説明

加工物からウェハをスライスする方法

【課題】加工物からウェハをスライスする方法を提供する。
【解決手段】加工物(12)からウェハをスライスする方法は、切断動作中に、加工物に対して、ワイヤソーのワイヤの、平行に配置されたワイヤセクションを移動させて、ウェハを形成するステップを含み、ワイヤセクションは、特定の厚みを有する、溝を有するコーティング(8)を各々が有するワイヤガイドロール(1)間に張設され、前記方法はさらに、ワイヤガイドロールを冷却し、ワイヤガイドロールの固定された軸受(2)を冷却するステップを含み、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受は、互いから独立して冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、切断動作中にワイヤソーのワイヤのワイヤセクション(平行に配置される)が加工物に関して案内され、したがってウェハを形成する、加工物からウェハをスライスする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の方法はワイヤソーを用いて実行される。ワイヤソーの基礎的な構成および機能は、たとえば、US 2002/0174861 A1またはUS 2010/0089377に記載される。好適なワイヤソーは、したがって、ワイヤが複合的に巻きつけられる少なくとも2つのワイヤガイドロールを含む。これは、2つのワイヤガイドロール間に張設され、並列態様において配置され、加工物が切断動作中に通って移動されるワイヤウェブを形成するワイヤセクションをもたらす。かわりに、ワイヤウェブが加工物を通って移動される切断法も公知である。
【0003】
適切な加工物は、ウェハに分離されなければならない材料、特に半導体材料からなるブロックを含み、それから半導体ウェハがスライスされる。
【0004】
ワイヤガイドロールは、特定の厚みを有し、ワイヤセクションを案内する溝を有するコーティングを有する。コーティングの表面の領域は、切断動作による負荷の期間とともに摩耗する。コーティングが依然として十分に厚い限り、コーティングの表面の摩耗した領域は、研削されることによって除去することができ、そして、このようにして再生された、より薄いコーティングが、続けて用いられ得る。
【0005】
ワイヤソーのワイヤは切断動作中に供給スプールからレシーバスプールに巻きつけられる。この場合、ワイヤの走る方向は通常周期的に変更され、その結果、ワイヤのより包括的な利用が達成される。
【0006】
ウェハをスライスすることは、切断動作モードにおいて加工物から材料を取除く砥粒を必要とする。砥粒は、ワイヤソーのワイヤに固定的に接合することができる。より頻繁に、かわりに用いられるのは、砥粒が中に分散され、ワイヤウェブに供給される、切断用スラリーである。
【0007】
このようにして製造された半導体ウェハは、できるだけ平坦で平行な平面である側面を有するべきである。そのような幾何学的な特性を有するウェハをもたらすためには、加工物とワイヤセクションとの間の軸方向の相対的移動、つまり加工物の中心軸に平行な相対的移動は、切断動作中は回避されるべきである。そのような相対的移動がしかしながら起こる場合、湾曲断面を有するウェハが生ずる。ウェハの曲がる度合は、反りと呼ばれる特性値によってしばしば具体化される。
【0008】
上述の相対的移動の発生の原因として、温度における変化および関連する熱膨張または熱収縮に起因する、加工物およびワイヤガイドロールの長さにおける変化が、US 2010/0089377 A1に言及されている。実際には、摩擦熱が、特に、ワイヤガイドロールのまわりでのワイヤの移動中、およびワイヤが加工物内に係合するときに生じ、特に、加工物、ワイヤガイドロール、およびワイヤガイドロールの軸受の温度が、熱輸送の結果、変動する。
【0009】
US 2002/0174861 A1は、切断動作中に加工物の温度を規制する方法を記載する。
【0010】
US 2010/0089377 A1は、軸方向における加工物の変位が測定され、そしてその測定された変位に対応するようにワイヤガイドロールの軸方向変位が規制される方法を提案する。ワイヤガイドロールの軸方向変位の規制は、一例によると、冷却水をワイヤガイドロールのシャフトを通って導くこと、ならびに冷却水の温度および/または流量の適合によって行なわれる。さらに、加工物の変位を切込み深さの関数として示す曲線を記録し、その曲線に基づいてワイヤガイドロールの変位を規制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 2002/0174861 A1
【特許文献2】US 2010/0089377 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の発明者らは、先行技術によって提示された解決策の他に、温度における変化によって引起されるワイヤセクションおよび加工物の軸方向の相対的移動を低減または防止するために改善の必要があることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は加工物からウェハをスライスする方法に関し、切断動作中に、加工物に対して、ワイヤソーのワイヤの、平行に配置されたワイヤセクションを移動させて、ウェハを形成するステップを含み、ワイヤセクションは、特定の厚みを有する、溝を有するコーティングを各々が有するワイヤガイドロール間に張設され、前記方法はさらに、ワイヤガイドロールを冷却し、ワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するステップを含み、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受は、互いから独立して冷却される。
【0014】
ワイヤガイドロールおよびその固定された軸受は、切断動作中に加工物およびワイヤセクションの軸方向の相対的移動を低減するか完全に防ぐために、内部から、および互いから独立して冷却される。この目的のために、専用冷却回路が、各場合において設定され、それを介して冷却材が各場合において導かれ、その特性は、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受の冷却とともにそれぞれ調整される。
【0015】
公知の解決策とは対照的に、この発明は、前記軸方向の相対的移動は、加工物、ならびにそれぞれのワイヤガイドロールのそれぞれの固定された軸受およびコーティングの温度における変化に実質的に起因するという事実を考慮する。それは、特に、温度における変化によって引起されるそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングおよび固定された軸受の長さにおける変化は異なるという事実を考慮し、そして、この洞察から、それぞれのワイヤガイドロールの温度、特にそのコーティングの温度、およびそれぞれのワイヤガイドロールの固定された軸受の温度が、互いから独立した態様で制御されればより有利であるという結論を引き出す。
【0016】
切断動作中の加工物の長さにおける変化は、切断動作の前における加工物の長さ、および切断動作中に発生する熱の量に依存する。後者は選ばれたプロセス条件に依存し、それらは、異なるプロセスパラメータの全体性によって記述される。これらのプロセスパラメータは、特に、ワイヤソーのワイヤの速度、ワイヤウェブに供給される切断用スラリーの量および温度、加工物がワイヤウェブを通って移動される前進速度、砥粒の種類、ならびに加工物が保持される切断用スラリーの液相の種類を含む。選ばれたプロセス条件が複数の切断動作にわたって変わらない場合、切断動作の1つ中の加工物の長さにおける変化は、切断動作の前の加工物の長さにのみ依存する。
【0017】
したがって、同じプロセス条件の下で進む切断動作については、加工物を選ばれたプロセス条件の下でウェハに分離し、切断動作中に加工物の温度を測定することは、一回で十分である。その後、この切断動作、および選ばれたプロセス条件の下で進むように意図され同じ種類の材料が切断されるように意図されるすべての他の切断動作について、加工物の長さにおける変化を切込み深さまたは切断動作の期間の関数として予測する曲線を形成することが可能である。長さにおける変化は、加工物の材料の線膨脹係数、測定された温度プロファイル、およびそれぞれの切断動作の前の加工物の長さによって計算することができる。
【0018】
それぞれのワイヤガイドロールおよびそれぞれの固定された軸受を冷却するプロセスは、好ましくは、切断動作におけるすべての時点で、差ΔL(x)−(ΔL+ΔL(x))が20μm未満であるような態様で行なわれ、式中、ΔL(x)は、加工物の温度における変化によって引起される加工物の長さにおける変化のために加工物上で軸方向位置xによって経験される軸方向変位であり、ΔLは、固定された軸受の温度における変化の結果、それぞれの固定された軸受によって経験される長さにおける変化であり、ΔL(x)は、ワイヤガイドロールのコーティングの温度における変化によって引起されるコーティングの長さにおける変化のためにコーティング上で軸方向位置xによって経験される軸方向変位である。軸方向位置xは、加工物の中心軸上の位置、またはそれと等価の位置である。
【0019】
差が大きければ大きいほど、ワイヤセクションは、加工物を通る真っすぐな切込みを確実にする位置から遠ざかる。さらに、対策なしでは、軸方向位置xとワイヤガイドロールの中心との間の距離が大きければ大きいほど、差は一層大きくなる。それが特に考慮されるべきときは、複数個の加工物を同時に切断するためにそれらを互いにそって配置するときである。利用可能なワイヤウェブをできるだけ完全に利用することができるように、そのような加工物の配置が実施される。
【0020】
第1の実施例に従って、この発明に従う方法は、切断動作中の加工物の長さにおける変化に対する反応が、コーティングおよび固定された軸受の長さにおける等方向の変化を含むような態様で、コーティングの温度およびそれぞれのワイヤガイドロールの固定された軸受の温度を制御することに備える。
【0021】
したがって、軸方向変位ΔL(x)に対する反応は、好ましくは、差ΔL(x)−(ΔL+ΔL(x))が20μm未満である態様で、それぞれのワイヤガイドロールおよびそれぞれの固定された軸受を冷却することを含む。
【0022】
制御は、切断動作中にそれぞれのワイヤガイドロールを冷却するための冷却材の温度または速度を記述する第1の事前定義された曲線を設け、切断動作中にそれぞれの固定された軸受を冷却するための冷却材の温度または速度を記述する第2の事前定義された曲線を設け、第1および第2の事前定義された曲線に従ってそれぞれの冷却材によりそれぞれのワイヤガイドロールおよびそれぞれの固定された軸受を冷却することによって、行なうことができる。
【0023】
第1の事前定義された曲線をそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングの厚みの関数として設けることが、特に好まれる。
【0024】
制御は、さらに、切断動作中にそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングの長さにおける軸方向の変化を測定し、測定に基づいて第1および第2の規制信号を生成し、第1の規制信号によってそれぞれのワイヤガイドロールの冷却を規制し、第2の規制信号によってそれぞれの固定された軸受の冷却を規制することによっても行なうことができる。
【0025】
第2の実施例に従って、この発明に従う方法は:ΔL(x)が切断動作の間において5μm未満であるように加工物を冷却すること;および、和(ΔL+ΔL(x))が切断動作の間において25μm未満、好ましくは10μm未満である態様でそれぞれのワイヤガイドロールおよびそれぞれの固定された軸受を冷却することをあたえる。
【0026】
第2の実施例は、加工物ならびにそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングおよび固定された軸受の線膨脹を可能な限り回避することを目的とする。したがって、切断動作の間において、加工物ならびにそれぞれのワイヤガイドロールの固定された軸受およびコーティングの、温度における変化および長さにおける関連する変化を完全に抑えることは特に有利である。
【0027】
加工物ならびにそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングおよび固定された軸受の線膨脹を回避することが特に有利なのは、互いに沿って配置された複数個の加工物が同時に切断される場合である。加工物の長さ、およびワイヤガイドロールの中心に関するその配置は、そうすれば、所望の外形を有するウェハが生じるかどうかについて影響がない。
【0028】
この発明に従う方法は、好ましくは、可能な限り平行な平面である側面を有するウェハを製造するために用いられる。しかしながら、これは、この方法の目的を修正すること、および意図される具体的な曲げを有するウェハを製造することも、排除しない。この場合、加工物の長さにおける変化は、それぞれのワイヤガイドロールの固定された軸受およびコーティングの長さにおける変化によってのみ、意図した曲げを達成するのに必要な程度まで補償される。
【0029】
加工物は、典型的には、切断動作の間において、温度における変化の際に軸方向に膨張または収縮し得る態様で、両端において保持される。それは、たとえば、多結晶または単結晶半導体材料、特にシリコンからなる。それは、典型的には、200〜450mmの範囲において直径を有するウェハを製造できるよう十分である直径を有する円筒形ロッド部の形式を有する。
【0030】
直径が300mmである半導体ウェハを形成するために分離されるシリコンからなる単結晶は、切断動作中に、典型的には、温度における摂氏30度のオーダの最大の変化を経験し、それは、典型的には長さにおける25μmのオーダの最大の変化に対応する。指定されたオーダは、単結晶が冷却されない方法に典型的である。
【0031】
切断動作中のワイヤガイドロールのコーティングの温度における変化によるコーティングの長さにおける変化は、特に、コーティングの材料の線膨脹係数、コーティングの厚み、および切断動作中に生じる熱の量に依存する。後者は、プロセス条件および切断動作の前の加工物の長さによってきびしく影響を受ける。同じプロセス条件の下で、および同じ種類のコーティング材料で実行される切断動作については、コーティングの長さにおける変化は、加工物の長さ、およびコーティングの厚みにのみ依存する。
【0032】
コーティングは、典型的には、それが温度変化の際に軸方向に膨張または収縮し得る態様で、ワイヤガイドロールのコアに、妨げられない態様で、両端のところで固定される。しかしながら、コーティングの長さにおける変化は、コーティングが、ワイヤガイドロールの、下にあるコア上に、たとえばコーティングの両端に配置された締付けリングによって締付けられるために、ある範囲内で制限することができる。締付けリングはコーティングをワイヤガイドロールのコアに固定し、温度における変化によって引起されるコーティングの長さにおける変化を制限する。特に意図がこの発明の第2の実施例に従って進むことになるとき、コーティングをワイヤガイドロールのコア上に締付けることは適切である。
【0033】
切断動作中にコーティングが経た長さにおける変化の測定は単純ではない。切断用スラリーの存在のために、コーティング上の光学的測定は適切ではない。この発明に従う方法は渦電流センサの補助による測定を好む。この目的のために、リングをコーティングに対して固定し、それの端部に対して精密であり、それぞれのリングとそれぞれのセンサとの間の距離における変化を測定することは有利である。リングは、好ましくは導電性の材料、たとえば金属またはグラファイトからなる。一般に、一方のワイヤガイドロールのコーティングの長さにおける変化を測定し、他方のワイヤガイドロールのコーティングの長さにおける変化は同じであると仮定することで、十分である。しかしながら、ワイヤウェブの両方のワイヤガイドロール上のコーティングの長さにおける変化の、対応する測定を実行することが、同様に可能である。
【0034】
コーティングの、6mmの典型的な厚みが与えられるとして、ポリウレタンからなるコーティングは、冷却手段およびワイヤガイドロールのコア上のコーティングの締付けを考慮せずに、シリコンからなる上述の単結晶からウェハをスライスするプロセス中に、典型的には摂氏20度のオーダの温度における最大変化、および典型的には80μmのオーダの最大線膨脹を経験する。したがって、コーティングは、単結晶よりも、長さにおける有意により大きな変化にさらされる。
【0035】
ワイヤウェブを締付けるワイヤガイドロールは、典型的には、各場合において、固定された軸受および可動軸受におけるシャフトによって取り付けられる。温度における変化が生じると、固定された軸受は、両端においては軸方向に膨張または収縮し得ないが、可動軸受に対向して位置する端部においてのみ、そうなり得る。固定された軸受の長さにおける変化は、ワイヤガイドロールのコーティングおよびしたがってワイヤセクションの各々を一様な大きさだけ変位させる。
【0036】
固定された軸受の典型的な構成の場合には、固定された軸受は、冷却手段を考慮せずに、シリコンからなる上述の単結晶からウェハをスライスするプロセス中に、典型的には摂氏1.5度のオーダの温度における最大変化、および典型的には6μmのオーダの最大線膨脹を経験する。
【0037】
切断動作の間における温度における変化によって開始される、固定された軸受の長さにおける変化は、温度における変化によって開始されるコーティングの長さにおける変化とは基本的に異なる態様で、ワイヤセクションの位置に影響する。前者は、ワイヤセクションの各々を一様な大きさだけ変位させ、一方、後者の場合には、変位の大きさはワイヤガイドロールのワイヤセクションと中心との間の距離に依存する。変位が大きければ大きいほど、距離はより大きくなる。
【0038】
固定された軸受またはそれぞれのワイヤガイドロールの冷却による、固定された軸受の温度およびワイヤガイドロールのコーティングの温度の制御は、この基本的な差を無視し、したがって不利である。それが固定された軸受の温度を変更すると必ず、同時にワイヤガイドロールのコーティングの温度に影響を及ぼす。そのような制御は、この発明に従う方法が達成するもの、すなわち固定された軸受の温度およびそれぞれのワイヤガイドロールのコーティングの温度を、互いから独立した態様において制御することを達成することができない。
【0039】
この方法の第1の実施例に従って、特定のプロセス条件の下での切断動作中の加工物の長さにおける変化に対する反応は、独立した冷却回路に冷却材を供給することを含み、それは、ワイヤガイドロールの固定された軸受およびコーティングの場合の長さにおいて変化をもたらすことに関して調整され、それらの和は、加工物の長さにおける変化に対して可能な限り対応する。
【0040】
その調整は、経験的に、たとえば一連の実験において好適な冷却パラメータを決定することによって行われる。これは、それぞれのワイヤガイドロールの固定された軸受およびコーティングの長さにおいて必要な変化を達成するために、切断動作中の冷却材の温度および/または速度のどのような時間的プロファイルが必要か決めることを伴う。次いで、冷却パラメータの決定された時間的プロファイルは、冷却回路を制御するコンピュータのデータメモリに事前定義された曲線の形式において格納される。同じ長さの、そして同じプロセス条件下の加工物が、ウェハに分割されることになる場合、冷却回路は、格納された事前定義された曲線に従って冷却材温度および/または冷却材流量に関して制御される。
【0041】
温度における変化によるコーティングの長さにおける変化は、ワイヤガイドロールのコーティングの厚み、および切断動作の前の加工物の長さにきびしく依存するため、特定のプロセス条件の下で実行される各切断動作について、ワイヤガイドロールの用いられたコーティングの厚みおよび分割される加工物の長さを考慮する冷却パラメータを有するデータセットを格納することが推奨される。
【0042】
調整は、それぞれの固定された軸受およびそれぞれのワイヤガイドロールにおける冷却回路に冷却材を供給する制御ループを設定することによっても行なうことができる。制御ループは、切断動作中に、所望位置からワイヤセクションの位置の偏差が存在するかどうかチェックするよう用いられるセンサを含む。偏差が存在するときは、冷却材の温度および/または速度のような、冷却回路の冷却パラメータを、偏差がもはや存在しなくなるまで変更する。
【0043】
この発明は、図面を参照してより詳しく以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】加工物とワイヤセクションとの間の軸方向の相対的移動が生じる場合があるという事実の決定的な原因である、長さにおける変化を概略的に示す。
【図2】断面において、この発明に従う方法において使用するために好適なワイヤガイドロール、および前記ワイヤガイドロールに関連した、固定された軸受を示す。
【図3】斜視図において、2つのワイヤガイドロールを有するワイヤソー、およびワイヤソーより上に配置された加工物を示す。
【図4】第1の実施例に従う方法においてワイヤガイドロールおよびその固定された軸受を冷却することのために用いられた事前定義された曲線を示す。
【図5】第2の実施例に従う方法においてワイヤガイドロールおよびその固定された軸受を冷却することのために用いられた事前定義された曲線を示す。
【図6】膨張測定の結果を示す。
【図7】膨張測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、加工物12、ワイヤガイドロール1および固定された軸受2を通る、概略的な部分的な説明図である。説明図は、加工物とワイヤセクションとの間の軸方向の相対的移動が生じる場合があるという事実の決定的な原因である、長さにおける変化を示す。これらは、加工物の長さにおける変化ΔL、ワイヤガイドロールのコーティングの長さにおける変化ΔL、および固定された軸受の長さにおける変化ΔLを含む。説明を単純にするために、長さにおける変化ΔLおよびΔLは、固定された軸受およびワイヤガイドロールがあたかも互いに接続されないかのように、示される。したがって、加工物の端部における軸方向位置を有する点は、加工物の熱膨張のために大きさΔLだけ変位させられ、ワイヤガイドロールのコーティングの端部における軸方向位置を有する点は、コーティングの熱膨張のために大きさΔLだけ変位させられる。
【0046】
図2に従う説明図は、ワイヤガイドロール1およびそれと関連する固定された軸受2は、それぞれ、互いから独立して冷却材が供給される冷却回路に接続されたチャネル3および4を有することを示す。たとえば水のような冷却材が、切断動作中に回転するワイヤガイドロール1内に回転式の導出部を通って導かれるように、ワイヤガイドロール1の冷却回路は実施される。冷却回路は、各々、熱交換器(図示せず)ならびに制御ユニット5および6を含み、それらは、格納された事前定義された曲線に従ってワイヤガイドロールおよび固定された軸受を冷却するための冷却パラメータの制御のために実施することができる。
【0047】
しかしながら、冷却回路は、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受の冷却のために互いから独立して動作する2つの制御ループにセンサ7とともに組入れることもできる。
【0048】
次いで、センサは測定信号を供給し、それらから、制御ユニットで、冷却パラメータが、それぞれのワイヤガイドロールおよびそれぞれの固定された軸受を冷却するために、操作された変数として生成される。
【0049】
センサ7は、好ましくは、ワイヤガイドロール1のコーティング8の端部に配置された、それぞれ割当てられた金属リング9からの距離を測定する。ワイヤガイドロール1のコーティング8は、ワイヤガイドロールの温度における変化のために、比較的大きな程度まで膨張または収縮するので、金属リング9をコーティング8それ自体に対して固定することが有利である。金属リングがワイヤガイドロールのコア10に対して固定される場合には、コーティング8の長さにおける変化は測定中無視されるだろう。ワイヤガイドロールのコアの長さにおける変化を考慮することが所望される場合、さらなるセンサ11を設けることができ、それによって、ワイヤガイドロールのコア10からの距離を測定する。ワイヤガイドロール1のコア10は、ワイヤセクションの軸方向位置における変化に対するその影響が相応して小さいように、通常、インバーから製造される。
【0050】
図3は、斜視図において、2つのワイヤガイドロール1を有するワイヤソー、および切断ストリップ16に固定されワイヤソーより上に配置された加工物12を示す。ワイヤソーは、この発明の第2の実施例に従う方法を実行することができるように構成される。ワイヤガイドロール1およびそれらにそれぞれ割当てられた固定された軸受2は、図2において示される説明図に従って実施される。第2のワイヤガイドロールおよびその固定された軸受の冷却するための冷却回路は、より明瞭にするために、図示されない。ワイヤガイドロールを冷却するための冷却回路は、1つの冷却回路を形成するよう組合せるか、または互いに独立して実施することができる。ワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するための冷却回路も、同様に、1つの冷却回路を形成するよう組合せるか、または互いに独立して実施することができる。
【0051】
説明図は、さらに、加工物12を冷却するためのさらなる冷却回路を示す。この冷却回路は、熱交換器(図示されず)、および格納された事前定義された曲線に従って加工物を冷却するための冷却パラメータの制御のために実施することができる制御ユニット13を含む。加工物を冷却するための冷却材はノズルストリップ15によって分配され、加工物12から樋14内に落ちる。
【0052】
しかしながら、この冷却回路も、さらなるセンサとともに、加工物を冷却するための制御ループの中へ組入れることができる。次いで、センサは測定信号を供給し、それらから、制御ユニットで、冷却パラメータが、加工物を冷却するために、操作された変数として生成される。センサは、たとえば、加工物の端部側からの距離を測定する。ウェハのスライスのためにも用いられるのと同じ切断用スラリーが、加工物の冷却のためにも用いることができる。しかしながら、加工物の冷却のためには、たとえば、水のような冷却材を用いることが好まれ、なぜならそれは冷却機能だけを有するからであり、そして、この冷却材が切断用スラリーと混合するのを防ぐことが好まれる。この目的のために、冷却材は、前記冷却材がワイヤウェブおよび切断用スラリーに到達する前に加工物に適用されるワイパー(図示されず)によって遮ることができる。
【0053】
例:
直径が300mmであるシリコンからなる単結晶が、4つのワイヤガイドロールを含むワイヤソーによってウェハに分離された。ワイヤウェブを締付けるワイヤガイドロール、およびそれらの関連する固定された軸受は、図2および図3において示される構造を有し、この発明に従って冷却された。前記ワイヤガイドロールおよびそれらの固定された軸受の冷却は冷却材としての水により相互に独立した態様において行なわれ、その温度は格納された事前定義された曲線に従って切断動作中に変更された。
【0054】
図4は、この方法の第1の実施例に従って単結晶をウェハに分割するために、ワイヤウェブを締付けるワイヤガイドロールおよび前記ワイヤガイドロールの固定された軸受の冷却のために用いられた事前定義された曲線を示す。したがって、事前定義された曲線の設計は、切断動作中の加工物の長さにおける変化に対する反応が、ワイヤガイドロールのコーティングおよび固定された軸受の長さにおける等方向の変化を含むように、なされた。図示される事前定義された曲線は、冷却材の所望温度Tをフィードテーブルの位置POSの関数として示し、それは、切断動作の時間的進行と等価である。正方形のデータ点は、ワイヤガイドロールを冷却するための冷却材の所望温度を示し、円形のデータ点は、ワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するための冷却材の所望温度を示す。
【0055】
図5は、この方法の第2の実施例に従って単結晶をウェハに分割するために、ワイヤウェブを締付けるワイヤガイドロールおよび前記ワイヤガイドロールの固定された軸受の冷却のために用いられた事前定義された曲線を示す。したがって、事前定義された曲線の設計は、切断動作中に、それぞれのワイヤガイドロールのコーティングおよび固定された軸受の長さにおける変化が可能な限りないように、なされた。正方形のデータ点は、ここでも、ワイヤガイドロールを冷却するための冷却材の所望温度を示し、円形のデータ点は、ワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するための冷却材の所望温度を示す。
【0056】
ワイヤガイドロールのコーティングおよびコアの膨張測定が考慮されるとき、互いから独立した態様において、ワイヤガイドロールを冷却し、ワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却する効果は、明らかになる。
【0057】
図6は、固定された軸受側のワイヤガイドロールのコーティングの膨張Δl(実線)、可動軸受側のワイヤガイドロールのコーティングの膨張Δl(ダッシュ点線)、および可動軸受側のワイヤガイドロールのコアの膨張Δl(破線)を、フィードテーブルの位置Posの関数として示す。図6は、互いから独立した態様におけるワイヤガイドロールおよびワイヤガイドロールの固定された軸受の冷却をなしですませた実験の計測結果を示す。かわりに、一般的な冷却回路がワイヤガイドロールおよびその固定された軸受の冷却のために設定された。
【0058】
図7は、固定された軸受側のワイヤガイドロールのコーティングの膨張Δl(実線)、可動軸受側のワイヤガイドロールのコーティングの膨張Δl(ダッシュ点線)、および可動軸受側のワイヤガイドロールのコアの膨張Δl(破線)を、フィードテーブルの位置Posの関数として示す。図7は、ワイヤガイドロールおよびワイヤガイドロールの固定された軸受の冷却が、この発明に従って、すなわち互いから独立した態様において行なわれた、実験の計測結果を示す。楕円形に限界が定められた領域は、単に、この発明については重要ではない測定中の外乱を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 ワイヤガイドロール、2 軸受、8 コーティング、12 加工物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物からウェハをスライスする方法であって、
切断動作中に、加工物に対して、ワイヤソーのワイヤの、平行に配置されたワイヤセクションを移動させて、ウェハを形成するステップを含み、ワイヤセクションは、特定の厚みを有する、溝を有するコーティングを各々が有するワイヤガイドロール間に張設され、前記方法はさらに、
ワイヤガイドロールを冷却しワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するステップを含み、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受は、互いから独立して冷却される、方法。
【請求項2】
切断動作におけるすべての時点で、差ΔL(x)−(ΔL+ΔL(x))が20μm未満であるような態様で、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受を冷却するステップを含み、式中、ΔL(x)は、加工物の温度における変化によって引起される加工物の長さにおける変化のために加工物上で軸方向位置xによって経験される軸方向変位であり、ΔLは、固定された軸受の温度における変化の結果、固定された軸受によって経験される長さにおける変化であり、ΔL(x)は、ワイヤガイドロールのコーティングの温度における変化によって引起されるコーティングの長さにおける変化のためにコーティング上で軸方向位置xによって経験される軸方向変位である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
差ΔL(x)−(ΔL+ΔL(x))が20μm未満である態様で、ワイヤガイドロールおよび固定された軸受を冷却することにより、0μmより大きい軸方向変位ΔL(x)に対して反応するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
切断動作中にワイヤガイドロールを冷却するための冷却材の温度または速度を記述する第1の事前定義された曲線と、切断動作中にワイヤガイドロールの固定された軸受を冷却するための冷却材の温度または速度を記述する第2の事前定義された曲線とを設けるステップと、
第1および第2の事前定義された曲線に従ってワイヤガイドロールおよび固定された軸受を冷却するステップとを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1の事前定義された曲線をワイヤガイドロールのコーティングの厚みの関数として設けるステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
切断動作中にワイヤガイドロールのうちの1つのコーティングの長さにおける軸方向の変化を測定するステップと、
測定に基づいて第1および第2の規制信号を生成するステップと、
第1の規制信号によってワイヤガイドロールの冷却を規制し、第2の規制信号によってワイヤガイドロールの固定された軸受の冷却を規制するステップとを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ΔL(x)が切断動作の間において5μm未満であるように加工物を冷却するステップと、
和(ΔL+ΔL(x))が切断動作の間において25μm未満である態様でワイヤガイドロールおよび固定された軸受を冷却するステップとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
ワイヤガイドロールの、下にあるコア上に、コーティングを締付けるステップを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
切断用スラリーの存在下において、ワイヤセクションを加工物に対して移動させるステップを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200861(P2012−200861A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−60028(P2012−60028)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】