説明

加熱ロール

【課題】
外表面を所定の温度に加温して被加工物を加熱しながら搬送する加熱ロールにおいて、その立上げ時間を短縮し、熱応答性を改善する。
【解決手段】
加熱ロールのロール本体10の外周部に断熱層17を介して、カーボングラファイトシートを螺旋状に巻装してカーボングラファイト層18を形成し、このカーボングラファイト層18に対して通電を行なうことにより、この加熱ロールの外表面を所定の温度に昇温させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱ロールに係り、とくに発熱手段を備える加熱ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ロールによって被加工物を加圧する際に、ロール自身の表面の温度を所定の温度とし、これによって被加工物を加熱するために、加熱ロールが用いられる。このような加熱ロールは、内部に発熱手段を備え、この発熱手段によって発熱した熱で表面の温度を所定の温度としている。
【0003】
このような加熱ロールに要求される条件の1つとして、立上げ時間の短縮化がある。これは通電を開始した後に、どの位の時間で所定の温度に達するかによって決まる条件である。このような立上げ時間を短縮するために、例えば特開平10−48986号公報に開示されているように、ELから成る発熱体の薄膜をロールの外周面に形成したり、あるいは特開2001−313160号公報に開示されているように、芯金の表面に誘導電流によってジュール熱を発生させる磁性金属層を形成する等の対策がなされている。あるいはまた特開平9−62131号公報に開示されているように、定着ロールの円筒の外周面に間隙を介して耐熱弾性体層を設け、上記の間隙に良熱伝導性の流動体、例えばシリコンオイルとカーボングラファイトの微粉末とを封入している。
【0004】
しかるに上述のような各種の対策によっても、立上げ時間の短縮化が十分でなく、必ずしも所期の目的を達することができない問題がある。
【特許文献1】特開平10−48986号公報
【特許文献2】特開2001−313160号公報
【特許文献3】特開平9−62131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の課題は、立上げ時間が短い加熱ロールを提供することである。
【0006】
本願発明の別の課題は、エネルギの変換効率が高く、より少い消費電力でしかも表面温度を所望の温度に維持することができる加熱ロールを提供することである。
【0007】
本願発明のさらに別の課題は、起動時の熱応答性に優れた加熱ロールを提供することである。
【0008】
本願発明のさらに別の課題は、ヒートアップ時間を著しく短縮することができるようにした加熱ロールを提供することである。
【0009】
本願発明のさらに別の課題は、軽量であってしかも立上げ時間が短い加熱ロールを提供することである。
【0010】
本願の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想およびその実施の形態によって明らかにされよう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の主要な発明は、発熱手段を備える加熱ロールにおいて、
前記発熱手段がカーボングラファイトであることを特徴とする加熱ロールに関するものである。ここで、シート状のカーボングラファイトを外周部に巻装して発熱手段とし、該カーボングラファイトに通電して発熱させてよい。また両側に電極を有するカーボングラファイトシートを外周部に巻装して発熱手段とし、前記両側の電極に高周波電圧を印加して誘電加熱により前記カーボングラファイトシートを加熱させるようにしてよい。
【0012】
またカーボングラファイトの発熱手段が断熱層を介してローラ本体の外周部に設けられてよい。また断熱層がポリイミドのバルーンの結合成形体であってよい。また断熱層がセラミック層であってよい。また断熱層が発泡樹脂層であってよい。またカーボングラファイトから成る発熱手段の外周部にゴムシートを被覆してよい。またカーボングラファイトシートの所定の部位をリード線と接続し、スリップリングを介して外部の駆動回路と接続して通電してよい。また前記両側の電極の所定の部位をリード線と接続し、スリップリングを介して外部の高周波電源回路と接続してよい。
【発明の効果】
【0013】
本願の主要な発明は、発熱手段を備える加熱ロールにおいて、発熱手段がカーボングラファイトであることを特徴とする加熱ロールに関するものである。
【0014】
従ってこのような加熱ロールによると、カーボングラファイトそれ自身が有する良熱伝導性を利用して、この加熱ロールの立上げ時間を短縮し、応答性を改善することが可能になる。従って通電の開始から所定の温度に達するまでの時間を大幅に短縮できるようになる。
【0015】
とくにシート状のカーボングラファイトを外周部に巻装して発熱手段とし、該カーボングラファイトに通電して発熱させるようにした構成によると、カーボングラファイトのシートがジュール熱によって発熱し、これによって加熱ロールが効果的に加熱されるとともに、その立上げ時間の大幅な短縮が可能になる。
【0016】
また両側に電極を有するカーボングラファイトシートを外周部に巻装して発熱手段とし、両側の電極に高周波電圧を印加して誘電加熱によりカーボングラファイトシートを加熱させるようにした構成によると、両側に電極を有するカーボングラファイトシートがコンデンサを構成し、このコンデンサに対して加えられる高周波電圧によって生ずる誘電体損失によって誘電加熱の原理によって発熱し、これによってロールが効果的に加熱される。しかもこのような加熱は、そのヒートアップ時間を著しく短縮させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。図1および図2に示すように、本実施の形態の加熱ロールは、中空であって所定の直径のロール本体10を備えている。ロール本体10はその両端にそれぞれフランジ11、12が固着され、これらのフランジ11、12を貫通するように中空軸13が取付けられる。
【0018】
このような加熱ロールの上記ロール本体10の外周面上には、断熱層17を介してカーボングラファイト層18が形成される。ここでカーボングラファイト層18間は例えばエポキシ樹脂等の絶縁樹脂19によって埋められる。そしてカーボングラファイト層18の外周側を覆うように被覆ゴム20が装着される。
【0019】
ここで断熱層17は、ポリイミドの中空バルーンを互いに結合して円筒状に構成したものである。そしてこのようなポリイミドの中空バルーンから成る断熱層17の外周面上にはそれぞれカーボングラファイトシート18から成る発熱層が形成されるようになっている。
【0020】
ここで断熱層17を構成するポリイミドバルーン(図3参照)は、ODPA、BTDA、PMDA等のdianhydorideと、ODA、PDA、DDS等のdiamineを反応させて製造されるものであって、粒径が0.3〜0.8mmで、密度が1.5〜2.5pcsであって、ガラス転移温度が299℃で、耐熱温度が300℃以上の軽量な粒体である。このようなバルーンは、例えばユニチカ株式会社より商品名TEEKとして供給される。このような粒体を互いに耐熱性樹脂で接合し、これによってパネル10を構成する。
【0021】
ポリイミドバルーンは上述の如く、粒径が0.3〜0.8mmの中空の粒体であって、断熱に有効な微細な気泡を有し、ウレタンやスチレン等の樹脂系断熱材と同等の断熱特性を有する。すなわちその値は0.02〜0.04W/mKである。また高難燃材であって、火炎に対しても形状変化が少ない。また上述のような組成の構造であって、全芳香族ポリイミドであるために、耐薬品性と電気絶縁性に優れた性質を有している。さらには電子線や放射線に対する耐久性にも優れている。またこのような中空バルーンは、ポリイミドフォーム成形の中間過程で得られるバルーンから成形する発泡体であって、3次元形状の成形や複雑な内部空間への充填を可能にしている。
【0022】
これに対してその外周側に接合されるカーボングラファイトシート18は天然の炭素系の素材である。炭素はダイヤモンド、グラファイト(黒鉛)、および無定形炭素の形で安定に存在する。この内とくにグラフィトは、黒色不透明であって、六方晶系の結晶構造を有し、電気および熱の導体である。とくに天然に存在するグラファイトを圧延することによって、グラファイトシートが得られる。天然のグラフィトから圧延して製造したグラファイトシートは、低コストであることが特徴である。
【0023】
なお天然グラファイトを用いる代りに、アクリロニトリルを用いたアクリル系樹脂フィルム等の有機合成フィルムを無酸素下で焼成すると、シート状のグラファイトが得られる。高分子材料から成るグラファイトシートは、柔軟性および圧縮弾性があり、しかも相手とのなじみが良好である利点を有している。従ってここで断熱層17の外周側に接合されるカーボングラファイトシート18としては、天然のグラファイトから製作されたものの他、アクリロニトリル等を焼成したグラファイトシートを用いることができる。
【0024】
このように断熱層17の外表面には、リボン状をなすカーボングラファイトシートを巻装してカーボングラファイト層18を形成している。このカーボングラファイト層18が発熱手段を構成している。通電のために、カーボングラファイト層を構成するシートの両端にはそれぞれリード線23、24が接続される。そしてこれらのリード線23、24は中空軸13の中空部分を通過し、中空軸13の端部に取付けられているスリップリング26の導体パターン27、28に接続されるようになっている。導体パターン27、28はそれぞれ固定側のブラシ29、30と摺接するようになっている。
【0025】
なおここでは、リボン状をなすカーボングラファイトシートを巻装してカーボングラファイト層18を形成しているが、このようなカーボングラファイト層18は隣接するカーボングラファイト層18との間での絶縁のために、絶縁性に優れた材料によって絶縁される。絶縁材料として用いられるものとしては、液晶フィルム、液晶塗料、エポキシ塗料、ポリアミドフィルム、カプトンフィルム、テンフィルム、2層ポリエチレンテレフタレートフィルム、メラミンフィルム、その他各種の樹脂塗料および樹脂フィルムや、ナイロンフィルムであってよい。その他にガラスクロスによって絶縁を行なうことも可能である。さらにはカーボングラファイト層18間をセラミックコーティングによって絶縁してもよい。
【0026】
従ってこのような構成に係る加熱ロールによると、この加熱ロールを回転させながらブラシ29、30をスリップリング26の導体パターン27、28に摺接させると、ブラシ29、30および導体パターン27、28を通してリード線23、24からカーボングラファイト層18に通電が行なわれる。従ってこの通電により、カーボングラファイト18それ自身が発熱する。カーボングラファイト層18がその内側において断熱層17と接しているために、内側に熱が伝達され難く、このために被覆ゴム20を被覆した外周側の温度が急速に昇温する。とくにカーボングラファイト層18はそれ自身が高い熱伝達性を有しているために、極めて短時間で所定の温度に達するようになり、立上げ時間を著しく短縮することが可能になる。またそれ自身が熱容量が小さく、しかも断熱層17によって断熱されるために、消費電力が極めて少い特徴を有することになる。
【0027】
なお上記実施の形態は、断熱層17としてポリイミドの発泡成形体を用いるようにしているが、このような構成に代えて、図4に示すように、断熱セラミック層33によって断熱層を構成してもよい。あるいはまた図5に示すように、発泡樹脂層34から成る断熱層を用いるようにすることも可能である。
【0028】
また上記実施の形態においては、図1に示すように、リボン状をなすカーボングラファイトを螺旋状にロールの外表面に巻装してカーボングラファイト層18を形成しているが、このような構成に代えて、図6に示すように、ロールの全長にほぼ等しい巾のカーボングラファイトシートを直接断熱層17の表面に巻装してもよい。この場合においても、その軸線方向の両端にそれぞれリード線23、24を接続することによって、このロールの長さ方向に通電が行なわれてジュール熱によってカーボングラファイト層18が発熱する。
【0029】
このような加熱ロールは、例えば複写機の加熱式の定着ロール等に利用可能であるが、それ以外にも、加圧しながら加熱を行なうロールに広く利用可能である。また目的に応じて、ロールの外径や長さは各種の寸法に変更可能である。
【0030】
次に別の実施の形態を図7および図8によって説明する。この実施の形態は、シート状のカーボングラファイトから成るカーボングラファイトシート40と、両側の電極41、42とによって、誘電加熱によって発熱させるようにしたものである。
【0031】
中心部を中空軸13が貫通するロール本体10上には、上記実施の形態と同様の断熱層17が形成されるとともに、この断熱層17の外周側には、同心円状の電極41、42間にカーボングラファイト層14を配した誘電加熱手段が配される。そして外側の電極42の外周側に被覆ゴム43が取付けられて加熱ロールを構成している。そして内外の電極41、42はリード線および上記の実施の形態のスリップリング26を介して、高周波電源回路45に接続される。
【0032】
このように両側の対向電極41、42間に、誘電体を構成するカーボングラファイト層40を挿入し、均一な高周波電界E[V/cm]を加えると誘電体中に次式で与えられる電力が消費される。
【0033】
Po=KE=(5/9)・fεtanδ・E×10−12[W/cm
ここで、K:等価導電率[Ω−1・cm−1]、f:周波数[Hz]、ε:比誘電 率、δ:誘電体損失角である。
【0034】
このように消費電力、すなわち発熱量は、誘電体の大きさ、形状に関係なく、周波数f,電界の強さEの2乗およびε・tanδに比例する。ここで、ε・tanδを損失係数といい、誘電体の種類、性質、状態、温度、周波数によって決まる。
【0035】
従ってこのようなカーボングラファイトシート40によると、高周波電源回路45によって、スリップリング26を介して両側の電極41、42に対して高周波電圧を印加し、これによって両側の電極41、42によって挟まれたカーボングラファイト層40に対して均一な高周波電界を加えると、カーボングラファイト層40それ自身の内部損失によって電力が消費されるとともに、このような電力の消費に伴ってカーボングラファイト層40それ自身が発熱する。
【0036】
このような発熱は、被覆ゴム43のすぐ下側であってこのロールの外周部において発生する。しかも中心側には断熱層17が介在しているために、中心側に熱が逃げることなく、これによってロールの外周部を効果的に加熱させることが可能になる。またこのような加熱ロールは、誘電体を構成するカーボングラファイト層40それ自身の発熱によって加熱が行なわれるために、熱の伝達物質が介在せず、極めて短時間での昇温が可能になり、立上げ時間が短くなってヒートアップ時間を著しく短縮できるようになる。なおこのようなロールも、例えば複写機の加熱式の定着ロール等に利用可能である。
【0037】
このような加熱ロールは、例えば複写機の加熱式の定着ロール等に利用可能であるが、それ以外にも、加圧しながら加熱を行なうロールに広く利用可能である。また目的に応じて、ロールの外径や長さは各種の寸法に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明は、複写機の定着ロール等のような被加工物を加熱する加熱ロールに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】加熱ロールの被覆ゴムの一部を破断した要部斜視図である。
【図2】同加熱ロールの縦断面図である。
【図3】同加熱ロールの外周側の部分の拡大断面図である。
【図4】断熱層としてセラミック層を用いた加熱ロールの外周部の要部拡大断面図である。
【図5】断熱層として発泡樹脂層を用いた加熱ロールの外周部の要部拡大断面図である。
【図6】変形例の加熱ロールのカーボングラファイトシートの巻付けを示す外観斜視図である。
【図7】別の実施の形態の加熱ロールの軸心と垂直な面における断面図である。
【図8】同加熱ロールの外周側の部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 ロール本体
11、12 フランジ
13 中空軸
17 断熱層
18 カーボングラファイト層
19 絶縁樹脂
20 被覆ゴム
23、24 リード線
26 スリップリング
27、28 導体パターン
29、30 ブラシ
33 断熱セラミック層
34 発泡樹脂層
40 カーボングラファイト層
41、42 電極
43 被覆ゴム
45 高周波電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱手段を備える加熱ロールにおいて、
前記発熱手段がカーボングラファイトであることを特徴とする加熱ロール。
【請求項2】
シート状のカーボングラファイトを外周部に巻装して発熱手段とし、該カーボングラファイトに通電して発熱させることを特徴とする請求項1に記載の加熱ロール。
【請求項3】
両側に電極を有するカーボングラファイトシートを外周部に巻装して発熱手段とし、前記両側の電極に高周波電圧を印加して誘電加熱により前記カーボングラファイトシートを加熱させることを特徴とする請求項1に記載の加熱ロール。
【請求項4】
カーボングラファイトの発熱手段が断熱層を介してローラ本体の外周部に設けられることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の加熱ロール。
【請求項5】
断熱層がポリイミドのバルーンの結合成形体であることを特徴とする請求項3に記載の加熱ロール。
【請求項6】
断熱層がセラミック層であることを特徴とする請求項3に記載の加熱ロール。
【請求項7】
断熱層が発泡樹脂層であることを特徴とする請求項3に記載の加熱ロール。
【請求項8】
カーボングラファイトから成る発熱手段の外周部にゴムシートを被覆することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の加熱ロール。
【請求項9】
カーボングラファイトシートの所定の部位をリード線と接続し、スリップリングを介して外部の駆動回路と接続して通電することを特徴とする請求項2に記載の加熱ロール。
【請求項10】
前記両側の電極の所定の部位をリード線と接続し、スリップリングを介して外部の高周波電源回路と接続することを特徴とする請求項3に記載の加熱ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−344532(P2006−344532A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170203(P2005−170203)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000206174)大成ラミネーター株式会社 (32)
【Fターム(参考)】