説明

刺繍枠およびミシン

【課題】多量の情報を記憶可能、且つ、ミシンと確実に通信可能な刺繍枠、および、刺繍枠に記憶された情報を確実に取得できるミシンを提供する。
【解決手段】刺繍枠200は、縫製データ等を記憶したフラッシュメモリを含む枠記憶装置210を備えている。ミシンのキャリッジ20に設けられたホルダ24の左右の支持部92、93に、刺繍枠200の連結部203、204が装着されることにより、枠記憶装置210のコネクタ212が、ホルダ24に設けられたホルダコネクタ90と接続する。その結果、枠記憶装置210とミシンとの有線通信が可能となり、ミシンは、枠記憶装置210の備えるフラッシュメモリにアクセスして、記憶された縫製データ等を確実に取得することができる。ミシンは、フラッシュメモリに記憶された縫製データに従って、刺繍模様を縫製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍枠およびミシンに関する。より詳細には、本発明は、刺繍縫製可能なミシンの刺繍枠移送装置に装着される刺繍枠、および刺繍枠が装着可能な刺繍枠移送装置を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫製対象である加工布に、文字、記号、図柄等から構成される模様を刺繍縫製可能なミシンが知られている。このようなミシンは、加工布を保持する刺繍枠を移送する刺繍枠移送装置を備えている。刺繍枠は、刺繍縫製される模様に応じて様々な種類が用意されており、刺繍枠移送装置には、これらの異なる種類の刺繍枠が装着可能である。そこで、例えば、特許文献1には、刺繍枠に、刺繍枠に関する情報が記録された無線タグを設け、受信手段(アンテナ)を介して情報を読み取るミシンが提案されている。このミシンは、例えば、読み取った刺繍枠に関する情報に基づいて、選択された刺繍模様が刺繍枠内に収まるかどうかを判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−87576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のミシンは、刺繍枠に設けられた無線タグと無線通信を行って、刺繍枠に関する情報を取得して活用する。しかしながら、無線タグの記憶容量は限られているため、活用できる情報の量も限られてしまう。また、例えば、受信手段の通信範囲内に、ミシンに装着された刺繍枠の無線タグ以外にも無線タグが存在すると、混線が生じ、刺繍枠の無線タグからの情報を確実に取得できない虞がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、多量の情報を記憶可能、且つ、ミシンと確実に通信可能な刺繍枠、および、刺繍枠に記憶された情報を確実に取得できるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る刺繍枠は、刺繍縫製に供される加工布を保持する刺繍枠であって、刺繍縫製可能なミシンが有する刺繍枠移送装置に着脱可能に装着される装着部と、前記装着部が前記刺繍枠移送装置に装着されることにより、前記ミシンが有するミシン側コネクタと接続して前記ミシンとの有線通信を可能とする枠側コネクタと、前記枠側コネクタが前記ミシン側コネクタと接続している場合に、前記ミシンからのアクセスが可能な記憶手段とを備えている。つまり、前記刺繍枠は、装着部がミシンの刺繍枠移送装置に装着されることにより、ミシンと有線通信可能に接続する。したがって、刺繍枠は、ミシンとの間の通信を無線通信と比べてより確実に行うことができる。また、ミシンとの通信は有線通信で行われるので、記憶手段の容量を、例えば、無線通信で用いられる無線タグに比べて大きくすることができる。したがって、多量の情報を刺繍枠に記憶することが可能となる。
【0007】
前記記憶手段は、刺繍縫製される模様の色および針落ち点を特定し、刺繍縫製に使用されるデータである縫製データを記憶してもよい。この場合、使用者は、刺繍枠がミシンにセットされた後に、刺繍縫製される模様を指定する必要がない。したがって、例えば、使用者が同じ模様を複数の加工布に刺繍縫製したい場合、その縫製データを記憶している刺繍枠を使用すれば、その都度加工布を付け替えるだけで、模様を改めて指定することなく、何度でも同じ模様を刺繍縫製することが可能となる。
【0008】
前記記憶手段は、前記縫製データに加えて、前記縫製データに基づく刺繍縫製の進捗状況を示すデータである進捗データを記憶していてもよい。この場合、刺繍枠がミシンに装着されると、刺繍縫製される模様の縫製の進捗状況をミシンに認識させることができる。したがって、例えば、縫製が途中で中断された場合でも、その後、中断時点の状態から縫製を再開することが可能となる。複数のミシンの間で1つの刺繍枠を共用し、各ミシンで、そのミシンに装着された刺繍糸で縫製可能な部分のみ縫製して、他のミシンに引き渡すという作業が可能となる。
【0009】
前記記憶手段は、前記縫製データに加えて、または前記縫製データおよび前記進捗データに加えて、前記刺繍枠内の基準位置に対する前記模様の配置位置および配置角度を特定するデータである配置データを記憶していてもよい。この場合、使用者は、刺繍枠がミシンにセットされた後に、刺繍縫製される模様の配置位置や配置角度を指定する必要がない。例えば、使用者が模様の配置位置や配置角度を初期設定から変更した場合、刺繍枠が変更後の配置位置および配置角度を記憶しているので、これらを改めて指定することなく、何度でも同じ配置位置および配置角度で刺繍縫製することが可能となる。
【0010】
本発明の第2の態様に係るミシンは、刺繍縫製が可能なミシンであって、刺繍縫製に供される加工布に刺繍縫製を行う縫製手段と、前記加工布を保持する刺繍枠を移送する刺繍枠移送装置と、前記刺繍枠移送装置に設けられ、前記刺繍枠が有する装着部と係合して前記刺繍枠を支持する枠支持部と、前記刺繍枠の前記装着部が前記枠支持部に係合されることにより、前記刺繍枠が有する枠側コネクタと接続して有線通信を可能とするミシン側コネクタと、前記ミシン側コネクタが前記枠側コネクタと接続している場合に、前記刺繍枠が有する記憶手段にアクセスし、前記記憶手段に記憶された情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得によって取得された前記情報に基づいて前記縫製手段を制御する縫製制御手段とを備え、前記刺繍枠の前記記憶手段は、刺繍縫製される模様の色および針落ち点を特定する縫製データを記憶しており、前記縫製制御手段は、前記縫製データに基づいて前記縫製手段を制御することを特徴とする。
【0011】
前記ミシンは、刺繍枠の装着部が刺繍枠移送装置の枠支持部に係合されることによって、刺繍枠との有線通信が可能となる。したがって、ミシンは、刺繍枠との通信を無線通信に比べて確実に行うことができる。例えば、無線通信のための無線タグが刺繍枠に設けられた場合、ミシンには、情報取得手段として、比較的高価なタグリーダが必要となる。この場合に比べ、情報取得手段のコストを低減することができる。また、刺繍枠との通信に有線通信を用いるので、刺繍枠には、無線タグに比べて多量の情報が記憶可能である。したがって、刺繍縫製する模様の縫製データを刺繍枠に記憶しておくことで、ミシンは、縫製データに基づいて、その模様を刺繍縫製することができる。また、使用者が刺繍縫製される模様をミシンで指定する必要もない。
【0012】
前記ミシンは、前記刺繍枠の前記記憶手段にアクセスし、情報を記憶させる記憶制御手段をさらに備えていてもよい。この場合、前記刺繍枠の前記記憶手段は、前記縫製データに加えて、前記縫製データに基づく刺繍縫製の進捗状況を示すデータである進捗データを記憶し、前記記憶制御手段は、前記模様の刺繍縫製が完了する前に前記縫製手段による刺繍縫製が中断された場合、前記進捗データを更新して前記記憶手段に記憶させ、前記縫製制御手段は、前記進捗データに基づいて前記縫製手段を制御するとよい。
【0013】
このように、縫製データおよび進捗データを刺繍枠に記憶しておくことで、ミシンは、刺繍縫製される模様と刺繍縫製の進捗状況とを認識することができる。さらに、ミシンは、模様の刺繍縫製が完了する前に縫製が中断された場合、進捗データを刺繍枠の記憶手段に記憶させることで、縫製が途中で中断された場合でも、その後、中断時点の状態から縫製を再開することが可能となる。例えば、刺繍縫製を途中で中断し、割り込みで他の刺繍縫製を行い、その後、中断時点の状態から刺繍縫製を再開することができる。また、複数のミシンの間で1つの刺繍枠を共用し、各ミシンで、そのミシンに装着された刺繍糸で縫製可能な部分のみ縫製して、他のミシンに引き渡すという作業が可能となる。つまり、複数のミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製することができる。これにより、1台のミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様であっても、複数のミシンを使用して縫製できるので、煩雑な糸駒交換作業が不要となる。
【0014】
前記ミシンにおいて、前記刺繍枠の前記記憶手段は、前記縫製データに加えて、または前記縫製データおよび前記進捗データに加えて、前記刺繍枠内の基準位置に対する前記模様の配置位置および配置角度を特定するデータである配置データを記憶し、前記縫製制御手段は、前記配置データに基づいて前記縫製手段を制御してもよい。この場合、使用者は、刺繍枠がミシンにセットされた後に、刺繍縫製される模様の配置位置や配置角度を指定する必要がない。例えば、使用者が模様の配置位置や配置角度を初期設定から変更した場合、刺繍枠が変更後の配置位置および配置角度を記憶しているので、これらを改めて指定することなく、何度でも同じ配置位置および配置角度で刺繍縫製することが可能となる。
【0015】
前記ミシンは、前記模様の刺繍縫製が完了した場合、前記刺繍枠の前記記憶手段にアクセスし、前記進捗データおよび前記配置データの両方、または前記進捗データおよび前記配置データのうちいずれか一方を削除する第1削除手段をさらに備えていてもよい。この場合、模様の刺繍縫製が完了して、進捗データおよび配置データの両方、またはいずれか一方が削除されるが、縫製データは残っている。したがって、例えば、進捗データが削除された場合、使用者は刺繍枠に新しい加工布をセットし、ミシンで同じ模様を最初から縫製することができる。配置データが削除された場合、使用者は配置位置および配置角度を再調整した上で、ミシンで同じ模様を刺繍縫製することができる。
【0016】
前記ミシンは、前記刺繍枠の前記記憶手段に記憶された前記情報の少なくとも一部を削除する削除指示を受け付ける第1指示受付手段と、前記刺繍枠の前記記憶領域にアクセスし、前記第1指示受付手段によって受け付けられた前記指示に応じて、前記情報の少なくとも一部を削除する第2削除手段とをさらに備えていてもよい。この場合、削除指示に応じて、刺繍枠に記憶された情報の少なくとも一部が削除されるので、使用者は所望の情報を削除して、削除後の情報に基づいてミシンで刺繍縫製をすることができる。
【0017】
前記ミシンは、前記刺繍枠の前記記憶手段に新たな情報を記憶させる記憶指示を受け付ける第2指示受付手段をさらに備え、前記記憶制御手段は、前記第2指示受付手段によって受け付けられた前記記憶指示に応じて、前記新たな情報を前記記憶領域に記憶させてもよい。この場合、記憶指示に応じて、刺繍枠に新たな情報を記憶させることができるので、使用者は、例えば新たに刺繍縫製したい模様を刺繍枠に記憶させ、刺繍縫製を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】刺繍枠200の平面図である。
【図2】フラッシュメモリ220の記憶エリアおよび記憶される情報の説明図である。
【図3】多針ミシン1の斜視図である。
【図4】針棒ケース21の内部を示す斜視図である。
【図5】刺繍枠200が取り付けられたキャリッジ20の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図8】多針ミシン1のメイン処理のフローチャートである。
【図9】メイン処理で行われる新規模様縫製処理のフローチャートである。
【図10】メイン処理で行われる枠記憶模様縫製処理のフローチャートである。
【図11】メイン処理、新規模様縫製処理、枠記憶模様縫製処理で行われるクリア処理のフローチャートである。
【図12】刺繍データ処理装置500の電気的構成を示すブロック図である。
【図13】刺繍データ処理装置500のメイン処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る刺繍枠およびミシンの実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、これらの図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成、各種処理のフローチャートなどは、単なる説明例である。
【0020】
最初に、図1、図2、図6および図7を参照して、本実施形態における刺繍枠200について説明する。図1の上側を刺繍枠200の右側、図1の下側を刺繍枠200の左側、図1の右側を刺繍枠200の前側、図1の左側を刺繍枠200の後ろ側とする。まず、刺繍枠200の構成について説明する。刺繍枠200は、後述する多針ミシン1(図3参照)等の刺繍縫製が可能なミシンに装着され、刺繍模様の縫製に使用される枠である。図1に示すように、刺繍枠200は、外枠201と、内枠202と、左右1対の連結部203、204と、枠記憶装置210とを備えている。
【0021】
外枠201および内枠202は、刺繍が施される加工布(図1には図示せず)を保持する部位である。外枠201および内枠202は、それぞれ、左右方向に長い、角が丸みを帯びた矩形枠状の部材である。外枠201の内周は、内枠202の外周と略同一形状であり、内枠202は、外枠201内に着脱可能に嵌合する。加工布(図1には図示せず)は、外枠201と内枠202との間に挟まれ、ピンと張った状態で保持される。
【0022】
左右の連結部203、204は、多針ミシン1のホルダ24(図5参照)に装着され、支持される部位である。連結部203、204は、いずれも前後方向に長い矩形状の板部材である。左連結部203は、その右端部の2箇所において、内枠202の左部に2つの螺子231で固定されている。右連結部204は、その左端部の2箇所において、内枠202の右部に2つの螺子241で固定されている。左連結部203の左前端部近傍には、係合孔232が設けられている。右連結部204の右前端部近傍には、係合溝242が設けられている。係合孔232および係合溝242は、連結部203、204を後述するホルダ24上で適正な位置に固定するために使用される。
【0023】
枠記憶装置210は、縫製の対象となる刺繍模様に関する情報を記憶する装置である。枠記憶装置210は、箱状の筐体211と、筐体211から突出するコネクタ212を備えている。筐体211は、板状の左連結部203の後端中央部の下面に固定されている(図6参照)。コネクタ212は、左連結部203の後端から後方に突出している。枠記憶装置210は、コネクタ212を介して他の機器と接続可能である。
【0024】
図7に示すように、枠記憶装置210は、フラッシュメモリ220(以下、枠メモリ220という)を備えている。フラッシュメモリ220は、コネクタ212を介して枠記憶装置210に接続した外部機器からのアクセスが可能である。枠記憶装置210は、例えば、USBデバイスとして構成できる。この場合、枠記憶装置210は、USBコネクタであるコネクタ212を介してUSBホスト機能を有する他の機器と接続されると、リムーバブルディスクとして認識される。
【0025】
図2を参照して、枠メモリ220が有する記憶エリアと、枠メモリ220に記憶される情報について説明する。図2に示すように、枠メモリ220は、縫製データ記憶エリア221と、配置データ記憶エリア222と、進捗データ記憶エリア223と、位置設定記憶エリア224を含む複数の記憶エリアを有する。図2に図示されていない記憶エリアが含まれていてもよい。
【0026】
縫製データ記憶エリア221には、縫製データが記憶される。本実施形態の縫製データは、刺繍縫製が可能なミシンで縫製を行うために必要な情報であり、刺繍模様の縫目を形成するための針落ち点を特定する情報と、縫目の色、すなわち刺繍糸の色を特定する情報とが含まれる。より詳細には、縫製データは、使用される刺繍糸の色を示す色情報(例えば、予め糸色毎に設定されている糸番号、又は色のRGB値など)とその使用順、および針落ち点の座標とその縫い順を示すデータの集合である。本実施形態では、後述する刺繍枠移送機構11により、刺繍枠200がX軸方向とY軸方向とに移送されるので、針落ち点の座標は、刺繍模様の中心位置をC(X,Y)=(0,0)とするX,Y座標で表される。図2に示すように、縫製データ記憶エリア221には、刺繍模様の数nに応じて、少なくとも1種類の縫製データが記憶される。
【0027】
配置データ記憶エリア222には、縫製データ記憶エリア221に縫製データが記憶されている刺繍模様の配置データとして、位置データと角度データが記憶される。位置データは、刺繍枠200内の基準位置に対する刺繍模様の配置位置を示す情報であり、角度データは、刺繍模様を回転させて配置する配置角度に関する情報である。
【0028】
本実施形態では、位置データは、基準位置から刺繍模様の中心位置までのX軸方向の距離およびY軸方向の距離(mm)で表される。初期設定における基準位置から刺繍模様の中心位置までのX軸方向の距離およびY軸方向の距離はいずれもゼロ(mm)である。つまり、縫製データによれば、刺繍模様は、中心位置が基準位置と一致するように刺繍枠200内に配置される。また、本実施形態では、角度データは、基準位置を中心として刺繍模様が回転される角度(度)で表される。角度の基準はX軸方向を基準とし、初期設定における刺繍模様の回転角度はゼロ(0)度である。
【0029】
進捗データ記憶エリア223には、縫製データ記憶エリア221に縫製データが記憶されている刺繍模様の進捗データが記憶される。進捗データは、刺繍模様の縫製の進捗状況を示す情報である。前述したように、縫製データは、使用される刺繍糸の色情報とその使用順、および針落ち点の座標とその縫い順を示すデータの集合である。したがって、例えば、進捗データとして刺繍糸の色情報とその使用順を使用すれば、刺繍模様の縫製において、何番目のどの色の刺繍糸での縫製まで完了しているかを特定できる。また、進捗データとして、針落ち点の数を使用すれば、刺繍模様のどの縫目の縫製まで完了しているかを特定できる。以下、針落ち点の数を、針数とする。
【0030】
位置設定記憶エリア224には、位置設定フラグが記憶される。位置設定フラグは、ユーザによる刺繍模様の配置位置および配置角度の設定が完了したか否かを示すフラグである。具体的には、位置設定フラグは、1の場合、すでに配置位置および配置角度の設定が完了していることを示し、0の場合、まだ配置位置および配置角度の設定が完了していないことを示す。
【0031】
前述したように、枠メモリ220は、コネクタ212を介して枠記憶装置210に接続した外部機器からアクセスが可能である。よって、コネクタ212を介して枠記憶装置210に接続した外部機器は、情報(例えば、縫製データ、配置データ、進捗データおよび位置設定フラグ)を枠メモリ220に書き込んだり、枠メモリ220から情報を読み込んで利用したりすることができる。
【0032】
次に、図3〜図6を参照して、刺繍枠200を装着可能なミシンの一例である多針ミシン1(以下、ミシン1という)の物理的構成について説明する。以下の説明では、図3の左下側をミシン1の前方とし、図3の右上側をミシン1の後方とする。図3の左上側をミシン1の左側とし、図3の右下側をミシン1の右側とする。
【0033】
図3に示すように、ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、ミシン1全体を支持する。支持部2の上面には、前後方向に延びる、左右一対のガイド溝25がある。脚柱部3は、支持部2から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方へ延びる。アーム部4の先端には、針棒切替機構(図示せず)によって左右方向に移動される針棒ケース21が設けられている。
【0034】
図4を参照して、針棒ケース21の内部構成について説明する。図4に示すように、針棒ケース21内には、上下方向に延びる6本の針棒31が、左右方向に等間隔で設けられている。針棒31は、針棒ケース21のフレーム80に固定された上下2個の固定部材(図示せず)によって上下方向に摺動可能に支持されている。各針棒31の上半部には押えバネ72が設けられ、下半部には押えバネ73がそれぞれ設けられている。押えバネ72と押えバネ73との間には、針棒抱き70が設けられ、押えバネ73の下には押え抱き83が設けられている。
【0035】
針棒31は、主軸モータ127(図7参照)を駆動源とする針棒駆動機構85によって、上下方向に摺動される。針棒駆動機構85は、天秤駆動カム75と、連結部材76と、伝達部材77と、ガイド棒78と、連結ピン(図示せず)とを備える。針棒31の下端には、縫針35(図3参照)が装着されている。押え足71は、押え抱き83から縫針35の下端部(先端部)よりも僅かに下方に伸びるように形成され、針棒31の上下動と連動して、間欠的に加工布を下方へ押圧する。
【0036】
図3に示すように、アーム部4上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、上下方向に延びる糸立棒14が3つ設けられている。糸立棒14には、糸駒13が装着される。糸駒台12には、針棒31の数と同じ6個の糸駒13が載置できる。糸駒13から供給される上糸15は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の目孔(図示せず)に供給される。
【0037】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、開始/停止ボタン61を含む操作ボタンとを備えている。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作すると(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)、タッチパネル8によって検知される押圧位置に対応して、どの項目が選択されたかが認識される。ユーザは、このようなパネル操作によって縫製模様や縫製条件等を選択できる。開始/停止ボタン61は、縫製の開始および停止の指示を入力するボタンである。
【0038】
アーム部4の下方に平行して、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する釜(図示せず)が設けられている。また、シリンダベッド10の内部には、釜を回転駆動する釜駆動機構(図示せず)がある。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形状の針板16がある。針板16には、縫針35が挿通される針穴36が設けられている。
【0039】
アーム部4の下方且つシリンダベッド10の上方には、刺繍枠移送機構11のキャリッジ20が設けられている。ここで、図3、図5および図6を参照して、刺繍枠移送機構11について説明する。刺繍枠移送機構11は、キャリッジ20と、X軸移動機構(図示せず)と、Y軸移動機構(図示せず)とを備えている。キャリッジ20は、Yキャリッジ23と、Yキャリッジ23に取り付けられたXキャリッジ22と、Xキャリッジ22に取り付けられたホルダ24とを備えている。Y軸移動機構は、支持部2内に設けられ、Yキャリッジ23を前後方向(Y軸方向)に移動させる。X軸移動機構は、Yキャリッジ23内に設けられ、Xキャリッジ22を左右方向(X軸方向)に移動させる。
【0040】
図3に示すように、Yキャリッジ23は、横長の箱状であり、左右一対の支持部2の間に掛け渡されるように左右方向に延びている。Yキャリッジ23(図5参照)は、Xキャリッジ22を左右方向に移動可能に支持する。支持部2内に設けられたY軸移動機構は、左右一対の移動体26と、Y軸モータ134(図7参照)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。移動体26は、Yキャリッジ23の左右両端の下部に連結され、支持部2に設けられたガイド溝25を上下に貫通している。Y軸モータ134は、ステッピングモータである。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、Y軸モータ134を駆動源として、移動体26をガイド溝25に沿って前後方向(Y軸方向)に移動させる。その結果、移動体26上に固定されたYキャリッジ23が前後方向(Y軸方向)に移動する。
【0041】
図5に示すように、Xキャリッジ22は、左右方向の長さがYキャリッジ23の二分の一程度の板部材であり、その後部は、Yキャリッジ23に左右方向(X軸方向)にスライド移動可能に支持されている。Xキャリッジ22の前部は、Yキャリッジ23の正面側下部から前方に突出している。Yキャリッジ23内に設けられたX軸移動機構は、X軸モータ132(図7参照)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。X軸モータ132は、ステッピングモータである。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、X軸モータ132を駆動源として、Xキャリッジ22を左右方向(X軸方向)に移動させる。
【0042】
ホルダ24は、Xキャリッジ22の前部に取り付けられており、刺繍枠200を着脱可能に支持する。ホルダ24は、本体部91と、右支持部93と、左支持部92とを備えている。本体部91は、左右方向の長さがYキャリッジ23と同程度の平面視矩形状の板部材であり、その中央部がXキャリッジ22に取り付けられている。本体部91の左右方向中央やや左寄りの上面には、上方に突出する案内ピン911が設けられている。
【0043】
右支持部93は板部材であり、本体部91の上面右方に重ねて固定的に取り付けられた基端部931と、基端部931から前方に延びる右腕部932とを含む。右腕部932の先端部上面には、上方に突出する係合ピン937が設けられている。係合ピン937の後方には、板バネ98が設けられている。板バネ98は、後部で右腕部932の上面に螺子止めされている。板バネ98は、刺繍枠200がホルダ24に装着される際、右腕部932との間で刺繍枠200の右連結部204を挟み込んで支持する。係合ピン937は、右連結部204に設けられた係合溝242に係合する。
【0044】
左支持部92は板部材であり、本体部91の上面左方に重ねて可動的に取り付けられた基端部921と、基端部921から前方に延びる左腕部922とを含む。左支持部92は、右支持部93とほぼ左右対称の形状を有するが、基端部921の長さは、基端部931よりも長い。基端部921は、本体部91に沿って左右方向に延びる案内溝925を有する。本体部91の案内ピン911は案内溝925に挿通されている。よって、左支持部92は、案内溝925の長さ分だけ、本体部91に沿って左右方向にスライド移動が可能である。
【0045】
図示はしないが、本体部91には、左支持部92を左右方向の複数の所定箇所で選択的に位置決めするための固定機構が設けられている。ミシン1には、図5に示す刺繍枠200の他、大きさ及び形状が異なる複数種類の他の刺繍枠を装着可能である。よって、使用される刺繍枠の大きさに応じてユーザが固定機構を操作することにより、左支持部92は、複数の所定箇所のうちの1箇所に位置決め固定される。
【0046】
左腕部922の先端部上面には、上方に突出する係合ピン927が設けられている。係合ピン927の後方には、板バネ97が設けられている。板バネ97は、後部で左腕部922の上面に螺子止めされている。板バネ97は、刺繍枠200がホルダ24に装着される際、左腕部922との間で刺繍枠200の左連結部203を挟み込んで支持する。係合ピン927は、左連結部203に設けられた係合孔232に係合する。
【0047】
さらに、左腕部922の前後方向中央部の下面には、刺繍枠200の枠記憶装置210のコネクタ212と結合するホルダコネクタ90が、右方に突出するように設けられている。ホルダコネクタ90は、図示しない配線によって、ミシン1の制御部100(図7参照)に接続されている。ホルダコネクタ90の前端は、図5に示すように刺繍枠200が適正にホルダ24に装着された場合、左連結部203の後端と前後方向で同一位置となるよう配置されている。なお、枠記憶装置210がUSBメモリで構成される場合、ホルダコネクタ90は、USBコネクタとすればよい。
【0048】
ユーザは、刺繍枠200をホルダ24に装着する場合、まず、左支持部92を左右方向において適切な位置に固定する。そして、図5および図6に示すように、刺繍枠200の左右の連結部203、204を、それぞれ左腕部922と板バネ97との間、および右腕部932と板バネ98との間に挟みこまれるように差し込む。次いで、左腕部922の係合ピン927に左連結部203の係合孔232を係合させるとともに、右腕部932の係合ピン937に右連結部204の係合溝242を係合させる。その結果、刺繍枠200が適正位置でホルダ24に装着される。
【0049】
刺繍枠200がホルダ24に装着されるのとあわせて、ホルダコネクタに90に、左連結部203の後端から後方へ突出する枠記憶装置210のコネクタ212が結合され、両者が有線通信可能に接続される。その結果、ミシン1では、枠メモリ220に記憶された縫製データ等の情報を読み込み、利用することが可能となる。また、ミシン1に記憶されている情報を、枠メモリ220に書き込むことも可能となる。
【0050】
次に、ミシン1の電気的構成について、図7を参照して説明する。図7に示すように、ミシン1は、ミシン1の制御全般を司る制御部100を備えている。制御部100は、CPU101と、ROM102と、RAM103と、EEPROM104と、入出力インタフェイス(I/O)105とを備え、これらはバスによって相互に接続されている。I/O105には、駆動回路121〜126と、タッチパネル8と、開始/停止ボタン61と、ホルダコネクタ90とが接続されている。
【0051】
CPU101は、ミシン1の主制御を司り、ROM102のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶されたミシン1を動作させるための各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。なお、プログラムはフレキシブルディスク等の外部記憶装置に記憶されていてもよい。ROM102は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備えている。模様記憶エリアには、ユーザがミシン1において選択可能な各種の刺繍模様(内蔵模様)を縫製するための縫製データが記憶されている。RAM103は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU101が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられる。EEPROM104は、読み書き可能な記憶素子であり、ミシン1が各種処理を実行するための各種パラメータ等が記憶されている。
【0052】
駆動回路121は主軸モータ127に接続しており、CPU101からの制御信号に従って主軸モータ127を駆動する。主軸モータ127は、主軸74(図4参照)を回転させることにより、針棒駆動機構と釜駆動機構(いずれも図示せず)とを駆動させる。駆動回路122は針棒切替用モータ128に接続しており、CPU101からの制御信号に従って針棒切替用モータ128を駆動する。針棒切替用モータ128は、針棒切替機構(図示せず)を駆動して、針棒ケース21を左右方向に移動させる。駆動回路123は切断機構用モータ129に接続しており、CPU101からの制御信号に従って切断機構用モータ129を駆動する。切断機構用モータ129は、切断機構を駆動して、縫針35(図3参照)に供給されている上糸15(図3参照)を切断する。
【0053】
駆動回路124および125は、それぞれ、X軸モータ132およびY軸モータ134に接続しており、CPU101からの制御信号に従ってこれらを駆動する。X軸モータ132は、前述したXキャリッジ22(図5参照)を左右方向(X軸方向)に移動させることにより、刺繍枠200を左右方向に移動させる。Y軸モータ134は、前述した移動体26(図3参照)を前後方向(Y軸方向)に移動させることにより、刺繍枠200を前後方向に移動させる。駆動回路126は、LCD7に接続しており、CPU101からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。ホルダコネクタ90は、前述したように、刺繍枠200がホルダ24に装着されると、枠記憶装置210のコネクタ212と結合する。
【0054】
次に、図3から図5を参照して、刺繍枠200に保持された加工布39に縫目を形成するミシン1の動作について説明する。加工布39を保持する刺繍枠200がホルダ24に支持される。針棒切替用モータ128(図7参照)に駆動される針棒切替機構(図示せず)によって針棒ケース21が左右移動されることで、6本の針棒のうち、上下駆動される1本の針棒31が針穴36(図3参照)の鉛直上方に配置される。刺繍枠移送機構11によって、刺繍枠200が所定の位置に移動される。主軸モータ127によって主軸74が回転駆動されると、針棒駆動機構85が駆動される。
【0055】
より詳細には、主軸74の回転駆動は、天秤駆動カム75を介して連結部材76に伝達され、連結部材76が枢支されている伝達部材77が針棒31と水平に配置されたガイド棒78にガイドされて上下駆動される。そして、その上下駆動が連結ピン(図示せず)を介して針棒31に伝達され、縫針35が装着される針棒31が上下駆動される。また、天秤駆動カム75の回転によって、図示しないリンク機構を介して天秤19が上下駆動される。一方、主軸74の回転がシリンダベッド10内の釜駆動機構(図示せず)にも伝達され、釜(図示せず)が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、加工布39に縫目が形成される。
【0056】
次に、図8〜図10を参照して、ミシン1で刺繍模様を縫製する場合に実行される処理について説明する。以下に説明する処理は、ROM102に記憶されたプログラムに従って、CPU101が実行する。図8に示すメイン処理は、ミシン1の電源がONにされ、刺繍枠200がミシン1のホルダ24に装着され、枠記憶装置210のコネクタ212がホルダコネクタ90に接続されたことがCPU101に検知されると開始される。
【0057】
まず、CPU101は、ホルダコネクタ90およびコネクタ212を介して枠メモリ220(図7参照)にアクセスし(S101)、枠メモリ220の縫製データ記憶エリア221(図2参照)に縫製データが記憶されているか否かを判断する(S102)。縫製データ記憶エリア221に縫製データが記憶されていない場合には(S102:NO)、枠メモリ220に縫製対象とする刺繍模様を特定する情報が記憶されていないので、ユーザが刺繍模様を特定して縫製を行う新規模様縫製処理が行われる(S200および図9)。
【0058】
図9に示すように、新規模様縫製処理では、ユーザによって選択された刺繍模様の情報が受け付けられる(S201)。より詳細には、まず、LCD7にミシン1の内蔵模様の一覧が選択可能に表示される。ユーザがパネル操作によっていずれかの刺繍模様を選択すると、タッチパネル8の押圧位置に応じて選択された刺繍模様(以下、選択模様という)が特定され、選択模様の縫製データがROM102からRAM103に読み出される。ミシン1では、ユーザによって選択された複数の内蔵模様を組み合わせて刺繍縫製することもできる。この場合、ユーザは、LCD7に表示される編集画面に設けられた結合ボタンを選択した後、所望の内蔵模様を複数選択すればよい。この場合、複数の選択模様の縫製データがRAM103に読み出される。
【0059】
続いて、選択模様の配置位置および配置角度の編集が行われる(S202)。例えば、LCD7に、選択模様の配置位置および配置角度を編集するためのキー等を示す編集画面(図示せず)が表示される。編集画面には、位置編集用の8方向の移動キー、角度編集用の角度設定キーが設けられる。そして、ユーザのパネル操作に応じて、配置位置や配置角度が編集される。選択模様が複数ある場合、それぞれの選択模様について、配置位置および配置角度の編集が可能である。
【0060】
ミシン1の刺繍座標系は、図5に示すように、Xキャリッジ22の移動方向である左右方向がX軸方向であり、Yキャリッジ23の移動方向である前後方向がY軸方向である。そして、縫製領域250の中心が針穴36(図3参照)の中心と一致する位置が原点O(X,Y)=(0,0)とされる。なお、縫製領域250は、刺繍枠200の種類に応じて内枠202内に設定される。刺繍模様の配置位置は、この原点位置を基準位置として設定され、配置角度は、原点位置を中心としてX軸に対する回転角度として設定される。
【0061】
前述したように、縫製データにおいて、刺繍模様の中心位置Cの座標はC(X,Y)=(0,0)なので、中心位置Cは、原点Oに一致している。よって、移動キーの操作に応じて、中心位置Cの原点OからのX軸方向の移動距離およびY軸方向の移動距離が算出される。また、角度設定キーの操作に応じて、原点Oを中心としたX軸に対する回転角度が算出される。編集画面に表示される編集終了ボタンがパネル操作で選択されると、配置位置(移動距離)および配置角度(回転角度)が確定される。移動キーや角度設定キーが操作されないまま編集終了ボタンが選択された場合には、移動距離および回転角度は、初期値のゼロ(mm)およびゼロ(度)で確定される。
【0062】
CPU101は、枠メモリ220にアクセスし、ステップS201でRAM103に読み出された選択模様の縫製データと、ステップS202で得られた配置データと、選択模様の縫製の進捗状況を示す進捗データとを枠メモリ220に記憶する(S203)。より詳細には、CPU101は、縫製データを縫製データ記憶エリア221に記憶させる。X軸方向の移動距離およびY軸方向への移動距離を示すデータを、位置データとして配置データ記憶エリア222に記憶させる。回転角度を示すデータを、角度データとして配置データ記憶エリア222に記憶させる。選択模様がn個ある場合は、図2に示すように、選択模様毎に、縫製データ、位置データおよび角度データが記憶されることになる。また、選択模様の縫製はまだ開始されていないので、進捗データ記憶エリア223に、進捗データとして初期値(例えば、ゼロ)が記憶される。
【0063】
ユーザによる選択模様の配置位置と配置角度の設定が完了したので、CPU101は、位置設定フラグを1として、枠メモリ220の位置設定記憶エリア224に記憶させる(S204)。
【0064】
CPU101は、操作部6に設けられた開始/停止ボタン61(図3参照)が押下されたことを検知すると、選択模様の縫製を開始する(S205)。そして、縫製データに含まれるデータを順に読み出して、選択模様を縫製する(S206)。具体的には、縫製データの最初の色情報により特定される刺繍糸の色に応じて、針棒切替用モータ45(図7参照)が駆動され、6本の針棒のうち、その色の刺繍糸(上糸15)が供給された縫針35が装着された針棒31が選択される(図3参照)。
【0065】
X軸モータ132およびY軸モータ134(図7参照)が駆動され、キャリッジ20が移動することにより、刺繍枠200が最初の針落ち点の座標に応じた位置に移動する。配置角度および/または配置位置がステップS202で編集され、初期値以外の値とされている場合、配置データに応じて針落ち点の座標が修正された上で、刺繍枠200が移動される。主軸モータ127によって主軸74が回転駆動されると、針棒駆動機構85および釜駆動機構(図示せず)が駆動され、縫目が形成される。このようにして、同じ刺繍糸で縫製される縫目が縫い順に従って形成された後、次の刺繍糸の色情報が読み出されると、その刺繍糸の色情報に対応する針棒31が選択され、同様に縫目が形成されていく。
【0066】
CPU101は、開始/停止ボタン61が押下されたことを検知した場合、選択模様が完成した場合、または糸交換が必要となった場合、縫製停止が指示されたと判断し、主軸モータ127等の駆動を中止して、縫製を停止する(S207)。そして、枠メモリ220にアクセスし、進捗データ記憶エリア223に、進捗データを記憶させる(S208)。具体的には、例えば、どの色まで縫製が完了したかを特定する場合、縫製が完了した刺繍糸の色情報とその使用順を特定するデータを記憶させる。また、どの縫目まで縫製が完了したかを特定する場合、縫製が完了した針数を記憶させればよい。
【0067】
CPU101は、選択模様の縫製が完了したか、つまり選択模様が完成したか否かを判断する(S209)。使用順が最後の色の、縫い順が最後の針落ち点の縫目が形成されていなければ、選択模様の縫製は完了していないと判断される(S209:NO)。この場合、前述の処理で枠メモリ220に、選択模様の縫製データ、配置データ、および進捗データが記憶され、位置設定フラグが1とされた状態で、新規模様縫製処理は終了する。
【0068】
使用順が最後の色の、縫い順が最後の針落ち点の縫目が形成されていれば、選択模様の縫製は完了したと判断される(S209:YES)。この場合、ステップS203等で枠メモリ220に記憶されたデータはユーザにとって不要の場合があるため、ユーザの指定に応じて枠メモリ220のデータをクリアするためのクリア処理が行われる(S400および図11)。
【0069】
図11に示すように、クリア処理では、どのような指示がなされたかに応じて、クリアされるデータが異なる。クリア処理が開始されると、LCD7には、指示入力画面(図示せず)が表示される。例えば、指示入力画面には、縫製データ、配置データおよび進捗データの少なくとも1つを選択可能なボタン(ただし、縫製データのみの選択は不可)と、クリアボタンと、保存ボタンとが設けられる。ユーザのパネル操作で入力された指示が受け付けられる(S400)。
【0070】
ユーザが、縫製データ、配置データおよび進捗データのすべてを選択した後、クリアボタンを選択すると、CPU101は、全データのクリアが指示されたと判断する(S401:YES)。この場合、CPU101は、枠メモリ220の縫製データ記憶エリア221に記憶された縫製データと、配置データ記憶エリア222に記憶された配置データ(位置データおよび角度データ)と、進捗データ記憶エリア223に記憶された進捗データのすべてをクリアして初期値に戻す(S402)。配置位置と配置角度の設定が解除されたので、位置設定記憶エリア224に記憶された位置設定フラグを0として(S403)、クリア処理を終了し、新規様縫縫製処理(図9参照)に戻る。
【0071】
ユーザが、進捗データのみを選択し、クリアボタンを選択した場合、CPU101は、進捗データのクリアが指示されたと判断する(S401:NO,S411:YES)。この場合、CPU101は、枠メモリ220の進捗データ記憶エリア223に記憶された進捗データをクリアして初期値に戻す(S412)。
【0072】
その後、ユーザが、配置データを選択し、クリアボタンを選択した場合、CPU101は、配置データのクリアが指示されたと判断する(S421:YES)。また、ユーザが、進捗データは選択せずに(S411:NO)、配置データのみを選択して、クリアボタンを選択した場合も、CPU101は、配置データのクリアが指示されたと判断する(S421:YES)。この場合、CPU101は、枠メモリ220の配置データ記憶エリア222に記憶された配置データをクリアして初期値に戻す(S422)。配置位置と配置角度の設定が解除されたので、位置設定記憶エリア224に記憶された位置設定フラグを0として(S423)、クリア処理を終了し、新規様縫縫製処理(図9参照)に戻る。
【0073】
ユーザが、いずれのデータも選択せずに保存ボタンを選択した場合(S401:NO,S411:NO,S421:NO)、どのデータもクリアしない指示がなされたことを意味するので、CPU101はいずれのデータもクリアせず、クリア処理を終了して新規様縫縫製処理(図9参照)に戻る。
【0074】
図9に示すように、CPU101は、クリア処理(S400)を終了した後、新規模様縫製処理も終了して図8に示すメイン処理に戻り、メイン処理も終了する。
【0075】
図8に示すメイン処理において、枠メモリ220に縫製データが記憶されていると判断され(S102:YES)、さらに縫製指示があった場合は(S103:YES)、枠メモリ220に記憶された縫製データ等に従って縫製を行う枠記憶模様縫製処理が行われる(S300および図10)。縫製指示については、例えば、LCD7に表示されるメニュー画面において、「刺繍枠記憶模様縫製」メニューが選択されると、枠メモリ220に記憶されたデータが示す刺繍模様(以下、記憶模様という)を縫製する指示があったと判断される。
【0076】
図10に示すように、枠記憶模様縫製処理では、CPU101は、枠メモリ220に記憶されているデータをすべてRAM102に読み出す(S301)。より詳細には、縫製データと、配置データと、進捗データと、位置設定フラグとが読み出される。
【0077】
ステップS301で読み出される縫製データは、新規模様縫製処理のステップS201(図9参照)で記憶された選択模様の縫製データ、および、後述する刺繍データ処理装置500(図12参照)で作成され、枠メモリ220に記憶された縫製データのいずれかである。進捗データは、まだ縫製が開始されていない場合、またはクリア処理(図11参照)でクリアされた場合は初期値である。一方、刺繍模様の完成前に縫製が中断された場合や、縫製が完了した模様について、クリア処理でクリアされなかった場合には、縫製が完了した刺繍糸の色情報とその使用順を特定するデータや、縫製が完了した針数のデータである。
【0078】
また、配置データは、配置位置および配置角度が編集されない場合、またはクリア処理(図11参照)でクリアされた場合は初期値である。一方、配置位置や配置角度が編集によって初期値から変更され、且つ、クリア処理でクリアされなかった場合には、編集後の配置位置および配置角度を示すデータである。位置設定フラグは、配置データが未設定の場合には0である。なお、後述する刺繍データ処理装置500で縫製データが作成される場合には、配置データは常に未設定とされるため、位置設定フラグは0である。一方、配置データが設定済みの場合には、位置設定フラグは1である。
【0079】
枠メモリ220からデータが読み出された後(S301)、位置設定フラグが1であるか否かが判断される(S302)。位置設定フラグが0の場合は(S302:NO)、ユーザが編集画面において配置位置や配置角度を編集したい場合がありうる。よって、CPU101は、新規模様縫製処理のステップS202(図9参照)と同様、LCD4に編集画面を表示させ、ユーザによる編集を可能とする。そして、編集終了ボタンが選択され、配置位置および配置角度が確定されると、CPU101は、枠メモリ220の配置データ記憶エリア222に配置データを記憶させ(S304)、位置設定記憶エリア224の位置設定フラグを1にする(S305)。その後、開始/停止ボタン61が押下されると、縫製を開始する(S306)。
【0080】
一方、枠メモリ220に記憶されていた位置設定フラグが1である場合(S302:YES)、すでにユーザは所望の配置位置および配置角度を設定済みであり、それを残してあることを意味する。よって、CPU101は、そのまま開始/停止ボタン61が押下されると、縫製を開始する(S306)。
【0081】
枠記憶模様縫製処理では、ステップS301で枠メモリ220から読み出された縫製データおよび進捗データに従って記憶模様の縫製が行われる(S307)。進捗データが示す進捗状況に応じて、縫製データから最初に読み出されるデータは異なる。進捗データとして、縫製が完了した刺繍糸の色情報とその使用順を特定するデータが読み出された場合、その刺繍糸を使用する部分の縫製は終了しているので、次の使用順の色情報が読み出される。そして、その刺繍糸が供給されている針棒31が選択され、その色の最初の縫い順の針落ち点の座標に基づいて刺繍枠200が移動され、縫目が形成される。進捗データとして、さらに、縫製が完了した針数のデータが読み出された場合、特定される色の刺繍糸が供給されている針棒31が選択され、縫製が完了していない針落ち点の座標に基づいて、縫製が行われる。
【0082】
配置位置および配置角度については、枠メモリ220から配置データが読み出された場合には読み出されたデータに従って、また、ステップS303で編集が行われた場合には編集で設定されたデータに従って、針落ち点の座標が修正される。CPU101は、その後は新規模様縫製処理(図9参照)と同様に縫製を続け、縫製停止が指示されると、縫製を停止する(S308)。そして、枠メモリ220の進捗データ記憶エリア223に、進捗データを記憶させる(S309)。
【0083】
CPU101は、選択模様の縫製が完了したか否かを判断する(S310)。選択模様の縫製が完了していなければ(S310:NO)、枠メモリ220に進捗データが更新記憶された状態で、記憶模様縫製処理は終了し、図8に示すメイン処理に戻り、メイン処理も終了する。選択模様の縫製が完了していれば(S310:YES)、クリア処理が行われた後(S400および図11)、記憶模様縫製処理は終了し、図8に示すメイン処理に戻り、メイン処理も終了する。記憶模様縫製処理で行われるクリア処理は、新規模様縫製処理(図9参照)で行われる処理と同一であるため、説明は省略する。
【0084】
図8に示すメイン処理において、例えば、LCD7に表示されるメニュー画面において、「刺繍枠データクリア」メニューが選択された場合、CPU101は、枠メモリ220に記憶されたデータをクリアする指示がなされたと判断する(S102:YES)。この場合、クリア処理が行われる(S400)。メイン処理で行われるクリア処理も、新規模様縫製処理(図9参照)で行われる処理と同一であるため、説明は省略する。
【0085】
以上に説明したように、刺繍枠200は、刺繍枠200がミシン1のホルダ24に装着されることにより、枠記憶装置210のコネクタ212がホルダコネクタ90に結合してミシン1と有線接続する。したがって、従来のように無線タグを刺繍枠に設ける場合に比べ、ミシン1との間の通信をより確実に行うことができる。例えば、無線タグが通信範囲内に複数存在する場合には、無線通信中に混線を生じうるが、本実施形態の枠記憶装置210を刺繍枠200に設ければ、そのような虞はない。また、ミシン1には、無線タグとの通信を行うためのタグリーダを設ける必要がないので、コストが低減できる。さらに、ミシン1との通信は有線通信で行われるので、無線タグに比べて記憶容量の大きいフラッシュメモリ220を搭載することができる。したがって、容量の大きい縫製データを記憶することも可能となる。
【0086】
ミシン1のCPU101は、ホルダコネクタ90を介して接続された枠記憶装置210のフラッシュメモリ(枠メモリ)213にアクセスすることができる。よって、ミシン1では、ユーザが選択したミシン1の内蔵模様を枠メモリ220に記憶させることができる。また、ユーザが刺繍模様の配置位置や配置角度を設定した場合には、配置位置や配置角度を示す配置データを枠メモリ220に記憶させることができる。さらに、刺繍模様の完成前に縫製が終了(中断)した場合には、縫製の進捗状況を示す進捗データを、枠メモリ220に記憶させることができる。
【0087】
ミシン1は、枠メモリ220に記憶された縫製データ等を読み出して、縫製を行うことも可能である。枠メモリ220に記憶された縫製データを利用すれば、例えば、何度でも同じ模様を刺繍縫製することが可能となる。この場合、ユーザは、刺繍枠200がミシン1にセットされた後、刺繍縫製される模様を指定する必要がない。枠メモリ220に記憶された配置データを利用すれば、ユーザが配置位置や配置角度を初期設定から所望の位置や角度に変更した場合、次に縫製を行う際に設定しなおすことなく、同じ配置位置および配置角度で縫製を行うことができる。
【0088】
さらに、枠メモリ220に記憶された進捗データを利用すれば、完成前に縫製が中断された模様の縫製を、中断時点の状態から再開することができる。例えば、刺繍縫製を途中で中断し、割り込みで他の刺繍縫製を行い、その後、中断時点の状態から刺繍縫製を再開することができる。また、例えば、複数のミシンの間で1つの刺繍枠を共用し、各ミシンで、そのミシンに装着された刺繍糸で縫製可能な部分のみ縫製して、他のミシンに引き渡すという作業が可能となる。以下に、後者の場合の具体例として、ユーザが15色の色が使用された刺繍模様を刺繍縫製対象として選択した場合の刺繍枠200とミシン1の使用例を説明する。
【0089】
前述したように、図3に示すミシン1は、最大6個の糸駒13を装着可能であるから、6色の異なる刺繍糸を使用することができる。つまり、刺繍模様に使用される色が6色以内であれば、糸交換なしで刺繍模様を完成できるが、本具体例のように15色の刺繍糸が使用される場合、糸交換が必要となる。糸交換には、糸駒13を交換して糸掛けをやり直す必要があるので、ユーザにとっては煩雑で手間がかかる作業である。本具体例では、刺繍枠200の枠メモリ220に記憶された進捗データを利用することにより、3名の縫製者が3台のミシン1(ミシンA,B,Cとする)で刺繍枠200を共用し、1つの刺繍模様を完成する。よって、各ミシン1で糸交換をする必要がなくなるため、刺繍模様を完成するまでの作業効率が向上する。
【0090】
本具体例では、まず、1台目のミシンAの縫製者は、まだ枠メモリ220に何も記憶されていない刺繍枠200を、ホルダ24に装着する。そして、図8に示すメイン処理が開始され、新規模様縫製処理が行われる(S200および図9)。新規模様縫製処理では、縫製者は縫製対象とする模様を選択し(S201)、配置位置および配置角度を所望の位置および角度に調整する(S202)。
【0091】
選択模様の縫製データおよび配置データが枠メモリ220に記憶された後(S203)、縫製が行われる(S205、S206)。そのまま縫製が継続した場合、ミシンAに装着された6色の刺繍糸で縫製可能な範囲の縫製が終了すると、LCD7に糸交換を促すメッセージが表示されるとともに、縫製が停止される(S207)。進捗データとして、使用順(6番目)のデータと6番目に使用された刺繍糸の色情報が、枠メモリ220に記憶される(S208)。刺繍模様はまだ完成していないため(S209:NO)、処理は終了する。
【0092】
ミシンAの縫製者は、ミシンAのホルダ24から刺繍枠200を取り外し、2台目のミシンBの縫製者に引き渡す。ミシンBの縫製者が刺繍枠200をミシンBのホルダ24に装着した後、ミシンBで図8に示すメイン処理が開始されると、枠記憶模様縫製処理(S300および図10)が行われる。枠記憶模様縫製処理では、ミシンAの縫製者が選択した刺繍模様とミシンAの縫製者が編集した配置位置および配置角度の配置データが枠メモリ220から読み出される(S301)。また、使用順(6番目)のデータと6番目に使用された刺繍糸の色情報を示す進捗データが読み出される(S301)。
【0093】
そこで、ミシンBでは、使用順が7番目の刺繍糸に対応する最初の針落ち点から縫製が行われ(S306、S307)、ミシンBに装着された6色の刺繍糸で縫製が可能な範囲の縫製が終了すると、LCD7に糸交換を促すメッセージが表示されるとともに、縫製が停止される(S308)。進捗データとして、使用順(12番目)のデータと12番目に使用された刺繍糸の色情報が、枠メモリ220に記憶される(S309)。刺繍模様はまだ完成していないため(S310:NO)、処理は終了する。
【0094】
ミシンBの縫製者は、ミシンBのホルダ24から刺繍枠200を取り外し、3台目のミシンCの縫製者に引き渡す。ミシンCの縫製者が刺繍枠200をミシンCのホルダ24に装着した後、ミシンCで図8に示すメイン処理が開始されると、枠記憶模様縫製処理(S300および図10)が行われる。枠記憶模様縫製処理では、ミシンAの縫製者が選択した刺繍模様とミシンAの縫製者が編集した配置位置および配置角度の配置データが枠メモリ220から読み出される(S301)。また、ミシンBで記憶された、使用順(12番目)のデータと12番目に使用された刺繍糸の色情報を示す進捗データが読み出される(S301)。
【0095】
そこで、ミシンCでは、使用順が13番目の刺繍糸に対応する最初の針落ち点から縫製が行われ(S306、S307)、15番目の刺繍糸に対応する最後の針落ち点まで縫目が形成されると、選択模様は完成するので、縫製が停止される(S308)。使用順(15番目)のデータと15番目に使用された刺繍糸の色情報を示す進捗データが進捗データとして記憶された後(S309)、クリア処理が行われる(S400および図11)。
【0096】
クリア処理では、ミシンCの縫製者が指示するデータが削除される。例えば、縫製者は、刺繍枠200を使用して新たな刺繍模様を縫製したい場合には、縫製データ、配置データおよび進捗データのすべてをクリアすればよい(S401:YES〜S403)。この場合、ミシンCの縫製者は、新規模様縫製処理(図9)で所望の刺繍模様を新たに選択して、そのデータを刺繍枠200に記憶させ、縫製を行うことができる。
【0097】
また、縫製者は、進捗データまたは配置データをクリアしてもよい(S411:YES〜S412,またはS421:YES〜S423)。進捗データがクリアされた場合、縫製者は刺繍枠200に新しい加工布をセットし、例えばミシンCで同じ記憶模様を同じ配置位置および配置角度で最初から縫製することができる。この場合、ミシンCで縫製可能な6色までを縫製し、前述と同様に、ミシンA、ミシンBに順次引き渡していけば、3台のミシンA〜Cで、効率的に同じ選択模様を何度も縫製することができる。配置データが削除された場合、縫製者は、例えばミシンCの状態に応じて配置位置および配置角度を再調整した上で、ミシンCで同じ模様を途中から刺繍縫製することができる。さらに、メイン処理でクリア処理を再度行えば、進捗データおよび配置データの両方をクリアすることも可能である。この場合、縫製データのみが残るので、同じ刺繍模様の配置位置および配置角度を再調整して、最初から縫製を行うことができる。
【0098】
上記例では、ミシンA,B,Cを直接ケーブルで接続したりネットワークで接続したりする必要なく、1つの刺繍模様をミシンA,B,Cで容易に縫製することができる。よって、システムにかかるコストを削減できる。また、特に、配置位置および配置角度が編集された場合、その配置データを共用できるので、2台目以降のミシンでは、配置位置および配置角度を編集する必要がなく、各ミシンの縫製者の手間を大幅に削減できる。また、各ミシンで配置位置および配置角度を編集する場合に生じうる位置ずれを防止できる。
【0099】
以上では、刺繍枠200をミシン1に装着し、ミシン1の内蔵模様を枠メモリ220に記憶させる例について説明したが、刺繍枠200は、コネクタ212を介して接続できる機器であれば、ミシン1以外の外部機器に接続されてもよい。以下に、図12および図13を参照して、このような例について説明する。
【0100】
まず、図12を参照して、刺繍枠200の枠記憶装置210に接続して枠メモリ220にアクセス可能な外部機器の一例である刺繍データ処理装置500について説明する。刺繍データ処理装置500は、ミシン1等、刺繍縫製が可能なミシンで使用される縫製データを作成、編集するためのものである。図12に示すように、刺繍データ処理装置500は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータであり、装置本体501と、装置本体501に接続されたマウス515、ディスプレイ517、キーボード519、イメージスキャナ装置524等を含む。
【0101】
刺繍データ処理装置500は、刺繍データ処理装置500の制御を司るコントローラであるCPU510を備えている。CPU510には、BIOS等を記憶したROM511と、各種のデータを一時的に記憶するRAM512と、データの受け渡しの仲介を行う入出力(I/O)インタフェイス513とが接続されている。I/Oインタフェイス513には、記憶装置であるハードディスク装置(HDD)514、入力機器であるマウス515、ビデオコントローラ516、キーコントローラ518、CD−ROMドライブ520、メモリカードコネクタ522、イメージスキャナ装置524、およびコネクタ525が接続されている。
【0102】
HDD514には、CPU510によって実行される刺繍データ処理プログラム等、各種の情報が記憶されている。なお、刺繍データ処理装置500がHDD514を備えていない専用機である場合は、ROM511に刺繍データ作成プログラムが記憶される。
【0103】
ビデオコントローラ516には情報を表示するディスプレイ517が接続され、キーコントローラ518には入力機器であるキーボード519が接続されている。CD−ROMドライブ520には、CD−ROM521を挿入することができる。例えば、刺繍データ作成プログラムの導入時には、刺繍データ作成プログラムを記憶するCD−ROM521がCD−ROMドライブ520に挿入される。そして、刺繍データ作成プログラムがセットアップされ、HDD514のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶される。
【0104】
メモリカードコネクタ522には、メモリカード523を接続して、情報の読み取りや書き込みを行うことができる。イメージスキャナ装置524は、汎用の画像の読取り装置である。さらに、コネクタ525には、刺繍枠200の枠記憶装置210(図1参照)を接続して、枠メモリ220(図2参照)に記憶された情報の読み取りや書き込みを行うことができる。なお、枠記憶装置210がUSBメモリとして構成される場合、コネクタ525は、USBコネクタとすればよい。
【0105】
以下に、図13を参照して、刺繍データ処理装置500で行われるメイン処理について説明する。図13に示すメイン処理は、HDD514に記憶された刺繍データ処理プログラムに従って、CPU510が実行する。メイン処理では、まず、刺繍縫製に使用される縫製データが作成され、適宜編集される(S1)。縫製データは、前述したように、刺繍縫製が可能なミシンで縫製を行うために必要な情報であり、刺繍模様の縫目を形成するための針落ち点を特定する情報と、縫目の色、すなわち刺繍糸の色を特定する情報を含む。縫製データの作成には、いかなる公知の方法を採用してもよい。例えば、イメージスキャナ装置524によって読み込まれた任意の図柄や写真等の画像データから刺繍模様の縫製データを作成する周知の方法により行われる。例えば、特開2001−259268号公報に記載の方法を採用することができる。
【0106】
刺繍データ処理装置500のユーザは、上記の方法で作成された縫製データを編集してもよい。この場合、例えば、ディスプレイ517に作成された縫製データの縫製結果(刺繍模様)と、編集用のキーが表示され、ユーザのマウス515やキーボード519の操作によって、編集が行われる。編集としては、例えば、前述の例と同様の配置位置や配置角度の変更である。なお、HDD514に複数の刺繍模様の縫製データを記憶させておき、ステップS1では、縫製データを作成するのではなく、ユーザに所望の模様を選択させ、さらに、配置位置や配置角度を編集させてもよい。刺繍データ処理装置500で配置位置や配置角度の編集が行われた場合、ミシン1で編集される場合とは異なり、配置位置や配置角度の情報は、縫製データに組み込まれる。すなわち、編集に応じて、縫製データ自体が修正される。
【0107】
縫製データが作成された後、CPU510は、刺繍枠200の枠メモリ220への縫製データの記憶が指示されたか否かを判断する(S2)。例えば、ディスプレイ517に表示されるメニュー画面で「刺繍枠メモリ書き込み」メニューが選択されると、縫製データの記憶が指示されたと判断される。なお、ユーザは、予め、またはこの時点で刺繍データ処理装置500のコネクタ525に刺繍枠200のコネクタ212を接続し、CPU510の枠メモリ220へのアクセスを可能とする。
【0108】
枠メモリ220への記憶指示がなされた場合(S2:YES)。CPU510は、枠メモリ220にアクセスし、記憶されているデータをすべてクリアする(S3)。前述したように、刺繍データ処理装置500では、配置位置および配置角度の設定は縫製データに反映されてしまうので、配置データはない。よって、CPU510は、ミシン1での配置位置および配置角度の編集を可能とするため、位置設定フラグをゼロ(0)として位置設定記憶エリア224に記憶させる(S4)。さらに、ステップS1で作成された(または選択された)縫製データを縫製データ記憶エリア221に記憶させ(S5)、処理を終了する。枠メモリ220への記憶指示がなされなければ、入力されたその他の指示に応じたその他の処理が行われ(S10)、処理は終了する。
【0109】
以上に説明したように、本実施形態の刺繍枠200は、ミシン1以外にも、刺繍データ処理装置500のように、枠記憶装置210のコネクタ212と結合可能なコネクタを有する外部機器と接続することができる。よって、刺繍模様の縫製データの作成と、刺繍模様の縫製とを、異なる場所で、また、異なる人間によって行うことが可能となる。以下に、この場合の具体例を説明する。
【0110】
データ作成者は、刺繍枠200に刺繍が施される加工布をセットする。そして、刺繍データ処理装置500(図12参照)のコネクタ525に刺繍枠200のコネクタ212を接続する。そして、刺繍データ処理装置500のメイン処理(図13参照)が開始されると、所望の刺繍模様の縫製データを作成、編集した上で(S1)、枠メモリ220に記憶させる(S5)。その後、加工布を張った刺繍枠200は、縫製者に引き渡される。縫製者がミシン1のホルダ24に刺繍枠200を装着すると、ミシン1と枠記憶装置210とがホルダコネクタ90とコネクタ212とを介して接続する。
【0111】
ミシン1のメイン処理が開始されると(図8参照)、枠記憶模様縫製処理(S300および図10)が行われる。枠記憶模様縫製処理では、データ作成者によって作成、編集された刺繍データが枠メモリ220から読み出され(S301)、縫製が行われる(S306)。したがって、ミシン1を操作する縫製者は、受け取った刺繍枠200をそのままホルダ24に装着するだけで、刺繍模様の縫製を行うことができる。この例では、加工布がセットされた刺繍枠200が縫製者への作業指示書の役割を果たすので、縫製者が指示と異なる布に縫製を行ってしまうような作業ミスを防止することができる。
【0112】
本実施形態では、刺繍枠200の左右の連結部203、204が、本発明の「装着部」に相当する。枠記憶装置210のコネクタ212が「枠側コネクタ」に相当し、フラッシュメモリ220が「記憶手段」に相当する。
【0113】
多針ミシン1の針棒駆動機構85が「縫製手段」に相当する。キャリッジ20が「刺繍枠移送装置」に相当し、ホルダ24が「枠支持部」に相当し、ホルダコネクタ90が「ミシン側コネクタ」に相当する。図10のステップS301で枠メモリ220から情報を読み出す処理を行うCPU101が「情報取得手段」に相当し、ステップS307で枠メモリ220から読み出したデータに基づいて縫製を制御するCPU101が「縫製制御手段」に相当する。
【0114】
図9のステップS208および図10のステップS309で進捗データを枠メモリ220に記憶させる処理、ならびに図9のステップS203で縫製データ等を枠メモリ220に記憶させる処理を行うCPU101が、「記憶制御手段」に相当する。図11のステップS400で指示を受け付けるCPU101が、「第1指示受付手段」に相当し、図11のステップS402,S412,またはS422で進捗データおよび配置データの両方、またはいすれか一方をクリアするCPU101が、「第1削除手段」および「第2削除手段」に相当する。図9のステップS201およびS202で刺繍模様の選択および配置位置・配置角度の編集を受け付ける処理、図10のステップS303で配置位置・配置角度の編集を受け付ける処理、および図13のステップS2で枠メモリ220への記憶指示を受け付ける処理を行うCPU101が、「第2指示受付手段」に相当する。
【0115】
なお、本発明の刺繍枠およびミシンは、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、刺繍枠200の形状は、図1に例示した形状に限らず、変更が可能である。また、刺繍枠200がミシン1のキャリッジ20に装着されることにより、ミシン側のホルダコネクタ90と刺繍枠200側のコネクタ212が有線通信可能に接続される限り、これらの形状や配置位置は自由に変更可能である。刺繍枠200がキャリッジ20に装着される部位は、必ずしも連結部203、204および左支持部92、右支持部93でなくてもよい。刺繍枠200側のコネクタ212とホルダコネクタ90とが接続した場合にミシン1からのアクセスが可能である限り、枠メモリ220は必ずしも枠記憶装置210としてコネクタ212と一体化されている必要はない。
【0116】
実施形態では、6本の針棒を備える多針ミシン1を例示したが、刺繍枠200が装着可能な刺繍枠の移送装置を備え、刺繍縫製が可能なミシンであれば、針棒が1本のみの通常のミシンであってもよい。
【0117】
実施形態では、刺繍模様の配置位置および配置角度が編集され、配置データが枠メモリ220に記憶され活用される例について説明したが、他の編集データを配置データと同様に扱ってもよい。具体的には、配置位置および配置角度の編集に代えて、または加えて、縫製データで特定される刺繍模様の拡大・縮小、左右または上下反転、刺繍糸の色変更等を図9のステップS202、図10のステップS303でユーザが行った場合、続くステップS203、S304で枠メモリ220にこれらの編集に関する情報を記憶させる。そして、図10に示す記憶模様縫製処理が行われる場合、ステップS301で他のデータとともに読み出し、縫製時に縫製データを修正してもよい。
【0118】
実施形態では、刺繍模様が完成した後(図9のS209:YES、または図10の310:YES)に行われるクリア処理(図11)では、ユーザの指示に応じてデータの削除が行われる。つまり、進捗データが、すでに縫製が完了したことを示している場合でも、クリアされない場合がある。しかし、一旦刺繍模様が完成した後は、進捗データは必ずクリアされる処理としてもよい。また、配置データについても、一旦刺繍模様が完成した後は、必ずクリアされる処理としてもよい。進捗データと配置データの両方が、必ずクリアされてもよい。この場合、図10の新規模様縫製処理および図11の枠記憶模様縫製処理において、CPU101は、クリア処理(S400)を行う代わりに、進捗データと配置データの両方、またはいずれか一方をクリアした後、処理を終了すればよい。
【符号の説明】
【0119】
1 多針ミシン
20 キャリッジ
24 ホルダ
85 針棒駆動機構
90 ホルダコネクタ
101 CPU
200 刺繍枠
203、204 連結部
210 枠記憶装置
212 コネクタ
213 フラッシュメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製に供される加工布を保持する刺繍枠であって、
刺繍縫製可能なミシンが有する刺繍枠移送装置に着脱可能に装着される装着部と、
前記装着部が前記刺繍枠移送装置に装着されることにより、前記ミシンが有するミシン側コネクタと接続して前記ミシンとの有線通信を可能とする枠側コネクタと、
前記枠側コネクタが前記ミシン側コネクタと接続している場合に、前記ミシンからのアクセスが可能な記憶手段とを
を備えたことを特徴とする刺繍枠。
【請求項2】
前記記憶手段は、刺繍縫製される模様の色および針落ち点を特定し、刺繍縫製に使用されるデータである縫製データを記憶することを特徴とする請求項1に記載の刺繍枠。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記縫製データに基づく刺繍縫製の進捗状況を示すデータである進捗データを記憶することを特徴とする請求項2に記載の刺繍枠。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記刺繍枠内の基準位置に対する前記模様の配置位置および配置角度を特定するデータである配置データを記憶することを特徴とする請求項2または3に記載の刺繍枠。
【請求項5】
刺繍縫製が可能なミシンであって、
刺繍縫製に供される加工布に刺繍縫製を行う縫製手段と、
前記加工布を保持する刺繍枠を移送する刺繍枠移送装置と、
前記刺繍枠移送装置に設けられ、前記刺繍枠が有する装着部と係合して前記刺繍枠を支持する枠支持部と、
前記刺繍枠の前記装着部が前記枠支持部に係合されることにより、前記刺繍枠が有する枠側コネクタと接続して有線通信を可能とするミシン側コネクタと、
前記ミシン側コネクタが前記枠側コネクタと接続している場合に、前記刺繍枠が有する記憶手段にアクセスし、前記記憶手段に記憶された情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得によって取得された前記情報に基づいて前記縫製手段を制御する縫製制御手段とを備え、
前記刺繍枠の前記記憶手段は、刺繍縫製される模様の色および針落ち点を特定する縫製データを記憶しており、
前記縫製制御手段は、前記縫製データに基づいて前記縫製手段を制御することを特徴とするミシン。
【請求項6】
前記刺繍枠の前記記憶手段にアクセスし、情報を記憶させる記憶制御手段をさらに備え、
前記刺繍枠の前記記憶手段は、前記縫製データに基づく刺繍縫製の進捗状況を示すデータである進捗データを記憶しており、
前記記憶制御手段は、前記模様の刺繍縫製が完了する前に前記縫製手段による刺繍縫製が中断された場合、前記進捗データを更新して前記記憶手段に記憶させ、
前記縫製制御手段は、前記進捗データに基づいて前記縫製手段を制御することを特徴とする請求項5に記載のミシン。
【請求項7】
前記刺繍枠の前記記憶手段は、前記刺繍枠内の基準位置に対する前記模様の配置位置および配置角度を特定するデータである配置データを記憶しており、
前記縫製制御手段は、前記配置データに基づいて前記縫製手段を制御することを特徴とする請求項5または6に記載のミシン。
【請求項8】
前記模様の刺繍縫製が完了した場合、前記刺繍枠の前記記憶手段にアクセスし、前記進捗データおよび前記配置データの両方、または前記進捗データおよび前記配置データのうちいずれか一方を削除する第1削除手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6または7に記載のミシン。
【請求項9】
前記刺繍枠の前記記憶手段に記憶された前記情報の少なくとも一部を削除する削除指示を受け付ける第1指示受付手段と、
前記刺繍枠の前記記憶領域にアクセスし、前記第1指示受付手段によって受け付けられた前記指示に応じて、前記情報の少なくとも一部を削除する第2削除手段とをさらに備えたことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のミシン。
【請求項10】
前記刺繍枠の前記記憶手段に新たな情報を記憶させる記憶指示を受け付ける第2指示受付手段をさらに備え、
前記記憶制御手段は、前記第2指示受付手段によって受け付けられた前記記憶指示に応じて、前記新たな情報を前記記憶領域に記憶させることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−55945(P2011−55945A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207149(P2009−207149)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】