説明

制御装置

【課題】内燃機関と回転電機とを選択的に駆動連結する係合装置の係合状態に応じて、動力伝達系のねじれ振動を適切に抑制することができる制御装置を実現する。
【解決手段】係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置32であって、回転電機の回転速度に基づくフィードバック制御により、少なくとも動力伝達機構の弾性振動に起因する、回転電機の回転速度の振動を抑える制振トルク指令を出力する制振制御を実行可能であり、係合装置の係合状態が直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41により制振制御を実行し、係合装置の係合状態が非直結係合状態である場合には、非直結用制振制御器42により制振制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置に関して、例えば下記の特許文献1には、以下のような振動抑制制御装置の技術が開示されている。この振動抑制制御装置は、例えばシリーズ・パラレル型のハイブリッド車両のように、内燃機関と回転電機との間の係合装置の係合又は解放に応じて車両全体の動力伝達系の固有振動数及び減衰率が変化すると共に、回転電機の出力トルクを常時制御して車輪側へ伝達する駆動システムに適用され、回転電機に制振トルクを出力させることにより動力伝達系の振動を抑制する制御を行う。この際、振動抑制制御装置は、係合装置の係合状態が切り替わる際の制御信号に応じて位相補償器(位相補償フィルタ)の定数設定を行い、かつ、位相補償器の出力が不連続に急変しないよう位相補償器の各定数を連続的に変化させるように構成されている。この振動抑制制御装置は、前記のような構成を備えることにより、係合装置の係合状態が切り替わる際に、回転電機への駆動トルク指令値が急変することによる振動を防止し、車両の動力伝達系のねじれ振動により使用者に与える違和感を改善することを目指している。
【0003】
しかしながら、本願発明者による検証の結果、車両の動力伝達系の固有振動数は、係合装置の係合状態に応じて、当該係合装置の係合部材間の回転速度差がゼロになる前後で不連続に切り替わることがわかった。そのため、上述した振動抑制制御装置のように、回転電機が出力する制振トルクの指令値を連続的に変化させる構成では、動力伝達系の固有振動数が切り替わった直後において、車両の動力伝達系のねじれ振動を適切に抑制することができないことがわかった。更に、上述した振動抑制制御装置では、係合装置の制御信号に応じて位相補償器の定数設定を行い、回転電機へのトルク指令値に反映させるフィードフォワード制御としているため、実際に車両の動力伝達系の振動数が変化した場合における振動抑制制御のロバスト性が低いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−322947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような発明者の知見に基づいてなされたものであり、内燃機関と回転電機とを選択的に駆動連結する係合装置の係合状態に応じて、動力伝達系のねじれ振動を適切に抑制することができる制御装置を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置の特徴構成は、前記回転電機の回転速度に基づくフィードバック制御により、少なくとも前記動力伝達機構の弾性振動に起因する、前記回転電機の回転速度の振動を抑える制振トルク指令を出力する制振制御を実行可能であり、前記係合装置の係合状態が係合部材間に回転速度差がない直結係合状態である場合には、直結用制振制御器により制振制御を実行し、前記係合装置の係合状態が前記直結係合状態以外の非直結係合状態である場合には、前記直結用制振制御器とは異なる非直結用制振制御器により制振制御を実行する点にある。
【0007】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
【0008】
この特徴構成によれば、係合装置の係合部材間に回転速度差がない直結係合状態であるか、当該直結係合状態以外の非直結係合状態であるかに応じて、直結用制振制御器により制振制御を実行するか非直結用制振制御器により制振制御を実行するかが切り替わる。従って、係合部材間の回転速度差がなくなる前後で車両の動力伝達系の固有振動数が不連続に切り替わるのに応じて、回転電機の制振トルク指令値を不連続に切り替えることができると共に、係合部材間の回転速度差がなくなる前と後のそれぞれに適切な制振制御器を用いて制振制御を実行することができる。これにより、動力伝達系の振動を適切に抑制することができる。更に、この特徴構成によれば、回転電機の回転速度に基づくフィードバック制御によって回転電機の制振トルク指令を出力する構成としているので、回転電機の回転速度の実際の振動に対応して回転電機に制振トルクを出力させることができる。従って、実際に車両の動力伝達系の振動数が変化した場合にも制振制御のロバスト性を確保することが容易となっている。
【0009】
ここで、前記直結用制振制御器は、前記内燃機関から前記車輪までの動力伝達系の固有振動数に応じて設定され、前記非直結用制振制御器は、前記回転電機から前記車輪までの動力伝達系の固有振動数に応じて設定されていると好適である。
【0010】
この構成によれば、直結用制振制御器及び非直結用制振制御器のそれぞれが、対応する係合装置の係合状態での動力伝達系の固有振動数に応じて適切に設定される。従って、係合部材間の回転速度差がなくなる前と後のそれぞれに適切な制振制御器を用いることができ、係合部材間の回転速度差がなくなる時及びその前後において動力伝達系の振動を適切に抑制することができる。
【0011】
また、前記制振制御では、前記回転電機の回転速度に基づき、少なくとも微分演算処理及びフィルタ処理を行うフィードバック制御により前記制振トルク指令を出力し、前記直結用制振制御器と、前記非直結用制振制御器とは、前記微分演算処理及び前記フィルタ処理の制御定数が、互いに異なるように設定されていると好適である。
【0012】
この構成によれば、回転電機の回転速度に基づいて回転電機の制振トルク指令を出力するフィードバック制御を適切に行うことができる。また、この際、微分演算処理及びローパスフィルタ処理の制御定数を適切に設定するだけで、係合装置の係合状態に応じた直結用制振制御器及び非直結用制振制御器を適切に設定することができる。更に、係合装置の係合状態に応じた制振制御器の切り替えも、制御定数を切り替えるだけの簡易な処理により容易に行うことができる。
【0013】
また、前記動力伝達機構が変速比を変更可能な変速機構を含む場合には、前記直結用制振制御器及び前記非直結用制振制御器のそれぞれの制御定数を、前記変速機構の変速比に応じて変更する構成とすると好適である。
【0014】
この構成によれば、動力伝達機構が変速機構を含むために、変速機構の変速比に応じて動力伝達系の固有振動数が変化する場合であっても、当該変速機構の変速比に応じた最適な直結用制振制御器及び非直結用制振制御器を設定することができる。従って、動力伝達機構が変速機構を含む場合にも、動力伝達系の振動を適切に抑制することができる。
【0015】
また、前記動力伝達機構が変速比を変更可能な変速機構を含む場合には、前記変速機構による変速比の変更動作中は、前記制振制御の実行を禁止すると好適である。
【0016】
変速機構による変速比の変更動作中は、通常、変速機構内の摩擦係合装置がスリップ状態とされることから、回転電機側の振動の車輪への伝達は大幅に抑制される。そのため、変速比の変更動作中に制振制御を行う必要性は低い。この構成によれば、不必要な制振制御の実行を禁止することにより、回転電機の出力トルクを抑えてエネルギ効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達機構及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達系のモデルを示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係る動力伝達系及び制御装置のブロック線図である。
【図5】本発明の実施形態に係る動力伝達系及び制御装置のブロック線図である。
【図6】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するボード線図である。
【図7】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するボード線図である。
【図8】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するボード線図である。
【図9】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するタイムチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第一の実施形態〕
本発明に係る回転電機制御装置32の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、車両用駆動装置1を搭載した車両は、駆動力源として内燃機関であるエンジンEと回転電機MGを備えたハイブリッド車両とされている。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。この図に示すように、本実施形態に係る回転電機MGは、エンジン分離クラッチCLの係合状態に応じてエンジンEに選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構2を介して車輪Wに駆動連結される。また、ハイブリッド車両は、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31と、回転電機MGの制御を行う回転電機制御装置32と、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCLの制御を行う動力伝達制御装置33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御装置34と、を備える。
【0019】
また、本実施形態では、動力伝達機構2は、回転電機MGに駆動連結され、変速比Krを変更可能な変速機構TMと、変速機構TMと車輪Wとを駆動連結する出力軸O及び車軸AXと、を有する。よって、駆動力源の駆動力は、変速機構TMの変速比Krで変速されて車輪側に伝達される。なお、エンジン分離クラッチCLが、本願における「係合装置」である。また、回転電機制御装置32が、本発明における「制御装置」である。
【0020】
このような構成において、本実施形態に係る回転電機制御装置32は、回転電機MGの回転速度ωmに基づくフィードバック制御により、少なくとも動力伝達機構2の弾性振動に起因する、回転電機MGの回転速度ωmの振動を抑える制振トルク指令値Tpを出力する制振制御を実行可能である。そして、回転電機制御装置32は、エンジン分離クラッチCLの係合状態が係合部材間に回転速度差W1がない直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41により制振制御を実行し、エンジン分離クラッチCLの係合状態が直結係合状態以外の非直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41とは異なる非直結用制振制御器42により制振制御を実行する点に特徴を有している。以下、本実施形態に係る回転電機制御装置32について、詳細に説明する。
【0021】
1.車両用駆動装置の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の動力伝達系の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、中間軸Mに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0022】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、エンジン分離クラッチCLを介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素であるエンジン分離クラッチCLを介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。なお、エンジン出力軸Eoが、ダンパー等の他の部材を介してエンジン分離クラッチCLの係合部材に駆動連結された構成としても好適である。
【0023】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、中間軸MにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、蓄電装置としてのバッテリ(不図示)に電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、バッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力をバッテリに蓄電する。なお、バッテリは蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。なお、以下では回転電機MGによる発電を回生と称し、発電中に回転電機MGが出力する負トルクを回生トルクと称する。回転電機の目標出力トルクが負トルクの場合には、回転電機MGは、エンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電しつつ回生トルクを出力する状態となる。
【0024】
駆動力源が駆動連結される中間軸Mには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比Krの異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・とを備えている。変速機構TMは、各変速段の変速比Krで、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比Krは、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する中間軸Mの回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、中間軸Mの回転速度を変速比Krで除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、中間軸Mから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比Krを乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0025】
本例では、エンジン分離クラッチCL、及び複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の係合要素である。これらの摩擦係合要素CL、B1、C1、・・・は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0026】
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0027】
各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素に供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0028】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり、解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に滑りがある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に滑りがない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0029】
2.油圧制御系の構成
次に、車両用駆動装置1の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TMやエンジン分離クラッチCLの各摩擦係合要素等に供給される。
【0030】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置31〜34の構成について説明する。
制御装置31〜34は、それぞれCPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、各制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図2に示すような制御装置31〜34の各機能部41〜46が構成されている。また、制御装置31〜34は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜46の機能が実現される。
【0031】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se3を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置31〜34に入力される。制御装置31〜34は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。エンジン回転速度センサSe1は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン制御装置31は、エンジン回転速度センサSe1の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度(角速度)ωeを検出する。入力軸回転速度センサSe2は、入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸I及び中間軸Mには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、回転電機制御装置32は、入力軸回転速度センサSe2の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度(角速度)ωm、並びに入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出する。出力軸回転速度センサSe3は、変速機構TM近傍の出力軸Oに取り付けられ、変速機構TM近傍の出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。動力伝達制御装置33は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて変速機構TM近傍の出力軸Oの回転速度ωoを検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、変速制御装置31は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて車速を算出する。
【0032】
3−1.車両制御装置
車両制御装置34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCL等に対して行われる各種トルク制御、及び各摩擦係合要素の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
【0033】
車両制御装置34は、アクセル開度及び車速、並びにバッテリの充電量等に応じて、中間軸M側から出力軸O側に伝達される目標駆動力である出力軸目標トルクを算出するとともに、エンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定し、エンジンEの目標出力トルク、回転電機の目標出力トルク、及びエンジン分離クラッチCLの目標伝達トルク容量を算出し、それらを他の制御装置31〜33に指令して統合制御を行う機能部である。
【0034】
車両制御装置34は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に基づいて、各駆動力源の運転モードを決定する。ここで、バッテリの充電量は、バッテリ状態検出センサにより検出される。本実施形態では、運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源とする電動モードと、少なくともエンジンEを駆動力源とするパラレルモードと、エンジンEの回転駆動力により回転電機MGの回生発電を行うエンジン発電モードと、車輪から伝達される回転駆動力により回転電機MGの回生発電を行う回生発電モードと、回転電機MGの回転駆動力によりエンジンEを始動させるエンジン始動モードと、を有する。
【0035】
ここで、エンジン分離クラッチCLが直結係合状態にされる運転モードは、パラレルモード、エンジン発電モード、及びエンジン始動モードとなる。後述する例でも示すように、エンジン始動モードでは、回転電機MGの回転中に、エンジン分離クラッチCLが滑り係合状態にされて、エンジン分離クラッチCLからエンジンE側に伝達トルク容量の大きさの正のトルクが伝達される。その反力として、エンジン分離クラッチCLから回転電機MG側に、伝達トルク容量の大きさの負のトルク(スリップトルク)Tfが伝達される。
【0036】
3−2.エンジン制御装置
エンジン制御装置31は、エンジンEの動作制御を行う機能部を備えている。本実施形態では、エンジン制御装置31は、車両制御装置34からエンジンEの目標出力トルクが指令されている場合は、車両制御装置34から指令された目標出力トルクをトルク指令値に設定し、エンジンEがトルク指令値の出力トルクTeを出力するように制御するトルク制御を行う。なお、エンジンEの燃焼が停止している場合は、エンジンEの出力トルクTeは、負トルクであるフリクショントルクになる。
【0037】
3−3.動力伝達制御装置
動力伝達制御装置33は、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCLの制御を行う機能部を備えている。動力伝達制御装置33には、出力軸回転速度センサSe3等のセンサの検出情報が入力されている。
【0038】
動力伝達制御装置33は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、動力伝達制御装置33は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた各摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される油圧を制御することにより、各摩擦係合要素を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、動力伝達制御装置33は、油圧制御装置PCに各摩擦係合要素B1、C1、・・・の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各摩擦係合要素に供給する。
【0039】
動力伝達制御装置33は、通常の変速段の切り替え中(変速中)に、係合又は解放される摩擦係合要素を一時的に滑り係合状態に制御する。この変速中には、中間軸Mと出力軸Oとは、非直結状態となり、両部材間には、弾性(ねじれ)振動によるねじりトルクが伝達されず、動摩擦によるトルクが伝達され、又はトルクが伝達されない状態となる。
【0040】
また、動力伝達制御装置33は、エンジン分離クラッチCLの伝達トルク容量を制御する。動力伝達制御装置33は、車両制御装置34から指令された目標伝達トルク容量に基づき、油圧制御装置PCを介してエンジン分離クラッチCLに供給される油圧を制御することにより、エンジン分離クラッチCLを係合又は解放する。
【0041】
3−4.回転電機制御装置
回転電機制御装置32は、回転電機MGの動作制御を行う機能部を備えている。本実施形態では、回転電機制御装置32は、車両制御装置34から回転電機MGの目標出力トルクが指令されている場合は、回転電機目標出力トルクを基本トルク指令値Tbに設定する。また、回転電機制御装置32は、基本トルク指令値Tbから、後述する制振トルク指令値Tpを減算した値をトルク指令値に設定し、回転電機MGがトルク指令値の出力トルクTmを出力するように制御するトルク制御を行う。本実施形態では、回転電機制御装置32は、制振トルク指令値Tpを算出する制振制御部40を備えている。
【0042】
3−4−1.制振制御部
制振制御部40は、回転電機MGの回転速度ωmに基づくフィードバック制御により、少なくとも動力伝達機構2の弾性(ねじれ)振動に起因する、回転電機MGの回転速度ωmの振動を抑える制振トルク指令値Tpを出力する制振制御を実行する機能部である。そして、制振制御部40は、エンジン分離クラッチCLの係合状態が係合部材間に回転速度差W1がない直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41により制振制御を実行し、エンジン分離クラッチCLの係合状態が直結係合状態以外の非直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41とは異なる非直結用制振制御器42により制振制御を実行する。
また、制振制御部40は、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42のそれぞれの制御定数を、変速機構TMの変速比に応じて変更する。また、制振制御部40は、変速機構TMによる変速比の変更動作中は、制振制御の実行を禁止する。
以下で、制振制御部40によって実行される制振制御の処理について、詳細に説明する。
【0043】
3−4−2.軸ねじれ振動系へのモデル化
まず、制振制御における制御設計について説明する。
図3の(a)に、動力伝達系のモデルを示す。動力伝達系を軸ねじれ振動系にモデル化している。回転電機MGの出力トルクTmが、軸ねじれ振動系に対する制御入力となり、回転電機MGの回転速度ωmが観測可能である。回転電機MGは、エンジン分離クラッチCLの係合状態に応じてエンジンEに選択的に駆動連結されるとともに、変速機構TM、並びに出力軸O及び車軸AXを介して、負荷となる車両に駆動連結されている。変速機構TMは、変速比Krで、中間軸Mと出力軸Oとの間の回転速度を変速すると共に、トルクの変換を行う。なお、以下では出力軸O及び車軸AXをまとめて、出力シャフトと称する。
【0044】
エンジンE、回転電機MG、及び負荷(車両)を、それぞれ慣性モーメント(イナーシャ)Je、Jm、Jlを有する剛体としてモデル化している。各剛体間は、エンジン出力軸Eo、入力軸I、中間軸M、出力シャフトの軸により駆動連結されている。よって、エンジン分離クラッチCLが非直結係合状態にあるときは、回転電機MG及び負荷(車両の)の2慣性系となっており、エンジン分離クラッチCLが直結係合状態にあるときは、エンジンE、回転電機MG、及び負荷(車両の)の3慣性系となっている。
【0045】
ここで、TeはエンジンEが出力する出力トルクであり、ωeはエンジンEの回転速度(角速度)であり、Tfは、滑り係合状態でエンジン分離クラッチCLから回転電機MG側に伝達されるスリップトルクである。また、Tmは回転電機MGが出力する出力トルクであり、ωmは回転電機MGの回転速度(角速度)であり、Tcrは、変速機構TMを介して回転電機MGに伝達される出力シャフトのねじり反力トルクである。ωoは、出力シャフトの変速機構TM側端部の回転速度(角速度)である。
【0046】
一方、Tcは負荷(車両)に伝達される出力シャフトのねじりトルクであり、Tdは、負荷(車輪)に伝達される、坂路抵抗、空気抵抗、タイヤ摩擦抵抗等による外乱トルクであり、ωlは出力シャフトの負荷側端部の回転速度(角速度)であって、負荷(車輪)の回転速度(角速度)である。変速機構TMにおいて、回転電機MGの回転速度ωmを、変速比Krで除算した回転速度が、変速機構TM側端部における出力シャフトの回転速度ωoになり、負荷に伝達される出力シャフトのねじりトルクTcを、変速比Krで除算したトルクが、回転電機MGに伝達される出力シャフトのねじり反力トルクTcrになる。
また、Kcは出力シャフトのねじりばね定数であり、Ccは出力シャフトの粘性摩擦係数である。
【0047】
3−4−3.2慣性モデル
本実施形態では、エンジン出力軸Eo、入力軸I、及び中間軸Mは、出力シャフトに比べてばね定数が大きく、各軸のねじれが小さくなるため、剛体であると簡略化して、解析及び設計を容易化する。よって、図3の(c)に示すように、エンジン分離クラッチCLが直結係合状態にあるときは、エンジンE及び回転電機MGを1つの剛体として扱って、3慣性系から2慣性系に簡略化している。
図3の(b)及び(c)に示すように、エンジン分離クラッチCLが非直結係合状態、又は直結係合状態であるかに応じて、回転電機MG側の慣性モーメントが、Jm、又はJm+Jeで切り替わる。よって、後述するように、エンジン分離クラッチCLの係合状態に応じて、軸ねじれ振動系の固有振動数である共振周波数ωaが大きく変化する。更に、変速比Krの変化によっても、回転電機MG側と負荷(車両)側との間の回転速度及びトルクの伝達が変化するため、非直結係合状態及び直結係合状態のそれぞれにおいて、共振周波数ωaなどが大きく変化する。従って、後述するように、非直結係合状態と、直結係合状態とで、制振制御器を変化させて、軸ねじれ振動系の特性変化に適応させている。
【0048】
また、図3の(b)に示すように、エンジン分離クラッチCLに滑りがある非直結係合状態である場合は、動摩擦によりエンジン分離クラッチCLから回転電機MGにスリップトルクTfが入力される。図3の(c)に示すように、エンジン分離クラッチCLが直結係合状態である場合は、回転電機MG側にスリップトルクTfは入力されず、エンジン出力トルクTeが入力されるようになる。従って、係合状態が非直結係合状態と直結係合状態との間で切り替わる瞬間に、回転電機MG側に作用するトルクが、スリップトルクTfと、エンジンEの出力トルクTeとの間で切り替わる。よって、スリップトルクTfとエンジンEの出力トルクTeの大きさが異なる場合には、ステップ的なトルク変化が軸ねじれ振動系に入力される。このステップ的なトルク変化が、軸ねじれ振動系に対する外乱となり、軸ねじれ振動が生じる。従って、後述するように、係合状態が変化したときに、係合状態に適応した制振制御器に切り替えて、係合状態の変化により生じる軸ねじれ振動に対して、速やかに制振することができる。
【0049】
次に、図4に、図3の(b)及び(c)の2慣性モデルのブロック線図を示す。ここで、sはラプラス演算子を示す。
この図に示すように、回転電機MGの出力トルクTmから、出力シャフトのねじり反力トルクTcrを減算するとともに、スリップトルクTf又はエンジン出力トルクTeを加算したトルクが、回転電機MG側に作用するトルクとなる。回転電機MG側の慣性モーメントTdは、エンジン分離クラッチCLが非直結係合状態では、回転電機MGの慣性モーメントJmのみとなり、直結係合状態では、回転電機MGの慣性モーメントJmにエンジンEの慣性モーメントJeを加算した値(Jm+Je)となり、慣性モーメントが切り替わる。回転電機MG側に作用するトルクを、その慣性モーメントJdで除算した値が、回転電機MGの回転加速度(角加速度)となる。そして、回転電機MGの回転加速度を積分(1/s)した値が、回転電機MGの回転速度(角速度)ωmとなる。
【0050】
回転電機MGの回転速度ωmを、変速比Krで除算した値が、出力シャフトにおける変速機構TM側端部の回転速度ωoとなる。出力シャフトにおける、変速機構TM側端部の回転速度ωoから、負荷(車両)側端部の回転速度ωlを減算した値が、両端部間の差回転速度となる。この差回転速度に、出力シャフトの粘性摩擦係数Ccを乗算した値が、減衰トルクとなり、差回転速度を積分(1/s)した値となるねじれ角度に、ねじりばね定数Kcを乗算した値が、弾性トルクとなる。そして、減衰トルクと弾性トルクとを合計したトルクが、出力シャフトのねじりトルクTcとなる。ねじりトルクTcに外乱トルクTdを加算した値が、負荷(車両)に作用するトルクTlとなる。この負荷作用トルクTlを、負荷の慣性モーメントJlで除算した値を、積分(1/s)した値が、負荷(車輪)の回転速度(角速度)ωlとなる。
【0051】
一方、変速機構TMが変速中である場合など、回転電機MG側と負荷側とを駆動連結する摩擦係合要素が非直結係合状態にある場合は、変速比Krに反比例して、回転電機MGの回転速度ωmと変速機構TM側端部の回転速度ωoとの間の関係、又は出力シャフトのねじりトルクTcと出力シャフトのねじり反力トルクTcrとの間の関係が、変速比Krに応じた変化ではなくなる。よって、2つの慣性系間で振動成分が伝達されなくなり、共振が生じなくなることがわかる。
【0052】
ここで、回転電機MGの出力トルクTmが、制御対象となる2慣性モデルへの制御入力となり、回転電機MGの回転速度ωmが、制振制御のために観測可能な変数となる。詳細は後述するが、回転電機制御部40は、回転電機MGの回転速度ωmに基づくフィードバック制御により、制振トルク指令値Tpを出力する制振制御を実行する。
【0053】
3−4−4.係合状態及び変速比に応じた共振周波数の変化
次に、図4の2慣性モデルのブロック線図から、回転電機MGの出力トルクTmから回転電機MGの回転速度ωmまでの制御対象の伝達関数P(s)は、次式及び図5に示すようになる。

ここで、ωaは共振周波数であり、ζaは共振点減衰率であり、ωzは反共振周波数であり、ζzは反共振点減衰率であり、次式のように、出力シャフトのねじりばね定数Kc及び粘性摩擦係数Cc、負荷(車両)慣性モーメントJl、回転電機MG側の慣性モーメントJd、及び変速比Krを用いて、次式のようになる。
また、回転電機MG側の慣性モーメントJdは、上記したように、非直結係合状態又は直結係合状態で切り替わる。また、変速比Krは、変速機構TMに形成された変速段によって切り替わる。よって、次式からわかるように、共振周波数ωaは、非直結係合状態又は直結係合状態、及び変速比Krによって切り替わる。

(a)非直結係合状態
Jd=Jm
(b)直結係合状態
Jd=Jm+Jl
【0054】
式(1)から、回転電機MGの回転速度ωmは、回転電機MGの出力トルクTmを、軸ねじれ振動系全体の慣性モーメント(Jl/Kr+Jd)で除算した回転加速度を積分(1/s)した定常状態の回転速度に、2慣性の振動成分が乗った回転速度になることがわかる。
この2慣性の振動成分の共振周波数ωaは、式(2)から、直結係合状態になると、回転電機MG側の慣性モーメントJdがエンジンEの慣性モーメントJeの分だけ増加するので、減少することがわかる。また、共振周波数ωaは、軸ねじれ振動系全体の慣性モーメント(Jl/Kr+Jd)に応じて変化することがわかる。
また、共振点減衰率ζaは、共振周波数ωaに比例するので、直結係合状態になると、減少することがわかる。一方、反共振周波数ωzは、負荷(車両)の慣性モーメントJlのみが関係しており、係合状態により変化しないことがわかる。また、反共振点減衰率ζzは、反共振周波数ωzに比例するので、直結係合状態になっても変化しないことがわかる。よって、式(1)及び式(2)から、エンジン分離クラッチCLが、非直結係合状態から直結係合状態になると、共振周波数ωaが減少するとともに、共振振動の減衰率ζaが減少することがわかる。
【0055】
また、図6に、制御対象の伝達関数P(s)のボード線図の例を示す。このボード線図からも、非直結係合状態から直結係合状態になると、共振周波数ωaは大きく減少するが、反共振周波数ωzは変化しないことがわかる。
従って、直結係合状態と非直結係合状態とにより変化する共振周波数ωaに対応できるように、係合状態毎に制振制御器を設計する必要がある。
【0056】
また、共振周波数ωaは、式(2)から、変速比Krが増加すると、減少することがわかる。また、式(2)の共振周波数ωaにおいて、変速比Krの2乗が回転電機MG側の慣性モーメントJdに乗算され、変速比Krの変化と、係合状態による慣性モーメントJdの変化とが、連動するため、共振周波数ωaの変化量が大きくなる。また、この連動により、直結係合状態における、変速比Krの変化による共振周波数ωaの変化の傾向と、非直結係合状態における、変速比Krの変化による共振周波数ωaの変化の傾向とが、異なるようになる。また、図7に、変速比Krが変化した場合のボード線図の例を示す。このボード線図からも、共振周波数ωaは、変速比Krの増加により、減少することがわかり、係合状態に応じて、変速比Krの変化に対する、共振周波数ωaの変化の傾向が変化することがわかる。
【0057】
従って、変速比Krの変化による共振周波数ωaの変化に対応できるように制振制御器を設計する必要がある。また、直結係合状態と非直結係合状態とにおいて異なる共振周波数ωaの変化の傾向に対応できるように、係合状態毎に制振制御器を設計する必要がある。
【0058】
3−4−5.制振制御器の切替
上記したエンジン分離クラッチCLの係合状態および変速比Krに応じた共振周波数ωaの変化に対応するために、本実施形態では、制振制御部40は、図2に示すように、エンジン分離クラッチCLの直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41により制振制御を実行し、非直結係合状態である場合には、直結用制振制御器41とは異なる非直結用制振制御器42により制振制御を実行する。よって、係合状態に応じて、制振制御器を切り替えて制振制御を実行するように構成されている。
ここで、直結用制振制御器41は、エンジンEから車輪Wでの動力伝達系の固有振動数、すなわち共振周波数ωa及び反共振周波数ωzに応じて設定されている。また、非直結用制振制御器42は、回転電機MGから車輪Wまでの動力伝達系の固有振動数、すなわち共振周波数ωa及び反共振周波数ωzに応じて設定されている。
また、制振制御部40は、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42のそれぞれの制御定数を、変速機構TMの変速比Krに応じて変更するように構成されている。すなわち、変速比Krに応じて変化する共振周波数ωaに応じて各制振制御器41、42の制御定数が設定される。
【0059】
また、制振制御部40は、変速機構TMが変速中である場合など、回転電機MG側と車輪W側とを駆動連結する摩擦係合要素が非直結係合状態にある場合には、動力伝達機構2の弾性(ねじれ)振動が生じなくなるため、変速中制御器43に切り替えて、制振制御を禁止する。具体的には、制振トルク指令Tpがゼロに設定される。
【0060】
また、本実施形態では、制振制御部40は、制御器切替器44を備えており、エンジン分離クラッチCLの係合状態、及び変速機構TMの変速状態に応じて、直結用制振制御器41、非直結用制振制御器42、又は変速中制御器43を切り替えるように構成されている。
制御器切替器44は、直結判定部45と変速判定部46とを備えている。直結判定部45は、エンジン分離クラッチCLの係合状態を判定する機能部である。本実施形態では、直結判定部45、係合圧が生じている状態で、エンジンEの回転速度ωeと、回転電機MGの回転速度ωmとが一致している場合に、直結係合状態であると判定し、それ以外の場合は、非直結係合状態であると判定する。なお、直結判定部45は、エンジン分離クラッチCLの係合圧に基づき、直結係合状態を判定するようにしてもよい。すなわち、直結判定部45は、エンジン分離クラッチCLの係合圧が、直結係合状態を維持するのに十分高い圧である場合は、直結係合状態と判定し、それ以外の場合は、非直結係合状態と判定する。
【0061】
変速判定部46は、変速機構TMが変速中であるか否か判定する機能部である。すなわち、変速判定部46は、変速機構TMの変速段を形成する各摩擦係合要素が非直結係合状態である場合は、変速中であると判定し、それ以外の場合は、変速中でないと判定する。また、変速判定部46は、変速機構TMに変速段が形成されないニュートラルの状態である場合も、変速中であると判定する。本実施形態では、変速判定部46は、出力軸Oの回転速度ωoに変速比Krを乗算した回転速度と、回転電機MGの回転速度ωmとが一致している場合に、直結係合状態であると判定し、それ以外の場合は、非直結係合状態であると判定する。なお、変速機構TMとは別に、回転電機TMと車輪Wとの間の駆動連結を断接する摩擦係合要素、或いはトルクコンバータ及びトルクコンバータの入出力部材間を直結係合状態にする摩擦係合要素が備えられる場合は、変速判定部46は、それらの摩擦係合要素が非直結係合状態にある場合にも、変速中であると判定し、制振制御を禁止するようにしてもよい。
【0062】
3−4−6.制振制御器の設定
次に、上記したエンジン分離クラッチCLの係合状態および変速比Krに応じた共振周波数ωaの変化に対応するために、設計された制振制御器Fpの一実施例を、図4及び図5に基づいて説明する。
制振制御器Fpは、少なくとも微分演算処理Fd及びフィルタ処理Frを行うフィードバック制御により制振トルク指令値Tpを出力するように構成される。そして、直結用制振制御器41と、非直結用制振制御器42とは、微分演算処理Fd及びフィルタ処理Frの制御定数が、互いに異なるように設定されている。
【0063】
本実施形態では、制振制御器Fpは、微分演算処理Fdとフィルタ処理Frにより、構成され、次式の伝達関数で表せられる。

【0064】
3−4−6−1.微分演算処理
微分演算処理Fdの微分ゲインは、共振周波数ωaの変化に応じて変更される。本実施形態では、微分演算処理Fdの微分ゲインは、式(2)から共振周波数ωaと相関がある回転電機MG側の慣性モーメントJd、及び変速比Krに応じて設定される。
【0065】
また、ねじれ振動を制振するためには、図4から、回転電機MGは、回転電機MGに伝達されるねじり反力トルクTcrを打ち消すような制振トルクを出力するようにすればよいことがわかる。すなわち、図4の制御対象のブロック線図から、回転電機MGの回転速度ωmは、回転電機MGの出力トルクTmからねじり反力トルクTcrを減算したトルクに対して、回転電機MG側の慣性モーメントJdで除算し、積分演算(1/s)を行った値となることがわかる。この処理方向と逆の方向処理、すなわち、回転電機MGの回転速度ωmに対して、微分演算(s)を行い、回転電機MG側の慣性モーメントJdを乗算すると、ねじり反力トルクTcrの情報が得られることがわかる。従って、図4の制振制御部40のブロック線図に示すように、制振制御器Fpは、回転電機MGの回転速度ωmに対して、微分演算(s)を行い、微分ゲインを乗算した値に基づき制振トルク指令値Tpを算出している。よって、制振制御器Fpは、ねじり反力トルクTcrを打ち消すようなトルク指令値を算出することができる。
【0066】
また、図4の制御対象のブロック線図から、ねじり反力トルクTcrを除算する回転電機MG側の慣性モーメントJdは、非直結係合状態及び直結係合状態に応じて、Jm、又はJm+Jeに切り替わる。このため、係合状態の変化によって、ねじり反力トルクTcrの打ち消し作用が変化しないようにするためには、係合状態によって、制振制御器Fpにおいて微分演算値に乗算される微分ゲインを変化させる必要があることがわかる。
本実施形態では、微分ゲインは、回転電機MG側の慣性モーメントJdに応じて変化されるように構成されており、係合状態の変化によって、ねじり反力トルクTcrの打ち消し作用が変化しないように構成されている。
【0067】
図8に、制振制御器Fpとして、微分演算処理Fdを用いた場合の、閉ループの周波数特性を示す。この図に示すように、制御対象の伝達関数P(s)の共振周波数ωaが、制振制御を行う(閉ループにする)ことにより、共振点のゲインピークが減少している。従って、微分演算処理Fdを用いた制振制御器Fpを用いることにより、ねじれ振動の振幅が減少されることがわかる。
【0068】
本実施形態では、直結用制振制御器41と、非直結用制振制御器42とは、それぞれ、係合状態によって変化する共振周波数ωaとそのピーク値に応じて設定された微分演算処理Fdを備えている。従って、制振制御部40は、エンジン分離クラッチCLの係合状態によって、直結用制振制御器41と、非直結用制振制御器42とを単に切り替えることで、軸ねじれ振動系の共振周波数ωaの変化に対応することができる。
【0069】
また、本実施形態では、直結用制振制御器41は、変速機構TMの変速段毎に、共振周波数ωaとそのピーク値に応じて設定された微分ゲインを備えている。一方、非直結用制振制御器42は、変速機構TMの変速段毎に、共振周波数ωaとそのピーク値に応じて設定された微分ゲインを備えている。そして、制振制御部40は、変速機構TMの変速段(変速比Kr)に応じて、直結用制振制御器41又は非直結用制振制御器42の微分ゲインを変更する。従って、制振制御部40は、変速機構TMの変速比Krに応じて変化する軸ねじれ振動系の共振周波数ωaに対応することができる。
【0070】
また、本実施形態では、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42は、微分演算により構成されており、積分演算のように過去の制御値が蓄積されずに、瞬時の変化量を算出するように構成されている。このため、これらの制御器が切り替えられても、大きな制振トルク指令値Tpの変化が生じない。従って、エンジン分離クラッチCLの係合状態が変化した場合に、速やかに、制振制御器41、42を切り替えて、連続的に共振周波数ωaの変化に適合した制振制御を行うことができる。また、制振制御器41、42が微分演算により構成されているので、制振制御器41、42を切り替えた直後から、共振周波数ωaの変化に適合した制振トルク指令値を出力することができ、係合状態が変化したときに入力されるステップ的なトルク外乱に対して、速やかに制振することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、エンジン分離クラッチCLが直結係合状態にされた場合に、エンジンEと回転電機MGとを駆動連結する軸を剛体として、3慣性から2慣性に簡略化している。しかし、エンジンEのエンジン出力軸Eoにダンパーが備えられる場合など、エンジンEと回転電機MGとの間の軸のばね定数が小さく、3慣性のねじれ振動が生じる場合には、3慣性のねじれ振動に適合するように、直結用制振制御器41のみを変更することができる。例えば、制振制御器Fpを、微分演算から微分演算より高次の位相進み演算(例えば、as+bs+1)に設定するようにしてもよい。このように、直結用制振制御器41と非直結用制振制御器42とが個別に設定され、切り替えられるので、係合状態に応じて変化する軸ねじれ振動系のモデルに適合するような制振制御器Fpを個別に設定することができる。
【0072】
3−4−6−2.フィルタ処理
フィルタ処理Frにおけるカットオフする周波数帯域であるフィルタ周波数帯域は、係合状態又は変速比Krに応じて変化する共振周波数ωaに応じて設定される。
本実施形態では、フィルタ処理Frは、ローパスフィルタ処理に設定されており、本例では、一次遅れフィルタ処理に設定されている。

ローパスフィルタ処理におけるフィルタ周波数帯域であるカットオフ周波数τは、共振周波数ωaに基づき設定される。
【0073】
本実施形態では、直結用制振制御器41と、非直結用制振制御器42とは、それぞれ、係合状態によって変化するフィルタ周波数帯域を備えている。従って、制振制御部40は、エンジン分離クラッチCLの係合状態によって、直結用制振制御器41と、非直結用制振制御器42とを単に切り替えることで、軸ねじれ振動系の共振周波数ωaの変化に対応したフィルタ処理を行うことができる。
【0074】
また、本実施形態では、直結用制振制御器41は、変速機構TMの変速段毎に、変速機構TMの各変速段の変速比Krに基づき設定されたフィルタ周波数帯域を備えている。また、非直結用制振制御器42は、変速機構TMの変速段毎に、変速機構TMの各変速段の変速比Krに基づき設定されたフィルタ周波数帯域を備えている。そして、制振制御部40は、変速機構TMの変速段(変速比Kr)に応じて、直結用制振制御器41又は非直結用制振制御器42のフィルタ周波数帯域を変更する。従って、制振制御部40は、変速機構TMの変速比Krに応じて変化する軸ねじれ振動系の共振周波数ωaに対応したフィルタ処理を行うことができる。
【0075】
なお、図4及び図5には、制振制御器FPは、微分演算処理Fdを行った後、フィルタ処理Frを行うように示されているが、フィルタ処理Frを行った後に、微分演算処理Fdを行うようにしてもよい。
【0076】
3−4−7.制振制御の挙動
次に、制振制御部40による制振制御の挙動を、図9及び図10の例に示すタイムチャートに基づき説明する。図9及び図10は、エンジン始動モードにおいて、エンジン分離クラッチCLが非直結係合状態から直結係合状態に変化する場合の例を示している。図9は、制振制御を行わない場合の例であり、図10は、制振制御を行う場合の例である。
【0077】
3−4−7−1.制振制御なしの場合
まず、図9の例を説明する。エンジンEが停止しており、回転電機MGが回転している状態において、エンジンEの始動のため、エンジン分離クラッチCLの係合圧の増加が開始する(時刻t11)。エンジン分離クラッチCLの係合圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加していく。伝達トルク容量がゼロから増加すると、エンジン分離クラッチCLから回転電機MG側に、伝達トルク容量の大きさの負のスリップトルクTfが伝達される。係合圧の増加に従ってスリップトルクTfの大きさが急速に増加するので、軸ねじれ振動系への外乱となり、ねじれ振動が生じ始める。このとき、エンジン分離クラッチCLは非直結係合状態であるため、共振周波数ωaは高く、比較的高周波の共振振動が生じる。
【0078】
一方、エンジンE側には、エンジン分離クラッチCLから伝達トルク容量の大きさの正のトルクが伝達され、エンジンEの回転速度ωeが増加していく。エンジンEの回転速度ωeが、回転電機MGの回転速度ωmまで増加して、両者の回転速度が一致したとき(時刻t12)に、エンジン分離クラッチCLは、非直結係合状態から直結係合状態に変化する。直結係合状態になると、スリップトルクTfがゼロになるとともに、エンジンEの出力トルクTeが回転電機MGに伝達され始める。この例では、エンジンEの燃焼は停止しており、エンジンEは、負のトルクであるフリクショントルクを出力しているため、回転電機MGに負のフリクショントルクが伝達される。従って、係合状態が非直結係合状態と直結係合状態との間で切り替わる瞬間に、回転電機MG側に伝達されるトルクが、スリップトルクTfと、エンジンEの出力トルクTeとの間で切り替わる。よって、スリップトルクTfとエンジンEの出力トルクTeの大きさが異なる場合には、ステップ的なトルク変化が軸ねじれ振動系に入力される。このステップ的なトルク変化が、軸ねじれ振動系に対する外乱となり、この外乱によっても軸ねじれ振動が生じる。
【0079】
エンジン分離クラッチCLが直結係合状態になると、回転電機MG側の慣性モーメントJdが、JmからJm+Jeに増加する。よって、共振周波数ωaが減少し、図9に示すように、ねじれ振動の振動周期が長くなる。
【0080】
出力シャフトのねじれ振動が生じると、出力軸Oから変速機構TMを介して、回転電機MGにねじり反力トルクTcrが伝達され始める。図9の例では、制振制御が行われておらず、回転電機MGの出力トルクは一定であるので、ねじり反力トルクTcrを回転電機MG側の慣性モーメントJdで除算し、積分した波形が、回転電機MGの回転速度ωmの波形に相関する。従って、回転電機MGの回転速度ωeを微分した波形が、ねじり反力トルクTcrの波形に相関している。また、図9には、回転電機MGの出力トルクTmには反映されていないが、制振制御部40から出力される制振トルク指令値Tpを参考までに示している。本実施形態では、制振制御部40は、回転電機MGの回転速度ωeを微分演算処理して制振トルク指令値Tpを算出している。このため、制振トルク指令値Tpは、ねじり反力トルクTcrを打ち消す方向のトルクとなっている。
【0081】
制振制御部40は、非直結係合状態から直結係合状態に変化したとき(時刻t12)に、非直結用制振制御器42から直結用制振制御器41に制振制御器を切り替えている。このため、共振周波数ωaの変化に対応できるように、微分ゲインが増加されている。よって、時刻t12以降の、制振トルク指令値の大きさが増加している。従って、係合状態が変化した直後でも、制振制御器41、42を切り替えて、連続的にねじれ振動を抑制可能であることがわかる。また、係合状態が変化したときに生じる、スリップトルクTfとエンジンEの出力トルクTeとの間のステップ的なトルク変化に対して、係合状態に適応した制振制御器に切り替えて、係合状態の変化により生じる軸ねじれ振動に対して、速やかに制振することができる。
【0082】
3−4−7−2.制振制御ありの場合
次に、図10に、図9と同じ運転条件で、制振制御を行うようにした場合の例を示す。制振制御が行われることにより、回転電機MGの回転速度ωeのねじれ振動の振幅が減少している。
非直結係合状態から直結係合状態に変化したとき(時刻t22)に、非直結用制振制御器42から直結用制振制御器41に制振制御器を切り替えられ、微分ゲインが増加されている。図10に示す例では、制振されているためわかりにくいが、時刻t22以降の制振トルク指令値Tpの大きさが増加している。よって、係合状態が変化した場合でも、制振制御器41、42を切り替えて、連続的にねじれ振動が抑制されている。
【0083】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0084】
(1)上記の実施形態においては、変速機構TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置である場合など、有段の自動変速装置以外の変速装置である場合も本発明の好適な実施形態の一つである。この場合においても、制振制御部40は、無段の自動変速装置の変速比に応じて、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42の制御定数を変更するように構成される。また、この場合においては、変速比の変更動作中も、制振制御が実行されるようにしてもよく。また、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42の制御定数が、式(2)などの演算式に基づき、又は、変速比と各制御定数との関係が設定されたマップに基づき、変速比に応じて連続的に変更されるようにしてもよい。
【0085】
(2)上記の実施形態においては、エンジン分離クラッチCLが摩擦係合要素である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン分離クラッチCLが、電磁クラッチ、又は噛み合い式クラッチなどの摩擦係合要素以外の係合装置である場合も本発明の好適な実施形態の一つである。この場合において、制振制御部40は、エンジンEと回転電機MGとが一体的に回転するようになった場合に、直結係合状態と判定し、それ以外の場合を非直結係合状態と判定するように構成されるようにしてもよい。
【0086】
(3)上記の実施形態において、ハイブリッド車両に、制御装置31から34が備えられ、回転電機制御装置32が、制振制御部40を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、回転電機制御装置32は、複数の制御装置31、33、34との任意の組み合わせで統合された制御装置として備えるようにしてもよく、制御装置31から34が備える機能部の分担も任意に設定することができる。
【0087】
(4)上記の実施形態において、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42を別の制御器で構成する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、直結用制振制御器41及び非直結用制振制御器42を一体の制御器で構成し、係合状態、及び変速比Krの変化に応じて制御定数のみを切り替える構成とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
MG:回転電機
E:エンジン(内燃機関)
TM:変速機構
CL:エンジン分離クラッチ(係合装置)
I:入力軸
M:中間軸
O:出力軸
AX:車軸
W:車輪
DF:出力用差動歯車装置
Se1:エンジン回転速度センサ
Se2:入力軸回転速度センサ
Se3:出力軸回転速度センサ
1:車両用駆動装置
2:動力伝達機構
32:回転電機制御装置(制御装置)
40:制振制御部
41:直結用制振制御器
42:非直結用制振制御器
43:変速中制御器
44:制御器切替器
45:直結判定部
46:変速判定部
Fd:微分演算処理
Fr:フィルタ処理
ωa:共振周波数(動力伝達系の固有振動数)
ωz:反共振周波数
ωm:回転電機の回転速度(角速度)
ωo:出力軸Oの回転速度(変速機構側端部)
ωl:負荷(車輪)の回転速度(角速度)
Tm:回転電機の出力トルク
Tb:基本トルク指令値
Tp:制振トルク指令値
Tcr:出力シャフトのねじり反力トルク
Tc:出力シャフトのねじりトルク
Tf:スリップトルク
Te:エンジンの出力トルク
Td:外乱トルク
Tl:負荷(車両)作用トルク
Jm:回転電機の慣性モーメント
Je:エンジンの慣性モーメント
Jl:負荷(車両)の慣性モーメント
Jd:回転電機MG側の慣性モーメント(Jm, or Jm+Je)
Cc:出力シャフトの粘性摩擦係数
Kc:出力シャフトのねじりばね定数
Kr:変速比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置であって、
前記回転電機の回転速度に基づくフィードバック制御により、少なくとも前記動力伝達機構の弾性振動に起因する、前記回転電機の回転速度の振動を抑える制振トルク指令を出力する制振制御を実行可能であり、
前記係合装置の係合状態が係合部材間に回転速度差がない直結係合状態である場合には、直結用制振制御器により制振制御を実行し、前記係合装置の係合状態が前記直結係合状態以外の非直結係合状態である場合には、前記直結用制振制御器とは異なる非直結用制振制御器により制振制御を実行する制御装置。
【請求項2】
前記直結用制振制御器は、前記内燃機関から前記車輪までの動力伝達系の固有振動数に応じて設定され、
前記非直結用制振制御器は、前記回転電機から前記車輪までの動力伝達系の固有振動数に応じて設定されている請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制振制御では、前記回転電機の回転速度に基づき、少なくとも微分演算処理及びフィルタ処理を行うフィードバック制御により前記制振トルク指令を出力し、
前記直結用制振制御器と、前記非直結用制振制御器とは、前記微分演算処理及び前記フィルタ処理の制御定数が、互いに異なるように設定されている請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記動力伝達機構は、変速比を変更可能な変速機構を含み、
前記直結用制振制御器及び前記非直結用制振制御器のそれぞれの制御定数を、前記変速機構の変速比に応じて変更する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記動力伝達機構は、変速比を変更可能な変速機構を含み、
前記変速機構による変速比の変更動作中は、前記制振制御の実行を禁止する請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−76537(P2012−76537A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221883(P2010−221883)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】