説明

切断薄板相互間の密着防止方法及びその方法に用いられる密着防止装置

【課題】 洗浄時の各切断薄板相互間の密着防止方法及びその方法に用いられる密着防止装置を提供し、それによって処理液を各切断薄板表面に十分に供給しようとする。
【解決手段】インゴットを薄板状に連続的に切断し、各切断薄板8の片端を固定した薄板群4を対象とする切断薄板相互間の密着防止方法である。前記各切断薄板8の片端を固定した薄板群4を、処理液1が対流する処理液槽2に浸して、各切断薄板8の表面から不純物を除去する工程の際、薄板群4の薄板8相互間に、気泡11を混入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、切断薄板相互間の密着防止方法及びその方法に用いられる密着防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子や太陽電池に用いられるシリコンインゴットは、製品素材として使えるようにワイヤソーで切断して薄い板状にする(以下、切断後の板状となったものを本願では「切断薄板」という)。切断直後の各切断薄板は、その後の洗浄処理の便宜のため、片側が接着剤にて保持され、それぞれ分離してばらばらとならないようにされている(以下、切断薄板のこのような状態のものを本願では「薄板群」という)。
【0003】
この各切断薄板を洗浄する工程の一工程はスラリー洗浄と呼ばれているが、代表的なスラリー洗浄は、各切断薄板をスプレー水洗し、その後、水洗、洗浄液による洗浄、水洗、剥離液による接着剤の剥離、水洗と順を追って洗浄していくことになる。
【0004】
スラリー洗浄において、各切断薄板は、切断時に用いられる液体の汚れがスラリー状に付着しているため、処理液を各切断薄板のまわりに対流させ、その液自体の洗浄力と対流効果によって、表面の汚れを落とす工程が行われている。その際、各切断薄板は上記のようにそれぞれの片側が接着剤で保持されているが、処理液で汚れを落とした後は、剥離液による接着剤の剥離によって、接着剤が溶かされ各切断薄板がバラバラにされる。
【0005】
そして、スラリー洗浄後は、よりきめ細かい汚れを落とすために各切断薄板一枚一枚に本洗浄が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−98439号公報(0016段、0017段、0050段、0060段)
【特許文献2】特開2008−103701号公報(0013段)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、片側が保持されている各切断薄板相互の間は、0.2mm程度しかない。このため、スラリー洗浄の最初の水洗の際、水の表面張力の影響やその他の影響を受け、隣り合う各切断薄板は互いに密着しやすい状態となっている。その結果、薄板群には、各切断薄板相互が密着した部分が散見され、密着した状態の面には処理液が行き渡らないので、洗浄不良になりやすいという問題が生じていた。このように各切断薄板相互が密着してしまった部分は、汚れが部分的に多く残留し、その後の本洗浄工程においても、洗浄不良となり、最終的には不良品となってしまう。
【0008】
また、近時の傾向として、省資源の見地から、各切断薄板はより薄くされることが要請されており、上記問題はますます深刻なものとなっている。
【0009】
この発明は、従来技術の以上のような問題に鑑み創案されたもので、洗浄時の各切断薄板相互間の密着を防ぐ技術を提供し、それによって処理液を各切断薄板表面に十分に供給しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来より、基板の処理液工程において、気泡を用いれば、種々の洗浄処理効率が向上することは、様々な文献から知られている(例えば、上記特許文献1、2)。
【0011】
当初、本発明者らは、このような公知の知見に基づき、シリコンウエハ等の切断薄板の洗浄処理工程においても、その洗浄処理効率を向上させることができるのではないかと考え、その効果確認のために、本洗浄と同条件の下、すなわち、インゴットを切断して得られた1枚ごとの薄板を処理液内に入れ、そこに気泡を吹き付けて試験を行ったが、予想した以上の芳しい洗浄効果は得られなかった。
【0012】
一方、いわゆるスラリー洗浄と同条件下、すなわち、各切断薄板の片端を固定した薄板群の状態で気泡を混入して試験を行ったところ、今度は一転、驚くべきことに洗浄効果が格段に向上した。
【0013】
本発明者らは、この実験結果を子細に検討した結果、スラリー洗浄においては、気泡が直接洗浄効果を高めたのではなく、薄板群における各切断薄板相互の隙間を積極的に形成させ、それが洗浄効果を高めたのではないかと考えた。すなわち、気泡が隙間に入り、そこで弾力を付与して隙間形成に助力したとすると、そこに処理液が効率的に侵入することとなり、薄板表面の隅々まで処理液が接触して、洗浄効果が高まることになる。そこで、その推論を確認するため、後述する実施例に記載した試験を行ったところ、切断薄板相互の隙間を確実に、しかも均等に形成させる結果が得られ、本発明者らの推論が肯定できる結果となった。
【0014】
このような本発明者らが見出した新規な知見は、上記したような、まさにスラリー洗浄における問題点を解決できる技術そのものであり、そこで本発明者らは、この新規な知見に基づいた本発明を創案するに至った。すなわち、本発明に係る切断薄板相互間の密着防止方法は、インゴットを薄板状に連続的に切断し、各切断薄板の片端を固定した薄板群を、処理液が対流する処理液槽に浸して、各切断薄板の表面から不純物を除去する工程の際、前記各切断薄板の片端を固定した薄板群の薄板相互間に、気泡を混入させることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、前記気泡とは、薄板群の切断薄板相互間の隙間に侵入できる大きさであることが必要であり、例えば薄板が半導体素子のシリコンウエハのような場合、気泡も超微細なマイクロバブルやナノバブルといわれる大きさのもの、すなわち直径1000分の1mmから100万分の1mm程度の大きさのものとなる。また、各切断薄板の素材のインゴットは、シリコンインゴットに限られず、他のインゴットも含まれる。
【0016】
上記方法は、気泡発生装置と、発生させた気泡を薄板群の各切断薄板の薄板相互間に混入するように噴射させる噴射装置があれば、容易に実施できる。そこで、そのような装置についても、請求項2の発明として提案する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、処理液中の気泡が、隣合う各切断薄板の間に入り込み、その弾力によって各切断薄板相互の密着を防ぐことができる。そのため、処理液が各切断薄板相互間に完全に入り込むことになり、洗浄不良となるのが防げる。
【0018】
また、処理液から各切断薄板を取り出しても、気泡が付着したままの状態であるときは、隣り合う切断薄板は、互いに離れたままの状態を維持することができる。したがって、本洗浄工程でも各切断薄板の隙間に処理液が行き渡り、洗浄精度が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スラリー洗浄装置の概略図であって、本発明が適用された実施形態例を示す図である。
【図2】図1の処理液槽部分の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願に係る発明の具体的実施形態例を図面に基づき説明する。本形態例は、シリコンインゴットから半導体素子や太陽電池の基材を得るための一工程であるスラリー洗浄が実施される装置において、本発明が適用される例である。なお、以下に示す形態例はあくまでも本発明の一例であって、適用される気泡発生装置、気泡噴射装置はもちろんのこと、噴射ノズル、ポンプ、処理液槽の具体的形態についても、それらに本発明が限定されないことは当然である。
【0021】
図1はスラリー洗浄装置の概略図であり、図中、1は処理液、2は処理液槽、3は循環装置、4はシリコンインゴットを切断して得られる薄板群、5はポンプ、6は噴射装置、7は噴射ノズル、8は切断薄板、9は固定接着部、10は気泡発生装置、11はナノバブルである。
【0022】
スラリー洗浄装置は、図示のように、処理液1が充填された処理液槽2と、該処理液槽2内の処理液1を循環対流させるため循環装置3と、シリコンインゴットを切断して得られる薄板群4を上下に移動自在に支持する支持装置(図示なし)とから構成される。循環装置3は、槽底部から処理液1を抜き、抜いた処理液1を槽に返すためのポンプ5と、該ポンプ5によって処理液1を槽に戻す際、槽内に対流を起こさせるための噴射装置6とから構成され、これらを結ぶ流路によって循環流路が形成されている。前記噴射装置6は、先端に噴射ノズル7を備える。支持装置は、処理液槽2の上部に配置され、移動機構によって薄板群4を処理液槽2内で上げ下げする。ここで、薄板群4は、従来技術で説明したように、シリコンインゴットがワイヤソーで連続的に切断されて切断薄板8が形成され、それら各切断薄板8が各上端を固定接着部9で一つに保持されることにより形成される。
【0023】
そして、本形態例では、このようなスラリー洗浄装置において、ポンプ5と噴射装置6との間の流路に、気泡発生装置10が配置されるとともに、前記噴射装置6の噴射ノズル7が、後述する薄板群4の薄板相互間に向かうように設定されている。
【0024】
本形態例の気泡発生装置10は、超微細のいわゆるナノバブル11を発生させるための装置であり、まず前記ポンプ5の負圧を利用して気体を吸引し、気体と循環処理液から成る気液混合体を作り、該気液混合体を自身が備えるミキサにおいて攪拌混合してナノバブル11を生成する。このようなナノバブル11は、他の処理液1と同様に循環流路を流れていき、噴射装置6によって処理液槽2内で噴射される。そして、本形態例では、噴射装置6のノズル7が薄板群4の薄板相互間に向かうように設定されているので(図2中、矢印が噴射方向)、気泡発生装置10において生成されたナノバブル11は、処理液1と一緒に薄板相互間に向かい、その隙間に積極的に混入していくことになる。
【0025】
以上よりなる本形態例において、支持装置を下降させて、各切断薄板8の上端を固定した薄板群4を、処理液層2内のうち噴射ノズル7が設置される位置まで下げていく。薄板群4は、充填された処理液1に浸かった状態で、噴射ノズル7から噴射される処理液1を受けることになる。この噴射処理液1には、ナノバブル11が混入されており、それが薄板群4の各切断薄板相互の隙間に混入していく。これにより、各切断薄板相互の密着が防止され、弾力のある均一な隙間が形成されるので、そこに処理液1が隅々まで浸透して各切断薄板8の表面に接触し、その表面から不純物を除去することになる。
【0026】
なお、以上の形態例では、処理液とナノバブルの噴射装置が共通であったが、これらは別々の噴射装置を用いても良いことは当然である。その点を含めて、本発明が以上の形態例に限定されないことはいうまでもなく、気泡が切断薄板相互間の密着防止方法に用いられていれば、その気泡発生装置や気泡噴射装置の機能や噴射ノズル、ポンプ、処理液層の大きさ、形状等は適宜変更可能であり、もちろんそれらも本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0027】
本発明の基礎的知見となる、ナノバブルによる隙間形成効果を確認するための試験を行った。上記実施形態例の気泡発生装置において、ナノバブルを発生させ、それを噴射ノズルから処理液とともに噴射させた場合(本発明の試験例)と、ナノバブルを発生させずに処理液のみ噴射ノズルから噴射させた場合(比較例)のそれぞれの場合について、薄板群の各切断薄板相互の隙間状態を確認した。その結果によると、本発明の試験例では、各切断薄板相互間には綺麗に隙間ができている状態であるのに対し、比較例では、各切断薄板は相互に密着している状態となっている。この実験結果により、ナノバブルを用いた方が、各切断薄板が相互に密着する部分が少なく均等に隙間が生じることが明瞭に確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、基板の処理液工程に利用できる技術である。
【符号の説明】
【0029】
1 処理液
2 処理液槽
4 シリコンインゴットを切断して得られる薄板群
6 噴射装置
7 噴射ノズル
8 切断薄板
10 気泡発生装置
11 ナノバブル(気泡)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットを薄板状に連続的に切断し、各切断薄板の片端を固定した薄板群を、
処理液が対流する処理液槽に浸して、各切断薄板の表面から不純物を除去する工程の際、
前記各切断薄板の片端を固定した薄板群の薄板相互間に、気泡を混入させることを特徴とする切断薄板相互間の密着防止方法。
【請求項2】
気泡発生装置と、
発生させた気泡を各切断薄板相互間に混入するように噴射させる噴射装置と、
からなることを特徴とする請求項1の切断薄板相互間の密着防止方法に用いられる密着防止装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−212408(P2010−212408A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56186(P2009−56186)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(591175963)株式会社ファシリティ (2)
【Fターム(参考)】