制振装置
【課題】構造物の振動を抑制する制振装置において、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようにする。
【解決手段】制振装置は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材10および第2の環状索部材40と、第1の環状索部材10を挟んで上下に配置された第1のベース部材2および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材10は、環状部を起立させて第1のベース部材2および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材40は、第1のベース部材2および第2のベース部材のうちのいずれか一方における第1の環状索部材10の固定部分と交差している交差部に環状部を起立させて固定されている。
【解決手段】制振装置は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材10および第2の環状索部材40と、第1の環状索部材10を挟んで上下に配置された第1のベース部材2および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材10は、環状部を起立させて第1のベース部材2および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材40は、第1のベース部材2および第2のベース部材のうちのいずれか一方における第1の環状索部材10の固定部分と交差している交差部に環状部を起立させて固定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物、高層建築物、産業機械、橋梁、高架式の道路や線路といった固定構造物や、車両、航空機、船舶といった移動構造物は地震や強風、車両の走行等による外力を受けるとその外力に応じて振動する。また、移動構造物や産業機械は移動中または運転中も種々の要因によって振動する。
【0003】
従来、こうした構造物に発生する振動を抑制することを目的とした技術が知られている。例えば、木造建築物や高層建築物の地震や強風等による振動を抑制する装置としてTMD(Tuned Mass Damper)と呼ばれる装置が知られている。この装置は錘とその錘を振動自在に支持する弾性支持部材とから構成され、錘の振動周期が構造物の固有振動周期とほぼ同一となるように、錘の質量および弾性支持部材のばね定数が調整されている。このようなTMDに関して例えば特許文献1には、複数の錘のそれぞれが構造物の複数次の固有振動周期と同一の振動周期で振動するように構成された装置が開示されている。
【0004】
その他、構造物に発生する振動を抑制することを目的とした技術として、特許文献2,3,4に開示されている技術があった。特許文献2には、振り子とその振り子の錘を支える斜面を対称に配設した振り子式制御装置が開示されている。また、特許文献3には制震装置を屋根の棟構造にあわせて対として設置した制震構造が開示され、特許文献4には竹の子ばね状の振動減衰装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−49387号公報
【特許文献2】特開平7−324518号公報
【特許文献3】特許第3483535号公報
【特許文献4】特開2000−283227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術によれば、地震や強風等によって固定構造物に発生する振動や移動構造物に発生する振動を抑制することが可能になる。
【0007】
しかし、特許文献1,2,3に開示されている装置では、振動を減衰させるための部材の構造上、構造物が水平面に沿って動く2次元的な水平方向の振動(以下「水平振動」という)を抑制できるに留まり、構造物が高さ方向に動く垂直方向の振動(以下「垂直振動」という)は抑制することが極めて困難であった。
【0008】
また、特許文献4に開示されている装置は、振動を減衰させるための竹の子ばねが軸方向に沿って伸縮するように構成されているため、軸方向に沿っている振動しか抑制することができなかった。
【0009】
つまり、上述した従来技術では、振動の方向が限られ、しかも装置の構造がその振動に対応しているときは、期待した振動抑制効果が得られるものの、そうでなければ期待した振動抑制効果が得られないという課題があった。
【0010】
ところが、地震によって固定構造物や移動構造物に発生する振動、移動中の車両等に発生する振動、車両の走行に伴い橋梁等に発生する振動は水平振動と垂直振動とが組み合わさった3次元的な振動であり、しかも構造物の動く方向が定まっていない振動(以下「不定性3次元振動」という)であることがある。特に地震によって固定構造物や移動構造物に発生する振動は不定性3次元振動であることが多いため、振動を抑制する装置の構造を地震による振動に正確に適合させることは困難である。
【0011】
このように従来技術では、抑制できる振動の範囲が限られ、不定性3次元振動を抑制することが極めて困難であるという課題があった。
【0012】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、構造物の振動を抑制する制振装置において、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方における第1の環状索部材の固定部分と交差している交差部に環状部を起立させて固定されている制振装置を特徴とする。
【0014】
この制振装置では、第1の環状索部材が上下に配置された第1のベース部材と第2のベース部材とに固定されているから、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材が第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の交差部に固定されているから、第2の環状索部材を第1のベース部材および第2のベース部材のうちの他方に固定する等して、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が第2の環状索部材によって吸収される。
【0015】
上記制振装置は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちの第2の環状索部材が固定されている方に対して着脱自在に構成された錘を更に有することが好ましい。
【0016】
制振装置は、上記のような錘を有することによって重量を調整し、固有の振動周期を調整することができる。
【0017】
また、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材の下側に配置されている第1のベース部材と、第1の環状索部材の上側に配置されている第2のベース部材と、第1のベース部材の周縁部に第1のベース部材と交差するように形成されている第1の壁状部材と、第2のベース部材の周縁部に第2のベース部材と交差するように形成されている第2の壁状部材と、その第2の壁状部材の内側の第2のベース部材上に載置されている錘とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、環状部を起立させて第1の壁状部材および第2の壁状部材に固定されている制振装置を提供する。
【0018】
この制振装置では、第1の環状索部材が第1のベース部材とその上側に配置された第2のベース部材とに固定されているから、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が主に第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材が第1の壁状部材と第2の壁状部材とに固定されているから、第1の壁状部材と第2の壁状部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が主に第2の環状索部材によって吸収される。
【0019】
上記制振装置は、第2の環状索部材の第1の壁状部材に対する第1の固定位置と第2の壁状部材に対する第2の固定位置とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角が所定範囲に設定されていることが好ましい。
【0020】
このようにすることで、上記制振装置による水平方向の減衰力と垂直方向の減衰力がより効果的に発揮される。
【0021】
さらに、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の周縁部に環状部を張り出させかつ起立させて固定されている制振装置を提供する。
【0022】
この制振装置でも、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材を第1のベース部材および第2のベース部材のうちの他方に固定する等して、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が第2の環状索部材によって吸収される。
【0023】
上記いずれの制振装置も、第1の環状索部材および第2の環状索部材は、それぞれ環状部を複数備えた螺旋状に形成されていることが好ましい。
【0024】
このようにすることで、第1の環状索部材および第2の環状索部材が弾力性を有するものとなる。
【0025】
さらに、上記いずれの制振装置も、第2の環状索部材を複数有し、それぞれが等間隔で配置されていることが好ましい。
【0026】
このようにすることで第1の壁状部材と第2の壁状部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が各第2の環状索部材によってバランスよく吸収される。
【0027】
そして、上記制振装置において、錘は、形状が等しく、かつ表面に凹凸が形成された複数の金属板によって構成されていることが好ましい。
【0028】
このようにすると、錘の枚数を変えるだけで定量的な重量の調整を行える。しかも錘同士の凹凸が噛み合う格好になって各錘がスライドすることが阻止されるようになる。
【発明の効果】
【0029】
以上詳述したように、本発明によれば、構造物の振動を抑制する制振装置において、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制振装置の一例を示す斜視図である。
【図2】同じく、分解斜視図である。
【図3】図1の制振装置を構成する下部ユニットの平面図である。
【図4】(a)は螺旋構造体および支持板の一例を示す側面図、(b)は同じく正面図である。
【図5】索部材の一例を示す断面図である。
【図6】図3の6−6線断面図である。
【図7】図1の制振装置を構成する上部ユニットの平面図である。
【図8】同じく正面図である。
【図9】図7の9−9線断面図である。
【図10】(a)は錘の一例を示す斜視図、(b)は別の錘を示す斜視図である。
【図11】図1の11−11線断面図である。
【図12】図11の要部を拡大して示す断面図である。
【図13】(a)は変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを一部省略して示す平面図、(b)は変形例に係るワイヤーバネを示す斜視図である。
【図14】(a)は別の変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを示す平面図、(b)はさらに別の変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを示す平面図、(c)は4つのワイヤーリングを固定したベース部材を示す斜視図である。
【図15】実施例に係る木造軸組構造体および制振装置を示す斜視図である。
【図16】別の実施例に係る固定構造物および制振装置を示す斜視図である。
【図17】別の実施例に係る木造軸組構造体、固定構造物および制振装置を示す斜視図である。
【図18】図16にダンパーを備えた場合を示す斜視図である。
【図19】図17にダンパーを備えた場合を示す斜視図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態に係る制振装置の一例を示す平面図である。
【図21】本発明の第3の実施の形態に係る制振装置の一例を示す平面図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態に係る制振装置の一例を示し、(a)は平面図、(b)はb−b線断面図である。
【図23】本発明の第5の実施の形態に係る制振装置の一例を示し(a)は制振装置90の断面図、(b)は制振装置95の断面図である。
【図24】図15の実施例で行った実験結果を示す図である。
【図25】本発明の第4の実施の形態に係る制振装置の変形例を示し、(a)は図22(b)同様の断面図、(b)は一部省略した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0032】
第1の実施の形態
(制振装置の構成)
図面を参照して本発明の第1の実施の形態に係る制振装置の構成について説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る制振装置50の構成を示す斜視図、図2は同じく制振装置50の構成を示す分解斜視図である。図1、図2に示すとおり、制振装置50は下部ユニット1と上部ユニット21とを有している。
【0033】
下部ユニット1はベース部材2と、4枚の壁状部材3,4,5,6と、4つの螺旋構造体10と、4つの支持板11とを有している。
【0034】
ベース部材2は図2、図3に詳しく示すように鋼等の金属を用いて正方形状に形成され、表面2aおよび裏面2bが平坦な板材である。このベース部材2は本発明における第1のベース部材であって制振装置50の底部を構成しており、制振装置50を木造家屋等構造物に設置する際、裏面2bがその構造物に接するようになっている。
【0035】
壁状部材3,4,5,6は本発明における第1の壁状部材であって、ベース部材2と同様に鋼等の金属を用いて矩形状に形成された板材である。壁状部材3,4,5,6は、高さおよび厚さが等しく、そのそれぞれの表面3a,4a,5a,6aが表面2aと直交状に交差するようにして、ベース部材2の周縁部に固定されている。
【0036】
壁状部材3,4,5,6およびベース部材2は上部ユニット21を納めるための空間17を形成している。本実施の形態では、ベース部材2とは別体の壁状部材3,4,5,6がベース部材2に固定された構造としているが、壁状部材3,4,5,6がベース部材2の周縁部に形成され、双方が一体となった箱状の構造にしてもよい。その場合、その箱状の構造物がベース部材になる。
【0037】
螺旋構造体10は図4(a),(b)に詳しく示すようにワイヤーバネ12と、棒状部材13a,13bとを有している。ワイヤーバネ12は本発明における第1の環状索部材であって環状部12aを複数備え、全体が螺旋状に形成されている。環状部12aは図5に詳しく示す索部材16を概ね円環状に形成したものである。索部材16が強固な弾力性を有する弾性部材であるため、環状部12aは例えば円形から楕円形に変化する等の形状の変化がおきた場合に復元力を発揮し、元の形状に戻ろうとする。
【0038】
索部材16は鋼、ステンレス等からなる断面円形状の線状部材14を複数(図5では19本)より合わせて単位索部材15とし、この単位索部材15をさらに複数本(図5では7本)より合わせ、かつ捩り込んで形成されている。本実施の形態に係る索部材16は鋼索であり、強固な弾力性を有している。なお、図5に示した索部材16は合計133本の線状部材14がより合わされている。
【0039】
棒状部材13a,13bは、断面角型の外側が平坦な部材であって、長さ方向に沿って複数の貫通孔が等間隔に形成されている。棒状部材13a,13bはそれぞれの貫通孔にワイヤーバネ12の環状部12aが挿通されることでワイヤーバネ12と一体化されている。環状部12aは、中心12pを挟んで対向している一部分(この部分を対向部ともいう)だけが棒状部材13a,13bに挿通されている。また、棒状部材13a,13bは各環状部12aの中心12pを挟んで対向する位置に配置され、ワイヤーバネ12の中心軸CL(図4(b)参照)と平行になっている。
【0040】
そして、棒状部材13bが支持板11に固定されることにより、各環状部12aが支持板11に対してほぼ直交状に起立している。すなわち、各環状部12aは、2つの対向部の一方だけが棒状部材13bを介して支持板11に接している。その支持板11がベース部材2の表面2aに固定されていることにより、ワイヤーバネ12が各環状部12aを起立させてベース部材2に固定されている。また、棒状部材13aが後述するベース部材22に固定されているため、ワイヤーバネ12は各環状部12aを起立させてベース部材22にも固定されている。そのため、上部ユニット21からの垂直方向の荷重が各螺旋構造体10に加わり、ワイヤーバネ12が図6に示すように撓んで変形している。
【0041】
支持板11は螺旋構造体10よりも外形の大きさの大きい平坦な矩形状の板材である。各支持板11は、図3に示したように、表面2aにおける対角線上の中心位置Pから等しい距離d2の位置に固定されている。このとき、各支持板11は、長手辺11aが中心位置Pを挟んで対向し、かつ平行になるようにして固定されている。こうして、中心位置Pを挟んで対向している螺旋構造体10について、ワイヤーバネ12の中心軸CLが対向し、かつ平行になるようにしており、ワイヤーバネ12の配列方向を2通りに設定している。また、各支持板11が前述の位置に固定されることで、各螺旋構造体10がベース部材2上に等間隔で配置されている。
【0042】
次に、上部ユニット21は、図1、図2および図7〜図9に示すように、ベース部材22と、4枚の壁状部材23,24,25,26と、4つの螺旋構造体40と、2枚の受板27と、複数(図8〜図9では、12枚)の錘28と、ボルト29およびナット30とを有している。
【0043】
ベース部材22はベース部材2と同様に鋼等の金属を用いて正方形状に形成され、表面22aおよび裏面22bが平坦な板材である。このベース部材22は本発明における第2のベース部材であってベース部材2よりも外形の大きさが小さく形成されている。また、ベース部材22はボルト29が表面22aに起立するようにして固定されている。
【0044】
壁状部材23,24,25,26は本発明における第2の壁状部材であって、ベース部材22と同様に鋼等の金属を用いて形成された板材である。壁状部材23,24,25,26は、高さおよび厚さが等しく、そのそれぞれの表面23a,24a,25a,26aが表面22aと直交状に交差するようにして、ベース部材22の周縁部に固定されている。これら壁状部材23,24,25,26およびベース部材22は錘28を納めるための空間を形成している。また、壁状部材23,24,25,26は、図8に詳しく示すようにそれぞれの幅方向ほぼ中間部分に矩形状の切欠部23b,24b,25b,26bが形成されている。
【0045】
なお、本実施の形態では、ベース部材22とは別体の壁状部材23,24,25,26がベース部材22に固定された構造としているが、壁状部材23,24,25,26がベース部材22の周縁部に形成され、双方が一体となった箱状の構造にしてもよい。その場合、その箱状の構造物がベース部材になる。
【0046】
螺旋構造体40はワイヤーバネ12と棒状部材13a,13bとを有し、前述した螺旋構造体10と同様の構成を有している。螺旋構造体40のワイヤーバネ12が本発明における第2の環状索部材を構成している。
【0047】
この螺旋構造体40では、棒状部材13bが壁状部材23,24,25,26におけるそれぞれの切欠部23b,24b,25b,26bの下側部分に固定されている。各螺旋構造体40は壁状部材23,24,25,26に対し、各環状部12aを起立させて固定され、等間隔で配置されている。しかも、各螺旋構造体40は錘28の前後左右の四方向に配置されている。また、それぞれの棒状部材13aが前述した壁状部材3,4,5,6に固定されているため、各螺旋構造体40は壁状部材3,4,5,6にも各環状部12aを起立させて固定されている(詳しくは後述する図11,12参照)。
【0048】
受板27は矩形状の金属板であって、一方が壁状部材23,24,25の上端部に固定され、他方が25,26,23の上端部に固定されている。これら2枚の受板27に対し、図示しない蓋部材が固定されるようになっている。
【0049】
錘28は図10(a)に示すように、鋼等の金属を用いてベース部材22のほぼ1/3の大きさに形成された矩形状の板材であり、ボルト29を通すための挿通孔28aが中央に形成されている。上部ユニット21では、同じ錘28が4枚重ねで3セット、したがって合計12枚ベース部材22上に固定されている。その際、各錘28は挿通孔28aにボルト29を挿通した上で、ボルト29にナット30を締結することによってベース部材22に固定されている。各錘28はナット30の締結または解除によって、ベース部材22に対して着脱自在に構成されている。
【0050】
上部ユニット21は、錘28の代わりに図10(b)に示す錘31を用いることもできる。この錘31は表面および裏面に鋸歯状の凹凸部31bが形成されている(裏面は図示せず)。また、挿通孔31aは長手方向に長い長孔(ルーズホールともいう)になっている。
【0051】
錘31は重ね合わせると凹凸部31bが互いに噛み合う格好になる。そのため、制振装置50に振動が加わると各錘31の凹凸部31bがぶつかり合って各錘31がスライドすることを阻止しようとするから制振装置50の振動抑制効果を高めることができる。また、挿通孔31aは長手方向の長孔になっているから長手方向にスライドしやすくなっている。すると、錘31はスライドして壁状部材23,24,25,26に衝突しやすくなるため、制振装置50の振動抑制効果をさらに高めることができる。
【0052】
そして、制振装置50は図1に示すように、以上の構成を有する下部ユニット1に対して上部ユニット21を上側から納めた構成を有している。この場合、下部ユニット1のベース部材2よりも、上部ユニット21のベース部材22の外形の大きさが小さいので、空間17の中に上部ユニット21を上側から納めることができる。また、ベース部材2の周縁部に壁状部材3,4,5,6が固定され、しかもベース部材22の周縁部に壁状部材23,24,25,26が固定されているので、壁状部材3,4,5,6と、壁状部材23,24,25,26との間に空隙を確保することができる。この空隙の幅が棒状部材13aと棒状部材13bとの間隔に適合するようにしてあるため、螺旋構造体40が壁状部材23,24,25,26と壁状部材3,4,5,6の双方に固定されるようになっている。
【0053】
また、上部ユニット21を下部ユニット1に納めると、ベース部材22がベース部材2と対向することになる。このとき、ベース部材2には、螺旋構造体10が環状部12aを起立させて固定されているので、螺旋構造体10はベース部材22だけでなくベース部材2にも固定されている。
【0054】
一方、上部ユニット21には錘28が固定されているので、上部ユニット21を下部ユニット1に納めると、錘28やベース部材22の荷重によって螺旋構造体10が撓む。そのため、図11、詳しくは図12に示すように、螺旋構造体40は棒状部材13aよりも棒状部材13b側が高さhだけ垂直方向に下向きにずれる。すなわち、螺旋構造体40は、壁状部材3,4,5,6側の固定位置(本発明における第1の固定位置)よりも壁状部材23,24,25,26側の固定位置(本発明における第2の固定位置)が下方にずれた状態(この状態を内向き下り傾斜という)で固定されている、ということである。
【0055】
すると、螺旋構造体40の壁状部材3,4,5,6に対する固定位置と、壁状部材23,24,25,26に対する固定位置とを結ぶ直線Lと、水平面S(正確にはベース部材22の表面22a)との間で傾斜角αが現れる。この傾斜角αは後述する実施例の結果からみて、5度〜10度の範囲に設定することが望ましい。
【0056】
(制振装置の動作内容)
続いて以上の構成を有する制振装置50の動作内容について説明する。制振装置50は制振の対象となる固定構造物(以下の説明では、固定構造物の一例として、木造家屋を想定している)に固定して使用する。
【0057】
例えば地震が発生して木造家屋に水平振動が発生したとする。すると、その振動に伴い制振装置50も木造家屋と一緒になって水平方向に振動する。ところが、制振装置50は錘28を固定した上部ユニット21を有しており、その錘28は固有の慣性を有するため、固有の振動周期で水平方向に振動する。錘28が水平方向に振動すると上部ユニット21も同様に振動する。
【0058】
そして、上部ユニット21のベース部材22と下部ユニット1のベース部材2との双方に螺旋構造体10が固定されている。そのため、上部ユニット21の振動に伴いベース部材22とベース部材2との相対的な位置が水平方向にずれるが、そのずれ(水平方向の位置ずれ)の原因となった外力は棒状部材13a,13bを介して螺旋構造体10のワイヤーバネ12に加わる。
【0059】
このとき、ワイヤーバネ12は螺旋状に形成されているから弾力性を有し、外力により変形したときは元の形状に戻ろうと復元力を発揮する。ワイヤーバネ12は変形した際、索部材16の捩れが発生して座屈を生じ得るおそれがあるが、各環状部12aが棒状部材13a、13bに挿通されているため、座屈の発生が抑制されている。また、ワイヤーバネ12は複数の環状部12aが起立するようにして固定されているため、外力はすべての環状部12aに加わる。各環状部12aは加わった外力の向きと大きさに応じて傾斜したり撓む等して変形するが、それと同時並行的に復元力を発生してその変化を打ち消すように動く。
【0060】
一方、ワイヤーバネ12は索部材16を用いて構成されている。索部材16は多数の線状部材14をより合わせて形成されているので、環状部12aが前述のような動きをすると各線状部材14が隣接するもの同士で激しくこすれ合い、熱を発生させる。すなわち、ワイヤーバネ12は加えられた外力を熱に変換する熱変換機能を有している。環状部12aが加わった外力の向きと大きさに応じて変形し、それに伴い熱を発生することにより、ワイヤーバネ12が加わった外力を吸収することになる。また、棒状部材13a,13bが水平方向に沿ってどのような方向にずれてもそのずれに応じた熱変換機能をワイヤーバネ12が発生することになる。したがって、木造家屋に水平方向のどのような振動が発生しても(発生する振動の方向が定まっていなくても)、螺旋構造体10によってその振動を吸収することができる。
【0061】
また、螺旋構造体10のワイヤーバネ12は垂直振動が発生した場合は外力に応じて撓む。そのため、螺旋構造体10は水平方向の振動吸収機能を主体としつつ垂直方向の振動吸収機能も有している。さらに、ワイヤーバネ12は複数の環状部12aを備えた螺旋構造を有しているから、水平方向のずれによる変形を復元させる弾性作用を効果的に発揮する。
【0062】
そして、線状部材14は断面円形状であるため、隣接しているもの同士は接触しつつそれぞれの間に多数の隙間が形成されている。そのため、線状部材14が発生する熱は空気中に拡散され、螺旋構造体10の内部にとどめられることなく空気中に放出される。
【0063】
また、制振装置50は、螺旋構造体10を挟んで上下にベース部材2,22が配置され、それらベース部材2,22に螺旋構造体10が環状部12aを起立させて固定されている。制振装置50はこのような構造を採用したことにより、水平振動に対してワイヤーバネ12の各環状部12aによる熱変換機能を確実に発揮させることができる。そのうえ、制振装置50では、4つの螺旋構造体10を有し、ワイヤーバネ12の配列方向を2通り設定している。そのため、ワイヤーバネ12の変形の仕方が多様になり、水平方向にそった種々の振動を効果的に抑制することができる。
【0064】
一方、直下型の地震が発生して前述の木造家屋に垂直振動が発生したとする。すると、その振動に伴い制振装置50も木造家屋と一緒になって垂直方向に振動する。制振装置50は、錘28固有の振動周期で垂直方向(上下)に振動する。錘28が垂直方向に振動すると上部ユニット21も同様に振動する。
【0065】
そして、上部ユニット21の壁状部材23,24,25,26と下部ユニット1の壁状部材3,4,5,6の双方に螺旋構造体40が固定されている。そのため、上部ユニット21の振動に伴い壁状部材23,24,25,26と壁状部材3,4,5,6との相対的な位置が垂直方向にずれるが、そのずれ(垂直方向の位置ずれ)の原因となった外力は棒状部材13a,13bを介して螺旋構造体40のワイヤーバネ12に加わる。この外力は各環状部12aの全体に加わる。このばあいも、各環状部12aは加わった外力の向きと大きさに応じて起立状態を変化させる等して変形するが、それと同時並行的に復元力を発生してその変化を打ち消すように動く。ワイヤーバネ12は前述した熱変換機能を有しているため、水平振動が発生した場合と同様の熱変換機能を螺旋構造体40が発揮することによって垂直振動が吸収される。
【0066】
制振装置50は、螺旋構造体40が壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26とに環状部12aを起立させて固定されている。制振装置50は、このような構造を採用したことにより、垂直振動に対してワイヤーバネ12の環状部12aによる熱変換機能を確実に発揮させることができる。
【0067】
そのうえ、制振装置50では、4つの螺旋構造体40を有し、そのそれぞれが等間隔で配置されている。そのため、垂直振動による外力がいずれか1つに偏るようなことはなく4つの螺旋構造体40によってバランスよく吸収される。そのため、制振装置50では、垂直振動を4つの螺旋構造体40によってバランスよく抑制することができる。
【0068】
また、螺旋構造体40のワイヤーバネ12は水平振動が発生した場合も外力に応じて撓む。そのため、螺旋構造体40は垂直方向の振動吸収機能を主体としつつ水平方向の振動吸収機能も有している。さらに、ワイヤーバネ12は複数の環状部12a備えた螺旋構造を有しているから弾力性を有し、垂直方向のずれによる変形を復元させる。
【0069】
ところで、木造家屋に地震による振動が発生する場合、水平振動と垂直振動のいずれか一方だけが発生することよりも、両者が組み合わさった3次元的な振動が発生することが多い。その上、振動の方向もまちまちで定まってなく、振動が始まってから終わるまでの間に方向が変化していくこともある。地震によって木造家屋等の固定構造物や移動構造物に発生する振動や、移動中の車両等に発生する振動、車両の走行に伴い橋梁等に発生する振動は、このような不定性3次元振動になることがある。
【0070】
しかしながら、制振装置50は前述した構成を採用することによって、ワイヤーバネ12による水平振動に対する熱変換機能と垂直振動に対する熱変換機能とを同時並行的に発揮することができる。不定性3次元振動が構造物に発生した場合、そのうちの水平方向成分は主として螺旋構造体10が抑制し、垂直方向成分は主として螺旋構造体40が抑制する。螺旋構造体10,40はそれぞれのワイヤーバネ12が加えられた外力の向きと大きさに応じて熱変換機能を発揮することで振動を吸収する。そのため、制振装置50は3次元的などのような振動でも抑制することができる。したがって、制振装置50は、抑制できる振動の範囲が従来技術よりも大幅に拡大されており、不定性3次元振動を十分に抑制できるようになっている。
【0071】
また、制振装置50は構造物に対し、木造家屋の床面等にベース部材2を固定することによって設置することができるから、建築中に家屋はもとよりすでに建築された既存家屋にも設置することができる。
【0072】
さらに、制振装置50は、傾斜角αを5度〜10度の範囲に設定していることにより、振動抑制効果が高められている。さらに、制振装置50は、着脱自在に構成された複数の錘28を有しているから、設置しようとする構造物に応じて固定する錘28の重さを変えて上部ユニット21の重量を調整することができる。錘28は大きさが同じで同じ重さを有しているので、上部ユニット21の重量を定量的に調整することができる。しかも、壁状部材23,24,25,26に切欠部23a,24a,25a,26aが形成されているので、上部ユニット21への錘28の出し入れが容易に行える。壁状部材23,24,25,26のいずれか少なくとも1つにだけ切欠部23a,24a,25a,26aを形成しても錘28の出し入れが容易になる。しかしながら、壁状部材23,24,25,26のすべてに切欠部23a,24a,25a,26aを形成すればどの方向からでも錘28の出し入れが容易になるためより好ましいものとなる。
【0073】
(変形例1)
続いて制振装置50の変形例について図13を参照して説明する。図13(a)は変形例に係るベース部材122およびワイヤーバネ12を一部省略して示す平面図、図13(b)は変形例に係るワイヤーバネ112を示す斜視図である。
【0074】
前述した制振装置50では、壁状部材23,24,25,26に螺旋構造体40が固定されていたが、図13(a)に示すようにベース部材122の周縁部122aに環状部12aを張り出させかつ起立させてワイヤーバネ12を固定してもよい。ベース部材122はベース部材22と同様の板材であるが、周縁部122aに環状部12aに応じた複数の貫通孔122bが形成されている。各貫通孔122bに環状部12aを挿通させることにより、2つの対向部の一方だけがベース部材122に係合する。すると、係合している対向部以外の部分がベース部材122から張り出しかつ起立するようにしてワイヤーバネ12がベース部材122に固定される。ワイヤーバネ12を壁状部材3,4,5,6に固定するときは、最も張り出している部分から所定範囲(すなわち、2つの対向部の他方)を溶接したり、かしめたして固定すればよい。このようにしても、ワイヤーバネ12によって垂直振動に対する熱変換機能を発揮できるので、制振装置50は不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0075】
一方、ワイヤーバネ112は、交差している2つの環状部112a,112bを有し、環状部112a,112bの2つの交差部分が接続部材113で固定された構造を有している。ワイヤーバネ112は、1本の索部材16について、まず、水平面内を周回するようにして環状部112aを形成し、続いて垂直面を周回するようにして環状部112bを形成し、その上で、索部材16の両端部と環状部112a,112bの2つの交差部分を接続部材113で固定することによって得られる。
【0076】
そして、ワイヤーバネ112は螺旋構造体10の代わりにベース部材2、22の間に挟んで双方に固定することができる。また、ワイヤーバネ112は螺旋構造体40の代わりに壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26の間に挟んで双方に固定することもできる。
【0077】
こうして得られる制振装置50に振動が発生すると、振動に伴う位置ずれの原因となった外力がワイヤーバネ112に加わる。ワイヤーバネ112はワイヤーバネ12と同様に、加わった外力の向きと大きさに応じた熱変換機能を発揮して外力を吸収する。そのため、制振装置50は、ワイヤーバネ12の代わりにワイヤーバネ112を用いても、不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0078】
(変形例2)
続いて制振装置50の別の変形例について図14を参照して説明する。図14(a)はベース部材2に4本のワイヤーバネ12を固定した状態を示す平面図、図14(b)は並べ方を変えて4本のワイヤーバネ12を固定した状態を示す平面図、図14(c)は4つのワイヤーリング114を固定したベース部材2を示す斜視図である。
【0079】
前述の制振装置50では、螺旋構造体10が図3に示すような配置で固定されていたが、図14(a)に示すように4本のワイヤーバネ12を等間隔でベース部材2に固定してもよい。また、図14(b)に示すように対角線上の中心pから等距離に4本のワイヤーバネ12を並べてもよい。
【0080】
また、索部材16の両端を接続して一巻き状のワイヤーリング114とし、このワイヤーリング114をベース部材2の周縁部に沿って起立させて固定してもよい。これらのいずれを採用しても、制振装置50は不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【実施例】
【0081】
次に、前述した制振装置50の実施例について、図15〜図20を参照して説明する。本実施例では、前述した制振装置50を試作するとともに、図15、図17等に示すような木造軸組構造体200を作成した。木造軸組構造体200はガイドレール201上を振動台202と一体となって矢印Fで示す水平方向にスライドするように構成されている。この木造軸組構造体200の上面(木造家屋の2階の床)に錘203を載せ、その上に前述した制振装置50が固定されている。
【0082】
作成した木造軸組構造体200は高さ約2.5m、幅2.2m、奥行き2.4mで重量はおよそ1tである。振動台202は上下動に対する拘束力がなくガイドレール201上をスライドする構造であるため、引き抜き力が発生したときは木造軸組構造体200の浮き上がりを再現することができる。
【0083】
比較のため、前述した制振装置50を固定した場合のほか、制振装置50から螺旋構造体40を取り外した装置(比較用装置といい、図示せず)を用意し、その比較用装置を制振装置50の代わりに木造軸組構造体200に固定した。
【0084】
そして、制振装置50を固定した木造軸組構造体200と比較用装置を固定した木造軸組構造体200との双方について、垂直方向、水平方向それぞれの運動エネルギー減衰率を測定した。この減衰率は予め木造軸組構造体200だけの運動エネルギーを測定しておき、それとの比較で求めた。
【0085】
すると、比較用装置を固定した木造軸組構造体200では、減衰率が全体として低いものの、制振装置50を固定した木造軸組構造体200では、減衰率が大きく向上していることが確認できた。すなわち、前者の木造軸組構造体200では垂直方向の減衰率が10%〜30%程度であったが、後者の木造軸組構造体200では30%〜70%程度であった。また、前者の木造軸組構造体200では、水平方向の減衰率が5%〜25%程度であったが、後者の木造軸組構造体200では、10%〜55%程度であった。この結果から、制振装置50を採用することによって水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが理解される。
【0086】
また、制振装置50の錘28の枚数と、前述の傾斜角αを適宜変更しながら減衰率を測定したところ、図24に示すようになった。図24から明らかなとおり、錘28の枚数がいずれであっても、傾斜角αが5度または10度になったときの減衰率はその他の場合よりも高い。そのため、傾斜角αは5度から10度の範囲に設定することが有効と考えられる。
【0087】
図16は、振動台202の上に制振装置50を3台並べて固定し、その上に蓋部材204を重ねてから固定構造物210を設置した様子を示す斜視図である。固定構造物210は例えばコンピュータ等の精密機械、産業機械などを想定しており、図16では、サーバを想定している。このようにして実験を行った場合も前述の実施例と同様に水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが確認できた。
【0088】
図16の場合、振動台202から入力される振動が制振装置50で抑制された後に固定構造物210に入力される。この種の固定構造物210では、とりわけ振動からの保護の重要性が高い。そのため、図16のようにして制振装置50を介在させて設置することにより、固定構造物210に入力される振動を抑制することができる。例えば地震や強風等による振動や車両運搬中に発生する振動から固定構造物210を保護することができる。
【0089】
さらに、図17は、図15に示した木造軸組構造体200の中の、振動台202上に制振装置50を3台並べて固定し、その上に蓋部材204を重ねてから固定構造物210を設置した様子を示す斜視図である。この場合も、前述の各実施例と同様に水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが確認できた。
【0090】
一方、例えば地震による振動が木造家屋等の固定構造物に入力される場合、振動が始まった初期の時点で、それ以後よりも大きい振動が入力されることがある。初期に入力される特に大きな振動を効果的に抑制するためには、図18、図19に示すように、構造上、特に補強を要する部分にダンパー211を併設することが望ましい。図18では、図16に示した場合に対して、蓋部材204と振動台202とをつなぐようにしてダンパー211が装着されている。図19では、木造軸組構造体200の柱と梁とが接続されている箇所にダンパー211が装着されている。
【0091】
第2の実施の形態
次に、図20を参照して本発明の第2の実施の形態に係る制振装置60の構成について説明する。図20は制振装置60の構成を示す一部省略した平面図である。制振装置60は制振装置50と比較して上部ユニット21が上部ユニット121になっている点、4つの螺旋構造体10の配置が変更されている点で相違している。
【0092】
上部ユニット121は、円板状のベース部材123を有し、その周縁部に環状部を張り出させかつ起立させて4本のワイヤーバネ12Bが周方向に沿って等間隔配置で固定されている。ワイヤーバネ12Bはワイヤーバネ12と同様に複数の環状部12aを有している。また、ワイヤーバネ12Bは壁状部材3,4,5,6に固定されている。また、ベース部材123上に円板状の錘128が載置されている。4つの螺旋構造体10はベース部材123が円板状であることに伴い、配置が変更されている(4つの螺旋構造体10はベース部材123の下側に配置されているので図20には図示せず)。
【0093】
このような構成の制振装置60でも、水平方向の振動は主として螺旋構造体10のワイヤーバネ12が抑制し、垂直方向の振動は主としてワイヤーバネ12Bが抑制する。そのため、制振装置60は制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0094】
第3の実施の形態
次に、図21を参照して本発明の第3の実施の形態に係る制振装置70の構成について説明する。図21は制振装置70の構成を示す一部省略した平面図である。制振装置70は制振装置60と比較して、下部ユニット1が下部ユニット71になっている点、ワイヤーバネ12Bよりも長さの長いワイヤーバネ12Aがベース部材123の全周に渡って固定されている点で相違している。下部ユニット71はベース部材123よりも大きさの大きい円板状のベース部材72を有し、その周縁部に円筒状の壁状部材72aが形成されている。ベース部材72および壁状部材72aは全体として有底円筒状に形成されている。
【0095】
制振装置60の場合は、下部ユニット1が採用されていたため、ベース部材1が正方形状であり、壁状部材3,4,5,6とベース部材123との距離が一様になっていなかった。また、ベース部材123の全周に渡ってワイヤーバネ12Bを固定することが困難な構造であった。
【0096】
しかし、制振装置70では、下部ユニット71を採用しているので、ベース部材123の全周に渡ってワイヤーバネ12Aが固定されている。ベース部材123には貫通孔123aが全周に渡って等間隔で形成されており、ここにワイヤーバネ12Aが挿通されている。ワイヤーバネ12Aはベース部材123と壁状部材72aの双方に固定されている。
【0097】
このような制振装置70も、制振装置60と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。加えて、制振装置70では、ワイヤーバネ12Aがベース部材123の全周に渡って固定されている。そのため、制振装置70は垂直方向の振動抑制効果にムラがなく、ベース部材123の全周に渡ってほぼ均一な振動抑制効果を発揮させることができる。水平振動が発生した場合は主に図示しない4つの螺旋構造体10によって抑制される。ところが、水平振動に応じてベース部材123とベース部材72との相対的な位置がずれたときにそのずれに応じてワイヤーバネ12Aが撓むため、ワイヤーバネ12Aも水平振動を吸収する。この場合、ワイヤーバネ12Aは円板状のベース部材123の全周に固定されているので、どの方向にずれようがワイヤーバネ12Aが同じように撓み、ほぼ均一な振動抑制効果が発揮される。また、制振装置70は制振装置60よりもワイヤーバネ12Aの長さが長いので、制振装置60よりも振動抑制効果を向上させることもできる。
【0098】
第4の実施の形態
次に、図22を参照して本発明の第4の実施の形態に係る制振装置80の構成について説明する。図22(a)は制振装置80の構成を示す一部省略した平面図、図22(b)は同じくb−b線断面図である。
【0099】
制振装置80は制振装置50と比較して、下部ユニット1における4つの螺旋構造体10の代わりに螺旋構造体10Aを有する点、壁状部材3,4,5,6の高さが高くなっている点で相違している。
【0100】
制振装置50は4つの螺旋構造体10を有しているが、制振装置80は螺旋構造体10よりも環状部の大きさ(直径)の大きい螺旋構造体10Aを1つ有している。螺旋構造体10Aの大きさが螺旋構造体10よりも大きいので、1本の螺旋構造体10Aがベース部材2の中央に固定されている。制振装置50は4つの螺旋構造体10を有しているので、振動を各螺旋構造体10に分散させて吸収することができる。一方、螺旋構造体10Aは1本だけではあるが、螺旋構造体10よりも大きさの大きい環状部を複数有するので、制振装置80でも不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0101】
(変形例)
上記制振装置80は螺旋構造体10Aを1つ有しているが、上部ユニット21の重量が重くなると、上部ユニット21の重量によって螺旋構造体10Aが撓みすぎてしまうおそれがある。その場合は、制振装置80の代わりに図25(a)、(b)に示す制振装置85とすることが好ましい。制振装置85は制振装置80と比べて板バネ86を有する点で相違している。板バネ86は長さ方向の両端部を除く中間部分が環状部12aの内側を挿通するようにして配置されている。板バネ86はワイヤーバネ12の中心軸に沿った方向に長い帯状の板材を適宜折り曲げまたは湾曲させるなどして形成されている。板バネ86は両端部のうち一方(一端部)がベース部材2の表面に固定され、かつ他方(他端部)はベース部材2の表面から適宜離れて配置された自由端となっている。
【0102】
そして、上部ユニット21がその重量によって下方に移動すると、ある程度移動した時点で棒状部材13aが板バネ86に接触し、さらに移動すると板バネ86を変形させる。このとき、板バネ86は、自由端となっている他端部がベース部材2の表面に沿って水平方向にスライドし、元の形に戻ろうとする復元力を発揮する。そうすると、板バネ86は、棒状部材13aを上に押し上げようとする。こうして、制振装置85では、螺旋構造体10Aの撓みすぎを防止することができる。
【0103】
第5の実施の形態
次に、図23を参照して本発明の第5の実施の形態に係る制振装置90,95の構成について説明する。図23(a)は制振装置90の構成を示す一部省略した断面図、図23(b)は制振装置95の構成を示す一部省略した断面図である。
【0104】
制振装置90は制振装置50と比較して、下部ユニット1の構造が異なる点で相違している。制振装置90はベース部材2Aを有している。ベース部材2Aはベース部材22よりも大きさが小さい正方形状の板材であり、壁状部材3,4,5,6が形成されていない平板状に形成されている。また、制振装置90は制振装置50と比較して、4つの螺旋構造体10の配置が異なっている点でも相違している。制振装置90では、4つの螺旋構造体10はベース部材2Aの幅方向等間隔で平行に並べられている。
【0105】
制振装置50では、壁状部材3,4,5,6が形成されていたため、螺旋構造体40が壁状部材3,4,5,6と、壁状部材23,24,25,26とに固定されていた。制振装置90はベース部材2の代わりにベース部材2Aを有している。ベース部材2Aはベース部材22よりも大きさの小さい正方形状の板材であり、壁状部材3,4,5,6を有していない。螺旋構造体40は壁状部材3,4,5,6には固定されてなく、外側が自由端になっている。螺旋構造体40は内側が壁状部材23,24,25,26に固定され、外側が構造物100A,100Bに固定されている。構造物100A,100Bは例えば木造家屋の柱や壁などである。このようにしても、ベース部材2Aとベース部材22の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が螺旋構造体40によって吸収されるので、制振装置90も制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0106】
次に、制振装置95は上下に配置されたベース部材2Bとベース部材22Bとを有し、その両者の間に挟まる格好で螺旋構造体10と螺旋構造体40が固定されている。
【0107】
ベース部材2Bは平坦な正方形板状部分の周縁部に、板状部分と直交する壁状部材2Baが形成されている。ベース部材22Bは平坦な正方形板状部分の周縁部に、板状部分と直交する壁状部材22Baが形成されている。ベース部材2Bは板状部分が壁状部材2Baより上側に配置するように設置されている。ベース部材22Bも板状部分が壁状部材22Baより上側に配置するように設置されている。そして、ベース部材2Bとベース部材22Bとは、ベース部材2Bを外側からベース部材22Bが覆うようにして配置されている。ベース部材22Bの上側に錘28Aが着脱自在に固定されている。
【0108】
このような制振装置95に水平振動が発生した場合、その振動は主に螺旋構造体10によって抑制される。また、垂直振動が発生した場合、その振動は主に螺旋構造体40によって抑制される。そのため、制振装置95も、制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。特に、制振装置95の場合、錘28Aがベース部材22Bの上側に着脱自在に固定されているので、交換や追加等が制振装置50よりも容易に行える。
【0109】
前述した各実施の形態では、螺旋構造体40を壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26との双方に固定していた。しかしながら、ベース部材22の大きさを小さくするなどして、螺旋構造体40を外側の壁状部材3,4,5,6にだけ固定し、内側の壁状部材23,24,25,26には固定しないようにしてもよい。そうすると、螺旋構造体40と内側の壁状部材23,24,25,26との間に空隙を確保することができる。この空隙は、木造家屋等の構造物に大きな変位が生じ、それに伴い上部ユニット21が大きく変位した際、上部ユニット21を螺旋構造体40に衝突させるための緩衝ゾーンとして機能させることができる。上部ユニット21が緩衝ゾーンを移動し、螺旋構造体40に衝突することによって運動エネルギーが吸収されるため、振動をより効果的に吸収できるようになる。
【0110】
一方、各実施の形態では、上部ユニットにおいてベース部材(例えばベース部材22)とは別に錘28を設け、錘28をベース部材(例えばベース部材22)に固定していた。しかしながら、ベース部材自体にも自重がある。そのため、例えばベース部材22の厚さを変える等して重さを重くし、錘28の働きを持たせることもできる。上部ユニット21は錘28を有しない構造とすることができる。
【0111】
また、ベース部材22の厚さを厚くすることにより、その側面の面積を拡大することができるので、ベース部材22の側面に螺旋構造体40を固定することができる。この場合、上部ユニット21は、壁状部材23,24,25,26を有しない構造にすることもできる。この場合、螺旋構造体40が固定されるベース部材22の側面は、ベース部材22の裏面(螺旋構造体10が固定されている部分、固定部分ともいう)と直交状に交差している交差部であり、この交差部に螺旋構造体40が固定されることになる。上部ユニット21のように壁状部材23,24,25,26を有する構造の場合は壁状部材23,24,25,26がベース部材22の裏面と直交状に交差しているので、交差部としての機能を発揮している。
【0112】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【0113】
以上の実施の形態では、固定構造物として主に木造家屋、精密機械、産業機械などを取り上げているが、本発明は上記以外の固定構造物や移動構造物についても適用することができる。本発明は例えば橋梁、高架式の道路や線路といった固定構造物や、車両、航空機、船舶といった移動構造物についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明を適用することにより、制振装置について、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようになる。
【符号の説明】
【0115】
1…下部ユニット、2,22,72,122,123,2A,2B,22B…ベース部材、3,4,5,6,23,24,25,26,72a…壁状部材、10,40…螺旋構造体、12,112,12A,12B…ワイヤーバネ、14…線状部材、15…単位索部材、16…索部材、21…上部ユニット、28、31,28A…錘、50,60,70,80,85,90,95…制振装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物、高層建築物、産業機械、橋梁、高架式の道路や線路といった固定構造物や、車両、航空機、船舶といった移動構造物は地震や強風、車両の走行等による外力を受けるとその外力に応じて振動する。また、移動構造物や産業機械は移動中または運転中も種々の要因によって振動する。
【0003】
従来、こうした構造物に発生する振動を抑制することを目的とした技術が知られている。例えば、木造建築物や高層建築物の地震や強風等による振動を抑制する装置としてTMD(Tuned Mass Damper)と呼ばれる装置が知られている。この装置は錘とその錘を振動自在に支持する弾性支持部材とから構成され、錘の振動周期が構造物の固有振動周期とほぼ同一となるように、錘の質量および弾性支持部材のばね定数が調整されている。このようなTMDに関して例えば特許文献1には、複数の錘のそれぞれが構造物の複数次の固有振動周期と同一の振動周期で振動するように構成された装置が開示されている。
【0004】
その他、構造物に発生する振動を抑制することを目的とした技術として、特許文献2,3,4に開示されている技術があった。特許文献2には、振り子とその振り子の錘を支える斜面を対称に配設した振り子式制御装置が開示されている。また、特許文献3には制震装置を屋根の棟構造にあわせて対として設置した制震構造が開示され、特許文献4には竹の子ばね状の振動減衰装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−49387号公報
【特許文献2】特開平7−324518号公報
【特許文献3】特許第3483535号公報
【特許文献4】特開2000−283227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術によれば、地震や強風等によって固定構造物に発生する振動や移動構造物に発生する振動を抑制することが可能になる。
【0007】
しかし、特許文献1,2,3に開示されている装置では、振動を減衰させるための部材の構造上、構造物が水平面に沿って動く2次元的な水平方向の振動(以下「水平振動」という)を抑制できるに留まり、構造物が高さ方向に動く垂直方向の振動(以下「垂直振動」という)は抑制することが極めて困難であった。
【0008】
また、特許文献4に開示されている装置は、振動を減衰させるための竹の子ばねが軸方向に沿って伸縮するように構成されているため、軸方向に沿っている振動しか抑制することができなかった。
【0009】
つまり、上述した従来技術では、振動の方向が限られ、しかも装置の構造がその振動に対応しているときは、期待した振動抑制効果が得られるものの、そうでなければ期待した振動抑制効果が得られないという課題があった。
【0010】
ところが、地震によって固定構造物や移動構造物に発生する振動、移動中の車両等に発生する振動、車両の走行に伴い橋梁等に発生する振動は水平振動と垂直振動とが組み合わさった3次元的な振動であり、しかも構造物の動く方向が定まっていない振動(以下「不定性3次元振動」という)であることがある。特に地震によって固定構造物や移動構造物に発生する振動は不定性3次元振動であることが多いため、振動を抑制する装置の構造を地震による振動に正確に適合させることは困難である。
【0011】
このように従来技術では、抑制できる振動の範囲が限られ、不定性3次元振動を抑制することが極めて困難であるという課題があった。
【0012】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、構造物の振動を抑制する制振装置において、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方における第1の環状索部材の固定部分と交差している交差部に環状部を起立させて固定されている制振装置を特徴とする。
【0014】
この制振装置では、第1の環状索部材が上下に配置された第1のベース部材と第2のベース部材とに固定されているから、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材が第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の交差部に固定されているから、第2の環状索部材を第1のベース部材および第2のベース部材のうちの他方に固定する等して、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が第2の環状索部材によって吸収される。
【0015】
上記制振装置は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちの第2の環状索部材が固定されている方に対して着脱自在に構成された錘を更に有することが好ましい。
【0016】
制振装置は、上記のような錘を有することによって重量を調整し、固有の振動周期を調整することができる。
【0017】
また、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材の下側に配置されている第1のベース部材と、第1の環状索部材の上側に配置されている第2のベース部材と、第1のベース部材の周縁部に第1のベース部材と交差するように形成されている第1の壁状部材と、第2のベース部材の周縁部に第2のベース部材と交差するように形成されている第2の壁状部材と、その第2の壁状部材の内側の第2のベース部材上に載置されている錘とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、環状部を起立させて第1の壁状部材および第2の壁状部材に固定されている制振装置を提供する。
【0018】
この制振装置では、第1の環状索部材が第1のベース部材とその上側に配置された第2のベース部材とに固定されているから、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が主に第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材が第1の壁状部材と第2の壁状部材とに固定されているから、第1の壁状部材と第2の壁状部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が主に第2の環状索部材によって吸収される。
【0019】
上記制振装置は、第2の環状索部材の第1の壁状部材に対する第1の固定位置と第2の壁状部材に対する第2の固定位置とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角が所定範囲に設定されていることが好ましい。
【0020】
このようにすることで、上記制振装置による水平方向の減衰力と垂直方向の減衰力がより効果的に発揮される。
【0021】
さらに、本発明は、複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、第1の環状索部材は、環状部を起立させて第1のベース部材および第2のベース部材に固定され、第2の環状索部材は、第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の周縁部に環状部を張り出させかつ起立させて固定されている制振装置を提供する。
【0022】
この制振装置でも、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を水平方向にずらす外力が第1の環状索部材によって吸収される。また、第2の環状索部材を第1のベース部材および第2のベース部材のうちの他方に固定する等して、第1のベース部材と第2のベース部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が第2の環状索部材によって吸収される。
【0023】
上記いずれの制振装置も、第1の環状索部材および第2の環状索部材は、それぞれ環状部を複数備えた螺旋状に形成されていることが好ましい。
【0024】
このようにすることで、第1の環状索部材および第2の環状索部材が弾力性を有するものとなる。
【0025】
さらに、上記いずれの制振装置も、第2の環状索部材を複数有し、それぞれが等間隔で配置されていることが好ましい。
【0026】
このようにすることで第1の壁状部材と第2の壁状部材の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が各第2の環状索部材によってバランスよく吸収される。
【0027】
そして、上記制振装置において、錘は、形状が等しく、かつ表面に凹凸が形成された複数の金属板によって構成されていることが好ましい。
【0028】
このようにすると、錘の枚数を変えるだけで定量的な重量の調整を行える。しかも錘同士の凹凸が噛み合う格好になって各錘がスライドすることが阻止されるようになる。
【発明の効果】
【0029】
以上詳述したように、本発明によれば、構造物の振動を抑制する制振装置において、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制振装置の一例を示す斜視図である。
【図2】同じく、分解斜視図である。
【図3】図1の制振装置を構成する下部ユニットの平面図である。
【図4】(a)は螺旋構造体および支持板の一例を示す側面図、(b)は同じく正面図である。
【図5】索部材の一例を示す断面図である。
【図6】図3の6−6線断面図である。
【図7】図1の制振装置を構成する上部ユニットの平面図である。
【図8】同じく正面図である。
【図9】図7の9−9線断面図である。
【図10】(a)は錘の一例を示す斜視図、(b)は別の錘を示す斜視図である。
【図11】図1の11−11線断面図である。
【図12】図11の要部を拡大して示す断面図である。
【図13】(a)は変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを一部省略して示す平面図、(b)は変形例に係るワイヤーバネを示す斜視図である。
【図14】(a)は別の変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを示す平面図、(b)はさらに別の変形例に係るベース部材およびワイヤーバネを示す平面図、(c)は4つのワイヤーリングを固定したベース部材を示す斜視図である。
【図15】実施例に係る木造軸組構造体および制振装置を示す斜視図である。
【図16】別の実施例に係る固定構造物および制振装置を示す斜視図である。
【図17】別の実施例に係る木造軸組構造体、固定構造物および制振装置を示す斜視図である。
【図18】図16にダンパーを備えた場合を示す斜視図である。
【図19】図17にダンパーを備えた場合を示す斜視図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態に係る制振装置の一例を示す平面図である。
【図21】本発明の第3の実施の形態に係る制振装置の一例を示す平面図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態に係る制振装置の一例を示し、(a)は平面図、(b)はb−b線断面図である。
【図23】本発明の第5の実施の形態に係る制振装置の一例を示し(a)は制振装置90の断面図、(b)は制振装置95の断面図である。
【図24】図15の実施例で行った実験結果を示す図である。
【図25】本発明の第4の実施の形態に係る制振装置の変形例を示し、(a)は図22(b)同様の断面図、(b)は一部省略した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0032】
第1の実施の形態
(制振装置の構成)
図面を参照して本発明の第1の実施の形態に係る制振装置の構成について説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る制振装置50の構成を示す斜視図、図2は同じく制振装置50の構成を示す分解斜視図である。図1、図2に示すとおり、制振装置50は下部ユニット1と上部ユニット21とを有している。
【0033】
下部ユニット1はベース部材2と、4枚の壁状部材3,4,5,6と、4つの螺旋構造体10と、4つの支持板11とを有している。
【0034】
ベース部材2は図2、図3に詳しく示すように鋼等の金属を用いて正方形状に形成され、表面2aおよび裏面2bが平坦な板材である。このベース部材2は本発明における第1のベース部材であって制振装置50の底部を構成しており、制振装置50を木造家屋等構造物に設置する際、裏面2bがその構造物に接するようになっている。
【0035】
壁状部材3,4,5,6は本発明における第1の壁状部材であって、ベース部材2と同様に鋼等の金属を用いて矩形状に形成された板材である。壁状部材3,4,5,6は、高さおよび厚さが等しく、そのそれぞれの表面3a,4a,5a,6aが表面2aと直交状に交差するようにして、ベース部材2の周縁部に固定されている。
【0036】
壁状部材3,4,5,6およびベース部材2は上部ユニット21を納めるための空間17を形成している。本実施の形態では、ベース部材2とは別体の壁状部材3,4,5,6がベース部材2に固定された構造としているが、壁状部材3,4,5,6がベース部材2の周縁部に形成され、双方が一体となった箱状の構造にしてもよい。その場合、その箱状の構造物がベース部材になる。
【0037】
螺旋構造体10は図4(a),(b)に詳しく示すようにワイヤーバネ12と、棒状部材13a,13bとを有している。ワイヤーバネ12は本発明における第1の環状索部材であって環状部12aを複数備え、全体が螺旋状に形成されている。環状部12aは図5に詳しく示す索部材16を概ね円環状に形成したものである。索部材16が強固な弾力性を有する弾性部材であるため、環状部12aは例えば円形から楕円形に変化する等の形状の変化がおきた場合に復元力を発揮し、元の形状に戻ろうとする。
【0038】
索部材16は鋼、ステンレス等からなる断面円形状の線状部材14を複数(図5では19本)より合わせて単位索部材15とし、この単位索部材15をさらに複数本(図5では7本)より合わせ、かつ捩り込んで形成されている。本実施の形態に係る索部材16は鋼索であり、強固な弾力性を有している。なお、図5に示した索部材16は合計133本の線状部材14がより合わされている。
【0039】
棒状部材13a,13bは、断面角型の外側が平坦な部材であって、長さ方向に沿って複数の貫通孔が等間隔に形成されている。棒状部材13a,13bはそれぞれの貫通孔にワイヤーバネ12の環状部12aが挿通されることでワイヤーバネ12と一体化されている。環状部12aは、中心12pを挟んで対向している一部分(この部分を対向部ともいう)だけが棒状部材13a,13bに挿通されている。また、棒状部材13a,13bは各環状部12aの中心12pを挟んで対向する位置に配置され、ワイヤーバネ12の中心軸CL(図4(b)参照)と平行になっている。
【0040】
そして、棒状部材13bが支持板11に固定されることにより、各環状部12aが支持板11に対してほぼ直交状に起立している。すなわち、各環状部12aは、2つの対向部の一方だけが棒状部材13bを介して支持板11に接している。その支持板11がベース部材2の表面2aに固定されていることにより、ワイヤーバネ12が各環状部12aを起立させてベース部材2に固定されている。また、棒状部材13aが後述するベース部材22に固定されているため、ワイヤーバネ12は各環状部12aを起立させてベース部材22にも固定されている。そのため、上部ユニット21からの垂直方向の荷重が各螺旋構造体10に加わり、ワイヤーバネ12が図6に示すように撓んで変形している。
【0041】
支持板11は螺旋構造体10よりも外形の大きさの大きい平坦な矩形状の板材である。各支持板11は、図3に示したように、表面2aにおける対角線上の中心位置Pから等しい距離d2の位置に固定されている。このとき、各支持板11は、長手辺11aが中心位置Pを挟んで対向し、かつ平行になるようにして固定されている。こうして、中心位置Pを挟んで対向している螺旋構造体10について、ワイヤーバネ12の中心軸CLが対向し、かつ平行になるようにしており、ワイヤーバネ12の配列方向を2通りに設定している。また、各支持板11が前述の位置に固定されることで、各螺旋構造体10がベース部材2上に等間隔で配置されている。
【0042】
次に、上部ユニット21は、図1、図2および図7〜図9に示すように、ベース部材22と、4枚の壁状部材23,24,25,26と、4つの螺旋構造体40と、2枚の受板27と、複数(図8〜図9では、12枚)の錘28と、ボルト29およびナット30とを有している。
【0043】
ベース部材22はベース部材2と同様に鋼等の金属を用いて正方形状に形成され、表面22aおよび裏面22bが平坦な板材である。このベース部材22は本発明における第2のベース部材であってベース部材2よりも外形の大きさが小さく形成されている。また、ベース部材22はボルト29が表面22aに起立するようにして固定されている。
【0044】
壁状部材23,24,25,26は本発明における第2の壁状部材であって、ベース部材22と同様に鋼等の金属を用いて形成された板材である。壁状部材23,24,25,26は、高さおよび厚さが等しく、そのそれぞれの表面23a,24a,25a,26aが表面22aと直交状に交差するようにして、ベース部材22の周縁部に固定されている。これら壁状部材23,24,25,26およびベース部材22は錘28を納めるための空間を形成している。また、壁状部材23,24,25,26は、図8に詳しく示すようにそれぞれの幅方向ほぼ中間部分に矩形状の切欠部23b,24b,25b,26bが形成されている。
【0045】
なお、本実施の形態では、ベース部材22とは別体の壁状部材23,24,25,26がベース部材22に固定された構造としているが、壁状部材23,24,25,26がベース部材22の周縁部に形成され、双方が一体となった箱状の構造にしてもよい。その場合、その箱状の構造物がベース部材になる。
【0046】
螺旋構造体40はワイヤーバネ12と棒状部材13a,13bとを有し、前述した螺旋構造体10と同様の構成を有している。螺旋構造体40のワイヤーバネ12が本発明における第2の環状索部材を構成している。
【0047】
この螺旋構造体40では、棒状部材13bが壁状部材23,24,25,26におけるそれぞれの切欠部23b,24b,25b,26bの下側部分に固定されている。各螺旋構造体40は壁状部材23,24,25,26に対し、各環状部12aを起立させて固定され、等間隔で配置されている。しかも、各螺旋構造体40は錘28の前後左右の四方向に配置されている。また、それぞれの棒状部材13aが前述した壁状部材3,4,5,6に固定されているため、各螺旋構造体40は壁状部材3,4,5,6にも各環状部12aを起立させて固定されている(詳しくは後述する図11,12参照)。
【0048】
受板27は矩形状の金属板であって、一方が壁状部材23,24,25の上端部に固定され、他方が25,26,23の上端部に固定されている。これら2枚の受板27に対し、図示しない蓋部材が固定されるようになっている。
【0049】
錘28は図10(a)に示すように、鋼等の金属を用いてベース部材22のほぼ1/3の大きさに形成された矩形状の板材であり、ボルト29を通すための挿通孔28aが中央に形成されている。上部ユニット21では、同じ錘28が4枚重ねで3セット、したがって合計12枚ベース部材22上に固定されている。その際、各錘28は挿通孔28aにボルト29を挿通した上で、ボルト29にナット30を締結することによってベース部材22に固定されている。各錘28はナット30の締結または解除によって、ベース部材22に対して着脱自在に構成されている。
【0050】
上部ユニット21は、錘28の代わりに図10(b)に示す錘31を用いることもできる。この錘31は表面および裏面に鋸歯状の凹凸部31bが形成されている(裏面は図示せず)。また、挿通孔31aは長手方向に長い長孔(ルーズホールともいう)になっている。
【0051】
錘31は重ね合わせると凹凸部31bが互いに噛み合う格好になる。そのため、制振装置50に振動が加わると各錘31の凹凸部31bがぶつかり合って各錘31がスライドすることを阻止しようとするから制振装置50の振動抑制効果を高めることができる。また、挿通孔31aは長手方向の長孔になっているから長手方向にスライドしやすくなっている。すると、錘31はスライドして壁状部材23,24,25,26に衝突しやすくなるため、制振装置50の振動抑制効果をさらに高めることができる。
【0052】
そして、制振装置50は図1に示すように、以上の構成を有する下部ユニット1に対して上部ユニット21を上側から納めた構成を有している。この場合、下部ユニット1のベース部材2よりも、上部ユニット21のベース部材22の外形の大きさが小さいので、空間17の中に上部ユニット21を上側から納めることができる。また、ベース部材2の周縁部に壁状部材3,4,5,6が固定され、しかもベース部材22の周縁部に壁状部材23,24,25,26が固定されているので、壁状部材3,4,5,6と、壁状部材23,24,25,26との間に空隙を確保することができる。この空隙の幅が棒状部材13aと棒状部材13bとの間隔に適合するようにしてあるため、螺旋構造体40が壁状部材23,24,25,26と壁状部材3,4,5,6の双方に固定されるようになっている。
【0053】
また、上部ユニット21を下部ユニット1に納めると、ベース部材22がベース部材2と対向することになる。このとき、ベース部材2には、螺旋構造体10が環状部12aを起立させて固定されているので、螺旋構造体10はベース部材22だけでなくベース部材2にも固定されている。
【0054】
一方、上部ユニット21には錘28が固定されているので、上部ユニット21を下部ユニット1に納めると、錘28やベース部材22の荷重によって螺旋構造体10が撓む。そのため、図11、詳しくは図12に示すように、螺旋構造体40は棒状部材13aよりも棒状部材13b側が高さhだけ垂直方向に下向きにずれる。すなわち、螺旋構造体40は、壁状部材3,4,5,6側の固定位置(本発明における第1の固定位置)よりも壁状部材23,24,25,26側の固定位置(本発明における第2の固定位置)が下方にずれた状態(この状態を内向き下り傾斜という)で固定されている、ということである。
【0055】
すると、螺旋構造体40の壁状部材3,4,5,6に対する固定位置と、壁状部材23,24,25,26に対する固定位置とを結ぶ直線Lと、水平面S(正確にはベース部材22の表面22a)との間で傾斜角αが現れる。この傾斜角αは後述する実施例の結果からみて、5度〜10度の範囲に設定することが望ましい。
【0056】
(制振装置の動作内容)
続いて以上の構成を有する制振装置50の動作内容について説明する。制振装置50は制振の対象となる固定構造物(以下の説明では、固定構造物の一例として、木造家屋を想定している)に固定して使用する。
【0057】
例えば地震が発生して木造家屋に水平振動が発生したとする。すると、その振動に伴い制振装置50も木造家屋と一緒になって水平方向に振動する。ところが、制振装置50は錘28を固定した上部ユニット21を有しており、その錘28は固有の慣性を有するため、固有の振動周期で水平方向に振動する。錘28が水平方向に振動すると上部ユニット21も同様に振動する。
【0058】
そして、上部ユニット21のベース部材22と下部ユニット1のベース部材2との双方に螺旋構造体10が固定されている。そのため、上部ユニット21の振動に伴いベース部材22とベース部材2との相対的な位置が水平方向にずれるが、そのずれ(水平方向の位置ずれ)の原因となった外力は棒状部材13a,13bを介して螺旋構造体10のワイヤーバネ12に加わる。
【0059】
このとき、ワイヤーバネ12は螺旋状に形成されているから弾力性を有し、外力により変形したときは元の形状に戻ろうと復元力を発揮する。ワイヤーバネ12は変形した際、索部材16の捩れが発生して座屈を生じ得るおそれがあるが、各環状部12aが棒状部材13a、13bに挿通されているため、座屈の発生が抑制されている。また、ワイヤーバネ12は複数の環状部12aが起立するようにして固定されているため、外力はすべての環状部12aに加わる。各環状部12aは加わった外力の向きと大きさに応じて傾斜したり撓む等して変形するが、それと同時並行的に復元力を発生してその変化を打ち消すように動く。
【0060】
一方、ワイヤーバネ12は索部材16を用いて構成されている。索部材16は多数の線状部材14をより合わせて形成されているので、環状部12aが前述のような動きをすると各線状部材14が隣接するもの同士で激しくこすれ合い、熱を発生させる。すなわち、ワイヤーバネ12は加えられた外力を熱に変換する熱変換機能を有している。環状部12aが加わった外力の向きと大きさに応じて変形し、それに伴い熱を発生することにより、ワイヤーバネ12が加わった外力を吸収することになる。また、棒状部材13a,13bが水平方向に沿ってどのような方向にずれてもそのずれに応じた熱変換機能をワイヤーバネ12が発生することになる。したがって、木造家屋に水平方向のどのような振動が発生しても(発生する振動の方向が定まっていなくても)、螺旋構造体10によってその振動を吸収することができる。
【0061】
また、螺旋構造体10のワイヤーバネ12は垂直振動が発生した場合は外力に応じて撓む。そのため、螺旋構造体10は水平方向の振動吸収機能を主体としつつ垂直方向の振動吸収機能も有している。さらに、ワイヤーバネ12は複数の環状部12aを備えた螺旋構造を有しているから、水平方向のずれによる変形を復元させる弾性作用を効果的に発揮する。
【0062】
そして、線状部材14は断面円形状であるため、隣接しているもの同士は接触しつつそれぞれの間に多数の隙間が形成されている。そのため、線状部材14が発生する熱は空気中に拡散され、螺旋構造体10の内部にとどめられることなく空気中に放出される。
【0063】
また、制振装置50は、螺旋構造体10を挟んで上下にベース部材2,22が配置され、それらベース部材2,22に螺旋構造体10が環状部12aを起立させて固定されている。制振装置50はこのような構造を採用したことにより、水平振動に対してワイヤーバネ12の各環状部12aによる熱変換機能を確実に発揮させることができる。そのうえ、制振装置50では、4つの螺旋構造体10を有し、ワイヤーバネ12の配列方向を2通り設定している。そのため、ワイヤーバネ12の変形の仕方が多様になり、水平方向にそった種々の振動を効果的に抑制することができる。
【0064】
一方、直下型の地震が発生して前述の木造家屋に垂直振動が発生したとする。すると、その振動に伴い制振装置50も木造家屋と一緒になって垂直方向に振動する。制振装置50は、錘28固有の振動周期で垂直方向(上下)に振動する。錘28が垂直方向に振動すると上部ユニット21も同様に振動する。
【0065】
そして、上部ユニット21の壁状部材23,24,25,26と下部ユニット1の壁状部材3,4,5,6の双方に螺旋構造体40が固定されている。そのため、上部ユニット21の振動に伴い壁状部材23,24,25,26と壁状部材3,4,5,6との相対的な位置が垂直方向にずれるが、そのずれ(垂直方向の位置ずれ)の原因となった外力は棒状部材13a,13bを介して螺旋構造体40のワイヤーバネ12に加わる。この外力は各環状部12aの全体に加わる。このばあいも、各環状部12aは加わった外力の向きと大きさに応じて起立状態を変化させる等して変形するが、それと同時並行的に復元力を発生してその変化を打ち消すように動く。ワイヤーバネ12は前述した熱変換機能を有しているため、水平振動が発生した場合と同様の熱変換機能を螺旋構造体40が発揮することによって垂直振動が吸収される。
【0066】
制振装置50は、螺旋構造体40が壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26とに環状部12aを起立させて固定されている。制振装置50は、このような構造を採用したことにより、垂直振動に対してワイヤーバネ12の環状部12aによる熱変換機能を確実に発揮させることができる。
【0067】
そのうえ、制振装置50では、4つの螺旋構造体40を有し、そのそれぞれが等間隔で配置されている。そのため、垂直振動による外力がいずれか1つに偏るようなことはなく4つの螺旋構造体40によってバランスよく吸収される。そのため、制振装置50では、垂直振動を4つの螺旋構造体40によってバランスよく抑制することができる。
【0068】
また、螺旋構造体40のワイヤーバネ12は水平振動が発生した場合も外力に応じて撓む。そのため、螺旋構造体40は垂直方向の振動吸収機能を主体としつつ水平方向の振動吸収機能も有している。さらに、ワイヤーバネ12は複数の環状部12a備えた螺旋構造を有しているから弾力性を有し、垂直方向のずれによる変形を復元させる。
【0069】
ところで、木造家屋に地震による振動が発生する場合、水平振動と垂直振動のいずれか一方だけが発生することよりも、両者が組み合わさった3次元的な振動が発生することが多い。その上、振動の方向もまちまちで定まってなく、振動が始まってから終わるまでの間に方向が変化していくこともある。地震によって木造家屋等の固定構造物や移動構造物に発生する振動や、移動中の車両等に発生する振動、車両の走行に伴い橋梁等に発生する振動は、このような不定性3次元振動になることがある。
【0070】
しかしながら、制振装置50は前述した構成を採用することによって、ワイヤーバネ12による水平振動に対する熱変換機能と垂直振動に対する熱変換機能とを同時並行的に発揮することができる。不定性3次元振動が構造物に発生した場合、そのうちの水平方向成分は主として螺旋構造体10が抑制し、垂直方向成分は主として螺旋構造体40が抑制する。螺旋構造体10,40はそれぞれのワイヤーバネ12が加えられた外力の向きと大きさに応じて熱変換機能を発揮することで振動を吸収する。そのため、制振装置50は3次元的などのような振動でも抑制することができる。したがって、制振装置50は、抑制できる振動の範囲が従来技術よりも大幅に拡大されており、不定性3次元振動を十分に抑制できるようになっている。
【0071】
また、制振装置50は構造物に対し、木造家屋の床面等にベース部材2を固定することによって設置することができるから、建築中に家屋はもとよりすでに建築された既存家屋にも設置することができる。
【0072】
さらに、制振装置50は、傾斜角αを5度〜10度の範囲に設定していることにより、振動抑制効果が高められている。さらに、制振装置50は、着脱自在に構成された複数の錘28を有しているから、設置しようとする構造物に応じて固定する錘28の重さを変えて上部ユニット21の重量を調整することができる。錘28は大きさが同じで同じ重さを有しているので、上部ユニット21の重量を定量的に調整することができる。しかも、壁状部材23,24,25,26に切欠部23a,24a,25a,26aが形成されているので、上部ユニット21への錘28の出し入れが容易に行える。壁状部材23,24,25,26のいずれか少なくとも1つにだけ切欠部23a,24a,25a,26aを形成しても錘28の出し入れが容易になる。しかしながら、壁状部材23,24,25,26のすべてに切欠部23a,24a,25a,26aを形成すればどの方向からでも錘28の出し入れが容易になるためより好ましいものとなる。
【0073】
(変形例1)
続いて制振装置50の変形例について図13を参照して説明する。図13(a)は変形例に係るベース部材122およびワイヤーバネ12を一部省略して示す平面図、図13(b)は変形例に係るワイヤーバネ112を示す斜視図である。
【0074】
前述した制振装置50では、壁状部材23,24,25,26に螺旋構造体40が固定されていたが、図13(a)に示すようにベース部材122の周縁部122aに環状部12aを張り出させかつ起立させてワイヤーバネ12を固定してもよい。ベース部材122はベース部材22と同様の板材であるが、周縁部122aに環状部12aに応じた複数の貫通孔122bが形成されている。各貫通孔122bに環状部12aを挿通させることにより、2つの対向部の一方だけがベース部材122に係合する。すると、係合している対向部以外の部分がベース部材122から張り出しかつ起立するようにしてワイヤーバネ12がベース部材122に固定される。ワイヤーバネ12を壁状部材3,4,5,6に固定するときは、最も張り出している部分から所定範囲(すなわち、2つの対向部の他方)を溶接したり、かしめたして固定すればよい。このようにしても、ワイヤーバネ12によって垂直振動に対する熱変換機能を発揮できるので、制振装置50は不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0075】
一方、ワイヤーバネ112は、交差している2つの環状部112a,112bを有し、環状部112a,112bの2つの交差部分が接続部材113で固定された構造を有している。ワイヤーバネ112は、1本の索部材16について、まず、水平面内を周回するようにして環状部112aを形成し、続いて垂直面を周回するようにして環状部112bを形成し、その上で、索部材16の両端部と環状部112a,112bの2つの交差部分を接続部材113で固定することによって得られる。
【0076】
そして、ワイヤーバネ112は螺旋構造体10の代わりにベース部材2、22の間に挟んで双方に固定することができる。また、ワイヤーバネ112は螺旋構造体40の代わりに壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26の間に挟んで双方に固定することもできる。
【0077】
こうして得られる制振装置50に振動が発生すると、振動に伴う位置ずれの原因となった外力がワイヤーバネ112に加わる。ワイヤーバネ112はワイヤーバネ12と同様に、加わった外力の向きと大きさに応じた熱変換機能を発揮して外力を吸収する。そのため、制振装置50は、ワイヤーバネ12の代わりにワイヤーバネ112を用いても、不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0078】
(変形例2)
続いて制振装置50の別の変形例について図14を参照して説明する。図14(a)はベース部材2に4本のワイヤーバネ12を固定した状態を示す平面図、図14(b)は並べ方を変えて4本のワイヤーバネ12を固定した状態を示す平面図、図14(c)は4つのワイヤーリング114を固定したベース部材2を示す斜視図である。
【0079】
前述の制振装置50では、螺旋構造体10が図3に示すような配置で固定されていたが、図14(a)に示すように4本のワイヤーバネ12を等間隔でベース部材2に固定してもよい。また、図14(b)に示すように対角線上の中心pから等距離に4本のワイヤーバネ12を並べてもよい。
【0080】
また、索部材16の両端を接続して一巻き状のワイヤーリング114とし、このワイヤーリング114をベース部材2の周縁部に沿って起立させて固定してもよい。これらのいずれを採用しても、制振装置50は不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【実施例】
【0081】
次に、前述した制振装置50の実施例について、図15〜図20を参照して説明する。本実施例では、前述した制振装置50を試作するとともに、図15、図17等に示すような木造軸組構造体200を作成した。木造軸組構造体200はガイドレール201上を振動台202と一体となって矢印Fで示す水平方向にスライドするように構成されている。この木造軸組構造体200の上面(木造家屋の2階の床)に錘203を載せ、その上に前述した制振装置50が固定されている。
【0082】
作成した木造軸組構造体200は高さ約2.5m、幅2.2m、奥行き2.4mで重量はおよそ1tである。振動台202は上下動に対する拘束力がなくガイドレール201上をスライドする構造であるため、引き抜き力が発生したときは木造軸組構造体200の浮き上がりを再現することができる。
【0083】
比較のため、前述した制振装置50を固定した場合のほか、制振装置50から螺旋構造体40を取り外した装置(比較用装置といい、図示せず)を用意し、その比較用装置を制振装置50の代わりに木造軸組構造体200に固定した。
【0084】
そして、制振装置50を固定した木造軸組構造体200と比較用装置を固定した木造軸組構造体200との双方について、垂直方向、水平方向それぞれの運動エネルギー減衰率を測定した。この減衰率は予め木造軸組構造体200だけの運動エネルギーを測定しておき、それとの比較で求めた。
【0085】
すると、比較用装置を固定した木造軸組構造体200では、減衰率が全体として低いものの、制振装置50を固定した木造軸組構造体200では、減衰率が大きく向上していることが確認できた。すなわち、前者の木造軸組構造体200では垂直方向の減衰率が10%〜30%程度であったが、後者の木造軸組構造体200では30%〜70%程度であった。また、前者の木造軸組構造体200では、水平方向の減衰率が5%〜25%程度であったが、後者の木造軸組構造体200では、10%〜55%程度であった。この結果から、制振装置50を採用することによって水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが理解される。
【0086】
また、制振装置50の錘28の枚数と、前述の傾斜角αを適宜変更しながら減衰率を測定したところ、図24に示すようになった。図24から明らかなとおり、錘28の枚数がいずれであっても、傾斜角αが5度または10度になったときの減衰率はその他の場合よりも高い。そのため、傾斜角αは5度から10度の範囲に設定することが有効と考えられる。
【0087】
図16は、振動台202の上に制振装置50を3台並べて固定し、その上に蓋部材204を重ねてから固定構造物210を設置した様子を示す斜視図である。固定構造物210は例えばコンピュータ等の精密機械、産業機械などを想定しており、図16では、サーバを想定している。このようにして実験を行った場合も前述の実施例と同様に水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが確認できた。
【0088】
図16の場合、振動台202から入力される振動が制振装置50で抑制された後に固定構造物210に入力される。この種の固定構造物210では、とりわけ振動からの保護の重要性が高い。そのため、図16のようにして制振装置50を介在させて設置することにより、固定構造物210に入力される振動を抑制することができる。例えば地震や強風等による振動や車両運搬中に発生する振動から固定構造物210を保護することができる。
【0089】
さらに、図17は、図15に示した木造軸組構造体200の中の、振動台202上に制振装置50を3台並べて固定し、その上に蓋部材204を重ねてから固定構造物210を設置した様子を示す斜視図である。この場合も、前述の各実施例と同様に水平方向、垂直方向のいずれについても振動抑制効果が向上していることが確認できた。
【0090】
一方、例えば地震による振動が木造家屋等の固定構造物に入力される場合、振動が始まった初期の時点で、それ以後よりも大きい振動が入力されることがある。初期に入力される特に大きな振動を効果的に抑制するためには、図18、図19に示すように、構造上、特に補強を要する部分にダンパー211を併設することが望ましい。図18では、図16に示した場合に対して、蓋部材204と振動台202とをつなぐようにしてダンパー211が装着されている。図19では、木造軸組構造体200の柱と梁とが接続されている箇所にダンパー211が装着されている。
【0091】
第2の実施の形態
次に、図20を参照して本発明の第2の実施の形態に係る制振装置60の構成について説明する。図20は制振装置60の構成を示す一部省略した平面図である。制振装置60は制振装置50と比較して上部ユニット21が上部ユニット121になっている点、4つの螺旋構造体10の配置が変更されている点で相違している。
【0092】
上部ユニット121は、円板状のベース部材123を有し、その周縁部に環状部を張り出させかつ起立させて4本のワイヤーバネ12Bが周方向に沿って等間隔配置で固定されている。ワイヤーバネ12Bはワイヤーバネ12と同様に複数の環状部12aを有している。また、ワイヤーバネ12Bは壁状部材3,4,5,6に固定されている。また、ベース部材123上に円板状の錘128が載置されている。4つの螺旋構造体10はベース部材123が円板状であることに伴い、配置が変更されている(4つの螺旋構造体10はベース部材123の下側に配置されているので図20には図示せず)。
【0093】
このような構成の制振装置60でも、水平方向の振動は主として螺旋構造体10のワイヤーバネ12が抑制し、垂直方向の振動は主としてワイヤーバネ12Bが抑制する。そのため、制振装置60は制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0094】
第3の実施の形態
次に、図21を参照して本発明の第3の実施の形態に係る制振装置70の構成について説明する。図21は制振装置70の構成を示す一部省略した平面図である。制振装置70は制振装置60と比較して、下部ユニット1が下部ユニット71になっている点、ワイヤーバネ12Bよりも長さの長いワイヤーバネ12Aがベース部材123の全周に渡って固定されている点で相違している。下部ユニット71はベース部材123よりも大きさの大きい円板状のベース部材72を有し、その周縁部に円筒状の壁状部材72aが形成されている。ベース部材72および壁状部材72aは全体として有底円筒状に形成されている。
【0095】
制振装置60の場合は、下部ユニット1が採用されていたため、ベース部材1が正方形状であり、壁状部材3,4,5,6とベース部材123との距離が一様になっていなかった。また、ベース部材123の全周に渡ってワイヤーバネ12Bを固定することが困難な構造であった。
【0096】
しかし、制振装置70では、下部ユニット71を採用しているので、ベース部材123の全周に渡ってワイヤーバネ12Aが固定されている。ベース部材123には貫通孔123aが全周に渡って等間隔で形成されており、ここにワイヤーバネ12Aが挿通されている。ワイヤーバネ12Aはベース部材123と壁状部材72aの双方に固定されている。
【0097】
このような制振装置70も、制振装置60と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。加えて、制振装置70では、ワイヤーバネ12Aがベース部材123の全周に渡って固定されている。そのため、制振装置70は垂直方向の振動抑制効果にムラがなく、ベース部材123の全周に渡ってほぼ均一な振動抑制効果を発揮させることができる。水平振動が発生した場合は主に図示しない4つの螺旋構造体10によって抑制される。ところが、水平振動に応じてベース部材123とベース部材72との相対的な位置がずれたときにそのずれに応じてワイヤーバネ12Aが撓むため、ワイヤーバネ12Aも水平振動を吸収する。この場合、ワイヤーバネ12Aは円板状のベース部材123の全周に固定されているので、どの方向にずれようがワイヤーバネ12Aが同じように撓み、ほぼ均一な振動抑制効果が発揮される。また、制振装置70は制振装置60よりもワイヤーバネ12Aの長さが長いので、制振装置60よりも振動抑制効果を向上させることもできる。
【0098】
第4の実施の形態
次に、図22を参照して本発明の第4の実施の形態に係る制振装置80の構成について説明する。図22(a)は制振装置80の構成を示す一部省略した平面図、図22(b)は同じくb−b線断面図である。
【0099】
制振装置80は制振装置50と比較して、下部ユニット1における4つの螺旋構造体10の代わりに螺旋構造体10Aを有する点、壁状部材3,4,5,6の高さが高くなっている点で相違している。
【0100】
制振装置50は4つの螺旋構造体10を有しているが、制振装置80は螺旋構造体10よりも環状部の大きさ(直径)の大きい螺旋構造体10Aを1つ有している。螺旋構造体10Aの大きさが螺旋構造体10よりも大きいので、1本の螺旋構造体10Aがベース部材2の中央に固定されている。制振装置50は4つの螺旋構造体10を有しているので、振動を各螺旋構造体10に分散させて吸収することができる。一方、螺旋構造体10Aは1本だけではあるが、螺旋構造体10よりも大きさの大きい環状部を複数有するので、制振装置80でも不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0101】
(変形例)
上記制振装置80は螺旋構造体10Aを1つ有しているが、上部ユニット21の重量が重くなると、上部ユニット21の重量によって螺旋構造体10Aが撓みすぎてしまうおそれがある。その場合は、制振装置80の代わりに図25(a)、(b)に示す制振装置85とすることが好ましい。制振装置85は制振装置80と比べて板バネ86を有する点で相違している。板バネ86は長さ方向の両端部を除く中間部分が環状部12aの内側を挿通するようにして配置されている。板バネ86はワイヤーバネ12の中心軸に沿った方向に長い帯状の板材を適宜折り曲げまたは湾曲させるなどして形成されている。板バネ86は両端部のうち一方(一端部)がベース部材2の表面に固定され、かつ他方(他端部)はベース部材2の表面から適宜離れて配置された自由端となっている。
【0102】
そして、上部ユニット21がその重量によって下方に移動すると、ある程度移動した時点で棒状部材13aが板バネ86に接触し、さらに移動すると板バネ86を変形させる。このとき、板バネ86は、自由端となっている他端部がベース部材2の表面に沿って水平方向にスライドし、元の形に戻ろうとする復元力を発揮する。そうすると、板バネ86は、棒状部材13aを上に押し上げようとする。こうして、制振装置85では、螺旋構造体10Aの撓みすぎを防止することができる。
【0103】
第5の実施の形態
次に、図23を参照して本発明の第5の実施の形態に係る制振装置90,95の構成について説明する。図23(a)は制振装置90の構成を示す一部省略した断面図、図23(b)は制振装置95の構成を示す一部省略した断面図である。
【0104】
制振装置90は制振装置50と比較して、下部ユニット1の構造が異なる点で相違している。制振装置90はベース部材2Aを有している。ベース部材2Aはベース部材22よりも大きさが小さい正方形状の板材であり、壁状部材3,4,5,6が形成されていない平板状に形成されている。また、制振装置90は制振装置50と比較して、4つの螺旋構造体10の配置が異なっている点でも相違している。制振装置90では、4つの螺旋構造体10はベース部材2Aの幅方向等間隔で平行に並べられている。
【0105】
制振装置50では、壁状部材3,4,5,6が形成されていたため、螺旋構造体40が壁状部材3,4,5,6と、壁状部材23,24,25,26とに固定されていた。制振装置90はベース部材2の代わりにベース部材2Aを有している。ベース部材2Aはベース部材22よりも大きさの小さい正方形状の板材であり、壁状部材3,4,5,6を有していない。螺旋構造体40は壁状部材3,4,5,6には固定されてなく、外側が自由端になっている。螺旋構造体40は内側が壁状部材23,24,25,26に固定され、外側が構造物100A,100Bに固定されている。構造物100A,100Bは例えば木造家屋の柱や壁などである。このようにしても、ベース部材2Aとベース部材22の相対的な位置を垂直方向にずらす外力が螺旋構造体40によって吸収されるので、制振装置90も制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。
【0106】
次に、制振装置95は上下に配置されたベース部材2Bとベース部材22Bとを有し、その両者の間に挟まる格好で螺旋構造体10と螺旋構造体40が固定されている。
【0107】
ベース部材2Bは平坦な正方形板状部分の周縁部に、板状部分と直交する壁状部材2Baが形成されている。ベース部材22Bは平坦な正方形板状部分の周縁部に、板状部分と直交する壁状部材22Baが形成されている。ベース部材2Bは板状部分が壁状部材2Baより上側に配置するように設置されている。ベース部材22Bも板状部分が壁状部材22Baより上側に配置するように設置されている。そして、ベース部材2Bとベース部材22Bとは、ベース部材2Bを外側からベース部材22Bが覆うようにして配置されている。ベース部材22Bの上側に錘28Aが着脱自在に固定されている。
【0108】
このような制振装置95に水平振動が発生した場合、その振動は主に螺旋構造体10によって抑制される。また、垂直振動が発生した場合、その振動は主に螺旋構造体40によって抑制される。そのため、制振装置95も、制振装置50と同様に不定性3次元振動を十分に抑制することができる。特に、制振装置95の場合、錘28Aがベース部材22Bの上側に着脱自在に固定されているので、交換や追加等が制振装置50よりも容易に行える。
【0109】
前述した各実施の形態では、螺旋構造体40を壁状部材3,4,5,6と壁状部材23,24,25,26との双方に固定していた。しかしながら、ベース部材22の大きさを小さくするなどして、螺旋構造体40を外側の壁状部材3,4,5,6にだけ固定し、内側の壁状部材23,24,25,26には固定しないようにしてもよい。そうすると、螺旋構造体40と内側の壁状部材23,24,25,26との間に空隙を確保することができる。この空隙は、木造家屋等の構造物に大きな変位が生じ、それに伴い上部ユニット21が大きく変位した際、上部ユニット21を螺旋構造体40に衝突させるための緩衝ゾーンとして機能させることができる。上部ユニット21が緩衝ゾーンを移動し、螺旋構造体40に衝突することによって運動エネルギーが吸収されるため、振動をより効果的に吸収できるようになる。
【0110】
一方、各実施の形態では、上部ユニットにおいてベース部材(例えばベース部材22)とは別に錘28を設け、錘28をベース部材(例えばベース部材22)に固定していた。しかしながら、ベース部材自体にも自重がある。そのため、例えばベース部材22の厚さを変える等して重さを重くし、錘28の働きを持たせることもできる。上部ユニット21は錘28を有しない構造とすることができる。
【0111】
また、ベース部材22の厚さを厚くすることにより、その側面の面積を拡大することができるので、ベース部材22の側面に螺旋構造体40を固定することができる。この場合、上部ユニット21は、壁状部材23,24,25,26を有しない構造にすることもできる。この場合、螺旋構造体40が固定されるベース部材22の側面は、ベース部材22の裏面(螺旋構造体10が固定されている部分、固定部分ともいう)と直交状に交差している交差部であり、この交差部に螺旋構造体40が固定されることになる。上部ユニット21のように壁状部材23,24,25,26を有する構造の場合は壁状部材23,24,25,26がベース部材22の裏面と直交状に交差しているので、交差部としての機能を発揮している。
【0112】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【0113】
以上の実施の形態では、固定構造物として主に木造家屋、精密機械、産業機械などを取り上げているが、本発明は上記以外の固定構造物や移動構造物についても適用することができる。本発明は例えば橋梁、高架式の道路や線路といった固定構造物や、車両、航空機、船舶といった移動構造物についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明を適用することにより、制振装置について、抑制可能な振動の範囲を拡大し、不定性3次元振動を抑制できるようになる。
【符号の説明】
【0115】
1…下部ユニット、2,22,72,122,123,2A,2B,22B…ベース部材、3,4,5,6,23,24,25,26,72a…壁状部材、10,40…螺旋構造体、12,112,12A,12B…ワイヤーバネ、14…線状部材、15…単位索部材、16…索部材、21…上部ユニット、28、31,28A…錘、50,60,70,80,85,90,95…制振装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記第1のベース部材および前記第2のベース部材のうちのいずれか一方における前記第1の環状索部材の固定部分と交差している交差部に前記環状部を起立させて固定されている制振装置。
【請求項2】
前記第1のベース部材および第2のベース部材のうちの前記第2の環状索部材が固定されている方に対して着脱自在に構成された錘を更に有する請求項1記載の制振装置。
【請求項3】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材の下側に配置されている第1のベース部材と、
前記第1の環状索部材の上側に配置されている第2のベース部材と、
前記第1のベース部材の周縁部に前記第1のベース部材と交差するように形成されている第1の壁状部材と、
前記第2のベース部材の周縁部に前記第2のベース部材と交差するように形成されている第2の壁状部材と、
該第2の壁状部材の内側の前記第2のベース部材上に載置されている錘とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1の壁状部材および前記第2の壁状部材に固定されている制振装置。
【請求項4】
前記第2の環状索部材の前記第1の壁状部材に対する第1の固定位置と前記第2の壁状部材に対する第2の固定位置とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角が所定範囲に設定されている請求項3記載の制振装置。
【請求項5】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の周縁部に前記環状部を張り出させかつ起立させて固定されている制振装置。
【請求項6】
前記第1の環状索部材および前記第2の環状索部材は、それぞれ前記環状部を複数備えた螺旋状に形成されている請求項1〜5のいずれか一項記載の制振装置。
【請求項7】
前記第2の環状索部材を複数有し、それぞれが等間隔で配置されている請求項1〜6のいずれか一項記載の制振装置。
【請求項8】
前記錘は、形状が等しく、かつ表面に凹凸が形成された複数の金属板によって構成されている請求項2〜4、6のいずれか一項記載の制振装置。
【請求項1】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記第1のベース部材および前記第2のベース部材のうちのいずれか一方における前記第1の環状索部材の固定部分と交差している交差部に前記環状部を起立させて固定されている制振装置。
【請求項2】
前記第1のベース部材および第2のベース部材のうちの前記第2の環状索部材が固定されている方に対して着脱自在に構成された錘を更に有する請求項1記載の制振装置。
【請求項3】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材の下側に配置されている第1のベース部材と、
前記第1の環状索部材の上側に配置されている第2のベース部材と、
前記第1のベース部材の周縁部に前記第1のベース部材と交差するように形成されている第1の壁状部材と、
前記第2のベース部材の周縁部に前記第2のベース部材と交差するように形成されている第2の壁状部材と、
該第2の壁状部材の内側の前記第2のベース部材上に載置されている錘とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1の壁状部材および前記第2の壁状部材に固定されている制振装置。
【請求項4】
前記第2の環状索部材の前記第1の壁状部材に対する第1の固定位置と前記第2の壁状部材に対する第2の固定位置とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角が所定範囲に設定されている請求項3記載の制振装置。
【請求項5】
複数の線状部材をより合わせた索部材を環状に形成した環状部を有する第1の環状索部材および第2の環状索部材と、
前記第1の環状索部材を挟んで上下に配置された第1のベース部材および第2のベース部材とを有し、
前記第1の環状索部材は、前記環状部を起立させて前記第1のベース部材および前記第2のベース部材に固定され、
前記第2の環状索部材は、前記第1のベース部材および第2のベース部材のうちのいずれか一方の周縁部に前記環状部を張り出させかつ起立させて固定されている制振装置。
【請求項6】
前記第1の環状索部材および前記第2の環状索部材は、それぞれ前記環状部を複数備えた螺旋状に形成されている請求項1〜5のいずれか一項記載の制振装置。
【請求項7】
前記第2の環状索部材を複数有し、それぞれが等間隔で配置されている請求項1〜6のいずれか一項記載の制振装置。
【請求項8】
前記錘は、形状が等しく、かつ表面に凹凸が形成された複数の金属板によって構成されている請求項2〜4、6のいずれか一項記載の制振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−27165(P2011−27165A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172956(P2009−172956)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(501055075)株式会社田中制震構造研究所 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(501055075)株式会社田中制震構造研究所 (3)
【Fターム(参考)】
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