃料タンク10に排出することができる。また、この強制リターン処理が終了し、フィードポンプ11の駆動が停止した後も高圧リターン通路40内、特に上記滞留部にはこの強制リターン処理によって流動した燃料の一部が残留するようになる。そのため、残留した燃料の容積の分だけ高圧リターン通路40内に侵入する空気の量を低減することができ、機関停止中に高圧リターン通路40内に発生する凝縮水の量を低減することができる。そしてこれらにより、高圧リターン通路40に溜まった凝縮水が機関停止中に凍結して高圧リターン通路40が閉塞されることを抑制することができるようになる。
【0063】
(2)強制リターン処理に伴い高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積V以上になれば、高圧リターン通路40は燃料によって満たされるようになるため、強制リターン処理実行前に高圧リターン通路40内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気はそのほとんどが高圧リターン通路40から燃料タンク10に排出されるようになる。本実施形態では、強制リターン処理に伴いフィードポンプ11の駆動が所定期間T3以上継続され、高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積V以上となったことに基づいて強制リターン処理を終了するようにしている。そのため、強制リターン処理実行前に高圧リターン通路40内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気をより確実に排出することができるようになる。
【0064】
(3)フィードポンプ11は定格電圧が印加されることにより単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出する。そのため、フィードポンプ11による燃料の積算吐出量は、その駆動時間に比例して増大する。このため、上記実施形態のように強制リターン処理に伴い切替弁52が閉弁されてからフィードポンプ11の駆動が所定期間T3以上継続されたことに基づいて強制リターン処理に伴い高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積V以上となった旨の判定を行うことができる。
【0065】
(4)機関運転中に切替弁52が閉弁され、燃料噴射圧が高圧側に切り替えられた場合には、第1プレッシャレギュレータ41によって燃料噴射圧が調節されるようになり、余剰燃料が高圧リターン通路40を通じて燃料タンク10に戻される。そのため、機関運転中に切替弁52が閉弁された場合には、高圧リターン通路40内に溜まっていた凝縮水、及び水分を含んだ空気が排出され、機関停止後にあっても高圧リターン通路40の一部には燃料が残留していることがある。上記実施形態では、機関運転中の切替弁52の開閉履歴に基づいて機関停止時に高圧リターン通路40に燃料が残留しているか否かを判定し、高圧リターン通路40に燃料が残留していない旨の判定がなされたことを条件に強制リターン処理を実行するようにしている。これにより、機関運転中の切替弁52の開閉履歴に基づいて機関停止時に高圧リターン通路40に燃料が残留しているか否かを判定し、この判定結果に基づいて機関停止中に高圧リターン通路40に溜まった水が凍結するおそれがある場合にのみ、強制リターン処理を実行することができるようになる。
【0066】
(5)機関運転中に切替弁52が閉弁され、余剰燃料が高圧リターン通路40を通じて燃料タンク10に戻された場合であっても、その後、機関運転中に切替弁52が開弁され燃料が高圧リターン通路40を流動しない状態が長期間継続した場合には、高圧リターン通路40に溜まった燃料が内燃機関の燃焼熱の影響によって蒸発してしまい、高圧リターン通路40内に空気が侵入するようになる。上記実施形態では、電子制御装置60は、機関運転中の切替弁52の開閉履歴に基づいて「1」又は「0」に設定されるリターンフラグFGをメモリ66に記憶し、機関停止時にこのリターンフラグFGを参照することにより、高圧リターン通路40内に燃料が残留しているか否かを判定するようにしている。こうした構成によれば、メモリ66に記憶されたリターンフラグFGを参照することにより、リターンフラグFGが「0」に設定されていることに基づいて高圧リターン通路40に燃料が残留していない旨をより正確に判定することができる。
【0067】
また、内燃機関の燃焼熱が大きくなるほど、この燃焼熱によって温められる高圧リターン通路40内の燃料の温度は高くなる。そのため、内燃機関の燃焼熱が非常に大きい場合には、比較的短い時間で高圧リターン通路40に溜まった燃料が蒸発してしまう。そこで、上記実施形態では、機関運転状態に基づいて推定される内燃機関の燃焼熱が所定値X以上になったときには、切替弁52の開閉履歴によるリターンフラグFGの設定を無効化して「0」に再設定するようにしている。こうした構成によれば、内燃機関の燃焼熱が所定値X以上であることに基づいて高圧リターン通路40の燃料が蒸発し高圧リターン通路40内に燃料が残留していない可能性が高い旨を判定し、リターンフラグFGを再設定して強制リターン処理の実行を促すことができるようになる。
【0068】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態で説明したリターンフラグFGの設定態様は、高圧リターン通路40内に燃料が残留しているか否かを判定するための情報値の設定態様の一例であり、適宜変更することができる。例えば、上記実施形態では、機関運転状態に基づいて推定される内燃機関の燃焼熱が所定値X以上になったときに切替弁52の開閉履歴に基づくリターンフラグFGの設定を無効化して「0」に再設定する構成を示したが、リターンフラグFGを再設定する構成に限らず、内燃機関の燃焼熱が大きいときほど切替弁52が開弁されてからリターンフラグFGを「0」に設定するまでの所定期間T2を短くするといった構成を採用することもできる。
【0069】
・また、内燃機関の発熱量に応じてリターンフラグFGを「0」に再設定する構成を省略することもできる。
・また、機関運転中に切替弁52が閉弁しているときにリターンフラグFGを「1」に、開弁しているときにリターンフラグFGを「0」に設定し、機関停止時にこのリターンフラグFGを参照して高圧リターン通路40内に燃料が残留しているか否かを推定する構成を採用することもできる。
【0070】
・図2を参照して説明したステップS200を省略し、切替弁52の開閉履歴に基づく実行条件を設けずに機関停止する度に毎回強制リターン処理を実行する構成を採用することもできる。
【0071】
・フィードポンプ11の駆動継続期間に基づいて高圧リターン通路40内に燃料が残留していること、また高圧リターン通路40内が燃料で満たされていることを判定する閾値として所定期間T1,T3を設定する構成を示した。フィードポンプ11に電力を供給するバッテリの電圧によってフィードポンプ11の単位時間あたりの吐出量は僅かに変化する。そこで、バッテリの電圧や、バッテリの電圧に影響を及ぼす環境温度等に基づいて所定期間T1,T3の長さを変更するようにしてもよい。具体的には、バッテリの電圧、又は環境温度が低いときほど所定期間T1,T3を長く設定するようにすることが望ましい。こうした構成によれば、フィードポンプ11の駆動継続期間に基づいてより正確に高圧リターン通路40内に燃料が残留していること、また高圧リターン通路40内が燃料で満たされていることを推定することができるようになる。
【0072】
・上記実施形態では、強制リターン処理に伴い高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積V以上となるまで強制リターン処理を継続する構成を示した。これに対して、強制リターン処理に伴い高圧リターン通路40を流動する燃料の積算量が高圧リターン通路40の容積Vよりも小さい場合であっても、凝縮水、及び水分を含んだ空気を排出する効果、及び高圧リターン通路40に侵入する空気の量を低減することはできる。
【0073】
・強制リターン処理を実行するタイミングは機関停止直後に限定されるものではない。機関停止後、所定期間経過してから強制リターン処理を実行するようにしてもよい。ただし、機関停止から強制リターン処理を実行するまでの期間が長すぎると凝縮水が凍結してしまうおそれがあるため、強制リターン処理は、高圧リターン通路40が冷えてしまう前に行うことが望ましい。
【0074】
・上記実施形態ではフレックス燃料車に搭載される内燃機関の燃料供給装置として、この発明を具体化した例を示したが、フレックス燃料車に限らず、ガソリンのみによって走行する車両等に搭載される内燃機関の燃料供給装置として、この発明を適用することもできる。
【0075】
・V型8気筒の内燃機関に適用した例を示したが、内燃機関のタイプにかかわらず、4気筒や、6気筒の内燃機関の燃料供給装置としてこの発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(a)はこの発明の一実施形態にかかる車載内燃機関の燃料供給装置の概略構成を示す模式図、(b)は滞留部を拡大して示す断面図。
【図2】同実施形態にかかる強制リターン処理にかかる一連の制御の流れを示すフローチャート。
【図3】同実施形態にかかる切替弁の開閉履歴及び内燃機関の燃焼熱の大きさとリターンフラグの設定態様との関係を示すタイミングチャート。
【図4】同実施形態にかかる強制リターン処理における切替弁及びフィードポンプの動作態様を示すタイミングチャート。
【図5】燃料噴射圧を切り替えることのできる内燃機関の燃料供給装置の概略構成を示す模式図。
【符号の説明】
【0077】
10…燃料タンク、11…フィードポンプ、12…フィルタ、20…メイン通路、30…デリバリパイプ、30a…右パイプ、30b…左パイプ、30c…接続パイプ、31…インジェクタ、40…高圧リターン通路、41…第1プレッシャレギュレータ、50…低圧リターン通路、51…第2プレッシャレギュレータ、52…切替弁、60…電子制御装置、61…メインスイッチ、62…アクセルポジションセンサ、63…クランク角センサ、64…エアフロメータ、65…水温センサ、66…メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ポンプによって圧送される燃料をインジェクタが接続されたデリバリパイプに供給するメイン通路と、上流側の部位と下流側の部位よりも鉛直方向下方に位置する部位を含むとともに、前記デリバリパイプ内の燃料噴射圧が第1の所定圧力以上になると開弁する第1プレッシャレギュレータを介して前記デリバリパイプに接続されて同デリバリパイプから余剰燃料を燃料タンクに戻す高圧リターン通路と、前記メイン通路に接続されるとともに、前記燃料噴射圧が前記第1の所定圧力よりも低い第2の所定圧力以上になると開弁する第2プレッシャレギュレータが設けられて余剰燃料を前記メイン通路から前記燃料タンクに戻す低圧リターン通路と、前記低圧リターン通路を開放・閉鎖する切替弁とを備え、機関運転状態に基づいて同切替弁の開閉状態を切り替えることにより前記デリバリパイプ内の燃料噴射圧を切り替える内燃機関の燃料供給装置において、
機関停止後に前記切替弁を閉弁して前記低圧リターン通路を閉鎖した状態に保持するとともに、前記燃料ポンプを駆動して前記高圧リターン通路に燃料を流動させる強制リターン処理を実行する
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置において、
前記強制リターン処理に伴い前記高圧リターン通路を流動する燃料の量を積算しその積算量が同高圧リターン通路の容積以上になったことに基づいて前記強制リターン処理を終了する
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項3】
前記燃料ポンプは定格電圧が印加されることにより単位時間あたりに所定量の燃料を所定の圧力で吐出するものであり、前記強制リターン処理に伴い前記高圧リターン通路を流動する燃料の積算量が前記高圧リターン通路の容積以上となった旨の判定は、同強制リターン処理に伴い前記切替弁が閉弁されてから前記燃料ポンプの駆動が所定期間以上継続されたことに基づいてなされる
請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項4】
機関運転中の前記切替弁の開閉履歴に基づいて前記高圧リターン通路に燃料が残留しているか否かを判定する判定手段を更に備え、機関停止時に同判定手段によって高圧リターン通路に燃料が残留していない旨の判定がなされたことを条件に前記強制リターン処理を実行する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の燃料供給装置において、
前記判定手段は、機関運転中に前記切替弁が閉弁され前記高圧リターン通路を通じて余剰燃料が前記燃料タンクに戻されたことに基づいて第1の状態を示す値に設定される一方、前記切替弁が開弁され前記高圧リターン通路を通じて余剰燃料が戻されていない状態が所定期間継続したことに基づいて第2の状態を示す値に設定される情報値を記憶するメモリを備え、同メモリに記憶された前記情報値が機関停止時に前記第2の状態を示す値に設定されていることに基づいて前記高圧リターン通路に燃料が残留していない旨を判定する
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の燃料供給装置において、
機関運転状態に基づいて推定される前記内燃機関の燃焼熱が所定値以上になったときに、前記切替弁の閉閉履歴に基づく前記情報値の設定を無効化して同情報値を第2の状態を示す値に設定する
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−74490(P2009−74490A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245617(P2007−245617)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】