制御定数の決定方法及び電動機制御装置
【課題】矩形波制御のトルクリップルへの対応を考慮するとともに、電動機のトルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮した、制御定数の決定方法を提供する。
【解決手段】トルクフィードバック制御器は、トルク指令値に対する、ローパスフィルタの処理を行った電動機の出力トルクのトルク偏差を算出し、比例積分制御を行って電圧位相を算出する制御器であり、電圧位相の変化に対する出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを電動機の伝達関数と決定するステップと、一巡伝達関数のゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を導出するステップと、閉ループ伝達関数の応答性が、所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を導出するステップと、積分ゲインを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定するステップと、を備える。
【解決手段】トルクフィードバック制御器は、トルク指令値に対する、ローパスフィルタの処理を行った電動機の出力トルクのトルク偏差を算出し、比例積分制御を行って電圧位相を算出する制御器であり、電圧位相の変化に対する出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを電動機の伝達関数と決定するステップと、一巡伝達関数のゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を導出するステップと、閉ループ伝達関数の応答性が、所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を導出するステップと、積分ゲインを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定するステップと、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法、及び決定された制御定数を備える電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなトルクフィードバック制御器として、下記の特許文献1に記載された制御器が既に知られている。特許文献1の技術では、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、トルク偏差に対して比例積分制御を行い、矩形波の電圧位相を算出している。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術には、トルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮した、比例積分制御の制御定数の決定方法については、具体的に開示されていない。
また、矩形波制御では、電動機に印加される矩形波電圧に、一回転周期の周波数の基本波成分より高調波の成分が重畳しており、この高調波成分が、正弦波制御を行う場合よりも大きいトルクリップルを生じさせている。よって、矩形波制御のトルクフィードバック制御系を設計するにあたって、トルクリップルに対する設計が必要になるが、特許文献1の技術には、トルクリップルに対する制御系の設計及び、制御定数の決定方法については、特に開示されていない。
【0004】
トルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮して制御定数を設定するためには、制御対象である電動機の出力トルク特性を伝達関数で表す必要があるが、電動機の出力トルク特性は、非線形性が強く伝達関数で表すことは容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−50689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、矩形波制御により生じるトルクリップルへの対応を考慮するとともに、非線形性の強い出力トルク特性を有する電動機のトルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮した、トルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法を確立することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法の特徴構成は、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を前記電圧位相の各動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値と決定する電動機線形化ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件を導出する第一条件導出ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令の変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件を導出する第二条件導出ステップと、
前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定する積分ゲイン決定ステップと、を備える点にある。
【0008】
上記の特徴構成によれば、電動機の出力トルク特性を電圧位相の動作点について線形化して、電動機の伝達関数をトルク位相傾きに応じた値と決定しているので、電動機を含めたトルクフィードバック制御系全体の伝達関数に基づき、当該制御系の安定性及び応答性を考慮して、制御定数の決定を行うことができる。
また、上記の特徴構成によれば、高調波のトルクリップルが大きくなる矩形波制御の出力トルクに対してローパスフィルタの処理を行うように構成しており、高調波のリップル成分を除去できるように構成されている。
ローパスフィルタは、トルクフィードバック制御系の遅れ要素となりそのカットオフ周波数の変化により、トルクフィードバック制御系の周波数応答が大きく変化し、安定性及び応答性に影響する。また、電動機のトルク位相傾きは、電圧位相、回転速度、印加電圧などの動作点により大きく変化するため、このトルク位相傾きの変化によりトルクフィードバック制御系のゲインが大きく変化し、安定性及び応答性に影響する。
しかし、上記の特徴構成によれば、比例積分制御の伝達関数、電動機の伝達関数、及びローパスフィルタの伝達関数からなる一巡伝達関数の周波数特性からゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を導出しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御系の安定性を確保できるような積分ゲインの第一の決定条件を導出することができる。
また、比例積分制御の伝達関数、電動機の伝達関数、及びローパスフィルタの伝達関数からなる閉ループ伝達関数のトルク指令の変化に対する出力トルクの応答性が所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を導出しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御系の応答性を確保できるような積分ゲインの第二の決定条件を導出することができる。
また、積分ゲインを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、安定性及び応答性の双方が確保されるような積分ゲインを決定することができる。
【0009】
ここで、前記第一条件導出ステップは、前記第一の決定条件として、前記比例積分制御の伝達関数と前記電動機の伝達関数とからなる前記トルク偏差から前記出力トルクまでの開ループ伝達関数の周波数特性におけるゲイン交差角周波数が、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも小さくなるような前記積分ゲインの決定条件を導出すると好適である。
【0010】
この構成によれば、開ループ伝達関数のゲイン交差角周波数と、ローパスフィルタのカットオフ周波数とに基づいて、一巡伝達関数の周波数特性のゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を容易に決定することができる。
【0011】
ここで、前記第二条件導出ステップは、前記第二の決定条件として、前記ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における前記閉ループ伝達関数の時定数が、所定値以下になるような前記積分ゲインの決定条件を導出すると好適である。
【0012】
この構成によれば、ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における閉ループ伝達関数の時定数に基づいて、閉ループ伝達関数におけるトルク指令の変化に対する出力トルクの応答性が所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を容易に決定することができる。
【0013】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記トルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定すると好適である。
【0014】
この構成によれば、積分ゲインをトルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定するので、第一の決定条件の値及び第二の決定条件の値がトルク位相傾きに応じて変化する場合でも、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすような積分ゲインを決定できる。また、トルク位相傾きの動作点に応じて、第一の決定条件及び第二の決定条件をバランスよく満たす、積分ゲインを決定することができる。
【0015】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定すると好適である。
【0016】
この構成によれば、積分ゲインを、システム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定するので、第一の決定条件の値及び第二の決定条件の値が、システム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する場合でも、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすような積分ゲインを決定できる。また、システム電圧をロータ回転速度で除算した値の動作点に応じて、第一の決定条件及び第二の決定条件をバランスよく満たす、積分ゲインを決定することができる。
【0017】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記トルク位相傾きの使用範囲の全域において、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定すると好適である。
【0018】
この構成によれば、積分ゲインをトルク位相傾きの使用範囲の全域において、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定するので、積分ゲインの設定を単純化できるともに、比例積分制御器の構成を単純化できる。
【0019】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記トルク偏差が所定値以下である定常時に用いる前記積分ゲインを、前記第二の決定条件における、前記閉ループ伝達関数の前記応答性が、前記所定の応答性に一致するように決定すると好適である。
【0020】
トルク偏差が所定値以下である定常時では、トルクフィードバック制御系の応答性を高める必要性が低い。上記の構成によれば、応答性を下限まで低下させて高調波成分からなる出力トルクのリップルに対するフィードバック系の応答感度を低下させて、定常時に電圧位相を振動させないようにすることができる。
【0021】
ここで、前記トルクフィードバック制御器は、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更され、前記トルク偏差に対して、前記ロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変化するトルク偏差補正係数を乗算した補正後トルク偏差を算出し、当該補正後トルク偏差に基づき、前記比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であると好適である。
【0022】
この構成によれば、トルク偏差に乗算されるトルク偏差補正係数はロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変更され、ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更されるので、第一の決定条件の値を、トルク位相傾きに応じて変化しないようにすることができ、第一の決定条件を満たす積分ゲインの設定可能領域を増加させることができる。
【0023】
ここで、前記比例積分制御が離散化される場合において、前記比例積分制御の制御周期を、前記一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定する制御周期決定ステップを、更に備えると好適である。
【0024】
この構成によれば、例えばディジタル計算機に実装するために、比例積分制御を離散化するに際して、制御周期を、一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定するので、離散化後も、トルクフィードバック制御系の安定性を確保することができる。
【0025】
ここで、前記制御周期決定ステップは、前記制御周期を、前記積分ゲインに反比例するように決定すると好適である。
【0026】
この構成によれば、制御周期を、積分ゲインに反比例するように決定するので、積分ゲインが変化しても、トルクフィードバック制御系の安定性が大きく変化しないようにすることができる。
【0027】
上記目的を達成するための本発明に係る、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器を備える電動機制御装置は、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を各電圧位相の動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値とし、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件と、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令のステップ変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件と、に基づいて、
前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定された前記積分ゲインを備える点にある。
【0028】
上記の特徴構成によれば、電動機制御装置に備えられたトルクフィードバック制御器は、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定された積分ゲインを備えるので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御器の安定性及び応答性の双方が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る電動機の出力トルク特性を示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る電動機のトルク位相傾きの特性を示す図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る電動機の切片の特性を示す図である。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る矩形波制御の運転領域を示す図である。
【図8】本発明の第一の実施形態に係る電動機に供給される矩形波電圧を示す図である。
【図9】本発明の第一の実施形態に係る第一の決定条件を説明するボード線図である。
【図10】本発明の第一の実施形態に係る第一の決定条件を説明するボード線図である。
【図11】本発明の第一の実施形態に係る第二の決定条件を説明する図である。
【図12】本発明の第一の実施形態に係る第二の決定条件を説明するボード線図である。
【図13】本発明の第一の実施形態に係る制御周期の決定を説明するボード線図である。
【図14】本発明の第一の実施形態に係る積分ゲインの決定を説明する図である。
【図15】本発明の第一の実施形態に係るトルク位相傾きの特性を示す図である。
【図16】本発明の第二の実施形態に係るトルクフィードバック制御器の構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第二の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図18】本発明の第二の実施形態に係る積分ゲインの決定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第一の実施形態〕
本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、電動機Mのトルクフィードバック制御器FBは、トルク指令値Toに対する出力トルクTの偏差が減少するように、ロータ角度θに対する矩形波の位相である電圧位相δを算出し、算出された電圧位相δの矩形波電圧を印加して同期型交流電動機Mを回転駆動する制御器である。本発明では、トルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法に特徴を有する。
【0031】
1、トルクフィードバック制御器
本実施形態に係るトルクフィードバック制御器FBは、図1に示すように出力トルク検出器Tdtにより電動機Mの出力トルクTを検出し、ローパスフィルタ器LPFにより出力トルクTにローパスフィルタ処理を行ってフィルタ後出力トルクTfを算出する。そして、偏差算出器Dvによりトルク指令値Toに対するフィルタ後出力トルクTfの偏差であるトルク偏差ΔTを算出し、比例積分制御器PIによりトルク偏差ΔTに基づき、比例ゲインKp及び積分ゲインKiを備える比例積分制御を行って電圧位相δを算出する。
【0032】
また、トルクフィードバック制御器FBには、矩形波発生器Wgが備えられている。矩形波発生器Wgは、算出された電圧位相δと検出したロータ角度θとに基づき、電圧位相δを有する矩形波電圧が電動機Mに印加されるようにインバータInvをスイッチング制御する。なお、ロータ角度θは、電動機Mに設けられたレゾルバなどの回転角度センサS1により検出される。
【0033】
図8は、電動機Mに供給される矩形波電圧を示す図である。図8には、電動機Mに印加される三相交流電圧のうちU相に印加される電圧波形が一例として示されている。電動機Mの巻線は、スター結線されており、矩形波において最大値と最小値との差が、インバータInvのシステム電圧Vdcに一致する。また、矩形波電圧は、ロータ角度θの一回転(360deg)あたり1パルスの矩形波とされており、電圧位相δは、ロータ角度θの0degに対する矩形波の立下りの進み角に対応している。V相、W相の電圧波形は、それぞれU相の電圧波形に対して120deg、240deg遅れた、U相と同様の矩形波とされている。なお、ロータ角度θは、U相の巻線を基準に、後述するq軸の進み角とされている。
【0034】
本実施形態では、出力トルク検出器Tdtは、電動機Mに供給されている電力Pinと、電動機Mのロータ角速度ωeとに基づき、次式に従い出力トルクTを検出する。
T=Pin/ωe
=(Iu×Vu+Iv×Vv+Iw×Vw)/ωe ・・・(1)
ここで、Pinは、電動機Mに供給されている電力を示し、ωeは電動機Mのロータ角速度(電気角速度)を示す。また、Iu、Iv、Iwは、電動機Mに供給されている三相交流電流の各相の値を示し、Vu、Vv、Vwは、各相の電圧を示す。本実施形態では、三相交流電流Iu、Iv、Iwが、電流センサにより検出され、三相交流電圧Vu、Vv、Vwが、矩形波発生器WgによりインバータInvに設定される電圧指令値に設定される。なお、三相交流電圧Vu、Vv、Vwは、電圧センサにより検出される値としてもよい。
【0035】
もしくは、出力トルク検出器Tdtは、検出した三相交流電流Iu、Iv、Iwを、三相二相変換(d、q変換)を行ってd軸電流Id、q軸電流Iqを算出し、算出したd軸電流Id、q軸電流Iqに基づき、後述する式(7)に従い、マグネットトルク、インダクタンストルクを算出し、これらの和を出力トルクTとして算出するようにしてもよい。もしくは、電動機Mにトルクセンサを設けて、出力トルク検出器Tdtは、トルクセンサの検出値を出力トルクTとするようにしてもよい。
【0036】
本実施形態では、ローパスフィルタ器LPFは、カットオフ周波数ωlpfを備えたローパスフィルタとされており、カットオフ周波数ωlpは、後述するように、矩形波制御において出力トルクTに生じる一回転周期の基本波成分に対する高調波の振動成分を除去するように設定されている。本例では、ローパスフィルタは一次遅れフィルタとされている。
以下で、トルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法を構成するステップである、電動機線形化ステップ、第一条件導出ステップ、第二条件導出ステップ、及び積分ゲイン決定ステップ、並びに離散化のための制御周期を設定する制御周期決定ステップを説明する。
【0037】
2、電動機線形化ステップ
電動機Mの出力トルク特性は、非線形であるためそのままでは、電動機Mの出力トルク特性を考慮したトルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定を行うことが困難である。よって、電動機線形化ステップでは、電動機Mの出力トルク特性を電圧位相δの各動作点において線形化して、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きAを導出し、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、トルク位相傾きAに応じた値とする。
【0038】
2−1、制御系のモデル化
本実施形態では、トルクフィードバック制御器FB及びその制御対象である電動機Mからなるトルクフィードバック制御系を伝達関数で表し、伝達関数の周波数特性に基づきトルクフィードバック制御器FBの制御定数を決定する。トルクフィードバック制御系を、図2にブロック線図を示すように、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)から構成する。ここで、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)は、トルク偏差ΔTから電圧位相δまでの伝達関数であり、電動機Mの伝達関数Pm(s)は、電圧位相δから出力トルクTまでの伝達関数であり、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)は、出力トルクTからフィルタ後出力トルクTfまでの伝達関数である。電動機Mの伝達関数Pm(s)は、図1に対応させると、電圧位相δに応じて、矩形波発生器WgがインバータInvに指令して、電圧位相δの矩形波電圧を電動機Mに印加して電動機Mを回転駆動し、出力トルク検出器Tdtにより電動機Mの出力トルクTが検出されるまでの伝達関数である。
【0039】
2−2、制御器のモデル化
比例積分制御の伝達関数Gpi(s)を、次式で表す。
Gpi(s)=Kp+Ki/s ・・・(2)
ここで、Kpは比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。
また、本実施形態では、ローパスフィルタを一次遅れフィルタとし、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を次式で表す。
Glpf(s)=1/(1+Tlpf×s) ・・・(3)
ここで、Tlpfは一次遅れの時定数であり、時定数Tlpfの逆数が、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfとなる(ωlpf=1/Tlpf)。
【0040】
2−3、電動機のモデル化
次に、電動機Mのモデル化を行う。電動機Mは、交流により動作する永久磁石同期電動機(PMSM)である。本実施形態では、電動機Mは、三相交流で動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)とされている。
PMSMの解析及び設計用のモデルを説明する。回転子(ロータ)に備えられた永久磁石のN極の向きにd軸を定め、これよりπ/2進んだ方向にq軸をとる。U相巻線を基準にq軸の進み角をロータ角度θとする。d、q変換により、固定子(ステータ)に静止していた三相巻線を回転子(ロータ)と同期して回転するd、q巻線に変換する。
定常状態での電圧方程式は次式のように表せる。
Vd=−ωe×Lq×Iq
Vq=ωe×Ld×Id+ωe×Φ ・・・(4)
ここで、Vd,Vqはそれぞれd軸及びq軸の電圧値である。また、Id,Iqはそれぞれd軸及びq軸の電流値である。さらに、Ld,Lqはd軸及びq軸のインダクタンスであり、ωeは電気角速度である。また、Φは磁束鎖交数である。
【0041】
ここで、Vd,Vqを電圧ベクトルの大きさVaとq軸を基準とした電圧位相δを用いて表すと、次式のようになる。
Vd=−Va×sinδ ・・・(5)
Vq= Va×cosδ ・・・(6)
【0042】
電動機Mの出力トルクTは次式のように表すことができる。
T=Pn×Φ×Iq+Pn×(Ld−Lq)×Id×Iq ・・・(7)
ここで、Pnは極対数を表す。上式において、右辺第1項は永久磁石によるマグネットトルクを表し、右辺第2項はリラクタンストルクを表す。
【0043】
以上の式(4)から式(7)から出力トルクTと電圧ベクトルとの関係式を導くと次式のようになる。
T=Pn×Φ×Va×sinδ/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×Va2×sin(2×δ)/(2×ωe2×Lq×Ld) ・・・(8)
式(7)と同様に、右辺第1項は永久磁石によるマグネットトルクを表し、右辺第2項はリラクタンストルクを表す。図4に、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの変化の例を示す。電圧位相δが増加するにつれて出力トルクTも増加する単調増加範囲は、図4に示す例では電圧位相δが約−110deg〜+110degの範囲となっており、この単調増加範囲がトルクフィードバック制御の使用範囲とされる。なお、電圧位相δの使用範囲は、電気角速度ωe、システム電圧Vdcなどの動作点毎に設定される。
【0044】
ここで、電圧ベクトルの大きさVaは、矩形波電圧の基本波成分からシステム電圧Vdcを用いて次のように表すことができる。
Va=(√6/π)×Vdc ・・・(9)
なお、矩形波制御では、電圧ベクトルに、基本波成分より高調波の成分(基本波の周波数の3倍、5倍、7倍、…の周波数)が重畳しており、この高調波成分がトルクリップルを生じている。よって、正弦波制御よりもトルクリップルが大きくなる。
【0045】
2−3−1、電動機の線形化
導出した式(8)の電動機Mの出力トルク特性の式は、非線形であるためそのままでは伝達関数を導出することができない。
よって、電動機Mの出力トルク特性を電圧位相δの各動作点において線形化して、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きAを導出し、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、トルク位相傾きAに応じた値に決定する。
【0046】
線形化した出力トルク特性を次式のように表す。
T=Aδ+B ・・・(10)
ここで、Aは、電圧位相δの各動作点おける、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きであり、Bは、そのときの切片である。図4に、電圧位相δの動作点δ1において、出力トルク特性を線形化した例を示している。
【0047】
トルク位相傾きAは、上記(8)式の両辺を電圧位相δで微分し、さらに(9)式を用いて電圧振幅Vaを消去すると、次式のように導出される。
表せられる。
A=dT/dδ=Pn×Φ×(√6/π)×Vdc×cosδ/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×(√6/π)2×Vdc2×cos(2×δ)/(ωe2×Lq×Ld)
・・・(11)
また、切片Bは、式(8)から式(11)より次式(12)のようになる。
B=Pn×Φ×(√6/π)×Vdc×(sinδ−δ×cosδ)/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×(√6/π)2×Vdc2×(sin(2×δ)−2×cos(2×δ))
/(2×ωe2×Lq×Ld) ・・・(12)
図5に、電圧位相δの変化に対するトルク位相傾きAの変化の例を示す。トルクフィードバック制御の使用範囲は、単調増加範囲とされているので、トルク位相傾きAは所定範囲のプラスの値となる。また、トルク位相傾きAは、電圧位相δの動作点により変化する。また、トルク位相傾きAは、式(11)から、システム電圧Vdc/電気角速度ωeに比例して変化することがわかる。また、システム電圧Vdcの使用範囲は、矩形波制御においてインバータInvにシステム電圧Vdcを供給する昇圧回路の動作範囲により定まる。また、電気角速度ωe(電動機Mの回転速度N)の使用範囲は、図7に示すような矩形波制御の実行範囲により予め決められている。従って、図15に示すように、システム電圧Vdc/回転速度Nの使用範囲は所定範囲となり、当該使用範囲で、トルク位相傾きAは、システム電圧Vdc/回転速度Nにほぼ比例して変化する。
【0048】
そこで、式(10)の線形化した出力トルク特性に基づき、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、次式のようにトルク位相傾きAに決定する。
Pm(s)=A ・・・(13)
以上より、トルクフィードバック制御系のブロック線図は、図3に示すようになる。
【0049】
3、第一条件導出ステップ
第一条件導出ステップでは、以上で決定した比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、及びローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)からなる、トルク偏差ΔTからフィルタ後出力トルクTfまでの一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されるような積分ゲインKiの第一の決定条件を導出する。言い換えると、第一の決定条件は、安定性確保のための安定性条件である。
【0050】
一巡伝達関数L(s)は、式(2)、(3)、(13)より次式で表せる。
L(s)=Glpf(s)×Pm(s)×Gpi(s)
=1/(1+Tlpf×s)×A×(Kp+Ki/s) ・・・(14)
【0051】
この一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されれば、トルクフィードバック制御系の安定性を確保できる。従って、一巡伝達関数L(s)のゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保できるような、積分ゲインKiの第一の決定条件を導出する。
ここで、ゲイン余裕Ygは、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degになるときの位相交差周波数における、一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲインが0dBに対して下回っている量と定義される。このように位相が-180degであるときのゲインが0dB以下になっていると振幅が減衰するため安定であり、0dBより大きいと振幅が増大するため不安定となる。なお、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degになる周波数が存在しない場合も安定である。
また、位相余裕Ypは、一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲインが0dBと交差するときのゲイン交差角周波数における、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degに対して上回っている量と定義される。このようにゲインが0dBのときの位相が-180deg以上になっていると安定であり、-180degより小さいと不安定となる。
【0052】
本実施形態では、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保するために、第一の決定条件として、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)と電動機Mの伝達関数Pm(s)とからなるトルク偏差ΔTから出力トルクTまでの開ループ伝達関数Go(s)の周波数特性におけるゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。
【0053】
開ループ伝達関数Go(s)は、式(2)、(3)、(13)より次式で表せる。
Go(s)=Pm(s)×Gpi(s)
=A×(Kp+Ki/s) ・・・(15)
よって、式(14)の一巡伝達関数L(s)は、開ループ伝達関数Go(s)と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)から次式で表せる。
L(s)=Glpf(s)×Go(s) ・・・(16)
一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲイン及び位相は、開ループ伝達関数Go(s)のボード線図と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のボード線図とを、ボード線図上で加え合わせることで、その近似曲線を求めることができる。従って、開ループ伝達関数Go(s)のボード線図と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のボード線図を考察することで、一巡伝達関数L(s)のゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保する条件を決定できる。
【0054】
開ループ伝達関数Go(s)は、電動機Mの伝達関数Pm(s)を線形化により比例要素としたので、開ループ伝達関数Go(s)を、式(15)に示したように、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)と同じ、比例要素及び積分要素で構成することができる。よって、図9に例を示すように、開ループ伝達関数Go(s)の位相は、ゲイン交差角周波数ωoより低い周波数帯で-90degまで遅れるが、ゲイン交差角周波数ωoより高い周波数帯で0degまで進む位相特性となる。なお、開ループ伝達関数Go(s)は、比例項のゲインとなるA×Kpが1より十分小さくなるような所定値に、比例ゲインKpが設定される。よって、図9に示すように、開ループ伝達関数Go(s)のゲインが20log10|A×Kp|となる高周波数帯における開ループ伝達関数Go(s)のゲインは、0dBより小さくなっている。
また、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)は、一次遅れフィルタとしたので、その位相は、図9に例を示すように、カットオフ周波数ωlpfで-45degになり、カットオフ周波数ωlpfより低い周波数帯で-45degから0degまで進むが、カットオフ周波数ωlpfより高い周波数帯で-45degから-90degまで遅れる位相特性となる。
【0055】
これらの特性から、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoを、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のカットオフ周波数ωlpfより小さくなるようにした場合、ゲイン交差角周波数ωoは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)におけるカットオフ周波数ωlpfより低い周波数帯になる。よって、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を、少なくとも-45degより進ませることができる。このため、開ループ伝達関数Go(s)の位相にローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を加え合わせても、一巡伝達関数L(s)の位相は、ゲイン交差角周波数ωoで、最遅角が-90degである開ループ伝達関数Go(s)の位相から-45degより大きく遅れることはない。よって、一巡伝達関数L(s)の位相余裕Ypを45degより大きく確保することができ、位相余裕Ypの点で、トルクフィードバック制御系の安定性を十分確保できる。
【0056】
なお、この場合、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインは0dBに近いので、このゲインを開ループ伝達関数Go(s)に加え合わせた一巡伝達関数L(s)のゲインは、開ループ伝達関数Go(s)にほぼ一致する。このため、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlが、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoより小さくなることを防止でき、ほぼ一致させることができる。よって、ゲイン交差角周波数ωl以下の周波数帯域となる周波数帯域幅(バンド幅)の減少を防止でき、速応性の悪化を防止できる。この周波数帯域幅では、図12に閉ループ特性を示すように、ゲインが0dBとなり、トルク指令Toの変化に対する出力トルクTの追従性が良好になる。
【0057】
また、ゲイン交差角周波数ωoがカットオフ周波数ωlpfより小さくなるようにした場合は、一巡伝達関数L(s)の位相が-180degになる周波数が存在しないため、ゲイン余裕Ygの点でも、安定性を確保できる。
【0058】
更に、ゲイン交差角周波数ωoが、カットオフ周波数ωlpfより十分小さくなるようにした場合、図9に示すように、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を、0deg近くまで進ませることができる。よって、一巡伝達関数L(s)の位相余裕Ypを90deg近くまで確保できる。
【0059】
図10に、本実施形態とは逆に、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoがカットオフ周波数ωlpfより十分大きくなるようにした場合を示す。ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相が、-90deg近くまで遅れている。よって、一巡伝達関数L(s)の位相が、ゲイン交差角周波数ωoで、ほぼ-180degまで遅れている。また、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインは0dBより小さくなっているので、このゲインを開ループ伝達関数Go(s)に加え合わせた一巡伝達関数L(s)のゲインは、開ループ伝達関数Go(s)より小さくなっている。このため、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlは、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoより小さくなり、周波数帯域幅(バンド幅)が減少し、速応性が悪化している。また、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlにおける、位相余裕Ypが減少しており、安定性が低下している。
【0060】
従って、本実施形態のように、第一の決定条件として、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなるような積分ゲインKiの決定条件とすることで、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されて安定性が確保されるとともに、周波数帯域幅(バンド幅)の減少が防止されて速応性の低下を防止できる。
【0061】
次に、第一の決定条件を導出する。
まず、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoを導出する。式(16)の開ループ伝達関数Go(s)にs=jωを代入してデシベル単位でゲインを求めると次式を得る。
20log10|Go(jω)|=20log10(A×√(Kp2+Ki2/ω2)) ・・・(17)
式(17)から、ゲインが0dB(真数で1)になるときのゲイン交差角周波数ωoを求めると次式を得る。
A×√(Kp2+Ki2/ωo2)=1
ωo=A×Ki×√(1/(1―A2×Kp2)) ・・・(18)
なお、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、一次遅れフィルタの時定数Tlpfから、1/Tlpfとなる。
開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる条件は次式となる。
ωo < ωlpf ・・・(19)
式(19)に、式(18)を代入し、積分ゲインKiについて整理すると、次式の第一の決定条件を得る。
Ki < ωlpf/A×√(1−A2×Kp2) ・・・(20)
【0062】
4、第二条件導出ステップ
第二条件導出ステップでは、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、及びローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)からなる、トルク指令Toから出力トルクTまでの閉ループ伝達関数Gfb(s)における、トルク指令Toの変化に対する出力トルクTの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインKiの第二の決定条件を導出する。言い換えると、第二の決定条件は、応答性確保のための応答性条件である。
【0063】
閉ループ伝達関数Gfb(s)は、次式で表せる。
Gfb(s)=Pm(s)×Gpi(s)/(1+Glpf(s)×Pm(s)×Gpi(s))
=Go(s)/(1+Glpf(s)×Go(s)) ・・・(21)
【0064】
本実施形態では、閉ループ伝達関数Gfb(s)におけるトルク指令Toに対する出力トルクTの応答性が所定の応答性以上に速くなるように、第二の決定条件として、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合における閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τが、所定値以下になるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。
【0065】
式(21)の閉ループ伝達関数Gfb(s)は、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似すると次式のようになる。
Gfb(s)=Go(s)/(1+Glpf(s)×Go(s))≒Go(s)/(1+Go(s)) ・・・(22)
積分ゲインKiが式(20)の第一の決定条件により決定され、式(19)のωo < ωlpfの条件が満たされる場合、図12に示すように、近似前後の閉ループ伝達関数Gfb(s)の周波数特性はほぼ一致する。これは、図9に示すように、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域(ω<ωlpf)では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインがほぼ0dB(真数(非対数)で1)であるため、一巡伝達関数L(s)(= Glpf(s)×Go(s))の周波数特性は、開ループ伝達関数Go(s)の周波数特性と等しいとみなすことができる。よって、当該帯域において、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似できる。また、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpf以上になる帯域(ω≧ωlpf)では、一巡伝達関数L(s)(=Go(s)×Glpf(s))及び開ループ伝達関数Go(s)のゲインが0dBより低下している。ここで、dB単位で低下しているため、これらのゲインは真数(非対数)で1より大幅に小さくなる。よって、式(22)の閉ループ伝達関数Gfb(s)の分母は、近似前後に関わらずほぼ1になるため(すなわち、1+Glpf(s)×Go(s)≒1+Go(s)≒1)、当該ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似することができる。従って、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域及び大きくなる帯域の双方、すなわち、周波数ωの全域に亘って、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した閉ループ伝達関数Gfb(s)を用いて、閉ループ伝達関数Gfb(s)の応答性を考察することができる。
【0066】
式(22)の閉ループ伝達関数Gfb(s)は、式(15)を代入すると次式となる。
Gfb(s)≒Go(s)/(1+Go(s))=(Kp/Ki×s+1)/(τ×s+1)
τ=(1+A×Kp)/(A×Ki) ・・・(23)
ここで、τを閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数とする。
式(23)の閉ループ伝達関数Gfb(s)に、単位ステップ関数u(t)のトルク指令Toを入力したときの、初期値0のもとでの出力トルクTの時間応答であるインディシャル応答f(t)は、次式のように導出される。
f(t)=L-1(Gfb(s)×U(s))=L-1((Kp/Ki×s+1)/(τ×s+1)×1/s)
=1−(1−Kp/(1+A×Kp))×exp(−1/τ×t) ・・・(24)
ここで、L-1()は、逆ラプラス変換を表し、U(s)は、単位ステップ関数u(t)のラプラス変換を表し、1/sである。
式(24)の出力トルクTのインディシャル応答f(t)を図11に示す。閉ループ伝達関数Gfb(s)のインデンシャル応答f(t)の過渡応答は、一次遅れの指数関数的変化が支配的であることがわかる。トルク指令Toのステップ変化後、出力トルクTがトルク指令Toに到達する(Toの約99%に到達する)までのステップ応答の応答時間は、式(23)の時定数τの5倍程度となる。
【0067】
よって、ステップ応答の目標応答時間を5×τoとし、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合における閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τを目標時定数τo以下になるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。これにより、閉ループ伝達関数Gfb(s)におけるトルク指令Toに対する出力トルクTの応答性が所定の応答性以上に速くなるような、積分ゲインKiの第二の決定条件を導出することができる。
【0068】
以下で、第二の決定条件を導出する。
閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τが、所定の目標時定数τo以下になる条件は次式となる。
τ≦τo ・・・(25)
式(25)に、式(23)を代入し、積分ゲインKiについて整理すると、次式の第二の決定条件を得る。
Ki≧1/τo/A×(1+A×Kp) ・・・(26)
ここで、時定数τは、閉ループ伝達関数Gfb(s)のカットオフ周波数ωfb(≒ωl、≒ωo)の逆数に対応している。よって、目標時定数τoの逆数を、閉ループ伝達関数Gfb(s)のカットオフ周波数の目標値ωfboとすると、式(26)の第二の決定条件は次式で表せる。
Ki≧ωfbo/A×(1+A×Kp) ・・・(27)
【0069】
5、積分ゲイン決定ステップ
積分ゲイン決定ステップでは、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定する。
本実施形態では、式(20)の第一の決定条件、及び式(27)の第二の決定条件の双方を満たすように、積分ゲインKiが満たすべき条件を次式のように決定する。
ωlpf/A×√(1−A2×Kp2)>Ki≧ωfbo/A×(1+A×Kp) ・・・(28)
【0070】
式(28)の第一の決定条件の値は、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfに比例し、また、上記したようにA×Kpが1より小さく設定されており、A2×Kp2が1より十分小さくなるため、図14に示すようにトルク位相傾きAに反比例する。
【0071】
ここで、本実施形態におけるカットオフ周波数ωlpfの設定について説明する。電動機Mに矩形波電圧を印加しているので、電動機Mの出力トルクTに、電動機Mの一回転周期の基本波成分より高調波の振動成分が重畳する。よって、本実施形態では、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、出力トルクTの基本波成分は透過し、高調波成分は除去するように設定される。よって、カットオフ周波数ωlpfは、基本波の周波数よりも高く、最も低い周波数の高調波である基本波周波数の6倍の周波数よりも低い周波数に設定される。本例では、次式のように、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、基本波周波数の1.6倍に設定され、電動機Mの回転速度N[rpm]に応じて設定される。
ωlpf=2×π×N/60×1.6 ・・・(29)
ここで、2×π×N/60は、基本波の周波数である、一回転周期の周波数であり、電動機Mのロータ角速度ωeに等しくなる。
【0072】
よって、第一の決定条件の値は、電動機Mの回転速度Nに比例して変化する。回転速度Nは、図7に示すように矩形波制御の実行範囲である下限回転速度N1と上限回転速度N2との間を変化するため、第一の決定条件の値は、図14に示すように、回転速度Nに応じて、下限回転速度N1における値と上限回転速度N2における値との間を変化する。よって、積分ゲインKiは、下限の回転速度N1に対応する第一の決定条件の値より小さく決定されれば、回転速度Nの全ての使用範囲において、第一の決定条件を満たすことができる。
【0073】
式(28)の第二の決定条件の値は、閉ループ伝達関数Gfb(s)の目標カットオフ周波数ωfbo(=1/τo)に比例し、また上記したようにA×Kpが1より小さくなるため、図14に示すようにトルク位相傾きAに反比例する。矩形波電圧における電圧位相δの変更タイミングは電気角60deg毎であるため、目標応答時間は、一回転周期より十分遅く設定される。よって、目標応答時間の5分の1に対応する目標カットオフ周波数ωfboは、一回転周期の周波数よりも小さくなるように設定される。従って、目標カットオフ周波数ωfboは、一回転周期の周波数の1倍から6倍の間に設定されるローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さく設定される(ωfbo<ωlpf)。
【0074】
従って、第二の決定条件の値は、第一の決定条件の値よりも小さくなり、図14にハッチングを設けて示すように、式(28)における第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす積分ゲインKiの設定可能領域が存在する。
【0075】
本実施形態では、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように、トルク位相傾きAに応じて変化する可変値Kiaに決定する。例えば、図14に示すように、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAの動作点毎に、第一の決定条件(下限回転速度)及び第二の決定条件の中間程度の値Kiaに決定する。
もしくは、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAの使用範囲の全域において、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす一定値Kibに決定するようにしてもよい。
もしくは、図15を用いて上述したように、トルク位相傾きAは、使用範囲で、システム電圧Vdc/回転速度Nにほぼ比例して変化する。すなわち、システム電圧Vdc/回転速度Nが大きくなるに従って、トルク位相傾きAも大きくなる。よって、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように、矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧Vdcをロータ回転速度Nで除算した値に応じて変化する可変値に決定するようにしてもよい。
【0076】
また、トルク偏差ΔTが所定値以下である定常時に用いる積分ゲインKiを、第二の決定条件における、閉ループ伝達関数Gfb(s)の応答性が、所定の応答性に一致するように決定するようにしてもよい。すなわち、式(26)の第二の決定条件を次式のように変更して、積分ゲインKiを決定する。
Ki=(1+A×Kp)/A/τo ・・・(30)
これにより、トルク偏差ΔTが所定値以下である定常時では、トルクフィードバック制御系の応答性を高める必要性が低く、応答性を下限まで低下させて高調波成分からなる出力トルクTのリップルに対するフィードバック系の応答感度を低下させて、定常時に電圧位相δを振動させないようにすることができる。
【0077】
6、制御周期決定ステップ
制御周期決定ステップでは、比例積分制御が離散化される場合において、比例積分制御の制御周期Tcを、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されるように決定する。
【0078】
連続系で設計したトルクフィードバック制御を、ディジタル計算機を用いた制御装置に実装するに際して、トルクフィードバック制御を制御周期Tc(サンプリング間隔)で離散化する必要がある。そこで、離散化されたトルクフィードバック制御の伝達関数から、安定性が確保される制御周期Tcを決定する。
【0079】
第二の決定条件における式(22)に関連して説明したように、積分ゲインKiが式(20)の第一の決定条件により決定されて、式(19)のωo < ωlpfの条件が満たされる場合、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域(ω<ωlpf)では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似して無視できる。よって、本実施形態では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合の一巡伝達関数L(s)と一致する開ループ伝達関数Go(s)について、離散化された場合の安定性が確保されるような制御周期Tcを決定する。開ループ伝達関数Go(s)は、比例積分制御にトルク位相傾きAを乗じたものであるため、制御周期Tcは、比例積分制御を離散化した場合の制御周期となる。
【0080】
式(15)の開ループ伝達関数Go(s)を、サンプリング間隔Tc毎にサンプリングするサンプラーと0次ホールドとを用いて離散化した場合の離散化開ループ伝達関数God(s)を次式で示す。
God(s)=Go(s)×(1−exp(−s×Tc))/s
=A×(Kp+Ki/s)×(1−exp(−s×Tc))/s ・・・(31)
式(31)をz変換して、次式のパルス伝達関数を得る。
God(z)=A×(Kp+Ki×Tc/(z−1)) ・・・(32)
パルス伝達関数の周波数特性を求めるため、式(32)にz=exp(j×ω×Tc)を代入して、整理すると次式を得る。
God(jω)=α+j×β
α=A×(Kp−Ki×Tc/2)
β=−A×Ki×Tc×sin(ω×Tc)/2/(1−cos(ω×Tc)) ・・・(32)
式(32)の周波数特性の位相が-180degになるときの位相交差周波数ωpを求める。
∠God(jω)=tan-1(β/α)=−π
β/α=0
sin(ω×Tc)=0
∴ ωp=π/Tc ・・・(33)
【0081】
次に、位相が-180degになるとき(ω=π/Tc)の、式(32)の周波数特性のゲインを求める。
|God(j×π/Tc)|=√(α2+β2)=A×(Ki×Tc/2−Kp) ・・・(34)
【0082】
よって、位相が-180degになるときの式(34)のゲインが、0dB(真数で1)より小さくなる、すなわちゲイン余裕Ygが確保される制御周期Tcの決定条件は次式となる。
|God(j×π/Tc)|=A×(Ki×Tc/2−Kp)<1
Tc<Tco
Tco=2×(1+A×Kp)/A/Ki ・・・(35)
ここで、Tcoは、安定限界の制御周期である。
従って、制御周期Tcは、式(35)を満たすように決定される。
図13に、離散化開ループ伝達関数Godの周波数特性を示す。制御周期Tcが安定限界の制御周期Tcoに設定されたとき(Tc=Tco)の、ゲイン余裕Yg1は0dBになっており安定限界になっている。また、ゲイン交差角周波数ωoのときの位相余裕Yp1は、90degより大きく減少している。次に、制御周期Tcが安定限界の制御周期Tcoより小さく設定されたとき(Tc<Tco)の、ゲイン余裕Yg2は確保されており、安定性が確保されている。また、ゲイン交差角周波数ωoのときの位相余裕Yp1は、90degよりほとんど減少しておらず、安定性が確保されている。
【0083】
よって、ゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを十分確保するためには、制御周期Tcは安定限界の制御周期Tcoより十分小さく決定されればよい。例えば、制御周期Tcを、次式のように、安定限界の制御周期Tcoの10分の1に決定すればよい。
Tc=Tco/10 ・・・(36)
【0084】
また、式(35)から、安定限界の制御周期Tcoは、積分ゲインKiに反比例することがわかる。従って、制御周期Tcを、積分ゲインKiに反比例するように決定するようにしてもよい。このようにすることで、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定された積分ゲインKiに応じて、トルクフィードバック系の安定性が変化しないように制御周期Tcを変更することができる。また、式(35)から、安定限界の制御周期Tcoは、トルク位相傾きAにも反比例することがわかる。従って、制御周期Tcを、トルク位相傾きAにも反比例するように決定するようにしてもよい。
【0085】
積分ゲインKiを、図14のKiaの例の場合、又は式(30)の場合のように、トルク位相傾きAに反比例するように決定した場合、式(35)のA×Kpは1より十分小さくなるため、式(35)の安定限界の制御周期Tcoを、一定値にすることができる。従って、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAに反比例するように決定した場合、式(36)に示したように、制御周期Tcを一定値にしても、離散化したフィードバック制御系の安定性が変化しないようにすることができる。
【0086】
7、電動機制御装置
図1に示すようなトルクフィードバック制御器FBを備える電動機制御装置が、以上で説明した各ステップで決定されたトルクフィードバック制御器FBの積分ゲインKi、制御周期Tcなどの制御定数を備えるように構成される。また、トルクフィードバック制御器FBは、トルク位相傾きA又はシステム電圧Vdc/回転速度Nに応じて積分ゲインKi及び制御周期Tcを予め設定したマップ又は演算式を備えるように構成されている。そして、トルクフィードバック制御器FBは、トルク位相傾きA、又はシステム電圧Vdc/回転速度Nを、各種センサ検出値、制御パラメータに基づき算出し、算出したトルク位相傾きA又はシステム電圧Vdc/回転速度Nに応じて積分ゲインKi、制御周期Tcを算出するように構成されている。
【0087】
〔第二の実施形態〕
次に、第二の実施形態について図面を参照して説明する。上記の第一の実施形態では、図1から図3に示したように、トルクフィードバック制御器FBは、トルク偏差ΔTに基づき比例積分制御を行っていた。しかし、本実施形態では、図16及び図17に示すように、トルクフィードバック制御器FBは、トルク偏差補正器Ctを更に備え、トルク偏差補正器Ctにより、トルク偏差ΔTに対してロータ回転速度Nに比例し、かつ、システム電圧Vdcに反比例して変化するトルク偏差補正係数Kcを乗算した補正後トルク偏差ΔTnを算出し、当該補正後トルク偏差ΔTnに基づき比例積分制御を行うように構成されている点が異なる。以下では、本実施形態に係るトルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法について、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
【0088】
上記したように、本実施形態では、トルクフィードバック制御器FBに、トルク偏差補正器Ctが更に備えられている。トルク偏差補正器Ctは、トルク偏差ΔTに対して、トルク偏差補正係数Kcを乗算して、補正後トルク偏差ΔTnを算出している。また、トルク偏差補正係数Kcは、電動機Mの回転速度Nに比例し、かつ、システム電圧Vdcに反比例して変化するように構成されている。すなわち、トルク偏差補正器Ctは、次式で表す演算を行う。
ΔTn=Kc×ΔT
Kc=K1×N/Vdc ・・・(37)
ここで、K1は、所定の定数である。
【0089】
また、本実施形態にいても、ローパスフィルタ器LPFは、カットオフ周波数ωlpfを備えたローパスフィルタとされており、カットオフ周波数ωlpfは、式(29)で示したように、電動機Mの回転速度Nに比例して変化するように設定されている。以下に式(29)を再掲する。
ωlpf=2×π×N/60×1.6 ・・・(29)
【0090】
トルク偏差補正器Ctの追加により、本実施形態における、トルク偏差ΔTから出力トルクTまでの開ループ伝達関数Go(s)は、式(15)の右辺に対して、トルク偏差補正の伝達関数であるKcが乗算され、次式となる。
Go(s)=A×(Kp+Ki/s)×Kc ・・・(38)
これに伴い、本実施形態に係る、式(20)の第一の決定条件は、次式のように変更される。
Ki < ωlpf/(Kc×A)×√(1−Kc2×A2×Kp2) ・・・(39)
ここで、第一の実施形態の式(20)とは異なり、式(39)において、カットオフ周波数ωlpfが、トルク偏差補正係数Kc×トルク位相傾きAで除算されるように変更されている。図15よりトルク位相傾きAはシステム電圧Vdc/回転速度Nに比例するため、トルク位相傾きAを常に一定値にするため、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正する。
従って、本実施形態では、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正するトルク偏差補正器Ctを備えることにより、第一の決定条件は、第一の実施形態とは異なり、任意のトルク位相傾きAに対して常に一定の値にすることができる。
【0091】
従って、本実施形態では、図18に示すように、図14で示した第一の実施形態とは異なり、第一の決定条件が、トルク位相傾きAに応じて変化しないようになり、積分ゲインKiを容易に設定することができる。
【0092】
また、本実施形態に係る、式(27)の第二の決定条件は、次式のように変更される。
Ki≧ωfbo/(Kc×A)×(1+Kc×A×Kp) ・・・(40)
ここで、トルク偏差補正係数Kcは式(37)と同様に、トルク位相傾きAを常に一定値にするため、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正する。
【0093】
このようにすると、式(40)の第二の決定条件において、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正するトルク偏差補正器Ctを備えることにより、第一の実施形態とは異なり、任意のトルク位相傾きAに対して常に一定の値にすることができる。従って、式(40)の第二の決定条件の値がトルク位相傾きAに応じて変化しないようにすることができる。よって、積分ゲインKiを容易に設定することができる。
【0094】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の各実施形態においては、ローパスフィルタが、カットオフ周波数ωlpfを備えた一次遅れフィルタで構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ローパスフィルタが、カットオフ周波数ωlpfを備えた、より高次のローパスフィルタで構成されることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0095】
(2)上記の第二の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBがトルク偏差補正係器Ctを備え、第一の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBがトルク偏差補正係器Ctを備えていない場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBが、ゲイン調整のための一定値に設定されたトルク偏差補正係数Kcを備えるトルク偏差補正係器Ctを、図16、図17に示す第二の実施形態と同様の位置に、備えるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0096】
(3)上記の各実施形態において、トルク位相傾きA、及び積分ゲインKiのそれぞれに対して、制御器実装時の分解能設計を考慮した所定の係数が乗算された状態で、伝達関数及び周波数特性が求められ、第一の決定条件及び第二の決定条件が導出されるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法、及び決定された制御定数を備える電動機制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
To:トルク指令値
T:出力トルク
ΔT:トルク偏差
θ:ロータ角度
S1:回転角度センサ
N:電動機の回転速度
δ:電圧位相
M:電動機(同期型交流電動機)
FB:トルクフィードバック制御器
PI:比例積分制御器
Tdt:出力トルク検出器
LPF:ローパスフィルタ器
Dv:偏差算出器
Tf:フィルタ後出力トルク
Wg:矩形波発生器
Inv:インバータ
Kp:比例ゲイン
Ki:積分ゲイン
A:トルク位相傾き
B:切片
Pm(s):電動機の伝達関数
Gpi(s):比例積分制御の伝達関数
Glpf(s):ローパスフィルタの伝達関数
L(s):一巡伝達関数
Gfb(s):閉ループ伝達関数
Go(s):開ループ伝達関数
God(s):離散化開ループ伝達関数
Yg:ゲイン余裕
Yp:位相余裕
ωo:開ループ伝達関数のゲイン交差角周波数
ωlpf:ローパスフィルタのカットオフ周波数
ωl:一巡伝達関数のゲイン交差角周波数
ωp:離散化開ループ伝達関数の位相交差周波数
τ:閉ループ伝達関数の時定数
τo:目標時定数(所定値)
Vdc:システム電圧
ωe:ロータ回転速度(電気角速度)
Ct:トルク偏差補正係器
Kc:トルク偏差補正係数
ΔTn:補正後トルク偏差
Tc:制御周期(サンプリング間隔)
Tco:安定限界の制御周期
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法、及び決定された制御定数を備える電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなトルクフィードバック制御器として、下記の特許文献1に記載された制御器が既に知られている。特許文献1の技術では、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、トルク偏差に対して比例積分制御を行い、矩形波の電圧位相を算出している。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術には、トルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮した、比例積分制御の制御定数の決定方法については、具体的に開示されていない。
また、矩形波制御では、電動機に印加される矩形波電圧に、一回転周期の周波数の基本波成分より高調波の成分が重畳しており、この高調波成分が、正弦波制御を行う場合よりも大きいトルクリップルを生じさせている。よって、矩形波制御のトルクフィードバック制御系を設計するにあたって、トルクリップルに対する設計が必要になるが、特許文献1の技術には、トルクリップルに対する制御系の設計及び、制御定数の決定方法については、特に開示されていない。
【0004】
トルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮して制御定数を設定するためには、制御対象である電動機の出力トルク特性を伝達関数で表す必要があるが、電動機の出力トルク特性は、非線形性が強く伝達関数で表すことは容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−50689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、矩形波制御により生じるトルクリップルへの対応を考慮するとともに、非線形性の強い出力トルク特性を有する電動機のトルクフィードバック制御系の安定性及び応答性を考慮した、トルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法を確立することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法の特徴構成は、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を前記電圧位相の各動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値と決定する電動機線形化ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件を導出する第一条件導出ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令の変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件を導出する第二条件導出ステップと、
前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定する積分ゲイン決定ステップと、を備える点にある。
【0008】
上記の特徴構成によれば、電動機の出力トルク特性を電圧位相の動作点について線形化して、電動機の伝達関数をトルク位相傾きに応じた値と決定しているので、電動機を含めたトルクフィードバック制御系全体の伝達関数に基づき、当該制御系の安定性及び応答性を考慮して、制御定数の決定を行うことができる。
また、上記の特徴構成によれば、高調波のトルクリップルが大きくなる矩形波制御の出力トルクに対してローパスフィルタの処理を行うように構成しており、高調波のリップル成分を除去できるように構成されている。
ローパスフィルタは、トルクフィードバック制御系の遅れ要素となりそのカットオフ周波数の変化により、トルクフィードバック制御系の周波数応答が大きく変化し、安定性及び応答性に影響する。また、電動機のトルク位相傾きは、電圧位相、回転速度、印加電圧などの動作点により大きく変化するため、このトルク位相傾きの変化によりトルクフィードバック制御系のゲインが大きく変化し、安定性及び応答性に影響する。
しかし、上記の特徴構成によれば、比例積分制御の伝達関数、電動機の伝達関数、及びローパスフィルタの伝達関数からなる一巡伝達関数の周波数特性からゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を導出しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御系の安定性を確保できるような積分ゲインの第一の決定条件を導出することができる。
また、比例積分制御の伝達関数、電動機の伝達関数、及びローパスフィルタの伝達関数からなる閉ループ伝達関数のトルク指令の変化に対する出力トルクの応答性が所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を導出しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御系の応答性を確保できるような積分ゲインの第二の決定条件を導出することができる。
また、積分ゲインを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定しているので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、安定性及び応答性の双方が確保されるような積分ゲインを決定することができる。
【0009】
ここで、前記第一条件導出ステップは、前記第一の決定条件として、前記比例積分制御の伝達関数と前記電動機の伝達関数とからなる前記トルク偏差から前記出力トルクまでの開ループ伝達関数の周波数特性におけるゲイン交差角周波数が、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも小さくなるような前記積分ゲインの決定条件を導出すると好適である。
【0010】
この構成によれば、開ループ伝達関数のゲイン交差角周波数と、ローパスフィルタのカットオフ周波数とに基づいて、一巡伝達関数の周波数特性のゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような積分ゲインの第一の決定条件を容易に決定することができる。
【0011】
ここで、前記第二条件導出ステップは、前記第二の決定条件として、前記ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における前記閉ループ伝達関数の時定数が、所定値以下になるような前記積分ゲインの決定条件を導出すると好適である。
【0012】
この構成によれば、ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における閉ループ伝達関数の時定数に基づいて、閉ループ伝達関数におけるトルク指令の変化に対する出力トルクの応答性が所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインの第二の決定条件を容易に決定することができる。
【0013】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記トルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定すると好適である。
【0014】
この構成によれば、積分ゲインをトルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定するので、第一の決定条件の値及び第二の決定条件の値がトルク位相傾きに応じて変化する場合でも、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすような積分ゲインを決定できる。また、トルク位相傾きの動作点に応じて、第一の決定条件及び第二の決定条件をバランスよく満たす、積分ゲインを決定することができる。
【0015】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定すると好適である。
【0016】
この構成によれば、積分ゲインを、システム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定するので、第一の決定条件の値及び第二の決定条件の値が、システム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する場合でも、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすような積分ゲインを決定できる。また、システム電圧をロータ回転速度で除算した値の動作点に応じて、第一の決定条件及び第二の決定条件をバランスよく満たす、積分ゲインを決定することができる。
【0017】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記トルク位相傾きの使用範囲の全域において、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定すると好適である。
【0018】
この構成によれば、積分ゲインをトルク位相傾きの使用範囲の全域において、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定するので、積分ゲインの設定を単純化できるともに、比例積分制御器の構成を単純化できる。
【0019】
ここで、前記積分ゲイン決定ステップは、前記トルク偏差が所定値以下である定常時に用いる前記積分ゲインを、前記第二の決定条件における、前記閉ループ伝達関数の前記応答性が、前記所定の応答性に一致するように決定すると好適である。
【0020】
トルク偏差が所定値以下である定常時では、トルクフィードバック制御系の応答性を高める必要性が低い。上記の構成によれば、応答性を下限まで低下させて高調波成分からなる出力トルクのリップルに対するフィードバック系の応答感度を低下させて、定常時に電圧位相を振動させないようにすることができる。
【0021】
ここで、前記トルクフィードバック制御器は、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更され、前記トルク偏差に対して、前記ロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変化するトルク偏差補正係数を乗算した補正後トルク偏差を算出し、当該補正後トルク偏差に基づき、前記比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であると好適である。
【0022】
この構成によれば、トルク偏差に乗算されるトルク偏差補正係数はロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変更され、ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更されるので、第一の決定条件の値を、トルク位相傾きに応じて変化しないようにすることができ、第一の決定条件を満たす積分ゲインの設定可能領域を増加させることができる。
【0023】
ここで、前記比例積分制御が離散化される場合において、前記比例積分制御の制御周期を、前記一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定する制御周期決定ステップを、更に備えると好適である。
【0024】
この構成によれば、例えばディジタル計算機に実装するために、比例積分制御を離散化するに際して、制御周期を、一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定するので、離散化後も、トルクフィードバック制御系の安定性を確保することができる。
【0025】
ここで、前記制御周期決定ステップは、前記制御周期を、前記積分ゲインに反比例するように決定すると好適である。
【0026】
この構成によれば、制御周期を、積分ゲインに反比例するように決定するので、積分ゲインが変化しても、トルクフィードバック制御系の安定性が大きく変化しないようにすることができる。
【0027】
上記目的を達成するための本発明に係る、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器を備える電動機制御装置は、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を各電圧位相の動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値とし、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件と、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令のステップ変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件と、に基づいて、
前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定された前記積分ゲインを備える点にある。
【0028】
上記の特徴構成によれば、電動機制御装置に備えられたトルクフィードバック制御器は、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定された積分ゲインを備えるので、ローパスフィルタのカットオフ周波数、及びトルク位相傾きが変化しても、トルクフィードバック制御器の安定性及び応答性の双方が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る電動機の出力トルク特性を示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る電動機のトルク位相傾きの特性を示す図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る電動機の切片の特性を示す図である。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る矩形波制御の運転領域を示す図である。
【図8】本発明の第一の実施形態に係る電動機に供給される矩形波電圧を示す図である。
【図9】本発明の第一の実施形態に係る第一の決定条件を説明するボード線図である。
【図10】本発明の第一の実施形態に係る第一の決定条件を説明するボード線図である。
【図11】本発明の第一の実施形態に係る第二の決定条件を説明する図である。
【図12】本発明の第一の実施形態に係る第二の決定条件を説明するボード線図である。
【図13】本発明の第一の実施形態に係る制御周期の決定を説明するボード線図である。
【図14】本発明の第一の実施形態に係る積分ゲインの決定を説明する図である。
【図15】本発明の第一の実施形態に係るトルク位相傾きの特性を示す図である。
【図16】本発明の第二の実施形態に係るトルクフィードバック制御器の構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第二の実施形態に係るトルクフィードバック制御の構成を示すブロック線図である。
【図18】本発明の第二の実施形態に係る積分ゲインの決定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第一の実施形態〕
本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、電動機Mのトルクフィードバック制御器FBは、トルク指令値Toに対する出力トルクTの偏差が減少するように、ロータ角度θに対する矩形波の位相である電圧位相δを算出し、算出された電圧位相δの矩形波電圧を印加して同期型交流電動機Mを回転駆動する制御器である。本発明では、トルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法に特徴を有する。
【0031】
1、トルクフィードバック制御器
本実施形態に係るトルクフィードバック制御器FBは、図1に示すように出力トルク検出器Tdtにより電動機Mの出力トルクTを検出し、ローパスフィルタ器LPFにより出力トルクTにローパスフィルタ処理を行ってフィルタ後出力トルクTfを算出する。そして、偏差算出器Dvによりトルク指令値Toに対するフィルタ後出力トルクTfの偏差であるトルク偏差ΔTを算出し、比例積分制御器PIによりトルク偏差ΔTに基づき、比例ゲインKp及び積分ゲインKiを備える比例積分制御を行って電圧位相δを算出する。
【0032】
また、トルクフィードバック制御器FBには、矩形波発生器Wgが備えられている。矩形波発生器Wgは、算出された電圧位相δと検出したロータ角度θとに基づき、電圧位相δを有する矩形波電圧が電動機Mに印加されるようにインバータInvをスイッチング制御する。なお、ロータ角度θは、電動機Mに設けられたレゾルバなどの回転角度センサS1により検出される。
【0033】
図8は、電動機Mに供給される矩形波電圧を示す図である。図8には、電動機Mに印加される三相交流電圧のうちU相に印加される電圧波形が一例として示されている。電動機Mの巻線は、スター結線されており、矩形波において最大値と最小値との差が、インバータInvのシステム電圧Vdcに一致する。また、矩形波電圧は、ロータ角度θの一回転(360deg)あたり1パルスの矩形波とされており、電圧位相δは、ロータ角度θの0degに対する矩形波の立下りの進み角に対応している。V相、W相の電圧波形は、それぞれU相の電圧波形に対して120deg、240deg遅れた、U相と同様の矩形波とされている。なお、ロータ角度θは、U相の巻線を基準に、後述するq軸の進み角とされている。
【0034】
本実施形態では、出力トルク検出器Tdtは、電動機Mに供給されている電力Pinと、電動機Mのロータ角速度ωeとに基づき、次式に従い出力トルクTを検出する。
T=Pin/ωe
=(Iu×Vu+Iv×Vv+Iw×Vw)/ωe ・・・(1)
ここで、Pinは、電動機Mに供給されている電力を示し、ωeは電動機Mのロータ角速度(電気角速度)を示す。また、Iu、Iv、Iwは、電動機Mに供給されている三相交流電流の各相の値を示し、Vu、Vv、Vwは、各相の電圧を示す。本実施形態では、三相交流電流Iu、Iv、Iwが、電流センサにより検出され、三相交流電圧Vu、Vv、Vwが、矩形波発生器WgによりインバータInvに設定される電圧指令値に設定される。なお、三相交流電圧Vu、Vv、Vwは、電圧センサにより検出される値としてもよい。
【0035】
もしくは、出力トルク検出器Tdtは、検出した三相交流電流Iu、Iv、Iwを、三相二相変換(d、q変換)を行ってd軸電流Id、q軸電流Iqを算出し、算出したd軸電流Id、q軸電流Iqに基づき、後述する式(7)に従い、マグネットトルク、インダクタンストルクを算出し、これらの和を出力トルクTとして算出するようにしてもよい。もしくは、電動機Mにトルクセンサを設けて、出力トルク検出器Tdtは、トルクセンサの検出値を出力トルクTとするようにしてもよい。
【0036】
本実施形態では、ローパスフィルタ器LPFは、カットオフ周波数ωlpfを備えたローパスフィルタとされており、カットオフ周波数ωlpは、後述するように、矩形波制御において出力トルクTに生じる一回転周期の基本波成分に対する高調波の振動成分を除去するように設定されている。本例では、ローパスフィルタは一次遅れフィルタとされている。
以下で、トルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法を構成するステップである、電動機線形化ステップ、第一条件導出ステップ、第二条件導出ステップ、及び積分ゲイン決定ステップ、並びに離散化のための制御周期を設定する制御周期決定ステップを説明する。
【0037】
2、電動機線形化ステップ
電動機Mの出力トルク特性は、非線形であるためそのままでは、電動機Mの出力トルク特性を考慮したトルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定を行うことが困難である。よって、電動機線形化ステップでは、電動機Mの出力トルク特性を電圧位相δの各動作点において線形化して、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きAを導出し、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、トルク位相傾きAに応じた値とする。
【0038】
2−1、制御系のモデル化
本実施形態では、トルクフィードバック制御器FB及びその制御対象である電動機Mからなるトルクフィードバック制御系を伝達関数で表し、伝達関数の周波数特性に基づきトルクフィードバック制御器FBの制御定数を決定する。トルクフィードバック制御系を、図2にブロック線図を示すように、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)から構成する。ここで、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)は、トルク偏差ΔTから電圧位相δまでの伝達関数であり、電動機Mの伝達関数Pm(s)は、電圧位相δから出力トルクTまでの伝達関数であり、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)は、出力トルクTからフィルタ後出力トルクTfまでの伝達関数である。電動機Mの伝達関数Pm(s)は、図1に対応させると、電圧位相δに応じて、矩形波発生器WgがインバータInvに指令して、電圧位相δの矩形波電圧を電動機Mに印加して電動機Mを回転駆動し、出力トルク検出器Tdtにより電動機Mの出力トルクTが検出されるまでの伝達関数である。
【0039】
2−2、制御器のモデル化
比例積分制御の伝達関数Gpi(s)を、次式で表す。
Gpi(s)=Kp+Ki/s ・・・(2)
ここで、Kpは比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。
また、本実施形態では、ローパスフィルタを一次遅れフィルタとし、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を次式で表す。
Glpf(s)=1/(1+Tlpf×s) ・・・(3)
ここで、Tlpfは一次遅れの時定数であり、時定数Tlpfの逆数が、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfとなる(ωlpf=1/Tlpf)。
【0040】
2−3、電動機のモデル化
次に、電動機Mのモデル化を行う。電動機Mは、交流により動作する永久磁石同期電動機(PMSM)である。本実施形態では、電動機Mは、三相交流で動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)とされている。
PMSMの解析及び設計用のモデルを説明する。回転子(ロータ)に備えられた永久磁石のN極の向きにd軸を定め、これよりπ/2進んだ方向にq軸をとる。U相巻線を基準にq軸の進み角をロータ角度θとする。d、q変換により、固定子(ステータ)に静止していた三相巻線を回転子(ロータ)と同期して回転するd、q巻線に変換する。
定常状態での電圧方程式は次式のように表せる。
Vd=−ωe×Lq×Iq
Vq=ωe×Ld×Id+ωe×Φ ・・・(4)
ここで、Vd,Vqはそれぞれd軸及びq軸の電圧値である。また、Id,Iqはそれぞれd軸及びq軸の電流値である。さらに、Ld,Lqはd軸及びq軸のインダクタンスであり、ωeは電気角速度である。また、Φは磁束鎖交数である。
【0041】
ここで、Vd,Vqを電圧ベクトルの大きさVaとq軸を基準とした電圧位相δを用いて表すと、次式のようになる。
Vd=−Va×sinδ ・・・(5)
Vq= Va×cosδ ・・・(6)
【0042】
電動機Mの出力トルクTは次式のように表すことができる。
T=Pn×Φ×Iq+Pn×(Ld−Lq)×Id×Iq ・・・(7)
ここで、Pnは極対数を表す。上式において、右辺第1項は永久磁石によるマグネットトルクを表し、右辺第2項はリラクタンストルクを表す。
【0043】
以上の式(4)から式(7)から出力トルクTと電圧ベクトルとの関係式を導くと次式のようになる。
T=Pn×Φ×Va×sinδ/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×Va2×sin(2×δ)/(2×ωe2×Lq×Ld) ・・・(8)
式(7)と同様に、右辺第1項は永久磁石によるマグネットトルクを表し、右辺第2項はリラクタンストルクを表す。図4に、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの変化の例を示す。電圧位相δが増加するにつれて出力トルクTも増加する単調増加範囲は、図4に示す例では電圧位相δが約−110deg〜+110degの範囲となっており、この単調増加範囲がトルクフィードバック制御の使用範囲とされる。なお、電圧位相δの使用範囲は、電気角速度ωe、システム電圧Vdcなどの動作点毎に設定される。
【0044】
ここで、電圧ベクトルの大きさVaは、矩形波電圧の基本波成分からシステム電圧Vdcを用いて次のように表すことができる。
Va=(√6/π)×Vdc ・・・(9)
なお、矩形波制御では、電圧ベクトルに、基本波成分より高調波の成分(基本波の周波数の3倍、5倍、7倍、…の周波数)が重畳しており、この高調波成分がトルクリップルを生じている。よって、正弦波制御よりもトルクリップルが大きくなる。
【0045】
2−3−1、電動機の線形化
導出した式(8)の電動機Mの出力トルク特性の式は、非線形であるためそのままでは伝達関数を導出することができない。
よって、電動機Mの出力トルク特性を電圧位相δの各動作点において線形化して、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きAを導出し、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、トルク位相傾きAに応じた値に決定する。
【0046】
線形化した出力トルク特性を次式のように表す。
T=Aδ+B ・・・(10)
ここで、Aは、電圧位相δの各動作点おける、電圧位相δの変化に対する出力トルクTの傾きであるトルク位相傾きであり、Bは、そのときの切片である。図4に、電圧位相δの動作点δ1において、出力トルク特性を線形化した例を示している。
【0047】
トルク位相傾きAは、上記(8)式の両辺を電圧位相δで微分し、さらに(9)式を用いて電圧振幅Vaを消去すると、次式のように導出される。
表せられる。
A=dT/dδ=Pn×Φ×(√6/π)×Vdc×cosδ/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×(√6/π)2×Vdc2×cos(2×δ)/(ωe2×Lq×Ld)
・・・(11)
また、切片Bは、式(8)から式(11)より次式(12)のようになる。
B=Pn×Φ×(√6/π)×Vdc×(sinδ−δ×cosδ)/(ωe×Ld)
+Pn×(Ld−Lq)×(√6/π)2×Vdc2×(sin(2×δ)−2×cos(2×δ))
/(2×ωe2×Lq×Ld) ・・・(12)
図5に、電圧位相δの変化に対するトルク位相傾きAの変化の例を示す。トルクフィードバック制御の使用範囲は、単調増加範囲とされているので、トルク位相傾きAは所定範囲のプラスの値となる。また、トルク位相傾きAは、電圧位相δの動作点により変化する。また、トルク位相傾きAは、式(11)から、システム電圧Vdc/電気角速度ωeに比例して変化することがわかる。また、システム電圧Vdcの使用範囲は、矩形波制御においてインバータInvにシステム電圧Vdcを供給する昇圧回路の動作範囲により定まる。また、電気角速度ωe(電動機Mの回転速度N)の使用範囲は、図7に示すような矩形波制御の実行範囲により予め決められている。従って、図15に示すように、システム電圧Vdc/回転速度Nの使用範囲は所定範囲となり、当該使用範囲で、トルク位相傾きAは、システム電圧Vdc/回転速度Nにほぼ比例して変化する。
【0048】
そこで、式(10)の線形化した出力トルク特性に基づき、電圧位相δから出力トルクTまでの電動機Mの伝達関数Pm(s)を、次式のようにトルク位相傾きAに決定する。
Pm(s)=A ・・・(13)
以上より、トルクフィードバック制御系のブロック線図は、図3に示すようになる。
【0049】
3、第一条件導出ステップ
第一条件導出ステップでは、以上で決定した比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、及びローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)からなる、トルク偏差ΔTからフィルタ後出力トルクTfまでの一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されるような積分ゲインKiの第一の決定条件を導出する。言い換えると、第一の決定条件は、安定性確保のための安定性条件である。
【0050】
一巡伝達関数L(s)は、式(2)、(3)、(13)より次式で表せる。
L(s)=Glpf(s)×Pm(s)×Gpi(s)
=1/(1+Tlpf×s)×A×(Kp+Ki/s) ・・・(14)
【0051】
この一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されれば、トルクフィードバック制御系の安定性を確保できる。従って、一巡伝達関数L(s)のゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保できるような、積分ゲインKiの第一の決定条件を導出する。
ここで、ゲイン余裕Ygは、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degになるときの位相交差周波数における、一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲインが0dBに対して下回っている量と定義される。このように位相が-180degであるときのゲインが0dB以下になっていると振幅が減衰するため安定であり、0dBより大きいと振幅が増大するため不安定となる。なお、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degになる周波数が存在しない場合も安定である。
また、位相余裕Ypは、一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲインが0dBと交差するときのゲイン交差角周波数における、一巡伝達関数L(s)の周波数特性の位相が-180degに対して上回っている量と定義される。このようにゲインが0dBのときの位相が-180deg以上になっていると安定であり、-180degより小さいと不安定となる。
【0052】
本実施形態では、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保するために、第一の決定条件として、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)と電動機Mの伝達関数Pm(s)とからなるトルク偏差ΔTから出力トルクTまでの開ループ伝達関数Go(s)の周波数特性におけるゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。
【0053】
開ループ伝達関数Go(s)は、式(2)、(3)、(13)より次式で表せる。
Go(s)=Pm(s)×Gpi(s)
=A×(Kp+Ki/s) ・・・(15)
よって、式(14)の一巡伝達関数L(s)は、開ループ伝達関数Go(s)と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)から次式で表せる。
L(s)=Glpf(s)×Go(s) ・・・(16)
一巡伝達関数L(s)の周波数特性のゲイン及び位相は、開ループ伝達関数Go(s)のボード線図と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のボード線図とを、ボード線図上で加え合わせることで、その近似曲線を求めることができる。従って、開ループ伝達関数Go(s)のボード線図と、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のボード線図を考察することで、一巡伝達関数L(s)のゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを確保する条件を決定できる。
【0054】
開ループ伝達関数Go(s)は、電動機Mの伝達関数Pm(s)を線形化により比例要素としたので、開ループ伝達関数Go(s)を、式(15)に示したように、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)と同じ、比例要素及び積分要素で構成することができる。よって、図9に例を示すように、開ループ伝達関数Go(s)の位相は、ゲイン交差角周波数ωoより低い周波数帯で-90degまで遅れるが、ゲイン交差角周波数ωoより高い周波数帯で0degまで進む位相特性となる。なお、開ループ伝達関数Go(s)は、比例項のゲインとなるA×Kpが1より十分小さくなるような所定値に、比例ゲインKpが設定される。よって、図9に示すように、開ループ伝達関数Go(s)のゲインが20log10|A×Kp|となる高周波数帯における開ループ伝達関数Go(s)のゲインは、0dBより小さくなっている。
また、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)は、一次遅れフィルタとしたので、その位相は、図9に例を示すように、カットオフ周波数ωlpfで-45degになり、カットオフ周波数ωlpfより低い周波数帯で-45degから0degまで進むが、カットオフ周波数ωlpfより高い周波数帯で-45degから-90degまで遅れる位相特性となる。
【0055】
これらの特性から、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoを、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のカットオフ周波数ωlpfより小さくなるようにした場合、ゲイン交差角周波数ωoは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)におけるカットオフ周波数ωlpfより低い周波数帯になる。よって、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を、少なくとも-45degより進ませることができる。このため、開ループ伝達関数Go(s)の位相にローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を加え合わせても、一巡伝達関数L(s)の位相は、ゲイン交差角周波数ωoで、最遅角が-90degである開ループ伝達関数Go(s)の位相から-45degより大きく遅れることはない。よって、一巡伝達関数L(s)の位相余裕Ypを45degより大きく確保することができ、位相余裕Ypの点で、トルクフィードバック制御系の安定性を十分確保できる。
【0056】
なお、この場合、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインは0dBに近いので、このゲインを開ループ伝達関数Go(s)に加え合わせた一巡伝達関数L(s)のゲインは、開ループ伝達関数Go(s)にほぼ一致する。このため、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlが、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoより小さくなることを防止でき、ほぼ一致させることができる。よって、ゲイン交差角周波数ωl以下の周波数帯域となる周波数帯域幅(バンド幅)の減少を防止でき、速応性の悪化を防止できる。この周波数帯域幅では、図12に閉ループ特性を示すように、ゲインが0dBとなり、トルク指令Toの変化に対する出力トルクTの追従性が良好になる。
【0057】
また、ゲイン交差角周波数ωoがカットオフ周波数ωlpfより小さくなるようにした場合は、一巡伝達関数L(s)の位相が-180degになる周波数が存在しないため、ゲイン余裕Ygの点でも、安定性を確保できる。
【0058】
更に、ゲイン交差角周波数ωoが、カットオフ周波数ωlpfより十分小さくなるようにした場合、図9に示すように、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相を、0deg近くまで進ませることができる。よって、一巡伝達関数L(s)の位相余裕Ypを90deg近くまで確保できる。
【0059】
図10に、本実施形態とは逆に、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoがカットオフ周波数ωlpfより十分大きくなるようにした場合を示す。ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)の位相が、-90deg近くまで遅れている。よって、一巡伝達関数L(s)の位相が、ゲイン交差角周波数ωoで、ほぼ-180degまで遅れている。また、ゲイン交差角周波数ωoでは、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインは0dBより小さくなっているので、このゲインを開ループ伝達関数Go(s)に加え合わせた一巡伝達関数L(s)のゲインは、開ループ伝達関数Go(s)より小さくなっている。このため、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlは、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoより小さくなり、周波数帯域幅(バンド幅)が減少し、速応性が悪化している。また、一巡伝達関数L(s)のゲイン交差角周波数ωlにおける、位相余裕Ypが減少しており、安定性が低下している。
【0060】
従って、本実施形態のように、第一の決定条件として、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなるような積分ゲインKiの決定条件とすることで、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されて安定性が確保されるとともに、周波数帯域幅(バンド幅)の減少が防止されて速応性の低下を防止できる。
【0061】
次に、第一の決定条件を導出する。
まず、開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoを導出する。式(16)の開ループ伝達関数Go(s)にs=jωを代入してデシベル単位でゲインを求めると次式を得る。
20log10|Go(jω)|=20log10(A×√(Kp2+Ki2/ω2)) ・・・(17)
式(17)から、ゲインが0dB(真数で1)になるときのゲイン交差角周波数ωoを求めると次式を得る。
A×√(Kp2+Ki2/ωo2)=1
ωo=A×Ki×√(1/(1―A2×Kp2)) ・・・(18)
なお、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、一次遅れフィルタの時定数Tlpfから、1/Tlpfとなる。
開ループ伝達関数Go(s)のゲイン交差角周波数ωoが、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる条件は次式となる。
ωo < ωlpf ・・・(19)
式(19)に、式(18)を代入し、積分ゲインKiについて整理すると、次式の第一の決定条件を得る。
Ki < ωlpf/A×√(1−A2×Kp2) ・・・(20)
【0062】
4、第二条件導出ステップ
第二条件導出ステップでは、比例積分制御の伝達関数Gpi(s)、電動機Mの伝達関数Pm(s)、及びローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)からなる、トルク指令Toから出力トルクTまでの閉ループ伝達関数Gfb(s)における、トルク指令Toの変化に対する出力トルクTの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような積分ゲインKiの第二の決定条件を導出する。言い換えると、第二の決定条件は、応答性確保のための応答性条件である。
【0063】
閉ループ伝達関数Gfb(s)は、次式で表せる。
Gfb(s)=Pm(s)×Gpi(s)/(1+Glpf(s)×Pm(s)×Gpi(s))
=Go(s)/(1+Glpf(s)×Go(s)) ・・・(21)
【0064】
本実施形態では、閉ループ伝達関数Gfb(s)におけるトルク指令Toに対する出力トルクTの応答性が所定の応答性以上に速くなるように、第二の決定条件として、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合における閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τが、所定値以下になるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。
【0065】
式(21)の閉ループ伝達関数Gfb(s)は、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似すると次式のようになる。
Gfb(s)=Go(s)/(1+Glpf(s)×Go(s))≒Go(s)/(1+Go(s)) ・・・(22)
積分ゲインKiが式(20)の第一の決定条件により決定され、式(19)のωo < ωlpfの条件が満たされる場合、図12に示すように、近似前後の閉ループ伝達関数Gfb(s)の周波数特性はほぼ一致する。これは、図9に示すように、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域(ω<ωlpf)では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)のゲインがほぼ0dB(真数(非対数)で1)であるため、一巡伝達関数L(s)(= Glpf(s)×Go(s))の周波数特性は、開ループ伝達関数Go(s)の周波数特性と等しいとみなすことができる。よって、当該帯域において、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似できる。また、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpf以上になる帯域(ω≧ωlpf)では、一巡伝達関数L(s)(=Go(s)×Glpf(s))及び開ループ伝達関数Go(s)のゲインが0dBより低下している。ここで、dB単位で低下しているため、これらのゲインは真数(非対数)で1より大幅に小さくなる。よって、式(22)の閉ループ伝達関数Gfb(s)の分母は、近似前後に関わらずほぼ1になるため(すなわち、1+Glpf(s)×Go(s)≒1+Go(s)≒1)、当該ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似することができる。従って、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域及び大きくなる帯域の双方、すなわち、周波数ωの全域に亘って、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した閉ループ伝達関数Gfb(s)を用いて、閉ループ伝達関数Gfb(s)の応答性を考察することができる。
【0066】
式(22)の閉ループ伝達関数Gfb(s)は、式(15)を代入すると次式となる。
Gfb(s)≒Go(s)/(1+Go(s))=(Kp/Ki×s+1)/(τ×s+1)
τ=(1+A×Kp)/(A×Ki) ・・・(23)
ここで、τを閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数とする。
式(23)の閉ループ伝達関数Gfb(s)に、単位ステップ関数u(t)のトルク指令Toを入力したときの、初期値0のもとでの出力トルクTの時間応答であるインディシャル応答f(t)は、次式のように導出される。
f(t)=L-1(Gfb(s)×U(s))=L-1((Kp/Ki×s+1)/(τ×s+1)×1/s)
=1−(1−Kp/(1+A×Kp))×exp(−1/τ×t) ・・・(24)
ここで、L-1()は、逆ラプラス変換を表し、U(s)は、単位ステップ関数u(t)のラプラス変換を表し、1/sである。
式(24)の出力トルクTのインディシャル応答f(t)を図11に示す。閉ループ伝達関数Gfb(s)のインデンシャル応答f(t)の過渡応答は、一次遅れの指数関数的変化が支配的であることがわかる。トルク指令Toのステップ変化後、出力トルクTがトルク指令Toに到達する(Toの約99%に到達する)までのステップ応答の応答時間は、式(23)の時定数τの5倍程度となる。
【0067】
よって、ステップ応答の目標応答時間を5×τoとし、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合における閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τを目標時定数τo以下になるような積分ゲインKiの決定条件を導出する。これにより、閉ループ伝達関数Gfb(s)におけるトルク指令Toに対する出力トルクTの応答性が所定の応答性以上に速くなるような、積分ゲインKiの第二の決定条件を導出することができる。
【0068】
以下で、第二の決定条件を導出する。
閉ループ伝達関数Gfb(s)の時定数τが、所定の目標時定数τo以下になる条件は次式となる。
τ≦τo ・・・(25)
式(25)に、式(23)を代入し、積分ゲインKiについて整理すると、次式の第二の決定条件を得る。
Ki≧1/τo/A×(1+A×Kp) ・・・(26)
ここで、時定数τは、閉ループ伝達関数Gfb(s)のカットオフ周波数ωfb(≒ωl、≒ωo)の逆数に対応している。よって、目標時定数τoの逆数を、閉ループ伝達関数Gfb(s)のカットオフ周波数の目標値ωfboとすると、式(26)の第二の決定条件は次式で表せる。
Ki≧ωfbo/A×(1+A×Kp) ・・・(27)
【0069】
5、積分ゲイン決定ステップ
積分ゲイン決定ステップでは、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定する。
本実施形態では、式(20)の第一の決定条件、及び式(27)の第二の決定条件の双方を満たすように、積分ゲインKiが満たすべき条件を次式のように決定する。
ωlpf/A×√(1−A2×Kp2)>Ki≧ωfbo/A×(1+A×Kp) ・・・(28)
【0070】
式(28)の第一の決定条件の値は、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfに比例し、また、上記したようにA×Kpが1より小さく設定されており、A2×Kp2が1より十分小さくなるため、図14に示すようにトルク位相傾きAに反比例する。
【0071】
ここで、本実施形態におけるカットオフ周波数ωlpfの設定について説明する。電動機Mに矩形波電圧を印加しているので、電動機Mの出力トルクTに、電動機Mの一回転周期の基本波成分より高調波の振動成分が重畳する。よって、本実施形態では、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、出力トルクTの基本波成分は透過し、高調波成分は除去するように設定される。よって、カットオフ周波数ωlpfは、基本波の周波数よりも高く、最も低い周波数の高調波である基本波周波数の6倍の周波数よりも低い周波数に設定される。本例では、次式のように、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfは、基本波周波数の1.6倍に設定され、電動機Mの回転速度N[rpm]に応じて設定される。
ωlpf=2×π×N/60×1.6 ・・・(29)
ここで、2×π×N/60は、基本波の周波数である、一回転周期の周波数であり、電動機Mのロータ角速度ωeに等しくなる。
【0072】
よって、第一の決定条件の値は、電動機Mの回転速度Nに比例して変化する。回転速度Nは、図7に示すように矩形波制御の実行範囲である下限回転速度N1と上限回転速度N2との間を変化するため、第一の決定条件の値は、図14に示すように、回転速度Nに応じて、下限回転速度N1における値と上限回転速度N2における値との間を変化する。よって、積分ゲインKiは、下限の回転速度N1に対応する第一の決定条件の値より小さく決定されれば、回転速度Nの全ての使用範囲において、第一の決定条件を満たすことができる。
【0073】
式(28)の第二の決定条件の値は、閉ループ伝達関数Gfb(s)の目標カットオフ周波数ωfbo(=1/τo)に比例し、また上記したようにA×Kpが1より小さくなるため、図14に示すようにトルク位相傾きAに反比例する。矩形波電圧における電圧位相δの変更タイミングは電気角60deg毎であるため、目標応答時間は、一回転周期より十分遅く設定される。よって、目標応答時間の5分の1に対応する目標カットオフ周波数ωfboは、一回転周期の周波数よりも小さくなるように設定される。従って、目標カットオフ周波数ωfboは、一回転周期の周波数の1倍から6倍の間に設定されるローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さく設定される(ωfbo<ωlpf)。
【0074】
従って、第二の決定条件の値は、第一の決定条件の値よりも小さくなり、図14にハッチングを設けて示すように、式(28)における第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす積分ゲインKiの設定可能領域が存在する。
【0075】
本実施形態では、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように、トルク位相傾きAに応じて変化する可変値Kiaに決定する。例えば、図14に示すように、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAの動作点毎に、第一の決定条件(下限回転速度)及び第二の決定条件の中間程度の値Kiaに決定する。
もしくは、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAの使用範囲の全域において、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たす一定値Kibに決定するようにしてもよい。
もしくは、図15を用いて上述したように、トルク位相傾きAは、使用範囲で、システム電圧Vdc/回転速度Nにほぼ比例して変化する。すなわち、システム電圧Vdc/回転速度Nが大きくなるに従って、トルク位相傾きAも大きくなる。よって、積分ゲインKiを、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように、矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧Vdcをロータ回転速度Nで除算した値に応じて変化する可変値に決定するようにしてもよい。
【0076】
また、トルク偏差ΔTが所定値以下である定常時に用いる積分ゲインKiを、第二の決定条件における、閉ループ伝達関数Gfb(s)の応答性が、所定の応答性に一致するように決定するようにしてもよい。すなわち、式(26)の第二の決定条件を次式のように変更して、積分ゲインKiを決定する。
Ki=(1+A×Kp)/A/τo ・・・(30)
これにより、トルク偏差ΔTが所定値以下である定常時では、トルクフィードバック制御系の応答性を高める必要性が低く、応答性を下限まで低下させて高調波成分からなる出力トルクTのリップルに対するフィードバック系の応答感度を低下させて、定常時に電圧位相δを振動させないようにすることができる。
【0077】
6、制御周期決定ステップ
制御周期決定ステップでは、比例積分制御が離散化される場合において、比例積分制御の制御周期Tcを、一巡伝達関数L(s)の周波数特性におけるゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypが確保されるように決定する。
【0078】
連続系で設計したトルクフィードバック制御を、ディジタル計算機を用いた制御装置に実装するに際して、トルクフィードバック制御を制御周期Tc(サンプリング間隔)で離散化する必要がある。そこで、離散化されたトルクフィードバック制御の伝達関数から、安定性が確保される制御周期Tcを決定する。
【0079】
第二の決定条件における式(22)に関連して説明したように、積分ゲインKiが式(20)の第一の決定条件により決定されて、式(19)のωo < ωlpfの条件が満たされる場合、周波数ωがローパスフィルタのカットオフ周波数ωlpfよりも小さくなる帯域(ω<ωlpf)では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似して無視できる。よって、本実施形態では、ローパスフィルタの伝達関数Glpf(s)を1に近似した場合の一巡伝達関数L(s)と一致する開ループ伝達関数Go(s)について、離散化された場合の安定性が確保されるような制御周期Tcを決定する。開ループ伝達関数Go(s)は、比例積分制御にトルク位相傾きAを乗じたものであるため、制御周期Tcは、比例積分制御を離散化した場合の制御周期となる。
【0080】
式(15)の開ループ伝達関数Go(s)を、サンプリング間隔Tc毎にサンプリングするサンプラーと0次ホールドとを用いて離散化した場合の離散化開ループ伝達関数God(s)を次式で示す。
God(s)=Go(s)×(1−exp(−s×Tc))/s
=A×(Kp+Ki/s)×(1−exp(−s×Tc))/s ・・・(31)
式(31)をz変換して、次式のパルス伝達関数を得る。
God(z)=A×(Kp+Ki×Tc/(z−1)) ・・・(32)
パルス伝達関数の周波数特性を求めるため、式(32)にz=exp(j×ω×Tc)を代入して、整理すると次式を得る。
God(jω)=α+j×β
α=A×(Kp−Ki×Tc/2)
β=−A×Ki×Tc×sin(ω×Tc)/2/(1−cos(ω×Tc)) ・・・(32)
式(32)の周波数特性の位相が-180degになるときの位相交差周波数ωpを求める。
∠God(jω)=tan-1(β/α)=−π
β/α=0
sin(ω×Tc)=0
∴ ωp=π/Tc ・・・(33)
【0081】
次に、位相が-180degになるとき(ω=π/Tc)の、式(32)の周波数特性のゲインを求める。
|God(j×π/Tc)|=√(α2+β2)=A×(Ki×Tc/2−Kp) ・・・(34)
【0082】
よって、位相が-180degになるときの式(34)のゲインが、0dB(真数で1)より小さくなる、すなわちゲイン余裕Ygが確保される制御周期Tcの決定条件は次式となる。
|God(j×π/Tc)|=A×(Ki×Tc/2−Kp)<1
Tc<Tco
Tco=2×(1+A×Kp)/A/Ki ・・・(35)
ここで、Tcoは、安定限界の制御周期である。
従って、制御周期Tcは、式(35)を満たすように決定される。
図13に、離散化開ループ伝達関数Godの周波数特性を示す。制御周期Tcが安定限界の制御周期Tcoに設定されたとき(Tc=Tco)の、ゲイン余裕Yg1は0dBになっており安定限界になっている。また、ゲイン交差角周波数ωoのときの位相余裕Yp1は、90degより大きく減少している。次に、制御周期Tcが安定限界の制御周期Tcoより小さく設定されたとき(Tc<Tco)の、ゲイン余裕Yg2は確保されており、安定性が確保されている。また、ゲイン交差角周波数ωoのときの位相余裕Yp1は、90degよりほとんど減少しておらず、安定性が確保されている。
【0083】
よって、ゲイン余裕Yg及び位相余裕Ypを十分確保するためには、制御周期Tcは安定限界の制御周期Tcoより十分小さく決定されればよい。例えば、制御周期Tcを、次式のように、安定限界の制御周期Tcoの10分の1に決定すればよい。
Tc=Tco/10 ・・・(36)
【0084】
また、式(35)から、安定限界の制御周期Tcoは、積分ゲインKiに反比例することがわかる。従って、制御周期Tcを、積分ゲインKiに反比例するように決定するようにしてもよい。このようにすることで、第一の決定条件及び第二の決定条件の双方を満たすように決定された積分ゲインKiに応じて、トルクフィードバック系の安定性が変化しないように制御周期Tcを変更することができる。また、式(35)から、安定限界の制御周期Tcoは、トルク位相傾きAにも反比例することがわかる。従って、制御周期Tcを、トルク位相傾きAにも反比例するように決定するようにしてもよい。
【0085】
積分ゲインKiを、図14のKiaの例の場合、又は式(30)の場合のように、トルク位相傾きAに反比例するように決定した場合、式(35)のA×Kpは1より十分小さくなるため、式(35)の安定限界の制御周期Tcoを、一定値にすることができる。従って、積分ゲインKiを、トルク位相傾きAに反比例するように決定した場合、式(36)に示したように、制御周期Tcを一定値にしても、離散化したフィードバック制御系の安定性が変化しないようにすることができる。
【0086】
7、電動機制御装置
図1に示すようなトルクフィードバック制御器FBを備える電動機制御装置が、以上で説明した各ステップで決定されたトルクフィードバック制御器FBの積分ゲインKi、制御周期Tcなどの制御定数を備えるように構成される。また、トルクフィードバック制御器FBは、トルク位相傾きA又はシステム電圧Vdc/回転速度Nに応じて積分ゲインKi及び制御周期Tcを予め設定したマップ又は演算式を備えるように構成されている。そして、トルクフィードバック制御器FBは、トルク位相傾きA、又はシステム電圧Vdc/回転速度Nを、各種センサ検出値、制御パラメータに基づき算出し、算出したトルク位相傾きA又はシステム電圧Vdc/回転速度Nに応じて積分ゲインKi、制御周期Tcを算出するように構成されている。
【0087】
〔第二の実施形態〕
次に、第二の実施形態について図面を参照して説明する。上記の第一の実施形態では、図1から図3に示したように、トルクフィードバック制御器FBは、トルク偏差ΔTに基づき比例積分制御を行っていた。しかし、本実施形態では、図16及び図17に示すように、トルクフィードバック制御器FBは、トルク偏差補正器Ctを更に備え、トルク偏差補正器Ctにより、トルク偏差ΔTに対してロータ回転速度Nに比例し、かつ、システム電圧Vdcに反比例して変化するトルク偏差補正係数Kcを乗算した補正後トルク偏差ΔTnを算出し、当該補正後トルク偏差ΔTnに基づき比例積分制御を行うように構成されている点が異なる。以下では、本実施形態に係るトルクフィードバック制御器FBの制御定数の決定方法について、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
【0088】
上記したように、本実施形態では、トルクフィードバック制御器FBに、トルク偏差補正器Ctが更に備えられている。トルク偏差補正器Ctは、トルク偏差ΔTに対して、トルク偏差補正係数Kcを乗算して、補正後トルク偏差ΔTnを算出している。また、トルク偏差補正係数Kcは、電動機Mの回転速度Nに比例し、かつ、システム電圧Vdcに反比例して変化するように構成されている。すなわち、トルク偏差補正器Ctは、次式で表す演算を行う。
ΔTn=Kc×ΔT
Kc=K1×N/Vdc ・・・(37)
ここで、K1は、所定の定数である。
【0089】
また、本実施形態にいても、ローパスフィルタ器LPFは、カットオフ周波数ωlpfを備えたローパスフィルタとされており、カットオフ周波数ωlpfは、式(29)で示したように、電動機Mの回転速度Nに比例して変化するように設定されている。以下に式(29)を再掲する。
ωlpf=2×π×N/60×1.6 ・・・(29)
【0090】
トルク偏差補正器Ctの追加により、本実施形態における、トルク偏差ΔTから出力トルクTまでの開ループ伝達関数Go(s)は、式(15)の右辺に対して、トルク偏差補正の伝達関数であるKcが乗算され、次式となる。
Go(s)=A×(Kp+Ki/s)×Kc ・・・(38)
これに伴い、本実施形態に係る、式(20)の第一の決定条件は、次式のように変更される。
Ki < ωlpf/(Kc×A)×√(1−Kc2×A2×Kp2) ・・・(39)
ここで、第一の実施形態の式(20)とは異なり、式(39)において、カットオフ周波数ωlpfが、トルク偏差補正係数Kc×トルク位相傾きAで除算されるように変更されている。図15よりトルク位相傾きAはシステム電圧Vdc/回転速度Nに比例するため、トルク位相傾きAを常に一定値にするため、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正する。
従って、本実施形態では、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正するトルク偏差補正器Ctを備えることにより、第一の決定条件は、第一の実施形態とは異なり、任意のトルク位相傾きAに対して常に一定の値にすることができる。
【0091】
従って、本実施形態では、図18に示すように、図14で示した第一の実施形態とは異なり、第一の決定条件が、トルク位相傾きAに応じて変化しないようになり、積分ゲインKiを容易に設定することができる。
【0092】
また、本実施形態に係る、式(27)の第二の決定条件は、次式のように変更される。
Ki≧ωfbo/(Kc×A)×(1+Kc×A×Kp) ・・・(40)
ここで、トルク偏差補正係数Kcは式(37)と同様に、トルク位相傾きAを常に一定値にするため、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正する。
【0093】
このようにすると、式(40)の第二の決定条件において、トルク位相傾きAをK1×(N/Vdc)で補正するトルク偏差補正器Ctを備えることにより、第一の実施形態とは異なり、任意のトルク位相傾きAに対して常に一定の値にすることができる。従って、式(40)の第二の決定条件の値がトルク位相傾きAに応じて変化しないようにすることができる。よって、積分ゲインKiを容易に設定することができる。
【0094】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の各実施形態においては、ローパスフィルタが、カットオフ周波数ωlpfを備えた一次遅れフィルタで構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ローパスフィルタが、カットオフ周波数ωlpfを備えた、より高次のローパスフィルタで構成されることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0095】
(2)上記の第二の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBがトルク偏差補正係器Ctを備え、第一の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBがトルク偏差補正係器Ctを備えていない場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一の実施形態において、トルクフィードバック制御器FBが、ゲイン調整のための一定値に設定されたトルク偏差補正係数Kcを備えるトルク偏差補正係器Ctを、図16、図17に示す第二の実施形態と同様の位置に、備えるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0096】
(3)上記の各実施形態において、トルク位相傾きA、及び積分ゲインKiのそれぞれに対して、制御器実装時の分解能設計を考慮した所定の係数が乗算された状態で、伝達関数及び周波数特性が求められ、第一の決定条件及び第二の決定条件が導出されるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法、及び決定された制御定数を備える電動機制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
To:トルク指令値
T:出力トルク
ΔT:トルク偏差
θ:ロータ角度
S1:回転角度センサ
N:電動機の回転速度
δ:電圧位相
M:電動機(同期型交流電動機)
FB:トルクフィードバック制御器
PI:比例積分制御器
Tdt:出力トルク検出器
LPF:ローパスフィルタ器
Dv:偏差算出器
Tf:フィルタ後出力トルク
Wg:矩形波発生器
Inv:インバータ
Kp:比例ゲイン
Ki:積分ゲイン
A:トルク位相傾き
B:切片
Pm(s):電動機の伝達関数
Gpi(s):比例積分制御の伝達関数
Glpf(s):ローパスフィルタの伝達関数
L(s):一巡伝達関数
Gfb(s):閉ループ伝達関数
Go(s):開ループ伝達関数
God(s):離散化開ループ伝達関数
Yg:ゲイン余裕
Yp:位相余裕
ωo:開ループ伝達関数のゲイン交差角周波数
ωlpf:ローパスフィルタのカットオフ周波数
ωl:一巡伝達関数のゲイン交差角周波数
ωp:離散化開ループ伝達関数の位相交差周波数
τ:閉ループ伝達関数の時定数
τo:目標時定数(所定値)
Vdc:システム電圧
ωe:ロータ回転速度(電気角速度)
Ct:トルク偏差補正係器
Kc:トルク偏差補正係数
ΔTn:補正後トルク偏差
Tc:制御周期(サンプリング間隔)
Tco:安定限界の制御周期
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法であって、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を前記電圧位相の各動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値と決定する電動機線形化ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件を導出する第一条件導出ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令の変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件を導出する第二条件導出ステップと、
前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定する積分ゲイン決定ステップと、を備える制御定数の決定方法。
【請求項2】
前記第一条件導出ステップは、前記第一の決定条件として、前記比例積分制御の伝達関数と前記電動機の伝達関数とからなる前記トルク偏差から前記出力トルクまでの開ループ伝達関数の周波数特性におけるゲイン交差角周波数が、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも小さくなるような前記積分ゲインの決定条件を導出する請求項1に記載の制御定数の決定方法。
【請求項3】
前記第二条件導出ステップは、前記第二の決定条件として、前記ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における前記閉ループ伝達関数の時定数が、所定値以下になるような前記積分ゲインの決定条件を導出する請求項1又は2に記載の制御定数の決定方法。
【請求項4】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記トルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項5】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項6】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記トルク位相傾きの使用範囲の全域において、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定する請求項1から5のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項7】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記トルク偏差が所定値以下である定常時に用いる前記積分ゲインを、前記第二の決定条件における、前記閉ループ伝達関数の前記応答性が、前記所定の応答性に一致するように決定する請求項1から6のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項8】
前記トルクフィードバック制御器は、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更され、前記トルク偏差に対して、前記ロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変化するトルク偏差補正係数を乗算した補正後トルク偏差を算出し、当該補正後トルク偏差に基づき、前記比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器である請求項1から7のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項9】
前記比例積分制御が離散化される場合において、前記比例積分制御の制御周期を、前記一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定する制御周期決定ステップを、更に備える請求項1から8のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項10】
前記制御周期決定ステップは、前記制御周期を、前記積分ゲインに反比例するように決定する請求項9に記載の制御定数の決定方法。
【請求項11】
トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器を備える電動機制御装置であって、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を各電圧位相の動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値とし、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件と、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令のステップ変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件と、に基づいて、
前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定された前記積分ゲインを備える電動機制御装置。
【請求項1】
トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器の制御定数の決定方法であって、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を前記電圧位相の各動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値と決定する電動機線形化ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件を導出する第一条件導出ステップと、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令の変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件を導出する第二条件導出ステップと、
前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定する積分ゲイン決定ステップと、を備える制御定数の決定方法。
【請求項2】
前記第一条件導出ステップは、前記第一の決定条件として、前記比例積分制御の伝達関数と前記電動機の伝達関数とからなる前記トルク偏差から前記出力トルクまでの開ループ伝達関数の周波数特性におけるゲイン交差角周波数が、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも小さくなるような前記積分ゲインの決定条件を導出する請求項1に記載の制御定数の決定方法。
【請求項3】
前記第二条件導出ステップは、前記第二の決定条件として、前記ローパスフィルタの伝達関数を1に近似した場合における前記閉ループ伝達関数の時定数が、所定値以下になるような前記積分ゲインの決定条件を導出する請求項1又は2に記載の制御定数の決定方法。
【請求項4】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記トルク位相傾きに応じて変化する可変値に決定する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項5】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように、前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧をロータ回転速度で除算した値に応じて変化する可変値に決定する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項6】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記積分ゲインを、前記トルク位相傾きの使用範囲の全域において、前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たす一定値に決定する請求項1から5のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項7】
前記積分ゲイン決定ステップは、前記トルク偏差が所定値以下である定常時に用いる前記積分ゲインを、前記第二の決定条件における、前記閉ループ伝達関数の前記応答性が、前記所定の応答性に一致するように決定する請求項1から6のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項8】
前記トルクフィードバック制御器は、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数がロータ回転速度に比例して変更され、前記トルク偏差に対して、前記ロータ回転速度に比例し、かつ前記矩形波電圧の振幅電圧となるシステム電圧に反比例して変化するトルク偏差補正係数を乗算した補正後トルク偏差を算出し、当該補正後トルク偏差に基づき、前記比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器である請求項1から7のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項9】
前記比例積分制御が離散化される場合において、前記比例積分制御の制御周期を、前記一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるように決定する制御周期決定ステップを、更に備える請求項1から8のいずれか一項に記載の制御定数の決定方法。
【請求項10】
前記制御周期決定ステップは、前記制御周期を、前記積分ゲインに反比例するように決定する請求項9に記載の制御定数の決定方法。
【請求項11】
トルク指令値に対する出力トルクの偏差が減少するように、ロータ角度に対する矩形波の位相である電圧位相を算出し、算出された電圧位相の矩形波電圧を印加して同期型交流電動機を回転駆動する電動機のトルクフィードバック制御器を備える電動機制御装置であって、
前記トルクフィードバック制御器は、前記電動機の前記出力トルクを検出し、当該検出した前記出力トルクにローパスフィルタの処理を行ってフィルタ後出力トルクを算出し、前記トルク指令値に対する前記フィルタ後出力トルクの偏差であるトルク偏差を算出し、当該トルク偏差に基づき、比例ゲイン及び積分ゲインを備える比例積分制御を行って前記電圧位相を算出する制御器であり、
前記電動機の出力トルク特性を各電圧位相の動作点において線形化して、前記電圧位相の変化に対する前記出力トルクの傾きであるトルク位相傾きを導出し、前記電圧位相から前記出力トルクまでの前記電動機の伝達関数を、前記トルク位相傾きに応じた値とし、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク偏差から前記フィルタ後出力トルクまでの一巡伝達関数の周波数特性におけるゲイン余裕及び位相余裕が確保されるような前記積分ゲインの第一の決定条件と、
前記比例積分制御の伝達関数、前記電動機の伝達関数、及び前記ローパスフィルタの伝達関数からなる、前記トルク指令から前記出力トルクまでの閉ループ伝達関数における、前記トルク指令のステップ変化に対する前記出力トルクの応答性が、所定の応答性以上に速くなるような前記積分ゲインの第二の決定条件と、に基づいて、
前記第一の決定条件及び前記第二の決定条件の双方を満たすように決定された前記積分ゲインを備える電動機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図18】
【公開番号】特開2012−39730(P2012−39730A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176797(P2010−176797)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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