説明

剪断安定性の高粘度PAOの製造

高粘度PAO原料油を製造する方法において、シングルサイトメタロセン及び非配位性アニオンから成る触媒系と、オレフィンから成る原料とを、混合流または連続撹拌槽反応器(CSTR)中で接触させる工程であって、混合されたオレフィンが、炭素数4から18の直鎖状アルファ−オレフィンから選択される少なくとも1の直鎖状アルファ−オレフィンである工程と、KV100が3から10000cStでMWDが2.5未満の潤滑油用途に適した製品を得る工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願とのクロスリファレンス>
本願は、2008年3月31日出願の米国仮出願第61/040,855号に基づく優先権を主張し、その全内容を参照として本願に組み込む。
【0002】
本願は、高粘度ポリアルファオレフィン(PAO)の製造に関する。
【背景技術】
【0003】
潤滑油の粘度は、機械製造業者や自動車製造業者にとって考慮すべき重要な要因である。潤滑油の粘度は、潤滑油の使用時において形成される潤滑油保護膜の厚みに直接関係する。また、潤滑油の粘度は、潤滑油が用いられる装置の小流路における循環流量に大きく影響する。装置の部品はこれらに従って選ばれ、特定の粘度の潤滑油に適用するように設計される。従って、潤滑油が用いられる装置が適切に運転されるようにするためには、潤滑油の粘度が適切な値に維持されることが重要である。
【0004】
潤滑油の使用時における耐劣化性も重要である。潤滑油は様々な機構または経路によって分解し、熱、酸化、及び加水分解による分解機構がよく知られている。通常、熱及び加水分解による潤滑油の分解では、潤滑油は小さな断片に分解される。潤滑油が酸化により分解される場合、高分子量のスラッジが生成することがしばしばある。これらのいずれの経路でも副生物が生じ、副生物として酸が生じることが多い。これらの副生物が潤滑油の分解の触媒となる結果、分解速度が増加する。
【0005】
潤滑油の粘度が様々な分解経路により影響を受けること、及び潤滑油の粘度の値を一定に維持することが重要であることから、ほぼ全ての潤滑油の用途において、潤滑油の粘度が頻繁にチェックされている。使用中の潤滑油の粘度と未使用の潤滑油の粘度とを比較して、分解の指標となる偏差が測定されている。粘度の増加及び減少のいずれも、潤滑油の分解の兆候である。
【0006】
潤滑油の工業的な用途では、潤滑油の粘度はISO粘度グレードにより分類されている。ISO粘度グレード標準は、特定の粘度の中心値に対し±10%の規格幅が定められている。例えば、粘度が198cStから242cStの潤滑油は、ISO VG 220規格に適合するグレードである。ISO VG規格から外れる潤滑油でも、潤滑油として使用することは可能であろう。しかし、公知の分解機構により粘度が変化するため、装置の使用者はISO VG規格から外れた潤滑油を交換する。潤滑油の交換は、装置の保証や保険等を考慮することによっても行われる。このような考慮は、高価な工業用の装置の場合重要である。潤滑油に起因する故障により生じる生産停止に伴うコストも、潤滑油を交換する理由のひとつとなり得る。生産停止のコストの方が潤滑油のコストより高い場合、より厳しい基準に基づいて潤滑油の交換が行われるであろう。
【0007】
またその他の潤滑油、例えば自動車のエンジンオイル、トランスミッションオイル、ギヤオイル、車軸潤滑油、またはグリース等は、SAE (Society of Automotive Engineers) J300またはJ306規格、あるいは AGMA (American Gear Manufacturers Association) 規格等の他の規格において、異なる粘度範囲によって分類されている。これらの潤滑油は、上記の工業用の潤滑油と同様の問題を有する。
【0008】
プレミアム・ルブリカントの利点の一つは、寿命が長く交換頻度を低くできる可能性があることである。プレミアム・ルブリカントの寿命が長いことは、最初に充填するときのコストが高いことを相殺する。高寿命を得るためには、プレミアム・ルブリカントの使用中の粘度が安定していなければならない。プレミアム・ルブリカントでは、より高品質の原料油と最新の添加剤系を用いることによって熱、酸化、及び加水分解を防止している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の化学的な機構による粘度変化のほかに、機械的な機構によっても粘度変化が生じる。潤滑油の高剪断応力下での粘度低下は、装置の高剪断ゾーンにおいて潤滑油の分子が切断されることにより生じる。このような高剪断ゾーンは、高速回転しているギヤ、ローラーベアリング、またはエンジンのピストンにおいて生じる。潤滑油はこのようなゾーンを循環させられる間に、潤滑油原料油の分子の異なる部分に様々な機械的な力が加わり、潤滑油の分子がより低分子量の断片に永久に分解される結果、潤滑油の粘度が低下する。このような剪断による粘度の低下は、より高分子量の成分を含む高粘度の潤滑油原料油において特に問題となる。
【0010】
剪断により分解された潤滑油は、優れた熱、酸化、または加水分解に対する耐性を有するが、規格を外れる粘度の潤滑油は上記と同じ理由、すなわち保証、保険、生産停止防止等の理由により早期に交換される。
一方、剪断により分解された潤滑油は酸化、または加水分解等の望ましくないプロセスの発生原因となり、潤滑油の寿命を低下させる。従って、上記の化学的機構による分解に起因する粘度低下だけでなく、機械的機構による分解に起因する粘度低下も回避することが望ましい。
【0011】
機械的な分解に対する耐性が要求される重要な例として、風力タービンのギヤボックスが挙げられる。一般に、このギヤボックスではギヤの動きは遅いものの高荷重で用いられるため、潤滑油の機械的な分解が生じやすい。さらに、風力タービンは、北海等のアクセスの悪い場所に設置されることが多い。これ以外の油圧系統の用途でも、潤滑油の機械的な分解が生じやすく、アクセスの悪い場所に設置される油圧装置は多々ある。
従って、長期間にわたり機械的分解に対する耐性を保持する、風力タービンのギヤボックス用や油圧装置用の潤滑油が求められている。
【0012】
機械的剪断による潤滑油または潤滑油用原料油の粘度低下は、CEC L-45-T-93に準拠した円錐ころ軸受け(TRB) 試験、Orbahn剪断試験 (ASTM D3945)、または超音波剪断試験 (Sonic Shear Tests (ASTM D2603))等の方法により測定することができる。TRB試験は、他の試験方法よりも実際に潤滑油を使用しているときの剪断安定性との相関性が高いと考えられている。
【0013】
原料油の剪断による粘度低下に影響を及ぼす重要な要因は、原料油の分子量分布(MWD)である。分子量分布(MWD)は、重量平均分子量MWと数平均分子量MWの比率(= Mw/Mn)と定義される。分子量分布(MWD)は、較正用の標準サンプルとして分子量が既知のポリマーを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求めることができる。
一般に、MWDが広い原料油は、MWDが狭い原料油よりも剪断による粘度低下を生じやすい。これは、通常のMWDが広い原料油は、高剪断ゾーンで分解されやすい高分子量成分の含有率が、MWDが狭い原料油よりも高いためである。MWDが狭い原料油の高分子量成分の含有率は相対的に低い。
【0014】
従って、剪断安定性の高い潤滑油を得るためにはMWDを狭くすることが望ましい。MWDを狭くする方法のひとつは、メタロセン触媒を用いることである。メタロセン触媒はSinn及びKaminskyにより見出された触媒であり、前周期遷移金属(Zr, Ti, Hf)とメチルアルミノキサン(MAO)から成る。1980年代にメタロセン触媒が公表された後、従来のマルチサイトのチーグラーナッタ触媒及びクロム系触媒に対して優れる点が明らかにされた。すなわち、メタロセン触媒は非常に高活性な触媒であり、オレフィンモノマーの重合において、分子量分布が狭く(MWDは約2以下)、化学的な組成分布が狭く、さらに高分子鎖の構造が制御された均一なポリマー及び共重合体を生成させるという優れた能力を有する。
【0015】
WO1999/067437には、MAOで活性化したメタロセン触媒を用い、Al/メタロセンのモル比を100:1から10000:1としてポリ-1-デセンを重合したことが開示されている。さらに、このポリ-1-デセンをマルチグレードトランスミッションオイル用の処方に適用したとき、ポリメタクリレートと比較して剪断安定性が優れていたことが開示されている。この特許文献に開示されたポリマーはバッチ式重合で製造されており、潤滑油の分子量分布及び剪断安定性を改善するために他の重合方法を用いることに関する記載は無い。
【0016】
様々なアルファオレフィン原料のオリゴマー化にシングルサイトのメタロセン触媒を用いることは公知であり、WO2007/011832、WO2007/011459、WO2007/011973、及びPCT/US2007/010215に開示されている。
【0017】
上記の様々な分解機構に対し現在入手可能な潤滑油よりも優れた安定性を示し、さらに潤滑油それ自身またはブレンド物の状態でISO VGやSAEグレード等の工業規格に適合する潤滑油が求められている。
【0018】
この発明は、アルファオレフィン原料とシングルサイトメタロセン触媒とを、混合流または連続撹拌槽反応器中で接触させることにより、剪断安定性に優れた潤滑油原料油が得られるという予想外の知見に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、アルファオレフィン原料とシングルサイトメタロセン触媒とを、混合流または連続撹拌槽反応器中で接触させて高粘度潤滑油原料油を製造する方法に関する。
【0020】
この発明の実施形態では、より狭いMWDまたは改善された剪断安定性またはその両方を有する潤滑油原料油が得られる。
【0021】
この発明のその他の目的、構成及び効果について、以下の詳細な説明、好ましい実施形態、実施例、及び特許請求の範囲に基づき説明する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明では、シングルサイトメタロセン触媒及び原料を、混合流または連続撹拌槽反応器(CSTR)中で接触させて、高粘度潤滑油用PAO原料油を製造する。
【0023】
本願で「高粘度PAO」とは、100℃で測定した動粘性率(KV100)が10cStより大きく約10000までのポリアルファオレフィンを意味し、「低粘度PAO」とはKV100が最大10 cStのポリアルファオレフィンを意味する。
【0024】
この発明の実施形態では、より狭いMWD及び改善された剪断安定性の少なくともいずれか一方を有する潤滑油原料油が得られる。
【0025】
<連続撹拌槽反応器>
連続撹拌槽反応器(CSTR)は公知である。反応器の構造及び反応器の操業条件が分子量分布に及ぼす影響は以前検討された。しかし、J. Applied Chem., 1, 227 [1951] に記載されているように、反応器の操業条件が分子量分布に及ぼす影響に関する明確な結論は得られていない。CSTRやその他の反応器による反応に関するその他の研究は、Perry's Chemical Engineers' Handbook, 7th Ed. 23-36 CHEMICAL REACTORS、または K. G. Denbigh, Trans. Faraday Soc, 43, 648 (1947)、または Levenspiel, Chemical Reaction Engineering, 2nd ed., 1972 John Wiley and Sons. p.196に記載されている。
【0026】
セミ−バッチ操業、または連続撹拌反応器(CSTR) 操業での反応は、重合温度が0℃から200℃で、滞留時間が1分から20時間の範囲において行われる。メタロセン触媒の添加量は、触媒1gにつきアルファオレフィン1000gから、触媒1gにつきアルファオレフィン600000gの範囲である。反応圧力は大気圧から1000 psigの範囲である。任意に、反応器を一部充填した状態で操業するときは水素の分圧を反応器の全圧に対し1 psiから200 psiの範囲とし、あるいは、反応器を液で満たして操業するときは水素濃度を1 から30000 重量ppmの範囲とすることができる。
この発明の実施形態での反応条件は、重合温度が40から150℃、滞留時間が1時間から4時間、触媒添加量が触媒1gにつきオレフィン原料10000 g から500000 g、反応圧力が大気圧から500 psigである。
【0027】
<原料>
PAOは、直鎖状α-オレフィン(LAO)モノマーを触媒によりオリゴマー (低分子量重合体) 化して製造された公知の炭化水素化合物からなる。直鎖状α-オレフィンは1-ヘキセンから1-テトラデセンの範囲のものであり、通常1-デセンが好ましい。この発明の有利な点は、実施形態において、原料に1-デセンだけでなく、様々なアルファ-オレフィンの混合物を原料に用いることができる点にあり、例えば1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセンの1以上を含む原料を用いることができる。
【0028】
α-オレフィンの混合原料を用いる場合、使用可能な混合原料(複数の反応器を用いるときには最初の反応器へ供給する原料、または、セミ-バッチの場合は単独の反応器へ供給する原料)のひとつは、1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、及び1-テトラデセンの混合物である。
あらゆる混合割合の原料を用いることができ、例えば約1wt%から約90wt%の1-ヘキセン、約1wt%から約90wt%の1-デセン、約1wt%から約90wt%の1-ドデセン、約1wt%から約90wt%の1-テトラデセンを用いることができる。
好ましい実施形態では、1-ヘキセンは約1wt%または2wt%または3wt%または4wt%または5wt%から約10wt%または20wt%の範囲で存在し、1-デセンは約25wt%または30wt%,または40wt%,または50wt%から約60wt%または70wt%または75wt%の範囲で存在し、1-ドデセンは約10wt%または20wt%または25wt%または30wt%または40wt%から約45wt%または50wt%または60wt%の範囲で存在し、1-テトラデセンは1wt%または2wt%または3wt%または4wt%または5wt%または10wt%または15wt%または20wt%または25wt%から約30wt%または40wt%または50wt%の範囲で存在する。
上記に開示したいずれかの下限値からいずれかの上限値の範囲も含まれ、例えば約3wt%から約10wt%の1-ヘキセン、または約2wt%to約20wt%の1-ヘキセン、約25wt%to約70wt%の1-デセン、または約40wt%to約70wt%の1-デセン、約10wt%to約45wt%の1-ドデセン、または約25wt%to約50wt%の1-ドデセン、または約5wt%to約30wt%の1-テトラデセン、または約15wt%to約50wt%の1-テトラデセン等の範囲も含まれる。
これ以外の様々な範囲も含まれ、例えば実施例に示した範囲からプラスマイナス5% (±5%)の範囲も含まれる。
【0029】
上記の実施形態において、実質的に1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、及び1-テトラデセンから成る混合原料(またはオリゴマー化触媒及び促進剤と接触させるアルファオレフィンの混合物)中に少量の他の直鎖アルファオレフィン(LAO)、例えば1-オクテンが存在していてもよい。ここで「実質的に」という用語は通常の意味で解釈され、この発明の基礎的及び新規な特徴に影響するような他のLAOが存在しない(言い換えると他に何も存在しない)ことを意味する。
好ましい実施形態では、供給原料(またはアルファオレフィンの混合物)は1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、及び1-テトラデセンのみから成る。すなわち、これら以外のオレフィンは存在しない(不可避不純物の存在は許容される)。
【0030】
この発明で用いられる別の混合原料は、1-ヘキセン、1-デセン、及び1-テトラデセンから成る。あらゆる混合割合の原料を用いることができ、例えば約1wt%から約90wt%の1-ヘキセン、約1wt%から約90wt%の1-デセン、約1wt%から約90wt%の1-テトラデセンを用いることができる。
好ましい実施形態では、1-ヘキセンは約1wt%または2wt%または3wt%または4wt%または5wt%から約10wt%,20wt%,25wt%,または30wt%の範囲で存在し、1-デセンは約25wt%または30wt%,または40wt%,または50wt%から約60wt%または70wt%または75wt%の範囲で存在し、1-テトラデセンは1wt%または2wt%または3wt%または4wt%または5wt%または10wt%または15wt%または20wt%または25wt%から約30wt%または40wt%の範囲で存在する。
上記に開示したいずれかの下限値からいずれかの上限値の範囲も含まれる。
【0031】
この発明では2種のLAOの混合原料も用いることができる。このような2成分の原料として、1-ヘキセンと1-デセンのブレンド物、1-ヘキセンと1-ドデセンのブレンド物、1-デセンと1-ドデセンのブレンド物、1-デセンと1-テトラデセンのブレンド物、または1-ドデセンと1-テトラデセンのブレンド物が挙げられる。
このような2種のLAOの混合原料の場合、いずれかの成分が1から99wt%の範囲で存在し、両成分の各々が10から90 wt%, 15から85wt%, 20から80 wt%, または30から70 wt%の範囲で存在することが好ましい。
【0032】
別の実施形態では、オレフィン原料は例えば1-デセン単独または1-ドデセン単独のように、実質的に単一のLAOから成る。
【0033】
特に好ましい原料には、WO2007/011832に開示されたC4-C18アルファ-オレフィン源が含まれる。このようなアルファ-オレフィンは、例えばエチレン製造プロセス、フィッシャー・トロプシュ合成プロセス、蒸気または熱分解プロセス、合成ガス製造プロセス、Raff-1またはRaff-2ストリーム等の、石油精製プロセスから生成する1ブテンを含むC4ストリームなどから得られる。
【0034】
ひとつの実施形態では、原料に用いる複数種のオレフィンを反応器へ一括して供給する。別の実施形態では、複数種のオレフィンを反応器へ別々に供給する。いずれの場合にも、触媒/プロモータをそれぞれ別々にまたは一括して供給し、あるいは触媒/プロモータをLAOと別々にまたは一括して供給する。
【0035】
<触媒系>
触媒系はメタロセン化合物及び活性剤から成る。メタロセンは架橋または非架橋であり、メソまたはラセミ体であり、あるいはC1対称、C2v対称、またはCs対称、またはこれらの混合物である。
この発明で「触媒系」というときは、シングルサイトメタロセン触媒と活性剤のペアを意味する。活性化前のペアについて「触媒系」というときは、活性化される前の触媒(プレ触媒)及び活性剤、及び任意成分の助活性剤(例えばトリアルキルアルミニウム化合物)を意味する。活性化後のペアについて「触媒系」というときは、活性化された触媒と、活性剤または他の電荷バランス構成成分とを意味する。さらに、活性化された「触媒系」は、任意成分の助活性剤、及び/又は他の電荷バランス構成成分を含んでいる。
【0036】
<シングルサイトメタロセン触媒>
この発明のプロセスに適した触媒には、例えばWO2007/011832, WO2007/011459, 及びWO2007/011973に開示されたシングルサイトメタロセン触媒系が含まれる。好ましい金属は第4族遷移金属であり、好ましくはジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、またはチタン(Ti) である。
【0037】
この発明で用いられるシングルサイト触媒には、ジメチルシリルbis[テトラヒドロインデニル]ジルコニウムジメチル等のシリル-ジルコニウム複合体のラセミ体混合物が含まれる。また、この触媒のジクロロ類似体も好ましい触媒である。
【0038】
また、インデニル環の一部または全部が水素化された触媒も好ましい。
【0039】
好ましいシングルサイト触媒には、架橋(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ZrC12、またはその類似体が含まれる。
【0040】
この発明で用いられるシングルサイト触媒には、rac-ジメチル-シリル-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、またはrac-ジメチル-シリル-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジメチル、rac-ジメチル-シリル-bis(インデニル)ジルコニウムジクロリド、またはrac-ジメチル-シリル-bis(インデニル)ジルコニウムジメチル、rac-エチリデン-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、またはrac-エチリデン-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジメチル、rac-エチリデン-bis(インデニル)ジルコニウムジクロリド、またはrac-エチリデン-bis(インデニル)ジルコニウムジメチル、meso-ジメチル-シリル-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、またはmeso-ジメチル-シリル-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジメチル、meso-ジメチル-シリル-bis(インデニル)ジルコニウムジクロリド、またはmeso-ジメチル-シリル-bis(インデニル)ジルコニウムジメチル、meso-エチリデン-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、またはmeso-エチリデン-bis(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジメチル、meso-エチリデン-bis(インデニル)ジルコニウムジクロリド、またはmeso-エチリデン-bis(インデニル)ジルコニウムジメチル等が含まれる。
他の好ましいシングルサイト触媒には、インデニルリガンドの置換の程度が異なる上記のラセミ、またはメソ触媒が含まれる。
他の好ましい触媒には、ジフェニルメチリデン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリル(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ZrC12、またはジフェニルシリル(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムが含まれる。
【0041】
他の好ましいメタロセン触媒には、bis(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(l,2-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(1,2-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(l,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(l,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(l,2,3-トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(l,2,3-トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(l,2,4-トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(l,2,4-トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(l,2,3,4-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(l,2,3,4-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、bis(ペンタメチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、bis(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、またはこれらの置換された類似体であって非架橋のメタロセン触媒が含まれる。
【0042】
<活性剤>
活性剤は非配位性アニオン(NCA)活性剤、またはメチルアルミノキサン(MAO)等のトリアルキルアルミニウム化合物である。本願では、非配位性アニオン(NCA)とは、触媒の金属カチオンに配位しないか、または金属カチオンに弱く配位するアニオンを意味する。NCAは中性のルイス塩基に極弱く配位して、オレフィン性またはアセチレン性不飽和モノマーによって触媒中心から取り除かれる。非配位性アニオンには、触媒金属カチオンとコンパチブルで弱く配位した複合体を形成可能な金属またはメタロイドが用いられるか、または含まれる。
適切な金属としてアルミニウム、金、及びプラチナが挙げられるが、これらに限定されない。適切なメタロイドとしてホウ素、アルミニウム、リン、及びケイ素が挙げられるが、これらに限定されない。非配位性アニオンのサブクラスには、中性またはイオン性の化学量論的活性剤が含まれる。イオン性活性剤という用語と化学量論的イオン性活性剤という用語を同義で用いることがある。同様に、中性の化学量論的活性剤という用語とルイス酸活性剤という用語を同義で用ることがある。
【0043】
この発明で用いられる活性剤はNCAであり、好ましくはU.S.7,279,536またはWO2007/011832に開示されたNCAである。活性剤は周知である。
【0044】
より好ましいNCAはC32H12F20NB (n,n-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタ-フルオロフェニル)ボレート)である。
【0045】
通常、触媒系には助活性剤が含まれる。通常、助活性剤はトリアルキルアルミニウム化合物である。このトリアルキルアルミニウム化合物は、反応器システムの不純物または触媒毒の掃去剤としても有効に用いることができる。
最も好ましいトリアルキルアルミニウム化合物は、トリ-イソブチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、またはトリ-n-ヘキシルアルミニウム、またはトリ-n-デシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウムである。
【0046】
反応器システムで用いられるその他の成分は、不活性溶媒、触媒希釈剤などである。これらの成分を、重合操作中にリサイクルすることもできる。
【0047】
<潤滑油製品の単離>
重合またはオリゴマー化が予め定めた段階まで進行したとき、すなわち例えばアルファ-オレフィンの転化率が70, 80%, 90%,または95%になったとき、反応生成物を反応器から抜き出す。通常、反応生成物を米国特許公開第2008/0020928号(優先日2006年7月19日、米国仮出願第60/831,995号)に開示された方法に従って処理する。
好ましい処理方法では、別の反応容器において空気、CO2、水、またはその他の失活剤を投入して触媒を失活させる。触媒成分は、上記の米国特許公開第2008/0020928号に開示された方法に従って除去する。または、塩基性または酸性の水で洗浄した後、公知の触媒分離方法により有機層から触媒成分を除去する。触媒を除去した後の有機層を蒸留して、未反応のオレフィン、不活性溶媒、及びその他の軽質成分を、より重質のオリゴマー製品から除去する。
重合反応条件によっては、得られたオリゴマー製品の臭素価(ASTM Dl 159法またはこれに準じる方法)で評価した不飽和度が高い場合がある。臭素価が高すぎる場合、重質のオリゴマー分画を水素添加処理して、臭素価を3, 2, または1未満まで低減させる。臭素価を低減させる度合いは、水素添加処理条件及びPAO原料油の最終用途に依存する。一般的な水素添加処理方法は、PAO製造プロセスに関する公開特許公報や文献に開示されている。
PAO製品の分子量が非常に大きいときや、重合中に水素を使用したときには、単離されたPAO製品が低臭素価 または低不飽和度となり、PAO製品を水素添加処理することなく様々な用途に直接用いることができる場合がある。
【0048】
反応生成物から直接分離された軽質留分、または軽質留分を更に分留して得られた軽質留分には、未反応のアルファ-オレフィンが含まれている。この軽質留分をパージして、またはパージすることなく重合反応器へリサイクルして更に潤滑油製品に転換させることができる。
あるいは、この軽質留分または適切に再処理された留分を、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、その他の活性吸着剤等の極性物質除去剤が充填された前処理カラムに通した後、重合反応器へリサイクルすることができる。この前処理カラムにより、触媒残渣その他の不純物を除去することができる。あるいは、この軽質留分を精製カラムに通す前のフレッシュなオレフィン原料と混合することもできる。
【0049】
<リサイクルされたオレフィン原料>
フレッシュなオレフィン原料中に含まれる、反応生成物に由来する未反応オレフィンを含有する留分の量は、1%から70%である。この量は転化率、不活性成分及び反応に用いた溶媒の量に依存する。通常、フレッシュなオレフィン原料中の未反応オレフィンの量は5%から50%であり、好ましくは5%から40%である。
所望により、未反応オレフィンを含有する留分の100%を重合反応器へリサイクルすることもできるし、あるいはこの留分の99%から20%、または95%から40%、または90%から50%を重合反応器へリサイクルすることもできる。この留分のリサイクル量は、留分の組成、及び重合反応器における不活性成分または溶媒の許容量に依存する。通常、リサイクル量が多いほど潤滑油の収率、アルファ-オレフィン使用率、及びプロセスの経済性が向上する。
【0050】
反応生成物に由来する未反応オレフィンを含有する留分を、そのまま重合反応器へリサイクルすることができる。好ましくは、未反応オレフィンを含有する留分を、フレッシュなアルファ-オレフィンと混合して重合反応器へリサイクルする。全供給原料中の未反応オレフィンを含有する留分は0重量%から100重量%の範囲である。好ましくは、0.1から70重量%の範囲、または0.5から50重量%の範囲、または1から30重量%の範囲である。
あるいは、連続的に重合している場合は、この重量%を所定の転化率、製品の粘度、パージ流量等に応じて変化させることができる。高粘度の製品を製造している場合、反応器中の粘度を低下させ制御を容易にするために、リサイクル流量を増加させる。
【0051】
通常、未反応オレフィンを含む留分には原料アルファ-オレフィン、内部オレフィンまたは二置換または三置換オレフィン、アルファ-オレフィンの低分子量オリゴマーや、溶媒及び希釈剤等のその他の不活性成分が含まれている。
リサイクルストリーム中には、フレッシュな原料オレフィンよりも多量の内部オレフィンまたは二置換または三置換オレフィン、溶媒及び希釈剤が含まれる。すなわち、フレッシュな原料オレフィンよりも反応性のアルファ-オレフィンの含有量が少ない。アルファ-オレフィンの含有量は2%から80%の範囲であり、通常は70%を超えない。
しかし、本願発明者らは、このアルファ-オレフィン含有量の低い留分をメタロセン触媒で処理することにより、意外にもフレッシュな原料と同様の高い潤滑油の収率と高い触媒活性において高品質の潤滑油原料油が得られることを見出した。さらに、このリサイクルされたオレフィンまたはリサイクルされたオレフィンとフレッシュな原料の混合物から得られた製品の物性は、フレッシュな原料100%から得られた製品と同等であり、また、潤滑油としてより有利な低粘度の製品が得られる場合がある。
【0052】
<実施例>
以下の実施例に基づき、本願発明とその効果について説明する。これらの実施例はこの発明を限定するものではなく、例示にすぎない。当業者であれば、以下の開示に基づいてこの発明を種々変更して実施できることを理解できよう。
【0053】
剪断安定性のデータ(TRB試験) は、San Antonio, TXにあるSouthWest Research Instituteにおいて、CEC L-45-A-99試験法により20時間試験することにより行なった。この試験では、Four-Ball EP試験機に取り付けられた円錐ころ軸受けを用いて潤滑油を評価した。評価用潤滑油40ml中に浸した円錐ころ軸受けを、60℃、荷重5000ニュートンの条件において1475 rpmで回転させ、規定の20時間試験した。試験完了後、潤滑油の粘度を測定し、評価した潤滑油の試験前後の粘度の値から粘度変化率%を計算した。TRB試験の過酷さは、試験時間を100または200時間に延長することにより増加させることができる。
【0054】
重量平均分子量MWと数平均分子量MWの比(= Mw/Mn) と定義される分子量分布(MWD)は、"Principles of Polymer Systems" (Ferdinand Rodrigues, McGraw-Hill Book, 1970) の第6章「The molecular Weight of Polymers」の115から144ページに記載されているように、分子量が既知のポリマーを標準として用いたゲル浸透クロマログラフィー(GPC)によって求めることができる。
【0055】
本願では、分子量分布MWDは、粘度の関数としてアルゴリズムMWD = 0.2223 + [1.0232×log (100℃のKv、単位cSt)]より少なくとも10%小さい値であることを見出した。より好ましくは、mPAOの分子量分布は、アルゴリズム:MWD = 0.41667 + [0.725×log (100℃のKv、単位cSt)] より小さい値となる。最も好ましくは、mPAOの分子量分布は、アルゴリズム:MWD = 0.66017 + [0.44922×log (100℃のKv、単位cSt)] の値となる。
【0056】
<実施例1から6>
以下の実施例は連続反応器で行った。これらの実施例により、非配位性アニオン(NCA)の活性剤としての使用、高収率の潤滑油生産、および/または分子量分布が狭くなることが例示された。実施例で用いた1-デセンとトルエンは、5オングストロームのモレキュラーシーブを通して精製した。
【0057】
使用したメタロセン触媒は、ジメチルシリルビス[テトラヒドロインデニル]ジルコニウムジメチルであった。
【0058】
使用した活性剤は、N,N-ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートであった。
【0059】
トルエン中でメタロセンと活性剤を予備混合して、濃度が触媒0.8マイクロモル/溶液1mlの触媒溶液を調製した。試験は、2基の反応器が直列に配置された連続溶液法プロセスにおいて実施した。いずれの反応器も、1リットルのオートクレーブ反応器であった。
全ての原料を、最初の反応器に一定速度で連続的に供給した。いずれの反応器も同じ反応温度になるように制御した。触媒溶液、掃去剤のトリ-n-オクチルアルミニウム(TNOA)溶液、及び精製した1-デセンを、所定の反応温度まで加熱された1リットルの撹拌機付ステンレス製オートクレーブに連続的に供給した。
オートクレーブから反応生成物を連続的に抜き出し、失活させ、水で洗浄した。有機層を高温化でさらに蒸留し、C20以下の軽質成分を除去した。
得られたオイルを、1wt%のNi-珪藻土触媒を用いて、200℃、水素圧800 psi (5.5MPa) において4時間水素添加した。各サンプルの水素添加後の臭素価は1以下であった。反応条件と水素添加した潤滑油の物性を表1に示す。表1のデータから、高い生産性で多様な粘度の製品が製造されたことが分かる。また、これらのデータから、86%から51%の幅広い範囲のmm含有量の製品を製造できることが分かる。さらに、このデータのGPCの分析結果に示されているように、潤滑油製品のMWDは非常に狭い。
【表1】

【0060】
CSTR反応器でメタロセン触媒を用いて調製した実施例1と2の二種類のポリオレフィンのサンプルを、U.S. 4,827,064に開示された方法で調製した比較例1と2の二種類の油と比較した。U.S. 4,827,064に開示された方法は、主にバッチ法またはセミバッチ法である。比較例1と2は、100℃の粘度、VI、及び流動点は本願発明と同等であるが、分子量分布が広い。
【0061】
これらの実施例について標準的なTRB剪断安定性試験を行なったとき、実施例1と2では潤滑油の粘度変化はほとんど認められなかった。これに対し、比較例の非CSTRプロセスで製造され分子量分布が広い潤滑油は、粘度が大きく低下した。
【表2】

【0062】
<比較例3から6>
これらの試験では、バッチ式重合を行った。
精製した1-デセン50グラムをN2雰囲気下の反応器に入れ、反応温度まで加熱した。次に、反応温度を設定温度に対し±2℃に保ちながら、メタロセン触媒であるrac-ジメチルシリルビス(テトラ−ヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド0.912ミリグラム(mg)と、活性剤であるN,N-ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.801 mgと、トリ-イソブチルアルミニウム63.6 mgとを精製トルエン5 mlに溶解させた触媒溶液を添加した。反応を16時間継続して行い、水を添加して触媒を失活させ、洗浄により触媒残渣を除去した。残りの有機層を蒸留して軽質の溶媒、未反応の出発原料、あるいは1-デセンの二量体を除去した。
得られた潤滑油留分の物性を表3に示す。これらのデータに示されているように、バッチ重合で得られた潤滑油の分子量分布は、CSTR重合で製造した潤滑油の分子量分布よりも常に広い。
【表3】

【0063】
<実施例7>
混合物アルファ-オレフィンに、1-ヘキセ 33 wt%と1-ドデセン67 wt%が含まれ、反応温度を55℃に保ったことを除き、実施例1から6と同様にして行った。
得られた製品の物性は次の通りであった。100℃のKv = 185.1cSt;40℃のKv = 2106 cSt;VI = 210;流動点 = -30℃; Mn = 4583; Mw = 7864; MWD = 1.716。
【0064】
実施例1〜7から、CSTR重合とメタロセン触媒との組合せにより、MWDが非常に狭く、剪断安定性が大幅に改善された製品が得られることが分かる。さらに、これらの実施例から、原料に純粋な1-デセンを用いた場合だけでなく、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、及び1-ヘキサデセンのいずれか1以上を含む原料のように、様々なアルファ-オレフィンの混合物を原料に用いた場合にも改善効果が得られることを示している。
【0065】
<実施例8>
C6/C10/C14 LAOの25/60/15 wt%混合物を、30 psigの窒素圧力下で3Åモレキュラーシーブを用いて精製した後、同じ窒素圧力下のCSTR装置へ供給した。CSTR重合中、LAOを流量約500 lb/時間で連続的に供給した。モレキュラーシーブ床を通過してから反応器へ入るLAO中の水含有量は、約5ppmであった。LAOのモレキュラーシーブ床における滞留時間は約4時間であった。
【0066】
<原料の精製>
混合LAO原料を反応器へ入れる前に、市販の予備活性化された3Åモレキュラーシーブを用いて精製した。このモレキュラーシーブを、窒素雰囲気の原料精製容器内に充填した。まず、モレキュラーシーブ床を混合LAO原料によりバッチ操作で満たした。この操作中、モレキュラーシーブ床の発熱挙動を監視した。発熱は認められなかった。次に、CSTR重合中、LAOを流量約500 lb/時間で連続的に供給した。モレキュラーシーブ床を経て反応器へ入るLAO中の水含有量は、約5ppmであった。LAOのモレキュラーシーブ床における滞留時間は約4時間であった。
【0067】
使用したメタロセン触媒はrac-ジメチルシリルビス(4,5,6,7-テトラ−ヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリドで、使用した活性剤はN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートであった。助活性剤として、トリ-n-オクチルアルミニウム(TNOA)を用いた。
【0068】
これら3種の触媒成分のトルエン溶液を、二重バルブ付きの加圧シリンダーに入れた。各触媒成分の濃度は次の通りであった。
メタロセン触媒:トルエン中1%
活性剤: トルエン中0.1%
助改質剤: トルエン中25%
【0069】
加圧シリンダーの窒素圧を約15psiに保ち、各触媒成分を計量しながら反応器に供給した。この際、各触媒成分の供給は、ロータメータを経由し滞留時間が約5分の配管を通して行った。メタロセン/活性剤/助活性剤の3種の触媒成分のモル比は1:1:10であった。
【0070】
各触媒成分の反応器中での代表的濃度(原液)は次の通りであった。
メタロセン触媒:10ppm
活性剤: 19ppm
助改質剤: 80ppm
【0071】
予め窒素で数時間パージしておいた反応器を、水分含有量が約1000ppmのトルエンでパージし、次にモレキュラーシーブで乾燥させたLAO原料(水分5ppm未満)で3回フラッシングした。反応器から採取したLAO中の水含有量の測定値が10ppm未満になったとき、反応器とLAOは洗浄及び乾燥され、反応工程を開始する準備が完了したと見なした。
【0072】
反応開始準備を行った後、連続撹拌槽反応器(CSTR)へのLAOストリーム、各触媒成分、及び掃去剤のTNOAの供給を開始した。反応試験中、反応器における滞留時間は3時間であり、反応器の全重量を制御することにより一定に維持した。反応器の実効容積は200ガロンであった。
【0073】
反応器の設定温度は華氏140度(60℃)であった。CSTRでの反応中、設定温度の華氏140度に対する温度の触れ幅が±華氏2度の範囲になるように、熱交換器の冷却水流量を調整した。反応器内における転換率は、屈折率測定により監視した。反応している間の平均転化率は約77%であった。反応生成物のサンプルを実験室で蒸留した後、粘度を測定した。反応器の温度を設定値の華氏140度から微調整して、粘度を目標150 cStにした。
重合した粗製mPAOを、先ず複数の容器に回収し、これらの容器を運搬車に移す前に、各容器から採取したサンプルを蒸留して製品の粘度を測定した。
【0074】
反応中、少量のサンプルを複数回採取し、それぞれ「容器」サンプルとして分析した。この操作において、各容器サンプルの蒸留後の粘度は、目標の150cStに対し±10cStの範囲内にあり、大部分の容器サンプルの粘度は目標に対し±5cStの範囲内にあった。この試験操業により、メタロセン法における粘度制御の確実性が示された。
【0075】
<失活>
反応器から抜き出した重合粗製mPAOは、水を添加・混合することにより失活させた。
【0076】
<CSTRの停止>
CSTRにおける反応は、原料の供給を止め、反応器に水を投入して混合することにより停止させた。最終的に反応器から抜き出したドレン物質の粘度は、150cStの規格内であった。
【0077】
<触媒濾過>
失活させた反応生成物中の触媒を、公知のCellulose Glass及びメラミン樹脂製の、Cuno社から市販されている2組のカートリッジフィルター(呼称10ミクロン)により濾過した。
【0078】
<CSTRからの粗製製品の蒸留>
失活させた触媒を除去して得られた粗製製品の組成は次の通りであった。
成分 GC測定による%
ヘキセン 5.0
トルエン 2.0
デセン 13.9
テトラデセン 3.5
C18-24二量体 0.5
mPAO製品 75.1
【0079】
粗製製品を一段薄膜蒸発機(TFE)により蒸留した。当業者であれば市販のTFEから適切な装置を選択することができる。TFEの代表的なプロセス条件は次の通りであった。
圧力: 10 mmHg
バルク温度: 華氏490度
加熱オイル温度: 華氏540度
【0080】
これらのプロセス条件による残留モノマー、溶媒及び二量体は1.0%未満であった。GC測定では、これらの薄膜蒸発条件の温度及び圧力におけるクラッキング、または熱分解の兆候は見られなかった。
【0081】
この実施例では一段TFEを用いたが、好ましい蒸留方法は二段連続フラッシュ薄膜蒸発である。二段連続フラッシュ薄膜蒸発により、製品のクラッキングの問題を最小限にとどめ、軽質成分を減少/消失させることができる。
【0082】
<水素添加>
固定床水素添加装置において、150cStのmPAOを水素添加処理した。代表的水素添加温度は約華氏350度で、圧力は約250psigであった。水素添加処理中の流量は1 GPMであり、〜1.0の臭素価が得られた。
【0083】
<仕上げ濾過>
微粒子、特に4ミクロン(平均粒径)を超える粒子の数を減らすために、水素添加したmPAOの最終濾過を行なう必要がある。仕上げ濾過では、珪藻土含浸濾紙を備えるSparklerTMフィルター (Sparkler Filters, Inc.社製)と、呼称約2ミクロンのバッグフィルターを組み合わせて用いた。
【0084】
<酸化防止剤の添加>
濾過したmPAOに、Irganox L-57を150 ppm添加した。
【0085】
<最終製品の分析結果>
mPAO最終製品の特性のいくつかを下記に示す。
流動点 -39℃
100℃の粘度 158 cSt
40℃の粘度 1729 cSt
VI 204
【0086】
<用途>
この発明の潤滑油またはグリースは、回転要素のベアリング(例えばボールベアリング)、ギヤ、循環潤滑油システム、油圧、気体圧縮用コンプレッサー(例えばレシプロ、ロータリー、またはターボエアコンプレッサー、ガスタービン、またはその他のプロセスガスコンプレッサー)、または液体圧縮用コンプレッサー (例えば冷凍機用コンプレッサー)、真空ポンプ、または金属加工機、または例えばオン-オフするとき電気アークを生じる電気スイッチの潤滑等のような電気器具、または電気コネクターの潤滑に好適に用いることができる。
【0087】
この発明の潤滑油またはグリース成分は、以下の特性が要求される工業用機械に適している:広い使用可能温度、安定し信頼性の高い運転、優れた保護性能、長い使用可能期間、高エネルギー効率。
本願発明の潤滑油は、優れた高温時及び低温時温度、流動性、優れた発泡特性、剪断安定性、及び改善された耐磨耗性、耐熱及び耐酸化特性、低摩擦性、低トラクション特性等のバランスが優れていることを特徴とする。
この発明の潤滑油またはグリース成分は、ギヤオイル、ベアリングオイル、サーキュレイティングオイル、コンプレッサーオイル、ハイドロリックオイル、タービンオイル、または機械用グリース、さらに、例えばウエットクラッチシステム、ブローワベアリング、風力タービンのギヤボックス、微粉炭機の駆動装置、冷却塔のギヤボックス、キルンの駆動装置、抄紙機の駆動装置、またはロータリースクリューコンプレッサー等に用いることができる。
【0088】
動粘性率(KV)は、表示した温度(例えば100℃または-40℃)において、ASTM D445に準拠して測定した。
【0089】
粘度指数(VI)は、ASTM D-2270に準拠して測定した。
【0090】
ノアク(Noack)揮発性は、温度計の較正を年2回ではなく年1回行った点を除き、ASTM D5800に準拠して測定した。
【0091】
流動点は、ASTM D5950に準拠して測定した。
【0092】
オリゴマーの濃度は、フレームイオン化検出器(FID)とキャピラリーカラムを備えたHewlett Packard (HP)社製の5890 Series II Plus GCを用いて測定した。
【0093】
特に断りの無い限り、本願で使用した用語の意義は、この技術分野における通常の意味により解釈され、特に、Synthetic Lubricants and High-Performance Functional Fluids, 第二版, Leslie R. Rudnick and Ronald L. Shubkin, Marcel Dekker編 (1999) を参照して解釈される。この参照文献、及び本願に引用した特許及び特許出願、試験方法(ASTM等)、及び他の文献は、本願発明と矛盾しない範囲内で、それが許される法域において本願に参照として組み込まれる。商品名は、例えばそれがいくつかの法域において登録された商標であり商標権によって保護されていることを示すために、TM等の記号を付して示した。
また、数値範囲に関して複数の上限値及び下限値が記載されているときは、いずれかの下限値からいずれかの上限値までの範囲が含まれる。
【0094】
この発明について特定の実施形態に基づいて説明したが、当業者にとって本願発明の要旨から逸脱しない範囲で種々変更して実施可能なことは明らかである。従って、本願発明の範囲は実施例及び詳細な説明により限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度PAO原料油を製造する方法において、シングルサイトメタロセン及び非配位性アニオンから成る触媒系と、オレフィンから成る原料とを、混合流または連続撹拌槽反応器(CSTR)中で接触させる工程であって、前記混合されたオレフィンが、炭素数4から18(C4からC18)の直鎖状アルファ−オレフィンから選択される少なくとも1の直鎖状アルファ−オレフィンである工程と、
KV100が約3から約10000cStでMWDが2.5未満の潤滑油用途に適した製品を得る工程とを含む方法。
【請求項2】
前記接触をさせる前のオレフィン原料中の水の含有量が10ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記CSTR反応器からの反応生成物を水素化添加処理して潤滑油用途に適した製品を得る工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記CSTR反応器からの反応生成物を濾過して、平均粒径が4ミクロンを超える粒子の含有量が1000ppm未満で、Al,Zr,Si 及びBの各元素の濃度がいずれも1ppm未満の製品を得る工程を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油用途に適した製品のKV100が約3から約300cStで、MWDが1.5〜2.0で、粘度指数が195〜220である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑油用途に適した製品のKV100が約20から約250cStで、MWDが1.5〜2.0である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記潤滑油用途に適した製品のKV100が約90から約160cStで、MWDが1.5〜2.0である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑油用途に適した製品のKV100が約250から約900cStで、MWDが1.5〜2.0である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑油用途に適した製品のKV100が約300から約650cStで、MWDが1.5〜2.0である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記オレフィン原料が、実質的にC10及びC12アルファ−オレフィンから成る混合原料である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記オレフィン原料が、実質的にC6及びC12アルファ−オレフィンから成る混合原料である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記オレフィン原料が、実質的にC12及びC14アルファ−オレフィンから成る混合原料である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記オレフィン原料が、実質的にC6、C10、及びC14アルファ−オレフィンから成る混合原料である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記オレフィン原料が、実質的にC6、C10、C12及びC14アルファ−オレフィンから成る混合原料である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)前記接触をさせる前の前記オレフィン原料中の水の含有量が10ppm未満になるように、前記オレフィン原料をモレキュラーシーブで乾燥する工程と、
(b)CSTR中で、工程(a)からのオレフィン原料と、シングルサイトメタロセン触媒、NCA活性剤、及びトリアルキルアルミニウム助活性剤を含む触媒系とを接触させて反応生成物を得る工程と、
(c)前記工程(b)の反応生成物から前記触媒系を除去する工程と、
(d)前記反応生成物を蒸留して潤滑油用粗製PAOを得る工程と、
(e)前記潤滑油用粗製PAOを濾過して、平均粒径が4ミクロンを超える粒子の含有量が1000ppm未満で、Al,Zr,Si 及びBの各元素の濃度がいずれも1ppm未満の製品を得る工程とを備える方法。
【請求項16】
前記潤滑油用途に適した製品の分子量分布MWDが、アルゴリズム:MWD=0.2223+[1.0232×log(100℃のKv、単位cSt)]より少なくとも10%小さい値であり、好ましくはアルゴリズム:MWD=0.41667+[0.725×log(100℃のKv、単位cSt)] より小さい値であり、より好ましくは、アルゴリズム:MWD=0.66017+[0.44922×log(100℃のKv、単位cSt)] の値となる、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1の記載の方法で製造された潤滑油であって、ギヤオイル、ベアリングオイル、サーキュレイティングオイル、コンプレッサーオイル、ハイドロリックオイル、タービンオイル、または機械用グリースのいずれかである潤滑油。
【請求項18】
さらに、ウエットギヤボックス、クラッチシステム、ブローワベアリング、風力タービンのギヤボックス、微粉炭機の駆動装置、冷却塔のギヤボックス、キルンの駆動装置、抄紙機の駆動装置、またはロータリースクリューコンプレッサーにおいて用いられる、請求項17に記載の潤滑油。

【公表番号】特表2011−517714(P2011−517714A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501861(P2011−501861)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/034391
【国際公開番号】WO2009/123800
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】