制御装置
【課題】車両が盗難にあったとしてもその回収を容易化し得る制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明の制御装置によれば、車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によりキャンバ角調整装置が作動され、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角(例えば、ポジティブ側又はネガティブ側に最大のキャンバ角)が車輪に付与される。よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与されるので、盗難車両の自走を通常状態より困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限できる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【解決手段】本発明の制御装置によれば、車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によりキャンバ角調整装置が作動され、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角(例えば、ポジティブ側又はネガティブ側に最大のキャンバ角)が車輪に付与される。よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与されるので、盗難車両の自走を通常状態より困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限できる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と、その車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置とを備えた車両に用いられる制御装置に関し、特に、車両が盗難されたとしてもその回収を容易化し得る制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両盗難に対する種々のセキュリティ技術が提案されている。例えば、特許文献1には、盗難等の異常が発生したした場合に、警報を出力すると共に、エンジンの始動を禁止し、さらに、通信手段を用いて車両の所有者に異常が発生したことを伝達する車両セキュリティ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2007−168472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される車両セキュリティ装置のように、異常発生時にエンジンの始動を禁止させたとしても、電気配線の直結などによってエンジンを始動できる可能性がある。よって、エンジンが盗人によって強制的に始動されてしまえば、異常の発生や車両位置を車両の所有者に伝達することができたとしても、車両のエンジンが始動されてから(即ち、車両が盗まれてから)該車両を発見するまでの間に、該車両は遠くへ移動されてしまい、盗難車両の回収が困難になる上に、回収コストが嵩むという問題点があった。
【0004】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両が盗難にあったとしてもその回収を容易化し得る制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を解決するために請求項1記載の制御装置は、車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを備えた車両に用いられるものであって、前記車両に対し、盗難又はその疑いがあるか否かを判定する盗難判定手段と、その盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角を前記車輪に付与する盗難対策手段と、を備えている。
【0006】
請求項2記載の制御装置は、請求項1記載の制御装置において、前記盗難対策手段は、前記車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角を付与する。
【0007】
請求項3記載の制御装置は、請求項1又は2に記載の制御装置において、前記盗難対策手段は、前記盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて前記車輪に付与するキャンバ角をポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更する付与方向変更手段を含む。
【0008】
請求項4記載の制御装置は、請求項1から3のいずれかに記載の制御装置において、前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、前記盗難対策手段は、前記複数の車輪のうち一部の車輪に対してポジティブ側のキャンバ角を付与し、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角を付与する。
【0009】
請求項5記載の制御装置は、請求項1から4のいずれかに記載の制御装置において、前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、前記盗難対策手段は、前記複数の車輪の内で少なくとも2種類の異なるキャンバ角を付与する。
【0010】
請求項6記載の制御装置は、請求項1から5のいずれかに記載の制御装置において、前記車輪は、第1トレッドと、その第1トレッドに対して前記車輪の幅方向に並設され前記車両の内側又は外側に配置される第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドが前記第2トレッドに対して軟らかい特性に構成され、前記盗難対策手段は、前記車輪における前記第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角を付与する。
【0011】
請求項7記載の制御装置は、請求項1から6のいずれかに記載の制御装置において、前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ角を変化させて所定のキャンバ角にて保持するアクチュエータを含んで構成されるものであり、前記盗難対策手段は、前記アクチュエータが前記車輪のキャンバ角を保持する力をゼロにする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の制御装置によれば、車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によりキャンバ角調整装置が作動され、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与される。
【0013】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与されるので、盗難車両の自走を通常状態より困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限することが可能となる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0014】
請求項2記載の制御装置によれば、請求項1記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角が付与される。
【0015】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、ポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角が車輪に付与されるので、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪くなり、盗難車両の自走を困難にすることができる。その結果、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0016】
請求項3記載の制御装置によれば、請求項1又は2に記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、かかる判定がなされてからの経過時間に応じて車輪に付与するキャンバ角が、付与方向変更手段(盗難対策手段の一部)によって、ポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更される。
【0017】
よって、盗難判定手段によって車両が盗難された又は盗難された疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて、車輪のキャンバ角が、ポジティブ側になったりネガティブ側になったり不自然に変更され、車両の直進性が阻害される。よって、盗難車両の自走が困難となり、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0018】
請求項4記載の制御装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、複数の車輪のうち一部の車輪にポジティブ側のキャンバ角が付与され、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角が付与される。
【0019】
よって、車輪によってポジティブ側のキャンバ角であったりネガティブ側のキャンバ角であったりと、車輪のキャンバ角が不自然な状態となって車両の直進性を阻害する。従って、盗難車両の自走を困難とし、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0020】
請求項5記載の制御装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、複数の車輪に対し、少なくとも2種類の異なるキャンバ角が付与される。よって、車輪のキャンバ角が不自然な状態となり、車両の直進性を阻害する。
【0021】
従って、盗難車両の自走を困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0022】
請求項6記載の制御装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪が、幅方向に並設される、第1トレッドとその第1トレッドより硬い特性(即ち、第1トレッドより転がり抵抗が低くグリップ力がより低い特性)に構成される第2トレッドとを有しているので、車輪に付与されるキャンバ角に応じて、第1トレッドの特性と第2トレッドの特性とを使い分けることができる。
【0023】
ここで、車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角が付与される。即ち、少なくとも盗難の危険がある状態において、車輪のグリップ力を低くする方向のキャンバ角が付与される。
【0024】
よって、車輪がスリップし易くなり、盗難車両が走行し難い状態となるので、盗難場所からの移動距離を制限することができる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0025】
請求項7記載の制御装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、キャンバ角調整装置に含まれるアクチュエータにおける該車輪のキャンバ角を保持する力がゼロにされる。
【0026】
よって、アクチュエータによる車輪のキャンバ角の保持が不能となり、その結果として、車両の走行時に車輪がキャンバ角方向に揺動されることになり、盗難車両の自走を困難にすることができる。従って、盗難場所からの移動距離を制限することができ、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における制御装置100が搭載される車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
【0028】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、複数(本実施形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2のキャンバ角を調整する懸架装置4と、その懸架装置4に支持される車体フレームBFと、ステアリング63の操作に伴って各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置5とを主に備えている。なお、詳細は後述するが、本実施形態の車両1は、不正なキーの使用による盗難の危険性があると制御装置100によって判定された場合には、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されるように構成されている。
【0029】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向FWD前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向FWD後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3から付与される回転駆動力により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0030】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与して回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図4参照)。電動モータ3aは、図1に示すように、ディファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して、左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0031】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の踏み込み状態に応じた回転速度で回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、ディファレンシャルギヤにより吸収される。
【0032】
懸架装置4は、いわゆるサスペンションとして機能する装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応して配設されている。また、本実施形態における懸架装置4は、上述したように、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置としての機能を兼ね備えている。
【0033】
ここで、図2及び図3を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2及び図3は、懸架装置4の正面図であり、図3(a)は、車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態が図示され、図3(b)は、車輪2のキャンバ角がマイナス方向(ネガティブ)に調整された状態が図示されている。なお、図2及び図3では、発明の理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の図示を省略し、図面を簡素化している。また、各懸架装置4の構成は、それぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として、図2及び図3に図示する。
【0034】
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット式(マクファーソン式)の機構により構成され、アクスルハブ41と、サスペンションアーム42と、FRアクチュエータ43FRとを主に備えている。
【0035】
アクスルハブ41は、車輪2を回転可能に支持するものであり、図2に示すように、車両1の内側(図2右側)から車輪2を支持すると共に、サスペンションアーム42を介してFRアクチュエータ43FRに連結されている。サスペンションアーム42は、アクスルハブ41をFRアクチュエータ43FRに連結するものであり、第1〜第3アーム42a〜42cを備えている。
【0036】
第1アーム42a及び第2アーム42bは、一端(図2左側)がアクスルハブ41の上部(図2上側)及び下部(図2下側)にそれぞれ軸支される一方、他端(図2右側)が第3アーム42cの上端(図2上側)及び下端(図2下側)にそれぞれ軸支されている。また、第1アーム42a及び第2アーム42bは、互いに対向して配置されると共に、第3アーム42cは、アクスルハブ41に対向して配置されている。これにより、アクスルハブ41とサスペンションアーム42(第1〜第3アーム42a〜42c)とにより、4節のリンク機構が構成される。
【0037】
なお、サスペンションアーム42には、路面Gから車体フレームBFに伝わる衝撃を緩和するコイルばね及びそのコイルばねの振動を減衰させるショックアブソーバ(いずれも図示せず)が配設されている。
【0038】
FRアクチュエータ43FRは、サスペンションアーム42と車体フレームBFとを連結するものであり、油圧シリンダにより構成されている。このFRアクチュエータ43FRは、図2に示すように、本体部(図2上側)が車体フレームBFに軸支される一方、ロッド部(図2下側)が第3アーム42cに軸支されている。
【0039】
ここで、第2アーム42bは、キャンバ軸44を介してアクスルハブ41に軸支されており、FRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、アクスルハブ41とサスペンションアーム42とにより構成されるリンク機構(以下、単に「リンク機構」と称す。)が屈伸し、キャンバ軸44を中心軸として車輪2が揺動する(図3参照)。
【0040】
即ち、一般に、車輪2は、路面Gとの間の摩擦により、路面Gに対して滑りを生じないため、リンク機構は、車輪2の接地面に最も近くに配置されるキャンバ軸44を固定軸として屈伸する。その結果、キャンバ軸44を中心軸として車輪2が揺動する。
【0041】
また、キャンバ軸44は、アクスルハブ41が車輪2を車両1の内側から支持する構成であるので、車両1の正面視において、車輪2の中心線Mよりも車両1の内側(図2右側)に配置されている。
【0042】
上述したように構成される懸架装置4によれば、図3(a)及び図3(b)に示すように、図2に示す状態からFRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、リンク機構が屈伸し、車輪2がキャンバ軸44を中心軸として矢印A方向または矢印B方向へ揺動することで、車輪2のキャンバ角が調整される。なお、かかる調整によって車輪2に付与されたキャンバ角は、FRアクチュエータ43FRの推力によって保持される。
【0043】
また、FRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、リンク機構が屈伸し、FRアクチュエータ43FRを介してサスペンションアーム42に連結された車体フレームBFが昇降することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hが変更される。即ち、FRアクチュエータ43FRを伸縮駆動することで、車輪2のキャンバ角を調整するのと同時に、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを変更することができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、上述したように、車両1の正面視において、キャンバ軸44が車輪2の中心線Mよりも車両1の内側に配置される構成であるので、図3(a)に示すように、FRアクチュエータ43FRを収縮駆動することで、車輪2のキャンバ角をプラス方向(ポジティブ)に調整することができる。同時に、車体フレームBFが上昇することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを広げることができる。
【0045】
一方、図3(b)に示すように、FRアクチュエータ43FRを伸長駆動することで、車輪2のキャンバ角をマイナス方向(ネガティブ)に調整することができる。同時に、車体フレームBFが下降することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを縮めることができる。
【0046】
図1に戻って説明する。ステアリング装置5は、ラックアンドピニオン式の機構により構成され、ステアリングシャフト51と、フックジョイント52と、ステアリングギヤ53と、タイロッド54と、ナックル55とを主に備えている。
【0047】
このステアリング装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作は、まず、ステアリングシャフト51を介してフックジョイント52に伝達されると共に、フックジョイント52により角度を変えられつつ、ステアリングギヤ53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動して、ナックル55を押し引きすることで、車輪2の操舵角が調整される。
【0048】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の制御が行われる。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作に伴って、車輪2がステアリング装置5により操舵される。
【0049】
また、キーシリンダ24は、鍵穴に対応するキー50(図4参照)を挿入して回転した場合に、車両1の起動(始動)を制御装置100へ指示するものである。詳細は後述するが、本実施形態では、キーシリンダ24がキー50に記憶されるキーIDを受信できる構成とされており、制御装置100は、キーシリンダ24が受信したキーIDに基づき、盗難される疑いのある不正な起動がされたか否かを判定するように構成されている。
【0050】
制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を制御することで、各車輪2を回転駆動する。また、制御装置100は、キーシリンダ24が受信したキーIDに基づいて不正な起動がされたか否かを判定し、不正な起動がされたと判定した場合にはリンク駆動装置43を制御して、各車輪2に対してポジティブ側に最大のキャンバ角を付与し、車両1の直進性を悪化させて自走が困難な状態とする。
【0051】
ここで、図4を参照して、制御装置100の詳細構成について説明する。図4は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置100は、図4に示すように、CPU71、EEPROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
【0052】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、計時回路71aが設けられている。EEPROM72は、CPU71によって実行される制御プログラムや固定値データ等を書き換え可能に記憶すると共に、電源遮断後も内容を保持可能な不揮発性のメモリであり、図4〜図8に示すフローチャート(盗難対策処理など)のプログラムが格納されている。
【0053】
また、EEPROM72には、車両1毎に固有のIDコードである車両側IDを記憶する車両側IDメモリ72aを有している。詳細は後述するが、本実施形態では、キー50がキーシリンダ24に挿入された場合に、車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとキー50から読み取ったキーIDとの照合をCPU71が行うように構成されている。
【0054】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、盗難フラグ73aを備えている。この盗難フラグ73aは、不正なキーの使用による盗難の危険性が生じたか否かを示すフラグであり、オンであれば少なくとも車両が盗難される危険性があることを示す。より具体的には、盗難フラグ73aは、キーシリンダ24に正規のキー50又は不正なキーが挿入されて回転されたことに伴って初期化(オフ)され、後述する盗難判定処理(図6参照)において、キー50から読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aとが不一致であった場合にオンされる。
【0055】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0056】
リンク駆動装置43は、上述したように、リンク機構を屈伸させることで車輪2を揺動駆動するための装置であり、リンク機構に屈伸のための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ43FL〜43RRと、それら各アクチュエータ43FL〜43RRをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0057】
なお、FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RRは、上述したように、油圧シリンダにより構成され、各油圧シリンダにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ(図示せず)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とを主に備えて構成されている。
【0058】
CPU71からの指示に基づいて、リンク駆動装置43の制御回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)が伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)の駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
【0059】
リンク駆動装置43の制御回路は、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)の伸縮量を伸縮センサ(図示せず)により監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)は、伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、制御回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2のキャンバ角および車体フレームBFと路面Gとの間隔H(図2参照)を得ることができる。
【0060】
キーシリンダ24は、挿入されたキー50により回転されることで、車両1の起動(始動)を制御装置100へ指示する。キーシリンダ24は、キーID受信部24aを有している。このキーID受信部24aは、挿入されたキー50のトランスポンダ50aのメモリ部分に記憶されるキーIDを受信するものである。CPU71は、キーID受信部24aにより受信したキーIDを読み取り、車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとの照合を行う。
【0061】
なお、キー50は、外形は通常のキーの形状に構成されているが、その内部にトランスポンダ50aが埋め込まれている。このトランスポンダ50aは、メモリ(図示せず)と送信回路(図示せず)とを含んで構成され、図示されない内蔵電池によって駆動される。トランスポンダ50aのメモリには、1の車両側IDと対になる固有のキーIDが記憶されており、キーシリンダ24にキー50を挿入した場合に、キーIDが送信回路によってキーシリンダ24のキーID受信部24aへ送信(出力)される。
【0062】
また、図4に示す他の入出力装置83としては、車体フレームBFの加速度を検出する加速度センサ装置や、アクセルペダル61の踏み込み状態を検出するアクセルペダルセンサ装置や、ブレーキペダル62の踏み込み状態を検出するブレーキペダルセンサ装置や、ステアリング63の操作状態を検出するステアリングセンサ装置等が例示される。
【0063】
次に、図5〜図8のフローチャートを参照して、上記構成を有する車両1の制御装置100により実行される盗難対策処理について説明する。図5は、盗難対策処理を示すフローチャートである。この盗難対策処理は、キーシリンダ24へのキー(不正なキーを含む)の挿入がキー挿入スイッチ(図示せず)により検出されると起動する処理である。
【0064】
図5に示すように、この盗難対策処理では、まず、使用されたキーの正当性を判定する盗難判定処理を実行し(S1)、その盗難判定処理(S1)による判定結果に基づいて各車輪2のキャンバ設定角を決定する盗難防止用キャンバ角設定処理を実行し(S2)、リンク駆動装置43を制御して各車輪2に盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角を付与する実キャンバ角付与処理を実行して(S3)、終了する。
【0065】
この第1実施形態の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理(S1)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)、及び実キャンバ角付与処理(S3)の詳細な処理は、図6〜図8を参照して後述する。また、本発明のすべての実施形態において、盗難判定処理(S1)を特許請求の範囲に記載の盗難判定手段とし、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を特許請求の範囲に記載の盗難対策手段として説明する。
【0066】
図6は、図5の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理(S1)を示すフローチャートである。図6に示すように、盗難判定処理(S1)では、まず、盗難フラグ73aをオフして初期化し(S11)、キーシリンダ24のキーID受信部24aにより受信したキーIDを読み取る(S12)。S12の処理後、読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとの照合を行い、これらのIDが一致するかを確認する(S13)。
【0067】
S13の処理により確認した結果、キーIDと車両側IDとが一致する場合には(S13:Yes)、盗難判定処理(S1)を終了する。即ち、キー50から読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとが一致する場合には、不正なキーの使用による盗難の危険性がないと判定し、盗難フラグ73aがオフの状態のまま盗難判定処理(S1)を終了する。
【0068】
一方で、S13の処理により確認した結果、キーIDと車両側IDとが一致しない場合には(S13:No)、不正なキーの使用による盗難の危険性が生じたと判定し、盗難フラグ73aをオンして(S14)、盗難判定処理(S1)を終了する。
【0069】
図7は、図5の盗難対策処理の中で実行される盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図7に示すように、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、まず、盗難フラグ73aの読み込みを行う(S21)。
【0070】
S21の処理後、読み込んだ盗難フラグ73aがオンであるか否かを確認し(S22)、盗難フラグ73aがオフであれば、即ち、不正なキーの使用による盗難の危険性がないと判定されている場合には(S22:No)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0071】
一方で、S22の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば、即ち、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されている場合には(S22:Yes)、各車輪2のキャンバ設定角をポジティブ側の最大角とし(S23)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0072】
図8は、図5の盗難対策処理の中で実行される実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。図8に示すように、実キャンバ角付与処理(S3)では、まず、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S31)、読み込んだ盗難フラグ73aがオンであるか否かを確認する(S32)。S32の処理により確認した結果、読み込んだ盗難フラグ73aがオフであれば(S32:No)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0073】
一方で、S32の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば(S32:Yes)、各車輪2の実キャンバ角(即ち、各車輪2に実際に付与されるキャンバ角)が盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角となるようにリンク駆動装置43の制御を行い(S33)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0074】
以上説明したように、第1実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与される。よって、各車輪2に走行を阻害する不自然に大きなキャンバ角が付与されるので、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪くなると共に、場合によっては車輪2の片当たりが生じるので、車両1の自走を困難にすることができる。その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態の車両1は、車輪2にポジティブ側のキャンバ角を付与することにより、車体フレームBFが上昇する構成であるので、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されると突然車高が上がることになり、盗人の心理的動揺を煽ることができ、車両1の盗難を抑制することができる。
【0076】
次に、図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)及び実キャンバ角付与処理(S3)の処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0077】
図9(a)は、第2実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートであり、図9(b)は、第2実施形態における実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。
【0078】
図9(a)に示すように、第2実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、各アクチュエータ43FL〜43RRへ供給する電流の設定値(アクチュエータ電流設定値)をゼロとして(S201)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。なお、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0079】
また、図9(b)に示すように、第2実施形態の実キャンバ角付与処理(S3)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S31)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S32)、盗難フラグ73aがオンである場合には(S32:Yes)、各アクチュエータ43FL〜43RRへ供給する電流を、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)において設定されたアクチュエータ電流設定値、即ち、ゼロとし(S301)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。なお、盗難フラグ73aがオフである場合には(S32:No)、そのまま実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0080】
以上説明したように、第2実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各アクチュエータ43FL〜43RRへの電流供給が断たれる。従って、各アクチュエータ43FL〜43RRの推力がゼロ(0N)となり、各車輪2がキャンバ角2を所定位置で保持する力が失われる。
【0081】
各アクチュエータ43FL〜43RRによる保持力がゼロの状態で、車両1を走行させると、各車輪2は、走行状態(例えば、路面状況)に応じて、キャンバ軸44を中心軸とするキャンバ角方向(即ち、図2における矢印A方向または矢印B方向)へ不規則に揺動することになり、車両の直進性が著しく阻害される。よって、車両1の自走が困難となるので、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができる。その結果、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0082】
次に、図10〜図13を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、車輪2(2FL〜2RR)に換えて、車輪の幅方向に特性の異なる2種類のトレッド(第1トレッド21及び第2トレッド22)を有する車輪20(20FL〜20RR)を採用している。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0083】
まず、図10〜図12を参照して、第3実施形態において使用する車輪20の詳細構成について説明する。図10は、車両1の上面視を模式的に示した模式図であり、図11及び図12は、車両1の正面視を模式的に示した模式図である。なお、図11では、車輪20のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態が図示され、図12では、車輪20のキャンバ角がマイナス方向(ネガティブ)に調整された状態が図示されている。
【0084】
車輪20は、図10に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪20において、第1トレッド21が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が車両1の内側に配置されている。また、車輪20は、第1トレッド21と第2トレッド22とが互いに異なる特性に構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されている。なお、本実施形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図10左右方向寸法)が同一に構成されている。
【0085】
上述したように構成される車輪20によれば、図11に示すように、リンク駆動装置43が制御され、車輪20のキャンバ角θL,θRがプラス方向(ポジティブ)に調整されると、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地面積)が増加する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地面積)が減少する。これにより、第1トレッド21と第2トレッド22との接地比率を変更できるので、接地比率の高いトレッド、即ち、第1トレッド21の特性による影響を大きくして、第1トレッド21の特性により得られる性能を車輪2に発揮させることができる。
【0086】
ここで、本実施形態では、上述したように、車輪20は、第1トレッド21を第2トレッド22に比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)とする構成であるので、第1トレッド21の軟らかい特性、即ち、弾性に富み、外力に対して変形し易い特性によって、車両1が路面Gから受ける衝撃を緩和することができる。
【0087】
これに対し、図12に示すように、リンク駆動装置43が制御され、車輪20のキャンバ角θL,θRがマイナス方向(ネガティブ)に調整されると、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地面積)が減少する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地面積)が増加する。これにより、接地比率の低いトレッド、即ち、第1トレッド21の特性による影響を小さくすることができる。
【0088】
これにより、第1トレッド21の軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)、即ち、高グリップ特性によって、車輪20の転がり抵抗が大きくなることを回避できるので、燃費の悪化を抑制して、燃費性能の向上を図ることができる。
【0089】
上記構成を有する第3実施形態の車両1もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)の処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。
【0090】
ここで、図13は、第3実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図13に示すように、第3実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0091】
一方で、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、各車輪20のキャンバ設定角を低転がり面接地角度とし(S211)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。なお、この「低転がり面接地角度」とは、路面Gにおける車輪20の接地部分のうち、低転がり面である第2トレッド22の接地比率が第1トレッド21の接地比率に比べて高い所定量となるように予め規定されている角度である。
【0092】
従って、この第3実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪20は、第2トレッド22の接地比率を増加させるキャンバ角(本実施形態では、ネガティブ側のキャンバ角)が付与されることになる。
【0093】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、各車輪20がグリップ力を低くする方向のキャンバ角が付与されるので、車輪20のグリップ力が低下して、車両1の自走を困難にすることできる。その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0094】
次に、図14を参照して、第4実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に各車輪2がポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されるように構成したが、この第4実施形態では、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されると、所定時間毎に各車輪2に付与されるキャンバ角が変化されるように構成されている。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0095】
この第4実施形態では、上述した第1実施形態にて実行される盗難対策処理が、キーシリンダ24へのキーの挿入に伴う起動後、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し実行されるように構成されている。
【0096】
図14は、第4実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図14に示すように、第4実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0097】
一方で、S22の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、図示されないネガティブ側フラグがオンであるか否かを確認する(S221)。なお、ネガティブ側フラグは、キャンバ設定角としてポジティブ側のキャンバ角を設定するか、ネガティブ側のキャンバ角かを設定するかを示すフラグである。このネガティブ側フラグは、キーシリンダ24に正規のキー50又は不正なキーが挿入されて回転されたことに伴って初期化(オフ)される。
【0098】
S221により確認した結果、ネガティブ側フラグがオフであれば(S221:No)、各車輪2のキャンバ設定角をポジティブ側の最大角とし(S222)、ネガティブ側フラグをオンして(S223)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0099】
一方で、S221により確認した結果、ネガティブ側フラグがオンであれば(S221:Yes)、各車輪2のキャンバ設定角をネガティブ側の最大角とし(S224)、ネガティブ側フラグをオフして(S225)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0100】
従って、この第4実施形態によれば、盗難対策処理が所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し実行されるので、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪2に対し、盗難対策処理の実行間隔毎に、ポジティブ側に最大のキャンバ角とネガティブ側に最大のキャンバ角とが交互に付与されることになる。
【0101】
よって、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、かかる判定がなされてからの経過時間に応じて車輪2に付与されるキャンバ角が、ポジティブ側になったりネガティブ側になったり不自然に変更されるので、車両の直進性が阻害される。その結果、車両1の自走が困難となるので、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0102】
次に、図15を参照して、第5実施形態について説明する。この第5実施形態もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、実キャンバ角付与処理(S3)において、なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0103】
この第5実施形態では、上述した第1実施形態にて実行される盗難対策処理が、キーシリンダ24へのキーの挿入に伴う起動後、所定時間毎(例えば、0.2秒毎)に繰り返し実行されるように構成されている。
【0104】
図15は、第5実施形態における実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。図15に示すように、第5実施形態の実キャンバ角付与処理(S3)では、まず、キャンバ設定角の読み込みを行う(S321)。
【0105】
S321の処理後、車両1の走行が開始されたかの確認を行い(S322)、車両1の走行開始が確認されなければ(S322:No)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0106】
なお、車両1の走行が開始されたか否かの判定は、例えば、アクセルペダル61の踏み込み状態や、ブレーキペダル62の踏み込み状態や、車両1の走行速度などにより確認することができる。より具体的には、アクセルペダル61が踏み込まれた場合(即ち、アクセル開度が0より大きくなった場合)や、ブレーキペダル62がオン(踏み込まれた状態)からオフ(踏み込み量が0になった状態)へ移行した場合や、車両1の走行速度が0より大きくなった場合に、車両1の走行が開始されたと判定することができる。ここで、車両1の走行が開始されたか否かの判定は、上記例示した状態が1つでも生じたか否かによって判定してもよいし、複数の組み合わせによって判定してもよい。
【0107】
また、S322の処理により確認した結果、車両1の走行が開始された場合には(S322:Yes)、各車輪2の実キャンバ角(即ち、各車輪2に実際に付与されるキャンバ角)が盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角となるようにリンク駆動装置43の制御を行い(S33)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0108】
従って、この第5実施形態によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されることになる。
【0109】
よって、不正なキーにより車両1が起動(始動)した状態では、見かけ上、何も起こらないものの、車両1を走行させると突然直進性の悪い走行が開始されるので、盗人の心理的動揺を煽ることができ、車両1の盗難を抑制することができる。特に、本実施形態の車両1は、車輪2にポジティブ側のキャンバ角を付与することにより、車体フレームBFが上昇する構成であるので、走行開始時に突然車高が上がることもまた、盗人を効果的に動揺させることができ、有効な盗難抑制作用を奏する。
【0110】
また、車両1を走行させたとしても、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪化しているので、車両1の自走が困難であり、その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0111】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0112】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0113】
また、上記各実施形態では、懸架装置4のリンク機構によって車輪2,20にキャンバ角を付与できる構成としたが、他の機構によってキャンバ角を付与する構成であってもよい。なお、キャンバ角を付与可能な車輪は全車輪であることに限定されず、一部の車輪(例えば、前輪のみ)としてもよい。その場合には、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されたときに、キャンバ角が付与可能な車輪にのみキャンバ角が付与される。
【0114】
また、上記各実施形態では、車輪駆動装置3により左右前輪(2FL,2FR又は20FL,20FR)を回転駆動させる構成としたが、車輪駆動装置の構成にかかわらず、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であれば、本発明を適用できる。例えば、車輪駆動装置をホイールモータやエンジンとする車両であっても、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であればよい。
【0115】
また、上記各実施形態では、盗難判定処理(S1)において、キー50のトランスポンダ50aに記憶されるキーIDと車両1のEEPROM72aに記憶されている車両側IDとを照合する、所謂「イモビライザ」を利用して不正なキーの使用による盗難の危険性があるか否かを判定した。盗難の危険性があるか否かの判定方法としては、イモビライザに限定されず、車両盗難防止に利用される種々の判定方法を利用可能である。例えば、車両1のドアロックを監視し、ドアロックがこじ開けられた場合に盗難の危険性があると判定する方法や、車両1に所定レベルを超える振動が生じたことが検出された場合に盗難の危険性があると判定する方法などを利用可能である。
【0116】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与される構成としたが、付与されるキャンバ角としては、取り得る最大の角度に限定されず、車両1の自走を困難とするようなキャンバ角(例えば、10°以上のキャンバ角)であればよい。なお、付与するキャンバ角は大きければ大きいほど、車両1の自走をより困難にするので好ましい。また、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に付与されるキャンバ角は、ポジティブキャンバであることに限定されず、ネガティブキャンバであってもよい。
【0117】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、全車輪2にポジティブキャンバを付与する構成としたが、一部の車輪をポジティブキャンバとし、残り車輪をネガティブキャンバとする構成であってもよい。例えば、前輪2FL,2FRをポジティブキャンバとし、後輪2RL,2RRをネガティブキャンバとする構成であってもよい。かかる構成を採用した場合、ポジティブキャンバの車輪とネガティブキャンバの車輪とが混在することになり、車両1の直進性が阻害されるので、車両1の自走が困難となる。
【0118】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、全車輪2に同じキャンバ角(即ち、ポジティブ側に最大のキャンバ角)を付与する構成としたが、全車輪2に同じキャンバ角を付与しない構成としてもよい。例えば、左前後輪2FL,2RLに付与するキャンバ角と、右前後輪2FR,2RRに付与するキャンバ角とが異なる構成であってもよい。あるいは、各車輪2に対し、各々異なるキャンバ角を付与する構成であってもよい。かかる構成を採用した場合、キャンバスラストによる横力によって直進性が阻害されるので、車両1の自走が困難となる。
【0119】
また、上記第2実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、各アクチュエータ43FL〜43RRの推力をゼロとする構成としたが、少なくとも1つのアクチュエータ43FL〜43RRの推力がゼロとされていればよい。
【0120】
また、上記第3実施形態では、車輪20を第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドにより構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1トレッド21及び第2トレッド22に加え、それら第1トレッド21又は第2トレッド22の特性と同じ特性、あるいは、それら第1トレッド21及び第2トレッド22の特性とは異なる特性(例えば、第2トレッド22よりさらに硬い特性(ゴム硬度の高い特性))に構成された第3トレッドを備えていても良い。
【0121】
また、上記第1〜第3実施形態の盗難対策処理は、キーシリンダ24へのキー(不正なキーを含む)の挿入がキー挿入スイッチ(図示せず)により検出された場合に1回のみ起動する構成であったが、車両1が起動されてから定期的にID照合を行い、盗難の危険性があると判定された場合に、第1〜第3実施形態に例示した処理を実行するように構成してもよい。
【0122】
また、上記第4実施形態では、各車輪2に対し、所定時間毎に、ポジティブキャンバとネガティブキャンバとが交互に付与される構成としたが、各車輪2毎に、ポジティブキャンバとネガティブキャンバとを変更するタイミングを異ならせるように構成してもよい。
【0123】
また、上記第5実施形態は、第1実施形態の盗難対策処理に対して適用する構成、即ち、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与する構成であったが、第2〜第3実施形態の盗難対策処理に対して適用することも当然可能である。
【0124】
また、上記第5実施形態では、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角を付与する構成としたが、走行開始後、車両1が停止したら各車両1のキャンバ角を初期値(例えば、0度)に戻し、走行が再び開始された場合に、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が再度付与される構成としてもよい。また、盗難対策手段である盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)において、キャンバ設定角の最大角および最小角は、キャンバ角を設定可能なうちの可動範囲の最大角および最小角を表し、通常走行時においては使用頻度としては少ない。そして、転がり抵抗を増大させる要因にもなるので車速を低減させるとともに、直進走行を阻害することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の第1実施形態における制御装置が搭載される車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の正面図である。
【図3】懸架装置の正面図である。
【図4】制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図5】盗難対策処理を示すフローチャートである。
【図6】図5の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理を示すフローチャートである。
【図7】図5の盗難対策処理の中で実行される盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図8】図5の盗難対策処理の中で実行される実キャンバ角付与処理を示すフローチャートである。
【図9】(a)は、第2実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートであり、(b)は、第2実施形態の実キャンバ角付与処理を示すフローチャートである。
【図10】第3実施形態の車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図11】第3実施形態の車両の正面視を模式的に示した模式図である。
【図12】第3実施形態の車両の正面視を模式的に示した模式図である。
【図13】第3実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図14】第4実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図15】第5実施形態の実キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0126】
100 制御装置
1 車両
2 車輪
2FL 左の前輪(車輪)
2FR 右の前輪(車輪)
2RL 左の後輪(車輪)
2RR 右の後輪(車輪)
4 懸架装置(キャンバ角調整装置)
21 第1トレッド
22 第2トレッド
43FL〜43RR FL〜RRアクチュエータ(キャンバ角調整装置の一部)
S1 (盗難判定手段)
S2 (盗難対策手段の一部)
S3 (盗難対策手段の一部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と、その車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置とを備えた車両に用いられる制御装置に関し、特に、車両が盗難されたとしてもその回収を容易化し得る制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両盗難に対する種々のセキュリティ技術が提案されている。例えば、特許文献1には、盗難等の異常が発生したした場合に、警報を出力すると共に、エンジンの始動を禁止し、さらに、通信手段を用いて車両の所有者に異常が発生したことを伝達する車両セキュリティ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2007−168472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される車両セキュリティ装置のように、異常発生時にエンジンの始動を禁止させたとしても、電気配線の直結などによってエンジンを始動できる可能性がある。よって、エンジンが盗人によって強制的に始動されてしまえば、異常の発生や車両位置を車両の所有者に伝達することができたとしても、車両のエンジンが始動されてから(即ち、車両が盗まれてから)該車両を発見するまでの間に、該車両は遠くへ移動されてしまい、盗難車両の回収が困難になる上に、回収コストが嵩むという問題点があった。
【0004】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両が盗難にあったとしてもその回収を容易化し得る制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を解決するために請求項1記載の制御装置は、車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを備えた車両に用いられるものであって、前記車両に対し、盗難又はその疑いがあるか否かを判定する盗難判定手段と、その盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角を前記車輪に付与する盗難対策手段と、を備えている。
【0006】
請求項2記載の制御装置は、請求項1記載の制御装置において、前記盗難対策手段は、前記車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角を付与する。
【0007】
請求項3記載の制御装置は、請求項1又は2に記載の制御装置において、前記盗難対策手段は、前記盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて前記車輪に付与するキャンバ角をポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更する付与方向変更手段を含む。
【0008】
請求項4記載の制御装置は、請求項1から3のいずれかに記載の制御装置において、前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、前記盗難対策手段は、前記複数の車輪のうち一部の車輪に対してポジティブ側のキャンバ角を付与し、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角を付与する。
【0009】
請求項5記載の制御装置は、請求項1から4のいずれかに記載の制御装置において、前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、前記盗難対策手段は、前記複数の車輪の内で少なくとも2種類の異なるキャンバ角を付与する。
【0010】
請求項6記載の制御装置は、請求項1から5のいずれかに記載の制御装置において、前記車輪は、第1トレッドと、その第1トレッドに対して前記車輪の幅方向に並設され前記車両の内側又は外側に配置される第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドが前記第2トレッドに対して軟らかい特性に構成され、前記盗難対策手段は、前記車輪における前記第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角を付与する。
【0011】
請求項7記載の制御装置は、請求項1から6のいずれかに記載の制御装置において、前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ角を変化させて所定のキャンバ角にて保持するアクチュエータを含んで構成されるものであり、前記盗難対策手段は、前記アクチュエータが前記車輪のキャンバ角を保持する力をゼロにする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の制御装置によれば、車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によりキャンバ角調整装置が作動され、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与される。
【0013】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角が車輪に付与されるので、盗難車両の自走を通常状態より困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限することが可能となる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0014】
請求項2記載の制御装置によれば、請求項1記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角が付与される。
【0015】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、ポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角が車輪に付与されるので、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪くなり、盗難車両の自走を困難にすることができる。その結果、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0016】
請求項3記載の制御装置によれば、請求項1又は2に記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難された疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、かかる判定がなされてからの経過時間に応じて車輪に付与するキャンバ角が、付与方向変更手段(盗難対策手段の一部)によって、ポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更される。
【0017】
よって、盗難判定手段によって車両が盗難された又は盗難された疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて、車輪のキャンバ角が、ポジティブ側になったりネガティブ側になったり不自然に変更され、車両の直進性が阻害される。よって、盗難車両の自走が困難となり、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0018】
請求項4記載の制御装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、複数の車輪のうち一部の車輪にポジティブ側のキャンバ角が付与され、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角が付与される。
【0019】
よって、車輪によってポジティブ側のキャンバ角であったりネガティブ側のキャンバ角であったりと、車輪のキャンバ角が不自然な状態となって車両の直進性を阻害する。従って、盗難車両の自走を困難とし、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0020】
請求項5記載の制御装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、複数の車輪に対し、少なくとも2種類の異なるキャンバ角が付与される。よって、車輪のキャンバ角が不自然な状態となり、車両の直進性を阻害する。
【0021】
従って、盗難車両の自走を困難にすることができ、その結果として、盗難場所からの移動距離を制限することができるので、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0022】
請求項6記載の制御装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪が、幅方向に並設される、第1トレッドとその第1トレッドより硬い特性(即ち、第1トレッドより転がり抵抗が低くグリップ力がより低い特性)に構成される第2トレッドとを有しているので、車輪に付与されるキャンバ角に応じて、第1トレッドの特性と第2トレッドの特性とを使い分けることができる。
【0023】
ここで、車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角が付与される。即ち、少なくとも盗難の危険がある状態において、車輪のグリップ力を低くする方向のキャンバ角が付与される。
【0024】
よって、車輪がスリップし易くなり、盗難車両が走行し難い状態となるので、盗難場所からの移動距離を制限することができる。従って、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【0025】
請求項7記載の制御装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車両が盗難された又は盗難の疑いがあると盗難判定手段によって判定された場合には、盗難対策手段によって、キャンバ角調整装置に含まれるアクチュエータにおける該車輪のキャンバ角を保持する力がゼロにされる。
【0026】
よって、アクチュエータによる車輪のキャンバ角の保持が不能となり、その結果として、車両の走行時に車輪がキャンバ角方向に揺動されることになり、盗難車両の自走を困難にすることができる。従って、盗難場所からの移動距離を制限することができ、盗難車両の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における制御装置100が搭載される車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
【0028】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、複数(本実施形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2のキャンバ角を調整する懸架装置4と、その懸架装置4に支持される車体フレームBFと、ステアリング63の操作に伴って各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置5とを主に備えている。なお、詳細は後述するが、本実施形態の車両1は、不正なキーの使用による盗難の危険性があると制御装置100によって判定された場合には、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されるように構成されている。
【0029】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向FWD前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向FWD後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3から付与される回転駆動力により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0030】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与して回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図4参照)。電動モータ3aは、図1に示すように、ディファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して、左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0031】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の踏み込み状態に応じた回転速度で回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、ディファレンシャルギヤにより吸収される。
【0032】
懸架装置4は、いわゆるサスペンションとして機能する装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応して配設されている。また、本実施形態における懸架装置4は、上述したように、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置としての機能を兼ね備えている。
【0033】
ここで、図2及び図3を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2及び図3は、懸架装置4の正面図であり、図3(a)は、車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態が図示され、図3(b)は、車輪2のキャンバ角がマイナス方向(ネガティブ)に調整された状態が図示されている。なお、図2及び図3では、発明の理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の図示を省略し、図面を簡素化している。また、各懸架装置4の構成は、それぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として、図2及び図3に図示する。
【0034】
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット式(マクファーソン式)の機構により構成され、アクスルハブ41と、サスペンションアーム42と、FRアクチュエータ43FRとを主に備えている。
【0035】
アクスルハブ41は、車輪2を回転可能に支持するものであり、図2に示すように、車両1の内側(図2右側)から車輪2を支持すると共に、サスペンションアーム42を介してFRアクチュエータ43FRに連結されている。サスペンションアーム42は、アクスルハブ41をFRアクチュエータ43FRに連結するものであり、第1〜第3アーム42a〜42cを備えている。
【0036】
第1アーム42a及び第2アーム42bは、一端(図2左側)がアクスルハブ41の上部(図2上側)及び下部(図2下側)にそれぞれ軸支される一方、他端(図2右側)が第3アーム42cの上端(図2上側)及び下端(図2下側)にそれぞれ軸支されている。また、第1アーム42a及び第2アーム42bは、互いに対向して配置されると共に、第3アーム42cは、アクスルハブ41に対向して配置されている。これにより、アクスルハブ41とサスペンションアーム42(第1〜第3アーム42a〜42c)とにより、4節のリンク機構が構成される。
【0037】
なお、サスペンションアーム42には、路面Gから車体フレームBFに伝わる衝撃を緩和するコイルばね及びそのコイルばねの振動を減衰させるショックアブソーバ(いずれも図示せず)が配設されている。
【0038】
FRアクチュエータ43FRは、サスペンションアーム42と車体フレームBFとを連結するものであり、油圧シリンダにより構成されている。このFRアクチュエータ43FRは、図2に示すように、本体部(図2上側)が車体フレームBFに軸支される一方、ロッド部(図2下側)が第3アーム42cに軸支されている。
【0039】
ここで、第2アーム42bは、キャンバ軸44を介してアクスルハブ41に軸支されており、FRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、アクスルハブ41とサスペンションアーム42とにより構成されるリンク機構(以下、単に「リンク機構」と称す。)が屈伸し、キャンバ軸44を中心軸として車輪2が揺動する(図3参照)。
【0040】
即ち、一般に、車輪2は、路面Gとの間の摩擦により、路面Gに対して滑りを生じないため、リンク機構は、車輪2の接地面に最も近くに配置されるキャンバ軸44を固定軸として屈伸する。その結果、キャンバ軸44を中心軸として車輪2が揺動する。
【0041】
また、キャンバ軸44は、アクスルハブ41が車輪2を車両1の内側から支持する構成であるので、車両1の正面視において、車輪2の中心線Mよりも車両1の内側(図2右側)に配置されている。
【0042】
上述したように構成される懸架装置4によれば、図3(a)及び図3(b)に示すように、図2に示す状態からFRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、リンク機構が屈伸し、車輪2がキャンバ軸44を中心軸として矢印A方向または矢印B方向へ揺動することで、車輪2のキャンバ角が調整される。なお、かかる調整によって車輪2に付与されたキャンバ角は、FRアクチュエータ43FRの推力によって保持される。
【0043】
また、FRアクチュエータ43FRが伸縮駆動されると、リンク機構が屈伸し、FRアクチュエータ43FRを介してサスペンションアーム42に連結された車体フレームBFが昇降することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hが変更される。即ち、FRアクチュエータ43FRを伸縮駆動することで、車輪2のキャンバ角を調整するのと同時に、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを変更することができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、上述したように、車両1の正面視において、キャンバ軸44が車輪2の中心線Mよりも車両1の内側に配置される構成であるので、図3(a)に示すように、FRアクチュエータ43FRを収縮駆動することで、車輪2のキャンバ角をプラス方向(ポジティブ)に調整することができる。同時に、車体フレームBFが上昇することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを広げることができる。
【0045】
一方、図3(b)に示すように、FRアクチュエータ43FRを伸長駆動することで、車輪2のキャンバ角をマイナス方向(ネガティブ)に調整することができる。同時に、車体フレームBFが下降することで、車体フレームBFと路面Gとの間隔Hを縮めることができる。
【0046】
図1に戻って説明する。ステアリング装置5は、ラックアンドピニオン式の機構により構成され、ステアリングシャフト51と、フックジョイント52と、ステアリングギヤ53と、タイロッド54と、ナックル55とを主に備えている。
【0047】
このステアリング装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作は、まず、ステアリングシャフト51を介してフックジョイント52に伝達されると共に、フックジョイント52により角度を変えられつつ、ステアリングギヤ53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動して、ナックル55を押し引きすることで、車輪2の操舵角が調整される。
【0048】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の制御が行われる。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作に伴って、車輪2がステアリング装置5により操舵される。
【0049】
また、キーシリンダ24は、鍵穴に対応するキー50(図4参照)を挿入して回転した場合に、車両1の起動(始動)を制御装置100へ指示するものである。詳細は後述するが、本実施形態では、キーシリンダ24がキー50に記憶されるキーIDを受信できる構成とされており、制御装置100は、キーシリンダ24が受信したキーIDに基づき、盗難される疑いのある不正な起動がされたか否かを判定するように構成されている。
【0050】
制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を制御することで、各車輪2を回転駆動する。また、制御装置100は、キーシリンダ24が受信したキーIDに基づいて不正な起動がされたか否かを判定し、不正な起動がされたと判定した場合にはリンク駆動装置43を制御して、各車輪2に対してポジティブ側に最大のキャンバ角を付与し、車両1の直進性を悪化させて自走が困難な状態とする。
【0051】
ここで、図4を参照して、制御装置100の詳細構成について説明する。図4は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置100は、図4に示すように、CPU71、EEPROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
【0052】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、計時回路71aが設けられている。EEPROM72は、CPU71によって実行される制御プログラムや固定値データ等を書き換え可能に記憶すると共に、電源遮断後も内容を保持可能な不揮発性のメモリであり、図4〜図8に示すフローチャート(盗難対策処理など)のプログラムが格納されている。
【0053】
また、EEPROM72には、車両1毎に固有のIDコードである車両側IDを記憶する車両側IDメモリ72aを有している。詳細は後述するが、本実施形態では、キー50がキーシリンダ24に挿入された場合に、車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとキー50から読み取ったキーIDとの照合をCPU71が行うように構成されている。
【0054】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、盗難フラグ73aを備えている。この盗難フラグ73aは、不正なキーの使用による盗難の危険性が生じたか否かを示すフラグであり、オンであれば少なくとも車両が盗難される危険性があることを示す。より具体的には、盗難フラグ73aは、キーシリンダ24に正規のキー50又は不正なキーが挿入されて回転されたことに伴って初期化(オフ)され、後述する盗難判定処理(図6参照)において、キー50から読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aとが不一致であった場合にオンされる。
【0055】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0056】
リンク駆動装置43は、上述したように、リンク機構を屈伸させることで車輪2を揺動駆動するための装置であり、リンク機構に屈伸のための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ43FL〜43RRと、それら各アクチュエータ43FL〜43RRをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0057】
なお、FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RRは、上述したように、油圧シリンダにより構成され、各油圧シリンダにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ(図示せず)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とを主に備えて構成されている。
【0058】
CPU71からの指示に基づいて、リンク駆動装置43の制御回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)が伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)の駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
【0059】
リンク駆動装置43の制御回路は、各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)の伸縮量を伸縮センサ(図示せず)により監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ43FL〜43RR)は、伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、制御回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2のキャンバ角および車体フレームBFと路面Gとの間隔H(図2参照)を得ることができる。
【0060】
キーシリンダ24は、挿入されたキー50により回転されることで、車両1の起動(始動)を制御装置100へ指示する。キーシリンダ24は、キーID受信部24aを有している。このキーID受信部24aは、挿入されたキー50のトランスポンダ50aのメモリ部分に記憶されるキーIDを受信するものである。CPU71は、キーID受信部24aにより受信したキーIDを読み取り、車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとの照合を行う。
【0061】
なお、キー50は、外形は通常のキーの形状に構成されているが、その内部にトランスポンダ50aが埋め込まれている。このトランスポンダ50aは、メモリ(図示せず)と送信回路(図示せず)とを含んで構成され、図示されない内蔵電池によって駆動される。トランスポンダ50aのメモリには、1の車両側IDと対になる固有のキーIDが記憶されており、キーシリンダ24にキー50を挿入した場合に、キーIDが送信回路によってキーシリンダ24のキーID受信部24aへ送信(出力)される。
【0062】
また、図4に示す他の入出力装置83としては、車体フレームBFの加速度を検出する加速度センサ装置や、アクセルペダル61の踏み込み状態を検出するアクセルペダルセンサ装置や、ブレーキペダル62の踏み込み状態を検出するブレーキペダルセンサ装置や、ステアリング63の操作状態を検出するステアリングセンサ装置等が例示される。
【0063】
次に、図5〜図8のフローチャートを参照して、上記構成を有する車両1の制御装置100により実行される盗難対策処理について説明する。図5は、盗難対策処理を示すフローチャートである。この盗難対策処理は、キーシリンダ24へのキー(不正なキーを含む)の挿入がキー挿入スイッチ(図示せず)により検出されると起動する処理である。
【0064】
図5に示すように、この盗難対策処理では、まず、使用されたキーの正当性を判定する盗難判定処理を実行し(S1)、その盗難判定処理(S1)による判定結果に基づいて各車輪2のキャンバ設定角を決定する盗難防止用キャンバ角設定処理を実行し(S2)、リンク駆動装置43を制御して各車輪2に盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角を付与する実キャンバ角付与処理を実行して(S3)、終了する。
【0065】
この第1実施形態の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理(S1)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)、及び実キャンバ角付与処理(S3)の詳細な処理は、図6〜図8を参照して後述する。また、本発明のすべての実施形態において、盗難判定処理(S1)を特許請求の範囲に記載の盗難判定手段とし、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を特許請求の範囲に記載の盗難対策手段として説明する。
【0066】
図6は、図5の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理(S1)を示すフローチャートである。図6に示すように、盗難判定処理(S1)では、まず、盗難フラグ73aをオフして初期化し(S11)、キーシリンダ24のキーID受信部24aにより受信したキーIDを読み取る(S12)。S12の処理後、読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとの照合を行い、これらのIDが一致するかを確認する(S13)。
【0067】
S13の処理により確認した結果、キーIDと車両側IDとが一致する場合には(S13:Yes)、盗難判定処理(S1)を終了する。即ち、キー50から読み取ったキーIDと車両側IDメモリ72aに記憶されている車両側IDとが一致する場合には、不正なキーの使用による盗難の危険性がないと判定し、盗難フラグ73aがオフの状態のまま盗難判定処理(S1)を終了する。
【0068】
一方で、S13の処理により確認した結果、キーIDと車両側IDとが一致しない場合には(S13:No)、不正なキーの使用による盗難の危険性が生じたと判定し、盗難フラグ73aをオンして(S14)、盗難判定処理(S1)を終了する。
【0069】
図7は、図5の盗難対策処理の中で実行される盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図7に示すように、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、まず、盗難フラグ73aの読み込みを行う(S21)。
【0070】
S21の処理後、読み込んだ盗難フラグ73aがオンであるか否かを確認し(S22)、盗難フラグ73aがオフであれば、即ち、不正なキーの使用による盗難の危険性がないと判定されている場合には(S22:No)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0071】
一方で、S22の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば、即ち、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されている場合には(S22:Yes)、各車輪2のキャンバ設定角をポジティブ側の最大角とし(S23)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0072】
図8は、図5の盗難対策処理の中で実行される実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。図8に示すように、実キャンバ角付与処理(S3)では、まず、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S31)、読み込んだ盗難フラグ73aがオンであるか否かを確認する(S32)。S32の処理により確認した結果、読み込んだ盗難フラグ73aがオフであれば(S32:No)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0073】
一方で、S32の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば(S32:Yes)、各車輪2の実キャンバ角(即ち、各車輪2に実際に付与されるキャンバ角)が盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角となるようにリンク駆動装置43の制御を行い(S33)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0074】
以上説明したように、第1実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与される。よって、各車輪2に走行を阻害する不自然に大きなキャンバ角が付与されるので、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪くなると共に、場合によっては車輪2の片当たりが生じるので、車両1の自走を困難にすることができる。その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態の車両1は、車輪2にポジティブ側のキャンバ角を付与することにより、車体フレームBFが上昇する構成であるので、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されると突然車高が上がることになり、盗人の心理的動揺を煽ることができ、車両1の盗難を抑制することができる。
【0076】
次に、図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)及び実キャンバ角付与処理(S3)の処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0077】
図9(a)は、第2実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートであり、図9(b)は、第2実施形態における実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。
【0078】
図9(a)に示すように、第2実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、各アクチュエータ43FL〜43RRへ供給する電流の設定値(アクチュエータ電流設定値)をゼロとして(S201)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。なお、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0079】
また、図9(b)に示すように、第2実施形態の実キャンバ角付与処理(S3)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S31)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S32)、盗難フラグ73aがオンである場合には(S32:Yes)、各アクチュエータ43FL〜43RRへ供給する電流を、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)において設定されたアクチュエータ電流設定値、即ち、ゼロとし(S301)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。なお、盗難フラグ73aがオフである場合には(S32:No)、そのまま実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0080】
以上説明したように、第2実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各アクチュエータ43FL〜43RRへの電流供給が断たれる。従って、各アクチュエータ43FL〜43RRの推力がゼロ(0N)となり、各車輪2がキャンバ角2を所定位置で保持する力が失われる。
【0081】
各アクチュエータ43FL〜43RRによる保持力がゼロの状態で、車両1を走行させると、各車輪2は、走行状態(例えば、路面状況)に応じて、キャンバ軸44を中心軸とするキャンバ角方向(即ち、図2における矢印A方向または矢印B方向)へ不規則に揺動することになり、車両の直進性が著しく阻害される。よって、車両1の自走が困難となるので、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができる。その結果、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0082】
次に、図10〜図13を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、車輪2(2FL〜2RR)に換えて、車輪の幅方向に特性の異なる2種類のトレッド(第1トレッド21及び第2トレッド22)を有する車輪20(20FL〜20RR)を採用している。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0083】
まず、図10〜図12を参照して、第3実施形態において使用する車輪20の詳細構成について説明する。図10は、車両1の上面視を模式的に示した模式図であり、図11及び図12は、車両1の正面視を模式的に示した模式図である。なお、図11では、車輪20のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態が図示され、図12では、車輪20のキャンバ角がマイナス方向(ネガティブ)に調整された状態が図示されている。
【0084】
車輪20は、図10に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪20において、第1トレッド21が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が車両1の内側に配置されている。また、車輪20は、第1トレッド21と第2トレッド22とが互いに異なる特性に構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されている。なお、本実施形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図10左右方向寸法)が同一に構成されている。
【0085】
上述したように構成される車輪20によれば、図11に示すように、リンク駆動装置43が制御され、車輪20のキャンバ角θL,θRがプラス方向(ポジティブ)に調整されると、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地面積)が増加する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地面積)が減少する。これにより、第1トレッド21と第2トレッド22との接地比率を変更できるので、接地比率の高いトレッド、即ち、第1トレッド21の特性による影響を大きくして、第1トレッド21の特性により得られる性能を車輪2に発揮させることができる。
【0086】
ここで、本実施形態では、上述したように、車輪20は、第1トレッド21を第2トレッド22に比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)とする構成であるので、第1トレッド21の軟らかい特性、即ち、弾性に富み、外力に対して変形し易い特性によって、車両1が路面Gから受ける衝撃を緩和することができる。
【0087】
これに対し、図12に示すように、リンク駆動装置43が制御され、車輪20のキャンバ角θL,θRがマイナス方向(ネガティブ)に調整されると、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地面積)が減少する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地面積)が増加する。これにより、接地比率の低いトレッド、即ち、第1トレッド21の特性による影響を小さくすることができる。
【0088】
これにより、第1トレッド21の軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)、即ち、高グリップ特性によって、車輪20の転がり抵抗が大きくなることを回避できるので、燃費の悪化を抑制して、燃費性能の向上を図ることができる。
【0089】
上記構成を有する第3実施形態の車両1もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)の処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。
【0090】
ここで、図13は、第3実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図13に示すように、第3実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0091】
一方で、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、各車輪20のキャンバ設定角を低転がり面接地角度とし(S211)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。なお、この「低転がり面接地角度」とは、路面Gにおける車輪20の接地部分のうち、低転がり面である第2トレッド22の接地比率が第1トレッド21の接地比率に比べて高い所定量となるように予め規定されている角度である。
【0092】
従って、この第3実施形態において実行される盗難対策処理によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪20は、第2トレッド22の接地比率を増加させるキャンバ角(本実施形態では、ネガティブ側のキャンバ角)が付与されることになる。
【0093】
よって、少なくとも盗難の危険がある状態において、各車輪20がグリップ力を低くする方向のキャンバ角が付与されるので、車輪20のグリップ力が低下して、車両1の自走を困難にすることできる。その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0094】
次に、図14を参照して、第4実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に各車輪2がポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されるように構成したが、この第4実施形態では、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されると、所定時間毎に各車輪2に付与されるキャンバ角が変化されるように構成されている。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0095】
この第4実施形態では、上述した第1実施形態にて実行される盗難対策処理が、キーシリンダ24へのキーの挿入に伴う起動後、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し実行されるように構成されている。
【0096】
図14は、第4実施形態における盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を示すフローチャートである。図14に示すように、第4実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)では、盗難フラグ73aの読み込みを行い(S21)、盗難フラグ73aがオンであるか否かの確認を行い(S22)、盗難フラグ73aがオフである場合には(S22:No)、そのまま盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0097】
一方で、S22の処理により確認した結果、盗難フラグ73aがオンであれば(S22:Yes)、図示されないネガティブ側フラグがオンであるか否かを確認する(S221)。なお、ネガティブ側フラグは、キャンバ設定角としてポジティブ側のキャンバ角を設定するか、ネガティブ側のキャンバ角かを設定するかを示すフラグである。このネガティブ側フラグは、キーシリンダ24に正規のキー50又は不正なキーが挿入されて回転されたことに伴って初期化(オフ)される。
【0098】
S221により確認した結果、ネガティブ側フラグがオフであれば(S221:No)、各車輪2のキャンバ設定角をポジティブ側の最大角とし(S222)、ネガティブ側フラグをオンして(S223)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0099】
一方で、S221により確認した結果、ネガティブ側フラグがオンであれば(S221:Yes)、各車輪2のキャンバ設定角をネガティブ側の最大角とし(S224)、ネガティブ側フラグをオフして(S225)、盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)を終了する。
【0100】
従って、この第4実施形態によれば、盗難対策処理が所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し実行されるので、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、各車輪2に対し、盗難対策処理の実行間隔毎に、ポジティブ側に最大のキャンバ角とネガティブ側に最大のキャンバ角とが交互に付与されることになる。
【0101】
よって、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、かかる判定がなされてからの経過時間に応じて車輪2に付与されるキャンバ角が、ポジティブ側になったりネガティブ側になったり不自然に変更されるので、車両の直進性が阻害される。その結果、車両1の自走が困難となるので、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0102】
次に、図15を参照して、第5実施形態について説明する。この第5実施形態もまた、上述した第1実施形態と同様、キーシリンダ24へキーが挿入されたことに伴って起動する盗難対策処理(図5参照)を実行するが、実キャンバ角付与処理(S3)において、なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0103】
この第5実施形態では、上述した第1実施形態にて実行される盗難対策処理が、キーシリンダ24へのキーの挿入に伴う起動後、所定時間毎(例えば、0.2秒毎)に繰り返し実行されるように構成されている。
【0104】
図15は、第5実施形態における実キャンバ角付与処理(S3)を示すフローチャートである。図15に示すように、第5実施形態の実キャンバ角付与処理(S3)では、まず、キャンバ設定角の読み込みを行う(S321)。
【0105】
S321の処理後、車両1の走行が開始されたかの確認を行い(S322)、車両1の走行開始が確認されなければ(S322:No)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0106】
なお、車両1の走行が開始されたか否かの判定は、例えば、アクセルペダル61の踏み込み状態や、ブレーキペダル62の踏み込み状態や、車両1の走行速度などにより確認することができる。より具体的には、アクセルペダル61が踏み込まれた場合(即ち、アクセル開度が0より大きくなった場合)や、ブレーキペダル62がオン(踏み込まれた状態)からオフ(踏み込み量が0になった状態)へ移行した場合や、車両1の走行速度が0より大きくなった場合に、車両1の走行が開始されたと判定することができる。ここで、車両1の走行が開始されたか否かの判定は、上記例示した状態が1つでも生じたか否かによって判定してもよいし、複数の組み合わせによって判定してもよい。
【0107】
また、S322の処理により確認した結果、車両1の走行が開始された場合には(S322:Yes)、各車輪2の実キャンバ角(即ち、各車輪2に実際に付与されるキャンバ角)が盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)により設定されたキャンバ設定角となるようにリンク駆動装置43の制御を行い(S33)、実キャンバ角付与処理(S3)を終了する。
【0108】
従って、この第5実施形態によれば、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与されることになる。
【0109】
よって、不正なキーにより車両1が起動(始動)した状態では、見かけ上、何も起こらないものの、車両1を走行させると突然直進性の悪い走行が開始されるので、盗人の心理的動揺を煽ることができ、車両1の盗難を抑制することができる。特に、本実施形態の車両1は、車輪2にポジティブ側のキャンバ角を付与することにより、車体フレームBFが上昇する構成であるので、走行開始時に突然車高が上がることもまた、盗人を効果的に動揺させることができ、有効な盗難抑制作用を奏する。
【0110】
また、車両1を走行させたとしても、キャンバスラストによる横力によって直進性が悪化しているので、車両1の自走が困難であり、その結果、車両1が盗難されて盗難場所から移動されることがあったとしても、その移動距離を制限することができ、盗難車両(車両1)の回収を容易化できると共に、回収コストを抑制することができる。
【0111】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0112】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0113】
また、上記各実施形態では、懸架装置4のリンク機構によって車輪2,20にキャンバ角を付与できる構成としたが、他の機構によってキャンバ角を付与する構成であってもよい。なお、キャンバ角を付与可能な車輪は全車輪であることに限定されず、一部の車輪(例えば、前輪のみ)としてもよい。その場合には、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定されたときに、キャンバ角が付与可能な車輪にのみキャンバ角が付与される。
【0114】
また、上記各実施形態では、車輪駆動装置3により左右前輪(2FL,2FR又は20FL,20FR)を回転駆動させる構成としたが、車輪駆動装置の構成にかかわらず、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であれば、本発明を適用できる。例えば、車輪駆動装置をホイールモータやエンジンとする車両であっても、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であればよい。
【0115】
また、上記各実施形態では、盗難判定処理(S1)において、キー50のトランスポンダ50aに記憶されるキーIDと車両1のEEPROM72aに記憶されている車両側IDとを照合する、所謂「イモビライザ」を利用して不正なキーの使用による盗難の危険性があるか否かを判定した。盗難の危険性があるか否かの判定方法としては、イモビライザに限定されず、車両盗難防止に利用される種々の判定方法を利用可能である。例えば、車両1のドアロックを監視し、ドアロックがこじ開けられた場合に盗難の危険性があると判定する方法や、車両1に所定レベルを超える振動が生じたことが検出された場合に盗難の危険性があると判定する方法などを利用可能である。
【0116】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与される構成としたが、付与されるキャンバ角としては、取り得る最大の角度に限定されず、車両1の自走を困難とするようなキャンバ角(例えば、10°以上のキャンバ角)であればよい。なお、付与するキャンバ角は大きければ大きいほど、車両1の自走をより困難にするので好ましい。また、不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に付与されるキャンバ角は、ポジティブキャンバであることに限定されず、ネガティブキャンバであってもよい。
【0117】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、全車輪2にポジティブキャンバを付与する構成としたが、一部の車輪をポジティブキャンバとし、残り車輪をネガティブキャンバとする構成であってもよい。例えば、前輪2FL,2FRをポジティブキャンバとし、後輪2RL,2RRをネガティブキャンバとする構成であってもよい。かかる構成を採用した場合、ポジティブキャンバの車輪とネガティブキャンバの車輪とが混在することになり、車両1の直進性が阻害されるので、車両1の自走が困難となる。
【0118】
また、上記第1実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、全車輪2に同じキャンバ角(即ち、ポジティブ側に最大のキャンバ角)を付与する構成としたが、全車輪2に同じキャンバ角を付与しない構成としてもよい。例えば、左前後輪2FL,2RLに付与するキャンバ角と、右前後輪2FR,2RRに付与するキャンバ角とが異なる構成であってもよい。あるいは、各車輪2に対し、各々異なるキャンバ角を付与する構成であってもよい。かかる構成を採用した場合、キャンバスラストによる横力によって直進性が阻害されるので、車両1の自走が困難となる。
【0119】
また、上記第2実施形態では、盗難判定処理(S1)において不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、各アクチュエータ43FL〜43RRの推力をゼロとする構成としたが、少なくとも1つのアクチュエータ43FL〜43RRの推力がゼロとされていればよい。
【0120】
また、上記第3実施形態では、車輪20を第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドにより構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1トレッド21及び第2トレッド22に加え、それら第1トレッド21又は第2トレッド22の特性と同じ特性、あるいは、それら第1トレッド21及び第2トレッド22の特性とは異なる特性(例えば、第2トレッド22よりさらに硬い特性(ゴム硬度の高い特性))に構成された第3トレッドを備えていても良い。
【0121】
また、上記第1〜第3実施形態の盗難対策処理は、キーシリンダ24へのキー(不正なキーを含む)の挿入がキー挿入スイッチ(図示せず)により検出された場合に1回のみ起動する構成であったが、車両1が起動されてから定期的にID照合を行い、盗難の危険性があると判定された場合に、第1〜第3実施形態に例示した処理を実行するように構成してもよい。
【0122】
また、上記第4実施形態では、各車輪2に対し、所定時間毎に、ポジティブキャンバとネガティブキャンバとが交互に付与される構成としたが、各車輪2毎に、ポジティブキャンバとネガティブキャンバとを変更するタイミングを異ならせるように構成してもよい。
【0123】
また、上記第5実施形態は、第1実施形態の盗難対策処理に対して適用する構成、即ち、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合には、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が付与する構成であったが、第2〜第3実施形態の盗難対策処理に対して適用することも当然可能である。
【0124】
また、上記第5実施形態では、盗難判定処理(S1)により不正なキーの使用による盗難の危険性があると判定された場合に、車両1の走行が開始されたタイミングで、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角を付与する構成としたが、走行開始後、車両1が停止したら各車両1のキャンバ角を初期値(例えば、0度)に戻し、走行が再び開始された場合に、各車輪2にポジティブ側に最大のキャンバ角が再度付与される構成としてもよい。また、盗難対策手段である盗難防止用キャンバ角設定処理(S2)において、キャンバ設定角の最大角および最小角は、キャンバ角を設定可能なうちの可動範囲の最大角および最小角を表し、通常走行時においては使用頻度としては少ない。そして、転がり抵抗を増大させる要因にもなるので車速を低減させるとともに、直進走行を阻害することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の第1実施形態における制御装置が搭載される車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の正面図である。
【図3】懸架装置の正面図である。
【図4】制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図5】盗難対策処理を示すフローチャートである。
【図6】図5の盗難対策処理の中で実行される盗難判定処理を示すフローチャートである。
【図7】図5の盗難対策処理の中で実行される盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図8】図5の盗難対策処理の中で実行される実キャンバ角付与処理を示すフローチャートである。
【図9】(a)は、第2実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートであり、(b)は、第2実施形態の実キャンバ角付与処理を示すフローチャートである。
【図10】第3実施形態の車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図11】第3実施形態の車両の正面視を模式的に示した模式図である。
【図12】第3実施形態の車両の正面視を模式的に示した模式図である。
【図13】第3実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図14】第4実施形態の盗難防止用キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【図15】第5実施形態の実キャンバ角設定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0126】
100 制御装置
1 車両
2 車輪
2FL 左の前輪(車輪)
2FR 右の前輪(車輪)
2RL 左の後輪(車輪)
2RR 右の後輪(車輪)
4 懸架装置(キャンバ角調整装置)
21 第1トレッド
22 第2トレッド
43FL〜43RR FL〜RRアクチュエータ(キャンバ角調整装置の一部)
S1 (盗難判定手段)
S2 (盗難対策手段の一部)
S3 (盗難対策手段の一部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを備えた車両に用いられる制御装置であって、
前記車両に対し、盗難又はその疑いがあるか否かを判定する盗難判定手段と、
その盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角を前記車輪に付与する盗難対策手段と、を備えていることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記盗難対策手段は、前記車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記盗難対策手段は、前記盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて前記車輪に付与するキャンバ角をポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更する付与方向変更手段を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、
前記盗難対策手段は、前記複数の車輪のうち一部の車輪に対してポジティブ側のキャンバ角を付与し、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、
前記盗難対策手段は、前記複数の車輪の内で少なくとも2種類の異なるキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記車輪は、第1トレッドと、その第1トレッドに対して前記車輪の幅方向に並設され前記車両の内側又は外側に配置される第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドが前記第2トレッドに対して軟らかい特性に構成され、
前記盗難対策手段は、前記車輪における前記第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ角を変化させて所定のキャンバ角にて保持するアクチュエータを含んで構成されるものであり、
前記盗難対策手段は、前記アクチュエータが前記車輪のキャンバ角を保持する力をゼロにすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制御装置。
【請求項1】
車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを備えた車両に用いられる制御装置であって、
前記車両に対し、盗難又はその疑いがあるか否かを判定する盗難判定手段と、
その盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、通常走行時に比べて走行を阻害するキャンバ角を前記車輪に付与する盗難対策手段と、を備えていることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記盗難対策手段は、前記車輪にポジティブ側またはネガディブ側に最大のキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記盗難対策手段は、前記盗難判定手段により前記車両が盗難された又は盗難の疑いがあると判定されてからの経過時間に応じて前記車輪に付与するキャンバ角をポジティブ側からネガティブ側又はネガティブ側からポジティブ側へ変更する付与方向変更手段を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、
前記盗難対策手段は、前記複数の車輪のうち一部の車輪に対してポジティブ側のキャンバ角を付与し、残りの車輪に対してネガディブ側のキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記キャンバ角調整装置によりキャンバ角を調整可能な複数の車輪を有し、
前記盗難対策手段は、前記複数の車輪の内で少なくとも2種類の異なるキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記車輪は、第1トレッドと、その第1トレッドに対して前記車輪の幅方向に並設され前記車両の内側又は外側に配置される第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドが前記第2トレッドに対して軟らかい特性に構成され、
前記盗難対策手段は、前記車輪における前記第2トレッドの接地比率を増加させるキャンバ角を付与することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ角を変化させて所定のキャンバ角にて保持するアクチュエータを含んで構成されるものであり、
前記盗難対策手段は、前記アクチュエータが前記車輪のキャンバ角を保持する力をゼロにすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−107452(P2009−107452A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280911(P2007−280911)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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