説明

制動力制御装置

【課題】悪路走行時においても好適にEBD制御を実施可能とする。
【解決手段】制動力制御装置は、左後輪(WRL)に対応する第1油圧系統及び右後輪(WRR)に対応する第2油圧系統を備える車両の制動力を制御する。制動力制御装置は、各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段(83)と、後輪の車輪速度が所定の条件を満たした場合に、前輪及び後輪の動作量の差に基づいて第1及び第2油圧系統を制御することで、左後輪及び右後輪の制動力制御を独立して行う制御手段(110,120)と、車両が悪路を走行していることを検出する悪路検出手段(130)と、車両が悪路を走行していることが検出されており、左右いずれかの後輪の車輪速度が所定の条件を満たしている場合に、左後輪及び右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう制御手段を制御する油圧保持制御手段(140)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における制動力を車輪毎に調整可能とする制動力制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制動力制御装置として、例えば前輪及び後輪に対する制動力の配分を、各種条件に応じて自動的に配分して調整する制御(所謂、EBD(Electronic Brake force Distribution)制御)を行うものが知られている。EBD制御では、例えば前輪の車輪速度と後輪の車輪速度とが比較され、後輪の車輪速度の方が高い場合には後輪に対する制動力が強められる。
【0003】
上述したEBD制御を実現する装置として、例えば特許文献1では、後輪の制動力配分を左右独立して行えるようにするという技術が提案されている。また特許文献2では、路面外乱に起因して車両の前後荷重が変化した場合に、EBD制御の開始基準速度を通常より高い値に変更するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−138895号公報
【特許文献2】特開平2001−310725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているような技術では、悪路を走行中に左右独立制御を実施してしまうと、制御の基準となる車輪速度が路面外乱の影響を受けるため、意図しない制動力左右差が付与され車両の挙動が不安定となってしまう。更には、油圧制御がハンチングを起こし、作動音の増大や耐久性の低下を招いてしまう。
【0006】
また、上述した特許文献2に記載されているような技術では、悪路の走行時にEBD制御の開始基準値が高く設定されるため、運転者による急なブレーキペダルの操作に対応できず、適切な制動力の配分制御が行えなくなってしまう。
【0007】
以上のように、左右独立したEBD制御を実施可能な車両では、悪路走行時に様々な不具合が発生してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、悪路走行時においても好適にEBD制御を実施可能な制動力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の制動力制御装置は上記課題を解決するために、左後輪に対する制動力を変化させる第1油圧系統及び右後輪に対する制動力を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力を制御する制動力制御装置であって、前記車両の各車輪の車輪速度を夫々検出する車輪速度検出手段と、前記左後輪及び前記右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たした場合に、前記車両の各車輪のうち前輪の動作量と、前記左後輪及び前記右後輪の動作量との差に基づいて前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統を夫々制御することで、前記左後輪及び前記右後輪に対する制動力制御を夫々独立して行う制御手段と、前記車両が悪路を走行していることを検出する悪路検出手段と、前記車両が悪路を走行していることが検出されていると共に、前記左後輪及び前記右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たしている場合に、前記左後輪及び前記右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう前記制御手段を制御する油圧保持制御手段とを備える。
【0010】
本発明の制動力制御装置によれば、左後輪のブレーキ油圧変化させる第1油圧系統、及び右後輪のブレーキ油圧を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力が制御される。より具体的には、車両の各車輪には例えばホイールシリンダが設けられており、左後輪のホイールシリンダは一の配管を介して一の圧力室に接続されている。一方で、右後輪のホイールシリンダは一の配管とは液密的に分離された他の配管を介して他の圧力室に接続されている。
【0011】
本発明の制動力制御装置の動作時には、車輪速度検出手段によって、各車輪の車輪速度が夫々検出される。車輪速度検出手段は、例えば車輪速度(言い換えれば、回転数)検出センサ等として構成されており、各車輪に対応するように複数設けられる。
【0012】
各車輪の車輪速度が検出されると、制御手段によって左後輪及び右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たしているか否かが判定される。尚、ここでの「所定の条件」とは、制御手段による左右独立した制動力制御を行うか否かを判定するための条件であり、例えば左後輪及び右後輪の車輪速度と前輪の車輪速度との差が所定の閾値を超えているか否かによって判定できる。また、各車輪の車輪速度はそのまま車輪速度の値として判定に用いられるだけでなく、例えば車輪速度から求められるスリップ率の値を判定に用いてもよい。このように、所定の条件を満たすか否かの判定には、車輪速度を利用して求めることができる様々なパラメータを用いることができる。
【0013】
上述した所定の条件が満たされている場合、車両の各車輪のうち前輪の動作量と後輪の動作量との差が求められ、算出された動作量の差に基づいて第1油圧系統及び第2油圧系統の油圧が制御される。具体的には、前輪の車輪速度及び右後輪の車輪速度の差に基づいて、右後輪に対応する第2油圧系統の油圧が制御される。また、前輪の車輪速度及び左後輪の車輪速度の差に基づいて、左後輪に対応する第1油圧系統の油圧が制御される。或いは、前輪のスリップ率及び右後輪のスリップ率の差に基づいて、右後輪に対応する第2油圧系統の油圧が制御される。また、前輪のスリップ率及び左後輪のスリップ率の差に基づいて、左後輪に対応する第1油圧系統の油圧が制御される。即ち、ここでの「動作量」とは、車輪速度に加えて、車輪速度を用いて求められるスリップ率等の他のパラメータをも含んだ広い概念である。このような油圧制御によれば、車両の荷重移動に応じて左右独立した制動力配分が行えるため、好適なブレーキング動作を実現することができる。
【0014】
本発明の制動力制御装置には更に、車両が悪路を走行していることを検出する悪路検出手段が備えられている。尚、ここでの「悪路」とは、上述した制動力配分制御に不具合を発生させる程度に、各車輪の車輪速度が大きく変化してしまうような道路であり、具体例としては舗装されていない道路、舗装はされているが荒れている道路、継ぎ目を有する道路等が挙げられる。悪路検出手段は、例えば路面から得られる路面信号や車輪速度の異常値等を用いて、車両が悪路を走行していることを検出する。
【0015】
ここで本発明では特に、車両が悪路を走行していることが検出されていると共に、左後輪及び右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たしている(即ち、左右独立した制動力制御の開始条件が満たされている)場合には、油圧保持制御手段によって、左後輪及び右後輪のブレーキ油圧の各々に対して油圧保持制御を行うよう制御手段が制御される。即ち、左後輪及び右後輪の制動力に差がない状態とされる。
【0016】
仮に、悪路走行中において上述した油圧保持制御を行わない場合を考える。この場合、車輪速度検出手段において検出される各車輪の車輪速度は、路面外乱等の影響でノイズを含むものとなる。よって、悪路走行時において、通常通りの左右独立した制動力制御を実施してしまうと、実施タイミングが不適切なものとなり、制動力に意図しない左右差が発生してしまう。このような制動力の意図しない左右差は、車両の挙動を不安定にする原因となる。
【0017】
しかるに本発明では、上述したように、悪路走行時に左右後輪の油圧保持制御が行われる。これにより、路面外乱等に起因する意図しない制動力差の発生を防止でき、車両の挙動を安定させつつ、適切な制動力配分を実施することができる。
【0018】
また、悪路への対応として、制動力制御の開始閾値を高くする(即ち、制動力制御を通常より行われ難くする)方法も考えられるが、この場合、運転者による急な操作に対応する(即ち、操作に応じて適切な減速度を発生させる)ことが困難となってしまう。このような運転者の急操作に対しても、本発明に係る油圧保持制御によれば、確実に対応することが可能である。
【0019】
以上説明したように、本発明の制動力制御装置によれば、左右独立した制動力制御を実施可能な車両において、悪路走行時に発生する様々な不都合を効果的に抑制することが可能である。
【0020】
本発明の制動力制御装置の一態様では、前記車両の各車輪の車輪速度を用いて、前記車両の各車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段を備え、前記油圧保持制御手段は、前記車両が悪路を走行していることが検出されていると共に、前記車両の各車輪のスリップ率が所定の値を超えている場合に、前記左後輪及び前記右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう前記制御手段を制御する。
【0021】
この態様によれば、スリップ率算出手段によって、車両の各車輪のスリップ率が算出される。スリップ率は、例えば車体速度と各車輪の車輪速度との差から算出される。算出された各車輪のスリップ率は、所定の値を超えているか否か判定される。尚、ここでの「所定の値」とは、油圧保持制御を行うか否かを判定するための閾値であり、各車輪に対して同じ値が設定されていてもよいし、車輪毎に別々の値が設定されていてもよい。所定の値は、典型的には予め設定されているものであるが、適宜算出されるような値であっても構わない。
【0022】
油圧保持制御手段は、各車輪のスリップ率が所定の値を超えている場合に、左後輪及び右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう制御手段を制御する。即ち、本態様のスリップ率が所定の値を超えている状態は、左後輪及び右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たしている場合に相当する。本態様に係る油圧保持制御手段によれば、各車輪のスリップ率に応じて油圧保持制御が行われるため、確実に意図しない制動力差の発生を防止できる。従って、車両の挙動を安定させつつ、適切な制動力配分を実施することができる。
【0023】
本発明の制動力制御装置の他の態様では、前記油圧保持制御の後に、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統の各々に対して増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御する増減圧制御手段を更に備える。
【0024】
この態様によれば、車両が悪路を走行していることが検出され、油圧保持制御が行われた後に、第1油圧系統及び第2油圧系統の各々に対して増減圧制御が行われる。具体的には、油圧保持制御を行った後に、各車輪の車輪速度が狙いの値より速い状態であれば、対応する油圧系統の油圧が増圧される。一方、油圧保持制御を行った後に、各車輪の車輪速度が狙いの値より遅い状態であれば、対応する油圧系統の油圧が減圧される。
【0025】
上述した増減圧制御によれば、油圧保持制御の後に、車両の減速度を適切な値へと変化させることができる。よって、車両における好適なブレーキング動作を実現できる。尚、油圧保持制御の後に、どのような条件で増減圧制御に移行するかは、適宜設定することが可能である。
【0026】
上述した増減圧制御手段を更に備える態様では、前記増減圧制御手段は、悪路を走行することに起因して前記車両に生ずる振動に基づいて、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御してもよい。
【0027】
この場合、油圧保持制御後の増減圧制御が、車両に生ずる振動(例えば、振動の大きさや種別、継続時間等)に基づいて行われる。ここで特に、車両に生ずる振動は、路面の荒れ具合等に応じて変化する。よって、車両に生ずる振動に基づいて増減圧制御を行えば、車両が走行している悪路の状況に応じて、より適切な制動力を実現することが可能である。
【0028】
上述した車両に生ずる振動に基づいて増減圧制御を行う態様では、前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて、前記増減圧制御を行うか否かを判定するための判定時間を設定し、前記各車輪の車輪速度の差が所定閾値を前記判定時間以上継続して上回る又は下回る場合に、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御してもよい。
【0029】
この場合、増減圧制御が行われる際には、先ず車両に生ずる振動に基づいて判定時間が設定される。判定時間は、増減圧制御を行うか否かを判定するための基準値であり、長くなればなる程、増減圧制御が行われ難い(言い換えれば、開始され難い)状態となる。このため判定時間は、制動力制御への悪影響が大きいと考えられる程、長いものとして設定される。より具体的には、車両に生ずる振動が大きい程、長い値として設定される。尚、ここで設定される判定時間は、車両に生ずる振動によらず、良路(即ち、悪路以外の道路)を走行している際に用いられるものと比較して、長い値として設定される。
【0030】
判定時間が設定されると、各車輪の車輪速度の差が所定閾値を判定時間以上継続して上回る又は下回る場合に、第1油圧系統及び第2油圧系統に対する増減圧制御が行われる。尚、ここでの「所定閾値」とは、車輪速度の差に対して設定される閾値であり、増減圧制御を開始する条件として予め設定される値である。
【0031】
上述した判定時間を用いた制御によれば、検出された各車輪の車輪速度に含まれるノイズ等に起因して、不必要な増減圧制御が行われてしまうことを防止できる。即ち、油圧制御後に行われる増減圧制御を、より好適なタイミングで行うことが可能となる。これにより、作動音の悪化や耐久性の低下を回避することができる。
【0032】
車両に生ずる振動に基づいて増減圧制御を行う態様では、前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて前記増減圧制御を行う際の制御間隔を設定し、前記制御間隔を空けて前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御してもよい。
【0033】
この場合、増減圧制御が行われる際には、先ず車両に生ずる振動に基づいて制御間隔が設定される。
制御間隔は、増減圧制御を行う間隔を示す値であり、長くなればなる程、増減圧制御が行われ難い(言い換えれば、頻度が少ない)状態となる。このため判定時間は、制動力制御への悪影響が大きいと考えられる程、長いものとして設定される。より具体的には、車両に生ずる振動が大きい程、長い値として設定される。尚、ここで設定される制御間隔は、車両に生ずる振動によらず、良路を走行している際に用いられるものと比較して、長い値として設定される。
【0034】
制御間隔が設定されると、増減圧制御が設定された制御間隔を空けて(言い換えれば、制御間隔が経過する毎に)行われる。このような制御によれば、検出された各車輪の車輪速度に含まれるノイズ等に起因して、不必要な増減圧制御が行われてしまうことを防止できる。即ち、油圧制御後に行われる増減圧制御を、より好適なタイミングで行うことが可能となる。これにより、作動音の悪化や耐久性の低下を回避することができる。
【0035】
車両に生ずる振動に基づいて増減圧制御を行う態様では、前記車輪速度検出手段は、設定周波数より低い帯域のみを通過させるローパスフィルタを有しており、前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて前記設定周波数を設定すると共に、前記ローパスフィルタを介して出力された前記各車輪の車輪速度を用いて前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御してもよい。
【0036】
この場合、車輪速度検出手段は、設定周波数より低い帯域のみを通過させるローパスフィルタを有するように構成されている。このため、車輪速度検出手段において検出された各車輪の車輪速度は、ローパスフィルタを介して出力される。即ち、増減圧制御には、ローパスフィルタを介して出力された車輪速度の差が用いられる。
【0037】
増減圧制御が行われる際には、先ず車両に生ずる振動に基づいて上述したローパスフィルタの設定周波数(所謂、カットオフ周波数)が設定される。設定周波数は、低い値となればなる程、ローパスフィルタにおける通過を制限する。よって、設定周波数が低くなると、出力される車輪速度の値も小さくなり、結果的に増減圧制御が行われ難い(言い換えれば、開始され難い)状態となる。このため設定周波数は、制動力制御への悪影響が大きいと考えられる程、低いものとして設定される。より具体的には、車両に生ずる振動が大きい程、低い値として設定される。尚、ここで設定される設定周波数は、車両に生ずる振動によらず、良路を走行している際に用いられるものと比較して、低い値として設定される。
【0038】
上述したようにローパスフィルタの設定周波数を、適宜設定するようにすれば、検出された各車輪の車輪速度に含まれるノイズ等に起因して、不必要な増減圧制御が行われてしまうことを防止できる。即ち、油圧制御後に行われる増減圧制御を、より好適なタイミングで行うことが可能となる。これにより、作動音の悪化や耐久性の低下を回避することができる。
【0039】
本発明の制動力制御装置の他の態様では、前記車両が旋回しているか否かを判定する旋回判定手段を更に備え、前記増減圧制御手段は、前記車両が旋回していると判定された場合に、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御する。
【0040】
この態様によれば、油圧保持制御後の増減圧制御が行われる前に、先ず車両が旋回しているか否かが判定される。尚、ここでの「旋回」とは、左右の車輪に対して制動力差を付与すべき程度に車両が旋回している状態を指しており、例えば車輪速度検出手段、或いはヨーレートセンサ、横Gセンサ、舵角センサ、傾斜センサ等によって検出できる。
【0041】
車両が旋回していると判定されると、増減圧制御が行われる。一方で、車両が旋回していないと判定された場合には、増減圧制御は行われない。このため、車両が非旋回状態であるにもかかわらず、意図しない制動力左右差が付与され、車両の挙動が不安定になってしまうことを防止できる。
【0042】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態に係る制動力制御装置の構成を表してなる概略構成図である。
【図2】ECUの構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る制動力制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0045】
先ず、本実施形態に係る制動力制御装置の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、実施形態に係る制動力制御装置の構成を表してなる概略構成図である。
【0046】
図1において、本実施形態に係る制動力制御装置は、主に、車両に制動力を働かせる際に作動させる制動装置1と、この制動装置1を作動させることでABS制御やEBD制御等の制動制御を実行させる制動制御手段としての電子制御装置(ECU)2とを備えるように構成される。
【0047】
ECU2は、例えば図示しないCPU(中央演算処理装置)、所定の制動制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory)、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。以下では、このECU2の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0048】
図2において、ECU2は、ブレーキ液圧制御部110と、EBD制御部120と、悪路検出部130と、悪路走行制御部140とを備えて構成されている。
【0049】
ブレーキ液圧制御部110は、制動装置1におけるブレーキ液圧を制御することによって、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力を変化させることができる。ブレーキ液圧制御部110は、例えば運転者によるブレーキペダル10(図1参照)の操作量やそれに伴うマスタシリンダ圧等に基づいて制動力を変化させる。また、後述するEBD制御部120の指示によって、EBD制御を実施することが可能である。
【0050】
EBD制御部120は、例えば車両の減速度に対して設定された閾値に基づいてEBD制御を行うべきか否かを判定し、EBD制御を行うべきと判定した場合には、ブレーキ液圧制御部110に対してEBD制御を行うよう指示を出す。EBD制御部120には、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度を検出する車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RL(図1参照)が接続されており、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度に応じてEBD制御が実施されることになる。尚、EBD制御部120は、上述したブレーキ液圧制御部110と共に、本発明の「制御手段」の一例として機能する。具体的なEBD制御の方法については、後に詳述する。
【0051】
悪路検出部130は、本発明の「悪路検出手段」の一例であり、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLから得られる車輪速度の異常値や路面信号等を用いて、車両が悪路を走行していることを検出する。車両が悪路を走行していることが検出された場合は、その旨を示す情報が、後述する悪路走行制御部140に伝達される。
【0052】
悪路走行制御部140は、車両が悪路を走行している場合に、EBD制御部120に対して悪路走行時用の制御を行うように指示する。悪路走行制御部140は、例えばブレーキ液圧回路系統に対する油圧保持制御及び増減圧制御等を指示する。即ち、悪路走行制御部140は、本発明の「油圧保持制御手段」及び「増減圧制御手段」の一例として機能する。悪路走行時のより具体的な制御については、後に詳述する。
【0053】
ECU2は、上述した各部位を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU2によって実行されるように構成されている。但し、上記各部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部位は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0054】
図1に戻り、本実施例1の制動装置1は、所謂X配管のブレーキ液圧回路を有するものであって、少なくとも前輪WFR及びWFL、後輪WRR及びWRLに対して個別の大きさの制動力を発生させることができるものである。但し、本実施形態に係る制動装置1は、X配管のブレーキ液圧回路を有するものに限られず、制動力制御を左右独立して実施可能であればよい。
【0055】
制動装置1は、運転者によるブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段20と、ブレーキ液圧が供給されることで制動力を発生させる各車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎の制動力発生手段(例えばホイールシリンダやキャリパ等)30FR、30FL、30RR、30RLと、そのブレーキ液圧発生手段20で発生したブレーキ液圧をそのまま又は各車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に調圧して夫々の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給するブレーキ液圧調整手段40とを備えている。
【0056】
ブレーキ液圧発生手段20は、ブレーキペダル10に入力された運転者のブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)21と、この制動倍力手段21により倍化されたペダル踏力をブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)へと変換するマスタシリンダ22と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク23とを備える。
【0057】
ここで、そのマスタシリンダ22の内部には図示しない2つの油圧室が設けられており、夫々の油圧室に上記のマスタシリンダ圧が発生している。各油圧室で生成されたマスタシリンダ圧は、一方がブレーキ液圧調整手段40の後述する第1ブレーキ液圧回路系統を介して右側前輪WFR及び左側後輪WRLに供給され、他方がブレーキ液圧調整手段40の後述する第2ブレーキ液圧回路系統を介して左側前輪WFL及び右側後輪WRRに供給される。このような動作を実現するため、本実施形態に係る制動装置1には、各油圧室に一端が接続されると共に他端が第1ブレーキ液圧回路系統と第2ブレーキ液圧回路系統に夫々接続された第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25が設けられている。
【0058】
ブレーキ液圧調整手段40は、上述した第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25内のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)をそのまま又は調圧して夫々の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給する所謂ブレーキアクチュエータである。ブレーキ液圧調整手段40は、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110の制御指令に従って作動する。
【0059】
ブレーキ液圧調整手段40は、右側前輪WFR及び左側後輪WRLに対してブレーキ液圧を伝える第1ブレーキ液圧回路系統と、左側前輪WFL及び右側後輪WRRに対してブレーキ液圧を伝える第2ブレーキ液圧回路系統とを備えている。尚、ここでの第1ブレーキ液圧回路系統は、本発明の「第1油圧系統」の一例であり、第2ブレーキ液圧回路系統は、本発明の「第2油圧系統」の一例である。ここでは、第1ブレーキ液圧回路系統を第1油圧配管24に接続させる一方、第2ブレーキ液圧回路系統を第2油圧配管25に接続させている。
【0060】
ブレーキ液圧調整手段40には、ブレーキ液圧発生手段20から供給されてきたブレーキ液圧(つまり、マスタシリンダ圧)の検出を行うマスタシリンダ圧センサ41が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ41は、第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25のいずれか一方に配備され、その検出信号をECU2におけるブレーキ液圧制御部110へと送信する。ここでは、マスタシリンダ圧センサ41を第1油圧配管24に設けるものとして例示している。
【0061】
また、ブレーキ液圧調整手段40は、第1及び第2のブレーキ液圧回路系統における夫々のブレーキ液の流量調節手段としてのマスタカット弁42、43を備えている。マスタカット弁42、43は、通常は開弁状態にある所謂常開式の流量調整用電磁弁であって、ECU2のブレーキ液圧制御部110による通電に伴って弁開度の制御が実行される。つまり、マスタカット弁42、43は、通電量に応じて弁開度を制御することで後述する加圧ポンプ69、70から吐出されたブレーキ液の圧力を調節してマスタシリンダ22側へ開放する。
【0062】
ここで、このブレーキ液圧調整手段40においては、第1油圧配管24がマスタカット弁42を介して連結通路44に接続される一方、第2油圧配管25がマスタカット弁43を介して連結通路45に接続される。そして、第1ブレーキ液圧回路系統の連結通路44には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路46、47が接続され、第2ブレーキ液圧回路系統の連結通路45には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路48、49が接続される。第1ブレーキ液圧回路系統においては、分岐通路46、47の各々が、夫々右側前輪WFRの油圧配管31FRと左側後輪WRLの油圧配管31RLに接続される。一方、第2ブレーキ液圧回路系統においては、分岐通路48、49の各々が、夫々右側後輪WRRの油圧配管31RRと左側前輪WFLの油圧配管31FLに接続される。
【0063】
各分岐通路46、47、48、49上には、夫々に対応する制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RL毎のブレーキ液圧を調整可能なブレーキ液圧調圧部が車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に配設されている。ブレーキ液圧調圧部は、車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に用意された保持弁50、51、52、53とブレーキ液圧排出通路54、55、56、57と減圧弁58、59、60、61とで構成される。ここでは、各分岐通路46、47、48、49上に保持弁50、51、52、53が各々設けられており、更に各保持弁50、51、52、53よりも下流側にブレーキ液圧排出通路54、55、56、57が、夫々分岐通路46、47、48、49から分岐させるが如く接続されている。そして、各ブレーキ液圧排出通路54、55、56、57上には、夫々減圧弁58、59、60、61が設けられている。
【0064】
上述した各保持弁50、51、52、53は、所謂常開式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には開弁状態にあり、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110による通電に伴って励磁状態となり閉弁させられるものである。一方、各減圧弁58、59、60、61は、所謂常閉式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には閉弁状態にあり、ブレーキ液圧制御部110による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。
【0065】
また、ここでは、第1ブレーキ液圧回路系統の夫々のブレーキ液圧排出通路54、55を一纏めにするブレーキ液圧排出集合通路62と、第2ブレーキ液圧回路系統の夫々のブレーキ液圧排出通路56、57を一纏めにするブレーキ液圧排出集合通路63とが用意されており、ブレーキ液圧排出集合通路62、63は、補助リザーバ64、65に夫々接続されている。
【0066】
更に、第1ブレーキ液圧回路系統においては、連結通路44と各分岐通路46、47との分岐点から分岐してブレーキ液圧排出集合通路62に接続されるポンプ通路66が設けられている。同様に、第2ブレーキ液圧回路系統においては、連結通路45と各分岐通路48、49との分岐点から分岐してブレーキ液圧排出集合通路63に接続されるポンプ通路67が設けられている。
【0067】
ポンプ通路66、67には、1つの電動機68によって駆動される加圧ポンプ69、70が夫々設けられている。これら各加圧ポンプ69、70は、マスタカット弁42、43側の各分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、分岐通路46、47と分岐通路48、49に対して加圧されたブレーキ液圧を夫々供給する。つまり、第1ブレーキ液圧回路系統の加圧ポンプ69は、右側前輪WFRと左側後輪WRLに発生させる制動力を増大させるべく、夫々に対応する制動力発生手段30FR、30RLに供給するブレーキ液圧の増圧を行う。一方、第2ブレーキ液圧回路系統の加圧ポンプ70は、左側前輪WFLと右側後輪WRRに発生させる制動力を増大させるべく、夫々に対応する制動力発生手段30FL、30RRに供給するブレーキ液圧の増圧を行う。尚、電動機68は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。また、ポンプ通路66、67には、加圧ポンプ69、70から吐出された夫々のブレーキ液の脈動を回避するダンパ室71、72が夫々設けられている。
【0068】
ブレーキ液圧調整手段40には更に、第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25から夫々分岐して補助リザーバ64、65に接続される吸入通路73、74が設けられており、夫々の吸入通路73、74の補助リザーバ64、65側にリザーバカット逆止弁75、76が設けられている。
【0069】
このように構成した制動装置1は、その動作が上述したようにECU2によって制御される。以下では、本実施形態に係る制動力制御装置の通常のブレーキング動作について、引き続き図1及び図2を参照して説明する。
【0070】
本実施形態に係る制動力制御装置の動作時には、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110に、ブレーキペダル10の操作量と、マスタシリンダ圧センサ41により検出されたマスタシリンダ圧とが入力される。つまり、ECU2には、運転者がブレーキペダル10の操作によって制動要求を行ったときに検出されたブレーキペダル操作量と、その操作に伴い発生したマスタシリンダ圧と夫々が入力される。尚、ブレーキペダル10の操作量としては、例えばブレーキペダル10の踏み込み量やペダル踏力が挙げられ、図示しないペダルストロークセンサやペダル踏力センサ等によって検出される。
【0071】
ECU2におけるブレーキ液圧制御部110は、ブレーキペダル10の操作量に基づいて運転者の要求車両制動力を演算する。そして、ECU2のブレーキ液圧制御手段は、全ての車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力の合計によって要求車両制動力が車両に対して働くようにブレーキ液圧調整手段40を制御する。尚、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLの各々には、所定の又は車両の状態に応じた配分比でブレーキ液圧が配分される。
【0072】
ブレーキ液圧制御部110は、制動力の増加を図るべく増圧制御を行う場合、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに該当するマスタカット弁42、43と保持弁50、51、52、53を開弁させる一方、減圧弁58、59、60、61を閉弁させる。これにより、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいては、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給されるブレーキ液圧の増圧によって制動力が増えていく。
【0073】
尚、ブレーキ液圧の増圧の際、加圧ポンプ69、70を駆動させずとも要求車両制動力を発生させることができるのであれば(言い換えれば、マスタシリンダ圧で要求車両制動力を車両に働かせることができるならば)、ブレーキ液圧制御手段は、電動機68を停止させることで加圧ポンプ69、70を駆動させないようする。このときには、マスタシリンダ圧に応じたブレーキ液圧が制御対象の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給され、ブレーキ液圧に応じた制動力が各車輪WFR、WFL、WRR、WRLに発生するため、要求車両制動力を満足させる車両制動力が車両に働く。以下では、加圧ポンプ69、70を駆動させずに発生させた各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力の合計のことを適宜「基準車両制動力」と称する。
【0074】
ブレーキ液圧の増圧の際には、基準車両制動力を最大限の大きさで発生させたとしても、その基準車両制動力が要求車両制動力に満たない場合がある。即ち、マスタシリンダ圧に基づいた基準車両制動力のみでは要求車両制動力を車両に発生させることができない場合がある。よって、この場合のブレーキ液圧制御手段は、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに該当する保持弁50、51、52、53を開弁させる一方、マスタカット弁42、43及び減圧弁58、59、60、61を閉弁させ、その不足分に相当する車両制動力(以下、適宜「差圧車両制動力」と称する)が発生するように電動機68及び加圧ポンプ69,70を駆動させる。つまり、ここでは不足分に応じた加圧量(即ち、吐出量や吐出圧)でブレーキ液が加圧されるようにマスタカット弁42、43と電動機68と加圧ポンプ69、70とが駆動される。これにより、不足分のブレーキ液圧が制御対象の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに対して増圧されるので、要求車両制動力を満足させる基準車両制動力と差圧車両制動力を合わせた車両制動力が車両に働く。
【0075】
ブレーキ液圧制御部110は、制動力の減少を図るべく減圧制御を行う場合、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに対応する保持弁50、51、52、53を閉弁させる一方、減圧弁58、59、60、61を開弁させる。これにより、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいて、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給されるブレーキ液圧の減圧によって制動力が減っていく。
【0076】
また、ブレーキ液圧制御部110は、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLのブレーキ液圧の増減が済んだ後、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLに対応する保持弁50、51、52、53と、減圧弁58、59、60、61を閉弁させてブレーキ液圧を保持させる保持制御を行うことがある。保持制御によれば、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいて、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLのブレーキ液圧が一定に保持されるので、制動力が一定に保たれる。
【0077】
次に、本実施形態に係る制動力制御装置によるEBD制御について、図1及び図2に加え、図3を参照して詳細に説明する。ここに図3は、本実施形態に係る制動力制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0078】
図3において、本実施形態に係る制動力制御装置では、EBD制御の開始条件が満たされると(ステップS01:YES)、EBD制御が開始される(ステップS02)。即ち、ECU2において、EBD制御部120によるブレーキ液圧制御部110に対する制御が開始される。尚、EBD制御の開始条件としては、例えば各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度の差が所定値以上である状態が一定期間継続している等の条件を用いることができる。
【0079】
EBD制御時には、先ず右前輪WFR及び左前輪WFLの少なくとも一方の車輪速度と、右後輪WRR及び左後輪WRLの車輪速度とが比較され、算出された車輪速度の差に基づいて第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。より具体的には、右前輪WFR及び左前輪WFLいずれかの車輪速度及び右後輪WRRの車輪速度差に基づいて、右後輪WRRに対応する第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。また、右前輪WFR及び左前輪WFLいずれかの車輪速度及び左後輪WRLの車輪速度差に基づいて、左後輪WRLに対応する第1ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。また、車輪速度差に代えて、車輪速度を用いて算出されるスリップ率差を用いることもできる。このような制御によれば、車両の荷重移動に応じて適切な制動力配分が行えるため、極めて適切なブレーキングを実現することができる。
【0080】
ここで本実施形態では特に、上述したEBD制御時には、ECU2における悪路検出部130によって、車両が悪路を走行しているか否かが判定される(ステップS03)。そして特に、車両が悪路を走行していると判定された場合には(ステップS03:YES)、ステップS04以降に示す悪路走行制御部140による制御が行われることになる。即ち、EBD制御の開始条件が満たされており、且つ車両が悪路を走行している場合には、ステップS04以降の処理が行われる。一方で、車両が悪路を走行していないと判定された場合には(ステップS03:NO)、通常のEBD制御が行われる(ステップS11)。尚、ステップS01におけるEBD制御の開始条件に対する判定と、ステップS3における車両が悪路を走行しているか否かの判定は、互いに相前後して行なわれてもよい。
【0081】
悪路走行制御部140は、車両が悪路を走行していると判定されると、先ずEBD制御部120に対して左後輪WRL及び右後輪WRRの各々に対応するブレーキ液圧を保持するように指示を出す(ステップS04)。これにより、EBD制御部120がブレーキ液圧制御部110を制御し、結果として、左後輪WRL及び右後輪WRRの各々においてブレーキ圧が保持された状態となる。
【0082】
ここで仮に、悪路走行中において上述した油圧保持制御が行われない場合を考える。この場合、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLにおいて検出される各車輪の車輪速度は、路面外乱等の影響でノイズを含むものとなる。よって、悪路走行時において、通常通りのEBD制御を実施してしまうと、左後輪WRLと右後輪WRRとの間に意図しない制動力差が発生してしまい、車両の挙動が不安定になってしまうおそれがある。これに対し本実施形態では、上述したように、悪路走行時に左後輪WRL及び右後輪WRRに対して同時に油圧保持制御が行われる。よって、制動力に意図しない左右差が発生してしまうことを防止でき、車両の挙動を安定させつつ、適切にEBD制御を実施することができる。
【0083】
続いて悪路走行制御部140は、悪路を走行することに起因して車両に生ずる振動(例えば、振動の大きさや種別、継続時間等)に基づいて、EBD制御による増減圧制御を実施するか否かを判定するための判定時間を設定する(ステップS05)。尚、車両に生ずる振動は、悪路検出部130において、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLや路面信号から検出されたものであってもよいし、別途設けられた振動センサ等によって検出されたものであってもよい。判定時間は、例えば車両に生ずる振動が大きい程、長い値として設定される。ちなみに、判定時間が長くなればなる程、EBD制御による増減圧制御は開始され難い状態となる。
【0084】
尚、上述した判定時間は、ステップS01におけるEBD制御の開始条件として使用することもできる。この場合は、ステップS01が実施される前に、先ずステップS03の悪路の検出が行われる。そして、車両が悪路を走行している場合に、ステップS05の判定時間の設定が行われ、設定された判定時間を用いてステップS01のEBD制御の開始条件が判定される。
【0085】
また悪路走行制御部140は、車両に生ずる振動に基づいて、EBD制御による増減圧制御を実施する際の制御間隔を設定する(ステップS06)。制御間隔は、例えば車両に生ずる振動が大きい程、長い値として設定される。ちなみに、判定時間が長くなればなる程、EBD制御の実施される頻度は少なくなる。
【0086】
悪路走行制御部140は更に、車両に生ずる振動に基づいて、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLに設けられるローパスフィルタのカットオフ周波数を設定する。カットオフ周波数は、低い値となればなる程、ローパスフィルタにおける通過を制限する。よって、カットオフ周波数が低くなればなる程、出力される車輪速度の値も小さくなり、結果的にEBD制御による増減圧制御が開始され難い状態となる。
【0087】
悪路走行制御部140は、上述した各種パラメータを設定すると、車両が旋回しているか否かを判定する(ステップS08)。車両が旋回しているか否かは、例えば車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RL、或いは図示しないヨーレートセンサ、横Gセンサ、舵角センサ、傾斜センサ等によって検出できる。
【0088】
ここで、車両が旋回していると判定されると(ステップS08:YES)、ステップS05〜S07で設定した各種パラメータを用いて、EBD制御による増減圧制御を開始する条件を満たしているか否かが判定される(ステップS09)。具体的には、ステップS7で設定されたカットオフ周波数のローパスフィルタを介して出力された車輪速度から、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度の差が求められる。そして、車輪速度の差が所定値以上となっている期間が、ステップS5で設定された判定時間以上継続して上回る又は下回る場合に(ステップS09:YES)、ステップS6で設定された制御間隔でEBD制御による増減圧制御が実施される(ステップS10)。尚、上述した増減圧制御を行うか否かの判定には、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度をそのまま車輪速度の値として用いるだけでなく、例えば車輪速度から求められるスリップ率の値を用いてもよい。具体的には、例えば前輪WFR、WFL及び後輪WRR、WRLのスリップ率の差が所定の閾値を超えているかが判定される。このように、増減圧制御の開始条件の判定には、車輪速度を利用して求めることができる様々なパラメータを用いることができる。
【0089】
上述した新たな設定値を用いる制御によれば、検出された各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度に含まれるノイズ等に起因して、不必要なEBD制御(即ち、左後輪WRL及び右後輪WRRに対する増減圧制御)が行われてしまうことを防止できる。これにより、作動音の悪化や耐久性の低下を回避することができる。また、上述した各種パラメータを設定するために用いた車両に生ずる振動は、路面の荒れ具合等に応じて変化するものである。従って、車両が走行している悪路の状況に応じて、より適切な制動力を実現することが可能である。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、悪路走行時においても、左右独立したEBD制御を好適に実施可能である。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制動力制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…制動装置、2…ECU、10…ブレーキペダル、20…ブレーキ液圧発生手段、24…第1油圧配管、25…第2油圧配管、30…制動力発生手段、40…ブレーキ液圧調整手段、83…車輪速センサ、110…ブレーキ液圧制御部、120…EBD制御部、130…悪路検出部、140…悪路走行制御部、WFR,WFL,WRR,WRL…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左後輪のブレーキ油圧を変化させる第1油圧系統及び右後輪のブレーキ油圧を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力を制御する制動力制御装置であって、
前記車両の各車輪の車輪速度を夫々検出する車輪速度検出手段と、
前記左後輪及び前記右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たした場合に、前記車両の各車輪のうち前輪の動作量と、前記左後輪及び前記右後輪の動作量との差に基づいて前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統を夫々制御することで、前記左後輪及び前記右後輪に対する制動力制御を夫々独立して行う制御手段と、
前記車両が悪路を走行していることを検出する悪路検出手段と、
前記車両が悪路を走行していることが検出されていると共に、前記左後輪及び前記右後輪のいずれかの車輪速度が所定の条件を満たしている場合に、前記左後輪及び前記右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう前記制御手段を制御する油圧保持制御手段と
を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
前記車両の各車輪の車輪速度を用いて、前記車両の各車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段を備え、
前記油圧保持制御手段は、前記車両が悪路を走行していることが検出されていると共に、前記車両の各車輪のスリップ率が所定の値を超えている場合に、前記左後輪及び前記右後輪の各々のブレーキ油圧を油圧保持制御するよう前記制御手段を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記油圧保持制御の後に、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統の各々に対して増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御する増減圧制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記増減圧制御手段は、悪路を走行することに起因して前記車両に生ずる振動に基づいて、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御することを特徴とする請求項3に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて、前記増減圧制御を行うか否かを判定するための判定時間を設定し、前記各車輪の車輪速度の差が所定閾値を前記判定時間以上継続して上回る又は下回る場合に、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の制動力制御装置。
【請求項6】
前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて前記増減圧制御を行う際の制御間隔を設定し、前記制御間隔を空けて前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の制動力制御装置。
【請求項7】
前記車輪速度検出手段は、設定周波数より低い帯域のみを通過させるローパスフィルタを有しており、
前記増減圧制御手段は、前記振動に基づいて前記設定周波数を設定すると共に、前記ローパスフィルタを介して出力された前記各車輪の車輪速度を用いて前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御する
ことを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の制動力制御装置。
【請求項8】
前記車両が旋回しているか否かを判定する旋回判定手段を更に備え、
前記増減圧制御手段は、前記車両が旋回していると判定された場合に、前記増減圧制御を行うよう前記制御手段を制御する
ことを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136045(P2012−136045A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287706(P2010−287706)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】